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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) C22C
審判 全部無効 出願日、優先日、請求日 無効とする。(申立て全部成立) C22C
管理番号 1049380
審判番号 無効2001-35171  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1984-08-21 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-04-19 
確定日 2001-11-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第1608527号発明「半導体機器のリ-ド材用銅合金」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1608527号の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
出願 昭和58年12月13日
(特願昭58-233702号:昭和57 年1月20日に出願した特願昭57-60 61号の分割出願)
出願公告 昭和62年4月8日
(特公昭62-15622号公報)
特許異議申立 昭和62年5月19日〜6月3日(3件)
手続補正 平成1年2月10日
特許異議の決定 平成1年3月24日
拒絶査定 平成1年3月24日
拒絶査定不服審判請求 平成1年7月5日
(平成1年審判第11901号)
手続補正 平成1年7月31日
審決 平成2年11月29日
設定登録 平成3年6月28日
(特許第1608527号)
無効審判請求 平成13年4月19日
答弁書 平成13年7月6日
訂正請求書 平成13年7月6日
訂正拒絶理由通知 平成13年7月17日付け
訂正請求書取下書 平成13年9月11日
上申書(被請求人) 平成13年9月11日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成13年9月21日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成13年9月21日

2.本件発明
本件特許発明の要旨は、出願公告後、特許法第64条第1項の規定による平成1年2月10日付け手続補正書及び同法第17条の3第1項の規定による平成1年7月31日付け手続補正書で補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「1 Ni;1.0超〜4.0重量%、
Si;0.3超〜1.0重量%、
Cu及び不可避不純物;残り、
からなる合金にさらに副成分としてMn;0.01〜1.0重量%及び
As;0.001〜0.1重量%、
Sb;0.001〜0.1重量%、
Fe;0.01〜1.0重量%、
Co;0.01〜1.0重量%、
Cr;0.01〜1.0重量%、
Sn;0.01〜1.0重量%、
Al;0.01〜1.0重量%、
Ti;0.01〜1.0重量%、
Zr;0.01〜1.0重量%、
Mg;0.01〜1.0重量%、
Be;0.01〜1.0重量%、
Zn;0.01〜1.0重量%、
からなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%添加した組成を有することを特徴とする半導体機器のリード材用銅合金。
2 Ni;1.0超〜4.0重量%、
Si;0.3超〜1.0重量%、
Cu及び不可避不純物;残り、
からなる合金にさらに副成分としてMn;0.01〜1.0重量%及び
As;0.001〜0.1重量%、
Sb;0.001〜0.1重量%、
Fe;0.01〜1.0重量%、
Co;0.01〜1.0重量%、
Cr;0.01〜1.0重量%、
Sn;0.01〜1.0重量%、
Al;0.01〜1.0重量%、
Ti;0.01〜1.0重量%、
Zr;0.01〜1.0重量%、
Mg;0.01〜1.0重量%、
Be;0.01〜1.0重量%、
Zn;0.01〜1.0重量%、
からなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%添加した組成を有し、かつ合金中に含まれるO2がl0ppm以下であることを特徴とする半導体機器のリード材用銅合金。」

3.当事者の主張及び証拠方法
3-1.請求人の主張
請求人は、本件特許発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証、甲第2号証を提出し、次のように主張している。
本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明は、原出願(特願昭57-6061号)の出願当初の明細書に記載した事項の範囲内でないものを含むものであるから、出願日はそ及されないものであり、本件特許の出願日は現実の出願日である昭和58年12月13日として扱われるべきものである。
本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明は、現実の出願日である昭和58年12月13日前に頒布された刊行物である甲第1号証若しくは甲第2号証に記載された発明であるか、又は、それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって本件特許は、特許法第123条第1項第1号により無効とすべきである。
3-2.被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、次のように反論している。
本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載された発明は、原出願の願書に最初に添付した明細書に記載された範囲内の事項により構成されるから、本件特許の出願日は原出願の出願日である昭和57年1月20日にそ及する。したがって、甲第1号証及び甲第2号証は、本件特許発明の公知例になり得ない。
3-3.証拠方法
甲第1号証:特開昭58-124254号公報(原出願の公開公報)
甲第2号証:特開昭57-27051号公報

4.甲各号証の記載
甲第1号証には、半導体機器のリード材用銅合金に関して、
「1 Ni;0.4〜4.0重量%、
Si;0.1〜1.0重量%、
Cu及び不可避不純物;残り
からなる合金に副成分として
P ;0.001〜0.1重量%、
As;0.001〜0.1重量%、
Sb;0.001〜0.1重量%、
Fe;0.01〜1.0重量%、
Co;0.01〜1.0重量%、
Cr;0.01〜1.0重量%、
Sn;0.01〜1.0重量%、
Al;0.01〜1.0重量%、
Ti;0.01〜1.0重量%、
Zr;0.01〜1.0重量%、
Mg;0.01〜1.0重量%、
Be;0.01〜1.0重量%、
Mn;0.01〜1.0重量%、
Zn;0.01〜1.0重量%、
からなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%添加した組成を有することを特徴とする半導体機器のリード材用銅合金。
2 Ni;0.4〜4.0重量%、
Si;0.1〜1.0重量%、
O2 ;l0ppm以下、
Cu及び不可避不純物;残り
からなる合金に副成分として
P ;0.001〜0.1重量%、
As;0.001〜0.1重量%、
Sb;0.001〜0.1重量%、
Fe;0.01〜1.0重量%、
Co;0.01〜1.0重量%、
Cr;0.01〜1.0重量%、
Sn;0.01〜1.0重量%、
Al;0.01〜1.0重量%、
Ti;0.01〜1.0重量%、
Zr;0.01〜1.0重量%、
Mg;0.01〜1.0重量%、
Be;0.01〜1.0重量%、
Mn;0.01〜1.0重量%、
Zn;0.01〜1.0重量%、
からなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%添加した組成を有することを特徴とする半導体機器のリード材用銅合金。」(特許請求の範囲)と記載されている。
甲第2号証には、集積回路導体用銅ニッケル錫合金に関して、
「銅にニッケル0.5〜3.0重量%、錫0.3〜0.9重量%、リン0.01〜0.2重量%、さらにマンガンおよびシリコンを単独または両方で0〜0.35重量%含むことを特徴とする集積回路導体用銅二ッケル錫合金。」(特許請求の範囲)と記載されている。

5.当審の判断
請求人は、本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明は、原出願(特願昭57-6061号)の願書に最初に添付した明細書(以下、「出願当初の明細書」という)に記載した事項の範囲内でないものを含むから、出願日はそ及せず、本件特許は、現実の出願日である昭和58年12月13日に出願されたものとして扱われるべきである旨を主張しているので、まず、この点について検討する。
本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明と原出願の出願当初の明細書の記載事項とを対比すると、本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明は、
「Ni;1.0超〜4.0重量%、Si;0.3超〜1.0重量%、Cu及び不可避不純物;残り、からなる合金にさらに副成分としてMn0.01〜1.0重量%及びAs、Sb、Fe、Co、Cr、Sn、Al、Ti、Zr、Mg、Be、Znからなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%添加した」ものであるのに対し、原出願の出願当初の明細書には、
「Ni;0.4〜4.0重量%、Si;0.1〜1.0重量%、Cu及び不可避不純物;残りからなる合金に副成分としてP、As、Sb、Fe、Co、Cr、Sn、Al、Ti、Zr、Mg、Be、Mn、Znからなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%添加した」ものが記載されている。
してみると、原出願の出願当初の明細書では、副成分の添加量は、Mnを含めた1種以上を総量で0.001〜2.0重量%であるのに対して、本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明は、Mn;0.01〜1.0重量%に、さらに、As、Sb、Fe、Co、Cr、Sn、Al、Ti、Zr、Mg、Be、Znからなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%を添加したものであり、副成分の添加量が2.0重量%を超えるものがあるから、原出願の出願当初の明細書に記載した事項の範囲(副成分の添加量がMnを含めた1種以上を総量で0.001〜2.0重量%)内でないものを含むものである。
この点に関し、被請求人は、概略、次の(ア)〜(エ)の事項を根拠として、本件特許発明は、原出願の出願当初の明細書に記載した事項の範囲内のものである旨を主張している。
(ア)本件特許発明は、分割出願として、審査、異議・拒絶査定、拒絶査定不服審判の手続を経て特許査定されており、分割出願の要件は既に審査されている。
(イ)本件特許の出願人には、原出願の範囲を逸脱する内容の分割出願を提出する意図は全くなかった。また、わざわざ特許権者に不利な解釈をするのは、発明の保護の見地から納得できる判断ではない。
(ウ)本件特許明細書に記載された実施例に関して、副成分総量が2.0重量%を超えるものが一つもない。
(エ)本件特許明細書の特許請求の範囲における副成分に関する記載を、
(1)「{(Mn;0.01〜1.0重量%)+(As;0.001〜0.1重量%、Sb;0.001〜0.1重量%、Fe;0.01〜1.0重量%、Co;0.01〜1.0重量%、Cr;0.01〜1.0重量%、Sn;0.01〜1.0重量%、Al;0.01〜1.0重量%、Ti;0.01〜1.0重量%、Zr;0.01〜1.0重量%、Mg;0.01〜1.0重量%、Be;0.01〜1.0重量%、Zn;0.01〜1.0重量%、からなる群より選択された1種以上)}を総量で0.001〜2.0重量%」と解釈した方が、
(2)「(Mn;0.01〜1.0重量%)+(As;0.001〜0.1重量%、Sb;0.001〜0.1重量%、Fe;0.01〜1.0重量%、Co;0.01〜1.0重量%、Cr;0.01〜1.0重量%、Sn;0.01〜1.0重量%、Al;0.01〜1.0重量%、Ti;0.01〜1.0重量%、Zr;0.01〜1.0重量%、Mg;0.01〜1.0重量%、Be;0.01〜1.0重量%、Zn;0.01〜1.0重量%、からなる群より選択された1種以上を総量で0.001〜2.0重量%)」と解釈するよりも妥当であり、また、「総量で0.001〜2.0重量%」における下限値の0.001重量%は0.011%の単なる誤記であると解釈できる。
しかしながら、次の(i)〜(iv)の理由で、被請求人の前記主張は、妥当なものとはいえない。
(i)無効審判は、審査や審判における過誤等によりなされた特許を無効にするものであるから、分割出願の要件について既に審査や審判での審理がなされていることをもって、その審査や審判での審理において過誤が全くなかったとすることはできない。
(ii)特許は、対世的効力を有するものであるから、特許請求の範囲の解釈は、客観的になされるべきであって、特許明細書から客観的に把握できない出願人の意図について顧慮する必要はない。
(iii)実施例は、特許請求の範囲に記載されたすべての範囲にわたって存在するとは限らないから、実施例に副成分総量が2.0重量%を超えるものが一つもないことをもって、特許請求の範囲に記載された副成分総量の上限値が2.0重量%であると解釈することはできない。
(iv)上記(2)の解釈は、特許請求の範囲全体の記載を通じて矛盾がないし、発明の詳細な説明の記載とも整合するのに対し、上記(1)の解釈は、Mnを含む副成分総量の下限値がMn単独の下限値を下回っている点で、特許請求の範囲の記載に矛盾が存在することになるし、発明の詳細な説明における「さらにMnが0.01%未満では高強度でかつ耐食性の合金が得られず、また1.0重量%を超えると導電性の低下およびハンダ付け性の低下が著しくなる為である。また、As、Sb、Fe、Co、Cr、Sn、Al、Ti、Zr、Mg、Be、Znの所定量の添加によりMnの添加による効果を向上させることができ、それらの総量が0.001重量%未満では、高強度でかつ耐食性のある合金が得られず、また2.0重量%を超えると導電性の低下およびハンダ付け性の低下が著しくなる為である。」(平成3年9月27日発行の「特許法第64条及び特許法第17条の3の規定による補正の掲載」第3頁第17行〜第21行)という記載とも整合しない。すなわち、この記載は、前段でMnについて述べており、後段で「Mnの添加による効果を向上させる」ためのMn以外の副成分の添加について述べているから、「それらの総量」は、Mn以外の副成分の総量を意味することは明らかであり、Mnを含めた総量であると解釈する余地はない。また、被請求人の「総量で0.001〜2.0重量%」における下限値の0.001重量%は単なる誤記であると解釈できる旨の主張は、本件特許明細書の特許請求の範囲においてだけでなく、発明の詳細な説明においても、「総量で0.001〜2.0重量%」と同旨の記載で統一されていることから、妥当なものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法第44条第1項の規定による出願日のそ及は認められず、現実の出願日である昭和58年12月13日に出願されたものとして、以下、無効理由を検討する。
5-1.本件特許の特許請求の範囲第1項に記載された発明について
本件特許の特許請求の範囲第1項に記載された発明と本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、
「 Ni;1.0超〜4.0重量%、
Si;0.3超〜1.0重量%、
Cu及び不可避不純物;残り、
からなる合金にさらに副成分としてMn;0.01〜1.0重量%及び
As;0.001〜0.1重量%、
Sb;0.001〜0.1重量%、
Fe;0.01〜1.0重量%、
Co;0.01〜1.0重量%、
Cr;0.01〜1.0重量%、
Sn;0.01〜1.0重量%、
Al;0.01〜1.0重量%、
Ti;0.01〜1.0重量%、
Zr;0.01〜1.0重量%、
Mg;0.01〜1.0重量%、
Be;0.01〜1.0重量%、
Zn;0.01〜1.0重量%、
からなる群より選択された1種以上を総量で所定量添加した組成を有する半導体機器のリード材用銅合金。」である点で一致し、「As、Sb、Fe、Co、Cr、Sn、Al、Ti、Zr、Mg、Be、Zn」の総量での添加量も重複する。
よって、本件特許の特許請求の範囲第1項に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明であるといえる。
5-2.本件特許の特許請求の範囲第2項に記載された発明について
本件特許の特許請求の範囲第2項に記載された発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、
「 Ni;1.0超〜4.0重量%、
Si;0.3超〜1.0重量%、
Cu及び不可避不純物;残り、
からなる合金にさらに副成分としてMn;0.01〜1.0重量%及び
As;0.001〜0.1重量%、
Sb;0.001〜0.1重量%、
Fe;0.01〜1.0重量%、
Co;0.01〜1.0重量%、
Cr;0.01〜1.0重量%、
Sn;0.01〜1.0重量%、
Al;0.01〜1.0重量%、
Ti;0.01〜1.0重量%、
Zr;0.01〜1.0重量%、
Mg;0.01〜1.0重量%、
Be;0.01〜1.0重量%、
Zn;0.01〜1.0重量%、
からなる群より選択された1種以上を総量で所定量添加した組成を有し、かつ合金中に含まれるO2がl0ppm以下である半導体機器のリード材用銅合金。」である点で一致し、「As、Sb、Fe、Co、Cr、Sn、Al、Ti、Zr、Mg、Be、Zn」の総量での添加量も重複する。
よって、本件特許の特許請求の範囲第2項に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明であるといえる。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明ということができるから、本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2001-10-02 
出願番号 特願昭58-233702
審決分類 P 1 112・ 03- Z (C22C)
P 1 112・ 113- Z (C22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 相沢 旭西 義之菅谷 光雄  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 三浦 悟
綿谷 晶廣
登録日 1991-06-28 
登録番号 特許第1608527号(P1608527)
発明の名称 半導体機器のリ-ド材用銅合金  
代理人 村井 卓雄  
代理人 煤孫 耕郎  

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