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関連判例 | 平成15年(行ケ)90号審決取消請求事件 |
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審決分類 |
審判 全部申し立て 産業上利用性 A23B 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A23B 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23B 審判 全部申し立て 1項1号公知 A23B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23B 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A23B |
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管理番号 | 1048387 |
異議申立番号 | 異議1999-71860 |
総通号数 | 24 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-11-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-05-07 |
確定日 | 2001-06-30 |
異議申立件数 | 8 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2829817号「塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2829817号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第2829817号に係る発明についての出願は、平成5年5月20日に特願平5-154105号として出願され、平成10年9月25日にその特許の設定登録がなされ、その後、8件の特許異議申立がなされ、3回取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年3月12日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正請求 1.訂正の内容 (1)特許請求の範囲の請求項1に係る記載「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透しているソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品。」を、「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している緑色の維持されたソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品。」と訂正する。 (2)特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除する。 (3)特許請求の範囲の請求項4に係る記載「【請求項4】茹枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする請求項1,請求項2又は請求項3記載の塩茹枝豆の冷凍品。」を、「【請求項2】茹枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする請求項1記載の塩茹枝豆の冷凍品。」と訂正する。 (4)特許請求の範囲の請求項5に係る記載「【請求項5】請求項1,請求項2,請求項3又は請求項4記載の塩茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」を、「【請求項3】請求項1又は請求項2記載の塩茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」と訂正する。 (5)明細書中の段落【0021】及び【0022】の「実施例3」を、「参考例」と訂正する。 (6)明細書中の段落【0023】の「実施例4」を「実施例3」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項(1)は、請求項1に「緑色の維持された」という事項を直列的に付加するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当し、同(2)は、請求項を削除するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当し、同(3)及び(4)は、上記(1)及び(2)に伴う訂正であり、 同(5)は、「実施例3」を「参考例」に訂正するものであるから明りょうでない記載の釈明に該当し、同(6)は、(5)に伴う訂正である。 そして、上記いずれの訂正も新規事項に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 3.独立特許要件 訂正された請求項1乃至3係る発明(以下、「本件発明1乃至3」という。)は、後述の「III.特許異議申立」の項に記載のように、特許異議申立については理由がないものであるから、本件発明1乃至3は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4,2項、及び同条3項で準用する126条2項から4項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。 III.特許異議申立 以下において、訂正前の請求項1乃至5に係る発明を「訂正前発明1乃至5」という。 1.株式会社ニチロよりの特許異議申立 特許異議申立人 株式会社ニチロは、甲第1号証乃至甲第3号証を提出し、(1)訂正前発明1乃至5は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、(2)訂正前発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(「海の幸・山の幸大百科 第II巻」平成元年11月30日ぎょうせい発行016〜017頁)には、「雪国の知恵 エダマメの塩漬け」の項に、 「エダマメは莢つきのまま塩ゆでするが、枝についたままゆでるといっそううまい。おいしくゆでるこつは、まず多めの塩でよくもむこと。これは色よくゆで上げるためと、余分な産毛を除く効果がある。つぎにかげんをみながらゆで上げ、ざるに広げて塩をふる。・・・(略)・・・東北地方では、熱湯をくぐらせて軽く塩漬けにし、食べるときに塩出ししてゆでなおすところもある。またゆでたエダマメをたっぷりの塩で漬け物として利用するところもある。ピクルスにしても酸味が利いてなかなかおいしい。エダマメは冷凍にもたいへん向くので、ゆでてから冷凍保存すると長期間味わえる。」が、 甲第2号証(平成3年8月12日付「冷凍食品新聞」3面)には、 「味特選シリーズの「塩ゆでえだまめ」(五00グラム)、「塩あじえだまめ」(一キログラム)の二品を今秋から本格販売する。「塩ゆでえだまめ」は、もぎたての新鮮な枝豆を産地で厳選し、おいしさを逃さない新製法で加熱処理しており、流水で解凍するだけで食べられるのが特長。「塩あじえだまめ」は、新製法で加熱処理し、塩あじをつけているので、自然解凍するだけで利用できる。」が、 甲第3号証(平成3年8月12日付「日刊冷食タイムス」)には、「ノースイ=解凍するだけの「ニューLB枝豆」をテスト販売」という表題下、 「ノースイは解凍するだけで食べられる冷凍枝豆“ニュー・ロング・ブランチング枝豆(台湾産)”を今春からテスト販売しているが、「茹でる手間がいらないということで、スーパーの総菜向けに好評を得ている」(同社)という。従来のロングブランチング枝豆はサッと湯通しする必要があったが、これはスチーム・ブランチャーで完全調理してるため解凍するだけで良い。味付け済みの「塩味」は自然解凍でそのまま、味付けしてない「ゆで枝豆」は流水解凍してから軽く塩をふる。必要なときに必要な量だけ、手軽にサーブできる。人手不足という社会環境にも対応した商品。」が、それぞれ記載されている。 B.判断 (1)特許法29条2項違反について (本件発明1について) 甲第1号証には、「エダマメは莢つきのまま塩ゆでする」、「まず多めの塩でよくもむこと」、「ざるに広げて塩をふる」との記載、甲第2号証には、「塩ゆでえだまめ」、「塩あじえだまめ」との記載、並びに甲第3号証には、「味付け済みの「塩味」」との記載があり、これらの記載によると、本件出願前には、塩で枝豆を種々の方法で処理することは知られていたといえる。 しかしながら、上記甲各号証に記載のように塩で処理された枝豆においては、その中心まで薄塩味が浸透しているか不明であり、しかも、これを証明する証拠も示されていない。 そうすると、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された事項を組み合わせてみても、本件発明1に記載に係る構成を導き出すことはできない。 また、甲第1号証には、「熱湯をくぐらせて軽く塩漬けにし、食べるときに塩出ししてゆでなおす」とか、「ゆでたエダマメをたっぷりの塩で漬け物として利用する」という記載があるところ、ここでは、枝豆を塩漬けにしているから、技術常識上、枝豆の中心まで(薄)塩味が浸透している可能性は否定できない。 しかし、「塩漬け」は、食品の保存技術の一種であって、塩漬けの形態で長期間保存できるから、塩漬けしたものを更に食品の保存技術である「冷凍処理」を施して「冷凍品」にすることは、普通実施することではない。 そうすると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (本件発明2について) 本件発明2は、本件発明1を「茹枝豆が、塩水の熱水中でのブランチングおよびスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理すること」と限定するものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (本件発明3について) 本件発明3は、「請求項1及び請求項2記載の塩味茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」であるところ、本件発明1及び2は、上述のように、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明1及び2に係る「塩味茹枝豆の冷凍品」の「包装品」も、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)特許法36条5項違反について 特許異議申立人は、訂正前の本件明細書の「実施例4」では、「塩味茹枝豆の冷凍品」についてではなく、「生枝豆を100℃、5分加熱、冷却した枝豆」を各種の着色セロファンで包装したものについて色調抑制効果を検討しているだけであり、しかも段落【0017】には、「塩味茹枝豆の冷凍品」についての記載はないから、訂正前発明5は、「実施例4」及び段落【0017】に記載された技術内容とは一致していない旨主張している。 よって検討するに、訂正後の本件明細書の「実施例3」においては、「生枝豆を100℃、5分加熱、冷却した枝豆を各種の着色セロファンで包装し、蛍光灯下5℃に保管したものを2日後測定した。」との記載のみであって、本件発明3に係る「塩味茹枝豆の冷凍品」を試験対象とした場合の色調抑制効果については記載されていない。 また、同明細書段落【0017】には、「塩味茹枝豆の冷凍品」について開示しているところはない。 そうすると、本件発明3については、本件明細書に直接言及するところがないのであるから、明細書に記載の不備があるとの誹りは免れ得ないものである。 しかし、本件発明3は、「請求項1及び請求項2記載の塩味茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」であって、これ自体構成は明らかで、かつ、「請求項1及び請求項2記載の塩味茹枝豆の冷凍品」を「緑、青又は赤の有色透明包装材」により包装して「包装品」を調製することは、発明の詳細な説明中に直接的な言及がなくても、当業者が容易に実施することができるといえる。 してみれば、本件発明3に係る記載に関し、特許法36条5項の違反があるとまではいえない。 2.株式会社ニチレイよりの特許異議申立 特許異議申立人 株式会社ニチレイは、甲第1号証乃至甲第9号証、並びに「実験報告書」を提出し、(1)訂正前発明1乃至5は、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明である、(2)訂正前発明1乃至4は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、または、訂正前発明5は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、(3)訂正前の本件明細書には記載の不備がある、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(「日本の冷凍食品'91年版」108頁)には、「株式会社ノースイ-業務用」の表題下、「品名;ブランド;主な原料;製品特長」の各項に、「枝豆塩ゆで;ノースイ;えだまめ;台湾産。ゆでる手間がありません。流水解凍でお使い下さい」及び「枝豆塩味;〃;枝豆;台湾産。自然解凍、塩味が付いた枝豆」が、 甲第2号証は、1の甲第2号証と同じ。 甲第3号証(「お料理ABC(普及版)」平成4年5月1日主婦と生活社発行97頁)の「枝豆の塩ゆで」の項には、 「1 枝豆は、はさみで両端を切り落とし、水洗して水けをきり、塩をふって手でこすり合わせ、水を加えて30分ほどおいて味を含ませる。 2 沸騰湯に入れ、塩大さじ1ほどを追いかけるように加え、弱火で8〜10分、ふたをせずにゆでる。ざるに上げて、塩が不足のときは塩をふる。」が、 甲第4号証(特公昭13-343号公報)の特許請求の範囲の項には、 「上記記載の目的を達成するため、発明の詳細なる説明に詳記するごとく、未だ緑色を失わない大豆を茎より莢のまま採取し、多量の食塩を振り掛けて軽く相擦摺して莢皮面の粗毛を除去する工程とこれを一定時間熱湯中に投じて莢内に塩分を浸透せしめ酸化酵素をその他の酵素を破壊せしめて以って色相を安定ならしめる操作を行う工程と水切り後冷凍する工程との結合を特徴とする緑色茹で莢豆貯蔵法。」が、 甲第5号証(特開平2-242635号公報)の特許請求の範囲の項には、 「(1)熱湯ないし蒸気等の加熱にてボイルして各種酵素類を完全に死滅させ、かつその後冷凍加工を施したことを特徴とする冷凍ボイル野菜。」が、 甲第6号証(「冷凍」昭和63年1月63巻723号2〜9頁)には、 「ブランチングは次の効果、とくに(i)を期待して行われるものとされる。(i)組織内の酵素を不活性化する、(ii)組織を軟らかくし、凍結膨張に耐えやすくする、(iii)組織内の空気を追い出す、(iv)付着微生物をある程度殺菌する、(v)野菜の緑色をより鮮明にする。 ふつう熱湯または蒸気を用いる。」との記載とともに、「図5」として、「インゲンとエダマメのパーオキシダーゼ活性とブランチング温度・時間との関係」の図が示されている。 甲第7号証(「日本食品工業学会誌」24巻9号448〜452頁)には、「クロロフィルおよびクロロフィル誘導体の光分解について」という表題で、「考察」の項に、 「クロロフィルは、カロチノイド同様紫外線で著しい退色が見られたが、特に300nm以下の紫外線の影響が著しく、同時に可視部の吸収極大波長附近の光線によってもかなりの分解がみられた。従って、クロロフィルを含んだ食品の場合、可視光線の影響も考慮に入れる必要があると考える。」が、 甲第8号証(「愛知県食品工業試験所年報」14巻7〜14頁)には、「1.光遮断性包材による防止効果」として、 「第2図(1)に示したように、570nm以下のほとんどの光を遮断する赤色包材が最も効果的で、次いで400nm附近の波長を遮断する橙色、黄色、緑色包材がこれにつぎ、紫外線遮断包材はあまり効果がみられなかった。」が、 甲第9号証(「薬剤学」昭和49年12月15日朝倉書店発行118〜127頁)には、 「圧縮破壊試験にはMonsanto硬度計、Strong-Cobb硬度計、Pfizer硬度計、Erweka硬度計などが用いられ、・・・用いる測定器によってその値は異なり、たとえばMonsanto硬度計にくらべてStorong-Cobb硬度計では約1.5倍前後の大きい値を示すことが知られている。」(121頁5〜9行)が、それぞれ記載されている。 B.判断 (1)特許法29条1項1号又は3号違反について (本件発明1について) 本件発明1と甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明とを対比するに、前者は、「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している」ものであるのに対し、後2者では、「塩味が付いた枝豆」とか、「塩あじをつけている」という記載はあるものの、本件発明1のように「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことについて教示するところはない。 そうすると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第2号証に記載の事項を根拠に本件出願前公然知られていたとはいえず、また、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 (本件発明2乃至3について) 本件発明2は、本件発明1を限定したものであり、また、本件発明3は、請求項1及び請求項2に係る冷凍品の「包装品」であるから、本件発明2及び3は、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 なお、特許異議申立人は、本件発明2に関し、「実験」を実施しているところ、その「実験例3」及び「実験例4」は、「甲第4号証に記載の方法に準じ、甲第6号証第6頁図5に示される条件を参照し、以下に示す方法により冷凍枝豆を製造し、上記各測定を行った。」としている。 しかし、甲第4号証には、莢のままの大豆を「多量の食塩を振り掛けて軽く相擦摺して莢皮面の粗毛を除去する工程とこれを一定時間熱湯中に投じて莢内に塩分を浸透せしめ酸化酵素をその他の酵素を破壊せしめて以って色相を安定ならしめる操作を行う工程と水切り後冷凍する工程」という記載があるだけで、これらの工程がどのように実施されるか具体的な数値を示した実施例の記載はなく、しかも、甲第6号証6頁図5に示される条件を参酌しなければならない理由もないので、「表」に示された結果でもって、上記判断が左右されることはない。 (2)特許法29条2項違反について (本件発明1について) 甲第1号証には、「枝豆塩ゆで」、「枝豆塩味」、「塩味が付いた枝豆」という記載が、甲第2号証には、「塩ゆでえだまめ」、「塩あじえだまめ」という記載が、甲第3号証には、「枝豆の塩ゆで」、「塩をふって手でこすり合わせ、・・・塩大さじ1ほどを追いかけるように加え、・・・塩が不足のときは塩をふる。」という記載が、甲第4号証には、「多量の食塩を振り掛けて・・・莢内に塩分を浸透せしめ・・・」という記載があり、更に、甲第5号証及び甲第6号証には、「冷凍」についての記載がある。 しかし、本件発明1は、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことに特徴があるところ、上記甲各号証には、枝豆を塩で処理することの記載はあるが、豆の中心において塩味がどうなっているかについて開示するところはない。 そうすると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された事項を組み合わせても、導き出せるものではない。 してみれば、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (本件発明2について) 本件発明2は、本件発明1を限定したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (本件発明3について) 甲第7号証には、「クロロフィルおよびクロロフィル誘導体の光分解について」が、甲第8号証には、「光遮断性包材による防止効果」がそれぞれ記載されているが、本件発明3は、「請求項1及び請求項2記載の塩味茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品」であるところ、上述のように、本件発明1及び2は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであり、甲第1号証乃至甲第6号証に甲第7号証及び甲第8号証に記載された事項を加味しても、本件発明1及び2は、これらの記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、結局本件発明3は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)特許法36条4項及び5項違反について (i)について 「塩味」に関して本件明細書には、「塩味が適当に付与され、豆の中心まで浸透している。」(特許公報2頁3欄18〜19行)という記載の他は、実施例1に、「冷凍後枝豆を食べたところ、新鮮な風味と塩味があり、・・・その枝豆の塩分を測定したところ1%であった。」、及び実施例2に、「解凍後の枝豆を食べたところ、新鮮な風味と塩味があり、・・・その枝豆の塩分を測定したところ0.8%であった。」との記載があるだけで、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」とはどのような状態なのかを裏付ける、例えば、塩分濃度や官能試験の結果は一切示されていない。 したがって、この限りにおいて本件明細書の記載は十分であるとはいい難いが、「塩味が適当に付与され、豆の中心まで浸透している。」という記載があること、並びに、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載の、本件発明を実施したという「実験例1」及び「実施例2」の結果によると、「中心部塩分量」は、それぞれ「0.59%」、「0.55%」であり、この濃度であれば、最低レベルとして「豆の中心まで薄塩味が浸透している」といえること(乙第1号証5頁44行)を参酌すると、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」という構成がどのような状態であるかは認識できるといえる。 (ii)について 「ソフト感」に関して本件明細書には、実施例1及び2に、「ソフトな食感で良好であった。」との記載があるのみで、これを直接的に定義しているところはない。 しかし、本件明細書の「本発明は、もぎたての新鮮な枝豆の塩茹品を自然解凍するだけで食することができる」(2頁3欄8〜10行)、並びに「食べるときは袋のまま自然解凍あるいは流水解凍するだけでよい。」(2頁3欄17〜18行)という記載を考慮すると、「ソフト感」とは、特許権者が特許異議意見書において主張しているように、「冷凍解凍後の喫食時に十分喫食可能な程度ソフトで、枝豆として柔らかすぎない、適度な食感」であると解することができる。 このことは、特許異議申立人株式会社マルハが提出した特許異議申立書に「「ソフト感のある」とは、茹枝豆としての可食範囲内の柔らかさを有することである。」という記載とも符合している。 したがって、「ソフト感」という表現が、不明瞭であるとはいえない。 (iii)について 本件明細書には、「硬度」に関し、「その硬度を錠剤硬度測定器で測定したところmax0.5Kg、min0.3Kg平均0.4であった。」(3頁5欄32〜34行)、「その硬度を測定したところmax0.4Kg、min0.3Kg平均0.32であった。」(3頁6欄6〜8行)、「その硬度を測定したところmax0.6Kg、min0.4Kg平均0.52であった。」(3頁6欄13〜15行)、及び「その硬度を測定したところmax102Kg、min0.8Kg平均0.9であった。尚、生の枝豆の硬度は、max2.8Kg、min1.8Kg平均2.46であった。」(3頁6欄22〜25行)との記載があるだけで、錠剤硬度測定器の種類及び測定条件についての記載はない。 しかし、硬度で規定した訂正前発明2は削除されたこと、並びに、上記記載に先立ち「ソフトな食感で良好であった。」との記載があり、上記硬度は、この「ソフトな食感」を数値化したものといえることを考慮すると、錠剤硬度測定器の種類及び測定条件についての記載がないことで、直ちに明細書の記載が不備であって、違法であるとまではいえない。 (iv)について 本件発明2は、「請求項1記載の塩味茹枝豆の冷凍品」を、「茹枝豆が、熱水中でのブランチングおよびスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする」と特定したものであって、この特定により請求項の記載が不明瞭になったとはいえない。 C.株式会社ニチレイ提出の平成11年10月22日付上申書について 特許異議申立人は、甲第4号証の特許公報である資料1(特許第125971号公報)に記載の方法、並びに資料2(加藤舜郎著「冷凍食品の理論と応用」昭和54年10月10日光琳発行802〜803頁)に記載の方法で調製した塩味茹枝豆冷凍品と、本件発明に係るものとを比較したという実験報告書を提出し、訂正前発明1乃至4は、甲第4号証或いは資料2に記載された発明であると主張している。 ところで、資料1には、 「多量の莢豆を適宜の容器において多量の食塩を振り掛けつつ板片の如きものを挿入し静かに揺動する状態に於いて攪拌して莢豆を躍動相抹摺を為さしめ以て莢皮面の粗毛を除去し然る後約九十度の熱湯中に十分間乃至十五分間浸漬することにより食塩水を莢内に侵入せしめ熱と食塩とにより酸化酵素その他の酵素を破壊せしめ以て色相を安定ならしめたるものを簀上に移して水切りし而して後適当容器に収容して摂氏零下二五度乃至三〇度の温度にて冷凍をなすものとす」との記載がある。 資料2には、「(5)エダマメ(Green soybean)」の項に、 「莢もぎ水洗したものをブランチングする。用水18リットルにつき食塩375gを溶かし、3.75Kgの原料を温度90℃で5分間くらいブランチングする。莢の色が美しい緑色になり、指で莢を押すと豆がこわれることなく、容易に出て生臭みがなくなる程度がブランチングの頃合である。ブランチング後は冷水中に入れて速やかに冷却する。冷却後は十分に水を滴下させる後に凍結する。」との記載がある。 しかるに、実験報告書において、資料1に記載の方法として、食塩の添加は、「完本料理大辞典」(昭和52年11月10日主婦と生活社発行470〜471頁)に記載の、枝豆粗毛除去のための塩もみの際の食塩添加割合を根拠に、「従って「多量の塩」の添加とは、この公知の添加割合を超す程度と認識して良いと考えられる。」(2頁)とし、0%、5%、10%、及び15%の食塩添加割合で実験を実施している。 しかし、資料1の「多量の莢豆を適宜の容器において多量の食塩を振り掛けつつ」との記載によると、資料1では、「多量の莢豆」の時に「多量の食塩」を振り掛けるのであって、「多量の莢豆」でない時は「多量の食塩」を振り掛ける必要はないと考えられる。 そうすると、実験報告書において「「多量の塩」の添加とは、この公知の添加割合を超す程度と認識して良いと考えられる。」とするのは失当である。 さらに、「完本料理大辞典」には、 「材料(2人前) 枝豆・・・1/2束 塩・・・大さじ2と1/2 ・つくり方 (1)枝豆はさやを枝からはずして洗い、すり鉢に入れて塩大さじ1を加え、手でもんでうぶ毛を取り除くように、よくこする。 (2)(略) (3)水カップ5に塩大さじ1を加えて煮たて、(2)の枝豆を入れて12〜15分くらい、ふたをしないでゆでる。 (4)ざるにあげて塩大さじ1/2をふりかけ、うちわであおいで手早くさます。」との記載があり、この記載によると、資料1での「多量の塩を振り掛けつつ」という工程に相当する(1)での塩の添加量は、「大さじ1」、すなわち15gであって、これは、500gの原料枝豆に対しては3%であると解される。 してみれば、実験報告書において塩の添加量を、対500g原料枝豆当たり、25g(5%)、50g(10%)、及び75g(15%)として検討した実験結果しか示されていないので、この実験結果を根拠に、本件発明1及び2は、甲第4号証に記載された発明であるということはできない。 また、資料2に関する実験「F-1」の実験結果においては、塩分濃度が「中心部」では「0.15%」であって、実験報告者自身が塩味を認識できる量であるとする「0.2%」の塩分が入っていないので、本件発明1及び2は、資料2に記載された発明であるともいえない。 3.マルハ株式会社よりの特許異議申立 特許異議申立人 マルハ株式会社は、甲第1号証乃至甲第6号証を提出し、(1)訂正前発明1乃至2は、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明である、(2)訂正前発明1乃至2は、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明に基づき、訂正前発明3乃至4は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき、及び訂正前発明5は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、(3)訂正前の本件明細書には記載の不備がある、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(「輸入商品の分類実務」平成2年8月20日日本関税協会発行45頁)には、「41.味付えだ豆(冷凍)」の項に、 「(商品説明)本品は、さや付きのえだ豆をブランチングした後、さや付きのまま調味液に漬け込み(48時間)、豆そのものに調味液を浸透させたうえ、冷凍したものである。 調味液は、しょう油、味りん、食塩、グルタミン酸ナトリウム、かつおエキス等で調製されたものである。 用途は、酒・ビール等のおつまみにする。」との記載とともに、「(参考)味付きえだ豆製造工程」として、「原料→水洗→ブランチング→冷却・水切→調味液漬込み→水洗→袋詰真空包装→冷凍・出荷」が示されている。 甲第2号証-1は、1の甲第2号証と同じ。 甲第2号証-2(平成3年8月13日付「冷食タイムス」)には、 「味付け済みの“塩味”は自然解凍でそのまま、味付けしていない“ゆで枝豆”は流水解凍後に軽く塩をふりかけるだけ。」が、 甲第3号証(新調理科学講座5「穀物・野菜の調理」昭和51年5月15日朝倉書店発行201頁)には、 「さやえんどう、さやいんげん、枝豆などの菜豆の調理は加熱による組織の適度の軟化とともに、緑色をあざやかに仕上げることが要点になる。 緑色野菜を1〜2%の食塩水の沸騰中に入れて短時間加熱するとあざやかな緑色となり、また変色もおさえられる。・・・また長時間加熱は変色の原因となるので、塩分を含んだ調味液で高温、短時間に加熱し、食品が適度に軟化したらただちに急冷する。短時間加熱のため調味料が食品にわずかしか浸透していないので、調味液の冷液中に1〜2時間浸せきして味を浸透させる”浸し煮”などの調理方法は効果的である。」が、 甲第4号証(「冷凍食品の科学」昭和54年4月25日同文書院発行)には、 「このブランチングは80〜100℃の熱湯中で実施するか、または蒸気中で行われる」が、 甲第5号証(増補改訂「食品の冷凍」昭和54年12月25日日本冷凍協会発行193頁)の「9.13エダマメ」には、 「用水18リットルにつき食塩375gをとかし、原料3.75kgを温度90℃で5分間くらいブランチングする。」が、 甲第6号証(「食品と包装」昭和57年1月20日医歯薬出版発行116頁)には、 「太陽光線による油脂酸化の防止に着色セロファンを利用した時、オレンジ色のセロファンが最も効果があり、続いて赤色、柿色、緑色であったという。」がそれぞれ記載されている。 B.判断 (1)特許法29条1項3号違反について 甲第1号証には、ブランチングした枝豆を調味液(しょう油、味りん、食塩、グルタミン酸ナトリウム、かつおエキス等で調製されたもの)に漬け込み、豆そのものに調味液を浸透させたうえ、冷凍することが記載されている。 上記「漬け込み」及び「調味液を浸透させ」という記載によると、常識的には豆自体に塩味が感じられると解せられるものの、豆の中心まで、はたして薄塩味が浸透しているかは直ちに理解することはできない。 そして、甲第1号証に係る茹枝豆の冷凍品においては、その中心まで薄塩味が浸透していること裏付ける証拠もないので、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとは到底いえない。 甲第2号証-1に関しては、「2.B.判断(1)」の甲第2号証に関する判断と同じ。 甲第2号証-2には、「味付け済みの“塩味”」という記載はあるが、このものが、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」とまでは解することができない。 そうすると、本件発明1は、甲第2号証-2に記載された発明であるとはいえない。 (2)特許法29条2項違反について (本件発明1について) 上述のように、甲第1号証乃至甲第2号証には、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことを教示するところがないので、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (本件発明2について) 甲第3号証には、(a)「緑色野菜を1〜2%の食塩水の沸騰中に入れて短時間加熱するとあざやかな緑色となり、また変色もおさえられる。」とか、(b)「(塩分を含んだ)調味液の冷液中に1〜2時間浸せきして味を浸透させる“浸し煮”などの調理方法は効果的である。」との記載がある。 しかし、(a)においては、「あざやかな緑色」にするためのものであって、塩味については考慮外であるし、また、(b)においては「調味液の冷液中に1〜2時間浸せき」するものの、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」かは不明である。 そうすると、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された事項から本件発明2が想到し得るはずがない。 (本件発明3について) 甲第5号証には、枝豆を食塩水でブランチングすることが記載されているが、それ以上本件発明3に関し教示するところはなく、また、甲第6号証は、着色セロファンが太陽光線による油脂酸化を防止することが開示されているだけであるので、甲第1号証乃至甲第6号証に記載の事項から本件発明3が想到し得るとはいえない。 (3)特許法36条4項及び5項違反について 特許異議申立人は、(i)豆の中心まで薄塩味が浸透しているか否かの判断方法乃至判断基準については何等記載されていない、(ii)訂正前発明3の「塩水の熱水中でのブランチング及びスチームブランチング」の処理工程については何等記載されていない、及び(iii)本件発明の塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品でもないものが「実施例3」として記載されている、と主張している。 (i)について 「2.B.(3)(i)」に記載の判断と同じ。 (ii)について 訂正前発明3は、平成13年3月12日付訂正請求により削除されたので、もはや異議申立人の主張には理由がない。 (iii)について 「実施例3」は、平成13年3月12日付訂正請求により、「参考例」と訂正されたので、もはや異議申立人の主張には理由がない。 4.明治乳業株式会社よりの特許異議申立 特許異議申立人 明治乳業株式会社は、甲第1号証乃至甲第5号証及び参考文献1を提出し、(1)訂正前発明1乃至5は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、(2)訂正前発明1乃至5は、「産業上利用できる発明」ではない、又は訂正前の本件明細書には記載の不備がある、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(特開昭54-117058号公報)の特許請求の範囲の項には、 「さや付枝豆(1)を塩もみして生毛(2)を取り除く第一工程と、同さや付枝豆(1)のなり口部分(3)を切取る第二工程と、なり口部分(3)を切取ったさや付枝豆(1)を塩水(4)にて沸騰させて煮る第三工程と、その後に水切りする第四工程とよりなるさや付枝豆の味付方法。」、 「所要濃度の塩水を90℃前後まで沸騰させてさや付枝豆(1)を投入して約30分間程度煮る。塩水(4)はなり口部分(3)よりさや内部に浸透して豆に充分味付けすることとなる。その後水を切って袋詰等にすれば味付されたさや付枝豆が出来上る。」(1頁右下欄8〜13行)、 「さや内部の豆に塩味を充分浸透させることができ、・・・」(2頁左上欄1〜2行)が、 甲第2号証(特公昭55-25830号公報)の特許請求の範囲の欄には、 (a)「収穫したままの莢付ピーナツ、または乾燥した莢付ピーナツを一昼夜程度水に浸して水分を吸収させ次いで塩茹でして塩水を含浸させ乍ら100℃以上の温度で煮沸、次いで急冷凍結させることを特徴とする莢付ピーナツの加工方法。」、 (b)「新鮮な大豆の莢に塩を振り掛け、相擦摺して莢皮面の粗毛をとり、約90℃の湯に10〜15分つけた後冷凍することが記載されているが、これも原料は新鮮な大豆に限られ、大豆の新鮮な緑色を失わないように保存するためのものである。」(1頁2欄18〜23行)が、 甲第3号証(「化学大辞典2」昭和46年2月5日共立出版発行660頁)の「乾燥野菜」の項には、 「ブランチング(・・・短期間蒸気で蒸すか、熱湯につけて酵素の作用を止める)」が、 甲第4号証(特開平4-104757号公報)の特許請求の範囲の項には、 「ゆで上げた枝豆を水洗して塩もみした後に更に食塩水に浸漬してからエチルアルコール、グリセリン脂肪酸エステル、クローブ抽出物、シナモン抽出物、及び精製水から成る溶液で処理し、それから脱水して脱酸素剤と共に袋詰めしてシールした状態で加熱処理した後急冷することを特徴とするゆで上げ枝豆の加熱処理方法。」が、 甲第5号証(特開平1-179661号公報)の特許請求の範囲の項には、 「(1)大豆を発芽させて薄皮が取れる状態にして大豆もやしとし、該大豆もやしを塩水に浸漬した状態でマイクロ波加熱した後、塩水に浸漬することにより該大豆もやしの豆部分を枝豆様に加工することを特徴とする枝豆用食品の製造方法。」がそれぞれ記載されている。 B.判断 (1)特許法29条2項違反について (本件発明1について) 甲第2号証(a)の記載は、「莢付ピーナツ」に関するもので、枝豆と種類を異にするものである上、該ピーナツにおいても、その中心まで薄塩味が浸透しているいるとはいえず、また、(b)の記載も、「枝豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことを教示するものではない。 そして、甲第1号証には、「塩水(4)はなり口部分(3)よりさや内部に浸透して豆に充分味付けすることとなる。」とか、「さや内部の豆に塩味を充分浸透させることができ」とかの記載があり、これらの記載によると、枝豆自体に塩味が感じられると推察されるが、豆の中心まで薄塩味が浸透しているとは、それを客観的に裏付ける証拠もないので直ちに解することができない。 しかも、本件発明1が「緑色の維持された」ものであるのに対し、甲第1号証では、「所要濃度の塩水を90℃前後まで沸騰させてさや付枝豆を投入して約30分間程度煮る」ものであり、乙第30号証(上田悦範作成の「ブランチング時間と食塩処理が冷凍枝豆解凍後の莢色、硬さ、食塩含量に及ぼす影響」)によると、上記甲第1号証の方法で実施すると「色調がくすみ、食欲をそそらない色になる」との測定結果が示されている。 してみれば、この測定結果も踏まえると、本件発明1に係る塩味茹枝豆は、甲第1号証に係るものと全く別異のものであるから、甲第1号証には、本件発明1を示唆するところはない。 そうすると、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項を組み合わせても導き出せないというべきである。 (本件発明2について) 甲第3号証には、ブランチングに関する記載があり、また、枝豆や大豆もやしを塩水浸漬処理することが甲第4号証乃至甲第5号証に記載のように定法であるとしても、「枝豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことは教示していないので、甲第1号証乃至甲第5号証に記載の事項から本件発明2が当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。 (本件発明3について) 本件発明3は、請求項1乃至請求項4に係る冷凍品の「包装品」であるから、本件発明1及び2についての判断と同様の理由により、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)特許法29条1項柱書、或いは同法36条4項違反について 特許異議申立人は、(i)訂正前発明1は、具体的な構成の記載がなく、薄塩味といってもどの程度の食塩濃度なのか不明であり、また、請求項1にはソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品の製造に至る工程(構成)がない、(ii)訂正前発明3は、塩水の熱水中でブランチングを行うものであるところ、沸騰した0.5%食塩水中でのブランチングは効果がないことを特許権者が自白しており、また追試を行ったが所期の効果が得られなかったことを確認しているので(参考文献1)、訂正前発明3は、産業上利用できる発明に該当しない、或いは本件明細書は、訂正前発明3を実施できる程度に記載されていない、(iii)訂正前発明4の追試を行ったが、塩水浸漬処理に長時間を要するとの欠点が確認されており(参考文献1)、訂正前発明4は産業上利用できる発明に該当しない、或いは本件明細書は、訂正前発明4を実施できる程度に記載されていない、(iv)訂正前発明5の効果を確認できる記載がないので、訂正前発明5は産業上利用できる発明に該当しない、或いは本件明細書は、訂正前発明5を実施できる程度に記載されていない、と主張している。 (i)について 「薄塩味」については、「2.B.(3)(i)」における判断と同じ。 「ソフト感」については、「2.B.(3)(ii)」における判断と同じ。 また、請求項1に係る「ソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品」は、特定されて記載されたものであるから、この記載に「製造に至る工程」を加える必要はないというべきである。(ii)について 訂正前発明3は、平成13年3月12日付訂正請求により削除されたので、もはや異議申立人の主張には理由がない。 (iii)について 参考文献1には、「第4発明について追試をおこなってみた。この場合には、第3発明よりはソフト感のある塩味と緑色の保持についての両立がなされている。しかし、喫食直前に茹で上げ塩をまぶした塩味枝豆の代替えになり得る程の鮮度や味付けや見栄えがするものではなく、商品価値があまり高くなかった。しかも、食塩水への浸漬時間に3時間もかかっているため、その製造作業に時間がかかるなどの欠点がある。」との記載がある。 しかし、本件発明2(訂正前発明4)に係る「追試」とは具体的にどのように実施したのかが不明であるので、上記記載を根拠に、本件発明2は産業上利用できる発明に該当しないとはいえず、また、本件明細書は、本件発明2を実施できる程度に記載されていないとはいえない。 (iv)について 「1.B.(2)」における判断と同じ。 5.株式会社明商及びライフフーズ株式会社よりの特許異議申立 特許異議申立人は、甲第1号証乃至甲第7号証を提出し、(1)訂正前発明1,2,及び4は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、(2)訂正前の本件明細書には記載の不備がある、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証は、3の甲第1号証と同じ。 甲第2号証は、2.C.の資料1と同じ。 甲第3号証(「食品工業総合事典」昭和54年10月25日光琳発行)811頁には、「ブランチング」の項に、 「加熱によって酵素作用を失活させることで、熱湯中に食品を浸漬する場合と、蒸気で処理する場合とがある。熱湯中で行う場合は加熱が均一に行われること、ブランチングのときに塩化カルシウムや重合リン酸塩などを使用して、硬さや歯切れの度合いを調節することが可能などの特徴があるが、ブランチング中に可溶性成分の流出、ビタミンCの損失などが比較的多い。これに対して蒸気処理は添加物による効果は期待できないが、上記の熱湯ブランチングの欠点は比較的少ない。またブランチングは酵素作用の不活性化が目的であるが、組織の柔軟化、アクやロウ物質の除去、洗浄の仕上げなどの効果ももっている。ブランチング条件は乾燥方法によって異なり、表は凍結乾燥での野菜類のブランチング条件の1例である。」との記載とともに、表には、「品名 エダマメ」「ブランチング 5%食塩熱湯中5〜10分」との記載がある。 甲第4号証は、2の甲第5号証と同じ。 甲第5号証(「食品冷凍の理論と応用」昭和41年6月20日光琳書院発行802頁)の「(5)エダマメ(Green soybean)」の項には、 「莢もぎ水洗したものをブランチングする。用水18リットルにつき食塩375gを溶かし、3.75Kgの原料を温度90℃で5分間くらいブランチングする。莢の色が美しい緑色になり、指で莢を押すと豆がこわれることなく、容易に出て生臭みがなくなる程度がブランチングの頃合である。ブランチング後は冷水中に入れて速やかに冷却する。冷却後は十分に水を滴下させる後に凍結する。」が、 甲第6号証(特開昭61-285968号公報)には、 「1.原料ピーナツを塩水中に浸漬したのち、引き上げて塩水を切り、これを水蒸気で蒸し、次いで急速凍結することを特徴とする冷凍蒸しピーナツの製造方法。 2.原料ピーナツを温度10〜30%の塩水中に浸漬することを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の冷凍蒸しピーナツの製造方法」が、 甲第7号証(「冷凍5」VOL64,NO.739)の「7.1.3.1ブランチングの温度と時間」の項には、 「工場の製造責任者は、それ故に、処理する食品の各タイプに対する最適のブランチング条件を、工場の品質管理実験室側と相談することが必要である。高温短時間ブランチングが、低温長時間ブランチングよりも好まれる。」(58頁右欄27〜31行)が、それぞれ記載されている。 B.判断 (1)特許法29条2項違反について (本件発明1について) 甲第1号証には、ブランチングした枝豆を調味液(しょう油、味りん、食塩、グルタミン酸ナトリウム、かつおエキス等で調製されたもの)に漬け込み、豆そのものに調味液を浸透させたうえ、冷凍することが記載されており、この「漬け込み」及び「調味液を浸透させ」という記載によると、常識的には豆自体に塩味が感じられると解せられるものの、豆の中心まで、はたして薄塩味が浸透しているかは直ちに理解することはできない。 甲第2号証には、「多量の食塩を振り掛けつつ」とか、「食塩水を莢内に侵入せしめ」とかの記載がある。 しかし、前者は、「莢皮面の粗毛を除去」するためであり、後者は、「熱と食塩とにより酸化酵素その他の酵素を破壊せしめ以て色相を安定」するためであり、しかも、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことを伺わせる記載はない。 甲第3号証は、ブランチングに関する記載だけであり、甲第5号証には、「用水18リットルにつき食塩375gを溶かし、3.75Kgの原料を温度90℃で5分間くらいブランチングする。」との記載があるが、これは「莢の色が美しい緑色」にするためであって、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことを教示するものではなく、甲第6号証は、「冷凍蒸しピーナツ」に関するものである上、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことについて言及しているところはない。 以上、いずれの甲号証にも、本件発明1の特徴である「豆の中心まで薄塩味が浸透している」という事項について教えるとことはない。 そうすると、甲第1号証乃至甲第3号証及び甲第5号証乃至甲第6号証に記載された事項を組み合わせても、本件発明1に思い至るとはいえない。 してみれば、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証及び甲第5号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (本件発明2について) 甲第4号証には、枝豆を含む野菜を熱湯乃至蒸気等の加熱手段にてボイルし、冷凍加工した冷凍ボイル野菜が記載され、また、甲第7号証はブランチングの温度と時間に関し記載されているが、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことについて言及されていない。 そうすると、本件発明2は、甲第1号証乃至甲第4号証及び甲第6号証乃至甲第7号証 に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)特許法36条4項及び5項違反について 特許異議申立人は、(i)「ソフト感」に関し、本件明細書には、どの程度ソフト感であるか記載されておらず、また、客観的判断が不明確となる、(ii)「硬度」に関し、錠剤硬度測定器の種類や測定条件等の記載が不十分であるため、硬度数値範囲が限定されているとはいえず、不明確である、(iii)本件発明3は、「塩水の熱水」に係るものであるが、本件明細書には「塩水の熱水」を用いたブランチングについては、全く記載されていない。(iv)本件発明5に関し、本件明細書には、「塩茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品」については全く記載されていない、と主張している。 (i)について 「2.B.(3)(ii)」における判断と同じ。 (ii)について 「2.B.(3)(iii)」における判断と同じ。 (iii)について 「3.B.(3)(ii)」における判断と同じ。 (iv)について 「1.B.(2)」における判断と同じ。 6.五十嵐冷蔵株式会社よりの特許異議申立 特許異議申立人は、訂正前の本件明細書には記載の不備がある、と主張している。 A.判断 特許異議申立人は、(i)「豆の薄皮に塩味が感じられ」とか、「豆の中心まで薄塩味」では、発明の構成要件に係る記載としては不明確である、(ii)「ソフト感ある」では、発明の構成要件として不明確である、(iii)「茹枝豆が、塩水の熱水中でブランチングおよびスチームブランチングの処理工程を経て製造したものである」は、従来技術にも採用されていたものであり、これを付加したところで本発明と従来技術とを区別することができない、と主張している。 (i)について 「2.B.(3)(i)」における判断と同じ。 (ii)について 「2.B.(3)(ii)」における判断と同じ。 (iii)について 「2.B.(3)(iv)」における判断と同じ。 7.株式会社ノースイよりの特許異議申立 特許異議申立人は、甲第1号証乃至甲第5号証を提出し、(1)訂正前発明1は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許を受けることができないものであり、また、(2)訂正前発明1の特許は、その明細書の記載に不備がある出願に対してなされたものであり、取り消されるべきである、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(平成3年5月20日付「事前教示に関する照会書」)の「品名銘柄」欄には、「冷凍 枝豆」が記載され、「照会貨物の製法、性状・・・関する意見」の欄には、 「製法 「加工工程書」を添付しています。(9%の食塩水は塩味をつけるものです。) 用途 「おつまみ」として解凍してそのまま食用に供す。 ・・・ コメント 4分間のブランチングは調理とは言えず、「0710.29-010」に該当するものと思料いたします。」が、 甲第2号証には、 「<塩ゆでえだまめ>*ブランチング条件 93〜95℃の2%の食塩水で4分ブランチング <塩あじえだまめ>*ブランチング条件 93〜95℃の9%の食塩水で4分ブランチング」が、それぞれ記載されている。 甲第3号証は、1の甲第3号証と同じ。 甲第4号証(「インボイス」)には、「冷凍枝豆」の記載があり、 甲第5号証(「試験成績証明書」)には、「供試品」として、「塩ゆで枝豆(豆の中心部)」、「試験成績」として、 「食塩分 g/100g 0.9 0.9 試験方法 モール法による。 」が記載されている。 B.判断 (1)特許法29条2項違反について 甲第1号証には「9%の食塩水は塩味をつけるものです。」、甲第2号証には「塩ゆでえだまめ」、「塩あじえだまめ」、或いは「93〜95℃の9%の食塩水で4分ブランチング」、甲第3号証には「塩味」、甲第4号証には「冷凍枝豆」がそれぞれ記載されているが、これらの枝豆の中心部において塩味は感じられたのか、すなわち、本件発明1のように、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」のか不明であること、並びに、甲第5号証には「塩ゆで枝豆(豆の中心部)」の「食塩分」は「0.9」g/100gであることが記載されているものの、該「塩ゆで枝豆(豆の中心部)」とは、甲第1号証乃至甲第4号証のどれに該当するのか不明であるので、結局、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (2)特許法36条5項違反について 特許異議申立人は、「ソフト感」の語はきわめて不明確な概念である、と主張している。 これに関しては、「2.B.(3)(ii)」に記載の判断と同じ。 8.福嶋 唯夫よりの特許異議申立 特許異議申立人 福嶋唯夫は、甲第1号証乃至甲第5号証を提出し、(1)訂正前発明1は、甲第2号証に、または訂正前発明2は、甲第4号証に記載された発明である、(2)訂正前発明1は、甲第1乃至甲第2号証に記載された発明に基づき、または訂正前発明2は、甲第4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、(3)訂正前の本件明細書には記載の不備がある、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証は、5の甲第5号証と同じ。 甲第2号証は、4の甲第1号証と同じ。 甲第3号証-1(「豆・豆100珍NOW」1983年6月20日柴田書店発行74頁)には、「枝豆の塩漬け」として、 「最もおいしく、しかも安い、出盛りの枝豆をこのように塩漬けにしておけば、さっと塩出ししてそのままおつまみになります。あるいは、和えものやいためものの彩りにも使えて重宝すること確実。●つけ汁を作っておく:塩125g みょうばん大さじ1}水3カップを加えて煮溶かし、完全に冷ましておく。●枝豆1kg・・・さやを枝からはずし、塩大さじ2を手で強くまぶしつけ、熱湯で固めにゆでる。湯をきり、塩125g・・・をまぶす。冷めてから、清潔な保存びん(そら豆の水煮と同様に消毒しておく)に詰め、つけ汁を注ぐ。小皿などで重石をして豆がつけ汁に浸っている状態にして密封保存する。*使う時は、豆をさやから出し、水に約1時間つけて塩抜きしてから。」が記載されている。 甲第3号証-2は、1の甲第1号証と同じ。 甲第4号証(京都府立大学学術報告(理学・生活科学)第42号B系列p23〜29(1991年11月))には、「京都特産黒大豆の枝豆利用に関する研究」との表題下、 「7)破断強度の測定 大豆の組織硬度は、種皮を除いた子葉をクリープメーター(山電レオナRE-3305)により測定した。試料の調製は、生鮮物は子葉半分を内部を下にして試料台に乗せた。加熱時間による硬度の変化は、莢のまま10倍量の沸騰した0.5%食塩水に入れてゆで、時間毎に一定量取り出し冷水で2分さらしたものを、生鮮物同様種皮を除いた子葉を用いた。プランジャーの直径は5mm、試料はあらかじめ10gの荷重を加えた後、1mm/秒のスピードで荷重を加え、そのときの破断強度を求めた。プランジャーの貫入は、試料の厚さの-0.5mmとした。」との記載とともに、「Fig.1」の(b)には、新丹波黒豆を10倍量の食塩水(0.5%)で15分間湯煮し、氷水中で2分間冷却した時の硬度が、0.3〜0.5kgであることが示されている。 甲第5号証(福嶋唯夫による「実験報告書」)には、「5.まとめ」として、 「公知の「甲第2号証製法」及び「甲第4号証製法」によれば、本件特許の請求項1記載の発明「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透しているソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品」と同じ塩味茹枝豆の冷凍品が得られるのである。」との記載がある。 B.判断 (1)特許法29条1項3号違反について 甲第2号証には、「塩水(4)はなり口部分(3)よりさや内部に浸透して豆に充分味付けすることとなる。」とか、「さや内部の豆に塩味を充分浸透させることができ」とかの記載あり、これらの記載によると、枝豆自体に塩味が感じられると推察されるが、豆の中心まで薄塩味が浸透しているとは、それを客観的に裏付ける証拠もないので直ちに解することができない。 なお、特許異議申立人は、甲第2号証に記載された処理方法を再現して得られた「塩味茹枝豆の冷凍品」(サンプルb)に関し、その豆の中心の塩分濃度分析を財団法人日本食品分析センターに依頼し、その実験報告書を甲第5号証として提出しているところ、その実験報告書によると、甲第2号証に記載された処理方法による枝豆の中心の塩分濃度は、0.56%であるとしている。 ところで、実験報告書には、「サンプルb」の製法として、(a)「生のさや付枝豆200gに食塩20gを加えて塩もみした。」(1頁下4行)とか、(b)「次にこのさや付枝豆(食塩を含む)を、90℃の湯1kgに投入して30分間加熱し、塩味茹枝豆を得た。この加熱時の湯に対する食塩の濃度は、計算上約2%である。・・・甲第1号証・・・さや付枝豆を加熱する際に2%の濃度の食塩水を使用することは、本件特許出願前から周知かつ慣用的な手段である」(2頁1〜11行)とかの記載がある。 しかし、(a)に関し、甲第2号証には、「まずさや付枝豆(1)を塩もみすることによってさや付枝豆(1)の表面に群生した生毛を取除、口ざわりをよくする。」(1頁右下欄1〜3行)との記載があるだけで、具体的な食塩の添加量については開示されておらず、また、これを裏付ける証拠も示していない。 そして、(b)に関し、甲第2号証の「所要濃度の塩水」を甲第1号証に記載された事項を根拠としているが、甲第1号証には、「用水18リットルにつき食塩375gをとかし、3.75kgの原料を温度90℃で5分間くらいブランチングする。」と記載されているのに対し、甲第1号証における90℃の食塩水中での処理時間は、「5分間」であって、甲第2号証の「30分間」より遙かに短い時間である。 しかるに、食塩水中での処理時間が長ければそれだけ、枝豆中に侵入する食塩量は多くなることは明らかであるから、「5分間」処理での食塩濃度を、そのまま「30分間」処理における食塩の濃度として適用することは不適当である。 そうすると、「サンプルb」は、甲第2号証に記載された処理方法を正しく再現したものではないから、これに基づく実験結果は考慮の対象になり得ない。 (2)特許法29条2項違反について 甲第1号証乃至甲第2号証には、上述のような記載があるものの、「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことを具体的に開示しているわけではない。 そうすると、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (3)特許法36条5項違反について 特許異議申立人は、硬度は用いる測定機器やその測定方法によってその値が大きく変動することは周知であるが、この点について本件明細書には開示されていない、と主張している。 「2.B.(3)(iii)」に記載の判断と同じ。 IV.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1乃至3についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1乃至3の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 塩味茄枝豆の冷凍品及びその包装品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している緑色の維持されたソフト感のある塩味茄枝豆の冷凍品。 【請求項2】 茄枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする請求項1記載の塩味茄枝豆の冷凍品。 【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の塩味茄枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明品は塩味茄枝豆の冷凍品及びその包装品に関する。 【0002】 【従来の技術】 茄枝豆は、通常、良品の枝豆を熱水によるブランチング処理をした後冷凍されて流通している。従って、食べるときは、再加熱した後、塩をまぶして食べるというのが普通である。 茄枝豆は収穫した直後出来る限り新鮮な状態で調理してすぐ食卓に乗せるというのが理想であるが、生産地と消費地の距離、調理人の腕前の差、旬の期間の短さ等がネックとなって、現実はおいしい茄枝豆を食することは困難なことになっている。 【0003】 また茄枝豆は簡単な料理のようであるが、豆の熟度、品種、鮮度、取扱量などによって調理条件は微妙に変化させなくてはならず、おいしく均一に仕上げることが難しい調理品である。 更に茄で上がった後の冷凍保存の問題、例えば、きれいな淡いグリーンを維持することも解決しなくてはならない。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、もぎたての新鮮な枝豆の塩茄品を自然解凍するだけで食することができる塩味茄枝豆の冷凍品及びその緑色を保持することができる包装品の提供を目的とする。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明は、従来の熱水によるブランチング処理を、熱水中での短時間ブランチングとスチームブランチング処理の組合せに変え、それによって枝豆の持つ新鮮さ、うま味を逃すことなく、そのまま冷凍することができるものである。 食べるときは袋のまま自然解凍あるいは流水解凍するだけでよい。塩味が適当に付与され、豆の中心まで浸透している。いつでもどこでも簡単に食することができる旬の枝豆を提供することができる。 【0006】 塩味茄枝豆の製造方法において、枝豆の加熱の度合いは温度と時間の総和できまってくる。加熱温度が高く、加熱時間が長いほど黄色味を帯び、色調は悪くなる傾向にある。加熱温度が低くても加熱時間が長くなれば色調は悪くなる。豆の固さ(食感)との兼ね合いで必要最小限の加熱に留めることが肝要である。 【0007】 緑色野菜をブランチングすると緑色が鮮やかに固定される現象が見られるが、これは葉緑体のたん白質の熱変性によってクロロフィルの存在状態に変化が生じた結果と考えられ、それに伴い吸収極大も683nm付近の短波長側にシフトすることがみられる。 【0008】 またブランチングの際にはクロロフィラーゼが働きクロロフィルをクロロフィライドに変化させるとの報告があり、クロロフィルの変化が色調の変化に影響を及ぼすといわれている。しかし、ブランチングなどの処理と色調の変化を検討した結果、クロロフィラーゼの作用は色調の変化とはまったく関連がないと考えられた。 【0009】 即ち、沸とう水中で1分間のブランチングしたときの変化を見た。ブランチング後ただちに冷水で冷却して色調とクロロフィライド生成量を測定したところ、ブランチングを行ったものは生のものに比して外観からは鮮やかな緑色に変色した。色差計の測定結果も主波長が約10nm短波長側に移り青味を帯びたことを示し、色差も10と大きな色調の変化が生じたことを示した。 【0010】 次に、0.5%食塩および0.5%重曹溶液中でブランチングしたときの変化を見た。食塩および重曹の0.5%溶液を用いて1分間沸とう液中でブランチングしたところ、生のものと比して緑色が鮮やかになる色調の変化は認められたが、水中で加熱したものとほとんど差はなく、塩類を添加すると色調がとくによくなることはなかった。 【0011】 さらに、60〜70℃の温水で加熱したときの変化を見た。クロロフィラーゼが作用するといわれる60〜70℃の温水中に5分間、生のものを保ったところ、外観的にはまだ完全にブランチングが完了しておらず生のものに近い状態であった。したがって色差計の表示も生のものに近い値を示し、色差も少なかった。しかし中にはクロロフィライドの生成が認められ、温水中でクロロフィラーゼが作用したことが示唆される。 【0012】 表面色の測定は緑葉の色調を肉眼で観察するとともに東京電色株式会社の色差計カラーエース、モデルTCA-Iを用いた。表示はCIE色度図から主波長、彩度を求め明度とともに表示した。またLab方式による色差を求めNBS単位として表示した。 【0013】 以上ブランチングなどの処理と色調の変化を検討した結果は、クロロフィラーゼの作用は色調の変化とはまったく関連がないことを教示するものである。従って、色調が鮮やかに変化するのは、ブランチングにより生ずる葉緑体のたん白質の熱変性によりクロロフィルの状態変化が生じ、主波長のシフトが起こるためである。 【0014】 枝豆は、現在、栽培の大半は鶴の子系「292号」と緑光系「305号」である。前者は収量が良く一粒莢が少ないという栽培上での違いはあるが、豆自体の品質上の差は品種間より熟度による差の方が大きいと言われ、通常冷凍枝豆として適切なものは播種後75日前後経過したもので第1表に示す品位のものであればよい。 【0015】 【表1】 【0016】 枝豆は過熟になると黄色味を増して、見栄えは悪くなり、豆は固くなり、そしてサヤの接合部は弱くなるので、品位としては不適である。 従って、若干未熟気味の方がサヤ割れも少なく、見栄えが良く加熱しやすいことがわかる。 【0017】 冷凍茄枝豆の包装材については青、赤、緑の透明なものが枝豆の緑色を保持するのに有効である。 枝豆は、通常、収穫後、選別-洗浄-ブランチングー冷却-冷凍と各処理を経た後、計量-袋詰めされる。枝豆の色調に影響を与える因子を調べたところ、包装紙の色により変化することがわかった。生枝豆を100℃,5分加熱、冷却した枝豆を各種の着色セロファンで包装し、蛍光灯下5℃に保管したものを2日後測定した結果、包装紙の色による色調抑制効果は、青、赤、緑が優れていた。 【0018】 【実施例】 本発明を実施例により説明する。本発明は実施例によって何ら限定されない。 実施例1 収穫し集荷した枝豆を第1次選別し不要物を除く。水洗いを繰り返し、2度目の選別を行う。選別し、塩水濃度ボーメ15°で約3時間浸透した枝豆をネットコンベアに乗せて、熱湯に1分未満くぐらせ、引き続きスチームブランチングをする。スチームブランチングは温度95℃〜100℃、2〜3分行い品温85℃〜90℃にする。この時点ですぐに食べると塩味で風味がまざりあったうま味がありおいしい状態である。 【0019】 さらに、pH7.2の冷却水を通して、品温30℃〜35℃まで冷却する。振動コンベア上で均一にならし、冷凍工程へ移送する。冷凍直後の製品はそのまま食べると塩味があり、解凍後ややかたいがそのまま食べられる。第3次選別を行い、計量し1袋400g〜500gの量で袋詰めする。 冷凍後枝豆を食べたところ、新鮮な風味と塩味があり、ソフトな食感で良好であった。その枝豆の塩分を測定したところ1%であった。又、その硬度を錠剤硬度測定器で測定したところmax0.5kg,min0.3kg平均値0.4kgであった。 【0020】 実施例2 実施例1で塩水濃度ボーメ15°で3時間浸透処理をしない枝豆を使って、以下同様のブランチング処理、冷却処理を行った。この時点ですぐに食べると新鮮な風味があった。次いで、この冷却した枝豆を塩水濃度ボーメ20°の塩水に1分間浸透処理した後、振動コンベア上で均一にならし、冷凍工程へ移送し、実施例1と同様に袋詰めする。 解凍後の枝豆を食べたところ、新鮮な風味と塩味があり、ソフトな食感で良好であった、その枝豆の塩分を測定したところ0.8%であった。又、その硬度を測定したところmax0.4kg,min0.3kg,平均値0.32kgであった。 【0021】 参考例 実施例1で塩水浸透処理をしない枝豆を使って、以下実施例1と同様の処理をした。ここで得られた解凍後の枝豆を食べたところ新鮮な豆そのものの自然の味がありソフトな食感であった。その硬度を測定したところmax0.6kg,min0.4kg,平均値0.52kgであった。 【0022】 比較例 参考例と同様にして、前処理した枝豆をブランチング処理を熱水処理だけにとどめ、その熱水処理時間を90秒実施した。以下同様に冷却、冷凍処理し袋詰めした。ここで得られた解凍後の枝豆を食べたところ新鮮な豆そのものの自然の味があったが、やや硬い食感であった。その硬度を測定したところmax1.2kg,min0.8kg,平均値0.9kgであった。 尚、生の枝豆の硬度は、max2.8kg,min1.8kg,平均値2.46kgであった。 【0023】 実施例3 生枝豆を100℃,5分加熱、冷却した枝豆を各種の着色セロファンで包装し、蛍光灯下5℃に保管したものを2日後測定した。その結果、包装紙の色による色調抑制効果は表2(包装紙の色)からわかるとおり、青、赤、緑が優れている。 測色は、色彩色差計(Minolta CR-200型)にてL(明度)a(+が赤、-が緑の度合)b(+が黄、-が青の度合)|b/a|はstart時の値を1.0として経時の変化率を示し、値が大きい程黄色っぽく、小さい程緑っぽいことを示す。 【0024】 【表2】 【0025】 【発明の効果】 もぎたての新鮮な枝豆の塩茄品を自然解凍するだけで食することができる塩味茄枝豆の冷凍品及びその包装品を提供することができる。 包装材の色により茄枝豆の鮮やかなグリーン色の退色を抑制することができる。 |
訂正の要旨 |
(訂正の要旨) (1)特許請求の範囲の請求項1に係る記載「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透しているソフト感のある塩味茄枝豆の冷凍品。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している緑色の維持されたソフト感のある塩味茄枝豆の冷凍品。」と訂正する。 (2)特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を特許請求の範囲の減縮を目的として削除する。 (3)特許請求の範囲の請求項4に係る記載「【請求項4】茄枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする請求項1,請求項2又は請求項3記載の塩茄枝豆の冷凍品。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「【請求項2】茄枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする請求項1記載の塩茄枝豆の冷凍品。」と訂正する。 (4)特許請求の範囲の請求項5に係る記載「【請求項5】請求項1,請求項2,請求項3又は請求項4記載の塩茄枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「【請求項3】請求項1又は請求項2記載の塩茄枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」と訂正する。 (5)明細書中の段落【0021】及び【0022】の「実施例3」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「参考例」と訂正する。 (6)明細書中の段落【0023】の「実施例4」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「実施例3」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-06-05 |
出願番号 | 特願平5-154105 |
審決分類 |
P
1
651・
111-
YA
(A23B)
P 1 651・ 113- YA (A23B) P 1 651・ 534- YA (A23B) P 1 651・ 531- YA (A23B) P 1 651・ 121- YA (A23B) P 1 651・ 14- YA (A23B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 滝本 晶子 |
特許庁審判長 |
徳廣 正道 |
特許庁審判官 |
佐伯 裕子 大高 とし子 |
登録日 | 1998-09-25 |
登録番号 | 特許第2829817号(P2829817) |
権利者 | 日本水産株式会社 |
発明の名称 | 塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品 |
代理人 | 須藤 阿佐子 |
代理人 | 矢野 裕也 |
代理人 | 羽鳥 修 |
代理人 | 久保田 藤郎 |
代理人 | 藤 文夫 |
代理人 | 戸田 親男 |
代理人 | 矢野 裕也 |
代理人 | 久保田 藤郎 |
代理人 | 藤 文夫 |
代理人 | 荒船 博司 |
代理人 | 須藤 阿佐子 |
代理人 | 酒井 一 |
代理人 | 大津 洋夫 |
代理人 | 白川 一一 |