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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12P
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12P
管理番号 1049912
異議申立番号 異議2001-70012  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-01-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-09 
確定日 2001-07-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3060227号「α―グリコシル ヘスペリジンとその製造方法並びに用途」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3060227号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3060227号の発明についての出願は平成1年6月3日になされ、平成12年4月28日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、田中謙二より特許異議の申立がなされ、平成13年3月27日付けで取消の理由の通知がなされ、その指定期間内である平成13年6月5日に訂正請求がなされ、同時に意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
ア.請求項1の「濃度0.005W/V%以上の高濃度懸濁状ヘスペリジン、または、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005W/V%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンと、α-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、α-グルコシダーゼ、シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼおよびα-アミラーゼから選ばれる糖転移酵素を作用させて、α-グルコシル ヘスペリジンを生成せしめ、これを採取することを特徴とするα-グルコシル ヘスペリジンの製造方法。」を、「濃度0.005W/V%以上の高濃度懸濁状ヘスペリジン、または、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005W/V%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンと、α-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、α-グルコシダーゼ、シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼおよびα-アミラーゼから選ばれる糖転移酵素を作用させて、ただし、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005W/V%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンに対してはpH約7.5乃至10.0で作用させて、α-グルコシル ヘスペリジンを生成せしめ、これを採取することを特徴とするα-グルコシル ヘスペリジンの製造方法。」と訂正する。
イ.請求項4を削除し、後続する請求項5〜9の項番号をそれぞれ1つずつ繰り上げて、請求項4〜8と訂正する。それに伴い、それぞれの請求項で引用する請求項の項番号を対応する訂正後の番号に訂正する。
ウ.明細書6頁15〜16行(特許掲載公報、第7欄6〜8行)の「必要ならば、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸などの酸化防止剤を共存させてもよい。」という記載を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アの訂正事項に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には「ヘスペリジンをpH7.0を越えるアルカリ側で反応する場合には、pH約7.5乃至10.0の水に約0.2乃至5.0W/V%のヘスペリジンを加熱溶解し、これに適量のα-グルコシル糖化合物を溶解して得られるヘスペリジン高含有液を、糖転移酵素の作用しうるできるだけ高pH、具体的には、pH約7.5乃至10.0、温度約50乃至80℃に維持し、これに糖転移酵素を作用させるとα-グルコシル ヘスペリジンを容易に、高濃度に生成する。」と記載されている(特許掲載公報、第6欄45〜第7欄3行)。
そうすると、上記アの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲第1項の構成要件である「高濃度溶液状ヘスペリジンと、α-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に糖転移酵素を作用させる」ことについて、その際の反応条件を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当しない。
また、上記イの訂正は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであり、あるいはそれに伴い、請求項の番号を訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するもの、及び、明瞭でない記載の釈明に該当するものであり、新規事項の追加に該当しない。
更に、上記ウの訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当するものであり、新規事項の追加に該当しない。
そして、上記いずれの訂正も実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
(1)申立の理由の概要
申立人 田中謙二は、甲第1号証〜甲第11号証を提出し、訂正前の本件請求項1〜9に係る各特許発明は甲第1号証刊行物に記載された発明であり、または甲第3号証〜甲第11号証刊行物に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号および第2項の規定に違反して特許されたものであるから、請求項1〜9に係る発明の特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(2)本件発明
訂正後の請求項1〜8に係る発明(以下、本件発明1〜8という。)は、それぞれ、平成13年6月5日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものである。
なお、訂正前の請求項4は、上記訂正により削除されている。
(3)刊行物に記載された発明
ア.特許異議申立人は、本件の特許公開公報であり、平成3年1月14日に公開された特開平3-7593号を甲第1号証として、また、上記公開後の平成8年5月28日付けで提出された、本件明細書を補正する手続補正書を甲第2号証として、それぞれ引用し、上記手続補正は明細書の要旨を変更するものであるから、当該補正後の明細書の記載に基づき特許された本件特許は、平成5年改正前の特許法第40条の規定により、当該手続補正書を提出した時に特許出願されたものとみなされる旨を主張し、これを前提として、本件発明は、本件特許の出願前に公知となった、本件の公開公報である甲第1号証刊行物に記載された発明であると主張している。
イ.特許異議申立人が証拠として提示した、本件の出願時(平成1年6月3日)に公知であったことが明らかな甲第3号証〜甲第11号証刊行物には、それぞれ以下のような発明が記載されている。
甲第3号証:特公昭54-32073号公報
「ルチン又はエスクリンに澱粉部分加水分解物を加え、これに澱粉部分加水分解物からグルコース残基転移作用を有するグリコシダーゼ又はトランスグリコシダーゼを作用させて、ルチン又はエスクリンにグルコース残基を等モル以上転移させることを特徴とするルチン又はエスクリンの水溶性を改善する方法。」および「上記方法で生成したルチン又はエスクリンの糖化合物から酸性イオン交換樹脂(H型)と弱塩基性イオン交換樹脂(OH型)とを用いて、塩類、蛋白質等の不純物を除去することを特徴とするルチン又はエスクリンの水溶性を改善する方法。」が記載され(特許請求の範囲第1項及び第2項)、ルチン又はエスクリンとデキストリンとを水に溶解した後、酵素液を加えて反応させて、ルチングリコシド、エスクリングリコシド等の配糖体を得る具体的な製造方法が記載されている(実施例1〜6)。そして、ルチンが水に難溶性であること(8lの水に1g溶解)と、上記実施例におけるルチンと水との割合(例えば実施例1では、900mlの水に1g)を考慮すると、上記実施例では、ルチンは本件請求項1のヘスペリジンと同様に、水中に高濃度懸濁状で存在するものと考えられる。
甲第4号証:特公昭58-54799号公報
「水溶性糖類を含有しているグリコシルビタミン水溶液を多孔性合成吸着剤に接触せしめて多孔性合成吸着剤にグリコシルビタミンを吸着させ、その多孔性合成吸着剤からグリコシルビタミンを溶出採取することを特徴とするグリコシルビタミンの製造方法。」が記載され(特許請求の範囲)、グリコシルビタミンとして、グリコシルビタミンPが、別名ルチングリコシド、エスクリングリコシドであるとして、例示され(第1欄26〜38行)、ルチングリコシドについて、ルチンとデキストリンを水に溶解した後、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを加えて反応させて得、多孔性合成吸着剤を用いて精製する具体的な製造方法、その性状及び用途が記載されている(実施例4,第8欄28行〜第9欄20行)。また、本件請求項1で用いられる糖転移酵素の一つであるα-グルコシダーゼについて、当該酵素を用いてリボフラビンのグルコシル化をpH8.0のアルカリ性下で行ったことが記載されている(実施例2、第6欄21行〜第7欄7行)。
甲第5号証:「醗酵工学」第57巻、第5号、396〜405頁(1979年発行)
「CGT-aseをCDと適当な受容体を含む溶液に作用させるとCDを開環し、coupling反応を行う。この場合、適当な受容体とはどういう構造の物質を指すのであろうか。Frenchらはcoupling反応において、受容体になり得るのはD-グルコースないしはその1位置換体であることを古く報告している。」と記載され(399頁、右欄、「4.転移作用」の項の1〜6行)、また、「CGT-aseによる転移はグルコースやショ糖だけでなく、配糖体にさらにグルコースを付加することも可能である。ヘスペリジンジヒドロカルコン配糖体は、温州ミカンに含まれるヘスペリジンにヘスペリジナーゼを作用させ、ラムノースを除去した後、アルカリ側で還元して作成する。…本物質は水への溶解度が低く、利用が限られていたので、グルコースを付加し溶解度を改良することを試みた。…デンプン・酵素溶液中に投入して反応を行うと容易にグルコースが数個結合した混合物が生成した。溶解度は予想どおり約10倍改良することができた。」と記載されている(404頁、左欄下11行〜右欄下9行)。
甲第6号証:特開昭60-127370号公報
「メチルヘスピリジンは、ビタミン-Cの安定剤として広く知られており、天然物のヘスペリジンを簡単にメチル化するのみで得られる化合物で、合成品というよりむしろ天然物に近く、その毒性はきわめて低い。」と記載されている(1頁右下欄8〜13行)。
甲第7号証:「化学と生物」Vol.11,No.11,712〜719頁(1973年発行)
表3の「フラボノイド配糖体」の欄には、ヘスピリジンとルチンとが構造式と共に例示され、それらにおける糖部分の結合である「R-O-G間の結合」の欄には、両者とも「α-1,6」と記載されており(713頁)、また、「グルコースを含む配糖体へ澱粉からのグルコースを転移させることは、α-アミラーゼによっても、また、Bacillusmmaccrans,B.megateriumのcyclodextringlycosyltransferaseを使用することによってもできる。」と記載されている(718頁左欄下から9〜3行)。
甲第8号証:「科学と工業」Vol.59(3),140〜145頁(1985年発行)
「産業的に転移作用を利用するには、転移作用と加水分解作用が半々におこるような酵素では使いづらいので、更に転移率の高い酵素が求められ、CGT-ase(cyclomaltodextrin glucanotransferase EC 2.4.1.19)がこれに当たることから、本酵素の利用が急速に進んでいる。」と記載され(140頁右欄下から2行〜141頁左欄4行)、「フラボノイド配糖体は構造の中にラムノシルグルコースを含んでいるが、一般にα-1,2-ラムノシルグルコース(ネオヘスペリドース)を含むものは苦く、α-1,6-ラムノシルグルコース(ルチノース)を含むものは苦みが少ない。アルカリ側でカルコン化して甘味を示すのは前者だけで、後者はやはり無味である。我が国で大量に栽培されている温州ミカンから得られるのはヘスペリジンで、後者に属しカルコン化しても甘味剤にならない。しかし構造中のラムノースを酵素で切断除去した後カルコン化すると甘みを示す。残念ながら本物質は甘いことは甘いが水への溶解性が微少で甘味剤としての評価は低かったが、転移酵素を使ってグルコースを更に結合させ溶解度を改良することができた。」と記載されている(143頁右欄8行〜144頁左欄5行)。
甲第9号証:「日本化学雑誌」第79巻、第6号、733〜736頁(1958年6月発行)
「Armentano、Szent-Gyorgyiらはレモン汁からcitrinを抽出し、これをビタミンPと命名した。その後の研究によってその主成分がヘスペリジンであることが明らかになり、つづいて類似化学構造をもつルチンの効力が発表されて以来P作用を有するいわゆるbioflavonoidsに関する多くの研究がなされた。」と記載され(733頁左欄1〜6行)、「著者はかねてより有効かつ安定な水溶性ビオフラボノイドの製造を志し、すでに数種の化合物を得たが、さらに強力な水溶性メチルヘスペリジンをうる目的で、ヘスペリジンのメチル化について詳細な研究を行い、各種生成物の化学構造を明らかにしてそれらのP活性および毒性などの薬理学的検討を行った結果、ほぼその目的を達することができた。」と記載されている(733頁右欄2〜8行)。
甲第10号証:Agric.Biol.Chem.49(7),2159〜2165頁、1985年発行
「グルコースドナーとしてα-サイクロデキストリン及びサイクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ[EC2.4.1.19]としてのバチルス・マセランスのアミラーゼを用いて、モラリンでの糖転移反応が行われた。糖転移生成物は、リゾップス・ニベウス由来のグルコアミラーゼ[EC3.2.1.3]により加水分解された。加水分解物(最も小さな分子量の糖転移生成物)が単離され、その構造は物理化学的方法により4-O-α-D-グルコピラノシル-モラノリンであることがわかった。」と記載され(要約)、「グルコースとモラリン間のα-1,4-結合は、グルコアミラーゼに容易に加水分解されないため、グルコアミラーゼによる糖転移生成物の加水分解は反応混合物中にG1Mの蓄積を生じせしめた。」と記載されている(2163頁右欄23〜27行)。
甲第11号証:農産加工技術研究会誌、第7巻、第5号、213〜218頁(1960年10月発行)
「缶詰貯蔵中のヘスペリジンの析出を防止する因子が存在することを推定したが、かかる作用を有する物質をシラップに添加することによってヘスペリジン結晶の析出を防止することができれば、前述の第3の方法によってもっとも簡単に白濁を防止することが可能となるので、この方向に実験を進めることにした。」と記載されている(213頁左欄10〜17行)。
ウ.当合議体が取消理由を通知する際に引用した下記の刊行物には、以下の点が記載されている。
刊行物A:「化学大辞典7」、共立出版、1964年1月15日縮刷版第1冊発行、413頁「ビタミンP」の項、及び「化学大辞典8」318頁「ヘスペリジン」の項
ヘスペリジンがビタミンP作用をもつこと、水に難溶性(1gが水50lに可溶)であること、アルカリに溶解すること、が記載されている。
刊行物B:MERCK INDEX 第8版 「ヘスペリジン」の項
刊行物Aと同様のことが記載されている。
(4)対比・判断
ア.甲第1号証について
異議申立人は、訂正前の本件請求項4に記載された、α-グルコシルヘスペリジンの製造を酸化防止剤の存在下で実施するという特徴は、本件出願の出願当初の明細書のどこにも記載されておらず、当該事項を明細書の発明の詳細な説明に加えた平成8年5月28日付の手続補正は明細書の要旨を変更するものであり、本件特許の出願日は当該手続補正書が提出された日とみなすべきである旨主張している。しかしながら、平成13年6月5日付の訂正により、上記請求項4は適法に削除され、これに対応する発明の詳細な説明の、「必要ならば、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸などの酸化防止剤を共存させてもよい。」との記載も適法に削除されたので、本件特許は、特許法第120条の4第3項で準用する同第128条の規定により当該訂正後の明細書による特許出願に対してなされたものとみなされるから、明細書の要旨が変更された特許出願に対してなされたものとは認められない。
従って、本件特許の出願日は平成1年6月3日であるから、これより後の平成3年1月14日に公開された甲第1号証は本件の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に該当しない。
イ.甲第3号証〜甲第11号証及び刊行物A、Bについて
本件発明4と甲第3号証〜甲第11号証に記載された発明とを対比すると、本件発明4の「α-グルコシル ヘスペリジン」は、特許明細書には「水溶性に優れ、ヘスペリジン本来の生理活性を発揮する。」旨記載されている(特許掲載公報、第5欄1〜3行)ところ、特許権者が提出した「食品工業」、第41巻、第18号、10頁(平成13年6月5日付け意見書添付の参考資料3)によれば、水に難溶性(100mlの水に約0.002g)のヘスピリジンをα-グルコシル化することによって、ヘスペリジンの有するビタミンPの機能を維持しつつ、水溶性が約1万倍以上(100mlの水に約30g)高められたものである。これに対して、上記甲各号証には、ヘスペリジンと構造、機能等が類似するルチン、エスクリン等の配糖体化合物の水溶性を高めるために、これらをα-グルコシル化することが記載されているものの、ヘスペリジンをα-グルコシル化することは記載されていない。そして、上記甲各号証に記載されたα-グルコシル化化合物の水溶性改善効果は、ルチンでは、8lの水に1g溶解を、100gの水に30g溶解へと、2400倍程度であり(東洋精糖株式会社の「αGルチン」カタログ、特許権者が提出した平成13年6月5日付け意見書添付の参考資料4参照)、ヘスペリジンを脱ラムノース化した後、カルコン化した、ヘスペリジンジヒドロカルコン配糖体(甲第8号証のヘスペレチンジヒドロカルコンモノグルコサイドと同一物)では、約10倍程度であって(甲第5号証参照)、ヘスペリジンにおいて得られた上記の著しい水溶性改善効果を予測させるものではない。このことは、刊行物A、Bに記載された事項を参酌しても同様である。
よって、たとえ、上記甲各号証及び刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、ヘスペリジンに対してもその水溶性を高めるためにα-グルコシル化することが着想できたとしても、それにより得られる効果が著しく優れることは予測しがたいことと認められるので、本件発明4は、上記甲各号証及び刊行物A、Bに記載された発明から容易に想到し得たものと認めることができない。
本件発明4を引用する本件発明5の「α-グルコシル ヘスペリジン」の発明についても、同様の理由により、上記甲各号証及び刊行物A、Bに記載された発明から容易に想到し得たものと認めることができない。
本件発明1〜3は上記「α-グルコシル ヘスペリジン」を製造する方法の発明であり、また、本件発明6〜8は上記「α-グルコシル ヘスペリジン」を含有する飲食物の発明であるから、他の点を検討するまでもなく、本件発明4と同様の理由により、上記甲各号証及び刊行物A、Bに記載された発明から容易に想到し得たものと認めることができない。
従って、本件発明1〜8は甲第3号証〜甲第11号証刊行物及び刊行物A、Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜8についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
α-グリコシル ヘスペリジンとその製造方法並びに用途
(57)【特許請求の範囲】
請求項1 濃度0.005w/v%以上の高濃度懸濁状ヘスペリジン、または、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005w/v%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンと、α-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、α-グルコシダーゼ、シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼおよびα-アミラーゼから選ばれる糖転移酵素を作用させて、ただし、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005w/v%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンに対してはpH約7.5乃至10.0で作用させて、α-グリコシル ヘスペリジンを生成せしめ、これを採取することを特徴とするα-グリコシル ヘスペリジンの製造方法。
請求項2 糖転移酵素を作用させ、次いで、アミラーゼを作用させ、α-グルコシル ヘスペリジンおよび/またはα-マルトシル ヘスペリジンを生成せしめ、これを採取することを特徴とする請求項1に記載のα-グリコシル ヘスペリジンの製造方法。
請求項3 生成したα-グリコシル ヘスペリジンを含有する溶液を多孔性合成吸着剤に接触させて精製し、α-グリコシル ヘスペリジンを採取することを特徴とする請求項1または2に記載のα-グリコシル ヘスペリジンの製造方法。
請求項4 請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法により得られるα-グリコシル ヘスペリジン。
請求項5 ヘスペリジンにD-グルコース残基が等モル以上α結合している請求項4に記載のα-グリコシル ヘスペリジン。
請求項6 請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法により得られるα-グリコシル ヘスペリジンを含有せしめた飲食物。
請求項7 α-グリコシル ヘスペリジンとともに、チアミン、リボフラビン、ビタミンCおよびビタミンEから選ばれるビタミンを含有することを特徴とする請求項6に記載の飲食物。
請求項8 α-グリコシル ヘスペリジンを、ビタミンP強化剤、黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤または紫外線吸収剤として含有することを特徴とする請求項6または7に記載の飲食物。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、新規α-グリコシル ヘスペリジンと、その製造方法、並びに用途に関し、更に詳細には、ヘスペリジンにD-グルコース残基が等モル以上α結合しているα-グリコシル ヘスペリジン、および、ヘスペリジンとα-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、糖転移酵素を作用させて、新規α-グリコシル ヘスペリジンを生成せしめ、これを採取することを特徴とするα-グリコシル ヘスペリジンの製造方法、並びに、この方法で得られるα-グリコシル ヘスペリジンを含有せしめることを特徴とする飲料、加工食品などの飲食物、感受性疾患の予防剤、治療剤などの抗感受性疾患剤、美肌剤、色白剤などの化粧品など、各種組成物への用途に関する。
[従来の技術]
ヘスペリジンは、次に示す化学構造を有し、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整などの生理作用を持つビタミンPとして、また、黄色色素として古くから知られ、食品、医薬品、化粧品などに利用されている。

ビタミンPは、生体内で、ビタミンCの生理活性、例えば、生体結合組織の主成分であるコラーゲンの合成に必要なプロリンやリジンのヒドロキシル化反応に関与し、また、例えば、チトクロームCのFe+++を還元してFe++にするなどの酸化還元反応に関与し、更には、白血球増加による免疫増強作用に関与するなどの増強作用が知られており、生体の健康維持、増進に重要な役割をしている。
ヘスペリジンの用途は、単に栄養素としてのビタミンP強化剤にとどまらず、その化学構造、生理作用から、単独で、または他のビタミンなどと併用して、例えば、黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、紫外線吸収剤などとして飲食物などに、また、ウィルス性疾患、細菌性疾患、循環器疾患、悪性腫瘍など感受性疾患の予防剤、治療剤、すなわち抗感受性疾患剤に、更には、黄色着色剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、メラニン生成抑制剤などとして美肌剤、色白剤などの化粧品にまで及び、その用途範囲は極めて広い。
しかしながら、ヘスペリジンは水に難溶で、室温では50Lの水にわずか1g程度(約0.002w/v%)しか溶けず、使用上困難を極めている。
これを改善する方法としては、ヘスペリジンにジメチル硫酸を作用させ、ヘスペリジンをメチル誘導体にして、水溶性を増大する方法が知られている。
しかしながら、この方法は、有機化学的手法により行われ、反応に有毒なジメチル硫酸を使用することから、得られる誘導体の精製に相当の困難が伴い、その無毒性、安全性の確保、経済性などの点で満足すべきものではなかった。また、得られるメチル誘導体が苦味を有している欠点もある。
[発明が解決しようとする課題]
従来のヘスペリジン、またはその誘導体の欠点を解消し、水溶性に優れ、実質的に無味、無臭で、毒性の懸念もなく、加えて、生体内で生理活性を充分発揮しうるヘスペリジン誘導体の実現が強く望まれている。
[課題を解決するための手段]
本発明は、上記欠点を解消するためのものであって、とりわけ、生化学的手法を利用して、新規ヘスペリジン誘導体を目指して鋭意研究した結果に基づくものである。
その結果、ヘスペリジンとα-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、糖転移酵素を作用させることにより、水溶性に優れ、実質的に無味、無臭で、毒性の懸念もなく、生体内で容易に加水分解され、ヘスペリジン本来の生理活性を発揮する新規α-グリコシル ヘスペリジンを生成することを見い出し、その製造方法、並びに飲食物、感受性疾患の予防剤、治療剤、化粧品など、各種組成物への用途を確立して、本発明を完成した。
また、この糖転移反応により生成したα-グリコシル ヘスペリジンを精製するに際しては、その反応溶液と多孔性合成吸着剤とを接触させ、その吸着性の違いを利用することにより、容易に精製できることも見い出し、本発明を完成した。
従って、本発明のα-グリコシル ヘスペリジンの製造方法は、従来技術の欠点を一挙に解消し、その工業化の実現を極めて容易にするものである。
以下、本発明を、詳細に説明する。
本発明に用いるヘスペリジンとしては、高度に精製されたヘスペリジンに限る必要はなく、ヘスペリジンと、例えば、シトロニン、ナリンジン、ルチンなどのフラボノイド配糖体との混合物、更には、ヘスペリジンを含有している各種植物由来の抽出物、ジュース、またはその部分精製物などが、適宜使用できる。
植物組織としては、例えば、柑橘類の果実、果皮、未熟果などが、有利に利用できる。
本発明に用いるα-グルコシル糖化合物としては、同時に用いる糖転移酵素によってヘスペリジンからα-グリコシル ヘスペリジンを生成することのできるものであればよく、例えば、アミロース、デキストリン、シクロデキストリン、マルトオリゴ糖などの澱粉部分加水分解物、更には、液化澱粉、糊化澱粉などが、適宜選ばれる。
従って、α-グリコシル ヘスペリジンの生成を容易にするためには、糖転移酵素に好適なα-グルコシル糖化合物が選ばれる。
例えば、糖転移酵素として、α-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)を用いる際には、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオースなどのマルトオリゴ糖、またはDE約10乃至70の澱粉部分加水分解物などが好適であり、シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.19)を用いる際には、シクロデキストリンまたはDE1以下の澱粉糊化物からDE約60の澱粉部分加水分解物などが好適であり、α-アミラーゼ(EC 3.2.1.1)を用いる際には、DE1以下の澱粉糊化物からDE約30のデキストリン、澱粉部分加水分解物などが、好適である。
また、反応時のα-グルコシル糖化合物濃度は、ヘスペリジンに対して約0.5乃至50倍の範囲が、好適である。
反応時のヘスペリジン含有液は、ヘスペリジンをできるだけ高濃度に含有するものが望ましく、例えば、ヘスペリジンを、懸濁状で、または、高温で溶解させた、もしくはpH7.0を越えるアルカリ側pHで溶解させた溶液状で、ヘスペリジンを高濃度に含有する溶液が適しており、そのヘスペリジンの濃度は約0.005w/v%以上の高濃度、望ましくは、約0.01乃至10.0w/v%含有している溶液を意味する。
本発明に用いる糖転移酵素は、ヘスペリジンと、この酵素に好適な性質のα-グルコシル糖化合物とを、含有する溶液に作用させる時、ヘスペリジンを分解せずにα-グリコシル ヘスペリジンを生成するものであればよい。
例えば、α-グルコシダーゼは、ブタの肝臓、ソバの種子などの動、植物組織由来の酵素、または、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属などに属するカビ、またはサッカロミセス(Saccharomyces)属などに属する酵母などの微生物を栄養培地で培養し得られる培養物由来の酵素が、シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼは、バチルス(Bacillus)属、クレブシーラ(Klebsiella)属などに属する細菌培養物由来の酵素が、α-アミラーゼは、バチルス属などに属する細菌、または、アスペルギルス(Aspergillus)属などに属するカビ培養物由来の酵素などが、適宜選択できる。
これらの糖転移酵素は、前記の条件を満足しさえずれば、必ずしも精製して使用する必要はなく、通常は、粗酵素で本発明の目的を達成することができる。
必要ならば、公知の各種方法で精製して使用してもよい。また、市販の糖転移酵素を利用することもできる。
使用酵素量と反応時間とは、密接な関係があり、通常は、経済性の点から約5乃至80時間で反応を終了するように酵素量が選ばれる。
また、固定化された糖転移酵素をバッチ式で繰り返し、反応に、または連続式で連続的反応に利用することも、適宜選択できる。
本発明の反応方法は、ヘスペリジンの仕込濃度を高めた状態で、糖転移酵素を作用させるのが望ましい。
例えば、ヘスペリジンを懸濁状で反応せしめる場合には、約0.1乃至2.0W/V%の懸濁状ヘスペリジンと適量のα-グルコシル糖化合物とを含有するヘスペリジン高含有液を、pH約4.5乃至6.5とし、糖転移酵素が作用しうるできるだけ高温、具体的には、約70乃至90℃に維持し、これに糖転移酵素を作用させると、ヘスペリジンがα-グリコシル ヘスペリジンに変換するにつれて懸濁状ヘスペリジンが徐々に溶解し、同時に、α-グリコシル ヘスペリジンが容易に高濃度に生成する。
また、例えば、ヘスペリジンをpH7.0を越えるアルカリ側で反応する場合には、pH約7.5乃至10.0の水に約0.2乃至5.0w/v%のヘスペリジンを加熱溶解し、これに適量のα-グルコシル糖化合物を溶解して得られるヘスペリジン高含有液を、糖転移酵素の作用しうるできるだけ高pH、高温、具体的には、pH約7.5乃至10.0、温度約50乃至80℃に維持し、これに糖転移酵素を作用させるとα-グリコシル ヘスペリジンを容易に、高濃度に生成する。
この際、アルカリ性溶液中のヘスペリジンは、分解を起しやすいので、これを防ぐため、できるだけ遮光、嫌気下に維持するのが望ましい。
更に、前記条件を組み合せる方法、例えば、約0.5乃至10.0w/v%のヘスペリジンと適量のα-グルコシル糖化合物とを含有するヘスペリジン高含有液をpH約7.5乃至10.0、温度約50乃至80℃に維持し、これに糖転移酵素を作用させると、α-グリコシル ヘスペリジンを容易に、高濃度に生成する。
また、ヘスペリジンとして、例えば、約0.1乃至1.0規定のカセイソーダ水溶液、カセイカリ水溶液、炭酸ソーダ水溶液、水酸化カルシウム水、アンモニア水などの強アルカリ性水溶液に、約0.5乃至10.0w/v%の高濃度に溶解させたものを用い、これに塩酸、硫酸などの酸性水溶液を加えて、酵素が作用し得るpH、望ましくはpH7.0を越えるpHに調整するとともに、α-グルコシル糖化合物を加え、直ちに、糖転移酵素を作用させることは、α-グリコシル ヘスペリジンを容易に高濃度に生成させることができるので、極めて好都合である。
この際、せっかく高濃度に溶解させたヘスペリジン溶液も、酸性水溶液でpHを調整するとヘスペリジンが析出を起し易いので、そのpH調整前に、α-グルコシル糖化合物や少量のα-グリコシル ヘスペリジンなどを共存させて、ヘスペリジンの析出を抑制しつつ糖転移反応を開始することも有利に実施できる。
また、更に必要ならば、反応前のヘスペリジンの溶解度を高め、ヘスペリジンヘの糖転移反応を容易にするために、ヘスペリジン高含有液に水と互いに溶解しうる有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、アセトール、アセトンなどの低級アルコール、低級ケトンなどを共存させることも、適宜選択できる。
また、糖転移反応により生成せしめた比較的高分子のα-グリコシル ヘスペリジンは、必要により、そのままで、または、多孔性合成吸着樹脂により精製した後、グルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)、またはβ-アミラーゼ(EC 3.2.1.2)などのアミラーゼによって部分加水分解し、α-グリコシル ヘスペリジンのα-D-グルコシル基の数を低減させることができる。例えば、グルコアミラーゼを作用させる場合には、α-マルトシル ヘスペリジン以上の高分子物を加水分解し、グルコースを生成するとともにα-グルコシル ヘスペリジンを蓄積生成させることができ、また、β-アミラーゼを作用させる場合には、α-マルトトリオシル ヘスペリジン以上の高分子物を加水分解し、マルトースを生成するとともに、主にα-グルコシル ヘスペリジンとα-マルトシル ヘスペリジンとの混合物を、蓄積生成させることができる。
前述のようにしてα-グリコシル ヘスペリジンを生成せしめた反応溶液は、そのままでα-グリコシル ヘスペリジン製品にすることもできる。通常は、反応溶液を濾過、濃縮してシラップ状の、更には、乾燥、粉末化して粉末状のα-グリコシル ヘスペリジン製品にする。
本製品は、ビタミンP強化剤としてばかりでなく、安全性の高い天然型の黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、予防剤、治療剤、紫外線吸収剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、抗感受性疾患剤、化粧品、プラスチック製品など、各種組成物への用途に、有利に利用できる。
更に、精製されたα-グリコシル ヘスペリジン製品を製造する場合には、多孔性合成吸着剤による吸着性の差を利用してα-グリコシル ヘスペリジンとα-グルコシル糖化合物などの來雑物とを分離して精製すればよい。
本発明でいう多孔性合成樹脂とは、多孔性で広い吸着表面積を有し、かつ非イオン性のスチレン-ジビニルベンゼン重合体、フェノール-ホルマリン樹脂、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂などの合成樹脂であり、例えば、市販されているRohm & Haas社製造の商品名アンバーライトXAD-1、アンバーライトXAD-2、アンバーライトXAD-4、アンバーライトXAD-7、アンバーライトXAD-8、アンバーライトXAD-11、アンバーライトXAD-12、三菱化成工業株式会社製造の商品名ダイヤイオンHP-10、ダイヤイオンHP-20、ダイヤイオンHP-30、ダイヤイオンHP-40、ダイヤイオンHP-50、IMACTI社製造の商品名イマクティSyn-42、イマクティSyn-44、イマクティSyn-46などがある。
本発明のα-グリコシル ヘスペリジンを生成せしめた反応液の精製方法は、反応液を、例えば、多孔性合成吸着剤を充填したカラムに通液すると、α-グリコシル ヘスペリジンおよび比較的少量の未反応ヘスペリジンが多孔性合成吸着剤に吸着するのに対し、多量に共存するα-グルコシル糖化合物、水溶性糖類は吸着されることなく、そのまま流出する。
必要ならば、糖転移酵素の反応終了後、多孔性合成吸着剤に接触させるまでの間に、例えば、反応液を加熱して生じる不溶物を濾過して除去したり、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウムなどで処理して反応液中の蛋白性物質などを吸着除去したり、強酸性イオン交換樹脂(H型)、中塩基性または弱塩基性イオン交換樹脂(OH型)などで処理して脱塩するなどの精製方法を組み合せて、利用することも随意である。
前述のようにして、多孔性合成吸着剤カラムに選択的に吸着したα-グリコシル ヘスペリジンと比較的少量の未反応ヘスペリジンとは、希アルカリ、水などで洗浄した後、比較的少量の有機溶媒または有機溶媒と水との混合液、例えば、メタノール水、エタノール水などを通液すれば、まず、α-グリコシル ヘスペリジンが溶出し、通液量を増すか有機溶媒濃度を高めるかすれば未反応ヘスペリジンが溶出してくる。
このα-グリコシル ヘスペリジン高含有溶出液を蒸溜処理して、まず有機溶媒を溜去した後、適当な濃度にまで濃縮すればα-グリコシル ヘスペリジンを主成分とするシラップ状製品が得られる。更に、これを乾燥し粉末化することによって、α-グリコシル ヘスペリジンを主成分とする粉末状製品が得られる。
この有機溶媒によるα-グリコシル ヘスペリジンおよび未反応ヘスペリジンの溶出操作は、同時に、多孔性合成吸着剤の再生操作にもなるので、この多孔性合成吸着剤の繰り返し使用を可能にする。
また、本発明の多孔性合成吸着剤による精製は、α-グルコシル糖化合物、水溶性糖類だけでなく、水溶性の塩類などの來雑物も同時に除去できる特長を有している。このようにして得られるα-グリコシル ヘスペリジンは、次の特長を有している。
(1)ヘスペリジンと比較してα-グリコシル ヘスペリジンは、水溶性が極めて大きい。また、α-グリコシル ヘスペリジンは、ヘスペリジン含有水溶液からのヘスペリジンの析出を抑制し、該溶液の白濁を防止する。このことから、α-グリコシル ヘスペリジンは、柑橘類果汁に含まれるヘスペリジンの析出を抑制し、白濁を防止することのできる安定剤として有利に利用できる。
(2)ヘスペリジンと比較してα-グリコシル ヘスペリジンは、耐光性、安定性が大きい。
(3)α-グリコシル ヘスペリジンは、体内の酵素によりヘスペリジンとグルコースとに加水分解され、ヘスペリジン本来の生理活性(ビタミンP)を示す。ま、α-グリコシル ヘスペリジンは、チアミン、リボフラビン、ビタミンC、ビタミンEなど他のビタミンや酸化防止剤の場合とは違って、実質的に無味、無臭であって、変色、褐変、異臭発生の懸念もなく安心して利用でき、α-グリコシル ヘスペリジンを、ビタミンや酸化防止剤の1種または2種以上と併用することも好都合である。また、ビタミンCとの併用により、それらの持つ生理活性を増強させることができる。
(4)α-グルコシル糖化合物を含有する製品の場合には、α-グリコシル ヘスペリジンの効果を発揮するのみならず、α-グルコシル糖化合物が賦形、増量効果や、甘味効果を発揮することができ、また、α-グルコシル糖化合物を除去した精製製品の場合には、ほとんど賦形、増量することなくα-グリコシル ヘスペリジンの効果を発揮することができ、また、実質的に無味、無臭なので自由に調味、調香することができる。
これらの特長から、α-グリコシル ヘスペリジンは安全性の高い天然型のビタミンP強化剤としてばかりでなく、黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、ウィルス性疾患、細菌性疾患、循環器疾患、悪性腫瘍など感受性疾患の予防剤、治療剤、紫外線吸収剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、抗感受性疾患剤、美肌剤、色白剤などの化粧品、更には、プラスチック製品など、各種組成物への用途に有利に利用することができる。
またα-グリコシル ヘスペリジンは、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの呈味を有する各種物質ともよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、普通一般の飲食物、嗜好物、例えば、調味料、和菓子、洋菓子、氷菓、飲料、スプレッド、ペースト、漬物、ビン缶詰、畜肉加工品、魚肉・水産加工品、乳・卵加工品、野菜加工品、果実加工品、穀類加工品など、広い範囲に利用することができる。また、家畜、家禽、蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のための飼料、餌料などにビタミンP強化剤、嗜好性向上などの目的で配合して利用することも、好都合である。
その他、タバコ、トローチ、肝油ドロップ、複合ビタミン剤、口中清涼剤、口中香錠、うがい薬、経管栄養剤、内服薬、注射剤、練歯みがき、口紅、リップクリーム、日焼け止めなど各種固状、ペースト状、液状の嗜好物、感受性疾患の予防剤、治療剤、すなわち、抗感受性疾患剤、美肌剤、色白剤などの化粧品などに配合して利用することも、有利に実施でき、更には、紫外線吸収剤、劣化防止剤などとして、プラスチック製品などに配合して利用することも、有利に実施できる。
また、本発明でいう感受性疾患とは、α-グリコシル ヘスペリジンによって予防され若しくは治療される疾患であり、それが、例えば、ウィルス性疾患、細菌性疾患、外傷性疾患、免疫性疾患、リューマチ、糖尿病、循環器疾患、悪性腫瘍などであってもよい。α-グリコシル ヘスペリジンの感受性疾患予防剤、治療剤は、その目的に応じてその形状を自由に選択できる。例えば、噴霧剤、点眼剤、点鼻剤、うがい剤、注射剤などの液剤、軟膏、はっぷ剤、クリームのようなペースト剤、粉剤、顆粒、カプセル剤、錠剤などの固剤などである。製剤に当たっては、必要に応じて、他の成分、例えば、治療剤、生理活性物質、抗生物質、補助剤、増量剤、安定剤、着色剤、着香剤などの1種また2種以上と併用することも、随意である。
投与量は、含量、投与経路、投与頻度などによって、適宜調節することができる。通常、α-グリコシル ヘスペリジンとして、成人1日当り、約0.001乃至10.0グラムの範囲が好適である。
また、化粧品の場合も、大体、前述の予防剤、治療剤に準じて、利用することができる。
α-グリコシル ヘスペリジンを利用する方法としては、それら各種組成物の製品が、完成するまでの工程で、例えば、混和、混捏、溶解、浸漬、浸透、散布、塗布、噴霧、注入など、公知の方法が、適宜選ばれる。
以下、本発明のα-グリコシル ヘスペリジンの一例を実験で説明する。
実験 1 α-グリコシル ヘスペリジンの調製
(1)糖転移反応
ヘスペリジン1重量部およびデキストリン(DE20)6重量部に水5,00重量部を加えて加熱、溶解し、これにバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)由来のシクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼ(株式会社林原生物化学研究所販売)をデキストリングラム当り20単位加え、pH6.0、70℃に維持して18時間反応させ、ヘスペリジンの約70%をα-グリコシル ヘスペリジンに転換し、その後、加熱失活させ、α-グリコシル ヘスペリジンとともに未反応ヘスペリジンを含有する反応液を得た。
(2)精 製
(1)の方法で得た反応液を濾過し、濾液を多孔性合成吸着剤、商品名ダイヤイオンHP-10(三菱化成工業株式会社販売)を充填したカラムにSV2で通液した。このカラムを水で洗浄した後、50v/v%エタノールを通液し、この溶出液を濃縮して溶媒を溜去し、粉末化して淡黄色のα-グリコシル ヘスペリジン標品[I]を原料のヘスペリジン重量に対して約130%の収率で得た。
(3)アミラーゼによる加水分解
(2)の方法で得たα-グリコシル ヘスペリジン標品[I]を水に1w/v%に溶解し、これにグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3、生化学工業株式会社販売)を該標品グラム当り100単位加え、pH5.0、55℃に維持して5時間反応させた。反応液を加熱して酵素を失活させ、濾過し、濾液を多孔性合成吸着剤、商品名ダイヤイオンHP-10(三菱化成工業株式会社販売)のカラムにSV2で通液した。その結果、溶液中のα-グリコシル ヘスペリジンと未反応ヘスペリジンとが多孔性合成吸着剤に吸着し、グルコース、塩類などは吸着することなく流出した。次いで、カラムを水で通液、洗浄した後、エタノール水溶液濃度を段階的に高めながら通液し、α-グリコシル ヘスペリジン画分を採取し、減圧濃縮し、粉末化して、淡黄色のα-グリコシル ヘスペリジン標品[II]を固形物当り原料のヘスペリジン重量に対して約70%の収率で得た。
また、グルコアミラーゼに代えて、β-アミラーゼ(EC 3.2.1.2、生化学工業株式会社販売)を用いて、前述の方法に準じて、α-グリコシル ヘスペリジン標品[I]を加水分解し、精製、濃縮、粉末化して、淡黄色のα-グリコシル ヘスペリジン標品[III]を原料のヘスペリジン重量に対して約70%の収率で得た。
実験 2 α-グリコシル ヘスペリジンの理化学的性質
(1)水溶性の向上
実験1(1)の方法で糖転移反応し調製したα-グリコシル ヘスペリジン含反応液と、この方法で用いる酵素を予め加熱失活させて実験1(1)の方法に準じて処理した対照液とを、4℃の冷室に2日間放置したところ、対照液では、ヘスペリジンが析出して白濁したのに対し、α-グリコシル ヘスペリジン含有反応液は透明のままであった。
従って、糖転移反応により生成したα-グリコシル ヘスペリジンは、水溶性が著しく向上している。換言すれば、α-グリコシル ヘスペリジンは、水溶液中に共存する未反応ヘスペリジンの析出を抑制し、該溶液の白濁を防止している。
(2)溶剤に対する溶解性
α-グリコシル ヘスペリジン標品は、水、0.1規定カセイソーダ、0.1定塩酸に易溶、メタノール、エタノールに微溶、エーテル、ベンゼン、クロロホルムに不溶。
(3) 紫外線吸収スペクトル
α-グリコシル ヘスペリジン標品を0.1規定カセイソーダ溶液に溶解して紫外線吸収スペクトルを調べたところ、標品[I]、標品[II]および標品[III]のいずれも、ヘスペリジンの場合と同じ286nm付近に吸収極大を有していた。
(4) 赤外線吸収スペクトル
KBr錠剤法によって、α-グリコシル ヘスペリジン標品の赤外線吸収スペトルを調べた。α-グリコシル ヘスペリジン標品[I]の結果を第1図に、標品[II]の結果を第2図に示す。
(5)加水分解に対する安定性
(a)α-グリコシル ヘスペリジン標品は、ブタの肝臓由来のα-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)により加水分解され、ヘスペリジンとD-グルコスとを生成する。
(b)β-グルコシダーゼによっては加水分解されない。
(6)薄層クロマトグラフィー
(a)分析方法
プレート;メルク社製、
商品名キーゼルゲル60F254
展開溶媒;n-ブタノール:酢酸:水=4:2:1
発色剤 ;1w/w%硫酸第二セリウム10w/w%硫酸水溶液
(b)分析結果
α-グリコシル ヘスペリジン標品を分析したところ、標品[I]の場合には、Rf0.69のヘスペリジンのスポット以外に、新たに、Rf0.48、0.34、0.22、0.16、0.10、0.04および原点にスポットが認められ、標品[II]の場合には、Rf0.48のスポットが認められ、標品[III]の場合には、Rf0.48、0.34のスポットが認められた。
以上の理化学的性質から、標品[I]、標品[II]および標品[III]に含まれるRf0.48を示す物質は、ヘスペリジン1モルにD-グルコース残基が1モルα結合したα-グルコシル ヘスペリジン(別名、ヘスペリジンモノグルコサイド)と判断され、標品[I]および標品[III]に含まれるRf0.34を示す物質は、ヘスペリジン1モルにD-グルコースが2モルα結合したα-ジグルコシル ヘスペリジン(別名、ヘスペリジンジグルコサイド)と判断され、同様に、標品[I]に含まれるRf0.22以下の複数のスポットを示す物質は、ヘスペリジン1モルにD-グルコース残基が3モル以上α結合したα-オリゴグルコシル ヘスペリジンであると判断される。
このように、本願発明のα-グリコシル ヘスペリジンは、ヘスペリジンにD-グルコース残基が等モル以上α結合した水溶性良好な新規ヘスペリジン糖誘導体であって、生体内に摂取されると、α-グルコシダーゼによって容易に加水分解され、ヘスペリジン本来の生理活性を発揮する。
実験 3 急性毒性
7周令のdd系マウスを使用して、実験1(2)の方法で調製したα-グリコシル スペリジン標品[I]を経口投与して、急性毒性テストをしたところ、体重1kg当たり、5gまで死亡例は見られなかった。従って、本物質の毒性は極めて低い。なお、実験1(3)の方法で調製したα-グリコシル ヘスペリジン標品[II]を用いて同様に本テストを行ったところ、前述と同様の結果が得られ、毒性が極めて低いことが、判明した。
以下、本発明の実施例として、α-グリコシル ヘスペリジンの製造例を実施例Aで、α-グリコシル ヘスペリジンの各種組成物への用途例を実施例Bで述べる。
実施例 A-1 α-グリコシル ヘスペリジン
ヘスペリジン1重量部を1規定カセイソーダ溶液4重量部で溶解し、これに0.01規塩酸溶液を加えて中和するとともにデキストリン(DE10)4重量部を加え、直ちにバチルス・ステアロサーモフィルス由来のシクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼ(株式会社林原生物化学研究所販売)をデキストリングラム当り20単位加え、pH6.0、75℃に維持して、攪拌しつつ24時間反応させた。反応液を薄層クロマトグラフィーで分析したところ、ヘスペリジンの約70%が、α-グルコシルヘスペリジン、α-ジグルコシルヘスペリジン、α-トリグルコシルヘスペリジン、α-テトラグルコシル ヘスペリジン、α-ペンタグルコシル ヘスペリジンなどのα-グリコシル ヘスペリジンに転換していた。反応液を加熱して酵素を失活させ、濾過し、濾液を、常法に従って、イオン交換樹脂(H型およびOH型)で脱塩精製し、濃縮して、シラップ状のα-グルコシル糖化合物を含有するα-グリコシル ヘスペリジン製品を、固形物当り原料重量に対して約90%の収率で得た。
本品は、ビタミンP強化剤としてばかりでなく、安全性の高い天然型の黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、予防剤、治療剤、紫外線吸収剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、抗感受性疾患剤、化粧品、プラスチック製品など、各種組成物への用途に有利に利用できる。
実施例 A-2 α-グルコシル ヘスペリジン
実施例A-1の方法に準じて調製したシラップ状のα-グルコシル糖化合物を有するα-グリコシル ヘスペリジン製品1重量部を水4重量部に溶解し、これにグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3、生化学工業株式会社販売)をα-グリコシル ヘスペリジン製品固形物グラム当り100単位加え、50℃、5時間反応させた。反応液を薄層クロマトグラフィーで分析したところ、α-グリコシル ヘスペリジンは、α-グルコシル ヘスペリジンに転換していた。
反応液を加熱して酵素を失活させ、濾過し、濾液を多孔性合成吸着剤、商品名ダイヤイオンHP-10(三菱化成工業株式会社販売)のカラムにSV2で通液した。その結果、溶液中のα-グルコシル ヘスペリジンと未反応ヘスペリジンとが多孔性合成吸着剤に吸着し、グルコース、塩類などは吸着することなく流出した。次いで、カラムを水で通液、洗浄した後、エタノール水溶液濃度を段階的に高めながら通液し、α-グルコシル ヘスペリジン画分を採取し、減圧濃縮し、粉末化して、粉末状のα-グルコシル ヘスペリジンを固形物当り原料のヘスペリジン重量に対して約60%の収率で得た。
α-グルコシル ヘスペリジンを酸で加水分解したところ、ヘスペリジン1モルに対し、L-ラムノース1モル、D-グルコース2モルを生成し、また、α-グルコシル ヘスペリジンに、ブタの肝臓から抽出し部分精製したα-グルコシダーゼを作用させると、ヘスペリジンとD-グルコースとに加水分解されることが判明した。
本α-グルコシル ヘスペリジンは、高度に精製された水溶性の高いビタミンP強化剤として、また、黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、予防剤、治療剤、紫外線吸収剤などとして、飲食物、嗜好物、抗感受性疾患剤、化粧品など、各種組成物への用途に、有利に利用できる。
実施例 A-3 α-グリコシル ヘスペリジン
ヘスペリジン1重量部を水500重量部にpH9.5で加熱溶解し、別にデキストリン(DE8)10重量部を水10重量部に加熱溶解し、次いで、これら溶液を混合し、これにシクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼを、デキストリングラム当り30単位加え、pH8.2、65℃に維持して、攪拌しつつ40時間反応させた。
反応液を薄層クロマトグラフィーで分析したところ、ヘスペリジンの約80%がα-グリコシル ヘスペリジンに転換していた。
反応液を加熱して酵素を失活させた後、濾過し、濾液を多孔性合成吸着剤、商品名アンバーライトXAD-7(Rohm & Haas社製造)のカラムにSV1.5で通液した。
その結果、溶液中のα-グリコシル ヘスペリジンと未反応ヘスペリジンとが多孔性合成吸着剤に吸着し、デキストリン、オリゴ糖、塩類などは吸着することなく流出した。
このカラムを水で通液、洗浄した後、50v/v%メタノールを通液して、α-グリコシル ヘスペリジンおよびヘスペリジンを溶出し、これを濃縮し、粉末化して、粉末状α-グリコシル ヘスペリジン製品を原料のヘスペリジン重量に対して約120%の収率で得た。
本品は、水溶性の高いビタミンP強化剤としてばかりでなく、安全性の高い天然型の黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、予防剤、治療剤、紫外線吸収剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、抗感受性疾患剤、化粧品、プラスチック製品など、各種組成物への用途に有利に利用できる。
実施例 A-4 α-グリコシル ヘスペリジン
(1)α-グルコシダーゼ標品の調製
マルトース4w/v%、リン酸1カリウム0.1w/v%、硝酸アンモニウム0.1w/v%、硫酸マグネシウム0.05w/v%、塩化カリウム0.05w/v%、ポリペプトン0.2w/v%、炭酸カルシウム1w/v%(別に、乾熱滅菌して、植菌時には無菌的に添加する。)および水からなる液体培地500重量部に、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)IFO4570を温度30℃で、44時間振盪培養した。培養終了後、菌糸体を採取し、その湿菌糸体48重量部に対し、0.5M酢酸緩衝液(pH5.3)に溶解した4M尿素液500重量部を加え、30℃で40時間静置した後、遠心分離した。この上清を流水中で一夜透析した後、硫安0.9飽和とし、4℃で一夜放置して生成した塩析物を濾取し、0.01M酢酸緩衝液(pH5.3)50重量部に懸濁溶解した後、遠心分離して上清を採取し、α-グルコシダーゼ標品とした。
(2)α-グリコシル ヘスペリジンの調製
ヘスペリジン5重量部を0.5規定カセイソーダ溶液100重量部に加熱溶解し、これに0.01規定塩酸溶液を加えてpH9.5にするとともに、デキストリン(DE30)20重量部を加え、直ちに(1)の方法で調製したα-グルコシダーゼ標品10重量部を加え、pH8.5に維持して攪拌しつつ55℃で40時間反応させた。
反応液を薄層ペーパークロマトグラフィーで分析したところ、ヘスペリジンの約0%がα-グリコシル ヘスペリジンに転換していた。
反応液を実施例A-3と同様に精製し、濃縮、粉末化して粉末状α-グリコシル ヘスペリジン製品を原料のヘスペリジン重量に対して約110%の収率で得た。
本品は、実施例A-3の場合と同様に、水溶性の高いビタミンP強化剤としてばかりでなく、安全性の高い天然型の黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、予防剤、治療剤、紫外線吸収剤などとして、各種組成物への用途に利用できる。
実施例 B-1 ハードキャンディー
還元麦芽糖水飴(林原商事株式会社販売、登録商標マビット)1,500重量部を加熱、減圧下で水分約2%以下になるまで濃縮し、これにクエン酸15重量部および実施例A-3の方法で得た粉末状α-グリコシル ヘスペリジン1重量部および少量のレモン香料を混和し、次いで常法に従って、成形、包装してハードキャンディーを得た。
本品は、ビタミンPを強化した黄色のレモンキャンディーであって、低う蝕性、低カロリーである。
実施例 B-2 フキの水煮
フキを皮むきし、適当な長さに切断して、薄い食塩水に数時間浸し、これを実施A-1の方法で得たシラップ状α-グリコシル ヘスペリジンと青色1号とを配合して調製した緑色着色料を含有する液で煮込んで、緑色の鮮かなフキの水煮を得た。
本品は、各種和風料理の材料として色どりを添えるとともに、食物繊維としての生理効果をも発揮する。
実施例 B-3 求 肥
モチ種澱粉1重量部に水1.2重量部を混合し、加熱糊化しつつ、これに砂糖1.5重量、結晶性β-マルトース(林原株式会社製造、登録商標サンマルト)0.7重量部、水飴0.3重量部および実施例A-1の方法で得たシラップ状α-グリコシル ヘスペリジン0.2重量部を混和し、以後、常法に従って、成形、包装して求肥を製造した。
本品は、風味、口当りとも良好な求肥で、きびだんご風の和菓子である。
実施例 B-4 混合甘味料
はちみつ100重量部、異性化糖50重量部、黒砂糖2重量部および実施例A-4の方法で得た粉末状α-グリコシル ヘスペリジン1重量部を混合して混合甘味料を得た。
本品はビタミンPを強化した甘味料で健康食品として好適である。
実施例 B-5 サンドクリーム
結晶性α-マルトース(林原株式会社製造、登録商標ファイントース)1,200重量部、ショートニング1,000重量部、実施例A-3の方法で得た粉末状α-グリコシル ヘスペリジン10重量部、レシチン1重量部、レモンオイル1重量部、バニラオイル1重量部を常法により混和してサンドクリームを製造した。
本品は、ビタミンP強化、黄色着色したサンドクリームで、口当り、溶け具合、風味とも良好である。
実施例 B-6 錠 剤
アスコルビン酸20重量部に結晶性β-マルトース13重量部、コーンスターチ4重量部および実施例A-2の方法で得た粉末状α-グルコシル ヘスペリジン3重量部を均一に混合した後、直径12mm、20R杵を用いて、打錠し錠剤を得た。
本品は、アスコルビン酸とα-グルコシル ヘスペリジンとの複合ビタミン剤でアスコルビン酸の安定性もよく、飲み易い錠剤である。
実施例 B-7 カプセル剤
酢酸カルシウム・一水塩10重量部、L-乳酸マグネシウム・三水塩50重量部、マルトース57重量部、実施例A-2の方法で得たα-グルコシル ヘスペリジン20重量部及びエイコサペンタエン酸20%含有γ-シクロデキストリン包接化合物12重量部を均一に混合し、顆粒成形機にかけて顆粒とした後、常法に従って、ゼラチンカプセルに封入して、一カプセル150mg入のカプセル剤を製造した。
本品は、血中コレステロール低下剤、免疫賦活剤、美肌剤などとして、感受性疾患の予防剤、治療剤、健康増進用食品などとして有利に利用できる。
実施例 B-8 軟 膏
酢酸ナトリウム・三水塩1重量部、DL-乳酸カルシウム4重量部をグリセリン10重部と均一に混合し、この混合物を、ワセリン50重量部、木ロウ10重量部、ラノリン10重量部、ゴマ油14.5重量部、実施例A-4の方法で得たα-グリコシル ヘスペリジン1重量部及びハッカ油0.5重量部の混合物に加え、更に均一に混和して軟膏を製造した。
本品は、日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして、更には外傷、火傷の治癒促進剤などとして、有利に利用できる。
実施例 B-9 注 射 剤
実施例A-2の方法で得たα-グルコシル ヘスペリジンを水に溶解し、常法にって、精製濾過してパイロゲンフリーとし、この溶液を20mL容アンプルにα-グルコシル ヘスペリジンが50mgになるように分注し、これを減圧乾燥し、封入して注射剤を製造した。
本注射剤は、単体で、または、他のビタミン、ミネラルなどと混合して筋肉内又は静脈内に投与できる。また、本品は、低温貯蔵の必要もなく、使用に際しての生理食塩水などへの溶解性は極めて良好である。
実施例 B-10 注 射 剤
塩化ナトリウム6重量部、塩化カリウム0.3重量部、塩化カルシウム0.2重量部、乳ナトリウム3.1重量部、マルトース45重量部及び実施例A-2の方法で得たα-グルコシル ヘスペリジン1重量部を水1,000重量部に溶解し、常法に従って、精製濾過してパイロゲンフリーとし、この溶液を滅菌したプラスチック容器に250mLずつ充填して、注射剤を製造した。
本品は、ビタミンP補給としてだけでなく、カロリー補給、ミネラル補給のための注射剤で、病中、病後の治療促進、回復促進などに有利に利用できる。
実施例 B-11 経管栄養剤
結晶性α-マルトース20重量部、グリシン1.1重量部、グルタミン酸ナトリウム0.1重量部、食塩1.2重量部、クエン酸1重量部、乳酸カルシウム0.4重量部、炭酸マグネシウム0.1重量部、実施例A-3の方法で得たα-グリコシル ヘスペリジン0.1重量部、チアミン0.01重量部及びリボフラビン0.01重量部からなる配合物を調製する。この配合物24gずつをラミネートアルミ製小袋に充填し、ヒートシールして経管栄養剤を調製した。
本経管栄養剤は、一袋を約300乃至500mLの水に溶解し、経管方法により鼻腔、胃、腸などへの経口的又は非経口的栄養補給液としても有利に利用できる。
実施例 B-12 浴 用 剤
DL-乳酸ナトリウム21重量部、ピルビン酸ナリトウム8重量部、実施例A-1の方法で得たα-グリコシル ヘスペリジン5重量部及びエタノール40重量部を、精製水26重量部及び着色料、香料の適量と混合し、浴用剤を製造した。
本品は、美肌剤、色白剤として好適であり、入浴用の湯に100乃至10,000倍に希釈て利用すればよい。本品は、入浴用の湯の場合と同様に、洗顔用水、化粧水などに希釈して利用することも、有利に実施できる。
実施例 B-13 乳 液
ポリオキシエチレンベヘニルエーテル0.5重量部、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール1重量部、親油型モノステアリン酸グリセリン1重量部、ピルビン酸0.5重量部、ベヘニルアルコール0.5重量部、アボガド油1重量部、実施例A-3の方法で得たα-グリコシル ヘスペリジン1重量部、ビタミンE及び防腐剤の適量を、常法に従って加熱溶解し、これにL-乳酸ナトリウム1重量部、1,3-ブチレングリコール5重量部、カルボキシビニルポニマー0.1重量部及び精製水85.3重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて攪拌混合し、乳液を製造した。
本品は、日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして、有利に利用できる。
実施例 B-14 クリーム
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2重量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5重量部、実施例A-2の方法で得たα-グルコシル ヘスペリジン2重量部、流動パラフィン1重量部、トリオクタン酸グリセリル10重量部及び防腐剤の適量を、常法に従って加熱溶解し、これにL-乳酸2重量部、1,3-ブチレングリコール5重量部及び精製水66重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて攪拌混合しクリームを製造した。
本品は、日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
[発明の効果]
本文で述べたごとく、本発明の新規物質であるヘスペリジンにD-グルコース残基が等モル以上α結合しているα-グリコシル ヘスペリジンは、水溶性に優れ、実質的に無味、無臭で、毒性の懸念もなく、生体内で容易にヘスペリジンとD-グルコースとに加水分解され、ヘスペリジン本来の生理活性を発揮する。
また、このα-グリコシル ヘスペリジンが、ヘスペリジンとα-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、糖転移酵素を作用させる生化学的手法により、容易に生成できることから、経済性に優れ、その工業実施も容易である。
更に、ヘスペリジンの仕込濃度を高めて反応させることができ、α-グリコシル ヘスペリジンの濃度を、容易に高濃度に生成しうることを見い出し、併せて、この反応液の精製に際して、反応液を多孔性合成吸着剤と接触させてα-グリコシル ヘスペリジンを精製できることも見い出したことにより、α-グリコシル ヘスペリジンの大量製造を、極めて容易にするものである。
また、このようにして得られるα-グリコシル ヘスペリジンは、水溶性良好、耐光性・安定性良好、充分な生理活性を発揮するなどの特徴を有しており、安全性の高い天然型のビタミンP強化剤としてばかりでなく、黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、予防剤、治療剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、抗感受性疾患剤、美肌剤、色白剤などの化粧品、更には、プラスチック製品など、各種組成物への用途に有利に利用される。
従って、本発明によるα-グリコシル ヘスペリジンの工業的製造法と、その用途の確立は、飲食品、化粧品、医薬品、プラスチック産業における工業的意義が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の一例として、α-グリコシル ヘスペリジン標品[I]の赤外線吸収スペクトルを示す。
第2図は、本発明の一例として、α-グリコシル ヘスペリジン標品[II]の赤外線吸収スペクトルを示す。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)特許請求の範囲の減縮
(1.1)請求項1を、特許請求の範囲の減縮を目的として次のとおり訂正する。
「濃度0.005W/V%以上の高濃度懸濁状ヘスペリジン、または、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005W/V%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンと、α-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、α-グルコシダーゼ、シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼおよびα-アミラーゼから選ばれる糖転移酵素を作用させて、α-グルコシル ヘスペリジンを生成せしめ、これを採取することを特徴とするα-グルコシル ヘスペリジンの製造方法。」を、「濃度0.005W/V%以上の高濃度懸濁状ヘスペリジン、または、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005W/V%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンと、α-グルコシル糖化合物とを含有する溶液に、α-グルコシダーゼ、シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼおよびα-アミラーゼから選ばれる糖転移酵素を作用させて、ただし、アルカリ側pHで溶解させた濃度0.005W/V%以上の高濃度溶液状ヘスペリジンに対してはpH約7.5乃至10.0で作用させて、α-グルコシル ヘスペリジンを生成せしめ、これを採取することを特徴とするα-グルコシル ヘスペリジンの製造方法。」と訂正する。
(1.2)請求項4を、特許請求の範囲の減縮を目的として削除する。
(2)明瞭でない記載の釈明
(2.1)請求項4が削除されたことに伴い、後続する請求項5〜9の項番号を、それぞれ1つずつ繰り上げて、請求項4〜8と訂正する。また、それぞれの請求項で引用する請求項の項番号を対応する訂正後の番号に訂正する。
(2.2)明細書6頁15〜16行(特許掲載公報、第7欄6〜8行)の「必要ならば、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸などの酸化防止剤を共存させてもよい。」という記載を削除する。
異議決定日 2001-07-06 
出願番号 特願平1-141902
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C12P)
P 1 651・ 113- YA (C12P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 谷口 博深草 亜子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 徳廣 正道
大高 とし子
登録日 2000-04-28 
登録番号 特許第3060227号(P3060227)
権利者 株式会社林原生物化学研究所
発明の名称 α―グリコシル ヘスペリジンとその製造方法並びに用途  

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