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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  C12Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12Q
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C12Q
審判 全部申し立て 産業上利用性  C12Q
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C12Q
審判 全部申し立て 特29条の2  C12Q
管理番号 1016327
異議申立番号 異議1999-70976  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-19 
確定日 2000-04-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2799835号「コレステロールの定量方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2799835号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2799835号に係る発明についての出願は、平成7年1月31日に特願平7-13607号として出願され、平成10年7月10日にその特許の設定登録がなされ、その後、国際試薬株式会社より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月16日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1及び2の記載を、
「【請求項1】リポタンパク質を含む検体に、ポリアニオン、2価金属イオン、水溶性高分子化合物及び高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質に対する抗体から選ばれる高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質、並びにポリオキシエチレンセチルエーテル(HLB14)ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB15)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれるリポタンパク質を溶解しない界面活性剤を添加した後、当該検体をコレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールエステラーゼとコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いる酵素的測定法によるコレステロールの測定に付すことを特徴とする高比重リポタンパク質中のコレステロールの定量方法。
【請求項2】リポタンパク質を溶解しない界面活性剤が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物である請求項1記載の高比重リポタンパク質中のコレステロールの定量方法。」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項は、「直接酵素的測定法によるコレステロールの測定」を「コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールエステラーゼとコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いる酵素的測定法によるコレステロールの測定」に訂正するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、上記訂正は新規事項に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.独立特許要件
当審が通知した取消理由の概要は、「本件明細書は、記載の不備があるから、本件特許は、特許法36条4項に規定する要件を具備しない特許出願に対してなされたものである」というにあるところ、訂正された明細書は、後述の「III.2.判断 」の項に記載のように、記載の不備があるとはいえず、また「III.1.特許異議申立の理由の概要」に記載したその他の特許異議申立の理由についても、「2.判断」の項に記載のように理由がないものであるから、訂正後の本件請求項1乃至3に係る発明(以下、「本件発明」といい、各請求項を示す場合は「本件発明1」乃至「本件発明3」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4、2項、及び同条3項で準用する126条2項から4項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.特許異議申立書の理由の概要
訂正前の本件請求項1乃至3に係る発明(以下、「訂正前発明」といい、各請求項を示す場合は「訂正前発明1」乃至「訂正前発明3」という。)に対する異議申立て理由の概要は、次のとおりである。
(1)訂正前発明では、界面活性剤の添加は、無用の要件であるので、特許法36条4項、又は5項2号に規定する要件を具備しない。(甲第2号証)
(2)訂正前発明では、短波長の測定系では実施不可能であるので、特許法36条4項、5項1号、又は5項2号、或いは同29条柱書きに規定する要件を具備しない。
(3)訂正前発明では、凝集物でない複合体を形成することができないので、特許法36条4項、5項1号、又は5項2号、或いは、同29条柱書きに規定する要件を具備しない。
(4)訂正前発明では、凝集物の存在のため正確な測定はできないので、特許法36条4項、或いは同29条柱書きに規定する要件を具備しない。
(5)訂正前発明1においては、界面活性剤の添加は無用の要件であるので、これは構成要件から除いて解釈すべきであり、そうすると、本件発明は、甲第1号証と同一となる。(特許法29条1項3号違反)
(6)界面活性剤を乳び検体における非特異検出の排除のために添加することは、甲第4号証で公知であり、界面活性剤の添加目的について先行技術と区別できない。
したがって、訂正前発明は、甲第1号証と甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。(特許法29条2項違反)
(7)訂正前発明の凝集物によって、HDL以外のリポタンパク質中コレステロールの反応をおさえ、特異的にHDL中のコレステロールのみを酵素反応させ、直接エンドポイント法で測定するという事項は、甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。(特許法29条2項違反)
(8)訂正前発明と甲第5号証は同一である。(特許法39条乃至29条の2違反)
2.判断
(1)について
特許異議申立人は、甲第2号証(実験成績証明書(1))を根拠に、訂正前発明では界面活性剤の添加は無用の要件であると主張している。
しかるに、本件発明に係る酵素的測定法は、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールエステラーゼとコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いるものであるところ、特許権者が提出した参考資料3(「臨床化学検査に用いる試薬」1996年度版)によると、これらの酵素による測定は、pH5〜9の範囲で実施するのが適当であると理解できる。
一方、甲第2号証には、pHに関する記載はないが、特許権者が提出した参考資料4(実験成績証明書(I))によると、甲第2号証においては、pHは、3.5と3.6で実施していると解される。
そうすると、甲第2号証で実施された実験は、本件発明の追試としては不適当であるといえるので、甲第2号証の結論でもって、本件発明において、界面活性剤の添加が無用なものであるということはできない。
(2)について
本件発明は、検体をコレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールエステラーゼとコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いる酵素的測定法によりコレステロールを測定するものであって、その酵素的測定に関し長波長部での吸光度を利用するか、短波長部での吸光度を利用するかに特徴があるものではない。
しかして、本件明細書には、545nmにおける吸光度の差を測定することによりHLD中のコレステロール濃度を求める具体的な酵素的測定が、実施例1として開示されていることをふまえると、例え短波長の測定系が実施不可能であるとしても、これをもって、
特許法36条4項、5項1号、又は5項2号、或いは同29条柱書きに規定する要件を具備しないとはいえない。
(3)について
本件明細書には、「・・・これらの物質とHDL以外のリポタンパク質とが測定時に複合体を形成していればよく、凝集物を形成していても、又は形成していなくてもよい。」(【0010】の項)と記載されているように、本件発明においては、複合体は凝集物が形成されている場合も含んでいる。
そうすると、複合体が凝集物を形成していることをもって、特許法36条4項、5項1号、又は5項2号、或いは、同29条柱書きに規定する要件を具備しないとはいえない。
(4)について
特許異議申立人は、甲第3号証(実験成績証明書(2))を根拠に、訂正前発明では凝集物の存在のため正確な測定はできないと主張としている。
しかるに、本件発明に係る酵素的測定法は、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールエステラーゼとコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いるものであるところ、上記(1)で検討したように、これらの酵素による測定は、pH5〜9の範囲で実施するのが適当である。
一方、甲第3号証には、pHに関する記載はないが、特許権者が提出した参考資料5(実験成績証明書(II))によると、甲第3号証においては、pHは、3.5と3.6で実施していると解される。
そうすると、甲第3号証で実施された実験は、本件発明の追試としては不適当であるといえるので、甲第3号証の結論でもって、本件発明においては、凝集物が生成して白濁し、正確な測定値を得ることができないとはいえない。
(5)について
特許発明は、特許請求の範囲に記載されたとおり認定すべきものであるから、本件発明、すなわち、訂正された請求項1及び2に係る発明は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
したがって、本件発明において、界面活性剤の添加は無視して判断すべきであるという申立理由は、独自の見解に立つものであって、到底採用されない。
(6)について
甲第1号証には、
「【請求項1】生体試料中のリポ蛋白の特定分画に含まれる成分を直接定量するために、特定分画以外のリポ蛋白を凝集させ、定量すべき成分が検出できる試薬を該成分と反応させた後、当該反応を停止させると同時に又は後に、凝集させた分画を溶解させ、当該反応により生じた変化を測定することを特徴とするリポ蛋白の特定分画に含まれる成分の定量方法。
【請求項2】特定分画が高比重リポ蛋白(HDL)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】定量すべき成分がコレステロールである請求項1又は2に記載の方法。」(特許請求の範囲の項)が、
甲第4号証には、
「(1)液体中での抗原抗体反応を利用した免疫学的活性物質の測定方法において、該液体中に下記[1]式で示される化合物を添加することを特徴とする免疫学的活性物質の測定方法。 R1O-{(CH2CH2O)m(AO)n}-R2 [1] 」(特許請求の範囲の項)
「検体中の夾雑蛋白、脂肪等による好ましくない副反応であるいわゆる非特異反応が抑制される。また被検物の高濃度域におけるプロゾーンの発生を抑えることができ、更には被検物の低濃度領域も精度良く測定できるという利点がある。」(4頁左上欄17行〜右上欄2行)が、それぞれ記載されている。
上記記載によると、甲第1号証に係る発明は、HDL以外のリポ蛋白を凝集させ、HDL中のコレステロールのみを酵素的に反応させた後に酵素を失活させるとともに、凝集を再溶解して吸光度を測定するものであって、酵素反応後に凝集を再溶解することが必須のものである。
しかるに、本件発明は、検体に高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質と、タンパク質を溶解しない界面活性剤を添加した後、当該検体を酵素的測定法によるコレステロールの測定に付する定量方法であって、甲第1号証に係る発明のように酵素反応後に凝集を再溶解する必要はないのであるから、本件発明は、甲第1号証に係る発明とは全く別異のものである。
そして、甲第4号証には、界面活性剤を添加して非特異反応を抑制することの記載はあるが、本件発明のように、界面活性剤を添加すれば白濁を生じるような大きな凝集物にはならないことを教示するところはない。
そうすると、本件発明は甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(7)について
甲第6号証及び甲第7号証には、凝集物等が生じた検体の光学的手段によって生じた生産物を測定するためのエンドポイント法について記載されている。
しかし、甲第1号証,甲第4号証,甲第6号証及び甲第7号証に記載された事項を組み合わせても、本件発明のような構成を導くことはできない。
してみれば、本件発明は、甲第1号証,甲第4号証,甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(8)について
甲第5号証には、
「【請求項1】高密度リポ蛋白(HDL)以外のリポ蛋白を凝集させる試薬を含む緩衝液の存在下、HDLを含有する試料にコレステロールエステル加水分解酵素およびコレステロール酸化酵素またはコレステロール脱水素酵素を作用させて、生成した凝集物を分離することなく、緩衝液中に生成する過酸化水素または還元型補酵素を定量することを特徴とするHDL中のコレステロールの定量法。」(特許請求の範囲の項)、
「本発明の系は、通常のコレステロールを測定する系を含んでいるためによく使用される界面活性剤あるいはコール酸類も使用可能であり、・・・。界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が0〜1%の範囲で使用され、」(3頁6欄20〜26行)が、それぞれ記載されている。
しかるに、本件発明は、「ポリオキシエチレンセチルエーテル(HLB14)ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB15)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれるリポタンパク質を溶解しない界面活性剤」という特定の界面活性剤を使用するものであるところ、甲第5号証には、該界面活性剤について具体的に教示する記載はない。
そうすると、本件発明は、甲第5号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コレステロールの定量方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 リポタンパク質を含む検体に、ポリアニオン、2価金属イオン、水溶性高分子化合物及び高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質に対する抗体から選ばれる高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質、並びにポリオキシエチレンセチルエーテル(HLB14)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB15)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれるリポタンパク質を溶解しない界面活性剤を添加した後、当該検体をコレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールエステラーゼとコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いる酵素的測定法によるコレステロールの測定に付すことを特徴とする高比重リポタンパク質中のコレステロールの定量方法。
【請求項2】 リポタンパク質を溶解しない界面活性剤が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物である請求項1記載の高比重リポタンパク質中のコレステロールの定量方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、遠心分離などの前処理の必要がなく、少ない試料で簡便な操作により効率良く高比重リポタンパク質中のコレステロールを測定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コレステロール等の脂質は、血清中においてアポタンパクと結合し、リポタンパク質を形成している。リポタンパク質は物理的な性状の違いにより、カイロミクロン、超低比重リポタンパク、低比重リポタンパク(LDL)、高比重リポタンパク(HDL)等に分類される。これらのリポタンパク質のうち、LDLは動脈硬化惹起性を有し、一方HDLは抗動脈硬化作用を示すことが知られている。
【0003】
疫学的には、HDL中のコレステロール値は動脈硬化性疾患の発症頻度と逆相関を示すことが証明されており、今日では、虚血性心疾患の予防や診断を目的として、HDL中のコレステロールの測定が広く行われている。
HDL中のコレステロールの測定方法としては、例えば超遠心分離によってHDLを他のリポタンパク質と分離した後、コレステロール測定に供する方法や、電気泳動によって分離した後に脂質の染色を行って、その発色強度を測定する方法等が知られている。しかしながら、これらの方法は、いずれも、操作が煩雑であったり、多数の検体を処理できないなどの問題があり、日常的にはほとんど用いられていなかった。
【0004】
HDL中のコレステロールの測定方法として、現在臨床検査の領域で一般に広く用いられている方法は、検体に沈殿剤を加えてHDL以外のリポタンパク質を凝集させ、これを遠心分離によって取り除き、分離されたHDLのみを含む上清中のコレステロールを測定する沈殿法である。
この方法は、超遠心法や電気泳動法に比較して簡便であるものの、沈殿剤を加えて分離する操作を含むために、比較的多量の検体量を必要とし、また分析誤差を生じる可能性も高く、全分析工程を完全に自動化することはできなかった。
【0005】
一方、酵素的にHDL中のコレステロールを分別定量する方法も検討されている。例えば、胆汁酸塩又は非イオン系界面活性剤の存在下に、酵素反応を行う方法(特開昭63-126498号公報)が知られている。この方法は、反応初期の酵素反応速度はLDL濃度に比例し、その後HDL中のコレステロール濃度に比例することを利用したものであるが、HDL中のコレステロールと他のリポタンパク質中のコレステロールの反応を完全に分別することはできず、測定される対象がLDL中のコレステロールからHDL中のコレステロールヘと、段階的にではなく、オーバーラップしながら徐々に変化していくため、正確な方法とは言い難かった。
【0006】
また、HDL以外のリポタンパク質を予め凝集させておき、HDL中のコレステロールのみを酵素的に反応させた後に、酵素を失活させると同時に凝案を再溶解して吸光度を測定するという方法(特開平6-242110号公報)が知られている。しかしながら、この方法は、少なくとも3回の試薬を添加する操作が必要であるため、限定された自動分析装置にしか適用できず、汎用性の点で問題があった。また、沈殿の再溶解に際しては、高濃度の塩を使う等、分析機器に対するダメージや試薬廃棄の点でも満足できるものではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、遠心分離などの前処理の必要がなく、簡便な操作で効率良く測定することができ、種々の自動分析装置に適用することができるHDL中のコレステロールの定量方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において、本発明者らは鋭意研究を行った結果、検体に、HDL以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質と界面活性剤を添加した後、酵素的にコレステロールを測定すれば、HDL中のコレステロールを効率良く定量することができ、しかも自動分析装置にも適用できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、リポタンパク質を含む検体に、高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質及び界面活性剤を添加した後、酵素的測定法によりコレステロールを測定することを特徴とする高比重リポタンパク質中のコレステロールの定量方法を提供するものである。
【0010】
本発明で用いられるHDL以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質としては、HDLとHDL以外のリポタンパク質とで親和性に差がある物質であれば良く、例えばデキストラン硫酸、リンタングステン酸、ヘパリン等のポリアニオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の2価金属イオン;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子;HDL以外のリポタンパク質に対する抗体などが挙げられる。これらの物質は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、特にポリアニオンと2価金属イオンを組み合わせて用いるのが好ましい。
【0011】
これらの物質の使用量は特に制限されず、また物質の種類により異なるが、これらの物質とHDL以外のリポタンパク質とが測定時に複合体を形成していればよく、凝集物を形成していても、又は形成していなくてもよい。例えば、ポリアニオンと2価金属イオンを組み合わせて用いる場合、試料と混合したときの濃度が、ポリアニオン0.02〜2重量%、2価金属イオン10〜500mMとなるのが好ましく、特にポリアニオン0.05〜1重量%、2価金属イオン20〜200mMとなる範囲で用いるのが好ましい。
【0012】
また、本発明で用いられる界面活性剤としては、リポタンパク質を溶解しないものが好ましく、例えばポリオキシエチレンセチルエーテル(HLB14)(市販品としてはエマルゲン220(花王社製)等)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB15)(市販品としてはエマルゲン913(花王社製)等)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物としては、市販品としてプルロニックF88(旭電化社製)等が;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としてはポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(市販品としてはエマール20C(花王社製)等)が;アルキルベンゼンスルホン酸塩としてはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0013】
これらの界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は特に制限されないが、試料と混合した時の濃度が0.01〜5重量%、特に0.05〜1重量%になるような範囲で用いるのが好ましい。
【0014】
本発明においては、まずHDL以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質及び界面活性剤を検体に添加するが、その際には、これらの物質を混合して同一の試薬として添加しても、またそれぞれ別個の試薬として添加してもよい。
次に、このようにHDL以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質及び界面活性剤を添加した検体を、直接コレステロールの測定に付す。すなわち、遠心分離などの前処理を行う必要はない。
【0015】
コレステロールの測定方法としては、公知の酵素的測定法のいずれをも用いることができ、例えば酵素試薬としてコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを組み合わせて用いる方法、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いる方法等が挙げられる。これらのうち、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを組み合わせて用いる方法が好ましい。
酵素試薬を添加した後、一定時間のシグナル量を測定することにより、測定対象であるコレステロール濃度を求めることができ、更に分析の正確度を高める目的で、酵素試薬を添加した後、定まった2点の時間におけるシグナル量を比較することによっても(2point法)、コレステロールの濃度を求めることができる。
また、これらの酵素試薬等を添加した後、最終的にコレステロールを検出する方法は特に制限されず、例えばパーオキシダーゼと色原体を更に組み合わせて行う吸光度分析、補酵素や過酸化水素を直接検出する方法等が挙げられる。
【0016】
【発明の効果】
本発明によれば、遠心分離などの前処理の必要がなく、簡便な操作で効率良くHDL中のコレステロールを定量することができる。また、少ない試料で、簡便な操作により、特異的な測定が可能であるため、種々の自動分析装置に適用することができ、臨床検査の領域においても極めて有用である。
【0017】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1
リポタンパク質を含む血清検体No.1〜No.10について、本発明方法及び従来の沈殿法により、HDL中のコレステロールを定量し、これらの測定値を比較した。結果を表1に示す。
すなわち、検体4μ1に、リンタングステン酸ナトリウム0.2%、塩化マグネシウム100mM及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物(プルロニックF-68、旭電化社製)0.5%を含む試薬300μl/を加え、次にコレステロールエステラーゼ0.2U/ml、コレステロールオキシダーゼ0.2U/ml、パーオキシダーゼ0.3U/ml、N,N-ジメチルメタトルイジン0.04%、4-アミノアンチピリン0.005%及び0.1%Triton X-100を含むコレステロール測定試薬100μ1を加えた。その後、545nmにおける吸光度の差を測定することにより、HDL中のコレステロール濃度を求めた。なお、以上の操作は、日立7150型自動分析装置を用いて行った。
【0019】
一方、沈殿法によりHDL中のコレステロールを測定するには、デキストラン硫酸0.3%及び塩化マグネシウム2%を含む水溶液0.2mlを、検体0.2mlと混和し、3000rpmで10分間遠心分離を行った。この上清50μlを採取し、前記と同様のコレステロール測定試薬3m1と混合し、37℃で10分間インキュベートした後、545nmにおける吸光度を測定し、HDL中のコレステロール濃度を求めた。
【0020】
【表1】

【0021】
表1の結果より、本発明方法は簡便な操作であるにもかかわらず、従来の沈殿法と同程度の測定値が得られた。
【0022】
実施例2
リポタンパク質を含む検体No.11〜No.20について、本発明方法及び従来の沈殿法により、HDL中のコレステロールを定量し、これらの測定値を比較した。結果を表2に示す。
すなわち、検体4μ1に、リンタングステン酸ナトリウム0.2%、デキストラン硫酸1.8g/l、塩化マグネシウム100mM及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物(プルロニックF-68、旭電化社製)0.21%を含む試薬300μlを加え、次に実施例1と同様のコレステロール測定試薬100μlを加えた。以下、実施例1と同様にして、HDL中のコレステロール濃度を求めた。
また、沈殿法についても実施例1と同様にして測定した。
【0023】
【表2】

【0024】
表2の結果より、本発明方法は少ない試料を用い、簡便な操作で行うことができるにもかかわらず、従来の沈殿法と同程度の測定値が得られた。
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
特許請求の範囲の請求項1及び2の記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】リポタンパク質を含む検体に、ポリアニオン、2価金属イオン、水溶性高分子化合物及び高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質に対する抗体から選ばれる高比重リポタンパク質以外のリポタンパク質と複合体を形成する物質、並びにポリオキシエチレンセチルエーテル(HLB14)ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB15)、ポリオキシエチレンーポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれるリポタンパク質を溶解しない界面活性剤を添加した後、当該検体をコレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールエステラーゼとコレステロールデヒドロゲナーゼを組み合わせて用いる酵素的測定法によるコレステロールの測定に付すことを特徴とする高比重リポタンパク質中のコレステロールの定量方法。
【請求項2】リポタンパク質を溶解しない界面活性剤が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物である請求項1記載の高比重リポタンパク質中のコレステロールの定量方法。」と訂正する。
異議決定日 2000-04-07 
出願番号 特願平7-13607
審決分類 P 1 651・ 4- YA (C12Q)
P 1 651・ 14- YA (C12Q)
P 1 651・ 121- YA (C12Q)
P 1 651・ 16- YA (C12Q)
P 1 651・ 531- YA (C12Q)
P 1 651・ 534- YA (C12Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 滝本 晶子  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田中 久直
田村 明照
登録日 1998-07-10 
登録番号 特許第2799835号(P2799835)
権利者 第一化学薬品株式会社
発明の名称 コレステロールの定量方法  
代理人 柿本 昭裕  
代理人 有賀 三幸  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 高野 登志雄  
代理人 有賀 三幸  
代理人 高野 登志雄  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 棚井 澄雄  

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