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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02F |
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管理番号 | 1051663 |
異議申立番号 | 異議1998-76038 |
総通号数 | 26 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-07-15 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-12-18 |
確定日 | 2002-01-21 |
異議申立件数 | 3 |
事件の表示 | 特許第2767145号「液晶素子」の請求項1〜6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、平成11年10月6日付けの決定に対し、東京高等裁判所において決定の取消の判決(平成11年(行ケ)397号、平成13年11月1日判決言渡しにより確定)があったのでさらに審理した結果、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2767145号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本件特許第2767145号の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、平成1年11月22日に特許出願され、平成10年4月10日にその特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人牧田由男(以下「申立人1」という。)、セイコーエプソン株式会社(以下「申立人2」という。)および池田英治(以下「申立人3」という。)から、それぞれ特許異議の申立がなされ、平成11年4月30日に訂正請求がなされ、さらに平成11年9月6日に当該訂正請求書に係る手続補正書が提出され、平成11年10月6日に取消決定され、平成11年12月3日に当該取消決定の取消を求める訴えが東京高等裁判所に提起された。 その後、平成12年9月22日に本件特許について訂正の審判が請求され、平成13年9月18日に訂正を認める審決がなされ、当該審決が確定し、平成13年11月1日に東京高等裁判所において、前記取消決定を取り消す旨の判決があったものである。 【2】本件特許発明 本件特許発明、すなわち本件の各請求項に係る発明は、平成12年9月22日に本件特許について訂正の審判が請求され、その後確定した訂正特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、以下のものである。 なお、本件特許についての前記訂正の審判において、訂正を認める旨の審決が前述のとおり確定したので、平成11年4月30日付けの訂正請求書は取り下げられたものとみなす。 「 (1)電極を形成した2枚の基板を電極を対面させて所定間隔を隔てて対向配置し、両基板間の電極対面部間にギャップ材及び液晶を介装し、該電極対面部の外周部の表示領域以外の領域の周囲をシール材封止した構造の液晶素子であって、 各基板の電極に連結して、基板上のシール材による封止部の下層を経て外部に延設されたリード電極が設けられ、該表示領域以外の領域で対面する基板のどちらか一方の基板上のみで且つ該リード電極が設けられていない領域において、該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設け、非表示領域のシール材内部にガラスビーズを設け、及び非表示領域のシール材外部にギャップ材を設けたことを特徴とする液晶素子。 (2)前記スペーサーは、前記電極と同一工程で形成された同一材料からなることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。 (3)前記電極は複数の並列配置したストライプ状電極からなり、2枚の基板の各電極を直交配置してマトリックスを構成し、各ストライプ状電極に連続して同一厚さ同一材料のリード電極を各基板の少なくとも一側縁に並列して形成したことを特徴とする請求項2記載の液晶素子。 (4)前記スペーサーは、前記各ストライプ状電極のリード電極と反対側にシール材配設部まで延長して各ストライプ状電極に連続して形成されたことを特徴とする請求項3記載の液晶素子。 (5)前記スペーサーは、最外側のストライプ状電極の外側にこれと平行に前記シール材と重なるまでの位置に形成されたことを特徴とする請求項3記載の液晶素子。 (6)前記シール部材に設けられたスペーサーは、対向する他方の基板側と絶縁されていることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。」 (以下、請求項順に「訂正発明1」〜「訂正発明6」という。) 【3】異議申立の概要 上記各申立人は、証拠として以下の刊行物を提示し、本件の請求項1から請求項6の各項に係る発明が、特許法第29条第1項第3号および同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない旨主張し、特許を取り消すべきものである旨主張している。 刊行物1:特開昭62-245220号公報(申立人1の甲第1号証) 刊行物2:特開昭64-9424号公報(申立人1の甲第2号証、申立人3の甲第1号証) 刊行物3:特開昭57-93323号公報(申立人1の甲第3号証) 刊行物4:特開昭60-23829号公報(申立人2の甲第1号証) 刊行物5:特開昭62-129818号公報(申立人2の甲第2号証) 刊行物6:特開昭63-113420号公報(申立人3の甲第2号証) 刊行物7:特開昭64-10216号公報(申立人3の甲第3号証) 【4】刊行物の記載 刊行物1:特開昭62-245220号公報 [1-1] 2頁左上欄2行〜4行 「そこで本発明は、このような問題点を解決するもので、その目的とするところは、均一な配向を実現し、表示品質の向上を計ることにある。」 [1-2]2頁左上欄15行〜左下欄2行 「本発明の液晶表示装置は、シール材を介して、少なくとも1対の電極基板間に、液晶を封入してなる液晶表示装置において、シール材を両電極基板の表示電極パターンに接して設けるか、またはシール材を表示電極パターン外の、ダミー電極上に設けたことを特徴とする。 (実施例)以下、実施例を用いて詳細に説明する。 実施例1 本発明の液晶表示装置の一実施例を第1図により説明する。下電極基板上にギップ材5を散布し、つづいて上基板上に、上下基板を組み合わせたとき第1図のような配置となるように、シール材3を印刷し、それら上下基板を組み合わせ、空セルとし、そのセル内に強誘電液晶を真空法により封入し最後に封入口を接着剤で封止し、望む液晶表示装置を得る。また、第2図は第1図の断面図である。こうして製作された強誘電液晶パネルの配向状態を偏光板を挟んで観察したところ、若干配向の乱れが存在していたが、その部分に電介を印加することにより、一様な配向が得られた。 実施例2 次に本発明の2番目の実施例を図3により説明する。電極パターンをフォト法で形成する際、シール材を印刷する位置に、あらかじめダミー電極パターンをシール材がその中心部になるように配して電極を製造する。以下は実施例1と同じ方法により液晶表示装置を得る。」 刊行物2:特開昭64-9424号公報 [2-1]2頁左上欄下から3行〜同頁左下欄5行 「本発明は、…、多数の電極群を有する第1の基板と、多数の電極群を有する第2の基板とを、各電極群が相対向するように配置し、周辺をシール材でシールし、その基板間隙にスペーサー材を配置して液晶を挟持してなるドットマトリックス表示を行う液晶表示素子において、シール部内であって、表示領域外の部分にも電極を形成したことを特徴とする液晶表示素子を提供するものである。本発明は、表示領域外の部分に色ムラを生じる原因が、表示領域外には電極が対向していないことにあることを見出し、表示領域外の部分にも電極を形成したものである。…このため本発明では、表示に関係がないこの表示領域外の部分にも電極が対向するようにして基板間隙のズレを少なくし、表示領域外の部分での色ムラを生じる基板間隙ムラを減少させる。」 [2-2]3頁右上欄2行〜同頁左下欄下から4行、第1-3図 「第1図乃至第3図は、本発明の代表的なドットマトリックス表示用の液晶表示素子の例を示す平面図である。 … 第2図は、この第1の基板1の平面図を示しており、多数の第1の電極群6と本発明のダミーの電極7A、7Bを示している。従来の液晶表示素子においては、第1の電極群6、即ち、表示領域4に相当する部分A及び電極群のリード部分に当たるCとHの部分以外には、その一部に形成されたテスト用の電極や位置合せ用の電極等の例を除き、通常電極が形成されていなかった。本発明では、この非表示領域B、D、E、F、G、Iにも電極7A、7Bを形成するものである。…第3図は、この第2の基板2の平面図を示しており、多数の第2の電極群8と本発明のダミーの電極9A、9B、9Cを示している。この基板においても、前述の如く従来の液晶表示素子においては、第2の電極群8、即ち、表示領域4に相当する部分A及び電極群のリード部分に当たるEの部分以外には、…通常電極が形成されていなかった。」 [2-3]3頁右下欄末行〜4頁右上欄6行、第4、5図 「第4図は、本発明の液晶表示素子の部分断面図を示している。第4図においては、非表示部の部分にも電極が形成されているため、第1の基板1と第2の基板2との基板間隙が、スペーサー材11A、11B、11Cにより表示部及び周辺部も含めて正確に保たれることとなる。第5図は、非表示領域に電極が形成されていない従来の液晶表示素子の部分断面図を示している。第5図においては、非表示部の部分には電極が形成されていないため、第1の基板1と第2の基板2との基板間隙がスペーサー材11D、11E、11Fを配置しても、基板間隙の制御が不充分になりやすい。即ち、スペーサー材11Dの部分には電極があるのに対し、スペーサー材11Fの部分には電極が無いため、電極厚さの分だけ基板が反ることとなる。この際に、電極の端の部分のスペーサー材11Eは強い圧力がかかり、柔らかいスペーサー材の場合には、歪んで基板間隙が狭くなり、固いスペーサー材の場合には、電極や配向膜に食い込みそれらを傷付けたりする等のして基板間隙がバラつき、表示領域の端の部分や非表示領域において色ムラ発生し易くなる。さらに、表示領域の端の部分では基板間隙の差により駆動時のコントラストムラも生じ易くなる。」 刊行物3:特開昭57-93323号公報 [3-1]1頁左下欄4行〜10行 「(1)電極を形成した一対の基板を電極面を対向して所定の間隙に周辺シール材で保持し、該間隙内に液晶を封入してなる液晶表示素子において、前記シール材中及び液晶中にはスペーサーを有し、かつスペーサーの中心径がシール材中と液晶中で異なっていることを特徴とする液晶表示素子。」 [3-2]2頁左上欄2行〜6行 「又、シール材の中と基板の間隙の両方に同一中心径のスペーサーを入れると間隙は全て凸形状となり、間隙内のスペーサーの中心径をシール材中のスペーサーの中心径より0.3〜2μ程度小さくすると間隙はほぼ均一になった。」 刊行物4:特開昭60-23829号公報 [4-1]1頁左下欄4行〜9行 「(1)それぞれ電極を有する第1基板と第2基板をスペーサを介して一定の間隔で対向させた表示装置において、シール剤が少なくとも一方の基板上に電着性高分子を分散させた溶液から電着により形成された高分子であることを特徴とする表示装置。」 [4-2]1頁右下欄3行〜2頁左上欄末行 「本発明は、それぞれ電極を有する第1基板と第2基板をスペーサを介して一定の間隔で対向させた表示装置に関する。このような構成をもつ表示装置としては、液晶・・・などの表示装置があるが、これらのものは一様に第1図(断面図)に示すような構造を採っている。図において、1は・・・第1基板(前面パネル)、2は・・・第2基板(背面パネル)、3は第1基板1に設けられた複数の電極、4は第2基板2に設けられた対向電極である。6は樹脂や低融点ガラスなどのシール材、7は一定の間隙を保持する為のギャップ材である。このような表示装置においては、選択された電極3と対向電極4との間に通電することにより、所定の位置に発光又は着色を生じて、表示を得るようになっている。従来パネルの間隙を一定にするために、球状、又はロッドファイバー状のガラス繊維、プラスチックのギャップ材をまく方法が一般に採られてきたが、この方法はガラス繊維、プラスチックを均一にまくことが困難であった。また第2図の如く対向基板に凹型に加工した基板8を用い、第1基板と圧着したまま、接着剤9を挟み込ませる方法もとられてきたが、この方法は所定の間隙を得ることは不可能だが、接着剤がパルスの内側まで入りすぎたり、逆に充分浸み込まずシール不良になつたりした。本発明は上記のような従来の欠点を除去するためになされたものであり、基板のシール部分に導電性薄膜によりパターンを形成させ、次に該導電性薄膜を電極として、高分子を電着することによつて、1μm以上の任意の厚さに制御でき、所定の位置に精度良く作られたシールを用いた表示装置を提供するものである。」 [4-3]4頁左上欄8行〜右上欄11行 「(実施例5) 第7図は、シール部分に電着した高分子を用いたXYマトリクスパネルであり、(a)方向からみた断面図を第7図(a)、(b)方向からみた断面図を第7図(b)に示す。第7図(a)で1は透明材料よりなる表示基板で、該表示基板上にスプレーコート法により酸化スズ透明導電膜が形成される。・・・表示電極3とシール部分には高分子電着用電極15を得る。実施例1と同様の電着浴にギャップ剤を混ぜたものに基板1を浸漬し、シール部分の電極15をアノードとして実施例1と同様、電着、水洗、乾燥を行い表示電極の外側に表示電極と平行になる様に高分子層16が得られた。第7図(b)で対向基板2も表示基板1と同様に・・・高分子層18が得られた。次に表示基板1と対向基板2を表示電極3と対向電極4が直角に交叉するように圧着し、熱硬化させた。」 刊行物5:特開昭62-129818号公報 [5-1] 6頁右下欄第2行〜7頁左上欄16行 「以下、本発明の実施例を図面を参照しながら詳細に説明する。第8図は、本発明の実施例を示す説明用断面図である。第8図に示す液晶表示装置においては、2枚の基板1および2が離間した状態で対向して配置され、基板1は、支持板11の内側の表面に電極層4および配向層6を形成して構成され、また基板2は支持板21の内側の表面に電極層5および配向層7を形成して構成されている。さらに両基板1および2の間の空間はシール部3によってシールされ、セルが構成されている。セルの内部には、スペーサ8が分布した状態で配置されるとともに液晶組成物が充填され、液晶層Cが形成されている。 ・・(中略)・・ 前記電極層4および5は、たとえば厚さ1.1mmの支持板11および21の表面に平行に離間して配置されたたとえば厚さ1000ÅのITO(スズとインジウムの酸化物)よりなる透明電極EおよびE'より構成され、一方の電極層4を構成する透明電極Eと他方の電極層5を構成する透明電極E'はそれぞれが相互に直角をなすよう配置され、これによって、たとえば0.3mm×0.3mmの画素からなるマトリックス形表示の電極構造が構成されている。」 [5-2]7頁右上欄下から2行〜同頁左下欄3行 「スペーサ8としては、グラスファイバー…を用いた。」 [5-3]第8図 第8図には、液晶表示装置において、シール部3に一部重なった電極層4がそのままシール部内側の表示領域に延長され表示のための電極層4となりさらに延長されて反対側でシール部3に一部重なった電極層4となっている点、及び該重なっている部分の対向する支持板21上でシール部に重なった電極層5が図示されて、液晶層C中及びシール部3内部にはスペーサ8が存在する点が図示されている。 以上の記載事項からみて、刊行物5には、「一方の電極層4を構成する透明電極Eと他方の電極層5を構成する透明電極E'が相互に直角をなすよう電極層を形成した2枚の支持板11、21を電極層が内側となるように対面させて所定間隔を隔てて対向配置し、両支持板の電極層が対面する空間にスペーサ8および液晶組成物を介装し、該電極層が対面する空間の外側の領域の周囲をシール部3で封止した液晶表示装置であって、シール部3内部にスペーサ8が設けられ、シール部3に一部重なった電極層4がそのままシール部内側の表示領域に延長され表示のための電極層4となりさらに延長されて反対側でシール部3に一部重なった電極層4となっている液晶表示装置。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 刊行物6:特開昭63-113420号公報 [6-1] 2頁右上欄20行〜左下欄18行 「第1図は、本発明の液晶表示素子の実施例を示す断面図であり、液晶セル10が上側偏光板41および下側偏光板43に挟まれて構成されている。 液晶セル10は、上基板11と下基板21との間に液晶31が封入されて形成されている。15、25は配向膜を33はギャップ材を、35はシール剤を示す。 さらに第2図および第3図に示すように、上基板11と下基板21とには、それぞれ透明導電膜からなるストライプ状の透明電極13、23が形成されており、透明電極13、23の対向部がドットマトリックスを構成する。第4図は、第2図および第3図の基板を対向配置させた状態を示した図であるが(基板は省略)、斜線で示した電極対向部が有効表示領域45を形成し、その外周部が非有効表示領域47である。 本発明では、このような非有効表示領域部47を形成する基板上にも透明電極13、23と同じ厚さの補正用電極14、24が設けられている。」 [6-2]第1図 第1図には、液晶表示素子において、シール部35に一部重なった補正用電極24がそのままシール部内側に延長され、液晶層と非有効表示領域で重なっている点が記載されており、該重なっている部分は、対向基板上に電極13がある点も記載されている。 [6-3]第2図および第3図 第2図および第3図には、それぞれ、基板11ないしは21が、透明電極13ないしは23および補正用電極14ないしは24をそれぞれストライプ状に有している点が記載されている。 [6-4]第4図 第4図には、第2図および第3図に記載された基板を対向させて重ねた場合において、電極13と23が対向した部分が有効表示領域45であり、それ以外の部分が非有効表示領域47である点が記載されている。 刊行物7:特開昭64-10216号公報 第1図、第2図(a)、(b)には、カラーフィルター側電極基板1と対向電極基板2との間に、パネル内スペーサ6を含むシール部5が設けられていることが図示されている。シール部5の構成として2頁右下欄15行〜18行には「ここでシール部5は普通エポキシ系樹脂が使用され」と記載され、1頁右下欄17行〜18行には「パネル内スペーサ6(普通径6μのガラスファイバーを使用)」と記載されている。 【4】対比・判断 訂正発明1 訂正発明1と引用発明(刊行物5)とを比較すると、引用発明における「シール部」は訂正発明1における「シール材」に相当し、引用発明における「スペーサ」は訂正発明1における「ギャップ材」に相当する。また、引用発明におけるシール部の内部に設けられた「スペーサ」も訂正発明1の「ガラスビーズ」もシール材中で基板の間隔を保つ部材である。 引用発明における「シール部3に一部重なった電極層4がそのままシール部内側の表示領域に延長され表示のための電極層4となりさらに延長されて反対側でシール部3に一部重なった電極層4」の電極層4の離間した個々の電極の両端でシール部3に一部重なった部分の少なくとも一方はリード電極として使用されることは明らかである。この点に関し、刊行物2の記載事項[2-2]を参酌するとより一層明らかである。また、引用発明における電極層5の離間した個々の電極のシール部3に一部重なった部分も同様である。そして、引用発明における「シール部3に一部重なった電極層4又は5」がシール部においてスペーサ8と支持板との間のスペーサーとなっていることは明らかである。 したがって、両者は、「電極を形成した2枚の基板を電極を対面させて所定間隔を隔てて対向配置し、両基板間の電極対面部間にギャップ材及び液晶を介装し、該電極対面部の外周部の表示領域以外の領域の周囲をシール材封止した構造の液晶素子であって、各基板の電極に連結して、基板上のシール材による封止部の下層を経て外部に延設されたリード電極が設けられ、該表示領域以外の領域で、該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設け、非表示領域のシール材内部にシール材中で基板の間隔を保つ部材を設けたことを特徴とする液晶素子。」の点で一致する。 そして、両者は、以下の点で相違する。 [相違1] 訂正発明1は、対面する基板のどちらか一方の基板上のみで且つ該リード電極が設けられていない領域において該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設けたのに対して、引用発明は対面する基板の双方の基板上において該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設けた点。(引用発明における、電極層4、5の個々の電極のシール部3に一部重なった部分の少なくとも一方はリード電極としても使用されること、及びリード電極として使用される部分もリード電極として使用されない部分も共に基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーの機能を有することが明らかである。) [相違2] 訂正発明1は、非表示領域のシール材外部にギャップ材を設けたのに対して、引用発明はシール材外部にギャップ材を設けているものの、ギャップ材を設けている領域が非表示領域を含むか否か不明である点。 [相違3] 訂正発明1は、シール材中で基板の間隔を保つ部材としてガラスビーズを用いているのに対して、引用発明は実施例においてはグラスファイバーを用いている点。 まず、 [相違2]について検討するに、刊行物2には、シール部(引用発明の「シール部」、訂正発明1の「シール材」に相当)外部に非表示領域が形成されている。したがって、引用発明においてもシール部の外部(基板の中心方向)に表示部と共に非表示部が実際には存在するものと考えられる。非表示領域が存在しないとしても刊行物2に示された如く非表示領域を設けることは当業者がふつうに試みる事項である。してみると、引用発明ではシール材の外部にギャップ材が設けられているから、シール材の外部に非表示領域を設けることにより非表示領域のシール材外部にもギャップ材を設けることとすることは当業者が容易に想到できた事項である。 次に、[相違3]について検討するに、シール材中で基板の間隔を保つ部材として、ガラス、シリカから成る球形の部材を設けることは例えば、特開平1-233423号公報、特開昭60-69633号公報、特開平1-234826号公報において周知である。よって、ガラスビーズを設けた点は何ら格別の事項ではない。 最後に、[相違1]について検討するに、刊行物2には、記載事項[2-3]第3頁右下欄末行-第4頁第6行に「第4図は、本発明の液晶表示素子の部分断面図を示している。第4図においては、非表示部の部分にも電極が形成されているため、第1の基板1と第2の基板2との基板間隙が、スペーサー材11A、11B、11Cにより表示部及び周辺部も含めて正確に保たれることとなる。第5図は、非表示領域に電極が形成されていない従来の液晶表示素子の部分断面図を示している。第5図においては、非表示部の部分には電極が形成されていないため、第1の基板1と第2の基板2との基板間隙が、スペーサー材11D、11E、11Fを配置しても、基板間隙の制御が不充分になりやすい。即ち、スペーサー材11Dの部分には電極があるのに対し、スペーサー材11Fの部分には電極が無いため、電極厚さの分だけ基板が反ることとなる。この際に、電極の端の部分のスペーサー材11Eは強い圧力がかかり、柔らかいスペーサー材の場合には、歪んで基板間隙が狭くなり、固いスペーサー材の場合には、電極や配向膜に食い込みそれらを傷付けたりする等のして基板間隙がバラつき、表示領域の端の部分や非表示領域において色ムラ発生し易くなる。さらに、表示領域の端の部分では基板間隙の差により駆動時のコントラストムラも生じ易くなる。」と記載され、この記載において、スペーサー材、非表示部分の電極は訂正発明1の「ギャップ材」、「基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサー」に相当するから、刊行物5,2に接した当業者にとって、引用発明の、基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーである電極層5,4の個々の電極のシール部3に重なった部分が基板間隙の制御を行っていることが明らかである。よって、対面する基板のどちらか一方の基板上のみで且つリード電極が設けられていない領域において該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設けた場合に、対面する基板でリード電極が設けられていない領域において該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設けた場合よりも基板間隙の制御が劣ることが明らかである。しかし、訂正発明1では、あえて、引用発明よりも基板間隙の制御が劣ることが明らかな構成を採用したにもかかわらず、実用上問題がないことを見出したものである。この点は刊行物、1、3、4、6、7に、記載も示唆もされていない。 そして、この点により、訂正発明1の[相違1]の構成から明らかな、特許第2767145号特許の訂正の審判における意見書で主張する、誘導電気容量の抑制、製造コストにおける効果を奏するものと認められる。 したがって、引用発明の対面する基板のどちらか一方の基板上のみで且つ該リード電極が設けられていない領域において該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設けることは、刊行物1〜7に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に想到できた事項とすることはできない。 よって、訂正発明1は、刊行物1〜7に記載された発明であるとも、また、刊行物1〜7に記載された発明及び周知事項に基づき当業者が容易に発明できたものとも認めることはできない。 訂正発明2〜6 訂正発明2〜6は、訂正発明1の構成を前提とし、さらに新たな構成を付加したものである。 よって、訂正発明2〜6と引用発明とを比較すると、前記[相違点1]が存在するから、訂正発明1の[相違点1]についての判断の理由により、訂正発明2〜6は、刊行物1〜7に記載された発明であるとも、また、刊行物1〜7に記載された発明及び周知事項に基づき当業者が容易に発明できたものとも認めることはできない。 【5】むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法によっては、本件の請求項1〜6に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件の請求項1〜6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-10-06 |
出願番号 | 特願平1-301948 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(G02F)
P 1 651・ 121- Y (G02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 瀧本 十良三、吉野 公夫 |
特許庁審判長 |
森 正幸 |
特許庁審判官 |
北川 清伸 伊藤 昌哉 |
登録日 | 1998-04-10 |
登録番号 | 特許第2767145号(P2767145) |
権利者 | キヤノン株式会社 |
発明の名称 | 液晶素子 |
代理人 | 元井 成幸 |
代理人 | 高橋 隆二 |
代理人 | 関口 鶴彦 |
代理人 | 伊東 辰雄 |
代理人 | 菅 直人 |
代理人 | 伊東 哲也 |