• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1031838
異議申立番号 異議2000-71243  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-27 
確定日 2000-11-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2953166号「電動送風機」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2953166号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第2953166号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年1月13日に特許出願され、平成11年7月16日に設定登録され、その後、三洋電機株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされたところ、その指定期間内である平成12年8月4日に訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否
1.訂正事項
A.特許請求の範囲の請求項1における「軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するカーボンブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、カーボンブラシ、整流子を後方に配置したことを特徴とする電動送風機。」を、「軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するカーボンブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、カーボンブラシ、整流子を後方に配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出され、前記電動機の側面の風孔部より吸込まれた冷却風は、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されることを特徴とする電動送風機。」と訂正する。
B.明細書の段落【0008】における「配置したことにより、冷却ファンによる冷却風を電動送風機側面の風孔部より吸い込み、電動機内部を冷却した後、電動機の排出口より排出する構成とした」を、「配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出され、前記電動機の側面の風孔部より吸込まれた冷却風は、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されることにより、冷却ファンによる冷却風を電動送風機側面の風孔部より吸い込み、電動機内部を冷却した後、電動機の排出口より排出する構成とした」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正Aについて
訂正Aは前記回転ファン及び前記冷却ファンにより生じる各空気流(風)の流路を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮に相当するものである。
また、この訂正Aは訂正前の明細書に記載された事項(特に、段落【0012】及び【0013】に記載された事項)に基づくものである。
さらに、訂正後の明細書の請求項1に係る発明においても、訂正前の明細書の請求項1に係る発明が解決しようとする、訂正前の明細書における段落【0006】に記載の技術的課題と同じ技術的課題を解決するものであり、訂正前の明細書の請求項1に係る発明と訂正後の明細書の請求項1に係る発明とは技術思想が異なるものとはいえないのであるから、訂正Aは特許請求の範囲を実質上変更するものではない。また、訂正Aは特許請求の範囲を実質的に拡張するものでもない。
(2)訂正Bについて
訂正Bは、前記特許請求の範囲の訂正(訂正A)に合わせて発明の詳細な説明の対応箇所を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に相当するものである。
そして、訂正Aと同じく、訂正Bは訂正前の明細書に記載された事項に基づくものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、前記訂正(訂正A及びB)は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
【3】特許異議の申立てについての判断(取消理由についての判断)
1.本件発明
本件請求項1に係る発明は、訂正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
【請求項1】 軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するカーボンブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、カーボンブラシ、整流子を後方に配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出され、前記電動機の側面の風孔部より吸込まれた冷却風は、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されることを特徴とする電動送風機。
2.引用刊行物
当審が通知した取消理由に引用した特公昭63-23772号公報(以下、「引用例1」という。)には、「図示の電動送風機ユニットUは、独立して通気される電動機部分Mと、真空送風機部分Fとからなる。 ・・・(中略)・・・ 電動機部分Mにおいて、一次側電動機ハウジングすなわち固定子構造として、左側の電動機端部ブラケット11と右側すなわち送風機側の電動機側部ブラケット12は、前者のブラケット11を通って延長し後者のブラケット12にねじ込まれる電界締付ボルト13によって、巻線形固定子すなわち界磁鉄心構造Sの対向する端部に係合するように、固定される。回転子Rは、固定子構造の中で回転するように、回転軸Tによって支持され、この回転軸Tは、その左右端で、内向きの軸受ソケット17,18の中に収容された適当な軸受構造15,16を通って突出する。ここで、回転子Rは整流電機子であて、これのためにブラシBで示されたような適当なブラシ装置が、送風機側の電動機端部ブラケット12の内面に取付けられる。 ・・・(中略)・・・ 穿孔された金属体20は、端部で互いに固定された端部ブラケット11,12における環状の浅い平底の受け構造11n,12nを、取外し可能にまたは取外し不能に包囲して、電動機の周囲を包囲する電動機ハウジングを形成する。この電動機ハウジング20には、空気出口が適当に穿孔され、特に、整流子及びブラシの区域を通って排出される電動機通気用空気のための出口20aが穿孔される。回転軸Tの左方外端に固定された通風用軸流送風機22によって、その空気は、平らな終端フランジを備えたカップ状の送風機覆い23における多数の冷却空気入口開孔を通して吸引され、端部ブラケット11における開孔を通過し、次いで電動機部分の全長を、特に回転子と固定子構造との間で通るように推進されて、電動機の有効な冷却を達成する。 ・・・(中略)・・・ さらに、部材12の周縁区域に示されているように、送風機ハウジングおよび空気排出部が特別の形状を有することによって、リム12rの内方の通路24を含む渦巻状に膨大する空気出口通路が形成され、通路24は、隣接する吸引送風機の周から吐出される空気を受けるため、右方で軸線方向に開く。通路24は、部材12と一体の吐出連結フランジ24aにおける出口に接近するに従って、長手方向すなわち軸線方向の幅が増大するようになっているので、連続的に増大する流れ断面を有する。」(4頁左欄7行乃至右欄27行)及び「送風機部分Fは、実際上は、2段設計になっている。送風機ハウジングHは、通常、リム12rの外方に取付けられた殻構造を包含し、これは、ここでは、2個の平底で円筒壁の引抜き金属板の殻部分31および35からなる。円筒壁で、リムに取付けられ、かつ半径方向に先細の第2段羽根車32を包囲する、殻部分31は、その半径方向の壁において、第2段羽根車の目への入口として、中央開口を有する。この半径方向の壁の外面すなわち右面には、通常の固定羽根33が固定される。かくして、羽根車32の吐出外周は、ハウジングの出口から軸線方向に偏位し、空気を、前述した通路24の中に軸線方向に送る。 羽根車32と同様の第1段羽根車34のために、第2の殻部分35が、殻部分31の僅かに小さい円筒形端部のまわりに、入れ子式で嵌められ、この第2の殻部分35は、その基部の平底の区域すなわち半径方向の壁の区域に、第1段羽根車の入口の目に軸線方向に作動空気を流すための、大きな中央の入口開口36を備える。 ・・・(中略)・・・ ハウジングHの入口36から、第1段の羽根車34,中間の「固定送風機」33,第2段の羽根車32を通って、出口24aに導かれる通路24に達する、作動空気の流れ経路は、実線矢印によって示される。電動機に対する通気用空気の流れ経路は、電動機部分で鎖線矢印で示される。」(5頁左欄7行乃至右欄8行)との記載並びに図面の記載がされている。
そして、整流電機子については具体的な構成は記載されていないものの、整流子を有する以上、整流子には電機子巻線の端部が接続されていることは明らかであり、また、電動機において電機子巻線は電機子鉄心に巻装されることは技術常識である。
さらに、送風装置の電動機が高速で回転されることは技術常識である。
よって、これらの記載によれば、引用例1には「軸受15,16により回転自在に支持された軸Tと、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる整流電機子、および巻線形固定子である界磁鉄心構造S、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するブラシBとからなり、高速で回転する電動機部分M、ならびに前記電動機部分Mの一方の軸端に固定された羽根車32,34と、前記羽根車32,34の後方に位置する固定羽根33及び通路24と、前記羽根車32,34と固定羽根33及び通路24を覆う送風機ハウジングH、ならびに前記電動機部分Mのもう一方の軸端に固定された通風用軸流送風機22と、前記通風用軸流送風機22を覆う送風機覆い23とからなる送風装置であって、前記通風用軸流送風機22による風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁鉄心構造Sを前方に、ブラシB、整流子を後方に配置しており、前記送風機ハウジングHの入口開口36より吸込んだ空気は前記羽根車32,34、固定羽根33及び通路24を通って前記送風機ハウジングHの排気口より排出され、前記送風機覆い23の冷却空気入口開口より吸込まれた冷却風は、前記電動機部分Mの内部を冷却した後、前記電動機部分Mの側面の出口20aより排出される送風装置。」が開示されているものと認められる。
ここで、ブラシの摩耗により生ずる粉末が電動機内に付着すると絶縁劣化等の悪影響を及ぼすため、冷却風の流れに対してカーボンブラシと整流子を後方に配置し、該粉末を外部に排出することが周知(必要であれば、後記の引用例2及び3を参照。)であることを考慮すると、引用例1に記載のものにおいて、「前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、ブラシ、整流子を後方に配置し」た構成が、ブラシの摩耗により生ずる粉が電動機内に付着し、絶縁劣化等の悪影響を及ぼすのを防止する効果を奏するものと認められる。
同じく、当審が通知した取消理由に引用した実願昭46-52974号(実開昭48-9904号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、「以下本考案の一実施例を図面に基づいて説明すると、(1)は筒状モータケースで、一方の開口(2)端には橋絡片(3)(3)が一体に設けられている。このモータケース(1)はステータ巻線(4)を備えたステータ鉄心(5)を内設し、橋絡片(3)(3)に軸受(6)が装着されている。(7)は絶縁性の刷子ホルダーで、カーボンブラシ刷子(8)及びこの刷子を常時内方に付勢するコイルスプリング(9)を内挿しており、この刷子ホルダー(7)はモータケース(1)の周壁に取付けられる。(10)は軸受(6)で支持される回転軸で、整流子(11)はカーボン刷子(8)の内方端面に摺接している。(12)はモータ軸(10)に固定されたファンで、図面では電気掃除機等に用いられる真空ファンの場合を示し、空気流は破線矢印の如き経路を経てモータを冷却して開口(2)端に吐出する。(13)・・・は本考案に係る空気流のガイドリブで、第2図に示すように回転軸(10)の回転方向(矢印)に傾斜するように橋絡片(3)(3)の軸受(6)周囲に突設される。図中(14)は回転軸(10)に固定された軸受カバーである。」(1頁14行乃至2頁12行)及び「これに対し本考案は ・・・(中略)・・・ カーボン刷子の摩耗により生ずるカーボン粉末をこの整流された空気流と一緒にモータケースの開口から排出せしめることができ、モータの絶縁抵抗の低下及び軸受オイルの流出等の従来装置の欠点を改善することができ、また空気流の整流により風音を減少せしめることができる等簡単な構造で実用的効果が大きい。」(3頁7行乃至16行)との記載並びに第1図の記載がされている。
同じく、当審が通知した取消理由に引用した実願昭50-25811号(実開昭51-106808号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)には、「刷子を有する回転電気において刷子の摺動により発生するカーボンダストは、機内に付着して短絡事故の原因となるが、特に直流機においては、上記短絡事故を誘発するばかりでなく、整流作用の悪化をも招くことになる等の欠点があった。 本考案はこれらの事故や不具合を未然に防ぐため、カーボンダストが機内に拡散、付着する以前に、外部に効率よく排出できるように構成した回転電機を提供することが目的である。」(1頁14行乃至2頁2行)及び「以上のような本考案に今、冷却風が第1図の矢印A,A’,A’’等から入れば、吸気孔カバーbに吸い込まれた冷却風は回転電機aの内部被冷却物を冷却した後、エンドプレート1に設ける各排出孔2より矢印B,B’方向に排出される。この場合、排気孔2が整流子4の表面近くに設けられており、しかも上記絶縁物ダクト3の内径と整流子表面4との間に僅かではあるが隙間Gが形成されているから、この部分を通過する排気の風速が高められ、刷子の摺面によって発生するカーボンダストの機内への拡散を防止すると共に、これらカーボンダストが冷却風の排気に伴い効率よく機外に排出され、整流子表面4への付着及び機内における残留物をなくし、短絡事故や整流不良等を未然に防ぐことができる。」(2頁11行乃至3頁5行)との記載並びに第1図乃至第4図の記載がされている。
3.対比・判断
本件請求項1に係る発明と引用例1に記載のものとを対比すると、引用例1に記載のものにおける「整流電機子」、「巻線形固定子である界磁鉄心構造S」、「羽根車32,34」、「固定羽根33及び通路24」、「送風機ハウジングH」、「通風用軸流送風機22」、「送風機覆い23」、「入口開口36」及び「送風装置」は、それぞれ本件請求項1に係る発明の「電機子」、「界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁」、「回転ファン」、「エアガイド」、「ファンケース」、「冷却ファン」、「冷却ファンケース」、「吸気口」及び「電動送風機」に相当するものといえるから、両者は、「軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、ブラシ、整流子を後方に配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出される電動送風機。」である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
(1)ブラシが、本件請求項1に係る発明ではカーボンブラシであるのに対して、引用例1に記載のものではカーボンブラシであるか否か不明である点。
(2)冷却風が、本件請求項1に係る発明では前記電動機の側面の風孔部より吸込まれ、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されるのに対して、引用例1に記載のものでは前記冷却ファンケースの冷却空気入口開口より吸い込まれ、前記電動機内部を冷却した後、前記電動機の側面の出口より排出される点。
そこで、前記相違点について検討する。
(相違点1について)
電動機において、ブラシとしてカーボンブラシを用いることは引用例2及び3にも記載があるように周知である。
よって、引用例1に記載のものにおいて、ブラシをカーボンブラシとすることは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
(相違点2について)
電動機において、冷却風が電動機の側面の風孔部より吸い込まれ、電動機内部を冷却した後、冷却ファン側に排出されることが引用例3に記載されており、また、電動送風機において、冷却風が電動機内部を冷却した後、回転ファンとは反対側に排出されることが引用例2に記載されている。
そして、これら技術事項は電動機の冷却という技術分野において引用例1に記載のものと共通するものであり、これら技術事項を引用例1に記載のものに適用することは格別困難であるとは認められない。
また、引用例1に記載のものにおいて、冷却ファンケース側を上とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。
よって、引用例1に記載のものにおいて、冷却風が前記電動機の側面の風孔部より吸込まれ、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
なお、特許権者は平成12年8月4日付け特許異議意見書により、引用例1に記載のものにおいて、冷却風の吸込み口をケースの側面にすると、入口28から入るべき補助空気が冷却風として吸込まれる可能性があり、軸受けに向かう補助空気を減らす可能性がある旨を主張しているが、補助空気を減らす可能性があれば、冷却風の吸込み口と補助空気の入口28とを周方向にずらす等して影響のない程度に離間すればよいだけのことであり、冷却風の吸込み口をケースの側面にすることができないとする理由があるとは認めることができない。
そして、本件請求項1に係る発明が奏する作用効果は、引用例1乃至3に記載の事項及び周知の事項から当業者が予測し得る範囲のものといえる。
してみれば、本件請求項1に係る発明は、引用例1乃至3に記載された事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第4項及び第7項並びに第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電動送風機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するカーボンブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、カーボンブラシ、整流子を後方に配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出され、前記電動機の側面の風孔部より吸込まれた冷却風は、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されることを特徴とする電動送風機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は乾湿両用タイプの電気掃除機などに使用する電動送風機に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電気掃除機は屋外使用を目的とする乾湿両用タイプの需要が増加しており、その基幹部品である電動送風機は家庭用掃除機とは湿気対策のため異なる構成を有している。
【0003】従来の電動送風機について図2を参照しながら説明する。内部に高速で回転する軸、巻線、整流子よりなる電機子5a、磁界を発生する界磁5b、電機子5aに電流を流すためのカーボンブラシ5cを有する電動機5を設け、電動機側面には冷却風のための風孔部5dを設けている。
【0004】そして、電動機5の電機子5aの軸の前方に複数枚固定され電動機5の電機子5aと共に回転する回転ファン6を設け、この回転ファン6の後方に位置するエアガイド7と、前記回転ファン6、エアガイド7を覆うファンケース8を設け、吸気口8aと排気口8bを有している。また、電動機5の電機子5aの軸の後方には圧入固定され電動機5の電機子5aと共に回転する冷却ファン9と、前記冷却ファン9を覆う冷却ファンケース10を設け、上部に冷却風の吸気口10aを有していた。
【0005】以上のように構成された電動送風機について、以下その動作について説明する。電動機5に電流を流すことにより電機子5aが高速回転する。そして、電機子5aが高速回転することにより回転ファン6が回転し、ファンケース8の吸気口8aより空気を吸い込み、吸い込まれた空気は回転ファン6、エアガイド7を通ってファンケース8の排気口8bより排出される。一方、電動機5の電機子5aが回転することにより冷却ファン9も回転する。そして、冷却ファン9が回転することにより冷却風を冷却ファンケース10の吸気口10aより吸い込み、吸い込まれた冷却風は電動機5内部を冷却した後、電動機5の風孔部5dより外部に排出される。ここでファンケース8の吸気口8aより吸い込まれた空気は湿気、ごみ、粉塵を含んでいるため、電動機5内部へ流れ込まない構造となっていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記の従来の構成では、冷却ファン9による冷却風がカーボンブラシ5cの摩耗によるカーボン粉を電動機5内部に導く構成となっているため、カーボン粉が電機子5aの界磁5bに付着してしまい絶縁劣化が発生し易いという問題があった。また、冷却風は冷却ファンケース10の吸気口10aより空気を吸い込む構造となっているため、冷却ファンケース10の吸気口10aに粉塵が付着し易く通風圧損が高くなり冷却効果が低下するという問題もあった。
【0007】本発明は上記課題を解決するもので、冷却ファンによる冷却風の流れを変更することでカーボン粉の付着を減少させ、また冷却風の通風を安定して行える電動送風機を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために本発明の電動送風機は、軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するカーボンブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、カーボンブラシ、整流子を後方に配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出され、前記電動機の側面の風孔部より吸込まれた冷却風は、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されることにより、冷却ファンによる冷却風を電動送風機側面の風孔部より吸い込み、電動機内部を冷却した後、電動機の排出口より排出する構成としたものである。
【0009】
【作用】この構成によって、冷却風の流れを反転させることになり、カーボンブラシ摩耗によるカーボン粉が電動機外部にはき出されるため、電動機内部へのカーボン粉の付着がなくなり絶縁劣化を防止することができる。また、冷却風が冷却ファンケースから排出されるため、冷却ファンケースの排出口ヘの粉塵の付着もなくなり冷却効果が維持できるようになる。
【0010】
【実施例】以下本発明の一実施例について、図1を参照しながら説明する。なお、従来例と同一部分には同一符号を付けて詳細な説明は省略する。
【0011】図に示すように、電動機5の電機子5aの軸に圧入固定され電動機5の電機子5aと共に回転する冷却ファン1と、前記冷却ファン1を覆う冷却ファンケース2を設け、冷却ファンケース2の上部に排気口3を設け構成する。
【0012】以上のように構成された電動送風機について、図1を用いてその動作を説明する。電動機5に電流を流すことにより、電機子5aが高速回転する。そして、電機子5aが高速回転することにより回転ファン6が回転し、ファンケース8の吸気口8aより空気を吸い込む。吸い込まれた空気は回転ファン6、エアガイド7を通ってファンケース8の排気口8bより排出される。
【0013】一方、電動機5の電機子5aが回転することにより電機子5aの軸に固定された冷却ファン1も回転する。そして、冷却ファン1が回転することにより冷却風を電動機5側面の風孔部5dより吸い込み、吸い込まれた冷却風は電動機5内部を冷却した後、冷却ファン1を経て冷却ファンケース2の排気口3より排出される。
【0014】このように本発明の実施例によれば、冷却風の流れる方向を従来例に対して反転させることにより、カーボンブラシ摩耗によるカーボン粉が電動機5外部にはき出されるため、電動機5内部へのカーボン粉の付着がなくなり絶縁劣化を防止することができる。また、冷却風が冷却ファンケース2から排出される構造となるため、冷却ファンケース2の排気口3への粉塵の付着がなくなり冷却効果を維持できるようになる。なお、実施例においては冷却ファン1の固定位置を電動機5の後方部としているが、電動機5の前方部に固定されていても同様の効果を得ることができる。
【0015】
【発明の効果】以上の実施例から明らかなように本発明によれば、電動機の冷却風を電動機側面の風孔部より吸い込み、電動機内部を冷却した後電動機の排気口より排出する構成としているので、カーボンブラシの摩耗によるカーボン粉が電動機外部にはき出されるため、電動機内部へのカーボン粉の付着がなくなり絶縁劣化を防止することができる。また、冷却風が冷却ファンケースから排出されるため、冷却ファンケースの排気口への粉塵の付着がなくなり冷却効果を維持することができる。さらには、掃除機本体に装着した場合においても電動機の冷却風の集中排気が可能になるため容易に集塵対策、消音対策を施すことができるなど、実用上極めて有意な電動送風機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の電動送風機の構成を示す半断面図
【図2】従来の電動送風機の構成を示す半断面図
【符号の説明】
1 冷却ファン
2 冷却ファンケース
3 排気口
5 電動機
5d 風孔部
6 回転ファン
7 エアガイド
8 ファンケース
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)特許第2953166号発明の明細書中特許請求の範囲の請求項1における「軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するカーボンブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、カーボンブラシ、整流子を後方に配置したことを特徴とする電動送風機。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「軸受により回転自在に支持された軸と、前記軸に固定された電機子鉄心と、前記電機子鉄心に巻装された電機子巻線と、前記軸に固定されて前記電機子巻線の端部が接続された整流子とからなる電機子、および界磁鉄心とそれに巻装された界磁巻線とからなる界磁、および前記整流子に一方の端面が摺動して電機子巻線に電流を供給するカーボンブラシとからなり、高速で回転する電動機、ならびに前記電動機の一方の軸端に固定された回転ファンと、前記回転ファンの後方に位置するエアガイドと、前記回転ファンとエアガイドを覆うファンケース、ならびに前記電動機のもう一方の軸端に固定された冷却ファンと、前記冷却ファンを覆う冷却ファンケースとからなる電動送風機であって、前記冷却ファンによる風の流れに対して電機子鉄心、電機子巻線および界磁を前方に、カーボンブラシ、整流子を後方に配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出され、前記電動機の側面の風孔部より吸込まれた冷却風は、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されることを特徴とする電動送風機。」と訂正する。
(2)特許第2953166号発明の明細書中段落【0008】における「配置したことにより、冷却ファンによる冷却風を電動送風機側面の風孔部より吸い込み、電動機内部を冷却した後、電動機の排出口より排出する構成とした」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「配置しており、前記ファンケースの吸気口より吸込んだ空気は前記回転ファン、エアーガイドを通って前記ファンケースの排気口より排出され、前記電動機の側面の風孔部より吸込まれた冷却風は、前記電動機内部を冷却した後、前記冷却ファンケース上部の排気口より排出されることにより、冷却ファンによる冷却風を電動送風機側面の風孔部より吸い込み、電動機内部を冷却した後、電動機の排出口より排出する構成とした」と訂正する。
異議決定日 2000-09-14 
出願番号 特願平4-3597
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H02K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 千馬 隆之  
特許庁審判長 祖父江 栄一
特許庁審判官 西川 一
槙原 進
登録日 1999-07-16 
登録番号 特許第2953166号(P2953166)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 電動送風機  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 岩橋 文雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ