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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する A61K
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する A61K
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する A61K
管理番号 1054224
審判番号 訂正2001-39124  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-04-05 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-08-03 
確定日 2001-10-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2139734号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2139734号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 I.審判請求の趣旨
本件審判請求の趣旨は、特許第2139734号(平成1年7月4日特許出願、平成11年1月8日設定登録)の願書に添付した明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、下記(1)および(2)のとおり訂正することを求めるものである。

(1)願書に添付した明細書(平成10年4月30日付けの手続補正書に添付した全文訂正明細書。以下特許明細書という)の特許請求の範囲、
「1 分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれたポリエチレングリコールの1種もしくは2種以上の混合物を、ゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、そのポリエチレングリコールの含有量がゼラチンに対して下記のいずれかであることを特徴とする水感応性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
イ.ポリエチレングリコールの分子量が1000〜1540である場合:1〜50重量%。
ロ.ポリエチレングリコールの分子量が4000である場合:0.5〜15重量%。
ハ.ポリエチレングリコールの分子量が6000である場合:0.5〜10重量%。
ニ.ポリエチレングリコールの分子量が20000である場合:0.1〜5重量%。
2 ポリエチレングリコールの含有量がゼラチンに対して下記の通りである請求項1記載の非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
イ.ポリエチレングリコールの分子量が1000〜1540である場合:10〜50重量%。
ロ.ポリエチレングリコールの分子量が4000である場合:3〜15重量%。
ハ.ポリエチレングリコールの分子量が6000である場合:3〜10重量%。
ニ.ポリエチレングリコールの分子量が20000である場合:0.3〜5重量%。」
を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「1 ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチン力プセルであって、前記ポリエチレングリコールとして分子量1000のポリエチレングリコールのみを用い、かつその含有量がゼラチンに対して10〜50重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。」
と訂正する。

(2)上記特許請求の範囲の訂正に伴い、「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、下記の通り訂正する。
(i)特許明細書の第1頁最終行の「水感応性物質」を「吸水性又は吸湿性物質」と訂正する。
(ii)同第3頁第15〜17行目に「水感応性物質、すなわち、吸水(湿)性があるか、また水に対して反応性もしくは分解性があるか、更には水放出性を有するような物質を充填したときには、」とあるのを、「吸水(湿)性を有する薬剤を充填したときには、」と訂正する。
(iii)同第3頁第21〜22行目の「その他水感応性物質」を「吸水(湿)性物質」と訂正する。
(iv)同第3頁第23行目〜第4頁第16行目に「本発明者等は上記課題解決のための具体的手段について鋭意検討した結果、非フォーム状ハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜として、分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれたポリエチレングリコールの1種又は2種以上を含有させることにより、その皮膜中の含有水分量が少なくても充分な機械的強度を備えた非フォーム状ハードゼラチンカプセルが得られ、このものが吸湿性、水反応性等のいわゆる水感応性物質の充填にも充分に適合し、上述の従来公知のハードゼラチンカプセルにおける難点、不都合を解消し得るものであることが分かった。すなわち、本発明によれば分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれたポリエチレングリコールの1種もしくは2種以上の混合物をゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、そのポリエチレングリコールの含有量がゼラチンに対して、
イ.ポリエチレングリコールの分子量が1000〜1540である場合:1〜50重量%、
ロ.ポリエチレングリコールの分子量が4000である場合:0.5〜15重量%、
ハ.ポリエチレングリコールの分子量が6000である場合:0.5〜10重量%、又は
ニ.ポリエチレングリコールの分子量が20000である場合:0.1〜5重量%、
のいずれかであることを特徴とする水感応性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセルが提供される。」
とあるのを、
「本発明者等は上記課題解決のための具体的手段について鋭意検討した結果、非フォーム状ハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜として、分子量1000のポリエチレングリコールを適量含有させることにより、その皮膜中の含有水分量が少なくても充分な機械的強度を備えた非フォーム状ハードゼラチンカプセルが得られ、このものが吸水性、吸湿性を有する物質の充填にも充分に適合し、上述の従来公知のハードゼラチンカプセルにおける難点、不都合を解消し得るものであることが分かった。すなわち、本発明によれば、ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチン力プセルであって、前記ポリエチレングリコールとして分子量1000のポリエチレングリコールのみを用い、かつその含有量がゼラチンに対して10〜50重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセルが提供される。」
と訂正する。
(v)同第4頁第21〜22行目の「吸湿性賦形剤や中鎖脂肪酸トリグリセライド等水感応性物質」を「吸水性、吸湿性物質」と訂正する。
(vi)同第4頁28行目〜第5頁第8行目に
「本発明において使用されるポリエチレングリコールは分子量1000〜20000、特に分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれた1種もしくは2種以上の混合物である。このポリエチレングリコールの添加量は、使用される該ポリエチレングリコールの分子量によって下記のとおり若干異なる。すなわち、組成物中のゼラチンに対して、
イ.分子量が1000〜1540である場合:1〜50重量%
ロ.分子量が4000である場合:0.5〜15重量%
ハ.分子量が6000である場合:0.5〜10重量%
ニ.分子量が20000である場合:0.1〜5重量%
の範囲が好適である。」
とあるのを
「本発明において使用されるポリエチレングリコールは分子量1000のポリエチレングリコールである。このポリエチレングリコールの添加量は、10〜50重量%である。」
と訂正する。
(vii)同第5頁第9行目〜第10行目の「上記のとおり一般に使用されるポリエチレングリコールの分子量が大きくなるほど、その添加量は少なくてよい。それぞれ」を削除する。
(viii)同第5頁第16行目〜第22行目の「なお、分子量が異なる2種以上のポリエチレングリコールを混合して併用する場合には、その混合比率にもよるがそれそれ単独使用の場合の各種最適使用量より若干少なくてよい。
本発明において、水感応性物質とは、例えば分子量200〜600のポリエチレングリコールのような吸湿性あるいは吸水性のある物質、水放出性を有する物質、また中鎖脂肪酸トリグリセライド等におけるゼラチン皮膜の脆化を誘発する物質、その他水に対して反応性又は分解性等を持った物質をいう。」
を削除する。
(ix)同第6頁第1行目の「ジェリーA〜F」を「ジェリーA」と訂正する。
(x)同第7頁の第1表(1)中の「ジェリーB#1500」及び「ジェリーC#1540」の欄、同第8頁の第1表(2)中の「ジェリーD#4000」、「ジェリーE#6000」及び「ジェリーF#20000」の欄を削除して、第1表を「ジェリーA#1000」の欄のもののみとする(表の記載省略)。
(xi)同第8頁下から第7行目〜下から第6行目の「分子量1000〜20000のポリエチレングリコールをそれぞれ」を「分子量1000のポリエチレングリコールを」と訂正する。
(xii)同第8頁下から第4行目〜第9頁第10行目の
「(4)溶状試験
前記ジェリーDによる・・・(略)・・・遅延は認められない。」を削除する。
(xiii)同第9頁下から第4行目〜最終行に
「低分子ポリエチレングリコールや、あるいはゼラチン皮膜を脆化させる中鎖脂肪酸トリグリセライド等の水感応性物質を充填した場合において顕著となり、水感応性物質を充填するのにきわめて好適な非フォーム状ハードゼラチンカプセルを提供し得るなど、その実用的効果は顕著かつ多大である。」
とあるのを
「低分子ポリエチレングリコールなどの吸水性,吸湿性物質を充頃するのにきわめて好適な非フォーム状ハートゼラチンカプセルを提供し得るなど、その実用的効果は顕著かつ多大である。」と訂正する。

II.当審の判断
上記訂正事項について検討する。

II-1 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)は、請求項2を削除し、請求項1については、ゼラチンに配合されるポリエチレングリコールを「分子量1000のポリエチレングリコールのみ」に限定すると共に、その配合量範囲をより狭い範囲のものとし、また請求項1に「水感応性物質」とあったものを水感応性物質として例示されている「吸水性又は吸湿性物質」に限定したものであるから、この訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、配合量の範囲は、特許明細書特許請求の範囲の請求項2の記載及び表1に示された「カプセルの割れ試験」において分子量1000の実施例であるジェリーA(この点については下記II-2-1の(a)についての検討参照。)についての割れを全く生じないことが示されている下限値が10重量%であることから、又、吸水性又は吸湿性物質については、同第5頁第20行に水感応性物質の例として記載されていることから、上記訂正事項(1)は、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項(2)は、上記(1)で示す特許請求の範囲の訂正に伴い、「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載との整合を図るために訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明をするものである。
そして、上記訂正事項が特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは、上記(1)に係る訂正についての説示から明らかである。

II-2 独立特許要件について
II-2-1 本件特許を無効とすべき旨の審決で示された理由に係る検討
本件特許については、当該特許を無効とすることについて審判が請求され(平成11年審判第35221号、以下無効審判という)、その後、当該特許を無効にすべき旨の審決がされたが、当該審決に対する訴が提起され(事件番号:平成13年(行ケ)第202号)、現在継続中であるところ、当該審決において示された理由は、下記(a)及び(b)の点で本件明細書の記載には不備があり、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第3項及び4項の規定を満たしていない出願に対してなされた、というものである。

(a)・・・(略)・・・仮に、本件請求項1及び2の分子量は、日本薬局方等公定書に記載された測定法に準じて測定された平均分子量であると解し得たとしても、請求項1及び2に記載の分子量のうち、4000、6000及び1500のポリエチレングリコール(以下ポリエチレングリコールをPEGという)については、明細書の発明の詳細な説明において具体的に記載されておらず、本件請求項1及び2と本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載とは一致していないことになる。また、当然同実施例の各PEGは、請求項1の各分子量に係るPEGをそれぞれ代表するものであるとはいえないし、実施例のPEGは請求項1のPEGとすべて実質的に同一のものとはいえない。
したがって、以上の点からみると、本件請求項1及び2の記載には不備があるとせざるを得ない。また、さらにいえば、本件請求項1及び2の発明は、発明の詳細な説明において具体的に記載されてはいないことになる。
(b)・・・(略)・・・「水感応性物質」の定義においては、水充填放出性物質を含む。そして、この水放出性物質をカプセルに充填した場合水をカプセル皮膜に与えることになるから、カプセル皮膜は低水分状態にはならないのであり、この場合においては発明の目的はどのようなものになるかあるいはどのような効果が得られるのか不明である。また、水放出性物質及び同定義中に含まれる水に対して反応性又は分解性を有する物質が具体的にどのようなものかも本件明細書には記載されていない。
したがって、これらの点からみれば、本件明細書における「水感応性物質」についての記載は不明瞭であるとせざるを得ない。

(a)の点について検討する。
本件訂正明細書の請求項1には、「分子量」がどのようなものか規定されていないが、通常、高分子物質の場合、分子量というときは平均分子量をいい、又、特開昭59-89618号公報、特開昭63-238016号公報、特開昭63-183539号公報、特開昭63-198618号公報、特開昭63-146828号公報、特開昭63-130786号公報、特開平1-48854号公報(これらは、上記無効審判において、被請求人が提出した乙5〜11号証である。)から見て、PEGの分子量については単に「分子量1000」のように記載することもあり、さらに、本件訂正明細書の請求項1におけるPEGは医薬品用カプセルに用いられるものであるところ、日本薬局方においては各種分子量のPEG(日本薬局方においては、名称はマクロゴールとされている。)の平均分子量試験について記載され(財団法人 日本公定書協会監修「第十一改正 日本薬局方解説書」株式会社廣川書店発行、D-915〜D923における各平均分子量試験の項)この平均分子量の測定方法は当業者に広く知られたものであることを考慮すると、訂正明細書の請求項1でいう「分子量」は、日本薬局方等の公定書に記載された測定方法に準じて測定された平均分子量であると解される。
そして、上記(a)で指摘されている分子量が4000、6000及び1500のPEGについては、分子量が1540及び20000のものと共に、本件訂正により削除され、訂正明細書の請求項1に係る発明においてゼラチンに配合されるPEGは、分子量1000のもののみとなり、当該PEGに係る技術は、ジェリーA#1000に係る試験をもって明らかにされている(#はいわゆる番手といわれるものであり、当該PEGは、「財団法人 日本公定書協会編「化粧品原料基準第二版注解」薬事日報社発行(1984)」において、ポリエチレングリコール1000(分子量950〜1050)に相当(第946頁)、又は、「日本公定書協会編「第十改正日本薬局方解説書」株式会社 廣川書店発行(1986)」において、マクロゴール1000(D-918頁の表)に相当するものであり、特許請求の範囲でいう分子量1000のPEGの代表例であると認められる。)。
そうしてみると、本件訂正明細書には、上記(a)の点に係る不備はないといえる。

次に(b)の点について検討する。
上記訂正により、訂正明細書の請求項1に係る発明において充填されるものは「吸水性又は吸湿性物質」となり、上記(b)で指摘されている「水充填放出性物質」及び「水に対して反応性又は分解性を有する物質」は含まないことになった。
してみれば、本件訂正明細書には、上記(b)の点に係る不備はないこととなる。

II-2-2 上記II-2-1以外の点に係る検討
上記無効審判においては、当該審判請求人は、本件特許を無効とすることについての理由として、下記(イ)及び(ロ)の点についても述べている。

(イ)特許明細書の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証(以下、刊行物1〜3という)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ロ)本件特許に係る出願の審査において、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後にした特許請求の範囲に係る補正は、発明のカテゴリーを用途発明に変更し、事実上特許請求の範囲を変更する不適法(特許法第64条違反)なものであるから、特許法第42条の規定により、補正がされなかった特許出願について特許がされたものとみなされるから、新規性が認められない。

本件訂正明細書の請求項1に係る発明について、上記(イ)及び(ロ)の点検討する。
II-2-2-1 (イ)についての検討
II-2-2-1-1 刊行物1〜3に記載されている発明
刊行物1(Kolloidnij Jurnal/Tom XXXVII 9〜15頁,1975)には、種々の分子量、含有量のPEGを添加した場合の、ゼラチンフィルムの耐衝撃強度及び熱物理的性質に及ぼす影響について研究し、これらの性質が低分子量物質を添加したゼラチンフィルムの性質とは著しく異なっていること、これらの相違点は、ゼラチンとPEGからなるフィルムでは異相系を形成し、最適濃度における耐衝撃性の増大とゼラチンの温度遷移及び熱収縮に特異的変化をもたらすことによるものであることが記載されている。
つまり、刊行物1、特に図1には、ゼラチンにPEGを添加することにより、フィルムの機械的性質を改良することに関する基礎研究結果が示され、
(i)PEG配合によるゼラチンフィルムの機械的性質の改善のメカニズムは、異相系の形成によるものであること(第9頁アブストラクト第5〜8行)
(ii)PEGの配合による変性効果は、ゼラチン層の含水量が減少したときでも効果(衝撃強度)を示すこと(第9頁第16〜19行、第11頁第28〜30行)
(iii)PEG入りゼラチンフィルムの耐衝撃性は、図1から明らかなように、空気の相対湿度が通常(65%)の時でも、また低い(0%)時でも、2〜6倍上昇すること(第11頁第26〜28行)
(iv)PEG入りゼラチンフィルムの耐衝撃強度の変化に対するPEG濃度の依存性曲線は極大値を有していること(第11頁第41〜43行)
(v)PEGの分子量が大きくなるにともない、この極大値はPEG濃度が低い傾向にシフトすること(第11頁第43〜45行)
(vi)分子量3,000から40,000のPEGを含有するゼラチンフィルムの最大の耐衝撃強度は、PEGを系内に0.1〜5%(重量%と認められる。以下重量%と記載する。)含有する時に到達すること(第11頁第45〜47行)
(vii)ゼラチンフィルムの衝撃強度と分子量が300、3000、4500、15000及び40000の各PEGの濃度との関係を示す図1には、同300のものの耐衝撃強度は、湿度が65%のときは、濃度が約20重量%まで右肩上がりの直線を示し、そこで最大値に達し、それ以上では下降線を示し、湿度が0%のときのそれは、濃度約30重量%まで右肩上がりのほぼ直線を示している。
分子量3000のものの耐衝撃強度は、湿度が65%のときは、濃度約1重量%が最大値で、それ以上の濃度では下降線を示し、そして、データは約10重量%までであり、湿度0%のときは、濃度約5重量%が最大値で、それ以上では下降線を示し、そして、約10重量%までのデータが記載されている。分子量が4500以上のPEGについては濃度が約5重量%までのデータが開示されている。又、湿度0%のとき、分子量3000のPEGを5重量%配合したとき(最大値を示す)の耐衝撃強度は、同300のものを約30%配合したときに相当すること、1〜2重量%程度では同15000のものが、約2%〜10重量%では、同3000のものが最も優れていることが示されている。
なお、図1のPEG濃度が、系内の濃度をいうのか対ゼラチンに対する濃度をいうのか必ずしも明らかでないが、図1と同じくゼラチンフィルムの物性の測定に係る図2の横軸は濃度であるところ、PEGについては80%までの測定値があり、この80%を系内濃度であるとすると(残りを全部ゼラチンとしても、ゼラチンは20%)、これを対ゼラチン比に換算すると数百%もの量となり、ゼラチンフィルムの作成に際し、「PEG量は、空気乾燥ゼラチン重量の0.1〜60%の範囲内で変化させた。」(第11頁第5〜6行)と刊行物1に記載されていることと大きく矛盾する。従って、図2と同じくゼラチンフィルムの物性の測定に係る図1の横軸のPEG濃度も対ゼラチン比をいうものと考えるのが自然である。
刊行物2(Journal of Pharmaceutical Science Vol.74,No.4 469〜472,1985)は、「ゼラチンベースコアセルベーション系において水溶性非イオン系ポリマーの添加により引き起こされる相分離;分子量の影響」と題する論文に係るものであって、図2には、pHを縦軸、PEGの濃度を横軸として、ゼラチン-水系に種々の分子量のPEG(PEG1540、PEG4000等)を添加したときの相分離、コアセルベーションの形成の有無が表されている。 図3には、PEGの濃度を縦軸、PEGの分子量を横軸とし、ゼラチン(2.2重量%)-水系(pH8.7)で相分離を起こすPEGの分子量に対する最小濃度の相関について示されている。
刊行物3(Polymer,1983,Vol.24,June 651〜666)は、「固体ゼラチンの構造と特性及び改質原理」と題する論文に係るものであって、第662頁左欄下から13行〜同下から14行には異相系の形成におけるゼラチンの改質の項があり、「高分子化合物によるゼラチンの改質は、親水性又は疎水性ポリマー(ラテックスの形態で)の導入によりなされる。限定的な混和性のゼラチンの混合物を形成する親水性のポリマーによるゼラチンの改質はPEGを用いて十分研究されている。」と記載され、刊行物1を引用する文献番号が付けられている。そして、図19には、衝撃強度を縦軸、横軸をP/P0とし、PEG300(濃度0重量%、5重量%、10重量%、20重量%及び30重量%のもの)3000(同0重量%、1重量%、3重量%及び5重量%)、及び40000(同0重量%、0.1重量%及び1重量%)の各分子量のPEGを含む冷ゼラチンフィルムの耐衝撃性の水蒸気圧への依存性が示されている。

II-2-2-1-2 本件訂正明細書に係る請求項1に係る発明と各刊行物に記載された発明の比較・検討
本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、非フォーム状ハードゼラチンカプセルに係るものであって、分子量1000のPEGを10〜50重量%配合することによって、カプセルに吸水性又は吸湿性物質を充填したときに、その被膜中の水分含量が少なくてもカプセル被膜の機械的強度の低下による、製造時及び/又は使用時における割れ、柔軟性不良、脆性化の発現といった不都合が生じるのを解消するものであり、当該効果は、具体的製品すなわちカプセルの全体に静圧荷重を加えて測定、すなわち圧縮強度を指標としている。
ところで、ゼラチンカプセルに充填する物質が吸水性又は吸湿性物質であるときは、当該物質がカプセル皮膜中から水を取り、皮膜中の水の減少が予想されるが、このような低湿度下の環境になると、カプセルはもろく、外力によって破壊されやすくなることは周知であるところ(例えば、カプセル剤の一般的文献である「「医薬品開発基礎講座XI 薬剤製造法(上)」(株)地人書館昭和46年7月10日発行」(上記無効審判請求人が提出した甲第14号証。以下刊行物4という。)には、カプセルの機械的性質は基本的には基剤のゼラチンフィルムのレオロジー的性質によって変化すること、すなわち、フィルムの粘性要素が小さいとカプセルはもろく、外力によって破壊されやすくなり、たとえば硬・軟いずれのカプセルも、これを低湿度の環境に保存すると、粘性要素が小さく、ガラス状となり簡単に割れるようになる。また、これらの弾性要素が小さいと、硬カプセルでは薬剤の充てん工程の機械的衝撃によって変形を生じやすくなり」(第296〜297頁)、と記載されている。)、刊行物1には、PEGの配合されたゼラチンフィルムはその含水量が減少したときでもPEG耐衝撃効果を示す態様が示されている(上記(ii)、(iii)及び(vii))。
そして、刊行物1は、ゼラチンフィルムの物性についての基礎研究に係るものであって、当該技術がハードカプセルに適用できるかどうかについては記載又は示唆するところはなく、又、PEGを添加したときの機械的強度については耐衝撃性を指標としているものの、ハードカプセル皮膜形成材料としてゼラチンは周知のものであり、又、カプセル剤の一般的文献である上記刊行物4には、上述のようにカプセルの機械的性質は基本的には基剤のゼラチンフィルムのレオロジー的性質によって変化すると記載されていること、又、カプセル剤の機械的強度に関する試験法についての記載中には、「カプセルの基本的強度はカプセルと同一組成のシートを作り、このシートの粘弾性を、高分子フィルムの粘弾性測定装置によって測定する。」旨の記載があり(第361頁)、カプセル皮膜の基本的物性はシート状物で検討されるの通常と認められることからすると、フィルム状のゼラチンに係る基礎研究も当業者が通常検討する範囲のものといえる。そして、刊行物4には、上述の記載に続き、「成形されたカプセル剤の強度の測定装置を図2.7.55に示したが、これは次のように操作される。・・・(略)・・・台車の重力によってアタッチメントの先端で試料に圧力が加えられる。・・・(略)・・・この装置によって硬カプセルの底部の衝撃に対する抵抗力や・・・(略)・・・などを測定する。」との記載があり、又、同第296〜297頁の上述の記載に続き、「又、これらの弾性要素が小さいと、硬カプセルでは薬剤の充てん工程の機械的衝撃によって変形を生じやすくなり」との記載があり、カプセルの製造に際しては衝撃強度についても当業者が検討しなければならないファクターであると認められるし、ゼラチンフィルムの耐衝撃強度とゼラチンカプセルの圧縮強度の相関関係は刊行物1からは明らかでないものの、機械的強度という点では、耐衝撃強度とゼラチンカプセルの圧縮強度が全く関係がないものとまではいえないので、以下、刊行物1の基礎研究の結果(ゼラチンフィルムへ配合されるPEGの分子量及び濃度、湿度、耐衝撃強度の関係)及びその考察に関する記載等からみて、充填物質が吸水性又は吸湿性である場合にハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜に分子量1000のPEGを10〜50重量%配合することを当業者が容易に想到し得たかどうか検討する。

刊行物1の図1は、上述のように、湿度65%及び0%のときの添加PEGの分子量、濃度と耐衝撃強度との関係を示すものであるが、本件訂正明細書の請求項1で規定するPEGの分子量が1000のものについては試験対象とされておらず(上記(vii))、図1においては、同300のものと3000のものでは、湿度が65%であれ、0%あれ、PEG濃度と耐衝撃強度の関係は上記摘示したとおり相当異なっている(測定値及びパターン)ので、同1000のものについてのPEG濃度と耐衝撃強度の関係は、同300のものと3000のものから直ちには明らかでない。
もっとも、分子量が300及び3000のものが共に耐衝撃強度を上昇させることから、同1000のものも当該強度を上昇させるとはいえる(上記(iii)、(v)、(vii))。
そして、PEG濃度約30%までの測定値が記載されている図1の低湿度(湿度0%)下のデータを見ると、分子量300のものと同3000のものの耐衝撃強度が最も優れており(vii)、その際の濃度については、同3000のものの場合は約5重量%であり、同300のものは約30重量%(上記(vii))であるから、同1000のものを配合する場合には、上記(v)の「PEGの分子量が大きくなるにともない、この極大値はPEG濃度が低い傾向にシフトする」との考察を考慮すると、30重量%を超えるとまではいえないが、相当の濃度(分子量1000は同3000よりも同300に近いから、同300の濃度に近いと認められる。)を配合すれば同300や3000のものと同等の効果が奏されるといえるかもしれない。
しかしながら、ゼラチンカプセルの場合は、ゼラチンが主成分であって、他の成分が多くなれば当然ながらゼラチンが少なくなるのであり、本来ゼラチン自体に期待される作用への影響が高くなると考えるのが自然であるから、他の配合される成分として同質のものが複数ある場合は、より低濃度で目的が達成されるものを選択するのが通常と認められる。
しかも、ゼラチンカプセルの分野においては、PEGの配合に関する従来技術として、以下述べるように、分子量1000のものは、10重量%を超える配合は適量とされておらず、そのような高濃度の配合については、その採用を阻害する要因があるともいえる。
すなわち、ゼラチンカプセル皮膜に分子量1000〜6000のPEGを配合することは、本件特許に係る出願前知られている(特公昭36-3848号公報(以下、刊行物5という))。当該発明は、軟カプセルの関するものであるが(刊行物4の第322頁第10〜12行には当該発明が軟カプセルに係るものである旨記載されている。)グリセリン(可塑剤と認められる。)に加え、さらに、分子量1000〜6000のPEGを配合することを特徴とするものであって(特許請求の範囲)、PEGの分子量が1000の場合は、好適な処方として、ゼラチン50gに対してPEG0.6〜5g配合する旨が記載されており(第1頁右欄の処方)、当該PEGの配合量の上限値は10重量%であるものの、具体例はゼラチン500部、PEG12部でPEGの配合量は10重量%より遥かに低い。そして、刊行物5におけるPEGの添加目的は、ゼラチン膜の乾燥速度に係るものであって(なお、刊行物4の上記摘示箇所には、刊行物5の発明に関し、「カプセルの乾燥速度が速くなり、化学的に安定な軟カプセル剤が得られる。」と紹介されている。)、適量がある旨記載されているのであるから、硬カプセルにおいてもその量を大きく超えると好ましくない影響が出る可能性が高くなると考えるのが自然である。
そうすると、刊行物1における基礎研究から、すなわち、異相の形成による耐衝撃強度の上昇の作用の点からは、分子量1000のPEGの添加量を10重量%以上とすることが導けたとしても、当該研究のハードカプセルへの応用にあたっては、上記点を考慮すれば、低湿度下においてより少量で高い耐衝撃強度を示し、かつ、阻害要因がない同3000のものを選択するのが自然であり、ハードゼラチンカプセルの被膜に同1000のPEGを10〜50重量%の高濃度配合することが直ちに導けるとはいえない。
なお、吸水性又は吸湿性物質が充填される前のカプセルは低湿度下の環境に置かれないことになるが、その際の耐衝撃強度を示す湿度65%における図1のデータを見るにPEG分子量が3000のものは、低湿度下で最大の耐衝撃強度を示す約5重量%前後の配合量では同300のものより優れているので、通常の湿度下の状態を考慮しても、同3000のものの選択に問題はない。
もっとも、カプセル剤の発明に係る、欧州特許出願公開第110502号明細書、特開昭58-185648号公報(各々上記無効審判における甲第12号証、甲第13号証。以下刊行物6、7という。)においては、PEGが可塑化剤となること、さらには、PEG等可塑化剤の配合量が、前者では0.2〜15重量%(第9頁第7〜15行)、後者では約0.5〜40重量%とされており(特許請求の範囲の請求項4)、可塑剤の配合量が10重量%を超えることが記載されている。そして、刊行物6、7には、PEGの分子量の記載はないものの、本件訂正明細書に従来技術として記載されている特公昭33-5649号公報(以下刊行物8という。)には、分子量200〜800のPEGが代表的可塑剤であるグリセリンの一部を代用しうることが記載されているので、PEGの分子量が1000のものにも、可塑剤と同様の効果が期待できるといえるかもしれない。
しかしながら、刊行物6における可塑剤の好ましい添加量は、0.2重量%〜5重量%(同上)であって、具体例としてはグリセリンを2重量%(実施例5)配合する例等が開示されているだけであり、又、刊行物7における好ましい量は0.5〜10重量%であって(第18頁右上欄下から6行〜右下欄第7行、第6頁左上欄第5〜8行)、具体例としてはグリセリンを3.5重量%添加した例があるのみである(例7)。そして、ハードゼラチンカプセルへの可塑化剤の配合量については、上記刊行物4に、「可塑剤の量は硬カプセルにおいては数%以下、軟カプセルにおいては10〜50%に及ぶが、いずれもこの添加量によってカプセルの硬さが調節され 」(第309頁第8〜9行)と記載されていることからすると、ハードカプセルに添加される場合は、通常10重量%を超えるような高濃度とはしないといえるので、刊行物6、7におけるPEGの広範な添加量の記載が直ちに、上記従来技術を考慮した認定を否定するものではない。
又、分子量1000のPEGが可塑剤としての作用がないとすれば、刊行物6、7には、そもそも分子量1000のPEGを10重量%以上添加するということについては何らの記載も示唆もないということになるから、同様に上記認定が変わるものではない。
なお、上記刊行物8には、分子量200から、分子量1000に近い800までのPEGがゼラチン、水、及びグリセリンからなるゼラチンカプセルのグリセリンの約1/6〜約5/6に置き換えることが記載されており、当該PEGをゼラチンに対して10重量%以上配合している例もあるが、そもそも、刊行物6はソフトカプセルに係る技術であり、可塑剤の配合量自体がはハードカプセルより多いことは上述のように、上記刊行物4にも記載されているとおりである。

結局、ハードゼラチンカプセルの被膜にPEGの分子量1000のもののみを10〜50重量%配合することは、刊行物1に記載されている発明に基づいて当業者が直ちに想到し得たとはいえない。
そして、本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、上記構成を備えることによって優れたハードゼラチンカプセルを提供するものであり、その効果は、表1において明らかにされている。
してみれば、本件訂正明細書に係る請求項1の発明は、刊行物1に記載されている発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

次に刊行物2について検討するに、上述の記載事項は、ハードゼラチンフィルムにPEGを添加してカプセル被膜を形成する技術を何ら示唆するものではない。
刊行物3について検討すると、刊行物3は、上述のように上記刊行物1を引用しており、それに続いて図19について言及している。
その図19には、低水分量下では、PEGの分子量300のものは20〜30重量%程度の濃度にしないと耐衝撃強度が上昇しないが、同3000のものでは、3〜5重量%程度の濃度にすれば300のものを20〜30重量%濃度としたときと同程度の効果があることが示されており、その傾向は、刊行物1と同じであって、他に刊行物1と矛盾する結果が得られた旨の記載はない。
してみれば、刊行物1について説示したように、刊行物3に記載されている発明に基づいてPEGの分子量1000のものについて10〜50重量%もの高濃度の配合することを当業者が直ちに想到し得たとはいえない。

そして、刊行物1〜3に記載されている発明を組み合わせたとしても、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の進歩性が否定できないことは上記説示から明らかである。

II-2-2-2 (ロ)についての検討
まず、当該補正が適法なものかどうか検討すると、本件特許の出願公告時の特許請求の範囲には以下のとおり記載されている(特公平6-11696号公報(公告日 平成6年2月16日))

「【請求項1】分子量200〜20000のポリエチレングリコールを含有することを特徴とするハードゼラチンカプセルにおける被膜組成物。」(請求項2及び3省略。以下補正前発明という。)

又、特許法第64条の規定に係る平成7年2月10日付けの手続補正書の特許請求の範囲には以下のとおり記載されている(なお、当該補正の後に、更に、特許法第64条及び同法第17の3の規定に係る特許請求の範囲の補正がされているが、これら補正に係る発明は、いずれも末尾をカプセルとするものである。)。

「【請求項1】分子量200〜20000のポリエチレングリコールを含有することを特徴とする水感応性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。」(請求項2及び3省略。)

ところで、補正前発明は、その末尾を「ハードゼラチンカプセルにおける被膜組成物」としているが、「・・・における」との記載ぶりは、組成物に係る発明において通常使われるものではなく、必ずしもその意味は明らかでない。
そこで、補正前の発明について、明細書の発明の詳細な説明を見るに、「本ゼラチン皮膜組成物は、そのゼラチン皮膜がハードゼラチンカプセルそのものを形成するカプセル皮膜を意味する。」と記載されている(特許公告公報第5欄第1〜3行参照。)。
ここで、上述のカプセル皮膜は、上述のように「そのゼラチン皮膜がハードゼラチンカプセルそのものを形成する」とあるようにカプセルとしての形状をもつものである。
そうしてみると、補正前の発明に係る皮膜組成物は実質的にカプセルをいっているものと認められるし、補正前と補正後で発明のカテゴリーを変えているわけでもない。
してみれば、当該補正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとまではいえない。
従って、当該補正が不適法であることを前提として新規性がないとする点は、検討を要しないものである。

以上のとおり、上記(イ)及び(ロ)の点で、本件訂正明細書の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとすることはできない。

又、他に本件訂正明細書の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由及び証拠を発見しない。

III.結び
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項、及び第3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非フォーム状ハードゼラチンカプセル
(57)【特許請求の範囲】
1 ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして分子量1000のポリエチレングリコールのみを用い、かつその含有量がゼラチンに対して10〜50重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、ハードゼラチンカプセル、特に吸水性又は吸湿性物質を充填するための改良された非フォーム状ハードゼラチンカプセルに関するものである。
[従来の技術]
医薬品の固形製剤の1つとしてハードカプセル剤がある。このものは、通常ゼラチン皮膜で形成された互いに一端の開いた帽状容体の内部に粉末、顆粒又は液状(油状)の医薬又は食品を所定量充填した後、それら容体を同軸的に結合して完成される。
このハードゼラチンカプセル剤は、製剤化のし易さと医薬活性成分の矯味及び/又は矯臭作用による服用のし易さから近年広く利用されている。
ところで、このカプセル剤に利用される前記ハードゼラチンカプセルは、一般に当該ゼラチン皮膜中の含有水分が少なくなると極端にその機械的強度が低下するといった欠点を持っている。すなわち、既存のハードゼラチンカプセルは、通常そのカプセル皮膜中に約13〜15%程度の水分を保有しているが、これが10%以下になると皮膜の柔軟性が低下してきわめて脆くなる。従って、カプセル成形後における例えば内容物充填作業でのカプセルの機械的取扱に際して、ひび、割れ又は欠け等のカプセル皮膜に損傷を生じることがある。このような不都合を防止もしくは抑制するための方策としては、日本薬局方にも記載されているとおりゼラチンを基剤とし、これにグリセリン又はソルビトール等の可塑剤を添加することが知られているが、これらの可塑剤をハードゼラチンカプセルの製造時に添加すると、その添加量によっては当該カプセル皮膜が柔らかくなり過ぎたり、またその乾燥速度が遅くなることもあり、現実の使用に当っては種々の問題が残されている。
以上のような背景から前記可塑剤の添加による難点を解消する手段として、前記グリセリンに加えてポリオキシエチレンソルビトールもしくはポリエチレングリコールまたはその両者を添加する方法が既に提案されている(特公昭33-5649号公報)。
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら、かかる特公昭33-5649号公報の提案は、分子量200〜800のポリエチレングリコールを添加することによりゼラチン皮膜の強度と乾燥性の向上を目的として案出されたものであるが、このゼラチン皮膜はソフトカプセルに関するものである。
一方、周知のとおり近年における液状物用カプセル充填機と同封緘機の開発によって、ハードゼラチンカプセルへ液状物を充填したカプセル剤も実用化されている。
ところで、平均分子量が200〜600の範囲にある常温で液状のポリエチレングリコールや中鎖脂肪酸トリグリセライドは、共に優れた溶解作用と吸収性を有し、賦形剤として好適なものであるが、前者はそれ自体の吸湿性によりカプセル皮膜から水分を奪うために、また後者はカプセル皮膜の材質を脆くする性質を持っており、従って、これらの賦形剤を充填したハードカプセルは経時的に割れを発生する不安が多々あり、前記のソフトカプセルの場合と異なり現実にはその使用が敬遠されているような状況である。また、公知のハードゼラチンカプセルにおいては、水分に対して不安定な薬物を充填する場合、安定性確保のために水分を低めに保つ必要があるが、前述したとおり低水分下のゼラチン皮膜は割れを発生し易く製剤化が困難となるのを避け得ない。
以上要するに従来公知のハードゼラチンカプセルは、吸水(湿)性を有する薬剤を充填したときには、そのカプセル皮膜の機械的強度の低下による割れ、柔軟性不良また脆性化の発現といった難点を持っていた。
本発明はこのような状況に鑑みて提案されたものであって、上記ハードゼラチンカプセルにおける皮膜の低含有水分下での機械的強度の脆さ、及び吸水(湿)性物質の充填製剤化の困難性といった不都合を解消しようとするものである。
[課題を解決するための手段]
本発明者等は上記課題解決のための具体的手段について鋭意検討した結果、非フォーム状ハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜として、分子量1000のポリエチレングリコールを適量含有させることにより、その皮膜中の含有水分量が少なくても充分な機械的強度を備えた非フォーム状ハードゼラチンカプセルが得られ、このものが吸水性、吸湿性を有する物質の充填にも充分に適合し、上述の従来公知のハードゼラチンカプセルにおける難点、不都合を解消し得るものであることが分かった。すなわち、本発明によれば、ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして分子量1000のポリエチレングリコールのみを用い、かつその含有量がゼラチンに対して10〜50重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセルが提供される。
[作用]
上記手段を採用することによりハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜の含有水分が少ない低水分下でも充分な柔軟性と優れた機械的強度を持った非フォーム状ハードゼラチンカプセルを得ることができる。従って、分子量200〜400の低分子ポリエチレングリコールのような吸水性,吸湿性物質を充填するのにも好適な非フォーム状ハードゼラチンカプセルを提供することができる。
本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルとは、欧州特許公開公報第110502号に記載のあるような気泡入りのハードカプセルではなく、カプセル皮膜中には気泡等の「泡」を実質的に含まない、通常のハードゼラチンカプセルを意味する。
本発明において使用されるポリエチレングリコールは分子量1000のポリエチレングリコールである。このポリエチレングリコールの添加量は、10〜50重量%である。
上記分子量のポリエチレングリコールの最適添加量を越えてポリエチレングリコールを使用すればゼラチン溶液は白濁し、その粘度が急激に低下してポリエチレングリコールを均一に混合させることができなくなり、いわゆるコアセルベーションを惹起する。もちろんこの状態で均一なカプセル皮膜を成形することはできない。また、前記添加量に満たないポリエチレングリコールの使用量では目的とするカプセル皮膜の割れ防止効果を充分には発揮することができない。
本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルには、例えば分子量200〜600のポリエチレングリコールのような吸湿性あるいは吸水性のある物質が充填される。
なお、この場合において本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルには、従来のハードゼラチンカプセルの場合と同様に所望によりその他の添加剤、例えば薬事法あるいは食品衛生法などで指定された食用色素や不透明化剤等を適宜添加することができる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
[実施例1]
(1) ゼラチンジェリーの調製
ジェリー:A
ゼラチン7kgに精製水14Lを加え、約1〜2時間放置して吸水膨潤させる。ゼラチンが充分に膨潤した後、60℃に加温し、撹拌してゼラチンを均一に溶解させる。更に、あらかじめ第1表に示す市販のポリエチレングリコールの50重量%水溶液を上記ゼラチン溶液中にそれぞれ同表に示した配合量ずつ加えて撹拌し、その粘度を調整した後、常法どおり脱泡処理してジェリーを得る。
(2) ハードゼラチンカプセルの製造
上記(1)で得た各種ポリエチレングリコール含有のジェリーのゼラチン濃度を27重量%に調整した後、該溶液を約60℃に保持して通常の浸漬法によるカプセル製造機によりそれぞれサイズ3号の非フォーム状ハードゼラチンカプセルを得る。
(3) カプセルの割れ試験
上記(2)で得た各種ポリエチレングリコール含有ハードゼラチンカプセルと従来公知のカプセルを対照カプセルとして、各々カプセルに分子量400のポリエチレングリコールを充填しバンドシールして7日間保存した後、これを横方向においてテスター産業製加圧試験機で静圧荷重5kgをカプセル全体に徐々に加え、その時の割れの発生を確認し、第1表に示すような結果を得た(供試カプセル数はそれぞれ50個)。

第1表に示すとおり分子量1000のポリエチレングリコールを所定量含有したハードゼラチンカプセルは、たとえ皮膜中の含有水分量が適正値より少なくなっても皮膜の割れば殆ど認められない。
[発明の効果]
以上詳述したとおり本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルによれば、製造時及び/又は使用時における割れの発生が少なく、しかも溶解性も改善されたハードゼラチンカプセルを提供することができる。このことは該カプセル内に吸水性賦形剤である低分子ポリエチレングリコールなどの吸水性,吸湿性物質を充填するのにきわめて好適な非フォーム状ハードゼラチンカプセルを提供し得るなど、その実用的効果は顕著かつ多大である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)願書に添付した明細書(平成10年4月30日付けの手続補正書に添付した全文訂正明細書。以下特許明細書という)の特許請求の範囲、
「1 分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれたポリエチレングリコールの1種もしくは2種以上の混合物を、ゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、そのポリエチレングリコールの含有量がゼラチンに対して下記のいずれかであることを特徴とする水感応性物質を充填するための非フォーム状ハートゼラチンカプセル。
イ.ポリエチレングリコールの分子量が1000〜1540である場合:1〜50重量%。
ロ.ポリエチレングリコールの分子量が4000である場合:0.5〜15重量%。
ハ.ポリエチレングリコールの分子量が6000である場合:0.5〜10重量%。
ニ.ポリエチレングリコールの分子量が20000である場合:0.1〜5重量%。
2 ポリエチレングリコールの含有量がゼラチンに対して下記の通りである請求項1記載の非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
イ.ポリエチレングリコールの分子量が1000〜1540である場合:10〜50重量%。
ロ.ポリエチレングリコールの分子量が4000である場合:3〜15重量%。
ハ.ポリエチレングリコールの分子量が6000である場合:3〜10重量%。
ニ.ポリエチレングリコールの分子量が20000である場合:0.3〜5重量%。」
を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「1 ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして分子量1000のポリエチレングリコールのみを用い、かつその含有量がゼラチンに対して10〜50重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。」
と訂正する。
(2)上記特許請求の範囲の訂正に伴い、「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、下記の通り訂正する。
(i)特許明細書の第1頁最終行の「水感応性物質」を「吸水性又は吸湿性物質」と訂正する。
(ii)同第3頁第15〜17行目に「水感応性物質、すなわち、吸水(湿)性があるか、また水に対して反応性もしくは分解性があるか、更には水放出性を有するような物質を充填したときには、」とあるのを、「吸水(湿)性を有する薬剤を充填したときには、」と訂正する。
(iii)同第3頁第21〜22行目の「その他水感応性物質」を「吸水(湿)性物質」と訂正する。
(iv)同第3頁第23行目〜第4頁第16行目に「本発明者等は上記課題解決のための具体的手段について鋭意検討した結果、非フォーム状ハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜として、分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれたポリエチレングリコールの1種又は2種以上を含有させることにより、その皮膜中の含有水分量が少なくても充分な機械的強度を備えた非フォーム状ハードゼラチンカプセルが得られ、このものが吸湿性、水反応性等のいわゆる水感応性物質の充填にも充分に適合し、上述の従来公知のハードゼラチンカプセルにおける難点、不都合を解消し得るものであることが分かった。すなわち、本発明によれば分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれたポリエチレングリコールの1種もしくは2種以上の混合物をゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、そのポリエチレングリコールの含有量がゼラチンに対して、
イ.ポリエチレングリコールの分子量が1000〜1540である場合:1〜50重量%、
ロ.ポリエチレングリコールの分子量が4000である場合:0.5〜15重量%、
ハ.ポリエチレングリコールの分子量が6000である場合:0.5〜10重量%、又は
ニ.ポリエチレングリコールの分子量が20000である場合:0.1〜5重量%、
のいずれかであることを特徴とする水感応性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセルが提供される。」
とあるのを、
「本発明者等は上記課題解決のための具体的手段について鋭意検討した結果、非フォーム状ハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜として、分子量1000のポリエチレングリコールを適量含有させることにより、その皮膜中の含有水分量が少なくても充分な機械的強度を備えた非フォーム状ハードゼラチンカプセルが得られ、このものが吸水性、吸湿性を有する物質の充填にも充分に適合し、上述の従来公知のハードゼラチンカプセルにおける難点、不都合を解消し得るものであることが分かった。すなわち、本発明によれば、ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして分子量1000のポリエチレングリコールのみを用い、かつその含有量がゼラチンに対して10〜50重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハートゼラチンカプセルが提供される。」
と訂正する。
(v)、同第4頁第21〜22行目の「吸湿性賦形剤や中鎖脂肪酸トリグリセライド等水感応性物質」を「吸水性、吸湿性物質」と訂正する。
(vi)、同第4頁28行目〜第5頁第8行目に
「本発明において使用されるポリエチレングリコールは分子量1000〜20000、特に分子量1000、1500、1540、4000、6000又は20000から選ばれた1種もしくは2種以上の混合物である。このポリエチレングリコールの添加量は、使用される該ポリエチレングリコールの分子量によって下記のとおり若干異なる。すなわち、組成物中のゼラチンに対して、
イ.分子量が1000〜1540である場合:1〜50重量%
ロ.分子量が4000である場合:0.5〜15重量%
ハ.分子量が6000である場合:0.5〜10重量%
ニ.分子量が20000である場合:0.1〜5重量%
の範囲が好適である。」
とあるのを
「本発明において使用されるポリエチレングリコールは分子量1000のポリエチレングリコールである。このポリエチレングリコールの添加量は、10〜50重量%である。」
と訂正する。
(vii)同第5頁第9行目〜第10行目の「上記のとおり一般に使用されるポリエチレングリコールの分子量が大きくなるほど、その添加量は少なくてよい。それぞれ」を削除する。
(viii)同第5頁第16行目〜第22行目の「なお、分子量が異なる2種以上のポリエチレングリコールを混合して併用する場合には、その混合比率にもよるがそれそれ単独使用の場合の各種最適使用量より若干少なくてよい。
本発明において、水感応性物質とは、例えば分子量200〜600のポリエチレングリコールのような吸湿性あるいは吸水性のある物質、水放出性を有する物質、また中鎖脂肪酸トリグリセライド等におけるゼラチン皮膜の脆化を誘発する物質、その他水に対して反応性又は分解性等を持った物質をいう。」
を削除する。
(ix)同第6頁第1行目の「ジェリーA〜F」を「ジェリーA」と訂正する。
(x)同第7頁の第1表(1)中の「ジェリーB#1500」及び「ジェリーC#1540」の欄、同第8頁の第1表(2)中の「ジェリーD#4000」、「ジェリーE#6000」及び「ジェリーF#20000」の欄を削除して、第1表を「ジェリーA#1000」の欄のもののみとする(表の記載省略)。
(xi)同第8頁下から第7行目〜下から第6行目の「分子量1000〜20000のポリエチレングリコールをそれぞれ」を「分子量1000のポリエチレングリコールを」と訂正する。
(xii)同第8頁下から第4行目〜第9頁第10行目の
「(4)溶状試験
前記ジェリーDによる・・・(略)・・・遅延は認められない。」を削除する。
(xiii)同第9頁下から第4行目〜最終行に
「低分子ポリエチレングリコールや、あるいはゼラチン皮膜を脆化させる中鎖脂肪酸トリグリセライド等の水感応性物質を充填した場合において顕著となり、水感応性物質を充填するのにきわめて好適な非フォーム状ハードゼラチンカプセルを提供し得るなど、その実用的効果は顕著かつ多大である。」
とあるのを
「低分子ポリエチレングリコールなどの吸水性,吸湿性物質を充頃するのにきわめて好適な非フォーム状ハートゼラチンカプセルを提供し得るなど、その実用的効果は顕著かつ多大である。」と訂正する。
審決日 2001-10-09 
出願番号 特願平1-173668
審決分類 P 1 41・ 851- Y (A61K)
P 1 41・ 853- Y (A61K)
P 1 41・ 856- Y (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 圭次星野 紹英  
特許庁審判長 田中 倫子
特許庁審判官 深津 弘
宮本 和子
登録日 1999-01-08 
登録番号 特許第2139734号(P2139734)
発明の名称 非フォーム状ハードセラチンカプセル  
代理人 西川 裕子  
代理人 西川 裕子  
代理人 小島 隆司  
代理人 小島 隆司  

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