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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1051351
異議申立番号 異議2000-74185  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-11-17 
確定日 2001-08-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3051973号「小型凹状電気部材用絶縁塗膜の形成方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3051973号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3051973号に係る発明についての出願は、平成7年8月8日に出願され、平成12年4月7日に設定登録され、その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年5月2日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正事項
a.発明の名称を「小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法」に訂正、
b.請求項1の「小型電気部材」を「小型モータのコア」に、「上記小型電気部材」を「上記コア」に、「かつ膜厚が10μm〜100μmとなる」を「かつ膜厚が上記コアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくできる10μm〜100μmとなる」に訂正、「小型凹状電気部材」を「小型モータのコア」にそれぞれ訂正、
b.請求項2の「小型凹状電気部材」を「小型モータのコア」に訂正、
c.請求項3の「小型凹状電気部材」を「小型モータのコア」に訂正、
d.請求項4の「小型電気部材が」を「コアは収容積が小さく密閉して使用される」に訂正、
e.明細書の段落【0007】の「小型電気部材」を「小型モータのコア」に、「上記小型電気部材」を「上記コア」に、「かつ膜厚が10μm〜100μmとなる」を「かつ膜厚が上記コアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくできる10μm〜100μmとなる」に、「小型凹状電気部材」を「小型モータのコア」に、「小型モータのコア」を「コアは収容容積が小さく密閉して使用される小型モータのコア」に訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法120条の4第2項及び第3項で準用する特許法126条2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.取消理由についての判断
3-1.訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1乃至4に係る発明(以下、各項記載の発明をそれぞれ本件発明1乃至4という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型モータのコアに絶縁塗膜を形成する方法において、粉体塗料をガン内壁との摩擦により荷電させる摩擦荷電式静電粉体ガン又は粉体塗料をガン内に発生させた電界により荷電させる内部荷電式粉体ガンを使用してそれぞれの荷電した粉体塗料をそれぞれのガンの吹きつけにより流通させて上記コアに付着させて塗布する工程と、該塗布された粉体塗膜を加熱する工程を有し、上記粉体塗料の流通によるコアとの付着により上記粉体塗料が上記凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じさせることなく、かつ膜厚が上記コアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくできる10μm〜100μmとなる上記絶縁塗膜を形成する小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。
【請求項2】粉体塗料の粒径が4μm〜40μmである請求項1記載の小形モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。
【請求項3】粉体塗料が熱硬化性塗料であり、加熱工程が該塗料の塗布膜を架橋開始温度未満に加熱して溶融した塗膜を平坦化する第1加熱工程と、該第1加熱工程の後に該架橋反応を起こす温度に加熱する第2加熱工程を有する請求項1又は2記載の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。
【請求項4】コアは収容容積が小さく密閉して使用される小型モータのコアである請求項1ないし3のいずれかに記載の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。」
3-2.引用例
取消理由通知に引用した「粉体塗装技術要覧」日本粉体塗装工業協会編、平成6年5月10日(株)塗料報知新聞社発行(以下、引用例1という。)に、「5.静電吹付け法は、スプレーガンの先端を粉体塗料が空気流に乗って通過する際に、粒子に負(正の場合もある)のチャージを与え、あらかじめアースされた被塗物へ静電気的に付着させた後、焼付けて塗膜を得る方法である。この方法の特徴は、1コートで要求膜厚(40〜150μ)割合正確に、しかも容易に得られる点でラインの自動化に適している。」(3頁24行乃至27行)、「一般的な静電塗装用粉体塗料の粒度分布は5〜150μ(粒径)であり、その平均的な測定例を次表にまとめる。」(5頁17行乃至18行)、「2)内部荷電方式 外部荷電方式は汎用性があるが、次の2つの原理的な欠点がある。イ)ファラデーゲージ効果 図ー2に示したようにコロナピンの電界は、被塗物の凹部へは入り込みにくいため、塗料は塗着しやすい凸部のみ塗着する。凹部がスケないように塗装時間を長くすると、凸部のみ厚塗りとなって塗料が無駄に消費され、次に述べる逆電離現象が発生し塗装品質が低下する。」(20頁1行乃至5行)、「以上の欠点を克服するためにはガンの内部で粉体を帯電させる必要がある。その方法として(1)外部荷電方式のメカニズムをガンの内部で行う内部コロナ荷電方式と(2)ガンの内壁と粉体を積極的に接触させ、摩擦により粉体を帯電させる摩擦荷電方式がある。帯電した粉体塗料は空気力により被塗物まで運ばれ、鏡像力により塗着堆積する。」(21頁1行乃至4行)、「本方式はコロナ荷電方式と比較して次ぎのような特長がある。(1)ファラデーゲージの影響がなく優れた入り込み性が得られる。」(21頁16行乃至17行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば引用例1には、「被塗物に塗膜を形成する方法において、粉体塗料をガン内壁との摩擦により荷電させる摩擦荷電式静電粉体ガン又は粉体塗料をガン内に発生させた電界により荷電させる内部荷電式粉体ガンを使用してそれぞれの荷電した粉体塗料をそれぞれのガンの吹きつけにより流通させて上記被塗物に付着させて塗布する工程と、該塗布された粉体塗膜を加熱する工程を有し、上記粉体塗料の流通による被塗布物との付着により上記粉体塗料が上記凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じさせることなく、かつ膜厚が40μm〜150μmとなる被塗物の塗膜の形成方法。」との発明(以下、引用例1発明という。)が開示されていると認めることができる。
同じく、取消理由通知で引用した特開平2-211041号公報(以下、引用例2という。)に、「前記複数の磁心コアに粉体塗料を吹き付けて静電粉体塗装することを特徴とする磁心コアの静電塗装方法。」(1頁左欄17行乃至19行)、「本発明は磁心コアの静電塗装装置および静電塗装方法に係り、特に、ブラシレスモータの駆動コイルを巻く磁心コアの静電塗装装置および静電塗装方法の改良に関する。」(1頁右欄2行乃至5行)、「このような磁心コア1は、打ち抜き形成した複数枚の薄い鋼板を積層して一体化するとともに、第4図に示すように、放射状に突出する複数の突極歯3を有して形成されており、その突極歯3に駆動コイル(図示せず)が巻かれるが、腐食や駆動コイルの導線のショートを防ぎ、見栄えをよくする観点から、中央部を除いて外表面に塗装を施している。」(1頁右欄10行乃至17行)と記載されていることが認められる。
同じく、取消理由通知で引用した特開昭56-28675号公報(以下、引用例3という。)に、「この発明は上記欠点に鑑みてなされたものであり、粉体塗料を用いて静電粉体塗装により被塗装物に塗膜を形成させ、その粉体塗料のコフラー融点(以下融点と略す。)以上から、融点プラス50゜Cの範囲の温度雰囲気で一定時間放置した後、所定の温度で完全硬化するようにして、ボイドやピンホールのない良好な塗膜が得られる塗膜形成方法を提供するものである。以下にこの発明の一実施例を説明する。被塗装物として厚さ2mmの鉄板を用い、この鉄板を180゜Cのオーブン中で20分間予熱した後、静電スプレー法により融点80゜Cのエポキシ粉体塗料(エバクラッド3250・・・関西ペイント社製)を粉体が付着しなくなるまで付着させ塗膜を形成し、この塗膜が形成された被塗装物を110゜のオーブン中に30分間放置させた後、180゜Cのオーブン中で20分間完全硬化させて塗装を完了した」(2頁右上欄14行乃至左下欄11行)と記載されていることが認められる。
3.対比・判断
3-1.本件発明1について
本件発明1と引用例1発明とを対比すると、両者は「被塗物に塗膜を形成する方法において、粉体塗料をガン内壁との摩擦により荷電させる摩擦荷電式静電粉体ガン又は粉体塗料をガン内に発生させた電界により荷電させる内部荷電式粉体ガンを使用してそれぞれの荷電した粉体塗料をそれぞれのガンの吹きつけにより流通させて上記被塗物に付着させて塗布する工程と、該塗布された粉体塗膜を加熱する工程を有し、上記粉体塗料の流通による被塗布物との付着により上記粉体塗料が上記凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じさせることなく、かつ膜厚が40μm〜100μmとなる被塗物の塗膜の形成方法」の点で一致し、
(1)本件発明1の被塗物が電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型モータのコアであって、塗膜が絶縁塗膜であるのに対し、引用例1発明が被塗物について限定するところがなく、また、塗膜が絶縁塗膜であることについて明記するところがない点、
(2)本件発明1の膜厚がコアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくでき、その下限が10μmであるのに対し、引用例1発明が係る構成を限定するものではない点、でそれぞれ相違する。
そこで、前記各相違点について検討する。
A.相違点(1)について
電気通信分野又はコンピュータとその周辺機器に凹部を有するコアを備えた小型モータが用いられていることはよく知られたことであり、そして、前示引用例2にも示されているようにモータの凹部を有するコアに絶縁塗膜を形成することは通常とするところで、このことは本件発明1が対象とする前記小型モータにおいても変わるところがないといえる。
しかるところ、引用例2には前示のとおりモータのコアの絶縁塗膜の形成方法として粉体塗料を吹き付ける静電粉体塗装方法が開示されており、この静電粉体塗装方法の一つとして引用例発明1が含まれることは前示引用例1の記載から明らかであるから、引用例1及び引用例2に接した当業者であれば引用例1発明の塗膜形成方法を電気通信分野又はコンピュータとその周辺機器に用いられる小型モータの凹部を有するコアの絶縁塗膜の形成に適用しようとすることは容易に着想できることである。
そして、電気通信分野又はコンピュータとその周辺に用いられ凹部を有するコアを備えた小型モータに係る適用を妨げるべき技術的理由が存在するものとはいえないから、そうすると、本件発明1の前記相違点(1)に係る構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。
B.相違点(2)について
前示相違点(1)で説示のとおり、電気通信分野又はコンピュータとその周辺に用いられる凹部を有するコアを備えた小型モータに絶縁塗膜の形成方法として引用例1発明の塗膜の形成方法を適用することは当業者にとって容易に想到できることである。
このことを前提に相違点(2)について検討するに、コアの巻線が巻かれる部位である突極歯(本件発明1においては突極歯との用語は用いられていないが、引用例2にも記載されているとおり、コアの巻線が巻かれる部位を突極歯、あるいは歯と称することは技術常識である。)の形状、大きさ(周囲長さ)が同じであれば、巻線の長さは、突極歯に形成される絶縁塗膜の厚さに依存し、絶縁塗膜が厚ければ巻線の長さは長くなり、絶縁塗膜が薄ければ巻線の長さは短くなることは当業者がその構造上自明のこととして理解でき、また、巻線の電気抵抗が巻線の長さに比例することは技術常識であるから、これらによれば本件発明1の相違点(2)に係る構成中、「コアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくできる」との構成は本件発明1の絶縁塗膜の10μm〜100μmとの膜厚の技術的意味を巻線の長さの観点から付加的に限定するものと解するのが相当である。
ところで、本件発明1の絶縁塗膜の膜厚の下限である10μmに関し、訂正明細書にはその技術的意味について説明するところはないが、絶縁塗膜が絶縁機能を維持するにはそれ相当の膜厚を必要とすることは当然で、そうすると、本件発明1の絶縁塗膜の膜厚の下限である10μmは絶縁塗膜が絶縁機能を維持し、コアの巻線を短くできる下限を意味するものと解することができ、そうであれば、前示のとおり巻線の長さは絶縁塗膜の膜厚が薄ければ短くできること、巻線の長さが短ければ電気抵抗を小さくできることは当業者の技術常識とするところであるから絶縁塗膜の絶縁機能を維持し、巻線を短くするとの限度では絶縁塗膜の下限を10μmとすることは当業者であれば適宜設定できることといえ、したがって、本件発明1の相違点(1)に係る構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。
そして、本件発明1が奏する「本発明によれば、摩擦荷電式静電粉体塗装方式又は内部荷電式静電粉体塗装方式により粉体塗料をガンの吹きつけにより流通させて小型電気部材に付着させ、凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じることなく、かつ膜厚が10μm〜100μmとなるように塗装するようにしたので、電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型電気部材、例えば小型モータのコアに膜厚の薄い塗膜を形成することができ、・・・例えば小型モータにおいてそのコアの巻線を短くでき、その電気抵抗値を小さくできるので、その動作時の発熱を抑制し、さらに小型化されつつあるモータのコア用の優れた絶縁塗膜を提供することができる。」(訂正明細書14頁6行乃至19行)との作用効果も引用例1及び引用例2から当業者が予測できる範囲のものである。
3-2.本件発明2について
本件発明2が本件発明1の粉体塗料の粒径を4μm〜40μmに限定するものであることは請求項2の記載に照らして明らかである。
前示引用例1には、静電塗装用粉体塗料の平均粒径は40μmであることが示されている。
そうすると、本件発明2と引用例1発明とは、本件発明1と引用例1発明との対比・判断で摘示した相違点(1)、相違点(2)の他、本件発明2の粉体塗料の粒径が4μm〜40μmであるのに対し、引用例1発明の粉体塗料の平均粒径が40μmである点で相違し(以下、相違点(3)という。)、その他の構成で一致する。
そこで、前記各相違点について検討するに、相違点(1)及び相違点(2)については、本件発明1と引用例1発明との対比・判断でした判断内容をここに引用する。
C.相違点(3)について
訂正明細書の「本発明において、上記の摩擦荷電静電粉体塗装方式あるいは内部荷電静電粉体塗装方式により塗装する粉体塗料としては、平均粒径が4μm〜40μmのものを使用することが好ましく、平均粒径が約50μm〜70μmの粉体塗料を用いた上記静電流動浸漬法によるによる粉体塗料塗装法が元来100μmを越える膜厚の塗装を行うことを目的としているのに対し、100μm以下の膜厚のものに適用することが好ましい。50μm〜100μmの膜厚を得るためには、通常のコロナ荷電型静電粉体塗料塗装法で使用されている平均粒径30μm〜35μmの粉体塗料を用いることができるが、平均粒径4μm〜40μmの微粒子の粉体塗料を用いると、50μm以下、特に30μm以下の幕厚を得ることができる。」(6頁29行乃至7頁8行)との記載によれば、本件発明2が粒径が4μm〜40μmの粉体塗料を使用したのは絶縁塗膜の膜厚が10μm〜100μmのものを得るためと認められところ、所望とする絶縁塗膜の膜厚は使用する粉体塗料の平均粒径によって得られることは技術常識であって、そして、絶縁塗膜の膜厚を10μm〜100μmのものとすることは前示相違点(2)で検討したとおり、当業者が容易に想到できることであるから、この膜厚を得るために4μm〜40μmの粉体塗料を使用することもまた当業者が容易に想到できたことというべきである。
そして、本件発明2が奏する「本発明によれば、摩擦荷電式静電粉体塗装方式又は内部荷電式静電粉体塗装方式により粉体塗料をガンの吹きつけにより流通させて小型電気部材に付着させ、凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じることなく、かつ膜厚が10μm〜100μmとなるように塗装するようにしたので、電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型電気部材、例えば小型モータのコアに膜厚の薄い塗膜を形成することができ、特に粉体塗料の粒子径を4μm〜40μmにすることによりこれを一層良く実現することができ、しかも絶縁塗膜としての他の特性を損なわないようにできる。・・・例えば小型モータにおいてそのコアの巻線を短くでき、その電気抵抗値を小さくできるので、その動作時の発熱を抑制し、さらに小型化されつつあるモータのコア用の優れた絶縁塗膜を提供することができる。」(訂正明細書14頁6行乃至19行)との作用効果も引用例1及び引用例2から当業者が予測できる範囲のものである。
3-3.本件発明3について
本件発明3が本件発明1の粉体塗料として熱硬化性塗料であること、加熱工程が該塗料の塗布膜を架橋開始温度未満に加熱して溶融した塗膜を平坦化する第1加熱工程と、該第1加熱工程の後に該架橋反応を起こす温度に加熱する第2加熱工程を有することを限定するものであることは請求項3の記載に照らして明らかである。
前示引用例1には、静電塗装用粉体塗料が熱硬化性材料であることが示されている。
そうすると、本件発明3と引用例1発明とは、本件発明1と引用例1発明との対比・判断で摘示した相違点(1)、相違点(2)の他、本件発明3が、加熱工程が熱硬化性塗料の塗布膜を架橋開始温度未満に加熱して溶融した塗膜を平坦化する第1加熱工程と、該第1加熱工程の後に該架橋反応を起こす温度に加熱する第2加熱工程を有するのに対し、引用例1発明がこの加熱工程について明記するところがない点で相違(以下、相違点(3)という。)する。
そこで、前記各相違点について検討するに、相違点(1)及び相違点(2)については、本件発明1と引用例1発明との対比・判断でした判断内容をここに引用する。
D.相違点(3)について
前示引用例3の記載によれば、引用例3には熱硬化性塗料を使用した静電粉体塗装の加熱工程として塗料の塗布膜を硬化開始温度未満に加熱して溶融して平坦化し、その後硬化を開始する温度に加熱して硬化させるという本件発明3の加熱工程(引用例3でいう硬化を開始させる温度とは本件発明3でいう架橋反応を起こす温度と同義である。)が開示されており、そして、この加熱工程を小型モータのコア用絶縁塗膜を形成するための加熱工程に採用することが困難であるとする技術的理由も見当たらないのであるから、本件発明3の相違点(3)に係る構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。
そして、本件発明3が奏する「本発明によれば、摩擦荷電式静電粉体塗装方式又は内部荷電式静電粉体塗装方式により粉体塗料をガンの吹きつけにより流通させて小型電気部材に付着させ、凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じることなく、かつ膜厚が10μm〜100μmとなるように塗装するようにしたので、電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型電気部材、例えば小型モータのコアに膜厚の薄い塗膜を形成することができ、・・・また、塗膜の加熱を2段階で行う場合には、被塗物のエッジ部における塗膜が加熱工程で薄くなることを軽減でき、エッジカバー率を向上させることができ、塗膜を薄くできることと相まって・・・例えば小型モータにおいてそのコアの巻線を短くでき、その電気抵抗値を小さくできるので、その動作時の発熱を抑制し、さらに小型化されつつあるモータのコア用の優れた絶縁塗膜を提供することができる。」(訂正明細書14頁6行乃至19行)との作用効果も引用例1乃至引用例3から当業者が容易に予測できる範囲のものである。
3-4.本件発明4について
本件発明4が本件発明1の小型モータをコアは収容容積が小さく密閉して使用される小型モータと限定するものであることは請求項4の記載に照らして明らかである。
そうすると、本件発明4と引用例1発明とは本件発明1と引用例1発明との対比・判断で摘示した相違点(1)、相違点(2)の他、本件発明4の小型モータがコアは収容容積が小さく密閉して使用されるものであるのに対し、引用例1発明は係る構成につき限定するところがない点で相違(以下、相違点(3)という。)する。
そこで、前記各相違点について検討するに、相違点(1)及び相違点(2)については、本件発明1と引用例1発明との対比・判断でした判断内容をここに引用する。
D.相違点(3)について
訂正明細書の「しかし、最近OA(オフィスオートメーション)、FA(ファクトリーオートメーション)などのコンピュータ本体や、ハードディスク、光磁気ディスクなど周辺機器の駆動部分にも小型モータを使用することが広がるにつれて、この小型モータが収容される空間も限られたものになり、しかも外気と接触し難い箇所で使用されるようになってきており、」(2頁9行乃至13行)との記載によれば、本件発明4のコアは収容容積が小さく密閉して使用される小型モータとはコンピュータ本体や周辺機器の限られた空間で使用される小型モータを意味するところ、小型モータがコンピュータ本体や周辺機器の限られた空間で使用されていることはよく知られたことであり、そして、この小型モータに絶縁塗膜を形成するのに引用例1発明の塗膜形成方法が適用できないとする技術的理由は存在しないのであるから、本件発明4の相違点(3)に係る構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。
そして、「本発明によれば、摩擦荷電式静電粉体塗装方式又は内部荷電式静電粉体塗装方式により粉体塗料をガンの吹きつけにより流通させて小型電気部材に付着させ、凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じることなく、かつ膜厚が10μm〜100μmとなるように塗装するようにしたので、電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型電気部材、例えば小型モータのコアに膜厚の薄い塗膜を形成することができ、・・・例えば小型モータにおいてそのコアの巻線を短くでき、その電気抵抗値を小さくできるので、その動作時の発熱を抑制し、さらに小型化されつつあるモータのコア用の優れた絶縁塗膜を提供することができる。」(訂正明細書14頁6行乃至19行)との作用効果も引用例1及び引用例2から当業者が予測できる範囲のものである。
3-5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至4は、引用例1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1乃至4に記載された発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1乃至4に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型モータのコアに絶縁塗膜を形成する方法において、粉体塗料をガン内壁との摩擦により荷電させる摩擦荷電式静電粉体ガン又は粉体塗料をガン内に発生させた電界により荷電させる内部荷電式静電粉体ガンを使用してそれぞれの荷電した粉体塗料をそれぞれのガンの吹きつけにより流通させて上記コアに付着させて塗布する工程と、該塗布された粉体塗膜を加熱する工程を有し、上記粉体塗料の流通によるコアとの付着により上記粉体塗料が上記凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じさせることなく、かつ膜厚が上記コアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくできる10μm〜100μmとなる上記絶縁塗膜を形成する小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。
【請求項2】 粉体塗料の粒径が4μm〜40μmである請求項1記載の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。
【請求項3】 粉体塗料が熱硬化性塗料であり、加熱工程が該塗料の塗布膜を架橋開始温度未満に加熱して溶融した塗膜を平坦化する第1加熱工程と、該第1加熱工程の後に該架橋反応を起こす温度に加熱する第2加熱工程を有する請求項1又は2記載の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。
【請求項4】 コアは収容容積が小さく密閉して使用される小型モータのコアである請求項1ないし3のいずれかに記載の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば小型モータのコアに絶縁塗膜を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
家電、自動車電装、AV(オーディオビジュアル)、電気通信分野等には小型モーターが使用されており、これらの小型モーターのアーマチュア(電流が通る巻線構造物)は鉄心(コア)の周側に凹状の溝(スロット)を介して極を設け、これら極に巻線を施している。
このアーマチュアを動作させるために巻線に通電すると、熱を発生することを避けることができず、温度が上昇するとその動作特性が変わるので冷却することが好ましいが、これらの用途における小型モータは比較的外気に接触し易い状態で使用されているので、その放熱が比較的容易てある。
しかし、最近OA(オフィスオートメーション)、FA(ファクトリーオートメーション)などのコンピュータ本体や、ハードディスク、光磁気ディスクなど周辺機器の駆動部分にも小型モータを使用することが広がるにつれて、この小型モータが収容される空間も限られたものになり、しかも外気と接触し難い箇所で使用されるようになってきており、放熱し難い状態で使用されることが多くなってきている。それのみならず、これら機器の小型化、高性能化の要求を満たすために、小型モータの収容空間はますます小さくなってきており、しかもほこりにより動作不良が生じないように密閉して使用されるようになってきているので、小型モータはますます放熱し難い状態で使用されることが多くなっている。
【0003】
このように放熱し難い状態で使用される小型モータの場合には、でき得る限り発熱を抑制する工夫が必要になり、そのためには図1に示すコアの場合には、コア本体1の周側にスロット2a、2a・・を介して設けた極3a、3a・・に施した巻線4a、4a・・に流れる電流による発熱を低くすることが求められている。これを実現するには、巻線は絶縁塗膜5を介して施されるので、その絶縁塗膜の厚さを薄くすることが求められ、現在200μm〜300μmである膜厚を例えば100μm以下、さらに将来は50μm以下の薄膜にしても使用できるようにすることが期待されている。
小型モーターのコアに絶縁塗膜を形成する場合に必要なこととしては、▲1▼コアの平坦部だけではなくスロット2a、2a・・の周壁、すなわち極の両側にも塗装できること、▲2▼極3a、3a・・のエッジ部にも要求される絶縁塗膜が形成できることが求められる。
このような絶縁塗膜を液状塗料の塗布により形成することも行われているが、一般にこの種の塗料は溶剤を含んでいるので乾燥塗膜が20μmを越えるような厚膜塗装では乾燥や焼付けの際に溶剤の揮発に伴ない著しく発泡し易く、平滑な一様な厚さの塗膜が得られず、しかも発泡した塗膜は絶縁性が悪くなるのでこれを回避する必要がある。そのためには一回の塗装では10μm程度の塗膜が得られるに過ぎないので、何回も重ね塗りをしなければならないが、特にエッジ部においては塗布した塗料が流れ易く、最終的に硬化された塗膜には薄いところが生じ易く、その部分は絶縁性を悪くするので、その部分が生じないようにするためには厚目の塗装を行うことが必要になり、エッジ部も平坦部も同時に塗装する通常の方法では平坦部の塗膜の膜厚を40μm〜50μmにしなければならず、そのためには、4〜5回の重ね塗りや補修塗装が必要になり、膜厚のバラツキが大きい上に、工数が増え、コスト高になるという問題がある。
【0004】
厚膜塗膜を得るには、粉体塗料を塗装する方法も用いられている。これには、図2の一部に示すように、流動槽6の下部に設けた多孔板6aの下から空気を吹き出してその上の粉体塗料を吹き上げ、粉体粒子を浮遊、流動化した状態で、多孔板6aの下側に設けた図示省略した高電圧極とアースした被塗物のコアとの間に電界を生じさせ、コアを回転させながらその浮遊、流動化した粉体粒子を塗布し、その塗布されない流動槽から流出する粉体は回収する静電流動浸漬装置が用いられている。この方法では、その静電流動浸漬装置のうち電界発生装置を用いない、いわゆる流動浸漬装置に用いる粉体塗料、例えば平均粒径が70μm〜350μmの粗い粒径のエポキシ樹脂系塗料が流動槽から流出する粉体の量を少なくするために用いられている。そのため電界を形成し難いスロット部にも粉体を行き渡らせ、十分な絶縁性の塗膜を得るには、電界を形成し易い平坦部における粉体塗料の膜厚を200μm〜300μmの厚膜塗装をする必要があり、このように粒径の大きな粉体塗料を用いた場合には薄膜塗装をすることが困難である。
粉体塗料を薄膜塗装する方法としては、塗装ガンの先端にピンを設け、被塗物をアースして両者の間に高電圧を印加してコロナ放電を行い、その電界を利用して粉体粒子を帯電させ、反対極性の被塗物に塗布し、加熱硬化させる、いわゆるコロナ荷電型静電粉体塗料塗装法も用いられており、この方法は、平均粒径が30μm〜35μmの粉体塗料を使用するため40μm程度の薄膜塗装が可能である。しかし、被塗物が凹部を有するような場合には、その奥には電界が生じ難く、粉体が塗装されない部分を生じる、いわゆるファラデーケージ現象を起こし、小型モータのコアのように例えば図1に示すスロット2a、2a・・のように凹部を有するような構造の被塗物に対する塗装はできない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在行われている静電流動浸漬法による塗装では、上述のように、上記コアの場合、平坦部では約200〜300μmにもなり、膜厚を薄くしたいという上記の要望を満たすことができないという問題がある。
また、粉体塗料には熱硬化性塗料が用いられ、塗膜は加熱されて硬化されるが、その際誘導加熱などを行って急速に温度を上げると、その塗膜は急激に溶融して必要以上に低粘度となった瞬間に硬化して流動性を失うので、特に被塗物のエッジ部において予想外に膜厚が薄くなる現象を生じ、そのため絶縁耐圧の値にバラツキを生じ易いという問題もある。
【0006】
本発明の第1の目的は、凹部を有する小型電気部材に膜厚の薄い、例えば100μm以下の絶縁塗膜を形成できる小型凹状電気部材用絶縁塗膜の形成方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、エッジ部における塗膜が加熱工程で薄くなることを軽減できる小型凹状電気部材用絶縁塗膜の形成方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、収納容積が小さくしかも密閉して使用されるような例えば小型モータにおいてコアの巻線を短くできその電気抵抗値を小さくできる絶縁塗膜が得られるような小型凹状電気部材用絶縁塗膜の形成方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】 本発明は、上記課題を解決するために、(1)、電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型モータのコアに絶縁塗膜を形成する方法において、粉体塗料をガン内壁との摩擦により荷電させる摩擦荷電式静電粉体ガン又は粉体塗料をガン内に発生させた電界により荷電させる内部荷電式静電粉体ガンを使用してそれぞれの荷電した粉体塗料をそれぞれのガンの吹きつけにより流通させて上記コアに付着させて塗布する工程と、該塗布された粉体塗膜を加熱する工程を有し、上記粉体塗料の流通によるコアとの付着により上記粉体塗料が上記凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じさせることなく、かつ膜厚が上記コアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくできる10μm〜100μmとなる上記絶縁塗膜を形成する小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法を提供するものである。また、本発明は、(2)、粉体塗料の粒径が4μm〜40μmである上記(1)の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法、(3)、粉体塗料が熱硬化性塗料であり、加熱工程が該塗料の塗布膜を架橋開始温度未満に加熱して溶融した塗膜を平坦化する第1加熱工程と、該第1加熱工程の後に該架橋反応を起こす温度に加熱する第2加熱工程を有する上記(1)又は(2)の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法、(4)、コアは収容容積が小さく密閉して使用される小型モータのコアである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の小型モータのコア用絶縁塗膜の形成方法を提供するものである。
【0008】
次に本発明を詳細に説明する。
本発明において、「摩擦荷電式静電粉体ガンを使用して塗布」とは、例えば図3に示すように、粉体塗料を空気とともにガンの筒体に導入し、ガン内壁と粉体塗料を接触させ、摩擦により粉体塗料を荷電させ、その荷電粒子の空気流を形成し、その荷電粒子と反対極性にセットした被塗物に荷電粒子を付着させ、放電させる摩擦荷電式静電粉体塗装方式であり、このような塗装方式では、上記コロナ放電方式による塗装ではコロナピンからの電界が被塗物の凹部に入り込み難いため、粉体塗料は凸部のみに塗布され、凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じるのに対し、このファラデーケージ現象を生ぜず、凹部に対する優れた入り込み性を示す。
また、「内部荷電式静電粉体ガンを使用して塗布」とは、例えば図4に示すように、ガンの筒体に設けた電極と電極板の間に電界を形成し、そこを粉体を通過させることにより粒子を荷電させ(いわゆる内部荷電)、その荷電している粉体をその荷電粒子と反対極性にセットした被塗物に付着させ、放電させる内部荷電式静電粉体塗装方式であり、このような方式でも上記摩擦荷電式静電粉体塗装方式と同様にファラデーケージ現象を生ぜず、凹部に対する優れた入り込み性を示す。
本発明においては、摩擦荷電式静電粉体塗装方式による摩擦荷電量を増加させるなどの目的で摩擦荷電式静電粉体ガンにコロナ放電ピンを付加し、上記したコロナ荷電型静電粉体塗装法を併用した静電粉体ガンでも良いが、コロナ放電方式に特有なファラデーケージの影響が少なく、実質的に被塗物の凹部に粉体を塗布することができるものであれば良く、「摩擦荷電式静電粉体ガンを使用して塗布」の中にこれも含まれる。
【0009】
なお、摩擦荷電あるいは接触荷電において荷電量及び荷電極性について物体間には、例えばポリウレタン、エポキシ、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフレオエチレンのようにはじめのものほどプラスで後のもの程マイナスになる荷電序列があり、これらのプラスのものとマイナスのものを摩擦するとプラスのものはプラス、マイナスのものはマイナスに帯電し、序列の差が大きいほど荷電量も大きくなるという原理が知られており、この原理を応用して、例えばプラス帯電のものとして上記のほかに顔料、硬化剤や、硬化促進剤、流動調整剤、発泡防止剤等の添加剤を含有する粉体塗料を作成し、一方マイナス帯電の上記材料からなる噴出管を作成し、あるいはこれらを逆に前者をマイナス、後者をプラス帯電するように材料を選択して噴出管から粉体塗料を噴出させるようにして両者を摩擦させ、帯電させて反対極性にした被塗物にその摩擦帯電粒子を塗装することができることは既に知られている。
【0010】
本発明において、上記の摩擦荷電静電粉体塗装方式あるいは内部荷電静電粉体塗装方式により塗装する粉体塗料としては、平均粒径が4μm〜40μmのものを使用することが好ましく、平均粒径が約50μm〜70μmの粉体塗料を用いた上記静電流動浸漬法による粉体塗料塗装法が元来100μmを越える膜厚の塗装を行うことを目的としているのに対し、100μm以下の膜厚のものに適用することが好ましい。50μm〜100μmの膜厚を得るためには、通常のコロナ荷電型静電粉体塗料塗装法で使用されている平均粒径30μm〜35μmの粉体塗料を用いることができるが、平均粒径が4μm〜40μmの微粒子の粉体塗料を用いると、50μm以下、特に30μm以下の膜厚を得ることができる。
平均粒径30μm程度の粉体塗料の粒度分布は通常10μm〜70μm程度の各種の粒径を含んでいる。平均粒径20μm以下の微粒子粉体塗料は通常のコロナ荷電型静電粉体塗料塗装法で使用されているACMバルペライザー(ホソカワミクロン株式会社製)などのピンミルで粉砕した後、サイクロンで分級しても得られるが、工業的には超音速ジェット粉砕機Acroplex(アルピネ社製)や微粉砕機クリプトロン(川崎重工社製)を粉砕機として使用し、下限及び上限をカットするサイクロン分級によっても得ることができる。また、一旦10μm以下の微粒子粉体塗料を製造した後、ヘンシェルミキサー(三井三池製作所製)などの流動化型混合機を使用して撹拌混合し、数個の微粒子を加熱融着させて任意の粒径に造粒することもできる。
上記のことから、上記(1)その他の発明において、「上記絶縁塗膜を形成する」を「膜厚が10μm〜100μmとなる上記絶縁塗膜を形成する」とすることができ、その際「粉体塗料」を「平均粒子径4μm〜50μmの粉体塗料」とすることもできる。
【0011】
被塗物のエッジの膜厚の平坦部の膜厚に対する比率である、いわゆるエッジカバー率は、粉体塗膜の加熱方法によっても改善することができ、その改善により特に薄膜では絶縁抵抗値のバラツキを少なくすることができる。本発明においては、加熱は一段加熱でも良いが、はじめ塗膜の架橋開始温度未満、ついで架橋開始温度以上で加熱する二段加熱法を採用することが、エッジカバー率の向上、塗膜の平滑化、絶縁耐圧のバラツキを減少させる点で好ましい。
すなわち、従来は粉体塗装したコアを誘導加熱法により加熱し、昇温したコアの余熱で焼付を完了しようとする際、コアの温度が高温になり過ぎて、粉体塗膜の溶融粘度が著しく低下し、その後瞬間的に硬化がはじまって塗膜が固化し、そのためエッジカバー率は悪くなるが、本発明における二段加熱方式によると、第1段階ではコアの温度を過度には上げず、溶融塗膜の平滑化に必要な程度にし、第2段階でその架橋反応を行わせる加熱を行うことによって、粉体塗料の組成によっても異なるが、例えば従来の方法では40%に留まっていたエッジカバー率を70%程度まで向上でき、平坦部とエッジ部の膜厚の差を小さくすることができるとともに、小型モータのコアの絶縁膜の場合にも絶縁耐圧の値のバラツキを少なくし、性能の安定した製品を得ることができる。これは塗膜が薄膜になるほど2段加熱が有利になることを示す。なお、一段加熱、二段加熱の各加熱工程は一定温度でも良いが、連続的に昇温させる場合でも良い。
加熱手段としては、赤外線照射加熱、誘導加熱、熱風加熱等を用いることができ、前2者は一段加熱工程、二段加熱工程の第1加熱工程、第2加熱工程のいずれにも用いることができるが、熱風加熱は粉体塗料の飛散がない第2加熱工程で用いることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1に示す回転子のコアのコア本体1の外周縁、スロット2a、2a・・・の周壁、その間の極3a、3a・・に絶縁塗膜5を形成し、その後各極には巻線4a、4a・・を施す。
この絶縁塗膜を形成する塗装に当たっては、図2に示すように、流動槽6に空気を吹き込み多孔板6a上の粉体塗料を流動化し、その流動化した粉体をインジエクター7に吸い込み、圧搾空気8により摩擦荷電式静電粉体ガン9からその荷電された粉体塗料粒子10と空気を吐出する。その際、図3に示すように、摩擦荷電式静電粉体ガン9に送られた粉体塗料と空気はガンの内壁と摩擦し粉体粒子は荷電されて吐出される。なお、粉体塗料としてはその平均粒径が4μm〜40μmの範囲のものを予め選定しておくことが好ましい。
回転子のコア13はコア本体1の中心部を貫通する軸11に支持され、アースされた状態て塗装ライン上を回転しながら進行し、上記の摩擦荷電式静電粉体ガン9により吐出された荷電粒子が静電引力により付着される。この際、コロナ放電静電塗装方式のような電界により塗装するものと異なり、ファラジーケージを生じないのでスロットの周壁にも良く塗装が行われる。
このようにしてコアの周側が塗装されるが、付着しなかった粉体塗料はラインの下側に設けた真空集塵機12により吸い取り、図示省略したサイクロンで回収した後リサイクル使用される。
塗装されたコア14は、ラインの前方に設置した加熱装置により加熱され、焼付けられる。加熱装置は一段加熱の場合は第1加熱工程15のみであり、その場合は例えば誘導加熱装置15aにより例えば230℃〜250℃に加熱し、その後自然冷却されて塗装は完成される。二段加熱の場合は第1加熱工程の後に、さらに第2加熱工程を経てから自然冷却されて塗装は完成されるが、第1加熱工程では例えば誘導加熱装置15aにより例えば130℃まで加熱し、第2加熱工程16では例えば誘導加熱装置16aを用いてコアの温度を230℃まで加熱する。第1加熱工程での温度を130〜200℃にとどめ、第2加熱工程で赤外線装置あるいは熱風加熱により架橋温度以上に加熱することもできる。
塗膜の膜厚の調節は主として粉体塗料の粒径の選定と、摩擦荷電式静電粉体ガンにおける粉体塗料のチャージ値(ゲージ値)、吐出エアー圧(Kg/cm2)、霧化エアー圧(Kg/cm2)、塗料供給量(g/分)により行う。粉体塗料のチャージ量は粉体塗料の種類により異なるので摩擦荷電式静電粉体ガン用として適した種類を選択することが必要である。
このように、摩擦荷電式静電粉体ガンにより塗装を行うと、ファラデーケージ現象を生じることなく被塗物の凹部にも塗装することができ、その際、平均粒径の小さい粉体塗料を塗装すると、膜厚を薄くすることができる。また、加熱を2段階にすると、造膜過程と架橋過程に分けて加熱でき、造膜過程で過度に温度が上昇しないようにすることにより特に溶融塗膜の流れ易いエッジ部においてその流れを抑制し、塗膜が部分的に過度に薄くなることを抑制することができる。
【0013】
なお、上記は摩擦荷電式静電粉体ガンにより塗装を行う場合について説明したが、内部荷電式静電粉体ガンによる塗装の場合もこれに準じて行うことができる。以下の実施例においても同様である。
【0014】
【実施例】
実施例1
エピコート1004(油化シエルエポキシ社製)47重量部、酸化クロムグリーン48.4重量部、エアロジル#200(デグサジパン社製充填剤)3重量部、無水ピロメリット酸(硬化剤)2.6重量部をプレミキシングした後、エクストルーダーにて練肉する。さらにピンミルで粉砕した後、100メッシュ篩を用いてその通過分(平均粒径31.4μm)を絶縁粉体塗料とした。これは静電粉体塗装用絶縁粉体塗料として用いることができるものである。
この絶縁粉体塗料を上記したように図2に従って塗布するが、その際摩擦荷電式静電粉体ガンとしてはノードソン株式会社製摩擦帯電塗装ガン100 PLUS-11を用い、ついで誘導加熱装置15aを用いてこれによりコアの温度を235℃(架橋開始温度(示差熱分析により測定)以上)、6秒加熱し、その後自然冷却した。
その得られた塗膜について後述の各種試験を行い、その結果を表1に示す。
【0015】
実施例2
実施例1において、誘導加熱装置15aの代わりに遠赤外線装置を用いて第1加熱工程15とし、第2加熱装置16に誘導加熱装置16aを用い、前者により粉体塗料の塗膜をコアの温度で125℃(架橋開始温度未満)、10秒加熱し、その塗膜を溶融して平滑な塗膜にする工程を付加し、第2加熱工程で実施例1と同様に加熱した以外は同様にして塗装を行い(第1加熱工程、第2加熱工程併用)、実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0016】
実施例3
実施例1において、100メッシュの篩を用いる代わりに、エクストルーダーを通した後、微粉砕機クリプトロン(川崎重工社製)を用いて粉砕し、さらにサイクロンにより不要な微粒子と粗粒子をカットして平均粒径18μmの微粒子絶縁粉体塗料(組成は実施例1と同じ)を得、これを実施例1の絶縁粉体塗料の代わりに用いること以外は同様にして塗装を行い、実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0017】
実施例4
実施例3において、実施例2の場合と同様に加熱工程を誘導加熱装置15aの代わりに遠赤外線装置を用いて第1加熱工程15とし、第2加熱装置16に誘導加熱装置16aを用い、前者により粉体塗料の塗膜をコアの温度で125℃(架橋開始温度未満)、10秒加熱し、その塗膜を溶融して平滑な塗膜にする工程を付加し、第2加熱工程で実施例3と同様に加熱した以外は同様にして塗装を行い(第1加熱工程、第2加熱工程併用)、実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0018】
比較例1
実施例1において、100メッシュの篩を用いる代わりに70メッシュの篩を用いてその通過分(平均粒径78μm)を粉体塗料(組成は実施例1と同じ)とした以外は同様にして静電流動浸漬用絶縁粉体塗料を作成し、これを静電流動浸漬法により塗装を行い、実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0019】
比較例2
実施例1の場合と同様な回転子コアを棚に並べ、溶剤型絶縁塗料ポリペックW2337(日本ヒドラジン工業株式会社)をスプレーにより塗布した後、150℃15分焼付け、次に塗装面を下にして棚に並べ、同様に塗布を行い、150℃、15分焼付ける。このようにして両面塗装を1サイクルとし、それだけでは塗膜の厚さは10μmに過ぎないので、5サイクルの塗装を繰り返し、得られた塗膜について実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
試験法は以下のとおりである。
▲1▼ 塗膜の状態
目視でコアの平坦部の塗膜の状態、特に平滑さの程度を判定する。
▲2▼ 膜厚測定
コア平坦部の膜厚を電磁膜厚計(エルコメータ)で10点(10個のコア)測定し、その平均値を求める。
▲3▼ 鉛筆硬度試験
JIS K 5400に準拠し、三菱鉛筆「ユニ」で塗膜に傷の付かない最大硬度をもって鉛筆硬度とする。
▲4▼ エッジカバー率
平坦部とエッジ部の塗膜厚さを測定した後、後者の前者に対する比率を求める。
▲5▼ 絶縁抵抗
塗装したコアに巻線をした後、各コイル端を導通するように半田付けし、絶縁抵抗計の(+)端子を接続する。コアの塗装してない生地(コア本体)にアース(-)端子を接続させた後、250V-50MΩの電流の有無を判定する。
▲6▼ 抵抗値
コアの巻線の巻始めと巻終わり間の抵抗値を測定する。10個のコアについて各1点合計10測定し、その平均値を抵抗値とする。巻線抵抗温度係数表により25℃に換算して表示する。
▲7▼ 絶縁耐圧(絶縁破壊試験)
試験機の高圧出力端子と巻線コイルを接続し、接地端子とコア本体を接続する。限流値1mA/ACに達したときの電圧を絶縁耐圧の値とする。10個の巻線コイルについて各1点合計10点測定し、その平均値を絶縁耐圧の値とし、その標準偏差を求める。
【0022】
表1の結果から、実施例1、2の塗膜は比較例1の塗膜に比べ、膜厚が約1/4になっているにもかかわらず必要とする絶縁耐圧が得られ、そのバラツキも少なく、安定した製品が得られる。巻線の抵抗値が減少し、コイルを動作させたときの発熱を抑制することができる。
実施例1、2の塗膜を比較例2の塗膜と比べると、比較例2の塗膜は5回の重ね塗りで製造されたにもかかわらず、エッジカバー率が小さく、そのバラツキも大きく、そのため絶縁耐圧も低く、その標準偏差値も大きく、製品としての安定性に欠けていることが分かる。
実施例1と2を比較すると、実施例2の2段加熱法による塗膜はエッジカバー率のバラツキが小さく、安定し、そのため絶縁耐圧の標準偏差の値が小さく、製品が安定していることがわかる。また、塗膜の平滑性が優れているため巻線作業もし易い。また、実施例2の塗膜は実施例1の塗膜と比較して膜厚は約17%薄くできるにもかかわらず、十分な絶縁耐圧をもっている。
実施例3、4は微粒子絶縁粉体塗料を使用しているため、絶縁抵抗を維持しながら塗膜の膜厚を実施例1、2の塗膜に比べてさらに薄くすることができ、実施例3と4の塗膜では、後者をさらに約7%薄くでき、エッジカバー率のバラツキも小さくできる。実施例3と実施例1ではその膜厚を約34%、実施例4と実施例2ではその膜厚を約27%薄くし、そのようにしても他の特性を損なわないことがわかる。
このように、小型モータのコア用絶縁塗膜として優れていることがわかり、特に実施例4の塗膜、ついで実施例3の塗膜は将来のさらなる小型化が予想されるモータのコア用絶縁膜としての使用が期待される。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、摩擦荷電式静電粉体塗装方式又は内部荷電式静電粉体塗装方式により粉体塗料をガンの吹きつけにより流通させて小型電気部材に付着させ、凹部に入り込み難いファラデーケージ現象を生じることなく、かつ膜厚が10μm〜100μmとなるように塗装するようにしたので、電気通信分野又はコンピュータ本体とその周辺機器に用いられる凹部を有する小型電気部材、例えば小型モータのコアに膜厚の薄い塗膜を形成することができ、特に粉体塗料の粒子径を4μm〜40μmにすることによりこれを一層良く実現することができ、しかも絶縁塗膜としての他の特性を損なわないようにできる。
また、塗膜の加熱を2段階で行う場合には、被塗物のエッジ部における塗膜が加熱工程で薄くなることを軽減でき、エッジカバー率を向上させることができ、塗膜を薄くできることと相まって、収容容積が小さくしかも密閉して使用されるような例えば小型モータにおいてそのコアの巻線を短くでき、その電気抵抗値を小さくできるので、その動作時の発熱を抑制し、さらに小型化されつつあるモータのコア用の優れた絶縁塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
回転子のコアに巻線を施した状態の平面図である。
【図2】
その回転子のコアの本発明の実施例の方法による塗装工程を示す説明図である。
【図3】
摩擦荷電式静電粉体塗装ガンによる塗装の原理説明図である。
【図4】
内部荷電式静電粉体塗装ガンによる塗装の原理説明図である。
【符号の説明】
1 コア本体
2a スロット
3a 極
4a 巻線
5 絶縁塗膜
6 流動槽
7 インジエクター
8 圧搾空気
9 摩擦荷電式静電粉体塗装ガン
10 荷電した粉体塗料粒子
13 コア
14 粉体塗料を塗布されたコア
15 第1加熱工程
16 第2加熱工程
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1) 上記▲2▼、(2)項は、請求項1ないし4に係わる発明の構成を減縮する訂正である。
(2) 上記▲2▼、(1)項及び上記▲2▼、(3)項は、上記▲2▼、(2)項における訂正に伴う「発明の名称」及び「発明の詳細な説明」の該当個所の訂正であり、明瞭でない記載の釈明に当たる。
▲4▼訂正の原因
(1) 上記▲2▼、(2)項における下線部分の減縮に該当する訂正のうち、【請求項1】については、「小型モータのコア」は、特許査定時の明細書の【請求項4】に記載され、「上記コアの巻線を短くできその電気抵抗を小さくできる10μm〜100μmとなる」は、同明細書の【0006】の段落において、第3の目的として記載されているとともに、同明細書の【0023】【発明の効果】に記載されている事項であり、いずれも当初明細書の同段落にも記載されていたことである。
【請求項2】〜【請求項4】については、【請求項1】に伴う訂正である。
【請求項4】については、「コアは収容容積が小さく密閉して使用される」は、特許査定時の明細書の【0002】の段落の末3行に記載されているとともに、同明細書の【0023】【発明の効果】に記載されている事項であり、いずれも当初明細書の同段落にも記載されていたことである。
異議決定日 2001-06-29 
出願番号 特願平7-221157
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H02K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小川 恭司  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 西川 恵雄
森川 幸俊
登録日 2000-04-07 
登録番号 特許第3051973号(P3051973)
権利者 武田 進
発明の名称 小型凹状電気部材用絶縁塗膜の形成方法  
代理人 佐野 忠  
代理人 佐野 忠  

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