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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A47G
管理番号 1056054
審判番号 無効2001-35440  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-01-11 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-10-09 
確定日 2002-03-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第2951320号発明「フレキシブルハンガー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第2951320号(以下「本件特許」という。)及び本件無効審判事件に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
1)特許出願:平成10年6月19日
2)審査請求書:平成10年6月19日付け
3)拒絶理由通知書:平成11年2月25日付け(発送日:平成11年3月9日)
4)手続補正書:平成11年4月23日差出
5)特許査定:平成11年5月18日付け
6)特許権の設定の登録:平成11年7月9日
7)本件無効審判の請求:平成13年10月9日(請求項1:全請求項、に係る特許に対して)
8)審判請求書副本の送達:平成13年11月13日
9)審判事件答弁書:平成14年1月11日付け
10)口頭による審尋:平成14年2月6日
11)口頭審理:平成14年2月6日
12)審理終結:平成14年2月6日

〔2〕当事者の主張
1.請求人は、「特許第2951320号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」(請求の趣旨)ものであって、請求の理由は、本件特許に係る発明は本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する、というにあるものと認められる。
そして、請求人は以下の証拠方法を提出している。
甲第1号証:特開平8-275859号公報
甲第2号証:精説機械製図-三訂版-、実教出版株式会社、1990年12月10日発行
甲第3号証:実公平1-41343号公報

2.一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」(答弁の趣旨)というにある。

〔3〕本件特許に係る発明
本件特許に係る発明は、願書に添付された明細書及び図面からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のものにある。
「請求項1
長手方向にシャフト挿入孔を有し、長手方向中央部に取付金具挿入孔を1方向面に開口する柔軟性のある素材からなるチューブと、シャフト固定用孔とシャフト固定用孔に直角に設けた取付雌ネジ孔とを有する取付金具と、チューブのシャフト挿入孔に挿入され取付金具のシャフト固定用孔に固定されるシャフトと、取付雌ネジ孔に螺合しシャフトを固定する角孔付き止めネジとを有し、取付金具の取付雌ネジ孔に吊り金具部またはスタンド用取付部を着脱自在に兼用可能なことを特徴とするフレキシブルハンガー。」

〔4〕請求の理由に対する判断
1.請求人は、無効審判請求書中の「(3)証拠の説明及び本件特許発明との対比」(第3頁第15行以下)において、以下のように述べ、本件発明は進歩性がないと結論づけている。
「(i)甲第1号証
「特開平8-275859号公報,1996年10月22日公開」
この甲第1号証の【0021】及び図4において以下の記述がある。
『連結金具16は、短管部16aとこれに直交状に連設された連結部24とから成る。この連結部24には下方開口状にネジ孔15が形成されている。』
さらに、【0020】及び図4に以下の記述がある。
『連結金具16に挿入して固定された変形自在な塑性芯線6』と、
『芯線6を包囲する発泡樹脂製肉部7』
そして、【0027】及び図5に以下の記述がある。
『肉部7に貫孔26を形成し、ネジ孔15が外部から見えるような状態』
従って、本件特許発明の構成(A)(B)(C)について、そのものズバリが記載されている。
(ii)甲第2号証
「精説機械製図,実教出版株式会社」
この甲第2号証は本件特許出願日前の1990年発行の刊行物である。
同号証の第185頁〜第186頁に於て、角孔付き止めネジについての記述がある。従って、本件特許発明の構成(D)について、ズバリ記載されている。この止めネジはJIS B 1177に規定されるものであり、止めネジによる軸(シャフト)とボス部(取付金具)との固定手段は、当業者であって通常の知識を有する者に限らず、多くの産業において周知・慣用の技術であり、軸の固定に止めネジを使用することが、何ら有利な効果を奏するものではない。
また、本件特許発明の取付雌ネジ孔にスタンド用取付部をネジにて取着する構成は、上記甲第1号証に明らかに明示されており、その必須構成の取付雌ネジ孔に、止めネジを螺合させて使用することは、当業者が通常の創作によりなされる程度のものであり、何ら進歩性を有するものではない。
さらに、上記甲第1号証において『連結金具16に挿入して固定された変形自在な塑性芯線6』とあり、シャフト(塑性芯線6)を取付金具(連結金具16)に固定する具体的手段として、角孔付き止めネジを使用することは容易に想到できるものであり、何ら困難を要しない。そして、この角孔付き止めネジをフレキシブルハンガーに使用することに、何ら有利な効果を奏するものではない。
なお、本件特許発明の効果として、上述のとおり、「分解、再製作が可能となったので運搬保管が容易になる。」との記載があるが、ここでいう分解、再製作は、構成(E)の「吊り金具部またはスタンド用取付部を着、自在に兼用可能」としたこと、即ち、ハンガー部本体と吊り金具部(またはスタンド用取付部)を着脱自在としていることによる効果である。なぜなら、本件特許出願発明の効果は「運搬保管が容易」とし、「フレキシブルハンガーの表面にナット等の固定具が突起することなく滑らかになり」とある。即ち、本件特許発明の取付金具とシャフトは、表面にナット等固定具が突起することなく滑らかになっているため、「運搬保管が容易とする作用は、「(突起部となる)ハンガー部本体と吊り金具部(またはスタンド用取付部)を着脱自在としていること」によるものであり、角孔付き止めネジを使用することによる分解の効果を期待するものではない。
また、角孔付き止めネジにより取付金具とシャフトとを分解可能としたとしても、その構成は何ら意味(効果)を有するものではない。即ち、上述のとおり運搬保管が容易となるわけでもなく、同じ金属製からなるシャフトと取付金具とを(例えば分別リサイクルするために)分解する理由は一つもない。
(iii)甲第3号証
「実公平1-41343号公報,1989年12月7日公告」
この甲第3号証の図面の簡単な説明と図1〜図5において、ハンガー本体1をフック部2に接続した状態の図と、ハンガー本体1をスタンド14に接続した状態の図とが示されている。これは、ハンガー本体1に図3のフック係止部4を具備させることにより、ハンガー本体1を着脱自在にし、フック部2とスタンド14とを兼用可能にしたものである。
従って、これは構成(E)そのものズバリを記載している。
(4)結び
(i)以上の甲第1号証〜甲第3号証の刊行物から、次の具体的な結論が得られる。
本件特許発明は、甲第1号証と甲第3号証に記載の発明と、甲第2号証に記載の技術とを、単に寄せ集めれば、当業者ならば容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とされるべきものである。 」
2.要すれば、請求人は、甲第1号証には、その【0020】【0021】【0027】及び図4の記載からみて、本件特許発明の構成(A)長手方向にシャフト挿入孔を有し、長手方向中央部に取付金具挿入孔を1方向面に開口する柔軟性のある素材からなるチューブを備えた点、(B)シャフト固定用孔とシャフト固定用孔に直角に設けた取付雌ネジ孔とを有する取付金具を備えた点、(C)チューブのシャフト挿入孔に挿入され取付金具のシャフト固定用孔に固定されるシャフトを備えた点、が記載されており、甲第2号証には、本件特許発明の構成(D)が記載されているという。
しかしながら、甲第1号証には、服飾用ボディに関して、図1〜7とともに、(ア)「他の支持部材18の雄ネジ部17が螺着されるためのネジ孔15を有する連結金具16に、挿入して固定された変形自在な塑性芯線6と、該芯線6の略全長を包囲する厚肉円筒状の発泡樹脂製肉部7を有すると共に、該肉部7の外周面を密着被覆する円筒状の筒状袋5とから成るフレキシブルハンガーであり、上記筒状袋5の両端部9は上記肉部7の両端面8を被覆しながら該肉部7と上記芯線6の間へ差し込んで止着されていることを特徴とするフレキシブルハンガー。」(請求項1)、(イ)「1は変形自在な(フレキシブルな)吊持部であり、図1〜図4に示す如く、中央の連結金具16と、この連結金具16に挿入して固定された変形自在な塑性芯線6と、この芯線6を包囲する発泡樹脂製肉部7と、この肉部7の外周面を密着被覆する円筒状の筒状袋5とを、備える。」(第3頁段落0020)、(ウ)「連結金具16は、短管部16aと、これに直交状に連設された連結部24と、から成る(図4参照)。この連結部24には下方開口状にネジ孔15が形成されている。」(第3頁段落0021)、(エ)「塑性芯線6はアルミニウムや真ちゅう等の塑性変形容易な金属材を使用し、(図4のように)この芯線6を、連結金具16の短管部16aへ挿入して、矢印C,Cで示すように、カシメ等の塑性(プレス)加工によって相互に固定されている。」(第3頁段落0022)、(オ)「図5に示すように、連結金具16bが短い棒状や小横断面細長ブロックであるとき、筒状袋5及び肉部7に貫孔19, 26を形成し、ネジ孔15bが外部から見えるような状態にし、雄ネジ部17付支持部材18と螺着可能としている。」(第3頁段落0027)旨記載されているのであり、また、甲第2号証には、六角穴付き止めねじ等の「止めねじ」に関する一般的な事項が記載されているにすぎずない。
甲第1号証のフレキシブルハンガー及びその製造方法は、アルミニウムや真ちゅう等の塑性変形容易な金属材からなる芯線6を連結金具16の短管部16aへ挿入してカシメ等によって固定されるものであり、支持部材18は別途、連結金具16の連結部24に螺着されるものであり、一方、本件発明は、取付雌ネジ孔を通じて、取付金具2とシャフト4を角孔付き止めネジ21で固定するとともに、吊り金具部7a、スタンド用取付部7bを着脱するものであるから、本件発明のものと甲第1号証記載のものは、「固定・着脱」及び「かしめ」の対象そのものが異なるものである。

3.また、請求人は、甲第3号証には、本件発明の構成(E)取付金具の取付雌ネジ孔に吊り金具部またはスタンド用取付部を着脱自在に兼用可能とした構成が記載されているというが、甲第3号証の「フレキシブルハンガー用フック係止部」は、「ハンガー本体1とフック部2は、雄ねじをフック係止孔5へ挿貫し、雄ねじにナット13を螺合することで回転自在に係合する。また、ハンガー本体1をスタンド式に用いる場合は、第5図のようにスタンド14上部の雄ねじ15を螺孔であるフック係止孔5に螺着して固定する。」(第2頁第4欄第11〜16行)というものであり、ハンガー本体1とフック部2とを止める場合と、ハンガー本体1とスタンド14とを止める場合とでは螺合させる対象が、ナット13であるか、あるいはフック係止孔5であるかで異なっており、そのうえ、取付雌ネジ穴に螺合しシャフトを固定する角孔付き止めネジを有するものでもなく、そもそも、「取付金具の取付雌ネジ孔に吊り金具部またはスタンド用取付部を着脱自在に兼用可能にしたフレキシブルハンガー」に係る本件発明とは基本構成において相違するものである。

4.そして、本件発明は、請求項に記載された構成が相俟って明細書に記載される効果を奏するものであると認められる。
請求人は、本件発明の効果は、「吊り金具部またはスタンド用取付部を着脱自在に兼用可能」としたこと、即ち、ハンガー部本体と吊り金具部(またはスタンド用取付部)を着脱自在としていることによる効果であると主張するが、本件発明の効果は、取付雌ネジ孔に螺合しシャフトを固定する角孔付き止めネジとを有し、該取付雌ネジ孔に吊り金具部またはスタンド用取付部を着脱自在に、かつ兼用可能に螺合した点、など請求項に記載された構成が相俟って奏せられるものであることは明白である。
請求人の主張は、本件発明から得られた知識を前提とした事後的な分析を行い、しかも、本件発明と甲号各証に記載された発明との構成上及び作用効果上の相違点を正確に分析もせずして、正当な論理づけもなくして、単に寄せ集めれば当業者ならば容易にできると論断するものであって、到底受け入れられるものではない。

5.そうすると、その余について検討するまでもなく、本件発明が甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

〔5〕結語
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。また、審判費用は、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-02-13 
出願番号 特願平10-173449
審決分類 P 1 112・ 121- Y (A47G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 信之  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 岩崎 晋
岡田 和加子
登録日 1999-07-09 
登録番号 特許第2951320号(P2951320)
発明の名称 フレキシブルハンガー  
代理人 中谷 武嗣  
代理人 安原 正之  
代理人 安原 正義  

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