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審決分類 |
審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する F16C 審判 訂正 2項進歩性 訂正する F16C |
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管理番号 | 1057443 |
審判番号 | 訂正2001-39220 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1993-04-20 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2001-12-05 |
確定日 | 2002-02-14 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3009766号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3009766号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
I.請求の要旨 本件審判の請求の要旨は、特許第3009766号(平成3年10月29日特許出願、平成11年12月3日特許権設定登録)の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち下記ア.乃至エ.のとおり訂正することを求めるものである。 ア.訂正事項a 特許明細書における特許請求の範囲の請求項1乃至3に、 「【請求項1】 すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受であって、 溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを4.5μm以下とし、溝の深さに対する溝の幅の比を40を超え300以下とした、ことを特徴とするすべり軸受。 【請求項2】 内燃機関のクランク軸用のすべり軸受であることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。 【請求項3】 溝の深さに対する溝の幅の比を42以上267以下としたことを特徴とする請求項2に記載のすべり軸受。」とあるのを、 請求項1及び2を削除し請求項3を新たに請求項1とするとともに、その記載を、 「【請求項1】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、 溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としたことを特徴とするすべり軸受。」と訂正する。 イ.訂正事項b 特許明細書の特許請求の範囲の請求項4を新たに請求項2とするとともに、その記載、 「【請求項4】 溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層されていることを特徴とする請求項4に記載のすべり軸受。」とあるのを、 「【請求項2】 溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。」と訂正する。 ウ.訂正事項c 特許明細書の段落番号【0004】に、 「【課題を解決するための手段】 請求項1の発明によれば、すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受であって、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを4.5μm以下とし、溝の深さに対する溝の幅の比を40を超え300以下とした、すべり軸受が提供される。請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、内燃機関のクランク軸用のすべり軸受とされたすべり軸受が提供される。請求項3の発明によれば、請求項2の発明において、溝の深さに対する溝の幅の比を42以上267以下としたすべり軸受が提供される。請求項4の発明によれば、請求項4の発明において、溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層された軸受が提供される。」とあるのを、 「【課題を解決するための手段】 請求項1の発明によれば、すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下とした、すべり軸受が提供される。 請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層された軸受が提供される。」と訂正する。 エ.訂正事項d 特許明細書の段落番号【0005】に、 「【作用】 本発明の内燃機関用のすべり軸受は、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さが4.5μm以下とされ、溝の深さに対する溝の幅の比が40を超え300以下とされ、溝の山の部分が摩耗しにくい。特に、クランク軸用のすべり軸受には、溝の深さに対する溝の幅の比を42以上267以下とすると好適であって、溝を形成した部材の外側に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層すればなおさらよくなる。」とあるのを、 「【作用】 本発明の内燃機関用のすべり軸受は、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さが3.0μm未満とされ、溝の深さに対する溝の幅の比が43以上100以下とされ、溝の山の部分が摩耗しにくい。溝を形成した部材の外側に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層すればなおさらよくなる。」と訂正する。 II.当審の判断 1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.上記訂正事項aは、(i) 「溝の深さ」を、「4.5μm以下」から「3.0μm未満」に限定し、(ii)「溝の深さに対する溝の幅の比を」を、「40を超え300以下」から「43以上100以下」に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、上記訂正事項aに関連する記載として、(i) 特許明細書の発明の詳細な説明中の【表1】に、非常に良好または良好な場合として溝の深さを2.5μmとした実験結果が示されていることから、溝の深さが3.0μm未満であるものは、特許明細書に記載されているものと認める。また、(ii)発明の詳細な説明には、「このため、溝2aの深さHに対する溝2aの幅Bの比Rは43.5〜100である。」(段落番号【0008】)と記載されており、【表1】には非常に良好である場合として溝の深さに対する溝の幅の比Rが43である実験結果が示されていることから、「溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下と」することも、特許明細書に記載されているものと認められる。したがって、上記訂正事項aは新規事項の追加に該当するものではない。 さらに、上記訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 イ.上記訂正事項bは、上記訂正事項aに伴って、請求項の番号を繰り上げ又引用する請求項の番号を直したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 エ.上記訂正事項c及びdは、上記訂正事項aまたはbに係る訂正後の請求項1または2の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合せしめるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 以上のとおり、上記訂正事項a乃至dは、特許請求の範囲の減縮または明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 2.独立特許要件 (1)訂正発明の要旨 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1」及び「訂正発明2」という。)は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、 溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としたことを特徴とするすべり軸受。 【請求項2】溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。」 (2)刊行物記載の発明 本件特許に対して、平成12年8月14日に異議申立人・大同メタル工業株式会社(以下、「申立人」という。)により申し立てられた特許異議の申立て(異議2000ー73168号)に証拠として提示された下記刊行物には、以下の事項が記載されている。 刊行物1:実願昭61-149345号(実開昭63-53922号)のマ イクロフィルム(申立人が、甲第1号証として提示) 刊行物2:特開平2-38714号公報(申立人が甲第2号証として提示) (2-1)刊行物1 上記刊行物1には、「軸受メタル」(考案の名称)が記載され、図面とともに以下の技術的事項が記載されている。 ア.「半円弧形状をして内側に摺動面を持つ軸受メタルにおいて、前記摺動面に円周方向に沿って条痕を形成したことを特徴とする軸受メタル。」(実用新案登録請求の範囲) イ.「ところで、内燃機関の低振動・低騒音化を図るために、軸径を増すことによりクランクシャフトの剛性を高くしたり、軸受メタルの摺動面上に形成されるオイルクリアランスを小さくしたりすることが試みられている。」(第2頁第3〜7行) ウ.「従って、本考案の技術的課題は、軸受メタルにおける油膜圧力の発生する面積を減らさずに潤滑油を保持する加工を摺動面に施すことにより、摩擦損失をできるだけ少なくして低振動・低騒音化を図ることにある。 [問題を解決するための手段] 上記技術的課題を解決するために講じた手段は、本考案の軸受メタルによれば、円周方向に沿って条痕を摺動面に形成したことにある。」(第3頁第4〜12行) エ.「第2図に示すように、シリンダブロック1と、このシリンダブロック1に装着されるキャップ2とからなるクランクシャフト軸受部(図では、機関のフロント側の一部のみが示されている)には、半円弧状をした軸受メタル4、5がペアで用いられている。ここで、第1図から分かるように、軸受メタル4、5は、裏金10にアルミニウム合金11を積層した二層構造である。こうして、軸受メタル4、5の摺動面は、アルミニウム合金11から形成される。アルミニウム合金11の表面には、円周方向に沿ってボーリング加工により多くの条痕12が施されている。これらの条痕12は、底部が丸みRの形状をしており、軸受メタル4、5の幅Lにわたって規則正しく並んでいる。ここでは、条痕12の幅lは、0.15mm〜0.30mm程度に、そして条痕12の深さdは、0.003mm〜0.006mm程度に定められているが、幅lは0.1mm〜0.7mm、深さdは0.003mm〜0.015mm程度であっても適用できる。」(第4頁第1〜19行) これらの技術的記載事項を考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌しつつ勘案すると、上記刊行物1には、以下のとおりの発明(以下、「刊行物1記載の発明」という)が記載されているものと認められる。 【刊行物1記載の発明】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の条痕を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、 条痕の深さを3〜6μmとし、条痕の幅を0.15〜0.30mmとしたすべり軸受。 (2-2)刊行物2 上記刊行物2には、「すべり軸受」(発明の名称)が記載され、図面とともに以下の技術的事項が記載されている。 オ.「ライニング材の表面に相対的に大きな凹凸面を形成するとともに、該凹凸面の表面に微少凹部を多数形成し、前記大きな凹凸面および微少凹部の表面を、それらの表面に倣って表面が凹凸面となる密着層で被膜し、さらに該密着層の表面をオーバレイ層で被覆して該オーバレイ層を前記大きな凹凸面及び微少凹部の凹部内にそれぞれ充填し、前記オーバレイ層と前記密着層とが摩耗された部分の露出面に、前記ライニング材と、前記大きな凹凸面の凹部を被覆する密着層と該大きな凹凸面における凹部内のオーバレイ層と、前記微少凹部を被覆する密着層と該微少凹部内のオーバレイ層とをそれぞれ露出させることを特徴とするすべり軸受。」(特許請求の範囲) カ.「本発明はすべり軸受に関し、より詳しくは内燃機関に用いられるすべり軸受に関する。」(第1頁右欄第1〜2行) キ.「ライニング材1はAl系合金から製造してあり、その表面に円周方向に沿う螺旋溝を形成することにより、該ライニング材1の表面に相対的に大きな凹凸面2を形成している。前記螺旋溝は切削等公知の手段によって形成することができ、そのピッチを約0.1〜2mm、深さを約2〜6μmとすることが望ましい。」(第2頁右下欄第4〜10行) ク.「次に、前記ライニング材1の表面すなわち前記凹凸面2上に、アルカリ、酸又は電解エッチング、或いはショットブラスト等の機械的方法によって多数の微少凹部3を形成し、かつそれら凹凸面2および微少凹部3の表面上に、Niメッキ或いはCuメッキ等からなる密着層4を形成している。前記ライニング材1の凹凸面2および微少凹部3の表面はそれぞれ前記密着層4によって完全に被覆されているが、該密着層4の表面は、前記ライニング材1の凹凸面2に倣うとともに微少凹部3の表面に倣って、凹凸面となっている。」(第3頁左欄第10〜20行) 上記技術的記載事項キ.に関して、螺旋溝は「ほぼ円周方向の溝」ということができるから、上記技術的記載事項オ.乃至ク.を発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌しつつ勘案すると、上記刊行物2には、以下のとおりの発明(以下、「刊行物2記載の発明」という)が記載されているものと認められる。 【刊行物2記載の発明】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受であって、 溝の深さを2〜6μmとし、溝の幅を0.1〜2mmとするとともに、溝の表面に微少凹部を多数形成したすべり軸受。 (3)対比・判断 (3-1)訂正発明1について (3-1-1)刊行物1記載の発明との対比・判断 訂正発明1と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、それぞれの有する機能に照らして、刊行物1記載の発明の「条痕」は訂正発明1の「溝」に相当する。 したがって、訂正発明1と刊行物1記載の発明との一致点と相違点は、次のとおりである。 【一致点】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受。 【相違点1-1】訂正発明1は、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としているのに対し、刊行物1記載の発明は単に、溝の深さを3〜6μmとし、溝の幅を0.15〜0.30mmとしている点。 【相違点1-2】訂正発明1は、「溝がなくならない面圧下で利用され」るのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような限定がなされていない点。 そこで、まず上記相違点1-1について検討する。 訂正発明1における「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し、該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」点は、刊行物1に記載も示唆もされておらず、刊行物1記載の発明から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。そして、訂正発明1は、「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」ことにより、「溝の山の部分が摩耗し難くなるために耐摩耗性を向上せしめることができる。」という明細書記載の作用・効果を奏するものである。 また、刊行物1記載の発明においては、「溝の深さに対する溝の幅の比」を計算すれば25以上100以下となっており、結果的に訂正発明1の「溝の深さに対する溝の幅の比」の範囲に含まれる部分を有するものの、刊行物1記載の発明と訂正発明1とでは、「溝の深さ」において一致する部分がなく、両発明が同一であるとすることもできない。 よって、相違点1-2について検討するまでもなく、訂正発明1は、刊行物1記載の発明と同一であるとも、刊行物1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3-1-2)刊行物2記載の発明との対比・判断 訂正発明1と上記刊行物2記載の発明とを対比すると、両者の一致点と相違点は、次のとおりである。 【一致点】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受。 【相違点2-1】訂正発明1は、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としているのに対し、刊行物2記載の発明は、溝の深さを2〜6μmとし溝の幅を0.1〜2mmとするとともに、溝の表面に微少凹部を多数形成している点。 【相違点2-2】訂正発明1は、内燃機関のクランク軸用すべり軸受であるのに対し、刊行物2記載の発明は単に内燃機関用すべり軸受である点。 【相違点2-3】訂正発明1は、「溝がなくならない面圧下で利用され」るのに対し、刊行物2記載の発明は、そのような限定がなされていない点。 そこで、まず上記相違点2-1について検討する。 次に、訂正発明1の「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し、該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」点は、刊行物2に記載も示唆もされておらず、刊行物2記載の発明から当業者が容易に相到し得たものとすることはできない。そして、訂正発明1は、「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」ことにより、「溝の山の部分が摩耗し難くなるために耐摩耗性を向上せしめることができる。」という明細書記載の作用・効果を奏するものである。 また、刊行物2記載の発明は、溝の表面に微少凹部を多数形成することによって初めて達成されるものであって、溝と微少凹部が不可分に有機的に連携したものである点で、溝のみを有する訂正発明1と異なる。したがって、たとえ、刊行物2記載の発明において、「溝の深さ」は2〜6μmで「溝の深さに対する溝の幅の比」を計算すれば16.7以上1000以下となっており、結果的に「溝の深さ」と「溝の深さに対する溝の幅の比」の点で訂正発明1と一致する部分を有するとしても、両発明が同一であるとすることもできない。 よって、相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく、訂正発明1は、刊行物2記載の発明と同一であるとも、刊行物2記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3-1-3)訂正発明1についてのむすび 以上のように、訂正発明1は、刊行物1,2記載の発明と同一とはいえず、刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。また、いずれも、「溝の深さに対する溝の幅の比」なる技術的思想を有していない刊行物1,2記載の発明を組み合せたとしても、かかる技術的思想は推考し得ず、したがって、訂正発明1は刊行物1,2記載の発明の組合せに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。 (3-2)訂正発明2について 訂正明細書の請求項2は、独立請求項である請求項1を引用するものであるから、訂正発明2(請求項2に係る発明)は、訂正発明1の構成要素の全てを含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当するものである。 よって、訂正発明1が、上記(3-1)にて指摘したように、刊行物1,2記載の発明と同一とはいえず、刊行物1,2記載の発明またはそれらの組合せに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、訂正発明2も、刊行物1,2記載の発明と同一とはいえず、刊行物1,2記載の発明またはそれらの組合せに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (4)独立特許要件についてのむすび したがって、訂正発明1及び2は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とすることはできない。 III.むすび 以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条1項の規定によりなお従前の例とされる改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3号の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 内燃機関用すべり軸受 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、 溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としたことを特徴とするすべり軸受。 【請求項2】 溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は内燃機関用すべり軸受に関する。 【0002】 【従来の技術】 すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成したすべり軸受において、すべり軸受の直径をDmmとして、溝の深さHに対する溝の幅Bの比R(=B/H)を1500/(1500-D)以上としたすべり軸受が公知である(特公昭63-11530号公報参照)。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 このすべり軸受において、すべり軸受の直径Dを例えば70mmとした場合、R≧1.05となる。すなわち、この場合には、溝の深さHに対する溝の幅Bの比Rが非常に小さく溝の幅Bが溝の深さHにほぼ等しくなるような場合を含む。このように溝の深さHに対する溝の幅Bの比Rが小さくなると、溝の山の部分が摩耗し易く耐摩耗性が低下するという問題を生ずる。 【0004】 【課題を解決するための手段】 請求項1の発明によれば、すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下とした、すべり軸受が提供される。 請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層された軸受が提供される。 【0005】 【作用】 本発明の内燃機関のクランク軸用すべり軸受は、溝がなくならない面圧下で利用され、溝深さが3.0μm未満とされ、溝の深さに対する溝の幅の比が43以上100以下とされ、溝の山の部分が摩耗しにくい。溝を形成した部材の外側に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層すればなおさらよくなる。 【0006】 【実施例】 まず、第1の実施例について説明する。図2には内燃機関のクランク軸軸受の下側半分の斜視図を示す。 図2を参照すると、軸受1の内周面には螺線状の溝2がほぼ円周方向に形成されている。 【0007】 図3には図2の軸受1の展開平面図を示す。 【0008】 図3を参照すると、溝2はクランク軸(図示せず)の回転方向Rに対して1度の角度をなして形成されている。 図1には図3のI-I線に沿ってみた拡大断面図を示す。 図1を参照すると、約2mmの厚さを有するSPCC製軸受本体3の上に軸受金属であるケルメット(銅鉛合金)層4が形成される。ケルメット層4の厚さは0.15〜0.30mmである。ケルメット層4の軸受面(図中上面)にはボーリング仕上げによって溝2aが形成されている。溝2aの断面形状は円弧状である。溝2aの幅Bは0.261mm〜0.30mmであり、溝2aの深さHは3〜6μmである。このため、溝2aの深さHに対する溝2aの幅Bの比Rは43.5〜100である。 【0009】 ケルメット層4の上面にはニッケルメッキが施されてニッケルメッキ層5が形成される。ニッケルメッキ層5の厚さは1〜3μmである。 ニッケルメッキ層5の上面にはさらに鉛合金(Pb-Sn-In合金)メッキ層6が形成されている。鉛メッキ層6の厚さは12〜20μmである。 ニッケルメッキ層5および鉛合金メッキ層6は十分に薄いために、ケルメット層4上面の溝2aと相似形状の溝2が鉛合金メッキ層6上面に形成されている。 【0010】 表1には上述の軸受について溝2aの幅Bおよび深さHを夫々変えて軸受の耐摩耗性を比較検討した試験結果を示す。 表中の数値は溝の深さに対する幅の比Rを示している。また、表中△は溝が形成されていない軸受の摩耗と同程度であり、○は溝が形成されていない軸受の摩耗より良好であり、さらに◎は溝が形成されていない軸受の摩耗より非常に良好である場合を示している。 【0011】 なお実験に用いたクランク軸の直径は67mmである。 【0012】 【表1】 【0013】 図4には表1の結果を、横軸に溝の深さに対する幅の比Rをとり、縦軸に摩耗状態をとって示す。 図4を参照すると、比Rをほぼ40以上とすることによって摩耗状態が良好になる。すなわち、比Rを40以上にすることによって、溝が形成されていない軸受より耐摩耗性を向上せしめることができる。 【0014】 以上のように本実施例によれば比Rを大きくしたので溝の山の部分が摩耗し難くなり、このため耐摩耗性を向上せしめることができる。 【0015】 次に第2の実施例について説明する。図5には第2の実施例の軸受であって、図1と同様の図を示す。図5において図1と同様の部分については同一符号で示す。図5を参照すると、SPCC製軸受本体3の上に軸受金属であるアルミ合金(例えばAl-Sn-Cu)層10が形成される。アルミ合金層10の厚さは0.15〜0.30mmである。アルミ合金層10の軸受面(図中上面)には、第1の実施例と同様の溝2aが形成されている。溝2aの幅Bは0.36〜0.40mmであり、溝2aの深さHは1.5〜2.5μmである。従って、溝2aの深さHに対する溝2aの幅Bの比Rは144〜267である。 【0016】 アルミ合金属10の上面にはニッケルメッキが施されてニッケルメッキ層5が形成される。このニッケルメッキ層5の厚さは0.1〜2.0μmとされ、第1の実施例に比べて薄くされている。ニッケルメッキ層5の上面にはさらに鉛合金(Pb-Sn-In合金)メッキ層6が形成されている。この鉛合金メッキ層6の厚さは12〜20μmである。この鉛合金メッキ層6上面には、第1の実施例と同様の溝2が形成される。 【0017】 第1の実施例のように、軸受金属としてケルメットを用いると、鉛合金メッキ層6中のスズがケルメット層4に拡散するためにバリヤ層としてニッケルメッキ層5を厚くする必要がある。ところがニッケルメッキ層5を厚くすると鉛合金メッキ層6中のスズがニッケルメッキ層5のニッケルと化合し、このため鉛合金メッキ層6中のスズの量が減少して鉛腐食が発生する。この鉛腐食は軸受にかかる面圧が高い程増大する。このため、第1の実施例の軸受では軸受の面圧をさほど高くできない。 【0018】 第2の実施例では軸受金属としてアルミ合金層10を使用しているために、鉛合金メッキ層6中のスズはアルミ合金層10にほとんど拡散しない。このためニッケルメッキ層5を厚くする必要がなく、ニッケルメッキ層5はアルミ合金層10と鉛合金メッキ層6との接着層として作用する。これによって、鉛合金メッキ層6中のスズはニッケルメッキ層5のニッケルとあまり化合せず、このため鉛腐食はほとんど起こらない。このために軸受の許容面圧を高めることができる。 【0019】 鉛腐食が起こらないときの内燃機関の寿命期間におけるクランク軸軸受の摩耗量は最大でも10μm以下である。本実施例では鉛合金メッキ層6の厚さを12〜20μmと十分な厚さとしており、また、鉛腐食がほとんど起こらないために、摩耗によって鉛合金メッキ層6が消滅してアルミ合金層10が露出することはない。アルミ合金層10は鉛合金メッキ層6程面圧が高くないために、アルミ合金層6が露出すると許容面圧を高くすることができない。 【0020】 本実施例では、前述のように鉛合金メッキ層6の厚さを十分な厚さとしているために、内燃機関の寿命期間内においてアルミ合金層10が露出することがなく、このため軸受の許容面圧を高くすることができる。例えば、第2の実施例を適用しない軸受の許容面圧を40MPaとすると、第2の実施例の軸受の許容面圧を50〜60MPaと高めることができる。 【0021】 なお鉛合金メッキ層6は上述のPb-Sn-In合金のほかオーバレイ合金として、各種Pb系合金ならびにSn系合金を用いることができる。あるいはSnオーバレイを用いても良い。 【0022】 【発明の効果】 溝の山の部分が摩耗し難くなるために耐摩耗性を向上せしめることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 図3のI-I線に沿ってみた第1の実施例の軸受の拡大断面図である。 【図2】 内燃機関のクランク軸軸受の下側半分の斜視図である。 【図3】 図2の軸受の展開平面図である。 【図4】 溝の深さに対する幅の比Rと、軸受の摩耗状態との関係を示す図である。 【図5】 第2の実施例の軸受であって、図1と同様の拡大断面図である。 【符号の説明】 1…軸受 2…溝 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ア.特許第3009766号の明細書中の特許請求の範囲の請求項1乃至3に、 「【請求項1】 すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受であって、 溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを4.5μm以下とし、溝の深さに対する溝の幅の比を40を超え300以下とした、ことを特徴とするすべり軸受。 【請求項2】 内燃機関のクランク軸用のすべり軸受であることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。 【請求項3】 溝の深さに対する溝の幅の比を42以上267以下としたことを特徴とする請求項2に記載のすべり軸受。」 とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1及び2を削除し請求項3を新たに請求項1とするとともに、その記載を、 「【請求項1】すべり軸受内周面上にぼぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、 溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としたことを特徴とするすべり軸受。」と訂正する。 イ.訂正事項b 特許第3009766号の明細書中の特許請求の範囲の請求項4を、明りょうでない記載の釈明を目的として、新たに請求項2とするとともに、その記載、 「【請求項4】 溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層されていることを特徴とする請求項4に記載のすべり軸受。」とあるのを、 「【請求項2】 溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。」と訂正する。 ウ.訂正事項c 特許第3009766号の明細書中の段落番号【0004】に、 「【課題を解決するための手段】 請求項1の発明によれば、すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受であって、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを4.5μm以下とし、溝の深さに対する溝の幅の比を40を超え300以下とした、すべり軸受が提供される。請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、内燃機関のクランク軸用のすべり軸受とされたすべり軸受が提供される。請求項3の発明によれば、請求項2の発明において、溝の深さに対する溝の幅の比を42以上267以下としたすべり軸受が提供される。請求項4の発明によれば、請求項4の発明において、溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層された軸受が提供される。」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「【課題を解決するための手段】 請求項1の発明によれば、すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下とした、すべり軸受が提供される。 請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層された軸受が提供される。」と訂正する。 エ.訂正事項d 特許第3009766号の明細書中の段落番号【0005】に、 「【作用】 本発明の内燃機関用のすべり軸受は、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さが4.5μm以下とされ、溝の深さに対する溝の幅の比が40を超え300以下とされ、溝の山の部分が摩耗しにくい。特に、クランク軸用のすべり軸受には、溝の深さに対する溝の幅の比を42以上267以下とすると好適であって、溝を形成した部材の外側に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層すればなおさらよくなる。」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「【作用】 本発明の内燃機関用のすべり軸受は、溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さが3.0μm未満とされ、溝の深さに対する溝の幅の比が43以上100以下とされ、溝の山の部分が摩耗しにくい。溝を形成した部材の外側に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層すればなおさらよくなる。」と訂正する。 |
審決日 | 2002-02-01 |
出願番号 | 特願平3-283163 |
審決分類 |
P
1
41・
121-
Y
(F16C)
P 1 41・ 113- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 藤井 新也 |
特許庁審判長 |
船越 巧子 |
特許庁審判官 |
秋月 均 酒井 進 町田 隆志 長屋 陽二郎 |
登録日 | 1999-12-03 |
登録番号 | 特許第3009766号(P3009766) |
発明の名称 | 内燃機関用すべり軸受 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 山口 修之 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 山口 修之 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 山口 修之 |