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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A21D
管理番号 1043100
異議申立番号 異議1999-73667  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-08-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-30 
確定日 2001-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2876316号「ピザ用の生地玉、ピザ生地、及びピザ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2876316号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2876316号に係る発明についての出願は、平成10年2月6日に特願平10-25254号として出願され、平成11年1月22日にその特許の設定登録がなされ、その後、松井裕美子より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年4月10日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
(1)特許請求の範囲の請求項1を「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有するピザ用の生地玉であって、該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、これを折り込む操作を繰り返すことで製造されていることを特徴とするピザ用の生地玉。」と訂正する。
(2)段落【0010】の「・・・組織を有するピザ用の生地玉」にある。」を「・・・組織を有するピザ用の生地玉であって、該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、折り込む操作を繰り返すことで製造されていることを特徴とするピザ用の生地玉。」にある。」と訂正する。
(3)特許請求の範囲の請求項2を「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地。」と訂正する。
(4)段落【0011】の「・・・組織を有するピザ用の生地玉を・・・」を「・・・組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を・・・」と訂正する。
(5)特許請求の範囲の請求項3を「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地を焼く工程を経てなるピザであって、前記小麦粉層の中に前記固形バターが溶けて染み込んでおり、かつ前記小麦粉層の中に不連続な空気層が形成されていることを特徴とするピザ。」と訂正する。
(6)段落【0012】の「・・・組織を有するピザ用の生地玉を・・・」を「・・・組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を・・・」と訂正する。
(7)段落【0002】の「そして、ピザ用の生地玉及びピザ生地とは、前記ピザを作るために使用される材料となるものであって、レーズンやチョコチップ、ココア、ゴマ、その他これらに類するもの等、或いは例えば烏賊墨の如きもの等を含有するものをすべて含む意味の概念である。」の記載を削除する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)は、「該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、これを折り込む操作を繰り返すことで製造されていること」という構成要件を直列的に付加するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当し、訂正事項(2)は、訂正事項(1)に伴う訂正である。
上記訂正事項(3)は、「ピザ用の生地玉」を「請求項1記載の」と特定するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当し、訂正事項(4)は、訂正事項(3)に伴う訂正である。
上記訂正事項(5)は、「ピザ用の生地玉」を「請求項1記載の」と特定するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当し、訂正事項(6)は、訂正事項(5)に伴う訂正である。
上記訂正事項(7)は、各請求項に係る発明が菓子パイを含まないことを明瞭にしたものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、上記いずれの訂正も新規事項に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.独立特許要件
当審が通知した取消理由の概要は、請求項1乃至3に係る発明は、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものであるところ、訂正された請求項1乃至3に係る発明(以下、「本件発明1乃至3」という。)は、後述の「III.3.判断 」の項に記載のように、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1乃至3は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4,2項、及び同条3項で準用する126条2項から4項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.特許異議申立書の理由の概要
訂正前の本件請求項1乃至3に係る発明は、甲第1乃至9号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特公昭44-21388号公報
甲第2号証:和田常子著「パイの事典」(1980.6.5.東京新聞出版局発行)
甲第3号証:米国特許第4891233号公報
甲第4号証:米国特許第2522591号公報
甲第5号証:英国公開特許第2070408号公報
甲第6号証:森山サチ子著「手作りの洋菓子・和菓子」(昭54.7.15.主婦と生活社発行)
甲第7号証:大阪あべの辻製菓専門学校ら編「プロ調理の基本」(1996.5.15.同朋社出版発行)
甲第8号証:川上恵子ら著「紅茶ににあう菓子、コーヒーににあう菓子123」(1997.4.1.柴田書店発行)
甲第9号証:吉川敏明著「イタリア料理教本」(1999.7.20.柴田書店発行)

2.甲各号証の記載内容
甲第1号証は、「パイの製造法」に係り、
「この油脂を使ってパイを製造するには、小麦粉・食塩・水及び油脂を混合し、油脂の塊が生地中に残存する程度に軽く捏和する。次で、その油脂塊保有生地を直ちにロールで数回圧延折りたたむ。その程度は、生地中の油脂の塊が、材料生地層と共に薄く延びて、生地中に任意の厚さと数の層をなして分布するように行う。これを所望の形に成形して焙焼すれば、風味佳良浮きのよい製品が得られる。」(2頁3欄5〜13行)が、
甲第2号証には、
「広げた生地にバターを散らし、また生地をのせてのばして行く“手の過程”を、正確に機械でするものです。」(155頁14〜15行)が、
甲第3号証には、
「プレミックスドウの分野では、米国特許第4645673号が、ペストリー用ドウ組成物とは全く異なるパン用ドウ組成を持つ冷凍のピザ用ドウを開示している。このドウは、高タンパク質及び低タンパク質の小麦粉の特定の混合物で作られており、好ましくはフレークの形をした固形脂片を10〜17重量%含有している。脂のフレークはWileyの溶融方法による118°F〜130°Fの範囲内の融点をもつ。固形脂片は、ドウが焼上げのためオーブンに入るまでドウの中に残っている。」(甲第3号証翻訳文2頁3〜14行)が、
甲第4号証には、
「ショートニングのこのような乾燥した自由に流れる粒子は、小麦粉、塩などといったペストリードウのその他の乾燥した材料と配合されて、小麦粉、塩などの粒子でコーティングされたショートニング材料の個々の粒子を含む混合物を形成することができる。」(甲第4号証翻訳文27頁3〜8行)が、
甲第5号証には、
「・・・小さな脂片を、カット、フレーク化又はスライスされたドウの中に導入する工程、及び硬質脂片が中及び間に存在するドウの複数の層から成るドウシートを形成するべく脂とドウを合わせてプレスする工程を含んで成る、・・・」(甲第5号証翻訳文41頁7〜11行)、
「この条件下で、延ばされたシートは、非常に多くの無作為に位置づけされた小さい硬質脂片が中に含まれた層状化した塊を含んでいる。」(同44頁末行〜45頁2行)が、
甲第6号証には、「いちごパイ」の材料として「パイ皮(薄力粉・・・120グラム、塩・・・少々、バター・・・70グラム、冷水・・・約40cc)」(52頁)、「アップルパイ」の作り方として、「(1)パイ皮は、薄力粉・強力粉 各120グラム、塩 少々、・・・」(53頁)、及び「ショーソン・オ・ポンム」の材料として「パイ皮(強力粉・薄力粉・・・各120グラム、塩・・・少々、冷水・・・110cc、バター・・・200グラム)」(56頁)が、
甲第7号証には、「ミルフイユ」の材料として、「小麦粉(薄力粉)・・・250g、強力粉・・・250g、塩・・・10g、水・・・250〜300cc、バター・・・450g」(74頁)が、
甲第8号証には、「パート・フイユテ」の材料として、「薄力粉 125g、強力粉 125g、溶かし無塩バター 20g、水 125cc、塩 小さじ1/2」(26頁)が、
甲第9号証には、ピザの歴史、及び各種ピザの作り方が、それぞれ記載されている。
3.判断
(本件発明1について)
本件発明1は、「該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、これを折り込む操作を繰り返すことで製造されていることを特徴とする」ものであるところ、甲第3号証には、「高タンパク質及び低タンパク質の小麦粉の特定の混合物」との記載はあるものの、この混合物の混合割合についての開示はなく、甲第6号証乃至甲第8号証には、薄力粉と強力粉とを混合して使用することは記載されているが、その混合割合はいずれも同量であって、本件発明1のように、薄力粉を強力粉よりも多く混合して使用することについて教えるところはない。
また、甲第1号証,甲第2号証,甲第4号証,甲第5号証、及び甲第9号証には、単に小麦粉を使用することが開示されているだけで、薄力粉と強力粉とを混合して使用することは教示していない。
そして、本件発明1は、上記の構成を採用することにより、所期の効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(本件発明2及び3について)
本件発明2及び3は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1の判断と同様の理由により、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1乃至3についての特許を取り消すことはできない。
また他に本件発明1乃至3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ピザ用の生地玉、ピザ生地、及びピザ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有するピザ用の生地玉であって、
該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定量の前記混合物に、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、これを折り込む操作を繰り返すことで製造されていることを特徴とするピザ用の生地玉。
【請求項2】イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地。
【請求項3】イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地を焼く工程を経てなるピザ生地であって、
前記小麦粉層の中に前記固形バターが溶けて染み込んでおり、かつ前記小麦粉層の中に不連続な空気層が形成されていることを特徴とするピザ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピザ用の生地玉、ピザ生地、及びピザに関するものであり、より詳細には、イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有するところに特徴を有するピザ用の生地玉、該生地玉を延ばして得られるピザ生地、及びこのピザ生地を焼く工程を経て得られるピザに関するものである。
【0002】
ところで、この明細書において、ピザとは、トッピング類や具の類、その他これらに関する例えば生地に練り込む烏賊墨の如きもの等によって様々に称呼されるものをすべて含む一方、アップルパイの如きパイ菓子類は含まない意味の概念である。
【0003】
【従来の技術】
従来のピザ用の生地玉はいずれも実質的には小麦粉とイースト菌とバター若しくは固形脂とをその主たる成分としており、これらを思い切りよく混ぜ、こね合わせ、たたき、ついで第1次発酵させて得られる所謂パン生地に属するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述したかかる従来のピザ用の生地玉にあっては、こねる作業がどうしても不足がちになって、生地の肌理が粗くなることが多い。そして、このような肌理の粗い生地を焼き上げると、焼き上がりが堅く、しかもボソボソとした食感になるという不具合があった。
【0005】
また、第1次発酵させた生地玉は、イースト菌が生き物であるから、ちょっとした環境変化にも誠に敏感に応答するので、生地玉の変化をこまめにチェックする必要があった。例えば、イースト菌の絶対量が不足していたり、第1次発酵させる時間が短かすぎると、ふんわり柔らかく焼き上げることができないことになる。逆に、イースト菌が必要以上に含まれているとか、第1次発酵させる時間が長すぎると、発酵がどんどん進行するために、生地玉に酸っぱい臭いがつくという不具合があり、しかも、このような生地玉を焼成すると、焼き上がりがやや広がった感じになったり、中がスカスカに焼き上がったりすることになるという不具合があった。
【0006】
そのために、従来のパン生地タイプのピザ用の生地を的確に作るためには、熟練した職人の勘に頼ることが多くてその出来上がりの再現性が悪く、生地の管理が誠に面倒であるとともに、日保ちが悪いという問題があった。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑み鋭意創案されたものであって、その目的とするところは、特には、簡単につくれてその出来上がりの再現性にも優れ、かつその管理が簡単であって日保ちが良く、しかもそのままでも美味しく食べられるピザ用の生地玉、該生地玉を延ばして得られるピザ生地を提供せんとするものである。
【0008】
本発明の他の目的とするところは、従来のピザよりもサクサクした食感が得られるピザを提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決しようとする手段】
本発明者は、従来のピザ用の生地は生きたイースト菌を含有させ発酵させており、これが上述した例えば出来上がりの再現性の悪さ、日保ちの悪さ等の原因になっていることに鑑み、焼成時に、固形バター若しくは他の固形脂を溶融させながら小麦層の中に浸透させることによりその全体に旨味を付与させることができ、しかも、固形バター若しくは他の固形脂が溶融されて形成される特には小麦層間の隙間に微細な気泡を抱かせることができ、これにより、最終品たるピザにサクサクとした食感を付与できることを見い出して本発明を完成したものである。
【0010】
そのために請求項1に記載の発明が採用した手段の要旨とするところは、「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有するピザ用の生地玉であって、該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定量の前記混合物に、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、これを折り込む操作を繰り返すことで製造されていることを特徴とするピザ用の生地玉」にある。
【0011】
請求項2に記載の発明が採用した手段の要旨とするところは、「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地」にある。
【0012】
請求項3に記載の発明が採用した手段の要旨とするところは、「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地を焼く工程を経てなるピザであって、前記小麦粉層の中に前記固形バターが溶けて染み込んでおり、かつ前記小麦粉層の中に不連続な空気層が形成されていることを特徴とするピザ」にある。
【0013】
このような構成を採用した請求項1に記載のピザ用の生地玉、請求項2に記載のピザ生地によると、イースト菌が含まれていないので、従来のように、例えば小麦粉と固形バターとイースト菌と思い切りよく混ぜ、こね合わせ、たたき、ついで第1次発酵させる作業のいずれもが不要となって熟練した職人の勘に頼らなくても出来上がりに優れた生地を再現性よく作製できる等、上述した様々な不具合の全てを解消できる。すなわち、特には、ピザ生地の日保ちの向上が図れ、その管理も不要となる。
【0014】
このような構成を採用した請求項3に記載のピザによると、焼成時に、固形バター若しくは他の固形脂を溶融させながら小麦粉層の中に浸透させてあるので、その全体に旨味成分が確実に付与されている。
【0015】
また、固形バター若しくは他の固形脂が溶融することに伴って形成される特には小麦層と小麦層との間の隙間に、熱膨張した微細な気泡が抱かれた状態に焼き上がっているので、最終製品たるピザの全体にサクサクとした歯ごたえ、舌触り等の食感が得られるようになる。
【0016】
すなわち、本発明によると、イースト菌を使用しない新規なピザ用の生地玉、ピザ生地、及びピザが提供できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これは代表的なものを示したものであり、その要旨を越えない限り、以下の実施例により本発明が限定されるものではない。すなわち、本発明の精神から逸脱しない範囲内において、配合成分、配合割合、操作順序等を変更できることは、本業界に携わるものにとって容易に理解されることである。
【0018】
まず、請求項1記載の発明となるピザ用の生地玉10を説明する。
篩いとおしした薄力粉200gと、篩いとおしした強力粉80〜130g(例えば110g)を容器内に入れて均一となるまで混合し、この混合物に水70〜250g(例えば160g)を加えてその全体を湿潤させて塊となす。ついで、この塊に、スケッパーで略ディスク形状に切断した固形バターをのせ、端を引っ張るように寄せ2つ折りに折り畳んで固形バターの全体を包み込み、とじ目を手で軽く押さえつける。この操作を繰り返しながらその都度に固形バターを加える。固形バター100〜160g(例えば130g)の全てを添加し終えた後、必要であれば、上述した生地を折り畳む操作を繰り返すと、請求項1に記載のピザ用の生地玉10が得られる。
【0019】
また、上述した薄力粉と強力粉との混合物280gに水160gを加えてその全体を湿潤させて塊とし、この塊に、スケッパーで略ディスク形状に切断した固形バター130を混ぜ込み、上述した生地を折り畳む操作を繰り返しても、請求項1に記載のピザ用の生地玉10が得られる。
【0020】
なお、この生地玉10を作る際に、例えば烏賊墨、カレー粉等に代表される香辛料、果物や野菜等の絞り汁、ブランデーなどの酒、アーモンドスライスやスキンミルクのごとき類のものを添加するとか、固形バターに代えてショートニング、固形マーガリン、ラード等に代表される固形脂を使用する若しくは固形バターに配合するとか等、様々に設計変更できる。
【0021】
得られた生地玉10は、図1に示すように、連続する小麦粉層2の中に不連続な固形バター層4が多層に埋め込まれた組織から構成されることになる。
【0022】
このような組織からなる生地玉10は、生き物であるイースト菌が含まれていないので、冷蔵庫の中に保管すれば、少なくとも1週間の間その風味等を消失されることなく保管できることが解った。
【0023】
なお、薄力粉と強力粉の配合割合や水の添加量等は、季節毎に或いは好みにより適宜変更する必要がある。強力粉の配合割合が多すぎると、焼き上がったピザが堅くなる傾向があり、強力粉の配合割合が少なすぎると、焼き上がったピザに腰がなく、サクサクとした感じに焼き上げることができない。
【0024】
つぎに、前記生地玉10をピザ1個分に相当する大きさに裁断して分割し、予め薄く打ち粉をふったキャンパス地に載せ、手で押し広げるようにして平らとし、めん棒で約5mm厚の厚さの円形若しくは矩形にのばすと、請求項2に記載の発明になるピザ生地が得られる。
【0025】
そして、このピザ生地にソースを塗り、トッピングを載せて、そのままオープンレンジに入れ、230〜270℃、5〜7分間焼成すると、請求項3に記載にピザ20が得られる。図2は、このピザ20の組織を説明するために模式的に示した要部断面図であり、前記トッピング等は全て省略されている。
【0026】
図において、ピザ20は、焼成時に、固形バターが溶けて小麦粉層2の中に染み込むので、その全体に所謂旨味成分が確実に保持されている。
【0027】
また、固形バターが溶けて小麦粉層の中に染み込むのに伴って特には小麦粉層2と小麦粉層2との間の隙間6が形成され、この隙間6の中に、熱膨張した微細な気泡8が抱かれた状態に焼き上がるので、サクサクとした歯ごたえ、舌触り等の食感が得られるピザ20となる。
【0028】
ところで、本発明になるピザ用の生地玉10を作製する場合、従来のパン生地を作製するときのように、思い切りよく混ぜ合わせたり、こね合わせたり、たたきつけるのではなく、小麦粉を水で湿らせてなる塊の一端を他端側に引き寄せて真ん中で2つ折りするように畳み込むところにその特徴がある。
【0029】
もし仮に、従来のパン生地を作製する場合と同様に、混ぜ合わせたり、こね合わせたり、たたいたりすると、小麦粉層2の中に不連続な固形バター層4を多層に埋め込ませることができない。そのため、このような生地玉を焼成して得られるピザは、小麦粉層2の中に固形バターを染み込ませてその全体に旨味成分が付与されているものの、固形バターの溶融に伴って形成される隙間6の中に微細な気泡若しくは空気層8を保持させることができないから、サクサクとした歯ごたえや舌触り等の食感をもったピザに焼き上げることができない。
【0030】
【発明の効果】
以上述べたように、請求項1に記載のピザ用の生地玉の組織、及び請求項2に記載のピザ生地は、イースト菌が含まれていない組織から構成されている点にその構成特徴がある。したがって、このようなピザ用の生地玉、及びピザ生地によると、従来の所謂パン生地タイプの生地とは異なり、例えば小麦粉と固形バターとイースト菌と思い切りよく混ぜたり、こね合わせたり、たたきつけたり、そして第1次発酵させる作業のいずれもが不要となるから、特にはサクサクとした食感をもつピザを焼き上げることのできる生地玉若しくはピザ生地を、簡単且つ再現性よくつくれこれを提供することができる。
【0031】
また、これらはイースト菌を含んでいないため、少なくとも1週間は変質することなく保管できて(日保ち性の向上が図れて)その管理も不要となるという観点から、極めて実効性に優れ、商品価値の向上が図れる、という格別顕著な作用効果が得られる。
【0032】
請求項3に記載のピザにあっては、小麦粉層の中に固形バター若しくは他の固形脂がまんべんなく染み込んでいるから、焼き上がったピザは誠に美味しい。また、固形バター若しくは他の固形脂が溶けることに伴って形成される特には小麦層と小麦層との間の隙間に、熱膨張した微細な気泡が抱かれた状態のまま焼き上がっているので、最終製品たるピザは、サクサクとした歯ごたえ、舌触り等の食感が得られるという観点から、さらに、電子レンジで暖めなおしたりオーブンレンジ等で焼きなおしてもその味や食感が変わらないという観点から、極めて実効性のある食品である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明となる生地玉の組織を説明するために模式的に示す要部部分断面図である。
【図2】 本発明となるピザの組織を説明するために模式的に示す要部部分断面図である。
【符号の説明】
2…小麦粉層
4…固形バター層
6…隙間
8…気泡(空気層)
10…生地玉
20…ピザ
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
(1)特許請求の範囲の請求項1を特許請求の範囲の減縮を目的として「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有するピザ用の生地玉であって、該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、これを折り込む操作を繰り返すことで製造されていることを特徴とするピザ用の生地玉。」と訂正する。
(2)段落【0010】の「・・・組織を有するピザ用の生地玉」にある。」を訂正事項(1)に伴い「・・・組織を有するピザ用の生地玉であって、該ピザ用の生地玉は、薄力粉200重量部と強力粉80〜130重量部からなる小麦粉の混合物と、水70〜250重量部と、固形バター100〜160重量部とを含み、所望する所定の前記水を加えて湿潤させ、得られる塊に所望する所定量の前記固形バターを添加し、折り込む操作を繰り返すことで製造されていることを特徴とするピザ用の生地玉。」にある。」と訂正する。
(3)特許請求の範囲の請求項2を特許請求の範囲の減縮を目的として「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地。」と訂正する。
(4)段落【0011】の「・・・組織を有するピザ用の生地玉を・・・」を訂正事項(3)に伴い「・・・組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を・・・」と訂正する。
(5)特許請求の範囲の請求項3を特許請求の範囲の減縮を目的として「イースト菌を含有しておらず、連続する小麦粉層の中に不連続な固形バター層を備えた組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を延ばして得られるピザ生地を焼く工程を経てなるピザであって、前記小麦粉層の中に前記固形バターが溶けて染み込んでおり、かつ前記小麦粉層の中に不連続な空気層が形成されていることを特徴とするピザ。」と訂正する。
(6)段落【0012】の「・・・組織を有するピザ用の生地玉を・・・」を訂正事項(5)に伴い「・・・組織を有する請求項1記載のピザ用の生地玉を・・・」と訂正する。
(7)段落【0002】の「そして、ピザ用の生地玉及びピザ生地とは、前記ピザを作るために使用される材料となるものであって、レーズンやチョコチップ、ココア、ゴマ、その他これらに類するもの等、或いは例えば烏賊墨の如きもの等を含有するものをすべて含む意味の概念である。」の記載を明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
異議決定日 2000-11-06 
出願番号 特願平10-25254
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田中 久直
藤田 節
登録日 1999-01-22 
登録番号 特許第2876316号(P2876316)
権利者 河村 修美
発明の名称 ピザ用の生地玉、ピザ生地、及びピザ  
代理人 長田 正  
代理人 岡村 信一  
代理人 廣江 武典  
代理人 小林 十四雄  

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