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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  F16C
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  F16C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16C
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16C
管理番号 1061280
異議申立番号 異議2000-73168  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-04-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-14 
確定日 2002-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3009766号「内燃機関用すべり軸受」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについてした決定に対して、東京高等裁判所において決定取消の判決(平成13年(行ケ)440号、平成14年3月25日判決言渡)があったので、さらに審理の結果、次のとおり決定する。 
結論 特許第3009766号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3009766号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成3年10月29日(優先日:平成3年8月9日)の出願であって、平成11年12月3日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その特許について、異議申立人・大同メタル工業株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年2月13日に特許異議意見書の提出とともに訂正請求がなされ、平成13年8月20日に訂正を認め特許を取り消す決定がなされた。その後、平成13年12月5日に訂正審判が請求され、平成14年2月1日に訂正することを認める審決がなされたところ、東京高等裁判所において決定取消の判決があったので、本件についてさらに審理する。

2.特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人・大同メタル工業株式会社(以下、「申立人」という。)は本件特許の請求項1〜3に係る発明は、下記甲第1、2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項3号の規定に違反して特許されたものであるとともに、請求項1〜4に係る発明は甲第1、2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許をされたものであると主張している。また、明細書の記載に不備があるから特許法第36条第4項及び5項の規定に違反していると主
張している。
甲第1号証:実願昭61-149345号(実開昭63-53922号) のマイクロフィルム
甲第2号証:特開平2-38714号公報

3.本件発明
本件特許は、平成13年12月5日に請求された訂正が認められたので、訂正後の本件の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、
溝がなくならない面圧下で利用され、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としたことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】溝の上に12乃至20μmのオーバーレイ層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。

4.刊行物記載の発明
上記特許異議の申立てにおいて証拠として提示された下記刊行物には、以下の事項が記載されている。
刊行物1:実願昭61-149345号(実開昭63-53922号)の マイクロフィルム(申立人が甲第1号証として提示)
刊行物2:特開平2-38714号公報
(申立人が甲第2号証として提示)

4-1 刊行物1
上記刊行物1には、「軸受メタル」(考案の名称)が記載され、図面とともに以下ア〜エの技術的事項が記載されている。
ア.「半円弧形状をして内側に摺動面を持つ軸受メタルにおいて、前記摺動面に円周方向に沿って条痕を形成したことを特徴とする軸受メタル。」(実用新案登録請求の範囲)

イ.「ところで、内燃機関の低振動・低騒音化を図るために、軸径を増すことによりクランクシャフトの剛性を高くしたり、軸受メタルの摺動面上に形成されるオイルクリアランスを小さくしたりすることが試みられている。」(第2頁第3〜7行)

ウ.「従って、本考案の技術的課題は、軸受メタルにおける油膜圧力の発生する面積を減らさずに潤滑油を保持する加工を摺動面に施すことにより、摩擦損失をできるだけ少なくして低振動・低騒音化を図ることにある。 [問題を解決するための手段]上記技術的課題を解決するために講じた手段は、本考案の軸受メタルによれば、円周方向に沿って条痕を摺動面に形成したことにある。」(第3頁第4〜12行)

エ.「第2図に示すように、シリンダブロック1と、このシリンダブロック1に装着されるキャップ2とからなるクランクシャフト軸受部(図では、機関のフロント側の一部のみが示されている)には、半円弧状をした軸受メタル4、5がペアで用いられている。ここで、第1図から分かるように、軸受メタル4、5は、裏金10にアルミニウム合金11を積層した二層構造である。こうして、軸受メタル4、5の摺動面は、アルミニウム合金11から形成される。アルミニウム合金11の表面には、円周方向に沿ってボーリング加工により多くの条痕12が施されている。これらの条痕12は、底部が丸みRの形状をしており、軸受メタル4、5の幅Lにわたって規則正しく並んでいる。ここでは、条痕12の幅lは、0.15mm〜0.30mm程度に、そして条痕12の深さdは、0.003mm〜0.006mm程度に定められているが、幅lは 0.1mm〜0.7mm、深さdは0.003mm〜0.015mm程度であっても適用できる。」(第4頁第1〜19行)

これらの技術的記載事項ア〜エを考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌しつつ勘案すると、上記刊行物1には、以下のとおりの発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
【刊行物1記載の発明】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の条痕を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受であって、
条痕の深さを3〜6μmとし、条痕の幅を0.15〜0.30mmとしたすべり軸受。

4-2 刊行物2
上記刊行物2には、「すべり軸受」(発明の名称)が記載され、図面とともに以下オ〜クの技術的事項が記載されている。
オ.「ライニング材の表面に相対的に大きな凹凸面を形成するとともに、該凹凸面の表面に微少凹部を多数形成し、前記大きな凹凸面および微少凹部の表面を、それらの表面に倣って表面が凹凸面となる密着層で被膜し、さらに該密着層の表面をオーバレイ層で被覆して該オーバレイ層を前記大きな凹凸面及び微少凹部の凹部内にそれぞれ充填し、前記オーバレイ層と前記密着層とが摩耗された部分の露出面に、前記ライニング材と、前記大きな凹凸面の凹部を被覆する密着層と該大きな凹凸面における凹部内のオーバレイ層と、前記微少凹部を被覆する密着層と該微少凹部内のオーバレイ層とをそれぞれ露出させることを特徴とするすべり軸受。」(特許請求の範囲)

カ.「本発明はすべり軸受に関し、より詳しくは内燃機関に用いられるすべり軸受に関する。」(第1頁右欄第1〜2行)

キ.「ライニング材1はAl系合金から製造してあり、その表面に円周方向に沿う螺旋溝を形成することにより、該ライニング材1の表面に相対的に大きな凹凸面2を形成している。前記螺旋溝は切削等公知の手段によって形成することができ、そのピッチを約0.1〜2mm、深さを約2〜6μmとすることが望ましい。」(第2頁右下欄第4〜10行)

ク.「次に、前記ライニング材1の表面すなわち前記凹凸面2上に、アルカリ、酸又は電解エッチング、或いはショットブラスト等の機械的方法によって多数の微少凹部3を形成し、かつそれら凹凸面2および微少凹部3の表面上に、Niメッキ或いはCuメッキ等からなる密着層4を形成している。前 記ライニング材1の凹凸面2および微少凹部3の表面はそれぞれ前記密着層4によって完全に被覆されているが、該密着層4の表面は、前記ライニング材1の凹凸面2に倣うとともに微少凹部3の表面に倣って、凹凸面となっている。」(第3頁左上欄第10〜20行)

上記技術的記載事項キに関して、螺旋溝は「ほぼ円周方向の溝」ということができるから、上記技術的記載事項オ〜クを発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌しつつ勘案すると、上記刊行物2には、以下のとおりの発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
【刊行物2記載の発明】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受であって、
溝の深さを2〜6μmとし、溝の幅を0.1〜2mmとするとともに、溝の表面に微少凹部を多数形成したすべり軸受。

5.対比・判断
5-1 本件発明1について
5-1-1 刊行物1記載の発明との対比・判断
本件発明1と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、それぞれの有する機能に照らして、刊行物1記載の発明の「条痕」は本件発明1の「溝」に相当する。
したがって、本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点と相違点は、次のとおりである。
【一致点】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関のクランク軸用すべり軸受。
【相違点1-1】本件発明1は、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としているのに対し、刊行物1記 載の発明は単に、溝の深さを3〜6μmとし、溝の幅を0.15〜0.30mmとしている点。
【相違点1-2】本件発明1は、「溝がなくならない面圧下で利用され」るのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような特定がなされていない点。

そこで、まず上記相違点1-1について検討する。
本件発明1は、溝の山の部分が摩耗し易く耐摩耗性が低下するという問題を解決するために、「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し、該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」ことにより、「溝の山の部分が摩耗し難くなるために耐摩耗性を向上せしめることができる。」という明細書記載の作用・効果を奏するものである。
そして、刊行物1には、前記本願発明1における「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し、該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」点は、記載も示唆もされておらず、刊行物1記載の発明から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
また、刊行物1記載の発明においては、「溝の深さに対する溝の幅の比」を計算すれば25以上100以下となっており、結果的に本件発明1の「溝の深さに対する溝の幅の比」の範囲に含まれる部分を有するものの、本件発明1と刊行物1記載の発明とでは「溝の深さ」において一致する部分がなく、本件発明1が刊行物1に記載された発明であるとすることもできない。
よって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

5-1-2 刊行物2記載の発明との対比・判断
本件発明1と上記刊行物2記載の発明とを対比すると、両者の一致点と相違点は、次のとおりである。
【一致点】すべり軸受内周面上にほぼ円周方向の溝を形成した内燃機関用すべり軸受。
【相違点2-1】本件発明1は、溝の深さを3.0μm未満とし、溝の深さに対する溝の幅の比を43以上100以下としているのに対し、刊行物2記載の発明は、溝の深さを2〜6μmとし溝の幅を0.1〜2mmとするとともに、溝の表面に微少凹部を多数形成している点。
【相違点2-2】本件発明1は、内燃機関のクランク軸用すべり軸受であるのに対し、刊行物2記載の発明は単に内燃機関用すべり軸受である点。
【相違点2-3】本件発明1は、「溝がなくならない面圧下で利用され」るのに対し、刊行物2記載の発明は、そのような特定がなされていない点。

そこで、相違点2-1について検討する。
上記5-1-1において述べたとおり、本件発明1は、溝の山の部分が摩耗し易く耐摩耗性が低下するという問題を解決するために、「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し、該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」ことにより、「溝の山の部分が摩耗し難くなるために耐摩耗性を向上せしめることができる。」という明細書記載の作用・効果を奏するものである。
そして、刊行物2には、前記本願発明1における「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼し、該「溝の深さに対する溝の幅の比」を「43以上100以下とした」点は、記載も示唆もされておらず、刊行物2記載の発明から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
また、刊行物2記載の発明は、溝の表面に微少凹部を多数形成することによって初めて達成されるものであって、溝と微少凹部が不可分に有機的に連携したものである点で、溝のみを有する本件発明1と異なる。したがって、たとえ、刊行物2記載の発明において、「溝の深さ」は2〜6μmで「溝の深さに対する溝の幅の比」を計算すれば16.7以上1000以下となっており、結果的に「溝の深さ」と「溝の深さに対する溝の幅の比」の点で本件発明1と一致する部分を有するとしても、本件発明2が刊行物2に記載された発明であるとすることもできない。
よって、相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるとも、刊行物2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

5-1-3 本件発明1についてのむすび
以上のとおり、本件発明1は、刊行物1、2に記載された発明とすることはできない。
また、刊行物1、2記載の発明は、いずれも「溝の深さに対する溝の幅の比」なる技術的思想を有してなく、刊行物1、2記載の発明を組み合せたとしても、かかる技術的思想は推考し得ず、したがって、本件発明1は刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

5-2 本件発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであるから、本件発明2は本件発明1の構成の全てを含み、さらに構成を限定するものである。そして、本件発明1が、前記のとおり、刊行物1、2に記載された発明とすることができず、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、同様の理由により、本件発明2は、刊行物1、2に記載された発明とすることはできず、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。

5-3 明細書の記載不備についての判断
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)の段落【0004】、【0005】及び請求項1には「溝がなくならない面圧下で利用され」と記載されている。
これに対し、申立人は「溝がなくならない面圧下で利用され」の意味が明確でなく、該面圧がどの程度のものであるか特許明細書及び図面の記載からみても理解できない旨を主張している。
この点について検討すると、本件発明が溝の山の部分が摩耗し易く耐摩耗性が低下するという問題を解決するために、「溝の深さに対する溝の幅の比」に着眼して「溝の深さに対する溝の幅の比」を特定の範囲に設定したのは、溝が完全になくなる極端な場合を除く面圧下での使用を前提としていることは、特許明細書全般の記載から当業者であれば理解しうるところである。 してみると、「溝がなくならない面圧下で利用され」は上記極端な場合を除く面圧下での利用、及びそのような面圧を意味していることが理解できるから、その意味又は程度が必ずしも特許明細書に明示されていなくても、前述した発明の目的及び効果に照らせば、その意味又は程度を理解できないとすることはできない。
また、申立人は、上記記載は願書に最初に添付された明細書に記載されてなく、当該記載を追加した平成11年8月3日付けの手続補正は明細書の要旨を変更するものであると主張しているが、本件発明が、溝が完全になくなる極端な場合を除く面圧下での使用を前提としていることは、願書に最初に添付された明細書全般の記載から自明の事項であるといえるから、上記手続補正が明細書の要旨を変更するものであるとすることはできない。
さらに、申立人は、段落【0005】におけるオーバーレイ層の記載、並びに、段落【0010】〜【0014】、表1及び図4の試験例の記載に不備がある旨を主張しているが、これらの記載について、本件発明の目的及び効果に照らし特許明細書及び図面の記載を参酌すれば、オーバーレイ層の効果について理解できるのであり、試験例の記載は事実として説明され、これを認めることができるのであるから、これらの記載が不備であるとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件請求項1及び2に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-08-20 
出願番号 特願平3-283163
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16C)
P 1 651・ 113- Y (F16C)
P 1 651・ 534- Y (F16C)
P 1 651・ 531- Y (F16C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 新也  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 船越 巧子
町田 隆志
前田 幸雄
秋月 均
登録日 1999-12-03 
登録番号 特許第3009766号(P3009766)
権利者 大豊工業株式会社 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 内燃機関用すべり軸受  
代理人 島田 哲郎  
代理人 鶴田 準一  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 石田 敬  
代理人 吉田 裕  
代理人 島田 哲郎  
代理人 岩本 行夫  
代理人 鶴田 準一  
代理人 西山 雅也  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  

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