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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H03H
管理番号 1055091
異議申立番号 異議2001-71380  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-07 
確定日 2002-02-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3107392号「縦結合二重モードリーキーSAWフィルタ」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3107392号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3107392号発明は、東洋通信機株式会社より、平成2年11月30日に特許出願され、平成12年9月8日にその特許権の設定登録がなされ、その後、寺尾健吾より請求項1,2(全請求項)について特許異議の申立て(1),(2)がなされ、平成13年9月11日付で取消理由通知がなされ、その指定期間である平成13年11月8日に意見書が提出されたものである。

2.取消理由通知・特許異議の申立についての判断
(1)本件請求項1,2に係る発明
本件明細書の請求項1,2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1,2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりの
「【請求項1】結合係数の大きい64°YカットLiNbO3基板上にリーキーSAWを励振、受信するための入出力インタデジタルトランスジューサ(IDT)電極をX軸に沿って配置し、その両側に該リーキーSAWを閉じ込めて共振子を構成するための反射器を持つ縦結合二重モードフィルタに於いて、該IDTの電極対数が各々5〜18対、該IDTの周期LTと反射器の周期LRとの比が
LT/LR=0.995〜0.975
であり、且つ、電極膜厚HがリーキーSAWの波長λに対して3±1.5%であって、比帯城幅が2.5%以上であることを特徴とする縦結合二重モードリーキーSAWフィル夕。
【請求項2】前記両IDTの間隔(最内側電極指中心間々隔)lが、前記IDT周期LTに対して
(n/2-1/4)λ≦l<(n/2-1/8)λ
であってnが2乃至8であることを特徴とする請求項(1)記載の縦結合二重モードリーキーSAWフィル夕。」

(2)取消理由通知の内容
当審が平成13年9月11日付けで通知した取消理由通知の概要は、
引用刊行物として、
刊行物1.特開昭53-123051号公報(昭和53年10月27日特許庁発行)
刊行物2.特開昭63-260213号公報(昭和63年10月27日特許庁発行)
刊行物3.「SAW共振子フィルタ」、中川祐三,東洋通信機(株)著、第25回東北大通研シンポジウム「超音波エレクトロニクス-新しい圧電応用-」、1989年2月、第205〜209頁
刊行物4.特開昭63-283309号公報(昭和63年11月21日特許庁発行)を、
又、周知刊行物として、特開昭61-285814号公報及び特開昭64-19814号公報を引用して、
本件の請求項1,2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された引用刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1,2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というものである。

(3)引用刊行物1〜4及び周知刊行物の記載
A.上記引用刊行物1には、
「第1図のようにLiNbO3単結晶基板1の表面にすだれ電極トランスデューサ2をすだれ電極反射系3,4の間に置いて、2で励起された弾性表面波のエネルギーを3と4の間に閉込め、2,3,4の電極指の位置と弾性表面波の位相がそろう周波数で共振現象を生起させ、電気端子5と5′で共振器として動作させている。
この弾性表面波は基板の圧電性を利用したトランスデューサ2から励振されたものでレーリ波として知られている。」(第1頁右下欄第12行〜第2頁左上欄第2行目)
「表面すべり波を用いると、端面で十分に反射され共振器として機能する。表面すべり波は、・・・・圧電性を有する弾性体の基板表面で波の伝搬方向と垂直な表面方向を主体に弾性振動する圧電弾性波である。すなわち純粋な弾性体表面には存在しえない波である。レーリ波が本質的に弾性表面波であり、波の伝搬方向ならびに基板表面と垂直方向に振動し、基板圧電性は波の励振のみに利用されているのにたいして、表面すべり波は本質的に圧電弾性表面すべり波であり、波の伝搬方向と垂直な基板表面方向に弾性振動する横波で、この波の存在には基板圧電性が不可欠である。
表面すべり波の弾性振動振幅は、基板から深さ方向に指数関数的に減衰する。しかし、この深さ方向減衰は、レーリ波の場合より遅く、レーリ波の場合が波長程度であるのにたいして、波長の1/k2b倍程度である。・・・・表面すべり波もレーリ波の場合と同様にすだれ電極で励振可能であり、このときの放射コンダクタンスはやはり式(1)で与えられる。このときの電気機械結合係数k2aはk2bと同程度であり、第2表のようにレーリ波のk2R(第1表)より大きくできることが知られている。」(第2頁左下欄第11行〜同頁右下欄第14行目)
第2表には、材料として、LiNbO364°回転Y切断X伝搬を用いた場合のk2a=0.1であることとY切断X伝搬セラミックスを用いた場合のk2a=0.05〜0.2であることが示されている。(同頁同欄第15〜18行目)
「(3)発明の目的
本発明は、表面すべり波の共振器やろ波器において、すだれ電極を反射系や透過系に用い、表面すべり波の電気機械結合係数k2aがレーリ波のk2Rより大きいことを効果的に利用した共振器やろ波器を提供することを目的としている。
(4)発明の総括説明
表面すべり波は、レーリ波と伝播形態が全く異なり、基板表面から深さ方向への振動減衰度もレーリ波より遅く、振動エネルギーもレーリ波より深部にまで達する。この波は基板切断端面が完全反射に近い反射特性を有するために、この効果を利用する共振器やろ波器への応用が考えられていた。
しかしながら、表面すべり波はすだれ電極でも反射される。・・・・表面すべり波はすだれ電極でも反射させることができ、かつレーリ波のすだれ電極反射よりも有利な場合がある・・・・。」(第3頁左上欄第11行〜同頁右上欄第13行目)
「第9図は、本発明の他の実施例である。第1図の共振器が一開口で端子5と5′の2個であるが、第9図は2開口共振器である。これは同図に示すごとく、a,a′を入力端子とし、b,b′を出力端子とする4端子回路と考えることができ、(B)のごとき等価回路を持つと考えてよい。・・・・本発明は、表面すべり波を用いる例である。このときも、トランスデューサ2,12と反射系3,4以外の全部または、一部分を第7図の場合と同様な考えで金属膜11でおおう必要がある。反射電極の接続法も第9図以外に、第8図やこれらの混合接続でもよい。」(第4頁左上欄第18行〜同頁右上欄第10行目)
「(6)まとめ
以上説明したごとく本発明によれば、弾性表面波共振器やろ波器において、表面すべり波を用い、かつ電気機械結合係数k2が大きくなる基板材質ならびに基板表面切断面と波の伝搬方向を選び、表面すべり波の反射系や透過系に、すだれ電極配置を用いる。表面すべり波は、レーリ波に比べて電気機械結合係数を大きく選ぶことができるので、すだれ電極反射系や透過系の電極対数が少い、したがって基板表面積の少い共振器やろ波器を構成することができる。また、電気機械結合係数k2が大きい基板では、すだれ電極反射系や透過系を広帯域に設計することができるので、広帯域な共振器、すなわち等価回路で容量比r=C1/C0の大きい共振器や、広帯域なろ波器を構成することができる。」(第4頁右下欄第7行〜第5頁左上欄第2行目)
と、記載されている。

すなわち、上記引用刊行物1には、LiNbO364°回転Y切断X伝搬の基板上に表面すべり波を伝播させるフィルタは、電気機械結合係数が大きいこと、及び、該基板上に表面すべり波を発生させるフィルタは、その第9図に示されているように、基板上に入出力トランスデューサと反射器を配置するものであることが記載されている。

B.上記引用刊行物2には、
「(産業上の利用分野)
本発明はラブ波型SAW共振子、殊にラブ波についての電気機械結合係数大なるカット角を用いたLiNbO3基板に金等の重い材料によるIDT電極を付着しSAWを励起する共振子に関する。」(第1頁右下欄第16行〜第2頁左上欄第1行目)
「従来の弾性表面波(SAW)共振子はLiNbO3回転Y板・・・・の表面に励起するレーリ(Rayleigh)波型の波動(縦波のSV波)を利用するものであるがこの型の波動についての電気機械結合係数K2は高々数%と小さいものである為共振子の容量比は50乃至1,000と極めて大きいものであった。
一方、上述した如き圧電基板表面にはレーリ波の外にSH波(圧電表面すべり波)である擬似弾性表面波の存在することが知られており、この波動についての電気機械結合係数は第2図に示す如くLiNbO3回転Y板に於いては20%を越えるものである。
但し、この擬似弾性表面波は基板中にバルク波を放射しつつ伝搬するリーキ(Leaky)波でありそのままでは伝搬減衰も大きい。」(第2頁右上欄第20行〜同頁左下欄第15行目)
と、記載されている。

すなわち、上記引用刊行物2には、LiNbO3回転Y板上に励振される圧電表面すべり波は、リーキ波であり、その電気機械結合係数は大きいことが記載されている。

C.上記引用刊行物3には、
「3.4 モード結合型フィルタ(横結合および縦結合)」の項に、
「モノリシッククリスタルフィルタは、一枚の水晶板上に同一周波数を持つ電極を配し、その間を音響的に結合させれば2つのモードの周波数が発生する。このモードを対称モード、反対称モードと称する。この2つの共振周波数を利用してフィルタが構成できる。
SAW共振子でも同様な原理に基づくフィルタが構成できる。図3のように2つの同一SAW共振子を並列に近接配置したとき、2つの共振子間に音響結合が生じ、2つの共振モードが励起される。その1つは2つの共振子が中心に対称な変位分布をもち、0次基本モードに対応し、他は中心に対して点対称な反対称モード、すなわち1次横モードに対応する。結合理論的には、2つのモードの周波数差は2つの共振子間の距離や、共振子の振動エネルギーの閉じ込め度合によって決まる。つまり、結合が強ければ広く、弱ければ狭くなる。この2つの共振周波数は互いに逆相の関係にあり、図のように適当な終端条件で接続すれば、2次の帯域通過、2重モードSAW(略してDMS)フィルタが構成できる。」(第207頁右欄第3行〜第208頁左欄第12行目)
「図5のように共振子をSAWの伝搬方向で結合させれば,0次縦モード(対称モード)と1次縦モード(反対称モード)が分離して励起する。この2つの共振周波数を利用すれば、前述同様の動作原理により、縦結合型のDMSフィルタが実現できる。」(第208頁左欄下から第5行〜同頁右欄第3行目)
「図6は縦結合型DMSフィルタの例である。中心周波数930MHz、2セクション、3dBバンド幅20MHz、挿入損失2.5dB、帯域外減衰量65dB、終端インピーダンス50Ωの特性が得られている。用いた基板はXカット、36°Y-X LiTaO3,IDT25+25対、反射器(片側)100本、得られた共振子Qは5000である。」(第209頁左欄第3〜10行目)
と、記載されている。

すなわち、上記引用刊行物3には、SAWフィルタには、2つの共振モードを利用する2重モードフィルタがあり、64°YカットLiNbO3基板を用いて2重モードフィルタを構成すれば、2.5%程度の比帯域幅を有するSAWフィルタが得られることが記載されている。

D.上記引用刊行物4には、
入出力IDTと反射器との間の距離をl1,入出力IDT間の距離をl2,IDTの周期をLとした時、l1=L/2,l2=13L/16とすること(第2頁右下欄第2〜4行目)、または、l2=21L/16とすること(第3頁左上欄第8〜11行目)、及び、これはリーキーSAWにも適用可能であること(第4頁左上欄第5〜7行目)が記載されている。

E.周知刊行物として引用された特開昭61-285814号公報(以下、「周知刊行物1」という。)には、
「(発明の概要)
(略)反射器型SAW共振器を使用することによってフィルタを構成するSAW共振器のQを低下させることなくIDT対数を減少せしめると共にフィルタの通過帯域を制御しうるパラメータを実験的に追求した結果IDT電極指総対数N,IDT電極指交叉幅W及び電極膜厚Hを適切に選択することによって所望の通過帯域を得るようにしたものである。」(第2頁右上欄第7〜16行目)と、記載されている。

F.周知刊行物として引用された特開昭64-19814号公報(以下、「周知刊行物2」という。)には、
「そこで先ず反射係数K′11,K′12の値を実験によって求めた。その方法は入出力IDTが各10対でその間に500本の反射器を置き、その伝送特性において入出力IDTによる帯域通過特性の中に現われるストップバンドの幅ΔfSとその中心周波数fCを測定することによって行った。ここでLT=16μm,f≒246MHz,交叉長は0.32mmである。
さて、電極膜厚を変えてΔfSとfCの変化を測定することによりK′11は質量負荷による共振周波数の変化から、即ちfCの膜厚による変化より求まり、K′12はモード結合理論より(式省略)となりΔfSとfCの膜厚による変化より求められる。」(第3頁左上欄第5〜19行目)
「さて、・・・・リーキーSAW共振子の場合にもそのQを高める為には第2図における|Γ|の最大値近傍、即ち一般的にはその中心周波数fRの近傍に放射コンダクタンスGa/GNが最大となる周波数fTを合わせるようLT/LRの比を選択すればよいので、前記(2)式に前記(6)及び(7)式を代入してfTとfRとを一致させる為LT/LRを求めると0.9953となる。
しかしながら・・・・満足すべき値とはならなかった。
そこで・・・第3図に示す結果を得た。・・・・
本図を詳細に検討するにQが比較的大なる値を示すLT/LRの範囲は0.994乃至0.999であり、これは前記第2図に於いてGa/GNの最大となるfTを|Γ|のほゞ1に近い値の範囲に合わせる補正値と一致する。」(同頁右上欄第15行〜同頁左下欄第19行目)と、記載されている。

(4)対比
そこで、本件発明1と上記引用刊行物1に記載の発明とを対比すると、引用刊行物1における「入出力トランスデューサ」はそれぞれ本件発明1における「入出力インタデジタルトランスジューサ(IDT)」に相当し、両者は共に、結合係数の大きい64°YカットLiNbO3基板上にSAWを励振、受信するための入出力インタデジタルトランスジューサ(IDT)電極をX軸に沿って配置し、その両側に該SAWを閉じ込めて共振子を構成するための反射器を持つ縦結合SAWフィル夕である点では同じである。
ただ、本件発明1においては、用いられている弾性表面波はリーキ波であると記載されており、又、フィルタは2重モードフィルタであり、しかも、IDTの電極対数が各々5〜18対、該IDTの周期LTと反射器の周期LRとの比がLT/LR=0.995〜0.975であり、且つ、電極膜厚HがリーキーSAWの波長λに対して3±1.5%であって、比帯域幅が2.5%以上であるとされているのに対して、上記引用刊行物1記載の発明で用いられている波は表面すべり波と記載されており、又、フィルタは2重モードフィルタではなく、しかも、そこには、本件発明のような具体的な数値を採用することは記載されていない点で、両者は相違している。

(5)当審の判断
よって、上記相違点について検討すると、引用刊行物2に記載の発明から明らかなように、圧電基板上に発生される表面すべり波というのはリーキ波であるので、本件発明において用いられているリーキーSAWというのも引用刊行物1に記載の発明で用いられている表面すべり波と同じであるものと認められ、又、引用刊行物3に記載の発明から明らかなように、2重モードSAWフィルタ自体は当業者に公知であり、又、周知刊行物2に記載の発明から明らかなように、LT/LRの範囲として0.995〜0.975とすること自体は当業者に周知であるが、引用刊行物2〜4及び周知刊行物1,2のいずれにも、結合係数の大きい64°YカットLiNbO3基板上にリーキーSAWを励振、受信するための入出力インタデジタルトランスジューサ(IDT)電極をX軸に沿って配置し、その両側に該リーキーSAWを閉じ込めて共振子を構成するための反射器を持つ縦結合リーキーSAWフィルタにおいて、該フィルタを2重モードフィルタとすると共に、該IDTの電極対数が各々5〜18対、該IDTの周期LTと反射器の周期LRとの比が
LT/LR=0.995〜0.975
であり、且つ、電極膜圧HがリーキーSAWの波長λに対して3±1.5%であって、比帯城幅が2.5%以上であるような構成として、本件発明1のようにすることは記載されておらず、また、そのことを示唆する記載も存在しない。
そして、本件発明1は、上記構成を具備することによって、明細書記載の所期の効果が得られるものと認められる。
したがって、本件発明1は、上記引用刊行物1〜4及び周知刊行物1,2に記載の発明と同一であるとも、又は、それらから当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることもできない。

(6)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を前提とするものであるので、本件発明1が上記甲第1〜4号証刊行物及び周知刊行物1,2に記載の発明と同一であるとも、又は上記甲第1〜4号証刊行物及び周知刊行物1,2に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることができない以上、本件発明2も、上記甲第1〜4号証刊行物及び周知刊行物1,2に記載の発明と同一であるとも、又は上記甲第1〜4号証刊行物及び周知刊行物1,2に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。

3.特許異議申立人の主張について
(1)特許異議申立人の主張
A.特許異議申立人寺尾健吾は、甲第1号証刊行物:「280MHz帯広帯域低損失SAWフィルタ」、森田孝夫,渡辺吉隆,中沢祐三,東洋通信機株式会社著、1990年電子情報通信学会秋季全国大会講演論文集 SA-10-3 第1-263〜1-264頁(社団法人電子情報通信学会1990年9月15日発行)を,甲第2号証刊行物:特開昭61-285814号公報を,甲第3号証刊行物:特開昭64-19814号公報を,甲第4号証刊行物:特開昭63-283309号公報を提出して、甲第1号証は本件特許における、特許法第30条第1項適用申請の対象論文であるが、該適用は認められないので、本件発明1,2は、甲第1〜4号証刊行物に記載の発明から当業者が容易に発明をできたものである、と主張している。

B.又、特許異議申立人寺尾健吾は、甲第1号証刊行物:特開昭53-123051号公報を,甲第2号証刊行物:特開昭63-260213号公報を,甲第3号証刊行物:特開昭61-285814号公報を,甲第4号証刊行物:特開昭64-19814号公報を,甲第5号証刊行物:特開昭63-283309号公報を,甲第6号証刊行物:「SAW共振子フィルタ」、中川祐三,東洋通信機(株)著、第25回東北大通研シンポジウム「超音波エレクトロニクス-新しい圧電応用-」、1989年2月、第205〜209頁を提出して、本件発明1,2は、甲第1〜6号証刊行物に記載の発明から当業者が容易に発明をできたものである、と主張している。

(2)特許異議申立人の主張についての判断
よって、上記それぞれの主張について検討すると、A.の甲第2号証刊行物及びB.の甲第3号証刊行物は、上記取消理由通知の周知刊行物1と同じであり、又、A.の甲第3号証刊行物及びB.の甲第4号証刊行物は、上記取消理由通知の周知刊行物2と同じであり、又、A.の甲第4号証刊行物及びB.の甲第5号証刊行物は、上記取消理由通知の引用刊行物4と同じであり、更に、B.の甲第1号証刊行物及び甲第2号証刊行物及び甲第6号証刊行物は、それぞれ上記取消理由通知の引用刊行物1,2及び3と同じである。
したがって、これらについての判断は、上記「2.」で述べたとおりである。

そして、A.の甲第1号証刊行物は、本件特許権者が、本件出願時に、特許法第30条第1項の適用申請の対象となった論文であるが、それについて、特許異議申立人寺尾健吾は、「甲第1号証に記載されている内容は、「64°Y-XLiNbO3を用いた縦結合DMSフィルタ」に関して、IDTの電極対数については「14対+14対」、電極膜厚については「H/λ=1%、2%、3%」、比帯域幅については「2.9%」のみであり、IDTの周期と反射器の周期との関係およびIDT間隔については何ら記載されておりません。すなわち、本件請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に対して特許法第30条第1項に記載の「第二十9条第1項各号の一に該当するに至った発明」を明らかに越える範囲を含んでおり、その越える範囲については特許法第30条第1項の適用を受けることはできないものと考えられます。」と、主張している。

よって検討する。

特許法第30条第1項の規定は、発明を特許出願する前に、発明者自らが当該発明を特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表する等、同項に該当する行為を行い、該発明が新規性を失った場合を特別に救済するものであり、特許法第29条第1項各号の例外規定である。そして、学会における研究発表の実態は、学会の開催期日前に発表内容の概要を記載した「文書」が学会出席者に配布され、発表行為はこの文書その他を用いて口頭で行われるのが一般的である。そして、この「文書」は、しばしば「予稿集」とも言われるように、発表者が予め発表内容を整理し、又、発表内容の概要を予め他の出席者・聴衆等に知らせることによって他の出席者・聴衆等が同時に多数行われる研究発表のうち、どれに出席するかを選択する際の手助けとなると共に、研究発表を聴取する際の理解を助けるために用いられるものである。又、発表そのものは、口頭で行われるのが通常であるが、その発表内容は、該「文書」に記載された事項に即して行われるものの、該「文書」に記載された発明とすべての点で完全に同一の発明がのみが発表されるわけではなく、その発明に付随する事項も発表されるのが通常である。したがって、当業者が該文書に記載された発明を見れば、その発明に含まれると理解することができる範囲の発明、すなわち、該「文書」に記載された発明と実質的に同一な範囲の発明が発表されたものと解するのが相当である。
したがって、上記したような学会における研究発表の実体に即して考えると、特許法第30条第1項にいう「発明」というのも、「文書」に記載された発明と完全に同一であることまで要求するのは狭きに失して合理的でなく、当業者であるならば、該文書に記載された発明と実質的に同一の範囲の発明に包含されるものと考えるられる範囲の発明を発表したものと解するのが合理的である。
それ故、特許法第30条第1項における「発明」は、「文書」に記載された発明と出願された発明の特許請求の範囲の請求項の記載によって具体的に特定された発明とが完全に同一であることまでもを要求するものではなく、特許出願された発明と実質的に同一であればよいものと解するべきである。

これを本件発明について見ると、「A.の甲第1号証刊行物」には、64°Y-XLiNbO3を用いた縦結合DMSフィルタに関して、IDTの電極対数については「14対+14対」、電極膜厚については「H/λ=1%,2%,3%」、比帯域幅については「2.9%」のみが記載されており、IDTの周期と反射器の周期との関係及びIDT間隔については何ら記載されていないことは認められるが、この対数、電極膜厚、比帯域幅はいずれも本件発明1の範囲に含まれているものであり、本件発明1の実施例の1つを記載したものということができるので、「A.の甲第1号証刊行物」に記載の発明と本件発明1は、実質的に同一であるものと認められる。
したがって、本件発明1は、特許法第30条第1項の適用を受けることができるものである。

以上のとおりであるので、本件請求項1,2に係る発明が、甲第1号証刊行物に記載された発明を越える範囲を含んでおり、その越える範囲については特許法第30条第1項の適用を受けることはできない、という異議申立人の主張は失当であり、採用することはできない。

よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるので、本件特許異議申立て(1),(2)の理由および証拠によっては、本件請求項1,2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1,2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-01-30 
出願番号 特願平2-337281
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H03H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村上 友幸  
特許庁審判長 西川 正俊
特許庁審判官 長島 孝志
橋本 正弘
登録日 2000-09-08 
登録番号 特許第3107392号(P3107392)
権利者 東洋通信機株式会社
発明の名称 縦結合二重モードリーキーSAWフィルタ  

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