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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H04R
管理番号 1059555
異議申立番号 異議1998-74773  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-09-28 
確定日 2002-04-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第2733440号「スピーカー用部材」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2733440号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。 
理由 I、手続の経緯
本件特許第2733440号の請求項1〜10に係る発明については、平成6年2月28日に特許出願がされ、同9年12月26日に設定登録された。その後、同10年9月28日に特許異議申立人株式会社ブリジストにンより請求項1〜10に係る特許について特許異議の申立てがなされ、同11年1月22日付けで取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成11年4月12日に請求項数を9とすると共に明細書を訂正しようとする訂正請求書及び特許異議意見書の提出がなされ、同11年11月5日付けの訂正拒絶理由の通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月7日に手続補正書及び意見書の提出がなされたものである。

II、訂正の適否についての判断
II-1、訂正明細書の請求項1〜9に係る発明
平成12年2月7日付け手続補正書により補正された訂正明細書の請求項1〜9に係る発明は、その請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカー用エッジ部材であって、上記粘弾性発泡体の引張強度が0.1〜100kg/cm2、 比重が0.07〜1.2、物質損失係数が0.001以上の範囲に設定されていることを特徴とするスピーカー用エッジ部材。
(A)ゴム。
(B)軟化剤。
(C)有機発泡剤。
(D)加硫剤。
【請求項2】 (A)成分であるゴムが、スチレン-ブタジエンゴム,ニトリル-ブタジエンゴム,エチレン-プロピレン-ターポリマーゴム,イソプレンゴム,クロロプレンゴム,イソブチレン-イソプレンゴム,エチレン-プロピレンゴム,シリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つのゴムである請求項1記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項3】 (B)成分である軟化剤が、可塑剤,高分子可塑剤,石油系軟化剤,コールタール系軟化剤,脂肪族系軟化剤,ロウ類,樹脂類からなる群から選ばれた少なくとも一つの軟化剤である請求項1または2記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項4】 (B)成分である軟化剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して3〜110重量部に設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項5】 (C)成分である有機発泡剤が、ニトロソ系化合物,アゾ系化合物,スルホニルヒドラジト系化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの発泡剤である請求項1〜4のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項6】 粘性ゴム混和物が、無機充填剤および有機充填剤の少なくとも一方を含有し、かつ上記充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して10〜200重量部に設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項7】 (D)成分である加硫剤が、硫黄,硫黄化合物,オキシム類,カルバメート類からなる群から選ばれた少なくとも一つの加硫剤である請求項1〜6のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項8】 粘弾性発泡体が、所定の成形型を用いて薄層状に発泡成形されたものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項9】 粘弾性発泡体の発泡倍率が1.1〜15倍である請求項1〜8のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。」

II-2、引用刊行物記載の発明
上記訂正明細書の請求項1〜9に係る発明に対し、当審が上記訂正拒絶理由通知において引用した刊行物1及び2に記載の事項を記すと、次のとおりである。

II-2-1、刊行物1に記載の発明
当審が上記訂正拒絶理由通知において引用した特開昭52-127227号公報(以下、「刊行物1」という。)には、
第1頁左下欄第5〜7行中(特許請求の範囲)の「ブチルゴムを主成分とするゴム質材料を成形または塗布してなることを特徴とするスピーカ用コーンエッジ。」との記載、
第2頁左上欄第8行〜同頁右上欄第4行中の「実施例1
ブチルゴムとしてエンジェイブチル217(Enjay Butyl 217)(エッソ・リサーチアンドエンジニアリング・カンパニの商品名)100重量部に対し硫黄3.5部、亜鉛華4部、ステアリン酸2部、P-キノンジオキシム2部、鉛丹8部を加えてキノイド加硫するとともに成形性を向上するためP-ジニトロソベンゼン重合物を0.3部添加した配合物を用いて成形温度150℃で口径20cmスピーカ用エッジを成形した。
実施例2
上記、実施例1における配合物に有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)5部、軟化剤(ジブチルフタレート)20部を加えて熟成後35気圧でプレス加硫し、気泡径0.1〜0.2mmの独立気泡構造の発泡ブチルゴムを主成分としてなる実施例1と同一形状のエッジを成形した。」との記載、
第2頁右下欄第3〜6行中の「以上前記した如く、本発明によれば損失係数が従来の1.7倍以上になり、その結果図に見られるようにスピーカの中高音域の特性を著じるしく向上させることができる。」との記載、
第2頁左下欄中の表の、発泡ブチルゴム(実施例2)の損失係数は0.41であるとの記載から、
刊行物1の実施例2には、下記の構成の発明が記載されていると認められる。(以下「刊行物1に記載された発明」という。)
「下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカ用コーンエッジであって、粘性ゴム混和物中の充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して、硫黄3.5部、亜鉛華4部、ステアリン酸2部、P-キノンジオキシム2部、鉛丹8部、P-ジニトロソベンゼン重合物を0.3部、有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)5部、軟化剤(ジブチルフタレート)20部であり、上記粘弾性発泡体の物質損失係数を0.41に設定されているスピーカ用コーンエッジ。
(A)ブチルゴム。
(B)軟化剤(ジブチルフタレート)。
(C)有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)。
(D)硫黄及びP-キノンジオキシム。」

II-2-2、刊行物2に記載の発明
当審が上記訂正拒絶理由通知において引用した特開昭58-106993号公報(以下、「刊行物2」という。)には、
第1頁左下欄第5〜9行中(特許請求の範囲)の「(1)天然ゴムまたは合成ゴムを、エボナイト化もしくは有機・無機補強剤の添加による補強またはこれらの両手段の併用により硬質化し、発泡構造としたゴム組成物の表面に、弾性率の大きなスキン材を積層することを特徴とするスピーカの振動板。」との記載、
第3頁右上欄第14行〜同頁左下欄第1行中の「〔実施例1〕
天然ゴム100部、ステアリン酸1部、酸化亜鉛5部、カーボンブラック20部、アゾジカルボンアミド6部、尿素系発泡助剤1.5部、イオウ40部を混練機により混合した後、一次金型内に移し150℃の温度で4分間加硫する。この結果、架橋と同時に発泡が起こり、ゴム弾性を示すスポンジ状の一次加硫物が得られる。」との記載、
第3頁左下欄中の表の、ゴム組成物単体の密度を、0.1g/cm3 としたことの記載から、
刊行物2の実施例1には、下記の構成の発明が記載されていると認められる。(以下「刊行物2に記載された発明」という。)
「下記の(A)、(C)及び(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を金型内で加硫発泡成形した粘弾性発泡体からなるスピーカの振動板の一次加硫物であって、粘性ゴム混和物中の充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して、ステアリン酸1部、酸化亜鉛5部、カーボンブラック20部、アゾジカルボンアミド6部、尿素系発泡助剤1.5部、イオウ40部であり、上記粘弾性発泡体の密度を0.1g/cm3 に設定されているスピーカの振動板の一次加硫物。
(A)天然ゴム。
(C)アゾジカルボンアミド。
(D)イオウ。」

II-3、対比・判断
II-3-1、訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「スピーカ用コーンエッジ」は、訂正明細書の請求項1に係る発明の「スピーカー用エッジ部材」に相当する。刊行物1に記載された発明は、スピーカ用コーンエッジの成形工程において、粘性ゴム混和物を加硫発泡しており、刊行物1に記載された発明の「硫黄」及び「P-キノンジオキシム」は、訂正明細書の請求項1に係る発明の「加硫剤」に相当することは、1981年10月30日森北出版株式会社発行「化学辞典」第272頁「加硫剤」の項の記載等により、ゴム形成加工の技術分野において従来周知の事項である。又、刊行物1に記載された発明の「粘弾性発泡体の物質損失係数を0.41とした」は、訂正明細書の請求項1に係る発明の「物質損失係数が0.001以上の範囲に設定されている」の範囲内に入っている。
したがって、両者は、
「下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカー用エッジ部材であって、上記粘弾性発泡体の物質損失係数が0.001以上の範囲に設定されているスピーカー用エッジ部材。
(A)ゴム。
(B)軟化剤。
(C)有機発泡剤。
(D)加硫剤。」
である点において一致し、次の点で相違している。
〔相違点1〕、訂正明細書の請求項1に係る発明では、粘弾性発泡体の引張強度を「0.1〜100kg/cm2 」としているのに対して、刊行物1に記載された発明では、それが明らかでない点。
〔相違点2〕、訂正明細書の請求項1に係る発明では、粘弾性発泡体の比重を「0.07〜1.2」としているのに対して、刊行物1に記載された発明では、それが明らかでない点。
そこで、上記〔相違点1〕及び〔相違点2〕について検討する。
〔相違点1〕の点については、ブチルゴムの引張強度は、例えば、昭和42年12月20日日刊工業新聞社発行「合成ゴム-新版-」第94頁の「表2・41 ブチルゴムに対する各種充填剤の影響」において、[注]基礎配合、ブチルゴムB1.45,100, ZnO5.0, ステアリン酸3.0, TMTD1.0, S1.5, 充填剤容量30部, 加硫153℃×60分と記載され、引張強さ73〜189kg/cm2 の範囲内で多数の数値が記載されており、充填剤の種類によって数値が異なっている。また、昭和42年11月30日株式会社朝倉書店発行「改訂新版 合成ゴムハンドブック」第672頁第5〜9行中に「ブチルゴムの引張強さは純ゴムの場合が最高で、充填剤を加えることによって減少する………カーボンブラックの比較を表23.7に、無機充てん剤の比較を表23.8に示す。」と記載され、同頁の表23.7、及び表23.8には、引張強さ320〜2530psiの範囲内で多数の数値が記載されており、充填剤の種類と量によって引張強さが異なっている。この数値の単位を、1psi=0.07031kg/cm2 であることからkg/cm2 に換算すると、上記引張強さの数値は22.5〜177.9kg/cm2 となり、これらの数値のうち1部は、訂正明細書の請求項1に係る発明で限定した引張強度「0.1〜100kg/cm2 」の範囲内に入っており、これらの表に記載のものは、充填剤中に発泡剤を含有していないこと、及び発泡したという記載のないことから、発泡していないものではあると認められるが、発泡した場合、発泡倍率が高くなるに従って引張強度が低下することも技術常識である。そして、スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、その引張強度について、訂正明細書の請求項1に係る発明で限定した「0.1〜100kg/cm2 」内の数値を選択するようなことは、当業者が容易になしうることであると認められる。
〔相違点2〕の点については、刊行物1に記載された発明では、ブチルゴム100重量部に対して、硫黄3.5重量部、亜鉛華4重量部、ステアリン酸2重量部、P-キノンジオキシム2重量部、鉛丹8重量部、P-ジニトロベンゼン重合物を0.3重量部、有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)5重量部、軟化剤(ジブチルフタレート)20重量部の合計44.8重量部の充填剤が加えられている。ブチル生ゴムの比重が0.9であることは42年12月20日日刊工業新聞社発行「合成ゴム-新版-」第89頁の表2.40等に記載されており、上記合計44.8重量部の充填剤を加えた粘性ゴム混和物の比重もブチル生ゴムの比重から大きくかけ離れることはない。そして、刊行物1に記載された発明は、上記粘性ゴム混和物を加硫発泡してスピーカー用エッジ部材を得ている。発泡した場合、発泡倍率にほぼ反比例して比重が低下することもゴム形成加工の技術分野において技術常識である。また、刊行物2には、スピーカの振動板の一次加硫物である粘弾性発泡体の密度を、0.1g/cm3 としたことが記載されている。
そして、スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、粘弾性発泡体の比重の数値を、訂正明細書の請求項1に係る発明で限定した数値範囲「0.07〜1.2」内の数値を選択するようなことは、当業者が容易になしうることであると認められる。
したがって、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-2、訂正明細書の請求項2に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項2の記載は、請求項1を引用しており、請求項1の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較する。
刊行物1に記載された発明の「ブチルゴム」は、昭和42年8月1日社団法人日本ゴム協会発行「ゴム工業便覧」第68頁第3行中の「ブチルゴムはイソブチレンに1〜3%のイソプレンを共重合した合成ゴムで、」の記載等から見て、訂正明細書の請求項2に係る発明の「イソブチレン-イソプレンゴム」に相当する。
したがって、訂正明細書の請求項2に係る発明の構成のうち請求項1を引用した構成を除いた構成は、刊行物1に記載されているので、訂正明細書の請求項2に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-3、訂正明細書の請求項3に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項3の記載は、請求項1または2のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較する。
刊行物1に記載された「ジブチルフタレート」は、特許異議申立人が甲第10号証として提出した1993年10月30日株式会社ラバーダイジェスト社発行「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品 改訂第二版」第157〜158頁の記載等から見て、訂正明細書の請求項3に係る発明の「可塑剤」に相当する。
したがって、訂正明細書の請求項3に係る発明の構成のうちこれらの他の請求項の引用部分を除いた構成は、刊行物1に記載されているので、訂正明細書の請求項3に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-4、訂正明細書の請求項4に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項4の記載は、請求項1〜3のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較する。
刊行物1に記載された発明の(A)成分であるゴム100重量部に対する(B)成分である軟化剤ジブチルフタレートの配合割合「20重量部」は、訂正明細書の請求項4に係る発明の(B)成分の軟化剤の配合割合「3〜110重量部」の範囲内に入っている。
したがって、訂正明細書の請求項4に係る発明の構成のうちこれらの他の請求項の引用部分を除いた構成は、刊行物1に記載されているので、訂正明細書の請求項4に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-5、訂正明細書の請求項5に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項5の記載は、請求項1〜4のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の援用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較する。
刊行物1に記載された「(C)成分である有機発泡体として用いたN-N-ジニトロソジウレタン」は、訂正明細書の請求項2に係る発明の「ニトロソ系化合物」に相当する。
したがって、訂正明細書の請求項5に係る発明の構成のうちこれらの他の請求項の引用部分を除いた構成は、刊行物1に記載されているので、訂正明細書の請求項5に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-6、訂正明細書の請求項6に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項6の記載は、請求項1〜5のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較する。
前記「II-3-1」において〔相違点2〕について検討したように、刊行物1に記載された発明では、ブチルゴム100重量部に対して、硫黄3.5重量部、亜鉛華4重量部、ステアリン酸2重量部、P-キノンジオキシム2重量部、鉛丹8重量部、P-ジニトロベンゼン重合物を0.3重量部、有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)5重量部、軟化剤(ジブチルフタレート)20重量部の合計44.8重量部の充填剤が加えられており、これらの充填剤は、訂正明細書の請求項6に係る発明の「無機充填剤および有機充填剤」に相当し、刊行物1に記載された「ブチルゴム」は、訂正明細書の請求項6に係る発明の「(A)成分であるゴム」に相当し、上記充填剤の配合割合「44.8重量部」は、訂正明細書の請求項6に係る発明の充填剤の配合割合「10〜200重量部」の範囲内に入っている。
したがって、訂正明細書の請求項6に係る発明の構成のうちこれらの他の請求項の引用部分を除いた構成は、刊行物1に記載されているので、訂正明細書の請求項6に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-7、訂正明細書の請求項7に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項7の記載は、請求項1〜6のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較する。
刊行物1に記載された発明の「P-キノンジオキシム」は、訂正明細書の請求項7に係る発明の「オキシム類」に相当する。また、刊行物1に記載された発明の「硫黄」及び「P-キノンジオキシム」は、訂正明細書の請求項1に係る発明の「加硫剤」に相当することは、前記「II-3-1」のとおりである。
したがって、訂正明細書の請求項7に係る発明の構成のうちこれらの他の請求項の引用部分を除いた構成は、刊行物1に記載されているので、訂正明細書の請求項7に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-8、訂正明細書の請求項8に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項8の記載は、請求項1〜7のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較すると、両者は、「粘弾性発泡体が、スピーカー用エッジ部材の形状の薄層状に発泡成形されたものである」点において一致し、前者は薄層状に発泡成形するとき「所定の成形型を用いている」のに対して、後者はそれが明らかでない点で相違している。
しかし、粘弾性発泡体を薄層状に発泡成形する場合、所定の成形型を用いることは、ゴム形成加工の技術分野において従来周知の事項である。また、刊行物2に記載された発明も、粘弾性発泡体を薄層状に発泡成形してスピーカの振動板の一次加硫物を成形するとき、所定の成形型を用いており、スピーカー用エッジ部材の成形にも所定の成形型を用いるようなことは、当業者が適宜なし得ることであると認められる。
したがって、訂正明細書の請求項8に係る発明の構成のうちこれらの他の請求項の引用部分を除いた構成は、刊行物1、又は刊行物2に記載された発明から当業者が適宜なしうることであるので、訂正明細書の請求項8に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-9、訂正明細書の請求項9に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
訂正明細書の請求項9の記載は、請求項1〜8のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された発明とを比較すると、両者は、「粘弾性発泡体」である点において一致し、前者は発泡倍率が「1.1〜15倍」であるのに対して、後者はそれが明らかでない点で相違している。
しかし、前記「II-3-1」において〔相違点2〕の点について検討したように、刊行物1に記載された発明は、ブチルゴム100重量部に対して、合計44.8重量部の充填剤が加えられており、ブチル生ゴムの比重が0.9であることから、粘性ゴム混和物の比重もブチル生ゴムの比重から大きくかけ離れることはない。そして、刊行物1に記載された発明は、上記粘性ゴム混和物を加硫発泡してスピーカ用エッジ部材を得ている。発泡した場合、発泡倍率にほぼ反比例して比重が低下することもゴム形成加工の技術分野において技術常識である。
また、刊行物2に記載された発明のスピーカの振動板の一次加硫物である粘弾性発泡体の密度は、0.1g/cm3 であり、この密度0.1g/cm3 は、比重0.1に相当する。粘性ゴム混和物中の充填剤の配合割合は、(A)成分である天然ゴム100重量部に対して、充填剤の配合割合は、ステアリン酸1部、酸化亜鉛5部、カーボンブラック20部、アゾジカルボンアミド6部、尿素系発泡助剤1.5部、イオウ40部の合計73.5重量部であること、及び比重は発泡倍率にほぼ反比例することから、刊行物2に記載された発明のスピーカの振動板の一次加硫物の発泡倍率の数値は、訂正明細書の請求項1に係る発明で限定した発泡倍率「1.1〜15倍」の限定範囲内に入るか、またはこの近くの数値になっているとみられる
そして、スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、訂正明細書の請求項9に係る発明で限定した発泡倍率「1.1〜15倍」の範囲内の数値を選択するようなことは、当業者が容易になしうることであると認められる。
したがって、本件請求項9に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

II-3-10、以上のとおりであるから、訂正明細書の請求項1〜9に係る発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

II-4、むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
III、特許異議申立てについての判断
III-1、本件請求項1〜10に係る発明
本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下、「本件請求項1〜10に係る発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】 下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカー用部材であって、上記粘弾性発泡体の引張強度が0.1〜100kg/cm2、 比重が0.07〜1.2の範囲に設定されていることを特徴とするスピーカー用部材。
(A)ゴム。
(B)軟化剤。
(C)有機発泡剤。
(D)加硫剤。
【請求項2】 A)成分であるゴムが、スチレン-ブタジエンゴム,ニトリル-ブタジエンゴム,エチレン-プロピレン-ターポリマーゴム,イソプレンゴム,クロロプレンゴム,イソブチレン-イソプレンゴム,エチレン-プロピレンゴム,シリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つのゴムである請求項1記載のスピーカー用部材。
【請求項3】 (B)成分である軟化剤が、可塑剤,高分子可塑剤,石油系軟化剤,コールタール系軟化剤,脂肪族系軟化剤,ロウ類,樹脂類からなる群から選ばれた少なくとも一つの軟化剤である請求項1または2記載のスピーカー用部材。
【請求項4】 (B)成分である軟化剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して3〜110重量部に設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項5】 (C)成分である有機発泡剤が、ニトロソ系化合物,アゾ系化合物,スルホニルヒドラジト系化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの発泡剤である請求項1〜4のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項6】 粘性ゴム混和物が、無機充填剤および有機充填剤の少なくとも一方を含有し、かつ上記充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して10〜200重量部に設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項7】 (D)成分である加硫剤が、硫黄,硫黄化合物,オキシム類,カルバメート類からなる群から選ばれた少なくとも一つの加硫剤である請求項1〜6のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項8】 粘弾性発泡体が、所定の成形型を用いて薄層状に発泡成形されたものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項9】 粘弾性発泡体の発泡倍率が1.1〜15倍である請求項1〜8のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項10】 粘弾性発泡体の物質損失係数が0.001以上である請求項1〜9のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。」

III-2、引用刊行物記載の発明
上記本件発明に対し、当審が通知した取消理由に引用した刊行物1及び2は、前記「II、訂正の適否についての判断」の訂正拒絶理由通知において引用した刊行物1及び2と同じであり、上記刊行物1及び2には、次の各発明が記載されている。(上記「II-2-1」及び「II-2-2」を参照。)

III-2-1、刊行物1に記載の発明
刊行物1の実施例2には、下記の構成の発明が記載されていると認められる。(以下「刊行物1に記載された発明」という。)
「下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカ用コーンエッジであって、粘性ゴム混和物中の充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して、硫黄3.5部、亜鉛華4部、ステアリン酸2部、P-キノンジオキシム2部、鉛丹8部、P-ジニトロソベンゼン重合物を0.3部、有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)5部、軟化剤(ジブチルフタレート)20部に設定されており、上記粘弾性発泡体の物質損失係数を0.41としたスピーカ用コーンエッジ。
(A)ブチルゴム。
(B)軟化剤(ジブチルフタレート)。
(C)有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)。
(D)硫黄及びP-キノンジオキシム。」

III-2-2、刊行物2に記載の発明
刊行物2の実施例1には、下記の構成の発明が記載されていると認められる。(以下「刊行物2に記載された発明」という。)
「下記の(A)、(C)及び(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を金型内で加硫発泡成形した粘弾性発泡体からなるスピーカの振動板の一次加硫物であって、粘性ゴム混和物中の充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して、ステアリン酸1部、酸化亜鉛5部、カーボンブラック20部、アゾジカルボンアミド6部、尿素系発泡助剤1.5部、イオウ40部であり、上記粘弾性発泡体の密度を0.1g/cm3 に設定されているスピーカの振動板の一次加硫物。
(A)天然ゴム。
(C)アゾジカルボンアミド。
(D)イオウ。」

III-3、対比・判断
III-3-1、 本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された「スピーカ用コーンエッジ」は、本件請求項1に係る発明の「スピーカー用部材」に相当する。刊行物1に記載された発明は、スピーカ用コーンエッジの成形工程において、粘性ゴム混和物を加硫発泡しており、「硫黄」及び「P-キノンジオキシム」は、本件請求項1に係る発明の「加硫剤」に相当することは、前記「II-3-1」のように従来周知の事項である。
したがって、両者は、
「下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカー用部材。
(A)ゴム。
(B)軟化剤。
(C)有機発泡剤。
(D)加硫剤。」
である点において一致し、次の点で相違している。
〔相違点1〕、本件請求項1に係る発明では、粘弾性発泡体の引張強度を「0.1〜100kg/cm2 」としているのに対して、刊行物1に記載された発明では、それが明らかでない点。
〔相違点2〕、本件請求項1に係る発明では、粘弾性発泡体の比重を「0.07〜1.2」としているのに対して、刊行物1に記載された発明では、それが明らかでない点。
そこで、上記〔相違点1〕及び〔相違点2〕について検討する。
ここで検討する〔相違点1〕及び〔相違点2〕の事項は、前記「II、訂正の適否についての判断」における「II-3-1」の〔相違点1〕及び〔相違点2〕と同じである。後者の〔相違点1〕及び〔相違点2〕について行った検討は「スピーカー用エッジ部材」に関するものであり、ここで検討する〔相違点1〕及び〔相違点2〕は、上記「スピーカー用エッジ部材」の上位概念の「スピーカー用部材」に関するものであり、下位概念のものより上位概念のものの方がより広い範囲のものを指すことからも、後者の〔相違点1〕及び〔相違点2〕について行った検討と同様に、粘弾性発泡体の引張強度について「0.1〜100kg/cm2 」の範囲内の数値を、比重について「0.07〜1.2」の範囲内の数値をそれぞれ選択し採用するようなことは、スピーカー用部材が必要とする機能等を考慮して、当業者が容易になしうることであると認められる。

III-3-2、 本件請求項2〜9に係る発明と刊行物1の実施例2に記載された発明とを対比・判断する。
本件請求項2〜9に係る発明と、前記「II、訂正の適否についての判断」における訂正明細書の請求項2〜9に係る発明とを比べてみると、訂正明細書の請求項2〜9に係る発明が「スピーカー用エッジ部材」に関するものであであるのに対して、本件請求項2〜9に係る発明は、「スピーカー用部材」に関するものである点で相違するが、その他については一致している。
本件請求項2〜9に係る発明は、上記「スピーカー用エッジ部材」の上位概念の「スピーカー用部材」に関するものであり、下位概念のものより上位概念のものの方がより広い範囲のものを指すことからも、前記「II-3-2」〜「II-3-9」について行った検討と同様に、本件請求項2〜9に係る発明についても、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

III-3-3、 本件請求項10に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
本件請求項10の記載は、請求項1〜9のいずれか一項を引用しており、これらの他の請求項の引用部分を除いた構成と、刊行物1に記載された構成とを比較する。
刊行物1に記載された発明には、粘弾性発泡体の物質損失係数を「0.41」としたスピーカ用エッジ部材が記載されており、本件請求項10に係る発明の物質損失係数「0.001以上」の数値範囲内に入っている。
したがって、本件請求項10に係る発明の構成のうちこれらの他の請求項の引用部分を除いた構成は、刊行物1に記載されているので、本件請求項10に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

III-3-4、 以上のとおりであるから、本件請求項1〜10に係る発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。

III-4、 むすび
したがって、本件請求項1〜10に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-04-18 
出願番号 特願平6-30237
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H04R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 新宮 佳典  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 清水 信行
関谷 一夫
登録日 1997-12-26 
登録番号 特許第2733440号(P2733440)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 スピーカー用材  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西川 裕子  
代理人 小島 隆司  

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