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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
管理番号 1046913
異議申立番号 異議1999-73182  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-04-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-08-24 
確定日 2001-10-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第2860117号「印字ヘッド」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについてした平成12年11月7日付け取消決定に対し、東京高等裁判所において取消決定取消の判決(平成12年(行ケ)第499号、平成13年7月19日判決言渡)があったので、さらに審理した上、次のとおり決定する。 
結論 特許第2860117号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2860117号の請求項1に係る発明は、平成1年8月25日に特許出願され、平成10年12月4日にその特許の設定登録がなされ、その後、セイコープレシジョン株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内に訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内に訂正請求書の補正がなされ、これらの補正と訂正は不適法なものであるため認めないとすると共に本件請求項1に係る特許を取り消す旨の異議の決定がなされたところ、東京高等裁判所に訴えが提起され(平成12年(行ケ)第499号特許取消決定取消請求事件)、本件特許明細書の訂正を求める審判請求がなされ(2001年第39081号訂正審判事件)、この訂正審判事件について訂正を認める旨の審決がなされ、この審決の確定により特許請求の範囲が減縮されたことに基づいて異議の決定を取り消す旨の判決がなされ、再度の審理に付されることとなったものである。

2.特許異議申立についての判断
(1)本件発明
本件請求項1に係る発明は、前記訂正審判事件により訂正が認められた明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「環状に配置された複数のソレノイドと、一端が縦2列に配置され他端が前記複数のソレノイドのそれぞれに対応して配置された複数のニードルとを有し、前記環状に配置された複数のソレノイドを半円の2つのブロックに分割し、一方のブロックに属するソレノイドと前記一方の列のニードルとをそれぞれ一端から他端に向けて順に対応させ、同様に他方のブロックに属するソレノイドと前記他方の列のニードルとをそれぞれ一端から他端に向けて順に対応させてある印字ヘッドにおいて、それぞれのブロックのソレノイドは一端から他端に向けて順に、励磁されたときの磁束の方向が交互に逆になるように配置されるとともに、前記ソレノイドの各ブロックの間で隣接する一方のブロックにおける一端のソレノイドと他方のブロックにおける一端のソレノイド、及び一方のブロックにおける他端のソレノイドと他方のブロックにおける他端のソレノイドとを、どちらのソレノイドも励磁したときの磁束の方向を同じにしてあり、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドへの通電のOFF時は、前記ニードルの最大突出時より前であり、且つ前記一方のブロックにおける一端のソレノイドによる磁束と前記他方のブロックにおける一端のソレノイドによる磁束は、相互に磁気干渉がない場合に、通電のOFF後、前記ニードルの最大突出時より後に残留磁束が残らないように消滅するように構成し、さらに、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドと前記他方のブロックにおける一端のソレノイドへの通電ONと通電OFFによる通電時間を1部重ねて、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドの磁束を前記他方のブロックにおける一端のソレノイドの磁束の磁気干渉により減少させる構成とし、前記通電時間の重なりの量は、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドにより駆動されるニードルの最大突出時が前へシフトしない量であるようにしたことを特徴とする印字ヘッド。」(以下、「本件発明」という)

(2)異議申立ての理由及び証拠
これに対し、異議申立人は、本件発明の特許は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する発明に対してなされたもの、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとし、証拠として甲第1,2号証を提出している(当審による取消理由はこれを採用したものである)。
甲第1,2号証とそれらの記載事項は次のとおりである。
1)甲第1号証:特開昭63-102952号公報
a.「第1の電磁石群の電磁石に電圧が印加されて、同電磁石が励磁され、その磁力によってアーマチュアが吸引され、印字ワイヤが前進された後、前記電磁石の励磁が解除され印字ワイヤが後退するときに、第2の電磁石群の電磁石が励磁される。すると、第8図に示すように前記第2の電磁石群の電磁石6bの磁束の一部が、この電磁石6bと隣接する前記第1の電磁石群の電磁石6aに流れ、この電磁石6aの残留磁気が強化される場合がある。」(第2頁左上欄第12行〜右上欄第1行)
b.「ヨーク1の前面板1aの内面には、その開口孔2の外周縁に沿って多数のコア3が所定間隔で放射状に形成されており、これら各コア3には、励磁コイル4が巻装されたコイルボビン5がそれぞれ圧入されている。そして、前記各コア3と各励磁コイル4によって構成される多数の電磁石6a,6bが、第1図に示すように、同一円周上において環状に配置されている。前記環状をなす多数の電磁石のうち、第1図において右側半周を構成する第1の電磁石群61の各電磁石6aと、残る左側半周を構成する第2の電磁石群62の各電磁石6bとの励磁タイミング、すなわち印字装置の印字ヘッド駆動制御回路から出力される駆動電圧の印加タイミングが第8図に示すように相互に異なるように構成されている。さらに、前記第1、第2の電磁石群61,62の各電磁石6a,6bは、1個または複数個ごとにそれぞれの磁束方向が逆向きになるように、各電磁石6a,6bの各励磁コイル4のリード端が、ヨーク1の全面板1aの前側に配設された配線基板7のプリント配線にそれぞれ接続されている。しかも、前記第1の電磁石群61の両端の電磁石6aと、これら電磁石6aと隣接する第2の電磁石群62の両端の電磁石6bとの磁束方向は同方向となるように構成されている。」(第2頁右下欄第9行〜第3頁左上欄第14行)
c.「前記第1の電磁石群61の各電磁石6aに対向する各アーマチュア8の先端には印字ワイヤ17aの基端がろう付けによって固着され、前記第2の電磁石群62の各電磁石6bに対向する各アーマチュア8の先端には印字ワイヤ17bの基端がろう付けによって固着されている。これら各印字ワイヤ17a,17bはアーマチュア支持フレーム9のノーズ部11内に配設された所定数の案内部材18,19,20,21,22に順次案内されて、その各先端が、第3図に示すように、ノーズ部11の前端の案内部材22において、ドットマトリクスパターンの縦方向に2列に配列されている。」(第3頁右下欄第1行〜第13行)
d.「以上述べたように、この発明によれば、第1の電磁石群端部の電磁石とこれと隣接する第2の電磁石群端部の電磁石との磁束方向が同一方向となるように構成したから、第1の電磁石群端部の電磁石が励磁され、その磁力によってアーマチュアが吸引され印字ワイヤが前進された後、前記電磁石の励磁が解除され印字ワイヤが後退するときに、前記電磁石に隣接する第2の電磁石群端部の電磁石が励磁されたときには、第2の電磁石群端部の電磁石6bの磁束の一部が前記第1の電磁石群端部の電磁石6aの残留磁気を打ち消す方向に作用する。このことから、第1の電磁石群の電磁石に対向するアーマチュアが、この電磁石の残留磁気によって不測に吸引されることを防止して、印字ワイヤを非印字側へ確実に後退させることができる。このため、印字不良やリボン引掛け等の事故を防止することができるという効果がある。」(第4頁右下欄第17行〜第5頁左上欄第13行)
e.ヨークに多数の電磁石を配置した状態を示す背面図(第1図)、印字ヘッドを側面から表した半断面図(第2図)、印字ヘッドのノーズ先端を一部破断して示す正面図(第3図)、第1,2の電磁石群の駆動電圧パルスを示す説明図(第5図)、第1の電磁石群端部の電磁石に対する第2の電磁石群端部の電磁石の磁束の流れを示す説明図(第6図)
等が記載されている。
これらの記載事項を対比のためにまとめると、甲第1号証には、“環状に配置された複数の電磁石6a,6bと、一端が縦2列に配置され他端が前記複数の電磁石のそれぞれに対応して配置された複数の印字ワイヤ17a,17bとを有し、前記環状に配置された複数の電磁石を半円の2つの電磁石群61,62に分割し、一方の電磁石群に属する電磁石と前記一方の列の印字ワイヤとをそれぞれ一端から他端に向けて順に対応させ、同様に他方の電磁石群に属する電磁石と前記他方の列の印字ワイヤとをそれぞれ一端から他端に向けて順に対応させてある印字ヘッドにおいて、それぞれの電磁石群の電磁石は一端から他端に向けて順に、励磁されたときの磁束の方向が交互に逆になるように配置されるとともに、前記電磁石の各電磁石群の間で隣接する一方の電磁石群における一端の電磁石と他方の電磁石群における一端の電磁石、及び一方の電磁石群における他端の電磁石と他方の電磁石群における他端の電磁石とを、どちらの電磁石も励磁したときの磁束の方向を同じにしてある印字ヘッド”が記載されている。

2)甲第2号証:実開平1-85034号公報(なお、当審においては実願昭62-181341号のマイクロフイルムも参酌した)
他の従来例を示す第6図に関して、印字ワイヤを駆動するための半円状に配置された複数の電磁石32を、一端から他端に向けて順に、励磁されたときの磁束の方向が交互に逆になるように配置した印字ヘッドが記載されている。

(3)対比
本件発明(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、後者の、電磁石、電磁石群、印字ワイヤは、それぞれ、前者の、ソレノイド、ブロック、ニードルに相当するから、両者は、“環状に配置された複数のソレノイドと、一端が縦2列に配置され他端が前記複数のソレノイドのそれぞれに対応して配置された複数のニードルとを有し、前記環状に配置された複数のソレノイドを半円の2つのブロックに分割し、一方のブロックに属するソレノイドと前記一方の列のニードルとをそれぞれ一端から他端に向けて順に対応させ、同様に他方のブロックに属するソレノイドと前記他方の列のニードルとをそれぞれ一端から他端に向けて順に対応させてある印字ヘッドにおいて、それぞれのブロックのソレノイドは一端から他端に向けて順に、励磁されたときの磁束の方向が交互に逆になるように配置されるとともに、前記ソレノイドの各ブロックの間で隣接する一方のブロックにおける一端のソレノイドと他方のブロックにおける一端のソレノイド、及び一方のブロックにおける他端のソレノイドと他方のブロックにおける他端のソレノイドとを、どちらのソレノイドも励磁したときの磁束の方向を同じにしてある印字ヘッド”である点で一致し、次の点で相違する。
相違点:前者が、「前記一方のブロックにおける一端のソレノイドへの通電のOFF時は、前記ニードルの最大突出時より前であり、且つ前記一方のブロックにおける一端のソレノイドによる磁束と前記他方のブロックにおける一端のソレノイドによる磁束は、相互に磁気干渉がない場合に、通電のOFF後、前記ニードルの最大突出時より後に残留磁束が残らないように消滅するように構成し、さらに、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドと前記他方のブロックにおける一端のソレノイドへの通電ONと通電OFFによる通電時間を1部重ねて、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドの磁束を前記他方のブロックにおける一端のソレノイドの磁束の磁気干渉により減少させる構成とし、前記通電時間の重なりの量は、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドにより駆動されるニードルの最大突出時が前へシフトしない量であるようにした」ものであるのに対し、後者はこのような構成を備えていない点。

(4)判断
前記相違点に係る本件発明の構成のうち、「前記一方のブロックにおける一端のソレノイドへの通電のOFF時は、前記ニードルの最大突出時より前」であることについて検討するに、一般的なソレノイドへの通電のOFF時とニードルの最大突出時との関係において、ニードルの前進中にソレノイドへの通電をOFFにしてもニードルは前進方向の慣性力を有すると考えられ、かつ、ソレノイドへの通電のOFF時がニードルの最大突出時より前になっている設計も周知である(特開昭54-132767号公報、同56-78984号公報、同62-59051号公報など参照)、ということがいえる。
同じく「前記一方のブロックにおける一端のソレノイドによる磁束と前記他方のブロックにおける一端のソレノイドによる磁束は、相互に磁気干渉がない場合に、通電のOFF後、前記ニードルの最大突出時より後に残留磁束が残らないように消滅するように構成」してあることについて検討するに、一般的なニードルの最大突出時と残留磁束の消滅との関係において、全てのニードルについてリボン引っ掛けが生じないように考慮することは当然の設計事項であり、リボン引っ掛けの要因の1つに残留磁束がなり得ることは周知であって(甲第1号証にも示唆されていることであり(記載事項d参照)、甲第1号証に例示された残留磁束は、強化でもされない限り当然にリボン引っ掛けの要因にならない程度のものである)、磁気干渉がないとした場合にニードルの最大突出時より後に残留磁束が残らないような設計も周知である(前記特開昭54-132767号公報、同56-78984号公報、同62-59051号公報など参照)、ということがいえる。
同じく「前記一方のブロックにおける一端のソレノイドと前記他方のブロックにおける一端のソレノイドへの通電ONと通電OFFによる通電時間を1部重ねて、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドの磁束を前記他方のブロックにおける一端のソレノイドの磁束の磁気干渉により減少させる構成とし、前記通電時間の重なりの量は、前記一方のブロックにおける一端のソレノイドにより駆動されるニードルの最大突出時が前へシフトしない量」であることについて検討するに、一般的な両ブロック間の両ソレノイド群への通電時間の関係において、両ソレノイド群への通電時点は、印字速度や印字密度などに応じて変わり、印字速度や印字密度などの変更は当然に考慮される設計事項であって、例えば、印字速度をより高速にしようとすれば両ソレノイド群への通電時点はより接近してくるのであり(例えば、実願昭62-145432号(実開昭64-50940号)、実願昭61-90540号(実開昭62-203034号)の各マイクロフイルムなど参照)、かつ、両ソレノイド群への通電時間が重なるような設計も周知である(特開昭60-183163号公報、特開昭57-156271号公報、実願昭58-176307号(実開昭60-83749号)のマイクロフイルムなど参照)ということがいえる(ただし、両ソレノイド群への通電時間が重なるものにおいて一方のソレノイド群の磁束を他方のソレノイド群の磁束の磁気干渉により減少させる関係にしてあるものや磁気干渉の影響によるニードルの最大突出時のシフトの問題が意識されていたといえるだけのものは甲第2号証も含めて見当たらない)。
これら周知の事項からみて、甲第1号証記載の発明においても、ソレノイドへの通電のOFF時をニードルの最大突出時より前とすることやニードルの最大突出時より後に残留磁束が残らないようにすることや両ブロック間の両ソレノイド群への通電時間が一部重なるようにすることは、設計時において容易に考慮できることといえるのであるが、甲第1号証記載の発明は、磁気干渉がないとした場合にニードルの最大突出時より後に残留磁束が残っていること(記載事項aなどから推察できる)や両ブロック間の両ソレノイド群への通電時間が重なっていないこと(第5図の記載などから推察できる)を前提として両ブロック端の隣接する両ソレノイドの磁束方向を同じにしているのであり、この前提を変えたときでも両ブロック端の隣接する両ソレノイドの磁束方向が同じままで常に適切な印字が得られるとは限らないものである。
すなわち、両ブロック端の隣接する両ソレノイドについて、相互に磁気干渉がないとした場合にニードルの最大突出時より後に残留磁束が残っておらず、かつ、通電時間が一部重なっていることを前提としたときには、磁気干渉の影響によりニードルの最大突出時がシフトする現象が生じ得るのであり、両ブロック端の隣接する両ソレノイドの磁束方向を同じままにしつつ、該現象による影響を解消するためには、該両ソレノイド間の磁気干渉と通電時間の重なりとの関係について、通電時間の重なりの量を該両ソレノイドの磁束の方向を同じにすることによる磁気干渉によってはニードルの最大突出時が前へシフトしない量にする必要があるものと認められる。
しかし、該現象が生じ得ること、あるいは、該両ソレノイド間の磁気干渉と通電時間の重なりとの関係を前記のようにすることについては、甲第1,2号証や前記周知例を含めて示唆するものがないことから、前記相違点を、実質的な相違でないとも、当業者が容易に想起できることとも認めることはできない。
そして、本件発明は、前記相違点に係る構成を備えることにより、両ブロック端の隣接する両ソレノイドについて、相互に磁気干渉がないとした場合にニードルの最大突出時より後に残留磁束が残っておらず、かつ、通電時間が一部重なっていることを前提とした印字ヘッドにおいても、リボン引っ掛けやニードルの最大突出時のシフトのない適切な印字ができるものであるから、甲第1,2号証に記載された発明であるとも、あるいは、甲第1,2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-11-07 
出願番号 特願平1-217518
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B41J)
P 1 651・ 121- Y (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 砂川 克
番場 得造
小泉 順彦
石川 昇治
登録日 1998-12-04 
登録番号 特許第2860117号(P2860117)
権利者 シチズン時計株式会社
発明の名称 印字ヘッド  
代理人 松田 和子  

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