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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない A21D 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない A21D |
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管理番号 | 1047717 |
審判番号 | 審判1999-35506 |
総通号数 | 24 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1990-05-17 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1999-09-17 |
確定日 | 2001-06-20 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2628902号発明「起泡性水中油型乳化脂」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件特許第2628902号は、昭和63年11月8日に特許出願され、平成9年4月18日に特許の設定登録がされた。 (2)請求人 明治乳業株式会社は、平成11年9月17日に無効審判を請求した。そして、当該無効審判において、甲第1〜7号証を提出し、本件特許発明は、甲第1〜5号証に記載された発明であるか、または、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張した。 (3) 被請求人 旭電化工業株式会社は、平成12年1月11日付けで訂正請求書を提出して、訂正明細書のとおり訂正することを求めた。 (4)請求人は、平成12年5月15日付け弁駁書において、たとえ今般の訂正によっても、本件特許発明は、甲第1〜5号証ないし甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張した。 (5)当審の合議体は、平成12年7月18日に口頭審理を実施して、両当事者の主張を整理した。 (6)被請求人は、平成12年8月2日付けで上申書を提出して、訂正後の本件特許発明は、甲第1〜5号証に記載された発明ではなく、また甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではないと主張し、新たに参考資料A(実験成績書)を提出した。 (7)当審の合議体は、平成12年9月27日付けで訂正拒絶理由を通知した。 (8)被請求人は、平成12年12月11日付け意見書において、訂正後の本件特許発明は、訂正拒絶理由に引用した刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、当該訂正は認められるべきであると主張し、新たに参考資料(テスト1〜3)を提出した。 (9)当審の合議体は、請求人に対して審尋を通知し、期間を指定して被請求人の提出した平成12年12月11日付け意見書及び参考資料(テスト1〜3)に対する意見を求めたが、請求人からは何らの応答もなかった。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 (a)明細書(特許異議申立てに係わる平成10年8月17日付け訂正請求書により一度訂正されている。)の特許請求の範囲の請求項1に記載の 「全乳化物に対して、30〜60重量%の油脂及び0.1〜1.2重量%の乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれた水溶性乳化剤1種以上と、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群より選ばれた油溶性乳化剤1種以上とからなり、且つそれらの重量比(前者:後者)が50:50〜95:5である、起泡性水中油型乳化脂。」を、 「全乳化物に対して、30〜60重量%の油脂及び0.1〜1.2重量%の乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた水溶性乳化剤1種以上と、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群より選ばれた油溶性乳化剤1種以上とからなり、且つそれらの重量比(前者:後者)が84:16〜95:5である、起泡性水中油型乳化脂。」と訂正する。 (b)明細書6頁11行の「及びショ糖脂肪酸エステル」を削除する。 (c)明細書6頁18行の「50:50〜95:5」を「84:16〜95:5」と訂正する。 (d)明細書9頁末行〜10頁1行の「及びショ糖脂肪酸エステル」を削除する。 (e)明細書10頁13〜15行の「水溶性乳化剤としてのショ糖脂肪酸エステルとはHLB7.0以上のものであり、」を削除する。 (f)明細書13頁2行の「とショ糖脂肪酸エステル」を削除する。 (g)明細書13頁7行の「50:50〜95:5」を「84:16〜95:5」と訂正する。 (h)明細書13頁8行の「50%以下」を「84%未満」と訂正する。 (i)明細書17頁16行、19頁14行、19頁19行、20頁14行、21頁4行、21頁18行にそれぞれ記載の「実施例1」を「参考例1」と訂正する。 (j)明細書19頁18行、20頁11行にそれぞれ記載の「実施例2」を「実施例1」と訂正する。 (k)明細書20頁13行、21頁1行にそれぞれ記載の「実施例3」を「参考例2」と訂正する。 (l)明細書19頁15行の「実施例2、3」を「実施例1、参考例2」と訂正する。 (m)明細書23頁の第2表中の「実施例1」を「参考例1」と、「実施例3」を「参考例2」と訂正する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記(a)の訂正は、水溶性乳化剤の群からショ糖脂肪酸エステルを削除すると共に、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤との重量比の下限を「50:50」から「84:16」に狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、上記(b)〜(m)の訂正は、上記(a)の特許請求の範囲の減縮 に伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合するようにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の実施例2には、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤との重量比を「84:16」にすることが記載されていることから、上記(a)〜(m)の訂正は、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ.独立特許要件 訂正後の本件特許発明は、後記の「3.特許無効についての判断」において述べたとおりの理由により、本件特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 エ.むすび したがって、上記訂正は、特許法第134条第2項及び第5項によって準用する同法第126条第2ー4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許無効についての判断 ア.本件特許発明 前述のとおり上記訂正が認められることから、本件特許に係る発明は、平成12年1月11日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「全乳化物に対して、30〜60重量%の油脂及び0.1〜1.2重量%の乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた水溶性乳化剤1種以上と、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群より選ばれた油溶性乳化剤1種以上とからなり、且つそれらの重量比(前者:後者)が84:16〜95:5である、起泡性水中油型乳化脂。」 イ.請求人の主張 請求人は、平成11年9月17日付け審判請求書において、「特許第2628902号の明細書の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、上記審判請求書において、下記の甲第1〜7号証を提出して、訂正前の本件特許発明は、甲第1〜5号証に記載された発明であるか、または、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。 記 甲第1号証 特開昭61ー25456号公報 甲第2号証 特開昭56ー21553号公報 甲第3号証 特公昭47ー24925号公報 甲第4号証 特公昭50ー11458号公報 甲第5号証 特開昭58ー149649号公報 甲第6号証 特公昭45ー29411号公報 甲第7号証 特公昭54ー32447号公報 ウ.甲各号証記載の発明 甲第1号証には、「すなわち、高HLBのショ糖脂肪酸エステルと水中油型乳化物の製品には従来ほとんど使用されていない範囲の低HLBのショ糖脂肪酸エステルを少量併用することにより、増粘又は固化を生じない安定な高脂肪含有の水中油型乳化物を製造する方法を見出した。」(2頁右上欄末行〜同左下欄5行)、「すなわち、油相成分を調製する場合は、そのHLBが6よりも小さいショ糖脂肪酸エステルを選択することを必要とし、水相成分を調製する場合はそのHLBが13以上のショ糖脂肪酸エステルを選択することを必要とする。」(3頁左下欄3行〜8行)、「実施例3 この実施例では最終製品中の油脂含量が51%(重量)の合成クリームを製造した。市販ヤシ水素添加油(太陽油脂社製、融点32℃)51Kgに低HLBのショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬製、HLB:2)0.02Kgを加え、80℃に加温し、撹拌しながら溶解し、同温度に保持して、油相成分を調製した。一方、脱脂乳48.54Kgに高HLBのショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬製、HLB:15)0.3Kg及びヘキサメタリン酸ナトリウム0.15Kgを加え、80℃に加温し、撹拌しながら溶解し、同温度に保持して、水相成分を調製した。以下実施例1と同一の方法で水中油型乳化物を得、試験1と同様の方法で粘度を測定した結果、粘度は432Cpであり、振とう試験の結果は良好で、安定であった。」(7頁右下欄7行〜8頁左上欄3行)、及び「合成クリームの水中油型乳化物において、40%(重量)よりも多量の油脂を含むにもかかわらず、粘度を高くすることなく、安定な水中油型乳化物を得ることができる。」(8頁左上欄5行〜8行)と記載されている。 甲第2号証には、油脂30〜50重量%、無脂乳固形分4〜7重量%、水66〜43重量%および乳化剤より成るクリーム状水中油型乳化脂であって、乳化剤として(A)レシチン、ソルビタン不飽和脂肪酸エステルより選ばれた1種以上と、(B)蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン飽和脂肪酸エステルより選ばれた1種以上とを含有してなる瞬間自動ホイッパー用クリーム状水中油型乳化脂が記載されている。(特許請求の範囲参照) 甲第3号証には、「上昇融点約5℃以上の各種天然及び合成動植物性の油脂、又は加工油脂に対して燐脂体を約0.05〜15%、ポリグリセロールの脂肪酸エステル約0.05〜14%の範囲内で添加混合し、しかる後に水溶液、好ましくは乳固形を含む水溶液と均質化して水中油型のエマルジョンとすることを特徴とする起泡性油脂組成物の製造法。」(特許請求の範囲)、及び「………、ポリグリセロールエステルを加へた場合、乳化体とした場合の粘度が著しく低下すると同時に乳化体の安定性が向上するのみならず、燐脂体単独に比してオーバーランが1.5〜10倍になる。これは食品としては重要なる性質である食感に影響し、このようにオーバーランが良くなることにより美味となり、食品としての価値が向上するのである。」(1頁2欄36行〜2頁3欄6行)と記載されている。 甲第4号証には、起泡性の調整高油分クリーム状組成物に関し「………、組成中の界面活性剤が親油性活性剤としてのレシチンと親水性活性剤としてのポリグリセロール脂肪酸エステル、………、蔗糖脂肪酸エステル、………の夫々単独又は混合物とから選択され、しかもそれら活性剤の含量が油脂に対し一定の範囲内にない限り、目的とする可塑化を防止し、しかも他の諸点でも実用価値を有するような合成クリームは得られないということである。……………、適当なレシチン及び親水性活性剤(混用の場合は混合物全体を総称)の量は、夫々クリーム状組成物中の含有油脂量に対し0.1〜3%の範囲内になければならない。」(4頁7欄4行〜8欄7行)と記載されている。 甲第5号証には、起泡性水中油型乳化クリーム状の製造に関し、水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル0.20%、ショ糖脂肪酸エステル0.12%、油溶性乳化剤としてグリセリンモノ脂肪酸エステル0.20%、ソルビタンモノ脂肪酸エステル0.20%使用する(実施例1)こと、及び水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル0.16%、油溶性乳化剤としてソルビタンモノ脂肪酸エステル0.18%、グルセリンモノ脂肪酸エステル0.15%使用する(実施例9)ことが記載されている。 甲第6号証には、長期間安定な食品改良用乳化剤組成物の製造に関し、親油性界面活性剤としてプロピレングリコール脂肪酸エステルを、親水性界面活性剤としてショ糖脂肪酸エステル等の糖類脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ヘキシット脂肪酸エステルのうち1種又は2種以上を使用することが記載されている。(2頁4欄17行〜30行、5〜6頁の特許請求の範囲) 甲第7号証には、親水性乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル、及び親油性乳化剤としてプロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルのうち1種以上を併用することにより、保型性、キメ、ともに良好であり水への分散性も優れている水中油型乳化油脂組成物が得られることが記載され、さらに親水性乳化剤と新油性乳化剤の使用比率(前者:後者)を50:50、63:37、75:25にすることが実施例1、2、3にそれぞれ記載されている。 エ.対比・判断 <29条1項3号違反について> 甲第1号証及び甲第2号証には、油脂及び乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が水溶性乳化剤と油溶性乳化剤とからなる起泡性水中油型乳化脂が記載され、さらに全乳化物に対する油脂及び乳化剤の含有量、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤の使用比率についても、本件特許発明で規定するそれらの数値範囲と重複するものが示されているが、これら刊行物には、水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することについては何も記載されていない。 甲第3〜5号証には、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤を併用して起泡性水中油型乳化脂を製造する際に、水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することが記載されているが、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤を前者:後者=84:16〜95:5の比率で使用することについては何も記載されていない。 してみると、上記訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明という。)は、甲第1〜5号証に記載された発明であるとすることはできない。 <29条2項違反について> 本件特許発明と甲第1ないし2号証に記載の発明を対比すると、両者は、油脂及び乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤とからなる起泡性水中油型乳化脂の点で一致し、また、全乳化物に対する油脂および乳化剤のそれぞれの含有量及び水溶性乳化剤と油溶性乳化剤の使用比率の点でも両者は重複するものと認められるが、前者は、水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用するのに対して、後者は、水溶性乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを使用する点で、両者は相違する。 上記相違点について検討する。 水溶性乳化剤と油溶性乳化剤を併用して起泡性水中油型乳化脂を製造することが甲第3〜7号証に記載され、さらに水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することも甲第3〜6号証に記載されていることから、甲第1号証に記載のショ糖脂肪酸エステルに代えてポリグリセリン脂肪酸エステルを水溶性乳化剤として使用して起泡性水中油型乳化脂を製造することは、当業者が容易になし得ることであるとみることも可能である。 しかしながら、甲第3〜6号証においては、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤との使用比率は、本件特許発明で規定する範囲外のものであり、甲第3〜6号証には、水溶性乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルを油溶性乳化剤に対して特定の重量比、即ちポリグリセリン脂肪酸エステル:油溶性乳化剤「84:16〜95:5」の比率で用いること、及び上記構成に基づく起泡性水中油型乳化脂が奏する具体的効果については何も記載されていない。 水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを上記特定の比率で用いることにより、本件特許発明の起泡性水中油型乳化脂が甲第1ないし2号証に記載のものに比べて極めて優れた効果を有しており、当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであれば、進歩性があるものとして特許を付与することができると解するのが相当であるから、本件特許発明の起泡性水中油型乳化脂の有する効果について検討する。 被請求人が提出した平成12年8月2日付け上申書に添付の参考資料A(実験成績書)の表には、甲第1号証に記載の発明のように水溶性乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを水溶性乳化剤:油溶性乳化剤=84:16の比率 で用いた場合(比較実験例2)や、水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合であっても、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤との比率が、本件特許発明で規定する比率(重量比「84:16〜95:5」)の範囲外である場合(比較実験例1)には、ホイップ時間が長く、キメの評価が悪く、またヒートショックによりホイップ時間は短くなるが、増粘することが示されている。 同じく平成12年12月11日付け上申書に添付の参考資料(テスト1〜3)の表1には、本件特許発明で規定する比率の範囲外である水溶性乳化剤:油溶性乳化剤=44:56の比率で両者を併用する場合(比較実験例2と4)には、水溶性乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用しても、ショ糖脂肪酸エステルを使用しても、粘度、ホイップ時間、オーバーラン、保形性等の効果に違いはみられないが、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤を本件特許発明で規定する比率(重量比「84:16〜95:5」)で併用する場合(実施例1と比較実験例1)は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用する実施例1の乳化脂の方が、ショ糖脂肪酸エステルを使用する比較実験例1の乳化脂に比較して、キメの評価が良く、ヒートショック耐性が著しく優れていることが示されている。 これらの実験結果を参酌すると、本件特許発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルを水溶性乳化剤として使用することと、該水溶性乳化剤を特定の比率で使用することを結合させた点に技術的意義があることは明らかであり、本件特許発明は、上記構成要件を採用することにより、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものと認める。 してみると、本件特許発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 オ.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 起泡性水中油型乳化脂 (57)【特許請求の範囲】 (1)全乳化物に対して、30〜60重量%の油脂及び0.1〜1.2重量%の乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、 上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた水溶性乳化剤1種以上と、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群より選ばれた油溶性乳化剤1種以上とからなり、且つそれらの重量比(前者:後者)が84:16〜95:5である、起泡性水中油型乳化脂。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、起泡性水中油型乳化脂に関し、詳しくは、長期保存性に優れ、流通に適し、風味良好で、しかも高オーバーランであるにも拘らず、耐熱保形性並びに戻り耐性に極めて優れたもので製菓・製パン用のフィリング及びトッピング材或いは調理用素材等として優れた起泡性水中油型乳化脂(起泡性水中油型乳化脂組成物)に関する。 〔従来の技術及び発明が解決しようとする課題〕 従来、トッピング用、フィリング用の起泡性水中油型乳化脂、すなわちホイップクリームとしては、油分25〜50%を含有するコンパウンドホイップクリーム(生クリーム又は乳脂肪がクリーム中に含有されているクリーム)及びフィルドクリーム(無脂乳固形分を含み、生クリーム乳脂肪を含まないもの)等が市販されている。 これらのものは、天然の生クリームを価格面及び物性面で凌駕し、現在に至っている。すなわち、生クリームは高価である上に、ホイップ後の安定性が悪く温度や振動で変形しやすい、起泡させるのに熟練を要する、及び飼料の種類や季節変動により品質のバラツキが大きい、という欠点を有する。 しかしながら、上記のコンパウンドホイップクリーム又はフィルドクリームは現在のところ洋菓子原料として必ずしも十分な適性を有していない。 大凡かかる製菓原料としてのクリーム類に要求される物性には次のようなものがある。 先ず第1に、油脂、無脂乳固形分、乳化剤等からクリーム状組成物を製造する場合の、予備乳化、高圧均質化、冷却等の諸工程において諸条件の振れにもかかわらず安定してほぼ同一品質の起泡性水中油型乳化脂ができること、第2に製造された起泡性水中油型乳化脂は生クリームと混合しても、また予め生クリームと混合して作られても、生クリームの品質変動(季節変動や新しいもの古いものの間の変動)にもかかわらず、これらの品質変動を吸収して常に一定した品質を示すこと、第3に製造された起泡性水中油型乳化脂は保存中、使用中又は輸送中の室内外の温度変化や輸送による振動等によって増粘や固化が生じることなく、しかも起泡時の物性がほとんど常に一定なこと、第4に起泡して用いる場合、最適起泡状態に到達するまでの起泡時間が一定で、起泡の終点に適当な幅があり、しかもオーバーランが適度で一定していて、起泡体は十分なコシ、ネバリがあって造花(デコレーション)が行いやすく、また絞り袋中で放置されても脱泡しにくく、最後までバサつかずにスムーズに且つ一様に造花ができ、さらに塗布したり、挟み込んだりしても起泡体が十分なかたさをもっていて、脱泡いないこと、第5にケーキに造花された状態で数日間、当初の状態を保持できるように保形性が良好で、しかも乳漿分離(リーク又はブリーディング)をひきおこさないこと、第6に表面はなめらかで、適当な光沢を有し、長時間経過しても変色や外見上の変化をひきおこさないこと、第7に風味が良好で、生クリームとの差異がほとんどなくしかも口どけが生クリームと同等か又はそれ以上であること等である。 これまでに起泡性水中油型乳化油脂は多種多様のものが市販されているが、これらのものを検討してみると上記の要求される諸物性の中で、いくつかのものを満たしているけれども、逆にある部分の物性に劣っているというようなものがほとんどであり、すべてを満足しているものは未だにないのが現状である。特に、起泡性水中油型乳化脂は輸送又は配送中に温度が15℃〜20℃まで上昇すると乳化脂の脂肪球が凝集や合一を起こすため、再度冷却を行い5℃にてホイップしても適切なオーバーランが出ず急に可塑化してバサつくことがある。また、最近、大規模に生産を行う洋菓子店では連続ホイップマシーンを用いて連続的にホイップして行うことが多くなっており、そのため終点の幅が広く、温度耐性があり、バサつきの少ない起泡性水中油型乳化脂が要求されている。 従って、本発明の目的は上記のような、従来の起泡性水中油型乳化脂の欠点を改良し、前記のような要求される諸物性を満足し且つ特に保存中、使用中や輸送中の室内外の温度変化や輸送による振動等によって増粘や固化がなく、しかも起泡時に急に可塑化してバサついたりすることがない終点幅の長い、物性がほとんど常に一定となるような起泡性水中油型乳化脂を提供することにある。 〔課題を解決するための手段〕 本発明者等は、種々検討した結果、特定量の油脂を含有する乳化物に特定の乳化剤を特定量併用することにより、上記目的が達成されることを知見した。 本発明は、上記知見によりなされたもので、全乳化物に対して、30〜60重量%の油脂及び0.1〜1.2重量%の乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた水溶性乳化剤1種以上と、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群より選ばれた油溶性乳化剤1種以上とからなり、且つそれらの重量比(前者:後者)が84:16〜95:5である、起泡性水中油型乳化脂を提供するものである。 以下、本発明の起泡性水中油型乳化脂の製造法について詳述するが、特に記載のない限り、文中の重量%は全乳化物の重量に対する割合である。 本発明に使用しうる油脂としては動植物油脂及びそれらの硬化油脂の単独又は2種以上の混合物あるいはこれらのものに種々の化学的処理又は/及び物理的処理を施したものが良く、さらに、10℃のSFC(固体脂含有係数)特性値が20〜55、上昇融点25〜38℃であることがより好ましい。 上記油脂としては、例えば、大豆油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、パーム油、ナタネ油、カボック油、ヤシ油、乳脂、ラード、魚油、鯨油などの各種の動植物油脂、及びこれらの硬化油、分別油、エステル交換油脂などがあげられる。これらの中で特に好ましいものは、例えば、綿実硬化油、カボック硬化油、ナタネ硬化油、大豆硬化油、とうもろこし硬化油、ひまわり硬化油等の液状植物油の硬化油又はパーム油あるいはその分別油の硬化油の1種以上(i)とヤシ油、パーム核油等のラウリン型油脂又はこれらの硬化油の1種以上(ii)及び/又は大豆油、綿実油、カボック油、コーン油、米ぬか油、ひまわり油、なたね油、サフラワー油の如き0℃で液状の油脂の1種以上(iii)とを混合してなる油脂組成物(I)、又はかかる油脂組成物をエステル交換して得られる油脂組成物(II)、あるいは上記の油脂(iii)又は/及びパーム油及び/又はパーム油の分別油と上記の油脂(ii)とを混合した後、部分硬化して得られる油脂組成物(III)、あるいは油脂組成物(I)、(II)及び/又は(III)とトリブチリンとをエステル交換して得られる油脂組成物(IV)あるいは油脂組成物(I)、(II)、(III)、(IV)の2種以上を混合した油脂組成物(V)等である。なお牛脂、ラード、魚油、鯨油、乳脂等の動物油脂あるいはその硬化油を上記の油脂(i)の代替として用いることは風味面で油脂(i)としてやや劣る面があるがさしつかえない。 本発明で使用される油脂は、口どけ、及び風味で生クリームとの差異がほとんど感じられないクリーム状組成物を得るためその固体脂含有係数(SFC)がある一定の範囲内にはいることが好ましく、その範囲を示すと第1表の通りである。 また、本発明で使用される油脂の量は起泡性水中油型乳化脂全体(全乳化物)に対して30〜60重量%である。30重量%未満では十分な保形性をもつ起泡性水中油型乳化脂は得られず、60重量%を越える場合はクリーム状組成物の粘度が高くなりすぎ、経日的にあるいは輸送時の振動等により粘度上昇がおこり、またホイップした場合はオーバーランの低い起泡体しか得られない。 本発明において、水溶性乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から1種類以上を選択して使用する。 また、油溶性乳化剤としては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群から1種以上を選択して使用する。 本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンの重合度2以上のポリグリセリンに対して、炭素数12〜22個の飽和及び/又は不飽和の脂肪酸(重合脂肪酸(例えば縮合リシノレイン酸)を含む)がエステル結合したものを言う。水溶性乳化剤としてのポリグリセリン脂肪酸エステルとは、HLB10.0以上のものである。 本発明に使用されるショ糖脂肪酸エステルとは、ショ糖に対して炭素数12〜22個の飽和及び/又は不飽和の脂肪酸がエステル結合したものを言う。油溶性乳化剤としてのショ糖脂肪酸エステルとはHLB7.0未満のものである。 本発明に使用されるソルビタン脂肪酸エステルとは、ソルビトール及び/又はソルバイドに対して炭素数12〜22の飽和及び/又は不飽和の脂肪酸がエステル結合したものを言い、モノエステルを少なくとも含有し、ジ又はトリエステル等のポリエステルを含有しても良いが、好ましくはモノエステルを全体の30重量%以上含有することが良い。 本発明に使用されるグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンと炭素原子数12〜22個の飽和及び/又は不飽和の脂肪酸がエステル結合したものを言い、モノエステル及び/又はジエステルである。また、本発明において、グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン脂肪酸エステル中の遊離の水酸基に、酢酸、乳酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸、コハク酸等の、脂肪酸以外の有機酸がエステル結合した、所謂有機酸モノグリセライドも包含する。 また、本発明に使用されるプロピレングリコール脂肪酸エステルとは、プロピレングリコールに対して炭素原子数12〜22個の飽和及び/又は不飽和の脂肪酸がエステル結合したものである。 上記の各種の乳化剤を構成する飽和脂肪酸としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、アラキン酸等があり、その中でも特にパルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、また、不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ゾーマリン酸、リノール酸、エライジン酸、リノレイン酸等であり、その中でも特に好ましいものはオレイン酸、ゾーマリン酸である。 また、本発明で使用される燐脂質とは、例えば、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、イノシトールフォスファチド、フォスファチジルセリン等をいい、これらは通常市販されている、大豆レシチン、卵黄レシチン、卵黄、バターミルク等に含有されており、これらを燐脂質の給源として使用すれば良い。 本発明においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる上述の水溶性乳化剤1種以上と、モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、燐脂質等からなる上述の油溶性乳化剤1種以上との重量比が84:16〜95:5である必要がある。水溶性乳化剤の割合が84%未満だと起泡時の終点幅が短く、バサつきやすいクリームとなり、95%以上であると原液の乳化状態が悪く水相が一部分離する。 また、乳化剤の合計量は乳化脂全体に対して0.1重量%〜1.2重量%である必要があり、好ましくは0.1〜1.0重量%、さらに好ましくは0.3〜0.8重量%である。0.1重量%以下では十分な乳化状態が得られず、水又は油が分離しやすくなり、1.2重量%以上では乳化剤の味が強くなりすぎて食用に供し得ない。 本発明について更に詳述すると、本発明の起泡性水中油型乳化脂は無脂乳固形分及び/又はその代替物を含有することができる。かかる無脂乳固形分及び/又はその代替物とは脂肪分を除いた乳固形分のことで、乳蛋白質を主成分とするもの及び/又は例えば大豆蛋白質の如き無脂乳固形分の代替物である。無脂乳固形分の給源としては例えば牛乳等の獣乳、脱脂乳、脱脂粉乳、脱脂練乳、凍結凝縮脱脂乳、バターミルク、粉末バターミルク、粉末ホエー、練乳、粉乳、クリーム、ナトリウムカゼイネート、カゼイン等の種々の乳製品が使用できる。 本発明の起泡性水中油型乳化脂はその他、着色量、着香料、調味料、糊料等の各種の添加物を含有することができ、例えば、無脂乳固形分の給源として例えば脱脂乳等を使用する場合はリン酸塩を添加することが望ましい。このリン酸塩としては、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、オルソリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム等から選ばれた1種又は2種以上のナトリウム塩及び/又はカリウム塩が用いられ、その使用量は好ましくは0.02〜0.2%である。このような添加物を含有せしめることによってより品質のすぐれた製品とすることができる。 次に、本発明の起泡性水中油型乳化脂の製造法を、好ましい一実施態様に基づいて具体的に説明する。 先ず、原料油脂を溶融し、それに油溶性乳化剤を添加して50℃〜60℃にて分散溶解させることにより油相を調製する。尚、油溶性の蛋白質等を使用する場合は、これを上記油相に添加すればよい。 その一方で、水相に水溶性乳化剤を分散溶解させるとともに、その他の水溶性原料をも溶解分散させることにより水相を調製する。 次いで、上記水相と上記油相とを混合し、得られた予備乳化物を均質化することにより本発明による起泡性水中油型乳化脂が得られる。この均質化は、50〜70℃にて20〜100kg/cm2の均質圧力で行うのが良く、均質圧力が20kg/cm2では保形性が弱くなりやすく、100kg/cm2では起泡した時のまとまりがなくなりやすいので好ましくない。 更に詳述すると、本発明により得られる起泡性水中油型乳化脂は、上記の如くして得られる均質化物をさらにUHT滅菌処理して起泡性水中油型乳化脂とすることが好ましい。この処理に用いられるUHT滅菌処理装置には、間接加熱方式のものとして、例えば、APVプレート式UHT処理装置(APV社製)、C.P.UHT殺菌装置(クリーマリー・パッケージ社製)、ストークス・チューブラー型UHT滅菌装置(ストークス社製)等があり、直接加熱方式のものとして、例えば、ユーペリゼーション滅菌装置(アルプラ社製)、アルファラバルVTIS滅菌装置(アルファラバル社製)、ラギアー滅菌装置(ラギアー社製)、パラリゼータ(パッシュ・アンド・シルケボーグ社製)、C.P.Vac.Heat UHT滅菌装置(クリマリー・パッケージ社製)等があり、UHT滅菌処理は、これらのものから適宜選択した装置を使用して行うことができる。 また、本発明により得られる起泡性水中油型乳化脂は、更に好ましくは、UHT滅菌処理後、60〜75℃迄冷却した後、5〜100kg/cm2の圧力で均質化処理を行うことが良い。この時の均質圧力は起泡性水中油型乳化脂は起泡性、保形性を満足すれば良く、好ましくは10〜70kg/cm2である。 上記の均質化処理物を、10℃位迄冷却後、無菌充填機にて充嗔すれば好ましい製品を得ることができる。 〔実施例〕 以下に実施例をあげ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 参考例1 上昇融点36℃の大豆硬化油34.0重量%、ヤシ硬化油11.0重量%を溶融混合し、その中に油溶性乳化剤としてソルビタン脂肪酸モノステアレート0.2重量%を溶解し油相を調整した。このようにして得られた油相を60℃に保持した。 別に、脱脂粉乳4.9重量%及びヘキサメタリン酸ナトリウム0.1重量%、水溶性乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB11)0.3重量%及びポリグリセリンモノオレート(HLB13)0.2重量%を50℃前後の水49.3重量%に溶解して水相とした。 上記油相と上記水相とを混合撹拌して水中油型の予備乳化物を得た。 次いで、この予備乳化物をホモゲナイザーにより約60℃の温度下に50kg/cm2の圧力で均質化し、その後、UHT滅菌処理(VTIS滅菌装置(アルファラバル社製)を使用)を施し、70℃にて55kg/cm2の均質圧で無菌下で再均質処理を施し、10℃に冷却後無菌充填(テトラパック社製)し、起泡性水中油型乳化脂を得た。一晩エージング後、この乳化脂は流動状であり、縦型ミキサーにて起泡させた所、キメがすぐれ、オーバーランが適度であり、さらにこのものを20℃で20時間放置したが、キメ、保形性とも良好であった。 また、上記組成物(乳化脂)を40℃の恒温槽内で25℃に昇温したあと25℃の恒温槽内に3時間放置し、その後5℃の冷蔵庫に入れて保存したところ、20時間後の粘度変化(ヒートショックテスト)はほとんどなく良好であった。このものを縦型ミキサーで起泡させたところ、何ら異常が認められなかった。さらに10℃に保冷された運搬車による輸送テストでも増粘、固化はなく良好であった。 また、以上の各評価テストについては一定の再現性を得ることができた。 以上説明した測定結果を下記第2表に記載した。表中参考例1に示す如く、良好な起泡性水中油型乳化脂を得た。尚、以下に示す実施例1、参考例2及び比較例1、2についても同様に測定結果を下記第2表に併記した。 実施例1 前記参考例1中、乳化剤を下記の通り変更して同様の実験を行った。 ・油溶性乳化剤 グリセリンモノステアレート(HLB4) 0.1重量% プロピレングリコール脂肪酸エステル(HLB3) 0.03重量% ・水溶性乳化剤 ポリグリセリンモノステアレート(HLB10) 0.3重量% ポリグリセリンモノオレート(HLB11) 0.4重量% 表中実施例1に示す如く良好な起泡性水中油型乳化脂を得た。 参考例2 前記参考例1中、乳化剤を下記の通り変更して同様の実験を行った。 ・油溶性乳化剤 ジアセチル酒石酸モノグリセリド 0.1重量% レシチン 0.1重量% ・水溶性乳化剤 ポリグリセリンモノオレート(HLB13) 0.3重量% ショ糖脂肪酸エステル(HLB7) 0.2重量% 表中参考例2に示す如く良好な起泡性水中油型乳化脂を得た。 比較例1 前記参考例1中、乳化剤を下記の通り変更して同様の実験を行った。 ・油溶性乳化剤 ジアセチル酒石酸モノグリセリド 0.3重量% レシチン 0.2重量% ・水溶性乳化剤 ポリグリセリンモノオレート(HLB13) 0.1重量% ショ糖脂肪酸エステル(HLB7) 0.1重量% 表中比較例1に示す如くバサツキやすい乳化脂を得た。 比較例2 前記参考例1中、乳化剤を下記の通り変更して同様の実験を行った。 ・水溶性乳化剤 ポリグリセリンモノオレート(HLB13) 0.3重量% ショ糖脂肪酸エステル(HLB7) 0.3重量% 表中比較例2に示す如く乳化状態の悪い水相の分離を起こした乳化脂しか得られなかった。 (注) *1:終点幅が短く扱いにくい。 *2:水槽分離が起こる。 (1) 粘度:リオンBO-2型粘度計使用。 (2) ホイップ時間:(縦型ミキサー)を使用し毎分700回転の速度で、500mlのクリーム状組成物を起泡させたときの最適起泡状態に達するまでの時間。 (3) オーバーラン:次式で算出させる増加堆積割合。 (4) 保形性/キメ:起泡したクリームのコシの強さ、表面のなめらかさ。 AA・・・最良好、A・・・良好、AB・・・やや良好、 B・・・不良、実用性なし (5) ダレ:起泡したクリームを絞り袋で造花したものを20℃の恒温槽中で、20時間放置した場合の形くずれの程度。 良好:目立った型崩れはない、不良:型崩れがひどい。 (6) ヒートショックテスト:40℃の恒温槽内で25℃まで昇温せしめた後、25℃の恒温槽内に3時間放置し、その後5℃の冷蔵庫に入れ20時間放置する。その後10℃恒温槽にて約2時間放置し、起泡性水中油型乳化脂の温度が10℃となるのを待って粘度を測定し(リオンBO-2型を使用)、起泡させて状態を観察するテスト。 (7) 輸送テスト:保冷自動車(常に10℃に保冷)にて約5時間運搬した場合のクリーム状組成物の変化の有無を観察するテスト。 〔発明の効果〕 本発明によれば、保存中、使用中や輸送中の室内外の温度変化や輸送による振動等によって増粘や固化がなく、しかも起泡時に急に可塑化してバサついたりすることのない、終点幅が長く物性がほとんど常に一定となるような起泡性水中油型乳化脂で、その他の諸物性をも兼備しているものを提供することができる。 |
訂正の要旨 |
<訂正の要旨> (a)明細書(特許異議申立てに係わる平成10年8月17日付け訂正請求書により一度訂正されている。)の特許請求の範囲の請求項1に記載の 「全乳化物に対して、30〜60重量%の油脂及び0.1〜1.2重量%の乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれた水溶性乳化剤1種以上と、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群より選ばれた油溶性乳化剤1種以上とからなり、且つそれらの重量比(前者:後者)が50:50〜95:5である、起泡性水中油型乳化脂。」を、 「全乳化物に対して、30〜60重量%の油脂及び0.1〜1.2重量%の乳化剤を含有する起泡性水中油型乳化脂であって、上記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた水溶性乳化剤1種以上と、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び燐脂質からなる群より選ばれた油溶性乳化剤1種以上とからなり、且つそれらの重量比(前者:後者)が84:16〜95:5である、起泡性水中油型乳化脂。」と訂正する。 (b)明細書6頁11行の「及びショ糖脂肪酸エステル」を削除する。 (c)明細書6頁18行の「50:50〜95:5」を「84:16〜95:5」と訂正する。 (d)明細書9頁末行〜10頁1行の「及びショ糖脂肪酸エステル」を削除する。 (e)明細書10頁13〜15行の「水溶性乳化剤としてのショ糖脂肪酸エステルとはHLB7.0以上のものであり、」を削除する。 (f)明細書13頁2行の「とショ糖脂肪酸エステル」を削除する。 (g)明細書13頁7行の「50:50〜95:5」を「84:16〜95:5」と訂正する。 (h)明細書13頁8行の「50%以下」を「84%未満」と訂正する。 (i)明細書17頁16行、19頁14行、19頁19行、20頁14行、21頁4行、21頁18行にそれぞれ記載の「実施例1」を「参考例1」と訂正する。 (j)明細書19頁18行、20頁11行にそれぞれ記載の「実施例2」を「実施例1」と訂正する。 (k)明細書20頁13行、21頁1行にそれぞれ記載の「実施例3」を「参考例2」と訂正する。 (l)明細書19頁15行の「実施例2、3」を「実施例1、参考例2」と訂正する。 (m)明細書23頁の第2表中の「実施例1」を「参考列1」と、「実施例3」を「参考例2」と訂正する。 |
審理終結日 | 2001-04-17 |
結審通知日 | 2001-04-27 |
審決日 | 2001-05-09 |
出願番号 | 特願昭63-281665 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
YA
(A21D)
P 1 112・ 121- YA (A21D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 植野 浩志 |
特許庁審判長 |
田中 久直 |
特許庁審判官 |
大高 とし子 田村 明照 |
登録日 | 1997-04-18 |
登録番号 | 特許第2628902号(P2628902) |
発明の名称 | 起泡性水中油型乳化脂 |
代理人 | 羽鳥 修 |
代理人 | 戸田 親男 |
代理人 | 羽鳥 修 |