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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 F16C 審判 全部申し立て 2項進歩性 F16C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F16C |
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管理番号 | 1061081 |
異議申立番号 | 異議2001-72887 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-07-19 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-10-19 |
確定日 | 2002-05-13 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3159582号「複列玉軸受」の請求項1乃至6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3159582号の請求項1乃至5に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 特許第3159582号の請求項1乃至6に係る発明についての出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成5年10月6日(優先日:平成4年10月6日、出願番号:特願平4-292126号)に出願され、平成13年2月16日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人・日本精工株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年3月12日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正の適否について 1.訂正の内容 特許出願人は、本件特許第3159582号の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の内容を訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。 (1)訂正事項a 特許明細書の請求項1に係る記載を 「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (2)訂正事項b 特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る記載を 「全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間に片側列用のボール径よりも小径なるボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (3)訂正事項c 特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に係る記載を 「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を段付き軸の小径軸部に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (4)訂正事項d 特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に係る記載を 「全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に圧入嵌合した片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (5)訂正事項e 特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (6)訂正事項f 特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を削除したことに伴い、特許請求の範囲の請求項6を新たな請求項5に繰り上げ、特許請求の範囲の請求項5に係る記載を 「全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (7)訂正事項g 特許明細書の段落番号【0003】の記載を 「これを図7によって説明すると、複列ダイレクト玉軸受のばあい、軸100には円周方向へ2本の転動溝101a、101bを形成し、外輪102にも2本の転動溝103a、103bを形成し、軸の転動溝と外輪の転動溝でそれぞれボール104a、104bを挟んでいる。」と訂正する。 (8)訂正事項h 特許明細書の段落番号【0009】の記載を 「上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る複列玉軸受は、大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部に固定したものとしてある。 本発明の請求項2に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間に片側列用のボール径よりも小径なるボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定したものとしてある。 本発明の請求項3に係る複列玉軸受は、大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を段付き軸の小径軸部に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定したものとしてある。 本発明の請求項4に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に圧入嵌合した片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定したものとしてある。 本発明の請求項5に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定したものとしてある。」と訂正する。 (9)訂正事項i 特許明細書の段落番号【0010】の記載を 「【実施例】以下本発明の実施例を添付図面に示す具体例により説明する。実施例のものはすべて軸とこれに対応する外輪用のスリーブを備える複列玉軸受である。図1の玉軸受は、大径軸部1bに続いて小径軸部1aを有する段付き軸1の外周面と、内径が全長に亘って同径なストレートの外輪用スリーブ2の内周面に片側列用の深溝型の転動溝3、4をそれぞれ形成して、両転動溝3、4間にボール5を設け、また段付き軸1の小径軸部1aに嵌めた内輪6の外周面とスリーブ2の内周面に他列用の深溝型の転動溝7、8をそれぞれ形成し、両転動溝間に他列用のボール9を設けてある。」と訂正する。 (10)訂正事項j 特許明細書の段落番号【0011】の記載を 「この玉軸受を製造するには、前記内輪6を段付き軸1へその軸線方向へスライドできるように嵌合し、全体を縦にして、段付き軸の下端(図1では左端)を受け台で支持し、押圧体にて内輪6へ上端から予圧(Pre-load)を掛けて、内輪6が適正位置に決められた状態で、接着剤で内輪6を段付き軸1の小径軸部1aへ固定する。予圧を加えるには、前記のほかにばねによる方法、シムや間座、ねじによる方法がある。」と訂正する。 (11)訂正事項k 特許明細書の段落番号【0012】の記載を削除する。 (12)訂正事項l 特許明細書の段落番号【0013】の記載を 「図2はスリーブ内面に他列用の外輪10を取り付けたものを示し、他列用のボール9は外輪の内周面に形成した深溝型の転動溝11と、全長に亘って同径なストレートの軸の外周に形成した深溝型の転動溝12との間に配設してあり、スリーブに内径が全長に亘って同径なストレートのものを使用している。」と訂正する。 (13)訂正事項m 特許明細書の段落番号【0014】の記載を 「図2の玉軸受は、製造時において外輪10をスリーブへスライド可能に嵌め、全体を縦にして、スリーブの下端(図2では左端)を受け台で支持し、押圧体により外輪へ上端面から予圧を掛けて外輪を適正位置で接着剤にてスリーブ内に固定して製造する。」と訂正する。 (14)訂正事項n 特許明細書の段落番号【0015】の記載を 「図3、4の玉軸受は大径軸部1bに続いて小径軸部1aを有する段付き軸1を使用し、またスリーブは内周面が段付き軸に対して平行で、一端部に内周拡径部2aを有する段付きのものを使用し、かつ内外輪6、10間にボール9を設けた深溝ベアリングを小径軸部1aとスリーブの内周拡径部2a間に介在せしめたものとしてある。」と訂正する。 (15)訂正事項o 特許明細書の段落番号【0016】の記載を 「その製造方法は、図3のものは外輪10をスリーブへスライド可能に嵌め込み、例えばスリーブ左端を下にして受け台で支持し、押圧体にて外輪へ予圧を掛けて、接着剤にて外輪をスリーブ内へ固定する。」と訂正する。 (16)訂正事項p 特許明細書の段落番号【0017】の記載を 「また図4のものは、内輪を小径軸部1aにスライド可能に嵌め、例えば段付き軸の左端を下にして受け台で支持し、内輪へ押圧体で予圧を掛け、接着剤にて内輪6を小径軸部1aに固定する。」と訂正する。 (17)訂正事項q 特許明細書の段落番号【0018】の記載を 「図5は片列側には外輪13を、他列側には内輪6を設けたもので、全長に亘って同径なストレートの軸と、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを使用している。」と訂正する。 (18)訂正事項r 特許明細書の段落番号【0019】の記載を 「図5の玉軸受は、外輪13をスリーブ内に圧入して接着剤で固定し、例えば軸の左端を下にして受け台で支持し、内輪6をスライド可能に軸に嵌め、内輪へ押圧体にて上から予圧を掛け、接着剤にて内輪を軸へ固定する。」と訂正する。 (19)訂正事項s 特許明細書の段落番号【0020】の記載を削除する。 (20)訂正事項t 特許明細書の段落番号【0021】の記載を 「図6は、全長に亘って同径なストレートの軸1に2本の深溝型の転動溝3、12を並列に形成し、これら転動溝に相対する深溝型の転動溝4、8を内周面に形成した2個の外輪13a、13bを備え、各外輪と軸の転動溝間にボール5、9をそれぞれ設け、外輪はスリーブ2内に設け、一方の外輪はスリーブ内に固定して受け台で支持し、スライド可能にした他方の外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブ内に固定する。」と訂正する。 (21)訂正事項u 特許明細書の段落【図面の簡単な説明】の記載を 「【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の第1実施例を示す縦断面図。 【図2】 本発明の第2実施例を示す縦断面図。 【図3】 本発明の第3実施例を示す縦断面図。 【図4】 本発明の第4実施例を示す縦断面図。 【図5】 本発明の第5実施例を示す縦断面図。 【図6】 本発明の第6実施例を示す縦断面図。 【図7】 従来の複列ダイレクト玉軸受を示す縦断面図。 【符号の説明】 1 軸 1a 小径軸部 1b 大径軸部 2 スリーブ 2a 内周拡径部 3 転動溝 4 転動溝 5 ボール 6 内輪 7 内輪転動溝 8 スリーブ転動溝 9 ボール 10 外輪 11 外輪転動溝 12 軸の転動溝 13 外輪 」と訂正する。 (22)訂正事項v 図面の訂正 (ア)図面中、図1、図4、図7、図9および図10を削除し、残りの図の図番号を繰り上げて新たな図1乃至7に訂正する。 (イ)図面中、図番号を訂正後の図1、図3および図4に、大径軸部を示す符号1bを加入する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否 (1)上記訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1において、本件請求項1の発明の構成要件である「軸」を「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸」に、同じく構成要件である「スリーブ」を「内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ」に、また同じく構成要件である「転動溝」を「深溝型」のものとしていずれも構造を下位概念のものに限定するものであり、さらに、内輪の段付き軸への固定手段として下位概念である「接着剤」による固定であることに限定するものである。 上記「軸」が「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸」であることは訂正前の図2に明瞭に示されており、「スリーブ」が「内径が全長に亘って同径なストレート」な構造のものであることは特許明細書の段落【0013】に開示されており、「転動溝」が「深溝型」のものであることは、訂正前の請求項5に記載されており、また、一般に「深溝型」または「深溝」の語は、溝深さに関わらず、溝の両側に肩部が形成されているものを指すことは当業者であれは自明な事項である点を考慮すると、訂正前の図面の転動溝が「深溝型」であることは明らかである。また、固定手段として「接着剤」とすることは段落【0011】等に開示されている。 してみると上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものである。また、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)上記訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項2において、本件請求項2の発明の構成要件である「軸」を「全長に亘って同径なストレートの軸」に、同じく構成要件である「スリーブ」を「内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ」に、また同じく構成要件である「転動溝」を「深溝型」のものとしていずれも構造を下位概念のものに限定するものであり、また、他列用の「ボール」を下位概念である「片側列用のボール径よりも小径」なものに限定し、さらに、内輪の軸への固定手段として下位概念である「接着剤」による固定であることに限定するものである。 そこで、上述した以外のものについて検討すると、 上記「軸」が「全長に亘って同径なストレート」の構造のものであることは特許明細書の段落【0018】に開示されており、また他列用の「ボール」が「片側列用のボール径よりも小径」なものであることは訂正前の図3に明瞭に示されている。 してみると上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものである。また、上記訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)上記訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項3において、本件請求項3の発明の構成要件である「軸」を「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸」に、同じく構成要件である「スリーブ」を「内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブ」に、また同じく構成要件である「転動溝」および「ボールベアリング」をそれぞれ「深溝型」のものおよび「深溝ボールベアリング」としていずれも構造を下位概念のものに限定するものであり、さらに内輪の段付き軸への又は外輪のスリーブへの固定手段として下位概念である「接着剤」による固定であることに限定するものである。 そこで、上述した以外のものについて検討すると、 上記「軸」が「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き」の構造のもので、「大径軸部」を有することについては訂正前の図5及び図6に明瞭に示されており、また「小径軸部」を有することについては段落【0015】に開示されており、さらに上記「スリーブ」が「内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付き」の構造のものであることは段落【0015】及び訂正前の図5及び図6に明瞭に示されている。 してみると上記訂正事項cは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものである。また、上記訂正事項cは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)上記訂正dは、特許請求の範囲の請求項4において、本件請求項4の発明の構成要件である「軸」を「全長に亘って同径なストレートの軸」に、同じく構成要件である「スリーブ」を「内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ」に、また同じく構成要件である「転動溝」を「深溝型」のものとしていずれも構造を下位概念のものに限定するものであり、さらに、内輪の軸への固定手段として下位概念である「接着剤」による固定に限定するものである。 そして、これらの事項は上述したように特許明細書に開示され、そして訂正前の図面に明瞭に示されている。 してみると上記訂正事項dは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものである。また、上記訂正事項dは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)上記訂正eは、特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものである。 (6)上記訂正fは、特許請求の範囲の請求項6を新たな請求項5に繰り上げ、新たな請求項5の発明の構成要件である「軸」を「全長に亘って同径なストレートの軸」に、同じく構成要件である「スリーブ」を「内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ」に、また同じく構成要件である「転動溝」を「深溝型」のものとしていずれも構造を下位概念のものに限定するものであり、さらに、他方の外輪のスリーブ内への固定手段として下位概念である「接着剤」による固定であることに限定するものである。 そして、これらの事項は上述したように特許明細書に開示され、そして訂正前の図面に明瞭に示されている。 してみると上記訂正事項fは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものである。また、上記訂正事項fは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)上記訂正事項g〜l、n〜vは、上記訂正事項a〜fのように訂正したことに伴い、特許請求の範囲の記載と詳細な説明の欄の記載及び図面の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものである。またこれらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)上記訂正事項mは、誤記の訂正に該当するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものである。またこれらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議の申立てについて 1.特許異議の申立ての理由の概要 特許異議申立人・日本精工株式会社(以下、「申立人」という。)は、本願出願前に頒布された甲第1号証乃至甲第8号証を提示し、本件特許第3159582号の請求項1、2、3、5、6に係る発明は何れも出願前公知である甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明と同一の発明であつて、特許法第29条第1項3号に該当し、又、請求項4に係る発明は、何れも出願前公知である甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、さらに、仮に転動溝が深溝型であることの限定が加えられたとしても、請求項1に係る発明は、甲第1、5及び甲第6号証、請求項2に係る発明は、甲第2、3、5及び甲第6号証、請求項3に係る発明は、甲第4、5及び甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、本件特許は取り消されるべきである旨主張している。 なお、本願は下記に示すように、適法に国内優先権主張が認められたものであるので、本件特許出願の優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に開示されている事項は先の出願の出願日(優先日)に出願されたものとみなされるところ、請求項3に係る発明については、本件特許出願の優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に開示されているので、出願日は先の出願の出願日(優先日)である平成4年10月6日とみなされる。したがつて、提出された甲第4号証に記載された発明は、特許法第29条の2第1項に該当する先願発明として取り扱うものとする。 記 単列はともかく、複列玉軸受において、深溝型であれアンギュラ型であれ、予圧を付与することは一般に実施される慣用技術に過ぎず、ましてや本願のように軸の振れ精度を向上するためには、当業者が当然考慮すべき技術的事項にすぎないものと認められる。したがって、予圧を付与するようにした点は新規事項の追加とは認められず、本件の出願日は、本件特許出願の優先権主張の基礎とされた先の出願の出願日(優先日)である平成4年10月6日とみなされる。 2.本件発明 前示のとおり本件訂正請求が認められたことにより、本件請求項1乃至5に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。またそれらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正事項a〜d及びfに示す下記のとおりのものである。 【請求項1】 大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部に固定してなる複列玉軸受。 【請求項2】 全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間に片側列用のボール径よりも小径なるボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定してなる複列玉軸受。 【請求項3】 大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を段付き軸の小径軸部に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定してなる複列玉軸受。 【請求項4】 全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に圧入嵌合した片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定してなる複列玉軸受。 【請求項5】 全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定してなる複列玉軸受。 3.引用刊行物に記載された発明 当審で通知した取消理由で引用した刊行物は下記に示すとおりのものである。 刊行物1:特開昭61-145761号公報(申立人が甲第1号証として提出) 刊行物2:特開平3-222661号公報(同甲第2号証) 刊行物3:実願昭60-113061号(実開昭62-22323号)のマイクロフィルム(同甲第3号証) 刊行物4:特開平3-145956号公報(同甲第5号証) 刊行物5:米国特許第3167364号明細書 (同甲第6号証) 刊行物6:実願昭59-62747号(実開昭60-196024号)のマイクロフィルム(同甲第7号証) 刊行物7:実願平2-90224号(実開平4-48419号)のマイクロフィルム(同甲第8号証) 刊行物1には次の技術的事項が記載されている。 (a)「第1図によればスピンドルは軸1と、共通の外輪4を持つ両軸受2および3と、ハウジング5とから成る。軸1の一端には、図示してない磁石板用の支持部6がプレスばめにより取り付けられており、他端には、外輪4およびハウジング5に取り付けられた電動機8の回転子7がある。アンギュラコンタクト玉軸受2の内側転動軌道2′は軸1に直接取り付けられている。軸受2および3の外輪が一体に形成されているから、ハウジング5の軸線方向部分5′を短くすることができるので、磁石板の固定的内径のために拡大できない空間に関して場所の利益が得られる。これは軸受2の範囲においてのみならずほぼ全長にわたつても軸1の直径の拡大を可能にする。軸受3は別体の内輪3′を持っており、この内輪は組付け段階において軸肩部1′に軸線方向に移動可能に設けられている。正しい軸線方向予荷重が得られた場合は、内輪を接着により軸肩部1′に固定することができ、それによつて軸線方向に安定した支持が行なわれる。」(3頁左下欄13行〜同頁右下欄13行) 以上の記載事項及び第1図、第2図の記載からみて、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。 「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と外輪よりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、外輪の内周面に直接形成した片側列用のアンギュラーコンタクト玉軸受の内周転動溝との間にボールを設け、また段付き軸の小径軸部には他列用の別体の内輪をスライド可能に嵌めて、この別体の内輪の外周転動溝と外輪の内周面に直接形成した他列用アンギュラーコンタクト玉軸受の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着にて段付き軸の小径軸部に固定してなると共に、両端部の内径が中央部に較べ拡径している外輪を用い、一端の転動溝を有するアンギュラコンタクト玉軸受からなる複列玉軸受。」 刊行物2には次の技術的事項が記載されている。 (b)「第2の具体例 第3図及び第4図は、本発明に従うスピンドルモータの第2の具体例を示している。尚、第1具体例においては、記録ディスクが装着されるハブ部材として機能する回動部材に改良が施されている。尚、第2の具体例において、第1の具体例と同一の部材は同一の参照番号を付して説明する。第3図及び第4図において、図示の回動部材6′は略中空円筒状の回動本体40とこの回動本体40に装着される環状部材42から構成されている。回動本体40の一端部内径はその他端部内径より大きくなっており、この一端部の空間に、第1の具体例と同様に、ステータ16及びロータマグネット18が配置される。回動本体40の他端部内周面には段部44(第4図)が形成され、その他端内径は拡大されている。回動本体40における、上記段部44の内側部位には、軸部材4に形成された内側環状溝8aに対応して、片方の外側環状溝12aが形成されており、内側環状溝8a及び外側環状溝12aは相互に協働して断面略円形状の球収容空間を規定する。環状部材42は回動本体40の他端面に規定された開口を通してその拡大径部46に後述する如くして装着される。この環状部材42の内周面には、上部が弧状に半径方向外方に拡がり且つ下部が下方に直線上に延びる凹部が設けられている。この凹部は他方の外側環状溝12b′として機能し、軸部材4の内側環状溝8bと協働して他方の球収容空間を規定する。尚、上述とは反対に、軸部材4の内側環状溝8aと環状部材42の外側環状溝12aにより片方の玉収容空間を規定するようにしてもよい。内側環状溝8a及び8b並びに外側環状溝12a及び12b′によって規定される一対の球収容空間には、第1の具体例と同様に、複数個の球状部材14が収容され、回動部材6′はこれら球状部材14を介して回転自在に支持される。球状部材14は上述と同様に、球保持部材24により保持するのが望ましい。回動部材6′の組付けは、例えば、次の通りにして行うことができる。まず、回動本体40を高周波加熱器(図示せず)等で加熱してその内径を膨張させ、この状態にて複数個の球状部材14を介して回動本体40を軸部材4に所要の通り組付ける。次いで、残りの内側環状溝8b内に複数個の球状部材14を位置付け、しかる後、環状部材42を回動本体40の他端面の開口を通して矢印48で示す方向に挿入して回動本体40の大径部46内周面に固定する。この環状部材42の固定は、例えば、所定荷重を加えた状態にて接着剤等により固定することができる。接着剤に代えて、焼きばね等の手段を用いてもよい。」(5頁右上欄4行〜同右下欄3行) 以上の記載事項及び第3図、第4図の記載からみて、上記刊行物2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。 「軸部材と回転部材よりなり、軸部材の外周面には片側列用の外側環状溝を直接形成し、この転動溝と、回転部材の内周面に直接形成した片側列用の内側環状溝との間に球状部材を設け、また軸部材の外周面に直接形成した他列用の外側環状溝と、他列用外輪を内周拡径部を有する回転部材内にスライド可能に嵌め込んだ他列用環状部材の内側環状溝との間に球状部材を設け、かつ前記環状部材へその軸線方向に適正な予圧を掛けて環状部材を接着剤等の結合手段でスリーブ内に固定してなる複列玉軸受。」 刊行物3には次の技術的事項が記載されている。 (c)「第1図に示すものはこの考案に係る軸受装置の断面図であって、大径軌道輪(6)の小径軌道輪(5)に対向する側に輪体(15)が一体に形成されており、各対向側面(7a),(8a)はいずれも相互にスラスト荷重を受ける側と反対側、換言すれば正面を向いて、正面組合せ(DF組合せ)となっている。大径側軌道輪(6)に一体に形成された輪体(15)の対向側面(8a)の内径(D)は小径側軌道輪(5)の外径(d)よりもわずかに大きくしてある。前記輪体(15)を小径軌道輪(5)に嵌挿することにより両軌道輪(5)、(6)は嵌合され、かつ予圧を付与された状態で固着されている。本実施例では、大径側軌道輪(6)に設けられた輪体(15)の内径面に形成された周溝(10)に注入された接着剤で固着されているものを示す。固着手段としては例えばビーム溶接など適宜のものを用いることができることは言うまでもない。」(3頁16行〜4頁11行) 以上の記載事項及び第1図の記載からみて、上記刊行物3には、以下の発明(以下、「引用発明2’」という。)が記載されているものと認める。 「軸と大径軌道輪よりなり、軸の外周面には片側列用の軸の軌道溝を直接形成し、この転動溝と、段付き大径軌道輪の内周面に直接形成した片側列用のアンギュラコンタクト型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の軸の軌道溝と、大径軌道輪内にスライド可能に一部嵌め込んだ他列用小径軌道輪の輪体の軌道溝との間にボールを設け、かつ前記小径軌道輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて小径軌道輪を接着等の結合手段で大径軌道輪内に固定してなる複列玉軸受。」 刊行物4には次の技術的事項が記載されている。 (d)「回転軸3の外周面には、複列の転がり軸受を構成する為の、1対の内輪15、15を設けている。又、これら1対の内輪15、15と共に転がり軸受を構成する外輪16は、全体を円筒状に形成されており、両端部内周面に、それぞれ内方軌道17、17を形成している。これら1対の内方軌道17、17と、上記1対の内輪15、15の外周面に形成された外方軌道18、18との間には、それぞれ複数の転動体19、19を設けて、外輪16の内側での回転軸3の回転を自在としている。この様な転がり軸受により、外輪16での内側に回転軸3を支持する場合、一方の内輪15を先に回転軸3の外周面に接着しておき、他方の内輪15を軸方向(第1図の上下方向)に押圧する事により、各転動体19、19に適正な予圧を付与した状態で、上記他方の内輪15を回転軸3に対して接着する。」(3頁左上欄18行〜同頁右上欄14行) 刊行物5には、その訳文を参照すると、次の技術的事項が記載されている。 (e)「先ず、図面のFig.1及び2を参照すると、本発明の複列玉軸受の組立品は、4個の主要部品、即ち、一般的にハウジング又は図示の様なローラ部材10として形成された外側のスリーブと、外側部材10の内側に同軸に配置された、内側の軸又はスピンドル12と、上記ローラ部材10とスピンドル12との中間間の環状空間に軸方向に互いに離れる状態で設けた、一般的に14、16で示す様な玉軸受とから成る。上記ローラ部材10とスピンドル12とのうち、一方は、他方に対し回転する関係にある。上記玉軸受14は、ローラ部材10の孔22の内周面に形成した外径側の軌道18と、内輪24と、この内輪24の外周面に同心に設けた内輪軌道26と、上記両軌道18、26同士の間に保持した複数の玉28とから成る。これら各玉28は、上記両軌道の内側の円周方向等間隔位置に、従来から知られている保持器30により保持している。上記内輪24は、孔32が形成されており、この孔32は、上記スピンドル12の外周面34に摺動自在に、又は緩く嵌合する状態で設けている。上記玉軸受16は、上述した玉軸受14と同様に構成している。そして、この玉軸受16は、外側のローラ部材10の孔22の内周面に形成した外側の軌道溝20と、内輪38と、この内輪38の外周面に同心に形成した軌道溝40と、上記両軌道溝20、40の間に、従来から知られている保持器44により保持した複数の玉42とから成る。上記内輪38は、孔45が形成されており、この孔45は、上述したスピンドル12の外周面34に、緩く摺動する様に正確に形成されている。上述した内輪38は、後で詳しく説明する様に、環状の固定リング46により、上記スピンドル12上の軸方向の所望の位置に固定している。この固定リング46の孔48の径は、この固定リング46が上記スピンドル12に強く嵌合するような寸法に規制している。」(2欄25行〜63行) (f)「内輪38は、上述した様にスピンドル12の外周面に緩く摺動する状態で設けている為、このスピンドル12上で、上記両軌道20、40の軸方向位置を合わせる作業を容易に行なえる。次に、固定リング46を、スピンドル12の端部に強く嵌合させる。そして、最後に、塞ぎ部材50を、ローラ部材11の端部に、環状の肩部52に対向する位置に設置して、保持リング54により固定する。」(5欄55行〜63行) (g)「もし望むならば、軸受の内側の径方向及び軸方向の隙間を0にする為、又は、軸受に軸方向の僅かな予圧を加える為に、軌道輪24と38との間の軸方向の空間を小さくするのに十分な距離で、スピンドル12に固定リング46を嵌合する事もできる。軸受の軸方向の隙間を規制、又はなくしたり、軸受に軸方向の予圧を加える事により、玉軸受15の複数の玉42と玉軸受14の複数の玉28とに、各内輪軌道と各外輪軌道との底部に関して、軸方向及び径方向にずらせる事ができる。それによって、複数の玉を、各軌道の底部から平行にずれた部分上で転動させる事ができる。この様な構造によると、後でFig.3、4を用いて詳しく説明する様に、複数の玉が、隙間を規制したり、一定量の軸方向の荷重に耐える様な位置に配置される。従って、複数の玉と各軌道との間の軸方向の隙間をなくす事ができて、径方向の隙間と、スピンドル12及びローラ部材10の間の偏心量とが規制されるか、又はなくなる。」(5欄73行〜6欄19行) (h)「Fig.5の組立品は、Fig.1〜3で示した組立品に関して上述したものと同様の構造を有する。本例の場合、玉軸受164の外輪168は、この外輪の内側に配置された環状のシールド部材202と共に、先ず、この外輪の左端が孔196の環状肩部178と接触する位置まで、ローラ部材160の孔196に挿入する。次に、玉軸受166の外輪180も、上記ローラ部材160の孔190に、図5に示したものとほぼ同じ位置に迄挿入する。これに続いて、スピンドル162を、シールド202の開口部及びローラ部材160の孔190の内側に、予め外輪168、180にそれぞれ形成された軸受軌道170、180と、内輪軌道172、184とが、軸方向に関して実質的に一致する状態に迄挿入する。それから、各玉を、スピンドル182とローラ部材160の孔190との間の円環状空間を通じて、上述した軸受軌道170、172同士の間の空間に案内する。そして、保持器176を、同様に案内して、上述の軸受軌道170、172の間に等間隔に玉176を保持した状態に組み込む。次に、各玉186を、上記両軸受軌道182、184の間で、予め設置された保持器188に同様に案内する。これに続いて、固定リング192を、上記ローラ部材160の孔190の左端の内側に挿入して、外輪180の右端に接触する位置迄軸方向に押圧する。上記固定リング192は、前述した様に、押圧手段により適正な位置に調整する。最後に、上記固定リング192の位置の調整作業を完了した後、シールド部材194を、ローラ部材160の端部に、前述した様に他の部材と関連付けた状態で設置する。」(6欄72行〜7欄33行) 以上の記載事項及びFig5の記載からみて、上記刊行物5には、以下の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているものと認める。 「スピンドルの外周面に片側列用の内側軌道と他列用の内側軌道をそれぞれ直接形成し、これらに対応する片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートでなく、片側列用の外輪のストッパ用の肩部を有する外側部材内に設け、各列用の前記内側軌道と各列用の前記外輪の内周転動溝間に玉を設け、かつ一方の外輪は外側部材に固定し、他列用の外輪はスライドさせて予圧をかけた後別体の固定リングで係止したてなる複列玉軸受。」 刊行物6には、次の技術的事項が記載されている。 (i)「第1図において、1はスピンドル、2はそれに間隔をおいて形成された一対の玉軌道、3,4はそれぞれ玉軌道2に玉5,6を配設した各軸受、7は軸受3における大きい外径の外輪、8は軸受4における小さい外径の外輪、9は潤滑剤密封輪である。10はハウジング、11は小さい外径の外輪8を収容するハウジングの小径内周面、13はハウジングの一端に同体に形成された半径方向内方に延びる鍔部、12は前記大きい外径の外輪7を圧入するハウジングの大径内周面である。前記小径の外輪8は、その側面が鍔部13の内側面に密着しかつその外周面とハウジング10の小径内周面11との間には若干のすきまが形成されており、前記大径の外輪7は、その外周面がハウジング10の大径内周面12に圧入嵌合されている。また前記ハウジング10の大径内周面12および小径内周面11と、鍔部13の内側面とは十分な直角精度を有している。次に組立は第3図の如くハウジング10の後端を受金具Rで受け、スピンドル1にアセンブルした軸受のうちの大径側外輪7の一端に圧入金具Pを当ててハウジング10内に圧入すればよい。第1図のものにおいては、大径側外輪7をハウジング10の大径内周面12に圧入してゆき、小径側外輪8がハウジング10の鍔部13の内側面に当接することにより軸受に適正予圧がかかった状態で圧入を停止する。」(5頁13行〜7頁9行) 以上の記載事項及び第1図の記載からみて、上記刊行物6には、以下の発明(以下、「引用発明5’」という。)が記載されているものと認める。 「スピンドルの外周面に片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する片側列用と他列用の外輪を内径が段差を有し、又、片側列用の外輪のストッパ用の肩部を有するハウジング内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の内周転動溝間に球を設け、かつ片側列用の外輪はハウジングに固定し、他方の外輪は圧入嵌合により、これに予圧を掛けてハウジングに固定してなる複列玉軸受。」 刊行物7には、次の技術的事項が記載されている。 (j)「第1図は、本考案に係る予圧構造を具えた精密シャフトユニットを示す。この精密シャフトユニットは、一列の軌道溝(1a)を外周面に形成した軸(1)、軌道溝(1a)に対応して組み込まれた軸受部(A)、内輪(2b)を軸(1)に固定された軸受部(B)、および両軸受部(A)(B)間に介装された予圧間座(7)で構成される。軸受部(A)は、軌道溝(1a)に配されたボール(3a)、ボール(3a)を保持する保持器(4a)、ボール(3a)を介して装着された外輪(5a)、および外輪(5a)の非対向側端部に装着されたシール(6a)を有する。軸受部(B)は、軸(1)の縮径部(1b)に接着剤(9)で固定された内輪(2b)、外輪(5b)、内・外輪(2b)(5b)間に介在するボール(3b)、ボール(3b)を保持する保持器(4b)、および外輪(5b)の非対向側端部に装着されたシール(6b)を有する。尚、縮径部(1b)の径寸法は、内輪(2b)とのハメアイがスキマバメ程度になり、かつ、軸受部(A)の軸受断面高さと軸受部(B)の軸受断面高さとが同一になるような寸法にしてある。予圧間座(7)は、環状部材の両側面にインロー部(8)を形成したもので、予圧間座(7)はインロー部(8)を外輪(5a)(5b)の体向側端部に形成されたシール溝に嵌着される。このため、予圧間座(7)はシール機能をも兼ね具える。この精密シャフトは、以下に示す手順で組み立てられる。 1.軸受部(A)を組み立てる。 2.予圧間座(7)、軸受部(B)の順に軸(1)に挿入した後、予圧間座(7)のインロー部(8)を外輪(5a)(5b)に嵌着する。 3.軸受部(B)の内輪(2b)に所定量の負荷(例えば、所定重量の重錘等を用いて)をかけて軸受部(A)側に押圧する。 4.負荷をかけながら、内輪(2b)を接着剤で軸(1)に固定する。 このように、所定量の負荷がかけられた状態で軸受部(B)が固定されるから、外輪(5a)(5b)は予圧間座(7)から負荷重に相当する量の反力を受けて相互に離反しようとする。換言すれば、軸受部(A)および軸受部(B)には、上記負荷に対する反力としての予圧が等しく負荷される。したがって、本実施例によれば、予圧間座(7)の幅寸法H’を高精度に管理することなく、所定量の予圧を軸受部に負荷することができる。」(4頁2行〜6頁8行) 以上の記載事項及び第1図の記載からみて、上記刊行物7には、以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているものと認める。 「段付き軸の外周面に片側列用の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪をスライド可能に嵌合挿入可能にし、片側列用外輪の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、また、前記他列用内輪の外周転動溝と外輪の内周面に形成した他列用内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪もしくは外輪あるいは両者にそれぞれ適正な予圧を掛けて内輪を軸に固定してなる複列玉軸受。」 IV.本件発明と刊行物1〜7に記載された発明との対比・判断 (1)本件発明1について、 本件発明1と上記引用発明1(刊行物1に記載された発明)を比較すると、引用発明1の「外輪」は本件発明1の「スリーブ」に相当し、同様に、「別体の内輪」は「内輪」に相当するから、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点] 大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸とスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の内周転動溝との間にボールを設け、また段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着にて段付き軸の小径軸部に固定してなる複列玉軸受。 [相違点] 本件発明1に用いられる軸受は、スリーブに内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを用い、深溝型の転動溝を形成した深溝玉軸受であるのに対し、引用発明1に用いられる軸受は、両端部の内径が中央部に比べ拡径しているスリーブを用い、一端の転動溝にアンギュラコンタクト玉軸受である点。 そこで、相違点について検討する。 先ず、同一性について判断すると、 上記相違点に基づき、本件発明1は、スリーブに内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを用い、両端に肩部を有する片側列用及び他列用の深溝型の転動溝を形成したので、製造上の利点から、転動溝の加工が簡単であるにもかかわらず加工精度の高い転動溝が形成でき、特に、片側列用と他列用の転動溝の同心精度を低コストで高精度に形成できるものである。すなわち、引用発明1のように、片側列用と他列用の転動溝の加工精度を出すためには、厳密な工程管理を必要とするアンギュラ型に比べ簡単な構造でありながら上記した様々な利点を有するものである。 また、本件発明1は、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着にて段付き軸の小径軸部に固定してなるものであるので、内輪へ適正な予圧を容易にかけることができ、したがって、転動溝によりボールに掛かる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の触れ精度が向上して耐震動性の高い、しかも組立が容易で、製造コストの低減を期せることがでる等の引用発明1に示す片側列用及び他列用の転動溝にアンギュラ型を用いたのものでは考えられない上記明細書記載の作用効果を奏するものである。 次に、容易性について判断すると、 刊行物4及び5に複列玉軸受において外周転動溝、内周転動溝の双方が深溝型のものが開示されているとしても、段付き軸の片側列用の大径部に直接形成した転動溝を有し、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪に外周転動溝を設けた特定の構成の複列玉軸受である引用発明1の外輪のアンギュラ型の転動溝に代え深溝型の転動溝を直ちに適用することは当業者といえども容易になし得たものとは認められない。 したがつて、本件発明1は引用発明1と同一と認められないばかりでなく、刊行物1、4及び5に記載された発明に基いて容易に発明することができたものとも認められない。 (2)本件発明2について、 (A)本件発明2と上記引用発明2(刊行物2に記載された発明)を比較すると、引用発明2の「軸部材」は本件発明2の「軸」に相当し、以下同様に、「回転部材」は「スリーブ」に、「外側環状溝」は「外周転動溝」に、「球状部材」は「ボール」に、「環状部材」は「外輪」に各々相当するから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 全長に亘って同径なストレートの軸とスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定してなる複列玉軸受。 [相違点] 本件発明2は、他列用外輪を内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内にスライド可能に嵌め込み前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定したのに対し、引用発明2では他列用外輪を内周拡径部を有するスリーブ内に嵌め込み、前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定した点。 そこで、相違点について検討する。 先ず、同一性について検討する。 上記相違点に基づき、本件発明2は、全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを用い、他列用外輪をスリーブ内に直接スライド可能に嵌め込んだので、引用発明2のように、他列用外輪を内周拡径部を有するスリーブ内に嵌め込むものと較べ、簡単にしかも加工精度の高い転動溝が形成でき、また、他列用外輪を内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内にスライド可能に嵌め込み前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着にて固定してなるものであるため、外輪へ適正な予圧を容易にかけることができるため、転動溝によりボールにかかる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の触れ精度が向上して耐震動性の高い、しかも、組立が容易で、製造コスト低減を期すことがでる等の作用効果を奏するものである。 次に容易性について検討する。 刊行物4には、同径なストレートのスリーブ内に外輪を嵌め込む構成が開示されておらず、刊行物5の片側列用の外輪は外側部材のストッパ用の肩部178で位置決めされており、本件発明2のように内径が同径なストレートのスリーブではなく、また、他列用の外輪はロックリング192で固定されるものであるので、上記相違点に係る構成は、刊行物4及び5にも開示されていない。 したがつて、本件発明2は引用発明2と同一と認められないばかりでなく、刊行物2、4及び5に記載された発明に基いて容易に発明することができたものとも認められない。 (B)本件発明2と上記引用発明2’(刊行物3に記載された発明)を比較すると、引用発明2’の「大径軌道輪」は本件発明2の「スリーブ」に、そして「小径軌道輪」は「外輪」に各々相当するから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 全長に亘って同径なストレートの軸とスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に完全に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定してなる複列玉軸受。 [相違点] 本件発明で2では、内径および外径が全長に亘って同径なストレートなスリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝を設け、また、外輪をスリーブ内にスライド可能に嵌め込んだのに対し、引用発明2’では、段付きスリーブの内周面に直接形成した片側列用のアンギュラコンタクト型の内周転動溝を設け、また外輪の一部をスリーブ内にスライド可能に嵌め込みんだ点。、 そこで、相違点について検討する。 先ず、同一性について検討する。 上記相違点に基づき、本件発明2は、全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを用い、他列用外輪をスリーブ内に直接スライド可能に嵌め込んだので、引用発明2’のように、他列用外輪を一部スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだものに較べ、簡単にしかも加工精度の高い転動溝ができ、また、引用発明2’のように他列用外輪の一部ではなく、他列用外輪を完全に、内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内にスライド可能に嵌め込み前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着にて固定してなるものであるため、外輪へ適正な予圧を容易にかけることができるため、転動溝によりボールにかかる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の触れ精度が向上して耐震動性の高い、しかも、組立が容易で、製造コスト低減を期すことがでる等の作用効果を奏するものである。 また、本件発明2では、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝を設けたので、上記本件発明1で述べたように、製造上の利点から、転動溝の加工が簡単であるにもかかわらず加工精度の高い転動溝が形成でき、特に、片側列用と他列用の転動溝の同心精度を低コストで高精度に形成できるものであり、片側列用の転動溝をアンギュラコンタクト型とした引用発明2’のように厳密な工程管理を必要としないで高精度の転動溝を得ることができる。 次に、容易性について検討する。 刊行物4には、同径なストレートのスリーブ内に外輪を嵌め込む構成が開示されておらず、刊行物5の片側列用の外輪は外側部材のストッパ用の肩部178で位置決めされており、本件発明2のように内径が同径なストレートのスリーブではなく、また、他列用の外輪はロックリング192で固定されるものであるので、上記相違点に係る構成は、刊行物4及び5にも開示されていない。 したがつて、本件発明2は引用発明2’と同一と認められないばかりでなく、刊行物3、4及び5に記載された発明に基いて容易に発明することができたものとも認められない。 (3)本件発明5について、 (A)本件発明5と上記引用発明5(刊行物5に記載された発明)を比較すると、引用発明5の「スピンドル」は本件発明5の「軸」に相当し、以下同様に、「内輪軌道」は「外周転動溝」に、「外側部材」は「スリーブ」に、「玉」は「ボール」に各々相当するから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪をスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けてスリーブに固定してなる複列玉軸受。 [相違点] 本件発明5においては、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブであり、また、他列用の外輪はスライド可能にし、予圧をかけた後、接着剤により固定したのに対し、引用発明5においては、スリーブが内径が全長に亘って同径なストレートでなく、片側列用の外輪のストッパ用の肩部を有し、また、他列用の外輪はスライドさせて予圧をかけた後別体の固定リングで係止した点。 そこで、相違点について検討する。 上記相違点に基づき、本件発明5は、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを用いたので、引用発明5のように、外輪のストッパ用の肩部を有するスリーブを用いるものに較べ、製造が簡単でしかも加工精度の高いスリーブが得られ、片側列用及び他列用外輪をスリーブ内にスライド可能に嵌め込んだので、その決果、簡単にしかも加工精度の高い転動溝を形成でき、また、他列用外輪を内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内にスライド可能に嵌め込み前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着にて固定してなるものであるため、引用発明5のように、他列用の外輪をスライドさせて予圧をかけた後別体の固定リングで係止するものに較べ、外輪へ適正な予圧を容易にかけることができるため、転動溝によりボールにかかる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の触れ精度が向上して耐震動性の高いしかも組立が容易で、製造コスト低減を期すことがでる等の作用効果を奏するものである。 したがつて、本件発明5は、引用発明5と同一とは認められない。 (B)本件発明5と引用発明5’(刊行物6に記載された発明)を比較すると、引用発明5’の「スピンドル」は本件発明5の「軸」に相当し、以下同様に、「ハウジング」は「スリーブ」に、「玉」は「ボール」に各々相当するから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する片側列用と他列用の外輪をスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ片側列用の外輪はスリーブに固定し、他列用の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定してなる複列玉軸受。 [相違点]本件発明5においては、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブであり、また、片側列用と肉厚の等しい他列用の外輪はスライド可能にし、予圧をかけた後、接着剤により固定したのに対し、引用発明5’においては、スリーブの内径が段差を有し、又、片側列用の外輪のストッパ用の肩部を有し、また、他列用の外輪は圧入嵌合により予圧をかけて固定した点。 そこで、相違点について検討する。 上記相違点に基づき、本件発明5は、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを用いたので、引用発明5’のように片側列用の外輪のストッパ用の肩部を有する段差のあるスリーブを用いたものに較べ、製造が簡単でしかも加工精度の高いスリーブが得られ、片側列用及び他列用の外輪をスリーブ内にスライド可能に嵌め込んだので、その決果、簡単にしかも加工精度の高い転動溝を形成でき、また、他列用外輪を内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内にスライド可能に嵌め込み前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着にて固定してなるものであるため、外輪へ適正な予圧を容易にかけることができるため、転動溝によりボールにかかる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の触れ精度が向上して耐震動性の高い、しかも組立が容易で、製造コスト低減を期すことがでる等の作用効果を奏するものである。 したがつて、本件発明5は、引用発明5’と同一とは認められないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 (4)本件発明4について、 本件発明4と引用発明4(刊行物7に記載された発明)を比較すると、引用発明4の「軸1」は本件発明4の「軸」に相当し、以下同様に、「外輪(5a)、(5b)」は「外輪」に、「内輪2b」は「内輪」に各々相当するから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝と他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定してなる複列玉軸受。 [相違点] 本件発明4の軸が、全長に亘って同径なストレートの軸であり、また、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを有し、スリーブの内周面には片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝を設け、一方、軸の外周面に他列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともにスリーブに他列用の内輪を嵌合挿入可能に設けたのに対し、引用発明4の軸は段付き軸であり、また、スリーブに相当する部材を有しない点。 そこで、相違点について検討する。 刊行物2、刊行物5及び刊行物6には、全長に亘って同径なストレートの軸とし、軸に内輪を、スリーブに外輪を各々設けることは開示されている。しかし、スリーブの内周面には片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝を設け、一方、軸の外周面に他列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともにスリーブに他列用の内輪を嵌合挿入可能に設けた点については、いずれの刊行物にも開示されておらず、 また、その決果、簡単にしかも加工精度の高い転動溝を形成でき、また、片側列用の外輪を内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内にスライド可能に嵌め込み、また全長に亘って同径なストレートの軸には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着にて固定してなるものであるため、内輪へ適正な予圧を容易にかけることができるため、転動溝によりボールにかかる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の触れ精度が向上して耐震動性の高い、しかも組立が容易で、製造コスト低減を期すことがでる等の作用効果を奏するものである。これらの点を考慮すると、単に組み合わせるものではないので、引用発明4に上記刊行物2、刊行物5及び刊行物6のスリーブを適用し、相違点に係るスリーブの内周面には片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝を設け、一方、軸の外周面に他列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともにスリーブに他列用の内輪を嵌合挿入可能に設けた本件発明4の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものとは認められない。 また、刊行物1、刊行物3、及び刊行物4にも上記相違点の構成は、開示されておらず、刊行物1乃至刊行物7を単に組み合わせることにより、本件発明4の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものとは認められない。 (5)本件発明3について、 実願平3-65554号(実開平5-12739号)(申立人が甲第4号証として提出) なお、本件発明3については、III.1.特許異議の申立ての理由の概要で述べたように、本件特許出願の優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に開示されているので、出願日を先の出願の出願日(優先日)である平成4年10月6日とみなす。 上記甲第4号証の実願平3-65554号(実開平5-12739号)の明細書(以下、「先願明細書」という。)には次の技術的事項が記載されている。 (k)「【実施例】以下、本考案の一実施例を図1ないし図7によって説明する。図1において、回転軸1は円柱状をなし、一部に同一径の複数個の第1のボール5を転動させるレース面1aが設けられている。このレース面1aはラジアル方向の外周面上に形成された円弧状の溝部であって、前記ボール5の外形に密接するように設けられている。このレース面1aより所定の間隔をおいてレース面と平行に接着用溝1bが設けられており、この接着用溝1bは後述する内輪2の接着に必要な接着剤を溜めておく溝である。」(段落【0010】) (l)「このような回転軸1の外側には、所定の間隙をおいて外輪4が被せられる。外輪4は円筒状で略中央に仕切状の突片4aがあって、その一方側には前記回転軸1のレース面1aに対応する第1の転動面4bが設けられている。この第1の転動面4bは、内装されるボール5の曲面に相応する曲面またはテーパ面で形成され、開口部側には後述するカバー6を取付ける段差部4cが形成されている。また、前記突片4aの他方側には、内装される内輪2のボール3の曲面に相応する第2の転動面4dが形成されている。」(段落【0011】) (m)「この第2の転動面4dの対応する位置には、内輪2が第2のボール3を介して配設される。この内輪2は、中心部に回転軸1を間隙なく挿通する内径孔2aが設けられていて、外周面には第2のボール3に対応する曲面またはテーパ面からなる転動面2bが設けられている。そして、この内輪2の大径部は、前記外輪4の第2の転動面4dの開口孔に隙間をおいて収容されるように構成されている。なお、前記カバー6は平板のワッシャ状に形成され、外周は前記外輪4の段差部4c内に嵌合され、内周は前記回転軸1の先端を貫通させるに十分な内径を有している。」(段落【0012】) (n)「このように構成されたローラ7は、回転軸1に外輪4を被せ、複数個の第1のボール5を外輪4と回転軸1との間に挿入すると、前記ボール5は回転軸1のレース面1a内に装入され外輪4で押さえられる。次に外輪4の他に開放孔より複数個の第2のボール3を挿入し、回転軸1の他方側より内輪2を嵌め込み、回転軸1の接着用溝1bに接着剤を塗布して内輪2を与圧加重にて挿入または圧入する。そして、最後にカバー6を外輪4の段着部4cに接着または圧入すれば簡単な作業で組立てられる。このローラ7は、外輪の外径と回転軸方向の幅とで大きさが決定されるので、第1および第2のボールにミニチュアボールを用いることにより小型化することができる。」(段落【0013】) (o)「図7に示したローラ15は、図5の外輪4Aの内側に図6のラジアルボールベアリング12を内装したものである。」(段落【0020】) (p)図1より、「軸をストレートとし、片側列用の外周転動溝としてアンギュラコンタクト型を用いた」ことが看取できる。 以上の記載事項及び第1図、第7図の記載からみて、上記甲第4号証の明細書には、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認める。 「回転軸と外輪よりなり、回転軸の外周面には片側列用の転動溝を直接形成し、この転動溝と、外輪の内周面に直接形成した片側列用の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用のボールベアリングの内輪を回転軸に嵌め、外輪は外輪内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれかに軸線方向の適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着等の結合手段で回転軸もしくは外輪に固定してなる複列玉軸受。」 ここで、本件発明3と先願発明を比較すると、先願発明の「回転軸」、「転動溝」、「外輪」は本件発明3の「軸」、「外周転動溝」、「スリーブ」に各々相当するので、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を軸に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定してなる複列玉軸受。 [相違点] 本件発明3においては、軸を大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸とし、片側列用の外周転動溝として深溝型を用いたのに対し、先願発明においては、軸をストレートとし、片側列用の外周転動溝としてアンギュラコンタクト型を用いた点。 そこで、相違点について検討する。 本件発明3は、スリーブに内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブを用い、片側列用の転動溝に深溝型の転動溝を形成したので、先願発明のように、片側列用の外周転動溝としてアンギュラコンタクト型を用いたものに較べ、上記本件発明1の相違点でも述べたように、製造上の利点から、転動溝の加工が簡単であるにもかかわらず加工精度の高い転動溝が形成でき、特に、片側列用と他列用の転動溝の同心精度を低コストで高精度に形成できるものである。すなわち、引用発明1のように、片側列用と他列用の転動溝の加工精度を出すためには、厳密な工程管理を必要とするアンギュラ型に比べ簡単な構造でありながら上記した様々な利点を有するものである。 また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めるか、または、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブに他列用の外輪をスライド可能に嵌めて、前記内輪または外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪または外輪を接着にて固定してなるものであるため、内輪または外輪へ適正な予圧を容易にかけることができるため、転動溝によりボールにかかる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の触れ精度が向上して耐震動性の高い、しかも組立が容易で、製造コスト低減を期すことができる等の明細書記載の作用効果を奏するものであり、加工精度を出すためには、厳密な工程管理を必要とするアンギュラ型に比べ簡単な構造でありながら上記した様々な利点を有するものである。 したがつて、本件発明3は先願発明と同一とは認められないので、特許法第29条の2第1項に違反するものとは認められない。 V.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によつては、本件請求項1乃至5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1乃至5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よつて、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 複列玉軸受 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部に固定してなる複列玉軸受。 【請求項2】 全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間に片側列用のボール径よりも小径なるボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定してなる複列玉軸受。 【請求項3】 大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を段付き軸の小径軸部に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定してなる複列玉軸受。 【請求項4】 全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に圧入嵌合した片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定してなる複列玉軸受。 【請求項5】 全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定してなる複列玉軸受。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はOA機器の回転部に好適な複列玉軸受に関する。 【0002】 【従来の技術】 玉軸受にはボール転動用の溝を軸へ直接形成したタイプのものがあり、このタイプのものは通常ダイレクト玉軸受といわれている。このダイレクト玉軸受は、ボールが1列だけの単列玉軸受のばあいは、軸と外輪にそれぞれ形成した転動溝およびボールとの位置合わせを比較的容易に行うことができるが、ボールが2列になっている複列玉軸受のばあいは、対向する転動溝どうしおよびボールとの位置合わせが難しい。 【0003】 これを図7によって説明すると、複列ダイレクト玉軸受のばあい、軸100には円周方向へ2本の転動溝101a、101bを形成し、外輪102にも2本の転動溝103a、103bを形成し、軸の転動溝と外輪の転動溝でそれぞれボール104a、104bを挟んでいる。 【0004】 このような複列玉軸受においては、軸の左右転動溝の中心線間の距離Aと外輪の転動溝の中心線間の距離Bとの関係は、B>A又はA>Bでなければならない。 【0005】 このばあい、BがAよりも過大であると、あるいはAがBよりも過大であると、ボールと転動溝の間に掛る予圧量が大となり、ボールや転動溝が変形したりして不良品の玉軸受となる。 【0006】 従来の複列ダイレクト玉軸受においては、1個の外輪の内面へ、軸のダイレクト転動溝101a、101bに対応する転動溝103a、103bをそれぞれ予め形成してある。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 したがって、外輪の転動溝103a、103bは軸のダイレクト転動溝に対応するよう正確に形成せねばならないし、軸に対する外輪の組み付けも、予圧量が適正となるように行わねばならず、その作業に極度の精密さが要求され、しかも一旦組み付けると、後は調整が不可能となる。 【0008】 本発明は、軸に嵌めた内輪もしくはスリーブに嵌めた外輪に予圧を掛け易くすることにより、適正な予圧量を正確かつ容易に掛けることができ、もって剛性に優れ、軸の振れ精度が向上させられて、耐振動性の高い、しかも組立が容易で、製造コストの低減を期せる複列玉軸受を提供できるようにした。 【0009】 【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る複列玉軸受は、大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部に固定したものとしてある。 本発明の請求項2に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間に片側列用のボール径よりも小径なるボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定したものとしてある。 本発明の請求項3に係る複列玉軸受は、大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を段付き軸の小径軸部に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定したものとしてある。 本発明の請求項4に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に圧入嵌合した片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定したものとしてある。 本発明の請求項5に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定したものとしてある。 【0010】 【実施例】 以下本発明の実施例を添付図面に示す具体例により説明する。実施例のものはすべて軸とこれに対応する外輪用のスリーブを備える複列玉軸受である。 図1の玉軸受は、大径軸部1bに続いて小径軸部1aを有する段付き軸1の外周面と、内径が全長に亘って同径なストレートの外輪用スリーブ2の内周面に片側列用の深溝型の転動溝3、4をそれぞれ形成して、両転動溝3、4間にボール5を設け、また段付き軸1の小径軸部1aに嵌めた内輪6の外周面とスリーブ2の内周面に他列用の深溝型の転動溝7、8をそれぞれ形成し、両転動溝間に他列用のボール9を設けてある。 【0011】 この玉軸受を製造するには、前記内輪6を段付き軸1へその軸線方向へスライドできるように嵌合し、全体を縦にして、段付き軸の下端(図1では左端)を受け台で支持し、押圧体にて内輪6へ上端から予圧(Pre-load)を掛けて、内輪6が適正位置に決められた状態で、接着剤で内輪6を段付き軸1の小径軸部1aへ固定する。予圧を加えるには、前記のほかにばねによる方法、シムや間座、ねじによる方法がある。 【0012】 【0013】 図2はスリーブ内面に他列用の外輪10を取り付けたものを示し、他列用のボール9は外輪の内周面に形成した深溝型の転動溝11と、全長に亘って同径なストレートの軸の外周に形成した深溝型の転動溝12との間に配設してあり、スリーブに内径が全長に亘って同径なストレートのものを使用している。 【0014】 図2の玉軸受は、製造時において外輪10をスリーブへスライド可能に嵌め、全体を縦にして、スリーブの下端(図2では左端)を受け台で支持し、押圧体により外輪へ上端面から予圧を掛けて外輪を適正位置で接着剤にてスリーブ内に固定して製造する。 【0015】 図3、4の玉軸受は大径軸部1bに続いて小径軸部1aを有する段付き軸1を使用し、またスリーブは内周面が段付き軸に対して平行で、一端部に内周拡径部2aを有する段付きのものを使用し、かつ内外輪6、10間にボール9を設けた深溝ベアリングを小径軸部1aとスリーブの内周拡径部2a間に介在せしめたものとしてある。 【0016】 その製造方法は、図3のものは外輪10をスリーブへスライド可能に嵌め込み、例えばスリーブ左端を下にして受け台で支持し、押圧体にて外輪へ予圧を掛けて、接着剤にて外輪をスリーブ内へ固定する。 【0017】 また図4のものは、内輪を小径軸部1aにスライド可能に嵌め、例えば段付き軸の左端を下にして受け台で支持し、内輪へ押圧体で予圧を掛け、接着剤にて内輪6を小径軸部1aに固定する。 【0018】 図5は片列側には外輪13を、他列側には内輪6を設けたもので、全長に亘って同径なストレートの軸と、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを使用している。 【0019】 図5の玉軸受は、外輪13をスリーブ内に圧入して接着剤で固定し、例えば軸の左端を下にして受け台で支持し、内輪6をスライド可能に軸に嵌め、内輪へ押圧体にて上から予圧を掛け、接着剤にて内輪を軸へ固定する。 【0020】 【0021】 図6は、全長に亘って同径なストレートの軸1に2本の深溝型の転動溝3、12を並列に形成し、これら転動溝に相対する深溝型の転動溝4、8を内周面に形成した2個の外輪13a、13bを備え、各外輪と軸の転動溝間にボール5、9をそれぞれ設け、外輪はスリーブ2内に設け、一方の外輪はスリーブ内に固定して受け台で支持し、スライド可能にした他方の外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブ内に固定する。 【0022】 【発明の効果】 本発明によれば、製造時において、軸に嵌めた内輪、もしくはスリーブに嵌め込んだ外輪のいずれか一方をスライドできるようにしてあるので、スライドできる内輪もしくは外輪へ、適正な予圧を容易に掛けることができ、したがって、転動溝によりボールに掛かる圧力を適正に設定できて、ボールの回転精度、剛性に優れ、軸の振れ精度が向上させられた耐振動性の高い、しかも組立が容易で、製造コストの低減を期せる複列玉軸受を提供できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の第1実施例を示す縦断面図。 【図2】 本発明の第2実施例を示す縦断面図。 【図3】 本発明の第3実施例を示す縦断面図。 【図4】 本発明の第4実施例を示す縦断面図。 【図5】 本発明の第5実施例を示す縦断面図。 【図6】 本発明の第6実施例を示す縦断面図。 【図7】 従来の複列ダイレクト玉軸受を示す縦断面図。 【符号の説明】 1 軸 1a 小径軸部 1b 大径軸部 2 スリーブ 2a 内周拡径部 3 転動溝 4 転動溝 5 ボール 6 内輪 7 内輪転動溝 8 スリーブ転動溝 9 ボール 10 外輪 11 外輪転動溝 12 軸の転動溝 13 外輪 【図面】 |
訂正の要旨 |
(1)訂正事項a 特許明細書の請求項1に係る記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、 「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (2)訂正事項b 特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、 「全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間に片側列用のボール径よりも小径なるボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (3)訂正事項c 特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に係る記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、 「大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を段付き軸の小径軸部に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (4)訂正事項d 特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に係る記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、 「全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に圧入嵌合した片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (5)訂正事項e 特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を、特許請求の範囲の減縮を目的として、削除する。 (6)訂正事項f 特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を削除したことに伴い、特許請求の範囲の請求項6を新たな請求項5に繰り上げ、特許請求の範囲の請求項5に係る記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、 「全長に亘って周径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定してなる複列玉軸受。」と訂正する。 (7)訂正事項g 特許明細書の段落番号【0003】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「これを図7によって説明すると、複列ダイレクト玉軸受のばあい、軸100には円周方向へ2本の転動溝101a、101bを形成し、外輪102にも2本の転動溝103a、103bを形成し、軸の転動溝と外輪の転動溝でそれぞれボール104a、104bを挟んでいる。」と訂正する。 (8)訂正事項h 特許明細書の段落番号【0009】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る複列玉軸受は、大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また、段付き軸の小径軸部には他列用の内輪をスライド可能に嵌めて、この内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、かつ前記内輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部に固定したものとしてある。 本発明の請求項2に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸と内径および外径が全長に亘って同径なストレートのスリーブよりなり、軸の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また軸の外周面に直接形成した他列用の深溝型の外周転動溝と、スリーブ内にスライド可能に嵌め込んだ他列用外輪の深溝型の内周転動溝との間に片側列用のボール径よりも小径なるボールを設け、かつ前記外輪へその軸線方向に適正な予圧を掛けて外輪を接着剤にてスリーブ内に固定したものとしてある。 本発明の請求項3に係る複列玉軸受は、大径軸部に続いて小径軸部を有する段付き軸と、内周面が軸に対して平行で一端部に内周拡径部を有する段付きスリーブよりなり、段付き軸の大径軸部の外周面には片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成し、この外周転動溝と、スリーブの内周面に直接形成した片側列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、また内輪と外輪とよりなり、両者の対向転動溝間にボールを設けた他列用の深溝ボールベアリングの内輪を段付き軸の小径軸部に嵌め、外輪はスリーブ内に嵌め込んで、内輪もしくは外輪のいずれか一方をスライド可能にし、軸線方向に適正な予圧を掛けて内輪もしくは外輪を接着剤にて段付き軸の小径軸部もしくはスリーブの内周拡径部内に固定したものとしてある。 本発明の請求項4に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に片側列用の深溝型の外周転動溝を直接形成するとともに他列用の内輪を軸にスライド可能に嵌め、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に圧入嵌合した片側列用外輪の深溝型の内周転動溝と軸の前記外周転動溝との間にボールを設け、前記他列用内輪の深溝型の外周転動溝とスリーブの内周面に直接形成した他列用の深溝型の内周転動溝との間にボールを設け、前記内輪に適正な予圧を掛けて内輪を接着剤にて軸に固定したものとしてある。 本発明の請求項5に係る複列玉軸受は、全長に亘って同径なストレートの軸の外周面に深溝型の片側列用の外周転動溝と他列用の外周転動溝をそれぞれ直接形成し、これらに対応する肉厚の等しい片側列用と他列用の外輪を内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブ内に設け、各列用の前記外周転動溝と各列用の前記外輪の深溝型の内周転動溝間にボールを設け、かつ一方の外輪はスリーブに固定し、他方の外輪はスライド可能にし、外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブに固定したものとしてある。」と訂正する。 (9)訂正事項i 特許明細書の段落番号【0010】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「【実施例】以下本発明の実施例を添付図面に示す具体例により説明する。実施例のものはすべて軸とこれに対応する外輪用のスリーブを備える複列玉軸受である。図1の玉軸受は、大径軸部1bに続いて小径軸部1aを有する段付き軸1の外周面と、内径が全長に亘って同径なストレートの外輪用スリーブ2の内周面に片側列用の深溝型の転動溝3、4をそれぞれ形成して、両転動溝3、4間にボール5を設け、また段付き軸1の小径軸部1aに嵌めた内輪6の外周面とスリーブ2の内周面に他列用の深溝型の転動溝7、8をそれぞれ形成し、両転動溝間に他列用のボール9を設けてある。」と訂正する。 (10)訂正事項j 特許明細書の段落番号【0011】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「この玉軸受を製造するには、前記内輪6を段付き軸1へその軸線方向へスライドできるように嵌合し、全体を縦にして、段付き軸の下端(図1では左端)を受け台で支持し、押圧体にて内輪6へ上端から予圧(Pre-load)を掛けて、内輪6が適正位置に決められた状態で、接着剤で内輪6を段付き軸1の小径軸部1aへ固定する。予圧を加えるには、前記のほかにばねによる方法、シムや間座、ねじによる方法がある。」と訂正する。 (11)訂正事項k 特許明細書の段落番号【0012】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する。 (12)訂正事項l 特許明細書の段落番号【0013】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「図2はスリーブ内面に他列用の外輪10を取り付けたものを示し、他列用のボール9は外輪の内周面に形成した深溝型の転動溝11と、全長に亘って同径なストレートの軸の外周に形成した深溝型の転動溝12との間に配設してあり、スリーブに内径が全長に亘って同径なストレートのものを使用している。」と訂正する。 (13)訂正事項m 特許明細書の段落番号【0014】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「図2の玉軸受は、製造時において外輪10をスリーブへスライド可能に嵌め、全体を縦にして、スリーブの下端(図2では左端)を受け台で支持し、押圧体により外輪へ上端面から予圧を掛けて外輪を適正位置で接着剤にてスリーブ内に固定して製造する。」と訂正する。 (14)訂正事項n 特許明細書の段落番号【0015】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「図3、4の玉軸受は大径軸部1bに続いて小径軸部1aを有する段付き軸1を使用し、またスリーブは内周面が段付き軸に対して平行で、一端部に内周拡径部2aを有する段付きのものを使用し、かつ内外輪6、10間にボール9を設けた深溝ベアリングを小径軸部1aとスリーブの内周拡径部2a間に介在せしめたものとしてある。」と訂正する。 (15)訂正事項o 特許明細書の段落番号【0016】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「その製造方法は、図3のものは外輪10をスリーブへスライド可能に嵌め込み、例えばスリーブ左端を下にして受け台で支持し、押圧体にて外輪へ予圧を掛けて、接着剤にて外輪をスリーブ内へ固定する。」と訂正する。 (16)訂正事項p 特許明細書の段落番号【0017】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「また図4のものは、内輪を小径軸部1aにスライド可能に嵌め、例えば段付き軸の左端を下にして受け台で支持し、内輪へ押圧体で予圧を掛け、接着剤にて内輪6を小径軸部1aに固定する。」と訂正する。 (17)訂正事項q 特許明細書の段落番号【0018】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「図5は片列側には外輪13を、他列側には内輪6を設けたもので、全長に亘って同径なストレートの軸と、内径が全長に亘って同径なストレートのスリーブを使用している。」と訂正する。 (18)訂正事項r 特許明細書の段落番号【0019】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「図5の玉軸受は、外輪13をスリーブ内に圧入して接着剤で固定し、例えば軸の左端を下にして受け台で支持し、内輪6をスライド可能に軸に嵌め、内輪へ押圧体にて上から予圧を掛け、接着剤にて内輪を軸へ固定する。」と訂正する。 (19)訂正事項s 特許明細書の段落番号【0020】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する。 (20)訂正事項t 特許明細書の段落番号【0021】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「図6は、全長に亘って同径なストレートの軸1に2本の深溝型の転動溝3、12を並列に形成し、これら転動溝に相対する深溝型の転動溝4、8を内周面に形成した2個の外輪13a、13bを備え、各外輪と軸の転動溝間にボール5、9をそれぞれ設け、外輪はスリーブ2内に設け、一方の外輪はスリーブ内に固定して受け台で支持し、スライド可能にした他方の外輪に予圧を掛けて接着剤にてスリーブ内に固定する。」と訂正する。 (21)訂正事項u 特許明細書の段落【図面の簡単な説明】の記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の第1実施例を示す縦断面図。 【図2】 本発明の第2実施例を示す縦断面図。 【図3】 本発明の第3実施例を示す縦断面図。 【図4】 本発明の第4実施例を示す縦断面図。 【図5】 本発明の第5実施例を示す縦断面図。 【図6】 本発明の第6実施例を示す縦断面図。 【図7】 従来の複列ダイレクト玉軸受を示す縦断面図。 【符号の説明】 1 軸 1a 小径軸部 1b 大径軸部 2 スリーブ 2a 内周拡径部 3 転動溝 4 転動溝 5 ボール 6 内輪 7 内輪転動溝 8 スリーブ転動溝 9 ボール 10 外輪 11 外輪転動溝 12 軸の転動溝 13 外輪 」と訂正する。 (22)訂正事項v 図面の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的として、 (ア)図面中、図1、図4、図7、図9および図10を削除し、残りの図の図番号を繰り上げて新たな図1乃至7に訂正する。 (イ)図面中、図番号を訂正後の図1、図3および図4に、大径軸部を示す符号1bを加入する。 |
異議決定日 | 2002-04-22 |
出願番号 | 特願平5-274961 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(F16C)
P 1 651・ 113- YA (F16C) P 1 651・ 16- YA (F16C) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
常盤 務 秋月 均 |
登録日 | 2001-02-16 |
登録番号 | 特許第3159582号(P3159582) |
権利者 | ミネベア株式会社 |
発明の名称 | 複列玉軸受 |
代理人 | 井上 元廣 |
代理人 | 中野 修身 |
代理人 | 中野 修身 |
代理人 | 清水 利亮 |
代理人 | 小山 欽造 |
代理人 | 前田 清美 |
代理人 | 前田 清美 |
代理人 | 小山 武男 |
代理人 | 清永 利亮 |
代理人 | 井上 元廣 |