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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  A61M
管理番号 1048444
異議申立番号 異議1999-71934  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-05-17 
確定日 2001-08-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2826655号「血液透析装置の洗浄消毒方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2826655号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1、手続の経緯
本件特許第2826655号に係る特許出願は、優先権主張を伴う平成7年11月2日(優先日、平成7年4月14日)の出願であって、平成10年9月18日に特許権の設定登録がされた後、平成11年5月17日付けで特許異議申立人・三浦電子株式会社及び興研株式会社より、その請求項1ないし3に係る特許に対して特許異議申立がなされたものである。
そして、平成12年3月15日付けで取消理由が通知され、平成12年5月30日付けで訂正請求がされ、当該訂正について平成12年12月14日付けで訂正拒絶理由が通知され、それに対して平成13年2月23日付けで意見書が提出されたものである。

2、訂正の適否についての判断
イ、訂正の内容
本件特許に係る平成12年5月30日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書に記載された次のとおりに訂正するものである。

A,訂正事項a
【発明の名称】の欄の、
「血液透析装置の洗浄消毒方法及び洗浄消毒剤」
を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「血液透析装置の洗浄消毒方法」
と訂正する。

B,訂正事項b
【特許請求の範囲】に欄の、
「【請求項1】血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法。
【請求項2】血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化することを特徴とする請求項1に記載の洗浄消毒方法。
【請求項3】上記電解強酸性水を、水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管へ導入するか又は透析液供給装置の透析液貯液タンクへ導入し、次いで、透析液供給装置内の透析液配管、透析液を透析液供給装置から患者監視装置へと供給するための配管、並びに患者監視装置の透析液配管に送液して洗浄消毒を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄消毒方法。」
を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、PH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法。
【請求項2】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化することを特徴とする請求項1に記載の洗浄消毒方法。
【請求項3】上記電解強酸性水を、水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管へ導入し、次いで、透析液供給装置内の透析液配管、透析液を透析液供給装置から患者監視装置へと供給するための配管、並びに患者監視装置の透析液配管に送液して洗浄消毒を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄消毒方法。」
と訂正する。
(下線部は訂正個所を示す。以下、同じ。)

C,訂正事項c
特許明細書の【0001】欄の、
「【発明の属する技術分野】本発明は、血液透析装置の消毒洗浄方法及び洗浄消毒剤に関する。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【発明の属する技術分野】本発明は、血液透析装置の消毒洗浄方法に関する。」
と訂正する。

D,訂正事項d
特許明細書の【0025】欄の、
「即ち、本発明は、血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「即ち、本発明は、(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。」
と訂正する。

E,訂正事項e
特許明細書の【0026】欄の、
「特に、本発明は、血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化する洗浄消毒方法を提供するものである。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「特に、本発明は、(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化する血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。」
と訂正する。

F,訂正事項f
特許明細書の【0041】欄の、
「更に、必要に応じて、水処理装置、特にその精製水を貯蔵するタンク内面等も洗浄消毒する。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「更に、水処理装置、特にその精製水を貯蔵するタンク内面等も洗浄消毒する。」
と訂正する。

G,訂正事項g
特許明細書の【0075】欄の、
「【実施例】
以下に実施例及び試験例を掲げて本発明を一層詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【実施例】
以下に参考例及び試験例を掲げて本発明を一層詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。」
と訂正する。

H,訂正事項h
特許明細書の【0076】欄の、
「実施例1
(a)電解強酸性水の製造
電解強酸性水生成装置を用いてpH2.4、酸化還元電位1155mVの電解強酸性水を得た。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「参考例1(a)電解強酸性水の製造
電解強酸性水生成装置を用いてpH2.4、酸化還元電位1155mVの電解強酸性水を得た。」
と訂正する。

I,訂正事項i
特許明細書の【0096】欄の、
「試験例1
(a)30人用の多人数用透析装置において、透析行程終了後、透析液配管系を常法に従い事後水洗し、事後水洗完了後、透析液供給装置のタンク内の水洗水を排水した。透析液供給装置のサプライタンクに、洗浄消毒液を満水状態とし、配管を経由して、30台の患者監視装置に室温にて送液し、そのまま配管内に洗浄消毒剤を一夜貯留し、翌早朝、水洗にて洗浄消毒剤を洗い流した。以上の作業を6日間連続して行なった。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「参考例2 (a)30人用の多人数用透析装置において、透析行程終了後、透析液配管系を常法に従い事後水洗し、事後水洗完了後、透析液供給装置のタンク内の水洗水を排水した。透析液供給装置のサプライタンクに、洗浄消毒液を満水状態とし、配管を経由して、30台の患者監視装置に室温にて送液し、そのまま配管内に洗浄消毒剤を一夜貯留し、翌早朝、水洗にて洗浄消毒剤を洗い流した。以上の作業を6日間連続して行なった。」
と訂正する。

J,訂正事項j
特許明細書の【0098】欄の、
「1、実施例1(a)に記載の方法で作成した電解強酸性水(6日間毎日)
2、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
3、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)+ホルマリン水溶液(第1日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
ホルマリン水溶液濃度:3.8重量%。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「1、参考例1(a)に記載の方法で作成した電解強酸性水(6日間毎日)
2、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
3、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)+ホルマリン水溶液(第1日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
ホルマリン水溶液濃度:3.8重量%。」
と訂正する。

K,訂正事項k
特許明細書の【0103】欄の、
「上記2及び3の洗浄消毒剤中のエンドトキシン濃度及び細菌数を測定することは困難なので、透析前の事前水洗行程終了直前における水洗に使用したRO水中のエンドトキシ濃度及び細菌数を、実施例1の方法と同一の方法を用いて測定することにより、それぞれの洗浄消毒剤の効果を比較した。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「上記2及び3の洗浄消毒剤中のエンドトキシン濃度及び細菌数を測定することは困難なので、透析前の事前水洗行程終了直前における水洗に使用したRO水中のエンドトキシ濃度及び細菌数を、参考例1の方法と同一の方法を用いて測定することにより、それぞれの洗浄消毒剤の効果を比較した。」
と訂正する。

L,訂正事項l
特許明細書の【0114】欄の、
「試験例2
上記試験例1で使用した30人用多人数透析装置において、1か月間に、洗浄消毒及び水洗に使用するRO水の量を、下記条件で比較した。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「試験例1 上記参考例2で使用した30人用多人数透析装置において、1か月間に、洗浄消毒及び水洗に使用するRO水の量を、下記条件で比較した。」
と訂正する。

(なお、上記訂正事項J,Kにおけるマルで括った数字は特許庁のシステム上表示することができないので単なる数字で代用した。正しくは訂正明細書の原本参照。以下、当該箇所について同じ。)


ロ、訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否
A,訂正事項aについて
【発明の名称】の欄の訂正は、下記の請求項1ないし3の訂正にあわせて発明の名称を限定するものであるから、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

B,訂正事項bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1、2について、「血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、」
を、
「(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、」
と訂正するものであって、透析液又は精製水が接触する箇所を限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、この点は特許明細書の【0038】欄、【0039】欄に記載されている事項であり、かつ、血液透析装置の電解強酸性水による消毒洗浄という課題に変更が生じるものではないから特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、請求項1、2に係る訂正事項bは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

また、訂正事項bの請求項3に係る訂正は、「配管へ導入するか又は透析液供給装置の透析液貯液タンクへ導入し、」を「配管へ導入し、」とするもので、請求項3において、電解強酸性水を導入する箇所から、「透析液供給装置の透析液貯液タンク」を削除して「水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管」に限定するものである。
したがって、請求項3に係る訂正事項bは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

C,訂正事項cについて
特許明細書には洗浄消毒剤それ自体に関する発明は開示されていないと認められるところ、それにあわせて明りょうでない記載の釈明を目的として、【発明の属する技術分野】の記載を訂正するものである。
したがって、訂正事項cは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

D,訂正事項dについて
訂正事項dは、明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の記載と特許明細書の【0025】欄の記載を整合させるものである。
したがって、訂正事項dは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

E,訂正事項eについて
訂正事項eは、明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の記載と特許明細書の【0026】欄の記載を整合させるものである。
したがって、訂正事項eは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

F,訂正事項fについて
特許明細書の【0041】欄の「必要に応じて」は部分的な洗浄消毒を含むこととなり、特許請求の範囲の記載と整合しないおそれがあるところ、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除するものである。
したがって、訂正事項fは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

G,訂正事項gについて
特許明細書の【0075】欄の「実施例及び試験例」は、「参考例及び試験例」としたほうがより妥当であるところこのように訂正したものである。
したがって、訂正事項gは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

H,訂正事項hについて
特許明細書の【0076】欄の「実施例1」は「参考例1」としたほうがより妥当であるところこのように訂正したものである。
したがって、訂正事項hは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

I,訂正事項iについて
特許明細書の【0096】欄の「試験例1」は「参考例2」としたほうがより妥当であるところこのように訂正したものである。
したがって、訂正事項iは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

J,訂正事項jについて
特許明細書の【0098】欄の、「1、実施例1」は「1、参考例1」としたほうがより妥当であるところこのように訂正したものである。
したがって、訂正事項jは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

K,訂正事項kについて
特許明細書の【0103】欄の「実施例1」は「参考例1」としたほうがより妥当であるところこのように訂正したものである。
したがって、訂正事項kは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

L,訂正事項l
特許明細書の【0114】欄の「試験例2 上記試験例1」は「試験例1 上記参考例2」は、上記訂正事項iにおいて、「試験例1」を「参考例2」と訂正したことにより必要となった訂正である。
したがって、訂正事項lは、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。

よって、この訂正は、訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否に関しては、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するものである。


ハ、独立特許要件の判断
A,訂正発明
訂正発明は、訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された以下のとおりのものである。(以下、それぞれ、「訂正発明1ないし3」という。)

【請求項1】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、PH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法。
【請求項2】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化することを特徴とする請求項1に記載の洗浄消毒方法。
【請求項3】上記電解強酸性水を、水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管へ導入し、次いで、透析液供給装置内の透析液配管、透析液を透析液供給装置から患者監視装置へと供給するための配管、並びに患者監視装置の透析液配管に送液して洗浄消毒を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄消毒方法。

B,甲第2号証記載の発明
これに対して、上記平成12年3月15日付け取消理由で通知した、優先権主張の日が本件に係る優先権主張の日前であって、本件に係る出願の日後に特許出願され、出願公開された特願平7-337862号(特許異議申立人の提示した甲第1号証。)に記載された発明のうち、当該優先権主張の基礎とされた出願(特願平7-22268号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「引用例1」という。特許異議申立人の提示した甲第2号証に同じ。)には、次の発明が記載されている。

(1)特許請求の範囲には、
「【請求項1】 電解により得られる酸性水を人工透析装置の消毒液注入口に供給して、該酸性水を人工透析装置を構成するタンク、配管、血液交換浸透膜部に所定時間循環または滞留させて、人工透析装置の内部を洗浄殺菌する電解生成酸性水を用いた人工透析装置の洗浄殺菌方法。
【請求項2】 陽極と陰極を有し、その間を隔膜で仕切られた電解槽に無機添加物を溶融させた上水(水道水または逆浸透膜透過水)を供給し、該両電極に所定の電圧を有する直流を印加し、陽極側から、ph3.2以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも870mV以上を示す酸性水を得て、この酸性水を、人工透析装置の消毒液注入口に供給して同装置内を洗浄殺菌する請求項1記載の方法。
【請求項3】 陽極と陰極を有し、隔膜を有しない電解槽に、無機添加物を溶融させた上水を供給し、該両電極に所定の電圧を有する直流を印加し、陽極側から、ph6.5以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも800mV以上を示す酸性水を得て、この酸性水を、人工透析装置の消毒液注入口に供給して同装置内を洗浄殺菌する請求項1記載の方法。
【請求項4】 請求項3記載の酸性水は、電解槽に、無機添加物と無機酸を溶融させた上水を供給して得られたものを使用することを特徴とする請求項3記載の人工透析装置の洗浄殺菌方法。
【請求項5】 陽極側から得た酸性水に、無機酸または/およびハロゲン化物質を混合して、混合された結果、ph5.0以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも800mV以上を示すようにして得られた液を、人工透析装置の消毒液注入口に供給して装置内を洗浄殺菌する請求項1記載の方法。
【請求項6】 請求項2ないし5記載の酸性水は、少なくても5ppmのCl2、HOCl、O3等の酸化物質、塩素化物質を含む酸性水であることを特徴とする請求項2記載の人工透析装置の洗浄殺菌方法。
【請求項7】 電解により得られる酸性水を人工透析装置の消毒液注入口に供給して、該酸性水を人工透析装置を構成するタンク、配管、血液交換浸透膜部に所定時間循環または滞留させて、人工透析装置の内部の配管類に付着する付着物を分解除去する方法。
【請求項8】 電解により得られる酸性水を人工透析装置の消毒液注入口に供給して、該酸性水を人工透析装置を構成するタンク、配管、血液交換浸透膜部に所定時間循環または滞留させて、人工透析装置の内部からエンドトキシン(細菌の死骸)を除去する方法。
【請求項9】 電解により得られるアルカリ水(還元水)を人工透析装置の消毒液注入口に供給して、人工透析装置を構成するタンク、配管、血液交換浸透膜部に所定時間循環または滞留させた後、前記電解により得られる酸性水を人工透析装置の消毒液注入口に供給して、該酸性水を人工透析装置を構成するタンク、配管、血液交換浸透膜部に所定時間循環または滞留させて、人工透析装置の内部を洗浄殺菌する電解生成酸性水を用いた人工透析装置の洗浄殺菌方法。
【請求項10】 請求項9記載の酸性水は、ph6.5以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも800mV以上を示す酸性水であって、この酸性水を、人工透析装置の消毒液注入口に供給して同装置内を洗浄殺菌する請求項9記載の方法。
【請求項11】 請求項9および10記載の酸性水は、少なくても5ppmのCl2、HOCl、O3等の酸化物質、塩素化物質を含む酸性水であることを特徴とする請求項9記載の人工透析装置の洗浄殺菌方法。」
と記載され、

その【0011】ないし【0016】欄には、
「【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような透析の前後にわたって、次亜塩素酸ナトリウム溶液や酢酸溶液を主体とした消毒液を使用して、1〜3時間もの長時間の洗浄殺菌を行っても、透析装置内の細菌、真菌、ウイルス等を完全に除去することはできず、感染症の発生を完全に阻止することはできなかった。特に、透析液や水それ自体に微量に含まれるカルシウム等の栄養源が、配管等の内部に付着し、ここに新たな雑菌等が繁殖し、この雑菌等から生じる毒素(酵素類)や、細菌自体の死骸(エンドトキシン)が、配管内に残留して、これが、患者の体内に血液とともに環流されることにより、透析施療後、患者は、原因不明の発熱に脅かされる等の問題点があった。
【0012】
また、次亜塩素酸ナトリウム等を用いた消毒殺菌は、長年の使用により、残留成分による人体への悪影響や、他の環境への悪影響が懸念されているという問題点がある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
そこで、この発明は、透析前後の透析液供給装置内の洗浄殺菌を短時間に、かつ、確実に行わしめ、さらには、配管内に付着するカルシウム等の栄養源を確実の除去せしめ、エンドトキシン等の体内発熱物質が、透析液を通じて、体内に混入することのないようにしたものである。
【0014】
このため、本発明は、陽極と陰極を有し、その間を隔膜で仕切られた電解槽に食塩などの無機添加物を溶解させた上水(水道水またはRO水:逆浸透膜透過水)を供給し、該両電極に所定の電圧を有する直流を印加し、陽極側から、少なくても5ppmのCl2、HOCl、O3等の酸化物質、塩素化物質を含み、ph3.2以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも870mV以上
を示す酸性水を得て、この酸性水を、前記装置の消毒液注入口21に供給して装置内を洗浄殺菌することにより装置内の洗浄殺菌を短時間に、かつ、確実に行わしめるとともに、配管内の透析液の付着を除去する洗浄殺菌方法を確立したものである。
【0015】
また、本発明は、陽極と陰極を有し、その間を隔膜で仕切られた電解槽に食塩水と塩酸などの無機添加物を溶解させた上水を供給し、該両電極に所定の電圧を有する直流を印加し、陽極側から、少なくても5ppmのCl2、HOCl、O3等の酸化物質、塩素化物質を含み、ph6.5以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも800mV以上を示す酸性水を得て、この酸性水を、前記装置の消毒液注入口21に供給して装置内を洗浄することにより、装置内の殺菌を短時間に、かつ、確実に行わしめるとともに、配管内の透析液の付着を除去する洗浄殺菌方法を確立したものである。
【0016】
さらには、本発明は、陽極と陰極を有し、その間を隔膜で仕切られた電解槽に食塩水と塩酸などの無機添加物を溶解させた上水を供給し、該両電極に所定の電圧を有する直流を印加し、陽極側から、酸性水を得て、この酸性水に、塩酸などの無機酸と、次亜塩素酸ナトリウムなどのハロゲン化物質を混合して、混合された結果、少なくても5ppmのCl2、HOCl、O3等の酸化物質、塩素化物質
を含み、ph5.0以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも800mV以上を示すようにして得られた液を、前記前記装置の消毒液注入口21に供給して装置内を洗浄殺菌することにより装置内の洗浄殺菌を短時間に、かつ、確実に行わしめるとともに、配管内の透析液の付着を除去する洗浄殺菌方法を確立したものである。」
と記載され、

その【0044】ないし【0048】欄には、
「【0044】
この場合の洗浄方法は、次のようなものである。
(1)アクア酸化水生成装置(商品名「オキシライザー」:三浦電子株式会社製)を稼働して、PH2.5以下の酸性水を得る。
(2)オキシライザーの貯水タンクにアクア酸化水(酸性水)を貯水する。
(3)透析終了後、RO水で事後洗浄を30分以上行い、透析装置のセントラル内のタンク、配管、コンソール内配管等の洗浄を行う。
【0045】
(4)オキシライザーの貯水タンクから、アクア酸化水を透析装置の薬液注入口21に供給する。または、貯水タンクから透析装置の貯液タンク106に直接、あるいは、熱湯注入口22を介して供給する。
(5)アクア酸化水による洗浄(液送)時間は、15分以上として、配管およびコンソール各部への配管等を充分に洗浄する。
(6)貯液タンク106にアクア酸化水が残っているまま、5時間以上滞留させる(したがって、コンソール配管内にもアクア酸化水が滞留する。)。
【0046】
(7)透析開始直前にRO水等で事前水洗(30分以上)を行ない、その後、排出(ドレン)を行う。
(8)透析開始。
このようにして行った透析作業の後、エンドトキシンを測定し、従来の次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いて洗浄殺菌した場合とで比較した。エンドトキシンの測定は、市販の株式会社生化学工業社製測定キットを用いて、その定量を検証した。
【0047】
その結果、液中に存するエンドトキシンは、従来の次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いて洗浄した場合には、セントラル部で、5820.6、コンソール部(コンソールボックス263)では、4160.4(単位は、いずれもPg/ml)であったものが、アクア酸化水を使用して洗浄した場合には、セントラル部で、22.1〜1以下に、コンソール部(コンソールボックス263)では、115.1〜1以下と激減した。
【0048】
このことから、アクア酸化水を用いて透析装置を洗浄した場合には、これまでの次亜塩素酸ナトリウムを用いて洗浄した場合に比し、殺菌性能が、優れていることはもとより、エンドトキシンが除去できるという、従来の次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄では認められない極めて優れた効果を有することが知りえた。」
と記載され、

また、その図2、3には、
100・・・浄水注入口、
101・・・原液(A液)注入口、
102・・・原液(B液)注入口、
105・・・混合タンク、
106・・・(透析液の)貯液タンク、
109・・・B液計量カップ、
110・・・A液計量カップ、
等が記載されているものと認められる。


C,対比・判断
[訂正発明1について]
訂正発明1と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された「少なくても5ppmのCl2、HOCl、O3等の酸化物質、塩素化物質を含み、ph5.0以下、2.0以上を示し、その酸化還元電位が、少なくとも800mV以上を示すようにして得られた酸性水」は訂正発明1の「PH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水」に相当し、以下、同様に、「混合タンク105」は「透析液混合タンク」に、「貯液タンク106」は「透析液貯液タンク」に、「コンソールボックス」は「患者監視装置」に、「セントラル部」は「透析液供給装置」に、相当するから、両者は、
「(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管を、
pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒する血液透析装置の洗浄消毒方法。」
である点で一致し、訂正発明においては、
「(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク」
についても電解強酸性水で洗浄消毒する対象としているのに対し、引用例1には、「水処理装置の精製水タンク」及び「透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク」については記載がなく、「浄水注入口100」及び「原液(A液)注入口101、原液(B液)注入口102」について記載されているのみである点で相違する。

したがって、「浄水注入口100」には「水処理装置の精製水タンク」が接続され、「原液(A液)注入口101、原液(B液)注入口102」には「透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク」が接続されているであろうことは、当業者であれば容易に想到できる事項ではあるものの、引用例1には、上述のように、「水処理装置の精製水タンク」及び「透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク」については記載がなく、それらを電解強酸性水で洗浄消毒する点についても記載はないものである。
そして、それらの記載がないことにより、訂正発明1は引用例1に記載された発明と同一であると言うことはできず、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとすることはできない。

[訂正発明2、3について]
訂正発明2については、その請求項2の記載からみて請求項1を引用しており、訂正発明3については、その請求項3の記載からみて請求項1又は2を引用していることは明らかである。
そして、上記[訂正発明1について]で述べたように、訂正発明1は引用例1に記載された発明と同一であると言うことはできず、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとすることはできないものであるから、訂正発明1を引用し、技術的限定を加えている訂正発明2、3は引用例1に記載された発明と同一であると言うことはできず、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとすることはできない。

よって、この訂正は、独立特許要件に関しては、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

ニ、訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、かつ、特許法120条の4第3項で準用する同法第126条第2、3、4項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


3、特許異議申立についての判断
イ、申立の理由の概要
特許異議申立人・三浦電子株式会社及び興研株式会社は、優先権主張の日が本件に係る特許出願の優先権主張の日前であって、本件に係る出願の日後に特許出願され、その後出願公開された特願平7-337862号に係る公開公報を甲第1号証として提示し、また、甲第1号証に係る出願の優先権主張の基礎とされた特願平7-22268号の願書に最初に添付した明細書又は図面を甲第2号証として提示し、
(1)本件の請求項1ないし3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから取り消されるべきである。
(2)本件の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に係る特許出願の発明と同一であるから特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものであるから取り消されるべきである。
と主張している。

ロ、判断
しかしながら、本件発明1ないし3は、上記「2、訂正の適否についての判断」に記載したとおりの理由で、訂正が認められるものであって、甲第2号証の存在に拘わらず特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(なお、甲第1号証のみに記載された発明は、特許法第41条第2、3項の規定から明らかなように、特許法第29条の2にいう、「当該特許出願の日前の他の特許出願」に係る発明とはいえない。)

また、訂正が認容された本件発明1ないし3は、上記「2、訂正の適否についての判断」に記載したとおりの理由で、甲第2号証に記載されていない「水処理装置の精製水タンク」及び「透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク」及びそれらを電解強酸性水で洗浄消毒する点を要件としているのに対し、甲第1号証に係る特許出願は本件特許出願の後の出願であり、優先権主張が可能な範囲でそれらの要件について特許請求の範囲に記載することは甲第2号証の記載からみて今後ともあり得ない。
したがって、本件の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に係る特許出願の発明と同一であるから特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものである旨の特許異議申立人の主張は認められない。


4、むすび
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許異議の申立の理由及び証拠方法によっては取り消すことができない。
また、他に訂正後の請求項1ないし3に係る発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
血液透析装置の洗浄消毒方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク
を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法。
【請求項2】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク
を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化することを特徴とする請求項1に記載の洗浄消毒方法。
【請求項3】 上記電解強酸性水を、水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管へ導入し、次いで、透析液供給装置内の透析液配管、透析液を透析液供給装置から患者監視装置へと供給するための配管、並びに患者監視装置の透析液配管に送液して洗浄消毒を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄消毒方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血液透析装置の消毒洗浄方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、例えば腎不全の患者に対しては、血液透析療法が行なわれている。即ち、腎不全になると、本来、尿によって排泄される尿毒素が貯留し、また、尿量の減少により水がたまり、体液の電解質の調節ができずアシドーシスに傾く症状が現れるので、人工腎臓(ダイアライザー)を備えた血液透析装置を用い、人工腎臓の半透膜を介して、血液と透析液とを接触させ、尿毒素物質や過剰水分を除去し、電解質の調節とアシドーシスの改善を行なっている。
【0003】
この目的に使用する血液透析装置には、患者1名の透析療法を行なう個人用透析装置から数十人の透析療法を同時に行なう多人数用透析装置まで各種の規模のものがあるが、血液透析装置は、基本的には、主要な構成として次のような装置を包含するシステムである。
【0004】
(1)中空糸状の半透膜からなる人工腎臓(ダイアライザー)が接続された患者監視装置(「ベッドサイドコンソール」とも呼ばれている)、
(2)透析液A剤原液及び透析液B剤原液を精製水で稀釈して透析液を調製し、上記患者監視装置に透析液を供給する透析液供給装置(「セントラル」とも呼ばれている)、
(3)患者監視装置と透析液供給装置とを連結する配管、
(4)水道水から透析液作成のための稀釈用精製水を調製する、カートリッジフィルター、活性炭フィルター、軟水装置、逆浸透圧装置(RO装置)等からなる水処理装置、及び
(5)透析液調製のために使用する透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク。
【0005】
これら透析装置の各部位、特にB剤原液タンクは、B剤溶解剤の投入やB剤調製のため、タンクの開閉が自由であり、1日の血液透析治療中、貯留し続けなければならず、また、重炭酸ナトリウム等の低濃度溶液のため、落下細菌等に汚染されやすく、このため、容易に透析液供給装置内の配管、透析液供給ライン、患者監視装置の透析液配管等に、細菌やエンドトキシンが混入されやすい構造となっている。
【0006】
透析液供給装置、透析液供給ライン、患者監視装置の内部透析液配管等は、長期に使用され、配管内に滞留しやすい場所や炭酸塩(炭酸カルシウム)の配管内付着が細菌やエンドトキシンの温床となり、配管内が汚染され、細菌繁殖の原因となっている。また、最近では、ハイパフォーマンスメンブレン透析器の使用に伴う低分子蛋白質の除去による配管内の汚れも指摘されている。
【0007】
一方、逆浸透圧装置に使用されるRO膜により作製される精製水(一般的に「RO水」と呼ばれる)は、密閉のRO水タンクに貯液され、加温及び脱気を行なった後、透析液原液の希釈調製や透析治療の前後の水洗及び洗浄消毒剤の希釈用として使用するが、脱塩素水であるため、RO水の対流やRO膜の傷み等の原因により、細菌やエンドトキシンが発生しやすい。
【0008】
また、A剤原液タンクは高濃度溶液であり、少量の酸を含有するので、細菌やエンドトキシンは見られないといわれてきたが、タンクの開閉が自由であるため、最近ではこれらが存在する可能性も出てきている。
【0009】
ここで、上記エンドトキシンとは、グラム陰性菌、特にグラム陰性桿菌の細胞外壁層に存在し、親水性の多糖部分と疎水性のリピドA(Lipid A)からなるリポ多糖体(lipopolysaccharide,LPS)であり、IL-1(インターロイキン-1)、TNF(腫瘍壊死因子)、IFN(インターフェロン)等の液性因子を誘導する作用、発熱性、致死毒性、組織を壊死させる作用等を有しており、水道水中、空気中、手、器具等のいたるところに存在している。
【0010】
透析患者の抗エンドトキシン抗体陽性率は高く、更に、透析患者ではIL-1が産生されやすいので、透析液や配管をエンドトキシンフリーの状態にする必要がある。
【0011】
更に、近年、ハイパフォーマンス膜ないし高透過性(highly permeable)の膜が臨床で使用されるようになって、逆濾過や逆拡散により、血液透析治療を行なっている間に、パイロジェンが患者の血液中に混入し、患者に発熱等の悪影響を与えることが大きな問題となっている。上記パイロジェンとして、最も発熱活性が高く、原因の大部分を占めるものがエンドトキシンであるとされている。
【0012】
細菌が繁殖したり、エンドトキシンが多く発生すると、患者に悪影響を与えるので、従来から、1日の透析治療終了後に、次亜塩素酸ナトリウム、酢酸、ホルマリン等の薬剤を用いて洗浄、消毒を行なっている。
【0013】
また、近年、重炭酸塩系の透析液の普及により、配管内の炭酸塩(炭酸カルシウム)析出による患者監視装置のトラブルが生じることがあり、そのため、炭酸塩除去のため、氷酢酸、塩酸、クエン酸等の酸を用いて酸洗浄している。
【0014】
これら従来から使用されている洗浄消毒剤は、殺菌の目的にはほぼ満足できる結果を達成しているが、これら従来の洗浄消毒剤は、毒性が高いので、洗浄消毒に使用後、水洗により完全に除去する必要があり、大量の水を必要とする問題がある。
【0015】
また、上記次亜塩素酸ナトリウムやホルマリン等の従来の洗浄消毒剤は、作業上、刺激臭が強く、皮膚への付着による刺激痛や粘膜等への悪影響もある。
【0016】
しかも、これら従来の一般的洗浄消毒方法では、エンドトキシンの除去ないし不活性化は十分ではなく、通常、透析液が透析装置を通過している間にエンドトキシン濃度が徐々に上昇し、末端の患者監視装置でのエンドトキシン濃度は、水道水中の濃度と差がなくなってしまうこともしばしばである。
【0017】
このエンドトキシンの悪影響を避けるため、水道水中のエンドトキシンを除去すべく、水処理装置において逆浸圧透膜(RO膜)が使用されている。水道水中のエンドトキシンは、この水処理装置のRO濾過膜により除去されるが、その反面、上記のように、水道水中の消毒用塩素も除去されてしまうので、RO濾過膜処理した水(RO水)を使用して調製した透析液は細菌等の微生物の影響を受けやすいという問題点がある。
【0018】
また、エンドトキシン除去フィルターも開発され、一定の効果が得られているが、エンドトキシン除去フィルターを設置することはコストアップにつながる、透析装置が複雑化する、エンドトキシンの吸着により、フィルターが劣化する等の問題がある。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
このように、透析装置の洗浄消毒、特に、エンドトキシンの除去ないし不活性化については、その効果の面、コストの面等において、より一層効果的な洗浄消毒方法及び洗浄消毒剤の開発が要請されている。
【0020】
従って、本発明の目的は、透析装置の洗浄すべき箇所、代表的には、例えば、透析液が接触する透析液供給装置の内部配管、患者監視装置の透析液側内部配管及び各装置を連結する配管や、水処理装置のRO水タンク、透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクの消毒(殺菌)が行なえ、しかも、エンドトキシンの除去ないし不活性化も可能で、短時間で効率良く、且つ、水の使用量も少なくて済む洗浄消毒方法を提供することにある。
【0021】
また、本発明は、上記方法で使用するのに適した洗浄消毒剤を提供するものでもある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的達成のため、鋭意研究を重ねた結果、電解強酸性水を、洗浄消毒剤として使用することを着想した。
【0023】
しかしながら、電解強酸性水を透析装置の洗浄消毒に使用した例はなく、透析患者に対する影響も知られていなかった。しかも、電解強酸性水には、細菌に対する殺菌作用が知られているだけであって、エンドトキシンを不活性化ないし除去する作用については、全く不明であった。しかも、電解強酸性水は、それ自体不安定であり、蛋白質等の有機物の影響を受けると殺菌作用の持続効果がなくなるとされているので、透析装置の透析液配管系を洗浄消毒する間にその殺菌作用が失活するかもしれないとの危倶があった。
【0024】
ところが、本発明者の研究によれば、電解強酸性水を洗浄消毒剤として用いることにより、細菌に対する殺菌作用が発揮されるばかりでなく、従来の洗浄消毒法では除去ないし不活性化が充分ではなかったエンドトキシンをも効果的に除去ないし不活性化し、しかも、その作用が、洗浄すべき透析液配管系の末端においても低下せず、患者や透析装置に悪影響を与えることもないことを見出した。本発明は、この知見に基づき、更に種々の検討を加えて完成されたものである。
【0025】
即ち、本発明は、(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク
を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。
【0026】
特に、本発明は、(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク
を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化する血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。
【0027】
また、本発明は、電解強酸性水からなることを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒剤を提供するものである。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳述する。
【0029】
まず、本発明の洗浄消毒方法により洗浄消毒される血液透析装置の典型的な使用法を、多人数用透析システムの構成の概略を示す図1を用いて説明する。
【0030】
水道水を配管1から水処理装置2に導入し、該水処理装置2を用いて処理し、水道水中に含まれるカルシウム、マグネシウム等の電解質成分、残留塩素、懸濁物等を除去し、精製水を調製する。通常、水処理装置2にRO膜を用いた逆浸透装置を使用して得られる精製水(RO水)が好ましく使用されている。
【0031】
得られた精製水は、配管3を経由して多人数用透析液供給装置4に導き、その内部の混合タンク内で、透析液A剤原液タンク5及び透析液B剤原液タンク6から供給される透析液A剤原液及び透析液B剤原液を一定の比率で稀釈・混合し、透析液を調製する。調製された透析液は、通常、透析液供給装置4の内部に備えられた透析液貯液タンクに貯液される。
【0032】
調製された透析液を、配管7aを通して、患者監視装置8に供給する。図1には、一つの透析液供給装置4、一つの配管7a及び一つの患者監視装置8のセットを図示しているが、多人数用のシステムであるので、実際は、配管7aから分岐した複数の配管7b、7c、7d、7e、7f等及びこれら複数の配管と連結された複数の患者監視装置(図示せず)が備えられており、場合によっては、透析液供給装置を複数台使用してこれに複数の配管及び複数の患者監視装置が連結されている大規模なシステムからなる透析装置もある。
【0033】
患者監視装置8は、コンソールとも呼称され、多人数用透析液供給装置4からの透析液供給と、患者からの血液体外循環の両者を安全に行なうための装置である。普通、透析液系と血液系に分けられ、透析液系としては、透析液温度制御装置、透析液圧計、温度計、透析液流量計、漏血計、除水制御装置等があり、血液系としては血液ポンプ、動脈側陰圧検出器、動・静脈回路内圧計、気泡検出器、持続注入ポンプ等がある。これらの装置が連携して機能しており、透析中の条件をモニターし、その条件を満たすように連続的に制御と監視を行なう装置である。
【0034】
患者監視装置8には、人工腎臓ないしダイアライザー9が接続され、ダイアライザー9には、半透膜を介して体外循環血液と透析液とが接し、尿毒素物質や水分を除去し、電解質の調節とアシドーシスの改善を行なうようになっている。
【0035】
ダイアライザー9において血液との物質交換を済ませた透析液は、配管10から廃水として排出する。
【0036】
個人用透析装置のシステム概略を図2に示す。上記図1の場合と同様に、水道水を配管11から水処理装置12に導入し、該水処理装置12で処理して精製水を調製し、得られた精製水を、配管13を通して、透析液供給装置と患者監視装置とが一体化された個人用透析装置18に供給し、ここで、透析液A剤原液タンク15及び透析液B剤原液タンク16から供給される透析液A剤原液及び透析液B剤原液を一定の比率で稀釈・混合し、透析液を調製する。調製された透析液を、ダイアライザー19に供給し、装置18内に内蔵された患者監視装置の制御下で、体外循環血液との物質交換を行なった後、透析液を配管20から廃水として排出する。
【0037】
このように、個人用透析装置は、透析液供給装置と患者監視装置とが一体化され、通常、透析液A剤原液タンク15及び透析液B剤原液タンク16も同一のコンソール内にコンパクトに収納されている点が異なっているだけであって、構成及び原理は、多人数用の透析装置と同一である。
【0038】
本発明の洗浄消毒方法は、上記のような透析装置内の細菌又はエンドトキシンが発生する箇所、特に、透析液又は精製水が接触する箇所を洗浄消毒するものである。
【0039】
本発明方法で洗浄消毒すべき箇所は、より具体的には、(1)透析液供給装置に付随する配管やタンク、例えば、透析液供給装置内の透析液混合タンク、透析液貯液タンク及び透析液配管、透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管、患者監視装置内の透析液側配管、(2)水処理装置に付随する配管やタンク、例えば、精製水タンク、該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、(3)透析液A剤原液タンク、透析液B剤原液タンク等である。
【0040】
透析液配管系の洗浄消毒すべき箇所としては、例えば、透析液供給装置内の精製水や透析液原液や調製された透析液が接触する配管や貯槽(サプライタンク等)、及び患者監視装置の透析液側内部配管内面、これら各装置を連結する配管内面等がある。なお、ダイアライザー9は、血液透析治療中のみ使用されるものであり、滅菌されたディスポーザブル製品であり、透析治療が終了すると廃棄されるため、洗浄消毒の際は透析液側の給・排液部分を各々ダイアライザーより取り外して連結させる。本発明では、この連結された配管系をも、患者監視装置の透析液内部配管系として洗浄消毒すべき面に含める。
【0041】
更に、水処理装置、特にその精製水を貯蔵するタンク内面等も洗浄消毒する。
【0042】
更に、透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクも洗浄消毒する。これらタンクについては、A剤原液は塩化ナトリウム、塩化カリウム、ぶどう糖等からなる高濃度溶液であると共に酸を少量含有するので細菌繁殖はほとんど見られないが、B剤原液は重炭酸ナトリウム等の低濃度溶液で制菌作用がなく細菌が繁殖しやすいので、透析液B剤原液タンクも洗浄消毒を行なうのが好ましい。
【0043】
多人数用透析装置において重点的に洗浄消毒すべき箇所は、図1を参照すると、配管3、透析液供給装置4の内部配管や貯槽等、透析液B剤原液タンク6、配管7a〜7f等の透析液供給装置4と患者監視装置8とを連結する配管、患者監視装置8の内部透析液配管等である。
【0044】
個人用透析装置において重点的に洗浄消毒すべき箇所は、図2を参照すると、配管13、コンソール18の内部透析液配管、透析液B剤原液タンク16等である。
【0045】
本発明で洗浄消毒剤として使用する電解強酸性水は、食塩を少量加えた水を隔膜を介して電気分解して得られるpH2.7以下、酸化還元電位1000mV以上の性状を有する水であり、「強酸性電解水」とも呼ばれる公知のものである。
【0046】
かかる電解強酸性水は、公知の方法に従い容易に製造することができる。現在、多くのメーカーから電解強酸性水生成装置が市販されており、本発明では、これら市販の電解強酸性水生成装置で製造される電解強酸性水がいずれも使用できるが、好ましくは、pH2.7〜2.3程度、より好ましくはpH2.7〜2.4程度、酸化還元電位1000〜1200mV程度、より好ましくは1100〜1150mV程度の性状を有するものを使用する。また、本発明で使用する電解強酸性水は、有効塩素濃度10〜40ppm程度、特に15〜30ppm程度を有するものが好ましい。
【0047】
本発明の洗浄方法は、通常、次のようにして行なわれる。
【0048】
まず、透析治療が終わった後、本発明の電解強酸性水からなる洗浄消毒剤を、上記透析液配管系に導入し、透析液配管系の洗浄すべき面に接触させる。
【0049】
透析治療終了後、電解強酸性水を接触させて洗浄消毒する前に、透析液配管系を水洗すること、即ち、事後水洗をしておくことが望ましい。この事後水洗に使用する水は、通常、水処理装置で細菌及びエンドトキシンを除去したRO水を用いるのが好ましい。
【0050】
上記事後水洗は、従来は、残留透析液の排出と、消毒効果を低下させる原因となる配管内の有機物の排除、及び細菌やエンドトキシンを流失させる目的で長時間行なわれているが、本発明の電解強酸性水からなる洗浄消毒剤の場合は、その殺菌及びエンドトキシン除去ないし不活性化の効果が高いためか、事後水洗に要する水の量ないし水洗時間が、従来の1/4〜2/3程度、好ましくは1/4〜1/2程度で済む。
【0051】
例えば、30人用の多人数用透析装置において、患者監視装置1台当たりの流量を例えば400〜600ml/分程度、特に500ml/分程度とした場合、従来の事後水洗時間は、施設によっても異なり若干幅があるが、通常60分程度であるのに対して、本発明の場合は、通常15〜30分程度の事後水洗時間で足りる。
【0052】
本発明の方法では、透析液配管系等の透析液が接触する面、精製水タンクの内面、透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクの内面等の洗浄消毒すべき面に、電解強酸性水を接触すれば足り、接触方法は特に限定されない。
【0053】
透析液配管系の洗浄消毒すべき面については、基本的には、該透析液配管系を電解強酸性水で充填ないし満し、その内面の全体に亘って電解強酸性水が接触するようにすれば良い。
【0054】
本発明者の研究によれば、電解強酸性水の殺菌作用は長時間持続しない傾向があるので、電解強酸性水を透析液配管系に連続的に送液して流すことが好ましく、これにより、透析液配管系の末端部分、例えば、透析液供給装置から最も離れた末端の患者監視装置の内部配管においても、当初のpHと酸化還元電位がより効果的に維持されることが明らかとなった。その場合、新鮮な電解強酸性水を洗浄消毒に使用した後は、廃水として排出するのが一般には好ましい。
【0055】
上記のように電解強酸性水を透析液配管系に連続的に通過させるには、各種の常套的な方法で行なうことができ、その方法は特に限定されない。一般的には、電解強酸性水を、水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管(例えば図1の配管3)から導入するか、又は、透析液供給装置の透析液貯液タンクに導入し、そこから下流の配管(透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管)及び患者監視装置へと送液し、これらを一挙に洗浄消毒し、その後、患者監視装置の廃水用配管(例えば図1の配管10)から排出するようにするのが好ましい。
【0056】
送液条件としては、広い範囲から適宜選択することができるが、一般には、当該洗浄消毒をすべき透析装置で透析液を供給する際に採用しているのと同様の条件下で行なうと、作業上好ましい。
【0057】
洗浄消毒の際の温度も、特に限定はなく、一般には、10〜40℃程度、好ましくは室温で行えば良いが、必要ならば、この温度範囲よりも若干昇温したり、若干降温しても良い。
【0058】
また、洗浄消毒に要する時間も、透析液配管系から細菌やエンドトキシンが検出されなくなるまで行なえば良く、透析装置の規模、電解強酸性水の送液速度に応じて、適宜決定すれば良い。本発明の電解強酸性水からなる洗浄消毒剤は、その殺菌作用及びエンドトキシン除去作用が高いので、従来の洗浄消毒剤の1/7〜2/3程度、好ましくは1/4〜1/2程度の使用量ないし送液時間を採用すれば足りる。
【0059】
例えば、30人用程度の多人数用透析装置においては、室温で洗浄消毒を行なう場合、送液条件として、患者監視装置1台当たりの流量を、例えば、400〜600ml/分程度、特に500ml/分程度とした場合、従来の薬剤を使用した場合、洗浄消毒時間は30分程度を要したが、本発明ではわずか4分程度でも十分であり、万全を期しても最長20分程度の洗浄消毒時間で足りる。
【0060】
通常、上記透析液が接触する配管系やタンクの洗浄消毒は、一日の透析治療終了後、毎日行なうのが好ましい。一日の最終透析治療終了後、事後水洗し、上記洗浄消毒を行なった後、水洗を行なわず、一夜、洗浄消毒液である電解強酸性水を透析装置配管系内に貯留しておき、翌朝、貯留洗浄消毒剤を、水洗水で洗い流しても良い。この水洗に使用する水は、通常、水処理装置で細菌及びエンドトキシンを除去したRO水を用いるのが好ましい。
【0061】
本発明で洗浄消毒剤として使用する電解強酸性水は、毒性が低くて安全性が高く、例えば、適量の水で希釈することによりその効力が失われてしまい、通常の水とほぼ同様に取り扱うことができるので、洗浄消毒作業終了後は、使用した電解強酸性水を追い出すだけで良い。したがって、この洗浄消毒作業終了後、透析開始前に行なう水洗(事前水洗)に要する水の量が少なくて済み、従来の1/4〜2/3程度、好ましくは1/4〜1/2程度の使用量で済む。
【0062】
例えば、30人用の多人数用透析装置において、患者監視装置1台当たりの流量を例えば400〜600ml/分程度、特に500ml/分程度とした場合、従来の事前水洗時間は、施設によっても異なり若干幅があるが、通常60分程度であるのに対して、本発明の場合は、通常15〜30分程度の事前水洗時間で足りる。
【0063】
また、透析装置の水処理装置についても、例えば、その精製水タンクから精製水を排出した後電解強酸性水をシャワーリングする方法、再循環回路を形成して電解強酸性水を水処理装置の全体または一部に循環させる方法等により、洗浄消毒を行なう。
【0064】
この洗浄消毒の際の温度は、特に限定はなく、一般には、10〜40℃程度、好ましくは室温で行えば良いが、必要ならば、この温度範囲よりも若干昇温したり、若干降温しても良い。洗浄消毒に要する時間及び電解強酸性水の使用量は、精製水タンクの容量、構造等にもよるが、例えば、シャワーリングにより容量500リットル程度の生成水タンクを洗浄する場合、電解強酸性水を1回当たり10〜20リットル程度使用し、5分間程度シャワーリングすれば、通常、充分である。
【0065】
かかる水処理装置の洗浄消毒は、精製水中の細菌やエンドトキシンの量を、1〜3か月に1回程度モニタリングし、該量が許容量を越えた場合に洗浄消毒すればよい。
【0066】
また、透析液のA剤原液タンク及びB剤原液タンクも、公知の方法に従い、例えば、電解強酸性水を封入する方法、適当な流速で通過させる方法等を用いて、洗浄消毒を行なう。この洗浄消毒の際の温度は、特に限定はなく、一般には、10〜40℃程度、好ましくは室温で行えば良いが、必要ならば、この温度範囲よりも若干昇温したり、若干降温しても良い。洗浄消毒の後は、RO水での水洗を行なうのが好ましい。一般には、A剤原液タンクは月1回程度、B剤原液タンクは毎日1回程度の頻度で洗浄消毒するのが好ましい。
【0067】
上記水処理装置や、透析液のA剤原液タンク及びB剤原液タンクの洗浄消毒後の水洗についても、従来法に比べて、少量の水を用いれば足りる。従って、短時間で洗浄消毒作業が完了し、次のクールの透析治療が早期に開始できる。
【0068】
【発明の効果】
本発明では、細菌に対する殺菌作用が発揮されるのみならず、従来法では除去ないし不活性化が十分でなかったエンドトキシンをも効果的に除去ないし不活性化できる。
【0069】
しかも、上記殺菌作用及びエンドトキシンの除去ないし不活性化作用が、洗浄すべき透析液配管系の末端においても低下しない。
【0070】
従来法においては、洗浄消毒液で洗浄消毒した後、大量の水で水洗しなければならなかったが、本発明では、水洗に使用する水の量が少量で済み、従って、短時間で洗浄消毒が完了し、コスト面や稼働面で有利である。
【0071】
本発明で使用する電解強酸性水は、作業上支障が生じる事もない。また、万が一、機械上のトラブル等による電解強酸性水の残留があっても、電解強酸性水は、適量の水で希釈するとその効力の大部分が失われてしまい、通常の水と同様に取り扱うことができるので、安全である。したがって、従来の次亜塩素酸ナトリウム、ホルマリンのような刺激性や毒性の高い薬剤を使用しなくて良いので、作業者や透析患者に悪影響を与えることも殆どない。
【0072】
透析装置の腐食やダイアライザー内の半透膜への悪影響等の問題もない。
【0073】
更に、従来法においては炭酸塩の除去のために酢酸、クエン酸、塩酸等を使用して酸洗浄を行なう必要があるが、本発明方法では、洗浄消毒液である電解強酸性水自体が酸性であり、炭酸塩の除去にも有効であり、酸洗浄が不要となるか又は酸洗浄の頻度を減らすことができる。
【0074】
また、本発明の電解強酸性水からなる洗浄消毒剤は、従来の洗浄消毒剤に比べて、毒性が極めて低いため、廃水処理を行なう浄化槽等への負荷の点からも好ましい。
【0075】
【実施例】
以下に参考例及び試験例を掲げて本発明を一層詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
参考例1
(a)電解強酸性水の製造
電解強酸性水生成装置を用いてpH2.4、酸化還元電位1155mVの電解強酸性水を得た。
【0077】
こうして得られた電解強酸性水そのものを、以下の実験において、透析装置の洗浄消毒剤として使用する。
【0078】
(b)透析液配管系の末端でのpH及び酸化還元電位の経時変化
30人用の多人数用透析装置において、透析液供給装置から、30台のベッドサイド患者監視装置の透析液配管に、上記(a)で得た電解強酸性水を送液し、そのpH及び酸化還元電位の経時変化を調べた。
【0079】
即ち、透析行程終了後、事後水洗を30分間行なう。事後水洗完了後、透析液供給装置のタンク内の水洗水を排水する。透析液供給装置のサプライタンクに、上記電解強酸性水を満水状態とし、配管を経由して、30台の患者監視装置のうちの配管末端(透析液供給装置から最も離れた箇所)に位置する患者監視装置(1台)に送液する。該末端患者監視装置において、カプラー(透析液側の透析器(ダイアライザー)に連結する接続部)を外し、カプラージョイントに触れないように電解強酸性水を流出させた。
【0080】
送液の条件は、室温にて、患者監視装置1台当たり500ml/分の流量で行なった。
【0081】
電解強酸性水の送液開始から送液開始後20分までの間に、カプラージョイントより流出する電解強酸性水を1分毎にサンプルとして採取し、直ちに東亜電波工業(株)のポータブルPH計「HM-14P」を用いて、pH及び酸化還元電位(mV)を測定した。
【0082】
結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から明らかなように、pH及び酸化還元電位は、電解強酸性水の送液開始後約4分で、有効値に到達し、以後、実質的に一定の値を維持している。従って、4分以降は、透析液配管系の末端においても、電解強酸性水のpH及び酸化還元電位が保持され、常に高ポテンシャルの電解強酸性水を供給できることが判る。
【0085】
(c)透析液配管系の末端でのエンドトキシン及び細菌の経時変化
上記(b)と同一の条件下、末端患者監視装置のカプラージョイントから流出する電解強酸性水を、電解強酸性水の送液開始から送液開始後20分までの間に、1分毎にサンプルとして採取して、指定容器に入れ、これを冷蔵保存(4℃)し、各サンプル中のエンドトキシン濃度及び細菌数を測定した。
【0086】
細菌の測定は、一般細菌培養法(平板拡散法)に従い行なった。また、エンドトキシンの測定は、エンドスペシー法に従い行なった。
【0087】
結果を、表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2から明らかなように、2分以降は、エンドトキシン濃度は、上記エンドスペシー法で1.0pg/ml未満であり、細菌も検出されなかった。
【0090】
(d)他の部位でのエンドトキシン及び細菌
上記で使用した透析装置の他の部分におけるエンドトキシソン濃度及び細菌数を上記(c)と同様の方法で測定した。
【0091】
即ち、▲1▼透析室の水道水蛇口より10分間流水後採取した水道水、▲2▼逆浸透装置より透析液B液タンクに供給するラインを利用し、給水口より10分間流水した後採取したRO水、▲3▼市販生理食塩水(商品名「生理食塩水」、大塚製薬(株)製)及び▲4▼市販補液(商品名「HFソリタ」、清水製薬(株)製)におけるエンドトキシン濃度及び細菌数を測定した結果を表3に示す。
【0092】
尚、生理食塩水及び上記補液については、それぞれ、点滴スタンドに吊り下げ、ゴム栓に触れないようにカバーを外し、注射器にて採取し、直ちに指定容器にサンプルを入れ、冷蔵保存した後測定した。
【0093】
【表3】

【0094】
水道水では細菌が検出されることはないが(水道法に基づく水質基準)、エンドトキシン濃度は基準がないこともあり高値である。RO水は、本来エンドトキシン濃度は低値(0〜10pg/ml)であるが、濾過膜の劣化によりやや高い値となったものと思われる。生理食塩水や補液中にはエンドトキシン及び細菌共に検出されてはならないものであり、表3のエンドトキシンのデータも上記エンドスペシー法で1.0pg/ml未満である。
【0095】
表2及び表3の結果から、本発明の洗浄消毒剤である電解強酸性水を使用することにより、細菌が検出されなくなるばかりでなく、エンドトキシン濃度も、生理食塩水や補液並の極めて低い濃度にまで低下できることが判る。
【0096】
参考例2
(a)30人用の多人数用透析装置において、透析行程終了後、透析液配管系を常法に従い事後水洗し、事後水洗完了後、透析液供給装置のタンク内の水洗水を排水した。透析液供給装置のサプライタンクに、洗浄消毒液を満水状態とし、配管を経由して、30台の患者監視装置に室温にて送液し、そのまま配管内に洗浄消毒剤を一夜貯留し、翌早朝、水洗にて洗浄消毒剤を洗い流した。以上の作業を6日間連続して行なった。
【0097】
洗浄消毒剤としては下記の3種を用いた。
【0098】
▲1▼参考例1(a)に記載の方法で作成した電解強酸性水(6日間毎日)
▲2▼次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
▲3▼次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)+ホルマリン水溶液(第1日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
ホルマリン水溶液濃度:3.8重量%。
【0099】
上記透析行程終了後に行なう事後水洗は、患者監視装置1台当たり500ml/分の流量でRO水を用いて行ない、本発明の洗浄消毒剤▲1▼の場合は30分間行ない、従来の洗浄消毒剤▲2▼及び▲3▼の場合は60分間行なった。
【0100】
各洗浄消毒液の送液条件は、患者監視装置1台当たり500ml/分で行ない、送液時間は次の通りである。
【0101】
▲1▼のライン=電解強酸性水を20分間送液
▲2▼のライン=次亜塩素酸ナトリウム水溶液:45分間送液、
酢酸水溶液:45分間送液
▲3▼のライン=次亜塩素酸ナトリウム水溶液:45分間送液、
酢酸水溶液:45分間送液、
ホルマリン水溶液:77リットルを配管に送液、留置し12〜15時間後2時間30分の水洗を行なう。
【0102】
上記洗浄消毒剤を一夜貯留し、翌早朝、洗浄消毒剤を洗い流すために行なう水洗(透析行程前の事前水洗)は、患者監視装置1台当たり500ml/分の流量でRO水を用いて、▲1▼のラインについては30分間、▲2▼及び▲3▼のラインについては60分間行なった。
【0103】
上記▲2▼及び▲3▼の洗浄消毒剤中のエンドトキシン濃度及び細菌数を測定することは困難なので、透析前の事前水洗行程終了直前における水洗に使用したRO水中のエンドトキシ濃度及び細菌数を、参考例1の方法と同一の方法を用いて測定することにより、それぞれの洗浄消毒剤の効果を比較した。
【0104】
該RO水のサンプルの採取方法は、上記30台の患者監視装置のうちの配管末端に位置する患者監視装置6台(上記▲1▼の洗浄消毒剤(電解強酸性水)の場合はコンソール5及び15、上記▲2▼の洗浄消毒剤の場合はコンソール1及び6、上記▲3▼の洗浄消毒剤の場合はコンソール20及び28)において、事前水洗終了10分前よりカプラーを外し、カプラージョイントを接続した状態で、水洗に使用したRO水を5分間流出させた後、指定容器に直接採取した。
【0105】
換言すれば、上記▲1▼の洗浄消毒剤(電解強酸性水)の場合は、事前水洗開始20分後よりカプラーを外し、水洗に使用したRO水を5分間流出させた後に採取した。
【0106】
また、上記▲2▼及び▲3▼の洗浄消毒剤の場合は、事前水洗開始50分後よりカプラーを外し、水洗に使用したRO水を5分間流出させた後に採取した。
【0107】
エンドトキシン濃度の測定結果を表4に示す。表4において、エンドトキシン濃度は第1回〜第6回(第1〜6日)の結果の平均値である。
【0108】
【表4】

【0109】
また、第1回〜第6回(第1〜6日)の細菌の検査結果を表5に示す。
【0110】
【表5】

【0111】
表4及び表5から明らかなように、従来の洗浄消毒剤(上記▲2▼及び▲3▼)を使用した場合、細菌の消毒については、一箇所を除き細菌繁殖が認められず、ほぼ満足できる結果が得られる。しかし、エンドトシキンについては、上記▲2▼の洗浄消毒剤ではかなり高値であり、上記▲3▼の洗浄消毒剤でも比較的高値である。
【0112】
これに対して、本発明の洗浄消毒剤である電解強酸性水(上記▲1▼)を用いた場合には、細菌の繁殖が認められないのは勿論のこと、エンドトキシンについても充分に除去ないし不活性化できることが判る。
【0113】
従って、本発明の電解強酸性水からなる洗浄消毒剤は、従来の次亜塩素酸ナトリウム、酢酸、ホルマリン等の消毒方法よりも有効である。
【0114】
試験例1
上記参考例2で使用した30人用多人数透析装置において、1か月間に、洗浄消毒及び水洗に使用するRO水の量を、下記条件で比較した。
【0115】
▲1▼患者監視装置(コンソール)は、30台とする
▲2▼洗浄消毒行程は、一日1回で、1か月に25回行なう
▲3▼水道水からのRO水の回収率は65%とする
▲4▼患者監視装置1台当りの水洗水及び洗浄消毒剤の流量は、500ml/分とする。但し、洗浄消毒剤は、従来の次亜塩酸ソーダ溶液等は低濃度であるので実質的に水100%であると見做し、本発明の電解強酸性水はそれ自体水であるので、同様に水100%として試算する。
【0116】
(a)従来から洗浄消毒剤として使用されている次亜塩酸ソーダ、酢酸、ホルマリン等の薬剤の場合の水洗及び洗浄消毒条件は、透析後水洗時間60分、洗浄消毒時間30分及び透析前水洗時間60分が通常であるから、合計150分を要する。
【0117】
患者監視装置(コンソール)1台当りの一日の水の使用量は、(500ml/分)×150(分)=75リットルであり、コンソール30台では2250リットルである。RO水の回収率は65%であるから、水道水の一日の使用量は、2250÷0.65より約3461リットルとなり、これを25倍すると水道水の1か月の使用量は約86.5m3となる。
【0118】
(b)本発明の電解強酸性水を用いた場合、上記のように、透析後水洗時間は短くて済むので30分、電解強酸性水での洗浄消毒時間は20分、透析前の水洗時間も電解強酸性水の安全性から短縮できるので30分で十分である。従って、合計80分を要する。
【0119】
従って、水道水の1か月の使用量は、(500ml/分)×80(分)=40リットルであり、コンソール30台では1200リットルである。RO水の回収率は65%であるから、水道水の一日の使用量は、1200÷0.65より約1846リットルとなり、これを25倍すると水道水の1か月の使用量は約46.2m3となる。
【0120】
(c)従って、従来の洗浄消毒剤を使用した場合に比し、本発明の電解強酸性水からなる洗浄消毒剤の場合は、1か月当りの水道水の使用量が、約半分となり、大幅な水道水使用量の減少が図れる。しかも、水洗時間や洗浄消毒時間が短縮できるので、コスト面、稼働面において有利である。
【0121】
更に、本発明では、毒性の高い次亜塩酸ソーダ、ホルマリン等の薬剤を使用しなくて済むので、安全性の面でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
多人数用透析装置の構成の概略を示す模式図である。
【図2】
個人用透析装置の構成の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
1 配管
2 水処理装置
3 配管
4 透析液供給装置
5 透析液A剤原液タンク
6 透析液B剤原液タンク
7a 配管
8 患者監視装置
9 人工腎臓ないしダイアライザー
10 配管
11 配管
12 水処理装置
13 配管
15 透析液A剤原液タンク
16 透析液B剤原液タンク
18 装置
19 ダイアライザー
20 配管
 
訂正の要旨 本件特許に係る平成12年5月30日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書に記載された次のとおりに訂正するものである。
A,訂正事項a
【発明の名称】の欄の、
「血液透析装置の洗浄消毒方法及び洗浄消毒剤」
を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「血液透析装置の洗浄消毒方法」
と訂正する。
B,訂正事項b
【特許請求の範囲】に欄の、
「【請求項1】血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法。
【請求項2】血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化することを特徴とする請求項1に記載の洗浄消毒方法。
【請求項3】上記電解強酸性水を、水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管へ導入するか又は透析液供給装置の透析液貯液タンクヘ導入し、次いで、透析液供給装置内の透析液配管、透析液を透析液供給装置から患者監視装置へと供給するための配管、並びに患者監視装置の透析液配管に送液して洗浄消毒を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄消毒方法。」
を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク
を、PH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法。
【請求項2】(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク
を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化することを特徴とする請求項1に記載の洗浄消毒方法。
【請求項3】上記電解強酸性水を、水処理装置と透析液供給装置とを連結する配管へ導入し、次いで、透析液供給装置内の透析液配管、透析液を透析液供給装置から患者監視装置へと供給するための配管、並びに患者監視装置の透析液配管に送液して洗浄消毒を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄消毒方法。」
と訂正する。
(下線部は訂正個所を示す。以下、同じ。)
C,訂正事項c
特許明細書の【0001】欄の、
「【発明の属する技術分野】本発明は、血液透析装置の消毒洗浄方法及び洗浄消毒剤に関する。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【発明の属する技術分野】本発明は、血液透析装置の消毒洗浄方法に関する。」
と訂正する。
D,訂正事項d
特許明細書の【0025】欄の、
「即ち、本発明は、血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「即ち、本発明は、(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンクを、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することを特徴とする血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。」
と訂正する。
E,訂正事項e
特許明細書の【0026】欄の、
「特に、本発明は、血液透析装置の透析液又は精製水が接触する箇所を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化する洗浄消毒方法を提供するものである。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「特に、本発明は、(1)透析液供給装置内の透析液混合タンク及び透析液貯液タンク及び透析液配管及び透析液供給装置と患者監視装置とを連結する配管及び患者監視装置内の透析液側配管、
(2)水処理装置の精製水タンク及び該タンクと透析液供給装置とを連結する配管、及び
(3)透析液A剤原液タンク及び透析液B剤原液タンク
を、pH2.7〜2.3、酸化還元電位1000〜1200mV及び有効塩素濃度10〜40ppmの電解強酸性水で洗浄消毒することにより、上記箇所に存在するエンドトキシンを除去ないし不活性化する血液透析装置の洗浄消毒方法を提供するものである。」
と訂正する。
F,訂正事項f
特許明細書の【0041】欄の、
「更に、必要に応じて、水処理装置、特にその精製水を貯蔵するタンク内面等も洗浄消毒する。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「更に、水処理装置、特にその精製水を貯蔵するタンク内面等も洗浄消毒する。」
と訂正する。
G,訂正事項g
特許明細書の【0075】欄の、
「【実施例】
以下に実施例及び試験例を掲げて本発明を一層詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【実施例】
以下に参考例及び試験例を掲げて本発明を一層詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。」
と訂正する。
H,訂正事項h
特許明細書の【0076】欄の、
「実施例1
(a)電解強酸性水の製造
電解強酸性水生成装置を用いてpH2.4、酸化還元電位1155mVの電解強酸性水を得た。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「参考例1
(a)電解強酸性水の製造
電解強酸性水生成装置を用いてpH2.4、酸化還元電位1155mVの電解強酸性水を得た。」
と訂正する。
I,訂正事項i
特許明細書の【0096】欄の、
「試験例1
(a)30人用の多人数用透析装置において、透析行程終了後、透析液配管系を常法に従い事後水洗し、事後水洗完了後、透析液供給装置のタンク内の水洗水を排水した。透析液供給装置のサプライタンクに、洗浄消毒液を満水状態とし、配管を経由して、30台の患者監視装置に室温にて送液し、そのまま配管内に洗浄消毒剤を一夜貯留し、翌早朝、水洗にて洗浄消毒剤を洗い流した。以上の作業を6日間連続して行なった。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「参考例2
(a)30人用の多人数用透析装置において、透析行程終了後、透析液配管系を常法に従い事後水洗し、事後水洗完了後、透析液供給装置のタンク内の水洗水を排水した。透析液供給装置のサプライタンクに、洗浄消毒液を満水状態とし、配管を経由して、30台の患者監視装置に室温にて送液し、そのまま配管内に洗浄消毒剤を一夜貯留し、翌早朝、水洗にて洗浄消毒剤を洗い流した。以上の作業を6日間連続して行なった。」
と訂正する。
J,訂正事項j
特許明細書の【0098】欄の、
「1、実施例1(a)に記載の方法で作成した電解強酸性水(6日間毎日)
2、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
3、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)+ホルマリン水溶液(第1日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
ホルマリン水溶液濃度:3.8重量%。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「1、参考例1(a)に記載の方法で作成した電解強酸性水(6日間毎日)
2、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
3、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1及び3〜5日)+酢酸水溶液(第2及び6日)+ホルマリン水溶液(第1日)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度:0.02重量%
酢酸水溶液濃度:1重量%
ホルマリン水溶液濃度:3.8重量%。」
と訂正する。
K,訂正事項k
特許明細書の【0103】欄の、
「上記2及び3の洗浄消毒剤中のエンドトキシン濃度及び細菌数を測定することは困難なので、透析前の事前水洗行程終了直前における水洗に使用したRO水中のエンドトキシ濃度及び細菌数を、実施例1の方法と同一の方法を用いて測定することにより、それぞれの洗浄消毒剤の効果を比較した。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「上記2及び3の洗浄消毒剤中のエンドトキシン濃度及び細菌数を測定することは困難なので、透析前の事前水洗行程終了直前における水洗に使用したRO水中のエンドトキシ濃度及び細菌数を、参考例1の方法と同一の方法を用いて測定することにより、それぞれの洗浄消毒剤の効果を比較した。」
と訂正する。
L,訂正事項l
特許明細書の【0114】欄の、
「試験例2
上記試験例1で使用した30人用多人数透析装置において、1か月間に、洗浄消毒及び水洗に使用するRO水の量を、下記条件で比較した。」
を明りょうでない記載の釈明を目的として、
「試験例1
上記参考例2で使用した30人用多人数透析装置において、1か月間に、洗浄消毒及び水洗に使用するRO水の量を、下記条件で比較した。」
と訂正する。
(なお、上記訂正事項J,Kにおけるマルで括った数字は特許庁のシステム上表示することができないので単なる数字で代用した。正しくは訂正明細書の原本参照。)
異議決定日 2001-07-18 
出願番号 特願平7-286155
審決分類 P 1 651・ 16- YA (A61M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 貢  
特許庁審判長 佐藤 洋
特許庁審判官 熊倉 強
岡田 和加子
登録日 1998-09-18 
登録番号 特許第2826655号(P2826655)
権利者 田仲 紀陽
発明の名称 血液透析装置の洗浄消毒方法  
代理人 中川 博司  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 三枝 英二  
代理人 小原 健志  
代理人 小原 健志  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 舘 泰光  
代理人 大滝 均  
代理人 三枝 英二  
代理人 大滝 均  
代理人 中川 博司  
代理人 舘 泰光  
代理人 齋藤 健治  
代理人 斎藤 健治  

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