• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23C
管理番号 1024600
異議申立番号 異議1999-73690  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-29 
確定日 2000-08-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2877549号「合成乳の製造法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2877549号の特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2877549号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成3年4月18日に特許出願され、平成11年1月29日に特許の設定登録がされ、その後、その特許について異議申立人 松本久紀により特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年4月4日に、訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年7月17日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
ア)訂正の内容
a)特許請求の範囲
訂正明細書特許請求の範囲のとおり、
「【請求項1】油脂の少なくとも0.05(重量)%の親油性乳化剤を含有する油相を、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して、水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入し、油相の平均粒子径が1から3μmである水中油型エマルションを調製することを特徴とする長期間保存しても乳分の分離の生じない風味のよい食品の合成乳の製造法。」と訂正する。
b)発明の名称
「合成乳とその製造法」を「合成乳の製造法」と訂正する。
c)詳細な説明の項
発明の詳細な説明の欄【0008】、【0009】を、上記特許請求の範囲の訂正に伴い、その記載と整合させるために、訂正請求書7.(2)訂正の要旨【0008】、【0009】のとおり訂正すること。
イ)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
d)上記a)の訂正事項に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、特許明細書という)の発明の詳細な説明【0023】の表1および【0024】に示されており、また、この訂正は水中油型エマルション中の油相の平均粒子径を特定範囲のものに限定するのものである。次に、「風味のよい食品の合成乳」については、特許明細書全体の記載から明らかに記載されており、また水中油型エマルションの用途を具体的に限定するものである。
そうすると、上記a)の訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
請求項2を削除することは、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。
e)発明の名称の訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴う訂正であるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
f)上記詳細な説明の項の訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴う訂正であるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、また、この訂正は特許明細書の記載の範囲内のものである。
さらに該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。
ウ)独立特許要件の判断
訂正後の請求項1に係る発明は、後記「3.特許異議申立について」の項に示したとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
エ)以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項および同条第3項で準用する特許法第126条第2〜4項の規定が、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされることから適用される、平成5年特許法第126条第1項ただし書き、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立について
(a)異議申立人の主張
異議申立人は、下記甲第1〜3号証を提出し、本件請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内おいて頒布された下記甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(以下、理由1という)、請求項1に係る発明は、甲第3号証の発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであり(以下、理由2という)、いずれも特許法第113条第1項第2項の規定により取り消されるべきである旨主張する。 記
甲第1号証:特開平2-95433号公報
甲第2号証:特開昭55-148056号公報
甲第3号証:特願平2-95368号(特開平3-293026号公報参照 )
(b)訂正発明
本件訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、本件訂正発明という)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、前記2.ア)a)の項に記載されたとおりのものである。
(c)甲号各証の記載内容
〔甲第1号証〕
「分散相となるべき液体を均一な細孔径を有するミクロ多孔膜体を通して連続相となるべき液体中に圧入することを特徴とするエマルションの製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、「ミクロ多孔膜体は、以下の様な特性を具備すべきである。(1)細孔径分布が出来るだけ小さく且つ均一な貫通孔を備えている。(2)所望の細孔径(通常0.1〜10μm程度)に調整することが可能である。(3)分散となるべき液体を連続相となるべき液体を中に圧入するに際して、変形乃至破壊しない程度の十分な機械的強度を備えている。(4)エマルションを形成すべき液体に対して化学的耐久性を有している。(5)分散相となるべき液体よりも連続相となるべき液体に対する濡れ性がより大きい。この逆の場合には、均一な粒子径を有するエマルションは、得られない。従って、必要ならば、表面を化学的に修飾することにより、表面を疎水化若しくは親水化することが出来る。」(第3頁左上欄3行〜同頁右上欄1行)、分散相となる液体として灯油を使用し、ミクロ多孔膜を通して連続相となるべき水相に圧入すること(第5頁右下欄下から2行〜6同右上欄下から5行の実施例1)、「圧入時の圧力は、分散相の種類、連続相の種類、界面活性剤の種類及び濃度などにより変わり得る……(中略)……本発明において、分散相となるべき液体および連続相となるべき液体は、特に限定されず、従来からエマルションの製造に使用されてきた全ての組合わせが採用される。」(第4頁左欄7行〜同頁右欄1行)、「第1図は、本発明方法により、エマルションが形成される機構を概念的に示したものである。……(中略)……粒子(7)の粒径は、ミクロ多孔膜体(1)の細孔径の2.5〜4倍程度となる。」(第4頁右上欄9行〜同頁左下欄8行)、「O/W型エマルションを製造する場合には、油相よりも水相に濡れやすい円筒型のミクロ多孔膜体(14)をモジュール(15)に装着しておく。油相は、タンク(11)からポンプ(17)および圧力計(19)を備えたライン(21)、モジュール(15)内の円筒型のミクロ多孔膜体(14)の外側およびライン(23)を経て、循環されている。一方、水相は、タンク(13)からポンプ(25)および圧力計(27)を備えたライン(29)、モジュール(15)内の円筒型のミクロ多孔膜体(14)の内側、およびポンプ(31)および流量計(33)を備えたライン(35)を経て、循環されている。この状態で、前記定義した最小圧力を若干上回る圧力を油相に加え、ミクロ多孔膜体(14)を通過させて、水相内に圧入させると、油相粒子(エマルション粒子)が水相中に分散したエマルションが形成され始め、タンク(13)に入る。当初のエマルションの濃度は低いが、これは、水相とともに上記の循環経路を繰り返し循環する間に、次第に濃度を高め、やがて所望の濃度に到達する。」(第4頁右下欄1行〜第5頁左上欄2行)、「本発明によれば、下記の如き顕著な効果が達成される。……(中略)……(ニ)したがって、本発明は、エマルションを利用する各種の技術分野、例えば、乳化系食品の製造、乳化系農薬の製造、乳化系医薬の製造、液液抽出、乳化重合法によるラテックスの製造などにとって、極めて有用である。」(第5頁17行〜同頁右欄11行)
〔甲第2号証〕
「米ヌカ油、サフラワー油、コーン油、サンフラワー油及び小麦胚芽油からなる群から選ばれた1種の油又は2種以上の混合油1.0〜15.0重量%、乳化剤0.1〜1.0重量%、無脂肪固形物8.0〜40.0重量%および水44〜91重量%から水中油型エマルジョンを調製後、殺菌、均質化を行い、包装前に、この乳化物に乳糖分解酵素を添加し、包装後に含有乳糖を加水分解させることを特徴とする滋養乳化飲料組成物の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、「実施例1.脱脂粉乳6kgとホエーパウダー6kgを水82.5Kgに溶解し、水相とする。……(中略)……調合油5Kgに大豆レシチン300g、ソルビタンモノパルミテート200gを加熱溶解し、油相とする。この水・油両相を30℃で予備乳化後、均質圧50Kg/cm2で均質化し、……(中略)……70℃に冷却後、均質圧130Kg/cm2で均質化し、さらに……(中略)……この後、5℃と35℃の恒温室を2日間隔で2ヶ月間リサイクルさせたが、オイルオフは全く無く、エマルジョン粒子径も顕微鏡観察したところ0.5〜1.5μであり、乳化安定性は良好であった。」(第4頁右下欄14行〜第5頁右上欄1行)、「実施例2.水55.4Kgに脱脂粉乳20Kgとホエーパウダー10Kg及びHLB-11の蔗糖脂肪酸エステル300gを溶解し水相とする。精製米ヌカ油12Kgにソルビタンモノステアレート300gを溶解し油相とする。この水・油両相を……(中略)……均質化し、・・・殺菌処理……(中略)……無菌充填する。・・・このものは、20〜25℃の室温に2ヶ月放置しても経日増粘はなく、エマルジョン粒子径も均一で、粒度が揃っており、水分離、オイルアップ現象も殆どなく極めて乳化安定性のよいことが判明した。」(第5頁右上欄2行〜同頁左下欄4行)
〔甲第3号証〕:
「油脂の少なくとも0.05%(重量)の親油性乳化剤を含有する油相を、均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入することを特徴とする水中油型エマルションの製造法。」(特許請求の範囲)
(対比・判断)
a)理由1について
本件訂正発明は、「油脂の少なくとも0.05(重量)%の親油性乳化剤を含有する油相を、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して、水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入する」という構成を採用することにより、油相の平均粒子径が1から3μmである水中油型エマルションからなる、長期保存しても乳分の分離の生じない風味のよい食品の合成乳を製造できるようにしたものである。
これに対して、甲第1号証には、油相を均一な微細孔径を有するミクロ多孔膜を通して水相中に圧入することにより、水中油型エマルションを製造すること、該水中油型エマルションの製造方法は、乳化系食品の製造に適用できることが記載され、さらに乳化剤を使用できること、および孔径0.1〜10μmのミクロ多孔膜を使用できることが記載されている。
しかしながら、分散相としての灯油をミクロ多孔膜を通して連続相となるべき水相に圧入する具体例が甲第1号証の実施例1に記載されていることからも明らかなように、甲第1号証に記載の技術は、水中油型エマルションを利用する各種技術分野に広く適用されるものであって、乳化系食品への適用のみを特に意図したものではなく、加えて、甲第1号証には、水中油型エマルションの製造において、水相には乳化剤を添加せず、油相にのみ乳化剤を添加するという乳化剤の使用の態様について何も記載されていないことを考えると、甲第1号証の記載から、乳化剤の特定の使用の態様、ミクロ多孔膜の特定の孔径、および特定の用途を組み合わせること、すなわち、「油脂の少なくとも0.05(重量)%の親油性乳化剤を含有する油相を、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して、水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入することにより食品の合成乳を製造する」という本件訂正発明の構成を導き出すことは、当業者において困難なことである。
また、甲第2号証には、油相と水相とから食品用水中油型エマルションを製造する際に、油相に親油性乳化剤を添加することが記載されているが、甲第2号証に記載のものは、本件特許明細書にも従来技術として記載されているように、油相と水相を均質機(ホモジナイザー)を用いて均質化して乳化するものであり、甲第1号証とは乳化する方法が基本的に異なるから、当業者なら甲第1号証記載の水中油型エマルションの製造方法に甲第2号証記載の「油相に親油性乳化剤を添加する」という技術手段を適用しようとは考えないのが普通である。
そして、本件訂正発明は、長期保存しても乳分の分離の生じない風味のよい食品の合成乳が得られたものと認められ、このような効果は、甲第1号証および甲第2号証記載のものからは予期できないことである。
したがって、本件訂正発明は、甲第1号証および甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
b)理由2について
甲第3号証(先願発明)は、前記のとおりの発明である。
本件訂正発明と先願発明とを比較すると、本件訂正発明は、先願発明の「親水性多孔膜」を「2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜」に特定すること、先願発明の「水中油型エマルション」を、「油相の平均粒子径が1から3μmである水中油型エマルション」に特定すること、水中油型エマルションの用途を「食品の合成乳」に特定しており、本件訂正発明は、これらの特定事項により、本件訂正明細書記載のような新たな効果を奏するものと認められる。
したがって、本件訂正発明と先願発明は同一とはいえない。
4.まとめ
以上のことから、特許異議申立の前記理由及び提出された証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。
又、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
合成乳の製造法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 油脂の少なくとも0.05%(重量)の親油性乳化剤を含有する油相を、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して、水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入し、油相の平均粒子径が1から3μmである水中油型エマルションを調製することを特徴とする長期間保存しても乳分の分離の生じない風味のよい食品の合成乳の製造法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、合成乳とその製造法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、長期間保存しても乳分の分離、変質等の生じない安定な食品の原料素材または食品等に有用であって、特に長期保存用の牛乳、加工乳、乳飲料、発酵乳飲料等としての使用に好適な新しい合成乳とその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、各種の乳製品、乳飲料等には様々に工夫が加えられた合成乳が使用されてきている。通常、これらの合成乳の製造法には、攪拌機、ホモミキサー、均質機、高圧ホモゲナイザー、コロイドミルまたは超音波等により、乳化する方法が採用されている。
【0003】
また、これら従来の方法で製造された合成乳は、エマルション粒子径が不揃いなために両相の分離を生じることがあり、その防止策としてエマルション粒子を微細にすること、すなわち攪拌、均質処理等を長時間または高圧力で行うこと(特公昭62-19810号公報、特開昭63-105637号公報等)、または特定の乳化剤、デキストリン等の特定の安定剤を添加すること(特開昭63-219339号公報、特開平1-252273号公報等)が提案され、一部実用化されてもいる。
【0004】
しかしながら、両相の分離を防止するために、このような攪拌、均質処理等を長時間または高圧力で行うには多大の動力を必要とする。そこで、均質化処理を必要とする部分と必要としない部分とに分けて均質化することによりこの欠点を改善する方法(特開昭50-107152号公報)が提案されているが、この方法の場合には、逆に、処理工程が増加するという新たな欠点が生じ、エマルションの粒子をあまり微細にするとよい風味(たとえば濃厚感)が得られないという欠点も生じる。さらにまた、特定の乳化剤、特定の安定剤を添加することにより、合成乳の物性、食感、風味も限定されてしまうという欠点もあった。
【0005】
これに対して、最近、これらの方法とは全く異なったエマルションの製造法が開発された(特開平2-95433号公報)。この方法は、分散相となるべき液体を均一な細孔径を有するミクロ多孔膜体を通して連続相となるべき液体中に圧入することを特徴としている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この特徴のあるミクロ多孔膜を用いる方法を工業的規模での生産工程において実施し、食品等のエマルションを大量に製造しようとする場合には、その操作性等にいくつかの問題点があることがわかってきた。すなわち、この方法によって水中油型エマルションを製造する場合には、親水性多孔膜を使用し、油相には乳化剤を添加せず、水相に親水性乳化剤を添加して乳化を行なうのが一般的手段となっている。しかしながら、この方法により大量に製造したエマルションは、油脂の平均粒子径および粒子径のバラツキ度がともに大きく、エマルションが不安定になる傾向があった。
【0007】
そこでこの発明の発明者等は、このような欠点を改良した方法をすでに提案してもいる(特願平2-95368号)。しかしながら、この改良方法はエマルションの特性そのものは良好としているものの、長期保存安定性を有し、かつ風味のよい合成乳の製造にはより一層の改良が必要であった。この発明は以上の従来技術に鑑みてなされたものであり、粒子径が均一で長期間保存しても乳分分離、変質を生じることのない安定なエマルション製造の方法をさらに発展させ、風味の良好な合成乳と、これを工業的規模で製造することのできる新しい方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決するものとして、油脂の少なくとも0.05%(重量)の親油性乳化剤を含有する油相を、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して、水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入し、油相の平均粒子径が1から3μmである水中油型エマルションを調製することを特徴とする長期間保存しても乳分の分離の生じない風味のよい食品の合成乳の製造法を提供する。
【0009】
以下、この発明についてさらに詳しく説明する。
【0010】
まず、この発明の製造法に使用する均一な微細孔径を有する親水性多孔膜は、その基本構成においてすでに公知のものであり、たとえば特許第1,518,989号の公告公報の実施例1に記載されている方法により製造されたガラス質ミクロ多孔膜、またはMPG(商標。MICROPOROUS GLASSの略。伊勢化学工業社製)等として市販されているものでもある。この発明では、これらの公知のもの、そしてさらに改良を加えたものを適宜に使用することができる。通常、これらの膜は、0.1〜10μmの任意の孔径で製造可能であり、目的とするエマルションにより適宜の孔径の膜を使用できる。この発明の合成乳の製造のためには、特に、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を使用することが望ましい。
【0011】
油相を圧入する水相としては、水そのもの、各種成分を溶解した水溶液、脱脂乳、ホエー等の製造する食品の合成乳の目的により適宜調製できる。この水相には親水性の食用乳化剤、たとえば市販のものをはじめとするショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル等の1種または2種以上を水に対して0.01%以上、望ましくは0.05〜0.5%を添加し、均一に混合することもできる。
【0012】
油相は、食用の動植物油脂、これらの加工品の単品または混合品とすることができ、最終製品の合成乳に対する割合は製造する合成乳の目的により適宜決定される。通常、最終製品の合成乳に対する油相の割合は0.5〜50%である。油相には親油性の食用乳化剤、たとえば市販のソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の1種または2種以上を油脂に対して0.05%以上、望ましくは0.5〜3.0%を添加し、均一に混合する。
【0013】
次に、この発明の製造法を添付した図面に沿って具体的に説明すると、たとえば図1の工程構成図に示したように、循環槽(1)に、必要に応じて殺菌または滅菌した所定量の水相を貯蔵し、この水相をポンプ(2)によりパイプライン(3)を経由して均一な微細孔径(望ましくは孔径2μm以下)を有する親水性多孔膜(4)を装着したモジュール(5)の中心部に移送し、ここで、後述するように親水性多孔膜(4)を通過させた油相粒子(望ましくは粒子径3μm以下)を圧入する。その後、パイプライン(6)を経由して再び循環槽(1)に戻す。この際の水相のモジュール(5)内における循環流速は、たとえば0.4〜5m/秒程度、より好ましくは0.8〜2m/秒の範囲で適宜選択することができる。
【0014】
一方、圧力容器(7)には、必要に応じて殺菌または滅菌した所定量の油相を貯蔵し、この油相を、バルブ(8)で調節されてパイプライン(9)を経由して導入した不活性ガスまたは圧力ポンプ等で所定の圧力に加圧し、バルブ(10)を通し、パイプライン(11)を経由してモジュール(5)に供給し、親水性多孔膜(4)の微細な孔から水相に圧入する。なお、この油相の加圧は、使用する油脂の種類、乳化剤の種類、量、乳化温度等により異なるが、一般的には、0.01〜10.0kg/cm2程度とすることができ、この範囲の圧力として適宜選択することができる。また、この油相圧入時の温度は、室温から80℃程度の範囲で適宜選択することができる。
【0015】
好ましくは、ほぼ全ての油相が水相に圧入されるまで上記の循環は継続する。
乳化終了後、得られた合成乳はパイプライン(12)を通じて次の工程に移送する。必要に応じて、得られた合成乳を殺菌または滅菌することもできる。
たとえば、以上のようにして粒子径がほぼ均一で長期間保存しても乳分分離、変質を起こさず、安定で風味のよい食品の合成乳が得られる。もちろん、以上の工程の構成の細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0016】
以下、この発明の実施例を示し、さらに詳しくこの発明の製造法、そしてその方法により得られる合成乳について説明する。
【0017】
【実施例】
実施例1
水8kgにショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬製。HLB15)を0.05%の割合で添加し、加熱しながら溶解し、水相を調製した。市販のコーンオイル(太陽油脂製)0.15kgに0.5%の割合でソルビタン脂肪酸エステル(花王製。HLB3.8)を添加し、均一に混合し、油相を調製した。図1に示す工程略図において孔径0.5μmの親水性多孔膜(MPG:伊勢化学工業製)を装着したモジュールを用い、圧力容器中の油相を窒素ガスにより1kg/cm2に加圧し、2m/秒の流速で循環している水相に室温で圧入し、合成乳約8,0kgを得た。
【0018】
得られた合成乳を後述の実施例4〜11と同一の方法で測定した結果、平均粒子径1.6μm、バラツキ度(α)0.92であり、粒子が極めて均一であり、良好であった。さらに、この合成乳を5℃で10日間冷蔵保存しても、油相の浮上によりリングを形成するような乳分分離、変質を起こさず安定であった。
実施例2
脱脂乳8kgを水相とした。市販のバターオイル(ニュージーランド産)0.1kgに5.0%の割合でグリセリン脂肪酸エステル(花王製。HLB3.8)を添加し、均一に混合し、油相を調製した。図1に示す工程略図において孔径0.5μmの親水性多孔膜(MPG:伊勢化学工業製)を装着したモジュールを用い、圧力容器中の油相を窒素ガスにより0.1kg/cm2に圧入し、1m/秒の流速で循環している水相に60℃で圧入し、合成乳約7.9kgを得た。
【0019】
得られた合成乳を実施例4〜11と同一の方法で測定した結果、平均粒子径1.6μm、バラツキ度(α)1.0であり、粒子が極めて均一であり、風味も良好であった。さらに、この合成乳を5℃で10日間冷蔵保存しても、油相の浮上によりリングを形成するような乳分分離、変質を起こさず安定であった。
実施例3
脱脂乳8kgにポリグリセリン脂肪酸エステル(第一工業製薬製。HLB15)を0.05%の割合で添加し、加熱しながら溶解し、水相を調製した。市販のバターオイル(ニュージーランド産)0.25kgに3.0%の割合のグリセリン脂肪酸エステル(花王製。HLB3.8)を添加し、均一に混合し、油相を調製した。図1に示す工程略図において孔径1.0μmの親水性多孔膜(MPG:伊勢化学工業製)を装着したモジュールを用い、圧力容器中の油相を圧力ポンプにより0.3kg/cm2に加圧し、0.8m/秒の流速で循環している水相に60℃で圧入し、合成乳約8.2kgを得た。
【0020】
得られた合成乳を実施例4〜11と同一の方法で測定した結果、平均粒子径2.1μm、バラツキ度(α)0.99であり、粒子が極めて均一であり、極めて濃厚感があり風味も良好であった。さらに、この合成乳を5℃で10日間冷蔵保存しても、油相の浮上によりリングを形成するような乳分分離、変質を起こさず安定であった。
実施例4〜11
次に、各種の乳化方法と対比しつつ、この発明の方法によって得られる合成乳について、その作用効果を評価した。
1)試料の調製
表1に記載した親水性多孔膜の細孔径、乳化圧力、乳化温度(第3欄)、乳化成分(第4、5欄)および乳化剤(第6、7欄)の条件を除き、前記実施例1と同一の方法で8種類(実施例4〜11)の合成乳試料を調製した。なお、比較例1、2は、従来法により均質機で170kg/cm2の圧力で乳化した合成乳試料である。
2)試験方法
▲1▼水中油型エマルションの粒子分布(平均粒子径およびバラツキ度)
各合成乳試料について、遠心沈降式粒度分布測定装置(堀場製作所。CAPA500)により、粒子径分布を測定し、平均粒子径(D)およびバラツキ度(α)を算出した。バラツキ度は、相対累積粒子径分布曲線において粒子容積が全体の10%を占める時の粒子径(D10)から粒子容積が全体の90%を占める時の粒子径(D90)を差引き、その差を平均粒子径で除した値である。従って、αが0のエマルションは粒子のバラツキが全く存在しない理想的な状態(現実には存在しない)を意味しており、粒子径が均一である程αは0に近似する。
【0021】
▲2▼合成乳の保存安定性
各合成乳試料について、200ml容透明牛乳ビン中に10日間5℃に保存した後に、肉眼により、脂肪の浮上(ビン壁面における油膜やリングの形成)の有無の観察を行い、次の基準により評価した。
X:脂肪の浮上有り
Y:脂肪の浮上無し
▲3▼官能検査
各合成乳試料について、その食感(濃厚感、後味およびそれらの総合的評価)について男女各20名からなるパネルで官能検査を行い、次の基準により評価した。
【0022】
A:良 好
B:やや不良
C:不 良
3)試験結果
この試験の結果は表1に示したとおりである。
【0023】
【表1】

【0024】
この表1から明らかなように、従来法で製造した合成乳(比較例1〜2)は、バラツキ度が大きく、保存安定性および風味のいずれにおいても、この発明の方法で製造した合成乳と比較して劣っていた。
この発明の方法で製造した実施例4〜8の平均粒子径と保存安定性および官能検査の結果を比較すれぱ、平均粒子径が3μmを超える実施例4では、保存安定性がやや不良であること、平均粒子径が1μm未満である実施例5では、風味がやや不良であることが認められた。従って、望ましい平均粒子径は3μm以下、1〜3μm、であることが判明した。
【0025】
同じ乳化圧力0.01kg/cm2で乳化した実施例4〜6について、親水性多孔膜の微細孔径と保存安定性とを比較すれば、微細孔径が2μmを超える実施例4では、保存安定性がやや不良であることが認められた。従って、望ましい親水性多孔膜の微細孔径は、2μm以下であることが判明した。
さらに、この発明の方法で製造した実施例9〜10の保存安定性および官能検査結果を比較すれば、油相に親油性乳化剤(0.05%)を含有しない実施例10では、保存安定性がやや悪く、風味もやや悪いことが認められた。従って、油脂の少なくとも0.05%の割合の親油性乳化剤の油相への添加が、望ましいことが認められた。
【0026】
なお、条件を変更してこの発明の方法により調製した試料についても、ほぼ上記と同様な結果が得られた。
【0027】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明により次のような優れた効果が得られる。
(1)この発明の方法により、粒子径が均一で長期間保存しても乳分分離、変質を起こさず、安定で、風味がよく、濃厚感を有する合成乳が得られる。
(2)この発明の方法においては、特定の乳化剤、特定の安定剤を用いることを必要とせず、また、均質機等の高価な設備を必要とせず、かつ均質機等を使用した場合に比較して低い処理圧力で、合成乳を製造できるので、製造費が安価になる
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の方法を実施するための工程例を示した概略図である。
【符号の説明】
1 循環槽
2 ポンプ
3 パイプライン
4 親水性多孔膜
5 モジュール
6 パイプライン
7 圧力容器
8 バルブ
9 パイプライン
10 バルブ
11 パイプライン
12 パイプライン
【図面】

 
訂正の要旨 訂正の要旨
a)特許請求の範囲の範囲の減縮を目的として
「【請求項1】油脂の少なくとも0.05(重量)%の親油性乳化剤を含有する油相を、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して、水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入し、油相の平均粒子径が1から3μmである水中油型エマルションを調製することを特徴とする長期間保存しても乳分の分離の生じない風味のよい食品の合成乳の製造法。」と訂正する。
b)明りょうでない記載の釈明を目的として
発明の名称を
「合成乳とその製造法」を「合成乳の製造法」と訂正する。
c)明りょうでない記載の釈明を目的として
明細書段落【0008】を
「【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決するものとして、油脂の少なくとも0.05%(重量)の親油性乳化剤を含有する油相を、2μm以下の均一な微細孔径を有する親水性多孔膜を通して、水相に少なくとも0.01kg/cm2の圧力で圧入し、油相の平均粒子径が1から3μmである水中油型エマルションを調製することを特徴とする長期保存しても乳分の分離の生じない風味のよい食品の合成乳の製造法を提供する。」と訂正する。
d)明りょうでない記載の釈明を目的として
【0009】を
「【0009】
以下、この発明についてさらに詳しく説明する。」と訂正する。
異議決定日 2000-08-09 
出願番号 特願平3-86771
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 肇  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 田村 明照
大高 とし子
登録日 1999-01-22 
登録番号 特許第2877549号(P2877549)
権利者 森永乳業株式会社
発明の名称 合成乳の製造法  
代理人 西澤 利夫  
代理人 西澤 利夫  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ