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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
管理番号 1049836
異議申立番号 異議2000-72796  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-05-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-17 
確定日 2001-08-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2999488号「電子写真用現像剤組成物」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2999488号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2999488号は、平成1年10月5日に出願され、平成11年11月5日にその発明について特許の設定登録がなされた。
本件特許公報は、平成12年1月17日に発行され、その特許に対して、三洋化成工業株式会社及び三菱レイヨン株式会社よりそれぞれ特許異議の申立があり、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成13年2月13日付で訂正請求がなされた。
II.訂正の適否
1.訂正の内容
〔訂正事項a〕
明細書の特許請求の範囲の、「【請求項1】熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)エーテル化ジフェノールを主成分とするポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。
【請求項2】芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項3】エーテル化ジフェノールが式


〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
で表される請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項4】ポリエステル全体としてのMwが6,000〜18,000である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項5】低分子側ポリエスエルの水酸基価が60〜5で且つ酸価が5〜0であり、高分子側ポリエステルの水酸基価が20〜3且つ酸価が20〜3である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項6】低分子側ポリエステルが95〜40重量%であり、高分子側ポリエステルが5〜60重量%である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。」との記載を、
「【請求項1】熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。


〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
【請求項2】芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項3】ポリエステル全体としてのMwが6,000〜18,000である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項4】低分子側ポリエスエルの水酸基価が60〜5で且つ酸価が5〜0であり、高分子側ポリエステルの水酸基価が20〜3且つ酸価が20〜3である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項5】低分子側ポリエステルが95〜40重量%であり、高分子側ポリエステルが5〜60重量%である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。」と訂正する。
〔訂正事項b〕
明細書第6頁第10〜20行(特許公報第4欄第24〜35行)の
「本発明は、上記知見によりなされたもので、熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸又はその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)エーテル化ジフェノールを主成分とするポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物を提供するものである。」との記載を、
「本発明は、上記知見によりなされたもので、熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物を提供するものである。」と訂正する。
〔訂正事項c〕
明細書第9頁第9行〜第10頁第9行(特許公報第6欄12行〜第5欄第34行)の
「一方、前記ポリオールは、エーテル化ジフェノールを主成分とするもので、これが少なくとも50%以上、好ましくは60%以上含有するものである。上記エーテル化ジフェノールとしては、下記化学式で表されるものを挙げることができる。


〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
上記化学式で表せる化合物の具体例としては、ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(4,0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキンプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げる事ができる。
また、副成分として含有させることができるポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコールを挙げることができる。」との記載を、
「一方、前記ポリオールは、次式で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールである。


〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
上記化学式で表せる化合物の具体例としては、ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(4,0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げる事ができる。」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項aは、訂正前の請求項1に記載された、「エーテル化ジフェノールを主成分とするポリオール」を、「次式(式および式中の符号の説明は省略)で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオール」に限定するとともに、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項aは、訂正前の請求項3および願書に添付された明細書第9頁第9行〜第10頁第6行(特許公報第6欄12行〜第5欄第31行)の記載により支持されているから、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
さらに、訂正事項b、cは、いずれも特許請求の範囲の訂正に伴なって特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との間に生じた不整合部分を、発明の詳細な説明の記載において正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、これらの訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更するものでもない。
3.訂正の適否の結論
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号。以下、「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議申立について
1.本件発明
本件請求項1ないし請求項5に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000 〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。


〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
【請求項2】芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項3】ポリエステル全体としてのMwが6,000〜18,000である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項4】低分子側ポリエスエルの水酸基価が60〜5 で且つ酸価が5〜0であり、高分子側ポリエステルの水酸基価が20〜3且つ酸価が20〜3である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項5】低分子側ポリエステルが95〜40重量%であり、高分子側ポリエステルが5〜60重量%である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
2.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人 三洋化成工業株式会社は、甲第1号証(特開昭63-163469号公報、以下、「刊行物1」という。)、甲第2号証(特開昭63-148271号公報、以下、「刊行物2」という。)、甲第3号証(三洋化成工業株式会社画像薬剤研究部ユニットマネージャー 柴田幸生及び岩田将和作成になる平成12年7月17日付実験成績証明書、以下、単に「実験成績証明書」という。)を提出して、訂正前の請求項1ないし請求項6に係る発明は、刊行物1あるいは刊行物2に記載された発明であるか、刊行物1あるいは刊行物2に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、あるいは特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1乃至6の発明に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである旨主張する。
また、特許異議申立人 三菱レイヨン株式会社は、甲第1号証(特開平1-179951号公報、以下、「刊行物3」という。)、甲第2号証(特開平1-202760号公報、以下、「刊行物4」という。)、甲第3号証(三菱レイヨン株式会社豊橋事業所商品開発研究所RCC第3G豊橋駐在主任研究員 岩崎等作成になる平成12年5月25日付実験報告書1、以下、単に「実験報告書1」という。)、甲第4号証(三菱レイヨン株式会社豊橋事業所商品開発研究所RCC第3G豊橋駐在主任研究員 岩崎等作成になる平成12年6月1日付実験報告書2、以下、単に「実験報告書2」という。)甲第5号証(古川淳二「高分子のエッセンスとトピックス2-高分子合成」(株)化学同人、1986年4月10日発行、第10〜13頁、第185〜187頁、以下、「刊行物5」という。)、甲第6号証(岡小天・金丸競訳「高分子化学 下」丸善株式会社、昭和55年4月20日第4版第3刷発行、第298〜305頁、以下、「刊行物6」という。)を提出して、請求項1ないし請求項4及び請求項6に係る発明は、刊行物3あるいは刊行物4に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし請求項4及び請求項6の発明に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである旨主張する。
3.書証の検討
刊行物1には、「1.熱可塑性樹脂を必須成分とする電子写真用現像剤組成物に於いて、熱可塑性樹脂が酸価5KOHmg/g以下、水酸基価50KOHmg/g以下の架橋構造を有しない線状ポリエステルである事を特徴とする電子写真用現像剤組成物。
2.熱可塑性樹脂がビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物であるジオール成分を必須の構成単位として有するものである特許請求の範囲第1項記載の電子写真用現像剤組成物。
3.熱可塑性樹脂が、高化式フローテスターによる軟化温度が80℃〜140℃、流出開始温度と軟化温度との温度差が10℃〜40℃のポリエステルである特許請求の範囲第1項記載の電子写真用現像剤組成物。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、発明の目的として、鮮明でカブリのない画像を形成し、環境の湿度の影響が極めて小さく、耐久性に優れたトナーを提供し、耐オフセット性を有し、低い定着温度で定着でき、流動性が良くブロッキングがなく、現像剤製造時の混練性、粉砕性が良く、塩化ビニル等のシートによる画像汚染のない現像剤を得ることが挙げられ(第3頁左上欄第16行〜左下欄第1行)、線状ポリエステルを構成するアルコール成分に関して、「本発明におけるポリエステルを構成しているモノマーのうちアルコールモノマーとしては、例えばエチレングリコール、・・・・・等のジオール類、ビスフェノールA、・・・・・ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールA等のビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、その他の二価のアルコールを挙げることができる。これらのモノマーのうち特に、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物を主成分モノマーとして用いた系が良好な結果を示した。ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物を構成モノマーとして用いた場合、ビスフェノールA骨格の性質上比較的高めのガラス転移点のポリエステルが得られ、耐ブロッキング性が良好となる。また、ビスフェノールA骨格の両側のアルキル基の存在がポリマー中でソフトセグメントとして働き低温定着性が良好となる。」(第3頁左下欄第11行〜右下欄第14行)こと、実施例2には、「樹脂B」を用いてトナーを製造したことが記載され(第6頁左下欄第12行〜右上欄第4行参照)、「樹脂B」の製造について、
「製造例2(樹脂Bの製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン 1050g
ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン 325g
テレフタル酸 500g
イソデセニル無水コハク酸 270g
以上の物質を製造例1と同様の装置を用い、前半220℃常圧、後半220℃減圧にて反応を進めた。
得られた樹脂は、酸価2.3KOHmg/g、水酸基価20.2KOHmg/g、高化式フローテスター軟化温度128.0℃、流出開始温度99.0℃であった。」(第5頁左下欄7〜19行)と記載されている。
刊行物2には、「1.熱可塑性樹脂を必須成分とする電子写真用現像剤組成物に於いて、熱可塑性樹脂が3価以上の多官能化合物の少なくとも1種を構成単位として有する、酸価5KOHmg/g以下、水酸基価60KOHmg/g以下のポリエステルである事を特徴とする電子写真用現像剤組成物。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載され、発明の目的について、鮮明でカブリのない画像を形成し、環境の湿度の影響が極めて小さく、耐久性に優れたトナーを提供し、耐オフセット性を有し、低い定着温度で定着でき、流動性が良くブロッキングがなく、現像剤製造時の混練性、粉砕性が良く、塩化ビニル等のシートによる画像汚染のない現像剤を得ることが挙げられ(第3頁右上欄第7行〜左下欄第12行)、比較例1には、「樹脂L」を用いてトナーを製造したことが記載され(第8頁右上欄第7行〜右下欄第16行参照)、「樹脂L」の製造について、製造例12として、「製造例12(樹脂Lの製造、比較用)
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン 1400g
テレフタル酸ジメチル 780g
以上の物質を通常のエステル化触媒と共に製造例1と同様の装置、同様の処方にて反応を進めた。
得られた樹脂は、酸価1.4KOHmg/g、水酸基価15.2KOHmg/g、高化式フローテスター軟化温度120.4℃、流出開始温度92.0℃であった。」(第8頁左上欄第4〜13行)ことが記載され、引用された製造例1には、「製造例1(樹脂Aの製造)
・・・・・
以上の物質を通常のエステル化触媒と共にガラス製2lの4つ口フラスコに入れ、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を取りつけ、電熱マントルヒーター中で窒素気流下、前半210℃常圧、後半210℃で減圧にて撹拌しつつ反応を進めた。」(第6頁右上欄9行〜左下欄1行)ことが記載されている。
実験成績証明書には、刊行物1の製造例2を追試して、樹脂(1)(注:丸数字を括弧付き数字で表示)を作成し、この樹脂(1)のMwおよびMw/Mnを測定し、さらに、樹脂(1)を分子量8,000を境に低分子側と高分子側とに分け、それぞれに含まれる樹脂を分取し、各側のMw、水酸基価、酸価、分取比率(重量%)を測定した結果、該樹脂(1)は、全体のMw/Mn=2.41、全体のMw=14,500、分取比率(高分子/低分子wt%)=55/45、分子量8000以下のMw(分取法)=4900、同(チャート分割法)=4600、分子量8000以上のMw(分取法)=20400、同(チャート分割法)=22200、分子量8000以下の部分の酸価=2.7、同水酸基価=23.3、分子量8000以上の酸価=2.2、同水酸基価=16.5であったこと、また、同様に刊行物2の製造例12を追試して、樹脂(2)(注:丸数字を括弧付き数字で表示)を作成し、上記項目(酸価が小さいため、分取に伴う項目は除く)について測定した結果、全体のMw/Mn=2.22、全体のMw=14000、分子量8000以下のMw=4700、分子量8000以上のMw=20600であったことが記載されている。
刊行物3には、「1.ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定された分子量分布図において、イ)2×106 〜5×104 、ロ)5×104 〜1×103 の分子量範囲に、各々少なくとも一つのピークを有するポリエステル系樹脂からなることを特徴とするトナー用バインダー。」(特許請求の範囲請求項1)に係る発明が記載されており、産業上の利用分野として、「本発明は電子写真、静電記録、静電印刷などにおける静電荷像を現像するのに用いらることのできるトナー用バインダーに関し、更に詳しくは、複数の分子量ピークを有するポリエステル系樹脂からなるトナー用バインダーに関する。」(第2頁左上欄第11〜15行)であることが記載されている。また、実施例には、製造例1として、「グリコールA400部、グリコールB192部、TPA232部およびジブチル錫オキサイド0.8部を4ツロフラスコに入れ、・・・・・反応させた。得られたポリエステルの酸価は2.7KOHmg/g、水酸基価は47KOHmg/g、DSC(示差熱量計)によるガラス転移温度は58℃であった。GPCの測定結果は、数平均分子量2,200、重量平均分子量6,200、ピーク分子量は5,600であった。」(第9頁右上欄第14行〜左下欄第5行)こと、製造例2として、「グリコールA 287部、グリコールB 305部、TPA 130部およびジブチル錫オキサイド0.6部を4ツ口フラスコにいれ、製造例1と同様の方法で酸価が3以下になるまで反応させた。得られたポリエステルのガラス転移温度は55℃で、GPCの測定結果は数平均分子量5,500、重量平均分子量17,000、ピーク分子量は13,000であった。」(第3頁左下欄第7〜13行)こと、実施例1として、「4ツ口フラスコに、製造例1のポリエステル300部およびMAA 5部を入れ、窒素雰囲気下170℃で3時間反応させた。トルエン300部で希釈した後、DVB 12部およびBPO 2部を投入し、85℃で5時間、更に100℃で2時間反応させた。次いで低揮発物を110〜170℃で留出させ、酸価6.2、ガラス転移温度60℃のポリエステル系樹脂である本発明のバインダーを得た。」(第9頁右下欄第12〜19行)こと、実施例2として、「4ツ口フラスコ中で、製造例2のポリエステル300部をトルエン450部に溶解させた。次にMDI 11.7部を投入し、窒素気流下約80℃で3時間反応させた。約30℃まで冷却した後、水添DAMを9.8部とトルエン50部の混合液を30分で滴下し、滴下終了後徐々に昇温し、80℃で3時間反応させた。110〜170℃で低揮発物を留去し、ガラス転移温度58℃、580,000と14,000に明瞭な分子量ピークを有するポリエステル系樹脂である本発明のバインダーを得た。」(第10頁左上欄第3〜12行)こと、実施例3として、「4ツ口フラスコ中で、製造例1のポリエステル300部をトルエン450部に溶解させた。次にIPTES 20部を投入し、窒素気流下約90℃で8時間反応させた。次にDBTDL 2部と水10部を入れ、同温度で5時間反応させた後、揮発物を110〜170℃で低揮発分を留去し、ガラス転移温度59℃、350,000と5,800に明瞭な分子量ピークを有するポリエステル系樹脂である本発明のバインダーを得た。」(第10頁左上欄第14行〜右上欄第1行)ことが記載されている。なお、実施例中の原料の組成については、「(1)グリコールA:ビスフェノールAのEO2.2モル付加物 (2)グリコールB:ビスフェノールAのPO2.2モル付加物 (3)NPG:ネオペンチルグリコール (4)IPA:イソフタール酸 (5)TPA:テレフタール酸 (6)PA:フタール酸 (7)DMT:ジメチルテレフタレート (8)DSA:ドデセニル無水コハク酸 (9)無水トリメリット酸 (10)MAA:無水マレイン酸 (11)DVB:ジビニルベンゼン(純分約54%) (12)MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート (13)水添DAM:水素添加ジアミノジフェニルメタン (14)BPO:ベンゾイルパーオキサイド (15)IPTES:γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン (16)DBTDL:ジブチルチンジラウレート」と記載されている(第8頁右下欄第18行〜第9頁左上欄第20行)。
刊行物4には、「(1)着色剤、下記一般式(I)で示される帯電制御剤、及び下記一般式(II)で示されるジオールと2価以上のカルボン酸を重縮合して得られる酸価5以下で水酸基価25以下のポリエステル樹脂を含有することを特徴とする正帯電トナー。


」(特許請求の範囲)に関する発明が記載されており、産業上の利用分野として、「本発明は、電子写真、静電記録、静電印刷などにおける静電荷像を現像するための正帯電トナーに関する。」(第1頁右下欄第6〜8行)こと、実施例1として、「結着剤樹:酸価0.8、水酸基価22.0のポリエステル樹脂(一般式(II)においてx=1、y=1、R=-CH2CH2-のジオールとテレフタル酸との重縮合物)100重量部、3-(ナフタルイミド)プロピル-トリメチルアンモニウム・ブロマイド2重量部、及び青色フタロシアニン顔料(リノールブルーSM、東洋インキ(株)製)5重量部を、加熱混練し、冷却した後、ジェット粉砕機により処理して、粒径10〜15μmの青色トナーを得た。」(第3頁右下欄第7〜17行)ことが記載されている。
実験報告書1には、刊行物4の実施例1に記載されたポリエステルを合成して分析した結果を示すとして、ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(刊行物4の一般式(II)においてx=1、y=1,R=-CH2CH2-のジオール)とテレフタル酸とを重縮合させて、酸価が0.83(mgKOH/g)、水酸基価が22.1(mgKOH/g)であるポリエステル樹脂を製造したこと、このポリエステル樹脂について、分子量等を測定したところ、ポリエステル全体の重量平均分子量(Mw)が11,849、数平均分子量(Mn)が4,896、Mw/Mnが2.42、分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離した際の低分子側ポリエステルのMwが4,715、高分子側ポリエステルのMwが19,824であり、低分子側ポリエステルが46.5重量%、高分子側ポリエステルが53.5重量%を占めていたことが記載され、さらに、補足説明として、刊行物5及び6に説示されている解説に基づいて、刊行物4の実施例1におけるポリエステル合成条件を補足して追試したことが記載されている。
実験報告書2には、刊行物3の製造例1に記載されたポリエステルを追試して合成し、分析した結果を示すとして、ポリオキシエチレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、およびテレフタル酸を反応させて得られたポリエステルは、酸価が3.0(mgKOH/g)、水酸基価が45.5(mgKOH/g)、DSCによるガラス転移温度が59.5℃、重量平均分子量(Mw)が6,123、数平均分子量(Mn)が2,313、Mw/Mnが2.65、ピーク分子量が5,510であったこと、このポリエステルについて、分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離して低分子側ポリエステルのMwと高分子側ポリエステルのMwを測定したところ、低分子側ポリエステルのMwは4,136、高分子側ポリエステルのMwは12,928であり、低分子側ポリエステルは79.2重量%であり、高分子側ポリエステルは20.8重量%であったことが示されている。
刊行物5及び刊行物6には、2官能基性重縮合によるポリエステル形成においては、反応率は、官能基が消費された割合に対応するので、重合度および分子量は、官能基数の変化から求めることができること、2官能性重縮合では、反応率が高い場合 、Mw/Mnは、2に近い値となること、酸価と水酸基価との和が一定の場合、反応率とモル比の関係式が求められること、酸価と水酸基価とが決まれば、一義的に反応率とモル比とが決まることなどが記載されている。
4.判断
(1)特許法第29条第1項3号違反について
(a)請求項1に係る発明について
(刊行物1との対比)
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)の電子写真用現像剤組成物と、刊行物1の実施例2に記載されたトナーとを対比すると、刊行物1記載のトナーにおいて用いられている熱可塑性樹脂が、芳香族ジカルボン酸及びエーテル化ジフェノールを反応させて得られるポリエステルであることは実施例の「製造例2」に係る記載から明らかであることから、両者は、「熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)エーテル化ジフェノールからなるポリオールを反応させて得られる、ポリエステルであることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。」である点で一致し、一方、本件発明1の組成物においては、ポリエステルの製造に用いられるエーテル化ジフェノールが、「次式で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオール(式および式中の符号の説明は省略)」であるのに対して、刊行物1記載のトナーにおいてはポリエステルの製造に用いられるエーテル化ジフェノールが、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンの混合物である点(相違点1)、および、本件発明1の組成物においては、ポリエステルが「全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000である」のに対して、刊行物1記載のトナーにおいては、ポリエステルの分子量について何も記載されていない点(相違点2)、において相違する。
相違点1、2について検討するに、実験成績証明書には、刊行物1の実施例2に記載されたポリエステル樹脂Bの製造(製造例2)を追試した結果として、得られたポリエステル樹脂は、樹脂全体のMw/Mn=2.41、同じくMw=14500、分子量8000を境に低分子側と高分子側とに分離したとき、低分子側のMw=4600あるいは4900、高分子側のMw=22200あるいは20400、低分子側成分と高分子側成分との存在比=55:45であったことが示されているが、実施例2のポリエステルB(製造例2)は、用いられているアルコール成分が、RがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、及びRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールの混合物であるから、RがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、RがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのどちらか一方のみをアルコール成分として用いている本件発明1のポリエステルとは異なるものである。そして、それ以外に、実験成績証明書には、アルコール成分として、RがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、または、RがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれか一方のみを用いて製造されたポリエステル樹脂について、樹脂全体のMw/Mn、分子量8000を境として低分子側および、高分子側のMwを測定した数値は示されていない。
したがって、刊行物1に本件発明1が記載されているとすることはできない。
(刊行物2との対比)
本件発明1の電子写真用現像剤組成物と、刊行物2の比較例1に記載されたトナーとを対比すると、刊行物2記載のトナーにおいて用いられている熱可塑性樹脂が、テレフタル酸ジメチル及びポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを反応させて得られるポリエステルであることは実施例の「製造例12」に係る記載から明らかであることから、両者は、「熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールからなるポリオールを反応させて得られる、ポリエステルであることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。(式および式中の符号の説明は省略)」である点で一致し、一方、本件発明1の組成物においては、ポリエステルが「全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000である」のに対して、刊行物2記載のトナーにおいては、ポリエステルの分子量について何も記載されていない点において相違する。
上記相違点について、実験成績証明書には、刊行物2の製造例12を追試して得られたポリエステル樹脂の物性値を測定したところ、樹脂全体のMw/Mn=2.22、分子量8000を境にして低分子側と高分子側に分離した低分子成分のMw=4700、高分子側のMw=20600であったことが記載されている。しかしながら、刊行物2の製造例12では、樹脂全体について測定した酸価が1.4であるところ、実験成績証明書においては0.9となっており、乖離があるので、実験成績証明書で得ている樹脂が、刊行物2の実施例12のものと同一であるものとは認め難い。さらに、実験成績証明書において、刊行物2の実施例12を追試したという具体的記載には、「1Lのコルベンに表2に記載の原料を仕込み」とあり、その原料として、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1400gと、テレフタル酸ジメチル780gを仕込んだ旨、記載されているが、1Lの容器にそれらすべてが収容できるはずがなく、実験成績証明書そのものの信憑性に欠けるため、採用できない。
したがって、刊行物2には、請求項1に係る発明が記載されているとすることはできない。
(刊行物3との対比)
本件発明1において用いられている熱可塑性樹脂と、刊行物3の実施例1に記載されたトナー用バインダーとを対比すると、刊行物3記載のトナー用バインダーが、芳香族ジカルボン酸及びエーテル化ジフェノールを反応させて得られるポリエステルであることは実施例の「製造例1」に係る記載から明らかであることから、両者は、「熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)エーテル化ジフェノールからなるポリオールを反応させて得られる、ポリエステルであることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。」である点で一致し、一方、本件発明1の熱可塑性樹脂においては、ポリエステルの製造に用いられるエーテル化ジフェノールが、「次式で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオール(式および式中の符号の説明は省略)」であるのに対して、刊行物3記載のトナー用バインダーにおいてはポリエステルの製造に用いられるエーテル化ジフェノールが、ビスフェノールAのEO2.2モル付加物とビスフェノールAのPO2.2モル付加物との混合物である点(相違点1)、および、本件発明1の組成物においては、ポリエステルが「全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000である」のに対して、刊行物1記載のトナーにおいては、ポリエステルの分子量について何も記載されていない点(相違点2)、において相違する。
相違点1、2について検討するに、実験報告書2には、刊行物3の製造例1に記載されたポリエステル樹脂の製造を追試した結果として、得られたポリエステル樹脂は、樹脂全体のMw/Mn=2.65、同じくMw=6123、分子量8000を境に低分子側と高分子側とに分離したとき、低分子側のMw=4136、高分子側のMw=12928、低分子側成分と高分子側の成分の存在比=79.2:20.8であったことが示されているが、製造例1で用いられているアルコール成分は、RがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、及びRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールの混合物であるから、RがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、RがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのどちらか一方のみをアルコール成分として用いている本件発明1のポリエステルとは異なるものである。そして、それ以外に、実験報告書2には、アルコール成分として、RがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、または、RがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれか一方のみを用いて製造されたポリエステル樹脂について、樹脂全体のMw/Mn、分子量8000を境として低分子側および高分子側のMwを測定した数値は示されていない。
さらに、実験報告書2で追試しているのは、製造例1であって、この製造例1で得られたポリエステルは、実施例1に見るとおり、その後、架橋反応させて初めて電子写真用現像剤組成物を形成しうるものであるから、たとえ製造例1のポリエステルが本件発明1で特定するの物性限定値を有していたとしても、電子写真用現像剤組成物としての比較においては同一ではない。
したがって、刊行物3には、請求項1に係る発明が記載されているとすることはできない。
(刊行物4との対比)
本件発明1の電子写真用現像剤組成物と、刊行物4の実施例1に記載されたトナーとを対比すると、刊行物4記載のトナーにおいて用いられているポリエステル樹脂が、芳香族ジカルボン酸及びエーテル化ジフェノールを反応させて得られるポリエステルであることは実施例1に係る記載から明らかであることから、両者は、「熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3 のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、ポリエステルであることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。(式および式中の符号の説明は省略)」である点では一致し、一方、本件発明1の組成物においては、ポリエステルが「全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000である」のに対して、刊行物4記載のトナーにおいては、ポリエステルの分子量について何も記載されてことが記載されていない点において相違する。
上記相違点について検討するに、実験報告書1には、刊行物4の実施例1に使用されているポリエステル樹脂について、その製造条件を刊行物5、6の合成理論に沿って選定し(刊行物4にはポリエステル樹脂の具体的な製造方法については記載されていないため)、該ポリエステル樹脂を合成したこと、及び、得られたポリエステル樹脂の物性を測定した結果が示されている。それによれば、樹脂全体のMw/Mn=2.42、同じくMw=11,849、分子量8000を境に低分子側と高分子側とに分離したとき、低分子側のMw=4,715、高分子側のMw=19,824、低分子側成分と高分子側成分との存在比=46.5:53.5であったとしている。しかしながら、刊行物4の記載からは、刊行物4の実施例1に使用されているポリエステル樹脂が、刊行物5、6から導かれる合成条件に則って合成されたものでなければならないとすべき理由はなく、実験報告書1に記載の条件でなければ製造し得ないものである根拠もない。むしろ、ポリエステル樹脂全体のMw/Mn、Mw、低分子側と高分子側のMw、低分子側成分と高分子側成分との存在比などの目標値が事前にあって、選択しうる程度のことにすぎないから、実験報告書1の合成条件は、そのような合成条件もありうるというものにすぎず、刊行物4のポリエステル樹脂を再現しているものとは認められない。
したがって、刊行物4に、請求項1に係る発明が記載されているとすることはできない。
(b)請求項2ないし請求項5に係る発明について
請求項2ないし請求項5に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明の構成をその主たる構成としているものであり、上記のとおり、刊行物1ないし刊行物4には請求項1に係る発明が記載されていない以上、その構成のすべてを引用してさらに限定を加える請求項2ないし請求項5に係る発明もまた、刊行物1ないし刊行物4に記載されているとすることはできない。
(2)特許法第29条第2項違反について
前項(1)で述べたように、刊行物1ないし刊行物4のいずれにも、本件発明で規定するポリエステル樹脂全体のMw/Mn、分子量8,000を境に低分子側ポリエステルと高分子側ポリエステルに分離したときのそれぞれのMwが記載されていないのであるから、刊行物1ないし刊行物4に記載された事項をいかように組合せたところで、本件請求項1ないし請求項5に係る発明に到達することはできない。
したがって、請求項1ないし請求項5に係る発明は、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものでもない。
III.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件請求項1ないし請求項5の発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし請求項5の発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1ないし請求項5の発明に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子写真用現像剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。

〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
【請求項2】 芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項3】 ポリエステル全体としてのMwが6,000〜18,000である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項4】 低分子側ポリエスエルの水酸基価が60〜5で且つ酸価が5〜0であり、高分子側ポリエステルの水酸基価が20〜3且つ酸価が20〜3である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項5】 低分子側ポリエステルが95〜40重量%であり、高分子側ポリエステルが5〜60重量%である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、電子写真、静電記録、静電印刷などにおける静電画像を現像する為の現像剤組成物に関するものである。
〔従来の技術〕
従来、電子写真法に関する技術としては、例えば、米国特許第2297691号、第2357809号等の明細書等に記載されているものが知られている。上記従来の電子写真法は、光導電性絶縁層を備えた感光体を一様に帯電させた後、その層を所定のパターンに露光し、その露光部上の電荷を消失させることによって電気的な潜像を上記感光体上に形成し、更に該潜像に着色された電荷をもった微粉末トナー(現像剤組成物)を付着させることによって顕像させ(現像工程)、次いで、得られた上記顕像を転写紙等の転写材に転写せしめた後(転写工程)、加熱、加圧或いはその他適当な定着法によって永久定着させる(定着工程)ことを主な内容とする。従って、トナーには、単に現像工程のみならず、その後の転写工程、定着工程の各工程において必要とされる機能を兼備していることが要求される。また、近年、複写機業界において、モノクロコピーに代わって、より情報量の多いカラーコピーが要望されている。
カラーコピーの形成方法としては、減色彩色方法等の3色合成方式を基礎とし、米国特許第2962374号明細書中に記載されているような、少なくとも3枚の静電潜像を形成後、異なる少なくとも3色のトナーによって現像し、複写紙上で合成する方法が一般的である。この場合、使用するオナーとしては、要求される性能は黒色画像を得る場合に比べて厳しいものとなり、現像、転写、定着の各工程において必要とされる機能が要求されることは勿論のこと、衝撃、湿度等の外的要因に対する機械的・電気的安定性、更には適正な色彩の発現性及びその持続性等が要求される。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、カラー画像用トナーとしては、定着工程において各色トナーがヒート・ローラー上で溶融混和した後の色彩再現性が良好で、しかも形成されたOHP(オーバー・ヘッド・プロジェクター)フィルム上の定着画像に対する光透過性に優れ且つ十分な定着強度を示し、その上、良好な貯蔵安定性、環境変化に対する安定な現像特性(耐環境性)及び連続使用時における十分耐久性を満足するものは得られていない。
従って、本発明の目的は、以下の1)〜3)の性能を備えた、高品質で印刷並に優れた色彩再現性を有する電子写真用現像剤組成物(トナー)を提供することにある。
1)オイル・フィード型等のヒート・ローラー定着方式に於いて、各色トナーの溶融混和性に優れている。
2)転写材としてOHP用フィルムを用いた場合、鮮明でカブリのない光透過性に優れた画像を形成する。
3)OHP用フィルム又は紙等の転写材に対する定着強度に優れた画像を形成し、且つ十分な定着温度範囲(非オフセット温度範囲)を示す。
更に、本発明の目的は、帯電性、現像性、転写性、環境安定性、耐久性、色材分散性及び発色性等の改善されたトナーを提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者等は、種々検討した結果、電子写真用現像材組成物の必須成分である熱可塑性樹脂として特定のポリエステルを用いることにより上記目的が達成されることを知見した。
本発明は、上記知見によりなされたもので、熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物を提供するものである。

〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
以下、本発明の電子写真用現像剤組成物について詳細に説明する。尚、以下の記載において、%表示は特に断らない限りは重量基準である。
本発明の電子写真用現像剤組成物は、ジカルボン酸及びポリオールを反応させて得られるポリエステルからなる熱可塑性樹脂を必須成分として含有するものである。また、上記ポリエステル全体には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との間にMw/Mnの値が1.7〜3.2の関係にある。このMw/Mnが1.7未満では非オフセット温度範囲が狭く、実用上問題がある。逆に3.5を超えると各色トナーの溶融混和性に劣り、且つ転写材としてOHP用フィルムを用いた場合、光透過性に劣る。尚、上記Mw/Mnは1.9〜3.0であることが好ましく、2.0〜2.7であることが更に好ましい。
通常、線状ポリエスエルの場合、分子量分布Mw/Mnは重量平均分子量Mwで決まるが、本発明では高分子側に広がりをもった分子量分布とすることにより、定着性と溶融混和性とにバランスをもたせるようにしたものである。
そして、上記ポリエステル全体としてのMwは、好ましくは6,000〜18,000、更に好ましくは7,000〜15,000、特に好ましくは8,000〜12,000である。全体としてのMwが6,000未満ではトナーの保存時にトナー凝集を起こすため、トナーの貯蔵安定性に劣る、逆に18,000を超えると定着強度が低下し、且つ各色トナーの溶融混合性に劣る。
上記ジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸又はその等価物を主成分とするものであり、該両者の何れか一方が少なくとも20%以上、好ましくは30%以上含まれるものである。
上記芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸を挙げることができ、また、芳香族ジカルボン酸の等価物としては、無水フタル酸及び上記各カルボン酸の低分子アルコールとのエステル、例えば、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジメチル等を挙げることができる。
また、副成分として含有させることができるジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸を、また、その等価物としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸、フマル酸ジメチルを挙げることができる。
一方、前記ポリオールは、次式で表されるRがC2のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールである。

〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
上記化学式で表せる化合物の具体例としては、ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(4,0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げる事ができる。
本発明においては、上記ポリエステル(熱可塑性樹脂)を分子量8,000を境に低分子側ポリエスエル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離した場合、低分子側ポリエステルのMwが、好ましくは4,000〜7,500、更に好ましくは4,500〜7,000、特に好ましくは4,700〜6,800であり、また、高分子側ポリエステルのMwが、好ましくは12,000〜25,000、更に好ましくは15,000〜22,000、特に好ましくは18,000〜20,000である。
上記低分子側ポリエスエルのMwが4,000未満ではトナーの貯蔵安定性に劣り、逆に8,000を超えると各色トナーの溶融混和性に劣り、且つ転写材としてOHPフィルムを用いた場合の光透過性に劣る。また、上記高分子側ポリエステルのMwが12,000未満では十分な定着温度範囲(非オフセット温度範囲)が得られず、逆に25,000を超えると定着温度が低下し、且つ各色トナーの溶融混合性に劣る。
そして、上記低分子側ポリエステルとしては、水酸基価が、好ましくは60〜5、更に好ましくは50〜10、特に好ましくは45〜15であり、また、酸価が、好ましくは5〜0、更に好ましくは4〜0、特に好ましくは3〜0である。水酸基価が5未満では高温高湿下の現像性劣下が激しく、逆に60を超えるとキャリアや感光ドラムヘのフィルミング(汚染)が激しく、耐久性に劣る。また、酸価が5を超えると高温高湿下の現像性劣下が激しく、カブリの多い、不鮮明な画質となる。
また、上記高分子側ポリエスエルとしては、水酸基価及び酸価が何も、好ましくは20〜3、更に好ましくは15〜4、特に好ましくは10〜5である。水酸基価が3未満では高温高湿下の現像性劣下が激しく、逆に20を超えるとキャリアや感光ドラムヘのフィルミング(汚染)が激しく、耐久性に劣る。また、酸価が3未満では顔料や荷電制御剤の分散性が悪く、トナーの均一性に劣り、逆に20を超えると高温高湿下の現像性劣下が激しく、カブリの多い不鮮明な画質となる。
また、上記ポリエステルを構成する上述した特徴を有する低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルの含有率は、それぞれ好ましくは95〜40%及び5〜60%、更に好ましくは90〜45%及び10〜55%、それ以上に好ましくは85〜50%及び15〜50%、特に好ましくは80〜60%及び20〜40%である。低分子側ポリエステルの含有率が40%未満では十分な定着強度が得られず、逆に95%を超えると十分な定着温度範囲(非オフセット温度範囲)が得られない。
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明の電子写真用現像剤組成物を具体的に説明し、その効果を明らかにする。
先ず、後述するトナーを調製するために用いる熱可塑性樹脂として、以下の実施例1〜6及び比較例1〜3に示すポリエスエルを合成した。
尚、樹脂の各物性値の分析方法は、以下に示す通りである。
a)酸価
クロロホルム/エタノール混合溶媒にサンプルを溶解し、あらかじめ標定されたN/10水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定し、その中和量から算出した。
b)水酸基価
無水酢酸/ピリジン混合溶媒にサンプルを溶解し、あらかじめ標定されたN/2水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定しその中和量から算出した。
c)分子量(カラム:東ソーGMHを3連装)
分子量Mn及びMwの測定は、ゲル・パーミェーション・クロマトグラフィー(GPC)にカラム(東ソー製GMH×3本)を装着し、次の条件で測定した。試料をTHF(テトラヒドロフラン)に0.2wt%の濃度で溶解し、温度20℃において1ml/minの流速で測定した。
試料の分子量測定に際しては、該試料の有する分子量が数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の分子量の対数とカウント数が直線となる範囲内に包含される測定条件を選択した。
実施例1
・ポリオキシエレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;722g(2.28モル)
・テレフタル酸;278g(1.67モル)
上記原料化合物をガラス製2lの4つ口フラスコに入れ、該フラスコに温度計、撹拌棒、流下式コンデンサー付き脱水管及び窒素導入管を備えつけた後、ジブチルオキシドを1g加えオイルバス中で加熱しながら窒素気流下で前半160℃の常圧反応を行い、後半230℃の減圧反応にて重合を進めた。反応により生成する水が流出しなくなった時点で酸価を測定したところ、1.7〔KOH mg/g〕であった。
更に、上記フラスコ中にテレフタル酸を27g(0.16モル)を加え、GPCで反応の進行を追跡しながら反応を続け、Mw値が10,000に達した時点で反応を停止させ、全体を室温に冷却した。
得られた樹脂全体の特性は以下の通りであった。
Mw;10,600、MW/Mn;2.61
水酸基価〔KOH mg/g〕;25.9
酸価〔KOH mg/g〕;5.6
また、上記樹脂を分子量8,000を境に低分子側と高分子側とに分け、それぞれに含まれる樹脂を分取しその物性を評価した。その結果は以下の通りであった。

実施例2
・ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;701g(2.22モル)
・テレフタル酸;299g(1.80モル)
上記原料化合物を実施例1と同様に反応させ、生成する水が流出しなくなった時点で酸価を測定したことろ、2.1〔KOH mg/g〕であった。
更に、フラスコ中にテレフタル酸を10g(0.06モル)を加え、GPCで反応の進行を追跡しながら反応を続け、Mw値が10,000に達した時点で反応を停止させ、全体を室温に冷却した。
得られた樹脂全体の特性は以下の通りであった。
Mw;10,700、MW/Mn;2.25
水酸基価〔KOH mg/g〕;19.3
酸価〔KOH mg/g〕;2.3
また、上記樹脂を分子量8,000を境に低分子側と高分子側とに分け、それぞれに含まれる樹脂を分取し且つその物性を評価した。その結果は以下の通りであった。

実施例3
・ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;661g(2.09モル)
・ポリオキシエチレン(4,0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;17g(0.04モル)
・テレフタル酸;276g(1.66モル)
上記原料化合物を実施例1と略同様の条件下でエステル交換反応させ、生成する水が流出しなくなった時点で、更に、テレフタル酸21g(0.13モル)とエチレングリコール1.2g(0.02モル)とを加え、GPCで反応の進行を追跡しながら反応を続け、Mw値が10,000に達した時点で反応を停止させ、全体を室温に冷却した。
得られた樹脂全体の特性は以下の通りであった。
Mw;10,550、MW/Mn;2.37
水酸基価〔KOH mg/g〕;25.6
酸価〔KOH mg/g〕;1.0KO H mg/g
また、上記樹脂を分子量8,000を境に低分子側と高分子側とに分け、それぞれに含まれる樹脂を分取し且つその物性を評価した。その結果は以下の通りであった。

実施例4
・ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;708g(2.24モル)
・テレフタル酸;292g(1.76モル)
上記原料化合物を実施例1と同様に反応させ、生成する水が流出しなくなった時点で酸価を測定したところ、1.4〔KOH mg/g〕であった。
更に、テレフタル酸12g(0.07モル)を加え、GPCで反応の進行を追跡しながら反応を続け、Mw値が8,000に達した時点で反応を停止させ、全体を室温に冷却した。
得られた樹脂全体の特性は以下の通りであった。
Mw;8,700、MW/Mn;2.03
水酸基価〔KOH mg/g〕;25.8
酸価〔KOH mg/g〕;2.8
また、上記樹脂を分子量8,000を境に低分子側と高分子側とに分け、それぞれに含まれる樹脂を分取し且つその物性を評価した。その結果は以下の通りであった。

実施例5
・ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;722g(2.28モル)
・テレフタル酸;278g(1.67モル)
上記原料化合物を実施例1と同様に反応させ、生成する水が流出しなくなった時点で酸価を測定したところ、1.9〔KOH mg/g〕であった。
更に、テレフタル酸34g(0.2モル)を加え、GPCで反応の進行を追跡しながら反応を続け、Mw値が12,000に達した時点で反応を停止させ、全体を室温に冷却した。
得られた樹脂全体の特性は以下の通りであった。
Mw;12,300、MW/Mn;2.85
水酸基価〔KOH mg/g〕;24.5
酸価〔KOH mg/g〕;4.1KOH mg/g
また、上記樹脂を分子量8,000を境に低分子側と高分子側とに分け、それぞれに含まれる樹脂を分取し且つその物性を評価した。その結果は以下の通りであった。

比較例1
・ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;576g(1.82モル)
・テレフタル酸;424g (2.55モル)
上記原料配合物を実施例1と同様に反応させ、生成する水が流出しなくなった時点で、室温に冷却し反応を停止させた。
得られた樹脂全体の特性は以下の通りであった。
Mw;5,600 MW/Mn;1.63
水酸基価〔KOH mg/g〕;2.5
酸価〔KOH mg/g〕;52.0
比較例2
・ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;682g(2.16モル)
・テレフタル酸;271g(1.63モル)
・フマル酸; 47g(0.41モル)
上記原料配合物を実施例1と同様に反応させ、生成する水が流出しなくなった時点で、室温に冷却し反応を停止させた。
得られた樹脂全体の特性は以下の通りであった。
Mw=26,000 Mw/Mn=3.35
水酸基価〔KOH mg/g〕;10.8
酸価〔KOH mg/g〕;1.3
比較例3
・ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;574g (1.82モル)
・テレフタル酸;159g(0.96モル)
・1,2,4-ベンゼントリカルボン酸;267g(1.27モル)
上記原料配合物を実施例1と同様に反応させ、生成する水が流出しなくなった時点で、室温に冷却し反応を停止させた。
Mw=14,400 Mw/Mn=5.85
水酸基価〔KOH mg/g〕;17.0
酸価〔KOH mg/g〕;9.6
次に、前述の実施例1〜6及び比較例1〜3でそれぞれ合成した樹脂(ポリエステル)をバインダーとする二成分系のトナー(電子写真用現像剤組成物)を下記調製法により調製し、各トナーについて下記表2に記載してある各評価を実施し、その結果を同様の該当欄に併記した。
(トナーの調製法)

上記表1の配合に従って、前記樹脂及び着色剤の所定量をそれぞれ秤量し、該両者をヘンシェル・ミキサーで混合した後、バンバリー・ミキサーで溶融混練した。次いで、冷却後の上記混練物をハンマーミルで粗粉砕し、ジェット・ミルで微粉砕した後、風力分級機にて分級し、5〜20μmの美色粒子からなる上記表1に記載した各種トナーとした。

注)上記表2の各欄に記載の物性の評価方法及びその評価基準は以下に示す通りである。尚、評価には、キャノン社製3500の複写機を改造した装置を用いた。
(イ)溶融混和性;OHP用フィルムに2色のトナーを定着させたベタ定着部において、色分解用フィルターを通しての透過光濃度値を測定し、色相誤差と濁りの少ないものを良とした。
(ロ)光透過性;OHP用フィルムに定着させた各色トナーのベタ定着部において、透過光の色差を測定し、透過光色差と反射光色差の変化の少ないものを良とした。
(ハ)定着強度;130℃で転写紙に定着させた画像をキムワイプに摺擦した場合の耐摺擦製の程度を、画像の反射濃度低下率で示した。85%以上を良とした。
(ニ)定着領域;上記定着強度試験において、加熱定着ロールの温度を変化させ、定着強度が85%以上で且つオフセット(ロール汚れ)がない定着温度領域を示した。
(ホ)貯蔵安定性;試料20gを50ccのプラスチック容器に入れ、温度50℃±1℃の恒温水槽中に16時間静置した後のトナー凝集の程度を42メッシュ金網でふるったときの重量を比較した。
(ヘ)耐環境性;低温低湿下(10℃・20%RH)及び高温高湿下(35℃・85%RH)における現像性を常温常湿下(20℃・60%RH)の場合と比較し、鮮明でカブリのないものを良とした。
(ト)耐久性;10,000枚連続現像時点におけるキャリアや感光ドラムヘのトナー等のフィルミング(汚染)の程度により比較した。
上記表2より、本発明のトナー(実施例1〜6の樹脂をバインダとして使用)は、比較例の場合に比べ、総合的に優れた性能を有していることが判る。
以上、本発明について実施例に基づいて具体的に説明したが、本発明の電子写真用現像剤組成物は前記実施例に示したものに限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
例えば、本発明の電子写真用現像剤には、主要成分として、前述したポリエステル及び着色剤を用いる他に、通常用いられる成分として、オフセット防止剤、その他の添加剤を適宜含有させ、また、必要に応じて適量の荷電制御剤を含有させることも可能である。
また、上記電子写真用現像剤は、キャリアを併用する二成分系現像剤に限らず、単独使用する一成分系現像剤としても好適に使用可能である。
〔発明の効果〕
本発明の電子写真用現像剤組成物は、以下の1)〜3)の性能を備えた、高品質で印刷並に優れた色彩再現性を有している。
1)オイル・フィード型等ヒート・ローラー定着方式に於いて、各色トナーの溶融混和性に優れている。
2)転写機としてOHP用フィルムを用いた場合、鮮明でカブリのない光透過性に優れた画像を形成する。
3)OHP用フィルム又は紙等の転写材に対する定着強度に優れた画像を形成する。
また、本発明の電子写真用現像剤組成物は、帯電性、現像性、転写性、環境安定性、耐久性、色材分散性及び発色性等が一段と改善されている。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2999488号発明の明細書を、下記のとおり訂正する。
1.明細書の特許請求の範囲の
「【請求項1】熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)エーテル化ジフェノールを主成分とするポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。
【請求項2】芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項3】エーテル化ジフェノールが式

〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
で表される請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項4】ポリエステル全体としてのMwが6,000〜18,000である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項5】低分子側ポリエスエルの水酸基価が60〜5で且つ酸価が5〜0であり、高分子側ポリエステルの水酸基価が20〜3且つ酸価が20〜3である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項6】低分子側ポリエステルが95〜40重量%であり、高分子側ポリエステルが5〜60重量%である請求項(1)記載の電子写真用現像剤組成物。」との記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物。

〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
【請求項2】芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項3】ポリエステル全体としてのMwが6,000〜18,000である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項4】低分子側ポリエスエルの水酸基価が60〜5 で且つ酸価が5〜0であり、高分子側ポリエステルの水酸基価が20〜3且つ酸価が20〜3である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。
【請求項5】低分子側ポリエステルが95〜40重量%であり、高分子側ポリエステルが5〜60重量%である請求項1記載の電子写真用現像剤組成物。」と訂正する。
2.明細書第6頁第10〜20行(特許公報第4欄第24〜35行参照)の
「本発明は、上記知見によりなされたもので、熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸又はその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)エーテル化ジフェノールを主成分とするポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物を提供するものである。」との記載を、明瞭でない記載の釈明を目的として、
「本発明は、上記知見によりなされたもので、熱可塑性樹脂を含有する電子写真用現像剤組成物において、熱可塑性樹脂が、(A)芳香族ジカルボン酸またはその等価物を主成分とするジカルボン酸、及び(B)次式で表されるRがC2のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールを反応させて得られる、全体としてのMw/Mnが1.7〜3.2のポリエステルであり、該ポリエステルを分子量8,000を境に低分子側ポリエステル及び高分子側ポリエステルにそれぞれ分離すると、低分子側ポリエステルのMwが4,000〜7,500、高分子側ポリエステルのMwが12,000〜25,000であることを特徴とする電子写真用現像剤組成物を提供するものである。」と訂正する。
3.明細書第9頁第9行〜第10頁第9行(特許公報第6欄12行〜第5欄第34行参照)の
「一方、前記ポリオールは、エーテル化ジフェノールを主成分とするもので、これが少なくとも50%以上、好ましくは60%以上含有するものである。上記エーテル化ジフェノールとしては、下記化学式で表されるものを挙げることができる。

〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
上記化学式で表せる化合物の具体例としては、ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(4,0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキンプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げる事ができる。
また、副成分として含有させることができるポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコールを挙げることができる。」との記載を、明瞭でない記載の釈明を目的として、
「一方、前記ポリオールは、次式で表されるRがC2のアルキレン基であるエーテル化ジフェノール、又はRがC3のアルキレン基であるエーテル化ジフェノールのいずれかからなるポリオールである。

〔式中、RはC2〜C3のアルキレン基を示し、x、yは何れも1〜10の数である〕
上記化学式で表せる化合物の具体例としては、ポリオキシエチレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(4,0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げる事ができる。」と訂正する。
異議決定日 2001-07-24 
出願番号 特願平1-258729
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G03G)
P 1 651・ 113- YA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 鐘尾 みや子
植野 浩志
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2999488号(P2999488)
権利者 日本カーバイド工業株式会社
発明の名称 電子写真用現像剤組成物  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 渡邊 隆  
復代理人 武井 英夫  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 武井 英夫  

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