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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特39条先願  C08J
管理番号 1024595
異議申立番号 異議1999-72513  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-06-24 
確定日 2000-09-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2840049号「粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2840049号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2840049号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成1年10月27日に特許出願(優先日 昭和63年11月14日 日本)された特願平1-280477号の一部を、平成7年7月7日に新たな特許出願としたものであり、平成10年10月16日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後その特許について、新第一塩ビ株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年12月29日付けで訂正請求がなされたものであり、当審において平成12年2月9日付けで特許異議申立人に、平成12年5月9日付けで特許権者にした審尋に対して、それぞれ回答書が提出された。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa〜cのとおりである。
a.【請求項1】の「水分率」を「カールフィッシャー水分計で測定した水分率」と訂正する。
b.明細書【0009】第5行及び【0024】第4行(特許公報第3欄第29行及び第5欄第41〜42行)の「水分率」を「カールフィッシャー水分計で測定した水分率」と訂正する。
c.明細書【0022】第8行(特許公報第5欄第28行)の「、赤外線水分計など」を削除する。

イ.訂正の目的の適否、訂正範囲の適否及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aに関連して、訂正前の明細書の【0022】第7〜8行及び【0032】第1〜2行(特許公報第5欄第27〜29行及び第6欄第41〜43行)には、それぞれ、「造粒体の水分率は、カールフィッシャー水分計、赤外線水分計などを用いて測定すればよい。」及び「なお、造粒体の水分測定は、カールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)のMKA-3P型)で行なった。」と記載されており、水分率の測定をカールフィッシャー水分計を用いて行うことが開示されている。そうすると、この訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的として「水分率」を「カールフィッシャー水分計で測定した水分率」に限定するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲をこえるものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項b及びcは、請求項1の訂正(訂正事項a)に整合させるための明瞭でない記載の釈明を目的をするものであり、実質的に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲をこえるものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ.独立特許要件
(1)訂正後の本件発明
訂正後における請求項1及び2に係る本件特許発明(以下、「訂正後の本件発明1」及び「訂正後の本件発明2」)は、訂正明細書の請求項1及び2に記載された下記の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】カールフィッシャー水分計で測定した水分率0.1〜0.5%、平均粒径30〜100μm、粒子状塩化ビニル樹脂500gとジオクチルフタレート325gとを5リットルのホバートミキサーに入れ、25℃でフックペラで自転141rpm、公転67rpmの速度で10分間撹拌して製造したゾル中の未分散物の大きさをJIS K5400「塗料一般試験方法」4.4つぶの試験の方法のA法で判定したばあいの未分散物の大きさが50μm以下であることを特徴とする粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂。
【請求項2】粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂の平均粒径が30〜70μmである請求項1記載の粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂。」

(2)取消理由
当審が通知した取消理由は、概略以下のとおりである。
i.本件の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明である。
よって、本件の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
ii.本件の請求項1及び2に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件の請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
iii.本件明細書の記載には、特許異議申立書第19頁第7行-第20頁第5行に記載された点、即ち、請求項1で水分率が特定されていない点及び造粒体の平均粒径の求め方が不明である点で不備がある。
よって、本件の請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第36条第3項、第4項及び第5項の規定に違反してなされたものである。

(3)刊行物等
取消理由に引用した刊行物等は以下のとおりである。
刊行物1:特開昭60-120726号公報(特許異議申立人新第一塩ビ株式会社が提出した甲第2号証)
刊行物2:飯田,古谷著「塩化ビニルペースト加工(上)」,日本ゼオン(株),(1968.6.1)p.102-111(同特許異議申立人が提出した甲第3号証)
刊行物3:「JISハンドブック塗料」,(財)日本規格協会,(1985.4.12)p59-77(同特許異議申立人が提出した甲第4号証)
実験成績証明書:小瀬智之作成(同特許異議申立人が提出した甲第5号証)

上記刊行物には、以下の事項が記載されている。
刊行物1には、その特許請求の範囲に、
「塩化ビニル樹脂の水性分散液から乾燥操作によって塩化ビニル樹脂粒子を回収するに際し、恒率乾燥期間は、塩化ビニル樹脂温度が40℃以下となる様な入口熱風温度条件下でのスプレー乾燥により、また、減率乾燥期間は、塩化ビニル樹脂温度が50℃以下となるような条件を満足するスプレー乾燥以外の手段により乾燥を行うことを特徴とする塩化ビニル樹脂の回収方法。」
と記載され、「そこで本発明においては、樹脂含水率が限界含水率以上の点でスプレー乾燥をやめ、減率乾燥期間となる後段はスプレー乾燥以外の手段によって乾燥を行なうことを提案している。なお、塩化ビニル樹脂の限界含水率は約3%(ウエツトベース)である。」(第2頁右下欄第1〜6行)と記載されている。また、従来技術として、「一方、プラスチゾルの流動特性とともに、成形品の特性とりわけ外観、強度に与える影響の大きなものとして、粉体配合剤の液状配合剤中への分散性があげられる。樹脂を代表として粉体配合剤が粗大な集合体としてゾル中に残存していると、プラスチゾルの流動性に影響を与えるばかりでなく、プラスチゾルの輸送時の目づまり、コーテイング加工時の筋引き等のトラブルや、成形品肌の荒れ、艶消し、さらには強度低下等の問題を引き起こす。」(第1頁右欄第9〜18行)及び「従来の樹脂は微細な粉体であるため、製品の袋詰め時、並びにプラスチゾル製造に際しての開袋投入及び混合時の粉体飛散等、作業環境の低下を引き起こすばかりでなく、粉体流動性が悪いため、自動計量、自動輸送が困難である。」(第2頁左上欄第15〜19行)と記載されており、これを受けて、「本発明者は、こうした問題点を解決するため検討を重ねた結果、・・、本発明に到達した。」(第2頁右上欄第12行〜同頁左下欄第3行)と記載されている。更に実施例2には、「ペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液(固形分含量60重量%)を回転円盤式スプレー装置を有する並流型スプレー乾燥機(塔径2,000mm、塔長3,500mm)を用い、回転円盤の回転速度9,000rpm、表に示す入口熱風温度で乾燥し、次いでこの乾燥樹脂粒子を熱風循環式乾燥機内に移し、40℃で6時間乾燥して、樹脂を得た。試験条件及びこの樹脂の特性を表に示す。」(第3頁左下欄第13〜20行)と記載され、「実験番号:4、〈前段乾燥条件〉スプレー乾燥機型式:回転円盤式、並流型、〈前段乾燥条件〉入口熱風温度(℃):80、〈前段乾燥条件〉樹脂温度*(℃):32、前段乾燥終了時の樹脂の含水率(%)(ウエツトベース):3.7、〈後段乾燥条件〉樹脂温度(℃):40、〈乾燥樹脂特性〉後段乾燥終了時の樹脂の含水率(%)(ウエツトベース):0.5、〈乾燥樹脂特性〉粒子平均径D50(μ):80、・・、〈乾燥樹脂特性〉ゾル分散性ノースファインネス:4.5」、「実験番号:比較例6、〈前段乾燥条件〉スプレー乾燥機型式:回転円盤式、並流型、〈前段乾燥条件〉入口熱風温度(℃):160、〈前段乾燥条件〉樹脂温度*(℃):43.5、前段乾燥終了時の樹脂の含水率(%)(ウエツトベース):0.5、〈後段乾燥条件〉樹脂温度(℃):-、〈乾燥樹脂特性〉後段乾燥終了時の樹脂の含水率(%)(ウエツトベース):-、〈乾燥樹脂特性〉粒子平均径D50(μ):40、・・、〈乾燥樹脂特性〉ゾル分散性ノースファインネス:0」及び「実験番号:比較例7**、〈前段乾燥条件〉スプレー乾燥機型式:回転円盤式、並流型、〈前段乾燥条件〉入口熱風温度(℃):160、〈前段乾燥条件〉樹脂温度*(℃):43.5、前段乾燥終了時の樹脂の含水率(%)(ウエツトベース):0.5、〈後段乾燥条件〉樹脂温度(℃):-、〈乾燥樹脂特性〉後段乾燥終了時の樹脂の含水率(%)(ウエツトベース):-、〈乾燥樹脂特性〉粒子平均径D50(μ):2〜3、・・、〈乾燥樹脂特性〉ゾル分散性ノースファインネス:4.5」が記載されており、註には「* 樹脂温度は、入口熱風温度に対応する湿球温度で表示した。なお用いた熱風の絶対湿度は0.01kgH2O/kgである。** 実験番号6で得られた乾燥樹脂粒子の一部をハンマー型粉砕機で粉砕し、特性試験に供した。」(第3頁右下欄の表)とのデータが示されている。この「ノースファインネス」については、「ノースファインネス 樹脂50gとジ-2-エチルヘキシルフタレート30gとをらいかい機で混合して得られたゾル中の樹脂粒子の粒度を示すもので、数値が大きい程細かい(8が最も細かく0が最も荒い)。」(第3頁右上欄第17行〜同頁左下欄第1行)と説明されている。
刊行物2には、塩ビペーストレジンの試験法について、「粉末中での粗大粒はゾル混練時に崩れるものもあるので、真に影響を及ぼすのはゾル中での粗大粒なのである。これは光学顕微鏡でも観察できるが、最も簡単で一般的なのはグラインドメーター(Grind meter)(グラインドゲージGrind gauge、ファインネスゲージFineness gaugeともいう)による方法である。」(第108頁下段第16〜23行)及び「深さがゼロから約百ミクロンまでの均一テーパーのミゾが精密加工で彫られている。・・測定法は、脱泡したゾルをミゾの最も深い部分におき、平滑に加工された第一〇七図に示すようなスクレーパー(Scraper,doctor blade、かきとり刃)を強く押しつけながら、静かにミゾ深の浅い方へ移動させる。ゾル中の極微粒子はミゾが極めて浅く(すなわちNF値は大)なっても表面に頭を出さないが、粗い粒子はその径に相当する深さの点で頭を出すから、肉眼では表面に点となって見えるようになる。極めて粗い粒子であれば、スクレーパーにつかえて共に移動するから、その跡は条となって現われる。この点々がどの辺からどの程度現われるかにより、その位置の目盛を読みとり、その値をそのゾルのNF値とする。」(第109頁上段第8行〜同頁下段末行)と記載されており、「NF値」8、7、6、5、4、3、2、1、0及び<0と「ミクロン」0、13、25、38、51、64、76、89,102及び114とを対応させた換算表(第109頁第25表)が記載されている。
刊行物3には、JIS K-5400の「4.4 つぶ」の試験について、「(2)つぶゲージ ・・みぞは幅約12mm,長さ約130mmで,深さが100μmから0μmまで連続して変化するように,底面を一様な傾斜に削って仕上げたものである。」(第74頁17〜22行)及び「(5)試験方法 ・・試料をかき混ぜて,直ちにつぶゲージのみぞの深いところに,みぞ全体を満たすよりも幾らか多目に流し込む。スクレーパーの上部の両端に近いところを指先で持ち,刃先がつぶゲージのみぞの深いところで,みぞの長手の方向に直角に横切るようにしてあて,スクレーパーの中心がつぶゲージの上面にほぼ直角になるように押しつける。刃先を押しつけたまま,目盛0の方向に均等な速さで1秒以内に一気に引き動かす。二つのみぞにしごきつけられた試料の面に現れる状態を,スクレーパーを引き切ってから5秒以内に斜上から観察し,A法ではつぶの分布の密度を,B法では線の分布をそれぞれ調べて,目盛を読む。(6)判定 (6.1)A法(つぶで判定する場合)図12に示すつぶ分布標準図の最も似ている分布にならって,二つのみぞについてそれぞれの目盛を読む。」(第75頁下から4行〜第76頁第11行)と記載されている。
実験成績証明書には、特開昭60-120726号公報(刊行物1)に記載された実施例2の実験番号4を追試して、ゾル中の未分散物の大きさが47μmであるとの結果が得られたとする実験結果、及び塩化ビニル樹脂の同一サンプルの水分率をカールフィッシャー法、赤外線水分計及びJIS法で測定したところ、それぞれ異なる数値が得られたとする実験結果が記載されている。

(4)取消理由についての判断
(4-1)取消理由i.及びii.について
まず、訂正後の本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比、検討する。
上記のように刊行物1には、ペースト加工に供する塩化ビニル樹脂の回収方法について記載されており、ペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液を回転円盤式スプレー装置を有するスプレー乾燥機により熱風乾燥し、次いで熱風循環式乾燥機内で乾燥して樹脂を得る実施例が示されている。更に同刊行物には、このようにして、含水率0.5%、粒子平均径80μ及びゾル分散性(ノースファインネス)4.5の特性を有する樹脂粒子が得られたこと(第3頁の表の「実験番号4」)が記載されており、この「ノースファインネス」について、「樹脂50gとジ-2-エチルヘキシルフタレート(即ち、「ジオクチルフタレート」)30gとをらいかい機で混合して得られたゾル中の樹脂粒子の粒度を示すもの」との説明がなされている。
そうすると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、ともに、ペースト加工用塩化ビニル樹脂である点で軌を一にしており、平均粒径についても重複しているが、
(イ)樹脂の水分率について、本件発明1では「カールフィッシャー水分計で測定した水分率0.1〜0.5%」としているのに対して、刊行物1には「含水率が0.5%」である樹脂が記載されているが測定法は不明である点、及び、
(ロ)未分散物の大きさについて、本件発明1では「粒子状塩化ビニル樹脂500gとジオクチルフタレート325gとを5リットルのホバートミキサーに入れ、25℃でフックペラで自転141rpm、公転67rpmの速度で10分間撹拌して製造したゾル中の未分散物の大きさをJIS K5400「塗料一般試験方法」4.4つぶの試験の方法のA法で判定したばあいの未分散物の大きさが50μm以下である」としているのに対して、刊行物1には「樹脂50gとジオクチルフタレート30gとをらいかい機で混合して得られたゾル中の樹脂粒子の粒度を示すノースファインネスが4.5」の樹脂が記載されているが、本件発明1のような試験方法によるデータは記載されていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
これらの相違点の内、まず(ロ)について以下に検討する
ゾル中の未分散物の大きさの判定法及びその大きさについて、訂正後の本件発明1では、「JIS K5400「塗料一般試験方法」4.4つぶの試験の方法のA法で判定したばあいの未分散物の大きさが50μm以下である」としており、刊行物3の記載からみて、この試験法は、深さが100μmから0μmまで連続して変化するように仕上げたみぞの深い方に試料(ゾル)を多目に流し込み、その上面にスクレーパーの刃先を押しつけたまま目盛0の方向に引き動かし、つぶの分布の密度を調べて目盛を読むことにより未分散物の大きさを判定するものと認められる。一方、刊行物1に記載された「ノースファインネス」とは、刊行物2の記載からみて、深さがゼロから約百ミクロンまでの均一テーパーのみぞの最も深い部分にゾルをおき、スクレーパーを強く押しつけながら静かに浅い方へ移動させ、粗い粒子が頭を出す点々の位置の目盛を読みとり、その値をそのゾルのNF(ノースファインネス)値としたものであるから、これらは実質的に同じ測定法と言い得るものである。そして、刊行物2に記載された換算表によれば、刊行物1の実施例2実験番号4に記載された「ノースファインネス4.5」という値はミクロン単位では約44となり、このような未分散物の大きさは、上記JIS K5400の試験方法で測定した場合に約44μmの値となる未分散物の大きさに相当するものと解される。
しかしながら、未分散物の大きさを判定するためのゾルの調製法についてみると、本件発明1では粒子状塩化ビニル樹脂とジオクチルフタレートとの混合をホバートミキサーで10分間行うのに対して、刊行物1に記載されたものではらいかい機で行っており、しかも同刊行物には混合時間について記載されていない。この混合時間を10分間程度とすることが特許異議申立人が提出した甲第6号証に記載されているように普通のことであるとしても、このような混合機の型式の相違がゾル中の未分散物の大きさに多大な影響を与えるであろうことは容易に予測し得るところであり、このことは、特許権者が提出した参考資料2(平成12年7月18日付け回答書に添付した実験成績証明書(2))の第4頁に記載された、「ゾル分散性は、ホバートミキサーを用いると10分間で57μm、20分間で53μmとなるが、らいかい機では10分間で53μm、20分間で50μmとなる」との実験結果にも示されている。
そうすると、刊行物1の実施例2実験番号4に記載されたノースファインネス4.5のゾル(らいかい機により得られるものと解される。)が、上記のように本件発明1の測定法(JIS K5400の試験方法)で測定して約44μmとなるものに相当するとしても、その分散性が、本件発明1のようにホバートミキサーを用いて調製したゾルについての「50μm以下」という分散性の範囲内に含まれるものとは、ただちには言えない。
この点について、特許異議申立人は、刊行物1の実施例2の実験番号4を追試したものとする甲第5号証(特許異議申立書に添付)及び甲第7号証(平成12年4月25日付け回答書に添付)を提出して、同実験番号のものが本件発明1の上記(ロ)のような分散性を有する旨主張し、一方、特許権者は、同じく刊行物1の実施例2の実験番号4を追試したとする参考資料1(平成11年12月28日付け特許異議意見書に添付した実験成績証明書)、参考資料2(平成12年7月18日付け回答書に添付した実験成績証明書(2))及び参考資料3(同回答書に添付した実験成績証明書(3):甲第7号証の試料を採用)を提出して、同実験番号のものが本件発明1の上記(ロ)のような分散性を有しない旨主張している。
そこで、これらの追試について子細にみると、いずれの実験でも刊行物1の記載に則して、固形分60%前後のペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液が試料とされ、スプレー乾燥には回転円盤式並流型の乾燥機が使用され、回転円盤回転数は9000rpmとされている。その乾燥機の装置規模は、刊行物1に記載されたスプレー乾燥機が内径2000mm、高さ3500mmであるのに対して、特許異議申立人が行った甲第5,7号証の追試では内径1200mm、高さ800mmのものが、特許権者が行った参考資料1〜3の追試では内径2000mm、高さ3000mm、円錐部が2200mm、円錐部角度が60度のものがそれぞれ用いられている。乾燥条件については、乾燥用空気絶対湿度及び乾燥入口温度は特許異議申立人及び特許権者のいずれの追試でも刊行物1の記載に則して、それぞれ、0.01(kg水/kg空気)及び80℃に設定されており、樹脂温度については、刊行物1、甲第5号証及び甲第7号証には「入口熱風温度に対応する湿球温度」から求めたものとして「32℃」が記載されているが、参考資料1〜3にはこれについては特に記載されていない。また、乾燥用空気量、水性分散液供給量及び乾燥出口温度については、刊行物1には特に記載がなく、甲第5及び7号証にも記載されていないが、参考例2及び3には、乾燥用空気量880(Nm3/hr)、水性分散液供給量55〜60(kg/hr)及び乾燥出口温度32〜34(℃)に設定したことが記載(参考資料3の第5頁)されている。そして、スプレー乾燥後の水分率については、刊行物1では3.7%と記載されているのに対して、甲第5号証には3.9%(赤外線水分計)、甲第7号証には3.9及び3.6%(JIS法)、参考資料1には3.7%、参考資料2には3.9%、参考資料3には3.8及び3.6%(いずれもJIS法)と記載されている。更に、熱風循環式乾燥については、いずれの追試でも刊行物1の記載に則して40℃6時間熱風乾燥を行っており、乾燥終了後の水分率は、刊行物1では0.5%とされているのに対して、甲第5号証では0.38%、甲第7号証では0.39及び0.37%(いずれもカールフィッシャー法)、参考資料1では0.42%、参考資料2では0.4%、参考資料3では0.48及び0.42%(いずれもJIS法)とされている。
ところで、刊行物1の特許請求の範囲には、「恒率乾燥期間は、塩化ビニル樹脂温度が40℃以下となる様な入口熱風温度条件下でのスプレー乾燥により、また、減率乾燥期間は、塩化ビニル樹脂温度が50℃以下となるような条件を満足するスプレー乾燥以外の手段により乾燥を行うこと」と記載されており、また、「そこで本発明においては、樹脂含水率が限界含水率以上の点でスプレー乾燥をやめ、減率乾燥期間となる後段はスプレー乾燥以外の手段によって乾燥を行なうことを提案している。なお、塩化ビニル樹脂の限界含水率は約3%(ウエツトベース)である。」と記載されているところから、同刊行物に記載された発明の実施例である実験番号4を追試するに当たっては、限界含水率の約3%以上の点でスプレー乾燥をやめるよう処理条件を設定すべきものと解される。
特許権者の提出した特許異議意見書及び回答書には、参考資料1の追試においてはこの観点から、乾燥用空気量、水性分散液供給量を調整して乾燥出口温度を32℃に設定し、これによりスプレー乾燥後の水分率を約3%に保ち得たことが記載されており、同様にして乾燥出口温度を設定した参考資料2及び3の追試では、乾燥用空気量及び水性分散液供給量の具体的数値も示されていることから、参考資料1〜3は刊行物1の実験番号4を忠実に追試したものとして評価し得る。これに対して、特許異議申立人の提出した甲第5号証及び甲第7号証には、スプレー乾燥後の水分率について3.9%(赤外線水分計)及び3.9、3.6%、(JIS法)と記載されているものの、このような水分率をもたらすための乾燥用空気量、水性分散液供給量及び乾燥出口温度について具体的に記載するところがなく、しかも、使用しているスプレー乾燥機の装置規模は刊行物1及び参考資料1〜3に記載されたものとはかけ離れて小容量のものであって、これら両号証に記載された実験結果には、信を置くことができない。
そして、特許異議申立人が参考資料1の実験について主張している、熱風循環式乾燥方式で樹脂を4cmの厚みにするという「均一な乾燥が行われない条件」を採用している点については、樹脂層の上層及び下層のいずれについても分散性が評価され、参考資料2及び3では厚さ1cmで実験が行われていることから、この点に特に問題とすべき欠陥はなく、また、同じく主張しているゾル分散性についての実験結果が刊行物1の記載事項と矛盾している点については、刊行物1の実施例2に比較例7として示された粉砕法により得られた粒子の「ノースファインネス4.5」という分散性が、本件発明1のようにホバートミキサーで調製したゾルについての「50μm以下」という分散性の範囲内に含まれるものとすることができず、格別優れた分散性であるとはいえないので、これと同等のノースファインネスを有する実験番号4を追試して50μmを越える分散性を示すという結果が出たことは、特に異とするに足りない。
したがって、上記(イ)の相違点について検討するまでもなく、訂正後の本件発明1は刊行物1に記載された発明とすることができない。
また、訂正後の本件発明1の評価手法で「未分散物の大きさが50μm以下」である粒子状塩化ビニル樹脂を製造する技術的手段について同刊行物には開示がなく、またこの点が自明でもない以上、訂正後の本件発明1は刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
次に、訂正後の本件発明2についてみると、これは、訂正後の本件発明1に更に技術的限定を付加したものであるから、上記と同様、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4-2)取消理由iii.について
本件明細書の請求項1に水分率が特定されていない不備については、上記訂正により解消された。
また、造粒体の平均粒径の求め方が不明である点は、明細書の記載から、粒径測定の正確を期して100μm以下ではコールターカウンターで、100μm以上では篩で測定することが明らかであり、平均粒径の求め方が不明であるとはいえない。

エ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断
ア.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人新第一塩ビ株式会社は、下記甲第1〜5号証を提出して、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、次の理由により取り消されるべきである旨主張している。
i.本件の請求項1及び2に係る発明は、同じ出願人の同日出願である特願昭63-288608号(特公平6-72169号:甲第1号証)に係る発明と実質的に同一である。
よって、本件の請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものである。
ii.本件の請求項1及び2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。
よって、本件の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
iii.本件の請求項1及び2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件の請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
iv.本件明細書の記載には、請求項1で水分率が特定されていない点及び造粒体の平均粒径の求め方が不明である点で不備がある。
よって、本件の請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第36条第3項、第4項及び第5項の規定に違反してなされたものである。
〈証拠方法〉
甲第1号証:特公平6-72169号公報(特願昭63-288608号)
甲第2号証:特開昭60-120726号公報(刊行物1)
甲第3号証:飯田,古谷著「塩化ビニルペースト加工(上)」,日本ゼオン(株),(1968.6.1)p.102-111(刊行物2)
甲第4号証:「JISハンドブック塗料」,(財)日本規格協会,(1985.4.12)p59-77(刊行物3)
甲第5号証:実験成績証明書 小瀬智之作成(取消理由通知で引用した実験成績証明書)

イ.判断
特許異議申立人新第一塩ビ株式会社の申立てた理由i.について以下に検討する。
特願昭63-288608号に係る発明は、出願公告された明細書(甲第1号証)の特許請求の範囲された下記事項により特定されるとおりのものと認められる。
「【請求項1】ペースト加工用に用いる球状塩化ビニル樹脂顆粒であって、安息角が30〜38度であり、全質量中にしめる直径20μm以上の球状顆粒の割合が60重量%以上であり、平均径が35〜120μmであり、かさ比重(ゆるめ)0.53〜0.58g/ccの球状塩化ビニル樹脂顆粒。
【請求項2】全質量中にしめる直径40μm以上の球状顆粒の割合が70重量%以上である請求項1記載の球状塩化ビニル樹脂顆粒。」
訂正後の本件発明1と特願昭63-288608号に係る発明とは、共に粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂である点で軌を一にしており、平均粒径が重複しているが、特願昭63-288608号に係る発明は訂正後の本件発明1の構成要件である
(a)「カールフィッシャー水分計で測定した水分率0.1〜0.5%」である点、及び
(b)「平均粒径30〜100μm、粒子状塩化ビニル樹脂500gとジオクチルフタレート325gとを5リットルのホバートミキサーに入れ、25℃でフックペラで自転141rpm、公転67rpmの速度で10分間撹拌して製造したゾル中の未分散物の大きさをJIS K5400「塗料一般試験方法」4.4つぶの試験の方法のA法で判定したばあいの未分散物の大きさが50μm以下である」点
を備えておらず、また、訂正後の本件発明1は特願昭63-288608号に係る発明の構成要件である
(c)「安息角が30〜38度」である点、
(d)「全質量中にしめる直径20μm以上の球状顆粒の割合が60重量%以上」である点、及び
(e)「かさ比重(ゆるめ)0.53〜0.58g/cc」である点
を備えていない。
特許異議申立人は、これら両発明は製造方法が同一であるから特に(b)の点において両者が相違するものではないと主張しているが、訂正後の本件明細書及び甲第1号証には、製造に際しての種々の処理条件がそれぞれ幅をもった数値範囲で記載されており、甲第1号証に記載された各処理条件の範囲内の組み合わせにより必然的に訂正後の本件発明1の(a)及び(b)の要件を備えた塩化ビニル樹脂が得られるものとは解されず、同様に、訂正後の本件明細書に記載された各処理条件の範囲内の組み合わせにより必然的に特願昭63-288608号に係る発明の(c)、(d)及び(e)の要件を備えた塩化ビニル樹脂が得られるものとも解されない。そして、(a)〜(e)の点が粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂の属性として自明の事項であると認めるべき根拠もない。
したがって、訂正後の本件発明1及びこれに更に技術的限定を付加した訂正後の本件発明2が特願昭63-288608号に係る発明と同一であるとすることはできない。
次に、特許異議申立人新第一塩ビ株式会社の申立てた理由ii.及びiii.については、上記2.ウ.(4-1)で述べた通り、訂正後の本件発明1は甲第2号証に記載された発明であるとも、それに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることができず、訂正後の本件発明2は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。
なお、訂正後の本件発明2は訂正後の本件発明1において更に技術的限定を付加したものであるから、上記のように訂正後の本件発明1が甲第2号証に記載された発明であるといえない以上、同様に、訂正後の本件発明2も甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
また、iv.の点については、上記2.ウ.(4-2)で述べた通り、明細書の記載からは造粒体の平均粒径の求め方が不明であるとはいえず、請求項1で水分率が特定されていない点は訂正により解消された。

ウ.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 カールフィッシャー水分計で測定した水分率0.1〜0.5%、平均粒径30〜100μm、粒子状塩化ビニル樹脂500gとジオクチルフタレート325gとを5リットルのホバートミキサーに入れ、25℃でフックペラで自転141rpm、公転67rpmの速度で10分間撹拌して製造したゾル中の未分散物の大きさをJIS K 5400「塗料一般試験方法」4.4つぶの試験の方法のA法で判定したばあいの未分散物の大きさが50μm以下であることを特徴とする粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂。
【請求項2】 粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂の平均粒径が30〜70μmである請求項1記載の粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、懸濁重合または乳化重合でえられたペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液からえられた、ゾル化性に優れた粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術・発明が解決しようとする課題】
ペースト加工用塩化ビニル樹脂の一般的な製造法は次のとおりである。
【0003】
(イ)塩化ビニルまたは塩化ビニルを主体とするモノマー混合物を、界面活性剤の存在下、懸濁重合または乳化重合させ、樹脂の水性分散液をうる。
【0004】
(ロ)樹脂の水性分散液を噴霧乾燥し、えられた造粒体を微粉砕する。
【0005】
ペースト加工用塩化ビニル樹脂は、樹脂を可塑剤中に分散させてゾルにし、そののち成形加工せしめられる。微粉砕されている理由は、樹脂を容易に可塑剤中に分散できるようにするためである。しかし、製品が微粉砕されたものであるから、製品袋の開袋時の粉塵の発生などによる作業環境の悪化や、粉体の自動計量供給ができないなどの問題がある。
【0006】
これらの問題を解決すべく、ペースト加工用塩化ビニル樹脂を微粉砕することなく、造粒体のままで使用できるようにする試みがなされてきている。たとえば、樹脂の水性分散液を噴霧乾燥するにあたり、えられる造粒体を微粉砕しなくても容易に可塑剤中に分散するように、乾燥用空気の供給時および排風時の温度を従来法よりも下げて造粒体を製造する方法が提案されている。
【0007】
しかし、排風温度を下げると、乾燥速度が遅くなり、造粒体に残留する水分が多くなるという問題が生じる。
【0008】
また、造粒体の平均粒径を20μm程度に小さくすると乾燥速度が上がり、造粒体に残留する水分が少なくなるが(特公昭57-5815号公報参照)、粉体特性がわるくなるという欠点がある。一方、造粒体の平均粒径を80〜100μm程度に大きくすると、粉体特性はよくなるものの、造粒体に残留する水分が多くなり、もう一段の乾燥工程を設ける必要が生じる(特開昭60-120726号公報参照)。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、スプレー乾燥機を用いて前記のごとき、粉体特性およびゾル化性に関する問題の解消されたペースト加工用塩化ビニル樹脂を製造するためになされたものであり、
カールフィッシャー水分計で測定した水分率0.1〜0.5%、平均粒径30〜100μm、粒子状塩化ビニル樹脂500gとジオクチルフタレート325gとを5リットルのホバートミキサーに入れ、25℃でフックペラで自転141rpm、公転67rpmの速度で10分間撹拌して製造したゾル中の未分散物の大きさをJIS K 5400「塗料一般試験方法」4.4つぶの試験の方法のA法で判定したばあいの未分散物の大きさが50μm以下であることを特徴とする粉体特性およびゾル化性に優れた粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明では、ペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液がスプレー乾燥機で乾燥・造粒せしめられる。
【0011】
前記ペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液は、塩化ビニルまたは塩化ビニルを主体とするモノマー混合物を、界面活性剤の存在下、懸濁重合または乳化重合することによりえられるものであり、従来からペースト加工用塩化ビニル樹脂を製造するために製造されている水性分散液と同様のものであり、このようなものであるかぎりとくに限定はない。
【0012】
このようにして調製された水性分散液を乾燥・造粒するために用いるスプレー乾燥機にはとくに限定はなく、一般に使用されているものが使用されうる。このようなスプレー乾燥機の具体例としては、たとえば「スプレイ・ドライイング・ハンドブック(SPRAY DRYING HANDBOOK)」(ケイ・マスタース(K.Masters)著、3版、1979年、ジョージ・ゴッドウィン社(George Godwin Limited)より出版)121頁の第4.10図に記載のごとき各種スプレー乾燥機があげられる。
【0013】
スプレー乾燥機でペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液を造粒する際、まず水性分散液がスプレー乾燥機内のアトマイザーで噴霧され、ついで乾燥せしめられて造粒体が製造され、系外に取出される。このときの乾燥温度が高いほど、えられた造粒体を可塑剤中に分散させるのに要する時間は長くなる。
【0014】
本発明においては、前記水性分散液をスプレー乾燥機で乾燥・造粒させる際に、絶対湿度0.007〜0.014kg水/kg空気、好ましくは0.008〜0.012kg水/kg空気の空気が乾燥に用いられ、該乾燥用空気の入口温度を60℃以上100℃未満、出口温度を53℃以下、さらには50℃以下、好ましくは40℃以上になるようにされる。
【0015】
入口温度とは、乾燥機入口における乾燥用空気の温度のことであり、出口温度とは、乾燥機出口における空気の温度のことであり、通常の温度計で測定された温度である。
【0016】
なお、入口温度が100℃になるように設定して1〜7日間程度運転すると、実際の温度は100±1℃の範囲で変動するが、このばあいの温度は100℃とする。また、出口温度が50℃になるように設定して1〜7日間程度運転すると実際の温度は50±1℃の範囲で変動するが、このばあいの温度は50℃とする。
【0017】
前記絶対湿度が0.007kg水/kg空気より低い空気のばあい、水性分散液の乾燥という点からは好ましいが、顆粒平均径が小さいばあい乾燥しすぎる、一方、0.014kg水/kg空気より高くなると造粒体に残留する水分が多くなり、この樹脂を用いて調製されるゾルの水分率も高くなり、後述するように良好な特性を有するゾルがえられなくなったり、そのゾルから製造するフィルムの表面状態がわるくなったりする。
【0018】
なお、前記絶対湿度は、セラミック湿度計(たとえば日本カノマックス(株)製のモデル6802)を用いて測定すればよい。たとえば、絶対湿度がそれぞれ0.008kg水/kg空気および0.012kg水/kg空気になるように設定して1〜7日間程度運転すると実際の絶対湿度はそれぞれ0.008±0.0005kg水/kg空気および0.012±0.0005kg水/kg空気の範囲で変動するが、このばあいの絶対湿度はそれぞれ0.008kg水/kg空気および0.012kg水/kg空気とする。
【0019】
前記乾燥用空気入口温度が100℃以上になったり、出口温度が53℃をこえたりすると、えられる造粒体を可塑剤中に分散させるのに要する時間が長くなる。
【0020】
なお、スプレー乾燥機が大きいばあい、たとえば塔長が5mをこえるようなばあいには、造粒体の滞留時間がどうしても長くなるため、排風温度を50℃程度におさえるのが、えられる造粒体の可塑剤中への分散性などの点から好ましい。
【0021】
造粒体を可塑剤中に分散させる時間を短くするという観点からは、乾燥温度は低い方が好ましいが、これにより乾燥に要する空気量は増大し、とくに乾燥用空気の湿度が高いばあい、造粒体に残留する水分が多くなり、前記と同様に良好な特性を有するゾルがえられにくくなったりしやすくなるため、過度に低温にしない方が好ましい。
【0022】
なお、造粒体に残留する水分率と造粒体の可塑剤への分散の難易との関係に関する本発明者らの検討の結果、造粒体の残留水分率が0.1%未満ではゾル化性がわるくなり、0.5%をこえると製造されるゾルの水分が多くなり、ゾルの粘度などに悪影響がでやすくなることが判明している。それゆえ、造粒体の水分率が0.1〜0.5%になるように乾燥機を運転することが好ましく、このようにすることによりゾル化性に優れ、物性の良好なゾルを与える粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂(造粒体)が安定してえられる。造粒体の水分率は、カールフィッシャー水分計を用いて測定すればよい。
【0023】
つぎに、造粒体の大きさであるが、造粒体の径は粉体特性の向上という観点からすれば大きい方が好ましいが、乾燥しやすくするという観点からは小さい方が好ましく、造粒体の平均粒径が30〜100μm、さらには30〜80μm、とくには30〜70μmのばあいには粉体特性と乾燥性の両者を満足させることができる。
【0024】
このようにして従来から使用されている微粉砕されたペースト加工用塩化ビニル樹脂と同程度のゾル化性を有し、該樹脂が有する開袋時の粉塵の発生などによる作業環境の悪化や粉体の自動計量供給ができないなどの問題の解決された平均粒径30〜100μm、カールフィッシャー水分計で測定した水分率0.1〜0.5%、粉体特性の指標の一つである安息角が30〜35度程度であり、後述のゾル中未分散物の大きさ測定法で評価したばあいに、未分散物の大きさが通常50μm程度以下のごとき特性を有する粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂が製造される。
【0025】
つぎに本発明の粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂を実施例にもとづき説明する。
【0026】
なお、ゾル特性、造粒体の平均粒径および安息角は下記の方法で評価した。
【0027】
(ゾル中の未分散物の大きさ)
造粒体500gとジオクチルフタレート325gとを5リットルのホバートミキサー((株)品川工業所製、5DMV型)に入れ、25℃でフックペラで自転141rpm、公転67rpmの速度で10分間混合撹拌し、ゾルを製造する。ゾル中の未分散物の大きさをJIS K 5400「塗料一般試験方法」4.4つぶの試験の方法で測定し、A法で判定する。すなわち、つぶゲージのみぞにゾルを注ぎ込み、スクレーパーでしごいて、みぞの中に厚さが100μmから0μmまで連続して変化するようにしてゾルの層を作り、つぶが現れた部分の層の厚さを読んで、ゾルの中に存在するつぶの集塊の直径の大きさを推定する。
【0028】
(フィルム中の未分散物の個数)
クリアランスが152μmのフィルムアプリケータを用い、「ゾル中の未分散物の大きさ」測定に用いたゾルをガラス板上にのばし、これを200℃のオーブン中に4分間入れてゲル化させてフィルムを作製する。このフィルムから縦横3cm×3cmの試料を切取り、試料中のフィッシュアイを肉眼で見てかぞえる。
【0029】
(造粒体の平均粒径)
100μm以上は節で分級し、それ以下はコールターカウンターで粒径分布を測定し、平均粒径を求める。
【0030】
(安息角)
(株)細川粉体工学研究所製、パウダーテスターで測定する。
【0031】
実施例1
ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダをペースト加工用塩化ビニル樹脂100部(重量部、以下同様)に対して1部含有する固形分濃度47%のペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液を、回転円盤式のアトマイザー(直径8.4cm)を有するスプレー乾燥機(塔径2.75m、塔長は直胴部が3.0m、円錐部が2.2m、円錐部角部が60度)で乾燥・造粒した。乾燥に用いた空気は除湿機を通して絶対湿度を0.01kg水/kg空気としたのち加熱し、80℃で乾燥機に供給し、出口の温度が45℃になるように乾燥用空気量を設定した。また、回転円盤の回転数は12000rpmとした。その他の条件ならびに造粒体の特性、ゾル中の未分散物の大きさ、さらに該ゾルからのフィルム中の未分散物の個数の評価結果を表1に示す。
【0032】
なお、造粒体の水分測定は、カールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)のMKA-3P型)で行なった。また、乾燥用空気の湿度は日本カノマックス(株)製のモデル6802により測定した。
【0033】
実施例2
乾燥に用いた空気の絶対湿度を0.012kg水/kg空気とした他は、実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0034】
実施例3
乾燥に用いた空気の絶対湿度を0.008kg水/kg空気とした他は、実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例1
乾燥に用いた空気の絶対湿度を0.022kg水/kg空気とした他は、実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0036】
表1に示したように、えられた造粒体の水分率は1%をこえており、この造粒体から製造したゾルは、つぶゲージにのばしてもゾル層の表面が平滑にならず、未分散物の大きさは測定できなかった。また、このゾルからフィルムを製造したが、正常なフィルムにならなかった。これはゾルを加熱した際にゾルに含まれる水が蒸発し、その痕跡が残ったためと考えられる。
【0037】
比較例2
乾燥に用いた空気の絶対湿度を0.006kg水/kg空気とした他は、実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0038】

【0039】
表1の実施例1〜3および比較例1〜2の結果から、乾燥に用いる空気の湿度を0.007〜0.014kg水/kg空気に調湿することにより、ゾル中の未分散物の大きさを50μm以下にすることができ、またフイルム中の未分散物をなくすことができることがわかる。また、比較例2のばあい、実施例1と比べ、未分散物の数が著しく増加していることがわかる。
【0040】
実施例4
乾燥用空気の入口温度を70℃、出口温度を40℃とした他は実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0041】
実施例5
乾燥用空気の入口温度を90℃、出口温度を45℃とした他は実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0042】
実施例6
乾燥用空気の入口温度を90℃、出口温度を50℃とした他は実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0043】
比較例3
乾燥用空気の入口温度を110℃、出口温度を55℃とした他は実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0044】
比較例4
乾燥用空気の入口温度を80℃、出口温度を55℃とした他は実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0045】
比較例5
乾燥用空気の入口温度を110℃、出口温度を45℃とした他は実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0046】

【0047】
表2の実施例4〜6および比較例3〜5の結果から、乾燥用空気の入口温度を100℃以下、出口温度を53℃以下にすることにより、ゾル中の未分散物の大きさは50μm以下にすることができ、またフィルム中の未分散物を実質的になくすことができることがわかる。
【0048】
実施例7
ラウリル硫酸ソーダをペースト加工用塩化ビニル樹脂100部に対して1部含有する固形分濃度49%のペースト加工用塩化ビニル樹脂の水性分散液を用い、回転円盤の回転数を8000rpmとした他は実施例1と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表3に示す。
【0049】
比較例6
回転円盤の回転数を22000rpmとした他は実施例7と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表3に示す。
【0050】
比較例7
回転円盤の回転数を6000rpmとした他は実施例7と同じ方法で造粒体を製造し、評価した。結果を表3に示す。
【0051】


【0052】
表3の実施例7の結果から、本発明の造粒体は安息角が小さく、取扱いやすい造粒体であることがわかる。
【0053】
なお、粉体工学の分野において、安息角が粉体の取扱いやすさの指標としてよく用いられており、粉体の自動供給ができている塩化ビニル樹脂のばあい、安息角は35度以下である。したがって、粉体特性に関しては、安息角が35度以下のペースト加工用塩化ビニル樹脂を粉体特性が良好であると判定した。
【0054】
【発明の効果】
本発明の粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂は、ゾル化性に優れ、粉粒体であるため流れ性がよく、微粉が少ないため可塑剤との混合時の粉塵発生の問題も少ないものである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2840049号発明の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち、
a.特許請求の範囲の減縮を目的として、【請求項1】の「水分率」を「カールフィッシャー水分計で測定した水分率」と訂正する。
b.明瞭でない記載の釈明を目的として、明細書【0009】第5行及び【0024】第4行(特許公報第3欄第29行及び第5欄第41〜42行)の「水分率」を「カールフィッシャー水分計で測定した水分率」と訂正する。
c.明瞭でない記載の釈明を目的として、明細書【0022】第8行(特許公報第5欄第28行)の「、赤外線水分計など」を削除する。
異議決定日 2000-08-24 
出願番号 特願平7-172257
審決分類 P 1 651・ 4- YA (C08J)
P 1 651・ 531- YA (C08J)
P 1 651・ 113- YA (C08J)
P 1 651・ 534- YA (C08J)
P 1 651・ 121- YA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鴨野 研一花田 吉秋加藤 友也▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 佐野 整博
船岡 嘉彦
登録日 1998-10-16 
登録番号 特許第2840049号(P2840049)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 粒子状ペースト加工用塩化ビニル樹脂  
代理人 朝比奈 宗太  
代理人 佐木 啓二  
代理人 佐木 啓二  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 西川 繁明  

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