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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  G11B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G11B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G11B
管理番号 1044897
異議申立番号 異議1999-73646  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-30 
確定日 2001-05-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2875276号「光磁気記録方法及び光磁気記録装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2875276号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2875276号の請求項に係る発明についての出願は、平成1年3月17日に特許出願され、平成11年1月14日にその発明について特許の設定登録がなされその後、その特許について異議申立人保田宗弘より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年4月26日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年3月23日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
a.願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】
垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体に、レーザ光を照射しつつ、極性が垂直方向に変調された磁界を印加し、上記レ一ザ光の照射により、上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にして、上記極性が変調された磁界の方向に上記第2の磁性膜を磁化させて、上記第1の磁性膜に記録することを特徴とする光磁気記録方法。」に訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項2を削除する。
c.特許請求の範囲の請求項3を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項2】
垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体を用い、レーザ光源と、上記レ一ザ光源から出たレーザ光を上記光磁気記録媒体に入射させて上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にする手段と、上記光磁気記録媒体に極性が垂直方向に変調された磁界を印加して、上記第2の磁性膜を上記極性が変調された磁界の方向に磁化させる手段とを具備することを特徴とする光磁気記録装置。」に訂正する。
d.特許請求の範囲の請求項4を削除する。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1) 訂正事項a.について
上記特許請求の範囲の請求項1の訂正事項は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「…高温では垂直磁化膜となる第2の磁性膜…」を「…高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜…」に限定するものである。この訂正は、第2の磁性膜は、高温では第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用することを限定するものである。従って、この訂正は、特許法120条の4第2項但書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、特許請求の範囲の請求項1に記載された「…極性が変調された磁界を印加することにより記録を行なう…」を「…極性が垂直方向に変調された磁界を印加し、上記レ一ザ光の照射により、上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にして、上記極性が変調された磁界の方向に上記第2の磁性膜を磁化させて、上記第1の磁性膜に記録する」に限定するものである。
この訂正は、第2の磁性膜の温度を所定の温度以上にして、極性が変調された磁界の方向に第2の磁性膜を磁化させて、第1の磁性膜に記録する旨の、具体的な記録の方法を限定したものであるため、この訂正も、特許法120条の4第2項但書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項c.について
上記特許請求の範囲の請求項2の訂正事項は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された「…高温では垂直磁化膜となる第2の磁性膜…」を「…高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜…」に限定するものである。この訂正は、第2の磁性膜は、高温では第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用することを限定するものである。従って、この訂正は、特許法第120条の4第2項但書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、特許請求の範囲の請求項2の訂正事項は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された「…レーザ光を上記光磁気記録媒体に入射させる手段と、上記光磁気記録媒体に極性が変調された磁界を印加する手段…」を「…レーザ光を上記光磁気記録媒体に入射させて上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にする手段と、上記光磁気記録媒体に極性が垂直方向に変調された磁界を印加して、上記第2の磁性膜を上記極性が変調された磁界の方向に磁化させる手段」に限定するものである。この訂正はレーザ光を入射させる手段の具体的な構成及び磁界を印加する手段の具体的な構成を限定したものであるから、この訂正は、特許法第120条の4第2項但書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)訂正事項b,dについて
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2及び請求項4を削除したことから、この訂正は特許法第120条の4第2項但書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、上記訂正事項a,cに係る訂正は、特許明細書第9頁第9行から第18行「…スピン再配列性膜3の磁化は面内である。第5図のようにレーザ光12を照射し上向きの変調磁界13が印加されると、レーザ光12で照射されたスピン再配列膜3の領域はスピン再配列温度以上になり、その磁化14は上を向く。磁性膜4の磁化15は、スピン再配列性膜3の磁化14から受ける静磁界あるいは磁気的交換結合力により、スピン再配列性膜3の磁化14と同じ方向、すなわち上向きとなる。」の記載に基づき、第2の磁性膜は、高温では第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用すること、及び極性が垂直方向に変調された磁界を印加し、レーザ光の照射により、第2の磁性膜の温度を所定の温度以上にして、極性が変調された磁界の方向に第2の磁性膜を磁化させて、第1の磁性膜に記録することに限定するものである。
従って、これらの訂正は、直接的かつ一義的に導かれるものであり、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ.独立特許要件
A.29条違反について
(1)引用刊行物に記載の発明
当審が通知した取消理由で引用した刊行物(特開昭63-316343号公報、昭和63年12月23日発行)には、以下の記載がある。
1)「低いキュリー温度と高い保持力を有し垂直磁気異方性を示す第1磁性層と、この第1の磁性層に比べて相対的に高いキュリー温度と低い保持力を有し垂直磁気異方性を示す第3磁性層と、これら第1および第3磁性層の間に設けられ、室温では面内磁気異方性で温度が上昇すると垂直磁気異方性を示す第2磁性層とからなる光磁気記録媒体」(特許請求の範囲)
2)「第1種のレーザパワーにより第1磁性層2は、キュリー点付近まで昇温するが、第3磁性層4は、この温度でピットが安定に存在する保持力を有している。さらにこの温度において、第1磁性層と第2磁性層4は、第2磁性層3を介して強く磁気的に結合(交換結合)するので、記録時のバイアス磁界を適正に設定しておくことにより、第2図(b)のいずれの例からも第2図(C)のようなビットが形成される。(第1種の予備記録)。」(3頁右上欄15行〜左下欄4行)
3)「具体的に言えば、第2磁性層の容易磁化方向が、室温においては基板面内方向に向き、記録時の温度においては基板垂直方向に向く様な材料を用いることにより上記の交換力の制御が可能になる。」(4頁右下欄10〜14行)

上記記載によれば、上記1)の特許請求の範囲に記載の光磁気記録媒体および該媒体に変調したレーザ光を照射して所定の温度より高温にするか否かで第1の磁性層に記録する記録方法並びに上記光磁気記録媒体とレーザ光源、レーザ光を上記媒体に入射させる手段、レーザ光源を変調させる手段を備えた記録装置の発明(以下、「刊行物に記載の記録方法または記録装置の発明」という。)が記載されているものと認められる。
(2)対比・判断
〔訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について〕
訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と引用刊行物に記載の記録方法の発明を対比すると、引用刊行物に記載の記録方法の発明の「第1の磁性層」、「第3の磁性層」は、それぞれ本件発明1の「第1の磁性膜」、「第2の磁性膜」に相当するから、両者は光磁気記録方法において、「垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となる第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体に、レ一ザ光の照射により、上記第2の磁性膜の温度を所定の温度以上にする」点および「レーザ光を照射する」点で一致する。
しかし、引用刊行物に記載の記録方法の発明は、第1の磁性膜に記録するに際し、第2の磁性膜が「所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する」よう構成されている点、および「レーザ光を照射しつつ、極性が垂直方向に変調された磁界を印加し、上記レ一ザ光の照射により、上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にして、上記極性が変調された磁界の方向に上記第2の磁性膜を磁化させる」点がなく、かつ引用刊行物の記載からみて自明な事項とも認められない。
そして、本件発明1は、上記構成を備えることにより、「スピン再配列性膜3(第2の磁性膜)が磁性膜4の磁化反転を助けるため、小さな磁界で情報を記録できる。」との引用刊行物に記載の記録方法の発明によっては得られない、特許明細書に記載の通りの効果が得られるものと認められる。
したがって、本件発明1は、引用刊行物に記載の記録方法の発明から容易に発明をすることが出来たものとすることができない。

〔訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る発明について〕
訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)と引用刊行物に記載の記録装置の発明を対比すると、引用刊行物に記載の記録装置の発明の「第1の磁性層」、「第3の磁性層」は、それぞれ本件発明2の「第1の磁性膜」、「第2の磁性膜」に相当するから、両者は、光磁気記録装置において、「垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となる第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体と、レーザ光源と、上記レ一ザ光源から出たレーザ光を上記光磁気記録媒体に入射させて上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にする手段」とを備える点で一致する。
しかし、引用刊行物に記載の記録装置の発明は、第1の磁性層に記録するに際し、第2の磁性膜が「所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜とを具備する」点、およびレ一ザ光源から出たレーザ光を上記光磁気記録媒体に入射させて上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にする際、「光磁気記録媒体に極性が垂直方向に変調された磁界を印加して、上記第2の磁性膜を上記極性が変調された磁界の方向に磁化させる手段」を備えておらず、かつ、引用刊行物の記載からみて自明な事項とも認められない。
そして、本件発明1は、上記構成を備えることにより、「スピン再配列性膜3(第2の磁性膜)が磁性膜4の磁化反転を助けるため、小さな磁界で情報を記録できる。」との引用刊行物に記載の発明によっては得られない、特許明細書に記載の通りの効果が得られるものと認められる。
したがって、本件発明2は、引用刊行物に記載の記録装置の発明から容易に発明をすることが出来たものとすることができない。

B.36条違反について
当審で通知した特許法36条違反に関する取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)請求項1乃至4に記載の構成では本件発明の効果を奏し得ず、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していないために、特許法36条第4項第2号に違反する。
すなわち、特許請求の範囲の請求項1乃至4には、レーザ照射時に第2の磁性膜の磁化を利用して記録を行うためには、記録時に少なくとも第2の磁性膜は磁化を有していなければならない点、磁界変調オーバーライト記録の際に、第2の磁性膜を所定の温度以上にしなければならない点及び、変調磁界と第2磁性膜の磁化を利用して第1の磁性膜を磁化して記録するための第1磁性膜と第2の磁性膜の磁化の関係についての構成がない。
(2)特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1乃至4を当業者が容易に実施しうる程度に記載されていないから、特許法36条第3項及び同法第4項に違反する。
すなわち、発明の詳細な説明に記載の本件発明の実施例は、特許請求の範囲における第2の磁性膜としてNdCoを使用し、スパッタリングで形成されている。しかし、スパッタリングで形成されたNdCo膜は、非晶質膜であり、常に面内磁化を示し、垂直磁化を示すことがないから、この場合は本件発明を実施し得ない。

上記事項について検討する。
上記(1)について
前記2.ア.における訂正により、本件発明1,2は必要とすべき構成要件を付加することにより減縮され、不備な点は解消された。
上記(2)について
「蒸着やスパッタリングで形成された膜」が単結晶、多結晶、非晶質のいずれの形態もとりうることが明かであり(被請求人の提示した参考文献1:「薄膜の基本技術」第2版 金原アキラ著、東京大学出版会 第136〜137頁)、また、同じ材料で薄膜を形成する場合においても、蒸着とスパッタリングで薄膜の性質が異なることも明かである(被請求人の提示した参考文献2:「光磁気ディスク材料-基礎および次世代への展望-」 工業調査会 1993年6月発行 58〜59頁参照のこと)ので、蒸着の例しか示していない文献を根拠にした請求人の上記主張は採用できない。
したがって、上記のように訂正された特許明細書の請求項1、2に係る発明は、特許法29条第2項の規定に違反しておらずかつ同法36条に規定する要件も満たしているから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

エ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
ア.本件発明
平成13年3月23日付けで訂正された特許明細書の請求項1、2に係る発明(以下、「本件請求項1、2に係る発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものである。(2.ア.a,c参照)
イ.申立ての理由の概要
特許異議申立人保田宗弘は、甲第1号証刊行物を提示して本件請求項1乃至4に係る発明の特許は特許法29条2項に違反し、また36条に違反する(詳細は取消理由と同じ)ので、取り消されるべき旨主張している。
ウ.判断
(1)29条違反について
a.証拠に記載の発明
甲第1号証:特開昭63-316343号公報(取消理由通知で引用した刊行物と同じ)
甲第1号証には、上記2.ウ.A.(1)に記載の通りの発明が記載されているものと認められる。
b.対比・判断、
本件請求項1乃至2に係る発明と甲第1号証に記載の発明を対比・判断すると、上記2.ウ.A.(2)に記載のとおりである。

(2)36条違反について
本件請求項1乃至2に係る発明についての特許は、上記2.ア.a乃至dの訂正により明確となったから、本件請求項1乃至2に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
また、上記2.ウ.B.「2)について」に記載のとおり、当業者が容易に実施をすることができる程度に記載されていないとは言えないから、特許法36条3項に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
エ.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1乃至2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1乃至2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光磁気記録方式及び光磁気記録装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体に、レーザ光を照射しつつ、極性が垂直方向に変調された磁界を印加し、上記レーザ光の照射により、上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にして、上記極性が変調された磁界の方向に上記第2の磁性膜を磁化させて、上記第1の磁性膜に記録することを特徴とする光磁気記録方法。
【請求項2】
垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体を用い、レーザ光源と、上記レーザ光源から出たレーザ光を上記光磁気記録媒体に入射させて上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にする手段と、上記光磁気記録媒体に極性が垂直方向に変調された磁界を印加して、上記第2の磁性膜を上記極性が変調された磁界の方向に磁化させる手段とを具備することを特徴とする光磁気記録装置。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明はレーザ光を用い、外部より磁界を印加して記録を行なう光磁気記録方法及び光磁気記録装置に関する。
【従来の技術】
垂直磁気異方性を有する磁性膜を用いる光磁気記録媒体では、磁性膜の磁化の向きを情報の“1”,“0”に対応させるために、記録のみならず消去・再記録が可能である。
光磁気記録媒体に記録を行なう時、レーザ光による熱エネルギーと磁界とを同時に該光磁気記録媒体に与える。磁界としては一般に数百エルステツド必要であり、電磁コイル,永久磁石が磁界印加手段として用いられる。しかしながら、電磁コイルを用いて数百エルステツドの磁界を発生させるためには、コイルの巻数が多くなつたり大電流を駆動する電源が必要となつたりするため、光磁気記録装置が大型化・複雑化する。また、永久磁石を用いたときには、強力な磁界を得るために高性能な永久磁石を採用しなければならず、このため価格が高い永久磁石を使用することになる不利である。
当然のことながら、前記磁界印加手段を光磁気記録媒体に近づけることにより、より大きな磁界を得ることができる。この種の磁界印加手段としては、たとえば特開昭63-204532に磁気ヘツドを用いる旨の記載がある。しかしながら、磁界印加手段を光磁気記録媒体に近づけることは、電磁コイルの巻き数や駆動電流を低減し光磁気記録装置の小型化・単純化を寄与することにはなるが、光磁気記録媒体と磁界印加手段との接触,摩耗,クラツシユ等の新たな問題を生じることになる。
これらの結果から考えると、磁界印加手段を小型化・単純化し、かつ、磁気ヘツド方式のようにヘツド・媒体の接触又は近接配置のような制約を受けることのないようにするには、媒体構成に何らかの工夫が必要である。
このような観点から、たとえば、特開昭63-152050に光誘起性磁性膜を設ける旨の記載がある。
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術では、レーザ光が照射された部分で光誘起性磁性膜が磁化し、磁界発生手段により発生した磁束がこの部分に集中するとしている。ところがこのような光誘起性の磁性が発現するのは一般に液体窒素温度以下の極低温であり、室温近傍で用いる光磁気記録媒体として実際に効力を発揮するものではない。
本発明の目的は、磁界印加手段を小型化・単純化でき、かつ、磁気ヘツド方式のようにヘツド・媒体の接触又は近接配置のような制約を受けることがないような光磁気記録媒体であり、しかも、通常の温度で有効に動作するような光磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明では、透明基板上に垂直磁気異方性を有する磁性膜と、スピン再配列性膜とを設けたことを特徴としている。
上記透明基板としてはガラス,紫外線硬化樹脂,ポリカーボネート(PC,ポリメチルメタクリレート(PMMA)、などが用いられる。
垂直磁気異方性を有する磁性膜としては、Co-Cr,Fe-Cr,Co-CoOなどの結晶合金や希土類と遷移金属とからなる非晶質合金を用いる。ここで希土類としてはLa,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Hfの元素であり、遷移金属としてはFe,Co,Ni,Se,Ti,V,Cr,Mn,Cu,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Auそして希土類と遷移金属とからなる非晶質合金としては、Tb-Fe-Co,Gd-Tb-Fe,Tb-Dy-Co,Dy-Fe-Co,Nd-Tb-Fe-Co,Pr-Tb-Fe-Co,Tb-Fe-Co-Nb,Tb-Fe-Co-Cr,Gd-Fe-Co-Ptなどを用いる。
またスピン再配列性膜としては、鉄ボレートFe3BO6や希土類オルソフエライトRFeO3あるいは希土類-Co化合物R-Coなどが用いられる。ここにRは前述の希土類元素群から選ばれた少なくとも一つの希土類元素を表わす。
磁性膜やスピン再配列性膜の作製には、スパツタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法,イオンプレーテイング法などを用いる。
本発明においては、磁化方向が90°回転するスピン再配列現象を利用することが好ましい。
垂直磁気異方性を有する磁性膜とスピン再配列性膜とが設けられた光磁気記録媒体に一定強度のレーザ光あるいは磁界を印加しつつ、極性が変調された磁界あるいは強度が変調されたレーザ光を印加することにより記録を行なう方式が好ましい。
【作用】
スピン再配列とは磁性体の磁気モーメント(スピン)の配列状態が、温度によつて変化する現象である。本発明においては、磁化方向が90°回転するスピン再配列現象を利用することが好ましい。レーザ光が照射されないか、あるいはレーザ光のパワーが弱いときには、スピン再配列性膜の磁化は膜面内を向いている。強いレーザ光が照射され、スピン再配列が生じる温度(スピン再配列温度)以上に熱せられると磁化は90°回転し膜面に垂直な方向を向く。このときの磁化は2つの向きを取り得るが磁界印加手段から発生する磁界方向にならう。しかも必要な磁界は極く小さい。このスピン再配列性膜の磁化から発生する磁界と、磁界印加手段から生じる磁界とが、垂直磁気異方性を有する磁性膜に対するバイアス磁界として作用する。強いレーザ光の照射により該磁性膜の保磁力は低下しているから、前記バイアス磁界の方向にその磁化は向く。
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
[実施例1]
第1図は本発明になる光磁気記録媒体6である。ポリカーボネート基板1上には、窒化シリコン膜2,Nd-Coスピン再配列性膜3,Tb-Fe-Co-Nb磁性膜4,窒化シリコン膜5がスパツタリングにより積層されている。
第2図は、第1図の構成になる光磁気記録媒体6の磁性膜4に情報を記録する方式である。レーザ光源7から出たレーザ光12はコリメートレンズ8により平行光束となり、集光レンズ9を通過した後、光磁気記録媒体6に入射する。
入射したレーザ光12はNd-Coスピン再配列性膜3とTb-Fe-Co-Nb磁性膜4を加熱する。このレーザ光12の強度は一定に保つたまま、情報信号10で電磁コイル11を励磁し、変調磁界13を光磁気記録媒体6に印加する。以下にはこの記録方式による記録原理を述べる。
第3図は、レーザ光12により加熱されるNd-Coスピン再配列性膜3の温度に対する磁化14の膜面に垂直な方向成分Mcを示したものである。温度が150℃以下では磁化14は面内を向いているためMc=0であるが150℃以上では磁化14は膜面に垂直方向を向くためMcはある値をもつようになる。つまり、スピン再配列温度は150℃である。
第4図から第8図は、レーザ光12により加熱されるNd-Coスピン再配列性膜3の磁化14とTb-Fe-Co-Nb磁性膜4の磁化15の向きを説明する図である。
第4図に示すように室温においてはTb-Fe-Co-Nb磁性膜4は磁化15が下向きになるように着磁されている。Nd-Coスピン再配列性膜3の磁化14は面内である。第5図のようにレーザ光12を照射し上向きの変調磁界13が印加されると、レーザ光12で照射されたスピン再配列性膜3の領域はスピン再配列温度以上になり、その磁化14は上を向く。
磁性膜4の磁化15は、スピン再配列性膜3の磁化14から受ける静磁界あるいは磁気的交換結合力により、スピン再配列性膜3の磁化14と同じ方向、すなわち上向きとなる。
第6図のようにレーザ光12の照射が終了すると、スピン再配列性膜3はスピン再配列温度以下に冷却し、その磁化14は再び面内を向く。磁性膜4の保磁力は周囲温度付近では充分大きいため磁化反転領域16の磁化15は上を向いたままである。すなわち、磁性膜4の中に磁化反転領域16が形成される。
第7図のように磁化反転領域16に再びレーザ光12が照射され、下向きの変調磁界13が印加されると、スピン再配列性膜3の磁化14は下を向く。磁性膜4の磁化15は前述した理由により今度は下向きとなる。第8図のようにレーザ光12の照射が終了すると、スピン再配列性膜3の磁化14は再び面内を向き、磁性膜4の磁化15は全て下向きとなる。すなわち、磁化反転領域16が消滅したことになる。
なお、電磁コイル11のかわりに、磁気ヘッドや永久磁石を用いて磁界を印加してもよい。
[実施例2]
第9図は本発明になる他の実施例であり、光磁気記録媒体27が以下のように構成される。ガラス基板34上には、光スポツトの案内溝形成用の紫外線硬化樹脂17が約30μm形成されている。その上には窒化アルミニウム膜18が800Å、Gd-Tb-Fe-Co磁性膜19が800Å、Fe3BO6スピン再配列性膜20が500Å、窒化アルミニウム膜21が1000Åだけスパツタリングにより形成されている。
[実施例3]
第10図は上記媒体27を用いた情報記録システムの構成図である。光磁気記録媒体27は、スピンドル31に取付けられ、モータ30により一定回転数で回転している。半導体レーザ22から出たレーザ光23は、コリメートレンズ24により平行光となった後、偏光ビームスプリツタ25を透過して絞り込みレンズ26により直径1μm程度の大きさに絞られて、光磁気記録媒体27に照射される。光磁気記録媒体27の、レーザ光23が入射する面の反対面側には永久磁石32が配置されている。光磁気記録媒体27に入射し、そして反射したレーザ光23は、偏光ビームスプリツタ25に入射後横方向にけり出され、検光子28を通つて光検出子29に入射する。
磁性膜19は第11図に示すようにフエリ磁性体であり、GdやTbの希土類の副格子磁化35と、FeやCoの遷移金属の副格子磁化34とからなる。永久磁石32の光磁気記録媒体27に近い面はN極となつているため、外部磁界33は永久磁石32から磁性膜19へ向かうように印加されている。
半導体レーザ22は、記録時に、強パワーレベル37と中パワーレベル36の2つの強度で発光する。各々の発光強度に対応してスピン再配列性膜20は第3図中のT1,T2の温度まで加熱される。いま、中パワーレベル36のレーザ光23が光磁気記録媒体27に照射されると、第12図のように、その部分の磁性膜19の温度が上昇し、保磁力が低下するため、外部磁界33の方向に磁性膜の正味の磁化が向く。したがつて磁化反転領域16が形成される。このとき、スピン再配列性膜20の温度はT1までしか上昇せず、磁化は面内を向いたままであるため、磁性膜19とスピン再配列性膜20との間には磁気的結合力は作用しない。
一方強パワーレベル37のレーザ光23が光磁気媒体27に照射されると、第13図のように、その部分のスピン再配列性膜20はT2の温度まで上昇し、外部磁界33と同じ方向の磁化を発生する。この磁化はもともとFe原子の磁気モーメントに由来するため、磁性膜19の遷移金属の副格子磁化34と磁気的に結合する。このため磁性膜19の正味の磁化は下向きとなり、外部磁界33の方向とは反対方向となる。このようにして磁化反転領域16は消滅する。すなわち、レーザ光23の強度レベルによつて、情報をオーバライトすることができる。
【発明の効果】
本発明によれば、スピン再配列性膜3が磁性膜4の磁化反転を助けるため、小さな磁界で情報を記録できる。すなわち、レーザ光の強度を変調するいわゆる光変調記録においては、記録や消去時における印加磁界を小さくできるため、磁界を発生するための電磁コイルの巻き数や駆動電流を低減したり、安価な永久磁石を使用したりできるため光磁気記録装置の小型化,単純化,低価格化に寄与することができる。また磁界強度を変調するいわゆる磁界変調記録においては、変調に要する磁界強度を小さくすることができるので、磁界印加手段として磁気ヘツドを用いた場合には、光磁気記録媒体から充分な距離だけ該磁気ヘッドを離して配置することができるため、ヘツドと媒体との接触や衝突等を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
第1図,第9図は本発明になる光磁気記録媒体の断面図、第2図第10図は、本発明になる光磁気記録媒体に情報を記録する装置の概略構成を示す模式図、第3図はスピン再配列性膜の温度,磁化特性の説明図、第4図から第8図までおよび第11図から第13図までは、本発明になる光磁気記録媒体の記録,消去動作の説明図である。
1,34……基板、3,20……スピン再配列性膜、4,19……磁性膜、6,27……光磁気記録媒体、7……レーザ光源、10……情報信号、11……電磁コイル、13……変調磁界、14,15……磁化、16……磁化反転領域、22……半導体レーザ、25……偏光ビームスプリツタ、26……絞り込みレンズ、32……永久磁石、34……遷移金属の元素、35……希土類の副格子磁化。
 
訂正の要旨 (3)訂正の要旨
▲1▼特許請求の範囲の請求項1を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】
垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体に、レーザ光を照射しつつ、極性が垂直方向に変調された磁界を印加し、上記レーザ光の照射により、上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にして、上記極性が変調された磁界の方向に上記第2の磁性膜を磁化させて、上記第1の磁性膜に記録することを特徴とする光磁気記録方法。」
に訂正する。
▲2▼特許請求の範囲の請求項2を削除する。
▲3▼特許請求の範囲の請求項3を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項2】
垂直磁気異方性を有する第1の磁性膜と、所定の温度を境に低温では面内磁化膜であり高温では垂直磁化膜となり前記第1の磁性膜との間に磁気的な結合力が作用する第2の磁性膜とを具備する光磁気記録媒体を用い、レーザ光源と、上記レーザ光源から出たレーザ光を上記光磁気記録媒体に入射させて上記第2の磁性膜の温度を上記所定の温度以上にする手段と、上記光磁気記録媒体に極性が垂直方向に変調された磁界を印加して、上記第2の磁性膜を上記極性が変調された磁界の方向に磁化させる手段とを具備することを特徴とする光磁気記録装置。」
に訂正する。なお、▲2▼の通り、訂正前の請求項2を削除したことに伴い、請求項が繰り上がり、訂正前の請求項3に相当する請求項を、請求項2とした。
▲4▼特許請求の範囲の請求項4を削除する。
異議決定日 2001-04-16 
出願番号 特願平1-63650
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G11B)
P 1 651・ 532- YA (G11B)
P 1 651・ 531- YA (G11B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 梅岡 信幸  
特許庁審判長 三友 英二
特許庁審判官 相馬 多美子
犬飼 宏
登録日 1999-01-14 
登録番号 特許第2875276号(P2875276)
権利者 株式会社日立製作所 日立マクセル株式会社
発明の名称 光磁気記録方法及び光磁気記録装置  
代理人 作田 康夫  
代理人 作田 康夫  
代理人 作田 康夫  

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