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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C12P 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12P |
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管理番号 | 1012577 |
異議申立番号 | 異議1999-71121 |
総通号数 | 10 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-02-06 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-24 |
確定日 | 2000-03-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2804004号「L-アスパラギン酸の製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2804004号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第2804004号に係る発明についての出願は、平成7年5月19日に特願平7-121505号として出願され、平成10年7月17日にその特許の設定登録がなされ、その後、三菱化学株式会社より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月30日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正請求 1.訂正の内容 特許請求の範囲の請求項3に係る記載「フマル酸及び/またはその塩を0.1〜3重量%随伴しており、かつ結晶の平均サイズが50〜500μmであるL-アスパラギン酸製品。」を、「フマル酸及び/またはその塩を0.1〜3重量%随伴しており、かつ結晶の平均サイズが100〜150μmであるL-アスパラギン酸製品。」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項は、結晶の平均サイズが「50〜500μm」を「100〜150μm」に訂正するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当する。 そして、本件明細書「実施例2及び3」には、結晶の平均サイズが「100μm」のもの、並びに「実施例4」には、「150μm」のものがそれぞれ開示されているから、上記訂正は新規事項に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 3.独立特許要件 当審が通知した請求項3に対する取消理由の概要は、請求項3に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないというものであるところ、訂正された請求項3に係る発明(以下、「本件発明3」という。)は、後述の「III.3.判断 A」の項に記載のように、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。 したがって、本件発明3は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4,2項、及び同条3項で準用する126条2項から4項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。 III.特許異議申立 1.特許異議申立書の理由の概要 訂正前の本件請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である、或いは、同請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、甲第1乃至4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項3号或いは同条2項の規定により特許を受けることができない。 2.甲各号証の記載内容 甲第1号証(ヨーロッパ公開特許第0588674号)には、 「実施例2: アスパラギン酸の沈殿に関するテスト1 フマル酸3.6gを水25gと一緒に100mlのエレンマイヤーフラスコに装入する。次いで、実施例1の37.27%w/w(0.0621モル)アスパラギン酸アンモニウム溶液25gを加える。存在するフマル酸を考慮せずに、反応前評価した混合物中の水の濃度Cは、81.37%w/wであり、存在するアスパラギン酸アンモニウムに対し加えられるフマル酸のモル比、αは0.5である。電磁攪拌機を用いて、液-固混合物を温度T=20℃で、時間t=1hr攪拌する。得られた懸濁物を濾過し、L-アスパラギン酸の算定収率、Rは81.1モル%(収得L-アスパラギン酸モル/装入L-アスパラギン酸アンモニウムモル数)であり、フマル酸の算出転化率、Tは81.1%[(取得L-アスパラギン酸モル数/2×(装入フマル酸モル数)]に等しい。 電位差計で決定したL-アスパライン酸の純度、Pは101.1%であり、CLHPで決定したフマル酸の含有量,FAは1.8%である。」(3頁24〜38行)、 「実施例3: L-アスパラギン酸の沈殿に及ぼす温度の影響 後述のテスト2は、反応混合物を100℃で還流させること以外は、実施例2(テスト1)に記載したのと同様な操作条件で実施する。」(3頁40〜44行)、 「 表I テスト T℃ C%w/w α t 1 20 81.37 0.5 1h. 2 100 81.37 0.5 1.5h. 3 135 80.53 0.5 10min R% T% P% FA% 81.1 81.1 101.1 1.8 72 72 100.2 0.65 62.5 62.5 100.7 1.1 」(4頁1〜9行)、 「 表III テスト α(略)R% T% FA% 4 0.3 51.6 86 1.4 1 0.5 81.1 81.1 1.8 7 0.6 87.4 72.9 3.5 2 0.5 72 72 0.65 8 0.8 88 55 10 9 1 87 43.5 22 10 1 79 39.5 25 αが0.8より大きい値では、残留フマル酸含量が非常に高くなることが注目される。」、 「5.L-アスパラギン酸を沈殿させるのに用いられるフマル酸を、添加フマル/存在アスパラギン酸アンモニウムのモル比が0.8又はそれ以下で添加することを特徴とする上記請求項のいずれかによる方法。 6.好ましい比は約0.1〜0.65内であることを特徴とする請求項5に係る発明による方法。」(請求項の項)が、 甲第2号証(Nippon Nougeikagaku Kaishi Vol.61,No.10,1279〜1284頁,1987)には、 「5.L-アスパラギン酸の生産反応条件 菌体内フマラーゼ活性の除去は前報に記載の方法により行った処理菌体をL-アスパラギン酸の生産反応に供した。反応は、2l容発酵槽を用いてTableII-(2)の組成液1lに上記処理菌体の30g湿菌体を懸濁させ、45℃にて20時間行った。反応終了後遠心分離(8000rpm、15分間、4℃)にて集菌し、菌体を繰り返し反応に供した。」(36頁右欄1〜7行)、 「 TableII 反応混合物の組成 (1) (2) アスパラギン酸(Na) 50mM - フマル酸 - 860mM CaCl22H2O 2mM 7.5mM NH4OH(25%NH3) - 4M Tris-HCl 100mM - pH 7.4(45℃) 9.3(45℃)」が、 甲第3号証(特開昭63-102693号公報)には、 「本酵素、本酵素を含有する菌体又は該菌体の処理物をフマール酸アンモニウム又はフマール酸とアンモニアとの混合物に作用させることにより、L-アスパラギン酸を製造することができる。反応は通常35〜60℃、pH7.0〜8.5で行なう。反応に際してのフマール酸アンモニウム、フマール酸、アンモニアの濃度は0.2〜2.0モル程度が適当である。」(5頁右上欄15行〜左下欄2行)、 「この固定化酵素を50ml容量のカラムに充填し、1モル・フマール酸アンモニウム(pH8.5)を基質とし、SV=1.0〜1.1で連続運転を実施したところ、50℃で約20日間転換率98%以上で安定したL-アスパライン酸の生産が可能であった。」(6頁左下欄9〜14行)、 「得られた固定化微生物を用いて1Mフマール酸アンモニウムからL-アスパラギン酸への転換を50℃、SV=1.0で連続カラム運転したところ95%以上の転換率で約1週間、L-アスパラギン酸の生産が可能であった。得られた反応液を硫酸でpH2.77に調整し、等電点沈殿させたところ、L-アスパラギン酸の結晶が得られた。」(7頁左上欄4〜11行)が、 甲第4号証(実験報告書)には、 「1.実験目的 ヨーロッパ公開特許(EP 0588674)に記載のL-アスパラギン酸の調製方法により調製したL-アスパラギン酸結晶につき、該結晶に付随するフマル酸含有量と結晶の平均粒径サイズを確認するため、同特許に記載の実施例の追試事件を行う。 2.実験内容 追試実験は、上記特許の実施例3のテスト2について実施した。 ・・・(略)・・・ 表1 L-アスパラギン酸結晶の性状 フマル酸含有量(重量%) 0.2 粒径平均サイズ(μm) 80 L-アスパラギン酸の純度(%) 99.8 L-アスパラギン酸の収率(%) 62.0 」が、それぞれ記載されている。 3.判断 A.特許法29条1項3号について(本件発明3) 本件発明3は、結晶の平均サイズが「100〜150μm」であるところ、甲第1号証記載の実施例を追試した「実験報告書」(甲第4号証)により明らかとなった甲第1号証に係る平均粒径サイズは、「80μm」であって、本件発明3のものと相違する。 そうすると、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。 B.特許法29条2項について (本件発明1について) 甲第1号証の「表III」によると、「α値」すなわち、添加フマル酸/存在アスパラギン酸アンモニウムのモル比が増大すると、L-アスパラギン酸の収率も増大している。 しかし、「αが0.8より大きい値では、残留フマル酸含量が非常に高くなることが注目される。」との記載があるように、α値が増大すると、フマル酸の算出転化率「T」が著しく低下している。 それ故に、「請求項」の「5」で、「・・・添加フマル/存在アスパラギン酸アンモニウムのモル比が0.8又はそれ以下で添・・・」並びに、「6」で、「好ましい比は約0.1〜0.65内である」と記載されているように、甲第1号証では、添加フマル/存在アスパラギン酸アンモニウムのモル比が0.8以上では、不都合であると認識していたと解される。 そうすると、甲第1号証の「表III」に接した当業者は、「α値」が「0.8」以上のところで実施しようとは到底考えない。 したがって、甲第2号証及び甲第3号証に、基質媒体中のフマール酸濃度が、本件発明1と同じ場合が開示されているとしても、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された事項を組み合わせることにより、本件発明1が、当業者が容易に想到し得たということはできない。 よって、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (本件発明2について) 本件発明2は、本件発明1における「L-アスパラギン酸」を更に限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。 また他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-02-25 |
出願番号 | 特願平7-121505 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C12P)
P 1 651・ 113- YA (C12P) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 村上 騎見高 |
特許庁審判長 |
徳廣 正道 |
特許庁審判官 |
田村 明照 田中 久直 |
登録日 | 1998-07-17 |
登録番号 | 特許第2804004号(P2804004) |
権利者 | 株式会社日本触媒 |
発明の名称 | L-アスパラギン酸の製造方法 |
代理人 | 近藤 久美 |
代理人 | 長谷川 一 |
代理人 | 樋口 外治 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 松田 寿美子 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 福本 積 |