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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特174条1項  H01L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1032160
異議申立番号 異議2000-73212  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-21 
確定日 2001-01-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3010412号「半導体発光素子」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3010412号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3010412号の請求項1ないし8に係る発明についての出願は、平成6年9月14日に出願され、平成11年12月10日に特許の設定登録がなされ、その後、請求項1ないし8に係る発明について、異議申立人西島一により特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
特許第3010412号の請求項1ないし8に係る発明は、その特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型AlzGa1-zN(0<z≦1)からなるp型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有し、前記活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る程度に、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるように、前記n型クラッド層のAl比率を、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる値だけ小さくして、前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、無効電流を増大させないようにしたことを特徴とする半導体発光素子。」
【請求項2】「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型AlzGa1-zN(0<z≦1)からなるp型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにしたことを特徴とする半導体発光素子。」
【請求項3】「基板と、前記基板上に設けられるn型GaNからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられるn型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられるInyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型AlzGal-zN(0<z≦1、2x≦z)からなるp型クラッド層とを有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにしたダブルヘテロ接合型の発光ダイオード。」
【請求項4】「 n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型AlzGa1-zN(0<z≦1、2x≦z)からなるp型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにし、かつ活性層の膜厚がレーザ発振が可能となる程度であることを特徴とする半導体レーザ。」
【請求項5】「前記サンドイッチ構造は基板上に設けられると共に、前記サンドイッチ構造と前記基板とのあいだに少なくともGaNからなるバッファ層が設けられてなる請求項4記載の半導体レーザ。」
【請求項6】「前記サンドイッチ構造は基板上に設けられると共に、前記サンドイッチ構造の前記基板と反対側の表面側に少なくともGaNからなるキャップ層が設けられてなる請求項4または5記載の半導体レーザ。」
【請求項7】「前記キャップ層および前記サンドイッチ構造の一部がエッチングされてメサ形状にされてなる請求項6記載の半導体レーザ。」
【請求項8】「サファイア基板と、前記サファイア基板上に設けられるn型GaNからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、n型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられ、InyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型AlzGal-zN(0<z≦1)からなるp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に設けられ、p型GaNからなるキャップ層とを有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにしたことを特徴とする半導体レーザ。」

3.異議申立ての理由の概要
異議申立人西島一は、本件請求項1、2、3、4、8に記載の発明の特許は、その明細書が特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであり、また、本件請求項1に記載の発明及び明細書の段落【0004】について、本件出願経過でなされた補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないではないので、特許法平成5年改正法第17条の2第2項において準用する第17条第2項(特許異議申立書に記載の「特許法第17条の2第3項」は適用条文の誤りと認められる)の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべきものであり、さらに、下記の甲第1〜10号証を提出し、本件請求項1ないし8に係る発明は、甲第1、2号証より、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、また、甲第3〜10号証より、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべきものである旨を主張している。
甲第1号証:特願平5-79046号(特開平6-268259号公報参照)
甲第2号証:特願平6-113484号(特開平7-312445号公報参照)
甲第3号証:Jpn.J.Appl.Phys.Part2 32[1A/B](1993)P.L8-L11
甲第4号証:Appl.Phys.Lett.64[13](1994)P.1687-1689
甲第5号証:IEEE.J.Quantum Electronics 17[9](1981)P.1954-1963
甲第6号証:特開平1-217986号公報
甲第7号証:特開平4-87378号公報
甲第8号証:赤崎勇編「アドバンスト エレクトロニクスシリーズI-1 III-V族化合物半導体」(1994-5-20、初版)、(株)培風館、P.345-347
甲第9号証:特開平2-229475号公報
甲第10号証:特開平4-127595号公報

4.甲第1〜10号証に記載の発明
(a)甲第1号証(特願平5-79046号(特開平6-268259号公報参照))について
窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に関し、「[実施例3]
実施例1において、TMAの流量を多くして、p型クラッド層6のAl混晶比をGa0.55Al0.45Nとする他は、同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは6Vとオーミック接触が得られているほぼ限界値を示し、発光波長は同一で、発光出力は400μW、発光効率0.2%であった。」(明細書【0027】段落)こと、「[実施例4]
実施例1において、n型クラッド層4を成長しない他は実施例1と同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは5Vであったが、発光出力は200μW、発光効率0.2%であった。」(明細書【0028】段落)こと、【発明の効果】として、「さらに、n型窒化ガリウム系化合物半導体層、n型GaAlNクラッド層、n型InGaN層を積層し、前記p型GaAlNクラッド層、前記p型GaNコンタクト層を積層することにより発光出力、発光効率に優れた発光素子を実現でき、るため、未だ実現されていないレーザー素子の構造のヒントとして、その産業上の利用価値は大きい。」(明細書【0033】段落)ことが記載されている。
(b)甲第2号証(特願平6-113484号(特開平7-312445号公報参照)について
3族窒化物半導体発光素子に関し、「【0033】
第4実施例 第4実施例の発光ダイオードは、発光層5をGaN 、シングルヘテロ接合としたものである。即ち、一方の接合はシリコン(Si)が高濃度に添加されたGaN の高濃度n+ 層4と亜鉛(Zn)とシリコン(Si)とが添加されたGaN の発光層5であり、他方の接合はGaN の発光層5とマグネシウム(Mg)の添加されたp伝導型のAl0.1Ga0.9N から成るp層61との接合である。本実施例では、p層61の上にマグネシウム(Mg)の添加されたp伝導型のGaN から成るコンタクト層62が形成されている。又、絶縁分離のための溝9はコンタクト層62、p層61、発光層5を貫いて形成されている。
【0034】
図10において、発光ダイオード10は、サファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1上に500 ÅのAlN のバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、順に、膜厚約4.0 μm、電子濃度2 ×1018/cm3のシリコンドープGaN から成る高キャリア濃度n+ 層4、膜厚約0.5 μm、亜鉛及シリコンドープのGaN から成る発光層5、膜厚約0.5 μm、ホール濃度2 ×1017/cm3のマグネシウムドープのAl0.1Ga0.9N から成るp層61、膜厚約0.5 μm、ホール濃度2 ×1017/cm3のマグネシウムドープのGaN から成るコンタクト層62が形成されている。そして、コンタクト層62に接続するニッケルで形成された電極7と高キャリア濃度n+ 層4に接続するニッケルで形成された電極8が形成されている。電極7と電極8とは、溝9により電気的に絶縁分離されている。(明細書【0033】〜【0034】段落)こと、「【0042】
第6実施例 第6実施例の発光ダイオードは、第5実施例の発光ダイオードと異なり、図12に示すように、発光層5には亜鉛(Zn)とシリコン(Si)が同時にドープされたGayIn1-yN 、p層61はマグネシウム(Mg)のドープされたAlx1Ga1-x1N 、高キャリア濃度n+ 層4はシリコン(Si)のドープされたAlx2Ga1-x2N で形成して良い。そして、組成比x1,y,x2 は、発光層5のバンドギャップが高キャリア濃度n+ 層4、p層61のバンドギャップに対して小さくなるダブルヘテロ接合が形成されるように設定される。ダブルヘテロ接合、シングルヘテロ接合により発光層5でのキャリアの閉じ込めが行われ、発光輝度が向上する。
尚、発光層5は半絶縁性、p伝導型、n伝導型のいずれでも良い。
【0043】
図13において、発光ダイオード10は、サファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1上に500 ÅのAlN のバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、順に、膜厚約4.0 μm、電子濃度2 ×1018/cm3のシリコンドープGaN から成る高キャリア濃度n+ 層4、膜厚約0.5 μm、亜鉛及シリコンドープのGa0.94In0.06N から成る発光層5、膜厚約0.5 μm、ホール濃度2 ×1017/cm3のマグネシウムドープのAl0.1Ga0.9N から成るp層61、膜厚約0.5 μm、ホール濃度2 ×1017/cm3のマグネシウムドープのGaN から成るコンタクト層62が形成されている。そして、コンタクト層62に接続するニッケルで形成された電極7と高キャリア濃度n+ 層4に接続するニッケルで形成された電極8が形成されている。電極7と電極8とは、溝9により電気的に絶縁分離されている。」(明細書【0042】〜【0043】段落)ことが記載されている。
(c)甲第3号証(Jpn.J.Appl.Phys.Part2 32[1A/B](1993)P.L8-L11)について
「P型GaN/N型InGaN/N型GaNダブル-ヘテロ構造の青色発光ダイオード」(論文タイトル)に関し、「第1図。P型GaN層/N型InGaN層/N型GaN層からなるダブル-ヘテロ構造の青色LEDの構造。」(p.L9左欄第1図下の説明部分)が記載され、第1図には、さらに、「GaNバッファ層とサファイア基板」が記載されている。
(d)甲第4号証(Appl.Phys.Lett.64[13](1994)P.1687-1689)について
「カンデラ級高輝度InGaN/AlGaNダブル-ヘテロ構造の青色発光ダイオード」(論文タイトル)に関し、「第1図。InGaN/AlGaNダブル-ヘテロ構造の青色LEDの構造。」(p.1688左欄第1図下の説明部分)が記載され、第1図には、「p型GaN層、p型AlGaN層、ZnドープInGaN層、n型AlGaN層、n型GaN層、GaNバッファ層、サファイア基板」からなる発光ダイオードが記載されている。
(e)甲第5号証(IEEE.J.Quantum Electronics 17[9](1981)P.1954-1963)について
「InGaAsP/InPダブル-ヘテロ接合レーザ・・・」(論文タイトル)に関し、「活性領域から閉じ込め層へのキャリアの漏れが詳細の中で説明される。」(p.1954左欄「Abstract」の8〜9行)こと、「注入されたキャリアを有効に閉じ込めるのに必要な障壁の高さと活性領域の中の有効なキャリアの質量が検討される。」(同「Abstract」の12〜14行)ことが記載されている。
(f)甲第6号証(特開平1-217986号公報)について
「(1)発光及びレーザ発振に寄与する活性層が、これよりも禁制帯幅が広く、一方がp-型他の一方がn-型の導電性を有する上下2つのクラッド層で挟まれた二重ヘテロ接合構造の半導体レーザ素子において、上記2つのクラッド層が異なる化合物半導体により形成されていることを特徴とする半導体レーザ素子。
(2)2つのクラッド層のうちp-型の導電性を有するクラッド層と活性領域との伝導帯不連続が2つのクラッド層のうちn-型の導電性を有するクラッド層と上記活性領域との伝導帯不連続よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ素子。
(3)2つのクラッド層のうちn-型の導電性を有するクラッド層と活性領域との価電子帯不連続が2つのクラッド層のうちp-型の導電性を有するクラッド層と上記活性領域との価電子帯不連続よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ素子。」(1頁、特許請求の範囲)であり、「通常の構造の半導体レーザ素子では活性領域を挟むn-型半導体層とp-型半導体層の材料が同一物質であるために、活性領域とp-型半導体層の伝導帯不連続と活性領域とn-型半導体層の伝導帯不連続は同一であり、活性領域とn-型半導体層の価電子帯不連続と活性領域とp-型半導体層の価電子帯不連続は同一であった。このため活性領域からp-型半導体層へ電子のオーバーフローあるいは活性領域からn-型半導体層へ正孔のオーバーフローが起こり活性層への電流閉じ込め効率が悪かった。」(1頁右欄最終行〜2頁左上欄11行)こと、「本発明は以上述べたような活性層からp-型半導体層へ電子のオーバーフロー或は活性領域からn-型半導体層への正孔のオーバーフローを減らし、活性領域へ正孔と電子と光を効率よく閉じ込め集中行える良好な半導体レーザ素子の提供を目的としている。」(2頁左上欄16〜同ぺーj右上欄1行)こと、「またInAlAs/InGaAsP/InP系以外の材料系についても本発明の適用が可能である。」(3頁右上欄14〜16行)ことが記載されている。
(g)甲第7号証(特開平4-87378号公報)について
「第10図はGaInAsP/InP系発光素子の構成例(a図)と発光領域近傍のバンド構造(b図実線)を示したものであ」る(1頁右欄14〜16行)こと、「GaInAsP-InPの2重ヘテロ構造では電子のキャリアオーバーフローが起こり易く、温度特性低下の要因になっている」(3頁右上欄7〜9行)こと、「この半導体発光素子は、第1図(a)に示すようにInP基板1上に、n型InPクラッド層2、GaInAsP活性層(例えば発光波長1.3μmの組成)3、p型AlInAsクラッド層(InPに格子整合)4、GaInAsPコンタクト層(例えば発光波長1.3μmの組成)5が順次形成されている。」(5頁右上欄最終行〜同頁左下欄5行)こと、「本発明によれば有効質量の小さな電子の注入がInP側から行われ、そのGaInAsP活性層におけるヘテロバリアがAlInAsとなるため、電子注入の基底エネルギーと対向するヘテロバリアエネルギーとの間にエネルギーオフセットを生じ、電子のGaInAsP活性層への注入効率が改善されるという利点がある。即ち、p型、n型のクラッド層を両方ともInP又はAlInAsとした場合に比べて GaInAsP活性層でキャリア緩和せずに通過するキャリアを前記エネルギーオフセット分だけ減少させることが可能となる。」(5頁右下欄最終行〜6頁左上欄10行)ことが記載されている。
(h)甲第8号証(赤崎勇編「アドバンスト エレクトロニクスシリーズI-1 III-V族化合物半導体」(1994-5-20、初版)、(株)培風館、P.345-347)について
「Nakamuraらは、発光層にInGaNを用いたp-GaN/n-InGaN/n-GaN DH構造で室温の量子効率0.22%,ピーク波長440nmの青色LEDを開発した。図13.14(A)に、そのI-L特性を示す。また、同図(B)に示すように,ELスペクトルの半値幅は180meVと従来のGaN系青色LEDの中で最も狭い。
今後,DHを含む,多層構造はもとより,GaAs系やZnSe系で開発された種々の技術が応用されていくであろう。」(347頁4〜9行)ことが記載されている。
(i)甲第9号証(特開平2-229475号公報)について
第13図に、AlGaNのAlの組成比を小さくするほどバンドギャップエネルギーが小さくなることが記載されている。
(j)甲第10号証(特開平4-127595号公報)について
「第3図の従来構造について製造工程を簡単に述べる。先ず、1回目のMOVPE成長によってn-GaAsバッファー層2からp-GaInPキャップ層6までの5層構造を順次形成する。続いて、キャップ層6上に写真食刻により幅5μmのストライプ状のSiO2膜マスクを形成し、p-AlGaInPクラッド層5の途中までエッチングして、ストライプ状のメサ部を形成する。次いで2回目のMOVPE成長によってストライプ状のSiO2膜マスクを除くメサ部にn-GaAs電流阻止層7を選択的に形成する。その後、SiO2膜マスクを除去した後、3回目のMOVPE成長によって全面にp-GaAsコンタクト層8を成長形成」する(2頁左上欄9行〜同頁右上欄2行)ことが記載されている。

5.対比・判断
1)特許法第36条について
(a)特許異議申立人は、「正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して」という要件は、請求項2、3、4及び8には規定されているが、請求項1には記載されておらず、請求項1は特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないと主張している。
しかしながら、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことは、自明であるから、「正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して」という要件が記載されていないからといって、請求項1に記載の発明が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないということはない。
(b)特許異議申立人は、請求項1において、文理上、「無効電流を増大させないようにした」は、「n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるように、前記n型クラッド層のAl比率を、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる値だけ小さくして、前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし」たことによる作用と読めるが、技術的には、請求項2、3、4及び8のように「正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層からn型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにし」たことによる作用であるから、不明瞭であると主張している。
しかしながら、上記(a)に記載したように、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことは、自明であるから、「正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して」という要件が記載されていないからといって、請求項1に記載の「無効電流を増大させないようにした」部分の記載が不明瞭であるということはない。
(c)特許異議申立人は、請求項2において、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、」部分と「前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにしたこと」部分の関係が不明瞭であり、また、請求項3、4及び8においても、同様な部分の関係が不明瞭であると主張している。
しかしながら、請求項2の記載において、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにしたこと」部分の記載において、「前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにしたこと」部分は「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、」部分をさらに限定するものである。
そして、その根拠は、本件の実施例に示されているので、特に不明瞭ということはない。
また、請求項3、4及び8における同様な部分の記載においても、上記請求項2の記載と同様に、不明瞭ということはない。
(d)特許異議申立人は、請求項1、2、3、4及び8において、「InyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層」でGaN(y=0の場合)のときに、「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層」でGaN(x=0の場合)であったとすると、そのときにも活性層からn型クラッド層への正孔の漏れを防止することができるのかどうか、不明瞭であると主張している。
しかしながら、請求項1においては、活性層、n型クラッド層の他に、「前記活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る程度に、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるように、前記n型クラッド層のAl比率を、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる値だけ小さくして、前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、無効電流を増大させないようにしたこと」という構成要件があり、この構成要件に基づき、上記活性層がGaN(y=0の場合)のときに、上記n型クラッド層がGaN(x=0の場合)である場合を含め、n型クラッド層のAl比率を定めれば良いので、特に不明瞭であるということはない。
2)特許法平成5年改正法第17条の2第2項において準用する第17条第2項について
(a)本件は、平成11年6月4日付けの手続補正により、請求項1の記載が、「前記活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る」と補正されたが、この部分の記載は、願書に最初に添付された明細書の【0019】段落の「活性層に注入された正孔のn型クラッド層側への逃げは少ない。」という記載、【0025】段落の「活性層からの正孔の漏れを防止できるようにしたものである。」という記載から、直接的かつ一義的に導き出せたものであり、補正による新規事項の追加ではない。
(b)本件は、平成10年9月2日付けの手続補正により、明細書の【0004】段落が、出願当初の「Gaの一部がAl、Inなど他のIII族元素と置換したもの」から、「Gaの一部または全部がAl、Inなど他のIII族元素と置換したもの」と補正されたが、願書に最初に添付された本件明細書の【請求項2】には「前記活性層がInyGa1-yN(0≦y≦1)からなり、前記p型クラッド層p型AlzGa1-zN(0<z≦1)からなり」と記載されており、y=1又はz=1の場合には、Gaの全部がAl、Inなど他のIII族元素と置換したものとなるので、前記「Gaの一部または全部がAl、Inなど他のIII族元素と置換したもの」という補正は、願書に最初に添付された本件明細書の【請求項2】の記載から直接的かつ一義的に導き出せたものであり、補正による新規事項の追加ではない。
3)特許法第29条の2について
(a)請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明と甲第1号証又は第2号証に記載の発明とを対比すると、両者は「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型AlzGa1-zN(0<z≦1)からなるp型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有し、前記n型クラッド層のAl比率を、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる値だけ小さくして、前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたことを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、「前記n型クラッド層のAl比率を、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる値だけ小さくして、前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたこと」により、本件請求項1に係る発明が、「前記活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る程度に、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるように」し、「無効電流を増大させないようにした」のに対して、甲第1号証又は第2号証に記載の発明は、活性層からn型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る程度に、n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるようにしておらず、かつ、無効電流を増大させないようにもしていない点で相違する。
そして、上記相違点は、課題解決のための具体的手段における微差とは認められない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明と同一ではない。
なお、特許異議申立人は、上記相違点について、「n型クラッド層のバンドギャップエネルギーが小さくなることは、Alの組成比を小さくしたことによる結果的作用であるとともに、この作用は甲第9号証に示されているように周知事項にすぎない。」し、「活性層からn型クラッド層への正孔の漏れを防止することは、Alの組成比を小さくしたことによる結果的作用であるとともに、この正孔の漏れ防止の作用は、甲第5〜7号証に示されているように周知事項にすぎない。」と主張しているが、甲第5〜7及び9号証の記載が周知事項であるとしても、本件請求項1に係る発明の構成要件である「前記活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る程度に、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるように」し、「無効電流を増大させないようにした」ことは、単に、Alの組成比を小さくしたことによる結果的作用であるということはできないので、上記申立人の主張は採用できない。。
(b)請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明と甲第1号証又は第2号証に記載の発明とを対比すると、両者は「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型AlzGa1-zN(0<z≦1)からなるp型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有し、 前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたことを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし」たことにより、本件請求項2に係る発明が、「前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにした」のに対して、甲第1号証又は第2号証に記載の発明は、このような記載がない点で相違する。
そして、上記相違点は、課題解決のための具体的手段における微差とは認められない。
したがって、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証又は第2号証に記載の発明と同一ではない。
なお、特許異議申立人は、上記相違点についても、上記5.3)(a)と同様な主張をしているが、上記5.3)(a)と同様に採用できない。
(c)請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は「基板と、前記基板上に設けられるn型GaNからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられるn型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられるInyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型AlzGal-zN(0<z≦1、2x≦z)からなるp型クラッド層とを有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたダブルヘテロ接合型の発光ダイオード。」の点で一致する。
また、本件請求項3に係る発明と甲第2号証に記載の発明とを対比すると、両者は「基板と、前記基板上に設けられるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられるn型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられるInyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型AlzGal-zN(0<z≦1、2x≦z)からなるp型クラッド層とを有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたダブルヘテロ接合型の発光ダイオード。」の点で一致する。
しかしながら、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし」たことにより、本件請求項3に係る発明が、「前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにした」のに対して、甲第1号証又は第2号証に記載の発明は、このような記載がない点、及びバッファ層として、本件請求項3に係る発明が、「n型GaNからなる層」を有するのに対して、甲第2号証に記載の発明は、「AlNからなる層」を有する点で相違する。
そして、上記相違点は、いずれも課題解決のための具体的手段における微差とは認められないので、本件請求項3に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明と同一ではない。
なお、特許異議申立人は、上記相違点についても、上記5.3)(a)と同様な主張をしているが、上記5.3)(a)と同様に採用できない。
(d)請求項4に係る発明について
本件請求項4に係る発明と甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明とを対比すると、両者は「 n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型AlzGa1-zN(0<z≦1、2x≦z)からなるp型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたことを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし」たことにより、本件請求項4に係る発明が、「前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにし」ているのに対して、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明は、このような記載がない点、及び本件請求項4に係る発明が、「活性層の膜厚がレーザ発振が可能となる程度である」のに対して、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明は、このような記載がない点で相違する。
そして、上記相違点は、いずれも課題解決のための具体的手段における微差とは認められないので、本件請求項4に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明と同一ではない。
なお、特許異議申立人は、上記相違点についても、上記5.3)(a)と同様な主張をしているが、上記5.3)(a)と同様に採用できない。
(e)請求項5〜7に係る発明について
本件請求項5〜7に係る発明は、本件請求項4に係る発明の構成をさらに限定するものであるので、本件請求項4に係る発明と同様に、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明と同一ではない。
(f)請求項8に係る発明について
本件請求項8に係る発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は「 サファイア基板と、前記サファイア基板上に設けられるn型GaNからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、n型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられ、InyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型AlzGal-zN(0<z≦1)からなるp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に設けられ、p型GaNからなるキャップ層とを有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたことを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
また、本件請求項8に係る発明と甲第2号証に記載の発明とを対比すると、両者は「 サファイア基板と、前記サファイア基板上に設けられるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、n型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられ、InyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型AlzGal-zN(0<z≦1)からなるp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に設けられ、p型GaNからなるキャップ層とを有し、前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)としたことを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし」たことにより、本件請求項8に係る発明が、「前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにし」ているのに対して、甲第1号証または第2号証に記載の発明は、このような記載がない点、本件請求項8に係る発明が、「半導体レーザ」であるのに対して、甲第1号証または第2号証に記載の発明は、このような記載がない点、及びバッファ層として、本件請求項8に係る発明が、「n型GaNからなる層」を有するのに対して、甲第2号証に記載の発明は、「AlNからなる層」を有する点で相違する。
そして、上記相違点は、いずれも課題解決のための具体的手段における微差とは認められないので、本件請求項8に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明と同一ではない。
なお、特許異議申立人は、上記相違点についても、上記5.3)(a)と同様な主張をしているが、上記5.3)(a)と同様に採用できない。

4)特許法第29条第2項について
(a)請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明と甲第3号証に記載の発明とを対比すると、甲第3号証に記載のN-InGaN層、N型GaN層は、それぞれ本件請求項1に係る発明のInyGa1-yN (0≦y≦1)からなる活性層、n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層に相当するので、両者は、「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有していることを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、本件請求項1に係る発明では、p型クラッド層として「AlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層」を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明は、「GaN層」を有する点、及び本件請求項1に係る発明が、「前記活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る程度に、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるように、前記n型クラッド層のAl比率を、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる値だけ小さくして、前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、無効電流を増大させないようにした」のに対して、甲第3号証に記載の発明は、このようなものではない点で相違する。
上記相違点に関し、甲第4〜10号証に記載の発明を検討すると、甲第4号証に記載の発明には、本件請求項1に係る発明と同様に、p型クラッド層としてAlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層を有するものが記載されており、また、甲第5〜7号証に記載の発明には、キャリアの閉じ込めとバンドギャップエネルギーとの関係が記載されているものの、甲第4〜10号証に記載の発明は、本件請求項1に係る発明を構成する事項である「前記活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止することが出来る程度に、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、電子の前記活性層への注入が低電圧で行えるように、前記n型クラッド層のAl比率を、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる値だけ小さくして、前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、無効電流を増大させないようにした」点を備えておらず、また、示唆もない。
本件請求項1に係る発明は、当該事項により、無効電流が少なく、かつ、低い動作電圧で高輝度の発光をさせることができ、発光効率に高い半導体発光素子をうることができるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3〜10号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(b)請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明と甲第3号証に記載の発明とを対比すると、甲第3号証に記載のN-InGaN層、N型GaN層は、それぞれ本件請求項2に係る発明のInyGa1-yN (0≦y≦1)からなる活性層、n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層に相当するので、両者は、「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有したことを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、本件請求項2に係る発明では、p型クラッド層として「AlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層」を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明は、「GaN層」を有する点、及び本件請求項2に係る発明が、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにした」のに対して、甲第3号証に記載の発明は、このようなものではない点で相違する。
上記相違点に関し、甲第4〜10号証に記載の発明を検討すると、甲第4号証に記載の発明には、本件請求項2に係る発明と同様に、p型クラッド層としてAlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層を有するものが記載されており、また、甲第5〜7号証に記載の発明には、キャリアの閉じ込めとバンドギャップエネルギーとの関係が記載されているものの、甲第4〜10号証に記載の発明は、本件請求項2に係る発明を構成する事項である「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにした」点を備えておらず、また、示唆もない。
本件請求項2に係る発明は、当該事項により、無効電流が少なく、かつ、低い動作電圧で高輝度の発光をさせることができ、発光効率に高い半導体発光素子をうることができるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項2に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3〜10号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(c)請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明と甲第3号証に記載の発明とを対比すると、甲第3号証に記載のN-InGaN層、N型GaN層は、それぞれ本件請求項3に係る発明のInyGa1-yN (0≦y≦1)からなる活性層、n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層に相当するので、両者は、「基板と、前記基板上に設けられるGaNからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられるn型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられるInyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型クラッド層とを有したダブルヘテロ接合型の発光ダイオード。」の点で一致する。
しかしながら、本件請求項3に係る発明では、p型クラッド層として「AlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層」を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明は、「GaN層」を有する点、本件請求項3に係る発明では、GaNからなるバッファ層としてn型の層を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明では、n型か否かの記載がない点、及び本件請求項3に係る発明が、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにした」のに対して、甲第3号証に記載の発明は、このようなものではない点で相違する。
上記相違点に関し、甲第4〜10号証に記載の発明を検討すると、甲第4号証に記載の発明には、本件請求項3に係る発明と同様に、p型クラッド層としてAlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層を有し、GaNからなるバッファ層としてn型の層を有するものが記載されており、また、甲第5〜7号証に記載の発明には、キャリアの閉じ込めとバンドギャップエネルギーとの関係が記載されているものの、甲第4〜10号証に記載の発明は、本件請求項3に係る発明を構成する事項である「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにした」点を備えておらず、また、示唆もない。
本件請求項3に係る発明は、当該事項により、無効電流が少なく、かつ、低い動作電圧で高輝度の発光をさせることができ、発光効率に高い半導体発光素子をうることができるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項3に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3〜10号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(d)請求項4に係る発明について
本件請求項4に係る発明と甲第3号証に記載の発明とを対比すると、甲第3号証に記載のN-InGaN層、N型GaN層は、それぞれ本件請求項4に係る発明のInyGa1-yN (0≦y≦1)からなる活性層、n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層に相当するので、両者は、「n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、p型クラッド層とでInyGa1-yN(0≦y≦1)からなる活性層をはさんだサンドイッチ構造を有することを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、本件請求項4に係る発明では、p型クラッド層として「AlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層」を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明は、「GaN層」を有する点、及び本件請求項4に係る発明が、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにし、かつ活性層の膜厚がレーザ発振が可能となる程度であることを特徴とする半導体レーザ」であるのに対して、甲第3号証に記載の発明は、このようなものではない点で相違する。
上記相違点に関し、甲第4〜10号証に記載の発明を検討すると、甲第4号証に記載の発明には、本件請求項4に係る発明と同様に、p型クラッド層としてAlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層を有するものが記載されており、また、甲第5〜7号証に記載の発明には、キャリアの閉じ込めとバンドギャップエネルギーとの関係及び半導体レーザについて記載されているものの、甲第4〜10号証に記載の発明は、本件請求項4に係る発明を構成する事項である「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにし」た点を備えておらず、また、示唆もない。
本件請求項4に係る発明は、当該事項により、無効電流が少なく、かつ、低い動作電圧で高輝度の発光をさせることができ、発光効率に高い半導体レーザをうることができるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項4に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3〜10号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(e)請求項5〜7に係る発明について
本件請求項5〜7に係る発明は、本件請求項4に係る発明の構成をさらに限定するものであるので、本件請求項4に係る発明と同様に、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3〜10号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(f)請求項8に係る発明について
本件請求項8に係る発明と甲第3号証に記載の発明とを対比すると、甲第3号証に記載のN-InGaN層、N型GaN層は、それぞれ本件請求項3に係る発明のInyGa1-yN (0≦y≦1)からなる活性層、n型AlxGa1-xN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層に相当するので、両者は、「サファイア基板と、前記サファイア基板上に設けられるGaNからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、n型AlxGa1-zN(0≦x≦0.5)からなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられ、InyGal-yN(O≦y≦1)からなる活性層と、前記活性層上に設けられるp型クラッド層とを有したことを特徴とする半導体発光素子。」の点で一致する。
しかしながら、本件請求項8に係る発明では、p型クラッド層として「AlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層」を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明は、「GaN層」を有する点、本件請求項8に係る発明では、GaNからなるバッファ層としてn型の層を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明では、n型か否かの記載がない点、本件請求項8に係る発明では、「p型GaNからなるキャップ層」を有するのに対して、甲第3号証に記載の発明では、キャップ層がない点、及び本件請求項8に係る発明が、「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにしたことを特徴とする半導体レーザ」であるのに対して、甲第3号証に記載の発明は、このようなものではない点で相違する。
上記相違点に関し、甲第4〜10号証に記載の発明を検討すると、甲第4号証に記載の発明には、本件請求項8に係る発明と同様に、p型クラッド層としてAlzGa1-zN(0<z≦1)からなる層、GaNからなるバッファ層としてn型の層、及びp型GaNからなるキャップ層を有するものが記載されており、また、甲第5〜7号証に記載の発明には、キャリアの閉じ込めとバンドギャップエネルギーとの関係及び半導体レーザについて記載されているものの、甲第4〜10号証に記載の発明は、本件請求項8に係る発明を構成する事項である「前記n型クラッド層のAl比率を低減させて、前記活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる前記p型クラッド層のAl比率の半分以下(2x≦z)とし、前記n型クラッド層のバンドギャップエネルギーを低くして、前記活性層への電子の注入が低電圧で行えるようにすると共に、正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことを利用して活性層から前記n型クラッド層への正孔の漏れを防止できるようにして、無効電流を増大させないようにした」点を備えておらず、また、示唆もない。
本件請求項8に係る発明は、当該事項により、無効電流が少なく、かつ、低い動作電圧で高輝度の発光をさせることができ、発光効率に高い半導体発光素子をうることができるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項8に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3〜10号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に同発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-12-13 
出願番号 特願平6-219892
審決分類 P 1 651・ 534- Y (H01L)
P 1 651・ 161- Y (H01L)
P 1 651・ 55- Y (H01L)
P 1 651・ 531- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉山 輝和金高 敏康  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 東森 秀朋
田部 元史
登録日 1999-12-10 
登録番号 特許第3010412号(P3010412)
権利者 ローム株式会社
発明の名称 半導体発光素子  
代理人 小栗 昌平  
代理人 萩野 平  
代理人 栗宇 百合子  

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