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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1044730
異議申立番号 異議2000-71981  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-02 
確定日 2001-03-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2977098号「帯電物の中和装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2977098号の請求項1に係る発明についての特許を取り消す。 同請求項2、3に係る発明についての特許を維持する。 
理由 1手続きの経緯
本件特許2977098号の請求項1ないし3に係る発明は、平成3年(1991)3月13日に特許出願(優先権主張平成2年8月31日)され、平成11年(1999)9月10日にその特許の設定登録がなされ、その後、表記異議申立人より全請求項に異議の申立てがなされ、そのうち請求項1及び2に取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年10月31日に訂正請求がなされたものである。

2訂正の適否について
(1) 訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
(特許請求の範囲)
a 請求項1の「前記帯電物に対して非反応性のガスを」を「前記帯電物に対して水分濃度が20ppb以下の非反応性のガスを」と訂正する。
b 請求項2の「紫外線を前記筺体内に」を「紫外線をベーキング雰囲気の前記筺体内に」と訂正する。
c 請求項3の「請求項1に記載の」部分の代わりに、冒頭に「所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筐体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筐体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置であり、」を挿入する。
(発明の詳細な説明)
d 特許明細書4頁2行(特許公報4欄25行及び26行,特許明細書13頁10行(特許公報11欄21行)及び特許明細書13頁15行(特許公報11欄28行)の記載について、上記aと同じ趣旨の訂正をする。
e 特許明細書4頁7行(特許公報4欄32行)及び特許明細書13頁25行(特許公報11欄41及び42行)の記載について、上記bと同じ趣旨の訂正をする。
f 特許明細書4頁11行(特許公報4欄35及び36行)及び特許明細書14頁1行(特許公報11欄48行)の記載について、上記cと同じ趣旨の訂正をする。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(特許請求の範囲)
上記訂正事項aについては、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「非反応性のガス」の水分の状態を(構成A)「水分濃度が20ppb以下」に限定しようとするものである。
したがって、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、当該構成Aは、願書に添付した明細書の実施例(特許公報7欄10行ないし13行)に記載されていたものであるから、上記訂正事項aは願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。
上記訂正事項bについては、特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された「筺体内」の雰囲気を(構成B)「ベーキング雰囲気」に限定しようとするものである。
したがって、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、当該構成Bは、願書に添付した明細書の実施例(特許公報9欄27行ないし28行)に記載されていたものであるから、上記訂正事項bは願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である(なお、当該事項Bは、優先権主張の基礎となる先の出願の出願当初の明細書または図面には記載されていない。)。
上記訂正事項cについては、請求項1の引用形式の記載を、引用しない形式としたものであるから、不明瞭な記載の釈明を目的としたものである。
更に、上記訂正事項a,b及びcは、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(発明の詳細な説明)
上記訂正事項d,e及びfについては、明細書の【課題を解決するための手段】及び【発明の効果】において、上記訂正事項a,b及びcに対応する部分をそれぞれ当該訂正事項a,b及びcと整合するように明確化したものであるから、不明瞭な記載の釈明に相当するものである。
そして、上記発明の詳細な説明の訂正は、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3) むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法126条の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3特許異議の申立ての概要
異議申立人は、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許は、下記の甲第1ないし第3号証からみると、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべき旨主張している。

(1)甲第1号証:特開昭63―78471号公報
(2)甲第2号証:特開昭64―54731号公報
(3)甲第3号証:「’86クリーンテクノロジー
・シンポジウム資料 クリーンルームにおける静電気対策」p4-1-1〜p4-1-11及びp4-3-1〜p4-3-11 昭和61年11月5日東京芝パークホテル

4本件発明1ないし3
本件特許2977098号の請求項1ないし3に係る発明は、訂正明細書の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのつぎのものである。
【請求項1】 所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して水分濃度が20ppb以下の非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筐体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筐体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置。
【請求項2】 前記中和電荷発生手段は、紫外線をベーキング雰囲気の前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けてイオン及び電子を発生させるべく外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成ることを特徴とする請求項1に記載の帯電物の中和装置。
【請求項3】 所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筐体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筐体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置であり、
前記中和電荷発生手段は、紫外線を前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けて外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成る第1の中和電荷発生手段、及び前記筺体内でコロナ放電をさせるための放電装置から成る第2の中和電荷発生手段とを備えて成り、該第1及び第2の中和電荷発生手段は選択的に作動可能であることを特徴とする請求項1に記載の帯電物の中和装置。

5本件発明1の特許について
(1) 刊行物記載の発明
ア 刊行物2について
当審で調査し、取消の理由に引用した刊行物2(特開昭58一197697号公報)には、その特許請求の範囲に「1. ガスに、その電離電圧よりもエネルギーが小さい光をランプより照射して電離させ、そのイオン化したガスで帯電物体を除電する事を特徴とする除電方法。
2. ガスをチャンバ内に入れ、そのガスに紫外線を照射することを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の光照射による除電方法。」と記載されている。
そして、2頁左下欄17行ないし右下欄8行(〔第2実施例〕の中間部分)に「チャンバ7内にヘリウム(He)、窒素(N2)、空気(Air)の3種のガスをそれぞれ挿入し、《中略》各ガスがイオン化され、そのイオン化されたガスによって帯電物体1が除電されていることを示している。」と記載されている。
また、第3図には帯電物をチャンバ内に入れた例も示されている。
イ 慣用手段の例
上記異議申立人の提出した甲第2号証に記載された発明は半導体製造装置における帯電物の中和に関するもので、その公報2頁左下欄8行ないし右上欄3行には「エッチング後ウェハ6はエッチング室1よりトランスファー室2を通り、カセット室3に搬送され、該室3内のキャリヤ8に収納される。この場合、装置内はすべて高真空にH2Oに触れない構造になっているため、装置起因のアルミニウムの腐食を防止できるようになっている。
《中略》このときN2ガスによりベントするが、このベントライン4に取付けられたイオナイザー(静電気除去装置)5によりイオン化されたN2ガス7は
《中略》負イオンがフォトレジスト上の正イオンに引きつけられて付着し中和される。」と記載されている。

(2) 対比・判断
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを比較すると、
本件発明1では水分濃度が20ppb以下の筺体内にてイオンを発生させているのに対し、刊行物2には該構成の記載がない点で相違し、その他の点では一致している。
しかしながら、ウェハの処理を、水分の少ない装置内で行うことは、前記例(甲第2号証)に示されているように半導体製造工程における慣用手段であり、水分濃度を20ppb以下とすることに臨界的意義も認められないのであるから、上記相違点は、通常行われる好適な数値への限定に過ぎず、当業者が適宜なし得る事項と認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物2に記載された発明と上記慣用手段に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

6 本件発明2の特許について
(1) 刊行物記載の発明
ア 刊行物1について
取消の理由で引用した刊行物1(甲第1号証)に記載の発明は、「生体の代謝機能や生理機能を衰えさせない作業空間を作り」(公報3頁10及び11行)を目的とするもので、公報3頁右下欄12行ないし4頁左上欄5行及び第5図には、「バイオクリーンユニット13において《中略》紫外線照射部9で紫外線を照射することにより空気中の微粒子は荷電されると共に、ウィルス、バクテリヤ、酵母かびなどの微生物及び細菌類が殺菌された後《中略》加湿空気に紫外線照射部12で紫外線を照射することにより気流中に陰イオンが放出され、作業台14上は陰イオンの過剰な高清浄度に保持される。」と示され、また、公報4頁左下欄5行ないし7行には、「加湿空気は、紫外線ランプ27の照射による網状金属面28から放出される光電子により負に帯電し、」と記載されている。
イ 刊行物2について
取消の理由で引用した刊行物2については、
前記5(1)アで示したとおりである。

(2) 対比・判断
本件発明2と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明はバイオクリーンユニットの清浄化を意図するものであり、生体の機能を衰えさせない空間を作るための空気清浄化及び陰イオン化であるから、本件発明2のようなウェハのベーキング雰囲気内の中和とは明らかに相違し、当然のことながら、水分濃度も生体が生存するのに好適な濃度であり本件発明の20ppb以下とは異なる。
刊行物2に記載の発明と本件発明2とでは、本件発明2の筐体内光電陰極部材が刊行物2に記載の発明にはない点で相違し、本件発明2はこれによりベーキング雰囲気で効率よく中和状態が得られる。
そして刊行物1に記載の発明と刊行物2に記載の発明とでは、その技術分野,目的及び効果が明確に相違しており、組み合わせることができないものであるから、刊行物1に記載の発明及び刊行物2に記載の発明からでは本件発明2を容易に想到できたものとすることはできない。
なお、甲第3号証は、コロナ放電を利用した除電方法に関するものであり、前記筐体内光電陰極部材を有するものではない。

7本件発明3について
本件発明3は同じ筐体内に、紫外線を受けて外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とコロナ放電をさせるための放電装置とを備え、両者を選択的に作動させるものであり、且つ該コロナ放電により窒素ガスに正イオンを生じさせるための非反応性ガス導入手段を有するものであるが、唯一コロナ放電に関する記載のある甲第3号証には、同じ筐体内で他の除電装置と併用する点の記載はなく、更に、非反応性ガスの帯電を意図したものではない。
したがって、甲第3号証から、また、甲第3号証に前記甲第1及び第2号証の記載を勘案したとしても本件発明3に想到することはできない

8むすび
以上のとおりであるから、本件発明1の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明2及び3の特許については、異議申立の理由及び提出された証拠からは取り消すことはできないし、また、他に取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
帯電物の中和装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して水分濃度が20ppb以下の非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筺体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筺体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置。
【請求項2】 前記中和電荷発生手段は、紫外線をべーキング雰囲気の前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けてイオン及び電子を発生させるべく外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成ることを特徴とする請求項1に記載の帯電物の中和装置。
【請求項3】 所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筺体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筺体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置であり、
前記中和電荷発生手段は、紫外線を前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けて外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成る第1の中和電荷発生手段、及び前記筺体内でコロナ放電をさせるための放電装置から成る第2の中和電荷発生手段とを備えて成り、該第1及び第2の中和電荷発生手段は選択的に作動可能であることを特徴とする帯電物の中和装置。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明は、帯電物、例えば半導体デバイスの製造工程における基体(ウェハ)やそのキャリアのように極めて帯電し易く、また、帯電を回避する必要があるものの帯電電荷を中和させるための装置に関するものである。
【従来の技術】
従来、例えば半導体デバイスの製造においてはウェハに所定の処理を順次行なうべく、専用通路を介して、あるいは直接的に一の処理室から他の処理室への移送等が行なわれることが多い。この場合、ウェハについては掴持、移動等各種のハンドリングが行なわれる機会が多く、特にそのハンドリング時にウェハと接触する器具等は、ウェハの金属汚染を回避すべく、通常、フッ素系樹脂や石英等により形成されているので、ウェハはその接触等により当該器具に対する帯電序列の関係から正に帯電し、かつ、高電位になり易い。
例えば、フッ素系樹脂から成るピンセットによる掴持時には+500〜+3300[V]、ポリプロピレンから成るスタンド上への載置時には+600〜+2000[V]、フッ素系樹脂から成るピンセットを用いての石英プレート上への載置時には+1000〜+1500[V]、超純水による洗浄時には+500〜+3300[V]、窒素ガスの吹き付け時には-200〜-1000[V]、という具合に、ウェハに対する接触物の帯電序列に応じて正負に帯電する。
しかしながら、ウェハやそのキャリアが帯電した場合、ウェハやそのキャリアに静電気力による浮遊粒子が付着したり、あるいは製造中の半導体デバイスが静電気放電により破壊したりする。
図9は、クリーンルーム内でのウェハにおける静電気力による浮遊粒子の付着量をウェハの表面電位に対して示したものであり、ウェハとして5インチウェハを用い、これを導電性のグレーチング床上に絶縁スタンドを介して垂直に設置した場合の実験結果を表している。同図において、横軸はウェハ電位を、縦軸は付着粒子数を示している。ここで、該付着粒子数とは、ウェハの有効面積(5インチウェハの場合69.4[cm2])に付着する粒子の数であり、単位体積(キュービックフィート)当り粒径が0.5[μm]以上の粒子が10個含まれる雰囲気中にウェハを5時間放置したとして、前記有効面積に付着する数に換算したものである。
同図によれば、ウェハを垂直に設置した場合、重力沈降による堆積がほとんどないので、ウェハ電位が0〜50[V]と低いときには粒子付着が無くなる。ただし、ウェハ電位が300〜1800[V]と上昇するに従い、静電気力の影響により付着粒子数は急激に増大する。
図10は、ウェハWに高電圧(1000[V])を印加し、静電気力による浮遊粒子の付着範囲を粒子径をパラメータとして示したものである。この場合、粒子密度は1[g/cm3]に設定している。なお、同図中、長方形の枠線は0電位を示しており、該枠線内の破線で示す線は等電位線を、実線で示す線は電気力線を示している。
これによると、粒子の粒径が2[μm]のときはウェハに付着する粒子は殆どなく、0.5[μm]、0.1[μm]と小さくなるに応じて、付着範囲は急激に広がる。すなわち、浮遊粒子が小さいほど静電気力の影響を受けてウェハに付着し易いことが理解できる。
ところで、上記のようなウェハあるいはウェハキャリアヘの帯電の防止手段としては、
第1に、いわゆるイオナイザを用いる手法、すなわちウェハあるいはウェハキャリアが置かれる大気雰囲気内でコロナ放電を発生させ、これにより生じたイオンと帯電電荷とを中和させる手法、
第2に、接地された金属体、あるいは接地された導電性物質(カーボン、金属等)を混在させて成る樹脂材料によりウェハをハンドリングして帯電電荷を放電させる手法、
等が知られている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の第1の手法によれば大気中でのコロナ放電を利用しているので、発生するイオンのうち、正イオンは水のイオン(H2O)nH+が主たるものであり、該水のイオン(H2O)nH+は、ウェハ表面で自然酸化膜の成長を助長させることになる一方、負イオンはCO3-,NOx-,SOx-が主たるものであり、これらはいずれも酸化力が強く、前記正イオンの場合と同様に自然酸化膜形成の要因となる。
一方、上記従来の第2の方法では、金属あるいは導電性材料と直接的に接触するので、これらの粒子がウェハに付着することとなり暗電流やリーク電流を生じさせる要因となる。
本発明は上記従来技術の課題を解決するべくなされたものであり、容易に帯電し易いウェハのような帯電物における、自然酸化膜の形成あるいは汚染による暗電流やリーク電流の発生を未然に防止できる中和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、請求項1の発明は、所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して水分濃度が20ppb以下の非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筺体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筺体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする。
請求項2の発明は、前記中和電荷発生手段は、紫外線を前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けてイオン及び電子を発生させるべく外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成ることを特徴とする。
請求項3の発明は、所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筺体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筺体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置であり、
前記中和電荷発生手段は、紫外線を前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けて外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成る第1の中和電荷発生手段、及び前記筺体内でコロナ放電をさせるための放電装置から成る第2の中和電荷発生手段とを備えて成り、該第1及び第2の中和電荷発生手段は選択的に作動可能であることを特徴とする。
【作用】
例えば各種プロセスを施すべくウェハのような容易帯電物を移送する場合(例えば前処理室から酸化プロセス室への移送)、該帯電物が配される筺体内に、該帯電物に対して非反応性のガス(窒素、アルゴン等)を導入しておき、該帯電物が正に帯電しているときは、中和電荷発生手段を構成する光源から紫外線を筺体内に投光して筺体内雰囲気を励起し、そのうちの電子あるいは負イオンを帯電物の正電荷と中和させる。
一方、前記移送物が負に帯電した場合は、前記励起により筺体内で発生した正イオンを帯電物の負の電荷と中和させる。
【実施例】
図1は、本発明に係る中和装置の一実施例を示すものであり、直方体状の筺体1は導体(SUS等)である6枚のパネル1a〜1fを接合して成り、その上面パネル1aの中央部には、略四角穴状の開口部1a0が形成され、該開口部1a0上には4枚の導体(SUS等)である三角パネル1Aa〜1Adから成る四角錐体状の筺体突部1Aが形成されている。なお、前記パネル1b〜1fは接地され、上面パネル1aと他のパネル1b〜1fとの間には絶縁物1mが介在しており、その結果、前記筺体突部1Aは、パネル1b〜1fとは電気的に絶縁されている。
前記筺体1の底面パネル1bの中央部上には、4本の直立した支持スタンド2a〜2dが設けられ、該支持スタンド2a〜2dの上部に形成される支持部には、ウェハ3が載置されるようになっている(図2参照)。なお、前記支持部に支持されたウェハ3には、帯電試験用の電圧供給手段を接続するように構成してもよい。
また、前記筺体突部1Aの頂部にはガス導入管4が連結され、該ガス導入管4はバルブ4Bを介して図示しないガス供給源に接続されている。ここで、該ガス供給源からバルブ4B及び流量計4Aを介して供給されガスは、前記ウェハ3に対して非反応性のガス、すなわちウェハ3を汚染しない窒素N2ガス(あるいはアルゴンArガス等)が選ばれる。非反応性のガスとして高純度の窒素N2ガスを用いると、このガスは、安価に入手可能である。また、非反応性のガスとして高純度のアルゴンガスを用いると、このガスは、あらゆる帯電物に対し不活性なガスとして有効に作用する。
なお、前記筺体突部1Aには後記イオン発生の制御用の直流電源15(例えば、-1000[V]〜+1000[V])が高抵抗16を並列に接続して設けられている一方、前記側方パネル1b、1dには夫々バルブ23を有する排気管22が取付けられている。
さらに、前記筺体突部1Aの相対向する三角パネル1Aa、1Acの内面側には、円板状の光電陰極部材5a、5bが夫々取付けられている(図3参照)一方、前記筺体1の側面パネル1f、1eには、フード6b、6aが夫々取付けられており、該フード6a、6bには少なくとも紫外線に対して透明な透過窓7a、7bが夫々固定されている(図4参照)。また、前記フード6a、6bの近傍には、夫々前記透過窓7a、7bを介し前記光電陰極部材5a、5bに向けて紫外線を投光するための光源(紫外線ランプ、水銀ランプ等)8a、8bが設けられている。なお、必要に応じて該光源8a、8bには熱遮断用のフィルタを設けてもよい。
前記光電陰極部材5a、5b、光源8a、8b等は、第1の中和電荷発生手段を構成する。
一方、前記筺体突部1Aの相対向する三角パネル1Ab、1Adには、夫々円板状の絶縁部材9a、9bが取付けられており(図3参照)、該絶縁部材9a、9bには、その中心部に石英コーティングした針状電極10a、10bが筺体1内に向かって突設されていると共に、該両針状電極10a、10bと夫々対になる対向電極11a、11bが取付けられている。なお、前記針状電極10a、10bは夫々電線12a、12bを介して図示しない高圧電源に接続されている一方、前記対向電極11a、11bは夫々電線13a、13bを介して接地されている。前記対向電極11a、11bは、図6によりその構成をさらに明確に示すように、前記針状電極10a(電極10bについても同様)を中心とする環状の部分11a0と、前記電線13aに接続される支持線の部分11a1とから成る。また、図7に示すように、前記絶縁部材9b(9aも同様である。)はその外周部に形成された取付孔9b0を介してビス14によりパネル1Abのフランジ開口部に固定される。
放電装置としての前記針状電極10a、10bや前記対向電極11a、11b等は第2の中和電荷発生手段を構成する。
他方、図4に示すように、前記支持スタンド2a〜2d上に支持されたウェハ3の下方には、電圧プローブ17が設けられており、該プローブ17には表面電位計18が接続され、該表面電位計18はランプ制御ユニット19に接続され、該ランプ制御ユニット19は前記光源8a(光源8bも同様)に接続されている。さらに、前記側方パネル1fには絶縁管20が嵌挿され、該絶縁管20の一端は筺体1内に臨まされ、その他端はイオンアナライザー21に接続されている。
なお、図示は省略されているが、前記表面電位計18は、前記針状電極10a、10bに接続された放電制御ユニットに接続されている。また、図示は省略されているが、前記筺体突部1Aの外表面には、水冷式、空冷式等の放熱手段が設けられている。
本実施例は上記のように構成されているので、窒素ガスを導入した筺体1内に置かれたウェハ3が、フッ素系樹脂製の器具によるハンドリング等により、正に帯電するとプローブ17がこれを検知し、前記表面電位計18は所定の正電位を表示する。該電位計18の表示が所定値を越えると、前記ランプ制御ユニット19が作動し、前記光源8a、8bが点灯し、前記光電陰極部材5a、5bに紫外線が照射され、電子が前記筺体突部1Aに発生し、該電子は筺体突部1Aの上部から流入する窒素ガスの流れ(例えば、最大流速が10[m/sec])により、あるいは筺体突部1Aの上部から筺体1の底部に向かう電界により下方のウェハ3に移行する。この場合、電子の発生量は、前記直流電源15を調整することにより制御できる。該ウェハ3の表面上に達した電子はウェハ3の正電荷と中和し、該中和により前記表面電位計18が前記所定値以下(数10[V]以下)になると、前記光源8a、8bは消灯する。
一方、例えば高速の窒素ガス流との接触等により、前記ウェハ3が負に帯電したときには、前記表面電位計18の表示が負となり、該表示値が所定値を越えると、前記放電制御ユニットが作動し、前記針状電極10a、10bへの電圧供給によりコロナ放電が開始し、筺体1内に電子と共に窒素ガスの正イオンが発生する。この場合、正イオンの発生量は、前記直流電源15を調整することにより制御できる。該発生した正イオンは窒素ガスの流れに沿ってウェハ3の表面に達し、ウェハ3に帯電した負電荷と中和し、該中和により前記表面電位計18が前記所定値以下になると、前記針状電極10a、10bへの電圧供給が停止する。筺体1の内部のイオンの濃度は前記イオンアナライザー21により監視することができる。
なお、ウェハに特に有害な水(H2O)は、筺体1内への高純度窒素ガス又はアルゴンガスの導入により、ウェハの汚染に影響のない20[ppb]以下の濃度に設定することができる。
ウェハが高速の窒素ガス流により吹きつけられると、上述したようにウェハには負の電荷が帯電し高電位になるが、例えば10[m/sec]未満の低速の窒素ガス流と接触した場合には、ウェハは高々数十[V]以下程度の低電位になるに過ぎないので、例えばウェハがこのような低速窒素ガス流と接触する前に、ハンドリング等により正に帯電していた場合、その正の帯電状態が負に変わるような事態は生じない。
上記実施例の説明においては、ウェハが正又は負に帯電した場合、夫々の帯電電荷を中和させるための中和電荷発生手段を用いるようにしたが、例えばウェハの帯電が常に正に帯電するべくハンドリングを行なうように規制しておけば、負イオン(あるいは電子)を発生させる中和電荷発生手段を設けるだけで対応できる。
図11は、上記実施例を簡略した構成とした他の実施例、換言すれば上記実施例における第1の中和電荷発生手段を構成する光電陰極部材5a、5bを省略し、光源8a、8bのみにより構成された第3の中和電荷発生手段を設けるようにしたものを示すものである。すなわち、本実施例の場合、前記光源8a、8bは最短波長が、例えば145[nm]である紫外線を照射し得るものを用い、例えば常温の筺体内温度下でH2O濃度が9.3[ppm]である筺体1内に窒素ガスを導入すると、前記照射された紫外線により前記筺体1内に導入された窒素ガス分子やH2O分子が励起してイオン化するのを利用したものである。
図12は本実施例の実験結果を示すものであり、具体的には、筺体1内に導入される窒素ガスの流量を1[l/min]とし、該筺体1内を常温下に置いた場合におけるウェハ3に帯電された電荷の除電時間[sec]との関係を示すものである。
これによると、本実施例の構成の場合、ウェハ3を正負の高電位(例えば±3000[V])に帯電させた場合でも、該ウェハ3の残留電位を、常に、最終的にゼロ電位にすることが可能であることが理解できる。このゼロ電位になる理由は、前記紫外線のみの照射の場合、ウェハ近傍のガス分子が等量の正負の電荷に電離することによるものと説明できる。
また、図12からはウェハの当初の帯電極性が正であるか負であるかにより除電時間が異なることも理解できる。例えば、ウェハを+3000[V]に帯電させたときに+300[V]に達するまでの時間は0.3〜0.4[sec]であるのに対し、-3000[V]に帯電させたときに-300[V]に達するまでの時間は約5秒である等のごとくである。この理由は、正の電荷を中和する負イオンはほとんどが移動度の大きい電子により構成され、負の電荷を中和する正イオンは移動度の小さいN2+、(H2O)nH+(ハイドロニウムイオン)等で構成されるので、中和のためにウェハに到達する時間が異なることによる。
なお、筺体1内に導入される窒素ガスの流量を増大させると、イオンあるいは電子の移動度を増大させることになるので、除電時間は短くなるものと推測される。
図13は筺体1内のH2O濃度と前記除電時間との関係を示すものである。なお、この場合、H2O濃度は2〜100[ppm]の範囲で行い、窒素ガス流量は1[l/min]に設定し、筺体1内は常温の室温下に設定した。
これによると、ウェハを正に帯電させた場合、H2O濃度が9.3[ppm]であるとき除電時間が最も短くなるという傾向を示すのに対して、ウェハを負に帯電させたときはH2O濃度が2[ppm]のとき除電時間が最も長くなる。これは、除電時間が単純にイオン濃度のみに関係するものではないことを示唆するものである。すなわち、H2O分子と窒素分子とではH2Oの方がイオン化が容易であり、H2O濃度が高いときの方が生成されるイオン総数が大きいが、除電時間は必然的に短くなるものではない。すなわち、除電時間はイオンの総数のみならず、移動度の大きさにも関係するので、イオンの組成が除電時間について支配的になると考えるべきである。
一方、同図に示すように、ウェハが正に帯電した場合、H2O濃度が100[ppm]であるときに、除電時間が最も長くなることが理解できる。これは、筺体1の内壁から水分以外の他の不純物が放出され、その不純物の中に負イオン化し易いものが多く含まれているからであると考えられる。すなわち、負イオンの総数が多くなると、負イオンと電子の総和が同じでも負イオンの数が多くなるに従い移動度は負イオンによるものが支配的となるため、ウェハにイオンが到達する時間が長くなるからである。
他方、ウェハが正に帯電した場合、H2O濃度が小さいときに除電時間が短くなるのは、移動度が電子によるものが支配的となるためであると考えられる。
なお、図13によると、ウェハを正に帯電したとき(+3000[V]に帯電したとき)からウェハ電位が+50[V]になるまでの時間は、H2O濃度が2[ppm]のときの方が9.3[ppm]のときよりも若干長くなっている。これは、H2O濃度が小さくなると生成されるイオンの総数が少なくなるためであると考えられる。H2O濃度が2[ppm]よりもさらに小さくなった場合については、あくまでも推測ではあるが、生成されるイオンの総数が一定となり除電時間も一定になると考えられる。
また、図13から理解できるように、ウェハが負に帯電した場合、H2O濃度が2[ppm]のとき除電時間が最も長く、9.3[ppm]のとき最も短くなるが、両者の差はあまりない。これは、該H2O濃度の変化の間にイオンの組成変化が生じたためであると考えられる。すなわち、高H2O濃度下ではハイドロニウムイオンが多く存するので、複数個の水分子が結合したクラスターが多くなるからである。
なお、イオンの移動度はそのmassが大きくなる程、具体的には(H2O)H+(mass:19)、N2+(mass:28)、(H2O)nH+(mass:37)の順序で大きくなる。従って、除電時間は(H2O)H+のイオンを含む割合が多くなる程短くなり、(H2O)nH+が多くなる程長くなる。
これについては、本発明者により仮想的に描かれた図14から、H2O濃度に対する各イオンの組成の関係を知ることによりさらに理解が深められる。すなわち、同図に示すように、例えばH2O濃度が100[ppm]である場合、(H2O)H+が70〜80%を占めており残りは(H2O)H+により占められ、結果として平均massは24程度になり、H2O濃度が9.3[ppm]である場合、(H2O)H+とN2+が同程度の割合で占められており、結果として平均massは23程度になり、そして、H2O濃度が2[ppm]である場合、そのほとんどがN2+で占められ結果として平均massは28程度となる。換言すれば、平均massと除電時間との間には一定の相関性が見られると理解できる。
図15は、筺体1内を高温度(より具体的には100[℃]でべーキング)雰囲気下に置いた場合と常温下に置いた場合における除電性能の比較を示したものである。これによると、除電時間は前記べーキング時の方が常温下の場合の半分近くに短くなる。これは第1に、雰囲気温度が上昇すると、分子の自由行程が長くなり、その結果、イオン(電子を含む)の移動度が大きくなり中和に要する時間が短縮されること、第2に、前述したように、H2O濃度の変化によりイオンの組成が変化することにより生じるものと思われる。なお、第14図に示す内容のみから推測すると、H2O濃度が20〜40[ppm]のとき正イオンのmassが最小となるので除電時間も最短となると考えられるが、実際は前記第1及び第2の原因が複合して作用するので、前記べーキング時には除電性能が向上するものと考えられる。
図16は上記実施例のように紫外線をAlの光電陰極部材に照射した場合において、筺体1内をH2O濃度が9[ppm]で常温下に保ち、窒素ガスを所定の流量(1[l/min])で流し、上記実施例のように紫外線をAlの光電陰極部材に照射したときの結果を示すものである。なお、同図の上側の各プロットはウェハを正に帯電した場合であり、下側の各プロットは負に帯電させた場合であり、前者の方が後者の方に比べて除電時間が長くなっている。なお、窒素ガスの流量を増大させると、除電時間が短くなることは上記図12において説明した通りである。
図17及び図18は、上述した実施例のように紫外線を光電陰極部材に照射した場合と本実施例のように直接紫外線を筺体内に照射する場合とにおいて、窒素ガス流量に対する除電電時間の変化を比較すべく示したものであり、なお、図17は筺体1内のH2O濃度が9[ppm]であるとき、図18は2[ppm]であるときのものであり、光電陰極部材5a(5bも同様である)としてAlから成るものを用いた。
これによると、いずれの場合も光電陰極部材5aに紫外線を照射した方、すなわち上記実施例の場合の方が除電時間は短くなることが理解できる。また、ウェハを負に帯電させた場合の方が正に帯電させた場合に比べて除電時間は長いがその差は著しく大きいというものではない。
ここで、光電陰極部材5aを取り付けた場合の実施例のとき、該光電陰極部材5aから電子が放出されているか否かを確認すべく行われた実験例につき説明する。本実験例では、光電陰極部材5aを取り付けている筺体1の上部を電気的に絶縁した状態で紫外線を照射したときの筺体1の電位変化を検証してみた。電子が放出されていれば筺体1は正に帯電するはずであるが筺体1の電位には変化が見られなかった。この結果は光電陰極部材を取り外した場合でも、また、ウェハの電位を種々変化させた場合いずれにおいても同様であった。なお、この結果については他の実験条件、例えば光学フィルタを用いて照射する紫外線の波長を変えたり、ウェハのイオン電流を測定する等によりさらに精度良い検証を行う必要がある。
さらに、図17及び図18からは窒素ガス流量と除電時間との所定の相関性は見られないが、これは実験条件の設定に改善の余地があるだけであり、相関性がないということではない。付言すれば、上記したように流量を増大すれば除電時間が短縮するという相関性が成立することには変わらない。
なお、イオナイザを取り付けた従来の手法の場合と、光電陰極部材を省略した構成の本実施例の場合とで、除電時間を比較すると、本実施例の方が約10分の1に短縮できることが実証された。しかも、ウェハヘの残留電位を常にゼロにすることができるという優れた効果を有している。
図8はもう一つの他の実施例を示すものであり、トンネル筺体30内は一定の搬送雰囲気を確保すべく、窒素ガス(あるいはアルゴンガス等)が常時搬送方向(同図の右方向)に所定の気流速度で流れている。そして、該トンネル筺体30内には搬送コンベア34が設けられ、該搬送コンベア34上に設けられた多数の支持台35上に夫々ウェハ33を載置する一方、前記トンネル筺体30の上部に所定間隔を置いてトンネル筺体突部31を設け、該各トンネル筺体突部31の上部からは窒素ガスを導入するようにしている。また、各トンネル筺体突部31の近傍には、夫々表面電位計32を設け、各表面電位計32は制御ユニット36に接続され、該制御ユニット36は、各トンネル筺体突部31に設けられた中和電荷発生手段(図示省略)に接続されている。ここで、中和電荷発生手段は、選択的に正又は負のイオンを発生するように構成されており、上記実施例における第1、第2の中和電荷発生手段と同様な構成のものである。
本実施例は上記のように構成されているので、前記トンネル筺体30内を通過するウェハ33が例えば窒素ガス気流との接触により負に帯電し、表面電位計32の表示値が所定値を越えると、前記制御ユニット36の作動により中和電荷発生手段が選択的に正のイオンを発生するように作動し、当該ウェハの帯電を中和させる。
なお、各トンネル筺体突部31の上部からトンネル筺体30内に導入される窒素ガスは、ウェハ33の搬送方向に流される窒素ガスに比べて少ないので、搬送雰囲気用の窒素ガスの気流速度に影響を与えることはない。
本実施例の場合も、例えばウェハが正にのみ帯電するように規制されている場合、負イオン(電子)のみを発生する中和電荷発生手段を設けるだけで対応できることは上記実施例と同様である。
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明によれば、所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して水分濃度が20ppb以下の非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筺体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筺体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とするので、筺体内における容易帯電物の帯電を回避することができ、容易帯電物に対して水分濃度が20ppb以下の非反応性のガス雰囲気内で中和が行なわれることから、自然酸化膜の形成あるいは暗電流やリーク電流の発生というような不所望の事態を未然に防止することができる。
また、請求項1の発明によれば、少なくともイオナイザによる除電に比べて10分の1の時間で除電できる他、帯電物(ウェハ)の残留電位を常にゼロにできるという優れた効果である。このように請求項1の発明の場合、少なくとも従来のイオナイザを用いた構成に比べて、完全無発塵、電磁ノイズフリー、オゾンフリー(窒素雰囲気中)、等を実現でき、極めて優れた除電性能(除電時間、残留電位等を評価対象とするもの)を有し、除電システムの容易化が行え、各種分野における広汎な活用が十分に期待できる。
請求項2の発明によれば、前記中和電荷発生手段は、紫外線を前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けてイオン及び電子を発生させるべく外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成ることを特徴とするので、帯電物が常に正に帯電するものに限られる場合、中和のためのイオン発生の選択を一本化でき、装置全体構成の簡略化を図ることができる。
請求項3の発明によれば、所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筺体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筺体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置において、前記中和電荷発生手段は、紫外線を前記筺体内に投光するための光源と、前記筺体内に設けられ前記紫外線を受けて外部光電効果を生じさせる光電陰極部材とから成る第1の中和電荷発生手段、及び前記筺体内でコロナ放電をさせるための放電装置から成る第2の中和電荷発生手段とを備えて成り、該第1及び第2の中和電荷発生手段は選択的に作動可能であることを特徴とするので、中和電荷発生手段を簡単な手法で容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例を示す斜視図である。1
【図2】
図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】
図1の上面図である。
【図4】
図3のIV-IV線に沿う縦断面図である。
【図5】
図3のV-V線に沿う縦断面図である。
【図6】
図5のVI-VI線に沿う正面図である。
【図7】
図5のVII-VII線に沿う平面図である。
【図8】
本発明の他の実施例を示す概略構成図である。
【図9】
ウェハの表面電位と付着粒子数との関係を示すグラフである。
【図10】
帯電ウェハにおける浮遊粒子の付着範囲を示す模式図である。
【図11】
本発明の実施例であり、中和電荷発生手段を紫外線の照射光源のみにより構成したものを示す斜視図である。
【図12】
所定の窒素ガス流量下におけるウェハ電位の時間変化を示す図である。
【図13】
H2O濃度に対する除電時間の変化を示すグラフである。
【図14】
H2O濃度に対するイオン組成の変化を仮想的に示すグラフである。
【図15】
筺体の高温雰囲気下におけるH2O濃度に対する除電時間の変化を示すグラフである。
【図16】
所定の窒素ガス流量におけるウェハ電位の時間変化を示す図である。
【図17】
所定のH2O濃度下において光電陰極部材で構成される中和電荷発生手段を用いた場合と、光電陰極部材を省略した構成の中和電荷発生手段を用いた場合の比較を示すグラフである。
【図18】
他の所定のH2O濃度下における図17と同様なグラフである。
【符号の説明】
1 筺体、
3、33 ウェハ(帯電物)、
30 トンネル筺体、
5a、5b 光電陰極部材(第1の中和電荷発生手段)、
8a、8b 光源(第1の中和電荷発生手段、第3の中和電荷発生手段)、
10a、10b 針状電極(第2の中和電荷発生手段)、
11a、11b 対向電極(第2の中和電荷発生手段)。
 
訂正の要旨 特許第2977098号の明細書を以下のとおりに訂正する。
(特許請求の範囲)
a 請求項1の「前記帯電物に対して非反応性のガスを」を特許請求の範囲の減縮を目的として「前記帯電物に対して水分濃度が20ppb以下の非反応性のガスを」と訂正する。
b 請求項2の「紫外線を前記筺体内に」を特許請求の範囲の減縮を目的として「紫外線をベーキング雰囲気の前記筺体内に」と訂正する。
c 請求項3の「請求項1に記載の」部分の代わりに不明瞭な記載の釈明を目的として冒頭に「所定の電荷を帯びた帯電物を収納可能な筺体と、少なくとも前記帯電物に対して非反応性のガスを前記筺体内に導入するためのガス導入手段と、少なくとも前記筺体内の雰囲気を励起可能な紫外線を前記筺体内に投光するための中和電荷発生手段とを備え、前記中和電荷発生手段は、前記筺体内に前記所定の電荷と中和可能なイオン及び電子の少なくとも一方を発生させることを特徴とする帯電物の中和装置であり、」を挿入する。
(発明の詳細な説明)
d 特許明細書4頁2行(特許公報4欄25行ないし26行,特許明細書13頁10行(特許公報11欄21行)及び特許明細書13頁15行(特許公報11欄28行)の記載について、不明瞭な記載の釈明を目的として、上記aと同じ趣旨の訂正をする。
e 特許明細書4頁8行(特許公報4欄35ないし36行)及び特許明細書13頁25行(特許公報11欄41ないし42行)の記載について、不明瞭な記載の釈明を目的として、上記bと同じ趣旨の訂正をする。
f 特許明細書4頁11行(特許公報4欄32行)及び特許明細書14頁1行(特許公報11欄48行)の記載について、不明瞭な記載の釈明を目的として、上記cと同じ趣旨の訂正をする。
異議決定日 2001-02-05 
出願番号 特願平3-73908
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (H01L)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 飯塚 直樹松田 成正  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 大島 祥吾
鈴木 法明
登録日 1999-09-10 
登録番号 特許第2977098号(P2977098)
権利者 高砂熱学工業株式会社 大見 忠弘
発明の名称 帯電物の中和装置  
代理人 福森 久夫  
代理人 福森 久夫  
代理人 白石 吉之  
代理人 江原 省吾  
代理人 福森 久夫  
代理人 田中 秀佳  

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