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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G09G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G09G
管理番号 1046923
異議申立番号 異議2000-73723  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-12-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-10-04 
確定日 2001-09-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第3028075号「プラズマディスプレイパネルの駆動方法」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3028075号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3028075号の請求項1〜8に係る発明についての出願は、平成9年5月30日に出願され、平成12年2月4日に設定登録され、その後、異議申立人 吉満 睦子より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年2月13日に訂正請求がなされ、その後、訂正拒絶理由通知がなされ、平成13年7月17日付けで意見書及び手続補正書(訂正請求書)が提出されたものである。

2.訂正請求の補正の適否について
訂正請求書の補正は、訂正拒絶理由に対して、全文訂正明細書中の特許請求の範囲の欄の請求項1の「行方向に並んだ走査電極と、列方向に並んだデータ電極とを備え、前記走査電極に印加する走査パルスと、前記データ電極に印加するデータパルスにより表示データのオン/オフ制御を行い、前記表示データのオン/オフ制御の後に、表示データがオンであるセルのみ維持放電を行うプラズマディスプレイパネルの駆動方法において、
一回の維持放電を発生させる電極間のパルス形状が、短時間である第1の時間、かつ高い電位差を先行させ、引き続いて長時間である第2の時間、かつ低い第1の電位差と、引き続いて長時間である第3の時間、かつ前記1の電位差よりも低い第2の電位差とを与える形状であり、前記高い電位差の継続時間が、パルス印加からガス放電電流が最大となるまでの遅れ時間よりも短く、且つ、前記第1の電位差は前記短時間である第1の時間、且つ高い電位差で生じた放電を持続できる電位差であることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」を、「行方向に並んだ走査電極と、列方向に並んだデータ電極とを備え、前記走査電極に印加する走査パルスと、前記データ電極に印加するデータパルスにより表示データのオン/オフ制御を行い、前記表示データのオン/オフ制御の後に、表示データがオンであるセルのみ維持放電を行うプラズマディスプレイパネルの駆動方法において、
一回の維持放電を発生させる電極間のパルス形状が、短時間である第1の時間、かつ高い電位差を先行させ、引き続いて長時間である第2の時間、かつ低い第1の電位差を与える形状であり、前記高い電位差の継続時間が、パルス印加からガス放電電流が最大となるまでの遅れ時間よりも短く、且つ、前記第1の電位差は、前記短時間である第1の時間、且つ高い電位差で生じた放電を持続できる電位差であることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」と補正するように訂正請求書を補正するものであるが、上記訂正請求書の補正は、特許請求の範囲の技術的事項を削除するものであり、これは訂正事項の削除に該当しない。また、軽微な瑕疵の補正にも該当しない。
したがって、上記訂正請求書の補正は、訂正請求の要旨を変更するものであって、認められないものである。

3.訂正の適否について
ア.訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容は以下のとおりである。
a.特許公報の請求項1を、「【請求項1】行方向に並んだ走査電極と、列方向に並んだデータ電極とを備え、前記走査電極に印加する走査パルスと、前記データ電極に印加するデータパルスにより表示データのオン/オフ制御を行い、前記表示データのオン/オフ制御の後に、表示データがオンであるセルのみ維持放電を行うプラズマディスプレイパネルの駆動方法において、
一回の維持放電を発生させる電極間のパルス形状が、短時間である第1の時間、かつ高い電位差を先行させ、引き続いて長時間である第2の時間、かつ低い第1の電位差と、引き続いて長時間である第3の時間、かつ前記1の電位差よりも低い第2の電位差とを与える形状であり、前記高い電位差の継続時間が、パルス印加からガス放電電流が最大となるまでの遅れ時間よりも短く、且つ、前記第1の電位差は前記短時間である第1の時間、且つ高い電位差で生じた放電を持続できる電位差であることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」と訂正する。

b.特許公報の請求項2、請求項6、及び請求項7を削除する。

c.特許公報の請求項3を、上記請求項の削除に伴い請求項を繰り上げると共に、「【請求項2】電極対の間で個々の維持放電を発生させる電圧の印加方法が、一方の電極にパルス幅が短時間である第1の時間の高電圧パルスを印加し、そのパルス終了後に他方の電極に、前記高電圧パルスとは逆方向の極性の低電圧パルスを長時間である第2の時間印加する請求項1記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」と訂正する。

d.特許公報の請求項4を、上記請求項の削除に伴い請求項を繰り上げると共に、「【請求項3】電極対の間で個々の維持放電を発生させる電圧の印加方法が、一方の電極に短時間である第1の時間のパルスを印加し、そのパルスと同時に他方の電極に、前記短時間のパルスとは逆方向の極性の低電圧パルスを短時間である第1の時間と長時間である第2の時間の和の時間印加する請求項1記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」と訂正する。

e.特許公報を請求項5を、上記請求項の削除に伴い請求項を繰り上げると共に、「【請求項4】電極対の間で個々の維持放電を発生させる電圧の印加方法が、一方の電極に短時間である第1の時間と長時間である第2の時間の和の時間の高電圧パルスを印加し、そのパルス印加から前記短時間である第1の時間遅らせて、他方の電極に、前記高電圧パルスと同方向の極性の低電圧パルスを長時間である第1の時間印加する請求項1記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」と訂正する。

f.特許公報の請求項8を、上記請求項の削除に伴い請求項を繰り上げると共に、「【請求項5】前記短時間、かつ高い電位差を、前記第1の電位差をあたえるパルスの振幅を超過するオーバーシュートによって得ることを特徴とする請求項1項記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」と訂正する。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aについては、
訂正前の願書に添付された図3〜5の波形図には、「t1」及び「t2」が示されており、前記記載より、該「t1」が訂正後の請求項1の「第1の時間」、「t2」が訂正後の請求項1の「第2の時間」を表すことは明らかである。
しかしながら、前記訂正前の願書に添付された明細書に「第3の時間」に関する記載はない。そして、「第3の時間」が前記波形図中の「t2」の波形と次のパルス波形との間の区間を指すとしても、該区間が「長時間」であること及び「前記1の電位差よりも低い第2の電位差」であることは、前記明細書及び図面に記載されておらず、また、前記明細書及び図面から一義的に導き出せる事項とも言えない。
したがって、上記訂正は前記明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものではない。

よって、上記訂正事項b〜fについてその訂正の適否を判断するまでもなく、本件訂正は認められない。

ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

4.取消理由についての判断
ア.取消理由の概要
取消理由の概要は以下の通りである。
a.本件請求項1,2,4,8に係る発明(以下「本件発明1,2,4,8」という。)は、その出願前に国内において頒布された下記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、その発明の属する分野における通常の知識を有するものが、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平8-124485号公報(特許異議申立人 吉満 睦子 提出の甲第1号証)
刊行物2:特開平3-259183号公報(特許異議申立人 吉満 睦子 提出の甲第2号証)
刊行物3:特開昭50-39024号公報(特許異議申立人 吉満 睦子 提出の甲第3号証)
刊行物4:特開昭52-150941号公報(特許異議申立人 吉満 睦子 提出の甲第4号証)

b.本件請求項2,3,5,6,7に係る発明(以下「本件発明2,3,5,6,7」という。)は、特許を受けようとする発明が不明であるから、特許法第36条第6項の規定により特許を受けることができない。

イ.特許法第29条第2項について
A.本件発明
上記のとおり、訂正請求は認められないから、本件発明1,2,4,8は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,2,4,8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】 行方向に並んだ走査電極と、列方向に並んだデータ電極とを備え、前記走査電極に印加する走査パルスと、前記データ電極に印加するデータパルスにより表示データのオン/オフ制御を行い、前記表示データのオン/オフ制御の後に、表示データがオンであるセルのみ維持放電を行うプラズマディスプレイパネルの駆動方法において、
一回の維持放電を発生させる電極間のパルス形状が、短時間、かつ高い電位差を先行させ、引き続いて長時間、かつ低い電位差を与える形状であり、前記高い電位差の継続時間が、パルス印加からガス放電電流が最大となるまでの遅れ時間よりも短いことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの駆動方法。

【請求項2】 前記低い電位差の継続時間および電位差の設定が、前記高い電位差の期間が無い場合でも維持放電の機能を有するように決定されている請求項1記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。

【請求項4】 電極対の間で個々の維持放電を発生させる電圧の印加方法が、一方の電極に短時間のパルスを印加し、そのパルスと同時に他方の電極に、前記短時間のパルスとは逆方向の極性の低電圧パルスを長時間印加する請求項1または2記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。

【請求項8】 前記短時間、かつ高い電位差を、パルス振幅を超過するオーバーシュートによって発生する、請求項1から7のいずれか1項記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」

B.引用刊行物に記載された事項
当審が平成12年12月6日付けで通知した取消しの理由において引用した刊行物1〜4にはそれぞれ次の事項が記載されている。
a.引用刊行物1:特開平8-124485号公報
上記刊行物1は、AC型プラズマディスプレイ装置及びその駆動方法に係るものであり、「AC型PDPは放電に際し壁電荷が形成され、・・・発光効率をさらに向上させることにある。」(第3頁第3欄第10〜22行)、
「本発明の装置では、・・・直交に形成されたストライプ状のもの」(第3頁第3欄第25〜37行)、
「また、本発明の方法では、・・・また、別の側面から見れば、本発明の方法では、AC型PDPを駆動するに際し、そのAC放電における各方向の各放電において、放電セルを流れる電流が時間的に極大値をとる前に放電を停止させ、あるいは放電セルを流れる電流が時間的に極大値をとる前に駆動パルスの電圧を低減させて前記極大値を生じさせないことを特徴とする。」(第3頁第3欄第43〜同頁第4欄第7行)、
「【作用】従来の技術によれば、AC型PDPを駆動するために、AC放電用の電極1aおよび1bに駆動パルスを印加すると、電極1aおよび1b間では、図8(b)に示すように、これら電極上の誘電体において、該電極に対応する誘電体表面全体から電子が放出され、比較的高い輝度の放電が行われる。・・・全体として発光効率の向上が図られる。」(第3頁第4欄第15〜38行)、
「図1の場合、電極1aおよび1bは、背面ガラス3上に互いに平行に形成され、・・・放電の可視発光を利用する場合は蛍光体を塗布しない。」(第4頁第5欄第23行〜同頁第6欄第11行)、
と記載されると共に図2にAC型プラズマディスプレイ装置の構造が、図6に駆動パルス電圧波形が示されている。

b.引用刊行物2:特開平3-259183号公報
上記刊行物2は、AC型プラズマディスプレイパネルに係るものであり、
「第6図にAC面放電型プラズマディスプレイパネルの断面図の一例を示す。・・・本発明は短パルス駆動の高発光効率を維持したまま駆動電圧を大幅に下げる駆動方法を提供するものである。」(第2頁左上欄第3行〜同頁左下欄第18行)、
「第1図(a)は本発明の駆動方法の電極間にかかる電位差の波形を示す。・・・若干低くなっている。」(第3頁左上欄第4行〜同頁左下欄第2行)、
と記載されると共に、第1図に駆動波形と電流波形が、第3図にパルス幅と発光効率と放電開始電圧の関係が示されている。

c.引用文献3:特開昭50-39024号公報
上記刊行物3は、ガス・パネル駆動装置に係るものであり、
「書き込み動作の後、セルの周期的光出力は保持電圧と呼ばれる交流電圧により維持される。」(第2頁左上欄第8〜10行)、
「本発明の他の目的は保持動作のための改良された波形を提供することである。」(第2頁右上欄第1〜2行)、
「本発明の保持波形はその前縁にスパイク電圧を有し、この前縁には、普通の保持パルスと大体同じであるが動作マージンが著しく巾広い比較的広巾の成分が続く。動作マージンは前に書込まれたセルをイオン化する最小保持電圧及び前に消去されたセルがオンに転じられ始める最大保持電圧の間の差である。」(第2頁右下欄第16行〜第3頁左上欄第2行)、
「次に保持波形を発生するための回路を示す第3図および第4図を参照する」(第4頁右下欄第11〜12行)、
と記載されると共に第3図には保持波形を発生するための回路、第4図には第3図の回路の動作を例示する波形が示されている。

d.刊行物4:特開昭52-150941号公報
上記刊行物4は、ガス放電パネルに係るものであり、
「このようなガス放電パネルの電極間の放電点には、・・・これによりサステインパルスを印加中は継続的にその放電を発生させることができるものである。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第4行)、
「本発明は、サステインパルスの波形を改良して維持電圧を低くし得るようにすると共にマージンを増大することを目的とするものである。」(第2頁右上欄第9〜11行)、
「第5図は第2図に示すような波形を放電点に印加する場合の説明図であり、ガス放電パネルのX電極にVXで示す波形の電圧を印加し、Y電極にVYで示す波形の電圧を印加することにより、X,Y電極の交点の放電点にはVAで示す波形の電圧が印加されることになる。第6図は第5図のVX,VYで示す波形の電圧を発生する為のX側又はY側の駆動回路の実施例を示すもので・・・X側駆動回路のトランジスタQ2とY側駆動回路のトランジスタQ3とがオンとなって、サステインパルスの立ち下がりとなる。以下同様にして信号Xu,Xd,Xde,Xue,Yu,Yd,Yde,Yueに従って出力端子即ちガス放電パネルの電極にはVX,VYで示す波形の電圧が印加される。」(第3頁右上欄第18行〜同頁右下欄第5行)、
と記載されると共に第5図に印加電圧波形が示されている。

C.対比・判断
a.請求項1について
本件発明1と上記刊行物1に記載されたものとを対比する。
上記刊行物1には、図2に、前面ガラス6上に2本の平行する電極1a,1bを有すると共に、前記前面ガラス6と対向する背面ガラス3上に前記2本の電極と直交して設けられる電極1c及び、該電極1cと並行する(R)(G)(B)の蛍光体7を有するAC型プラズマディスプレイの構造が記載されていることから、前記電極1cがデータ用電極、前記電極1a,1bが走査用電極となることは当業者には自明であり、プラズマディスプレイの表示がデータ信号に基づいて行われることを考慮すれば、上記刊行物1の「AC型プラズマディスプレイ」は「行方向に並んだ走査電極と、列方向に並んだデータ電極とを備え、前記走査電極に印加する走査パルスと、前記データ電極に印加するデータパルスにより表示データのオン/オフ制御を行」うものであり、また、上記刊行物1には「AC型PDPを駆動するために、AC放電用の電極1aおよび1bに駆動パルスを印加すると、電極1aおよび1b間では、図8(b)に示すように、これら電極上の誘電体において、該電極に対応する誘電体表面全体から電子が放出され、比較的高い輝度の放電が行われる。」と記載されており、上記刊行物1の「AC型プラズマディスプレイ」は、表示発光のために「表示データがオンであるセルのみ維持放電を行うプラズマディスプレイパネル」であるから、結局、上記刊行物1の「AC型プラズマディスプレイ」は本件発明1の「行方向に並んだ走査電極と、列方向に並んだデータ電極とを備え、前記走査電極に印加する走査パルスと、前記データ電極に印加するデータパルスにより表示データのオン/オフ制御を行い、前記表示データのオン/オフ制御の後に、表示データがオンであるセルのみ維持放電を行うプラズマディスプレイパネル」に相当する。
また、上記刊行物1の、上記「AC放電用の電極1aおよび1bに駆動パルスを印加すると、電極1aおよび1b間では、図8(b)に示すように、これら電極上の誘電体において、該電極に対応する誘電体表面全体から電子が放出され、比較的高い輝度の放電が行われる」なる記載及び、図6の「駆動パルス」の波形より、「駆動パルス」は「発光」のために、図6に示されるように繰り返し与えられるパルス電圧であるといえるから、上記刊行物1の「駆動パルス」は本件発明1の「維持放電を発生させる電極間のパルス」に相当し、更に、上記刊行物1には、「本発明の目的は、AC型プラズマディスプレイ装置において、発光効率をさらに向上させることにある。」、「本発明の方法では、AC型PDPを駆動するに際し、そのAC放電における各方向の各放電において、放電セルを流れる電流が時間的に極大値をとる前に放電を停止させ、あるいは放電セルを流れる電流が時間的に極大値をとる前に駆動パルスの電圧を低減させて前記極大値を生じさせないことを特徴とする。」と記載されているから、上記刊行物1の「駆動パルス」は、本件発明1の「一回の維持放電を発生させる電極間のパルス形状が、短時間、かつ高い電位差を先行させ、引き続いて低い電位差を与える形状であり、前記高い電位差の継続時間が、パルス印加からガス放電電流が最大となるまでの遅れ時間よりも短い」波形のものに相当する。
したがって両者は、「行方向に並んだ走査電極と、列方向に並んだデータ電極とを備え、前記走査電極に印加する走査パルスと、前記データ電極に印加するデータパルスにより表示データのオン/オフ制御を行い、前記表示データのオン/オフ制御の後に、表示データがオンであるセルのみ維持放電を行うプラズマディスプレイパネルの駆動方法において、
一回の維持放電を発生させる電極間のパルス形状が、短時間、かつ高い電位差を先行させ、引き続いて低い電位差を与える形状であり、前記高い電位差の継続時間が、パルス印加からガス放電電流が最大となるまでの遅れ時間よりも短いことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」で一致し、次の点で相違する。
相違点
(1)本件発明1のものは、「維持放電を発生させる電極間のパルス」の「短時間、かつ高い電位差」に引き続く「低い電位差」が「長時間」であるのに対し、上記刊行物1では、パルスの「低い電位差」の時間幅について記載されていない点。

上記相違点(1)について検討すると、上記刊行物2には、AC型プラズマディスプレイパネルの駆動方法において、「高発光効率のメリットを生かしたまま駆動電圧を下げる」ために、電極間に「放電を起こさせる幅の狭いパルスの立ち上がりから立ち下がりまでの時間」を0.5〜7μsecとし、「その後の壁電荷を形成させる電圧パルスの維持期間は100ボルト、5μsecで一定とした」電圧を印加する技術、即ち、維持放電を発生させる電極間のパルスの「短時間、かつ高い電位差」に引き続く「低い電位差」を「長時間」とする技術が記載されている。

したがって、上記刊行物1に記載されたプラズマディスプレイパネルの駆動方法に上記刊行物2に記載された技術を適用し本件発明1の構成を得ることは当業者が容易に為し得たことと認められるから、本件請求項1に記載された発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

b.請求項2について
本件発明2の構成は下記「ウ.特許法第36条第6項について a.請求項2について」に記載するように瑕疵を有するものであるが、そうでないとしても以下の理由により、本件発明2の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄第【0031】段落の「図1のパルス形状は、短時間の高電圧、例えばt1=V200ナノ秒、V1=200ボルト印加後に、長時間の低電圧、例えばt2=4マイクロ秒、V2=130ボルトを印加したものである。このパルス形状のポイントの第1は、先行する高電圧の印加時間t1が、パルス印加から放電電流波形がピークとなる時間より短いことであり、ポイントの第2は、引き続く長時間低電圧の印加時間t、2電圧V2が、前記先行する高電圧を印加しない状態でも、放電を持続することができる設定であることである。このような形状のパルスを維持放電パルスに利用する。」なる記載を参酌すると、本件発明2は、本件発明1の技術事項を、さらに、「維持放電を発生させる電極間のパルス」の内の「低い電位差」期間の電圧値及び期間幅の設定を、前記「低い電位差」単独でも「維持放電の機能を有する」「継続時間および電位差」のものに技術的に限定するものを含むことは明らかであるから、本件発明1の技術事項をさらに上記のように技術的に限定したものとして以下検討する。
本件発明2と上記刊行物1に記載されたものを比較する。
本件発明2と上記刊行物1に記載された事項との一致点は上記請求項1についてと同様であり、次の点で相違する。
相違点
(1)本件発明2のものは、「維持放電を発生させる電極間のパルス」の「短時間、かつ高い電位差」に引き続く「低い電位差」が「長時間」であるのに対し、上記刊行物1では、パルスの「低い電位差」の時間幅について記載されていない点。
(2)本件発明2のものは、「前記低い電位差の継続時間および電位差の設定が、前記高い電位差の期間が無い場合でも維持放電の機能を有するように決定されている」のに対して、上記刊行物1では、パルスの「低い電位差」の電圧値について記載されていない点。

上記相違点(1)及び(2)について検討すると、上記刊行物3には、ガス・パネル駆動装置において、第4図に、「短時間、かつ高い電位差」に引き続く「長時間、かつ低い電位差」を有する光出力維持のための「保持波形90,91」が記載されると共に、「本発明の保持波形はその前縁にスパイク電圧を有し、この前縁には、普通の保持パルスと大体同じであるが動作マージンが著しく巾広い比較的広巾の成分が続く」と記載されている。即ち、上記刊行物3には、ガス・パネル駆動装置の維持放電のためのパルス波形を「短時間、かつ高い電位差を先行させ、引き続いて長時間、かつ低い電位差を与える形状」とすると共に、「前記低い電位差の継続時間および電位差の設定が、前記高い電位差の期間が無い場合でも維持放電の機能を有するように決定」する技術が記載されている。

したがって、上記刊行物1に記載されたプラズマディスプレイパネルの駆動方法に上記刊行物3に記載された技術を適用し本件発明2の構成を得ることは当業者が容易に為し得たことと認められるから、仮に本件請求項2に記載された発明が特許法第36条第6項の要件を満たすとしても、本件請求項2に記載された発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

c.請求項4について
本件発明4と上記刊行物1に記載されたものを比較する。
本件発明4は、本件発明1または本件発明2を引用するものであるが、このうち本件発明1の技術的事項を、さらに「電極対の間で個々の維持放電を発生させる電圧の印加方法が、一方の電極に短時間のパルスを印加し、そのパルスと同時に他方の電極に、前記短時間のパルスとは逆方向の極性の低電圧パルスを長時間印加する」と技術的に限定するものについて検討すると、本件発明4と上記刊行物1に記載された事項との一致点は上記「請求項1について」と同様であり、次の点で相違する。
相違点
(1)本件発明4のものは、「維持放電を発生させる電極間のパルス」の「短時間、かつ高い電位差」に引き続く「低い電位差」が「長時間」であるのに対し、上記刊行物1では、パルスの「低い電位差」の時間幅について記載されていない点。
(2)本件発明4のものは、「前記低い電位差の継続時間および電位差の設定が、前記高い電位差の期間が無い場合でも維持放電の機能を有するように決定されている」のに対して、上記刊行物1では、パルスの「低い電位差」の電圧値について記載されていない点。
(3)本件発明4のものは、維持放電を発生させる電圧の印加方法が、「一方の電極に短時間のパルスを印加し、そのパルスと同時に他方の電極に、前記短時間のパルスとは逆方向の極性の低電圧パルスを長時間印加する」のに対して、上記刊行物1では、パルス電圧の印加方法について記載されていない点。

上記相違点(1),(2)については、上記「請求項1について」または「請求項2について」で記載した通りである。
上記相違点(3)について検討すると、上記刊行物4には、ガス放電パネルにおいて、「継続的にその放電を発生させる」ためのパルス電圧である「サステインパルス」を、「X電極」に印加する電圧「VX」と 「Y電極」に印加する電圧「VY」により生成する技術、即ち、維持放電を発生させるパルス電圧を、2つの電極にそれぞれ印加される電圧の合成により生成する技術が記載されると共に、前記電極に印加される電圧を、一方の電極に短時間のパルスを印加し、そのパルスと同時に他方の電極に、前記短時間のパルスとは逆方向の極性の低電圧パルスを長時間印加するものが第5図に示されている。

したがって、上記刊行物1に記載されたプラズマディスプレイパネルの駆動方法に上記刊行物2〜4に記載された技術を適用し本件発明4の構成を得ることは当業者が容易に為し得たことと認められるから、本件請求項4に記載された発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

d.請求項8について
本件発明8と上記刊行物1に記載されたものを比較する。
本件発明8は、本件発明1〜7の何れか1つの発明を引用するものであるが、このうち本件発明1の技術事項を、さらに「前記短時間、かつ高い電位差を、パルス振幅を超過するオーバーシュートによって発生する」と技術的に限定するものについて検討すると、 本件発明8と上記刊行物1に記載された事項との一致点は上記「請求項1について」と同様であり、次の点で相違する。
相違点
(1)本件発明8のものは、「維持放電を発生させる電極間のパルス」の「短時間、かつ高い電位差」に引き続く「低い電位差」が「長時間」であるのに対し、上記刊行物1では、パルスの「低い電位差」の時間幅について記載されていない点。
(2)本件発明8のものは、「前記低い電位差の継続時間および電位差の設定が、前記高い電位差の期間が無い場合でも維持放電の機能を有するように決定されている」のに対して、上記刊行物1では、パルスの「低い電位差」の電圧値について記載されていない点。
(3)本件発明8のものは、維持放電を発生させる電圧の印加方法が、「一方の電極に短時間のパルスを印加し、そのパルスと同時に他方の電極に、前記短時間のパルスとは逆方向の極性の低電圧パルスを長時間印加する」のに対して、上記刊行物1では、パルス電圧の印加方法について記載されていない点。
(4)本件発明8のものは「、短時間、かつ高い電位差を、パルス振幅を超過するオーバーシュートによって発生する」のに対して、上記刊行物1では、「短時間、かつ高い電位差」の発生方法について「記載されていない点。」

上記相違点(1)〜(3)については、上記「請求項1について」、「請求項2について」または「請求項4について」で記載した通りである。
上記相違点(4)について検討すると、矩形電圧波形を生成するにあたり、生成回路を構成する各素子のパラメータにより、前記波形に「なまり」や「オーバーシュート」、「アンダーシュート」が発生することは当業者に自明のことであり、矩形波の立ち上がり部に「短時間、かつ高い電位差」の期間を生成するにあたり、オーバーシュートを用いることは、当業者が適宜なし得ることである。

したがって、上記刊行物1に記載されたプラズマディスプレイパネルの駆動方法に上記刊行物2〜4に記載された技術を適用し本件発明8の構成を得ることは当業者が容易に為し得たことと認められるから、本件請求項8に記載された発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ウ.特許法第36条第6項について
a.請求項2について
本件の特許請求の範囲の請求項2の「前記低い電位差の継続時間および電位差の設定が、前記高い電位差の期間が無い場合でも維持放電の機能を有するように決定」なる記載は、「維持放電を発生させる電極間のパルス」を「高い電位差の期間」を有さず且つ「低い電位差」期間の電圧値及び期間幅を「維持放電の機能を有する」「継続時間および電位差」のものとするのか、「維持放電を発生させる電極間のパルス」の内の「低い電位差」期間の電圧値及び期間幅の設定を、前記「低い電位差」単独でも「維持放電の機能を有する」「継続時間および電位差」のものとするのか不明であり、特許を受けようとする発明が不明であるから、本件請求項2に記載された発明は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。

b.請求項3について
本件の特許請求の範囲の請求項3は、請求項2に従属したものであり、上記請求項2についてと同様に特許を受けようとする発明が不明であるから、本件請求項3に記載された発明は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。

c.請求項5について
本件の特許請求の範囲の請求項5の「一方の電極に長時間の高電圧パルスを印加し、そのパルス印加から前記短時間の高電圧印加時間分だけ遅らせて、他方の電極に、前記高電圧パルスと同方向の極性の低電圧パルスを長時間印加する」なる記載では、「一方の電極」に印加される「長時間の高電圧パルス」の終了時期と、「他方の電極」に印加される「低電圧パルス」の終了時期との関係が不明であり、本件の特許請求の範囲の請求項1,2の「パルス形状」を得るための構成ではない。
したがって、「電極対の間で個々の維持放電を発生させる電圧の印加方法」が不明であり、特許を受けようとする発明が不明であるから、本件請求項5に記載された発明は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。

d.請求項6について
本件の特許請求の範囲の請求項6においては、「パルス形状」に関する構成は引用されているものの、本件発明の前提である「プラズマディスプレイパネルの駆動方法」に関する事項は引用されておらず、したがって、特許を受けようとする発明は「発明の詳細な説明」に記載されたものと相違すると共に、本件請求項6に記載された事項のみでは発明を把握することができないから、本件請求項6に記載された発明は特許法第36条第6項第1,2号の規定に違反してなされたものである。

e.請求項7について
本件の特許請求の範囲の請求項7においては、「パルス形状」に関する構成は引用されているものの、本件発明の前提である「プラズマディスプレイパネルの駆動方法」に関する事項は引用されておらず、したがって、特許を受けようとする発明は「発明の詳細な説明」に記載されたものと相違すると共に、本件請求項7に記載された事項のみでは発明を把握することができないから、本件請求項7に記載された発明は特許法第36条第6項第1,2号の規定に違反してなされたものである。

エ.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1,4,8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされ、また、本件請求項2,3,5,6,7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に違反してなされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-08-02 
出願番号 特願平9-141697
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (G09G)
P 1 651・ 121- ZB (G09G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 山田 正文
松尾 淳一
登録日 2000-02-04 
登録番号 特許第3028075号(P3028075)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 プラズマディスプレイパネルの駆動方法  
代理人 福田 修一  
代理人 河合 信明  
代理人 京本 直樹  

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