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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない H01L
審判 訂正 特39条先願 訂正しない H01L
管理番号 1052538
審判番号 訂正2000-39042  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-03-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2000-05-02 
確定日 2001-05-17 
事件の表示 特許第0320275号「半導体装置」に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第320275号発明(昭和46年12月21日特許出願、平成1年10月30日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
2.訂正事項
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の(a)項の「上記の複数の回路素子は、上記薄板の種々の区域に互に距離的に離間して形成されており、」という記載における「上記の複数の回路素子は」の後に、「複数の能動回路素子を含み」を挿入する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の(a)項の「上記の複数の回路素子は、上記薄板の種々の区域に互に距離的に離間して形成されており、」という記載における、「上記薄板の」の後に、「上記主要な表面上の」を挿入する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の(b)項における「上記の複数の回路素子は、」の後に、「上記主要な表面から行われる工程により形成された薄い領域であって」を挿入する。
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の(d)項における「電気的に接続され、」の後に、「この電気的接続は上記の回路接続用導電物質による上記の複数の能動回路素子相互間の電気的接続を含み、」を挿入する。
(5)訂正事項e
特許請求の範囲の(d)項における「上記電子回路を達成する為に」の後に、「上記複数の回路接続用導電物質による回路素子間の接続によって」を挿入する。
3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
訂正事項aは、本件訂正発明における「複数の回路素子」が「複数の能動回路素子」を含むことを限定条件として追記するものである。この訂正は、特許請求の範囲に記載された「複数の回路素子」の中に「複数の能動回路素子」が含まれることを明確に規定しようとするもので、特許請求の範囲に新たな限定を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮に当たる。また本件訂正明細書において、能動回路素子としてはトランジスタT1、T2が例示されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。
更に、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)訂正事項b
訂正事項bは、複数の回路素子が形成される薄板の「種々の区域」が半導体薄板の「主要な表面上」にある旨の記載を特許請求の範囲に追加するものである。本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載の「複数の回路素子」は、特許請求の範囲の(b)項における記載から明らかなように、「主要な表面に終る接合により画定されている薄い領域」を少なくとも一つ含むものである。
そして、訂正明細書及び図面に記載された実施例では、「トランジスタT1、T2及び抵抗蓄電器C1R8、C2R3」がこれらの回路素子に当たり、本訂正は、これらの回路素子が形成されており、互に距離的に離間して形成される半導体薄板の種々の区域が、該薄板の主要な表面上にあることを明確にするものであって、この訂正の内容は、本件の図面に記載されている。したがって、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、この訂正は、特許請求の範囲における(a)の記載がもともとこの意味であったものを、解釈上疑義が生じないように一層明確にする、明りょうでない記載の釈明に当たり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)訂正事項c
訂正事項cは、特許請求の範囲の(b)項における記載に関連して、複数の回路素子に含まれる「薄い領域」が、半導体薄板の「主要な表面」から行われる工程により形成されることを明確にするものである。また主要な表面から行われる工程により形成される点については、本件訂正明細書の第2頁11〜12行及び第6頁20〜22行における「マスキング、エツチング及び拡散の様な両立性ある工程が一主面から成し得る」旨の記載があるから、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。さらに、特許請求の範囲の(b)項は、(a)項の記載とともに、もともとこの一面加工性をもたらす構造上の特徴を記載したものであるが、解釈上の疑義を払拭するために、本訂正を行うものである。したがって、この訂正は、明りょうでない記載の釈明に当たり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)訂正事項d
訂正事項dは、訂正事項aで追加された構成要件である「複数の能動回路素子」に関連して、これら能動回路素子が、半導体薄板の主要な表面上に形成した不活性絶縁物質に被着された回路接続用導電物質により相互に電気的に接続されることを要件として追加するものである。したがって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮に当たり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。そして、能動回路素子であるトランジスタT1、T2間の接続は図面の第1図及び第2図に示されているから、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(5)訂正事項e
訂正事項eは、複数の能動回路素子相互間の電気的接続と他の回路素子間の電気的接続とを含む電気接続により、電子回路を達成するために必要な電気的接続がなされていることを、「複数の回路接続用導電物質による回路素子間の接続によって」と、確認的に記載するものであり、明りょうでない記載の釈明に当たる。そして、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
4.独立特許要件の判断
(1)訂正発明
訂正発明の要旨は、訂正明細書及び出願公告された図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「複数の回路素子を含み主要な表面及び裏面を有する単一の半導体薄板と;
上記回路素子のうち上記薄板の外部に接続が必要とされる回路素子に対し電気的に接続された複数の引出線と;
を有する電子回路用の半導体装置において、
(a)上記の複数の回路素子は複数の能動回路素子を含み、上記薄板の上記主要な表面上の種々の区域に互に距離的に離間して形成されており、
(b)上記の複数の回路素子は、上記主要な表面から行われる工程により形成された薄い領域であって上記薄板の上記主要な表面に終る接合により画定されている薄い領域をそれぞれ少くともひとつ含み;
(c)不活性絶縁物質とその上に被着された複数の回路接続用導電物質とが、上記薄い領域の形成されている上記主要な表面の上に形成されており;
(d)上記互に距離的に離間した複数の回路素子中の選ばれた薄い領域が、上記不活性絶縁物質上の複数の上記回路接続用導電物質によって電気的に接続され、この電気的接続は上記の回路接続用導電物質による上記の複数の能動回路素子相互間の電気的接続を含み、上記電子回路を達成する為に上記複数の回路接続用導電物質による回路素子間の接続によって上記複数の回路素子の間に必要なる電気回路接続がなされており;
(e)上記電子回路が、上記複数の回路素子及び上記不活性絶縁物質上の上記回路接続用導電物質によって本質的に平面状に配置されている;
ことを特徴とする半導体装置。」(以下「訂正発明」という。)
(2)原出願発明
原出願は、昭和54年10月11日付でなされた拒絶査定不服抗告審判事件の審決の確定により拒絶査定が確定している。
原出願発明の要旨は、昭和54年6月15日付手続補正書(以下「原出願手続補正書」という。)により補正された昭和53年2月24日付全文補正明細書(以下「原出願明細書」という。)及び昭和40年2月9日付訂正書差出書により補正された図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「1主面を有する単一の半導体薄板より成る半導体装置に於いて、
該薄板に形成され、上記1主面で終るP-n接合に依り画成された少く共1つの領域を含む少く共1つの受動回路素子、
該受動回路素子との間に必要な絶縁を与えるように、該受動回路素子から離間されて上記薄板に形成され、上記1主面で終るP-n接合に依り画成された少く共1つの領域を含む少く共1つの能動回路素子、
上記1主面を実質上全部被覆し接触部のみを露出するように上記領域の少く共2つに対応して設けられた孔を有するシリコンの酸化物より成る絶縁物質、
該絶縁物質に密接し上記少く共2つの領域間に延び上記孔を通して上記領域を電気的に接続する電気導体とを具備する事を特徴とする半導体装置。」(以下「原出願発明」という。)
(3)対比
本件訂正発明と原出願発明とを対比する。
原出願発明の半導体薄板の「1主面」は、本件訂正発明の半導体薄板の「主要な表面」に相当し、原出願発明における半導体薄板が1主面を有する以上、その反対側に裏面を有することは明らかである。
また、原出願発明は、受動回路素子及び能動回路素子をそれぞれ少くとも1つ有しており、複数の回路素子には受動回路素子と能動回路素子をそれぞれ少くとも1つ有する場合が含まれ、更に能動回路素子を少なくとも1つ有するのであるから、複数の能動回路素子を有する場合も含まれる。
よって、原出願発明は複数の回路素子を含み、しかも複数の能動回路素子を有しているといえる。
次に、原出願発明においては回路素子の形成区域については格別限定されていないのであるから、半導体薄板のいずれの区域に離間して形成されていてもよく、原出願発明においても複数の回路素子は、半導体薄板の主要な表面上の種々の区域に互に離間して形成されているということができる。
また原出願発明において、各回路素子は1主面で終わるP-n接合に依り画成された少く共1つの領域を含むものであり、原出願の明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載をみても、半導体薄板の裏面から該領域に対して何らかの工程が行われているとの記載も示唆もなく、むしろ原出願明細書の第4頁6〜8行には「この薄板はそれから約0.0178mmの深さで表面上にn型の層を生成するアンチモニー拡散工程を受ける。」と記載されているのであるから、該領域は主要な表面から行われる工程により形成されているといえる。
P-N接合は接合の一種であり、本件訂正明細書においては半導体薄板の主要な表面に終わる接合としてP-N接合が唯一記載されているのみであるから、原出願発明の「P-n接合」は本件訂正発明の「接合」に相当する。
そして、原出願の明細書及び本件訂正明細書において不活性絶縁物質としてシリコンの酸化物よりなる絶縁物質が唯一あげられていることからみて、原出願発明における「シリコンの酸化物よりなる絶縁物質」は本件訂正発明における「不活性絶縁物質」に相当する。原出願発明の「電気導体」は本件訂正発明の「回路接続用導電物質」に相当し、また本件訂正発明においても回路素子中の選ばれた領域間を不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質によって電気的に接続するためには上記不活性絶縁物質の必要な箇所に孔を有していなければならないことは明らかである。また、原出願発明においては少くとも2つの領域間を電気導体により電気的に接続するものであるが、この場合全ての領域が互に接続されるわけではなく、接続する必要のある回路素子中の領域すなわち選ばれた領域が互に電気的に接続されることは自明である。
更に、原出願発明における「密接」なる用語について検討すると、原出願の明細書には「それから金の様な導電物質81、82、83が絶縁物質80の上に被着され、接触部夫々から必要なる電気回路接続を行なう。」(原出願明細書第6頁7〜9行)、「この電気接続をなす導電物質は上記1主面をほゞ全面的に覆う絶縁物質の上に被着されている」(原出願手続補正書第6頁5〜7行)及び「導電物質が絶縁被膜に密接して延び絶縁被膜の孔を通して電気的に接続する」(原出願手続補正書第6頁9〜10行)と記載されている。導電物質と絶縁物質との関係についてこれらの記載の意味するところに差異はないから、原出願の明細書においては「密接」と「被着」とを同等のことを表す用語として使用している。そして、本件訂正発明の「被着」が上述の「被着」と異なる意味であるとする特段の理由もないから、原出願発明の「密接」は本件訂正発明の「被着」に相当する。
したがって、両者は、本件訂正発明の表現にしたがえば、「複数の回路素子を含み主要な表面及び裏面を有する単一の半導体薄板を有する半導体装置において、上記の複数の回路素子は複数の能動回路素子を含み、上記薄板の主要な表面上の種々の区域に互に離間して形成されており、上記の複数の回路素子は、上記主要な表面から行われる工程により形成された領域であって、上記薄板の主要な表面に終る接合により画定されている領域をそれぞれ少くともひとつ含み、不活性絶縁物質とその上に被着された回路接続用導電物質とが、上記領域の形成されている上記主要な表面の上に形成されており、上記互に離間した複数の回路素子中の選ばれた領域が、上記不活性絶縁物質上の上記回路接続用導電物質によって電気的に接続されている半導体装置」の点で一致し、以下の点で一応相違するものと認められる。
本件訂正発明は、電子回路用の半導体装置に係るものであり、電子回路を達成するために(複数の)回路接続用導電物質による回路素子間の接続によって上記複数の回路素子の間に必要な電気回路接続がなされているのに対して、原出願発明は、受動回路素子と能動回路素子との電気的接続態様に係るものであり、電子回路を達成するために(複数の)回路接続用導電物質による回路素子間の接続によって複数の回路素子の間に必要な電気回路接続がなされているか否か不明である点。(相違点1)
本件訂正発明は、回路素子のうち半導体薄板の外部に接続が必要とされる回路素子に対し電気的に接続された複数の引出線を有しているのに対して、原出願発明は、そのような引出線を有しているか否か不明である点。(相違点2)
本件訂正発明は、複数の回路素子が互に距離的に離間して形成されているのに対して、原出願発明は、受動回路素子と能動回路素子との間に必要な絶縁を与えるために受動回路素子と能動回路素子とは互に離間して形成されている点。(相違点3)
半導体薄板の主要な表面に終る接合により画定されている領域は、本件訂正発明においては薄い領域であるのに対して、原出願発明においては薄い領域であるか否か不明である点。(相違点4)
本件訂正発明においては、回路接続用導電物質が、複数個存在し、この回路接続用導電物質による複数の能動回路素子相互間の電気的接続を含むのに対して、原出願発明においては回路接続用導電物質が複数個存在するか否か及びこの回路接続用導電物質により複数の能動回路素子相互間の電気的接続を含むか否か不明である点。(相違点5)
本件訂正発明は、電子回路が複数の回路素子及び複数の回路接続用導電物質によって本質的に平面状に配置されているのに対して、原出願発明は、そのような要件を備えているか否か不明である点。(相違点6)
(4)両発明の同一性についての当審の判断
<相違点1について>
原出願発明の半導体装置においては少くとも1つの受動回路素子と少くとも1つの能動回路素子とのそれぞれのP-N接合で画成された領域間は電気導体により電気的に接続されているのである。すなわち、少くとも1つの受動回路素子と少くとも1つの能動回路素子とは電気導体により電気的に接続されているのである。また、受動回路素子と能動回路素子とがともに所定の機能を有しているのであるから、それらを電気的に接続すれば所定の動作をすることは明らかである。そして、電子回路とは、二つ以上の回路素子を電気的に結合し、電子を利用して所定の動作をするものをいうのであるから、原出願発明もまた電子回路用の半導体装置に係るものである。
原出願発明においても、本審決書の第6頁第9〜13行で述べたとおり、複数の回路素子中の選ばれた領域が互いに回路接続用導電物質によって、電気的に接続されているのであり、二つ以上の回路素子を電気的に結合すれば電子回路が得られるのであるから、原出願発明も電子回路を達成するために(複数の)回路接続用導電物質による回路素子間の接続によって複数の回路素子の間に必要な電気回路接続がなされていることは明らかである。
したがって、この相違点は実質的な相違点ではない。
<相違点2について>
原出願発明の半導体装置もまた回路素子である受動回路素子及び能動回路素子を有しており、半導体装置においては通常外部と接続する必要のある回路素子に対しては外部と結ぶための手段すなわち引出線が設けられていなければならないことはいうまでもないことである。
よって、特許請求の範囲に明記はないが、原出願発明の半導体装置もまた外部と接続する必要のある複数の回路素子と外部を結ぶための複数の引出線を有していることは明らかである。
したがって、両者に実質的な差異はない。
<相違点3について>
本件訂正発明における「複数の回路素子間の距離的離間」の意味するところについては本件訂正明細書に特段の記載はないが、「距離的離間」とは複数の回路素子が物理的に離れて形成されていることを意味するものと認められる。したがって、「複数の回路素子間の距離的離間」には複数の回路素子間をバルク抵抗等を介して物理的に離す場合が含まれるが、複数の回路素子が相互に電気的に干渉することによって回路素子の機能を失わないようにするための絶縁を与えるために、複数の回路素子が物理的に離れて形成される場合を排除するものではない。よって、能動回路素子と受動回路素子とが相互に電気的に干渉することによって回路素子の機能を失わないようにするための絶縁を与えるために、能動回路素子と受動回路素子とが物理的に離れて形成されることも本件訂正発明の「複数の回路素子間の距離的離間」に含まれる。
一方、原出願発明における「能動回路素子は、受動回路素子との間に必要な絶縁を与えるように、受動回路素子から離間して形成されている」とは、「能動回路素子と受動回路素子との間はそれぞれの機能が互いに影響されない様離間され必要な絶縁がなされている」(原出願手続補正書第6頁1〜3行)との記載によれば、「能動回路素子と受動回路素子とが相互に電気的に干渉することによって回路素子の機能を失わないようにするための絶縁を与えるために、物理的に離れて形成されている」と解することができる。
なお、上記のように解することは原出願の審決取消請求事件(昭和55年(行ケ)第54号)の判決における、「必要な絶縁」とは、不要な電気的結合によってそれぞれの素子の機能が互いに影響を受けないようにするための必要な絶縁の意味(昭和55年(行ケ)第54号の判決書第39頁第1〜12行)である旨の認定とも矛盾するものではない。
したがって、この相違点は実質的な相違点ではない。
<相違点4について>
本件訂正明細書には領域を薄くしたことについての格別の記載はなく、「この薄板は、それから表面上に深さ約0.0178mmのn型の層を生成するアンチモニー拡散工程を受ける。この薄板は、それから5.08×2.03mmの適当な大きさにカットされ、磨かれていない表面は薄板に0.0635mmの厚さを与えるようにラップ加工される。」(訂正明細書第3頁21〜26行)と、本件訂正発明の「薄い領域」が大きさ5.08×2.03mmで厚さ0.0635mmの薄板に対して「深さ約0.0178mmのn型の層」からなるものである旨記載されているのみである。
一方、原出願の明細書にはP-N接合で画成された領域が薄い領域であるとの明記はないが、原出願の明細書には「この薄板はそれから約0.0178mmの深さで表面上にn型の層を生成するアンチモニー拡散工程を受ける。この薄板はそれから5.08×2.03mmの適当な大きさに切られ磨かれなかった方の片面はラップ加工され0.0635mmの厚さの薄板にされる。」(原出願明細書第4頁6〜11行)旨及び原出願発明における「領域」が大きさ5.08×2.03mmで厚さ0.0635mmの薄板に対して「約0.0178mmの深さで表面上に形成されたn型の層」からなるものである旨が記載されているのみであるから、原出願発明における「領域」が本件訂正発明の「薄い領域」と同様大きさ5.08×2.03mmで厚さ0.0635mmの薄板に対して「深さ約0.0178mmのn型の層」からなるものである。
そうである以上、原出願発明における「領域」も本件訂正発明と同様に「薄い領域」であるといわざるを得ない。
したがって、両者に実質的な差異はない。
<相違点5について>
(3)対比の項の一致点のところで述べたように、原出願発明も能動回路素子を複数個含み、原出願の明細書に記載された実施例においても2個の能動回路素子相互間が電気的に接続されているのであるから、原出願発明においても複数個の能動回路素子相互間が電気導体即ち回路接続用導電物質により電気的に接続されていることは明らかである。
また、原出願発明においても受動回路素子を少なくとも1個と複数個の能動回路素子を有しているのであるから、少なくとも3個の回路素子が含まれることになる。そして少なくとも3個の回路素子を接続するには、2個以上の回路接続用導電物質が必要なことはいうまでもないことである。
そうすると、少なくとも3個の回路素子の選ばれた領域間を電気的に接続する電気導体即ち回路接続用導電物質は、複数個存在することになる。
なお、本件訂正発明においては回路接続用導電物質を複数個とし、この回路接続用導電物質により複数の能動回路素子相互間の電気的接続を含む旨限定しているが、本件訂正明細書には回路接続用導電物質を複数個としたこと及びこの回路接続用導電物質により複数の能動回路素子相互間の電気的接続を含むことについての説明は何らなされていない。
してみると、本件訂正発明において回路接続用導電物質を複数個と限定したこと及びこの回路接続用導電物質による複数の能動回路素子相互間の電気的接続を含むことに格別の技術的意義はなく、単なる設計的事項にすぎない。
したがって、両者に実質的な差異はない。
<相違点6について>
本件訂正発明における要件(e)は(a)〜(d)の要件からなる電子回路全体の配置を規定するものであると解されるところ、本件訂正明細書における「まづ、適当な比抵抗の半導体薄板(なるべくはシリコン或いはゲルマニウムが望ましい)が一面においてラップ加工され磨かれる。この設計のために3オーム・センチメートルのP型ゲルマニウムが用いられた。この薄板は、それから表面上に深さ約0.0178mmのn型の層を生成するアンチモニー拡散工程を受ける。この薄板はそれから5.08×2.03mmの適当な大きさにカットされ、磨かれていない表面は薄板に0.0635mmの厚さを与えるようにラップ加工される。」(訂正明細書第3頁17〜26行)及び「この段階の次に光抵抗は溶剤で取り除かれ、メサ領域60は同じ写真工程によりマスクされる。この薄板は再びエッチング液に浸され、n層は露出された領域に於いて完全に取り除かれる。」(訂正明細書第4頁26〜29行)との記載を考慮すれば、本件訂正明細書における電子回路の平面状配置に関する記載である「本発明に依れば電子回路の能動及び受動成分或いは回路素子は半導体の薄板の一面或いはその近くに形成される。
その結果、得られる回路は本質的に平面状に配置されることになる。」(訂正明細書第2頁3〜7行)とは次のように解される。
回路素子は半導体の薄板の一主面に形成されるが、回路素子のメサ領域の部分は薄い領域であって、半導体薄板の一主面よりわずかに出ているが、半導体薄板の一主面の大きさとの関係を考慮すれば概ね半導体薄板の一主面に形成されているということができ、厳密にいえば一主面の近くに形成されているといえる。その結果として、半導体薄板上に形成される回路は、回路素子のメサ領域の部分によりその平坦さを失わない程度のわずかな凹凸が出来るため必ずしも絶対的に平坦な面とはならないが、これらの凹凸によっても本質的な平坦性を失わないから、得られる回路は複数の回路素子によって本質的に平坦に配置されることを意味するものと解するのが相当である。
「回路が本質的に平面状に配置される」をこのように解しても、本件訂正明細書の他の記載と矛盾することはない。
なお、「広辞苑」(第四版第2302頁 1991年11月15日岩波書店発行)によれば、「平面」とは「平らな面」とされていることからみても、「回路が本質的に平面状に配置される」を「回路が本質的に平坦に配置される」と解することになんらの問題もない。
また、本件訂正発明の唯一の実施例についての記載である「本発明の実施例によれば酸化シリコンの如き絶縁不活性物質が電気接続が行なわれる点を除いて完全に薄板を被覆するか或いは電気的に接続されるべき点に接合する選ばれた部分のみを被覆するかするためにマスクを通して半導体回路薄板に蒸着される。金の様な導電物質はそれから必要なる電気回路接続を行なうために絶縁物質に被着される。」(訂正明細書第5頁6〜13行)との記載によれば導電物質は半導体薄板を蒸着により被覆する不活性絶縁物質上に被着されているのであるから、導電物質が半導体薄板の一主面から離れて形成されている場合(例えば、本件特許図面における本件訂正発明による一体化回路を説明する図である第1図に示されるように金の線70によって回路素子間を接続する場合)に比べて、不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質は平坦であることは明らかである。よって、半導体薄板上に形成される回路は不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質によって平坦に配置されているといえる。
したがって、本件訂正発明における「電子回路が、複数の回路素子及び不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質によって本質的に平面状に配置されている」とは、電子回路が、半導体薄板の主要な面において、複数の回路素子及び主要な面上に形成された不活性絶縁物質上に被着された回路接続用導電物質によって本質的に平坦に配置されていると解するのが相当である。
一方、原出願発明においては特許請求の範囲に記載された要件をもって形成された電子回路全体の配置に関しては規定されていないが、原出願の明細書における「まづなるべくは適当な比抵抗のシリコン或いはゲルマニウムである半導体薄板の片面がラップ加工され磨かれる。この例では3オーム・センチメートルのP型ゲルマニウムが用いられた。この薄板はそれから約0.0178mmの深さで表面上にn型の層を生成するアンチモニー拡散工程を受ける。この薄板はそれから5.08×2.03mmの適当な大きさに切られ磨かれなかった方の片面はラップ加工され0.0635mmの厚さの薄板にされる。」(原出願明細書第4頁第2〜11行)及び「この工程の次にフォトレジストは溶剤で取り除かれメサ領域60が同じ写真工程によりマスクされる。この薄板は再びエッチング溶液に浸されn層は露出された領域が完全に取り除かれる。」(原出願明細書第5頁第17〜20行)との記載によれば、原出願発明においても回路素子のメサ領域の部分は薄い領域であって、半導体薄板の一主面よりわずかに出ているが、半導体薄板の一主面の大きさとの関係を考慮すれば概ね半導体薄板の一主面に形成されているということができ、厳密にいえば一主面の近くに形成されているといえる。以上の結果、半導体薄板上に形成される回路は、回路素子のメサ領域の部分によりその平坦性を失わない程度のわずかな凹凸が出来るため必ずしも絶対的に平坦な面とはならないが、これらの凹凸によっても本質的な平坦性を失わないから、得られる電子回路は複数の回路素子によって本質的に平坦に配置されることは明らかである。
また、原出願発明の唯一の実施例についての記載である「酸化シリコンより成る絶縁及び不活性の物質80がトランジスタ(T1)(T2)のベース及びエミッタ領域上及び蓄電器接触体51、52上の電気接続が行なわれる点を除いて完全に薄板を被覆する様にマスクを通して半導体回路薄板に蒸着される。
それから金の様な導電物質81、82、83が絶縁物質80の上に被着され、接触部夫々から必要なる電気回路接続を行なう。」(原出願明細書第6頁第1〜9行)及び「この電気接続をなす導電物質は上記1主面をほゞ全面的に覆う絶縁物質の上に被着されているので・・・又、導電物質が絶縁膜に密接して延び」(原出願手続補正書第6頁5〜9行)との記載並びにその特許請求範囲の記載によれば導電物質は半導体薄板を被覆するように蒸着された不活性絶縁物質上に被着されているのであるから、導電物質が半導体薄板の一主面から離れて形成されている場合(例えば、本件特許図面における本件訂正発明による一体化回路を説明する図である第1図に示されるように金の線70によって回路素子間を接続する場合)に比べて、不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質が平坦であることは明らかである。よって、半導体薄板上に形成される回路は不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質によって平坦に配置されているといえる。
そして、原出願の明細書における原出願発明の唯一の実施例は、本件訂正明細書における本件訂正発明の唯一の実施例と同一である以上、原出願発明の電子回路は不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質によって本質的に平坦に配置されていると解するのが相当である。
してみると、原出願発明の電子回路も、半導体薄板の主要な面において、複数の回路素子(能動回路素子及び受動回路素子)及び不活性絶縁物質上の回路接続用導電物質によって本質的に平面状すなわち平坦に配置されているものである。
したがって、この相違点は実質的な相違点ではない。
以上のとおり、上記各相違点は実質的な相違点ではないから、本件訂正発明と原出願発明とは実質的に同一である。
(5)本件訂正発明の出願日について
a分割出願の取扱いについて
特許庁における現行の特許・実用新案「審査基準」によれば、分割出願の取扱いについて、もとの出願の出願日が平成6年1月1日以降のもの以外は、旧審査基準「出願の分割(改訂)」(昭和58年5月)が、適用される。
更に、もとの出願の出願日が昭和63年1月1日よりも前のものには、上記旧審査基準「出願の分割(改訂)」(昭和58年5月)が、厳格に適用される。
同旧審査基準によれば、「分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明とは同一であってはならない。この場合における発明の同一性に関する判断は、特許法第39条(先後願)における発明の同一性の審査基準に従って行う。」とし、両発明が同一であるかどうかは発明の同一性に関する審査基準(昭和53年4月改訂)によるとしている。
そして本審決書の(4)両発明の同一性についての当審の判断は、上記旧審査基準「出願の分割(改訂)」(昭和58年5月)・発明の同一性に関する審査基準(昭和53年4月改訂)に従って判断した。
ここで上記現行の特許・実用新案「審査基準」は、もとの出願の出願日が平成6年1月1日以降のものについては、分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明とが同一である場合の取扱いについて、「分割出願が適法であり、分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明とが同一である場合には、特許法第39条第2項の規定が適用される。」としている。
出願日が平成6年1月1日前後で分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明とが同一である場合の取扱いについて差異があるのは、特許法の改正(平成5年4月23日法律26号)により、出願日が平成6年1月1日以降のものについては、新規事項を追加する補正が禁止されたこと、最後の拒絶理由通知に対する補正の制限、最後の拒絶理由通知に対する補正が所定要件に反する場合には却下することとされたこと等による見直しによるものであって、このような事情の無い、もとの出願の出願日が平成6年1月1日以降のもの以外については、旧審査基準「出願の分割(改訂)」(昭和58年5月)を適用するとする従来の運用を見直したわけではない。
b本件訂正発明の出願日
そして本件特許出願は、もとの出願の出願日が平成6年1月1日以降のもの以外に当たり、しかも上記旧審査基準「出願の分割(改訂)」(昭和58年5月)に照らして、本件訂正発明と原出願発明とは実質的に同一であることから、適法な分割出願には当たらず、分割出願に係る旧特許法(大正10年法律第96号)第9条第1項の規定の適用を受けることができない。
よって、本件特許出願の出願日の遡及は認められず、本件訂正発明の出願日は現実の出願日である昭和46年12月21日となる。
(6)むすび
したがって、本件特許出願は、特許法(昭和34年法律第121号)の適用を受けることになるが、訂正後の特許請求の範囲に記載の発明は、原出願の発明と実質的に同一であるから、同法第39条第1項の規定に違反するものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明である。
なお、分割出願の取扱いについて、請求人の主張するように、訂正発明の出願日が遡及し、旧特許法(大正10年法律第96号)第8条が適用されるとしても、原出願発明と訂正発明とは実質的に同一の発明であり、しかも原出願発明の出願は拒絶査定が確定しているのであるから、旧特許法第8条の「同日ノ各別ノ出願者アルトキハ出願者ノ協議調ハサルトキ」に該当し特許を受けることができない発明であることに変わりはない。
以上のとおり、本件審判の請求は、特許法第126条第4項の規定に適合しない。
 
審理終結日 2000-11-28 
結審通知日 2000-12-08 
審決日 2000-12-20 
出願番号 特願昭46-103280
審決分類 P 1 41・ 4- Z (H01L)
P 1 41・ 856- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小栗 昌平真鍋 潔  
特許庁審判長 今野 朗
特許庁審判官 内野 春喜
岡 和久
登録日 1989-10-30 
登録番号 特許第320275号(P320275)
発明の名称 半導体装置  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  
代理人 吉田 和彦  
代理人 竹内 英人  
代理人 弟子丸 健  
代理人 中村 稔  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 辻居 幸一  

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