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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特39条先願 H01L |
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管理番号 | 1051593 |
異議申立番号 | 異議2001-72705 |
総通号数 | 26 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-02-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-10-03 |
確定日 | 2002-01-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3152238号「発光ダイオード」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3152238号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.出願の経緯・本件発明 本件特許第3152238号に係る出願は、平成5年9月28日に出願された特願平5-241449号を、実用新案法第10条第1項の規定により実用新案登録出願に変更し、さらに、この実願平9年2302号を、特許法第46条第1項の規定により平成9年5月17日に特許出願に変更し、さらに特許法第44条の規定により、この特願平9-143158号を特願2000-215237号として分割したものであって、平成13年1月26日にその設定登録がなされ、その後、若園英彦より特許異議の申立てがなされたものである。 そして請求項に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】カップの底部に配設された発光チップと、前記カップの縁の水平面よりも低く発光チップを封止する第一の樹脂と、該カップの縁の水平面よりも低い第一の樹脂を包囲する第二の樹脂とを有する発光ダイオードであって、 前記発光チップは青色発光チップであり、該青色発光チップの発光波長を、それよりも長波長の光に変換する蛍光物質が第一の樹脂に含有されていると共に第二の樹脂は前記第一の樹脂の材料と同一の材料であって青色発光チップの発光波長をそれよりも長波長の光に変換する蛍光物質が含有されていないことを特徴する発光ダイオード。 【請求項2】前記第一の樹脂及び第二の樹脂の樹脂はエポキシ樹脂である請求項1に記載の発光ダイオード。」(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。) 2.申立ての理由の概要 これに対して、特許異議申立人若園英彦は、次の(1)〜(3)の理由により特許を受けることができないものであるから取り消すべき旨主張している。 (1)本件発明1および2は、原出願(特願平5-241449号)に記載のない事項を分割したものであって、分割の要件を満たさないものであるから、出願日はそ及せず、したがって原出願の公開公報である甲第1号証から容易になし得たものであって、特許法第29条第2項に違反してなされたものである。 (2)本件発明1は、甲第2号証の発明と実質的に同一であるから、特許法第39条第2項に違反してなされたものである。 (3)本件発明1および2は、甲第3号証に基づいてあるいは甲第3号証と甲第4〜10号証を寄せ集めることにより容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反してなされたものである。 記 甲第1号証:特開平7-99345号公報 甲第2号証:特許第2998696号公報 甲第3号証:特開昭49-122292号公報 甲第4号証:特開平5-152609号公報 甲第5号証:実開昭59-50455号公報 甲第6号証:実公昭52-45181号公報 甲第7号証:実開昭50-79379号公報 甲第8号証:特開昭54-116188号公報 甲第9号証:特開昭49-122677号公報 甲第10号証:特開昭49-56595号公報 3.引用刊行物 甲第3号証には、次のことが記載されている。 「ダイオードステムの中央部に円錐台形もしくは円錐台形に類似した形状の凹みを設け、凹みの底にp-n接合を含み赤外線を発光するペレットを装着し、一定量の赤外可視変換蛍光体を凹みに落とし、前記ペレットの周囲に一定の厚さの赤外可視変換蛍光体の層を形成せしめ、さらにその上に接着剤を滴下し、加熱し、赤外可視変換蛍光体を前記ペレットの周囲に固着せしめ、さらにレンズ封止あるいはモールドすることを特徴とする赤外可視変換発光ダイオードの製造方法。」(特許請求の範囲)、 「本発明によれば第2図に示すようにダイオードステムの中央部に円錐台形もしくは円錐台形に類似した形状の凹み3を持ったダイオードステム11を用いる。p-n接合を含み赤外線を放射するペレット6は第2図に示した円錐台形または円錐台形に類似した凹み3の底に装着される。次に第3図に示すようにステム11の上方より適当量の赤外可視変換蛍光体を凹み3に落とし、ペレット6の周囲に蛍光体層7を形成する。この際蛍光体の量が一定であれば蛍光体層7の厚さは常に一定となる。 次に蛍光体層7とペレット6との密着度をよくするために、第4図のごとく、例えばシリコン樹脂、またはエポキシ樹脂のような適当な粘度の熱硬化性樹脂5を適当量滴下する。第4図に示した熱硬化性樹脂5と蛍光体層7を徐熱し、熱硬化性樹脂5を蛍光体層7の中に浸透させ、さらに加熱硬化させた後レンズ封止あるいはエポキシ樹脂によるモールドを行なう。」(公報第2頁左上欄第18行〜右上欄第15行)、 「かかる手段によって作られた赤外可視変換発光ダイオードは赤外光が周囲の円錐台形もしくは円錐台形に類似した形状の凹み3によって反射されるために蛍光体に吸収される赤外光が増加する。従って可視光の出力が増大するという特徴をも有する。」(公報第2頁左下欄第12行〜第17行) 第4図には、熱硬化性樹脂5が円錐台形の凹み3に一杯になるまで滴下されていることがみてとれる 甲第4号証には、次のことが記載されている。 「ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて、前記発光素子が、一般式GaXAl1-XN(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり、さらに前記樹脂モールド中に、前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料、または蛍光顔料が添加されてなることを特徴とする発光ダイオード。」(特許請求の範囲請求項1)、 「【0008】図2は本発明のLEDの構造を示す一実施例である。11はサファイア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子、2および3は図1と同じくメタルステム、メタルポスト、4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。・・・さらに樹脂モールド4には420-440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されている。」(段落番号【0008】) 甲第5号証には、次のことが記載されている。 「一端に夫々反射器が形成された複数のリード、該リードの各反射器底面に配された発光ダイオードペレット、上記各反射器を個別に被覆する第1モールド体、上記各反射器を一体にモールドする第2のモールド体を具備し、上記第1モールド体はフィラ(光散乱剤)入り透光性材料からなり、また第2モールド体は透光性材料からなることを特徴とする発光ダイオード装置。」(実用新案登録請求の範囲)、 「(16)(16)は・・・第1モールド体であり・・・例えば・・・透明エポキシ樹脂からなる。(17)は・・・第2モールド体であり・・・例えば透明エポキシ樹脂からなる。」(第5頁第4行〜第12行) 甲第6号証には、次のことが記載されている。 「電流によって赤外光を放射する赤外発光素子ペレットと、前記ペレットの赤外放射面を直接覆う用に附着され且赤外光を可視光に変換する蛍光体を含む屈折率が1.5〜2程度に選ばれた樹脂層と、該樹脂層上から前記ペレットをモールドするレンズ状の透明樹脂とを具備し、上記赤外発光素子ペレットから放射される赤外光を上記樹脂層内に分布する蛍光体に吸収させ可視光に変換せしめる半導体発光装置。」(実用新案登録請求の範囲) 甲第7号証には、次のことが記載されている。 「半導体発光素子と該半導体発光素子を離間して覆う透明被覆体とを具え、該透明被覆体の前記半導体発光素子に対向する側の表面に蛍光材料層を有することを特徴とする半導体発光装置。」(実用新案登録請求の範囲)、 「係る本考案の半導体発光装置は、半導体発光素子4から輻射された赤外線または紫外線が蛍光材料層7にて可視光に変換されて・・・発光が可能であり」(公報第4頁第7行-第11行)、 「本考案の半導体発光装置は・・・例えばGaN等を用いた近紫外線発光素子を用い、蛍光材料として通常の紫外線-可視光変換蛍光材料を使用することもできることは言うまでもない。」(公報第6頁第8行〜第12行) 甲第8号証には、次のことが記載されている。 「(1)固体撮像素子により光電変換して撮像するデバイスにおいて、前記固体撮像素子の・・・紫外部、可視光の短波長部を吸収して長波長側の光を放出する波長変換体を設けたことを特徴とする固体撮像デバイス。 (2)波長変換体は紫外部、可視光の短波長部を吸収し、これら少なくとも一方の波長域で励起されて可視光の長波長側に発光する蛍光性を有し・・・特許請求の範囲第1項記載の固体撮像デバイス。」(特許請求の範囲第1、2項) 甲第9号証には、次のことが記載されている。 「ステムに形成された所定形状の凹部と、該凹部の底面の所定位置に取付けられた赤外発光ペレットと、該赤外発光ペレットを被って上記凹部に満された蛍光体・・・を有する発光半導体装置。」(特許請求の範囲)、 「本発明は蛍光体を用い、赤外光を可視光に変換する発光半導体装置(以下赤外-可視変換素子と称する)に関する。」(公報第1頁左下欄第11行-第13行) 甲第10号証には、次のことが記載されている。 「中央部に円錐台形・・・の凹みを有するダイオードステムのヘッダーに赤外発光ダイオードを装着し、その上に赤外可視変換発光体を塗布し、モールドにより外形成型・・・したことを特徴とする赤外可視変換発光ダイオード。」(実用新案登録請求の範囲)、 「本発明は赤外発光ダイオードと赤外光を可視光に変換する希土類蛍光体とから構成された可視発光装置に関するものである。」(公報第1頁左下欄第11行〜第13行) 第2図には、赤外可視変換蛍光体2が円錐台の凹み4の縁の水平面よりも低いことがみてとれる。 4.対比・判断 I.理由(1)について 特許異議申立人が、分割が不適当であるとする理由は、本件発明1及び2において、蛍光物質を「青色発光チップの発光波長を、それよりも長波長の光に変換する蛍光物質」と特定した点にある。 これについて検討すると、出願当初の明細書には次の記載がある。 「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の目的で波長変換材料5を樹脂4中に均一に分散させると、この図に示すように、波長変換された光、または不要な波長がカットされた光は樹脂4中で四方八方に散乱してしまい、集光が悪くなるという問題がある。図2の矢印は発光チップの光が波長変換材料5にあたり、波長変換された光が散乱する様子を模式的に示した図である。つまり、波長変換された光が散乱されることにより、発光観測面側の光量が減少して輝度が低くなるのである。 【0004】また、波長変換材料5を蛍光物質に限定した場合、新たな問題点として、異なる発光色のLEDを接近して設置した際に、他のLED発光による蛍光物質のよけいな発光の問題がある。例えば、青色発光チップで緑色発光が得られる蛍光物質を含む緑色LEDと、単なる青色発光チップのみからなる青色LEDとを同一平面上に水平に近接して並べた場合、緑色LEDを消灯して、青色LEDを点灯すると、青色LEDから洩れ出る光、つまり散乱する光により、緑色LEDの蛍光物質が励起され、消灯した緑色LEDがあたかも点灯したような状態となり、両LEDの混色が発生する。 【0005】従って本発明の目的とするところは、LEDの樹脂に波長変換材料を含有させて発光チップの波長変換を行う際、まず変換された発光の集光をよくしてLEDの輝度を高めることを目的とし、また蛍光顔料を使用した際、波長の異なるLEDを近接して設置しても混色の起こらないLEDを提供することをもう一つの目的とする。」 「【0013】・・・波長変換材料5を蛍光物質とした場合、その蛍光物質を含む第一の樹脂11がカップ3の縁部の水平面よりも低くなるように充填されており、カップ3からはみ出していないので、カップ3の縁部により蛍光物質を励起する外部光を遮断でき、LEDの混色を防止することができる。 【0014】【発明の効果】以上説明したように、本発明のLEDはカップ内部に波長変換材料を含有する第一の樹脂を充填しているため、変換光がカップ内部で反射して集光されるため、輝度は倍以上に向上する。また、蛍光顔料を第一の樹脂に含有させて波長変換を行う場合、カップ深さを深くして、第一の樹脂がカップからはみ出さないようにすることにより、LED間の混色が発生せず、例えばLEDで平面ディスプレイを実現した際には、非常に解像度のよい画像を得ることができる。」 以上の記載によれば、出願当初の明細書には、発光チップの発光波長を蛍光物質等の波長変換材料で変換するLEDにおいて、発光観測面側の輝度が低くなる、異なる発光色のLEDの混色が発生する、という二つの問題点を指摘し、これらの問題点を解決することを目的として、カップ内部に波長変換材料を含有する第一の樹脂を充填し、カップ深さを第一の樹脂がカップからはみ出さない深さとすることにより、LED間の混色が発生しない、という作用効果を奏する発明が記載されているものと認められる。 そして、例えば青色発光チップで緑色発光が得られる蛍光物質を含む緑色LEDと、単なる青色発光チップのみからなる青色LEDとを同一平面上に水平に近接して並べた場合に、異なる発光色のLEDの混色が発生する、という従来技術の問題点が指摘されており、また、青色発光チップで緑色発光が得られる蛍光物質を含む緑色LEDにおいても、波長変換された光が散乱されることにより、発光観測面側の輝度が低くなるという、前記LEDと同じ問題点が存在することは明らかである。 さらに、青色発光チップで緑色発光が得られる蛍光物質を含む緑色LEDは一つの例示であり、上記記載を合わせ読めば、青色発光チップの発光波長をより長波長に変換する蛍光物質を含むLEDにおいても、前記二つの問題点が存在し、前記明細書記載の解決手段により、これら問題点が解消することは、出願当初の明細書の記載から明らかである。 よって、出願当初の明細書には、一般の発光チップの発光波長を蛍光物質等の波長変換材料で変換するLEDに関する発明のみならず、青色発光チップの発光波長をより長波長に変換する蛍光物質を含むLEDに関する発明が記載されていたものと認められから、本件発明1及び2における、蛍光物質を「青色発光チップの発光波長を、それよりも長波長の光に変換する蛍光物質」との技術的事項は記載されているに等しい事項である。 以上のとおりであるから、本件発明の出願は、分割の要件を満たさないものであるから出願日はそ及しないということはできず、本件の出願日が分割時点に繰り下がることはない。 してみれば、特許異議申立人の提示した甲第1号証は、本件出願前公知の文献ではないから、特許法第29条第2項にいう刊行物には当たらない。 II.理由(2)について 特許第2998696号(特願平9-143157号)に係る発明は、特許請求の範囲に記載された以下の事項により特定されるものである。 「【請求項1】青色発光チップの発光を発光観測面側に反射するカップの底部に青色発光チップが載置された発光素子全体を、樹脂で封止してなる発光ダイオードであって、前記樹脂は前記カップの縁部の水平面よりも低く内部に充填されてなる第一の樹脂部と、その第一の樹脂部を包囲する第二の樹脂部とを有し、前記第一の樹脂部には前記青色発光チップの発光波長を、それよりも長波長の光に変換する蛍光物質が含有されていると共に第二の樹脂部は青色発光チップの発光波長をそれよりも長波長の光に変換する蛍光物質が含有されていないことを特徴する発光ダイオード。」(以下、「先願発明」という。) 先願発明と本件発明とを対比すると、実質的に次の点で相違する。 (1) 先願発明のものは、カップの底部が反射するのに対し、本件発明のものは、カップの底部が反射するとの限定がない点。 (2) 本件発明のものは、第二の樹脂が、第一の樹脂の材料と同一の材料であるのに対し、先願発明のものは、同一の材料であるとの限定がない点。 そして、上記相違点は単なる表現上の差異であるともいえず、また選択の余地のある事項を夫々上記のように選択し限定したものであって、これは当然になし得る設計事項とも言えないから、両者は実質的に同一とは言えない。 III.理由(3)について <本件発明1について> 本件発明1と異議申立人が提出した甲第3号証記載のものを対比する。 甲第3号証の「赤外線を発光するペレット」は、本件発明1の「発光チップ」に相当し、以下同様に甲第3号証の「円錐台形形状の凹み」、「樹脂にてモールド」、「熱硬化性樹脂」及び「エポキシ樹脂」「赤外可視変換蛍光体」は、本件発明1の「カップ」、「第一の樹脂を包囲する」、「第一の樹脂」及び「第二の樹脂」に相当する。また、甲第3号証の「赤外可視変換蛍光体」及び本件発明1の「発光波長を変換する蛍光物質」は、発光チップの発光波長を「別の波長の光に変換する蛍光物質」と言い換えることができる。 したがって、両者は、「カップの底部に配設された発光チップと、発光チップを封止する第一の樹脂と、該第一の樹脂を包囲する第二の樹脂とを有する発光ダイオードであって、該発光チップの発光波長を、それよりも別の波長の光に変換する蛍光物質が第一の樹脂に含有されていると共に、第二の樹脂は前記発光チップの発光波長を別の波長の光に変換する蛍光物質が含有されていない発光ダイオード」である点で一致しており、 i)発光チップが、本件発明1では、青色発光チップであるのに対し、甲第3号証では、赤外発光チップであり、また蛍光物質が、本件発明1では、青色発光チップの発光波長を、それよりも長波長の光に変換するのに対し、甲第3号証のものは、赤外光をそれよりも短波長である可視光に変換する点、 ii)第1の樹脂が、本件発明1では、前記カップの縁の水平面よりも低いのに対し、甲第3号証のものは、「第4図のごとく・・・熱硬化性樹脂5を適当量滴下する。」と記載され、熱硬化性樹脂5が凹部に一杯になるまで滴下されることが示されてはいるものの、カップの縁の水平面よりも低くすることは示されていない点、 iii)本件発明1では、第二の樹脂は前記第一の樹脂の材料と同一の材料で構成されているのに対し、甲第3号証のものは、第一の樹脂が、シリコン樹脂、またはエポキシ樹脂のような適当な粘度の熱硬化性樹脂5、第二の樹脂がエポキシ樹脂と記載されてはいるものの、これを同一の材料で構成することは記載されていない点、 で相違している。 上記相違点ii)について検討すると、本件明細書の「青色発光チップで緑色発光が得られる蛍光物質を含む緑色LEDと、単なる青色発光チップのみからなる青色LEDとを同一平面上に水平に近接して並べた場合、緑色LEDを消灯して、青色LEDを点灯すると、青色LEDから洩れ出る光、つまり散乱する光により、緑色LEDの蛍光物質が励起され、消灯した緑色LEDがあたかも点灯したような状態となり、両LEDの混色が発生する。」(【0004】)、「いずれの状態においても、波長変換材料5を蛍光物質とした場合、その蛍光物質を含む第一の樹脂11がカップ3の縁部の水平面よりも低くなるように充填されており、カップ3からはみ出していないので、カップ3の縁部により蛍光物質を励起する外部光を遮断でき、LEDの混色を防止することができる。」(【0013】)との記載によれば、本件の請求項1に係る発明は、同一平面上に近接して並べた二つのLEDの混色を防止するために、蛍光物質を含む第一の樹脂をカップの縁部の水平面よりも低くなるように充填したものである。 一方、甲第3号証には、従来の蛍光体塗布作業は非常に困難で時間がかかり、蛍光体の厚さは再現性に乏しいため可視光出力のばらつきが大きく、赤外光が十分に利用されないため輝度が低いという問題点が指摘され、ステムの中央部に凹みを設け、その底に赤外発光ペレットを装着し、凹みに注射器のごとき注入装置を用いて、一定量の赤外可視光変換蛍光体、続いて適当量の熱硬化性樹脂を注入することにより、蛍光体塗布作業を自動化し、蛍光体層の厚さを一定に制御し、赤外光が凹みによって反射されるため可視光の出力が増大させる、ということは記載されているが、同一平面上に近接して二つのLEDを並べることの記載や示唆はなく、したがって該二つのLEDの混色を防止する、との問題点の指摘もない。 甲第10号証の第2図には、赤外可視変換蛍光体2が円錐台の凹み4の縁の水平面よりも低いことがみてとれるが、甲第10号証のものは、赤外光を可視光に変換するものであって、その前提において相違するばかりでなく、本件発明の問題点の指摘がなく、赤外可視変換蛍光体2が樹脂であることの明記もない。したがって、甲第10号証の図面にカップの縁の水平面よりも低い赤外可視変換蛍光体がみてとれるとしても、上記相違点ii)を甲第3号証及び甲第10号証から導けるものではない。そして、この点は他の甲第4〜9号証をみても記載されていない。 よって、甲第3〜10号証の記載に基づいて、上記相違点ii)に係る構成要件を想到することは、当業者といえども容易ではない。 上記相違点i)について検討すると、甲第4号証には、青色発光素子4を包囲する樹脂モールド4に蛍光染料5が添加されて、420-440nm付近の波長によって励起され480nmに発光ピークを有する波長を発光することが記載されているが、該甲号証のものは、本件発明の従来技術を示すものであって、相違点ii)において指摘した、近接した二つのLEDの混色の問題点について記載されていないばかりでなく、カップ並びに第一及び第二の樹脂を有することについて記載されていない。また、甲第7号証には、例えばGaN等を用いた近紫外線発光素子を用い、蛍光材料として通常の紫外線-可視光変換蛍光材料を使用することもできる旨の記載はあるが、該蛍光材料は透明覆蓋体6の内側に設けられる点で本件発明と相違するばかりでなく、カップ並びに第一及び第二の樹脂を有することについてもやはり記載されていない。そして、甲第4,7号証に、青色発光チップの発光波長をそれより長波長の光に変換することが記載されているとしても、甲第3号証のものは赤外光を可視光に変換する点で、甲第4,7号証のものとは蛍光物質の波長変換の役割が相違するから、この点においても寄せ集めが可能とはいえない。 さらに、甲第5,6,8〜10号証には、青色発光チップの発光波長を、それよりも長波長の光に変換する蛍光物質は記載されていない。 よって、甲第3〜10号証をみても、上記相違点i)は容易になし得るものとはいえない。 さらに、相違点iii)は、上記相違点i)、ii)の技術的事項を備えた発光ダイオードにおいて第二の樹脂を前記第一の樹脂の材料と同一の材料で構成することを規定したものであるから、甲第3号証に、第一の樹脂がシリコン樹脂またはエポキシ樹脂、第二の樹脂がエポキシ樹脂と記載され、その中に共通する材料(エポキシ樹脂)があるからといって、また甲第5号証に、発光ダイオードの2つの樹脂材料がともに、透明エポキシ樹脂からなるものが記載されているからといって、相違点i)、ii)においても容易とはいえない本件発明の発光ダイオードの二つの樹脂材料を同一にすることが、各甲号証から導けるものではない。 よって本件発明1は、甲第3〜10号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 <本件発明2について> 本件発明2は、本件発明1にさらに「前記第一の樹脂及び第二の樹脂の樹脂はエポキシ樹脂である」との限定を加えたものであるから、その判断は上記<本件発明1について>で記載したと同様である。 5.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-12-03 |
出願番号 | 特願2000-215237(P2000-215237) |
審決分類 |
P
1
651・
4-
Y
(H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
平井 良憲 |
特許庁審判官 |
町田 光信 東森 秀朋 |
登録日 | 2001-01-26 |
登録番号 | 特許第3152238号(P3152238) |
権利者 | 日亜化学工業株式会社 |
発明の名称 | 発光ダイオード |
代理人 | 豊栖 康弘 |
代理人 | 豊栖 康司 |