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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C07B
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07B
審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C07B
管理番号 1044642
異議申立番号 異議1999-74264  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-10 
確定日 2001-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2889140号「第4主族元素のハロゲン原子含有化合物の触媒的脱ハロゲン法」の請求項1、2、11ないし20に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2889140号の請求項1ないし2、11ないし17に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
特許第2889140号の請求項1、2及び11〜20に係る発明についての出願は、平成6年12月15日(パリ条約による優先権主張1993年12月17日、ドイツ国)に特許出願され、平成11年2月19日に特許権の設定登録がなされた。その後、その特許について、異議申立人 渡邉 順之より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年10月4日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa〜eのとおりである。
a.特許請求の範囲の記載
「【請求項1】炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒において、この触媒は、元素状珪素及び少なくとも1種の遷移金属又は遷移金属珪素化物を含有する担体不含の触媒活性系であることを特徴とする、炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒。」を
「【請求項1】炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒において、この触媒は、少なくとも1種の遷移金属珪素化物を含有し、成形された形で存在する担体不含の触媒活性系であることを特徴とする、炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒。」に訂正する。
b.請求項13、14及び15を削除する。
c.請求項16〜18を、請求項13〜15と訂正する。
d.「【請求項19】請求項1に記載の触媒を製造するために、微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属又は遷移金属塩を水素-及び/又はハロゲン含有珪素化合物及び/又は元素状珪素及び水素と反応させることを特徴とする、請求項1に記載の触媒を製造する方法」を
「【請求項16】請求項1に記載の触媒を製造するために、(i)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属塩を珪素及び水素及び場合によりハロゲン含有珪素化合物と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とするか、又は(ii)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属を、ハロゲン含有珪素化合物及び水素と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とし、(i)又は(ii)で得られた遷移金属珪素化物を成形された状態にすることを特徴とする、請求項1に記載の触媒を製造する方法」と訂正する。
e.「【請求項20】微細分散性の遷移金属をSiCl4及び水素と反応させる、請求項19に記載の方法。」を「【請求項17】ハロゲン含有珪素化合物としてSiCl4を反応させる、請求項16に記載の方法。」
2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正aは、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内で触媒活性系の成分を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、また、上記訂正bは、請求項を削除するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当し、上記訂正cは、請求項の番号の整合を図るものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正dは、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内で触媒の反応成分を明確化し、形状を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正eは、訂正された請求項16と整合を図るものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3)独立特許要件の判断
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒において、この触媒は、少なくとも1種の遷移金属珪素化物を含有し、成形された形で存在する担体不含の触媒活性系であることを特徴とする、炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒。」(特許請求の範囲第1項)であり、遷移金属珪素化物の含有を必須とするものである。
当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭58-161915号公報:異議申立人の提出した甲第1号証)には、「金属けい素粉と触媒量のスタンプ銅とを装入した流動床反応炉を、加圧下に450〜550℃に保持し、ここに水素ガスと四塩化けい素を供給し流動反応させることを特徴とするトリクロロシランの製造方法。」(特許請求の範囲)が記載されている。
刊行物2(特開昭59-45919号公報:異議申立人の提出した甲第2号証)には、「金属珪素粉末を充填した流動床反応器に、(1)四塩化珪素と水素との混合ガス…を供給して反応させトリクロルシランを製造する方法において、…その粉状物を反応器に循環させることを特徴とするトリクロルシランの連続製造法。」(特許請求の範囲)が記載され、上記の粉状物はAl等の塩化物を含む金属珪素粉末である旨のことも記載されている(2頁右上欄12〜左下欄2行)。また、比較例、実施例には「比較例1 図面に示す流動床反応器1に銅粒5重量%を含む100〜300μの工業用金属珪素粒(珪素純度約98%)を多孔板ノズル22上60cmの高さに充填し、…実施例1 四塩化珪素:水素を1:2モル比の混合ガスを80cc/min導管20を通して反応器1に送入した。サイクロン5で捕集した粉末は反応器から同伴した粉状物の50重量%を前記混合ガス20cc/minと共に導管21を通して反応器下部に送入した。これ以外は比較例1と同様に行った。」(3頁左上欄17〜左下欄8行)が記載されている。
刊行物3(特開昭62-256713号公報:異議申立人の提出した甲第3号証)には、「白金族元素を含有する金属シリコン充填層に、四塩化珪素と水素との混合ガスを大気圧ないし大気圧以上の圧力で、かつ300〜700℃の温度下で通過させることにより四塩化珪素をトリクロロシランに変換させるトリクロルシランの製造方法。」(特許請求の範囲)が記載されている。
刊行物4(特開昭50-60496号公報:異議申立人の提出した甲第4号証)には、「従来採用されている四塩化珪素からトリクロルシランを製造する方法には、触媒としてCu、Ni、Mg-Zn合金、これら金属をアルミナに含浸させたもの、Si、Si-Cu合金、Si-Ni合金などを使用する方法が知られている」(1頁右下欄15〜19行)が記載されている。
刊行物5(特開昭57-129817号公報)には、「流動層反応器中に…金属シリコン粒子と触媒粒子との混合物を充填した後…トリクロロシランの製造方法。」(特許請求の範囲)が記載され、上記触媒粒子として銅、ニッケル等が使用できる旨が記載されている。(3頁左上欄4〜8行)
(対比・判断)
そこで、本件発明と上記刊行物1〜5に記載された発明とを対比する。
刊行物1〜5に記載された発明の水素化脱ハロゲン化用触媒は、遷移金属珪素化合物を含有するものではなく、さらに、成形された形で存在するものでもないから、触媒成分及び触媒形態の点で本件発明とは相違する。
したがって、本件発明は、刊行物1〜5のいずれかに記載された発明に該当しない。
また、請求項2及び11〜15に係る発明は、本件発明の触媒を使用する水素化脱ハロゲン方法なので、本件発明と同様の理由で、刊行物1〜5のいずれかに記載された発明に該当しない。
さらに、請求項16に係る発明は、「請求項1に記載の触媒を製造するために、(i)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属塩を、珪素及び水素及び場合によりハロゲン含有珪素化合物と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とするか、又は(ii)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属を、ハロゲン含有珪素化合物及び水素と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とし、(i)又は(ii)で得られた遷移金属珪素化物を成形された状態にすることを特徴とする、請求項1に記載の触媒を製造する方法。」であり、遷移金属珪素化物を成形された状態にする点で、刊行物1〜5に記載された触媒の製造方法とは明らかに異なる。また、請求項17に係る発明は、請求項16を引用する発明なので請求項16と同様の理由で、刊行物1〜5のいずれかに記載された発明に該当しない。
次に、明細書の記載が特許法第36条に規定する要件を満たしていないとされた訂正前の請求項13、15及び19に係る発明のうち、請求項13及び15については当該請求項削除の訂正がなされ、請求項19に係る発明も訂正の結果、不明瞭な記載であるとも、その発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されていないともいえないものとなった。
したがって、本件請求項1、2及び11〜17に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法改正前の同法第126条1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
1)申立ての理由の概要
申立人 渡辺 順之は、本件請求項1、2及び11〜20に係る発明は、甲第1号証(特開昭58-161915号公報、取消理由で引用した刊行物1)、甲第2号証(特開昭59-45919号公報、取消理由で引用した刊行物2)、甲第3号証(特開昭62-256713号公報、取消理由で引用した刊行物3)、甲第4号証(特開昭50-60496号公報、取消理由で引用した刊行物4)のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項により特許を受けることができないものであるから、上記請求項に係る特許を取り消すべきと主張し、さらに、本件請求項13、15及び19に係る発明の特許は、その明細書が特許法第36条第4項又は第5項及び6項の規定に適合していない出願に対してなされたものであり、取り消されるべき旨主張している。
2)判断
訂正後の本件請求項1、2及び11〜17に係る発明は、上記(2).3)で示したように、取消理由通知で示した刊行物(甲第1〜4号証)に記載された発明には該当せず、さらに、その明細書が特許法第36条第4項又は第5項及び6項の規定に適合していない出願に対してなされたものでもない。
したがって、本件請求項1、2及び11〜17に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2及び11〜17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
第4主族元素のハロゲン原子含有化合物の触媒的脱ハロゲン法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒において、この触媒は、少なくとも1種の遷移金属珪素化物を含有し、成形された形で存在する担体不含の触媒活性系であることを特徴とする、炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒。
【請求項2】 水素の存在で、炭素又は珪素のハロゲン含有化合物を触媒的に水素化脱ハロゲンする方法において、触媒として、請求項1に記載の触媒を使用することを特徴とする、炭素及び珪素のハロゲン含有化合物を触媒的に水素化脱ハロゲンする方法。
【請求項3】 1〜20個のC-原子を有するハロゲン含有炭素化合物を水素化脱ハロゲンする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 クロル炭素化合物、クロル炭化水素化合物、フルオル炭素化合物、フルオル炭化水素化合物、クロルフルオル炭素化合物、クロルフルオル炭化水素化合物を水素化脱ハロゲンする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】 塩素含有炭素化合物を、100〜1000℃の範囲の温度で水素化脱ハロゲンする、請求項2から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】 少なくとも2個の塩素原子を含有する炭素化合物を使用し、部分的な水素化脱塩素を100〜600℃の範囲の温度で実施する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】 少なくとも2個の塩素原子を含有する炭素化合物を使用し、完全な水素化脱塩素を200〜1000℃の範囲の温度で実施する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】 弗素含有炭素化合物を、100〜1000℃の範囲の温度で水素化脱弗素する、請求項2から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】 少なくとも2個の弗素原子を含有する炭素化合物を使用し、部分的な水素化脱弗素を100〜700℃の範囲の温度で実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】 少なくとも2個の弗素原子を含有する炭素化合物を使用し、完全な水素化脱弗素を300〜1000℃の範囲の温度で実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】 式:RxSiCl4-xのハロゲン含有シラン又は式:RyCl3-ySi-SiRzCl3-zのハロゲン含有ジシラン[式中、RはCl、1〜6個のC-原子を有するアルキル基又はフェニル基を表し、x、y及びzは、相互に無関係に0、1、2又は3であり、ここで、ジシランは、少なくとも1個の塩素原子を含有する条件を伴う]を水素化脱ハロゲンする、請求項2に記載の方法。
【請求項12】 SiCl4を水素化脱ハロゲンしてSiHCl3にする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】 離脱すべきハロゲン原子1個当たりH2 1〜20モルを使用する、請求項2から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】 常圧下に水素化脱ハロゲンする、請求項2から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】 珪素および少なくとも1種のニッケル、銅、鉄、コバルト、モリブデン、パラジウム、白金、レニウム、セリウムおよびランタンを含む群がら選択された金属を基礎とする担体不含の触媒活性系を使用する、請求項2から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】 請求項1に記載の触媒を製造するために、(i)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属塩を、珪素及び水素及び場合によりハロゲン含有珪素化合物と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とするか、又は(ii)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属を、ハロゲン含有珪素化合物及び水素と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とし、(i)又は(ii)で得られた遷移金属珪素化物を成形された状態にすることを特徴とする、請求項1に記載の触媒を製造する方法。
【請求項17】 ハロゲン含有珪素化合物としてSiCl4を反応させる、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、水素の存在での第4主族元素のハロゲン原子含有化合物の触媒的水素化脱ハロゲンのための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素の存在での、第4主族元素、特に炭素及び珪素のハロゲン原子含有化合物の水素化脱ハロゲンは、一方では、より僅少なハロゲン原子含量を有する相応する化合物を合成するという目的を有し、他方では、ハロゲン原子含有化合物を分解する又は、例えば、廃ガス-又は廃水浄化法の範囲において、もう1つの化学的又は生物学的分解を促進するという目的を有する、相応するハロゲン原子含有化合物がそれで変換されうる方法である。今まで使用されてきた触媒は、あまり安定でなく、かつ取り扱いに屡々危険であるとも実証されている:水素化脱ハロゲンを触媒作用するラネーニッケルは、製造困難であり、かつ取り扱いに危険である。使用済み触媒の再活性化は不可能である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、水素の存在での、第4主族元素のハロゲン原子含有化合物の触媒的水素化脱ハロゲンのための改善方法を提供することである。この課題は、本発明の方法によって、解明される。
【0004】
【課題を解決するための手段】
水素の存在での、第4主族元素のハロゲン原子含有化合物の触媒的水素化脱ハロゲンのための本発明による方法は、触媒として、珪素及び少なくとも1種の遷移金属を包含する触媒活性系を使用することを特徴とする。“第4主族元素”という概念は、特に炭素及び珪素を包含する。“遷移金属”という概念は、殊に、珪化物生成能力を有するような遷移金属に関する。本発明の範囲では、珪素及びニッケル、銅、鉄、コバルト、モリブデン、パラジウム、白金、レニウム、セリウム及びランタンから選択された少なくとも1種の金属を基礎とする触媒活性系が特に有利である。勿論、前記の遷移金属の2種又は数種を包含し、珪素を基礎とする触媒活性系も使用可能である。
【0005】
珪素及びニッケルを基礎とする触媒活性系が、特に有利である。
【0006】
金属対珪素の原子比は、有利に100:1〜1:100、殊に20:1〜1:20の範囲にある。ニッケル及び珪素の触媒活性系の場合には、ニッケル対珪素の原子比2:1〜3:2を有するような系が特に活性であり、同様に、ニッケル対珪素の原子比約1:1〜1:2を有する系が特に触媒的に活性である。前記の系が触媒的に活性であるという事情についての説明がなくても、金属-珪化物-相が生じることは、推察される。これは、ニッケル及び珪素を有する系の場合には、例えば、Ni2Si-、Ni3Si2-、NiSi-もしくはNiSi2-相である。場合により過剰に存在する金属及び特に珪素は、触媒系の寿命を高めうる。
【0007】
また、混合珪化物として見なされる触媒活性系、例えばニッケル、銅及び珪素を包含する活性系が使用可能である。純粋な金属及びその珪化物の混合物を使用することも可能である。また遷移金属化合物、例えばハロゲン化物又は炭化物(例えばNiCl2又はNi3C)が、触媒活性系の成分であってよい。触媒活性系は、成形されて、例えばペレット又は錠剤に圧縮されて存在するのが有利である。
【0008】
例えば、R113のCF2=CFClへの水素化脱塩素の場合に、過剰の珪素を有する触媒組成物が、低温でも長時間にわたって安定であることが実証された。この実験条件下で、R113の水素化脱塩素は、有利に、前記のように経過する。長時間安定は、例えば、ニッケル及び珪素を珪化ニッケルの形で、並びに過剰の珪素を含有する触媒活性系の場合に、認められる。この種の触媒組成物の場合には、金属(例えばニッケル)対珪素の原子比は、1よりも小さい。
【0009】
水素及び離脱すべきハロゲン原子のモル比は、広い範囲で変動してよい。離脱すべきハロゲン原子1個当り、H2 1〜20モルを使用するのが有利である。完全な水素化脱ハロゲンを目的とする場合には、有利に、上位範囲で処理し、部分的水素化脱ハロゲンを目的とする場合には、有利に、下位範囲で処理する。
【0010】
この方法は、環境圧未満の圧力で、環境圧を越えた圧力で、又は殊に環境圧で(1atm)実施されうる。有利には連続的に貫流装置中で処理する。
【0011】
本発明の有利な実施態様は、炭素のハロゲン原子含有化合物の使用に関する。この実施態様を次に説明する。
【0012】
ハロゲン原子含有の炭素化合物を、減少されたハロゲン原子含量を有する炭素化合物に、又は、完全な水素化脱ハロゲンの場合には、ハロゲン原子不含の炭素化合物に変換するための本発明による方法は、多様なやり方で適用され得る。例えば、そのものとして使用され得る、又は中間生成物であるハロゲン炭化水素もしくは炭化水素を合成することができる。これは、本発明による方法が、高級ハロゲン化出発物質の再循環の範囲で実施される場合には、特に有利である。このような方法で、もはやそれ以上使用され得ない、又は更に使用されるべき出発物質が価値ある物質に変換されうる。特に、完全ハロゲン化された炭素化合物を、水素原子及び場合によりハロゲン原子を含有する炭素化合物に変換し、かつこの方法で代用物を製造することができる。
【0013】
しかし、出発物質が再循環に予定されない場合にも、本発明による方法を、有利に使用することができ:ハロゲン原子含量の減少は、続いて行なわれる他の変換方法の際に、当該使用物質の分解を容易にする。例えば、難燃焼性又は全く燃焼不可能な高級ハロゲン化又は完全ハロゲン化炭素化合物を、易燃焼性の、又は酸化可能な又は燃焼可能な、僅少なハロゲン原子含量の炭素化合物に、もしくはハロゲン不含の炭化水素化合物に変換することができる。
【0014】
勿論、この方法は、そのつどの反応温度で蒸気-又はガス状で存在する化合物への適用の際に特に有利であるが、本方法はそのような化合物に限定されるものではない。ハロゲン原子、炭素原子及び場合により水素原子から構成されている飽和又は不飽和の化合物を使用することができる。ヘテロ原子、例えば酸素原子又は窒素原子を有する化合物を使用することができ、同様に他のヘテロ原子を有する化合物も、触媒活性系が受け入れられない程度に失活されないことを前提として、同様に使用することができる。このことは小実験で調べることができる。
【0015】
本方法は、ハロゲン原子及び場合により水素原子を含有し、1〜20個のC-原子を有する飽和又は不飽和炭素化合物への適用に特に好適である。次の化合物群が特に良好に脱ハロゲン化水素されうる:殊に1〜20個のC-原子を有する、極めて特に有利には1〜7個のC-原子を有する、クロル炭(化水)素化合物、フルオル炭(化水)素化合物、クロルフルオル炭(化水)素化合物並びにそのブロム含有誘導体。
【0016】
水素化脱ハロゲン、特に水素化脱塩素及び水素化脱弗素を、通例、100〜1000℃の温度範囲で実施する。その際、最適温度は、当然、個々の化合物で、かつ方法パラメーター、例えば触媒に関する空間速度に依っても、異なる。最適温度は、所望の脱ハロゲン化水素度にも合せなければならない。最適温度及び最適方法パラメーターは、小実験によって調べることができ、その際、例えば温度及び/又は空間速度を変え、かつ反応生成物もしくは反応生成物の混合物を分析する。
【0017】
部分的水素化脱ハロゲンを目的とする場合には、下位の温度範囲で処理する。例えば、2個又はそれ以上の塩素原子を含有する炭素化合物を使用する場合には、部分的脱ハロゲン化水素を、通例、100〜600℃の温度範囲で、かつ完全な水素化脱ハロゲンを、200〜1000℃の温度範囲で達成する。
【0018】
少なくとも2個の弗素原子を含有する炭素化合物の部分的水素化脱弗素のために、100〜700℃の温度で、かつ完全な水素化脱弗素のために、300〜1000℃の範囲の温度で処理する。
【0019】
例えば、四塩化炭素は、350℃未満の反応温度で、部分的水素添加された生成物を生成させ、350℃を越えた場合には、メタンが生じ、すなわち、完全な水素化脱ハロゲンが行なわれる。1,1,2-トリクロル-1,2,2-トリフルオルエタン(R113)は、本発明による方法で、ニッケル及び珪素を包含する触媒活性系の使用で、300℃からすでに反応する。400〜450℃の範囲での反応で、数種の生成物、特にCF2=CFClが生じる。この不飽和生成物の生成についての説明がなされなくても、先ず1個の塩素原子が水素と交換され、次いで1個のHCl-離脱が行なわれることは推察され得る。生成されたCF2=CFClは、化学合成及びポリマーの製造のための重要な中間生成物である。R113の完全な脱ハロゲン化水素が450℃の温度から行なわれる。触媒活性系において、Si-過剰量が存在する場合には、CF2=CFClの生成に関して、反応は特に選択的である。その場合は、触媒系は、長時間安定性も有する。
【0020】
また、ポリマー化合物を、本発明の方法で、出発物質として使用することができる。例えばポリ塩化ビニルを使用する場合には、塩酸及びモノマーが生成する。同様のことが、ポリテトラフルオルエチレンの使用の際に、勿論、550℃からのより高い温度ではじめて、あてはまる。
【0021】
本発明のもう1つの有利な実施態様は、珪素を含有する化合物への適用に関し、この際、少なくとも1個の珪素-ハロゲン-結合、殊に少なくとも1個の珪素-塩素-結合が存在する。本発明のこの実施態様における特に有利な出発物質は、式:RxSiCl4-xのハロゲン原子含有シラン又は式:RyCl3-ySi-SiRzCl3-zのハロゲン原子含有ジシランである[式中Rは、塩素原子、1〜6個のC-原子を有するアルキル基又はフェニル基を表わす]。この際、x、y及びzは、整数であり、この際、xは0〜3を表わし、yは0〜3を表わし、かつzは同様に0〜3を表わすが、シランもしくはジシラン中に、少なくとも1個の塩素原子が存在していなければならないという条件を伴なう。1個の分子に2個又はそれ以上の基Rが存在している場合には、これらは、同一又は異なる意味を有してよい。本発明による方法は、水素原子を含有するシラン又はジシランの合成のために特に好適である。特に、SiCl4からのSiHCl3の収得に好適である。しかし、例えばメチルトリクロルシランから、メチルジクロルシランを製造することもできる。
【0022】
特にSiHCl3の製造の際に、シランもしくはジシラン中で塩素原子を水素原子と交換することは、殊に、200〜1000℃の温度範囲で行なわれる。本発明による方法のこの実施態様の特別な利点は、他の方法の場合と違って、出発物質の最初の純度が保たれて残っていることである。従って、本発明による方法は、トリクロルシラン(SiHCl3)の使用下での最純度の珪素の製造の範囲で、極めて特に好適である。最純度の珪素のこの製造の範囲で、最後に挙げた化合物は不均化され、この際、高純度のSiCl4が生じ、これは本発明による方法により、水素化脱ハロゲンされ得て、最純度の珪素の製造のために方法工程中にもどされうる。
【0023】
触媒活性系を、所望の場合には、当該金属又は金属の塩もしくは当該金属及び珪素の微細分散性粒子(粒径<1mm)の混合によって製造することができる。触媒活性系を、殊に、その場で製造するのが有利である。そのために、遷移金属又は相応する塩、水素-及び/又はハロゲン原子含有Si-化合物、例えばハロゲン化珪素及び水素を反応させることができる。微細分散性遷移金属をSiCl4及び水素と反応させることが特に有利である。その際、微細分散性遷移金属と共に触媒活性系を生成させる元素の珪素が析出する。珪素化合物を、全部又は部分的に元素の珪素に代えることもできる。所望の場合には、生成した活性系を成形し、例えば錠剤に圧搾し、又は成形された出発物質から出発することができる。
【0024】
触媒活性系は、元素の珪素又は水素-及び/又はハロゲン原子含有の珪素化合物、例えばSiCl4及び水素との反応によって再生され得ることが確認された。このことは、SiHCl3がSiCl4から製造される場合に、実際に連続的に行なわれる。また、ハロゲン原子含有炭素化合物の水素化脱ハロゲンの際にも、SiCl4を、出発物質に、連続的に又は断続的に混合させるか、もしくは、再生のために、触媒活性系を通すことができる。
【0025】
【0026】
本発明のもう1つの目的は、珪素及び少なくとも1個の遷移金属を包含する、第4主族元素のハロゲン原子含有化合物の水素化脱ハロゲンの触媒作用をする能力を有する、微細分散性触媒活性系である。有利な遷移金属は、ニッケル、銅、鉄、コバルト、モリブデン、パラジウム、白金、レニウム、セリウム及びランタンである。極めて特に有利な遷移金属は、ニッケル及び銅である。触媒活性系は、大きさ<1mmの粒子から構成されているのが有利である。これは、成形されて存在し、特に、成形物、例えば錠剤に圧縮されて存在するのが有利である。
【0027】
微細分散性触媒活性系の有利な1製法は、微細分散性の形で存在する遷移金属又は遷移金属塩を、水素-及び/又はハロゲン原子含有珪素化合物、殊に珪素ハロゲン化合物、特にSiCl4及び還元剤、特に水素と反応させることを特徴とする。
【0028】
微細分散性触媒活性系の製造のための選択的実施態様に依れば、使用済み珪素化合物(例えばSiCl4)は、全部又は部分的に、元素の珪素に代えられる。
【0029】
例えば、金属対珪素の原子比に関して、有利な実施態様は、適用方法の説明で、有利であるとして記載された実施態様に相応する。
【0030】
遷移金属珪化物は、従来は、単に高温一及びセラミック-加工材料として、セメント及び硬質金属(Hartmetalle)のために、半導体として、熱導体加工材料として、及び表面圧縮(Oberflaechenverdichtung)のための高耐熱(hoechstzunderfesten)層の製造のためにだけ、使用された。化学反応、特に水素添加法のための触媒としての使用は新規であり、同様に本発明の目的である。
【0031】
本発明による脱ハロゲン化水素-方法は、触媒活性系が、極めて安定であり、極めて活性であり、かつ例えば高純度の珪素-水素-化合物の製造を行なうという利点を有する。簡単な方法で再生されうる触媒活性系は、出発物質、特に珪素化合物を、高純度の生成物に変える。
【0032】
次の実施例につき、本発明を詳説するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
【実施例】
例1:
珪素及びニッケルを包含する微細分散性触媒活性系の製造
1.1. 微細分散性塩化ニッケル(2+)及び珪素粉末を、四塩化珪素と、H2の存在で(モル比1:4)、450℃の温度で反応させた。得られた触媒活性系(原子比Ni:Si=1:1)を錠剤形に圧縮し、かつ水素添加触媒として使用した。
【0034】
1.2. NiCl2の代りに、微細分散性ニッケルを用いて例1.1.を繰り返した。得られた触媒を水素添加触媒として使用することができた。
【0035】
例2:
1,1,2-トリクロル-1,2,2-トリフルオルエタン(R113)の水素添加
反応器中で、例1.1.により製造した触媒活性系10gの装入物を、加熱し、かつR113及び水素(1:6〜1:10の範囲でのモル比)を通した(流動率10l/時)。反応は、装入物中で300℃の温度から始まる。400〜450℃の温度では、反応生成物中に、CF2=CFCl並びに低沸点の化合物が検出された。450℃を越えた温度で、HF、HCl、SiF4及びCH4の生成下に、完全な分解が行なわれた。
【0036】
例3:
CCl4の水素添加
反応容器中で、例1.1.に依り製造した触媒活性系10gの装入物を、CCl4及び水素(モル比1:6)の混合物と反応させた(流量10l/時)。350℃未満の反応温度で、反応生成物中で、やはり部分水素添加された生成物(CHCl3、CH2Cl2、CH3Cl)が検出された350℃を越えた反応温度では、CCl4が完全に水素添加されてメタンになった。
【0037】
例4:
SiHCl3(トリクロルシラン)の製造
4.1. 反応容器中で、例1.1.で製造した触媒活性系10gの装入物を、SiCl4及び水素の混合物(モル比1:10)と、600℃の温度で、反応させた(流量10l/時)。変換率は、16モル%であり、この値は、熱力学的に全て可能な値に、殆んど相応する。高純度の出発物質から、高純度の生成物が製造された。
【0038】
4.2. 例4.1.を繰り返した。SiCl4及び水素を、モル比1:4で使用し、この際、6l/時の流量を、100l/時に高めた。温度は900℃であった。変換率は、今回は25モル%であり、殆んど熱力学的に全く可能な変換率であった。高純度の出発物質から、高純度の生成物が製造された。
【0039】
例5:
メチルトリクロルシランの水素添加によるメチルジクロルシランの生成
反応容器中で、例1.1.により製造した触媒活性系10gの装入物を、CH3SiCl3及び水素の混合物(モル比1:10、流量10l/時)と、600℃を越えた温度で反応させた。反応生成物メチルジクロルシランに関する変換率は、75モル%であった製造されたMeSiHCl2は、高純度であった。
【0040】
例6〜10:
例2、3、4.1.、4.2.及び5を、例1.2.で製造した触媒系の使用下で、繰り返した;結果は同様であった。
【0041】
例11:
R113の水素化脱塩素
反応容器中で、例1.1に依り製造された触媒活性系(モル比Ni:Si勿論1:10)10gの装入物を加熱し、かつR113及び水素(モル比1:10)を通した(10l/時)。400℃での変換は、反応生成物として、CF2=CFCl並びにHClを生ぜしめた。触媒中での珪素過剰は、触媒の長時間安定性を改善した。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
a.特許請求の範囲の請求項1を減縮を目的として、
「【請求項1】 炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒において、この触媒は、少なくとも1種の遷移金属珪素化物を含有し、成形された形で存在する担体不含の触媒活性系であることを特徴とする、炭素又は珪素のハロゲン含有化合物の水素化脱ハロゲン化用触媒。」と訂正する。
b.請求項13、14及び15を削除する。
c.請求項16〜18を、請求項13〜15と訂正する。
d.請求項19を請求項16と訂正し、不明瞭の記載を釈明する目的で、
「【請求項16】 請求項1に記載の触媒を製造するために、(i)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属塩を、珪素及び水素及び場合によりハロゲン含有珪素化合物と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とするか、又は(ii)微細分散性の形(粒径<1mm)で存在する遷移金属を、ハロゲン含有珪素化合物及び水素と反応させて担体不含の触媒活性系としての遷移金属珪素化物とし、(i)又は(ii)で得られた遷移金属珪素化物を成形された状態にすることを特徴とする、請求項1に記載の触媒を製造する方法。」と訂正する。
e.請求項20を請求項17と訂正し、請求項16の訂正に対応して、不明瞭な記載の釈明を目的として、
「【請求項17】 ハロゲン含有珪素化合物としてSiCl4を反応させる、請求項16に記載の方法。」と訂正する。
異議決定日 2001-02-23 
出願番号 特願平6-312182
審決分類 P 1 652・ 531- YA (C07B)
P 1 652・ 113- YA (C07B)
P 1 652・ 534- YA (C07B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 後藤 圭次
佐藤 修
登録日 1999-02-19 
登録番号 特許第2889140号(P2889140)
権利者 ワツカー-ケミー ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
発明の名称 第4主族元素のハロゲン原子含有化合物の触媒的脱ハロゲン法  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 ラインハルト・アインゼン  

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