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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特39条先願 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L |
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管理番号 | 1023907 |
異議申立番号 | 異議1999-73673 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-09-17 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-09-30 |
確定日 | 2000-05-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2876616号「投影露光装置」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2876616号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第2876616号は、平成1年3月7日に特許出願され、平成11年1月22日にその特許の設定登録がなされ、その後、異議申立人キャノン株式会社から特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月15日に訂正請求がなされたものである。 1.1 異議申立ての概要 異議申立人キャノン株式会社は、甲第1号証(特開昭61-20919号公報)、甲第2号証(特開昭61-224082号公報)、甲第3号証(特開昭63-42122号公報)、甲第4号証(Developments in Semiconductor Microlithography IV Vol.174 第50頁左欄第19行〜第22行)、甲第5号証(Optical/Laser Microlithography Vol.922 第294頁第28行〜第29行)及び甲第6号証(特願昭63-320616号(特許第2679195号公報))を提出し、本件請求項1〜7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明とそれぞれ同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件請求項1〜7に係る発明は、甲第1号証〜甲第5号証に記載された各発明に基いて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第6号証に記載された発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許を取り消すべき旨主張している。 1.2 異議申立人キャノン株式会社が提出した甲第1〜6号証の記載内容 1.2.1 甲第1号証の記載内容 甲第1号証には、 甲第1号証の第1頁右欄下段19行〜2頁左欄上段5行には、「本発明は投影露光装置によってI C、LSI等の集積回路を製造するときの投影レンズに関し、…光源を用いて集積回路のパターンをシリコンウエハー等に焼付けるときに有効な投影レンズに関するものである。」と記載されている。 第2頁右欄上段5行〜8行には、「本発明は150nm〜400nm程度の範囲内での比較的狭い発光スペクトル分布を有する光源を用いた投影露光装置における高性能な投影レンズを提供する」と記載されている。 第2頁左欄下段15行〜17行には、「本発明は・・・良好に収差補正を行った投影レンズを達成している」と記載され、また、図面には、球面収差を持つ投影レンズの数値実施例が示されている。 第3図には、比較的大きな球面収差を持つ投影レンズの数値実施例が明示されている。 第2頁右欄下段11行〜15行には、「第1-2レンズ群を…L122で構成することにより…コマ収差とハロー収差を補正し高解像力化を図っている。」と記載されており 第3頁左欄上段10行〜17行には、「…第3レンズ群を…L31,と…L32…L33・L34で構成することにより…コマ収差と…合わせてバランス良く補正している。」と記載されている。 1.2.2 甲第2号証の記載内容 甲第2号証には、光学的走査あるいは読取りの分野の光学装置において、光学レンズに球面収差を持たせることによって焦点深度を増大させるようにすることが、つぎのように記載されている。 第3頁左欄上段11行〜同頁右欄上段1行には、「この要素の好ましい形状は、3つの表面を有していて、そのうちの2つは第1の協働表面対を形成し、偏位された発散光源からの光の合成・再分布を行ない、プローブのための所定の作業距離に対応する上記協働表面対の全焦点範囲において検出器の量が均一の強さを持つように露光ビームを形成する。このことは、バー符号が作業距離内のどこで読取られても最小の信号強度を保証する。これを進行するために、上記協働表面対の一方の表面は過修正球面収差をもつ形状に形成される。」と記載されている。 また、5頁左欄上段10行〜16行には、「表面20は、意図的に過修正球面収差を呈し、あらわし、深度に関して所望の一定の照明レベルが得られ、この特性が好ましくは約0〜38cm(0〜15インチ)の距離内でバー符号12がどこにおかれていても一定の信号強度を出すことができるような形状に選択される。」と記載されている。 1.2.3 甲第3号証の記載内容 甲第3号証には、投影露光装置において、多焦点レンズにより球面収差相当の収差を得ることによって焦点深度を増大させるようにすることが、つぎのように記載されている。 第2頁右欄上段2行〜同頁左欄下段7行には、「近年の半導体集積回路の高集積化に件伴い、パターンの微細化と基板表面の凹凸段差が著るしく増大し、それらへの対応が要求されている。パターン形成に投影露光法を用いる場合、凹凸段差の増大に対応するためには、露光光学系としてはより大きな焦点深度が必要となる。しかし、解像度を向上させるには投影レンズの開口数を大きくする必要があるため、焦点深度は逆に浅くなっている。…本発明の…目的は、レンズの開口数が大きくなっても、光学系の実質的な焦点深度の低下を防止し、段差の上部と下部に、結像不良を生ずることなしに良好な微細パターンを形成することのできるパターン形成方法を提供することである。」と記載されている。 第2頁左欄下段9行〜13行には、「発明者の検討によれば、露光光学系の実効的焦点深度は、同一光軸上で異なる結像点を有する複数の光を重ね合せることによって実効的に深くすることができ、段差の上下にわたって結像させることが可能になる」と記載されている。 また、第4頁左欄上段5行〜15行には、「…さらに、結像面位置の設定法については基板をのせるステージを光軸方向に移動させるだけでなく、…多焦点レンズを用いる・・・等、様々な方法を用いることができる。」と記載されている。 1.2.4 甲第4号証の記載内容 甲第4号証の第50頁左欄19行〜22行に、マスクに照射される照明光を感光基板上に投射する投影光学系を備えた投影露光装置において、照明光の状態を考りょすることにより60%以上の像コントラストによって露光する旨記載されている。 1.2.5 甲第5号証の記載内容 甲第5号証には、第294頁28行〜29行に、単層のレジストを用いる場合等においては80%の像コントラストによって露光する旨記載されている。 1.2.6 甲第6号証の記載内容 2.訂正の適否について 本件訂正請求は、本件特許第2876616号の明細書(以下、「特許明細書」という。)を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、訂正しようとするものである。 2.1 訂正事項 2.1.1 訂正事項a 特許明細書の請求項2,3及び6を削除する。 2.1.2 訂正事項b 特許明細書の請求項1の、「球面収差を持つとともに、」を、「球面収差が積極的に与えられるとともに、その球面収差によってほぼ無収差に設計して得られる像コントラストよりもその像コントラストが下げられ、かつ」と訂正する。 2.1.3 訂正事項c 特許明細書の請求項4を請求項2と訂正する。2.1.4 訂正事項d 特許明細書の請求項4中の「請求項1又は3」を、「請求項1」と訂正する。 2.1.5 訂正事項e 特許明細書の請求項5を請求項3と訂正する。 2.1.6 訂正事項f 特許明細書の請求項5中の「請求項1〜4」を、「請求項1または2」と訂正する。 2.1.7 訂正事項g 特許明細書の請求項7を、請求項4と訂正する。 2.1.8 訂正事項h 特許明細書の請求項7中の「請求項5又は6」を、「請求項3」と訂正する。 2.2 訂正後の特許請求の範囲 2.2.1 請求項1 「マスクに照射される照明光を感光基板上に投射する投影光学系を備えた投影露光装置であって、前記投影光学系は、球面収差が積極的に与えられるとともに、その球面収差によってほぼ無収差に設計して得られる像コントラストよりもその像コントラストが下げられ、かつ前記球面収差のもとで、前記ほぼ無収差に設計して得られる像コントラストに対してほぼ60%以上の像コントラストが得られるように設計されていることを特徴とする投影露光装置。」 2.2.2 請求項2 「前記投影光学系は、前記ほぼ無収差に設計して得られる像コントラストに対してほぼ60%〜80%の像コントラストを持つことを特徴とする請求項1に記載の投影露光装置。」 2.2.3 請求項3 「前記投影光学系は、前記球面収差を発生させることによって生じ得る非対称な収差が補正されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の投影露光装置。」 2.2.4 請求項4 「前記収差は非点収差、又はコマ収差であることを特徴とする請求項3に記載の投影露光装置。」 3. 訂正の適否 3.1 目的該当性等について 3.1.1 訂正事項a 上記訂正事項aについては、請求項2,3及び6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたる。 そして、上記訂正事項aは、特許明細書又は図面に直接的に記載されたものであるし、また、訂正前の各発明の目的の範囲内のものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。 3.1.2 訂正事項b 上記訂正事項bについては、訂正前の請求項1に記載された「球面収差を持つとともに、」を、下位概念である「球面収差が積極的に与えられるとともに、その球面収差によってほぼ無収差に設計して得られる像コントラストよりもその像コントラストが下げられ、かつ」とするものであるから、上記訂正事項bについては、特許請求の範囲の減縮にあたる。 そして、上記訂正事項bは、特許明細書又は図面に直接的に記載されたものであるし、また、訂正前の各発明の目的の範囲内のものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。 3.1.3 訂正事項c〜h 上記訂正事項c〜hについては、訂正前の請求項2,3及び6の削除に伴う、明りようでない記載の釈明に相当するものである。また、この訂正事項c〜hは、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 3.2.独立特許要件について 異議申立人キャノン株式会社が提出した甲第1〜6号証いずれにも、本件請求項1〜4に係る発明の特徴である、「投影光学系は、球面収差が積極的に与えられるとともに、その球面収差によってほぼ無収差に設計して得られる像コントラストよりもその像コントラストが下げられ、かつ前記球面収差のもとで、前記ほぼ無収差に設計して得られる像コントラストに対してほぼ60%以上の像コントラストが得られるように設計されている」構成(以下、「本件請求項1〜4に係る発明の特徴的構成」という。)を有しておらず、また上記特徴的構成の示唆もない。 そして、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明は、上記特徴的構成により、特許明細書詳細な説明[発明の効果]に記載のごとく「本発明によれば、コントラストを低下させても焦点深度が増大するので、IC製造上、焦点深度が増大する効果がある。また、同一のN.Aをもち、照明系のσ値・・・を一定にした投影レンズに比較して、焦点深度が増大するので、多重焦点露光方法のように同一点で複数回の露光を繰り返し、スループットの低下を生じることもない。」という、上記甲1〜5号証いずれにもない効果を有しているので、本件請求項1〜4に係る発明が、上記甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとすることができない。 付言すると、甲第1号証に記載された発明は、球面収差を利用するものではなく、従って、甲第1号証に記載された発明をもってして、本件請求項1〜4に係る発明は、当業者が容易に発明できたとする動機付けとすることはできない。 また、甲第2号証に記載された発明は、光学的走査あるいは読取りの分野の光学装置において、光学レンズに球面収差を持たせることによって焦点深度を増大させる技術の開示に留まり、本件特許の技術分野である、「マスクに照射される照明光を感光基板上に投射する投影光学系を備えた投影露光」における焦点深度(当該焦点深度は、甲第2号証に記載された発明における焦点深度の程度とは著しく異なると認められる。)とコントラストを考慮することは、当業者が容易に想到し得たとすることができない。従って、甲第2号証に記載された発明をもってして、本件請求項1〜4に係る発明は、当業者が容易に発明できたとする動機付けとすることはできない。 甲第3号証は、本件特許明細書記載の従来技術にすぎない。 甲第4、5号証は、コントラストについて記載されているが、球面収差を利用することについて記載がなく、甲第4,5号証に記載された発明をもってして、本件請求項1〜4に係る発明は、当業者が容易に発明できたとする動機付けとすることはできない。 また、甲第6号証記載の発明は、本件請求項1〜4に係る発明の特徴的構成を有していないから、本件請求項1〜4に係る発明が、甲第6号証に記載された発明と同一であるとすることもできない。 そうすると、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとすることができない。 3.3 訂正の適否の判断 上記訂正事項a〜hは、上記3.1及び3.2のとおりであるから、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、改正前の特許法第126条第1項ただし書、同条第2項及び同条第3項の規定に適合する。 従って、当該請求を認める。 4.特許異議申立てについての判断 4.1 本件請求項1〜4に係る発明の要旨 上記2.2.1〜2.2.4に記載のとおり。 4.2 異議申立ての理由の概要 上記1.1に記載のとおり。 4.2.1 本件請求項1〜4に係る発明と甲各号証との対比、判断 独立特許要件を判断した上記3.2のとおりであるから、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第6号証に記載された各発明と同一であるとも、また、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証〜甲第5号証に記載された各発明に基いて容易に発明できたものであるとすることもできない。 5.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 投影露光装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 マスクに照射される照明光を感光基板上に投射する投影光学系を備えた投影露光装置であって、 前記投影光学系は、球面収差が積極的に与えられるとともに、その球面収差によってほぼ無収差に設計して得られる像コントラストよりもその像コントラストが下げられ、かつ前記球面収差のもとで、前記ほぼ無収差に設計して得られる像コントラストに対してほぼ60%以上の像コントラストが得られるように設計されていることを特徴とする投影露光装置。 【請求項2】 前記投影光学系は、前記ほぼ無収差に設計して得られる像コントラストに対してほぼ60%〜80%の像コントラストを持つことを特徴とする請求項1に記載の投影露光装置。 【請求項3】 前記投影光学系は、前記球面収差を発生させることによって生じ得る非対称な収差が補正されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の投影露光装置。 【請求項4】 前記収差は非点収差、又はコマ収差であることを特徴とする請求項3に記載の投影露光装置。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、半導体素子や液晶素子等を製造するために、マスクに形成された原画パターンを感応基板上に投影露光する装置に関するものである。 〔従来の技術〕 半導体素子の製造においては年々微細化と高集積化が進み、1Mbitメモリ、4Mbitメモリと増々線幅の細いリソグラフィ工程が要求されてきている。 この要求に答えるべく、現在リソグラフィ工程で使われる露光装置は、縮小投影型露光装置(ステッパー)が主流である。特に原画パターンを有するレチクルを1/5縮小投影レンズで15×15mm角程度に縮小してウェハ上のレジスト層に露光する方法が多用されている。 このステッパーの投影レンズは年々、解像力を上げるために高開口数(N.A.)化され、露光用照明光の波長が436nm(g線)のとき、N.A.=0.48程度のものが実用化されている。 このように投影レンズの開口数を大きくすることは、それに応じて実効的な焦点深度が小さくなることを意味し、N.A.=0.48にした投影レンズの焦点深度は、例えば±0.8μm以下である。すなわち、ウェハ上の1つのショット領域を15×15mm角とすると、この領域全体の表面(レジスト層)が、投影レンズの最良結像面に対して±0.8μm以内(望ましくは±0.2μm以内)に正確に位置決めされなければならない。 そこで投影レンズの焦点深度の不足に対応するために、投影レンズに対してウェハを光軸方向に変位させつつ、同一レチクルのパターンを多重露光する方法が提案されている。 この方法は、投影レンズのみかけ上の焦点深度を増大させることになり、1つの有効な露光方法である。 〔発明が解決しようとする問題点〕 この多重焦点露光方法は、ベストフォーカスのコントラストは若干低下させるものの、広い焦点範囲に渡ってコントラストを保証しようとするものである。この方法は実験等の結果から、レチクルのパターン面がほとんど暗部(遮へい部)であり、その中に矩形の開口部(透過部)が散在するような、所謂コンタクトホール工程用のパターンに対しては有効であるが、その他のパターン、特に明暗の直線状のパターンが繰返されるような配線層等のレチクルパターンに対してはコンタクトホルの場合ほどには有効でないのが現状である。 さらに、多重焦点露光方法の最も大きな問題点は、ショット露光中(1つの露光領域に対して最適な露光量が与え終るまでの間)に、ウェハを正確に上下動させる必要があることから、スループットが極端に低下することである。 本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、より微細なパターンを投影光学系の開口数の極端な増大、照明光の極端な短波長化を計ることなく転写可能にすることを第1の目的とする。 さらに本発明は、コンタクトホール以外のほとんどのパターンに対しても、多重焦点露光法と同等に見かけ上の焦点深度を広げた効果が十分に得られ、かつスループットが高くなるような装置を得ることを第2の目的とする。 〔問題点を解決する為の手段〕 本発明では、マスク(又はレチクル)のパターンのウェハ上に投影露光するための投影光学系に、予め設計された球面収差特性をもたせるようにした。球面収差は、従来の装置では単に極力小さくするように設計されていた。 本発明では、球面収差量をウェハ上の感光層に露光された像のコントラストを考慮し、このコントラスラストを極端に悪化させない範囲で球面収差をもたせるように設計した。 〔作用〕 球面収差を残した投影光学系は、像コントラストの点で若干劣るものの、見かけ上の焦点深度を拡大させることができる。 従来、球面収差を残すことは、像質上のコントラスト低下を招くために極力さけられてきた。しかしながら、高N.A.化された投影光学系が実用的に使える段階になってくると、焦点深度に関する問題がクローズアップされてきた。 この焦点深度に対する要求は、ウェハ上の1つのショット領域表面のわずかな傾斜、うねり、又は凹凸の程度と、焦点深度とが接近してきたことにも原因がある。 〔実施例〕 第3図は本発明の実施例に好適な投影型露光装置(ステッパー)の構成を示す斜視図である。このステッパーの基本構成は、例えば特開昭62-145730号公報に開示されたものと同様であるので、以下簡単に説明する。 露光用光源2からの照明光は、レチクルブラインド(照明視野絞り)等を有する照明光学系4を通り、レチクルステージ6上の1枚のレチクルを照明する。レチクルステージ6には、ここでは4枚のレチクルR1、R2、R3、R4が同時に載置可能で、x、y方向に2次元移動する。これレチクルステージ6には、位置計測用のレーザ干渉計10からのレーザビームを反射する移動鏡8x、8yが互いに直角に固定されている。レチクルアライメント系12はレチクルのアライメントマーク(レチクルマーク)を検出するとともに、ウェハW上のアライメントマーク(ウェハマーク)も検出可能に設けられる。このため、アライメント系12は4枚のうちの1枚のレチクルを装置に対して位置決めする場合、あるいはレチクルマークとウェハマークを同時に検出してダイ・バイ・ダイアライメントする場合の両方に利用できる。尚、第3図ではアライメント系12は1ヶ所にしか設けられていないが、各レチクル上の複数ヶ所にマークが設けられる場合、又はウェハ上のショット領域の複数ヶ所にマークが設けられる場合アライメント系12はそれらマークの位置に対応して複数ヶ所に配置されている。レチクルマーク、又はウェハマークの光電検出は、マーク検出系14によって行なわれる。 さて、レチクルのパターン領域の像は投影レンズ系16を介してウェハW上予め形成されたチップ領域CPに結像投影される。ウェハWはx、y方向に移動するウェハステージ26上に載置されるが、このウェハステージはy方向に移動するYステージ26y、Yステージ26y上をx方向に移動するXステージ26x、Xステージ26x上で投影光軸方向(Z方向)に微動するZステージ26zで構成される。Zステージ26z上には、レーザ干渉計30x、30yからのレーザビームを反射する移動鏡28x、28yが互いに直角に固定されている。またZステージ26zには、ウェハWとほぼ同じ高さになるように基準マークFMが固定されている。Xステージ26x、Yステージ26yの各軸方向の駆動はモータ27x、27yで行なわれる。ここで投影レンズ系16には、結像補正機構18が組み込まれ、露光光の入射によるエネルギー蓄積状態、環境条件等によって変動する投影レンズ系16の光学特性(倍率、焦点、ある種のディストーション等)を時々刻々自動的に補正している。この結像補正機構18は、例えば特開昭60-78454号公報に詳しく開示されているので、ここでは説明を省略する。また、このステッパーには、レチクルステージ6の下方から投影レンズ系16のみを介してウェハW上のマークを検出するアライメント光学系20と、このアライメント光学系20で検出されたマーク光情報を光電検出するマーク検出系22とで構成されたTTL(スルーザレンズ)方式のアライメント系と、投影レンズ系16の直近に別設されたオフ・アクシス方式のアライメント系24とを備えている。 また第3図には示していないが、特開昭60-78454号公報に開示されているのと同様に、ウェハWの表面の高さ位置を高分解能で検出する斜入射光式フォーカスセンサーが設けられ、Zステージ26zとともに、投影レンズ系の最良結像面とウェハ表面とを常に合致させる自動焦点合わせ機構として動作する。 ここで第3図の構成における照明光学系4と投影レンズ系16との光学的な関係及びレチクル上の代表的なパターンの結像の様子を第4図を用いて説明する。照明光学系4は、投影レンズ系16の瞳EP内に2次光源像(面光源)を投射するように構成され、所謂ケーラー照明法が採用される。瞳EPの大きさに対して、面光源像はわずかに小さくなるように設定されている。ライン・アンド・スペース(L/S)状のパターンPaを有するレチクルRの1点に着目してみると、この点に到達する照明光ILには、ある立体角θr/2が存在する。この立体角θr/2はパターンPaを透過した後も保存され、0次光の光束Da0として投影レンズ系16に入射する。この照明光ILの立体角θr/2は、照明光の開口数とも呼ばれている。また投影レンズ系16が両側テレセントリック系であるものとすると、レチクルR側とウェハW側の夫々で、瞳EPの中心(光軸AXが通る点)を通る主光線l1は光軸AXと平行になる。こうして瞳EPを通った光束はウェハW側で結像光束ILmとなってウェハW上の1点に結像する。この場合、投影レンズ系16の縮小倍率が1/5であると、光束ILmの立体角θw/2はθw=5・θrの関係になる。立体角θw/2はウェハW上での結像光束の開口数とも呼ばれている。また投影レンズ系16単体でのウェハ側の開口数は、瞳EPいっぱいに光束を通したときの光束ILmの立体角で定義される。 さて、パターンPaがL/S状であるために、0次光Da0以外にも1次以上の高次回折光Da1、Da2、……が発生する。これらの高次光には、0次光束Da0の外側に広がって発生するものと、0次光束Da0の内側に分布して発生するものとがある。特に0次光束Da0の外側に分布する高次光の一部は、例え投影レンズ系16に入射したとしても瞳EPでけられることになり、ウェハWへは達しない。従って、より多くの高次回折光を結像に利用するとなると、瞳EPの径をできるだけ大きくすること、すなわち投影レンズ系16の開口数(N.A.)をさらに大きくしなければならない。あるいは、照明系ILの開口数(立体角θr/2)を小さくすること(面光源像の径を小さくすること)で、パターンPaからの高次光Da1、Da2等の広がり角を小さく押えることも可能である。ただしこの場合、ウェハW側での0次の結像光束ILmの開口数(立体角θw/2)を極端に小さくしてしまうと、本来の解像性能を損うことになる。さらに元来、パターンPaのピッチやデューティによって高次光の回折角は一義的に決まってしまうので、仮に照明光ILの立体角θr/2を零に近づけることが可能だとしても、高次回折光のうちのある次数以上は瞳EPでけられることになる。もちろん立体角θr/2が零に近いと、パターンの結像そのものが困難となる。 ところで、第3図においては4枚のレチクルR1〜R4が同一のレチクルステージ6上に載置され、そのうち任意の1枚のレチクルの中心が投影レンズ系16の光軸AX上に位置するように交換可能である。この交換時の各レチクル位置決め精度は、レーザ干渉計10を用いているため、極めて高精度(例えば±0.02μm)にできる。このため、4枚のレチクルR1〜R4の相互の位置関係を予め精密に計測しておけば、レーザ干渉計10の座標計測値のみに基づいてレチクルステージ6を移動させることで各レチクルを位置決めできる。また各レチクルR1〜R4の相互位置関係を予め計測しない場合であっても、各レチクル毎にアライメント系12、マーク検出系14、基準マークFM等を用いて精密に位置決めすることができる。 尚、Zステージ26zを露光動作中に上下動させる多焦点露光法の代りに、結像補正機構18を用いて、投影レンズ系16そのものの最良結像画(レチクル共役面)を上下動させることも考えられる。この場合、特開昭60-78454号公報に開示されているように、結像補正機構18は投影レンズ系16内の密封されたレンズ空間内の気体圧力を調整する方式であるので、本来の補正のための圧力調整値に、結像面を±0.5μm程度上下動させるためのオフセット圧力値を露光動作中に加えればよい。この際、圧力オフセットによって焦点面のみを変動させ、倍率やディストーション等は変動させないようなレンズ空間の組み合わせを選定する必要がある。 さらに、投影レンズ系16が両側テレセントリックであるときには、レチクルを上下動させることで、同様に最良結像面の高さ位置を変化させることもできる。一般に縮小投影の場合、像側(ウェハ側)での焦点ずれ量は、物体側(レチクル側)の焦点ずれ量に換算すると、縮小倍率の2乗で決まってくる。このため、ウェハ側で±0.5μmの焦点ずれが必要なとき、縮小倍率を1/5とすると、レチクル側では±0.5/(1/5)2=±12.5μmとなる。 本実施例では、以上のように、結像面そのものを光軸方向に上下動させる方式の代りに、投影レンズ系16に積極的に球面収差を与えるようにし、実用上の焦点深度を拡大させるようにした。このため露光動作中に付随的に行なわれる多重焦点制御のための機械的な駆動等をほとんど不要とした露光方式が採用できる。 次に本発明の実施例を具体的に説明するが、ここでは多重焦点露光法のようにウェハ面と最良結像面を相対的に光軸方向に移動させる必要がない程度、もしくは移動させてもその量が少なくて済む程度に、投影レンズそのものの焦点深度を広げる例を説明する。 第1図は投影レンズの瞳EPよりもウェハ側の部分を模式的に表わしたものであり、複数枚のレンズ素子は1つのレンズ系Gで代表してある。 投影レンズの光軸AXが所定の像面IPと垂直であるものとすると、像面IP内で光軸AXから離れた点に結像する光束は、全て瞳EP(開口絞り面)の中心を通る主光線La、Lbに沿って進む。主光線La、Lbはテレセントリック系であることから、像面IP上では光軸AXと平行である。像面IP内の1点に結像する光束の開口数(N.A.)は瞳EPの有効径で制限されるが、瞳EP内で最も外側を通る光線をl1、瞳EP内で光線l1よりも内側を通る光線l2としたとき、光線l1による結像点(像面IP)と光線l2による結像点との光軸方向の偏差ΔZhが球面収差である。従来の投影レンズでは、この球面収差が無視できる程度に小さく押えられていた。本実施例では、この球面収差をある程度発生させるようにレンズ設計を行なう。 この際、主光線La、Lbに関して対称な光線l1による結像点と、光線l2による結像点とは、必らず主光線La、Lb上にできるように補正する。すなわち、像面上で非対称となる非点収差、コマ収差は発生させないように設計しておく。 ここで光線l1、l2は、瞳EPの中心(主光線La、Lbと光軸AXが交わる点)からの距離hで定義できる。そこで像面内の1点における球面収差ΔZhを距離hをパラメータとして表わすと、第2図のような収差特性になる。特性CV1は一般的な球面収差特性を示し、特性CV2は他の形状を示す。特性CV1になるか、特性CV2になるかは収差の補正の方法によって決まり、一義的には決まらない。 この第2図の特性CV1、CV2で、収差の幅ΔZ1、ΔZ2が、像面上の各点における球面収差量と呼ばれるものである。本実施例では従来の投影レンズよりも、この幅ΔZ1、又はΔZ2を大きくすることで焦点深度の増大を計るようにした。この幅ΔZ1、又はΔZ2は、露光すべきパターンの線幅、ラインアンドスペースパターンのピッチ、及びベストフォーカス点でのコントラスト特性等によって最適値を決める必要がある。このような球面収差をもたせる場合、無収差レンズに比較してコントラスト特性は低下するが、実用上、特定のL/Sパターンでのコントラスト特性はほぼ無収差の投影レンズの60%程度までに低下させても良好な露光が可能であり、従ってコントラスト特性は多少悪化するものの、その代りに広い焦点深度を確保することができる。 ここで像コントラストとは、例えば第4図に示したL/S状のパターンPaを適正露光量及びベストフォーカス位置(ウェハ表面が第1図中の△Zhの真中に位置した状態)で、ウェハW上のレジスト層に焼き付けた後、そのパターン像を現像したときに得られるレジストパターン上でのライン幅とスペース幅との比と考えてよい。通常レチクル上に形成するパターンPaはライン幅とスペース幅とが1対1であるため、レジストパターン上でのライン幅Dlとスペース幅Dsとを計測装置等で計測し、その比、Ds/Dl〔又はDl/(Dl+Ds)、Ds/(Dl+Ds)を求めればよい。 一方、ある開口数(N.A.)で設計される投影レンズについては、球面収差が最も少なく、かつコントラストも大きくなるように設計し、このような無収差のもとで、レジスト層の特性も考慮して焼き付け後の像(レジスト)コントラスト(理想的なコントラスト)をシミュレーション等で求める。そのシミュレーションの後、理想的なコントラストを60〜80%程度に低下させるまで球面収差のみを増していく再シミュレーションを行なう。 以上、本実施例によれば、第4図のようにL/S状のパターンPaを想定して考えた。このことを第1図に対応してみてみると、第4図中に示した高次回折光Da1、Da2等は、投影レンズ系16の瞳EP面において、瞳中心から離れた領域を通ることになる。従って、瞳中心部分に集中して通る0次光Da0の結像点と、0次光Da0の外側に広がる高次回折光Da1、Da2等の結像点とは、球面収差量ΔZhの分だけ光軸AX方向にずれることになる。 このため、パターンPaからの結像光束は、ウェハW上において、より高次の回折光(瞳EPの周辺を通る光)によって見かけ上の焦点深度を拡大されていると考えてもよい。もちろん、瞳EP内の0次光Da0のサイズ(2次光源像の大きさ)が大きければ、0次光Da0による結像光束のみでも見かけ上の焦点深度の拡大に寄与する。 〔発明の効果〕 以上の様に本発明によれば、コントラストを低下させても焦点深度が増大するので、IC製造上、焦点深度が増大する効果がある。 また、同一のN.A.をもち、照明系のσ値(瞳EP内での2次光源面の割合)を一定にした投影レンズに比較して、深度が増大するので、多重焦点露光方法のように同一点で複数回の露光をくり返し、スループットの低下を生じることもない。 【図面の簡単な説明】 第1図は本発明の実施例における原理を説明する図、第2図は球面収差特性の一例を示すグラフ、第3図は本発明の実施例が適用される縮小投影露光装置の構成を示す斜視図、第4図はレチクル上のパターンの結像の様子を模式的に示す図である。 〔主要部分の符号の説明〕 4……照明系、G,16……投影レンズ系、R,R1,R2,R3,R4,……レチクルPa……ラインアンドスペース状パターン、W……ウェハ、EP……瞳、ΔZh……球面収差量 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 訂正事項a、bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項c〜hは、訂正事項aに伴う、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項a 特許明細書の請求項2,3及び6を削除する。 訂正事項b 特許明細書の請求項1の、「球面収差を持つとともに、」を、「球面収差が積極的に与えられるとともに、その球面収差によってほぼ無収差に設計して得られる像コントラストよりもその像コントラストが下げられ、かつ」と訂正する。 訂正事項c 特許明細書の請求項4を請求項2と訂正する。 訂正事項d 特許明細書の請求項4中の「請求項1又は3」を、「請求項1」と訂正する。 訂正事項e 特許明細書の請求項5を請求項3と訂正する。 訂正事項f 特許明細書の請求項5中の「請求項1〜4」を、「請求項1または2」と訂正する。 訂正事項g 特許明細書の請求項7を、請求項4と訂正する。 訂正事項h 特許明細書の請求項7中の「請求項5又は6」を、「請求項3」と訂正する。 |
異議決定日 | 2000-04-20 |
出願番号 | 特願平1-54471 |
審決分類 |
P
1
651・
4-
YA
(H01L)
P 1 651・ 113- YA (H01L) P 1 651・ 121- YA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 國島 明弘 |
特許庁審判長 |
高橋 美実 |
特許庁審判官 |
辻 徹二 森 正幸 |
登録日 | 1999-01-22 |
登録番号 | 特許第2876616号(P2876616) |
権利者 | 株式会社ニコン |
発明の名称 | 投影露光装置 |
代理人 | 渡辺 隆男 |
代理人 | 渡辺 隆男 |
代理人 | 長尾 達也 |