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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 発明同一  H01M
管理番号 1046692
異議申立番号 異議2000-70622  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-12-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-16 
確定日 2001-06-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2934450号「高分子固体電解質およびこれを用いた二次電池」の請求項1に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2934450号の請求項1に係る発明の特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第号の手続の経緯は次のとおりである。
特許出願 平成 1年 5月 9日
設定登録 平成11年 5月28日
公報発行 平成11年 8月16日
特許異議申立 平成12年 2月16日
取消理由通知 平成13年 2月22日付
訂正請求 平成13年 5月 8日
異議意見書 平成13年 5月 8日

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
(1)訂正事項a
明細書の特許請求の範囲の請求項1(本件特許公報第1欄第2〜6行)を、
「少なくともポリマーマトリックスと電解質塩とからなる高分子固体電解質において、該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とし、かつ該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるポリマーマトリックスであることを特徴とする高分子固体電解質。」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書の第4頁第5〜11行「(1)少なくともポリマーマトリックスと・・・電解質」(本件特許公報第3欄第24〜28行)を、
「(1)少なくともポリマーマトリックスと電解質塩とからなる高分子固体電解質において、該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とし、かつ該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるポリマーマトリックスであることを特徴とする高分子固体電解質」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の第8頁第9〜11行「高分子は・・・用いても良い。」(本件特許公報第4欄第38〜40行)を、
「高分子を混合してもよいし、また、混合したあと架橋させてもよい。」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1に記載された「(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とするポリマーマトリックス」は、「(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製される」ものであることを特定するものであって、しかも、ポリマーマトリックスが「(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製される」ことは、願書に添付された明細書の実施例1〜4(本件特許公報第7欄第6〜40行)に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正事項b、cは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、、明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2-3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断
3-1.特許異議の申立の概要
特許異議申立人金子しのは、甲第1号証(特開昭63-102104号公報)を提出し、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してなされ、さらに、甲第2号証(特願昭63-62086号(特開平1-241764号))を提出し、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、請求項1に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。
3-2.本件発明
上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されるとおりのものである。(上記2.2-1.(1)訂正事項a参照)
3-3.引用刊行物等に記載された発明
当審が平成13年2月22日に通知した取消理由において引用した刊行物1及び先願明細書にはそれぞれ次のとおりの発明が記載されている。
ア.刊行物1:特開昭63-102104号公報(甲第1号証)
「(1)連続相ドメインを形成した高分子多孔質膜の連続相ドメイン中にイオン伝導性ポリマー電解質を充填したことを特徴とするイオン伝導性有機膜。(2)高分子多孔質膜がポリビニルクロライド多孔質膜、ポリカーボネート多孔質膜またはポリビニルフルオライド多孔質膜である特許請求の範囲第1項記載のイオン伝導性有機膜。(3)イオン伝導性ポリマー電解質がリチウムイオン伝導性ポリマー電解質である特許請求の範囲第1項または第2項記載のイオン伝導性有機膜。」(特許請求の範囲第1〜3項)
「イオン伝導性有機膜は、膜強度はイオン伝導性には関与しない高分子物質のマトリックスによって付与されるので、膜強度を充分に高めることができ、またイオン伝導性は膜強度や形状保持性には関与しないポリマー電解質によって付与されるので、比較的重合度が低くイオン伝導性の高いポリマー電解質を用いることができ、イオン伝導性を充分に高めることができる。」(第2頁左上欄第18行〜右上欄第6行)
「本発明はイオン伝導性有機膜に関し、さらに詳しくは例えば電池の電解質やエレクトロクロミック表示素子の電解質などに有用なイオン伝導性有機膜に関する。」(第1頁左下欄第19行〜右下欄第2行)
「上記ポリマー電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドを側鎖に付加したポリフォスファゼンやポリシロキサンから選ばれたポリマーと、一般式MX(M=Li+、H+、Na+またはAg+で、X=CF3SO3-、AsF6-、PF6-、ClO4-、BF4-またはB(C6H5)4-)で示される金属塩とが錯体を形成した状態のものを用いることが出来る。」(第2頁左下欄第14行〜右下欄第2行)
「高分子多孔質膜としては、例えばポリビニルクロライドの多孔質膜、ポリカーボネートの多孔質膜、ポリビニルフルオライドの多孔質膜などが用いられる。これは、それらの高分子物質がポリマー電解質材料と化学的に安定した状態で存在し得ることと、目的とする連続相ドメインを有する多孔質膜が得られやすい」(第2頁右下欄第13〜19行)
ロ.本件発明の出願日(平成1年5月9日)前に出願され、本件出願後に出願公開された明細書(特開平1-241764号公報(甲第2号証)参照)(以下、「先願明細書」という。)
「電気化学的反応槽用の固体電解質において、a)活性水素原子を含有しない極性基を包含する側鎖を架橋重合体主鎖に結合させた架橋重合体主鎖よりなる母材と、b)該母材に分散させた極性非プロトン液体と、c)該母材及び/又は液体に溶解させた高度イオン化アンモニウム又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩とを含有してなる固体電解質。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明は固体電解質を含有してなる電池(電気化学反応槽:electrochemical cells)及び蓄電器(キャパシター)、かゝる槽(セル)のカソード、固体電解質それ自体及び該電解質とカソードとの製造法に関する。」(第2頁左上欄第18行〜右上欄第2行)
「好適には母材が架橋結合した炭化水素又はポリエーテル連鎖より本質的になる場合には、側鎖は好適には末端キャップ(帽体)のポリエーテル又はポリエーテルエステル例えばオキシ基を介して主鎖に結合したポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシドカーボネート側鎖であり、あるいは炭化水素及びポリエーテル連鎖についてはオキシカルボニル又はカーボネート基を必要とする。」(第3頁右上欄第5〜13行)
「母材及び/又は液体に溶解したイオン化アンモニウム、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩中のイオンは好ましくは全部が個々に別個で分離しているか又はイオン対として又はより高度の集合体例えば三重イオンとして存在できる。該塩は適当には、NH4、Na、K、Li又はMgの塩、好適にはNa、K又はLiの塩、好ましくはLiの塩であり得る。塩のアニオンの適当な例には、一価及び二価のアニオン、就中I-、SCN-、PF6-、AsF6-、BCI4-、BPh4-、アルカリールスルホネートイオン及び好ましくはCF3SO3-、ClO4-及びBF4-がある。好ましい塩はリチウムトリフレートCF3SO3Liである。」(第6頁左上欄第9行〜右上欄第1行)
「報告4 メタクリレート末端帽体化したポリ(エチレンエーテルカーボネート)(メタクリロキシ-ポリ(エトキシカルボニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート)母材前駆体(単量体)(D4)の製造
側腕を備え且つ窒素下に保持した試験管中でジエチレングリコール(27.7g)及びジブチルカーボネート(44.5g)を秤量した。ナトリウムエトキシド溶液(1.02モル溶液の1ml)を注射器により添加した。反応混合物を磁気攪拌した。試験管を150℃の油浴中に浸漬した。温度を大気圧で1時間に亘って200℃に昇温した。装置中の圧力は三時間に亘って徐々に数mmHgまで低下させてブタノールを実質的に完全に留去した。冷却後に、きわめて粘稠な生成物の樹脂をクロロホルム(100ml)に溶解させ、分離濾斗中で希HCl(40mlの水中の10mlの濃HCl)で洗浄し次いで水(3×60ml)で洗浄した。該溶液を回転蒸発させ、樹脂を180℃で2時間真空下に乾燥させた。分子量は136℃でメチルベンゾエート中でVPOにより測定し、1810±10%であると見出された。ジメチルアミノピリジン(0.1g)をこの生成物のヒドロキシル基末端担持オリゴマー(5g)に添加し続いて窒素で被覆した反応フラスコ中で無水メタクリル酸(2.17g:Aldrich製、94%純度)を添加した。反応混合物を80℃で3時間磁気攪拌した。過剰の無水メタクリル酸を80℃で真空下に留去した。樹脂を塩化メチレンに溶解させ、分離濾斗に移送し、希HClで1回次いで水で三回洗浄した。該溶液をMgSO4・1H2Oで乾燥させ、濾過した。200ppmの4-メトキシフェノール抗酸化剤を添加し、該溶液を塩化メチレンの大部分が除去されるまで回転蒸発した。塩化メチレンの残り分は4時間に亘って乾燥空気流中で除去した。
実施例4 1)母材前駆体(単量体)中への塩の配合:前駆体混合物の重合及び架橋結合による母材の形成
HPLC品位のアセトニトリル(20ml)に入れた樹脂(D4)(2.357g)、リチウムトリフレート(0.3749g)及び無水ベンゾイルパーオキシド(0.046g)から注入用溶液を、窒素下で攪拌しながら製造した。この溶液2mlを離型剤で被覆したガラス成形型中に配置した。炉に窒素を吹込みながら成形型を炉に入れた。温度を2℃/分で110℃に昇温させ、2時間110℃に保持し、一夜で室温に徐々に冷却した。澄明でゴム様のフィルムを成形型から容易に引出し得た。」(第11頁左下欄第14行〜第12頁右上欄第5行)
3-4.対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1には、連続相ドメインを形成したポリカーボネート多孔質膜の連続相ドメイン中に、イオン伝導性ポリマー電解質として、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドと、一般式MX(M=Li+、H+、Na+またはAg+で、X=CF3SO3-、AsF6-、PF6-、ClO4-、BF4-またはB(C6H5)4-)で示される金属塩とが錯体を形成した状態のものを充填した高分子固体電解質が記載され、ポリカーボネート多孔質膜と、連続相ドメイン中に充填されたポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドは、本件発明におけるポリマーマトリックスに相当するから、両者は、少なくともポリマーマトリックスと電解質塩とからなる高分子固体電解質において、該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とする高分子固体電解質である点で一致するが、前者では、ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるものであるのに対し、後者では、ポリマーマトリックスが(B)カーボネート系の高分子多孔質膜の連続相ドメイン中に(A)ポリエーテル鎖からなる高分子を充填することにより作製されるものである点で、両者は相違する。
上記相違点について検討する。
本件明細書には、「本発明者らは高分子固体電解質のイオン伝導度をさらに向上させるためには、また、導電性高分子中へのアニオンの出入りを促進させるためには、固体電解質のイオン伝導度を向上させるだけではなく、容易にアニオン移動が起こる系を選択することが必要であると考えた。すなわち、ポリエーテル鎖からなる高分子とカーボネート系の高分子を主成分とする固体電解質により、上記の条件を満足することができた。」(本件特許公報第3欄第45行〜第4欄第2行)と記載されており、本件発明において、カーボネート系の高分子は、固体電解質のイオン伝導度、アニオン移動性の向上に関与するものである。
これに対して、刊行物1に記載された発明においては、「このようにして作製されたイオン伝導性有機膜は、膜強度はイオン伝導性には関与しない高分子物質のマトリックスによって付与されるので、膜強度を充分に高めることができ、また、イオン伝導性は膜強度や形状保持性には関与しないポリマー電解質によって付与されるので、比較的重合度が低くイオン伝導性の高いポリマー電解質を用いることができ、イオン伝導性を充分に高めることができる。」と記載されているように、上記高分子物質のマトリックス(カーボネート系の高分子)は、膜強度や形状保持性には関与するが、イオン伝導性には関与しないものであるから、ポリエーテル鎖からなる高分子とカーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液からポリマーマトリックスを作製して、カーボネート系の高分子を固体電解質のイオン伝導度、アニオン移動性の向上に関与させることを、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るとはいえない。
次に、本件発明と先願明細書記載の発明を対比すると、先願明細書記載のポリエーテル連鎖にポリカーボネート側鎖が結合した母材は、本件発明におけるポリエーテル鎖からなる高分子とカーボネート系の高分子を主成分とするポリマーマトリックスに相当するが、後者は、上記報告4の記載内容から明らかなように、ジエチレングリコール及びジブチルカーボネートより得られたポリエーテル鎖とカーボネート部分を有するオリゴマーを、無水メタクリル酸と反応させて母材前駆体を作製しているから、本件発明のようにポリマーマトリックスがポリエーテル鎖からなる高分子とカーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるものではない。
したがって、本件発明は、先願明細書に記載された発明と同一ではない。
3-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高分子固体電解質およびこれを用いた二次電池
(57)【特許請求の範囲】
(1)少なくともポリマーマトリックスと電解質塩とからなる高分子固体電解質において、該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とし、かつ該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるポリマーマトリックスであることを特徴とする高分子固体電解質。
(2)導電性または半導性高分子材料を活物質とし、電解質として請求項1記載の高分子固体電解質を用いることを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、高分子固体電解質およびそれを利用した二次電池に関する。
[従来の技術]
従来より電池やコンデンサー、センサー等の電気化学素子は、電解質溶液を用いているため、液漏れによる信頼性の低下や実装時における加工しにくさ等が問題とされている。
これらを解決するため固体電解質の検討が活発化している。
固体電解質のなかでも高分子固体電解質は無機系固体電解質に比べて軽量で柔軟性を有し、また成形、加工性に優れていることから注目を集めている。
高分子固体電解質としてはポリエチレンオキシド(PEO)がアルカリ金属と錯体を形成することが発見されて以来[Polym.14,586(1973)]、アルカリ金属イオン伝導体としてPEO鎖を有する材料を中心に検討されており、現在のところ室温で10-5S/cm程度が報告されているが、いまだ十分ではない。
これら高分子固体電解質の素子への応用については、例えば充放電により、正負極でリチウムがレドックス反応をおこすMnO2/Li二次電池等が検討されている。
一方、導電性高分子が酸化、還元によりアニオンをドープ、脱ドープすることを利用して、種々の電気化学素子が提案されている。
[発明が解決しようとする課題]
しかし、本発明者らが導電性高分子を電極活物質とする素子にポリエーテル系固体電解質を応用したところ、アニオンのドープ、脱ドープが起りにくく、良好な素子特性を得ることができなかった。
本発明は、こうした実情に鑑み、イオン伝導度の高い高分子固体電解質を提供することを目的とするものであり、さらに、この高分子固体電解質および導電性または半導性高分子材料を活物質として用いた、二次電池において、電解質中のアニオンの移動が容易で電極のレドックス反応によるアニオンの注入(ドーピング)、溶出(脱ドーピング)が速やかに行われる二次電池を提供することを目的とするものである。
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、前記した課題を解決すべく、従来より検討を重ねてきた結果、高分子固体電解質を構成する高分子マトリックスとして、特定の選択された高分子の組合わせが有効であることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、(1)少なくともポリマーマトリックスと電解質塩とからなる高分子固体電解質において、該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とし、かつ該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるポリマーマトリックスであることを特徴とする高分子固体電解質、(2)導電性または半導性高分子材料を活物質とし、電解質として前記(1)記載の高分子固体電解質を用いる二次電池に関するものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の高分子固体電解質は、少なくとも、マトリックスとなるポリマーとキャリアとなる電解質塩とから構成されている。イオン伝導はポリマーマトリックス中へ溶媒和された電解質塩が、解離してマトリックス中を電界に沿った拡散移動をすることによって実現される。
本発明で用いられるポリマーマトリックスはポリエーテル鎖からなる高分子とカーボネート系の高分子を主成分とする。
ポリエーテル系高分子はアルカリ金属イオンの伝導体として知られている。しかしながら、アニオンの挙動については輸率の測定等が検討されているにもかかわらずいまだ明らかにされていない。
本発明者らは高分子固体電解質のイオン伝導度をさらに向上させるためには、また導電性高分子中へのアニオンの出入りを促進させるためには、固体電解質のイオン伝導度を向上させるだけではなく、容易にアニオン移動がおこる系を選択することが必要であると考えた。
すなわち、ボリエーテル鎖からなる高分子とカーボネート系の高分子を主成分とする固体電解質により、上記の条件を満足することができた。
ポリエーテル系高分子としては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ボリプロピレンオキシド(PPO)等が挙げられる。
アモルファス状態におけるイオン伝導度はPEOの方が高い。しかしながら、PEOを室温付近で結晶化するためイオン伝導度が低下する。PEOの結晶化を抑制させ、高いイオン伝導度を保つにはPEOに無定形高分子であるPPOを共重合させるのが好ましい。共重合はランダム共重合でもブロック共重合でも良い。共重合体の組織はPEOがアモルファス状態を保つ必要最少量のPPOが存在するのが好ましい。すなわちEO/PO=30/1〜8/5が良い。
電極の反応がドープ、脱ドープ、あるいはインターカレート、ディインターカレート反応による素子においては反応時に電極近傍の電解質塩濃度が変化する。このため、イオン伝導度の塩濃度依存性が小さい高分子マトリックスが必要とされる。さらに電解質イオンは電極反応にも使われるため高濃度においても高いイオン伝導度を維持できる電解質が必要とされる。
このような条件を満たすには特に、EO-PO共重合体がブロック型であり、かつ、EOの繰返し単位8〜30ごとにPOの繰返し単位が1〜5、特には1〜3を導入するのが良い。さらに該PEO-PPOのブロック共重合ユニット

となるように導入した構造とするとよい。また、いずれの場合も側鎖ポリエーテル鎖末端は後述する架橋に使用する鎖を除いてメトキシ基、エトキシ基のごときアルコキシ基に置換して活性水素をもたない構造とするのが好ましい。
本発明で用いられるカーボネート系の高分子としては、脂肪族系カーボネート、芳香族系カーボネートをとわないが、カーボネート構造がポリマー主鎖を形成しているものより側鎖に導入された構造、特に環状構造を形成しているものが好ましい。
例えばボリビニレンカーボネートがあげられる。
本発明において(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と、(B)カーボネート系の高分子を混合してもよいし、また、混合したあと架橋させてもよい。
架橋はポリエーテル鎖間でも良いし、ポリエーテル鎖とカーボネート系高分子間でも良い。
架橋部位はウレタン結合、ウレア結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、あるいはメタル、セミメタルを介した結合等が選ばれるが、これに限っているわけではない。これらの結合は例えばEO-PO共重合体の末端を-OH基とし、架橋剤として、イソシアネート、アミン、カルボン酸または酸クロリド、エポキシを用いることにより、それぞれ、ウレタン、ウレア、エステル、エーテル結合を生成することができる。またハロゲン化シリル、アルキルアルミニウム等を用いることにより、メタル、セミメタルを介した結合を生成することができる。
架橋方法としてはさらに光照射による反応も用いられる。上記の反応例と同様に側鎖ポリエーテル鎖の末端に感光基を導入し、架橋反応を行う。ここで(A)ポリエーテル系高分子と(B)カーボネート系高分子及び/又はラクトン系高分子の混合あるいは共重合比率はエーテル鎖中の酸素原子1に対してカーボネート環又はラクトン環ユニットが0.5〜2.0とするのが好ましい。
高分子固体電解質のキャリアとなる電解質塩としては、SCN-、Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、SbF6-、AsF6-、ClO4-、B(C6H5)4-等のアニオンと、Li+、Na+、K+等のアルカリ金属カチオン、(C4H9)4N+、(C2H5)4N+等の有機カチオン等のカチオンとからなる電解質塩が挙げられる。
高分子固体電解質、すなわち、ポリマーマトリックスと電解質塩の複合体は、ポリマーマトリックスと電解質塩を溶媒に溶かし、該溶液からキャスティングすることによって作製できる。あるいは電解質塩を溶解せしめた、ポリマーが不溶の溶液にポリマーマトリックスフィルムを浸漬して、膜中に塩を含有させることにより作製できる。
本発明の電池は基本的には正極、負極および高分子固体電解質より構成され、少なくとも一方の電極活物質には導電性高分子材料が用いられる。
本発明の電池は、アニオンによって導電性高分子がドープされてエネルギーを貯え、脱ドープによって外部回路を通じてエネルギーを放出するものである。また、本発明の電池においては、このドープ-脱ドープが可逆的に行われるので、二次電池として使用することができる。
本発明で用いられる導電性高分子はピロール、チオフェン、フラン、ベンゼン、アズレン、アニリン、ジフェニルベンジン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミンあるいはこれら誘導体を重合した導電性あるいは半導電性高分子があげられるが特にポリアニリンが好ましい。これら重合体は酸化によりアニオンと錯体を形成し、還元によりアニオンが離脱する。
導電性高分子と錯体を形成するイオンとしては例えば、ClO4-、PF6-、AsF6-、BF4-、パラトルエンスルホン酸アニオン、ニトロベンゼンスルホン酸アニオン、Fe(CN)6-、CP(CN)6-などの錯アニオンあるいはAlCl3、FeCl3、GaCl3などのルイス酸等を挙げることができる。
これら導電性高分子は化学重合あるいは電解重合により得られるがどちらの方法を用いても良い。
電解重合法は一般には例えば、J.Electrochem,Soc.,Vol.130,No.7,1506〜1509(1983)、Electrochem.Acta.,Vol.27,No.1,61〜65(1982)、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1199〜(1984)などに示されているが、単量体と電解質塩とを溶媒に溶解した液を所定の電解槽に入れ電極を浸漬し、陽極酸化あるいは陰極還元による電解重合反応を起こさせることによって行うことができる。
また電解質と溶媒の代りに固体電解質中で電解重合を行うことにより固体電解質と導電性高分子の複合体を得ることも可能である。
本発明において、素子を構成する導電性高分子のドーパントとしては高分子固体電解質中のイオンと同種のものが望ましい。したがって、固体電解質中のイオンと同種のドーパントを用いて導電性高分子を合成し、そのまま素子に用いるか、または一旦異種のイオンを用いて重合し、脱ドーピング処理を行ってから素子を組立てるのが好ましい。さらに、脱ドーピング処理後固体電解質中のイオンと同種のイオンをドーピングして素子に使用するのが好ましい。
脱ドーピング処理は化学的脱ドーピングと電気化学的脱ドーピングがあるが、本発明では重合膜を電解液に浸し、膜が破壊しない範囲でより卑な電位をかけ電気化学的脱ドーピングが行われる。また、ドーピング処理とはドーパントとして用いるイオンが存在する電解質溶液中に膜を浸漬し、ドーピングが始まる貴な電位をかけることによって行われる。電解重合に用いる電極は、導電性高分子を電極上に形成させたのち、そのまま電池用電極として用いるため、両者の密着性を向上させる方がよい。たとえば、研磨材、研磨機等による機械的方法化学的あるいは電気化学的方法により電極を粗面化して、表面積を増大させ、電極と導電性高分子の密着性を向上させることができる。さらに機械的方法、化学的あるいは電気化学的方法により電極に孔を設け、電極両面より成長してきた導電性高分子を孔を通して一体化させることにより電極と導電性高分子の密着性を向上させることができる。これらの方法により導電性高分子の電極からの脱離、欠落は生じ難く、また集電効率は増大した。
電極を構成する材料としてはNi、Pt、Au、Al、Cu等の金属ステンレス鋼等の合金、SnO2、In2O3等の金属酸化物あるいは炭素体をポリエステル、ポリ塩化ビニル等のプラスチック上に蒸着あるいは塗布した導電性を持たせたコーティング電極あるいはこれらの複合体が用いられる。
電極の形態としてはシート状であることが好ましく面積は1cm2以上、厚さ5μm〜300μmが好ましい。
負極としては、カチオンをドープすることのできるポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンの他、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンキシリレン等の導電性高分子、Li、Na、K、Ag、Zn、Al、Cu等の金属、あるいは、LiとAl、Mg、Si、PB、Ga、Inとのリチウム合金等を挙げることができる。
本発明にかかる二次電池の構成の一例を第1図に示す。1は正極集電体、2は正極活物質、3は負極集電体、4は負極活物質、5は高分子固体電解質、6は外装である。
[実施例]
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
ビニレンカーボネート50gにべンゾイルパーオキシドを0.15g加え、脱気、封管後、75℃で20時間反応させてボリビニレンカーボネートを得た。
上記ポリビニレンカーボネート10gとジメトキシボリエチレングリコール(MW=400)5.1g、LiBF42.2gをメチルエチルケトンよりキャスティングし、高分子固体電解質フィルム▲1▼を作製した。膜のイオン伝導度はケミカルインピーダンス法により測定し、表-1に示した。
実施例2
実施例1で合成したポリビニレンカーボネート10gと、EO/POランダム共重合体(EO/PO=6/1、MW=600)5.3gとLiBF42.2gをメチルエチルケトンよりキャスティングし、高分子固体電解質フィルム▲2▼を作製した。膜のイオン伝導度はケミカルインピーダンス法により測定し、表-1に示した。
実施例3
実施例1で合成したポリビニレンカーボネート10gとEO/POブロッ

2.2gをメチルエチルケトンよりキャスティングし、高分子固体電解質フィルム▲3▼を作製した。膜のイオン伝導度はケミカルインピーダンス法により測定し、表-1に示した。
実施例4
実施例1で合成したポリビニレンカーボネート10gと下記に示す3官能性ボリエーテル5g、
CH2{(EO)18・(PO)3}2EOOH
CH{(EO)18・(PO)3}2EOOH
CH2{(EO)18・(PO)3}2EOOH
架橋剤としてトリレン-2,4-ジイソシアネート0.165g、ジブチル錫ジラウレート0.005g、LiBF42.2gをメチルエチルケトンからキャスティングし、80℃で10分加熱して、架橋フィルム▲4▼を作製した。膜を十分乾燥させたのち、ケミカルインピーダンス法によりイオン伝導度を測定し、表-1に示した。
ポリアニリン正極の作製例
1.5N H2SO4水溶液中に0.5Mにアニリンを溶かし、+0.7VvsSCEの定電位重合法によりポリアニリンを合成した。このときの重合用電極は10μmブラスト処理をほどこしたステンレスホイルを使用した。次に0.2NH2SO4水溶液中で電気化学的な脱ドープを行い、20%ヒドラジンメタノール溶液中に10分間浸漬した。その後プロピレンカーボネートの1M LiBF4溶液中で電気化学的にドーピングを行った。
実施例5
上記のポリアニリン正極上に実施例1で示した高分子固体電解質フィルム▲1▼をキャスティングし、さらに、その上に50μmのリチウムホイルを圧着して、第1図に示す電池を作製した。
本電池の充放電試験を行い、放電用量を表-2に示した。
実施例6、7、8
実施例5において高分子固体電解質フイルムを▲2▼、▲3▼、▲4▼とし、同様に第1図に示す電池を作製した。
電池の充放電試験を行い、充電容量を表-2に示した。
比較例1
実施例4で用いた3官能性ポリエーテル5.0gとトリレン-2,4-ジイソシアネート0.165g、ジブチル錫ジラウレート0.005g、LiBF42.2gをメチルエチルケトンからキャスティングし、80℃で10分間加熱して架橋フィルム▲6▼を作製した。膜を十分乾燥させたのち、ケミカルインピーダンス法によりイオン伝導度を測定し、表-1に示した。
比較例2
比較例1で作製した架橋フィルム▲6▼を実施例5と同様にポリアニリン正極上にキャスティングし、第1図に示す電池を作製した。電池の充放電試験を行い、放電容量を表-2に示した。
【表1】

【表2】

[発明の効果]
以上説明したように、本発明の構成によれば、高イオン伝導度を有する高分子固体電解質を得ることができ、また、この高分子固体電解質を利用してドープ、脱ドープが行われやすく、容量の大きい二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例および比較例における電池の構成を説明する図。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)明細書の特許請求の範囲の請求項1(本件特許公報第1欄第2〜6行)を、
「少なくともポリマーマトリックスと電解質塩とからなる高分子固体電解質において、該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とし、かつ該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるポリマーマトリックスであることを特徴とする高分子固体電解質。」と訂正する。
(2)明細書の第4頁第5〜11行「(1)少なくともポリマーマトリックスと・・・電解質」(本件特許公報第3欄第24〜28行)を、
「(1)少なくともポリマーマトリックスと電解質塩とからなる高分子固体電解質において、該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子を主成分とし、かつ該ポリマーマトリックスが(A)ポリエーテル鎖からなる高分子と(B)カーボネート系の高分子との混合物が溶解された溶液から作製されるポリマーマトリックスであることを特徴とする高分子固体電解質」と訂正する。
(3)明細書の第8頁第9〜11行「高分子は・・・用いても良い。」(本件特許公報第4欄38〜40行)を、
「高分子を混合してもよいし、また、混合したあと架橋させてもよい。」と訂正する。
異議決定日 2001-06-05 
出願番号 特願平1-114158
審決分類 P 1 652・ 121- YA (H01M)
P 1 652・ 113- YA (H01M)
P 1 652・ 161- YA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 種村 慈樹  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 酒井 美知子
柿沢 恵子
登録日 1999-05-28 
登録番号 特許第2934450号(P2934450)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 高分子固体電解質およびこれを用いた二次電池  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 小松 秀岳  
代理人 旭 宏  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 小松 秀岳  
代理人 旭 宏  

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