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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  B41M
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1024386
異議申立番号 異議2000-70812  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1989-08-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-25 
確定日 2000-08-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第2940673号「被情報記録媒体及びそれを用いた情報記録方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2940673号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯と本件発明
本件特許第2940673号は、昭和63年2月24日に出願されたものであって、平成11年6月18日に特許の設定登録がなされ、その後、本件特許に対して、安藤拓也、芝町子より、それぞれ、特許異議の申立がなされたものである。
本件請求項1〜4に係る発明は、明細書の特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものである。
「【請求項1】基体の表面に熱転写受容層が設けてあり、該熱転写受容層は、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体とし滑剤が添加されて成り、該熱転写受容層の組成は、固型分総量100重量部に対して、熱可塑性樹脂が70〜95重量部、滑剤が5〜20重量部であることを特徴とする被情報記録媒体。
【請求項2】前記滑剤は、テフロンパウダー、ポリエチレンパウダー、ワックス類および高級脂肪酸の金属塩の中から選ばれる少なくとも1種以上のいずれかであることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の被情報記録媒体。
【請求項3】ガラス転移温度が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体として滑剤が添加されて成り、その組成は固型分総量100重量部に対して、熱可塑性樹脂が70〜95重量部、滑剤が5〜20重量部である熱転写受容層が基体の表面に設けてある被情報記録媒体の、該熱転写受容層の面に対して、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体として、着色剤及び滑剤を有する組成で成る樹脂型転写用の熱溶融接着性記録層を基体の一方の面に設けて成る熱転写記録媒体の、該熱溶融接着性記録層の面が対向するように重ね合わせ、しかる後、該熱転写記録媒体の基体側から発熱記録材により加熱記録を行って該熱溶融接着性記録層を該熱転写受容層側に選択的に熱的に接着せしめることによって記録画像を形成させることを特徴とする情報記録方法。
【請求項4】前記滑剤は、テフロンパウダー、ポリエチレンパウダー、ワックス類および高級脂肪酸の金属塩から選ばれる少なくとも1種以上のいずれかであることを特徴とする特許請求の範囲第3項に記載の情報記録方法。」
II.特許異議申立の趣旨
それに対して、特許異議申立人 安藤拓也は、下記の甲第1〜8号証を提出して、本件請求項1〜4の各発明は、それらの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、各請求項の発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して特許されたものであり、その特許を取消すべき旨主張する。
特許異議申立人 芝町子は、下記の甲第1〜6号証を提出して、本件請求項1〜3の各発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、各請求項の発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により、また、請求項1〜4の発明は、甲第6号証に記載された発明と同一であるから、各請求項の発明に係る特許は、特許法第39条第1項の規定により、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して特許されたものであり、その特許を取消すべき旨主張する。

・安藤拓也提出分
甲第1号証 特開昭62-294595号公報(以下、「刊行物1」とい う)
甲第2号証 特開昭63-7972号公報(以下、「刊行物2」という)
甲第3号証 特開昭62-162592号公報(以下、「刊行物3」とい う)
甲第4号証 瀬戸正二監修「実用プラスチック用語辞典」株式会社プラス チックス・エージ(昭和45年6月20日第2版発行)第5 08頁(以下、「刊行物4」という)
甲第5号証 日本規格協会編集「非金属材料データブック」財団法人 日 本規格協会(1983年1月20日発行)第25頁(以下、 「刊行物5」という)
甲第6号証 特開昭62-169693号公報(以下、「刊行物6」とい う)
甲第7号証 特開昭61-51385号公報(以下、「刊行物7」という )
甲第8号証 特開昭62-13383号公報(以下、「刊行物8」という )
・芝町子提出分
甲第1号証 特開昭62-162592号公報(刊行物3に同じ)
甲第2号証 特開昭62-294595号公報(刊行物1に同じ)
甲第3号証 特開昭57-105395号公報(以下、「刊行物9」とい う)
甲第4号証 特開昭62-13383号公報(刊行物8に同じ)
甲第5号証 特開昭59-229394号公報(以下、「刊行物10」と いう)
甲第6号証 特許第2605307号公報(以下、「先願明細書」という )
参考資料 長倉三郎他編「岩波 理化学辞典 第5版」(株)岩波書店( 1998年12月25日第5版第3刷発行)第267頁(以 下、「参考資料」という)
III.証拠の記載
刊行物1には、「感熱転写記録方式には、熱溶融性インキを塗布したカラーシートを用いる溶融転写記録方式と、昇華性色素を含むインキを塗布したカラーシートを用いる昇華転写記録方式とがある」(第2頁左上欄第8〜12行)こと、「受像層は上記のポリエステル系樹脂と塩化ビニル系樹脂を主成分とするが、転写記録時のカラーシートと受像体との熱による融着を防ぎ、転写後の両者の剥離性を良くするために離型剤を含有することが好ましく、この目的のためには特にシリコーン系の化合物が有効であるが、その他各種のワックス類、フッ素系化合物、微粒子なども効果がある。」(第3頁左下欄第14行〜右下欄第1行)こと、実施例に、「後記表1に示した種類と量のポリエステル樹脂及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂をメチルエチルケトン15重量部、キシレン15重量部に溶解し、その溶液中にアミノ変性シリコーンKF393(商品名:信越化学工業(株)製)0.5重量部を添加し調製した受像層塗布液を150μm厚のポリプロピレン製合成紙にワイヤバーで塗布、乾燥し、乾燥膜厚約5μmの受像層を形成させた。」(第4頁右上欄第5〜18行)こと、および、第5頁左上欄には、樹脂A〜Gの組成比を示す表1と、同頁右上欄には、樹脂A〜Gのガラス転移点の一覧表が記載されている。
刊行物2には、「熱により溶融もしくは昇華して移行する染料を含有する染料層を有する熱転写シートと組み合わせて使用され、シート状基材の表面に前記熱転写シートより移行する染料を受容する受容層を有している被熱転写シートであって、受容層が、ジカルボン酸成分として長鎖ジカルボン酸とを用いて合成された変性ポリエステル樹脂を含むことを特徴とする被熱転写シート。」(特許請求の範囲第1項)、「本発明の被熱転写シートは熱転写シートとの離型性を向上せしめるためにく受容層中に離型剤を含有せしめることができる。離型剤としてはポリエチレンワックス、アミドワックス、テフロンパウダー等の固形ワックス類;弗素系、燐酸エステル系の界面活性剤;シリコーンオイル等が挙げられるがシリコーンオイルが好ましい。」(第4頁左下欄第15行〜右下欄第2行)こと、樹脂14重量部、アミノ変性シリコーンオイル1重量部、エポキシ変性シリコーンオイル1重量部と、トルエン42重量部、メチルエチルケトン42重量部とからなる受容層形成用組成物を、厚み150μmの合成紙(王子油化製:ユポPPG-150)である基材の表面に塗布、乾燥して受容層を形成したこと(第7頁右下欄第18行〜第8頁左上欄第13行)が記載されている。
刊行物3には、「熱物質移動印刷により供与体シートから像にならう仕方で供与体材料を受容するために適当な受容体シートであって、その少なくとも一つの主要表面上に、約30℃〜約90℃の軟化点および供与体シートの供与体材料のものより上の臨界表面張力を有する、ワックスと相溶性の材料から成る受像層を、有する裏材料から成ることを特徴とする前記の受容体シート。」(特許請求の範囲第1項)、「受容層がポリマー材料から成る、特許請求の範囲第1項に記載のシート。」(同第6項)、「ポリマー材料がポリカプロラクトン、塩素化ポリオレフィン、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンのブロック共重合体、およびエチレンと酢酸ビニルの共重合体から成る群より選択される特許請求の範囲第6項に記載のシート。」(同第8項)、「約30℃より低い軟化温度は好ましくない。何故ならばその場合層14は粘着性でかつ通常の温度で柔軟になる。・・・・約90℃以上の軟化温度は望ましくない。何故ならばその受像層14は像形成温度において供与体シートからワックスを受取るために充分に軟化しそうもないからである。」(第5頁左上欄第20行〜右上欄第13行)こと、「受像層14を形成するため組成物へ混入するに役立つことが従来判っているワックスの例に含まれるものはパラフィンワックス、・・・・好ましくは、ワックスの量は受像層の20重量%までを構成すれば良い。」(第6頁左下欄第3〜10行)こと、「受像層14を形成するために役立つと従来判っている材料の例に含まれるものは・・・・塩素化ポリオレフィンとポリメチルメタクリレートの混合物、」(第6頁右上欄第12〜15行)こと、「供与体材料の受容体シート10への移動は本質的に付着過程であるので、像形成の瞬間において供与体シートと受容体シートとの間に緊密な接触があること、およびその接触の期間中受像層14が軟化状態にあることが重要である。」(第5頁左上欄第7〜11行)こと、「軟化温度とは、鋭い融点を有しないポリマー、あるいは、鋭い融点、融点それ自身、を示すポリマーのためのASTM D1525(1982)に従って測定されるビカー(Vicat)軟化温度を意味する。」(第5頁左上欄第16〜20行)こと、「供与体材料26は、1〜20重量%の着色剤、20〜80重量%の結合剤、および3〜25重量%の軟化剤を含む組成物から形成される。結合材は通常ワックスであり、例えば、ヘーズワックス、密ろう、セレシンワックス、鯨ろうなどである。軟化剤は通常容易に加熱融解性の材料であり、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体などである。」(第7頁左上欄第19行〜右上欄第7行)ことが記載されている。
刊行物4の第508頁右欄第12行〜第15行には、ポリカプロラクタムがナイロン6であることが記載されている。
刊行物5には、ナイロン6のガラス転移温度が、40℃〜52℃であること、および、ポリスチレンのガラス転移温度が80℃〜100℃であること(第25頁)が記載されている。
刊行物6には、「表面に感熱転写用記録に用いられるインク組成物の着色剤を除く組成とほぼ同一の組成の組成物が層設されていることを特徴とする感熱転写記録用受像紙。」(特許請求の範囲請求項1)、「前記組成物が白色又は無色透明のワックス又はワックス状物質を含有する・・・・感熱転写記録用受像紙。」(同請求項3)、「第3図はサーマルヘッドの投入エネルギーEと記録された画像の濃度Dとの関係を示しており、白紙の受像紙20に最初にインクを転写する場合の濃度特性は例えばPのようになり、既にインクが転写されている上に別のカラーインクを転写した場合の濃度特性はQのように低くなり、受像紙20に最初にインク転写するか、或いは既にインクが転写されている上にさらにインクを転写するかで、その記録濃度が異なってしまっていた。このため、この点を考慮してサーマルヘッドへの投入エネルギーを制御する必要があった。(発明の目的)・・・・この発明の目的は、投入エネルギーを制御することなく、熱転写による画像濃度特性を均一に行ない得るようにした感熱転写記録用受像紙を提供することにある。」(第2頁右上欄第13行〜左下欄第10行)こと、「熱転写カラープリンタは第1図に示すように、・・・サーマルヘッド2とプラテンローラ1との間を感熱転写用記録媒体であるインクリボン10および記録用受像紙20が重ね合されて、・・・・サーマルヘッド2によって熱転写されるようになっている。インクリボン10は薄いベースフィルム(厚み3〜10μm)11を有し、そのベースフィルム11上に着色剤(例えば、染料又は顔料)及び柔軟剤(樹脂)などを混入した熱溶融性インク12が均一に塗布されている。このようなインクリボン10の熱溶融性インク12を受像紙20に重ねて・・・・インク溶融部4のインクが溶融して受像紙20の方へ転写される。」(第1頁右下欄第4行〜第2頁左上欄第1行)ことが記載されている。
刊行物7には、「基体の表面に熱溶融性インク層を設けた熱転写記録媒体と被転写紙とを重ね合せ、感熱ヘッドで加熱することによりインク層を溶融させて被転写紙に転写する熱転写紙において、該被転写紙のインク層と接する面に熱溶融性インク層と表面エネルギーの近似な物質を塗布したことを特徴とする熱転写用被転写紙。」(特許請求の範囲の請求項1)、「被転写紙として普通紙を用いた場合には、その表面の粗さのためにインク層の溶融転写が不充分であり、従って、転写ドットの形状が不安定(ボソツキが生じる)となって鮮明な転写画像が得られないという欠点が見受けられる。・・・・本発明はインク層の溶融転写が充分に行なわれ転写ドットの形状が安定(ボソツキが生じることなく、均一な転写ドットが得られる)であり、鮮明な転写画像が得られ、多階調性・定着性にもすぐれた熱転写用被転写紙を提供することにある。」(第1頁右下欄第5行〜第2頁左上欄第1行)こと、「熱溶融性インク層は、一般に使いられているもの例えば、顔料、染料等の着色剤をカルナウバワックス、オーリキュリーワックス、パラフィンワックス・・・・等のワックス類、低分子ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル等の熱軟化性樹脂、あるいはこれらの混合物(以降「ワックス類等」と称することがある)に分散させたもの、更に必要に応じて潤滑剤等の添加剤を加えたものである。本発明の被転写紙は、第1図に示されているように、基紙11上に前記インク層と表面エネルギーの近似な物質による層(コート層)12が設けられている。基紙11は、普通紙、中性紙、コート紙、合成紙などの他に、プラスチックフィルムなどである。熱溶融性インク層と表面エネルギーの近似な物質としては、熱溶融性インク層に用いる前記のワックス類、熱軟化性樹脂あるいはこれらの混合物(ワックス類等)があげられる。」(第2頁左上欄第14行〜右上欄第14行)ことが記載されている。
刊行物8には、「1.熱溶融性感熱インク材料層を支持体上に設けた記録材料において、前記感熱インク材料が非晶質ポリエステル樹脂と着色剤および離型性物質を主成分とする材料であることを特徴とする感熱記録材料。2.非晶質ポリエステル樹脂が、ガラス転移温度が40℃以上で数平均分子量が10,000以下の、ビスフエノール成分を含む芳香族ポリエステル樹脂である特許請求の範囲第1項に記載の感熱記録材料。3.離型性物質の融点もしくは軟化点が50℃以上200℃以下であり、非晶質ポリエステル樹脂と離型性物質の重量比が70:30〜99:1である特許請求の範囲第1項に記載の感熱記録材料。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、また、「着色剤としては、カーボンブラツク、オイルブラツク、黒鉛等の黒色系染顔料」(第6頁左下欄第3〜4行)が用いられること、「Tgが約50℃から80℃の範囲にある非晶質ポリエステルを結着材料として使用する。」(第3頁右上欄第4〜8行)こと、離型性物質としては、「具体的には、例えばパルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸亜鉛のような脂肪酸金属塩類、脂肪酸エステル類もしくはその部分ケン化物、脂肪酸アミド類等の脂肪酸誘導体、高級アルコール類、多価アルコール類のエステル等誘導体、パラフインワツクス、カルナバワツクス、モンタンワツクス、ミツロウ、木ロウ、キヤンデリラワツクス等のワツクス類、粘度平均分子量が約1,000から約10,000程度の低分子量ポリエチレン、ポリプロピレン・・・・ポリオレフィン類、・・・・・共重合体、・・・・低分子量シリコーンレジン及びシリコーン変性有機物質等、更には長鎖脂肪族基を有するアンモニウム塩、ピリジニウム塩等のカチオン性界面活性剤・・・・から1種以上選択して用いることが出来る。」(第4頁右下欄第19行〜第5頁右上欄第5行)こと、「非晶質ポリエステルと離型性物質の重量比は、約70:30乃至約99:1、特に好ましくは約80:20乃至約95:5の範囲で用いる」(第5頁左下欄第2〜6行)こと、発明の効果として、「本発明の感熱記録材料は転写材上における、特にカラー画像の再現性、記録感度、転写性、定着性、解像性において優れている。」(第9頁右下欄第11〜13行)、および、「また非晶質ポリエステルは・・・・転写画像の連続階調再現性において優れている。」(第10頁右上欄第8〜12行)ことが記載されている。
刊行物9には、「1.軟化点または融点が50〜130℃、ガラス転移点が45℃以上、破断伸度が10%以下、150℃における溶融粘度が102〜105cPである樹脂(A)と、軟化点または融点が80℃以上、ガラス転移点が20℃以下、破断伸度が50%以上である樹脂(B)と、着色剤とを主体とする熱転写層を耐熱性基材上に設けてなる熱転写記録媒体。2.樹脂(A)、樹脂(B)および着色剤が熱転写層総量に対してそれぞれ10〜80重量%、5〜50重量%および2〜40重量%配合されてなる特許請求の範囲第1項記載の記録媒体。」(特許請求の範囲)、「かかる樹脂(A)は軟化点または融点が50〜130℃でガラス転移点が45℃以上、なかんずく70〜100℃で」(第2頁左下欄第1〜3行)あること、「本発明においては、前記熱転写組成物である樹脂(A)、(B)および着色剤に加えて、要すれば可塑剤またはワックス、さらには体質顔料を添加してもよい。・・・・これらは熱転写層総量に対して10%以下の割合で配合される。」(第3頁左上欄第19行〜右上欄第8行)こと、「第2図に示されるように加熱体(3)の印字によって熱転写層(2)と重ね合わされたコピーシート(4)上に速やかに溶融転写せられ、鮮明で固着強度にすぐれる」(第2頁右上欄第9〜12行)ことが記載されている。
刊行物10には、「熱転写記録に用いられるインクドナーフイルムのインク構成成分の中から着色成分を除去してなる組成物の層を、合成樹脂製シート表面に塗布したことを特徴とする熱転写記録用受像シート。」(特許請求の範囲第1項)、「すなわち、OHP用シート1の内部に溶融しないインクが浸透しないため、第2図(A)に示したように、記録によって溶融したインク7がOHP用シート1の表面に固着しても、第2図(B)に示したように、その後、インクドナーフィルム6がOHP用シート1から引き離される際に、インクの溶融部分7がインクドナーフィルム6の方へ剥離されてしまうから、OHP用シート1への熱転写記録ができないのである。(目的)本発明は前述の欠点を除去するためになされたもので」(第2頁左上欄第2〜13行)あること、「(1) インクドナーフィルムのインク融点と同等、またはそれより高い融点を持った塗布剤を熱転写記録用受像シート上に塗布して、加熱の際に、熱転写記録用受像シート上の塗布剤の一部分のみが溶融するようにすることにより、剥離による転写不良を十分に防止することができる。」(第3頁右上欄第4〜9行)ことが記載されている。
IV.判断
(1)特許法第29条第2項違反の有無について
本件明細書の記載(特に、特許公報第3欄第29乃至37行、同第5欄第30〜39行、同第6欄第6〜11行、同第8欄第39〜47行を参照)によると、本件請求項1に係る発明(以下、適宜、「本件発明」という)は、被情報記録媒体において、熱転写受容層として、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体とし滑剤が添加されてなるものを採用することにより、その余の構成と相俟って、熱溶融性インクからなる熱転写材を重ね合わせて転写印刷する、すなわち、熱溶融転写記録方式で印刷するときに、耐可塑剤性、耐薬品性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に対して優れた耐久性を有する画像記録を形成することができたというものである。
これに対して、 刊行物1の実施例の記載をみると、そこでの、受像体No.6では樹脂B(ポリエステル樹脂Tg:60℃)と樹脂F(塩化ビニル酢酸ビニル共重合体Tg:72℃)とからなる樹脂と離型剤としてのアミノ変性シリコーンKF393を含む塗布液から受像層を形成するものであって、ここで用いる樹脂は、本件発明の所定のガラス転移点を有する熱可塑性樹脂に相当する。しかし、滑剤に関しては、離型剤として滑剤と同じ材料を用いることの可能性が刊行物1のその他の箇所には示されるものの、実際に当該ガラス転移点の樹脂に滑剤を併用するまでの記載はなく、また、そこでの転写方法は、具体的には、本件発明のものとは異なる、すなわち、転写材から受容層に移行する色材の形態(染料そのものと、溶融したワックス中に染顔料が含まれた流動性物質)も、移行の態様(昇華と、付着)も基本的に異なる昇華転写記録方式のものが記載されているだけである。
したがって、刊行物1のものからは、被情報記録媒体において、その熱転写受容層に、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体とし滑剤が添加されてなるものを採用することにより、熱溶融転写記録方式で印刷するときに、耐可塑剤性、耐薬品性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に対して優れた耐久性を有する画像記録が形成されるという本件発明が示唆されない。
次に、刊行物2には、被熱転写シートの受容層中に、離型剤として滑剤と同じ材料を用いることの可能性が示されるものの、実際には、アミノ変性シリコーンオイル及びエポキシ変性シリコーンオイルが用いられるだけであって、滑剤を用いることにつき具体例な記載があるものでなく、また、そこで用いられる変性ポリエステル樹脂についても、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にあるものを使用するとの記載もない。そして、この刊行物2に記載の発明においても、具体的には、昇華転写記録方式での印刷を意図するものであって、熱溶融転写記録方式で印刷するときの問題については配慮するところがなく、したがって、刊行物2のものから、被情報記録媒体において、その熱転写受容層に、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体とし滑剤が添加されてなるものを採用することにより、熱溶融転写記録方式で印刷するときに、耐可塑剤性、耐薬品性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に対して優れた耐久性を有する画像記録が形成されるという本件発明が示唆されない。
次いで、刊行物3には、熱物質移動印刷用の受容体シートに関する発明が記載され、そして、このものは溶融転写転写記録方式に用いる受容体シートを意味すること、そのための受像層として約30℃〜約90℃の軟化点を有する材料を用いること、受像層がポリカプロラクトン、塩素化ポリオレフィン、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンのブロック共重合体、およびエチレンと酢酸ビニルの共重合体からなる群より選択されるポリマー材料からなるものであることが示されているが、軟化点30〜90℃の範囲が、本件発明で規定する「ガラス転移点50〜110℃」に該当することは明らかでない。それに関して、特許異議申立人 芝町子は、参考資料により、軟化点とガラス転移点とはほぼ同じ物性である旨主張するが、同証拠によっては、同じ合成樹脂を測定した場合に、軟化点とガラス転移点とがほぼ同じ数値を示すことまでは認められない。
してみると、刊行物3には、被情報記録媒体の熱転写受容層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度を、特に、50〜110℃に限定することを、導き出す根拠はない。
また、異議申立人 安藤拓也は、刊行物3に記載されたカプロラクトンについて、刊行物4、5を用いて、ガラス転移温度が、40℃〜52℃であることを主張するが、刊行物4に記載されたナイロン6は、カプロラクタムの開環重合にもとづく重合体であり、カプロラクトンの重合に基づくものではないから、刊行物5にナイロン6のガラス転移温度が示されていても、刊行物3の記載とは結びつかない。
そうすると、刊行物3〜5、及び参考資料に記載のものから、ガラス転移点を所定の範囲に限定することが導き出せず、したがって、これらのものから、被情報記録媒体において、その熱転写受容層に、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体とし滑剤が添加されてなるものを採用することにより、熱溶融転写記録方式で印刷するときに、耐可塑剤性、耐薬品性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に対して優れた耐久性を有する画像記録を形成されるという本件発明が示唆されない。
刊行物6は、溶融転写における熱転写層の組成と同様な組成の受像層、すなわち、最適には熱転写層から着色剤を除いた組成物を用いて受像層を形成することが記載されているが、それは、受像紙表面と、受像紙上にインクが転写されている表面とで、その上に更に印字するインクとの親和性に差がないようにすることで、サーマルヘッドへの投入エネルギーを制御する必要をなくすことを目的とするものであるから、刊行物8に、本件発明に規定する成分をすべて包含し、さらに着色剤を含有する熱転写層を構成するための組成物が記載されているとしても、刊行物8の発明には、サーマルヘッドへの投入エネルギー制御の認識は全くないから、刊行物6の発明を適用して、その着色剤を除いて受容層とすべき動機づけが存在しない。
刊行物7には、熱溶融性インク層と表面エネルギーの近似な物質、すなわち、熱溶融性インク層に用いるワックス類、熱軟化性樹脂あるいはこれらの混合物(ワックス類)を用いて熱転写用被転写紙を作成することにより、「鮮明な転写画像が得られ、多階調性・定着性にもすぐれた熱転写用被転写紙を提供する」ことを目的とすることが記載されている。それに対して、刊行物8に記載された感熱記録材料は、それ自身ですでに、カラー画像の再現性、記録感度、転写性、定着性、解像度、転写画像の連続階調再現性に優れているとしているのであるから、刊行物8の感熱記録材料に、刊行物7の熱転写用被転写紙の発明を適用しようとする動機づけがあり得ない。
刊行物9に記載された熱転写記録媒体は、本件発明に規定する成分をすべて包含し、さらに着色剤を含有する熱転写層を構成するための組成物が記載されているとしても、刊行物10における、熱転写材料中の着色剤を除いた組成物を合成樹脂製の基材上に塗布してなる受像シートの構成は、合成樹脂製という、インクを受容しにくい特殊なシート面に関する課題を解決するためのものであるから、刊行物9の発明に刊行物10の発明を適用して、刊行物9の熱転写材料から特に着色剤を除くためのヒントにはなりえない。 同様にして、刊行物6、7、10に、感熱記録材料の感熱層を構成する組成物から、着色剤だけを除いて、被転写材の受容層とする思想があっても、それを特に、刊行物8、9に記載された発明に適用する動機づけがない。
そして、そもそも、これら刊行物6〜10では、被情報記録媒体において、耐可塑剤性、耐薬品性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に対して優れた耐久性を有する画像記録を形成することにつき配慮するところは何もないのである。
してみれば、刊行物6〜10に記載のものから、被情報記録媒体において、その熱転写受容層に、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体とし滑剤が添加されてなるものを採用することにより、熱溶融転写記録方式で印刷するときに、耐可塑剤性、耐薬品性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に対して優れた耐久性を有する画像記録が形成されるという本件発明が示唆されない。
以上のとおりであり、本件発明は、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
さらに、本件請求項2に係る発明は、請求項1の発明の構成を全て引用した上でさらに限定を加え、また、本件請求項3〜4に係る発明は、請求項1の発明の構成を全て引用してそれを使用する方法とするものであるから、請求項1の発明が、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、それら各請求項の発明も、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明は、刊行物1〜10に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということができない。
(2)特許法第39条第1項違反の有無について
先願明細書の特許請求の範囲請求項3の発明は、以下のとおりのものである。
「耐熱性のある支持体上に、顔料、ジカルボン酸成分とジオール成分の縮重合より形成される線状の飽和ポリエステル樹脂とガラス転移点が50℃から110℃の範囲にあるアクリル樹脂から成る熱溶融性物質及び滑剤を主成分とする転写記録層を設けて成ることを特徴とする熱転写材と、支持体上に、滑剤とガラス転移点が50℃から100℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主成分とする受像層を設けて成ることを特徴とする被熱転写材とを前記転写記録層と前記受像層とが接するように重ね合わせ、しかる後に、前記熱転写材の支持体側から印字画像情報に応じた部分加熱を行い、加熱された部分に対応する前記記録層と受像層を選択的に熱溶融して熱的に接着させ、前記被熱転写材上に熱転写画像を形成することを特徴とする感熱転写記録方法。」
それに対して、本件請求項3の発明は、
「ガラス転移温度が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体として滑剤が添加されて成り、その組成は固型分総量100重量部に対して、熱可塑性樹脂が70〜95重量部、滑剤が5〜20重量部である熱転写受容層が基体の表面に設けてある被情報記録媒体の、該熱転写受容層の面に対して、ガラス転移点が50〜110℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体として、着色剤及び滑剤を有する組成で成る樹脂型転写用の熱溶融接着性記録層を基体の一方の面に設けて成る熱転写記録媒体の、該熱溶融接着性記録層の面が対向するように重ね合わせ、しかる後、該熱転写記録媒体の基体側から発熱記録材により加熱記録を行って該熱溶融接着性記録層を該熱転写受容層側に選択的に熱的に接着せしめることによって記録画像を形成させることを特徴とする情報記録方法。」である。
両者を対比すると、被情報記録媒体(先願明細書においては、「被熱転写材」が相当する)の熱転写受容層(先願明細書においては、「受像層」が相当する)の構成に関して、熱可塑性樹脂のガラス転移点を、本件請求項3では、「50〜110℃」としているのに対して、先願明細書のものは、「50〜100℃」としている点、および、その組成を、本件請求項3では、「固形分総量100重量部に対して、熱可塑性樹脂が70〜95重量部、滑剤が5〜20重量部」としているのに対して、先願明細書のものは、特に比率を規定していない点において相違する。そして、この数値を限定することが自明のことであるということもできないから、両発明を同一とすることはできない。
さらに、特許異議申立人 芝町子は、本件請求項1、2及び4に係る発明は、先願明細書の特許請求の範囲請求項3の発明と同一である旨主張するが、上記した理由と同じ理由により、特許請求の範囲の記載の対比からは、両者が同一であるとすることができない。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることができない。
V.むすび
以上のとおりであり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
 
異議決定日 2000-08-01 
出願番号 特願昭63-41505
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B41M)
P 1 651・ 4- Y (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 江藤 保子淺野 美奈  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 伏見 隆夫
多喜 鉄雄
登録日 1999-06-18 
登録番号 特許第2940673号(P2940673)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 被情報記録媒体及びそれを用いた情報記録方法  

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