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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1056656
異議申立番号 異議2000-72032  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-12 
確定日 2002-02-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2987523号「無アルカリガラス基板」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2987523号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2987523号の請求項1に係る発明についての出願は、平成8年9月25日(優先権主張、平成7年9月28日、日本)に特許出願され、平成11年10月8日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その特許について、特許異議申立人:旭硝子株式会社(以下、「申立人A」という)および特許異議申立人:エヌエッチ・テクノグラス株式会社(以下、「申立人B」という)より特許異議の申立がなされ、その後、その特許について平成13年11月28日(発送日平成12年12月15日)に取消の理由(第1回)が通知され、その指定期間内である平成13年2月13日に訂正請求(第1回)がなされ、ついでその特許について平成13年7月30日(発送日平成13年8月10日)に取消の理由(第2回)が通知され、その指定期間内である平成13年10月9日に新たな訂正請求(第2回)がなされ、同時に先の訂正請求(第1回)は取り下げられたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が訂正請求書(第2回)で求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、「MgO 0〜2.0%」とあるのを「MgO 0〜0.5%」と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書第3頁第13〜24行(平成11年6月28日付け手続補正書による補正を含む。特許掲載公報第2頁第4欄18〜33行)の「である。・・・MgO 0〜2.0%、CaO 0〜10.0%、BaO 0.1〜5.0%、 」とあるのを下記の通りに訂正する。
「である。
発明の開示 本発明の無アルカリガラス基板は、重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%、Al2O3 10.0〜25.0%、B2O3 3.0〜12.0%、MgO 0〜0.5%、CaO 0〜10.0%、BaO 0.1〜5.0%、SrO 3.5〜15.0%、ZnO 0〜5.0%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5.0〜17.0%、ZrO2 0〜5.0%、TiO2 0〜5.0%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、2.6g/cm3を越えない密度と、20℃に保持された重量百分率で38.7%のフッ化アンモニウムと1.6%のフッ酸とを含むバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬しても表面変化がない化学耐久性とを備えていることを特徴とする。
発明を実施するための最良の形態 本発明の無アルカリガラス基板は、重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%、Al2O3 10.0〜25.0%、B2O3 3.0〜12.0%、MgO 0〜0.5%、CaO 0〜10.0%、BaO 0.1〜5.0%、」
ウ.訂正事項c
明細書第4頁第23〜24行(特許掲載公報第3頁第5欄15〜16行)の「0〜2.0%、好ましくは、0〜1.0%」とあるのを「0〜0.5%」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲における「無アルカリガラス基板」のガラス組成のうち、MgO含有量が「0〜2.0%」とあるのを「0〜0.5%」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項b及びcは、上記訂正事項aとそれぞれ整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、これらの訂正は、当初明細書中の実施例が全てMgOの含有量が0%、0.3%、及び0.5%のいずれかであるところ、これに合わせて訂正をしようとするものであるから、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立についての判断
(1)特許異議の申立ての概要
(a)申立人Aの主張
(i)特許法第29条第1項第3号について
申立人Aは、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という)は、下記甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、本件発明の特許は、取り消されるべきであると主張する。
甲第1号証:特開平4-325434号公報
(ii)特許法第29条第2項について
申立人Aは、本件発明は、下記甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に発明することができものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明の特許は、取り消されるべきであると主張する。
甲第1号証:特開平4-325434号公報
(b)申立人Bの主張
(i)特許法第36条第6項第2号について
申立人Bは、本件発明の特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべきであると主張する。
(ii)特許法第29条の2について
申立人Bは、本件発明は、下記先願明細書に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、本件発明の特許は、取り消されるべきであると主張する。
甲第1号証:特願平8-198042号の当初明細書(以下、「先願明細書」という、特開平9-100135号公報参照)
(iii)特許法第29条第1項第3号について
申立人Bは、本件発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、本件発明の特許は、取り消されるべきであると主張する。
甲第2号証:欧州特許出願公開第672629号(対応:特開平8-109037号公報参照)
(iv)特許法第29条第2項について
申立人Bは、本件発明は、甲第2号証〜甲第6号証の記載に基いて当業者が容易に発明することができものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明の特許は、取り消されるべきであると主張する。
甲第2号証:欧州特許出願公開第672629号
甲第3号証:日経マイクロデバイス編「フラットパネル・ディスプレイ 1993」1992年12月10日、日経BP社発行、第172〜175頁
甲第4号証:特開平2-133334号公報
甲第5号証:特開平4-175242号公報
甲第6号証:特開昭63-74935号公報
(v)特許法第39条第1項について
申立人Bは、本件発明は、甲第2号証の請求項1の発明と同一であり、特許法第39条第1項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明の特許は、取り消されるべきであると主張する。
甲第2号証:特願平7-54160号(特開平8-109037号公報:欧州特許出願公開第672629号の対応日本国出願)
(2)本件発明
まず、申立人Bの主張に係る異議理由(i)について検討する。
申立人Bは、本件の請求項1における、「バッファードフッ酸溶液に30分間浸漬しても表面変化がない化学耐久性」との記載において、「表面変化がない」との判定基準は、客観性を欠き不明瞭であり、発明の外延が不明確であるので、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべきであると、主張する。
しかし、本件特許明細書(特許第2987523号公報で代替し、以下、「本件特許公報」という)の第6頁右欄下から2行〜第7頁左欄第6行に「耐バッファードフッ酸性は、光学研磨した各試料を、20℃に保持された38.7重量%フッ化アンモニウム、1.6重量%フッ酸からなるバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬した後、ガラス基板の表面状態を観察することによって評価したものであり、ガラス基板の表面が白濁したり、クラックが入ったものを×、わずかに白濁が見られたものを△、全く変化のなかったものを○とした。」と記載するように、「表面変化」の有無の判定基準は本件特許公報において示されているとおりである。
そして、本件発明に係るガラス基板における「表面変化」の度合いは、その使用目的との関連で評価されるべきであり、ガラス製品の欠陥の有無を目視によって検査することは通常行われている手法であることを考えれば、上記のような目視による観察結果だからといって、直ちに客観性を欠くとはいえず、申立人Bの上記主張は採用することはできない。
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%、Al2O3 10.0〜25.0%、B2O3 3.0〜12.0%、MgO 0〜0.5%、CaO 0〜10.0%、BaO 0.1〜5.0%、SrO 3.5〜15.0%、ZnO 0〜5.0%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5.0〜17.0%、ZrO2 0〜5.0%、TiO2 0〜5.0%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、2.6g/cm3を越えない密度と、20℃に保持された重量百分率で38.7%のフッ化アンモニウムと1.6%のフッ酸とを含むバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬しても表面変化がない化学耐久性とを備えていることを特徴とする無アルカリガラス基板」
(3)引用刊行物等の記載
当審が平成13年7月30日に通知した取消理由(第2回)で引用した下記刊行物には、以下の記載が認められる。
(a)刊行物1(特開平4-160030号公報:申立人Aが平成13年5月8日付け回答書に添付した参考資料1)
(i)請求項1には、以下の記載がある(以下、「記載ア-1」という)。
「SiO2,B2O3,Al2O3,MgO,CaO,SrO,およびBaOを含量で95モル%以上含有し、モル%表示による各成分の含有量が
SiO2 62%以上68%以下
B2O3 8%以上12%未満
Al2O3 9%以上13%以下
MgO 1%以上5%以下
CaO 3%以上7%以下
SrO 1%以上3%未満
BaO 1%以上3%未満
SrO+BaO 2%以上5%以下
であることを特徴とする液晶ディスプレイ基板用ガラス。」
(ii)第3頁左上欄第15〜19行には、次の記載がある(以下、「記載ア-2」という)。
「MgOは、得られるガラスの膨張係数と粘性とを低下させる成分としてアルカリ土類酸化物中で最も効果的な成分であるため、1モル%以上含有させる必要があるが、5モル%を超えて含有させると得られるガラスの耐失透性が低下する。」
(iii)第5頁の表1の実施例2には、下記のガラス組成(モル%)からなるガラス基板について、その歪点、耐弗酸性、耐硝酸性及び耐失透性の測定結果が記載されている。なお、重量%換算値を括弧書きで付記した。(以下、「記載ア-3」という)
「 SiO2 63.9% (55.1重量%)
B2O3 10.0% (10.0 重量%)
Al2O3 11.5% (16.8重量%)
MgO 2.2% (1.3重量%)
CaO 5.3% (4.3重量%)
SrO 2.6 % (3.9重量%)
BaO 2.3% (5.1重量%)
ZnO 1.7% (2.0重量%)
As2O3 0.4% (1.1重量%)
Sb2O3 0.1% (0.4重量%)
歪点(℃) 640
耐弗酸性 10mg/cm2・hr
耐硝酸性 12×10-2mg/cm2・hr
耐失透性 内部失透なし」
(iv)なお、「耐失透性」の試験条件について、表1の欄外の「*5」に、「1100℃で24時間放置した後のガラス内部における失透の有無を示す。」と記載されている(以下、「記載ア-4」という)。
(b)刊行物2(特開平2-133334号公報、申立人Bが提出した甲第4号証)
(i)請求項1には、以下の記載がある(以下、「記載イ-1」という)。
「重量%表示で、
SiO2 54〜60%
Al2O3 10〜15%
B2O3 6〜10%
CaO 8〜15%
BaO 4〜10%
ZnO 1〜6%
TiO2および/またはZrO2 0.3〜4%
MgO 0〜2%
SiO2+Al2O3+B2O3 75〜80%
よりなり、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とする無アルカリガラス。」
(ii)第3頁左下欄第3〜9行には、以下の記載ある(以下、「記載イ-2」という)。
「MgOは、CaOとBaOの一部と置換して使用することにより、ガラスの膨張係数の調整、失透の抑制に効果があるが、2%を超えると特にフッ酸により点蝕を受け白濁を生じ易く、またSiO2-Al2O3-MgO系結晶が析出し易くなり、ガラスの失透傾向が大きくなる。」
(iii)第5頁左上欄第2〜6行には、以下の記載がある。(以下、「記載イ-3」という)。
「本発明の無アルカリガラスは、・・・ガラス基板として好適である。」
(c)刊行物3(特開昭63-74935号公報、申立人Bが提出した甲第6号証)
(i)特許請求の範囲の第1項には、以下の記載がある(以下、「記載ウ-1」という)。
「重量百分率で
SiO2 52〜60%
Al2O3 7〜14%
B2O3 3〜12%
CaO 3〜13%
BaO 10〜22%
SrO 0〜10%
ZnO 0〜10%
からなり、実質的にアルカリ金属酸化物、PbO,MgOを含有しないことを特徴とする耐薬品性に優れた基板用ガラス組成物。」
(ii)第3頁左下欄第13〜15行には、以下の記載がある(以下、「記載ウ-2」という)。
「BaOは、ガラスが耐バッファード弗酸性を損なうことなく溶融性、成形性を高める効果があるので必要な成分であるが、10重量%より少ない場合はこの効果がなく」
(iii)第3頁右下欄第12〜14行には、以下の記載がある(以下、「記載ウ-3」という)。
「MgOはガラスがバッファード弗酸に浸漬されたときに白濁を生ずる原因の一つとなる。」
(d)加瀬準一郎作成「密度計算報告書」(申立人Aの提出した、平成13年5月8日付け「回答書」に添付された参考資料3)
上記「密度計算報告書」によると、上記刊行物1(特開平4-160030号公報)の表-1の実施例2のガラスは、アッペン計算法で密度を求めると、「2.560g/cm3」であると記載されている。
(e)三和晋吉作成「実験報告書」(平成13年10月9日付け「特許異議意見書」に添付された参考資料1)
上記「実験報告書」によると、本件特許公報に記載の「耐失透性試験(第7頁左上欄第7〜11行参照)」に準じて、上記刊行物1(特開平4-160030号公報)の実施例2のガラスについて300〜500μmの粒径のガラス粉末を作成し、1100℃で100時間熱処理した後に失透を観察すると、ガラス内部に「失透(結晶性の異物)」が観察されたと記載されている。
(4)対比・判断
(a)上記刊行物1の請求項1には、液晶ディスプレイ基板用ガラスのガラス組成がモル%表記で記載されており、特に、MgO含有量については「1〜5モル%」と記載されている(「記載ア-1」参照)。そして、「記載ア-2」によると、MgO含有量を「5モル%」を超えて含有させると、「耐失透性」が低下すると記載されているが、「5モル%」以下の領域において、「耐失透性」とMgO含有量とがいかなる関係を有するかについては具体的な記載はない。
ところで、上記のガラスは、モル%表記の組成範囲で各成分の含有量を種々選択するときには、その選択に対応して種々のガラス組成が想定される。一つのガラスにおいては、モル%表記を重量%に換算することは可能であるが、種々の成分の組み合わせが想定されるガラス組成おいては、モル%表記を重量%に直ちに換算することはできない。しかし、各実施例は個々の成分の含有量が特定されているため、重量%に換算することができる。そこで、本件発明1に最も近い組成を有する実施例2のガラスについてみると、MgO含有量は2.2モル%で、1.3重量%に相当するものであり、歪点が640℃、耐弗酸性が10mg/cm2・hr、耐硝酸性が12×10-2mg/cm2・hr、耐失透性試験では内部失透を有しないものと記載されている(「記載ア-3」参照)。
ただし、上記の「耐失透性試験」は、「1100℃で24時間放置した後のガラス内部における失透の有無を示す。」と記載されている(刊行物1の「記載ア-4」参照)。
即ち、上記刊行物1の実施例2のガラス(MgO含有量が1.3重量%(2.2モル%)のガラス)は、「記載ア-4」の「耐失透性試験」によれば、「内部失透なし」と解され、請求項1に記載のMgO含有量が1〜5モル%のガラスについても、実施例2と同様に「内部失透なし」と推定される。
しかし、上記(3)(e)の「実験報告書」によると、本件特許公報に記載の「耐失透性試験」(以下、単に「失透試験」という)により、上記刊行物1の実施例2のガラスについて、300〜500μmの粒径のガラス粉末を作成して「耐失透性」を調べたところ、「内部失透あり」とされている。
ここでは、本件発明1との関係でガラスを評価すべきであるから、「耐失透性」の判定基準は、本件特許公報の「失透試験」によるのが相当である。したがって、上記刊行物1の実施例2のガラス(MgO含有量が1.3重量%(2.2モル%)のガラス)は、少なくとも本件特許公報の「失透試験」では「内部失透」ありと解するのが相当である。そして、上記刊行物1の請求項1に規定の、MgO含有量が1〜5モル%の範囲のガラスについても、上記の「失透試験」で「内部失透」なしとされるガラスを包含すると解する根拠を見出すことができない以上、上記刊行物1には、上記の「失透試験」で「内部失透」なしとされるガラスが記載されているとすることはできない。
そこで改めて、本件発明1と上記刊行物1の記載を対比すると、本件発明1のガラス基板のガラス組成のうち、MgO含有量が0〜0.5重量%であるのに対して、上記刊行物1は1〜5モル%である点で含有量の表記において形式的に相違するだけでなく、両者のガラスは、上記の「失透試験」による「内部失透」の有無で相違する。
そして、ガラス基板として重要な特性である「耐失透性」において区別され、かつ、ガラス組成のうち、少なくともMgO含有量において重複すると解すべき根拠若しくは理由が認められない以上、両者は別異のガラスと解さざるを得ない。
このように、上記刊行物1に、本件発明1の「MgO含有量」及び「耐失透性」について示唆する記載がない以上、本件発明1は、上記刊行物1に記載の発明に該当するとも、同記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
(b)一方、上記刊行物2記載の基板用ガラス組成物は、MgOを0〜2重量%含有するものであり(「記載イ-1」参照)、2重量%を超えると、白濁が生じ易くなり、ガラスの失透傾向が大きくなると記載されているが(「記載イ-2」という)、上記の「失透試験」で「内部失透」なしされるガラスのMgO含有量を具体的に開示したものではない。そして、何よりも、上記のガラス組成物はSrを含有しないものである。
そこで、本件発明1と上記刊行物2の記載を対比すると、本件発明1では、耐薬品性を向上させ、失透性を改善するために、ガラス組成にSrOを3.5〜15.0重量%の範囲で含有させる(本件特許公報第3頁左欄第33〜38行参照)のに対し、上記刊行物2のガラスはSrOを含有しないものであるから、SrOを含有しない上記刊行物2におけるMgO含有量の低減とガラス失透傾向の関係を、直ちに予測することはできない。
してみると、上記刊行物2にMgO含有量を0〜2重量%とする記載があるからといって、上記刊行物1のガラスのMgO含有量を0.5重量%以下にして失透性を確保することは、当業者といえども容易になしうることではない。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1及び2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(c)他方、上記刊行物3記載の基板用ガラス組成物は、MgOを含有せず、BaOを10〜22重量%含有するものである(「記載ウ-1」参照)。MgOを含有させることについては、バッファード弗酸に浸漬するときにガラスが白濁する原因となる(「記載ウ-3」参照)が、BaOを含有させることについては、含有量が10重量%より少ないと、ガラスが耐バッファード弗酸性を損なうことなく溶融性、成形性を高めることができないとしている(「記載ウ-2」参照)。
そこで、本件発明1と上記刊行物3の記載を対比すると、本件発明1では、ガラスの耐薬品性、耐失透性を向上させるために、BaOを0.1〜5.0重量%の範囲で含有させるものであるが、5.0重量%より多いと、ガラスの密度が上昇するため、好ましくないというものである(本件特許公報第3頁左欄第28〜32行参照)のに対して、上記刊行物3のガラスは耐バッファード弗酸性を損なうことなく溶融性、成形性を確保するために、BaOを10〜22重量%の範囲で含有させる必要がある。
このように、両者は、ガラスの耐薬品性確保におけるBaOの配合についての認識に大きな隔たりが存在する以上、耐バッファードフッ酸性のみを考慮して、上記刊行物1のガラス組成においてMgOの含有量を重量百分率で0〜0.5%にすることは当業者といえども直ちになしうることではない。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1及び3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、上記刊行物1〜3の記載を勘案してもその結論が変わるものでもない。
(d)なお、申立人Aが提出した甲第1号証(特開平4-325434号公報)には、アルカリ金属酸化物を含有しない無アルカリガラスが記載されているが、ガラス組成のうち、MgO含有量が1.5〜5重量%であり、BaO含有量が10〜20重量%であって、本件発明1のガラス組成から大きく離れたものであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とすることはできず、同記載から当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
(e)また、申立人Bが提出した上記先願明細書(甲第1号証、特開平9-100135号公報)には、本件発明1に最も近い組成範囲を有する「例46」のガラスにおいても、MgO含有量が「1.3重量%」であるように、本件発明1に係る基板のガラス組成は記載されていない。
したがって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。
(f)さらに、申立人Bが提出した甲第2号証(欧州特許出願公開第672629号)は、フラットパネルディスプレー装置に特に有用なアルミノケイ酸塩ガラスについて記載したものであり(第3頁第5〜6行参照)、請求項1には、「歪点が640℃より高く、95℃で5重量%の塩酸水溶液中に24時間に亘り浸漬した後の損失重量が20mg/cm2未満であり、線熱膨張係数が31×10-7/℃と57×10-7/℃との間の範囲にあり、アルカリ金属酸化物を実質的に含まず、酸化物基準の重量パーセントで計算して、49%〜67%のSiO2と、少なくとも6%のAl2O3、ここでAl2O3は、SiO2が55〜67%の場合6〜14%、SiO2が49〜58%の場合16〜23%であって、SiO2+Al2O3の合計が68%より大きく、0%〜15%のB2O3と、0%〜21%のBaO、0%〜15%のSrO、0%〜18%のCaO、および0%〜8%のMgOからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物とから実質的になり、BaO+CaO+SrO+MgOの合計が12%〜30%であることを特徴とするアルミノケイ酸塩ガラス。」が記載され、請求項5には、「密度が2.5g/ccより小さく、酸化物基準の重量パーセントで計算して、54.8%〜57%のSiO2と、16.8%〜21.8%のAl2O3と、0%〜14%のB2O3と、0.1%〜14.5%のBaO、4.5%〜5.5%のSrO、1.5%〜9.5%のCaO、および2.2%〜2.5%のMgOから実質的になり、BaO+CaO+SrO+MgOの合計が12.5%〜27%であることを特徴とする請求項1記載のアルミノケイ酸塩ガラス。」が記載されている。
即ち、甲第2号証は、密度が2.5g/cc以下のガラスとしては、請求項5に規定する、MgO含有量が2.2〜2.5重量%のガラスが開示されているにとどまり、請求項1に規定のガラス組成が全て上記の密度を有すると解することはできない。その結果当然のことであるが、密度が2.6g/cc以下のガラスについてもその組成範囲を何も開示していない。
そこで、本件発明1と甲第2号証の請求項5のガラスを改めて対比すると、本件発明1のガラスはMgO含有量が0〜0.5重量%で、密度が2.6g/cm3以下であるのに対して、甲第2号証の請求項5の、密度2.5g/cc以下のガラスはMgO含有量が2.2〜2.5重量%と相違する。
両者のガラス密度の上限値に若干の違いがあるものの、MgO含有量に大きな違いがあるところから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできず、同記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。
(g)さらにまた、申立人Bが提出した甲第3号証(「フラットパネル・ディスプレイ1993」日経BP社発行)には、「バッファードフッ酸に対して溶出成分との反応生成物が析出して、基板ガラス表面が白濁する」ことは記載されているものの(第173頁右欄下から3〜5行参照)、ガラス組成のうち、BaO含有量は、ガラス・コード「OA-2」が14重量%であり、ガラス・コード「7059」は25重量%といずれも、本件発明1の組成範囲を大幅に外れたガラスが記載されているにとどまる(第173頁の表2参照)。
また、申立人Bが提出した甲第4号証(特開平2-133334号公報)には、「MgOは、CaOとBaOの一部と置換して使用することにより、ガラスの膨張係数の調整、失透の抑制に効果があるが、2%を越えると特にフッ酸により点蝕を受けて白濁を生じ易く」なると記載され(第3頁左下欄第3〜6行)、甲第5号証(特開平4-175242号公報)には、「MgOは、熱膨張係数を増大させることなく溶融性を向上させる効果がある。MgOが、5%未満では、かかる効果は少なく、15%を越えるとMgO-Al2O3、あるいは、MgO-SiO2結晶が析出し易くなるので、いずれも好ましくない。MgOは、上記範囲中7%〜13%が好ましい。」と記載され(第3頁左上欄第1〜6行参照)、また、甲第6号証(特開昭63-74935号公報)には、「MgOはガラスがバッファード弗酸浸漬されたときに白濁を生ずる原因の一つとなる」と記載されているが(第3頁右下欄第12〜14行参照)、甲第4〜6号証に記載のガラスは、いずれも本件発明1のガラス組成及び密度を示唆する記載が認められないので、甲第2〜6号証の記載を勘案しても上記の判断を変更すべき理由を見出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第2〜6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
(h)申立人Bは、本件発明1が甲第2号証[特開平8-109037号公報(特願平7-5460号)]の請求項1のガラス組成と重複する以上、その重複する甲第2号証の組成範囲のガラスは、本件発明1で規定する密度及び耐バッファードフッ酸性をもともと有しているはずであるから、本件発明1の特許は特許法第39条第1項に違反してなされたものである旨主張する。
しかし、甲第2号証には、本件発明1の組成範囲のガラスが具体的に記載されているわけでもなく、特定のガラス密度及び耐バッファードフッ酸性と特定のガラス組成との関係が記載されているわけでもない。
そして、甲第2号証の請求項1に、上記の関係が規定されていない以上、本件発明1と甲第2号証の請求項1の発明は、技術的思想を異にすると言わざるを得ない。
してみると、本件発明1は、甲第2号証の請求項1の発明と同一であるとすることはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1について特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
無アルカリガラス基板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%,Al2O3 10.0〜25.0%,B2O3 3.0〜12.0%,MgO 0〜0.5%,CaO 0〜10.0%,BaO 0.1〜5.0%,SrO 3.5〜15.0%,ZnO 0〜5.0%,MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5.0〜17.0%,ZrO2 0〜5.0%,TiO2 0〜5.0%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、2.6g/cm3を越えない密度と、20℃に保持された重量百分率で38.7%のフッ化アンモニウムと1.6%のフッ酸とを含むバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬しても表面変化がない化学耐久性とを備えていることを特徴とする無アルカリガラス基板。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、液晶ディスプレイ,ELディスプレイ等のディスプレイ,フィルター,センサー等の基板として用いられる無アルカリガラス基板に関するものである。
背景技術
従来より、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ,フィルター,センサー等の基板として、ガラス基板が広く使用されている。
この種のガラス基板の表面には、透明導電膜,絶縁膜,半導体膜,金属膜等が成膜され、しかもフォトリソグラフィーエッチング(フォトエッチング)によって種々の回路やパターンが形成される。これらの成膜、フォトエッチング工程において、ガラス基板には、種々の熱処理や薬品処理が施される。
例えば、薄膜トランジスタ(TFT)型アクティブマトリックス液晶ディスプレイの場合、ガラス基板上に絶縁膜や透明導電膜が成膜され、さらにアモルファスシリコンや多結晶シリコンのTFTが、フォトエッチングによって多数形成される。このような工程において、ガラス基板は、数百度の熱処理を受けると共に、硫酸,塩酸,アルカリ溶液,フッ酸,バッファードフッ酸等の種々の薬品による処理を受ける。
特に、バッファードフッ酸は、絶縁膜のエッチングに広く用いられる。このバッファードフッ酸は、ガラスを侵食してその表面を白濁させやすい。また、侵食の際に、ガラス成分と反応して反応生成物ができ、これが工程中のフィルターをつまらせたり、基板上に付着することがある。また、塩酸は、ITO膜やクロム膜のエッチングに用いられる。この塩酸もガラスを侵食してその表面を変色させたり、白濁やクラックを生じさせ易い。この種のガラス基板には、耐バッファードフッ酸性と耐塩酸性を付与することが大変重要となる。
従って、TFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイに使用されるガラス基板には、以下のような特性が要求される。
(1)ガラス中にアルカリ金属酸化物が含有されていると、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜特性の劣化を招くため、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないこと。
(2)フォトエッチング工程において使用される種々の酸,アルカリ等の薬品によって劣化しないような耐薬品性を有すること。
(3)成膜、アニール等の工程における熱処理によって、熱収縮しないこと。そのため高い歪点を有すること。例えば多結晶シリコンTFT-LCDの場合、その工程温度が約600℃以上であるため、このような用途のガラス基板には、歪点が650℃以上であることが要求される。
また溶融性、成形性を考慮して、この種のガラス基板には、以下のような特性も要求される。
(4)ガラス中に基板として好ましくない溶融欠陥が発生しないよう、溶融性に優れていること。
(5)ガラス中に溶融、成形中に発生する異物が存在しないように、耐失透性に優れていること。
また近年、TFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイ等の電子機器は、パーソナルな分野への利用が進められており、機器の軽量化が要求されている。これに伴ってガラス基板にも軽量化が要求されており、薄板化が進められている。しかしながら、この種の電子機器は、大型化も進められており、ガラス基板の強度を考慮すると、薄板化については自ずと限界がある。そこで、ガラス基板の軽量化を図る目的で、ガラスの密度を低くすることが望まれている。
従来よりTFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイ基板に用いられている無アルカリガラスとしては、石英ガラス,バリウム硼珪酸ガラス及びアルミノ珪酸塩ガラスが存在するが、いずれも一長一短がある。
すなわち石英ガラスは、耐薬品性,耐熱性に優れ、低密度である。しかし、石英ガラスは、材料コストが高いという難点がある。
また、バリウム硼珪酸ガラスとしては、市販品としてコーニング社製#7059が存在するが、このガラスは耐酸性に劣るため、フォトエッチング工程においてガラス基板の表面に変質や白濁,荒れが生じやすく、しかも基板からの溶出成分によって薬液を汚染しやすい。さらに、このガラスは、歪点が低いため、熱収縮や熱変形を起こしやすく、耐熱性に劣っている。またその密度も、2.76g/cm3と高い。
一方、アルミノ珪酸塩ガラスは、耐熱性に優れているが、現在市場にあるガラス基板の多くが、溶融性が悪く、大量生産に不向きである。またこれらのガラス基板は、密度が2.7g/cm3以上と高かったり、耐バッファードフッ酸性に劣るものが多い。よって、全ての要求特性を満足するものは未だ存在しないというのが実情である。
従って、本発明の目的は、上記した要求特性項目(1)〜(5)の全てを満足し、しかも密度が2.6g/cm3以下の無アルカリガラス基板を提供することである。
発明の開示
本発明の無アルカリガラス基板は、重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%,Al2O3 10.0〜25.0%,B2O3 3.0〜12.0%,MgO 0〜0.5%,CaO 0〜10.0%,BaO 0.1〜5.0%,SrO 3.5〜15.0%,ZnO 0〜5.0%,MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5.0〜17.0%,ZrO2 0〜5.0%,TiO2 0〜5.0%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、2.6g/cm3を越えない密度と、20℃に保持された重量百分率で38.7%のフッ化アンモニウムと1.6%のフッ酸とを含むバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬しても表面変化がない化学耐久性とを備えていることを特徴とする。
発明を実施するための最良の形態
本発明の無アルカリガラス基板は、重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%,Al2O3 10.0〜25.0%,B2O3 3.0〜12.0%,MgO 0〜0.5%,CaO 0〜10.0%,BaO 0.1〜5.0%,SrO 0.1〜15.0%,ZnO 0〜5.0%,ZrO2 0〜5.0%,TiO2 0〜5.0%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しない。
まず、本発明の無アルカリガラス基板の構成成分を上記のように限定した理由について説明する。
SiO2は、ガラスのネットワークフォーマーとなる成分である。SiO2の含有量は、50.0〜57.9%である。50.0%より少ないと、耐薬品性,特に耐酸性が低下する。それと共に歪点が低くなるため耐熱性が悪くなり、しかも密度が高くなる。また、57.9%より多いと、失透傾向が増大し、ガラス中にクリストバライトの失透異物が析出する虞れがある。
Al2O3は、ガラスの耐熱性、耐失透性を高めると共に、密度を低下させるために不可欠な成分である。Al2O3の含有量は、10.0〜25.0%である。10.0%より少ないと、失透傾向が増大し、ガラス中にクリストバライトの失透異物が析出する虞れがあると共に、歪点が低下する。また、25.0%より多いと、耐バッファードフッ酸性が低下し、ガラス基板の表面に白濁が生じやすくなる。それと共に、ガラスの高温粘度が高くなり、溶融性が悪化する。
B2O3は、融剤として働き、粘性を下げ、溶融性を改善するための成分である。B2O3の含有量は、3.0〜12.0%、好ましくは6.5〜12.0%、より好ましくは8.5〜12.0%である。3.0%より少ないと、融剤としての働きが不十分となると共に、耐バッファードフッ酸性が低下する。また12.0%より多いと、ガラスの歪点が低下し、耐熱性が悪くなると共に耐酸性も悪くなる。
MgOは、歪点を下げずに高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する作用を有している。また、MgOは、二価のアルカリ土類酸化物の中で、最も密度を下げる効果が大きい成分である。しかし、多量に含有すると、失透傾向が増大するため好ましくない。従って、MgOの含有量は、0〜0.5%である。
CaOも、MgOと同様に歪点を下げずに高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する作用を有する成分である。CaOの含有量は、0〜10.0%、好ましくは1.8〜7.5%、さらに好ましくは2.1〜7.5%である。10.0%より多いと、ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するため好ましくない。すなわちガラスをバッファードフッ酸で処理する際に、ガラス中のCaO成分と、バッファードフッ酸による反応生成物が、ガラス表面に多量に析出してガラス基板を白濁させやすくなる。それと共に、反応生成物によってガラス基板上に形成される素子や薬液が汚染されやすくなる。
BaOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を向上させる成分である。BaOの含有量は、0.1〜5.0%、好ましくは、0.1〜4.5%である。0.1%より少ないと、上記効果が得られず、5.0%より多いと、ガラスの密度が上昇するため好ましくない。
SrOは、BaOと同様にガラスの耐薬品性を向上させると共に、失透性を改善させる成分である。しかも、SrOは、BaOに比べて、溶融性を悪化させにくいという特徴を有している。SrOの含有量は、0.1〜15.0%、好ましくは、3.5〜15.0%、より好ましくは5.0〜15.0%である。0.1%より少ないと、上記効果が得られ難い。一方、15.0%より多いと、ガラスの密度が高くなるため好ましくない。
ZnOは、耐バッファードフッ酸性を改善すると共に、溶融性を改善する成分である。ZnOの含有量は、0〜5.0%である。5.0%より多いと、逆にガラスが失透しやすくなると共に、歪点が低下するため優れた耐熱性が得られない。ただし、MgO,CaO,SrO,BaO及びZnOの合量が5.0%より少ないと,高温での粘性が高くなり、溶融性が悪くなると共に、ガラスが失透しやすくなる。一方、20.0%より多いと、ガラスの密度が高くなるため好ましくない。
ZrO2は、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善すると共に、高温粘性を下げて溶融性を向上させる成分である。ZrO2の含有量は、0〜5.0%、好ましくは0.1〜4%である。5.0%より多いと、失透温度が上昇し、ジルコンの失透異物が析出しやすくなる。
TiO2も、耐薬品性、特に耐酸性を改善する成分である。それとともに、TiO2は、高温粘性を低下し、溶融性を向上させ、さらに紫外線による着色を防止する成分である。すなわち液晶ディスプレイ等を製造する場合、ガラス基板上の有機物を除去するために紫外線を照射することがあるが、ガラス基板が紫外線によって着色すると、透過率が低下するため好ましくない。そのためこの種のガラス基板には、紫外線によって着色しないことが要求される。しかしながら、TiO2が5.0%より多いと、逆にガラスが着色しやすくなるため好ましくない。
また、本発明においては、上記成分以外にも、特性を損なわない範囲で、他の成分を添加させることが可能である。例えば、清澄剤としてAs2O3,Sb2O3,F2,Cl2,SO3,SnO2といった成分やAl,Siといった金属粉末を添加させることが可能である。
ただし、ガラス中にアルカリ金属酸化物が含有されると、ガラス基板上に形成される各種の膜や半導体素子の特性を劣化させるため好ましくない。また、一般に融剤として使用されるPbOは、ガラスの耐薬品性を著しく低下させる。それとともに、PbOは溶融時に融液の表面から揮発し、環境を汚染する虞れもあるため好ましくない。
さらに、P2O5も一般に融剤として使用されるが、ガラスを分相させると共に、耐薬品性を著しく低下させるため好ましくない。また、CuOを含有すると、ガラスが着色するため、ディスプレイ用ガラス基板としては使用できなくなる。
以下、本発明の無アルカリガラス基板を例に基づいて詳細に説明する。
第1表乃至第3表は、本発明例のガラス(試料No.1〜12)と比較例のガラス(試料No.13〜18)を示すものである。
表中の各試料は、次のようにして作製した。まず表の組成となるようにガラス原料を調合し、白金坩堝に入れ、1580℃で、24時間溶融した後、カーボン板上に流し出し、板状に成形した。



表から明らかなように、本発明例であるNo.1〜12の各試料は、いずれも密度が2.60g/cm3以下、歪点が665℃以上であった。また、No.1〜12の各試料は、耐塩酸性、耐バッファードフッ酸性、耐失透性に優れていた。さらに、No.1〜12の各試料は、102.5ポイズに相当する温度が1569℃以下であり、いずれも良好な特性を有していた。
それに対し、比較例であるNo.13の試料は、密度が高く、耐失透性に劣っていた。また、No.14の試料も耐失透性に劣っていた。またNo.15の試料は、歪点が低く、耐失透性に劣っていた。No.16の試料は、耐塩酸性、耐バッファードフッ酸性及び耐失透性に劣っていた。
また、No.17の試料は、密度が高く、耐バッファードフッ酸性にやや劣っていた。さらに、No.18の試料は、密度が高く、歪点が低く、しかも耐塩酸性に劣っていた。
尚、上記表中の密度は、周知のアルキメデス法によって測定し、歪点は、ASTM C336-71の方法に基づいて測定した。
耐塩酸性は、各試料を光学研磨してから、80℃に保持された10重量%塩酸水溶液に24時間浸漬した後、ガラス基板の表面状態を観察することによって評価し、また耐バッファードフッ酸性は、光学研磨した各試料を、20℃に保持された38.7重量%フッ化アンモニウム、1.6重量%フッ酸からなるバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬した後、ガラス基板の表面状態を観察することによって評価したものであり、ガラス基板の表面が白濁したり、クラックが入ったものを×、わずかに白濁が見られたものを△、全く変化のなかったものを○とした。
耐失透性は、各試料から300〜500μmの粒径を有するガラス粉末を作製し、これを白金ボート内に入れ、1100℃で100時間熱処理した後の失透観察によって求めたものであり、失透が少しでも認められたものを×、全く認められなかったものを○とした。
102.5ポイズ温度は、高温粘度である102.5ポイズに相当する温度を示すものであり、この温度が低いほど、溶融成形性に優れていることになる。
以上の説明のように本発明によれば、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、耐熱性、耐薬品性、溶融成形性に優れ、しかも密度が2.6g/cm3以下と低い無アルカリガラス基板が得られる。
産業上の可能性
以上の説明のように、本発明の無アルカリガラス基板は、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ,フィルター,センサー等の基板として用いられる無アルカリガラス基板に用いることができ、特に軽量化が要求されるTFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイに使用されるガラス基板として好適である。
 
訂正の要旨 訂正の趣旨
1.訂正事項a
特許第2987523号発明の明細書中特許請求の範囲の請求項1「MgO 0〜2.0%」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「MgO 0〜0.5%」と訂正する。
2.訂正事項b
特許第2987523号発明の明細書中第3頁第13〜24行(平成11年6月28日付け手続補正書による補正を含む)の「である。・・・MgO 0〜2.0%、CaO 0〜10.0%、BaO 0.1〜5.0%、」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「である。発明の開示本発明の無アルカリガラス基板は、重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%、Al2O3 10.0〜25.0%、B2O3 3.0〜12.0%、MgO 0〜0.5%、CaO 0〜10.0%、BaO 0.1〜5.0%、SrO 3.5〜15.0%、ZnO 0〜5.0%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5.0〜17.0%、ZrO2 0〜5.0%、TiO2 0〜5.0%の組成を有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、2.6g/cm3をを越えない密度と、20℃に保持された重量百分率で38.7%のフッ化アンモニウムと1.6%のフッ酸とを含むバッファードフッ酸溶液に30分間浸漬しても表面変化がない化学耐久性とを備えていることを特徴とする。発明を実施するための最良の形態 本発明の無アルカリガラス基板は、重量百分率で、SiO2 50.0〜57.9%、Al2O3 10.0〜25.0%、B2O3 3.0〜12.0%、MgO 0〜0.5%、CaO 0〜10.0%、BaO 0.1〜5.0%、」と訂正する。
3.訂正事項c
特許第2987523号発明の明細書中第4頁第23〜24行の「0〜2.0%、好ましくは、0〜1.0%」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「0〜0.5%」と訂正する。
異議決定日 2002-01-10 
出願番号 特願平8-530898
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03C)
P 1 651・ 113- YA (C03C)
P 1 651・ 161- YA (C03C)
P 1 651・ 536- YA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一武重 竜男  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 1999-10-08 
登録番号 特許第2987523号(P2987523)
権利者 日本電気硝子株式会社
発明の名称 無アルカリガラス基板  
代理人 山本 格介  
代理人 池田 憲保  
代理人 後藤 洋介  
代理人 山本 格介  
代理人 藤村 康夫  
代理人 池田 憲保  
代理人 後藤 洋介  

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