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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E05C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E05C
管理番号 1043203
異議申立番号 異議2000-70369  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-04-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-25 
確定日 2001-04-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2927459号「マグネット吸着具」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2927459号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2927459号は、平成1年9月12日に出願され、平成11年5月14日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成12年1月25日に須田武より特許異議の申立てがなされ、取消理由がなされ、その指定期間内である平成13年1月23日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正請求の訂正の内容
特許権者が求めている訂正は、明細書の特許請求の範囲の減縮をすることを目的として特許請求の範囲を訂正し、明細書の明りょうでない記載の釈明を目的として発明の詳細な説明を訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。
訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1「一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により支持させたマグネット吸着具。」を「一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させたマグネット吸着具。」と訂正する。
訂正事項2:明細書4頁8〜9行「該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により支持させた」を、「該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させた」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第120条の4第2項のただし書きの要件を満たすものである。
(2)上記訂正事項2は、特許請求の範囲との整合をとるために、発明の詳細な説明の記載の明りょうでない記載を明確にしたものであるから、特許法第120条の4第2項のただし書きの要件を満たすものである。
(3)また、上記訂正事項1および2に関連する記載として、願書に添付した明細書には、「磁石組体10をケーシング20に対して弾性的に支持する。」(明細書第7頁第10,11行)、「ヨーク板12の前端部16に衝撃力が加わると、ヨーク板12は係止突起46、56を介して弾性支持リング44、54に支持されているので、その衝撃力は弾性支持リング44、54が撓んで前端部16がケーシング20内に引込むことにより吸収され」(明細書第8頁第13行〜第19行)と記載されており、上記訂正事項1および2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において弾性部材による磁石組体の支持について限定したものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもないことから、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1、2項の要件を満たすものである。
2-3.独立特許要件
(1)本件訂正発明
本件の訂正後の明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
【請求項1】一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させたマグネット吸着具。
(2)取消理由において示した先願発明および異議申立人の提出した甲各号証の記載事項
先願:実願昭63-57281号(実開平1-163683号参照)(特許異議申立人の提出した甲第1号証)
甲第2号証:実願昭62-95029号(実開昭64-2876号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭51-144319号(実開昭53-63400号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭53-174040号(実開昭55-86863号)のマイクロフィルム
(2-1)上記先願明細書には、家具用マグネットドアキャッチに関して以下のように記載されている。
a.「Aは本考案による家具用マグネットドアキャッチであって、マグネット11,ヨーク12,マグネット収納ケースa,取付ベースb及び固定用ネジ13等から構成されている。前記マグネット収納ケースaは、樹脂材により、前面に長方形状の開口部を有する薄型のボックス形に形成され、その上下面の中央前側には、周囲が切欠かれて形成された舌片14が前端側から中央方向に延在され、その先端の内側には、マグネット収納ケースa内に突出する突起15が形成され、該突起15によってマグネット11を係止するようになされている。すなわち、該マグネット11は、中央に係止孔12aを有するヨーク12が両面に吸着され、該マグネット11をヨーク12と共にマグネット収納ケースa内に挿入すれば、前記舌片14はヨーク12により該舌片14の有する弾性により一時的に押し広げられるが、ヨーク12の係止孔12aが前記突起15に達すると反力によって元に復帰し、ヨーク12の係止孔12a内に突起15が侵入して該ヨーク12が係止されることによってマグネット11が係止される。」(第8頁第10行〜第9頁第10行)、
b.「マグネットは、該マグネットに吸着されたヨークを介してマグネット収納ケースに形成された突起に係止され、該マグネットの後端は、取付ベースに立設された係止筒には当接しないようになされている。したがって、マグネットやヨークにドアの開閉による衝撃が加わっても、該衝撃は係止筒には伝わることがない。」(第6頁第18行〜第7頁第4行)、
c.第1図ないし第3図には、マグネット収納ケースa内にマグネット11の両面にヨーク12を吸着してなるもの(以下、「マグネット体」という。)が収納されており、該ヨーク12がマグネット収納ケースaの前方に突出しているマグネットドアキャッチが記載されている。
したがって、先願明細書および図面には、以下の発明が記載されていると認められる。
一対のヨーク12がマグネット11の両面に吸着されてなるマグネット体をマグネット収納ケースa内に収納し、前記一対のヨーク12の各前端部を前記マグネット収納ケースaから前方に突出させたマグネットドアキャッチにおいて、マグネット体をケーシングに対し、マグネット収納ケースの上下面に周囲が切欠かれて形成された弾性を有する舌片の突起により支持されたマグネットドアキャッチ。
(2-2)甲第2号証には、吸着装置について、
a.「25・26は切欠溝であって、保持片13・14の強度を適宜な弾性を有するようにしている。」(第3頁第15、16行)、
b.「また磁性板を保持片により挟着保持させ、かつ遊嵌させていることからたとえば扉を閉じた際の衝撃を吸収して故障の危険もなく、衝接部の損傷も抑えることのできるものである。」(第4頁17〜20行)、
と記載されている。
c.そして、第3図および第4図には、磁性体19を磁性板17,18で挟み込んだ磁石組体を、磁性板17,18の前端部が突出した状態で本体ケース11に収容され、本体ケース11の両側内面に形成された保持片13,14に設けられた突起15,16により、磁石組体が両側面から支持されている吸着装置が記載されている。
したがって、甲第2号証には、以下の発明が記載されている。
磁性板17,18が磁性体19を挟み込んでなる磁石組体を本体ケース11に収容し、前記磁性板17,18の前端部を本体ケース11から前方に突出させた吸着装置において、本体ケース11の両側内面に切欠溝によって弾性を有するよう形成された保持片13,14に設けられた突起により磁石組体を両側面から支持させた吸着装置。
(2-3)甲第3号証には、マグネットキャッチャの取付機構について、
a.「第1図はこの考案のマグネットキャッチャの構成を示す斜視図で、1はフエライト,マンガンジンクフエライト,バリウムフエライト等の鉄酸化物を主体とした板状の永久磁石体で、その厚み方向に着磁され両板面がN・S極を構成している。2,3は鉄,鋼等の強磁性体で構成された板状のヨークで前記永久磁石体1の両側にそれぞれ当接する如く配設され、一辺が前記永久磁石体の一辺よりも若干長く構成され吸着用の磁極部4を構成するようになっている。5は前記した磁極部を外して永久磁石体1、ヨーク2,3の外周を被包しこれらを1体化する如く成形された合成樹脂製の外皮で、該外皮の幅狭の一辺にはその中央に後述する被取付部材に構成した係止鉤部と該部と連設するリブ部が挿着する挿着溝6a,6bが設けられ、第2図に示すようにこの挿着溝の端部近傍には楔状の係止凹部7a,7bが設けられている。」(第3頁第14行〜第4頁第11行)、
b.「係止凹部7a,7bの大きさと鉤10a,10bの大きさに予め余裕を設けておけばマグネットキャッチャAと被取付部材Bとの間に遊びが生じ、マグネットキャッチャAの磁極部4に加わる外力を十分吸収することができる。」(第5頁第13〜18行)、
と記載されている。
c.そして、第1ないし4図には、永久磁石1を一対のヨーク2,3で挟み込み、これらを合成樹脂製の外皮で被包した磁石組体を被取付部材Bの凹部内に収容したマグネットキャッチャAが、被取付部材Bの両側内面に形成された楔状の鉤10a,10bが磁石組体の両側面に係合して、該磁石組体が両側面から支持されている。
したがって、甲第3号証には、以下の発明が記載されている。
永久磁石1を一対のヨーク2,3で挟み込み、合成樹脂製の外皮で被包したマグネットキャッチャAを、被取付部材Bの凹部内に収容し、ヨーク2,3の前端部を被取付部材Bから前方に突出させた吸着装置において、被取付部材Bの両側内面に形成された弾性を有する楔状の鉤10a,10bがマグネットキャッチャAの両側面に係合して支持する吸着装置。
(2-4)甲第4号証には、マグネットキャッチについて、
a.「ケース本体(16)の上面の一端部にヒンジ部(17)(17)によって蓋体(18)が連接して設けられ、且つ、この蓋体(18)の内側には磁気拡大板押え用のリブ(19)(19)と共に弾性片(20)が一体に成型されていることを特徴としている。また、上記弾性片(20)が容易に変形できるようにするため上記蓋体(18)の一部が切欠(21)される」(第3頁第18行〜第4頁第4行)、
と図面とともに記載されている。
(3)対比・判断
(3-1)本件訂正発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「一対のヨーク12がマグネット11の両面に吸着されてなるマグネット体」、「マグネット収納ケースの上下面」、「周囲が切欠かれて形成された弾性を有する舌片の突起」および「マグネットドアキャッチ」は本件訂正発明の「一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体」、「磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置」、「くり抜きにより形成した弾性支持部材」および「マグネット吸着具」にそれぞれ相当しており、両者は、一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により支持させたマグネット吸着具である点で一致しているが、本件訂正発明が、磁石組体を該弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させたのに対して、上記先願発明は、そのような構成を有していない点で相違している。
したがって、本件訂正発明と先願発明が同一であるとは認められない。
(3-2)本件訂正発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第2号証に記載された発明の「磁性板17,18が磁性体19を挟み込んでなる磁石組体」、「本体ケース11の両側内面」、「保持片13,14に設けられた突起」および「吸着装置」が、本件訂正発明の「一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体」、「該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置」、「弾性支持部材」および「マグネット吸着具」にそれぞれ相当しているから、両者は、一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置に形成した弾性支持部材に支持させたマグネット吸着具である点で一致しており、下記の点で相違している。
相違点:本件訂正発明は、弾性支持部材がくり抜きにより形成され、該弾性支持部材により磁石組体を前方からの力を吸収するように弾性的に支持しているのに対して、甲第1号証に記載された発明は、弾性支持部材(突起が設けられた保持片13,14)が切欠溝によって弾性を有するように形成されており、磁石組体を前方からの力を吸収するように弾性的に支持してはいない点。
上記相違点について検討すると、甲第3号証に記載された発明は、被取付部材B(本件訂正発明の「ケーシング」に相当している。)の両側内面に形成された弾性を有する楔状の鉤10a,10b(本件訂正発明の「弾性支持部材」に相当している。)がマグネットキャッチャA(本件訂正発明の「磁石組体」に相当している。)の両側面に係合して支持されているが、該楔状の鉤10a,10bは磁石組体を前方からの力を吸収するように弾性的に支持するものではなく、また、甲第4号証に記載された発明は、ケース本体16の蓋体18の内側に弾性片20(本件訂正発明の「弾性支持部材」に相当している。)が一体に成型されており、施蓋すれば該弾性片20は磁石組体の後方に位置して該磁石組体をケースの前方へ押圧するが、該弾性片はケーシングの周面位置にくり抜きにより設けられたものではなく、また、磁石組体を支持するものでもない。
したがって、本件訂正発明の上記相違点に係る構成については、甲第2号証ないし甲第4号証に記載されているとも、また、示唆もされているとも認められない。
そして、本件訂正発明は、上記相違点に係る構成を有することにより、磁石組体を扉の開閉時に扉からの衝撃力を吸収すべくケーシングに対して弾性的に支持させたマグネット吸着具において、「磁石組体の前後面を除く周面位置で弾性支持部材によりこの磁石組体をケーシングに支持させたので、マグネット吸着具全体の奥行きを短くすることができ、よってこのマグネット吸着具が取付けられる本体内に取り付けられるスペースを充分確保することができるとともに本体自体の奥行きを短くできる」(特許公報第3頁6欄第8〜14行)という格別の効果を奏するものである。
なお、上記2-3.(2)(2-2)b.および2-3.(2)(2-3)b.には、甲第2および3号証に記載された発明は、磁石組体とケーシングとを遊嵌させる(磁石組体とケーシングとの間に遊びを設ける)ことによって、磁石組体に加わる外力を吸収することができる旨の記載があるが、これは本件訂正発明のように、磁石組体を前方からの力を吸収するように弾性的に支持して外力を吸収するようにしたものではなく、また、磁石組体を弾性的に支持する弾性支持部材の撓みによって外力を吸収する本件訂正発明と、単に磁石組体とケーシングとを遊嵌して外力を吸収できるようにした甲第2および3号証に記載された発明との間で作用効果を異にするものである。 よって、本件訂正発明は、上記甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明のいづれかと同一であるとも、また、上記甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明から、当業者が容易に発明し得たものであるともすることはできない。
(3-3)さらに、本件訂正発明には、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由もないことから、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の要件を満たすものである。
2-4.まとめ
以上のとおりであるから、特許権者が求めている訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用される特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する第126条第2,3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立について
申立人須田武は、甲第1号証(先願発明)、甲第2ないし4号証を提出して、本件特許第2927459号の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、または、甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条第1項3号の規定により、または、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、容易に発明し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。
しかしながら、上記異議の申立に係る発明は、訂正請求により特許請求の範囲が訂正され、かつ、上記2.で検討したように、該訂正は適法であるから結果として異なるものとなった。そして、訂正後の特許第2927459号の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとも、甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された発明と同一であるとも、また、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものともすることはできず、特許法第29条の2、特許法第29条第1項3号、特許法第29条第2項に該当しないことは、上記2-3.(3)に記載したとおりである。
また、他に訂正後の特許第2927459号の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
4.むすび
よって、結論のとおり、決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マグネット吸着具
(57)【特許請求の範囲】
(1)一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させたマグネット吸着具。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明はマグネット吸着具に係り、例えば、オーディオ機器などの本体の前面に埋設され、その磁石の吸引力によって、本体に取付けられた扉を閉じ状態に維持するためのマグネット吸着具に関する。
[従来の技術]
一般に、この種のマグネット吸着具は、一対のヨーク板が磁石片の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、このケーシングを例えばオーディオ機器などの本体の前面に形成した取付穴に埋設固定し、前記一対のヨーク板の凸字型をなす各前端部をそのケーシングから前方に突出させ、一方本体を開閉する扉に磁性体を装着し、この磁性体がヨーク板の各前端部に吸着されることにより扉の閉じ位置を維持するようにしている。ここで、磁石組体は扉の開閉時に扉から衝撃力を受けるため、この衝撃力を吸収すべくケーシングに対して弾性的に支持さた構造がとられている。
その従来技術の一例として、実開昭62-165373号公報に記載のものがあり、このものはケーシングすなわちハウジングの前面と対向した底、すなわち磁石組体の背面とケーシングとの間の位置に、磁石組体を背後から弾圧するばね片をハウジングと一体に設けたものであり、これにより組立を簡素化できるという利点がある。
さらに従来には、比較的大きなマグネット吸着具を使用できるような場合には、前記磁石組体の背面とケーシングの底との間にコイルばねを介装させるようなものもある。
[発明が解決しようとする課題]
しかし、近年、オーディオ機器その他の製品においては小型化の要望とともに、機器全体の奥行を短くするという強いの要望がある。一方、本体前面に埋設されるマグネット吸着具の奥行は、機器本体の奥行に大きな影響を与えるので、できるだけ短いものが要求されるにも拘らず、前述の従来技術においては、磁石組体の背後とそのケーシングとの間に弾性支持部材が介装される構造であるため、この弾性支持部材のスペース分が奥行の増大につながり、このような要望に応えることができないという実状であった。
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、極めてコンパクトに、特にマグネット吸着具の奥行をできるだけ短くしつつ磁石組体をケーシングに対して有効に弾性支持することができるマグネット吸着具を提供するにある。
[課題を解決するための手段]
本発明は、このような目的を達成するために、一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させたものである。
[作用]
このように、磁石組体の前後面を除く周面位置で弾性支持部材によりこの磁石組体をケーシングに支持させることにより、磁石組体の前後方向ひいてはケーシングの前後方向に弾性支持部材を配置する必要がなくなり、マグネット吸着具全体の奥行を最小限にくい止めることができる。
[実施例]
以下本発明を図面に示す実施例に基いて説明する。
まず第1図ないし第3図には本発明の一実施例が示されている。符号10で示すのが磁石組体であり、この磁石組体10は一対の凸形状なすヨーク板12が磁石片であるコア14の両極面に吸着されることにより構成され、各ヨーク板12の前端部16はコア14よりも前方に突出している。符号18は各ヨーク板12の表面にそれぞれ形成された係止穴であり、後述するケーシングの弾性支持部材の突起が嵌合する。
磁石組体10を収納するケーシング20は主として、前板22と、一対の側板24と、各側板24の奥端部から斜め前方に向って突出する一対の係止翼26と、下板28と、蓋板30と、蓋板30を下板28に連結する底部32と、からなり、これら部材がプラスチックなどの合成樹脂材料によって一体的に形成される。前板22は、磁石組体10がこのケーシング20内に収納された際に各ヨーク板12の前端部16が前方に突出するのを許容するための一対の開口34を上下に有している。また36は後述する本体の取付穴にケーシング20を装着した際における装着状態を安定させるための突出部であり、フランジ状の前板22の裏面に左右に一対設けられる。前記底部32は薄肉のヒンジ部38を有し、これによって、蓋板30はヒンジ部38で折り畳まれることにより一対の側板24の上縁に沿って整合した状態でこのケーシング20を閉じ、これによってこのマグネット吸着具の組立を容易にしている。蓋板30を各側板24に係止するため、蓋板30には一対の爪40、一方側板24には各爪40が係止する切欠き42がそれぞれ形成されている。
磁石組体10をケーシング20に対して弾性的に支持するための弾性支持部材が、この実施例ではケーシング20の下板28および蓋板30に一体的に形成されている。すなわち、下板28をくり抜くことにより、略ドーナツ型の弾性支持リング44が下板28に形成され、かつこの弾性支持リング44上にその中央位置において係止突起46が一体的に突設されている。ここで、弾性支持リング44に所定の強度を与えるため、弾性支持リング44と他の下板28の部分との間に一対のブリッジ48がかけ渡されている。一方、蓋板30にも同様に、前記下板28の弾性支持部材の構造と対称に弾性支持リング54、係止突起56、ブリッジ58がそれぞれ一体的に形成される。磁石組体10がケーシング20内に収納された際、下板28側の係止突起46が磁石組体10の下側のヨーク板12の係止穴18に係合し、蓋板30の係止突起56が上側のヨーク板12の係止穴18に係合し、これによって磁石組体10をケーシング20に対して弾性的に支持する。
磁石組体10をケーシング20内に収納して蓋板30を閉じ、蓋板30の爪40を側板24の切欠き42に係止させることにより組立てられたマグネット吸着具は、オーディオ機器やその他の電気通信機器などの本体取付板60に形成された取付穴62に第1図の矢印方向に挿入される。これにより、ケーシング20の一体の係止翼26が取付穴62を通過する際にその幅が弾性的に狭まり、本体取付板60を通過し終えて復元し、特に第2図に示すように、本体取付板60の裏面の縁に各係止翼26の段部27が係止し、このマグネット吸着具が本体取付板60に固定される。ここで、取付穴62の四隅にはその奥端寄りにコーナー部64が肉盛り形成され、このコーナー部64の前面端部にケーシング20の前板22のフランジ状の裏面が当接することによりケーシング20が位置決めされる。取付け完了状態では、ヨーク板12の前端部16のみが取付板60の前面から突出する。
このように本体取付板60に埋設して装着されたマグネット吸着具に対し、第2、3図に仮想線で示すように、扉70が閉じられる際、ヨーク板12の前端部16に衝撃力が加わると、ヨーク板12は係止突起46、56を介して弾性支持リング44、54に支持されているので、その衝撃力は弾性支持リング44、54が撓んで前端部16がケーシング20内に引込むことにより吸収され、その後弾性支持リング44、54が弾性復帰することにより前端部16は再び押し出され、コア14の磁力で扉70を閉じた状態に保つ。
この実施例によれば、弾性支持部材である弾性支持リング44、54が磁石組体10の背後や前方に位置せず、その上下に位置するので、ケーシング20の奥行が短くて済み、その分本体取付板60内に設置される主要な機器の取付けスペースが拡大し、機器全体の奥行が短くなる。
特にこの実施例によれば、一対のヨーク板12がそれぞれ独立して弾性支持リング44、54に弾性支持されるので、例えば第3図に示す扉70が傾斜した状態で一対の前端部16に対して吸着される場合であっても、そのような斜めの扉70に整合するようにそれぞれの前端部16が追従することになる。すなわち、この場合、一対のヨーク板12がコア14に対して相対的にずれるが、磁石の磁束がずれるだけで透磁率に変化がなく、充分な吸着力を得ることができる。
また、各ヨーク板12は係止突起46、56に係合しているので、僅かながらも係止突起46、56回りに回転可能であり、従って、第3図の紙面と直角な方向に対して扉70が傾斜するような場合にも所定の範囲でヨーク板12が回動することによりこれに追従することができる。
以上の実施例では、弾性支持部材として略ドーナツ状の弾性支持リング44を示したが、その形状に限定する必要はなく、例えば第4図に示すように弾性支持リング44を略ハート型に形成してもよく、第5図に示すようにこれを略六角形に形成してもよく、またさらに第6図に示すようにこれを略菱型が組合されたネット状に形成してもよく、さらには単に菱形状に形成してもよい。
[効果]
以上説明したように、本発明によれば、磁石組体の前後面を除く周面位置で弾性支持部材によりこの磁石組体をケーシングに支持させたので、マグネット吸着具全体の奥行を短くすることができ、よってこのマグネット吸着具が取付けられる本体内に取付けられるスペースを充分確保することができるとともに本体自体の奥行を短くできるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係るマグネット吸着具の一実施例を示す分解斜視図、第2図は同実施例におけるマグネット吸着具を本体に取付けた状態を示す平面図、第3図は第2図のIII-III線に沿う断面図、第4図ないし第6図は弾性支持部材の形状の変形例をそれぞれ示す模式図である。
10…磁石組体, 12…ヨーク板
14…コア, 16…前端部
20…ケーシング,44…弾性支持リング
54…弾性支持リング
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1「一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により支持させたマグネット吸着具。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「一対のヨーク板が磁石の両極面に吸着されてなる磁石組体をケーシング内に収納し、前記一対のヨーク板の各前端部を前記ケーシングから前方に突出させたマグネット吸着具において、磁石組体をケーシングに対し、該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させたマグネット吸着具。」と訂正する。
訂正事項2:明細書4頁8〜9行「該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により支持させた」を、不明りょうな記載の釈明を目的として、
「該磁石組体の前後面を除くケーシングの周面位置にくり抜きにより形成した弾性支持部材により前方からの力を吸収するように弾性的に支持させた」と訂正する。
異議決定日 2001-03-01 
出願番号 特願平1-236492
審決分類 P 1 651・ 113- YA (E05C)
P 1 651・ 121- YA (E05C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 南澤 弘明  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 鈴木 公子
宮崎 恭
登録日 1999-05-14 
登録番号 特許第2927459号(P2927459)
権利者 日幸工業株式会社
発明の名称 マグネット吸着具  
代理人 藤村 元彦  
代理人 大賀 眞司  
代理人 大賀 眞司  
代理人 田中 克郎  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 稲葉 良幸  

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