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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 特39条先願 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1018424 |
異議申立番号 | 異議1999-72861 |
総通号数 | 13 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-11-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-07-26 |
確定日 | 2000-06-05 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第2851891号「環状オレフィン系重合体からなるシートまたはフィルム」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2851891号の特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本件特許第2851891号は、平成2年特許願第18396号(出願日:平成2年1月29日、国内優先権主張:平成元年2月20日)として出願され、平成10年11月13日に特許権の設定の登録がされ、平成11年1月27日に特許掲載公報が発行され、その後、出光石油化学株式会社及び日本ゼオン株式会社より特許異議の申立てがされ、当審より平成11年10月29日付けで取消理由が通知されたところ、平成12年1月25日付けで特許異議意見書及び訂正請求書が提出されものである。 [2]訂正の適否 1.訂正事項 平成12年1月25日付け訂正請求による訂正事項は、以下のとおりである。 〔訂正事項1〕 特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。 「【請求項1】 (A)次式[I]で表される環状オレフィンから誘導される開環重合体、開環共重合体、該重合体あるいは共重合体の水素添加物、および、次式[I]で表される環状オレフィンとエチレンとの付加重合体よりなる群から選ばれる、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.01〜10dl/g、軟化温度が70℃以上である少なくとも一種類の環状オレフィン系樹脂と、 (B)少なくとも2種のα-オレフィンから形成される、非晶性ないし低結晶性α-オレフィン系共重合体(i)、 少なくとも2種のα-オレフィンと、少なくとも1種の非共役ジエンとから形成される、α-オレフィン・ジエン系共重合体(ii)、 芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンランダムもしくはブロック共重合体またはその水素化物(iii)、 イソブチレンから形成される軟質共重合体または、イソブチレンと共役ジエンとから形成される軟質重合体(iv) よりなる群から選ばれる少なくとも1種のガラス転移温度(Tg)が-20℃以下である軟質重合体の架橋物 からなる樹脂組成物から形成されていることを特徴とするシートまたはフィルム。 ![]() 〔上記式[I]において、nは、0もしくは正の整数であり、R1〜R12はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子もしくは基を表し、 R9〜R12は、互いに結合して単環または多環の基を形成していてもよく、かつ該単環または多環の基が二重結合を有していてもよく、 また、R9とR10とで、またR11とR12とでアルキリデン基を形成していてもよい。〕 〔訂正事項2-(1)〕 本件明細書第5頁(本件特許公報第4欄第20〜39行)の「(B)エチレンと、エチレン以外のα-オレフィンと、次式[I]で表される環状オレフィンとの共重合体であり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.01〜10dl/g、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である軟質環状オレフィン系共重合体(i)、 少なくとも2種のα-オレフィンから形成される、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の非晶性ないし低結晶性α-オレフィン系共重合体(ii)、 少なくとも2種のα-オレフィンと、少なくとも1種の非共役の非共役ジエンとから形成される、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下であるα-オレフィン・ジエン系共重合体(iii)、 ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンランダムもしくはブロック共重合体またはその水素化物(iv)、 イソブチレンから形成される軟質共重合体または、イソブチレンと共役ジエンとから形成される軟質重合体(v) よりなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋構造を形成できる軟質重合体またはその架橋物」を「(B)少なくとも2種のα-オレフィンから形成される、非晶性ないし低結晶性α-オレフィン系共重合体(i)、 少なくとも2種のα-オレフィンと、少なくとも1種の非共役ジエンとから形成される、α-オレフィン・ジエン系共重合体(ii)、 芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンランダムもしくはブロック共重合体またはその水素化物(iii)、 イソブチレンから形成される軟質共重合体または、イソブチレンと共役ジエンとから形成される軟質重合体(iv) よりなる群から選ばれる少なくとも1種のガラス転移温度(Tg)が-20℃以下である軟質重合体の架橋物」に訂正する。 〔訂正事項2-(2)〕 本件明細書第54頁第7行(本件特許公報第48欄第11行)の「(i)〜(v)」を「(i)〜(iv)」に訂正する。 〔訂正事項2-(3)〕 本件明細書第54頁第18行〜第56頁第18行(本件特許公報第48欄第21行〜第49欄第8行の「環状オレフィン成分単位を含む軟質重合体(i) 環状オレフィン成分単位を含む軟質重合体は、前記環状オレフィン系重合体の説明の際に示した環状オレフィン(式[I]、[II]あるいは[III]で表される環状オレフィン)と、エチレンと、α-オレフィンとを共重合させることにより調製することができる。α-オレフィンとしては、炭素原子数3〜20のα-オレフィンが好ましく使用される。本発明で使用されるα-オレフィンの好ましい例としては、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクデセンおよび1-エイコセンを挙げることができる。また、上記のα-オレフィンの他に、あるいはα-オレフィンと共に、ノルボルネン、エチリデンノルボルネンおよびジシクロペンタジエン等のような環状オレフィンあるいは環状ジエンも好ましく使用される。 環状オレフィン成分を含む軟質重合体(i)において、エチレンから誘導される繰り返し単位は40〜98モル%、好ましくは50〜90モル%の範囲内の量で含有されている。α-オレフィンから誘導される繰り返し単位は、2〜50モル%の範囲内の量で含有されており、さらに、環状オレフィンから誘導される繰り返し単位は、2〜20モル%、好ましくは2〜15モル%の範囲内の量で含有されている。 軟質重合体(i)は、前記環状オレフィン系重合体と相違して、ガラス転移温度(Tg)が、通常は0℃以下、好ましくは-10℃以下のものであり、また135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が、通常は0.01〜10dl/g、好ましくは0.08〜7dl/gである。軟質重合体(i)のX線回折法により測定した結晶化度は、通常は0〜10%、好ましくは0〜7%、特に好ましくは0〜5%の範囲内にある。 このような軟質重合体(i)は、特開昭60-168708号、同61-120816、同61-115912号、同61-115916号、同61-271308号、同61-272216号、同62-252406号等の公報に記載された本出願人の提案に従い、適宜に条件を選択して製造することができる。」なる記載を削除する。 〔訂正事項2-(4)〕 本件明細書第56頁第19行(本件特許公報第49欄第9行)の「(ii)」を「(i)」に訂正する。 〔訂正事項2-(5)〕 本件明細書第58頁第17行(本件特許公報第49欄第46行)及び本件明細書第58頁第19行(本件特許公報第49欄第48行)の「(iii)」を「(ii)」に訂正する。 〔訂正事項2-(6)〕 本件明細書第60頁第16行(本件特許公報第50欄第34行)の「(iv)」を「(iii)」に訂正する。 〔訂正事項2-(7)〕 本件明細書第61頁第20行(本件特許公報第51欄第6行)、本件明細書第62頁第2行(本件特許公報第51欄第8行)及び本件明細書第63頁第4行(本件特許公報第51欄第29行)の「(v)」を「(iv)」に訂正する。 〔訂正事項2-(8)〕 本件明細書第62頁第6行(本件特許公報第51欄第12行)の「(ii)〜(v)」を「(i)〜(iv)」に訂正する。 〔訂正事項2-(9)〕 本件明細書第62頁第7〜8行(本件特許公報第51欄第13〜14行)の「環状オレフィン共重合体(i)の特性とほぼ同様であり、」なる記載を削除する。 〔訂正事項2-(10)〕 本件明細書第62頁第11〜12行(本件特許公報第51欄第16〜17行)の「通常は0℃以下、好ましくは-10℃以下、特に好ましくは」なる記載を削除する。 〔訂正事項2-(11)〕 本件明細書第62頁第16〜17行(本件特許公報第51欄第21〜22行)の「そのまま使用することもできるし、」なる記載を削除する。 〔訂正事項2-(12)〕 本件明細書第73頁第15行(本件特許公報第55欄第24行)及び本件明細書第75頁第15行(本件特許公報第56欄第4行)の「実施例1」を「参考例1」に訂正する。 〔訂正事項2-(13)〕 本件明細書第75頁第14行(本件特許公報第56欄第3行)の「実施例2」を「実施例1」に訂正する。 〔訂正事項2-(14)〕 本件明細書第77頁(本件特許公報第56欄第14〜29行)の表1中の「実施例1」を「参考例1」に、「実施例2」を「実施例1」に、それぞれ訂正する。 〔訂正事項3〕 本件明細書第75頁第8〜10行(本件特許公報第55欄第36〜37行)及び本件明細書第76頁第1〜3行(本件特許公報第56欄第9〜10行)の「ペレットを実施例1の環状オレフィン系共重合体の代わりに使用し、実施例1と同様な方法で肉厚」なる記載を「ペレットを使用し、肉厚」に訂正する。 2.訂正の目的の適否 〔訂正事項1〕 訂正事項1は、請求項1において、(B)成分となる重合体の選択肢の1つである、エチレンと、エチレン以外のα-オレフィンと、上記式[I]で表される環状オレフィンとの共重合体であり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.01〜10dl/g、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である軟質環状オレフィン系共重合体(i)を削除し、(B)成分となる重合体のガラス転移温度を「0℃以下」から「-20℃以下」に限定し、さらに、(B)成分を軟質重合体の架橋物に限定するものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 〔訂正事項2-(1)〜(14)〕 訂正事項2-(1)〜(14)は、訂正事項1の訂正に伴い不明りょうとなる明細書の記載を明りょうにするものであるから、これらの訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 〔訂正事項3〕 訂正事項3は、明細書中の不明りょうな記載を明りょうにするものであるから、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 よって、本件訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書の規定に適合するものである。 3.新規事項の追加の存否 〔訂正事項1〕 訂正事項1による訂正後の請求項1に記載される事項は、訂正前の請求項1及び本件明細書第62頁第6〜20行(本件特許公報第51欄第12〜25行)に記載されていた事項である。 〔訂正事項2-1(1)〜(14)及び訂正事項3〕 訂正事項2-(1)〜(14)及び訂正事項3の訂正は、本件明細書に記載されていた事項の内容を明瞭にするだけのものであり、明細書中に新たな事項を追加するものではない。 よって、本件訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第2項の規定に適合するものである。 4.特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1、訂正事項2-(1)〜(14)及び訂正事項3の訂正は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、本件訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第3項の規定に適合するものである。 5.独立特許要件 後記のとおり、本件訂正後の請求項1に記載されている事項により構成される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 よって、本件訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 6.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、適法なものとして認める。 [3]特許異議の申立てについての判断 1.本件発明 本件特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成12年1月25日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 (A)次式[I]で表される環状オレフィンから誘導される開環重合体、開環共重合体、該重合体あるいは共重合体の水素添加物、および、次式[I]で表される環状オレフィンとエチレンとの付加重合体よりなる群から選ばれる、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.01〜10dl/g、軟化温度が70℃以上である少なくとも一種類の環状オレフィン系樹脂と、 (B)少なくとも2種のα-オレフィンから形成される、非晶性ないし低結晶性α-オレフィン系共重合体(i)、 少なくとも2種のα-オレフィンと、少なくとも1種の非共役ジエンとから形成される、α-オレフィン・ジエン系共重合体(ii)、 芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンランダムもしくはブロック共重合体またはその水素化物(iii)、 イソブチレンから形成される軟質共重合体または、イソブチレンと共役ジエンとから形成される軟質重合体(iv) よりなる群から選ばれる少なくとも1種のガラス転移温度(Tg)が-20℃以下である軟質重合体の架橋物 からなる樹脂組成物から形成されていることを特徴とするシートまたはフィルム。 ![]() 〔上記式[I]において、nは、0もしくは正の整数であり、R1〜R12はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子もしくは基を表し、 R9〜R12は、互いに結合して単環または多環の基を形成していてもよく、かつ該単環または多環の基が二重結合を有していてもよく、 また、R9とR10とで、またR11とR12とでアルキリデン基を形成していてもよい。〕 2.特許異議の申立ての理由の概要 (1)特許異議申立人出光石油化学株式会社の申立ての理由の概要 特許異議申立人出光石油化学株式会社は、甲第1号証(特開昭61-115916号公報)、甲第2号証(特開昭61-120816号公報)、甲第3号証(特開昭60-168708号公報)、甲第4号証(特開昭61-115912号公報)、甲第5号証(特開昭63-273655号公報)、甲第6号証(特許第2817261号公報)、参考資料1(三井石油化学株式会社が米国特許商標庁に提出した米国特許出願07/482256号についてのターミナルディスクレーマーに関する資料)、参考資料2(参考資料1の翻訳文)、参考資料3(米国特許第5,218,049号明細書)、参考資料4(米国特許第4,992,511号明細書)、参考資料5(「重合プロセス技術-ポリオレフィン」第104〜105頁、1994年7月20日大日本図書(株)発行)及び参考資料6(「高分子の物性II」第51頁、昭和34年2月5日共立出版株式会社発行)を提示し、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明であり、また、甲第1〜5号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第6号証に掲載の特願平1-253527号の請求項1に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものであり、さらに、本件明細書は特許法第36条に規定する要件を満たしていない旨主張する。 (2)特許異議申立人日本ゼオン株式会社の申立理由の概要 特許異議申立人日本ゼオン株式会社は、甲第1号証(特開昭50-90653号公報)、甲第2号証(特開昭61-115916号公報)、甲第3号証(西独特許出願公開第2,731,445号明細書)、甲第4号証(特開昭51-148771号公報)、甲第5号証(特開昭58-96623号公報)、甲第6号証(特開昭51-80400号公報)、甲第7号証(特開昭60-26024号公報)、甲第8号証(「ゴム工業便覧<第四版>」第57頁、第101〜116頁及び第175〜176頁)、甲第9号証(「化学大辞典」第813頁、東京化学同人発行)及び甲第10号証(「化学大辞典2」第626頁、共立出版株式会社発行)を提示し、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、また、甲第1、4〜7号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、さらに、本件明細書は特許法第36条に規定する要件を満たしていない旨主張する。 3.各証拠の記載事項 (1)特許異議申立人出光石油化学株式会社の提出した証拠の記載事項 (a)甲第1号証 甲第1号証には、 i)「(A)下記一般式(I)で示される多環式モノマー成分更に必要に応じてエチレンとからなる重合体であって、 ![]() (ここでR1〜R12は水素、アルキル基又はハロゲンであって各同一又は異なっていてもよく、またR9又はR10とR11又はR12とは互いに環を形成していてもよい。更にR9又はR10及びR11又はR12は水素であって残基が環を形成しないときは、R1〜R8のうち少なくとも1個は水素以外の基である。) (B)エチレン/多環式モノマー成分(モル比)が95/5〜0/100、 (C)多環式モノマー成分単位が主として下記一般式(II)で示す構造をとり、 ![]() (D)135℃、デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.005〜20dl/g、 で定義づけられる新重合体。」(特許請求の範囲第1項)が記載され、さらに、 ii)「新重合体の別の性質としてガラス転移温度及び軟化温度が高いことが挙げられる。・・・軟化温度が通常70〜200℃、多くが90〜180℃の範囲内に測定される。」(第3頁左下欄第20行〜右下欄第9行)、 iii)「本発明の新重合体の具体的な利用分野の一例を示すと、・・・フィルム、シート・・・など種々の分野に利用できる。」(第4頁左上欄第8行〜右上欄第10行)、 iv)「〔他の重合体とのブレンド〕 さらに本発明の新重合体は公知の種々の高分子量又は低分子量の重合体と配合して使用することも可能である。かかる重合体の例としては、 (イ)1個または2個の不飽和結合を有する炭化水素から誘導される重合体、 具体的には、ポリオレフィンたとえば架橋構造を有していてもよいポリエチレン、・・・ポリスチレン、 または前記の重合体を構造するモノマー同志の共重合体たとえばエチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体、プロピレン・イソブチレン共重合体、スチレン・イソブチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、エチレンおよびプロピレンとジエンたとえばヘキサジエン、・・・などとの3元共重合体、 あるいこれらの重合体のブレンド物、グラフト重合体、ブロック共重合など、」(第6頁右下欄第15行〜第7頁左上欄第15行)と記載されている。 (b)甲第2号証 甲第2号証には、 i)「(A)下記一般式(I)で示される多環モノマー成分、必要に応じてエチレンとからなる重合体であって、 ![]() (ここでR1〜R12は水素、アルキル基又はハロゲンであって各同一又は異なっていてもよく、またR9又はR10とR11又はR12とは互に環を形成していてもよい。更にnは2以上の正数であって、複数回繰り返されるR5〜R8は各同一又は異なっていてもよい。) (B)エチレン/多環式モノマー成分(モル比)が95/5〜0/100であり、 (C)多環式モノマー成分単位が主として下記一般式(II)で示す構造をとり、 ![]() (D)135℃、デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.005〜20dl/g、 で定義づけられる新規な重合体。」(特許請求の範囲第1項)が記載され、さらに、 ii)「重合体の別の性質としてガラス転移温度及び軟化温度が高いことが挙げられる。・・・軟化温度が通常70〜220℃、多くが90〜190℃の範囲内に測定される。」(第3頁左下欄第18行〜右下欄第7行)、 iii)「本発明の新重合体の具体的な利用分野の一例を示すと、・・・フィルム、シート・・・など種々の分野に利用できる。」(第4頁左上欄第5行〜右上欄第6行)、 iv)「〔他の重合体とのブレンド〕 さらに本発明の新重合体は公知の種々の高分子量又は低分子量の重合体と配合して使用することも可能である。かかる重合体の例としては、 (イ)1個または2個の不飽和結合を有する炭化水素から誘導される重合体、 具体的には、ポリオレフィンたとえば架橋構造を有していてもよいポリエチレン、・・・ポリスチレン、 または前記の重合体を構造するモノマー同志の共重合体たとえばエチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体、プロピレン・イソブチレン共重合体、スチレン・イソブチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、エチレンおよびプロピレンとジエンたとえばヘキサジエン、・・・などとの3元共重合体、 あるいこれらの重合体のブレンド物、グラフト重合体、ブロック共重合など、」(第6頁右下欄第15行〜第7頁左上欄第15行)と記載されている。 (c)甲第3号証 甲第3号証には、 i)「(A)エチレンと下記一般式(I)で示される1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン類(以下DMON類と略称する)とからなるランダム共重合体であって、 ![]() (ここでR1、R2は水素、アルキル基、ハロゲンであって、各同一または異なっていてもよい。) (B)エチレン/DMON類(モル比)が10/90ないし90/10、 (C)DMON類単位が主として下記一般式(II)で示される構造をとり、 ![]() (D)135℃、デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.5ないし10dl/g、 で定義づけられる新規ランダム共重合体。」(特許請求の範囲第1項)が記載され、さらに、 ii)「本発明の新規重合体が耐熱性に優れることは、ガラス転移温度が高いことからも裏付けられる。すなわちDMAによるガラス転移温度が通常80ないし220℃、多くのものが100ないし200℃の範囲内に測定される。」(第3頁左下欄第10〜14行)、 iii)「さらに本発明の新規共重合体は公知の種々の重合体と配合して使用することも可能である。かかる重合体の例としては、 (イ)1個または2個の不飽和結合を有する炭化水素から誘導される重合体、 具体的には、ポリオレフィンたとえば架橋構造を有していてもよいポリエチレン、・・・ポリスチレン、 または前記の重合体を構成するモノマー同志の共重合体たとえばエチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体、プロピレン・イソブチレン共重合体、スチレン・イソブチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、エチレンおよびプロピレンとジエンたとえばヘキサジエン、・・・などとの3元共重合体、 あるいこれらの重合体のブレンド物、グラフト重合体、ブロック共重合体など、」(第6頁左上欄第20行〜右上欄第19行)と記載され、さらに、 iv)実施例において、1mm又は2mm厚さのプレス成形シートを作成したことが記載されている(第9頁左上欄第10〜14行)。 (d)甲第4号証 甲第4号証には、 i)「(A)下記式(I)で示される1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン類(以下DMON類と略称する)及びエチレン及び炭素原子数3以上のα-オレフィン及び/又はシクロオレフィンとからなるランダム多元共重合体であって、 ![]() (ここでR1、R2は水素、アルキル基、ハロゲンであって、各同一または異なっていてもよい。) (B)エチレン/DMON類(モル比)が95/5〜5/95、 (C)〔炭素原子数3以上のα-オレフィン及び/又はシクロオレフィン〕/DMON類(モル比)が95/5〜20/80、 (D)DMON類単位が主として下記一般式(II)で示される構造をとり、 ![]() (E)135℃、デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.005〜20dl/g、 で定義づけられる新規ランダム多元供重合体。」(特許請求の範囲第1項)が記載され、さらに、 ii)「新規ランダム多元共重合体の別の性質としてガラス転移温度及び軟化温度が高いことが挙げられる。・・・軟化温度が通常70〜180℃、多くが90〜180℃の範囲内に測定される。」(第5頁左上欄第14行〜右上欄第3行)、 iii)「本発明の新規ランダム多元共重合体は、・・・フィルム、シート・・・など種々の分野に利用できる。」(第5頁左下欄第12行〜右下欄第13行)、 iv)「さらに本発明の新規ランダム多元共重合体は公知の種々の重合体と配合して使用することも可能である。かかる重合体の例としては、 (イ)1個または2個の不飽和結合を有する炭化水素から誘導される重合体、 具体的には、ポリオレフィンたとえば架橋構造を有していてもよいポリエチレン、・・・ポリスチレン、 または前記の重合体を構成するモノマー同志の共重合体たとえばエチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体、プロピレン・イソブチレン共重合体、スチレン・イソブチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、エチレンおよびプロピレンとジエンたとえばヘキサジエン、・・・などとの3元共重合体、 あるいこれらの重合体のブレンド物、グラフト重合体、ブロック共重合体など、」(第8頁右上欄第15行〜左下欄第14行)と記載されている。 (e)甲第5号証 甲第5号証には、 i)「(A)エチレン成分および下記一般式〔I〕または〔II〕で表される環状オレフィン成分からなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.05ないし10dl/gの範囲にあり、軟化温度(TMA)が70℃以上である環状オレフィン系ランダム共重合体、および (B)エチレン成分および下記一般式〔I〕または〔II〕で表される環状オレフィン成分からなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.01ないし5dl/gの範囲にあり、軟化温度(TMA)が70℃未満である環状オレフィン系ランダム共重合体、 から形成され、下記(A)成分/(B)成分の重量比が100/0.1ないし100/10の範囲にあることを特徴とする環状オレフィン系ランダム共重合体組成物。 一般式 ![]() 〔式中、nおよびmはいずれも0もしくは正の整数であり、lは3以上の正数であり、R1ないしR10はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基を示す〕。」(特許請求の範囲第1項)が記載され、さらに、 ii)「本発明の組成物を構成する環状オレフィン系ランダム共重合体〔A〕および〔B〕は、いずれもエチレン成分および前記環状オレフィン成分を必須成分とするものであるが、該必須の二成分の他に本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。任意に共重合されていてもよい該不飽和単量体として具体的には、・・・プロピレン、・・・などの炭素原子数が3ないし20のα-オレフィンなどを例示することができる。」(第9頁左上欄第1〜15行)、 iii)「該環状オレフィン系ランダム共重合体〔B〕のガラス転移温度(Tg)は-30ないし60℃、好ましくは-20ないし50℃の範囲にある。」(第9頁右下欄第14〜16行)、 iv)「本発明の環状オレフィン系ランダム共重合体組成物から常法に従って情報記録用基板が成形され、・・・される。 本発明の情報記録基板には、従来から知られているあらゆるタイプの情報記録用基板の構造に適用することができ、具体的には光学ディスク・・・光テープ・・・などの構造を採用することができる。」(第10頁右下欄第17行〜第11頁左上欄第6行)と記載されている。 (f)甲第6号証 甲第6号証には、 i)「【請求項1】〔A〕エチレン成分と、下記一般式〔I〕で表わされる環状オレフィン成分とからなり、軟化温度(TMA)が70℃以上である環状オレフィン系ランダム共重合体、 〔B〕(i)エチレン成分と、他のα-オレフィン成分と、下記一般式〔I〕で表わされる環状オレフィン成分とからなり、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である環状オレフィン系ランダム共重合体、 (ii)少なくとも2種のα-オレフィンから形成され、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の非晶性ないし低結晶性のα-オレフィン系重合体、 (iii)少なくとも2種のα-オレフィンと、少なくとも1種の非共役ジエンとから形成され、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下のα-オレフィン・ジエン系共重合体、および (iv)0℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンランダムもしくはブロック共重合体、またはその水素化物からなる群から選択される少なくとも1種以上の軟質共重合体、ならびに 〔C〕有機過酸化物 の反応生成物からなり、 反応生成物の〔A〕ないし〔C〕原料の割合が、〔A〕原料100重量部に対して〔B〕原料が合計量として5〜150重量部、〔A〕原料と〔B〕原料との合計量100重量部に対して〔C〕原料が0.01〜1重量部であることを特徴とする架橋された耐衝撃性環状オレフィン系樹脂組成物。 一般式 ![]() 〔式中、R1〜R12は水素原子、炭化水素基またはハロゲン原子であって、それぞれ同一でも異なっていてもよい。またR9とR10、またはR11とR12とは一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R9またはR10とR11またはR12とは互いに環を形成してもよい。nは0または正の整数であって、R5〜R8が複数回繰り返される場合には、これらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。〕」(特許請求の範囲請求項1)が記載され、さらに、 ii)「本発明の架橋された耐衝撃性環状オレフィン系樹脂組成物の用途としては、・・・フィルム、シート・・・など種々の分野に利用できる。」(第42欄第10〜15行)と記載されている。 (g)参考資料1及び2 参考資料1及び2には、出願番号07/482,256の米国特許出願と米国特許第4,992,511号との間の重複特許を回避するためのターミナルディスクレーマーについて記載されている。 (h)参考資料3及び4 参考資料3は、本件特許出願の基礎出願である特願平1-38454号を第一国出願として米国にされた特許出願の明細書の内容を掲載したものであり、その記載内容は、本件明細書の記載内容と概ね同じである。また、参考資料4は、甲第6号証に掲載された特願平1-253527号の基礎出願である特願昭63-246559号を第一国出願として米国にされた特許出願の明細書の内容を掲載したものであり、その記載内容は、甲第6号証の記載内容と概ね同じである。 (i)参考資料5 参考資料5には、プロピレンとエチレンの共重合体のガラス転移点が-18℃(エチレン4モル%)及び-20℃(エチレン7モル%)であることが記載されている。 (j)参考資料6 参考資料6には、ポリエチレン、ポリプロピレン等の高分子のガラス転移温度が記載されている。 (2)特許異議申立人日本ゼオン株式会社の提出した証拠の記載事項 (a)甲第1号証 甲第1号証には、 i)「少なくとも一個のエステル基もしくはエステル基を含む置換基を有するノルボルネン誘導体または該ノルボルネン誘導体を主成分とし、これと環状オレフィン系化合物を開環重合することにより得られる重合体100重量部と1〜50重量部のゴム状物とからなる耐衝撃性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)が記載され、さらに、 ii)「エステル系ノルボルネン誘導体と共重合し得る環状オレフィン系化合物の代表例としては、・・・ビシクロ〔2.2.1〕-ヘプテン(ノルボルネン)が挙げられる。」(第6頁左上欄第3行〜左下欄第15行)、 iii)「以上の方法により製造されるエステル系ノルボルネン誘導体の開環共重合体に配合されるゴム状物は・・・であり、その代表例として、・・・ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、・・・エチレン-プロピレン共重合ゴム(EPR)およびエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム(EPDM)・・・があげられる。」(第6頁右下欄第17行〜第7頁右上欄第6行)、 iv)「上記組成物または配合物は・・・フィルム状、シート状・・・の形状に成形することができる。」(第7頁右下欄第15〜20行)と記載されている。 (b)甲第2号証 特許異議申立人日本ゼオン株式会社が提出した甲第2号証は、同出光石油化学株式会社が提出した甲第1号証と同じであり、上記3.(1)(a)で指摘したとおりの事項が記載されている。 (c)甲第3号証 甲第3号証には、ノルボルネン・エチレン・コポリマーとエラストマーを含有する混合物が記載され、エラストマー成分として、ブタジエン・スチレン・コポリマー等が記載され、さらに、該混合物をフィルムに成形することが記載されている(特許請求の範囲第1項、第5項、実施例8、12、13)。 (d)甲第4号証 甲第4号証には、少なくとも一つのシアノ基若しくはシアノ基を含有する置換基を有するノルボルネン誘導体少なくとも50モル%とこれと共重合可能な他の不飽和環状化合物との開環共重合体の成形物をメッキする方法が記載され、他の不飽和環状化合物としてビシクロ〔2,2,1〕-ヘプテン-2(ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプテン-2,5,6-ジメチル-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプテン-2,1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレンなどが記載され、さらに、該成形物にはSBR(スチレン-ブタジエンゴム)を含有することができる旨記載されている(特許請求の範囲、第3頁左下欄第2行〜第4頁右上欄第16行、同頁左下欄第20行〜右下欄第3行)。 (e)甲第5号証 甲第5号証には、ノルボルネン基を含有する単量体を分散剤の存在下に開環重合することが記載され、該分散剤の例としてエチレン、プロピレン及びジシクロペンタジエンのターポリマー並びにスチレン及びブタジエンのブロック共重合体が記載されている(特許請求の範囲第1項、第7項、第7頁左上欄第18行〜第8頁左上欄第11行)。 (f)甲第6号証 甲第6号証には、 i)「ジシクロペンタジエン開環重合物に含まれるオレフィン系不飽和基の一部または全部を水素化触媒を用いて水素により水素化することにより、熱溶融加工性に優れたジシクロペンタジエン開環重合物の水素化物を得ることを特徴とする新規高分子物質の製造方法。」(特許請求の範囲)が記載され、さらに、 ii)該方法により得られたジシクロペンタジエン開環重合物の水素化物をシートに成形できる旨記載されている(第3頁左上欄第13〜18行)。 (g)甲第7号証 甲第7号証には、 i)「テトラシクロドデセン又はその誘導体単位100〜50モル%とノルボルネン又はその誘導体単位0〜50モル%からなる開環重合体を水素添加反応させて得られた重合体を構成成分とすることを特徴とする光学材料。」(特許請求の範囲)が記載され、さらに、 ii)「本発明における水添物は、・・・が好ましい。 このようにして得られる水素添加重合体は透明性、耐湿性、耐光劣化性及び耐熱劣化性に優れ・・・た樹脂である。」(第2頁右下欄第15〜20行)、 iii)「本発明の水添物に、・・・これと相溶する他の重合体を混合して使用することも可能である。」(第3頁左上欄第2〜6行)、 iv)「本発明の水添物を光学材料として成形する方法としては、・・・が挙げられる。 得られた成形品はコンパクトディスク、・・・等の光学式記録材料の他に・・・にも用いることができる。」(第3頁左上欄第7〜15行)と記載されている。 (h)甲第8号証 甲第8号証には、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)は、ポリスチレンのガラス転移温度Tg(S)付近及びポリブタジエンのガラス転移温度Tg(B)付近で軟化し、弾性率が低下する旨の記載(第57頁左欄下から第14〜4行、同頁右欄図6-15)、熱可塑性エラストマー(TPE)の架橋に関する記載(第107頁左欄第6〜36行)並びに乳化SBR及び溶液SBRのガラス転移温度(Tg)が、それぞれ、-54℃及び-70℃以下であり、汎用ゴムのガラス転移温度(Tg)は大体-50℃以下である旨の記載(第175頁表1-1、第176頁第5行)がある。 (i)甲第9、10号証 甲第9、10号証には、それぞれ、「固有粘度」及び「還元粘度」についての説明がなされている。 4.対比・判断 (1)特許異議申立人出光石油化学株式会社の申立てについて (a)特許法第29条第1項第3号に係る主張について 本件発明と甲第1〜5号証それぞれに記載の発明を対比すると、両者は、本件請求項1に記載の式[I]で表される環状オレフィンとエチレンとの付加重合体である環状オレフィン系樹脂に他の重合体を混合してなる樹脂組成物から形成されるシート又はフィルムである点において一致し、該環状オレフィン系樹脂の極限粘度及び軟化温度の点でも両者は一致ないし重複する。しかしながら、甲第1〜5号証には、環状オレフィン系樹脂に混合する他の重合体として、本件請求項1の(B)(i)〜(iv)に規定される軟質重合体の架橋物(以下「本件発明の架橋物」という。)について記載されていない点において、両発明は相違する。 したがって、本件発明が甲第1〜5号証に記載された発明であるということはできない。 よって、特許異議申立人出光石油化学株式会社の特許法第29条第1項第3号に係る主張は採用できない。 (b)特許法第29条第2項に係る主張について 上記のとおり、本件発明1と甲第1〜5号証に記載の発明とは、甲第1〜5号証には本件発明の架橋物について記載されていない点において相違する。 そこで、かかる相違点が当業者に容易に想到し得るものであるかについて検討するに、まず、甲第1〜4号証には、環状オレフィン系樹脂にポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの架橋重合体を配合することについては一応示唆されているが、いずれの証拠においても、架橋物についての言及はオレフィンのホモポリマーであるポリオレフィンに限られており、このことからみて、甲第1〜4号証には、ポリオレフィン以外の重合体について架橋物を用いることは示唆されていないというべきである。したがって、甲第1〜4号証の記載から上記相違点を容易に想到し得るとはいえない。また、甲第5号証並びに参考資料5及び6には、重合体の架橋物を環状オレフィン系重合体に配合することについて記載も示唆もない。さらに、甲第6号証及び参考資料1〜4は、いずれも、本件特許の出願前に頒布された刊行物ではないから、上記相違点の判断においてその記載内容を参酌することはできない。したがって、これらの証拠の記載から上記相違点を容易に想到し得るということもできない。 よって、特許異議申立人出光石油化学株式会社の特許法第29条第2項に係る主張は採用できない。 (c)特許法第39条第1項に係る主張について 本件発明と甲第6号証の請求項1に記載の発明を対比すると、両者は、本件請求項1に記載の式[I]で表される環状オレフィンとエチレンとの付加重合体である環状オレフィン系樹脂と軟質共重合体の架橋物の混合物である樹脂組成物を構成要件とする点においては一致し、該環状オレフィン系樹脂の極限粘度及び軟化温度の点でも一致ないし重複し、さらに、該軟質共重合体の種類も重複する。しかしながら、本件発明は該樹脂組成物から形成される「シート」又は「フィルム」の発明であるのに対し、甲第6号証の請求項1に記載の発明は「樹脂組成物」自体の発明であり、両者は明らかに別発明というべきものである。 よって、特許異議申立人出光石油化学株式会社の特許法第39条第1項に係る主張は採用できない。 (d)特許法第36条に係る主張について 特許異議申立人出光石油化学株式会社は、本件明細書の発明の詳細な説明には、環状オレフィン系樹脂として、エチレンとのランダム付加共重合体しか具体的に記載されていないから、本件発明のうち、環状オレフィン系樹脂として、開環重合体、開環共重合体又は該開環重合体若しくは該開環共重合体の水素添加物(以下「開環重合体等」という。)を用いるものは、当業者が容易に実施をすることができる程度に、その目的、構成及び効果が記載されていないと主張する。しかし、本件請求項1に記載の式〔I〕で表される環状オレフィンから誘導される開環重合体等は、本件出願前より当業者によく知られた化合物であるから、当業者ならば、本件明細書の記載をみて、該開環重合体等を製造し、(B)成分とともに樹脂組成物とし、これをシート又はフィルムに成形することを容易になし得ると認められる。また、実施例等の具体的実験結果が記載されていないことのみをもって、開環重合体等を用いた場合に所定の効果が奏せられないということはできない。さらに、特許異議申立人出光石油化学株式会社は、本件明細書には、(B)成分の重合体が架橋物であることによる特有の効果が示されていないから、当業者が容易に実施をすることができる程度に、本件発明の構成が記載されていないと主張するが、本件明細書の実施例1(本件訂正前の実施例2)には、(B)成分として架橋物を含む樹脂組成物を用いて所定の引張強度、引裂強度を有するフィルムが得られたことが示されているから、この主張は到底採用できない。 以上のとおりであるから、特許異議申立人出光石油化学株式会社の特許法第36条に係る主張はいずれも採用できない。 (2)特許異議申立人日本ゼオン株式会社の申立てについて (a)特許法第29条第1項第3号に係る主張について 本件発明と甲第1又は3号証に記載の発明を対比すると、両者は、本件請求項1に記載の式〔I〕で表される環状オレフィンの開環重合体に他の重合体を混合してなる樹脂組成物から形成されるシート又はフィルムである点において一致するものの、甲第1又は3号証には本件発明の架橋物について記載されていない点において相違する。したがって、本件発明は甲第1又は3号証に記載された発明ではない。また、甲第4及び5号証にも本件発明の架橋物について記載されていないから、本件発明は甲第4又は5号証に記載された発明ではない。また、本件発明が甲第2号証に記載された発明でないことは、上記4.(1)(a)に示したとおりである。 よって、特許異議申立人日本ゼオン株式会社の特許法第29条第1項第3号に係る主張は採用できない。 (b)特許法第29条第2項に係る主張について 上記のとおり、本件発明1と甲第1〜5号証に記載の発明は、甲第1〜5号証には本件発明の架橋物について記載されていない点において、少なくとも相違する。そこでまず、かかる相違点が当業者に容易に想到し得るものであるかについて検討するに、甲第1、3〜5号証には、重合体の架橋物についての記載がないから、これらの証拠から上記相違点を容易に想到し得るとはいえない。また、甲第2号証には、ポリオレフィン(オレフィンのホモポリマー)の架橋物について一応示唆されているが、これが上記相違点に係る事項を示唆するものでないことは、上記4.(1)(b)に示したとおりである。また、甲第6、7号証には、環状オレフィンの開環重合体の水素添加物が記載されるのみであり、該水素添加物に軟質重合体の架橋物を配合することについては記載も示唆もない。さらに、甲第8〜10号証には、環状オレフィン系樹脂の組成物に関する事項が全く記載されていない。してみると、上記相違点は、甲第1〜10号証のいずれの証拠からも容易に想到し得るものではない。 以上のとおりであるから、本件発明と甲第1〜5号証に記載の発明とのその余の相違点について検討するまでもなく、特許異議申立人日本ゼオン株式会社の特許法第29条第2項に係る主張は採用できない。 (c)特許法第36条に係る主張について 特許異議申立人日本ゼオン株式会社は、本件明細書が特許法第36条に規定する要件を満たしていないとの主張の具体的理由として、概略以下(イ)〜(ホ)のとおり主張する。 (イ)本件発明の(B)成分には、芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンのブロック共重合体及びその水素化物が含まれるが、本件明細書にはそのガラス転移温度を測定する方法が開示されていないから、本件発明の(B)成分に該当する芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンブロック共重合体及びその水素化物を選択することができない。 (ロ)本件発明の(A)成分である環状オレフィンとエチレンとの付加重合体と環状オレフィンの開環重合体等とは、分子構造が異なり、同じ性質を有することが予測できないものであるにもかかわらず、本件明細書には、開環重合体等を用いた場合の実験データが示されていない。 (ハ)本件請求項1には、「フィルム」及び「シート」の厚みを規定する記載がないから、同項の記載は不明りょうである。 (ニ)本件請求項1には、(B)成分の配合量が記載されておらず、(B)成分を微量配合しただけでは本願発明の効果が奏せられないことは明らかであるから、同項には、本件明細書記載の効果を奏しない発明が含まれている。 (ホ)本件請求項1に記載の「軟質」とは相対的な性質であるから、その比較対照が示されない以上、本件発明における「軟質重合体」の内容が理解できない。 そこで、上記主張について検討する。 主張(イ)について 本件明細書には、ガラス転移温度の測定をSEIKO電子工業(株)製DSC-20を用いて昇温速度10℃/分で測定したことが記載されており(本件特許公報第54欄第43〜45行)、この記載からみて、芳香族ビニル系炭化水素・共役ジエンのブロック共重合体及びその水素化物についても、他の軟質共重合体と同様に、そのガラス転移温度を容易に測定することができるものと認められる。また、本件請求項1の記載からみて、前記ブロック共重合体及びその水素化物に2個のガラス転移温度が存在する場合、少なくともその低い方が-20℃以下であるものが本件発明の(B)成分に該当すると解され、したがって、軟質重合体に2つガラス転移温度が存在する場合であっても、本件発明の(B)成分に該当するものを選択するのが困難であるとはいえない。 したがって、主張(イ)は採用できない。 主張(ロ)について 上記4.(1)(d)でも述べたとおり、開環重合体等を製造し、(B)成分とともに樹脂組成物とし、これをシート又はフィルムに成形することは当業者が容易になし得ることであり、また、具体的な実験データが示されていないことのみをもって、開環重合体等を用いた場合に所定の効果が奏せられないということはできない。 したがって、主張(ロ)は採用できない。 主張(ハ)について 「フィルム」及び「シート」は、当業者に周知の形状であり、特にその厚みが規定されていなくとも、本件発明の内容が不明りょうになることはない。 したがって、主張(ハ)は採用できない。 主張(ニ)について 本件発明において、(B)成分の配合量が本件発明の目的を達成するに十分な量であることは自明のことであるから、配合量が明記されていないからといって、本件請求項1に所定の効果を奏し得ない発明が含まれているということにはならない。 したがって、主張(ニ)は採用できない。 主張(ホ)について 本件請求項1の「軟質」なる記載は、(B)(i)〜(iv)に記載のモノマー成分から得られる重合体が有する性質を明記したものとみるべきであり、したがって、軟質か否かの比較対象が格別明記されていなくとも、本件発明の内容が不明りょうになることはない。 したがって、主張(ホ)は採用できない。 よって、特許異議申立人日本ゼオン株式会社の特許法第36条に係る主張はいずれも採用できない。 [4]むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人出光石油化学株式会社及び日本ゼオン株式会社の特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-05-17 |
出願番号 | 特願平2-18396 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L) P 1 651・ 531- YA (C08L) P 1 651・ 534- YA (C08L) P 1 651・ 4- YA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 杉原 進、藤本 保 |
特許庁審判長 |
柿崎 良男 |
特許庁審判官 |
石井 あき子 關 政立 |
登録日 | 1998-11-13 |
登録番号 | 特許第2851891号(P2851891) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | 環状オレフィン系重合体からなるシートまたはフィルム |
代理人 | 渡辺 喜平 |
代理人 | 牧村 浩次 |
代理人 | 鈴木 俊一郎 |
代理人 | 江森 健二 |