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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない F23C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない F23C
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない F23C
審判 全部無効 特29条特許要件(新規) 無効としない F23C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない F23C
管理番号 1054713
審判番号 無効2001-35075  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-11-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-02-20 
確定日 2002-03-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第2125515号発明「水管式ボイラ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2125515号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)の出願は、昭和63年9月10日の出願であって、平成4年11月11日に出願公告(特公平4-70523号)され、その後、平成8年7月26日付けで手続補正がなされ、平成9年1月13日にその発明について特許の設定登録がされ、その後、その発明の特許について請求人三浦工業株式会社より無効審判の請求がなされたものである。
なお、請求人に対して、期間を指定して弁駁の機会を与えたが、請求人は何ら応答していない。

2.本件発明
本件の願書に添付した明細書(出願公告後の平成8年7月26日付けで補正された全文補正明細書。以下、「本件特許明細書」という。)によれば、本件発明の概要は、次のとおりである。
(1)技術的課題(目的)
本件発明の技術的課題は、
「従来型水管式ボイラの燃焼室の構成を第7図に示した。1は燃焼室、5aは燃焼室水壁管である。第8図に従来型水管式ボイラの燃焼室水壁管の熱負荷の分布を示した。第8図に示すように、従来型水管式ボイラの燃焼室水壁管5aの特性として、水壁管5aは燃焼火炎からの輻射伝熱(Q0Kcal/m2H)を受けるが、これは燃焼室側7に示す如く半周でしかなく、反対面の炉壁側の半周8は伝熱には全く寄与しない。また燃焼室側の半周面では第8図の矢印で示すような伝熱面熱負荷の大きさに分布がある。設計上、その最大熱負荷はバーンアウトを起さない限界伝熱面熱負荷以下にする必要があるから、結局従来型ボイラの火炉においては水管全周の全吸収熱量は極めて低い値となるという設計上の問題点があった。
これに対して従来は上記の限界伝熱面熱負荷を引き上げるための工夫、例えば、内面の溝付き水管の採用なども試みられたが、この場合も燃焼室熱負荷を一気に引き上げ、著しい効果を奏するには至っていなかった。
一方、燃焼室熱負荷を高くすると、従来のような燃焼室の場合における大きな火炎のかたまりの状態ではその中心部にホットスポットが発生し、N0xの排出量が増大して公害問題を惹き起すという問題点もあった。
上記のように限界伝熱面熱負荷の存在とNOxの生成を抑制するためには従来の装置のままではボイラ火炉を小さくすることはできない。そこで従来の限界を突き破るためには、従来よりも上記限界伝熱面熱負荷の格段に高い高負荷燃焼と該高負荷燃焼下における低NOx化を可能ならしめる新規な水管式ボイラを必要とすることになる。
上記に鑑み、本発明はNOxの生成を抑制しながら、高負荷燃焼を行わせて、局部伝熱面熱負荷を一定値以下に抑えながら、ボイラ火炉部分を著しく小さくし、それによって小型軽量化を図った燃焼室に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した収熱水管内挿型燃焼室を有する水管式ボイラを提供することを目的とするものである。」(第2頁12行〜第3頁8行)ことにある。
(2)構成
上記の目的を達成するため、本件発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の構成を採用したものである。
「1.水管式ボイラにおいて、ガス燃料の燃焼を行う燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)として、該収熱水管内挿型燃焼室を単段に設け、バーナを単数個又は複数個配設し、収熱水管内挿型燃焼室内の燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し、収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を
1.1≦P/D≦2.0
となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設したことを特徴とする水管式ボイラ。」(特許請求の範囲)
(3)効果
本件発明によれば、
「本発明は従来の燃焼方式とその燃焼方式を全く変えた収熱水管内挿型燃焼室の採用によって、ボイラから排出されるNOxを約25%程度以上(第3図参照)に低減しながら、当該燃焼室の容積を従来の1/10〜1/20程度以下にできて、そのためボイラの大きさを従来の1/2程度以下にすることに成功したもので、ボイラの小型、軽量化が達成された。しかも従来の炉壁水管においては、伝熱面熱負荷が不均一で、一部焼損の危険にさらされていたが、本発明の燃焼室内挿型収熱水管では、均一伝熱面熱負荷で伝熱面熱負荷の限界値以下に設計することができるため、ボイラの信頼性、安全性が向上する」(第5頁28行〜第6頁7行)という効果を得るものである。

3.請求人の主張の概要
請求人は、
(理由1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証その他に記載された周知慣用技術とに基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する。
(理由2)本件発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であり、また、本件発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証又は甲第1号証の記載内容とに基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第1項または同条第2項の規定に違反する。
(理由3)本件発明は、明細書の開示内容と矛盾しており、発明でない部分を含むという意味で特許法第29条柱書きに違反するか、或いは、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないという意味で特許法第36条第4項(昭和62年法律27)の規定に違反する。また、本件特許明細書には当業者が容易に実施できる程度に発明が記載されていないという意味では、特許法第36条第3項(昭和62年法律27)の規定に違反する。
旨主張し、証拠方法として下記甲各号証を提出している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開昭60ー78247号公報
甲第2号証:特開昭62ー84258号公報
甲第3号証:特公昭52ー18937号公報
甲第4号証:日本バーナ研究会編「図解燃焼技術用語事典」(昭和57年8月30日初版1刷、日刊工業新聞社、第107頁)
甲第5号証:落合安太郎著「熱交換器」(昭和36年1月10日初版、日刊工業新聞社、「目次」の頁、「1.伝熱概論 1・1序論」の頁及び第107〜111頁)
甲第6号証:大賀悳二著「熱及び熱力学通論」(昭和20年6月10日第3版発行、株式会社アルス、「目次」の頁及び第310〜314頁)
甲第7号証:米国特許第2841124号明細書及びその訳文
甲第8号証:特開平2ー272207号公報(本件特許の公開公報)
甲第9号証:特公平4ー70523号公報(本件特許の公告公報)及びその訂正公報
甲第10号証:平成12年(ワ)第19360号の訴状
甲第11号証:平成11年(行ケ)第424号審決取消請求事件のの判決文(抄)
甲第12号証:平成10年(行ケ)第172号審決取消請求事件の判決文(抄)
甲第13号証:特開平11ー72201号公報
甲第14号証:特願平10ー162035号の拒絶理由通知書(起案日平成11年7月6日)
甲第15号証:特願平10ー162035号の拒絶査定書(起案日平成12年1月25日)

4.被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張はいずれも理由がなく、失当であり、本件審判請求は成り立たない旨主張し、証拠方法として下記乙各号証を提出している。
(証拠方法)
乙第1号証:中條義守著「燃料の節約と汽罐の保全」(昭和29年6月20日、燃料及燃焼社、第260〜261頁)
乙第2号証:斉藤勇・芳賀太兵衛共著「汽罐取扱いの実際」(昭和30年11月15日、産業図書株式会社、第60頁)
乙第3号証:労働省(安全衛生部安全課)監修「二級ボイラー技士教本」(平成12年3月31日初版改訂第4刷、社団法人日本ボイラ協会、第274〜275頁)
乙第4号証:中井多喜雄編著「2級ボイラー技士試験(合格への基本書)」(株式会社弘文社、第254〜255頁)
乙第5号証:実用新案登録第2507407号公報
乙第6号証:平成11年(行ケ)第424号審決取消請求事件の判決文
乙第7号証:竹田和彦著「特許の知識」(昭和63年6月16日初版、ダイヤモンド社、第154〜158頁)
乙第8号証:中山信弘編著「注解・特許法」第二版,上巻(平成元年5月31日第2版1刷、第335〜336頁)
乙第9号証:日本バーナ研究会文献会報実行委員会編「日本バーナ研究会会報」第44号、1983.12(日本バーナ研究会、第31〜34頁)

5.甲各号証に記載の事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに、「本発明は燃焼ガスにより水を加熱して温水を得る熱交換方法及びその装置、具体的には瞬間湯沸器、温水ボイラー等における熱交換方法及びその装置である。」(第1頁右下欄4〜7行)こと、「本発明に課せられた技術的な課題は燃焼室空間をおかないでバーナにより形成された火焔で熱交換器を加熱し、温水を得ながら排ガス中に残留しているCOを無くする熱交換方法及びその装置を提案することである。」(第2頁左上欄20行〜同頁右上欄4行)こと、「本発明は上記課題を解決する手段として、
[1](合議体注:[1]は、甲第1号証では丸数字で記載されている。以下、同様)理論空気量の空気を予混合した燃焼ガスをバーナにて高負荷燃焼させる。
[2]高負荷燃焼により発生した火焔(燃焼ガス)の近傍又はこれに接して冷物体を置き、火焔の温度を火焔中のCOが解離せず、又COの酸化反応の進行する温度すなわち約1,000℃以上、約1,500℃以下に制御する。・・・
[3]前記[2]より温度制御された火焔を次に断熱空間内に通し、この断熱空間内において火焔中の残留COを酸化反応させてCO2に変成する。
[4]前記[3]にてCOがCO2に変性した火焔を熱交換器に導き、ここで水と急速に熱交換させる。」(第2頁右上欄5〜19行)こと、「第1図は上記本発明を瞬間ガス湯沸器に実施した実施例図であって、1は理論空気量以上の空気を予混合した燃料ガスが燃焼するガスバーナ、2は前記ガスバーナ1の上部周囲をとり囲むようにして設置した内胴、3はこの内胴2内であって、前記ガスバーナ1に形成された火焔の先端に殆ど接する位置に設置された冷物体としてのフィン群であって、このフィン群3内には冷水が通るチューブ4が挿通してあり、火焔が通過する際にその温度を約1,000℃以上、約1,500 ℃以下に制御するように設定してある。」(第2頁左下欄1〜11行)こと、「5は前記フィン群3の上部において、熱交換器6との間に形成した断熱空間にして、前記温度制御された火焔(燃焼ガス)はこの断熱空間5内においてその温度が維持されて酸化反応が進行し、火焔中に残留したCOをCO2に酸化させるものである。」(第2頁左下欄12〜17行)こと、「なお、前記実施例において、フィン群3には冷水が通るチューブ4を通し、このチューブ4は熱交換器6に連通している」(第2頁右下欄2〜4行)こと、「本発明は・・・次の如き効果を期待することができる。
[1]高負荷燃焼により発生した火焔を冷物体により約1,500℃以下に制御するため、CO2の解離によるり生ずるCOの濃度を低くすることができる。
[2]温度制御された火炎を断熱空間に通過させてここで酸化反応(CO→CO2反応)を起こさせるため、直ちに熱交換器に火焔を導き、急速に吸熱(冷却)しても、排ガス中にCOが残留することはない。
[3]従来のようなブンゼンバーナ火焔とは異なり、空気との混合の必要のない予混合ガスをガスバーナにて高負荷燃焼させるので、火焔が空気と混合する空間すなわち燃焼室空間は不要となり、冷物体及び熱交換器を高負荷燃焼するガスバーナに可及的に接近させることが可能である。」(第3頁右上欄6行〜同頁左下欄6行)ことが記載されている。

(2)甲第2号証
甲第2号証には、流体加熱装置に関し、図面とともに、「(1)燃焼手段に近接して第一伝熱管群を配置し、この第一伝熱管群に隣接して前記燃焼手段より離れた位置に通気性の輻射体を配置し、さらにこの輻射体に隣接して前記燃焼手段より離れた位置に第二伝熱管群を配置したことを特徴とする流体加熱装置」(特許請求の範囲)であること、「本発明は、湯沸し器、風呂釜、温水ボイラなどに使用される流体加熱装置に関する。」(第1頁右下欄5〜6行)こと、「本発明の目的は、・・・不完全燃焼を防止し、伝熱管等を損傷させることなく、かつ、熱損失の少ない高効率の流体加熱装置を提供することにある。」(第2頁左上欄17行〜同頁右上欄1行)こと、「本発明において、燃焼手段としては、プロパンガス、天然ガス、・・・を燃料とし・・・特に好ましくは、ガスバーナが使用される。」(第2頁右上欄9〜12行)こと、「第一の伝熱管群は、燃焼手段に最も近接して、例えば燃焼手段によって形成される火炎中あるいは火炎の先端に近接した位置に配置される。この場合、燃焼手段の燃料ガス吐出口(例えばバーナの先端)と第一の伝熱管群との距離は100mm以内とすることが好ましい。火炎の長さは、・・・一般には50mm程度以下であるため、結局、第一の伝熱管は、火炎の先端付近から50mm程度以内に配置されることになる。」(第2頁右上欄15〜同頁左下欄4行)こと、「第一の伝熱管群を燃焼手段に近接されて設けたことによりCO等の不完全燃焼生成物が発生するが、これらの不完全燃焼生成物は通気性の輻射体を通過する際に、輻射体の熱を受けて完全燃焼する。」(第2頁右下欄9〜13行)こと、「この流体加熱装置11は、上方が開口されたケーシング12で全体を囲まれており、ケーシング12内の下部にはバーナ13が配置されている。バーナ13は複数のノズル14を有し、ノズル14から燃料ガス、例えば天然ガスを噴出させて火炎15を形成するようになっている。」(第3頁左下欄1〜6行)こと、「バーナ13の上部には、第一の伝熱管群16が配置されている。・・・第一の伝熱管群16の伝熱管は、外径5〜20mm、肉厚1〜3mmとされ、伝熱管の配列間隔は10〜20mm、バーナ13のノズル14先端からの距離aは100mm以内とされている。」(第3頁左下欄7〜12行)こと、「第1の伝熱管群16の上部には、通気性の輻射体18が配置されている。」(第3頁左下欄15〜16行)こと、「輻射体18のさらに上部には、第二の伝熱管群19が配置されている。」(第3頁右下欄7〜8行)こと、「各伝熱管群において伝熱管が燃焼ガス流れ方向に複数段設けられているときは、第一の伝熱管群16内においては並流とし、第2の伝熱管群19内においては向流とすることなどもできる。」(第4頁左上欄18行〜同頁右上欄1行)こと、「第1の伝熱管群:内径4.5mm,外径7mm,配列間隔12mm,全部で10本一列に配置」(第4頁右上欄11〜12行)であること、「なお、第一および第二の伝熱管群16,18を反応焼結炭化ケイ素としたことにより、NOxの発生に伴う硝酸に対して、耐腐食性も得られる。」(第5頁右上欄13〜16行)こと、「本発明によれば、・・・通気性の輻射体から第一の伝熱管群および第二の伝熱管群に輻射熱が照射され、燃焼熱を有効に利用することができる。また、第一の伝熱管群を燃焼手段に近接させることにより不完全燃焼生成物が発生したとしても、輻射体を通過する際に完全燃焼されるので、不完全燃焼生成物の発生を極めて少なくすることができる。さらに、第一の伝熱管群を燃焼手段に近接して燃焼空間を大幅に縮小し、装置をコンパクト化することができる。」(第5頁左下欄19行〜同頁右下欄10行)ことが記載されている。

(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに、「本発明段階燃焼方法は一次燃焼室1、吸熱室2及び吸熱室を兼ねる二次燃焼室3から構成され、燃焼熱の回収手段である吸熱は吸熱室2と二次燃焼室3の吸熱部で行なわれ、一次燃焼室1はかかる吸熱手段とは実質的に分離され、その冷却を燃焼用二次空気によって間接的に行なう点等が特徴的である。」(第1頁2欄6〜12行)こと、「燃焼用二次空気は分岐管7を流れて前記一次燃焼室1を冷却する。」(第1頁2欄16〜17行)こと、「燃焼用空気によって一次燃焼室1は適度に冷却され、火炎温度が低下するのでNOxの発生量は極く微量となる。」(第1頁2欄21〜24行)こと、「NOxをほとんど含有しない部分燃焼ガスは、・・・一次燃焼室1を冷却して予熱された燃焼用二次空気値と混合燃焼し、二次燃焼室3に於いて熱交換器8’より吸熱されながら燃焼を完結する。かかる二次燃焼は・・・又熱交換器8’より吸熱されながら燃焼するので、火炎温度が低く、NOx生成は極少である。」(第1頁2欄29行〜第2頁3欄1行)ことが記載されている。

(4)甲第4号証
甲第4号証には、「サーマルNO thermalNO 熱的NOともいい空気中の窒素と酸素との高温化学反応によって生成されるNO.反応機構についてはZeldovich機構または拡大Zeldovich機構が提案されており,火炎後流で生成されるthermalNOについて説明づけられている.これらの理論や実験によるとthermalNOの生成速度は温度,酸素濃度および高温場での滞留時間によって影響を受けるが,特に温度に関しては指数関数的であり約1300℃以上になると急激に増大する.二段燃焼または排ガス再循環燃焼法を用いるとかなり抑制される。」(第107頁6〜13行)ことが記載されている。

(5)甲第5号証
甲第5号証には、「伝熱管寸法は流体性状、使用条件より以上の短所長所を考慮して決定しなければならないが、一般に管外径が3/4″あるいは1″のものが多く使用され、」(第107頁下から3〜2行)とのこと、「第6.1表にTEMAクラスCに規定された伝熱管寸法(Standard Tube Diameteres and Gages)を示す。」(第108頁4〜5行)こと、「伝熱管配列には正方形配列(Squere Pattern)と正三角形配列(Triangular Pttern)とがあり、流体の流れの方向に対しての配置からおのおの直列と錯列とに区分される。第6.1図はこれら標準管配列を示す。図に見る通り直列より錯列の方が伝熱効率が高いが、逆に圧力損失は多くなる。」(第110頁12〜16行)こと、「管と管とのピッチ(Tube Pitch)は各製造工場によりまちまちに管外径の1.3〜1.5倍の範囲で設計されてきたが、現在ではTEMAの基準に則り管外径の1.25倍を標準として採用している。」(第110頁21〜24行)こと、「第6.4表に伝熱管配列標準寸法を示す。」(第111頁2行)ことが記載されている。
そして、第6.1表には、伝熱管外径が6.35mm〜38.10mmのものが記載され、第 6.4表には、伝熱管外径が19.05mm〜38.1mmであり、伝熱管外径外径19.05mmのときピッチが24mmである場合から、伝熱管外径が38.1mmのときピッチが48mmである場合まで5つの場合の記載がある。これを計算すると、水管間隙=4.95mm、P/D=1.259から水管間隙=9.9mm、P/D=1.259までとなる。

(6)甲第6号証
甲第6号証には、「第181図の如き、千鳥目配管に於いては、・・・基盤目配列の場合よりも、熱授受量は高め得ることとなる。」(第311頁5〜10行)こと、「第15表並に16表は、式(31)の計算に便せんがための数表である。」(第313頁7〜9行)こと、「これらの結果より碁盤目配管の場合よりも、千鳥目配管の方が、流速度、配管等しき場合には、常に熱伝達率は大となり、換言すれば、伝熱上有利となることを知るのであるが、実際問題として、これら両配管の何れが、経済的に他より優るかに就ては、単に熱伝達率のみならず、流速度の増加に伴う流動抵抗、即ち、圧力損失の多寡をも、同時に比較せねばならぬ。」(第313頁10行〜第314頁1行)ことが記載されている。
また、「碁盤目配管」については、第310頁の180図の他に、第311頁の第182図等の記載があり、「千鳥目配管」については、第310頁の第181図の他に、第312頁の第183図等の記載がある。第182図及び第183図のいずれにも、ピッチが管径の1.4から3.0倍の範囲におけるfa値のグラフが示されている。

(7)甲第7号証
甲第7号証には、小型ガス燃焼温水ボイラに関し、図面とともに、「本発明は、・・・小型家庭用ボイラについて特に説明がなされるが、・・・通常は、大型ボイラ、あるいは工業用ボイラにも応用されるということを理解されたい。」(第1欄17〜24行和訳)こと、「鋳鉄または鋼鉄の熱伝達部材がガス燃焼器のすぐ近くに位置するように設計され」(第1欄28〜30行和訳)ること、「温水ボイラ部分に冷水が入っても亀裂を生じず、放射状の炎に直接接触させるか、炎のすぐ近くにあって、しかも鉄のフレームには直接接触しないようにして非常に大きな熱吸収面を持たせ、・・・部分的にずらして並行に重畳された管を持つこじんまりとした小型重畳水平部ガス燃焼ボイラを設計することである。」(第1欄55〜57行和訳)こと、「燃焼器は最も下部の管部分に密接して置かれ、92に示すように、燃焼器の頂部と一番下の管の底部との間には小さな空間しかないということに注意されたい。」(第4欄58〜61行和訳)こと、「図示しているボイラは、前部から背部まで約161/2インチ、側部から側部まで約14 1/4インチ、全体の深さが約3 15/16インチある。 管部分そのものは、深さが約2 5/16インチで、標準の管の最大幅は約1 3/4インチである。 管そのものはフィンなしで、深さ2 1/2インチであるのに対して、幅が約1 3/4インチあり、一方、フィン付きでは深さが3 7/16インチで幅が2 3/4インチである。 終端側の管はフィンなしで、最大幅が2 7/16インチで深さが2 5/8インチで、フィン付きだと、最大幅が3インチで速さが3 11/16インチである。 細い側部終端管はフィンなしで、最大幅が1 5/16インチで深さが2 1/16インチあり、フィン付きだと、幅が1 1/2インチで深さが3 3/8インチである。」(第5欄7〜21行和訳)ことが記載されている。

(8)甲第8号証
本件特許の公開公報である。

(9)甲第9号証
本件特許の公告公報及びその訂正公報である。

(10)甲第10号証
本件特許について、原告を株式会社ヒラカワガイダム、被告を三浦工業株式会社とする特許権侵害差止請求事件の訴状である。

(11)甲第11号証
特許庁が平成10年審判第18424号事件についてした審決について、原告を三浦工業株式会社、被告を特許庁長官とする審決取消請求事件の判決書(抄)であり、甲第11号証には、「本件第2発明は、特開昭60ー78247号公報に記載の発明を従来技術として、同発明がサーマルNOxの低減をも果たしているという知見を前提として発明されたものということができる。」(第23頁17〜20行)ことが記載されている。なお、上記特開昭60ー78247号公報は、本件における甲第1号証である。

(12)甲第12号証
特許庁が平成9年審判第13996号事件についてした審決について、原告を株式会社ヒラカワガイダム、被告を三浦工業株式会社とする審決取消請求事件の判決書であり、甲第12号証には、「本件考案の新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において、数値限定[1](合議体注:[1]は、甲第12号証では丸数字で記載されている。以下、同様))あるいは数値限定[2]の根拠(具体的には、数値限定[1]あるいは数値限定[2]を採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)が明確にされなければならない旨の原告の主張は、正当である。」(第11頁9〜13行)こと、「付言すれば、・・・垂直水管の距離(数値限定[1])及び各垂直水管の間隙(数値限定[2])は、缶体の大きさ、バーナの性能、垂直水管の数等の具体的な諸条件を総合考慮してこそ的確に確定できる」(第12頁10〜13行)こと、「しかるに、本件明細書の記載は、得られる作用効果からみて、a「垂直水管の直径dの略3倍」以下の距離と、「垂直水管の直径dの略3倍」を越える距離との間に有意の差異があること b「垂直水管の直径dの略3倍の距離」と、無限に零に近い距離とが等価であることについて何ら明らかにするところがないのである。」(第14頁3〜10行)ことが記載されている。

(13)甲第13号証
本件特許出願と同日付けで、被請求人によって出願された出願の一部を新たな特許出願として出願されたもの(特願昭10ー162035号)の公開公報である。

(14)甲第14号証
上記特願昭10ー162035号出願に対して通知された拒絶理由通知書であり、上記通知書において、特公昭52ー18937号公報(本件における甲第3号証)が引用文献(3)として引用されている。

(15)甲第15号証
上記特願昭10ー162035号出願に対して送達された拒絶査定書である。

6.当審の判断
6ー1 請求人の主張する(理由1)について
(1)対比
(a)甲第1号証には、上記5.(1)で指摘した事項からみて、瞬間湯沸器、温水ボイラ等における熱交換を行う装置において、内胴2内に、理論空気量以上の空気を予混合した燃料ガスが燃焼するガスバーナ1に形成された火焔(燃焼ガス)の近傍又はこれに接して熱交換器6の一部からなる冷物体3を配置して火焔の温度を約1000℃以上、1500℃以下の温度に制御し、次にこの温度制御された火焔を断熱空間5内に通し、次に熱交換器6に導いて熱交換を行うことによりCOの発生を抑制しながら高負荷燃焼を行う熱交換を行うための装置が記載されている。
また、甲第1号証には、「高負荷燃焼により発生した火焔(燃焼ガス)の近傍又はこれに接して冷物体を置き、火焔の温度を火焔中のCO2が解離せず、又COの酸化反応の進行する温度すなわち約1,000℃以上、約1,500℃以下に制御する。」(第2頁右上欄8〜12行)、「温度制御された火焔を次に断熱空間内に通し、この断熱空間内において火焔中の残留COを酸化反応させてCO2に変成する。」(第2頁右上欄15〜17行)と記載されており、甲第1号証における冷物体及び断熱空間内における火焔(燃焼ガス)温度が1300℃以下に制御された領域は、甲第4号証に記載されたサーマルNOxの生成速度が急激に上昇する温度1300℃以下にあたる。このことは、甲第11号証において、甲第1号証である特開昭60ー78247号公報に関し、「本件第2発明は、特開昭60ー78247号公報に記載の発明を従来技術として、同発明がサーマルNOxの低減をも果たしているという知見を前提として発明されたものということができる。」(第23頁17〜20行)と記載されていること、また、甲第3号証に「二次燃焼は・・・又熱交換器8’より吸熱されながら燃焼するので、火炎温度が低く、NOx生成は極少である。」と記載されていることからも窺える。
(b)しかしながら、甲第1号証には、本件特許明細書に記載された「従来のような燃焼室の場合における大きな火炎のかたまりの状態ではその中心部にホットスポットが発生し、N0xの排出量が増大して公害問題を惹き起すという問題点もあった。」、「上記のように限界伝熱面熱負荷の存在とNOxの生成を抑制するためには従来の装置のままではボイラ火炉を小さくすることはできない。そこで従来の限界を突き破るためには、従来よりも上記限界伝熱面熱負荷の格段に高い高負荷燃焼と該高負荷燃焼下における低NOx化を可能ならしめる新規な水管式ボイラを必要とすることになる。」、「上記に鑑み、本発明はNOxの生成を抑制しながら、高負荷燃焼を行わせて、局部伝熱面熱負荷を一定値以下に抑えながら、ボイラ火炉部分を著しく小さくし、それによって小型軽量化を図った燃焼室に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した収熱水管内挿型燃焼室を有する水管式ボイラを提供することを目的とする」という本件発明の技術的課題及び同明細書に記載された「ガス燃料の燃焼火炎を収熱水管にぶっつけても収熱水管の壁面から1mm以内のごく薄い部分では確かに火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃分が存在するが、収熱水管と収熱水管との間に上記に記載した1mmを超過した適当な例えば数10mm程度の隙間を設けることによって、その空間において残存するCOや未燃焼分が燃焼して消滅することが判明した。特に水管後流部の流れの乱れた部分でのCOの消滅が著しいことがわかった。これにより収熱水管はむしろ燃焼を促進し、バーナヘッドからCOの消滅する迄の距離(火炎長さ)は収熱水管のある方がずっと短くなる。」という本件発明における新たな知見は何ら記載も示唆もされていない。しかも、甲第1号証には、「高負荷燃焼により発生した火焔(燃焼ガス)の近傍又はこれに接して冷物体を置き」(第2頁右上欄8〜9行)、「前記ガスバーナ1に形成された火焔の先端に殆ど接する位置に設置された冷物体」(第2頁左下欄6〜7行))と記載されており、甲第1号証において、本件発明の「燃焼反応部(燃焼火炎部)」に相当する部位は、その第1図及び第3図からみても、ガスバーナ1から冷物体3の近傍あるいは冷物体に接するところまでをいうものと解され、甲第1号証に記載された冷物体、すなわち熱吸収水管は、本件発明の上記技術的課題を解決するとともに上記知見を具体化するために、「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入し」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設した」という本件発明の構成を備えているとはいえない。
また、甲第1号証には、「本発明に課せられた技術的な課題は燃焼室空間をおかないでバーナにより形成された火焔で熱交換器を加熱し、温水を得ながら排ガス中に残留しているCOを無くする熱交換方法及びその装置を提案することである。」(第2頁左上欄20行〜同頁右上欄4行)と記載されているが、ここでいう「燃焼室空間をおかないで」は、甲第1号証に記載された「従来のようなブンゼンバーナ火焔とは異なり、空気との混合の必要のない予混合ガスをガスバーナにて高負荷燃焼させるので、火焔が空気と混合する空間すなわち燃焼室空間は不要となり」(第3頁左下欄1〜4行)からみて、予混合バーナを採用することにより、第4図に示された従来の燃焼室空間を必要としないことを意味するものと解され、この「燃焼室空間をおかないで」の記載をもって、甲第1号証に記載された冷物体、すなわち熱吸収水管が、本件発明のように「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成を有しているとはいえない。
(c)なお、請求人は、「甲第1号証においても本件発明と同様、冷物体による火焔(燃焼ガス)の冷却によって燃焼ガスの高温場での滞留時間を短縮する制御を行っており、且つ、本件発明の燃焼反応部(燃焼反応ゾーン)である燃焼ガス温度1835℃から1200℃の領域は、甲第1号証の断熱空間5までの領域とほぼ一致している(甲第1号証の第3図参照)。」(審判請求書第7頁15〜19行)、「したがって、甲第1号証の第1図において、ガスバーナ1から断熱空間5までが燃焼反応部(燃焼火炎部)であり、この部分も含めてガスバーナ1から最終列のチューブ4までの範囲が収熱水管内挿型燃焼室であることになる。」(同第7頁20〜22行)と主張している。
しかしながら、甲第1号証には、「本発明に課せられた技術的な課題は燃焼室空間をおかないでバーナにより形成された火焔で熱交換器を加熱し、温水を得ながら排ガス中に残留しているCOを無くする熱交換方法及びその装置を提案することである。」(本件明細書第2頁左上欄20行〜同頁右上欄4行)と記載されており、ガスバーナ1から最終列のチューブ4までの範囲が燃焼室であるとの記載はなく、ガスバーナ1から最終列のチューブ4までの範囲が収熱水管内挿型燃焼室であるとする請求人の主張は理由がない。
また、6-1(1)(b)で検討したように、甲第1号証に記載された燃焼反応部(燃焼火炎部)は、バーナ1から火焔が接する冷物体までの領域をいうものと解され、甲第1号証に記載された断熱空間における燃焼ガス温度が1200℃にあるからといって、ガスバーナ1から断熱空間5までが燃焼反応部(燃焼火炎部)であるとする請求人の主張は理由がない。
(d)したがって、甲第1号証には、本件発明の「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)とし」、かつ、「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成が開示されているという請求人の主張は理由がない。
(e)そこで、本件発明と甲第1号証に記載された発明を対比すると、甲第1号証に記載された「瞬間湯沸器、温水ボイラ等における熱交換を行う装置」、「理論空気量以上の空気を予混合した燃料ガスが燃焼するガスバーナ1に形成された火焔(燃焼ガス)」、「熱交換器6の一部からなる冷物体3」は、それぞれ、本件発明の「水管式ボイラ」、「燃焼反応部(燃焼火炎部)」、「熱吸収水管」に相当し、また、甲第1号証には、燃焼室の領域について記載はないが、単段の燃焼室は存在するといえるから、本件発明と甲第1号証に記載された発明は、熱吸収水管を配設し、燃焼室を単段に設け、バーナを単数個又は複数個配設したガス燃料の燃焼を行う水管式ボイラの点で一致し、次の点で相違している。
本件発明は、燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)とし、燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し、収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設しているのに対し、甲第1号証に記載された発明はそのようになっていない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
(a)甲第2号証には、温水ボイラなどに使用される流体加熱装置に関し、「燃焼手段に近接して第一伝熱管群を配置し、この第一伝熱管群に隣接して前記燃焼手段より離れた位置に通気性の輻射体を配置し、さらにこの輻射体に隣接して前記燃焼手段より離れた位置に第二伝熱管群を配置したことを特徴とする流体加熱装置」(特許請求の範囲)であること、「本発明において、燃焼手段としては、・・・天然ガス・・・を燃料として、特に好ましくは、ガスバーナが使用される。」(第2頁右上欄9〜12行)こと、「第一の伝熱管群は、燃焼手段に最も近接して、例えば燃焼手段によって形成される火炎中あるいは火炎の先端に近接した位置に配置される。」(第2頁右上欄15〜17行)ことが記載されており、甲第2号証に記載された第一の伝熱管群は、ガス燃料の燃焼を行う火炎中にあるといえる。
また、甲第2号証には、「第一の伝熱管群16の伝熱管は、外径5〜20mm、肉厚1〜3mmとされ、伝熱管の配列間隔は10〜20mm」(第3頁左下欄8〜10行)と記載されており、この場合、伝熱管の間のピッチ(P)と伝熱管の直径(D)の比は、P/D≦4の範囲にあり、伝熱管の間隙は15mm以下にあるといえる。また、実施例における「第1の伝熱管群:内径4.5mm,外径7mm,配列間隔12mm,全部で10本一列に配置」(第4頁右上欄11〜12行)の場合、P/D=1.7となり、伝熱管の間隙は5mmとなる。
そうすると、甲第2号証には、温水ボイラなどに使用される流体加熱装置において、ガス燃料の燃焼を行う燃焼手段によって形成される火炎中に多数の伝熱管からなる第一の伝熱管群を配置し、第一伝熱管群に隣接して燃焼手段より離れた位置に通気性の輻射体を配置し、さらにこの輻射体に隣接して燃焼手段より離れた位置に多数の伝熱管からなる第二の伝熱管群を配置し、第一の伝熱管群の伝熱管の間のピッチ(P)と第一の伝熱管の直径(D)との比を、P/D≦4とし、第一の伝熱管群の伝熱管の間隙を15mm以下としたことが記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、第一伝熱管により燃焼反応部(燃焼火炎部)の火炎温度がどのようになるかは何ら記載も示唆もされておらず、しかも、甲第2号証に記載された「第一の伝熱管群を燃焼手段に近接されて設けたことによりCO等の不完全燃焼生成物が発生するが、これらの不完全燃焼生成物は通気性の輻射体を通過する際に、輻射体の熱を受けて完全燃焼する。」(第2頁右下欄9〜13行)、「第一および第二の伝熱管群16,18を反応焼結炭化ケイ素としたことにより、NOxの発生に伴う硝酸に対して、耐腐食性も得られる。」(第5頁右上欄13〜16行)」からみて、甲第2号証には、燃焼反応部(燃焼火炎部)において、NOxとCOの低減を図るものとはいえず、上記6-1(1)(b)で指摘した本件発明の技術的課題及び本件発明の新たな知見が記載もしくは示唆されているとはいえない。
また、甲第2号証に記載された第一の伝熱管は、ガス燃料の燃焼を行う火炎中に配置されるとしても、上記したように第一伝熱管により燃焼反応部(燃焼火炎部)の火炎温度がどのようになるかは何ら記載も示唆もなく、甲第2号証に記載された「燃焼手段の燃料ガス吐出口(例えばバーナの先端)と第一の伝熱管群との距離は100mm以内とすることが好ましい。言い換えると、火炎の長さは、・・・一般には50mm程度以下であるため、結局、第一の伝熱管は、火炎の先端付近から50mm程度以内に配置されることになる。」(第2頁右上欄15〜同頁左下欄4行)こと及びその図面からみて、本件発明のように「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」たものとはいえないから、甲第2号証に記載された第一の伝熱管群は、本件発明の上記技術的課題を解決するとともに上記知見を具体化するように配置されているものではない。
そうすると、甲第2号証に記載されたものは、本件発明の上記技術的課題を解決するとともに上記知見を具体化するために、「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入して燃焼室とし」、かつ、「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成及びそのように配設した収熱水管において、「収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設し」た構成を備えているとはいえない。
(b)また、甲第3号証には、上記6-1(1)(a)検討したように、火炎温度を低くすることにより、NOxの低減が図れることが示されている。
しかしながら、甲第3号証には、熱交換器8’が二次燃焼室3内にどのように配置されているかについては何ら記載も示唆もされておらず、甲第13号証乃至甲第15証の事実はあるにしても、甲第3号証に記載されたものが、本件発明のように「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成を備えているとはいえない。
(c)さらに、甲第5号証及び甲第6号証には、熱交換器における伝熱管の配置構造が記載され、甲第7号証には、ボイラの熱伝熱部材をガス燃焼器の放射状の炎に直接接触させること及びその熱伝熱部材の配置構造が記載され、それぞれ伝熱水管の間の間隙が、本件発明の収熱水管の間の間隙を含む数値が示されているが、本件発明の上記技術的課題を解決するとともに上記知見を具体化するために、本件発明の「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入して燃焼室とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成及びそのように配設した収熱水管において「収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設し」構成を備えていない。
(d)なお、請求人は、本件発明は数値限定にしか特徴が無いが、この場合の数値限定には、限定された数値範囲における臨界的な意義や根拠が明細書に要求されるところ、1.1≦P/D≦2.0との限定に臨界的意義などあるとはとても思えない、すなわち、P/Dが1.1未満と1.1以上とで或いは2.0以下と2.0超とで、本件発明の効果であるボイラの小型軽量化、信頼性、安全性などにおいて特段の差異が生じるとは到底考えられず、従来のボイラで普通に採用されている数値範囲を単に記載しているにすぎない、また、本件発明の「収熱水管の間隙」も同様である旨(審判請求書第10頁8行〜第11頁9行)主張している。
しかしながら、本件発明における数値限定「1.1≦P/D≦2.0」については、本件特許明細書に「またこの収熱水管内挿型燃焼室における収熱水管の配列としては接触伝熱効果を上げるために、収熱水管群中では火炎又は燃焼ガスをある程度早い流速にする必要があり、或はバーナの燃焼断面熱負荷特性から、収熱水管群間では流速を或程度低下させる必要があるため、水管のピッチ(P)と水管直径(D)の比(P/D)を1.1〜2.0にすることが望ましい。P/Dが1.1未満では、水管まわりのガス流速が早くなりすぎて圧力損失が大きくなることや、燃焼に必要な流れ方向に直角な断面積がとれなくなり、燃焼上問題があり、またP/Dが2.0を超過すると、ガス流速が遅くなり、収熱水管の伝熱性能が悪化し、結局燃焼室の小型化ができないということになる。」(第5頁2〜11行)と記載され、数値限定「1mm以上数10mm以下」については、同じく「本発明者等の基礎的研究の結果からガス燃料の燃焼火炎を収熱水管にぶっつけても収熱水管の壁面からlmm以内のごく薄い部分では確かに火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃焼分が存在するが、収熱水管と収熱水管との間に上記に記載したlmmを超過した適当な例えば数10mm程度の隙間を設けることによって、その空間において残存するCOや未燃焼分が燃焼して消滅することが判明した。」(第4頁8〜13行)と記載されており、燃焼火炎中に収熱水管を多数密に挿入したときの数値限定についての作用効果及びその数値限定した意義について記載されており、請求人が主張するように従来のボイラで普通に採用されている数値範囲を単に記載しているにすぎないとすることはできない。
(e)そうすると、本件出願前に頒布された甲第1号証乃至甲第7号証のいずれにも、本件発明の「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入して燃焼室とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成及びそのように配設した収熱水管において「収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設し」構成が記載されておらず、甲第8号証乃至甲第13号証を参酌しても、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証乃至甲第7号証に記載された事項を適用して上記相違点であげた本件発明の構成を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
(f)そして、本件発明は、上記したように、本件特許明細書に記載された「本発明は従来の燃焼方式とその燃焼方式を全く変えた収熱水管内挿型燃焼室の採用によって、ボイラから排出されるNOxを約25%程度以上(第3図参照)に低減しながら、当該燃焼室の容積を従来の1/10〜1/20程度以下にできて、そのためボイラの大きさを従来の1/2程度以下にすることに成功したもので、ボイラの小型、軽量化が達成された。しかも従来の炉壁水管においては、伝熱面熱負荷が不均一で、一部焼損の危険にさらされていたが、本発明の燃焼室内挿型収熱水管では、均一伝熱面熱負荷で伝熱面熱負荷の限界値以下に設計することができるため、ボイラの信頼性、安全性が向上する」という格別の効果を奏するものである。
なお、請求人は、特許明細書の発明の効果の記載中「ボイラから排出されるNOxを約25%程度以上(第3図参照)に低減」は、特定の予混合バーナによる実験結果に基づくものであり、先混合バーナでは同様な結果が得られるというものではなく、本件発明による効果ではない旨(審判請求書第4頁21行〜第5頁7行)主張している。
しかしながら、本件発明は、「NOxの低減を図りながら、燃焼室の容積を従来の1/10〜1/20程度以下にできる」という効果を奏するものであり、本件発明の効果の記載中に予混合バーナの採用に基づく「約25%程度以上(第3図参照)」の記載は、一実施例の結果を単に例示したにすぎないものとしても、上記本件発明の効果が否定されるものではない。
また、請求人は、特許明細書の発明の効果の記載中「本発明の燃焼室内挿型収熱水管では、均一伝熱面熱負荷で伝熱面熱負荷の限界値以下に設計することができるため、ボイラの信頼性、安全性が向上する効果を奏する。」との記載も、要するに「伝熱面負荷の限界値以下に設計できる。」と言うほどの意味なのであるから、「均一伝熱面負荷」云々の部分も含め、燃焼反応部(燃焼反応部)に熱吸収水管を配設したことの当然の効果を述べているにすぎない旨(審判請求書第5頁8〜12行)主張している。
しかしながら、上記「本発明の燃焼室内挿型収熱水管では、均一伝熱面熱負荷で伝熱面熱負荷の限界値以下に設計することができるため、ボイラの信頼性、安全性が向上する」という本件発明の効果は、特許請求の範囲に記載された構成を採用することによる生じる格別の効果ということができ、請求人の主張は理由がない。
(g)したがって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第5号証乃至甲第7号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする請求人の主張は理由がない。

6-2 請求人が主張する理由(2)について
(1)対比
(a)甲第2号証には、上記6-1(2)(a)で検討したように、温水ボイラなどに使用される流体加熱装置において、ケーシング12内に、ガス燃料の燃焼を行う燃焼手段によって形成される火炎中に多数の伝熱管からなる第一の伝熱管群、第一伝熱管群に隣接して燃焼手段より離れた位置に通気性の輻射体、さらにこの輻射体に隣接して燃焼手段より離れた位置に多数の伝熱管からなる第二の伝熱管群をそれぞれ配置し、第一の伝熱管群の伝熱管の間のピッチ(P)と第一の伝熱管の直径(D)との比を、P/D≦4とし、第一の伝熱管群の伝熱管の間隙を15mm以下としたことが記載されている。
(b)しかしながら、甲第2号証には、上記6-1(2)(a)で検討したように、本件発明の技術的課題及び本件発明の新たな知見は記載もしくは示唆されておらず、甲第2号証に記載された第一の伝熱管は、「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」たものとはいえず、甲第2号証に記載された第一の伝熱管群は、本件発明の上記技術的課題を解決するとともに上記知見を具体化するために、「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入して燃焼室とし」、かつ、「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成及びそのように配設した収熱水管において「収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設し」構成を備えているとはいえない。
(c)そこで、本件発明と甲第2号証に記載された発明を対比すると、甲第2号証に記載された「温水ボイラなどに使用される流体加熱装置」、「ガス燃料の燃焼を行う燃焼手段によって形成される火炎」、「第一の伝熱管群を構成する伝熱管」、「燃焼手段」は、それぞれ、本件発明の「水管式ボイラ」、「ガス燃焼を行う燃焼反応部(燃焼火炎部)」、「熱吸収水管」、「バーナ」に相当し、また、甲第2号証には、燃焼室の領域について記載はないが、単段の燃焼室は存在するといえるから、両者は、
水管式ボイラにおいて、ガス燃焼を行う燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を配設し、燃焼室を単段に設け、バーナを単数個又は複数個配設した水管式ボイラの点で一致し、次の点で相違する。
本件発明は、燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)とし、燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し、収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設しているのに対し、甲第1号証に記載された発明は、燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を配置し、収熱水管に隣接して燃焼手段より離れた位置に通気性の輻射体、さらにこの輻射体に隣接して燃焼手段より離れた位置に多数の伝熱管からなる第二の伝熱管群を配設し、収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1<P/D≦4.0となし、かつ収熱水管の間隙を数15mm以下となるように水管群を配設している点。

(2)特許法第29条第1項第3号についての判断
本件発明と甲第2号証に記載された発明は、上記相違点であげた点で構成が相違しており、本件発明は、甲第2号証に記載された発明ということができないから、本件発明は特許法第29条第1項第3号の規定に該当するという請求人の主張は理由がない。
(3)特許法第29条第2項についての判断
次に、上記相違点について検討する。
(a)甲第3号証には、上記6-1(2)(b)検討したように、熱交換器8’が二次燃焼室3内にどのように配置されているかについては何ら記載も示唆もされておらず、甲第13号証乃至甲第15証の事実はあるにしても、甲第3号証に記載されたものが、本件発明のように「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成を備えているとはいえない。
(b)また、甲第1号証には、上記6-1(1)(a)検討したように、NOxの生成を抑制する領域はあるにしても、本件発明のように「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した燃焼室(以下収熱水管内挿型燃焼室という)とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成を備えているとはいえない。
(c)さらに、甲第5号証乃至甲第7号証には、上記6-1(2)(c)で検討したように、伝熱水管の間の間隙が、本件発明の収熱水管の間の間隙を含む数値が示されているが、本件発明の上記技術的課題を解決するとともに上記知見を具体化するために、本件発明の「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入して燃焼室とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成及びそのように配設した収熱水管において「収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設し」構成を備えていない。
(d)そうすると、本件出願前に頒布された甲第1号証乃至甲第7号証のいずれにも、本件発明の「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入して燃焼室とし」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設し」た構成及びそのように配設した収熱水管において「収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設し」構成が記載されておらず、甲第8号証乃至甲第15号証を参酌しても、甲第2号証に記載された発明に甲第1号証及び甲第3号乃至甲第7号証に記載された事項を採用して、上記相違点であげた本件発明の構成を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
(e)そして、本件発明は、上記相違点であげた構成を有することにより、上記6-1(2)(f)で検討したとおりの格別の効果を奏するものである。
(f)したがって、本件発明は、甲第2号証に記載された発明に甲第3号証または甲第1号証に記載された事項を組み合わせて当業者が容易になし得たとする請求人の主張は理由がない。

6-3 請求人が主張する理由(3)について
(1)請求人は、「本件特許明細書には「収熱水管の壁面からlmm以内のごく薄い部分では確かに火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃焼分が存在するが、収熱水管と収熱水管との間に上記に記載した1mmを超過した適当な例えば数10mm程度の隙間を設けることによって、その空間において残存するCOや未燃焼分が燃焼して消滅することが判明した」と技術内容が開示されている。 ところで、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなければならないのは勿論であるが(第36条第4項第1号)、本件発明の要件Fでは「収熱水管の間隙を1mm以上、数10mm以下になるように水管群を配設した」と言うのであるから、本件特許発明の内容は、本件特許明細書の開示内容と少しも整合するものではなくむしろ矛盾している。すなわち、「1mmを超過した適当な例えば数10mm程度の隙間」という表現は、新規な技術内容を具体的に開示すべき明細書の表現として、極めて不適切であると言わざるを得ないが(適当な例えば数10mm程度では、独占権付与に相応しい技術開示とは言えない)、仮にその点を措くとしても、本件特許明細書の開示内容を常識的に解釈すれば、残存するCOや未燃焼分が燃焼して消滅するには、「数10mm程度の隙間」又は「数10mm程度を超える隙間」を設けなければならないことになる。 しかるに、本件発明では、1mm≦隙間≦数10mmという技術的に矛盾した限定を設けているのであるから、要件Fは、意味不明の限定であると言うほかなく、この点からして本件発明は特許法36条4項及び36条3項に規定に違反する無効理由に該当する。そもそも、「1mmを超過した適当な例えば数10mm程度の隙間を設けることによって燃焼に問題がなくなる」との技術開示から、なぜ隙間が数10mm以下でなくてはならないのか、数10mmを超えるとなぜ駄目なのか、技術的に到底理解できないと言うしかない。」(審判請求書第11頁15行〜同第12頁9行)と主張している。
しかしながら、本件発明は、本件特許明細書に記載された「従来のような燃焼室の場合における大きな火炎のかたまりの状態ではその中心部にホットスポットが発生し、N0xの排出量が増大して公害問題を惹き起すという問題点もあった。」、「上記のように限界伝熱面熱負荷の存在とNOxの生成を抑制するためには従来の装置のままではボイラ火炉を小さくすることはできない。そこで従来の限界を突き破るためには、従来よりも上記限界伝熱面熱負荷の格段に高い高負荷燃焼と該高負荷燃焼下における低NOx化を可能ならしめる新規な水管式ボイラを必要とすることになる。」、「上記に鑑み、本発明はNOxの生成を抑制しながら、高負荷燃焼を行わせて、局部伝熱面熱負荷を一定値以下に抑えながら、ボイラ火炉部分を著しく小さくし、それによって小型軽量化を図った燃焼室に多数の熱吸収水管を密に配設挿入した収熱水管内挿型燃焼室を有する水管式ボイラを提供することを目的とする」という本件発明の技術的課題及び同明細書に記載された「ガス燃料の燃焼火炎を収熱水管にぶっつけても収熱水管の壁面から1mm以内のごく薄い部分では確かに火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃分が存在するが、収熱水管と収熱水管との間に上記に記載した1mmを超過した適当な例えば数10mm程度の隙間を設けることによって、その空間において残存するCOや未燃焼分が燃焼して消滅することが判明した。特に水管後流部の流れの乱れた部分でのCOの消滅が著しいことがわかった。これにより収熱水管はむしろ燃焼を促進し、バーナヘッドからCOの消滅する迄の距離(火炎長さ)は収熱水管のある方がずっと短くなる。」という本件発明における新たな知見のもとに、「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入し」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設した」構成及びそのように配設した収熱水管において、「収熱水管の間のピッチ(P)と収熱水管の直径(D)との比を1.1≦P/D≦2.0となし、かつ収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下となるように水管群を配設し」た構成としたものであり、本件発明における数値限定「収熱水管の間隙をlmm以上、数10mm以下」は、「燃焼反応部(燃焼火炎部)に多数の熱吸収水管を密に配設挿入し」、かつ「燃焼反応部の全空間又はバーナヘッド近傍の収熱水管を一部除いた燃焼反応部のそれ以外の全空間に収熱水管を配設した」構成を採用しても、火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃分の存在を防止し、かつその空間において残存するCOや未燃焼分が燃焼して消滅する範囲を限定したものであり、この数値限定が特許明細書の記載と矛盾し、また、意味不明の限定であり、技術的に理解できないという請求人は理由がない。
(2)また、請求人は、「しかも、要件Fの数値範囲に含まれる領域である「収熱水管の間隙が1mmの場合」には、収熱水管の壁面からは、せいぜい0.5mmの空間しかとれない理屈となるから、本件特許明細書の開示によれば、火炎のクェンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃焼分が存在することになってしまい、本件特許発明は、技術開示内容と矛盾しており、発明とは言えない部分まで含むという意味で特許法29条柱書きにも違反する無効理由も有している。」(審判請求書第11頁10〜15行)と主張している。
しかしながら、本件特許明細書に記載された「ガス燃料の燃焼火炎を収熱水管にぶっつけても収熱水管の壁面から1mm以内のごく薄い部分では確かに火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃分が存在する」からみて、収熱水管と収熱水管の間に1mm以上の間隙があれば、火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃分の存在を防止できると解されるから、上記請求人の主張は理由がない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-01-04 
結審通知日 2002-01-09 
審決日 2002-01-22 
出願番号 特願昭63-227181
審決分類 P 1 112・ 531- Y (F23C)
P 1 112・ 534- Y (F23C)
P 1 112・ 113- Y (F23C)
P 1 112・ 1- Y (F23C)
P 1 112・ 121- Y (F23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清田 栄章佐野 遵  
特許庁審判長 大槻 清寿
特許庁審判官 滝本 静雄
井上 茂夫
登録日 1997-01-13 
登録番号 特許第2125515号(P2125515)
発明の名称 水管式ボイラ  
代理人 野中 誠一  
代理人 小山 方宣  
代理人 本田 紘一  
代理人 福島 三雄  

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