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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A61M 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない A61M 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない A61M |
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管理番号 | 1051101 |
審判番号 | 審判1994-16814 |
総通号数 | 26 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1985-01-16 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1994-10-07 |
確定日 | 2001-12-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1664871号「カテ-テル用ガイドワイヤ」の特許無効審判事件についてされた平成10年9月16日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成10(行ケ)年第352号、平成13年2月13日判決言渡)があり、最高裁判所において該判決に対する上告の棄却及び上告審として受理しない旨の決定(平成13(行ツ)年第138号、平成13(行ヒ)年第128号、平成13年6月29日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1、本件無効審判に係る経緯 本件無効審判に係る発明は、昭和58年6月27日に特許出願され、昭和62年12月29日付け手続補正を経て、平成2年5月29日出願公告がされ、平成4年5月19日に特許第1664871号として特許権の設定登録がなされたものである。 これに対し、平成6年10月7日に本件特許を無効にすることについて本件無効審判が請求され、平成8年11月7日付けで、「特許第1664871号発明の特許を無効とする。」との審決がされた。 当該審判の被請求人(特許権者)は、審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起し(平成8年(行ケ)第320号)、一方、平成8年12月17日に本件発明の願書に添付した明細書の訂正を求める審判(平成8年審判第21159号。以下、「第1回目の訂正審判」という。)を請求した。 この第1回目の訂正審判は、平成9年6月24日付けで訂正を認める旨の審決がされ、その後同審決は確定した。(平成8年審判第21159号審決公報;平成10年2月9日発行参照。) このため、東京高等裁判所は、上記無効とすべき旨の審決を取り消す判決(平成10年3月19日判決言渡)をし、同判決は確定した。 そこで、特許庁は、本件無効審判請求事件について更に審理をした結果、平成10年9月16日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がされた。 しかし、この審決に対して当該審決を取り消すべき旨の訴えが提起(平成10年(行ケ)352号)され、上記昭和62年12月29日付けの手続補正が明細書の要旨を変更するものであることを理由の一つとしてこの審決を取り消す判決(平成13年2月13日判決言渡)がされたところ、被告(特許権者)はさらに上告及び上告受理の申立てをするとともに、上告及び上告受理の申立て審理中である平成13年6月1日に願書に添付した明細書の訂正を求める審判(2001審判第39084号。以下、「第2回目の訂正審判」という。)を請求した。 その結果、この第2回目の訂正審判は、平成13年10月10日付けで訂正を認める旨の審決がされ、平成13年10月24日に同審決の謄本が送達がされた。 2、本件発明 本件発明の要旨は、上記第2回目の訂正審判請求書に添付した訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。 (1)本体側内芯部と先端側内芯部とによって内芯を形成するとともに、該内芯の略全体を被覆部によって被覆してなるカテーテル用ガイドワイヤにおいて、本体側内芯部と先端側内芯部のうちの少なくとも先端側内芯部を超弾性金属体によつて形成し、一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性を、先端部に備えるとともに、被覆部の外径を長手方向に同一とすることを特徴とするカテーテル用ガイドワイヤ。」 と訂正する。(下線部は第2回目の訂正を求める審判に係る訂正個所を示す。以下、同じ。) 3、無効審判請求人の主張 イ、証拠方法 無効審判請求人は、証拠方法として次の甲第1号証ないし甲第23号証を提示したうえで、本件に係る特許は無効とされるべきである旨主張している。 (1)甲第1号証;特開昭59-67968号公報 (2)甲第2号証;「工業材料」1982年第30巻第1号 (3)甲第3号証;Am.J.orthod.1978年2月号第142頁〜第151頁 (4)甲第4号証;「医用電子と生体工学」1983年第2号第67頁〜第72頁 (5)甲第5号証;特開昭58-32738号公報 (6)甲第6号証;チタニウム・ジルコニウム Vol.30,NO.4(昭和57年10月)第185頁〜第192頁 (7)甲第7号証;歯科理工学雑誌 Vol.23,NO.61(1982)第47頁〜第57頁 (8)甲第8号証の1;化学工業 1983年3月号第62頁〜第66頁 (9)甲第8号証の2;金属 Metals & Technology 1981年11月号(NO.51)第15頁〜第18頁 (10)甲第9号証;実願昭55-123236号明細書のマイクロフィルム(実開昭57-45948号公報参照) (11)甲第10号証;実公昭56-52924号公報 (12)甲第11号証;「脈管学」1981年第21巻第1号第55頁〜第56頁 (13)甲第12号証;特願平58-114198号の特許異議答弁書(特公平2-24548号公報参照) (14)甲第13号証;特願平58-114198号の手続補正書(昭和62年12月29日提出) (15)甲第14号証;特願平58-114198号の手続補正書(平成1年11月24日提出) (16)甲第15号証;特公平2-24548号公報(本件特許公報) (17)甲第16号証;特開昭60-7862号公報(本件公開公報) (18)甲第17号証;特開昭60-63065号公報 (19)甲第18号証;特開昭60-68066号公報 (20)甲第19号証;特開昭61-106173号公報 (21)甲第20号証;「形状記憶合金」昭和59年6月7日第94頁〜第102頁及び202頁〜207頁 (22)甲第21号証;仮処分命令申請書8頁 (23)甲第22号証;未来を拓く「先端材料」(島村昭治編著、工業調査会、1982年11月20日初版発行)第57頁 (24)甲第23号証;「マシンデザイン」1981年第8巻第6号 ロ、主張の概要 無効審判請求人は、下記(理由1)〜(理由3)により本件特許発明は特許法第29条第1項又は第2項の規定並びに同法第36条第3項及び第4項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである旨主張している。 (なお、請求人の平成8年2月28日付け上申書及び同日付け審判請求理由補充書(第三)において上記(理由1)〜(理由3)以外の無効とすべき理由は撤回された。) (理由1) 昭和62年12月29日付け手続補正書(甲第13号証)及び平成1年11月24日付け手続補正書(甲第14号証)による手続補正は明細書の要旨を変更したものであるから、本件特許の出願日は、それら手続補正書を提出した昭和62年12月29日或いは平成1年11月24日ということになる。 その結果、本件特許発明は、その出願前頒布されたこととなる甲第1号証、甲第18号証又は甲第19号証記載の発明と同一であるか、又は同じくその出願前頒布されたこととなる甲第17号証及び甲第19号証記載の発明から当業者が容易に発明することができたものである。 (理由2) 仮に前記手続補正書による補正が明細書の要旨を変更しないとしても、本件特許発明は甲第2号証乃至甲第11号証記載の発明から容易に発明することができたものである。 (理由3) 本件明細書には以下の(a)ないし(b)-6の点でその記載に不備がある。 (a)特許請求の範囲について 本件明細書の発明の詳細な説明に記載の超弾性金属体としては、「応力一定で変位することなく、単に回復可能な比較的大きいひずみ特性の金属体や加工硬化型の金属は、本件明細書に記載されていないばかりか、本件出願当時自明の事項でもない」ところ、このような金属体も含まれる上位の概念として、「超弾性金属体」と特許請求の範囲に記載されているから、特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているとはいえない。 (b)発明の詳細な説明について (b)-1.本件発明の詳細な説明の、「また超弾性金属体からなる本体側内芯部を、他の一般的弾性金属からなる場合には、他の一般的弾性金属からなる先端側内芯部に圧入、かしめ等によって一体化するものであってもよい。」との記載は不備なものである。 (b)-2.「超弾性金属体」という用語は、「加工硬化による超弾性」を含むかのように解釈される恐れがあるのに対し、明細書には「加工硬化による超弾性」を含む超弾性金属体について十分開示していない。 (b)-3.明細書記載の超弾性金属体は、カテーテルガイドワイヤの使用温度範囲(18〜38℃)が、超弾性の特性を発現しないAs点より低いものを含んでおり、カテーテルガイドワイヤとして実施不能の記載を含むことになる。 (b)-4.目的と構成との対応関係が不明瞭である。 (b)-5.明細書の記載では、Cu-Zn-X合金、Ni-Al合金の特性が不明であり、Af点がどの範囲にあるかを特定できないので、当業者が容易に実施することができない。 (b)-6.明細書記載の超弾性金属体は、超弾性(変態擬弾性)を示さない組成を含むことが明らかであるから、実施不能な記載を含んでいることになる。 4、無効審判請求人の主張についての検討 (理由1について) 昭和62年12月29日付けでした手続補正において、特許請求の範囲第1項に係る、「一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性を、先端部に備える」点を削除した点(以下、「補正事項A」という。)、 及び、 平成1年11月24日付けでした手続補正において、特許請求の範囲第1項に係る、「両内芯部のうちの少なくとも先端側内芯部を超弾性金属体によって形成する」を「本体側内芯部と先端側内芯部の少なくともいずれかを超弾性金属体によつて形成する」と補正した点(以下、「補正事項B」という。)、 は、補正事項Aについては上記平成10年(行ケ)352号判決に記載されたとおりの理由により、補正事項Bについては上記平成8年11月7日付けの審決に記載されたとおりの理由により、いずれも明細書の要旨を変更するものであった。 しかし、補正事項Aについては第2回目の訂正審判による訂正が認容されたことにより、補正事項Bについては第1回目の訂正審判が認容されたことにより、明細書の要旨を変更するとされた点が治癒されて、特許請求の範囲第1項に係る発明は、上記「2、本件発明」に記載したとおりのものとなった。(第1回目の訂正審判、第2回目の訂正審判に係る審決参照。) したがって、理由1に係る無効審判請求人の主張は理由がないものとなった。 また、本件特許に係る出願日は手続補正書を提出した昭和62年12月29日或いは平成1年11月24日ということになることを前提として無効審判請求人が提示した甲第1号証、甲第17〜19号証は、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物とは認められない点から、それらに記載された発明について検討するまでもなく、それらに記載された発明を証拠として採用することはできない。 なお、甲第12〜16、20〜21号証は、理由1に係る直接の証拠方法とはされていないが、同様に本件に係る出願の出願前に頒布されたものとは認められない点から、それらに記載された発明も採用することはできない。 (理由2について) イ、甲第2〜11号証、甲第22〜23号証に記載された発明 甲第2号証の記載事項; 「変態擬弾性とその機構 Ms点以上の温度でも母相に応力をかけると、M変態がおこり、S-S曲線には降伏現象が現われる。これは付加応力のせん断応力成分がM変態に必要なせん断変形を助けるためで、これを応力誘起M変態と呼ぶ。このようにしてできた応力誘起マルテンサイト(Stress=Induced Martensite;SIMと略)はAf点以下の温度で応力を除去したとき残留する(図1(b))が、Af点以上で除去したときは不安定であるため母相へ逆変態する。この逆変態も結晶学的に可逆的であるから、応力誘起M変態で生じたひずみは全部回復する(図1(c)と(d))。(c)と(d)でS-S曲線の形が違うのはSIMの結晶構造が試験温度によって違うからである。このように加熱せずに除荷しただけで、見かけ上の塑性変形ひずみが回復する現象を(変態)擬弾性と呼ぶ。擬弾性はいわば非線形の弾性である。 またSIMをさらに応力をかけると、別の結晶構造のM相に逐次応力誘起変態し、変態擬弾性が2段階に現われることもある。Mf点以下の温度でも2段階の変態擬弾性が生じるがくわしくは文献を参照されたい。 擬弾性とSMEとは、ともに熱弾性型M変態における逆変態という。同じ駆動力によって生じる本質的に類似の現象である。そのどちらに現われるかは変態温度によってきまる。応力をM相状態でかけるか母相状態でかけるかのちがいで、これを図3に模式的に示す。擬弾性の起こる温度には上限がある。それは応力誘起M変態を起こすのに必要な応力σc(SIM)を表わす、右上がりの直線と母相の塑性変形に必要な応力σc(PERM)を表わす右下りの直線との交点Tmaxであり、それ以上の温度では塑性変形が起きる。」 (第19頁右欄6行〜第20頁左欄14行) また、上記の記載の他に第18頁に表1:完全な形状記憶を示す材料、第20頁に図3:SMEと擬弾性の現われる条件、がそれぞれ記載されている。 上記記載によれば、甲第2号証には形状記憶効果を示す材料について、Ms点(マルテンサイト変態温度)以上の温度でも母相(オーステナイト相)に応力をかけるとM変態(マルテンサイト変態)が起こり、S-S曲線(応力ひずみ曲線)には降伏現象が現れて応力誘起M変態を起こし、Af点以上で応力を除去したときは母相へ逆変態し、見かけ上の塑性変形ひずみが回復する現象を擬弾性と呼ぶこと、及び擬弾性はAf点以上の温度範囲で起こることが記載されている。 甲第3号証の記載事項; 「図1は、0.018インチ(0.457mm)円形ニチノールワイヤの硬度は、曲げ角度が35から45度に達するまでは、0.014インチ(0.356mm)円形ステンレスワイヤと同様であるが、0.014インチ(0.356)は永久変形が始まることを説明している。90度に曲げた時、適用モーメントは0.016インチ(0.0406mm)ステンレススチールワイヤよりも低い。各種のステンレススチールワイヤは39から40度またはそれ以上の永久変形が残るが、0.018インチ(0.457mm)ニチノールワイヤはわずか5度の永久変形の曲がりしか残らない。」 (無効審判請求書第22頁10行〜18行の訳文による。) 「図4は、ニチノールワイヤーとステンレススチールワイヤーのねじり試験の比較を示す。・・・すべてのワイヤを720度まで回転した。720度で回転あごをニュートラル位置に戻るようにし、ワイヤの永久変形角度を測定した。ニチノールワイヤはわずか45度の永久角度変形しか残らないが、0.016×0.016インチ(0.406×0.406mm)のステンレススチールワイヤーは450度、0.017×0.025インチ(0.432×0.635mm)ステンレススチールワイヤーは220度の永久変形角度が残った。」 (無効審判請求書第第22頁20行〜27行の訳文による。) 上記記載によれば、甲第3号証にはニチノール超弾性合金ワイヤーとステンレススチールワイヤーについて「曲げ特性」と「ねじり特性」が対比され、ニチノール超弾性合金ワイヤーは曲げひずみがステンレススチールワイヤーと比べ非常に小さいこと、及びねじりひずみが小さいことが記載されている。 甲第4号証の記載事項; 「ある種の金属を高温から冷却して行くと、Mg点と呼ばれる変態点を境にして、それより高温で安定な結晶構造の母相から低温で安定な結晶構造の相にマルテンサイト変態する。」 (第1頁左欄33行〜右欄2行) 「逆にこのマルテンサイト相を加熱してゆくと、As点と呼ばれる温度でマルテンサイト相から母相への逆変態が始まり、Af点と呼ばれる温度で完了して、すべて母相に変化する。」 (第1頁右欄22行〜25行) 「この同じ合金を、Af点以上の母相の状態で引張ってみよう。(b)および(c)がそのときの応力ーひずみ曲線である。いずれにおいても、母相は単結晶であるから、ある応力レベルまではフックの法則に従う弾性変形をする。しかし、その臨界応力を越えると、いわゆるすべり変形が起きたかのように伸び量が急激に増大し、これらの図では5%伸びている。ここで応力を除去すると、(a)の場合とは異なって、伸び量が0の変形前の形状に戻っている。(b)および(c)では、見かけ上明らかに塑性変形が起きているが、これはすべり変形によるものではなく、応力誘起マルテンサイトの生成によるものである。マルテンサイト変態はMg点以下への冷却によるだけでなく、Mg点以上の母相状態での応力によっても起きるのである。しかし応力の無い状態のAf点以上の温度では、マルテンサイト相が熱力学的には不安定であるから、応力誘起マルテンサイトは応力除去によって母相に逆変態せざるをえない。この逆変態におけるせん断変形方向も、応力誘起マルテンサイト変態のときのものと逆向きであるから、応力誘起マルテンサイト変態に伴って生じた伸びは、応力除去に伴う逆変態によって消失する。これを変態擬弾性あるいは超弾性と呼ぶが、逆変態が形状回復の駆動力になっているという意味では、形状記憶効果と同じ現象ということができる。」 (第3頁右欄4行〜28行) 甲第4号証には上記の記載の他に「表1:完全な形状記憶効果を示す合金の種類と特性温度と規則構造の有無」と称する合金の組成と特性温度の表が記載されている。 上記記載によれば、表1に49〜51原子%NiのTi-Ni合金、38.5〜41.5重量%ZnのCu-Zn合金、数重量%XのCu-Zn-X合金(X=Si,Sn,Al,Ca)、36〜38原子%AlのNi-Al合金の形状記憶合金が記載され、これらは形状記憶効果とともに、変態擬弾性あるいは超弾性を示すことが記載されている。 甲第5号証の記載事項; 「その目的とするところは超弾性合金によりワイヤガイド管を形成することによりその弾性限界の増大とともに、耐久性を向上させた内視鏡を提供することにある。」 (第2頁左上欄4行〜7行) 上記記載によれば、甲第5号証にはワイヤガイド管を超弾性合金により形成した点が記載されている。 甲第6号証の記載事項; 「ここで注意すべきことは、形状記憶効果や超弾性によって回復できるひずみ量は一定の限度があり、変形のし方によってはもとに戻らなくなることである。この点について、高ひずみ領域の応力・ひずみ線図(図2)を使って説明する。 M変態温度以下の温度で形状記憶合金を変形すると、弾性変形1に続いて降伏が起こり、応力はほぼ一定の値をとる。平坦部2の途中から除荷すると、見掛けの塑性ひずみ3が残るが、これはすでに述べたように加熱すると消失する。ところが、変形ひずみが増して、平坦部をこえると、応力は再び増加をはじめ、加工硬化がはじまる。ある程度加工硬化した状態4から除荷すると、やはりひずみ5が残留するが、これをM変態温度以上に加熱してもひずみは完全には回復しないで永久変形6となる。さらに変形ひずみが増すと、応力の増加はゆるやかになり最後は破断する。充分に加工硬化した状態7では加熱しても殆ど形状を回復しない。 したがって、良好な形状回復特性を得るには、変形ひずみの量が一定の値(Ni-Ti合金では7.5%)をこえないようにする必要がある。これらの事情は超弾性についても全く同じである。」(第187頁左欄10行〜右欄11行) 「Ni-Ti合金ワイヤは米国ではすでに半分近くの矯正医に使用されているが、これはNi-Ti合金のM相を加工硬化して弾性範囲を拡げたもので本来の超弾性とは若干その特性や使い方が異なる。」 (第191頁右欄8行〜12行) 上記記載によれば、超弾性のメカニズムは、弾性限界を越えて応力-ひずみ曲線が平坦部となるものと、さらに変形ひずみが増して同曲線が傾斜し加工硬化を起こすものとが一連の曲線として記載されていること、矯正医が使用するNi-Ti合金ワイヤは加工硬化したものが使用されていることが記載されている。 甲第7号証の記載事項; 「III.実験結果 1.a 引長試験 引長試験での応力-ひずみ曲線は、図4に示した。ステンレススチールは弾性率が17〜20×103kg/mm2と高く、伸びは1.2〜1.6%引張強さはステンレススチールAが233.3kg/mm2、ステンレススチールBが182kg/mm2であった。次にCo-Cr基合金は弾性率20〜23×103kg/mm2、熱処理を行わないものは引張強さ150〜185kg/mm2、伸びは2.4〜3%であったが、熱処理を行うと引張強さ160〜200kg/mm2と上昇をし、反対に伸びは1.8〜2%程度と減少した。 以上のワイヤーに比べNiTiワイヤーは明らかに低い弾性率と大きな伸びを示した。加工硬化型NiTiは弾性率5〜6×103kg/mm2とフレキシブルで、ほぼ直線的な挙動を示し約6%まで伸びた。一方超弾性型NiTiは他種のワイヤーとは異なり、中央に平坦な部分をもつ応力-ひずみ曲線を示した。すなわち伸び2%までは弾性率8×103kg/mm2を示すが、2%を過ぎると5%あたりまで応力は増加せず、ほぼ一定の値となった。伸び5%を過ぎてから再び応力が増加しはじめ右上がりの曲線を示し、伸び11%で破断した。 (第49頁左欄18行〜49頁右欄17行) 1.b 繰返し引張試験 NiTiワイヤーに対して行った繰返し引張試験の結果はそれぞれ、図5と図6に示した。超弾性NiTiは図5のように引張試験において観察された曲線途中の平坦部が、荷重を減少していく際にも現れた。1回目の永久変形は0.3%であり、10回繰返した後の永久変形は0.5%と、ほとんど変わらなかった。加工硬化型NiTiは10回繰返した後は永久変形0.75%であった。 (第49頁右欄18行〜49頁右欄25行) 2.曲げ試験 条件(a)(single bracket使用、bracketでのワイヤーの固定をしない。) この条件での実験結果は図7〜図13に変位量と荷重で示した。超弾性NiTiは変位量が1mmを超えると、荷重の増加率が低下し、曲線は次第に平坦となった。変位2mmでの荷重は200gであった。変位量を2mmから漸次減少させた時も、変位量2mmから1mmまでは荷重の変化が少なく、永久変形は0.01mm以下であった。 加工硬化型NiTiは変位に対する荷重の増加がほぼ直線を示し、変位1.7mmを過ぎたあたりからやや増加率が低下を示した。そして変位2mmで荷重258gを示した。変位減少時も直線的に荷重を減じ、永久変形は0.030mmであった。 一方Co-Cr基合金は変位2.0mmにおける荷重と永久変形量にかなりの差があったが、3種ともほとんど同様の曲線を示した。点線で示したものが熱処理を行った資料である。最初は直線的に荷重が上昇したが、途中から荷重の増加率は低下し始めた。2mm変位での荷重は580〜700gであった。変位を減少していくと荷重はほぼ直線的に減少し、永久変形は0.45〜0.8mmとかなり大きな値を示した。ステンレススチールはCo-Cr基合金と似たような曲線を示した。ステンレススチールAは変位2mmでの荷重は785g、永久変形は0.23mmであったが、ステンレススチールBは変位2mmで荷重690g永久変形は0.63mmと大きな差を示した。しかし、両方のワイヤーとも変位を減少していくと、S字に近い直線を示した。 条件(b)(single bracket使用、リングレットによりワイヤーを固定) これらの結果は図14〜図20に示した。超弾性型NiTiは変位開始後に変位約0.4mmから徐々に荷重の増加率が低下し始め、変位約0.7mmからは荷重の増加率が一定となった。2mm変位での荷重は460gを示した。変位を減少させると1.5mmから0.5mmの間では、ほぼ一定の荷重の部分があらわれた。永久変形は0.030mmを示した。 加工硬化型超弾性NiTiは超弾性型と同様に0.5mmで増加率の変化を示した。しかし、超弾性型に比べると変化は少なかった。変位2mmで600gの荷重を示した。変位を減少させると、最初急激に荷重が低下したが、その後は、ほぼ一定に荷重も減少し、永久変形は0.038mmであった。 Co-Cr基合金は条件(a)とほぼ同様な荷重の増加を示した。2mm変位における荷重は800gから900gであった。変位を減少すると、荷重は直線的な減少はせず、減少率を徐々に低下させる傾向を示した。また永久変形は0.38mmから0.6mmであった。 ステンレススチールBは引張試験や条件(a)においてCo-Cr基合金に似た性質を示したが、この試験でもCo-Cr基合金に近い曲線を示した。2mm変位での荷重は840g、永久変形は0.63mmであった。一方ステンレススチールAは変位1.7mmでロードセルの容量1000gに達したため、2mmまで変位を与えることができなかった。 条件(c)(siamese brackt使用、bracketでの固定をしない。) この結果は図21に示した。超弾性型NiTiは変位1mm程度から荷重の増加率が鈍くなり、変位1.5mmを過ぎると荷重の増加率は非常に低下した。この挙動は変位を減じた時にも現われ、変位2mmから1mmまでの荷重の変化が少ない曲線となった。一方、加工硬化型NiTiはほぼ直線的な挙動を示し、超弾性型とは異なる曲線を示した。 条件(d)(siamese bracket使用、bracket部でリングレットによりワイヤーを固定した。) この条件での結果は図22に示した。変位約0.5mmまでは超弾性型NiTiのほうがやや高い荷重を示した。しかし、超弾性型はその後荷重増加率が低下して、曲線はやや平坦な傾向を示し出した。加工硬化型NiTiは途中やや荷重増加率が低下したものの、ほぼ直線的に荷重が増加し、変位2.7mmで荷重は1000gまで達した。変位を減少していくと、両ワイヤーとも、最初急に荷重を減じたが、超弾性型は変位2.5mmから荷重の変化が少なくなり、変位0.8mmまでは非常にゆるやかな荷重の減少を示した。一方、加工硬化型は急激な荷重の減少を示した後は、直線的な荷重の減少を示した。 (第50頁右欄1行〜54頁左欄5行) IV.考察 超弾性型Ni-Tiワイヤーの歯科矯正用アーチワイヤーとしての適正を検討するため、引張試験3点曲げ試験を行ない理工学的な見地から検討を試みた。その結果、超弾性型NiTiワイヤーは非常に興味ある特性を示し、歯科矯正用ワイヤーとして優れた特性が示唆された。」 (第54頁左欄6行〜54頁右欄1行) 上記記載によれば、甲第7号証には歯科矯正用ワイヤーとして超弾性型NiTiワイヤーについて、引長試験と曲げ試験を行い、その結果が記載されている。 甲第8号証の記載事項; 甲第8号証の1の第63頁の図2には、TiNi合金の応力-ひずみ曲線が記載されている。 甲第8号証の2には次の記載がある。 「超弾性とは、弾性限界をはるかにこえ、降伏領域におよぶ変形が、変形応力を除くと変形前のひずみゼロの状態に戻ってしまう現象である・・・超弾性合金では降伏点をこえ、降伏領域の終点近くまで変形しても、たとえばCu-Al-Ni合金の単結晶では実に10%をこえる変形ひずみが除荷時に完全に元にもどってしまう。超弾性といわれる所以である。超弾性はこのような変形挙動から、擬弾性、ゴム弾性ともよばれる。超弾性を示す合金は、現在、Au-Cd,Cu-Al-Ni,Ni-Ti合金など十数種類が知られている」 (第15頁右欄26行〜第16頁8行) 「これらのNi-Ti線は熱処理のやり方によって図3のようなややなだらかな超弾性特性をもたせることができる。」 (第16頁右欄40行〜42行) 上記記載によれば、甲第8号証には、超弾性とは、弾性限界をはるかにこえ、降伏領域におよぶ変形が、変形応力を除くと変形前のひずみゼロの状態に戻ってしまう現象であること、及び超弾性を示す合金は、現在、Au-Cd,Cu-Al-Ni,Ni-Ti合金など十数種類が知られていることが記載されている。 甲第9号証の記載事項; 「医療用ガイドワイヤーを体内へ挿入する場合は、異なった方向即ち関係のない部位へ挿入到達してはいけないので、一般にはレントゲンに影造しながらそのガイドワイヤーの先端部を屈曲させて進路方向を定めて挿入していた。かかる方向決定はそのガイドワイヤーを軸として指先で左右に回動させながら挿入し進路方向を決定していたものであるが、その先端部は柔軟性のみでいずれの方向に対しても屈曲してしまうので挿入圧力の加減がむずかしく特に分岐路を多く有した場合の体液管内での挿入には時間を多く有した。そこで本考案はかかる挿入方向決定を楽にし且つ挿入圧の加減を楽にすることができるガイドワイヤーを提供するものである。」 (第2頁14行〜第3頁7行) 「第3図は本考案の一実施例の側面断面図である。全体が管状を呈して剛性、弾性をもたせてはあるが更に柔軟な部分lの管4は柔軟でない部分Lの管4'よりも長さは短くし両者は結合4aしてあって且つその管4の内側には剛性、弾性を有した極めて薄い縦長の板を二枚5,5'を設けて端部6に接面している。二枚の板5,5'の一方の板5'は前記柔軟である部分lと同様長さを有してその一端は板5と接合5aしている。他方の板5は柔軟でない部分Lの管4'の内側に於て延長して端部7に接面している。使用中の屈曲に於ては柔軟な部分lはその管4の持つ剛性、弾力性に対して特定方向にのみ屈曲の弾力性を有せしめて指向性を強く得られる様に板5.5'を平面平行して並設してある。」 (第3頁19行〜第4頁13行) 上記記載によれば、甲第9号証には、挿入方向決定を楽にし且つ挿入圧の加減を楽にするガイドワイヤーを提供するために、全体が管状を呈して剛性、弾性をもたせてはあるが、更に柔軟な部分lとして極めて薄い二枚の板の端部が板5に結合され、端部6に接面した点が記載されている。 甲第10号証の記載事項; 「本考案は医療用(血管内留置)ガイドワイヤーに関するものである。」 (1欄23行〜24行) 「第2図は本考案の一実施例の側面断面図である。4はポリエチレン、フッ化エチレン合成樹脂等の可撓性合成樹脂チューブ、5は鉄、銅等の金属体で該チュウブ4の中に封入露出させない」 (2欄14行〜17行) 上記記載によれば、甲第10号証には医療ガイドワイヤーにおいて、ポリエチレン、フッ化エチレン等の可撓性合成樹脂チューブに鉄、銅等の金属体を封入した点が記載されている。 甲第11号証の記載事項; 「SSワイヤーの先端部は球部、フレキシブル部、テーパー部よりなり、テーパー部に続いて手元部で構成される。先端部から手元部に至る全長に亘り中空構造となっており、先端部および手元部の中空部分には先端部をあらかじめテーパー状に加工したタングステンワイヤーが封入されている。」(第55頁右欄5行〜10行) 上記記載及び図2を参照すれば、甲第11号証にはSSワイヤーの先端部が球部、フレキシブル部、テーパー部よりなり、球部には先端タングステンが、テーパー部、手元部にはテーパー状に加工したタングステンワイヤが封入されており、フレキシブル部にはタングステンが封入されていないことが記載されている。 甲第22号証の記載事項; 「形状記憶効果と超弾性は、一見まるで違った現象のように見えるが、これまで述べたように、そのメカニズムは非常に似かよっており、単に使用温度(周囲温度)とAf点との関係によっていずれかの特性になるのである。要するに、使用温度がAf点より低い時には、マルテンサイト相が安定なため形状記憶効果を示し、逆に高い時は、母相が安定なため超弾性を示すのである。もっとも、良好な超弾性が見られるのは、使用温度がAf点より20〜50°C高い時であって、Af点よりあまり高い温度ではすべりが双晶変形より先に起こり、超弾性を示さなくなる。」 (第57頁12行〜18行) 甲第23号証の記載事項; 「NiTi線に引張応力を加えると、はじめの弾性変形による直線領域(1)に続いて降伏が起こり、応力はほぼ一定の値をとる(2)。この降伏点以降のプラトーにおける変形は、通常のすべりにおける変形ではなく、応力誘起変態による見掛け上の降伏現象である。プラトーの途中から徐荷すると通常の金属材料では、破線(3)で示すように、塑性歪みが残留するが、超弾性NiTi線では徐荷につれて順々に歪みが回復し(4)、最終的に歪みゼロの状態に戻ってしまう。 この際、徐荷における、すなわち歪み回復中の応力が荷重時と同じよ(う)にほぼ一定の値をとることが特徴である。 徐荷時の応力は、荷重時の応力より若干小さく、一種のヒステリシス特性を示す。このヒシテリシスのために高歪み領域での振動減衰が一般のばね材に比較して著しく大きい。 超弾性は、このような挙動から擬弾性またはゴム弾性と呼ばれることがある。 プラトーよりさらに歪み量が大きくなると、応力誘起変態による変形にかわってすべりによる変形が次第に支配的となり、加工硬化が始まる(5)。この段階から徐荷するともはや歪みゼロの状態にまで回復しない。さらに加工硬化が進むと応力はあまり増えなくなり(6)、次いで破断する。」 (第31頁左欄4行〜第32頁左欄15行) また、第31頁の図1には、上記の説明に即した応力-歪み線図が記載されている。 ロ、対比・判断 甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証の1及び甲第8号証の2、甲第22号証、甲第23号証には、超弾性金属の性質、材質等の一般的特性が記載されるいるだけであり、超弾性金属をガイドワイヤの内芯に適用する点については何ら記載がなく、その可能性を示唆する記載もない。 また、甲第5号証記載の発明は、「その目的とするところは超弾性合金によりワイヤガイド管を形成することによりその弾性限界の増大とともに、耐久性を向上させた内視鏡を提供することにある。」との記載からみて、ワイヤガイド管の弾性限界の増大・耐久性の向上を目的としたものであって、内視鏡独自の課題を解決するためのものであり、本件発明の、「先端部が蛇行血管等を傷付けることなく形状順応して血管等の所定部位に挿入できるように十分な柔軟性及び変形に対する復元性を備え、かつ血管等の所定部位に留置するのに必要な適度な反発弾性を備えたガイドワイヤを提供する」(上記第2回目の訂正審判請求書に添付した訂正明細書[以下、「本件明細書」という。]の第4頁14〜18行)というガイドワイヤに係る技術的課題についても記載も示唆もない。 そして、その結果として、ガイドワイヤの先端側内芯部を超弾性金属体で形成することを示唆するものではないと認められる。 甲第7号証にはNi-Tiワイヤーを歯科矯正用アーチワイヤーとして使用する点が記載されているものの、これは歯科矯正に必要な弾力を一定にすることを目的とするものであって、これを柔軟性、復元性が必要なカテーテル用ガイドワイヤの内芯に適用する可能性を示唆する記載はない。 甲第10号証、甲第11号証に記載の発明は、カテーテル用ガイドワイヤではあるが、内芯部を超弾性金属で形成した点は、記載されておらず、示唆されてもいない。 そこで、本件発明と最も共通する構成要件が多いと認められる甲第9号証記載の発明を主たる引用例として対比・判断する。 甲第9号証記載の発明の、「端部6に接面した極めて薄い二枚の板5,5'」、「柔軟でない部分において端部7に接面した板5」、「管4、及び管4'」は、本件発明の「先端側内芯部」、「本体側内芯部」及び「被覆部」にそれぞれ相当する。 そして、管4及び管4'は、図面第3図の記載からみて、外径を長手方向に同一としているものと解される。 よって、本件発明と甲第9号証記載の発明とは、 「本体側内芯部と先端側内芯部とによって内芯を形成するとともに、該内心の略全体を被覆部によって被覆してなるカテーテル用ガイドワイヤにおいて、被覆部の外径を長手方向に同一とすることを特徴とするカテーテル用ガイドワイヤ。」 である点で一致し、本件発明が、 「本体側内芯部と先端側内芯部のうちの少なくとも先端側内芯部を超弾性金属体によつて形成し、一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性を、先端部に備える」 ものであるのに対し、甲第9号証記載の発明は超弾性金属体を用いたものではない点で相違する。 そこで、この相違点について検討すると、上記のとおり、その余の甲各号証は超弾性金属の性質、材質等の一般的特性が記載されるもの(甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証の1及び甲第8号証の2、甲第22号証、甲第23号証)か、或いはカテーテル用ガイドワイヤではないものに超弾性金属体を適用したもの(甲第5号証、甲第7号証)か、超弾性金属体を用いていないカテーテル用ガイドワイヤ(甲第10号証、甲第11号証)にすぎず、そもそもカテーテル用ガイドワイヤに超弾性金属体を適用したもの、或いは適用することを示唆する記載は見出せない。 そして、本件発明は、単にカテーテル用ガイドワイヤに超弾性金属体を適用しただけでなく、さらに、 「本体側内芯部と先端側内芯部のうちの少なくとも先端側内芯部を超弾性金属体によつて形成し、一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性を、先端部に備える」点を構成要件とするものであり、この点により本件明細書の[発明の効果]の欄に記載の、 「先端部が蛇行血管等を傷付けることなく形状順応して血管等の所定部位に挿入できるように十分な柔軟性及び変形に対する復元性を備え、かつ血管等の所定部位に留置するのに必要な適度な反発弾性を備えたガイドワイヤを得ることができる。」(本件明細書第13頁17行〜第14頁2行)との格別の作用効果を奏するものである。 よって、本件発明は、甲第22〜23号証に記載された発明を参酌しても甲第2〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 (理由3について) (a)特許請求の範囲の記載について 本件明細書の発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の項には、「本発明は、本体側内芯部と先端側内芯部とによって内芯を形成するとともに、該内芯の略全体を被覆部によって被覆してなるカテーテルガイドワイヤにおいて、本体内芯部と先端側内芯部のうちの少なくとも先端側内芯部を超弾性金属体によって形成し、一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性を、先端部に備えるとともに、被覆部の外径を長手方向に同一とするようにしたものである。」(本件明細書第5頁5行〜13行)と記載されており、この記載からみれば、特許請求の範囲第1項に記載の本件発明の構成は、発明の詳細な説明の記載によって担保されているものである。 そして「一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性をもつ超弾性金属体」の持術的意義についてみるに、訂正明細書には「超弾性金属は、(1)回復可能な弾性ひずみが大きく、数%〜十数%にも達し、(2)ひずみが増加しても荷重の大きさが変わらないという特性と有している。」(本件明細書第9頁14行〜17行)と記載されており、この記載の限りにおいて、「一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性をもつ超弾性金属体」の技術的意義は明確である。 よって、特許請求の範囲第1項には本件発明の構成の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものである。 (b)発明の詳細な説明について (b)-1.について 本件明細書からは、上記第1回目の訂正審判時において、「また超弾性金属体からなる本体側内芯部を、他の一般的弾性金属からなる場合には、他の一般的弾性金属からなる先端側内芯部に圧入、かしめ等によって一体化するものであってもよい。」との記載は、既に削除されている。 (b)-2.について 本件明細書における記載においては、上記(a)で検討したように、「一定応力の下で比較的大きく変位し、かつ復元可能な弾性ひずみ特性をもつ超弾性金属体」という用語の技術的意義は明確である。 そして、「超弾性金属体」という用語は、「一定応力の下で比較的大きく変位」するものである以上、通常の「加工硬化による超弾性」(一般に「変化する応力」の下で比較的大きく変位するものと認められる。)を含むと認めるに足る理由はない。 (b)-3.について 本件明細書には、「その全体を49〜58原子NiのTiNi合金、38.5〜41.5重量ZnのCu-Zn合金、数重量XのCu-Zn-X合金(X=Be,Si,Sn,Al,Ga)、36〜38原子AlのNi-Al合金等の超弾性(擬弾性)金属体によって形成している。」(本件明細書第7頁1行〜7行)と超弾性金属体の組成まで明らかにしており、これにより当業者が容易に実施しうる程度には記載されているものと認められるものである。 そして、これらの中に、仮にカテーテルガイドワイヤの使用温度範囲(18〜38℃)からみて、超弾性特性を発現しないAs点より低い超弾性金属体を含んでおり、カテーテルガイドワイヤとして実施不能である超弾性金属体が包含されるとしても、本件発明の課題を達成することができるものに合致する超弾性金属体組成を適宜選択すればよく、本件発明に係る明細書の記載では当業者が本件発明を実施不能とはいえない。 しかも、本件明細書は、材料と形状とでガイドワイヤに係る発明を特定しているものであり、そもそもAs点という概念自体は何ら記述していないが、材料の解析要素(As点、Af点、歪-応力の定量的な値など)全てを開示するようなことは特許法上要請されておらず、超弾性金属体を用いると記載すればその限りで明りょうであり、Af点が特定されていない点を以て記載不備とは到底いえない。 (b)-4.について 本件明細書には、本件発明の目的として、 「先端部が蛇行血管等を傷付けることなく形状順応して血管等の所定部位に挿入できるように充分な柔軟性及び変形に対する復元性を備え、かつ血管等の所定部位に留置するのに必要な適度な反発弾性を備えたガイドワイヤを提供する」(本件明細書第4頁14行〜19行)、 「本体部が手元操作で座屈或いはねじり変形しにくく、万一座屈或いはねじり変形しても容易に復元し、導入操作を円滑化できるガイドワイヤを提供する」(本件明細書第4頁20行〜第5頁3行) と二つの目的を記載している。 そして、本件明細書の特許請求の範囲第1項は、これらの目的を達成できるよう発明の構成を記載したものと認められ、当業者からみて、本件発明の目的と構成との間の対応関係が不明瞭な点はない。 (b)-5.について Cu-Zn-X合金、Ni-Al合金におけるAf点をどの程度とするかは、本件発明の目的により設定すべき事項であり、Af点がどの範囲にあるかを特定できない点が当業者が容易に実施することができない理由とはならない。 すなわち超弾性金属体のAf点は、その合金組成比等などから大きく変動するものであるから、本件発明のガイドワイヤとしての目的を達成するべく、適宜な値とすべきものであり、Af点が特定されていないと発明が実施できないものではない。 しかも、本件明細書は、材料と形状とでガイドワイヤに係る発明を特定しているものであり、そもそもAf点という概念自体は何ら記述していないが、材料の解析要素(As点、Af点、歪-応力の定量的な値など)全てを開示するようなことは特許法上要請されておらず、超弾性金属体を用いると記載すればその限りで明りょうであり、Af点が特定されていない点を以て記載不備とは到底いえない。 (b)-6.について 本件明細書には、「超弾性金属は、(1)回復可能な弾性ひずみが大きく、数%〜十数%にも達し、(2)ひずみが増加しても荷重の大きさが変わらないという特性と有している。」(本件明細書第9頁14行〜17行)と記載からみて、実施しようとする当業者は本件発明の課題を達成することができるものに合致するものを適宜選択すればよいものであるから、本件発明に係る明細書の記載では実施不能とはいえない。 したがって、明細書記載の超弾性金属体は、仮に超弾性を示さない組成を含むものがあるとしても、当業者が本件明細書の記載に基づいては本件発明を実施不能であるとはいえない。 以上検討したように、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載には不備な点は認められず、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしているものである。 5、むすび 以上のとおりであるから、無効審判審判請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。 審判に係る費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、無効審判請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1996-10-11 |
結審通知日 | 1996-11-01 |
審決日 | 1996-11-07 |
出願番号 | 特願昭58-114198 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Y
(A61M)
P 1 112・ 532- Y (A61M) P 1 112・ 531- Y (A61M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安田 達、川端 修 |
特許庁審判長 |
佐藤 洋 |
特許庁審判官 |
松下 聡 岡田 和加子 岩崎 晋 和泉 等 |
登録日 | 1992-05-19 |
登録番号 | 特許第1664871号(P1664871) |
発明の名称 | カテ-テル用ガイドワイヤ |
代理人 | 中島 幹雄 |
代理人 | 田中 宏 |