• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て その他  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1027387
異議申立番号 異議1999-71903  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-05-18 
確定日 2000-03-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第2825704号「エチレン共重合体フイルム」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2825704号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯、本件発明
本件特許第2825704号に係る発明についての出願は、昭和58年10月21日に特許出願した特願昭58-196081号の一部を平成4年6月1日に新たな特許出願とし、平成10年9月11日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、出光石油化学株式会社により特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年10月26日に特許異議意見書が提出されたものであり、本件発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された以下のとおりのものである。
「1.エチレンと炭素原子数が4〜20の範囲にあるα-オレフインとからなる実質上線状構造を有するエチレン・α-オレフインランダム共重合体のフィルムであり、かつ下記(A)〜(K)の要件を充足することによつて特徴づけられるエチレン共重合体のフイルム。
(A) ASTMD1238Eによつて測定したメルトフローレートが0.01〜200g/10minの範囲にあること、
(B) 密度が0.850〜0.930g/cm3の範囲にあること、
(C) 一般式[I]
U=(Cw/Cn-1)×100 [I]
[式中、Cwは重量平均分岐度を示し、Cnは数平均分岐度を示す。]で表わされる組成分布パラメーター(U)が40以下であること、
(D) 1000個の炭素原子中の分岐度が2個以下の組成成分のエチレン共重合体中に占める割合が10重量%以下であること、
(E) 1000個の炭素原子中の分岐度が30個以上の組成成分のエチレン共重合体中に占める割合が70重量%以下であること、
(F) メチレン基の平均連鎖長比が2.0以下にあること、
(G) 示差走査熱量計によつて測定した融点が1個又は複数個(n個、n≧3)存在し、かつ
(i) 融点(T1)は、一般式[II]
(175×d-46)℃〜125℃ [II]
[ここで、T1は複数個の融点が存在する場合には、最高融点の値(℃)を示し、式中dはエチレン共重合体の密度(g/cm3)を示す。]で表わされる範囲にあり、
(ii) 複数個(n個、n≧3)の融点が存在する場合には、該最高融点(T1℃)とそれらの複数個の融点のうちの最低融点(Tn℃)との差が一般式[III]
18<T1-Tn≦65 [III]
で表わされる範囲にあり、かつ
(iii) 該最高融点(T1℃)とそれらの複数個の融点のうちの第二番目に高い融点(T2℃)との差が一般式[IV]
0<T1-T2≦20 [IV]
で表わされる範囲にあり、
(H) 複数個(n個、ただしn≧3)のDSC融点のうちの最高融点(T1℃)における結晶融
解熱量(H1)と全結晶融解熱量(HT)との比が一般式[V]
0<H1/HT≦0.40 [V]
で表わされる範囲にあること、
(I) X線回折法で測定した結晶化度が15ないし70%の範囲にあること、
(J) ゲルパーミエイシヨンクロマトグラフイーで測定した分子量分布(▼M▲(Mの上に-)w(以下「Mw」と表記。)/▼M▲(Mの上に-)n(以下「Mn」と表記。) が2.5ないし10の範囲にあること、
(K)ヒートシール開始温度が95〜125℃であること。」

2.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人出光石油化学株式会社は、以下の甲第1〜4号証を提出して、本件発明についての特許は、次の理由により取り消されるべきである旨主張している。
(i)本件発明は、本件出願前に頒布された甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。
(ii)本件発明は、同一の日に出願された特願平6-329267号(特開平7-252320号(甲第3号証参照。))に係る発明と同一であり、しかも当該出願は拒絶査定が確定しており特許法第39条第2項の協議をすることができないから、同条同項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開昭60-88016号公報
甲第2号証:特公平3-36042号公報
甲第3号証:特開平7-252320号公報
甲第4号証:特願平6-329267号に対する拒絶理由通知書及び拒絶査定書

3.特許法第29条第1項第3号違反についての判断
特許異議申立人は、本件発明と、その分割の原出願である特願昭58-196081号(特開昭60-88016号(甲第1号証参照。)、以下「原出願」という。)に係る発明とは同一であり、本件出願は二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願としたものではないから出願日の遡及が認められず、本件発明は、現実の出願日である平成4年6月1日以前に頒布された甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当し、特許を受けることができない旨主張している。
そこで、この点についてみると、原出願に係る発明の要旨は、出願公告後に補正された明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものと認められる。
「1.エチレンと炭素原子数が4〜20の範囲にあるα-オレフインとからなる実質上線状構造を有するエチレン・α-オレフインランダム共重合体であり、かつ下記(A)〜(J)の要件を充足することによつて特徴づけられるエチレン共重合体。
(A) ASTMD1238Eによつて測定したメルトフローレートが0.01〜200g/10minの範囲にあること、
(B) 密度が0.850〜0.930g/cm3の範囲にあること、
(C) 一般式[I]
U=(Cw/Cn-1)×100 [I]
[式中、Cwは重量平均分岐度を示し、Cnは数平均分岐度を示す。]で表わされる組成分布パラメーター(U)が40以下であること、
(D) 1000個の炭素原子中の分岐度が2個以下の組成成分のエチレン共重合体中に占める割合が10重量%以下であること、
(E) 1000個の炭素原子中の分岐度が30個以上の組成成分のエチレン共重合体中に占める割合が70重量%以下であること、
(F) メチレン基の平均連鎖長比が2.0以下にあること、
(G) 示差走査熱量計によつて測定した融点が1個又は複数個(n個、n≧3)存在し、かつ
(i) 融点(T1)は、一般式[II]
(175×d-46)℃〜125℃ [II]
[ここで、T1は複数個の融点が存在する場合には、最高融点の値(℃)を示し、式中dはエチレン共重合体の密度(g/cm3)を示す。]で表わされる範囲にあり、
(ii) 複数個(n個、n≧3)の融点が存在する場合には、該最高融点(T1℃)とそれらの複数個の融点のうちの最低融点(Tn℃)との差が一般式[III]
18<T1-Tn≦65 [III]
で表わされる範囲にあり、かつ
(iii) 該最高融点(T1℃)とそれらの複数個の融点のうちの第二番目に高い融点(T2℃)との差が一般式[IV]
0<T1-T2≦20 [IV]
で表わされる範囲にあり、
(H) 複数個(n個、ただしn≧3)のDSC融点のうちの最高融点(T1℃)における結晶融
解熱量(H1)と全結晶融解熱量(HT)との比が一般式[V]
0<H1/HT≦0.40 [V]
で表わされる範囲にあること、
(I) X線回折法で測定した結晶化度が15ないし70%の範囲にあること、
(J) ゲルパーミエイシヨンクロマトグラフイーで測定した分子量分布Mw/Mnが2.5ないし10の範囲にあること。」
本件発明と原出願の発明とを対比、検討すると、両発明はエチレン共重合体の構成に関して本件発明でいう(A)〜(J)の点で一致するものの、
(イ)本件発明が「エチレン共重合体のフィルム」の発明であるのに対し、原出願の発明は「エチレン共重合体」自体の発明である点、及び
(ロ)本件発明が「(K)ヒ-トシール開始温度が95〜125℃であること」を構成要件としているのに対し、原出願の発明ではこの点を構成要件としていない点
で両発明は相違している。
特許異議申立人はこれらの点について、「(イ)フィルムは共重合体がとる最も普通の状態であるから、その状態を発明の対象として特定しても、共重合体の発明と異なる発明を構成することにはならない。甲第4号証(拒絶理由通知書)においてもその点が指摘されている。(ロ)原出願の明細書の実施例にはフィルムとしたときのヒートシール開始温度が物性の一つとして評価されており、その測定値はいずれも95〜125℃の範囲内に包含されているので、原出願の発明の共重合体においても当然その要件が満たされている。」旨の主張をしている。
しかしながら、(イ)フィルムが共重合体の通常の状態であるとしても、フィルムと共重合体とではそれぞれの使用形態や適用分野は大きく異なり、物の発明として明確に区別し得るものであり、また、(ロ)原出願の実施例に、本件発明の範囲内のヒートシール開始温度が測定されたことが記載されていても、原出願の特許請求の範囲に記載された構成から本件発明の上記ヒートシール開始温度に関する構成要件が自明に導き出せるものとはいえず、しかもその点に充分な技術的意味(包装用フィルムとしての有用性等:本件特許明細書【0065】等参照。)が認められる以上、原出願の発明がこの点を実質的に備えているものとすることはできない。
なお、甲第4号証の拒絶理由通知書は本件出願とは別件の特願平6-329267号に対するものであり、本件特許異議申立事件の審理に資するものではない。
したがって、本件発明は、原出願の発明と同一とはいえず、本件出願は適法な分割出願である。ゆえに、甲第1号証(特開昭60-88016号公報)は本件発明の遡及出願日(昭和58年10月21日)以後に頒布されたものであるから、本件発明が特許法第29条第1項第3号に違反するとの特許異議申立人の主張は採用できない。

4.特許法第39条第2項違反についての判断
特許異議申立人は、同一の原出願(特願昭58-196081号)から分割された本件出願の発明と、特願平6-329267号(特開平7-252320号(甲第3号証参照。)、以下「他の分割出願」という。)の発明とは同一であり、これらの出願日はともに原出願の出願日まで遡及するから、本件出願と他の分割出願とは同一の発明について同日にされた二以上の特許出願であり、しかも他の分割出願は拒絶査定が確定しており特許法第39条第2項の協議をすることができないから、本件発明は同条同項の規定により特許を受けることができない旨主張している。
そこで、この点についてみると、他の分割出願に係る発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものと認められる。
「1.エチレンと炭素原子数が4〜20の範囲にあるα-オレフインとからなる実質上線状構造を有するエチレン・α-オレフインランダム共重合体のフィルムであり、かつ下記(A)〜(J)の要件を充足することによつて特徴づけられるエチレン共重合体のフイルム。
(A) ASTMD1238Eによつて測定したメルトフローレートが0.01〜200g/10minの範囲にあること、
(B) 密度が0.850〜0.930g/cm3の範囲にあること、
(C) 一般式[I]
U=(Cw/Cn-1)×100 [I]
[式中、Cwは重量平均分岐度を示し、Cnは数平均分岐度を示す。]で表わされる組成分布パラメーター(U)が50以下であること、
(D) 1000個の炭素原子中の分岐度が2個以下の組成成分のエチレン共重合体中に占める割合が10重量%以下であること、
(E) 1000個の炭素原子中の分岐度が30個以上の組成成分のエチレン共重合体中に占める割合が70重量%以下であること、
(F) メチレン基の平均連鎖長比が2.0以下にあること、
(G) 示差走査熱量計によつて測定した融点が1個又は複数個(n個、n≧3)存在し、かつ
(i) 融点(T1)は、一般式[II]
(175×d-46)℃〜125℃ [II]
[ここで、T1は複数個の融点が存在する場合には、最高融点の値(℃)を示し、式中dはエチレン共重合体の密度(g/cm3)を示す。]で表わされる範囲にあり、
(ii) 複数個(n個)の融点が存在する場合には、該最高融点(T1℃)とそれらの複数個の融点のうちの最低融点(Tn℃)との差が一般式[III]
18<T1-Tn≦65 [III]
で表わされる範囲にあり、かつ
(iii) 該最高融点(T1℃)とそれらの複数個の融点のうちの第二番目に高い融点(T2℃)との差が一般式[IV]
0<T1-T2≦20 [IV]
で表わされる範囲にあり[但し、融点ピークが2個(n=2)の場合には該一般式[IV]に従うものとする。]、
(H) 該融点(T1℃)における結晶融解熱量(H1)と全結晶融解熱量(HT)との比が一般式[V]
0<H1/HT≦0.40 [V]
で表わされる範囲にあること、
(I) X線回折法で測定した結晶化度が15ないし70%の範囲にあること、
(J) ゲルパーミエイシヨンクロマトグラフイーで測定した分子量分布Mw/Mn が2.5ないし10の範囲にあること。」
本件発明と他の分割出願の発明とを対比、検討すると、両発明はともにエチレン共重合体フィルムに関するものであり、本件発明でいう(A)〜(J)の物性値についてそれぞれ一致あるいは重複する数値範囲を有するものの、
(ハ)本件発明が「(K)ヒ-トシール開始温度が95〜125℃であること」を構成要件としているのに対し、他の分割出願の発明ではこの点を構成要件としていない点
で両発明は相違している。
特許異議申立人はこの点について、「他の分割出願の明細書の実施例には本件のものと同一の実施例が含まれ、その実施例には共重合体フィルムのヒートシール開始温度が95〜125℃の範囲内あることが記載されているので、他の分割出願の発明も当然上記要件を備えている。このことは、甲第4号証(拒絶理由通知書)において審査官が『なお、同一出願人の特願平4-163321号に記載された発明(本件特許発明)とも実質的に同一である点にも留意されたい。』と付記しているのに対し、本件特許権者は何ら反論せず容認している事実によっても裏付けられる。」旨の主張をしている。
しかしながら、本件出願と他の分割出願とは、ともに同一の原出願から分割されたものである以上、それぞれの実施例に共通する部分を有していることは特に異とするに足らない。
そして、特許請求の範囲に記載から把握される発明の構成からみて、両者の間には上記のような明確な相違(上記(ハ))が存在し、それが他の分割出願の特許請求の範囲の記載から自明に導き出せるものではなく、しかもその点に、包装用フィルムとしての有用性等充分な技術的意味が認められる以上、本件発明と他の分割出願の発明とが同一の発明であるとすることはできない。
なお、甲第4号証の拒絶理由通知書は、「特願平6-329267号(他の分割出願)の発明とその分割の原出願(特願昭58-196081号)の発明とが同一であるから他の分割出願について出願日の遡及が認められず、他の分割出願の発明はその出願前に頒布された特公平3-36042号公報(甲第2号証)に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない」との趣旨で通知されたものであり、それに対して出願人(本件の特許権者)が反論をしなかったことが、直ちに他の分割出願の発明と本件発明とが同一であること(付記の点)をも容認したことを意味するものとはいえない。
したがって、本件発明は、他の分割出願の発明と同一とはいえず、本件発明が特許法第39条第2項に違反するとの特許異議申立人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-01-31 
出願番号 特願平4-163321
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08F)
P 1 651・ 5- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高梨 操高原 慎太郎油科 壮一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 佐野 整博
中島 次一
登録日 1998-09-11 
登録番号 特許第2825704号(P2825704)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 エチレン共重合体フイルム  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 阿形 明  
代理人 牧村 浩次  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ