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審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199935773 審決 特許
訂正2008390031 審決 特許
無効200680172 審決 特許
無効200580346 審決 特許
審判19949675 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 産業上利用性 無効とする。(申立て全部成立) C07D
審判 全部無効 特29条の2 無効とする。(申立て全部成立) C07D
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) C07D
審判 全部無効 特39条先願 無効とする。(申立て全部成立) C07D
管理番号 1038931
審判番号 審判1999-35774  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-12-24 
確定日 2001-05-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第2979080号発明「イミダゾール又はピラゾール誘導体類を有効成分とする除草剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2979080号の発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯及び本件特許発明
本件特許第2979080号に係る出願は、昭和58年5月31日(パリ条約による優先権主張1982年6月1日、1983年3月30日、1983年4月4日、1983年4月25日、米国)に出願した特願昭58-95137号(以下、原原特許出願という。)の一部を昭和61年8月20日に新たな特許出願とした特願昭61-195115号の一部を、さらに平成2年5月30日に新たな特許出願としたものであって、平成10年12月2日付で手続補正された後、平成11年9月17日にその発明について特許権の設定の登録がなされた。
それに対して、平成11年12月24日に本件無効審判が請求され、被請求人より平成12年5月22日に答弁書が提出されたものである。
そして、本件発明の要旨は、明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認められる。
「下記式(I-A)、

であり、
R1は炭素数5又は6のシクロアルキル基であり、
R10は炭素数1ないし4のアルキル基であり、
R11は-COOR24であり、
R24は炭素数1ないし3のアルキル基であり、
Xは-CH3又は-OCH3であり、
Yは-CH3又は-OCH3である、
で表わされる化合物又はそれらの農業的に適する塩類を有効成分として含有することを特徴とする除草剤。」(以下、「本件発明」という。)
2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、本件発明はパリ条約に基づく優先権の利益を享受できないので、本件出願の日前の出願であって本件出願後に出願公開された特願昭57-228261号(特開昭59-122488号公報参照:甲第1号証)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明(以下、「N発明」という。)と同一であり、その発明をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一ではなく、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願の出願人とが同一の者ではないから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり(主張1)、
また、本件発明は上記N発明に係る出願の分割出願に係る特許第1613632号発明(特公昭62-37001号公報参照:甲第2号証)と同一であるので特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであり(主張2)、本件明細書の発明の詳細な説明が当業者が容易にその発明を実施できる程度に記載されていないので、本件特許は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり((主張3)第1回口頭審理調書参照)、さらに、本件特許発明は未成立の部分を含むので特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができないものであるから(主張4)、その特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証を提出している。
3.被請求人の主張
一方、被請求人は、乙第1号証ないし乙第11号証及び参考資料1〜3を提出し、最先の米国出願明細書には上記N発明に相当する被請求人の出願に係る本件発明(以下、「N発明に相当する発明」という。)についても十分に開示されており、本件発明はパリ条約に基く優先権の利益を享受できるから、本件特許出願は請求人主張の上記二出願に対して先願の地位を有するものであり、また本件明細書の記載に不備はなく、さらに、本件発明は未成立の部分を含んでいないので、請求人の主張する理由はいずれも根拠が無く、失当である旨主張している。
なお、被請求人は、第1回口頭審理の請求人陳述における米国特許4,169,719号に基づく主張は審判請求書で言及されていないので、審判請求の理由を変更するものであると主張するが、上記米国特許は本件明細書中に記載されている先行技術の一つで、審判請求書第11〜12頁でも取り上げられており、そのような前提技術の説明は請求の理由を変更するものには該当しないので、被請求人のこの主張は採用しない。
4.甲第1号証ないし甲第9号証及び乙第1号証ないし乙第11号証、参考資料1〜3について
甲第1号証(特開昭59-122488号公報)には本件の除草剤の有効成分化合物と同一の化合物及び該化合物を含有する除草剤が記載され、甲第2号証(特公昭62-37001号公報)には本件の除草剤と同一の除草剤が記載されている。甲第3号証(本件発明者の一人であるアンソニー・デビッド・ウルフの証言録取記録)には、アンソニー・デビッド・ウルフ及び彼の下で研究している者が、1982年6月1日付の第1優先権の日前には、ピラゾール系化合物は合成していなかった旨の証言が記載され、その他甲第4号証(平成10年5月12日付拒絶理由通知書)、甲第5号証(平成7年(行ケ)第57号事件判決書)、甲第6号証(平成11年(行サ)第78号上告提起通知書)、甲第7号証(平成11年(行サ)第78号事件上告取下書)甲第8号証(平成2年(行ケ)第243号事件判決書)及び甲第9号証(平成6年(行ツ)第194号事件判決書)には請求人主張の通りの内容が記載されている。
一方、乙第1号証(特許第2979080号公報)、乙第2号証(平成8年2月20日発行の「通産省公報No.13504」14頁)、乙第3号証(平成7年6月28日社団法人発明協会発行、特許庁編「平成6年改正特許法等における審査及び審判の運用」、表紙、はしがき、目次、3〜88頁、奥付、裏表紙、以下「運用指針」とも言う。)、乙第4号証(特開昭59-1480号公報)、乙第5号証(本件発明者の一人であるアンソニー・デビッド・ウルフの宣誓供述書)、乙第6号証(特許庁ホームページに発表された平成11年10月調整課審査基準室作成の「化学関連分野の審査の運用に関する事例集」、以下、「事例集」とも言う。)、乙第7号証(本件特許の米国第1優先権出願(Serial No.384,043)の明細書)、乙第8号証(本件特許の米国第1優先権出願の一部継続出願である米国特許出願第486,092号と甲第1号証の発明者の一人である鈴木文男等の米国特許出願469,458号との間で争われたインターフェアレンスに関する米国特許商標局の特許審判及びインターフェアレンス部の決定)、乙第9号証(本件特許に対応するヨーロッパ特許第95925号明細書)、乙第10号証(上記ヨーロッパ特許第95925号に対し請求人会社が行った特許異議申立に対するヨーロッパ特許庁による異議決定)、乙第11号証(EP-A-87 780)、参考資料1〜3には、被請求人主張の通りの内容が記載されている。
5.当審の判断
(主張1について)
N発明の出願(以下、「N出願」ともいう。)は昭和57年12月28日になされたものであるところ、本件特許は4件の米国特許出願に基づく優先権の主張を伴うものであり、その最先のものは1982年(昭和57年)6月1日を優先権主張日とするものであるから、形式的には本件特許の出願がN発明の先願となるものであるが、請求人の主張する理由1は、N発明に相当する発明は、上記最先の優先権を主張する米国出願第384,043号明細書(乙第7号証、以下、「米国第一優先件出願明細書」という。)においては成立していないのであるから、N発明に相当する発明については、本件特許に係る二番目に早い優先権主張日である1983年(昭和58年)3月30日よりも早い出願日を有するN出願こそが先願としての地位を有する、というものである。
そこでまず、本件発明に係る除草剤の有効成分化合物とN発明に係る化合物との相互関係を確認すると、N発明に関する甲第1号証第5頁右下欄第1表にその融点、性状とともに記載されている化合物のうち、化合物No.1は本件発明に係る化合物を表す一般式(I-A)において、QがQ-4で、R10が炭素数1のアルキル基で、R11が-COOR24で、R24が炭素数1のアルキル基で、Xが-CH3で、かつYが-CH3である化合物に相当し、化合物No.2は上記一般式において、QがQ-4で、R10が炭素数1のアルキル基で、R11が-COOR24で、R24が炭素数1のアルキル基で、Xが-CH3で、かつYが-OCH3である化合物に相当し、化合物No.3は上記一般式において、QがQ-4で、R10が炭素数1のアルキル基で、R11が-COOR24で、R24が炭素数1のアルキル基で、Xが-OCH3で、かつYが-OCH3である化合物に相当し、化合物No.6は上記一般式において、QがQ-4で、R10が炭素数1のアルキル基で、R11が-COOR24で、R24が炭素数2のアルキル基で、Xが-CH3で、かつYが-CH3である化合物に相当し、化合物No.7は上記一般式において、QがQ-4で、R10が炭素数1のアルキル基で、R11が-COOR24で、R24が炭素数2のアルキル基で、Xが-CH3で、かつYが-OCH3である化合物に相当し、化合物No.8は上記一般式において、QがQ-4で、R10が炭素数1のアルキル基で、R11が-COOR24で、R24が炭素数2のアルキル基で、Xが-OCH3で、かつYが-OCH3である化合物に相当するので、本件発明に係る化合物を表す一般式(I-A)において、QがQ-4を表す場合、その化合物はN発明に係る化合物と同一のものであると認められる。
つぎに、米国第一優先権出願明細書(乙第7号証)に、本件発明に係る化合物を表す一般式(I-A)において、QがQ-4を表す化合物発明が完成された発明として記載されているか否か、について検討する。その際、米国第一優先権明細書及び本件特許明細書に共通して記載されている事項であることが本件特許出願において上記最先の優先権を享受できるための必要条件であることに留意しつつ、米国第一優先権出願明細書に記載されている内容をみてみると、化合物については、QがQ-1であるイミダゾール化合物がその第49頁,Table Iaの上から3番目、4番目、5番目及び6番目に記載され、5番目及び6番目の化合物については融点も記載されている。また、QがQ-4であるピラゾール化合物がその第69〜70頁、Table IVにおいて、第69頁、下から7番目、第70頁、下から12番目、下から6番目及び下から5番目に記載され、融点の欄は空欄となっている。
製造方法については、本件化合物の合成法が、その第13頁第2行〜第15頁末行に反応式「1)」(本件特許明細書における「反応式1」に対応。)、「2)」(本件特許明細書における「反応式2」に対応。)、「5)」(本件特許明細書における「反応式3」に対応。)及び「6)」(本件特許明細書における「反応式4」に対応。)として、Q、Aなどの広範な置換基を意味する部分を有する化合物の反応式が記載され、その出発原料たる中間体の製法が、その第18頁22行〜第35頁末行に反応式「9)」(本件特許明細書における「反応式5」に対応。)、「10)」(本件特許明細書における「反応式6」に対応。)、「12)」(本件特許明細書における「反応式7」に対応。)、「Scheme 1」(本件特許明細書における「工程式1」に対応。)、「Scheme 2」(本件特許明細書における「工程式2」に対応。)、「Scheme 4」(本件特許明細書における「工程式3」に対応。)、反応式「13)」(本件特許明細書における「反応式8」に対応。)、「Scheme 5」(本件特許明細書における「工程式4」に対応。)として記載されている。
実施例に関しては、実施例1〜3として、QがQ-1であるイミダゾール系化合物の実施例が記載されている。(これらの実施例は本件特許明細書には参考例1〜3として記載されている。)
また、用途、用法に関しては、その第86頁第14行〜第87頁第7行に本件発明の化合物が強力な除草剤であることが記載され、第96頁のTable A中Compound 14 及びCompound 15(それぞれ第49頁Table Ia中の上から5番目及び6番目の化合物に相当する。)の欄にはそれらの除草効果のデータが記載されている。
これらの記載内容をみると、米国第一優先権出願明細書には、本件特許明細書における一般式(I-A)中のQがQ-1であるイミダゾール系化合物については実施例として2種の化合物の融点(分解温度)が示され、参考例としてQ-1に含まれるものではないが同じ2-イミダゾール誘導体の製造方法が示され、得られた化合物の除草効果に関するデータも記載されている。これに対し、QがQ-4であるピラゾール系化合物については、単に一般的な化合物についての反応経路を表す一連の反応式といくつかの文献が記載されているのみで、具体的な反応条件や同定データ(融点等)の記載がなく、その除草効果についても単に「強力な除草剤」である、というにとどまり、具体的な除草効果を確認する記載はない。
化学物質が産業上利用することができる発明としてその特許が認められるためには、その化学物質が現実に提供されることが必要であり、単に化学構造式や工程式レベルの製造方法を示して理論上の製造可能性を明らかにしただけではたりず、化学物質が実際に確認できるものであることが必要である。そして、ある化学物質に係る特許出願の優先権主張の基礎となる出願に係る明細書に、その化学物質が記載されているか否かについても、同様の基準で判断されるべきである(平成11年(行ケ)207号判決参照)。もっとも、その確認とは、確かに発明の対象となる化学物質を提供したことの証明であるから、現実に製造しなくても現実に製造され、物性データ等の具体的資料が示され、文字どおり確認された化学物質と類似のもので、提供し得たも同然のものと評価されるものであれば、それも確認されたものとして取り扱われるべきである(平成2年(行ケ)第243号判決:甲第8号証参照)。新規な化学物質を有効成分とする農薬(除草剤)の発明についても、まずその化学物質が現実に提供される必要があることは、化学物質発明の場合と同様である。
このような観点から上記米国第一優先権特許出願明細書の記載内容について、まず、QがQ-4であるピラゾール系化合物について直接その確認をすることができる程度に記載されているか否かをみてみると、なるほど米国第一優先権特許出願明細書には、反応式やSchemeとともにいくつかの米国特許明細書などの文献が記載されている。しかし、QがQ-4であるピラゾール系化合物の同定データ(融点等)の記載がなく、その製造方法についてみても、単に反応式やSchemeとQ部分の構造が異なる特定の化合物についての製造方法が記載されているいくつかの文献が示されただけでは、QがQ-4であるピラゾール系新規化合物たる本件発明の化合物を製造する方法についての具体的手がかりがないから、QがQ-4であるピラゾール系化合物を確認できたとすることはできない。
つぎに、本件特許明細書における一般式(I-A)中のQがQ-1であるイミダゾール系化合物については、実施例などにより化学物質が確認できている。このことから、QがQ-4であるピラゾール系化合物もまた提供し得たも同然のものと評価できるか否かについて検討する。
QがQ-1であるイミダゾール系化合物とQがQ-4であるピラゾール系化合物とを対比すると、前者が2-イミダゾール誘導体であるのに対して、後者は5-ピラゾール誘導体であり、共通点は窒素原子を2個有する5員複素環化合物というだけである。環を構成する2個の窒素原子の位置関係、スルホンアミド基と環窒素原子との位置関係も異なるものである。したがって、両者の化学構造は互いに著しく相違するものであり、後者が前者と類似のものであるとは到底いえない。
また、上述したとおり、除草効果についても、QがQ-4であるピラゾール系化合物の試験例は一切無く、QがQ-1であるイミダゾール系化合物の除草効果からQがQ-4であるピラゾール系化合物の除草効果を推測することができないことは、QがQ-1である同じイミダゾール系化合物の中でも、例えば、乙第4号証の化合物22と24、化合物27と33等の除草効果の差を見ても明らかである。
したがって、米国第一優先件出願明細書においては、QがQ-1であるイミダゾール系化合物は確認できるものの、QがQ-4であるピラゾール系化合物は提供し得たも同然のものとは評価できないので、QがQ-4であるピラゾール系化合物は確認されたものということはできない。
そうすると、米国第一優先権特許出願明細書には、QがQ-4であるピラゾール系化合物発明は完成された発明として記載されていないことになり、その化合物を有効成分とする除草剤の発明も同様で、本件特許出願は、QがQ-4であるピラゾール系化合物(N発明に相当)を有効成分とする除草剤発明については米国第一優先権を享受できない。
してみると、本件特許の米国第2優先権主張日である1983年3月30日よりも先の出願日を有し、QがQ-4であるピラゾール系化合物及びその化合物を有効成分とする除草剤が完成された発明として記載されている特願昭57-228261号の存在により、本件特許発明は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、という請求人の主張1は理由がある。
(主張2について)
請求人が本件特許発明と同一の発明である、と主張する上記N発明に係る出願の分割出願に係る特許第1613632号発明(甲第2号証)の除草剤有効成分は、上記N発明のうち、特定の一化合物、すなわち第1表(甲第1号証第5頁右下欄)に記載された化合物No.8に係るものであって、本件発明の一般式中QがQ-4で、R10が炭素数1のアルキル基で、R11が-COOR24で、R24が炭素数2のアルキル基で、Xが-OCH3で、かつYが-OCH3である化合物に相当する。
よって、(主張1について)で述べたと同様の理由により、化合物No.8に係る発明もまた、本件特許出願の基礎となる米国第一優先権特許出願明細書には、完成された発明として記載されていないものであるから、化合物No.8を有効成分とする除草剤の発明についても、特許第1613632号に係る出願が本件特許出願の先願となり、本件特許発明は特許法第39条第1項の規定によって特許を受けることができない、という請求人の主張2も理由がある。
(主張3について)
本件特許明細書には、QがQ-1であるイミダゾール系化合物を有効成分とする除草剤については実施例を伴った具体的記載があるものの、Q-1であるイミダゾール系化合物とは化学構造をまったく異にするQがQ-4であるピラゾール系化合物については、実施例もなく、二工程から成る反応式8と四工程から成る工程式4により製造原料を製造する経路及びこのようにして得られるという製造原料を用いて目的化合物、すなわちQがQ-4であるピラゾール系化合物を製造する経路を示す反応式2または3が記載されているにとどまり、具体的にこれら多数の工程につき個々の工程をどのような反応条件で行うかについては、単にQが全く異なる化合物の製造について記載した欧州特許明細書などの文献をいくつか示すのみであるから、これらの記載からは、当業者がQがQ-4であるピラゾール系化合物を容易に製造できないものである。
この点に関し、被請求人は、乙第2号証を提出して、本件特許出願(特願平2-138621号)の審査には、「平成6年改正特許法等における審査及び審判の運用」(乙第3号証)が適用されるべきであり、それによれば本件特許明細書は充分に「発明の詳細な説明」の開示要件を充足していると主張するが、この運用指針には「3.2.1.実施可能要件の具体的運用」という見出しのもとに「(5)説明の具体化の程度について」として「一般に物の構造からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが困難な技術分野(例.化学物質)に属する発明については、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。」(同運用第35頁第3〜6行)と記載されているところ、ここにいう「一つ以上の代表的な実施例」とは、当然のことながら、明細書に実施例が一つあればよい、という意味ではなく(もちろん一つの実施例で特許請求の範囲に記載された化合物群を代表できる場合は一つでよいが、本件発明はそうではない。)、本件で言えば、化学構造が大きく異なるQがQ-1であるイミダゾール系化合物とQ-4であるピラゾール系化合物のそれぞれについて「代表的な実施例」が必要である、という意味であるから、Q-4であるピラゾール系化合物について「代表的な実施例」の記載されていない本件特許明細書は、同運用によっても記載に不備がある。
また、除草剤としての機能を有するかの確認となる効果についても、QがQ-4のピラゾール系化合物を有効成分とする除草剤については、その効果を証明する試験例が記載されていないので、事例集(乙第6号証)によっても記載不備がある。
よって、請求人の主張3も理由がある。
なお、被請求人は、平成12年5月22日付で提出した答弁書の第15頁において、請求人のN発明を開示している特開昭59-122488号公報(甲第1号証)に記載されているピラゾールスルホニルウレア誘導体の製造方法の反応式1、2、3(同公報第2〜3頁)は、本件特許の原原特許出願公開公報(乙第4号証)に記載されている反応式1、6、3と全く同じであると主張するが、記載不備の対象となるのは公開公報ではなく特許明細書であり、特許明細書においては、公開公報に記載されていた反応式3は削除されており、反応式6は反応式4として記載されているものの、甲第1号証には記載されていない方法であるから、結局反応式1のみが共通して記載されているものである。被請求人は、製造方法に共通したものが記載されている以上、製造方法について請求人は何ら非難できない、と主張するが、請求人は単に反応式を示しただけではなく、実施例等をもって具体的に製造方法を記載しているのに対し、被請求人は、単に反応式を示しただけで具体的に製造方法を記載していないのであるから、被請求人のこの点についての主張も妥当でない。
(主張4について)
本件特許明細書と米国第一優先権特許出願明細書の記載内容を比較する。 QがQ-1であるイミダゾール系化合物である場合とQ-4であるピラゾール系化合物である場合については、前者がQが特定されていない一般的な反応式1〜4のあとに続けて、反応溶媒、反応温度、単離などの製造条件の一般的記載があるのに対して、後者においてはそのような記載がない点を除いて、ほとんど共通しており、上記の一般的記載によっても完成されていない発明を完成させたものとはいえないので、(主張1について)で述べたことと同様の理由により、本件特許明細書においてQがQ-4であるピラゾール系化合物を有効成分とする除草剤については、発明が完成されたものとして記載されていないものである。
よって、本件特許発明は未完成部分を包含するものであるから、特許法第29条第1項柱書の規定を満たしていない、という請求人の主張4も理由がある。
6.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は本件出願の日前の出願であって本件出願後に出願公開された出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、その発明をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一ではなく、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願の出願人とが同一の者ではないから、本件特許は特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、また、本件特許発明は先願発明と同一であるから、本件特許は特許法第39条第1項の規定に違反してなされたものであり、また、本件特許発明は未完成部分を包含するものであるから、本件特許は同法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたものであり、さらに、本件特許は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、本件特許は同法123条第1項第2号及び同項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-11-27 
結審通知日 2000-12-08 
審決日 2001-01-04 
出願番号 特願平2-138621
審決分類 P 1 112・ 16- Z (C07D)
P 1 112・ 14- Z (C07D)
P 1 112・ 4- Z (C07D)
P 1 112・ 531- Z (C07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 深津 弘
松井 佳章
登録日 1999-09-17 
登録番号 特許第2979080号(P2979080)
発明の名称 イミダゾール又はピラゾール誘導体類を有効成分とする除草剤  
代理人 中村 至  
代理人 大塚 一郎  
代理人 岩田 弘  
代理人 品川 澄雄  
代理人 平木 祐輔  
代理人 江角 洋治  
復代理人 牧野 知彦  
代理人 小田島 平吉  
代理人 石井 貞次  
代理人 吉澤 敬夫  

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