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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1024096
異議申立番号 異議1999-73567  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-22 
確定日 2000-05-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2872912号「ポイントメークアップ化粧料の選択方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2872912号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第2872912号発明は、平成6年8月9日に出願され、平成11年1月8日に特許され、その後申立人尾島浩敬より特許異議の申し立てがなされ、取消理由通知がなされ、その意見書提出期間内の平成12年4月4日に訂正請求がなされたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
[訂正事項a]
請求項1に記載された「ポイントメークアップ化粧料使用者の顔の肌とポイントメークアップ化粧料を測色し、両者の明度差を指標としてポイントメークアップ化粧料を選択することを特徴とするポイントメークアップ化粧料の選択方法。」を、「リップカラー使用者の顔の肌とリップカラーをマンセル色座標を表色系として測色し、両者の明度の差のみを指標としてリップカラーを選択することを特徴とするリップカラーの選択方法。」と訂正する。
[訂正事項b]
請求項2に記載された「測色して得られたポイントメークアップ化粧料の色の明度が使用者の肌色の明度よりも低いポイントメークアップ化粧料を選択すること特徴とする請求項1記載のポイントメークアップ化粧料の選択方法。」を「測色して得られたリップカラーの色の明度が使用者の肌色の明度よりも低いリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。」と訂正する。
[訂正事項c]
請求項3に記載された「前記測色が、マンセル色座標を表色系として用いて行われ、これにより得られたポイントメークアップ化粧料の色の明度値からポイントメークアップ化粧料使用者の顔の肌色の明度値を引いた値(明度差)が-1以下であるポイントメークアップ化粧料を選択することを特徴とする請求項1又は2記載のポイントメークアップ化粧料の選択方法。」を「測色して得られたリップカラーの色の明度値からリップカラー使用者の顔の肌色の明度値を引いた値(明度差)が-1以下であるリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。」と訂正する。
[訂正事項d]
請求項4を削除する。
(2)訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1に記載された「ポイントメークアップ化粧料」を「リップカラー」に限定し、「測色し」を「マンセル色座標を表色系として測色し」に限定し、選択のための指標を「明度の差のみ」に限定するもので、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
また、リップカラーは訂正前の請求項4に記載されていたものであり、マンセル色座標を表色系とする測色は、特許明細書【0010】等に記載されており、色相及び彩度の差を指標とせずに、明度の差のみを指標とすることは、特許明細書【0029】に記載されているから、この訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
訂正事項bは、請求項2に記載された「ポイントメークアップ化粧料」を「リップカラー」に限定し、「選択すること特徴とする」を「選択することを特徴とする」と訂正するものであり、前者は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、後者は誤記の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
訂正事項cは、請求項3に記載された「ポイントメークアップ化粧料」を「リップカラー」に限定するとともに、請求項1に従属する請求項3の記載を訂正後の請求項1の記載と整合をとるために訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
訂正事項dは、特許請求の範囲の請求項を削除するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(3)独立特許要件の判断
29条2項違反について
訂正後の請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】リップカラー使用者の顔の肌とリップカラーをマンセル色座標を表色系として測色し、両者の明度の差のみを指標としてリップカラーを選択することを特徴とするリップカラーの選択方法。
【請求項2】測色して得られたリップカラーの色の明度が使用者の肌色の明度よりも低いリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。
【請求項3】測色して得られたリップカラーの色の明度値からリップカラー使用者の顔の肌色の明度値を引いた値(明度差)が-1以下であるリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。
(引用刊行物)
当審が通知した取消理由で引用した刊行物は下記のとおりであり、以下に摘記する事項が記載されている。

引用刊行物1 光井武夫編「新化粧品学」(株式会社南山堂)1993年1月12日発行 71〜82頁
引用刊行物2 「25ans(ヴァンサンカン)別冊 How to Makeup 」婦人画報社 1984年発行 40〜45頁
引用刊行物3 「non・no」(1989年11月20日号)集英社発行 215頁
引用刊行物4 「Makeup Magazine #7」1990年10月1日(株)学習研究社発行36〜37頁
引用刊行物5 特開平6-114013号公報

[引用刊行物1]
(ア)「色見本によらず,いずれの製品形態でも同一の色彩・同一配色をえることの必要性も高まり,色の数値による記録や色の系統的分類法が重要となっている。」(74頁「3-1-5.色の表わし方」)
(イ)「マンセル表色系」(75〜76頁)について記載され、図3-5には、横軸を彩度縦軸を明度とするマンセル色票が記載されている。
(ウ)「色は単色それぞれに感情をもつことを述べたが,2色以上を配した場合、その組み合わせによって種々の感情を表わしたり、それを強めたりする。これは実際のメーキャップのコーデネイションを考えるうえで重要なことである。」「三要素のうち、明度の対比および色相の対比のウエイトが高く、彩度の対比はこれらに比べて低い。」(78頁「3)配色感情」)。
(エ)「ファンデーションの色と化粧肌色」に関し、「市販ファンデーションの色調分布図」(80頁図3-7)が記載され、横軸を色相、縦軸を明度とする分布図及び横軸を彩度、縦軸を明度とする分布図が記載されている。
(オ)「市販口紅の色調はおよそ色相で10PR〜5YR,明度2〜6,彩度3.5〜17の範囲である.」(82頁2行
[引用刊行物2]
(ア)「肌色と口紅、その相性はほとんど宿命的なのですゾ 色白はピンクorオレンジ
白い肌は、基本的には何色でも似合うシアワセな肌。でも色白を生かすのなら明るめの色がよいの。ピンクでもオレンジでも。赤ならピンク系の鮮やかな色が白肌にパット光るワ。」(43頁左上欄)
(イ)「黒い肌には、暗っぽい赤
黒い肌にパールピンクが似合うというのは危ない考えですゾ。肌より明度の低い色じゃないとだめ。赤でもなるべく暗めの色が(特)オススメです。肌のキタナク見える色は避けてネ。」(43頁左中段)
[引用刊行物3]
「間違って選んでいない? あなたの肌色に似合って、自然に見える、口紅の色
口紅の色選びって、本当にむずかしい! 見た目がきれいと思ったり、色が好きでも、つけてみたら似合わない、なんて経験あるでしょ。自分にナチュラルに似合う色を知っておくことが大切です。この似合う色って、じつは肌色と大きなかかわりがあります。
色白の人は似合う色が多いのですが、明るめの色のほうがより似合います。色白の人の中でも、肌色がピンクっぽい人はピンク系がピッタリ。ローズ系や鮮やかなチェリーピンクもお似合い。ダークブラウンは禁物。イエローっぽい人は、オレンジ系やサーモンピンクがマッチします。タブーはプラム。
黄色みのある人はオークル系の肌は幅が広いのですが、中間色でいうなら、少し濁りのあるオレンジ系が最適。濃いめのベージュ系もナチュラルに仕上がります。色黒の人はローズ系のダークな色がおすすめ。濁りのある色のほうが自然な感じに似合います。白っぽいピンク系などは浮いて見えるので避けたほうが無難。上の表を参考にしてネ。
似合わなくても、どうしても使いたい、という色がある場合は、服やアクセサリーなどと同色でコーディネートすることが似合って見せるコツです。」(215頁上段、表参照)
[引用刊行物4]
(ア)「WHITE
色白の肌に最も映える赤。深みのある色を選ぶ。
白い肌に最も映える色が赤。より肌を白く見せ、また、口紅の赤の美しさも充分に発揮されるのです。明度の高い赤でも、明度の低い赤、いわゆる深みのある赤でも、どちらでも似合うのですが、より色の白さを強調するならば深みのある赤を選びます。明るい赤をつけたときに、少し気にかかるのが、肌の黄色みを強調して見せてしまうことなのだけれど、くすんだ赤であれば、そんな心配は皆無。その上肌がキメ細かに見えてきます。」(36頁上段)
(イ)「BRONZE
あえて明るいトーンの赤で肌を引き立たせる。
肌なじみのよさという点で考えれば、日焼けした肌、いわゆるトーンの落ちた色には同様にトーンの落ちた色が合います。」(第37頁上段)
[引用刊行物5]「肌色評価システム」であって、ファンデーションの選択に供するために被測定者の肌の赤色度a*、黄色度b*、明度L*を測定し、赤色度をX軸、黄色度をY軸、明度をZ軸にとって三次元的に位置決めし、被測定者の肌色を評価するシステムが記載されている。
(対比・判断)
本件請求項1に係る発明と、引用刊行物1〜5に記載されたものとを対比すると、各引用刊行物には、リップカラーの選択に際して、使用者の肌色とリップカラーのマンセル表色系における明度の差のみを指標とすることを開示ないし示唆する記載はない。
すなわち、引用刊行物1は、化粧品の色彩の表色系としてマンセル表色系が記載され、マンセル表色系の明度について記載されているが、使用者の肌色とリップカラーのマンセル表色系における明度の差のみを指標としてリップカラーを選択することを開示ないし示唆する記載はない。
また、引用刊行物5には、L*a*b*色差表色系を用いて明度、赤色度、黄色度による3次元座標で肌色を評価することが記載されているが、使用者の肌色とリップカラーのマンセル表色系における明度の差のみを指標としてリップカラーを選択することを開示ないし示唆する記載はない。
さらに、引用刊行物2〜4については、肌色に応じてリップカラーを選択することが記載され、「肌より明度の低い色じゃないとだめ。赤でもなるべく暗めの色が(特)オススメです。」(引用刊行物2)、「色白の人は似合う色が多いのですが、明るめの色のほうがより似合います。」「黄色みのある人はオークル系の肌は幅が広いのですが、中間色でいうなら、少し濁りのあるオレンジ系が最適。濃いめのベージュ系もナチュラルに仕上がります。色黒の人はローズ系のダークな色がおすすめ。」(引用刊行物3)、「明度の高い赤でも、明度の低い赤、いわゆる深みのある赤でも、どちらでも似合うのですが、より色の白さを強調するならば深みのある赤を選びます。」(引用刊行物4)と記載され、肌色に応じてリップカラーを選択することが記載されているが、「色白はピンクorオレンジ」「肌のキタナク見える色は避けてネ」(引用刊行物2)、「肌色がピンクっぽい人はピンク系がピッタリ。」(引用刊行物3)「イエローっぽい人は、オレンジ系やサーモンピンクがマッチします。」「色白の肌に最も映える赤。深みのある色を選ぶ。」(引用刊行物4)等の記載を併せ考えると、ここでの「明度」「明るい」等の表現は、マンセル表色系のような色彩の精密な表現方法における三属性(色相・明度・彩度)の一つである明度を意味するものでなく、色相ないし彩度を含めて考えられた明度ないし明るさを意味するものであると認められる。したがって、マンセル表色系における明度の差のみを指標とすることを開示ないし示唆するものではない。
そして、本件請求項1に係る発明は、従来リップカラーを選択する際、「多数の色見本の中から特定の試用する色を選び出す作業自体も非常に困難」(特許明細書【0004】)であるという問題にたいして、「使用者の顔の肌色に調和した色を簡易的、且つ客観的に選択することができる」(同【0046】)という作用効果を奏することが認められる。
したがって、本件請求項1に係る発明は、当業者が引用刊行物1〜5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
請求項2、3に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであり、請求項1に係る発明について述べた理由と同じ理由で、当業者が引用刊行物1〜5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
36条違反について
(ア)各請求項に係る発明のリップカラー以外のポイントメークアップ化粧料については、発明の詳細な説明に記載されたものではないとする点。
各請求項に記載された「ポイントメークアップ化粧料」は「リップカラー」に訂正された。
(イ)パネラーによる評価結果から、明度差がリップカラーの選択の指標になることは導き出せないから、発明の詳細な説明の記載には不備があるとする点。
本件発明は、従来、リップカラーを選択する際、多数の色見本の中から特定の試用する色を選び出す作業が非常に困難であるという問題があったところ、この問題点を解決するために、使用者の顔の肌色に調和した色、すなわち、他人が似合っていると判断する可能性の高い色のリップカラーを、簡易的且つ客観的に選択することができるようにしたものと認められる。
したがって、図3に記載される例では、明度差が-1以下のもの(12例)の中、評点の低いもの(3.0未満、ちなみに、5が「よく似合う」、1が「全く似合わない」で、3は「どちらでもない」である(【0014】)。)は2例(リップカラー名:13A,948)であり(表2参照)、図7に記載される例では、明度差が-1以下のもの(12例)の中、評点の低いもの(3.0未満)は、3例(リップカラー名:65E,25E,948)であり(表6参照)、、図3の例では12例中2例、図7の例では12例中3例が例外的なものとなっているとしても、図4〜図6に記載された例では例外的なものはより少ないこと、実験における誤差及び本件特許発明の上記目的を考慮すれば、この結果は許容される範囲のものと認められ(かえって、このような例外がないとするのも不自然である。)、発明の詳細な説明においては、明度差が指標となり得るものであることが説明されていると認められる。
また、請求項3において、明度差の下限が示されていない点については、リップカラーの候補となる色には自ずから限度があることを考慮すれば、発明を不明確にするものとはいえない。
以上のように、訂正後の本件特許の明細書の記載は、特許法36条4項及び5項に規定する要件に違反するものではない。
したがって、訂正後の請求項1〜3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(むすび)
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4第3項において準用する改正前の特許法126条1項ただし書、2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 特許異議の申立てについての判断
本件請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲請求項1〜3により特定されるものである。
申立人は、甲第1〜5号証(上記引用刊行物1〜5に同じ。)を提出して、本件請求項1〜3に係る発明は、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、各請求項に係る発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、また、特許法36条4項又は5項に規定された要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取消すべきである旨主張している。
しかしながら、上記2(3)で述べた理由と同じ理由により、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、訂正明細書は特許法36条4項又は5項に規定する要件をみたしているものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポイントメークアップ化粧料の選択方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 リップカラー使用者の顔の肌とリップカラーをマンセル色座標を表色系として測色し、両者の明度の差のみを指標としてリップカラーを選択することを特徴とするリップカラーの選択方法。
【請求項2】 測色して得られたリップカラーの色の明度が使用者の肌色の明度よりも低いリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。
【請求項3】 測色して得られたリップカラーの色の明度値からリップカラー使用者の顔の肌色の明度値を引いた値(明度差)が-1以下であるリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はポイントメークアップ化粧料の選択方法に関し、詳しくは、顔の肌色に調和するポイントメークアップ化粧料の選択方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リップカラー等のポイントメークアップ化粧料は顔にアクセントをつけ、その人のイメージを形成させるのに重要な役割を担ったメークアップ化粧料である。それ故、ポイントメークアップ化粧料の色の種類は非常に多種にわたっているし、肌色からはるかに離れた色のポイントメークアップ化粧料も少なくない。このため、使用者に合った、すなわち、使用者の肌色に調和した色のポイントメークアップ化粧料を選択することは大変困難であった。
【0003】
一方、色の調和については、MoonとSpencerの色の調和と不調和の理論が知られているが、肌色とポイントメークアップ化粧料の色の関係をこの理論に基づいて評価すると、どの様な肌色に対しても全てのポイントメークアップ化粧料が調和するという結果になってしまうことから、ポイントメークアップ化粧料の選択基準としてこの理論を用いることはできない。
【0004】
この様な状況を反映して、ポイントメークアップ化粧料を選択する際には、各色のポイントメークアップ化粧料を少量づつ充填した色見本の中から、使用者がいくつかの色を試用して、最終的に使用するポイントメークアップ化粧料を選択する方法が広く行われている。しかしながら、この様な選択方法における選択基準は、使用者自身の好みあるいは判断であって、他人がどの様に感じるかは知ることができないし、また、多数の色見本の中から特定の試用する色を選び出す作業自体も非常に困難を極めているという点が問題であった。
【0005】
この他に、ポイントメークアップ化粧料の選択方法としてメークアップシミュレーターを用いたデモストレーションを用いる方法もあるが、この方法は装置が大がかりで高価であるので汎用的とはとても言えない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記観点から為されたものであって、使用者の顔の肌色に調和した色のポイントメークアップ化粧料を、簡易的、且つ客観的に選択する方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、顔の肌の色とポイントメークアップ化粧料の色の調和と不調和の関係について鋭意研究を重ねた結果、この二者の明度差が調和と不調和に深く係わっていることを見出し本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、ポイントメークアップ化粧料使用者の顔の肌とポイントメークアップ化粧料を測色し、両者の明度差を指標としてポイントメークアップ化粧料を選択することを特徴とするポイントメークアップ化粧料の選択方法である。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポイントメークアップ化粧料の選択方法によれば、使用者の顔の肌色とポイントメークアップ化粧料の色の明度差を指標とすることを特徴とするものであるが、本発明のポイントメークアップ化粧料の選択方法を確立するために、ポイントメークアップ化粧料としてリップカラーを用いて以下の内容で調査を行った。
【0010】
(1)化粧料使用者の顔の肌色とリップカラーの色の関係
表1の上段に示す顔の肌色を有するモデル5人の写真を十数枚づつ用意し、これに表1の下段に示す各種のリップカラーをそれぞれ塗布して評価用サンプル写真を作成した。表1は、評価に用いた写真のモデルの肌とリップカラーをマンセル色座標を表色系として用いて測色して得られたマンセル値を表すものである。
【0011】
【表1】

【0012】
なお、リップカラーの色記号は、最初の数字が色相を示し(1は1.25RPを、2は5RPを、3は8.75RPを、4は10RPを、6は6.25Rを、9は3.75YRをそれぞれ表す)、次の数字はそのまま明度を示し、最後のアルファベット又は数字が彩度を示す(Aは10を、Eは14を、8はそのまま8をそれぞれ表す)。
【0013】
上記の様にして得られた評価用サンプル写真について、無作為に選出された137名のパネラーに、リップカラーの色がモデルの顔の肌色と調和しているか否かを、以下に示す基準で5段階評価して、結果をアンケート用紙に記入してもらった。
【0014】
1 : 全く似合わない
2 : 似合わない
3 : どちらでもない
4 : 似合う
5 : よく似合う
【0015】
まず、アンケートに回答してもらった137名のパネラーの年代別、男女別の百分率を円グラフ(図1)に示すが、これより本調査のパネラーに男女あるいは年代のバラツキが無いことがわかる。
【0016】
次に、アンケートの結果を表2〜6及び図2〜7に示す。表2〜6に、それぞれ色白(高明度)中間色、色黒(低明度)中間色、中明度ピンク系、中明度中間色、中明度オークル系の各モデルに対する各リップカラーの137名による評点の平均値とこの評点の高い順に付けられた似合う順位を示す。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
【表5】

【0021】
【表6】

【0022】
また、図2は、モデルの肌色が中明度中間色の場合のリップカラーの色相、彩度とリップカラーの似合う順位の関係を色相環上に示した図である。図の色相環は、マンセル色票に準じて作成したものであり、円の中心からの距離は彩度を表している(中心から離れるほど彩度は高い)。図中の■印は、色相環におけるモデルの肌色の位置を、●印は色相環における各リップカラーの位置を、●印の付近の数字はそのリップカラーの平均評点から得られた似合う順位を示し、その横の括弧内にはリップカラーの色記号を示す。この図から、リップカラーの色相及び彩度と、リップカラーが似合う、似合わないとの間には特定の関係がないことがわかる。
【0023】
図3〜7は、それぞれ色白(高明度)中間色、色黒(低明度)中間色、中明度ピンク系、中明度中間色、中明度オークル系の各モデルの肌色の明度及び彩度とリップカラーの色の明度及び彩度との差(明度差及び彩度差)とリップカラーの似合う順位の関係を示した図である。ここで明度差、彩度差は、共にリップカラーの色の値からモデルの肌色の値を引いた値とする。
【0024】
図3〜7において、縦軸は明度差を、横軸は彩度差を表し、●印は各リップカラーの座標位置を、●印の付近の数字はそのリップカラーの平均評点から得られた似合う順位を示し、括弧内にはリップカラーの色記号を示す。これらの図から、リップカラーの似合う順位あるいは評点は、どのモデルの場合においても、つまりとの様な肌色の肌においても、顔の肌色とリップカラーの色との彩度差とはほとんど関係ないが、顔の肌色とリップカラーの色との明度差とは以下の様な関係にあることがわかった。
【0025】
つまり、リップカラーの色の明度から顔の肌色の明度を引いた明度差が負の値であればリップカラーの似合う順位あるいは評点は高く、また、この明度差が正の値を取ればリップカラーの似合う順位あるいは評点は低い、言い換えれば、リップカラーの色が使用者の肌色より暗い色であればそのリップカラーの色が使用者の肌色に概ね調和しており、リップカラーの色が使用者の肌色より明るい色であればそのリップカラーの色は使用者の肌色に調和しないことがわかった。
【0026】
更に、上記明度差とリップカラーの似合う順位、評点の関係について詳細に分析した結果、以下の二点を考慮に入れれば明度差とリップカラーの似合う順位、評点とはよく相関している、具体的には、リップカラーの色の明度値から顔の肌色の明度値を引いた値が小さいほど、リップカラーの似合う順位、評点が高いことがわかった。この関係から、上記明度差が-1以下であれば、リップカラーの色は使用者の肌色によく調和しているといってよく、明度差が-1を越え0以下である範囲では、ある程度調和しているとしてよく、また、上記明度差が0を越える場合には、調和していないと判断してもよいことがわかる。
【0027】
ここで、上記考慮に入れるべき二点のうち一点とは、色白(高明度)中間色の肌色のモデルに関しては、リップカラーの順位あるいは評点と、リップカラーの色の明度から顔の肌色の明度を引いた明度差との相関があまり強くないことである。これは、この色白(高明度)中間色の肌色のモデルが、どのリップカラーに対しても比較的よい評点を得ており、各リップカラー間において評点の差があまりないことが原因と考えられる。
【0028】
他の一点は、実際にはあまり用いられることのない、顔の肌色とリップカラーの色との彩度差が小さいリップカラーについては、上記明度差と順位は必ずしも相関していないことである。
【0029】
上記結果より、リップカラーの色が使用者の肌色に調和しているかどうかは、使用者の肌色に関係なく、また、リップカラーの色の色相、彩度とも関係なく、リップカラーの色と使用者の肌色との明度差によって以下のように判定できることがわかった。
【0030】
マンセル色座標を表色系として測色したリップカラーの色の明度から顔の肌色の明度を引いた明度差が負の値であればリップカラーの色が使用者の肌色に概ね調和しており、また、この明度差が正の値であればリップカラーの色は使用者の肌色に調和しない。更に、この明度差が-1以下であれば、リップカラーの色は、使用者の肌色とよく調和している。
【0031】
(2)本発明のポイントメークアップ化粧料の選択方法
本発明のポイントメークアップ化粧料の選択方法は、上記の調査結果より得られた知見を応用したものであり、使用者の肌とポイントメークアップ化粧料を測色し、両者の明度差を指標として好ましいポイントメークアップ化粧料の色を選択することを特徴とする。
【0032】
本発明の選択方法が適用されるポイントメークアップ化粧料としては、通常ポイントメークアップ化粧料として使用されている化粧料であれば特に制限はなく、例えば、リップカラー、チークカラー、アイカラー等を挙げることができるが、これらの中でも、本発明の選択方法によってより効果的に選択できるポイントメークアップ化粧料としてリップカラーを挙げることができる。
【0033】
使用者の肌やポイントメークアップ化粧料を測色する方法としては、特に制限はなく、通常行われている方法、具体的には、上記実験で示したマンセルの色座標を用いて色の絶対的な位置関係を知る方法や、ある色に対する色差を測定しその明度差を見る方法、例えば、XYZ座標で色差を測定してY値を、Labを用いた色差での表現ではL値を用いて明度差を見る方法等を挙げることができる。更に、より簡易的な方法として、色票を用いて色を比較する方法を本発明に用いることも可能である。
【0034】
この様に本発明の選択方法においては種々の方法でポイントメークアップ化粧料使用者の肌やポイントメークアップ化粧料を測色することが可能であるが、これらのうちでもマンセル色座標を表色系として用いて測色する方法が好ましく用いられる。
【0035】
本発明のポイントメークアップ化粧料の選択方法では、上記各方法で測色したポイントメークアップ化粧料の色の明度と、そのポイントメークアップ化粧料の使用者の肌色の明度を比較して、ポイントメークアップ化粧料の色の明度が使用者の肌色の明度より低い(暗い)場合に、このポイントメークアップ化粧料がその使用者の肌色に調和するとするものである。また、ポイントメークアッップ化粧料の色の明度が、使用者の肌色の明度よりも高い(明るい)場合には、このポイントメークアップ化粧料は、使用者の肌色に調和しないとするものである。
【0036】
例えば、本発明において好ましい測色方法であるマンセル色座標を表色系として用いた測色方法で測色した場合には、得られたポイントメークアップ化粧料の色の明度値から肌色の明度値を引いた値が、負の値をとるポイントメークアップ化粧料が、それを用いた場合に他人に好ましい印象を与え、似合っているという評価になる。
【0037】
更に、このマンセル色座標を表色系として用いて測色した場合のポイントメークアップ化粧料の色の明度値と肌色の明度値の比較では、ポイントメークアヅプ化粧料の色の明度値から肌色の明度値を引いた値が-1以下であるボイントメークアップ化粧料がよく似合っていると判定され、逆に似合っていないと判定されるのは、この値が正の数を取る場合である。また、これらの中間の明度差が-1を越え0以下である範囲では、そのポイントメークアップ化粧料は使用者の肌色にある程度似合うと判断される。
【0038】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を説明する。
表7に示す肌色の異なる4人のモデルの写真と5種類のリップカラーを用いて上記の調査と同様に評価用サンプル写真を作成した。なお、表7のマンセル値は、各モデルの顔の肌、リップカラーについてマンセル色座標を表色系として用いて測色して得られた値である。
【0039】
【表7】

【0040】
上記評価用サンプル写真を17名のパネラーに見せ、アンケートによる、「似合う」「似合わない」の判定をしてもらった。判定は、上記調査と同様に以下の基準で行われた。
【0041】
1 : 全く似合わない
2 : 似合わない
3 : どちらでもない
4 : 似合う
5 : よく似合う
【0042】
一方、上記各モデルの肌色に各種リップカラーの色が調和しているかどうかを、本発明の選択方法に用いられるマンセル値によるリップカラーの色の明度からモデルの肌色の明度を引いた明度差から、以下の基準で別途判定した。
【0043】
◎ : 明度差が-1.0以下であり、よく適合している
○ : -1.0<明度差≦0であり、ある程度適合している
× : 明度差が0を越えており、不適合である
結果を表8に示す。
【0044】
【表8】

【0045】
この結果から、本発明のポイントメークアップ化粧料の選択方法に基づく使用者の肌色に対するリップカラーの色の適合性の判定と、アンケートの評点がよく一致していることがわかる。これより、本発明の選択方法の的確さが明白である。
【0046】
【発明の効果】
本発明の選択方法によれば、使用者の顔の肌色に調和した色のポイントメークアップ化粧料を、簡易的、且つ客観的に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 アンケート回答者の性別及び年齢構成を示す図
【図2】 モデルの肌色が中明度中間色の場合のリップカラーの色相、彩度とリップカラーの似合う順位の関係を色相環上に示した図
【図3】 色白(高明度)中間色のモデルの肌色の明度及び彩度とリップカラーの色の明度及び彩度との差(明度差及び彩度差)とリップカラーの似合う順位の関係を示した図
【図4】 色黒(低明度)中間色のモデルの肌色の明度及び彩度とリップカラーの色の明度及び彩度との差(明度差及び彩度差)とリップカラーの似合う順位の関係を示した図
【図5】 中明度ピンク系モデルの肌色の明度及び彩度とリップカラーの色の明度及び彩度との差(明度差及び彩度差)とリップカラーの似合う順位の関係を示した図
【図6】 中明度中間色のモデルの肌色の明度及び彩度とリップカラーの色の明度及び彩度との差(明度差及び彩度差)とリップカラーの似合う順位の関係を示した図
【図7】 中明度オークル系モデルの肌色の明度及び彩度とリップカラーの色の明度及び彩度との差(明度差及び彩度差)とリップカラーの似合う順位の関係を示した図
 
訂正の要旨 訂正の要旨
[訂正事項a]
請求項1に記載された「ポイントメークアップ化粧料使用者の顔の肌とポイントメークアップ化粧料を測色し、両者の明度差を指標としてポイントメークアップ化粧料を選択することを特徴とするポイントメークアップ化粧料の選択方法。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「リップカラー使用者の顔の肌とリップカラーをマンセル色座標を表色系として測色し、両者の明度の差のみを指標としてリップカラーを選択することを特徴とするリップカラーの選択方法。」と訂正する。
[訂正事項b]
請求項2に記載された「測色して得られたポイントメークアップ化粧料の色の明度が使用者の肌色の明度よりも低いポイントメークアップ化粧料を選択すること特徴とする請求項1記載のポイントメークアップ化粧料の選択方法。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「測色して得られたリップカラーの色の明度が使用者の肌色の明度よりも低いリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。」と訂正する。
[訂正事項c]
請求項3に記載された「前記測色が、マンセル色座標を表色系として用いて行われ、これにより得られたポイントメークアップ化粧料の色の明度値からポイントメークアップ化粧料使用者の顔の肌色の明度値を引いた値(明度差)が-1以下であるポイントメークアップ化粧料を選択することを特徴とする請求項1又は2記載のポイントメークアップ化粧料の選択方法。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「測色して得られたリップカラーの色の明度値からリップカラー使用者の顔の肌色の明度値を引いた値(明度差)が-1以下であるリップカラーを選択することを特徴とする請求項1記載のリップカラーの選択方法。」と訂正する。
[訂正事項d]
請求項4を削除
異議決定日 2000-04-28 
出願番号 特願平6-187363
審決分類 P 1 651・ 531- YA (G01N)
P 1 651・ 534- YA (G01N)
P 1 651・ 121- YA (G01N)
最終処分 維持  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 住田 秀弘
後藤 千恵子
登録日 1999-01-08 
登録番号 特許第2872912号(P2872912)
権利者 ポーラ化成工業株式会社
発明の名称 ポイントメークアップ化粧料の選択方法  
代理人 川口 嘉之  
代理人 川口 嘉之  
代理人 遠山 勉  
代理人 松倉 秀美  
代理人 松倉 秀実  
代理人 遠山 勉  

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