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審決分類 |
審判 一部無効 発明同一 無効としない B32B 審判 一部無効 1項1号公知 無効としない B32B 審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない B32B 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない B32B |
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管理番号 | 1038695 |
審判番号 | 審判1999-35704 |
総通号数 | 19 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1989-09-19 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1999-11-30 |
確定日 | 2001-05-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2675326号発明「ウレタンフイルムを有するマーク用生地およびその製造方法」の請求項1に係る特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本件特許 本件特許第2675326号は、特願昭63-61614号として昭和63年3月15日に出願され、平成9年7月18日にその特許権の設定登録がなされたものであり、その請求項1〜3に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「伸縮するマーク地の片面に対し、ウレタン樹脂製のフィルムからなるホットメルト剤をラミネートすることを特徴とするウレタンフィルムを有するマーク用生地。」 2.請求人の主張 これに対し、請求人は、甲第1号証(特開昭61-89361号公報)、甲第2号証(実願昭61-6418号(実開昭62-118142号)のマイクロフィルム)、甲第3号証(実願昭62-121736号(実開昭64-27231号)のマイクロフィルム)、甲第4号証(中嶋弘産業株式会社がダイセル化学工業株式会社に手交した昭和63年4月12日付のラミネート加工依頼書)、甲第5号証(中嶋弘産業株式会社が有限会社玉屋商店に手交した昭和63年4月20日付のスリット加工依頼書)(以下、甲第m号証を「甲m」、甲第m号証記載の発明を「甲m発明」という。)及び参考資料1(日本化学繊維協会編「化学繊維の実際知識(第4版)」東洋経済新報社、昭和61年10月9日発行、150頁中段)を添付すると共に、証人・藤岡 晄(株式会社アステム 専務取締役)、同・吉田貴志(株式会社ナカヒロ フェルト事業部第3部課長)両名の証人尋問を求める審判請求書を平成11年11月30日付で、次いで、平成12年11月29日実施の口頭審理及び証拠調べ(証人尋問)に向け、参考文献1(「化学大事典」株式会社東京化学同人、1989年10月20日発行、1314頁左欄中段)を添付した口頭審理陳述要領書を平成12年11月22日付で、それぞれ、提出し、 1)本件発明は、前記両証人の証言ならびにその信憑性を裏付ける甲4〜5から明らかなとおり、本件特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから、該発明に係る本件特許は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反してされたものであり(以下、「無効理由1」という。)、 2)本件発明は、甲1〜2発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり(以下、「無効理由2」という。)、 3)本件発明は、本件特許出願の日前の他の実用新案登録出願であって、本件特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添附した明細書又は図面に記載された考案(出願人;鐘紡株式会社、考案者;小川康宏。その内容については、請求人提出の甲3参照。以下、「先願考案」という。)と同一であるから、該発明に係る本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり(以下、「無効理由3」という。)、 4)本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項(昭和62年法)に規定する要件を満たしていない(以下、「無効理由4」という。)、 と主張する。 3.被請求人の主張 一方、被請求人は、乙第1号証(チーム名を表示する手段に用いたマークを胸に貼着したユニホームのカラーコピー。後述の平成13年1月23日付上申書により、参考資料1に変更)、乙第2号証(番号を表示する手段に用いたマークを背に貼着したユニホームのカラーコピー。同じく参考資料2に変更)、乙第3号証(マーク貼着業者である「北尾スポーツ」の広告を掲載したインターネットホームページの宣伝文のコピー)、乙第4号証の1(同「カトウスポーツマーク」の広告を掲載した同ホームページの宣伝文のコピー)、乙第5号証(奥野電器産業株式会社製のマーク貼着プレス機「オクサン熱転写平プレス54F(フリーアーム)シリーズ」のカタログのコピー)、乙第6号証(マーク貼着プレス機「ダイヤプレッサー・オールマイティーIII」のカタログのコピー)、乙第7号証(毎日マーク株式会社製のマーキング作業機「サルハーセット(登録商標)」のカタログのコピー)、乙第8号証(自己の職歴並びに前記証人・藤岡 晄との関係について記載した、被請求人代理人・志村正和宛の荒岡甚三作成の報告書の写し)、乙第9号証(本件発明を実施したマーク用生地をフィット(FIT)と名付けて宣伝広告した昭和63年5月10日付スポーツ産業新報のコピー)を添付した答弁書(以下、乙第n号証を「乙n」という。)を平成12年4月5日付で、次いで、前記口頭審理及び証拠調べの結果を受け、参考文献(兼子 一著「民事訴訟法」株式会社弘文堂、昭和48年11月20日第4刷発行、123〜124頁)を添付した上申書(上述のとおり、これにより、乙1〜2は、順次、参考資料1〜2に変更された。)を平成13年1月23日付で、それぞれ、提出し、 請求人の主張する理由及び提出された証拠のいずれによっても本件請求項1に係る特許を無効とすることはできない、 と主張する。 4.当審の判断 4の1.無効理由1について A.請求人の主張 請求人は、以下のとおり主張する。 1)証人・藤岡 晄(以下、「証人・藤岡」という。)は、昭和29年7月1日から平成3年6月30日までダイセル化学工業株式会社に勤務した者であるが、同社在職中に以下のことを知見した旨、証言する。 すなわち、ダイセル化学工業株式会社は、本件特許出願(昭和63年3月15日)前の昭和63年1月頃に、中嶋弘産業株式会社(現ナカヒロ)に依頼されて、布地の片面にホットメルトタイプのウレタン樹脂フィルムをラミネートした試作品(試作品番号:「EN8000」と略称)を試作・製造したが、中嶋弘産業株式会社は、その優れた性能に注目し、この試作品をマークの加工及び販売会社である小西マーク株式会社に提供し、一方、小西マーク株式会社は、ただちにこの試作品を不特定の業者にサンプルとして配布した。 2)証人・吉田貴志(以下、「証人・吉田」という。)は、昭和56年3月に中嶋弘産業株式会社(現ナカヒロ)に入社し、現在も同社に勤務している者であるが、同証人の勤務中に以下のことを知見した旨、証言する。 すなわち、中嶋弘産業株式会社は、本件特許出願前の昭和63年1月頃に、布地の片面にホットメルトタイプのウレタン樹脂フィルムをラミネートした試作品(試作品番号:「EN8000」と略称)の試作・製造をダイセル化学工業株式会社に依頼したが、その性能が優れていたため、この試作品をマークの加工及び販売会社である小西マーク株式会社に提供し、一方、小西マーク株式会社は、ただちにこの試作品を不特定の業者にサンプルとして配布した。 3)これらの証言内容が事実であることは、その信憑性を裏付ける証拠として提出する甲4に、中嶋弘産業株式会社は、昭和63年4月12日に、ダイセル化学工業株式会社に上記「EN8000」の本格的な商業生産のための注文をした旨、さらに、同甲5に、中嶋弘産業株式会社は、同年4月20日に、有限会社玉屋商店に対して、できあがった製品をスリット加工するよう依頼した旨、それぞれ、記載されていることからも窺い知ることができる。 4)そして、両証人の証言にある、布地の片面にホットメルトタイプのウレタン樹脂フィルムをラミネートした試作品「EN8000」は、明らかに本件発明に係る前記「ウレタンフィルムを有するマーク用生地」の構成要件を全て充足している。 5)そうすると、本件発明は、その出願(昭和63年3月15日)前に日本国内において公然知られた発明に該当する。 B.当審の判断 証人・藤岡及び証人・吉田に対する証人尋問(証拠調べ)の結果を総合すると、下記1)〜2)の事項は事実であると推認できる。 1)ダイセル化学工業株式会社は、中嶋弘産業株式会社の依頼を受け、スポーツウエアに付けるマーク材料(証人・藤岡の証人調書「019」項参照)、すなわち、マーク用生地として、東レ株式会社製のナイロン85%、ポリウレタン15%からなる伸縮性の生地「ENEL8000」(証人・藤岡の同「020」項並びに証人・吉田の同「006」項参照)に、自社製に係る厚み100μの伸縮性のポリウレタンフィルム(証人・藤岡の同「061」項並びに証人・吉田の同「011」項参照)をラミネートした試作品「EN8000」(証人・藤岡の同「023」項並びに証人・吉田の同「011」、「013」項参照)を試作・製造し、昭和63年1月頃、該試作品を中嶋弘産業株式会社に提供した(証人・藤岡の同「020」項並びに証人・吉田の同「030」項参照)。 2)中嶋弘産業株式会社は、昭和63年1月頃、該試作品を小西マーク株式会社に提供した(証人・吉田の同「015」項参照)。 ここで、本件発明(前者)と該試作品「EN」8000」に係る発明(後者)とを対比すると、後者の「伸縮性の生地・ENEL8000」、「厚み100μのポリウレタンフィルム」は、それぞれ、前者の「伸縮するマーク地」、「ウレタン樹脂製のフィルムからなるホットメルト剤」に相当するから、 両者は、 「伸縮するマーク地の片面に対し、ウレタン樹脂製のフィルムからなるホットメルト剤をラミネートするウレタンフィルムを有するマーク用生地。」 に係る点で、その構成上、何ら相違するところはなく、同一の発明というほかはない。 しかしながら、1)〜2)は、いずれも中嶋弘産業株式会社、ダイセル化学工業株式会社、小西マーク株式会社という上記3社間での新製品開発過程での試作品の製造段階に係る事項であるところ、一般に、この種新製品の試作段階では外部に対し守秘義務を負う限られた関係者のみが試作品の内容を知り得るのみである(証人・藤岡の同「062」参照)。 そうすると、事項1)〜2)が事実であり、前者と後者とが同一の発明であるからといって、前者が特許法第29項第1項第1号に該当するということはできない。 上記試作品が秘密を脱し公然知られた状態に至るのは、それが小西マーク株式会社を通じ、(守秘義務を負わない)不特定の業者にサンプルとして配布された時点と解される(この点については、証人・吉田の同「049」項からも明らかなとおり、請求人においても異存はない。)ところ、問題のサンプル配布がいつ行われたかを特定するに足る直接的経験を有する旨の証言を両証人はしておらず(証人・藤岡の同「025」項並びに証人・吉田の同「049」及び「054」項参照)、他に、該サンプル配布が本件特許出願(昭和63年3月15日)前であったとすべき根拠も見出せない。 なお、前記のとおり、甲4〜5は、いずれも本件特許出願後に請求人主張の事実があったことを示すにとどまり、それ自体が本件発明の新規性否定の根拠となるものではない。 してみると、本件発明は、その特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるということはできない。 4の2.無効理由2について A.甲各号証の記載内容 a.甲1 ア.「耐熱性を有した剥離用母生地1の全面に仮接着層2を設け、織物、フェルトなどで形成したシート状の生地部材3を仮接着層2に仮着させ、更に生地部材3の全面に先端部5を埋設すると共に仮接着層2よりも強力なる接着力を有したフィルム状ホットメルト樹脂層9を生地部材3の全面に具備させたことを特徴とした熱反転式転写生地。」(特許請求の範囲)、 イ.「従来……図中第14図に示すようにマーク生地素材8の片面にホットメルト樹脂接着剤15を熱により接着させ、……裏側に表示した切り取り線に添って必要とする図柄や文字状に切取るか、打抜くもので、シャツ等に熱加圧により、マーク生地に接着されたホットメルト樹脂を溶解しマーク接着する手段が知られている。」(1頁左下欄17行〜右欄14行)、 ウ.「この発明は……製作容易であると共に使用便利な熱反転式転写生地を得ることを技術的課題としたものである。」(2頁左上欄11〜13行)、 エ.「フィルム状ホットメルト樹脂層9は転写部材の風合や物性を損わない温度で溶解し、接着作用が顕著なものを摘出し使用するもので、例へばポリアシド系、ポリエステル系、E,V,A系、ロジン系、ピネロ系、その他を使用する。」(2頁右下欄16行〜3頁左上欄2行)、 オ.「又織物で形成したシート状の生地部材3は適度の強さ、伸び、弾性、可塑性を有し」(3頁左上欄3〜4行)、 カ.特許請求の範囲(上記ア)記載の熱反転式転写生地の一部切欠平面図に相当する第1図(4頁左下欄。図中、記号10が該記熱反転式転写生地を示す)、 キ.従来品(前記イ)の断面図に相当する第14図(5頁下欄)。 b.甲2 ク.「加熱溶着する基布の少なくとも一方主面に、主面の面積の60%未満の面積を締める粘着剤層が形成され、かつその粘着剤層表面に剥離シートが積層されたことを特徴とする、ホットメルト接着用布材。」(実用新案登録請求の範囲第1項)、 ケ.「この考案は、布等の接着に用いるホットメルト接着用布材に関し、……たとえば……ワンポイント刺繍の取り付け、その他手芸、補修に用いるのに好適な、たとえば加熱したアイロンでプレスするだけで接着させることができる、ホットメルト接着用布材に関する。」(3頁1〜7行)、 コ.「この考案の主たる目的は、加熱接着する前においても、被接着材の最適な位置にこのホットメルト接着用布材を固定することができ、加熱接着させた後は、被接着材より引き剥がれにくいホットメルト接着用布材を提供することである。」(4頁18行〜5頁3行)、 サ.「基布3には、加熱溶融して接着するホットメルト型樹脂からなる繊維で構成される不織布か、またはホットメルト型接着剤を含浸した不織布が、使用される。前者は、例えば、ポリアミド、ポリエステル、EVA、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタンなどのホットメルト型樹脂を溶融紡糸して、集積することにより得られ、不織布を構成する繊維自体がアイロンなどの加熱によって溶融し接着剤として働く。」(7頁6〜15行)。 B.対比・判断 先ず、甲1の特許請求の範囲記載の発明に係る「熱反転式転写生地」(以下、「生地(あ)」という。)は、前記ア及び第1図(前記カ参照)から明らかなとおり、[剥離用母生地1/仮接着層2/生地部材3/フィルム状ホットメルト樹脂層9]という複雑な4層の積層構造を有する点で、前記特定の2層からなる本件発明の「マーク用生地」(以下、「本件生地」という。)とは全く趣を異にし、それ自体が何ら本件生地を教示するものではない。 この事情を踏まえ、請求人においても、生地(あ)ではなく、その従来技術に相当する、前記イ及び第14図(前記キ参照)記載の「マーク(用)生地」(以下、「生地(い)」という。)を、本件生地との対比の基準としており、実際、客観的にも本件生地に最も近い従来技術が生地(い)であることは明らかである。 そこで、生地(い)に着目して、本件発明(前者)と甲1記載の発明(後者)とを対比すると、後者の「マーク生地素材8」、「ホットメルト樹脂接着剤15」は、それぞれ、前者の「マーク地」、「フィルムからなるホットメルト剤」に相当するから、 両者は、 「マーク地の片面に対し、フィルムからなるホットメルト剤をラミネートするフィルムを有するマーク用生地」 に係る点で一致するものの、 甲1には前者の必須の構成である 1)マーク地が、伸縮するマーク地である点、 2)フィルムからなるホットメルト剤が、ウレタン樹脂製である点、 について、記載されていない。 ここで、請求人は、先ず上記1)について、甲1の前記オの「生地部材3は適度の伸び、弾性を有する」との記載部分を引用し、前者の「伸縮する」と後者の「適度の伸び、弾性を有する」とは同義であるから、両者間には差異はない、と主張する。 しかしながら、特に前記ア及び第1図から明らかなとおり、請求人指摘の「生地部材3」は、前者(=本件発明)との対比の対象である生地(い)ではなく、それとはかけ離れた生地(あ)において用いられるものであるから、その性状如何をもって、本件生地と生地(い)のマーク地が同一であるということはできない。 次に、請求人は、上記2)に関し、甲1には「フィルム状ホットメルト樹脂層9として、ポリアシド系(合議体注釈;該「ポリアシド系」は「ポリアミド系」の誤記と解される。)、ポリエステル系、E,V,A系、その他が使用し得る」旨(前記エ参照)開示されている一方、一般に、ウレタン樹脂は、ポリアミドやポリエステルと同様、ホットメルト剤に使用される極めて汎用性のある樹脂であることは、例えば甲2の前記サからも明らかであり、さらに甲2発明では、ウレタン樹脂が本件生地と同様な機能を果たすワンポイント刺繍を基布に張り付ける際の接着剤として使用されている以上、甲1の「その他の樹脂」(前記エ参照)として、ポリアミド系やポリエステル系に代えてウレタン樹脂を選択することは当業者に想到容易、と主張する。 しかしながら、上記1)について述べたのと同様、そもそも甲1の前記「フィルム状ホットメルト樹脂層9」は、本件発明との対比の対象である生地(い)ではなく、それとは著しく相違する生地(あ)を構成する素材として挙げられただけのものにすぎず、甲1には、問題の生地(い)の「ホットメルト樹脂接着剤15」(前記イ及び第14図参照)が、いかなる樹脂から構成されているのかについて、全く記載も示唆もない。 それに加え、甲2は、ウレタン樹脂が不織布の形態でポリアミドやポリエステルと並列的に使用される旨開示しているのであるから、よしんば、生地(い)の材料として、かかる不織布形態にあるウレタン樹脂を選択したとしても、本件発明の前記必須の構成2)を導き出すことはできない。 一方、本件発明は、該必須の構成1)〜2)を具備することにより、特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。 なお、上記の判断結果は、本件生地の貼着対象が限定されるか否か、またその被貼着物への貼着手段が限定される否か等によって左右されるものではない。 以上のとおりであるから、甲1〜2記載の発明によっては本件発明の進歩性を否定することはできない。 4の3.無効理由3について A.甲3の記載内容 シ.「伸度が200%以上以上であり、かつ100%伸長回復率が85%以上のポリウレタン不織布の片面に、少なくとも一方向の伸び率が10%以上の伸縮性布帛を、他の片面にホットメルトポリウレタンウエブを積層、接合してなる伸縮性接着性シート。」(実用新案登録請求の範囲第1項)、 ス.「本考案はゼッケン、ワッペン或いはひざ当て、ひじ当てに用いられる伸縮性および通気性を有する接着性シートに関する。」(2頁3〜5行)、 セ.「本考案の目的は通気性、柔軟性があり、且つ接着加工後の均一性に優れた伸縮性接着性シートを提供するにある。」(3頁6〜8行)、 ソ.「本考案に用いるホットメルトポリウレタンの形状はウエブ状である。こゝにウエブ状とはランダムなくもの巣状あるいは規則性のある網目状を含むものである。フィルム状の場合は通気性がないため好ましくない。」(5頁7〜11行)。 B.対比・判断 甲3の「伸縮性接着性シート」(前記シ参照)に着目して、本件発明(前者)と先願考案(後者)とを対比すると、前者の「マーク地」は必ずしも単層とは限られない一方、後者の前記「伸度が200%以上以上であり、かつ100%伸長回復率が85%以上のポリウレタン不織布の片面に、少なくとも一方向の伸び率が10%以上の伸縮性布帛を……を積層」したものは、積層構造全体で「伸縮するマーク地」といえるから、 両者は、 「伸縮するマーク地の片面に対し、ウレタン樹脂製のホットメルト剤をラミネートするウレタン樹脂層を有するマーク用生地」 に係る点で一致するものの、 前者のウレタン樹脂層がウレタンフィルムであるのに対し、後者のそれはウエブ状ウレタンである点で、相違する。 ここで、フィルムとウエブとが別種のものであることは、前記ソ記載のウエブ自体の意味、並びに、同所において、フィルムとウエブとを対立概念として記載していることからも明らかである以上、「両者は、文言上の差こそあれ意味するところは同じであるから、実質的に一致し、何ら相違するところがない」(審判請求書12頁下から3〜1行)旨の請求人の主張は、採用することはできない。 もっとも、請求人は、甲3の前記セの「フィルム状の場合は通気性がないため好ましくない。」旨の記載に関し、「先願考案に係る接着性シートのうち、マーク用生地のように貼着対象物を広範囲に覆うことのないシートについては、本件発明のように、伸縮性を除けば、接着力のみを考慮すれば足り、通気性は強いて言えば過剰性能であり、かかる過剰性能の有無のみをもってマーク用生地の実質的な同一性を判断することは、社会的に何ら新しい技術を提供することのない発明に特許権を与えることになりかねず、特許制度の趣旨からみて妥当でない」(口頭審理陳述要領書12頁8行〜13頁1行)とも主張する。 しかしながら、前記のとおり、先願考案に係る伸縮性接着性シートは、ゼッケンやワッペン、すなわちマーク用生地として用いられる場合も、ひざ当てやひじ当てに用いられる場合も、等しく伸縮性と通気性を有すべきものとして示されている(前記ス、セ参照)以上、請求人の主張にかかわらず、先願明細書(=甲3)には、ウレタン樹脂層がウレタンフィルムであるマーク用生地に係る発明が、技術的に意味のある完成した発明として記載されているということはできない。 なお、「通気性は過剰性能であるから、通気性確保を問題にしないのであれば、ウレタンフィルムを用い得る」との議論があるとすれば、それは先願発明からの容易性の有無の問題であり、特許法第29条の2を根拠条文とする無効理由3においては無縁である。 4の4.無効理由4について A.請求人の主張 請求人は、本件発明は「伸縮するマーク地」を構成要件の1つとする(前記請求項1参照)ところ、「伸縮」という語は非常に曖昧な用語であるにもかかわらず、明細書の発明の詳細な説明中にはその用語に関する定義は一切なされておらず、こうした明細書の記載では、「伸縮」という語がどの程度伸縮することを意味するのか、さらには「伸縮するマーク地」がどの程度まで伸縮するマーク地を意味するのか不明であり、結局、本件特許明細書は、当業者が容易に本件発明を実施することができる程度に記載されたものとはいえない、と主張する。 B.当審の判断 しかしながら、そもそも本件発明は、「従来から、……レオタード、スイムスーツのように極めて縦横に伸縮性に富む布地を利用するユニホームに対して通常の布地からなるマーク地を貼着する時、その伸縮性の差異によってマーク地の部分が引きつれ、容易にマーク地自体が剥離する原因となっている。」(本件特許公報3欄7〜21行)等の従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、したがって当然、請求項1の「伸縮するマーク地」とは、前記「通常の布地からなるマーク地」とは相違する、「伸縮する布地からなるマーク地」であることは明らかである。 一方、「通常の織物はほとんど伸縮性がないが、ストレッチ織物と呼ばれる、ポリエステルやナイロンの伸縮加工糸、ポリウレタン混用糸などの伸縮性のある糸をたて糸やよこ糸に用いた織物がある。この織物は、パワーストレッチ織物と呼ばれる高伸縮性タイプで30〜50%、快適ストレッチ織物で10〜20%の伸びがあり、スポーツ衣料やスラックス、スカートなどに用いられる。」(布地について解説した、請求人が審判請求書に添付して提出した前記参考資料1の150頁16〜20行参照)ことは当業者のよく知るところであり、本件発明が従来技術とする「通常の布地からなるマーク地」とは、まさに、上記「ほとんど伸縮性がない」(=全く伸縮性がないか、ごくわずかしか伸縮性がなく、ストレッチ織物の範疇には属さない)織物からなり、その逆に、請求項1にいう「伸縮するマーク地」とは、前記「ストレッチ織物からなるマーク地」を指すことは、当業者には自明と解される。 そして、本件特許明細書中には、該「伸縮するマーク地」の具体例として、「ナイロン80%、ポリウレタン20%の混紡繊維からなる布地;好適には東洋紡株式会社のKNZ2050WF」(同公報4欄19〜22行)が用い得ることが明示されている。 そうすると、当業者にとっては請求人が問題視する「伸縮する」や「伸縮するマーク地」の意味内容は明らかであり、また、当業者であれば、本件特許明細書の記載に基づき本件発明を容易に実施することができるものといえるから、この結論に反する請求人の主張は、妥当なものとはいえない。 5.むすび 以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る特許を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 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審理終結日 | 2001-02-28 |
結審通知日 | 2001-03-13 |
審決日 | 2001-03-26 |
出願番号 | 特願昭63-61614 |
審決分類 |
P
1
122・
531-
Y
(B32B)
P 1 122・ 111- Y (B32B) P 1 122・ 161- Y (B32B) P 1 122・ 121- Y (B32B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 穴吹 智子 |
特許庁審判長 |
小林 正巳 |
特許庁審判官 |
蔵野 雅昭 喜納 稔 |
登録日 | 1997-07-18 |
登録番号 | 特許第2675326号(P2675326) |
発明の名称 | ウレタンフイルムを有するマーク用生地およびその製造方法 |
代理人 | 河備 健二 |
代理人 | 志村 正和 |
代理人 | 高橋 康博 |
代理人 | 鎌田 寛 |