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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない A01K
管理番号 1047716
審判番号 無効2000-35168  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-06-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-03 
確定日 2001-06-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2977978号発明「魚釣用電動リール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 一、手続の経緯
本件特許第2977978号の請求項1に係る発明についての出願は、平成3年12月9日に出願され、平成11年9月10日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
これに対して請求人は無効を主張し証拠方法として甲第1号証、甲第1号証の1及び甲第2号証を提出したところ、被請求人は平成12年7月11日に訂正請求書を提出して訂正を求め、その後、請求人は平成12年12月29日に審判事件弁駁書を提出したものである。

二、訂正の可否について
1.訂正の内容
[訂正a]
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】リール本体に回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。」を
「【請求項1】リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。」
と訂正する。

[訂正b]
特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】の
「【課題を解決するための手段】斯かる目的を達成するため、本発明は、リール本体に回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたものである。」を
「【課題を解決するための手段】斯かる目的を達成するため、本発明は、リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたものである。」
と訂正する。

2.訂正の可否についての判断
上記[訂正a]は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「リール本体に回転可能に支持されたスプール」を「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプール」に限定しようとするものであり、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】に「【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る魚釣用電動リールの平面図を示し、図に於て、1はリール本体、3,5はリール本体1の左右両側に固着したリール側枠、7は釣糸9を巻回したスプールで、当該スプール7は、その一端が図示しないブラケットを介してリール本体1に回転可能に支持され、又、その他端はこれに固定したブラケット11と、リール本体1に取り付けたセットプレート13の軸受15によって回転可能に支持されている。」が記載されており、また、【図1】にも「リール本体1の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプール7」が明確に記載されているから、この[訂正a]は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記[訂正b]は、特許請求の範囲の請求項1の記載と、発明の詳細な説明の記載とを整合させるためのものであるから、この[訂正b]は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記[訂正a]及び[訂正b]は、上記のとおり、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第2項、並びに、同条第5項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

三、請求人の主張
請求人は、審判請求書において「本件発明特許は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」と主張している。

四、被請求人の主張
被請求人は、請求人の上記主張に対して、審判事件答弁書において「審判請求人の主張は失当であり、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に該当するものではない。従って、本件特許発明は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるものではない。」と主張している。

五、当審の判断
1.本件発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。」

2.証拠方法
甲第1号証:フランス国特許第1.525.043号明細書
甲第1号証の1:上記甲第1号証の訳文
甲第2号証:実願昭59-40697号(実開昭60-151369号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム

3.各証拠方法の記載事項
甲第1号証には、甲第1号証の1の訳文を参照すると、次の事項が記載されている。
「本発明は、いわゆる固定スプールの魚釣用リールに関するものであり、キャスティング時にスプールから釣糸が引き出されていくときにスプールが静止状態にある魚釣用リールに関する。」(甲第1号証の1、1頁8行〜10行)
「この種のリールは、釣糸を巻き取るために、固定スプールに対して同軸上に配列され、”ピックアップ”と呼ばれる横方向に延びた引っかけ部を有する回転ドラムを備えている。この回転ドラムは、ハンドルの回転と連動してステップアップ機構により回転駆動される。このリールは、本発明は、携帯用電源から電力供給を受け、ステップダウン機構により回転ドラムに結合された電気モータがこのアッセンブリの中心的な構成としてなるものであり、この電気モータの停止時には手動制御で回転ドラムの駆動を可能にするフリーホイール等を介在している。その結果、キャスティングを行なっても釣人は電気モータにより餌又はルアーを連続的に高速で引き寄せることができる。この操作に必要な力は僅かである。操作中に魚がかかると、手動によるハンドル操作の補助を得ながら釣糸の回収を継続する。この場合はかかった魚による抵抗力があるため、より大きな力が必要となる。」(同1頁14行〜25行)
「一方、スプール1には釣糸が巻回されており、固定スプールと呼ばれる。これはキャスティング時釣糸が放出されていく時にスプール1が制止状態(「静止状態」の誤記と認める。)を保つためである。」(同2頁5行〜7行)
「一方、回転ドラム2は固定スプール1と同軸上にあり、ピックアップ3の支持部材としての役割を果たすと同時に、キャスト後に釣糸を巻き上げる時、釣糸Fを固定スプール1に確実に巻回するためのものである。最後に、ハンドル4はステップアップ機構を用いてドラム2を回転駆動させるものである。」(同2頁10行〜14行)
「電気モータ16は携帯用電源17(バッテリ又は蓄電池)から電力供給を受け、ステップダウン装置により回転ドラムと接続されている。ここにはフリーホイール等が介在し、モータ16の停止時に手動ハンドル4の操作による回転ドラムの駆動を可能にしている。」(同2頁28行〜31行)
「なお、上述した爪9付フリーホイールは、手動ハンドル4の操作が停止した時に電気モータ16による回転ドラム2の駆動を可能にしている。」(同3頁2行〜3行)
「モータ16は好ましくは同じ操作部材21(図1及び図2)によって駆動開始と駆動停止を行うようにするのがよく、この操作部材21をハンドル4の近傍に配置するのが望ましい。そうすることにより釣り人は操作部材を一方向にあるいはそれとは逆の方向にハンドル4から手を離すことなく操作することができる。」(同3頁9行〜13行)
「図2に明瞭に示されているように、この操作部材21をレバー形態とするのが好ましく、操作部材21の端部21aは、ハンドル4の回転面の近傍にある面内に位置している。釣り人は一方の手でハンドル4を正規位置で保持し続け、同じ手の親指で操作部材21の端部21aを操作することができる。」(同3頁14行〜18行)
「図1に示されているように、操作部材21はモータ16の給電回路24に直列に接続されている可変抵抗器23の摺動部22を制御し、操作部材21は待避端部位置からアクティブ端部位置までの範囲に亘って変化させることができ、待避端部位置では摺動部22が絶縁スタッド25上に待避しておりモータ16は停止状態にあり、アクティブ端部位置においては可変抵抗23は(回路から)はずれた状態であってモータ16の速度は最大となっている。操作部材21の中間位置はモータの開始速度と最大速度の間の速度に対応している。」(同3頁19行〜25行)
「設計においては、図2に示されるように、回転ドラム2の電気的制御に寄与する様々な要素を、回転ドラム2の機械的制御に寄与する部材を収容するケースと一体の同一ハウジング26内に纏めることもできる。」(同3頁26行〜28行)
「このようなリールでは電気的巻上制御により餌或いはルアー回収を、手動で行うよりも高速で行うことができる。また、回収速度をより迅速に切り替えることができる。」(同3頁35行〜4頁1行)
「釣りの種類やその時々の状況に応じて、釣り人は回転ドラムの制御方法を一方から他方へ簡単に且つ迅速に行うことが可能である。例えば、魚がかかると電気制御による回収を停止し、魚を疲れさせるために手動制御に切り替えることができる。」(同4頁2行〜5行)

甲第2号証には、次の事項が記載されている。
「(1)巻上げ速度を少なくとも二段階に変化させる速度切換えスイッチを有する電動リールにおいて、前記速度切換えスイッチは、電動リールの側面に設けられた操作レバーを有し、該操作レバーの回動によって巻上げ速度を切換えるものであることを特徴とする電動リール。」(明細書1頁5行〜11行)
「本考案は巻上げ速度を少なくとも二段階に変化させる速度切換えスイッチを有する電動リールであって、速度切換えスイッチは、電動リールの側面に設けられた操作レバーを有し、該操作レバーの回動によって巻上げ速度を切換えるものであることを特徴とするものである。このような特徴を有する本考案によれば、電動リールの側面に速度切換えスイッチの操作レバーが設けられるのでその操作レバーを片手で容易に操作することができる。従って魚の引上げ時に魚の種類や大きさ、引込強度等使用時の種々の状況に迅速に対応することが可能となり、操作性のよい使い易い電動リールとすることができる。」(同2頁11行〜3頁3行)
「これらの図において電動リール1の前方にはスプール2が設けられており、その右側部に道糸の巻上げ時に糸切れを防止するためのリールを逆転させて道糸を引き出す張力を調整するドラグ機構3が設けられる。そしてこの電動リール1の後方の図示しない内部にスプール2を駆動するモータが収納されており、前面パネルに自動巻取りと手動停止を切換える押しボタンスイッチ4,5が設けられ、更に動作状態を示す表示器6,7が設けられる。」(同3頁6行〜15行)
「さて本考案による電動リール1には、図示のようにリールの側部にモータの回転速度を高低二段に切換えるスイッチ8が設けられている。このスイッチ8は操作レバー9を有し、第2図に示すように所定角度を回動させて操作する回転スイッチとして構成されている。そして第3図に電動リール1の内部を示すようにスイッチ8の回転軸10に変速カム11が固定されており、この変速カム11が電動リール1内部のマイクロスイッチ12の可動片12aと接触している。」(同3頁15行〜4頁5行)
「このような電動スイッチ1(「電動リール1」の誤記と認める。)においては、道糸の長さの調整時や釣の対象とする魚の種類、大きさ、巻上げ時等の状態に応じて、側方の変速レバー9を回動してマイクロスイッチ12を動作させることによって迅速に巻上げ速度を切り換えることができ、使い易い電動リールとすることが可能である。」(同4頁10行〜16行)
「尚本実施例は速度切換えスイッチの軸にカムを設け、そのカムによってマイクロスイッチを切換えるようにしているが、ロータリースイッチ等他の種類のスイッチを設け、操作レバーの所定の回転によって速度を切換えるようにすることも可能である。」(同4頁17行〜5頁2行)
電動リールの立面図を示す第1図及び側面図を示す第2図に、回転軸10の周りの表示板に示された「LOW」と「HIGH」の間を切換操作するように電動リール1の側面に装着されたスイッチ8及びその操作レバー9が記載されている。
なお、スプール2を回転駆動するための手動用ハンドルについては、甲第2号証の明細書にも、また甲第2号証に添付された、電動リールの立面図、同側面図、電動リールの右側板の内面を示す部分断面図を示す各図面にも記載されてなく、その示唆もない。

4.判断
(1)対比
甲第1号証には、前記「五、当審の判断」の「3.各証拠方法の記載事項」の欄における甲第1号証についての摘記事項からみて、「リール本体のハウジング26の前部に固定スプール1と同軸に配置されて回転可能に軸支され、釣糸Fを巻き取るピックアップ3を有する回転ドラム2と、該回転ドラム2を回転駆動する電気モータ16と、前記回転ドラム2を回転させるハンドル4と、前記回転ドラム2の回転により釣糸Fが巻回される固定スプール1とを備え、前記回転ドラム2を駆動する電気モータ16のモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記ハウジング26に設けた固定スプール魚釣用リールに於て、前記ハウジング26のハンドル4側に一つのレバー形態からなる電気モータ16の出力を調節する操作部材21を摺動可能に装着すると共に、前記操作部材21は、摺動操作により待避端部位置からアクティブ端部位置までの範囲に亘って変化可能であり、電気モータ16のモータ出力を可変抵抗器23の全負荷抵抗位置から0負荷抵抗位置まで連続的に増減させる絶縁スタッド25及び可変抵抗器23からなるモータ出力調節手段を設け、前記操作部材21の摺動操作量に応じて、前記電気モータ16が停止状態から最大速度まで連続的に制御可能とした固定スプール魚釣用リール」が記載されていることが認められる。
ここで、本件発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「電気モータ16のモータ出力を調節するモータ出力調節体」「ハウジング26」「魚釣用リール」「一つのレバー形態からなる電気モータ16の出力を調節する操作部材21」「上記操作部材21の摺動操作で電気モータ16のモータ出力を可変抵抗器23の全負荷抵抗位置から0負荷抵抗位置まで連続的に増減させる絶縁スタッド25及び可変抵抗器23からなるモータ出力調節手段」「上記操作部材21の摺動操作量に応じて、前記電気モータ16が停止状態から最大速度まで連続的に制御可能」が、本件発明の「モータ出力を調節するモータ出力調節体」「リール本体」「魚釣用電動リール」「一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバー」「モータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段」「駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能」にそれぞれ相当することは明らかである。
しかして、甲第1号証に、「キャスティング時にスプールから釣糸が引き出されていくときにスプールが静止状態にある」(甲第1号証の1、1頁8行〜10行)及び「一方、回転ドラム2は固定スプール1と同軸上にあり、ピックアップ3の支持部材としての役割を果たすと同時に、キャスト後に釣糸を巻き上げる時、釣糸Fを固定スプール1に確実に巻回するためのものである。」(同2頁10行〜12行)の記載のあることが認められる。
これらの記載によれば、甲第1号証記載のいわゆるスピニングリールでは、キャスティング時も、キャスト後の釣糸を巻き上げる時にも、固定スプール1というものが常に非回転の静止状態にあり、釣糸Fの巻き取りの時は、固定スプール1の周りを回転する回転ドラム2をハンドル4の回転操作によって、或いは、電動式の場合には電気モータ16の回転駆動によって回転駆動させて、固定スプール1の周囲に釣糸Fを巻き取るものであるから、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールの固定スプール1が、ハンドル4を操作しても、或いは、電気モータ16を駆動しても、固定スプール1が回転しないことは、明らかである。
したがって、甲第1号証記載の発明の「回転ドラム2の回転により釣糸Fが巻回される固定スプール1」「回転ドラム2を回転させるハンドル4」「スプールを回転駆動するスプール駆動モータ」のそれぞれを、本件発明の「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプール」「スプールを回転駆動する手動用ハンドル」「スプールを回転駆動するスプール駆動モータ」に相当するものとすることはできない。

(2)一致点・相違点
そうしてみると、本件発明と甲第1号証記載の発明とは「モータ出力を調節するモータ出力調節体をリール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの操作で駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの操作量に応じて、前記駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とした魚釣用電動リール」である点で一致し、両者は次の点で相違する。
[相違点1]:本件発明が「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え」るのに対し、甲第1号証記載の発明は、「リール本体のハウジング26の前部に固定スプール1と同軸に配置されて回転可能に軸支され、釣糸Fを巻き取るピックアップ3を有する回転ドラム2と、該回転ドラム2を回転駆動する電気モータ16と、前記回転ドラム2を回転させるハンドル4と、前記回転ドラム2の回転により釣糸Fが巻回される固定スプール1とを備え」るものである点。
[相違点2]:一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを、本件発明が「上記リール本体のハンドル側に所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着する」のに対し、甲第1号証記載の発明は、前記モータ出力調節レバー(操作部材21)を上記リール本体(ハウジング26)のハンドル側に装着するものではあるが、本件発明のように「所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着する」ものか否か明確でなく不明である点。
[相違点3]:本件発明が「上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とした」のに対し、甲第1号証記載の発明は、モータ出力調節レバーの操作量に応じて、駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたものではあるが、モータ出力調節レバーの操作量が、本件発明のような「前後方向への回転操作量」であるか否か明確でなく不明である点。

(3)相違点についての検討
つぎに、上記の[相違点1]ないし[相違点3]について検討する。
[相違点1]について
前記「五、当審の判断」の「3.各証拠方法の記載事項」の欄における甲第2号証についての摘記事項からみて、甲第2号証に「電動リール1の左右側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプール2を回転駆動するモータ13を備え、該モータ13のモータ出力を少なくとも高低二段階に切換える速度切換えスイッチ8を前記電動リール1に設けた電動リールに於て、上記電動リール1の右側面に、一つのレバー形態からなる操作レバー9を所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記電動リール1内に上記操作レバー9の前後方向の回転操作でモータ13のモータ出力を少なくとも高低二段に切換える変速カム11を設け、上記操作レバー9の前後方向への切換え操作に応じて、前記モータ13のモータ出力を少なくとも高低二段に切換え可能とした電動リール」の記載されていることが認められる。
しかして、甲第2号証には、電動リール1(本件発明の「魚釣用電動リール」に相当する。)の左右側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプール2(本件発明の「スプール」に相当する。)を回転駆動するモータ13(本件発明の「スプール駆動モータ」に相当する。)を備えることは記載されているが、電動リール1が、回転可能に支持されたスプール2を回転駆動するモータ13の他に、該スプール2を回転駆動するための手動用ハンドルを具備することについては、甲第2号証にまったく記載がなく、また示唆すらない。
そうしてみると、甲第2号証には、本件発明の「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動するスプール駆動モータを備え」の構成は記載されているが、本件発明の前提となる構成であるところの上記[相違点1]に係る構成のうちの「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドル」の構成は、まったく記載されていない。

[相違点2]について
甲第2号証には、前述のとおり、巻上げ速度を少なくとも二段階に変化させる速度切換えスイッチ8(本件発明の「モータ出力調節体」に相当する。)を有する電動リール1の右側面に、一つの操作レバー9(本件発明の「一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバー」に相当する。)が所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着され、上記電動リール1内に上記操作レバー9の前後方向の回転操作でモータ13のモータ出力を少なくとも高低二段階に切換える変速カム11を設け、上記操作レバー9の前後方向への切換え操作に応じて、前記モータ13のモータ出力を少なくとも高低二段階に切換え可能とした電動リール1、が記載されているから、本件発明の上記[相違点2]に係る構成のうちの「リール本体に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着する」ことが、本件発明の出願前に公知であったことが認められる。
しかしながら、前述のように、甲第2号証記載の発明がスプール2を回転駆動する手動用ハンドルを具備していない電動リール1であることを斟酌すれば、甲第2号証記載の操作レバー9が装着してある「電動リール1の右側面」なる操作レバー9の装着位置を、魚釣用電動リールのモータ出力調節レバーの装着位置とスプールを回転駆動する手動用ハンドルの取付位置との関係において、モータ出力調節レバーの回転操作と手動用ハンドルの回転操作との複合操作の容易性の観点から、一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーが装着される本件発明の「上記リール本体のハンドル側」と関連づけることができないから、両者間において、魚釣用電動リールのモータ出力調節レバーの装着位置が、単に「互いに同じく、電動リールの右側の位置にある」という理由のみで、甲第2号証の前記「電動リール1の右側面」を本件発明の前記「上記リール本体のハンドル側」と同等の、魚釣用電動リールのモータ出力調節レバーの装着位置に相当する、と考えることはできない。
したがって、甲第2号証には、本件発明の[相違点2]に係る構成の前提となる「一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを、上記リール本体のハンドル側に装着する」構成が記載されていない。

[相違点3]について
甲第2号証には、前述のとおり「上記電動リール1の右側に一つのレバー形態からなる操作レバー9を所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記電動リール1内に上記操作レバー9の前後方向の回転操作でモータ13のモータ出力を少なくとも高低二段階に切換える変速カム11(本件発明の「モータ出力調節手段」に相当する。)を設け、上記操作レバー9の前後方向への切換え操作に応じて、前記モータ13のモータ出力を少なくとも高低二段階に切換え可能とした電動リール」が記載されているから、甲第2号証記載の発明は「上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力を巻上げ速度がLOW又はHIGHの不連続的な少なくとも高低二段階に切換えるモータ出力調節手段を設け、モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作に応じて、モータ出力を制御可能とした構成の電動リール」であるということができる。
そうしてみると、甲第2号証には、本件発明の[相違点3]に係る構成のうちの「上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力を制御可能とした」構成が記載されているということができる。
しかしながら、甲第2号証記載の電動リールのモータ出力の制御は、本件発明のように、モータ出力調節レバーの前後方向への連続する回転操作の変化量に応じて、モータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としているのではなく、不連続的に離間するLOW又はHIGHという少なくとも高低の二段階の間を操作レバー9を回転操作して不連続に切換えることにより巻上げ速度を切換スイッチする制御であるから、甲第2号証には、本件発明の[相違点3]に係る構成のうちの「モータ出力調節レバーの連続する操作変化量に応じて、モータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とする」構成が記載されていない。

(4)まとめ
(4-1)そうしてみると、甲第1号証には、本件発明の[相違点1][相違点2]及び[相違点3]に係る構成が記載されてなく、また、甲第2号証には、本件発明の前提となる構成であるところの[相違点1]に係る構成のうちの「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドル」の構成が記載されてなく、しかも、本件発明の[相違点2]に係る構成の前提となる「一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを、上記リール本体のハンドル側に装着する」構成、及び本件発明の[相違点3]に係る構成のうちの「モータ出力調節レバーの連続する操作変化量に応じて、モータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とする」構成も記載されていない。
そして、本件発明は、請求項1に記載の特定事項により、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明からは予測できない、本件特許明細書に記載の「本発明によれば、リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着しているため、手を大きくずらすことなく、手動巻取りと自動巻取りの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が容易に行えるようになる。また、上記したような出力調節レバーは、前後方向への回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減変更することができるため、ハリス強度、対象魚、魚の大小及びヒット数、潮流、波等を考慮し乍ら、釣人は、巻取り操作時にリール本体から手を大きくずらすことなく、手の指で無理なく釣場の状況に応じて回転操作量を適宜調節してモータ出力を停止したり、増減調節が簡単に行えるようになり、従来の魚釣用電動リールに比べて釣糸の巻上げ操作性が飛躍的に向上する。」という格別の作用効果を奏することができるものである。

(4-2)ところで、甲第1号証に、「電気モータ16は携帯用電源17(バッテリ又は蓄電池)から電力供給を受け、ステップダウン装置により回転ドラムと接続されている。ここにはフリーホイール等が介在し、モータ16の停止時に手動ハンドル4の操作による回転ドラムの駆動を可能にしている。」(甲第1号証の1、2頁28行〜31行)、「なお、上述した爪9付フリーホイールは、手動ハンドル4の操作が停止した時に電気モータ16による回転ドラム2の駆動を可能にしている。」(同3頁2行〜3行)、及び「釣りの種類やその時々の状況に応じて、釣り人は回転ドラムの制御方法を一方から他方へ簡単に且つ迅速に行うことが可能である。例えば、魚がかかると電気制御による回収を停止し、魚を疲れさせるために手動制御に切り替えることができる。」(同4頁2行〜5行)の記載のあることが認められる。
これらの記載から明らかなように、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールは、電気モータ16による回転ドラム2の回転駆動中は、ハンドル4により回転ドラム2を回転させることができないものであるから、電気モータ16の回転駆動中にハンドル4を回転操作することにより、回転ドラム2を回転駆動させる、回転ドラム2の追い巻き操作をすることはできない。また、反対に、ハンドル4による回転ドラム2の回転操作中は、電気モータ16による回転ドラム2の電動駆動もできないから、一旦手動制御から電気制御に切り替えなければ、電気モータ16の出力調整の目的で、ハンドル4を操作しながら操作部材21の摺動操作をすることはできない。
したがって、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールは、電気モータ16による回転ドラム2の回転駆動と、ハンドル4による回転ドラム2の回転駆動との同時使用はできず、電気制御と手動制御とを切り替えて使用するものであるから、回転ドラム2を追い巻き操作をするために、電気モータ16の回転駆動中にハンドル4を回転操作して回転ドラム2を回転駆動させたり、或いは、ハンドル4の回転操作中に電気モータ16の出力を変化させるために操作部材21の位置を摺動操作したりする複合操作はできないものである。そして、甲第1号証に、本件発明の「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リール」の構成、「上記リール本体のハンドル側に所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着する」構成、及び「上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とした」の構成も記載されてないから、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールは、本件発明のように「手を大きくずらすことなく、手動巻取りと自動巻取りの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が容易に行えるようになる。」という効果を奏し得ない。

(4-3)また、甲第2号証記載の電動リールは、手動用ハンドルを具備していないことのためにモータ13の回転駆動によりスプール2を回転させながらハンドルの回転操作によりスプール2を追い巻き操作をする複合操作は、もとより不可能であることが明らかであるから、甲第2号証記載の電動リールも、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールと同じく、モータ13の回転駆動中にハンドルの回転操作によるスプール2の追い巻き操作の複合操作をすることができない。
そして、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも、本件発明の「操作性に優れ、而も、様々な巻上げ条件に対応して、スプールの巻上げ速度を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に調整可能とすることにより、釣糸の巻上げ性能の向上を図った魚釣用電動リールを提供すること」という発明の課題が示唆すらされていないから、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用することの起因又は契機となるもの(動機づけ)を、甲第1号証或いは甲第2号証に見い出すことができない。
そうしてみると、甲第1号証及び甲第2号証には、本件発明の構成の一部が単に個々に記載されているものというほかなく、しかも甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用できる蓋然性が認められない。また、仮に適用できるとしたとしても、甲第1号証及び甲第2号証には本件発明の一部が個々に記載されているだけであるから、甲第1号証及び甲第2号証のそれぞれ記載の発明から本件発明を得ることはできない。

(4-4)以上のとおりであるから、「本件発明特許は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」という請求人の主張は、採用できない。

5.請求人の主張について
(a)請求人は、審判請求書6頁9行〜6頁13行において、「本件特許発明の構成要件であるスプール、手動用ハンドル、スプール駆動モータ及びモータ出力調節レバーはそれぞれ甲第1号証に記載の固定スプール1,ハンドル4,電気モータ16及び操作部材21に相当する。また、本件特許発明のモータ出力調節手段は甲第1号証の摺動部22及び絶縁スタッド25と可変抵抗器23に相当する。」と認定している。
しかしながら、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールの固定スプール1は、電気モータ16による電動駆動によっても或いはハンドル4による手動操作によっても回転しないことが明らかであるから、甲第1号証記載の発明の「回転ドラム2の回転により釣糸Fが巻回される固定スプール1」「回転ドラム2を回転させるハンドル4」「回転ドラム2を回転駆動する電気モータ16」のそれぞれを、本件発明の「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプール」「スプールを回転駆動する手動用ハンドル」「スプールを回転駆動するスプール駆動モータ」に相当するものとすることができないことは、前記「3.判断」の「(1)対比」の欄に前述したとおりである。
したがって、請求人の「本件特許発明の構成要件であるスプール、手動用ハンドル、スプール駆動モータはそれぞれ甲第1号証に記載の固定スプール1,ハンドル4,電気モータ16に相当する。」という認定は、誤りである。

(b)請求人は、審判請求書9頁4行〜9頁10行において、「構造上甲第1号証に記載の魚釣用リールにおいても複合操作が可能であり、更に、『この操作部材21をハンドル4の近傍に配置するのが望ましい。そうすることにより釣り人は操作部材を一方向にあるいはそれとは逆の方向にハンドル4から手を離すことなく操作することができる。』(甲第1号証の1、3頁、10乃至13行)とあり、この記載は本件特許発明の効果として説明されている『手を大きくずらすことなく複合操作を容易に行える』ことを示唆したものである。」と主張する。
しかしながら、前記「五、当審の判断」の「4.判断」の「(4)まとめ」の「(4-2)」の欄で述べたとおり、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールは、電気制御と手動制御とを切り替えて使用するものであるから、電気モータ16による回転ドラム2の回転駆動中は、ハンドル4により回転ドラム2を回転させることができないものであり、また、ハンドル4の回転操作中に電気モータ16の出力を変化させるために操作部材21の位置を摺動操作することもできないものであるから、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールは、電気モータ16の回転駆動中にハンドル4も回転操作するという追い巻き操作をしたり、或いは、ハンドル4の回転操作中に電気モータ16も回転駆動させるための操作部材21を摺動操作をしたりする複合操作はできないものである。
してみると、請求人の「構造上甲第1号証に記載の魚釣用リールにおいても複合操作が可能であり」の主張は、甲第1号証の記載に基づかない主張であるから、根拠がなく失当である。

(c)請求人は、審判請求書8頁20〜8頁24行において、「スプールが回転して釣糸をスプール上に巻回するか、あるいは固定スプールに対して回転ドラムを回転して釣糸を固定スプールへ巻回するかは、釣糸の巻き取りという機能に着目すれば等価であり、またいずれの方法も本件特許発明の拒絶理由通知書にて引用された特開昭50-142387号等を挙げるまでもなく周知であるから、この点は本質的相違点ではない。」と主張する。

(c-1)しかしながら、電動駆動によっても手動操作によっても回転することがない甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールの固定スプール1を、本件発明のような両軸受けリールのスプールと同じように、電気モータ16により回転駆動させようとするならば、動力伝達の機構上の要請からどうしても回転ドラム2とピックアップ3とを釣人が手で把持固定しておくことが必要となる。そのとき、回転ドラム2を回転させようとする電気モータ16の回転駆動力の反作用力により、回転ドラム2の本来の回転方向とは反対の方向に、固定スプール1がハウジング26と共に一体となって回転することになり、また、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールを装着した釣竿までもが、固定スプール1を中心にしてハウジング26と共に回転することになる。しかも、このときの固定スプール魚釣用リールのハンドル4の動きに着目すると、ハンドル4がハウジング26側に取り付けられていることにより、ハンドル4がハウジング26と共に回転ドラム2の軸8を中心にしてその周りを回転すると共に、固定スプール1とハンドル4とは相互に連動しているから、ハンドル4自体もハンドル軸の周りを回転することになる。
したがって、甲第1号証記載の固定スプール1を電気モータ16により回転駆動させようとするならば、釣人は、固定スプール1を中心にしてハウジング26と共に回転する釣竿をかわしながら、そして、固定スプール1と連動して回転するハンドル4の回転もかわしながら、回転ドラム2とピックアップ3とを把持固定しておかなければならないことになる。
そうすると、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールが、本件発明の前提となる「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、」の条件を満足するような事態は、物理的にも人間工学的にもきわめて困難なことであることが明白であるから、あり得ないことである。
そうしてみると、甲第1号証記載のようなスピニングリールの固定スプールと、甲第2号証記載のような両軸受けリールの回転スプールとは、互いにスプールの動作に関して機構上の互換性はないから、スピニングリールと両軸受けリールとは同等のもの、等価のものということはできない。
したがって、請求人の「スプールが回転して釣糸をスプール上に巻回するか、あるいは固定スプールに対して回転ドラムを回転して釣糸を固定スプールへ巻回するかは釣糸の巻き取りという機能において等価であり、」という主張は、採用できない。
そうすると、スプールが回転して釣糸をスプール上に巻回する両軸受けリールと、固定スプールに対して回転ドラムを回転して釣糸を固定スプールへ巻回するスピニングリールのそれぞれが、本件発明の出願前に周知のものであるとしても、甲第1号証記載のようなスピニングリールに、甲第2号証記載のような両軸受けリールを適用するということは、もとよりあり得ないことである。

(c-2)また、請求人は周知例として、特開昭50-142387号を提示しているが、該周知例は、両軸受けリールのハンドル3側のモーター5の側面に一体的に、モーター5の回転速度を調節するポテンショメータの可変抵抗器16を操作するツマミ17が回動自在に装着され、前記ポテンショメータからなる回路には、回路をON、OFFするスイッチボタン18が可変抵抗器16に直列に接続されていて、しかも、ハンドル3の操作により電動から手動へ自動的に瞬間的に切り換わる電動リールである。
しかして、上記周知例は、本件発明の「一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着する」点、「上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段」の点、及び「上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたこと」の構成を具備してない。また、上記周知例は、上記のとおりの構成であるから、ハンドル3の操作により電動から手動へ自動的に瞬間的に切り換わってしまい、手動制御と電動制御とを同時に操作する複合操作ができない;また、スイッチボタン18をONにしなければ、可変抵抗器16を操作するツマミ17によるモーター5の回転速度を調節することができないから、2段階操作を要求される;そして、可変抵抗器16を操作するツマミ17が一つのレバーの形態ではないから、2本指で摘んで操作することが要求される、というものである。
したがって、上記周知例は、本件発明とは構成、及び作用効果において大きく相違するものであるから、上記周知例の存在を考慮に入れたとしても、当業者が、甲第1号証、甲第2号証及び前記周知例に基づいて本件発明を容易に発明をすることができたとすることはできない。
そうしてみると、上記周知例は、本件発明の個々の構成の一部を示すものであって、単に両軸受けリールが周知のものであることを示すものに過ぎない。

(d)請求人は、審判請求書8頁14行〜9頁12行において、「以上の通り、本件特許発明では、スプールが回転することで釣糸を巻回するのに対して、甲第1号証では、固定スプールに対して同軸上の回転ドラムを回転することにより釣糸を巻回している点で両者は相違している。また、甲第1号証には操作部材21の回転方向が前後方向に向くようにするとの記載はない。上記の点を除けば本件特許発明と甲第1号証に記載された魚釣用リールは同一である。・・・しかしながら、甲第2号証の第2図には、操作レバー9を所定角度に亘って前後方向に回転可能に装着した例が示されている。・・・従って、当業者であれば、ハンドル4と操作部材21の操作の容易性に配慮し、甲第2号証に記載の構成を採用することは容易に考え得る事項である。」と主張する。
しかしながら、スピニングリールの固定スプールと、両軸受けリールの回転スプールとが、スプールの動作に関して機構上の互換性はなく、かつ、甲第1号証及び甲第2号証には、本件発明の課題について示唆すらなく、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用する起因又は契機となるもの(動機づけ)を、甲第1号証或いは甲第2号証に見い出すことができないことは、前記(a)、(b)及び(c)に前述したとおりであるから、甲第2号証に「操作レバー9を所定角度に亘って前後方向に回転可能に装着した例」が示されているとしても、当業者は、甲第1号証記載のようなスピニングリールに甲第2号証記載のような両軸受けリールを適用することを想起することすらしないというべきである。
そうすると、甲第1号証及び甲第2号証には、本件発明の構成の一部が単に個々に記載されているものというほかなく、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用できる蓋然性が認められない。また、仮に適用できたとしても、甲第1号証及び甲第2号証には本件発明の一部が記載されているだけであるから、本件発明を得ることはできない。
さらにまた、甲第1号証と甲第2号証とを逆にして主引用例を入れ替えてみても、スピニングリールの固定スプールと両軸受けリールの回転スプールとの関係が、スプールの動作に関して機構上の互換性がない関係であることは同じであるから、やはり甲第2号証記載の両軸受けリールに、甲第1号証記載のスピニングリールを適用するということも、もとよりあり得ないことである。
以上のとおりであるから、請求人の「当業者であれば、ハンドル4と操作部材21の操作の容易性に配慮し、甲第2号証に記載の構成を採用することは容易に考え得る事項である。」という主張を、採用することはできない。

(e)請求人は、審判事件弁駁書4頁6行〜13行において、「進歩性の有無を問題にする上では、モータ出力調整操作が可能か不可能かではなく、甲第1号証に記載の構成に基づき本件特許発明の構成を容易に案出できるか否かである。従って、仮に、被請求人が主張するように、甲第1号証に記載の構成では、ハウジングの両側を把持した状態でのモータ出力調整操作が不可能であるとしても、甲第1号証の記載を参照することで、ハウジングの両側を把持した状態でのモータ出力調整操作を可能とする構成を容易に案出することができれば、進歩性はないということになる。」と主張する。
しかしながら、いわゆるスピニングリールタイプであって、電気モータ16の回転駆動或いはハンドル4の回転操作による回転ドラム2の回転に基づき、釣糸Fを掛けたピックアップ3を固定スプール1の周りに回転ドラム2とともに回転させて釣糸Fを巻き取っていく甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールと、いわゆる両軸受けリールタイプであって、スプール2を専らモータ13の回転駆動により回転させ、ハンドルがないためにハンドルの操作ではスプール2を回転させることができない甲第2号証記載の電動リールとは、魚釣用リール本体を把持固定しながらのモータ駆動とハンドル操作とによるスプールの動作に関して、前述のように機構上の互換性がないので、当業者と雖も、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールに甲第2号証記載の電動リールを適用することを想起することは困難であるから、スプールの一方を他方に置換することが、当業者が容易にできる設計変更であるということができず、しかも、甲第1号証には、本件発明の「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リール」の構成が記載されてなく、また甲第2号証にも、本件発明の「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドル」の構成が記載されてないから、甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リールに、甲第2号証記載の電動リールが適用できると仮定した場合であっても、その結果として得られる発明は、ハウジング26のハンドル4側にレバー形態からなる操作部材21が所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着されたスピニングリールであって、本件発明のような両軸受けリールが得られるわけではない。
そして、前述したとおり、本件発明は、前記構成により、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明からは予測できない、本件特許明細書に記載の格別の作用効果を奏することができるものである。
したがって、いずれにしても、本件発明は甲第1号証記載の固定スプール魚釣用リール及び甲第2号証記載の電動リールに基いて当業者が容易に発明をすることができたもの、ということができない。
以上のとおりであるから、請求人の「甲第1号証の記載を参照することで、ハウジングの両側を把持した状態でのモータ出力調整操作を可能とする構成を容易に案出することができれば、進歩性はないということになる。」という主張は、採用できない。

(f)請求人は、審判事件弁駁書6頁10行〜11行において、提示した実開平3-71767号公報及び実開平3-71768号公報の参考資料をもとにして「モータ出力調整レバーを前後方向に回転操作できるようにした構成が従来より広く知られていた」と主張する。
しかしながら、前記参考資料に記載の釣り用リールの制御装置は、いずれも、モータ出力調整用の操作具11を前後方向に摺動操作することにより、スプールを回転させるスプール駆動モータの回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換えるようにした変速用スライドスイッチに過ぎないものであって、本件発明のように、モータ出力調整レバーを前後方向に回転可能にした構成ではない。
したがって、請求人は、本件発明の回転可能なモータ出力調整レバーと、参考資料に記載の高・中・低の3速に選択的に切り換えるようにした摺動可能な変速用スライドスイッチとを同一のものとして混同しているものであるから、前記参考資料に基づいて、請求人の「モータ出力調整レバーを前後方向に回転操作できるようにした構成が従来より広く知られていた」とする主張は、採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
魚釣用電動リール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、
上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、釣糸の巻上げ操作性の向上を図った魚釣用電動リールに関する。
【0002】
【従来の技術】
スプールを回転させるスプール駆動モータの回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチを設けて、釣糸の巻上げ速度を3段階に変速可能とした魚釣用電動リールが、特開平3-119941号公報に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
然し、この魚釣用電動リールは、スライドスイッチの変速設定位置(高・中・低)の夫々の位置でのモータ駆動であるため、魚の種類や大きさ、一回にかかった魚の数、仕掛けの強さ等の条件に対し、スプールを任意の巻上げ速度に調節することができず、電動リールを駆使した実用的な魚釣操作が行えない欠点が指摘されている。
【0004】
又、上記魚釣用電動リールは、高・中・低の夫々の切換え時に釣糸の巻上げ速度が急激に変化するので、魚をバラしたり仕掛けを切断したり、或いは魚層変更の際に餌を不意に仕掛け針から落としてしまう等、巻上げに係わる様々な条件に対応した巻上げ操作ができない欠点があった。而も、スライドスイッチは、あくまで釣糸の巻上げ速度を3段階に変速させるだけであって、スプール駆動モータを巻上げ停止状態とする機能はなく、そのため、釣糸の巻上げ時にスプール駆動モータを停止させるには、リール本体を保持している手をずらして、操作パネル上に別途設けたメインスイッチを親指等を操作しなければならないため、操作性が良好なものとはいえなかった。
【0005】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、操作性に優れ、而も、様々な巻上げ条件に対応して、スプールの巻上げ速度を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に調整可能とすることにより、釣糸の巻上げ性能の向上を図った魚釣用電動リールを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するため、本発明は、リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたものである。
【0007】
【作用】
本発明によれば、リール本体に装着した一つのモータ出力調節レバーをリール本体の前後方向へ回転操作すると、その操作量に応じてスプール駆動モータのモータ出力が連続的に増減して、スプールの巻上げ速度が巻上げ停止状態から最大値まで変化することとなる。そして、モータ出力調節レバーの操作は、釣人がリール本体の両側部を保持した状態のまま、手をずらすことなく行うことが可能である。
【0008】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る魚釣用電動リールの平面図を示し、図に於て、1はリール本体、3,5はリール本体1の左右両側に固着したリール側枠、7は釣糸9を巻回したスプールで、当該スプール7は、その一端が図示しないブラケットを介してリール本体1に回転可能に支持され、又、その他端はこれに固定したブラケット11と、リール本体1に取り付けたセットプレート13の軸受15によって回転可能に支持されている。
【0009】
17はスプール7内に軸線を一致させて配置したスプール駆動モータ(以下「モータ」という)で、当該モータ17の回転軸17aとスプール7間は、従来の魚釣用電動リールと同様、スプール7内に設けた減速歯車機構19により互いに連結されて、モータ17の回転をスプール7に伝達できるようになっている。又、減速歯車機構19を構成するギヤキャリィ21のボス部21aは、スプール7を支持するブラケット11のボス11a内に相対回転可能に嵌合されている。
【0010】
23はスプール巻上げ用の手動ハンドルで、当該手動ハンドル23も、従来と同様、セットプレート13に回転可能に取り付けたハンドル軸25のリール側枠5外突出端に連結されている。そして、ハンドル軸25にはスプール逆転止め用爪車27がリール側枠5内で固着され、更にドライブギヤ29が回転可能に取り付けられている。又、ドライブギヤ29とハンドル軸25間は、ハンドル軸25にセットしたドライブ装置31により摩擦結合され、これによって手動ハンドル23の回転をドライブギヤ29に伝達できるようになっている。
【0011】
そして、図中、33は上記ドライブギヤ39に噛合するピニオンギヤで、当該ピニオンギヤ33はスプール7の軸線上に於て、上記ギヤキャリィ21のボス部21aの中心とリール側枠5間に横架状態に支持したピニオン軸35に回転可能且つその軸方向へ移動可能に支持されており、ピニオンギヤ29とこれに対向するギヤキャリィ21のボス部21a間には、モータ17からスプール7への巻取り動力を伝達又は遮断させるクラッチ板37が設けられている。
【0012】
而して、本実施例に係る魚釣用電動リールは、上述の如き構造に加えて、リール本体1の右側部前方に、実釣時に釣人がリール本体1の両側部を両手で保持した状態のまま、右手の親指と人差し指で操作可能な一つのモータ出力調節レバー(以下「レバー」という)39を約120°の範囲に亘ってリール本体1の前後方向へ回転可能に装着すると共に、モータ17の出力調節手段として回転形のポテンショメータ41をレバー39に連結して、当該レバー39の回転操作でモータ17の出力を巻上げ停止状態(オフ状態)から最大値まで連続的に増減変更させるようにしたものである。
【0013】
即ち、周知のように、ポテンショメータ41は与えられた機械的変位でブラシを動かし、固定した抵抗体の上を摺動させ、その抵抗値を変化させることによってブラシの位置に対応する電圧を取り出すものである。そこで、本実施例は、上記レバー39をポテンショメータ41に連結し、レバー39の回転操作によってポテンショメータ41内のブラシの位置を変化させるようになっている。そして、図2に示すように当該レバー39の作動によるポテンショメータ41の抵抗値の変化を制御回路43に入力し、レバー39の操作量に応じたパルス信号のデューテー比としてモータ17への駆動電流通電時間率を当該制御回路43で可変制御して、モータ17の回転を巻上げ停止状態から最大値(0〜100%)まで連続して増減変更できるようになっている。
【0014】
又、図1に於て、45は上記制御回路43を収納する制御ユニットで、当該制御ユニット45はリール側枠3,5と一体構造の水密収納部47内に装着されてリール本体1に組み付けられている。そして、制御ユニット45の操作パネル49上には、モータ17のON/OFFスイッチ51やデジタル表示部53が配設されている。而して、デジタル表示部53には、レバー39の操作によるモータ出力を表示する表示器55が設けられており、モータ出力の調節に応じて当該表示器55のバー表示量の目盛りが、“0”から“100”迄逐次変化するようになっている。そして、上記ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力で釣糸9の巻上げが開始され、以後はレバー39の操作に応じてモータ17の出力を連続的に制御できるようになっている。その他、図中、57はコネクタ59を介してリール本体1に接続された電源コードで、この電源コードを鰐口クリップ等により船上に配置したバッテリ等の直流電流に連続することで、モータ17や制御回路43が起動するようになっている。
【0015】
本実施例はこのように構成されているから、魚釣を行う場合は、リール本体1にコネクタ59を介して電源コード57を接続し、当該電源コード57を鰐口クリップ等により船上に配置したバッテリ等の直流電源に接続する。
【0016】
そして、魚の当たりがあった場合に、上記ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力でスプール7が回転して釣糸9が巻上げられるので、釣人は表示器55を確認し乍ら、釣糸9をゆっくり巻上げたい場合には、例えば表示器55のバー表示量の目盛りが“20”となるようにレバー39を操作し、魚の引きが強くてハリスが強い場合には、バー表示量の目盛りが“80”となるようにレバー39を操作する等、巻上げの状況に応じてレバー39を操作し乍らモータ17の出力を制御すれば、釣糸9は巻上げに最適なモータ速度で巻上げられることとなる。そして、巻上げを止めたい場合にはバー表示量の目盛りが“0”となるようにレバー39を戻せばよい。
【0017】
このように、本実施例に係る魚釣用電動リールによれば、ハリス強度,対象魚,魚の大小及びヒット数,潮流,波等を考慮し乍ら、モータ出力をリール本体1に装着した一つのレバー39で制御してスプール7の回転数を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減変更することができ、而も、釣人はリール本体1の両側部を両手で保持した状態のまま、右手をずらすことなく親指と人差し指でレバー39の操作が可能であるので、従来の魚釣用電動リールに比し釣糸9の巻上げ操作性が飛躍的に向上することとなった。
【0018】
尚、上記実施例は、レバー39の回転操作でモータ17のモータ出力を連続的に増減させるモータ出力調節手段としてポテンショメータ41を用いたが、これらに代えてボリュームスイッチやホール素子等を用いてもよく、斯かる構造によっても、上記実施例と同様、所期の目的を達成することが可能である。
【0019】
更に又、上記実施例では、ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力で釣糸9の巻上げが開始され、以後はレバー39の操作に応じてモータ17の出力を連続的に制御できるようにしたが、ON/OFFスイッチ51は省略してもよい。
【0020】
而して、この場合には、レバー39が電源スイッチを兼ねることになるので、安全性を考慮してレバー39を一度“0”の位置に戻してから、スプール7の巻上げが開始するように構成されている。
【0021】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着しているため、手を大きくずらすことなく、手動巻取りと自動巻取りの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が容易に行えるようになる。また、上記したような出力調節レバーは、前後方向への回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減変更することができるため、ハリス強度、対象魚、魚の大小及びヒット数、潮流、波等を考慮し乍ら、釣人は、巻取り操作時にリール本体から手を大きくずらすことなく、手の指で無理なく釣場の状況に応じて回転操作量を適宜調節してモータ出力を停止したり、増減調節が簡単に行えるようになり、従来の魚釣用電動リールに比べて釣糸の巻上げ操作性が飛躍的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例に係る魚針用電動リールの平面図である。
【図2】
図1に示す魚釣用電動リールの制御手段の概略構成図である。
【符号の説明】
17 リール本体
7 スプール
9 釣糸
17 モータ
39 レバー
41 ポテンショメータ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
[訂正a]
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】リール本体に回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。」を
特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。」と訂正する。
[訂正b]
特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】の
「【課題を解決するための手段】斯かる目的を達成するため、本発明は、リール本体に回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたものである。」を
明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【課題を解決するための手段】斯かる目的を達成するため、本発明は、リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたものである。」と訂正する。
審理終結日 2001-04-17 
結審通知日 2001-04-27 
審決日 2001-05-09 
出願番号 特願平3-324492
審決分類 P 1 112・ 121- YA (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 哲  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 佐藤 昭喜
吉村 尚
登録日 1999-09-10 
登録番号 特許第2977978号(P2977978)
発明の名称 魚釣用電動リール  
代理人 小泉 伸  
代理人 北澤 一浩  
代理人 中村 誠  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 坪井 淳  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  
代理人 市川 朗子  
代理人 坪井 淳  
代理人 風間 鉄也  
代理人 風間 鉄也  
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