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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C07C |
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管理番号 | 1016610 |
異議申立番号 | 異議1999-71431 |
総通号数 | 12 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1987-06-11 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-04-15 |
確定日 | 1999-12-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2811065号「ベンジルアミンの製造法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2811065号の特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第2811065号発明は、昭和60年12月2日に特許出願され、平成10年8月7日に特許の設定登録がなされたものである。その後、中尾英樹によって特許異議の申立がなされたため、当審において審理のうえ、取消理由を通知したところ、その意見書の提出指定期間内である平成11年10月18日に訂正請求がなされた。 2.訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許明細書を、訂正明細書のとおり、次の事項について訂正することを求めるものである。 〈訂正事項a〉特許請求の範囲第1項中、「アンモニアの共存下で、」を「ベンゾニトリルに対して0.2〜2.0モル倍のアンモニアの共存下で、」と訂正する。 〈訂正事項b〉発明の詳細な説明中、4頁1行の「2.0モル倍」を「2.0モル倍にすることが必須であり」と訂正する。 3.訂正の適否 i)訂正事項aは、アンモニアの量を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 訂正事項bは、発明の詳細な説明を、訂正事項aと整合させるための訂正であるから、訂正事項aと一体の訂正である。 ii)前記訂正は、明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。 iii)つぎに、訂正後における特許請求の範囲に記載の発明(以下、「訂正後の本件発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。 iii-1)訂正後の本件発明は、次のとおりのものである。 「(1)ベンゾニトリルに対して0.2〜2.0モル倍のアンモニアの共存下で、ベンゾニトリルをベンゾニトリルに対して1〜5重量倍の非還元性の水酸基を有する極性溶媒中にラネーニツケルまたはラネーコバルト触媒を懸濁させた不均一系で水素添加せしめることを特徴とするジベンジルアミン含有量の少ないベンジルアミンの製造方法。 (2)水酸基を有する極性溶媒が水、メタノール、エタノールから選ばれるいずれか一つである特許請求の範囲第(1)項記載のベンジルアミンの製造方法。」 iii-2)当審においては、刊行物1〜3(申立人が提出した甲第1〜3号証)を提示して、本件の訂正前の発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであって、取り消されるべきである、という趣旨の取消理由を通知した。 iii-3)本件の特許異議申立において、申立人は、甲第1〜3号証、及び参考資料を提出して、本件の訂正前の発明は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであって、取り消されるべきである、と主張した。 iii-4)各刊行物には次のとおりの事項が記載されている。 甲第1号証(英国特許第810530号明細書・・・刊行物1)のクレーム1〜3、5、及び8には、それぞれ、「液相中、アンモニアの存在下、ニッケル又はコバルト触媒上でイソフタロニトリル及び/又はテレフタロニトリルを水素添加することからなるm-及び/又はp-キシリレンジアミンの製造方法。」、「触媒がラネーニッケルであるクレーム1に記載の方法。」、「触媒がラネーコバルトであるクレーム1に記載の方法。」、「水素添加がジニトリルに対してそれ以上又はそれ以下の溶媒の存在下で行われる前記のいずれかのクレームに記載の方法。」、「追加の溶媒が水、・・・メタノール又はエタノールであるクレーム5に記載の方法。」が記載されている。同発明の目的は、第2級アミンの生成を十分に回避して対応ずるキシリレンジアミンを製造するためのイソフタロニトリル及び/又はテレフタロニトリルの水素添加方法を提供することにある(1頁20〜25行)。また、アンモニアの量は、1モルのジニトリルに対し少なくとも2モルであるとし、例8には、イソフタロニトリル(1重量部)を、ラネーニッケル(0.2重量部)、アンモニア(1.8重量部)及びメタノール(3.5重量部)の存在下に水素添加し、高収率でm-キシリレンジアミンを得たこと、また、例10には、イソフタロニトリル(1重量部)を、ラネーコバルト(0.4重量部)、液体アンモニア(10重量部)及び水(3重量部)の存在下に水素添加し、収率83%でm-キシリレンジアミンを得たこと、が示されている。 甲第2号証(米国特許第2165515号明細書・・・刊行物2)のクレーム5には、「式R-C≡N、式中Rはヒドロキシ基を有さない炭素数5以上の脂肪族、芳香族及び脂肪-芳香族残基からなる置換基群である、に対応するニトリルを、不活性溶媒及び実質的にコバルトからなる触媒の存在下、水素と反応させる式R-CH2-NH2に対応するアミンの製造法。」が記載され、例8には、アビエチン酸ニトリル100重量部をコバルト触媒10重量部とメタノール100重量部の存在下に水素添加してアビエチルアミンを製造したこと、また、例9には、ベンゾニトリル100重量部を、コバルト触媒3重量部の存在下に水素添加してベンジルアミン85重量部を得たこと、が示されている。 甲第3号証(特開昭55-104235号公報・・・刊行物3)には、「添加アンモニアを含む溶媒系の中でコバルト又はニッケル触媒を使用して、芳香族ニトリルを第1級アミンに水素添加するに当って、溶媒として4ないし6個の炭素原子を含有するエーテルを用いかつ水素添加をエーテル溶媒の約10容量%ないし約20容量%の量の水の存在下で行ないそれによって反応速度を高め、第二級アミン副生物を減少せしめ、かつ触媒を悪影響なしに再循環出来るようにしたことを特徴とする方法。」が記載され(特許請求の範囲1)、芳香族ニトリルとして、ベンゾニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリル等が例示されている。また、アンモニアは望まれない第2級及び第3級アミン副生物の生成を抑えるのに役立つこと、その添加量は、溶媒容量の約10〜30%であること、が記載され(3頁右下欄6〜9行)、実施例1には、50gのテレフタロニトリルを、400mlのテトラヒドロフラン、100mlのアンモニア、6.0gの担持されたコバルト触媒、及び水の存在下に水素添加して、p-キシリレンジアミンを得たことが記載されている。また、表3には、比較例に相当する製造例として、50gのテレフタロニトリルを、100mlのアンモニア、6.0gのコバルト触媒、及び400mlのエタノール希釈剤、あるいは、エタノールと12.5%の水からなる希釈剤400mlとともに反応させて得た生成物の収量が示されている。 参考資料(「接触水素化反応-有機合成への応用-」28〜29頁、1987年4月10日 株式会社東京化学同人発行)には、Raney Co触媒が、Raney Ni触媒と同様に、Co-Al合金からAlをNaOH水溶液で溶出することによって得られる旨記載されている(28頁11〜12行)。 iii-5)そこで、訂正後の本件発明と、各刊行物の記載事項とを対比したが、甲第1〜3号証には、訂正後の本件発明の構成要件である、「ベンゾニトリルを、0.2〜2.0モル倍のアンモニアの共存下で、ベンゾニトリルに対して1〜5重量倍の非還元性の水酸基を有する極性溶媒中にラネーニツケルまたはうネーコバルト触媒を懸濁させた不均一系で水素添加」する点について記載されていないし、示唆もされていない。 すなわち、甲第1号証には、イソフタロニトリルまたはテレフタロニトリルをアンモニアの存在下に、ラネーニッケルまたはうネーコバルト触媒上で水素添加して対応するm-またはp-キシリレンジアミンを製造する方法が記載され、例8及び10には、訂正後の本件発明における「非還元性の水酸基を有する極性溶媒」に相当するメタノールあるいは水を、本件発明と同程度の量で使用する例が示されている。しかし、アンモニアの使用量については、1モルのジニトリルに対し少なくとも2モルとされているものの、例8では、ジニトリルに対して13モル倍にも達する量が、また、例10ではさらに大量が使用されていて、訂正後の本件発明におけるような、0.2〜2.0モル倍程度の使用を示唆する記載はない。 刊行物2には、アンモニアを使用する点について記載されていない。 刊行物3の方法における溶媒系は、エーテルとエーテルの約10容量%ないし約20容量%に相当する量の水からなるものであるから、当該水が、訂正後の本件発明における「非還元性水酸基を有する極性溶媒」に該当するとしても、系中の従成分に止まる。したがって、エーテルを主成分とする同刊行物の溶媒系と、「非還元性水酸基を有する極性溶媒」からなる訂正後の本件発明の溶媒系とは明らかに区別されるものである。また、同刊行物の表3には、希釈剤(溶媒)として、エタノール、あるいは、エタノールと水からなる混合希釈剤(溶媒)を使用した、比較例ともいえる実験例が示されているが、同希釈剤(溶媒)の使用量は、エタノールの比重を0.789とすると、原料テレフタロニトリルに対して6重量倍あるいは7重量倍に相当し、訂正後の本件発明における1〜5重量倍を越えている。また、同実験におけるアンモニアの使用量も、原料テレフタロニトリルに対して12モル倍強にも達するものであり、訂正後の本件発明における「0.2〜2.0モル倍」とは大いに相違する。 そして、訂正後の本件発明は、上記構成をとることによって、ジベンジルアミンの副生を抑制し、収率よくベンジルアミンを製造するという所期の効果を達成し得たものであり、とくに、アンモニアの抑制された使用量によっても十分な効果が達成されることの予測が、大量のアンモニアを使用する刊行物1及び3の実施例の記載から容易に予測し得たものと認めることはできないから、結局、訂正後の本件発明を、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 上記判断は、参考資料の内容によって覆すことはできない。 したがって、上記各証拠刊行物の存在に拘わらず、訂正後の本件発明は、特許出願時に独立して特許を受けることができるものである。 iv)以上のとおり、上記訂正は、特許法120条の42項の規定を満たし、また、同3項で準用する同126条2項から4項の規定を満たすものであるから、適法なものとして認めることとする。 4.特許異議の申立て 本件の特許異議申立における申立の理由は、〈3.iii-3)〉に記載のとおりであるところ、訂正後の本件発明が、当該理由によって取り消され得ないことは〈3.iii-5〉に示したとおりである。 5.むすび 以上のとおり、上記訂正は適法なものとして請求のとおりに認められ、また、訂正された本件発明に係る特許は、特許異議申立ての理由、及び当審において通知した取消理由によって、取り消すことができない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ベンジルアミンの製造方法 (57)【特許請求の範囲】 1)ベンゾニトリルに対して0.2〜2.0モル倍のアンモニアの共存下で、ベンゾニトリルをベンゾニトリルに対して1〜5重量倍の非還元性の水酸基を有する極性溶媒中にラネーニッケルまたはラネーコバルト触媒を懸濁させた不均一系で水素添加せしめることを特徴とするジベンジルアミン含有量の少ないベンジルアミンの製造方法。 (2)水酸基を有する極性溶媒が水、メタノール、エタノールから選ばれるいずれか一つである特許請求の範囲第(1)項記載のベンジルアミンの製造方法。 【発明の詳細な説明】 <産業上の利用分野> 本発明は、ベンゾニトリルを接触水素添加し、収率よくベンジルアミンを製造する方法に関する。 ベンジルアミンは、工業原料として有用な化合物であり、医薬・染料・界面活性剤・化学薬品等多方面にわたって使用されている。 <従来技術及び問題点> 従来、ベンゾニトリルを接触水素添加してベンジルアミンを合成する方法は公知である。例えば、特開昭51-101930ではベンゾニトリルと水素を連続的に触媒床上で交流接触させ、ベンジルアミンを得ているが、この場合同時に副生物としてジベンジルアミンが生成している。 又、米国特許4254059ではルテニウム-ホスフイン錯体触媒を用いてベンゾニトリルを水素添加しているが、この場合ルテニウムは貴金属の一種であり、同触媒はかなり高価なものになり、経済的とは決して言えない。 <問題点を解決するための手段> そこで、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、発明を完成するに到った。すなわち、本発明は、アンモニアの共存下で、ベンゾニトリルを非還元性の極性溶媒中にラネーニッケルまたはラネーコバルト触媒を懸濁させた不均一系で水素添加せしめることを特徴とするジベンジルアミン含有量の少ないベンジルアミンの製造法である。 ところで、該反応機構は第1図の通り、出発原料が広範囲の触媒によって接触的に還元され、各中間体を経て目的物あるいは副生物に到るものと推察される。 以下に本発明をより詳しく説明する。本発明において原料に用いるベンゾニトリルは一般的に工業原料として容易に入手可能であり、特別の精製等を要しない。 アンモニアの添加量はベンゾニトリルに対して0.2〜2.0モル倍にすることが必須であり、好ましくは0.5〜1.5モル倍の範囲で使用される。同数値より少ないとジベンジルアミンの副生率が増加し、それより多いと反応後のアンモニア回収工程でのアンモニアロスが増加するので不都合である。 触媒は、一般的な水素添加用触媒のうち、安価なラネーニッケルあるいはラネーコバルトが使用されることが必須である。その使用量はベンゾニトリルに対して2〜12wt%、好ましくは5〜10wt%の範囲である。 又、通常、反応溶媒として非還元性の極性溶媒、例えば、水、メタノール、エタノール等が利用されることが必須であり、その使用量はベンゾニトリルに対して、1.0〜5.0重量倍の範囲にするのが必須である。この範囲にすることにより高い収率を達成することができる。 本発明における反応温度は50〜150℃の範囲で実施可能であるが、反応速度等を考慮すれば80〜120℃の範囲が望ましい。又、反応圧力(水素分圧)は50〜150kg/cm2Gの範囲なら任意であるが、反応装置の設計上の問題点及び該反応性等から80〜120kg/cm2Gの範囲が好ましい。 このようにして得られた反応粗液は通常、触媒を▲戸▼別した後、アンモニア-メタノールを常圧で留去させる。留去したアンモニアはスクラバーにて冷却されたメタノールに吸収され、反応系ヘリサイクルされる。一方、脱溶媒後の粗ベンジルアミンは、一般に用いられる蒸溜設備によって容易に精製される。 <発明の効果) 本発明の方法によれば、前記した従来技術の欠点を排除し、例えばラネーニッケルあるいはラネーコバルトの如き安価な触媒が使用でき、ジベンジルアミンの副生を抑制する等、しかも収率よく、容易に目的物を得ることができる。 <実施例> 次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。 実施例1. 1lの電磁撹拌式オートクレーブを使用して、ベンゾニトリル110gを、アンモニア性メタノール(アンモニア濃度12.9wt%)287gに溶解し(アンモニア/出発原料=2.06モル倍)、ラネーニツケル触媒10gを添加した後、反応温度100℃に加熱し、水素圧力100kg/cm2Gで反応させた。 結果、2時間後の反応粗液のガスクロマトグラフ分析注1)によると、ベンゾニトリルは完全に消失し、生成物としてはベンジルアミン92.9%、ジベンジルアミン1.78%、その他5.32%であった。 注1)数値はメタノールを除いた百分率を表わす。以下同じ。 次いで、20段の多孔板塔を使用して、触媒を▲戸▼別した反応粗液350gを常圧で脱メタノール(脱アンモニア)した後、得られた缶液を、100Torrの減圧下、還流比5で精溜し、ベンジルアミン105gを得た(主留分108〜l14℃/100Torr)(純度99.2%)。全収率は91.9%であった。 比較例 実施例1と同じ条件でアンモニアを添加せずに反応を行なった。 結果、2時間後の反応粗液のガスクロマトグラフ分析ではベンジルアミン61.1%、ジベンジルアミン20.4%であった(ベンゾニトリル転化率99.2%)。 実施例2. 触媒濃度(対出発原料)を5.0w%及びアンモニア/出発原料を第1表に示した数値に変更し、実施例1と同じ条件で反応を行なった。 結果、2時間後の反応粗液のガスクロマトグラフ分析は第1表の通り。 実施例3. 触媒をラネーコバルト10gに変更し、実施例1と同じ条件で反応を行なった。 結果、2時間後の反応粗液のガスクロマトグラフ分析ではベンジルアミン92.7%、ジベンジルアミン2.26%であった(ベンゾニトリル転化率100%)。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 〈訂正事項a〉特許請求の範囲第1項中、「アンモニアの共存下で、」を「ベンゾニトリルに対して0.2〜2.0モル倍のアンモニアの共存下で、」と訂正する。 〈訂正事項b〉発明の詳細な説明中、4頁1行の「2.0モル倍」を「2.0モル倍にすることが必須であり 」と訂正する。 |
異議決定日 | 1999-12-09 |
出願番号 | 特願昭60-269412 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C07C)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 昌広 |
特許庁審判長 |
嶋矢 督 |
特許庁審判官 |
谷口 操 後藤 圭次 |
登録日 | 1998-08-07 |
登録番号 | 特許第2811065号(P2811065) |
権利者 | ダイセル化学工業株式会社 |
発明の名称 | ベンジルアミンの製造法 |
代理人 | 三浦 良和 |
代理人 | 三浦 良和 |