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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て一部成立) D06M 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て一部成立) D06M 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認めない。無効とする(申立て一部成立) D06M |
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管理番号 | 1017506 |
審判番号 | 審判1997-10972 |
総通号数 | 13 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1988-01-12 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1997-06-30 |
確定日 | 2000-06-23 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1605338号発明「金属水酸化物または金属酸化物を被覆したチタン酸アルカリ繊維およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第1605338号発明の明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする。 特許第1605338号発明の明細書の特許請求の範囲第4項、第6項に記載された発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第1605338号発明は、昭和61年6月24日に特許出願され、平成3年5月13日設定登録されたものである。 そして、平成9年6月30日に本件特許無効審判が請求され、平成9年10月28日付け訂正請求書により訂正の請求(以下「本件の訂正の請求」という)がなされた。 II.請求の理由 審判請求人は、本件特許を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、次のことを主張している。 (1)甲第1号証及び甲第2号証を提出して、本件請求項1に係る発明は、甲第1あるいは第2号証に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。また、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。 (2)甲第3号証を提出して、本件請求項6に係る発明は、甲第3号証に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。また、本件請求項6に係る発明は、甲第3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。 (3)本件特許明細書の記載は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない。 III.訂正の可否 本件発明の要旨の認定にあたり、まず本件の訂正の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という)の可否について検討する。 本件の訂正の請求は、本件の訂正の請求をする前の特許請求の範囲の請求項6,7を削除しようとするものであり、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 ところで、審判請求人が提出した甲第1号証(特公昭43-8936号公報)は、繊維状チタン酸アルカリ金属塩の安定化方法に関して、次のような点が記載されている。 (イ)第2頁右欄下から第5行乃至第3頁左欄第4行;「本発明にしたがいアルミニウム、ジルコニウムおよびチタンの酸化物で多価金属安定化チタン酸塩を被覆すると、すぐれた熱安定性や強さを得ることができるので有利である。たとえばバリウムまたはカルシウムで安定化した繊維状チタン酸カリウムに、前記の化合物を添加すると、絶縁板を100時間以上、約1150〜1200℃に加熱しても、5%以上の縮みを示さない。」 (ロ)第4頁右欄第3行乃至第6行;「繊維状チタン酸ナトリウムまたはカリウムは、未処理のものも、上記の安定化処理を行ったものも、アルミナ、ジルコニア、またはチタニアで処理することによって改良することができる。」 (ハ)第4頁右欄第22行乃至第23行;「Al、Zr、Tiの含水金属酸化物を用いても、同じように良い結果を得ることができる。」 (ニ)実施例3においては、繊維状チタン酸カリウム製品を製造した後、(1)水中に分散させ、(2)得られた分散液にA12(SO4)3・18H2O溶液、みょうばん溶液およびKOH溶液を加え、(3)分散液を撹拌後、金網上で減圧に引きながら濾過し、(4)湿ったケーキを、水中に分散させ、(5)金網上に吸引濾過することによりブロックを形成させ、130℃で乾燥させること、このようにして得たブロック材料については表3に示されている。 (ホ)実施例6においては、実施例5の工程(1)と同様にして製造した繊維状チタン酸カリウムの分散液に、KOH溶液とZrCl2溶液を順次加え、反応させ、濾過し、水洗している。 (へ)第8頁表3;(表3には、甲第1号証の実施例において製造された、補強材料としてのアルミナ、チタニアおよびジルコニアにより補強した繊維状チタン酸カリウムが、III、IV、V、VIおよびVIIとして挙げられている。) ここで、本件訂正後の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載の発明とを比較検討する。 (本件訂正後の請求項1に係る発明) 本件訂正後の請求項1に係る発明の要旨は、請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「表面に金属水酸化物またはNi、Cu、Co、Fe、Al、Zr、Pbのうちから選ばれた1以上の金属酸化物が被覆されたチタン酸アルカリ繊維。」 (対比・判断) 本件明細書の、例えば実施例1には、「チタン酸カリウム繊維として四チタン酸カリウム(K2O・4TiO2)とX1相のもの(2K2O・11TiO2・3H2O)とをそれぞれ用いた。・・・水に各種金属塩を溶解させ、よく撹拌した。・・・チタン酸アルカリ繊維表面に金属水酸化物または金属酸化物が被覆されたことを確認した。この生成物を洗浄濾過したのち、105℃の空気雰囲気で乾燥した。・・・さらに金属水酸化物が被覆されたチタン酸カリウム繊維をそれぞれ800℃で15分間焼成することによりチタン酸カリウム繊維表面に金属酸化物が被覆された。・・・」と記載されている。 ところで、上記本件明細書の実施例1の方法にて得られた「表面にAl或いはZrの酸化物が被覆されたチタン酸アルカリ繊維」と、刊行物1の、例えば実施例3の「繊維状チタン酸カリウム製品を製造した後、(1)〜(5)の工程を経て形成されたブロック材料の繊維状チタン酸カリウム材料」或いは同実施例6の「ブロック材料の繊維状チタン酸カリウム材料」とでは実質的な相違が認められない。 被請求人は、平成10年8月3日付け意見書において、次のことを主張している。 甲第1号証に開示された実施例3を検討すると、Al2O3は製品中の4%にすぎないとする。このことは、Al2O3が不規則な交さ結合構造部と繊維構造中の細孔を減じるために使われ、しかも、繊維状チタン酸カリウムをAl2O3が被覆していることは説明つかない。たしかに水溶液中に繊維が分散し、かつAl2O3が溶解しているが、だからといって、このことだけで一本毎の各繊維に金属酸化物が被覆したことにはならない。むしろ甲第1号証の3頁左欄4行から同欄10行の記載及び4頁右欄27行から31行の記載が明らかにしているように繊維間の交さ結合(またはブラシヒープ構造)によるものという開示を裏付けている。また、甲第1号証の実施例6もZrO2の製品中の量は6.3%であるので、実施例3についての見解が同じく妥当することになる。とすると、本件訂正後の請求項1の「表面にAl或いはZrの酸化物が被覆されたチタン酸アルカリ繊維」と甲第1号証の繊維状チタン酸カリウム材料は別のものである。 被請求人の上記主張について検討する。 被請求人は、本件発明の「表面に金属酸化物が被覆されたチタン酸アルカリ繊維」は、一本毎の各繊維に金属酸化物が被覆されたものであると主張するが、本件特許明細書には、文字どおり「表面に金属酸化物が被覆されたチタン酸アルカリ繊維」と記載されるだけで、一本毎の各繊維に金属酸化物が被覆されたものであると断定できるものではない。即ち、本件発明のチタン酸アルカリ繊維は、一本毎の各繊維に金属酸化物が被覆されたものに限らず、何らかの形態で表面に金属酸化物が被覆されていれば良い場合を包含するものであって、その点で上記(イ)乃至(へ)の記載がある甲第1号証と実質的な相違がない。よって、被請求人の上記主張は妥当なものではない。 したがって、本件訂正後の請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるといえるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。 (結び) 結局、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではあるが、訂正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえないから、特許法第134条第5項の場合に準用する同法第126条第4項の規定に違反する。 IV.本件発明の要旨 本件の訂正は認められないから、本件特許第1605338号の請求項1,4及び6に係る発明の要旨は、本件訂正前の特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,4及び6に記載された次のとおりのものと認める。「1.表面に金属水酸化物またはNi、Cu、CO、Fe、A1、Zr、Pbのうちから選ばれた1以上の金属酸化物が被覆されたチタン酸アルカリ繊維。 4.金属イオンの溶液にチタン酸アルカリ繊維を混合し、チタン酸アルカリ繊維表面に金属水酸化物またはPb酸化物を沈着するチタン酸アルカリ繊維の製造方法。 6.金属イオンの溶液にチタン酸アルカリ繊維を混合し、チタン酸アルカリ繊維表面に金属水酸化物を沈着したのち、これを熱処理し表面に金属酸化物を被覆するチタン酸アルカリ繊維の製造方法。」 V.対比及び当審の判断 請求人の「II.請求の理由」の(1)乃至(3)について検討する。 (1)については、本件訂正前の明細書の請求項1の記載と本件訂正後の明細書の請求項1の記載とは相違するものではない。そして、本件訂正後の明細書の請求項1に係る発明に関して「III.訂正の可否」の項で述べたことと同じ理由により、本件訂正前の明細書の請求項1に係る発明は甲第1号証に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許がなされたものである。 (2)については、甲第3号証(特開昭61-141618号公報)は本件出願後に出願公開されたものであるから、甲第3号証をもって、本件請求項6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとも、また、特許法第29条第2項の規定に違反するともいえない。 なお、甲第3号証は本件の先願に係るものであるので、本件請求項6に係る発明と同一であるかどうかについて検討するに、甲第3号証のものは「繊維状チタン酸アルカリ金属塩の水分散液に、錫、インヂウム、アンチモン、ニオブ、タングステン及びモリブデンからなる金属群から選ばれた金属化合物の一種又は複数種の溶液状態で添加し、次いで不溶物を分離、熱処理する繊維状導電性チタン酸アルカリ金属塩の製造法。」に関するものであって、本件請求項6に係る発明の「金属イオンの溶液にチタン酸アルカリ繊維を混合し、チタン酸アルカリ繊維表面に金属水酸化物を沈着したのち、これを熱処理し表面に金属酸化物を被覆するチタン酸アルカリ繊維の製造方法。」とは相違する。よって、本件請求項6に係る発明は甲第3号証に記載の発明と同一であるとはいえない。 (3)について、請求人は本件特許明細書の記載が特許法第36条に規定する要件を満たしていないとする根拠として、次の点を挙げている。 a.請求項4、6において、金属イオン(金属水酸化物)について金属種が規定されていない。全ての金属水酸化物がチタン酸アルカリ繊維の被覆として、顕著な効果を発揮することはあり得ない。「発明の詳細な説明」の欄においても、上記と同様に金属イオン(金属酸化物、金属水酸化物)について、金属種が規定されていない。b.明細書には、「沈着剤」についての説明が一切存在しないので、実施例1、2における沈着剤使用の意義が不明確である。 上記a、bについて検討する。 a.については、発明の詳細な説明の実施例には、金属イオン(金属酸化物、金属水酸化物)について、各種金属種が具体的に記載されている。また、発明の詳細な説明の「産業上の利用分野」、「発明の効果」の項に記載されるように、本発明による生成物は強化複合材料の繊維材料またはほうろうの表面コーティング材あるいはこれらの着色材料として利用するに適するものであれば良いのであって、請求項4,6の記載が格別不備であるとはいえない。 b.については、「沈着剤」の表現で当業者が理解でき、本件発明を容易に実施することができるものと認められる。 以上のように、請求人の(3)についての主張は妥当なものとはいえない。 VII.結び したがって、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 また、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件請求項4,6に係る発明の特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第89条の規定により、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1998-09-09 |
結審通知日 | 1998-09-18 |
審決日 | 1998-09-24 |
出願番号 | 特願昭61-147853 |
審決分類 |
P
1
112・
532-
ZE
(D06M)
P 1 112・ 121- ZE (D06M) P 1 112・ 113- ZE (D06M) |
最終処分 | 一部成立 |
前審関与審査官 | 田口 昌浩 |
特許庁審判長 |
石井 勝徳 |
特許庁審判官 |
鈴木 美知子 船越 巧子 |
登録日 | 1991-05-13 |
登録番号 | 特許第1605338号(P1605338) |
発明の名称 | 金属水酸化物または金属酸化物を被覆したチタン酸アルカリ繊維およびその製造方法 |
代理人 | 三枝 英二 |
代理人 | 掛樋 悠路 |
代理人 | 井出 直孝 |
代理人 | 小原 健志 |
代理人 | 藤井 淳 |
代理人 | 下平 俊直 |