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審決分類 審判 訂正 1項1号公知 訂正する B23P
審判 訂正 2項進歩性 訂正する B23P
審判 訂正 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正する B23P
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する B23P
管理番号 1061989
審判番号 訂正2002-39024  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1974-11-16 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-01-29 
確定日 2002-04-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第1120049号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1120049号に係る明細書を本件審判請求書に添付された全文訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.本件特許の経緯
本件特許第1120049号(以下、「本件特許」という。)は、昭和48年3月22日に特許出願され、昭和57年10月28日にその特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件訂正審判は、特許第1120049号の明細書を添付した全文訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおり訂正することを求めるものである。
この訂正は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を、以下のa及びbのとおり訂正するものである。
a.特許請求の範囲第1項について、
「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させる制御回路」を「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の数を変更設定することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路」と訂正する。
b.発明の詳細な説明について、
特許明細書(昭和56年6月1日付け全文補正明細書)の第17頁第10-12行目の「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させる制御回路」を「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の数を変更設定することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路」と訂正する。

4.上記訂正請求によって訂正された明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載された発明(以下、それぞれ、「訂正発明1」及び「訂正発明2」という。)の要旨は、訂正明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、以下のとおりのものと認める。
訂正発明1;
トランジスタ等のスイッチング素子を複数個用いて、制御された放電電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行なう装置において、
複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の出力の数を設定変更することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路、
夫々電極に直列に接続されると共に互いに並列接続され上記制御回路からの夫々対応した出力によって開閉が制御される複数個のスイッチング素子を用いた抵抗要素からのみなるスイッチング回路、
このスイッチング回路によって発生した電流が直接流れる上記電極間に形成された加工間隙、及び
上記複数個のスイッチング素子に直列接続された、該複数個のスイッチング素子に共通の電源
を設けたことを特徴とする放電加工装置。
訂正発明2;
制御回路は複数個のスイッチング素子の開閉制御条件を変更設定できる装置を有し、この装置によって放電電流波形パルスを矩形波以外に任意に設定できるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の放電加工装置。

5.上記訂正請求が目的該当性、新規事項及び実質変更の要件に適合するか否かについて判断する。
(1)上記訂正事項のうち、aの訂正事項についてみると、この訂正は、スイッチング素子の開閉を制御する「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともの変化させる制御回路」をさらに、「時間的にずらした時点の出力の数を設定変更することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。
また、訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮に伴い、発明の詳細な説明の、発明の効果を説明する部分について、これに整合するよう訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明に相当する。
そして、制御回路が、スイッチング素子の開閉制御条件を変更設定できるものであることは、特許明細書の特許請求の範囲第2項に記載されており、特許明細書の発明の詳細な説明には、その制御条件の変更について、「第6図は本発明装置の考え方を示したもので、第1図におけるトランジスタ(1a)を導通にした時の点(A)における電流は、第6図(6-1)のようになる。またトランジスタ(1a)を導通にした時点より(t1),(t2),・・・,(tn-1)時間ずらしてトランジスタ(1b),(1c),・・・,(1n)を順次導通にした時の電流はそれぞれ点(B),(C),・・・,(N)において、第6図(6-2)〜(6-4)のようになる。いま、点(X)に流れる電流をIX、点(A),(B),(C),・・・,(N)に流れる電流をそれぞれ(IA),(IB),(IC),・・・,(IN)とすると
IX=IA+IB+IC+・・・+INであるから、点(X)における電流波形は第6図(6-5)のようになる。ここでトランジスタ(1a)を導通にした時点から、トランジスタ(1b),(1c),・・・,(1n)を導通にするまでのずれ時間(t1),(t2),・・・,(tn-1)を任意に変えることにより、電流の立上がりモードを広範囲にわたって変えることができる。同様な考え方で、導通しているトランジスタ(1a),(1b),(1c),・・・,(1n)を、導通させたときとは逆に、順次不導通にしていくことにより、立下がりのモードも広範囲に変化させることができるのは当然である。」(昭和56年6月1日付け全文補正明細書第8頁9行目-第9頁11行目))と記載され、また、設定手段について、「第8図において、(901a),(901b),(901c),・・・,(901n)はJKフリップフロップで、(J9a),(J9b),(J9c),・・・,(J9n)及び(K9a),(K9b),(K9c),・・・,(K9n)はJKフリップフロップの入力端子、(T9a),(T9b),(T9c),・・・,(T9n)はクロックパルスCPの入力端子で、この場合(K9a),(K9b),(K9c),・・・,(K9n)は設置接続して常に0にしておく。また(Q9a),(Q9b),(Q9c),・・・,(Q9n)はJKフリップフロップの出力端子で、それぞれNAND素子(902a),(902b),(902c),・・・,(902n)に接続され、さらに後段のJKフリップフロップの入力端子(J9b),(J9c),・・・,(J9n)にもそれぞれ接続されている。このNAND素子(902a),(902b),(902c),・・・,(902n)の出力端子は、立上がりプログラムボード(903)のX軸端子に、さらにA,B,C,・・・,N出力端子はプログラムボード(903)のY軸端子にそれぞれ接続され、立上がりプログラムボード(903)上にインサートピン(904)を適宜差し込むことにより、A,B,C,・・・,N出力端子はNAND素子(902a),(902b),(902c),・・・,(902n)のうちのいずれかと接続されることになる。その選択は、インサートピン(904)の差し込み位置により、自由に行なえるようになっている。」(第10頁16行目-第11頁20行目)と記載され、第6図には、時間がずれるにしたがって、導通されるスイッチング素子の数が変化していく様子が示されている。ここで、「時間的にずらした時点の出力の数を設定変更する」との直接の記載はないが、「トランジスタ(1a)を導通にした時点から、トランジスタ(1b),(1c),・・・,(1n)を導通にするまでのずれ時間(t1),(t2),・・・,(tn-1)を任意に変える」ことは、結果として、「時間的にずらした時点の出力の数を変更する」ことになり、訂正前の特許請求の範囲に「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ」と記載され、出力が時間とともに変化することを前提として発明が特定されていたことからすれば、訂正事項aは、特許明細書に記載された事項の範囲内のものと認められる。
また、上記訂正事項のとおりに特許請求の範囲を減縮することにより、特許発明1及び2に係る発明の目的が変更されるものではないから、この訂正事項は、特許請求の範囲を実質的に変更するものではない。

(2)訂正事項bは、訂正事項aに整合するように発明の詳細な説明を訂正したものであるから、訂正事項aと同様、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、かつ特許請求の範囲を実質的に拡張、変更するものではない。

6.次に、独立特許要件について判断する。
(1)最初に本件特許発明が本件特許の出願前に国内において頒布された刊行物に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
本件特許に対して、平成13年2月26日に請求された無効審判請求(無効2001-35082号)に引用された刊行物には、以下の事項が記載されている。
西独国特許公開第2028489号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、「本発明の目的は、初期の放電段階でのエネルギー供給を制御するための装置および方法を確立することにある。クリアランスでの放電開始後、電流は、導電路が狭い間は電導性を維持するのに必要な値にまで減少する。導電路の断面積が増大するにしたがって、電流は、それぞれ時間間隔ごとに、放電にさらされる被加工物面を気化させずに浴解させるために必要な分だけ増大する。このようにして、電流パルスを所定の値まで増大させ、また、所定の持続時間、この値を維持することが可能となる。電流パルスの大きさと持続時間は、所望の仕上げ面あらさと所望の加工速度の関数である。本発明に基づく装置および方法の基本コンセプトは、電流を制御し、放電にさらされた被加工物面が気化することなく溶解だけが行なわれることにある。これにより被加工物および電極の熱衝撃を大幅に緩和する。さらに、電流パルスによって供給されるエネルギーを有効利用し、気化のために無駄に消費されることなく、より多くの量の金属を溶解することができる。これによって、電極の消耗に対する被加工物の加工速度の比率を向上させ、電極消耗特性を改善することができる。」(無効審判請求書添付の翻訳文第2頁1-13行目参照)、「電流波形を時間の関数として示すと、本発明に基づく給電装置は波形の前縁(ガイドフランク)に階段機能をもつ。各段の振幅および持続時間は個別に調整することができる。」(同第2頁30-31行目参照)、「時間遅延回路は、抵抗・容量ネットワーク、マルチバイブレータまたは同じ目的の周知の各種スイッチング回路によって実現される。時間遅延回路は、制御装置12の出力と同様に共通のトリガ・ベースをもつか、または、連続動作のために回路間に直列に接続することができる。」(同第3頁12-15行目参照)、「図4は、本発明の優先的な実施例の詳細ブロック図を示したものであり、これによって所望の電流パルスの階段電流特性が得られる。マルチバイブレータ30は、第1のドライバ段32を作動させるのに利用される。このドライバ段32によって、電源スイッチの第1ユニット34が制御される。電源スイッチ回路の各ユニットは、共通の電源36に接続されている。このスイッチ回路ユニットは、5つの並列接続された出力段から構成される。各出力段から10アンペアが供給され、スイッチ回路の各ユニットからは50アンペアの出力が得られる。スイッチ回路の各ユニットの出力段の数は任意に選択することができる。スイッチ回路のユニットの出力は、出力段と組み合わせたセレクト・スイッチを利用して変化させることができる。セレクト・スイッチの各位置は、出力段のそれぞれの組み合わせに対応している。図面はスイッチ回路の4つのユニット41、42、43、45を示している。図中のこの数は任意に選択することができ、ドライバ段の大きさによって決定される。このスイッチ回路は、階段機能を配分するための適切な手段となっている。このことは図から明らかで、第1のドライバ段と第2のドライバ段の間の第1の時間遅延回路37と、第2ドライバ段と第3ドライバ段の間の第2の時間遅延回路39などが示されている。マルチバイブレータ30は方形または矩形の波形を生成する制御装置である。この波形は、結果として生じる出力電流パルスと同じ“ON”時間、“OFF”時間および周期から構成される。矩形波の前縁によって第1のドライバ段32が“ON”になる。第1のドライバ段の出力は、同時に出力段34の第1ユニットを起動し、第1の時間遅延回路37を作動させる。電源スイッチ回路の第1ユニット41は、セレクト・スイッチによって指定する大きさの出力電流パルスを供給する。第1の時間遅延後に、時間遅延回路の出力は、電源スイッチ回路の第2のユニット42にある第2のドライバ段を“ON”にする。第2のドライバ段の出力は、電源スイッチ回路の第2ユニット42をオンにし、同時に第2の時間遅延回路39を作動させる。これによって、出力電流は第1の時間遅延後、スイッチ回路の第2ユニット42で作動するトランジスタによって規定される値だけ増加する。回路の他の段は、電流パルスがあらかじめ規定された最大値に達するまで、同様な方法で機能する。このようにして階段特性を備えた電流パルスが生成される。パルスの最大値は、矩形波の最後の段階まで維持される。この時点ですべてのドライバ段がオフになり、時間遅延回路は次の“ON”時間のためにマルチバイブレータによりリセットされる。」(同第4頁24行目-第5頁17行目参照)及び「それぞれの時間間隔は可変直列抵抗68によって調整することができる。」(第5頁32-33頁参照)と記載され、第4図には、本発明の実施例の詳細ブロック図が示されている。この第4図を、マルチバイブレータ、スイッチ回路2、スイッチ回路3、スイッチ回路4、第1の時間遅延回路37、第2の時間遅延回路39及び時間遅延回路をまとめ、電源線を実線で、信号線を細線で表すと、別紙のとおり等価のブロック図として書き表すことができる。そして、この等価のブロック図の破線で囲まれた部分を一つの制御回路としてとらえると、この制御回路からは、電源スイッチング回路に対し、マルチバイブレータ、スイッチ回路2、スイッチ回路3及びスイッチ回路4の4つの信号が出力されるようにされており、最初の時点でマルチバイブレータの信号が出力され、次に第1の時間遅延回路37によって少し遅れてスイッチ回路2の信号が出力され、次に第2の時間遅延回路39を介して少し遅れてスイッチ回路3の信号が出力され、さらに時間遅延回路を介して少し遅れてスイッチ回路4の信号が出力される。したがって、この制御回路は、制御回路の各出力がでる時点を時間軸に沿ってずらすものであると認められる。また、制御回路からの出力は、最初の時点では、マルチバイブレータの出力のみであり、次の時点では、マルチバイブレータ及びスイッチ回路2の出力であり、さらに次の時点では、マルチバイブレータ、スイッチ回路2及びスイッチ回路3の出力であり、最後には、マルチバイブレータ、スイッチ回路2、スイッチ回路3及びスイッチ回路4の出力であるから、この制御回路からの出力の数(総数)は、時間と共に変わるものである。さらに、第5図に示されるように、各時間遅延回路の遅延時間は、可変直列抵抗68によって調整することができるようになっているから、遅延時間を変更設定できる装置を備えていると認められる。そして、刊行物1の図4に示されたものは、マルチバイブレータ及びスイッチ回路の出力が直接遅延回路に入力されるものではなく、第1-第4ユニットのドライバ段を経由して遅延回路に入力されるものであるが、制御回路の出力としては、前記のとおり、各出力が出る時点を時間軸に沿ってずらすものであり、出力の数(総数)は、時間と共に変わるものであることに変りはない。また、刊行物1の図4に示されたものにおいて、ドライバ段の出力を遅延回路に入力することは、ドライバ段の出力から所定時間後に次のユニットに対する出力を出すためのものであるから、ドライバ段の出力に同期するドライバ段の入力(マルチバイブレータ及びスイッチ回路の出力)を分岐して遅延回路に入力するようにすることは、単なる設計的事項にすぎない。そうすると刊行物1には、
「電源スイッチング回路に、第1-第5の出力段を有する第1-第4ユニットを用い、所望の階段電流特性の電流パルスを得て、放電加工を行う装置であって、複数個の出力が各出力がでる時点を時間軸に沿ってずらして出力され、かつ、各出力がでる時点を設定変更でき、この出力の数は、時間と共に変わり、その出力がでる時間を調節する装置を備えた制御回路、夫々電極に直列に接続されると共に、互いに並列接続され上記制御回路からの夫々対応した出力によって開閉が制御される第1-第4ユニット、この第1-第4ユニットによって発生した電流が直接流れる上記電極間に形成された加工間隙、及び上記第1-第4ユニットに直列接続された該第1-第4ユニットに共通の電源を設けた放電加工装置。」の発明が記載されていると認める。
電気加工学会関西支部編「放電加工の理論と技術」昭和47年11月15日養賢堂発行 P76-79(以下、「刊行物2」という。)には、4.非蓄勢式回路の項に、「ここでは、直流電源を用いた開閉器制御方式について述べる。開閉素子として、トランジスタやサイリスタを採用したこの方式が、荒加工域、中加工域で広く採用されるようになってきた。」(第76頁下から2行目-第77頁1行目)、「したがって回路のインダクタンスLを小さくするほど、立ち上りは急峻になり、最終値に達するまでの時間は短くなる」(第78頁5-7行目)及び「電流波操作の例を図3.28に示す。(a)は回路のインダクタンスLの大きさによる波形の変化(とくに立ち上りの部分)を示したものであるが、Lを大きくすると開路時に開閉器SWに印加される電圧が問題になる(式(3.10)参照).(b)は多数個の開閉器を並列に用いた例で、それぞれの開閉器の開閉時刻を制御することにより、階段的ではあるが、電流波を整形することができる。」(第78頁15行目-第79頁4行目)と記載され、図3.28(b)には、多数個SWを使用した電流波操作の例として、直流電源にそれぞれ抵抗を介してSW1〜3を接続し、3つのスイッチを時間をずらしてONし、階段状の電流波形となるものが開示されている。

(2)本件訂正発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「電源スイッチング回路の第1〜第4ユニット」は、それぞれスイッチング手段として機能するから、この点で、「スイッチング素子」と共通し、刊行物1に記載された発明の「所望の階段電流特性の電流パルスを得る」ことは、放電電流波形を制御することになるから、訂正発明1の「制御された放電電流波形パルスを発生させる」に相当する。そうすると、両者は、
「スイッチング手段を複数個用いて、制御された放電電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行なう装置において、複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させる制御回路、夫々電極に直列に接続されると共に互いに並列接続され上記制御回路からの夫々対応した出力によって開閉が制御される複数個のスイッチング手段を用いたスイッチング回路、このスイッチング回路によって発生した電流が直接流れる上記電極間に形成された加工間隙、及び上記複数個のスイッチング手段に直接接続された、該複数個のスイッチング手段に共通の電源を設けた放電加工装置。」の点で一致し、訂正発明1が、スイッチング手段として、複数個のスイッチング素子を用いた抵抗要素のみからなるものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、第1〜第5の出力段を有する第1〜第4ユニットを用いたものである点(以下、「相違点1」という。)、及び訂正発明1が、時間的にずらした時点の出力の数を設定変更することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させるものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、時間的に軸に沿ってずらして出力される出力の出力時点を設定変更するものである点(以下、「相違点2」という。)で相違する。
前記相違点1に相当する、電極に直列に接続されるとともに、互いに並列接続されて開閉時間を制御される複数個のスイッチング素子を用いた抵抗要素からのみなるスイッチング回路により、階段的に電流波形を生成するものは刊行物2に記載されている。しかしながら、訂正発明の必須の構成である「時間的にずらした時点の出力の数を設定変更することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路」については、刊行物1及び刊行物2のいずれにも記載されていない。
そして、刊行物1に記載されたものは、遅延回路の遅延時間を設定変更することで、放電電流波形を変更することが可能であるが、放電電流波形の変更をするに際し、時間的にずらした時点での出力の数を設定変更を示唆するものとは認められない。
したがって、訂正発明1は刊行物1及び刊行物2に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)訂正発明2は、訂正発明1をさらに限定したものであるから、訂正発明2で限定した点が刊行物1又は刊行物2に記載されているとしても、訂正発明1が刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、訂正発明2が刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)前記無効審判において、審判請求人は、「特許請求の範囲には、『制御された放電電流波形パルスを発生させる』なる記載があるが、発明の詳細な説明には、スイッチング素子の導通間隙(「導通間隔」の誤記と認められる。)を任意に変化させることができるだけの制御回路が記載されているのみであって、これのみで電流波形を制御できないことは、電気加工ハンドブック編集委員会編『電気加工ハンドブック』昭和45年10月25日日刊工業新聞社発行、第24-29頁(以下、「刊行物3」という。)及び特公昭58-54938号公報(以下、「刊行物4」という。)の記載からも明らかであるから、電流波形を制御する機能を有するものは記載されておらず、発明の詳細な説明には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に発明の構成が記載されていない。」旨主張しているので、明細書に記載不備があるか否かについて検討する。

(5)「トランジスタ等のスイッチング素子を複数個用いて、制御された放電電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行う装置」(以下、「構成A」という。)については、本件特許の出願当初の明細書の特許請求の範囲にも記載されているが、同出願当初の明細書の発明の詳細な説明及び特許明細書の発明の詳細な説明のいずれにも、「制御された放電電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行う装置」の用語は記載されていない。
そこで、特許明細書の発明の詳細に沿って、構成Aの意義について検討する。特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、トランジスタ等、スイッチング素子を用いて放電加工を行なう装置において、方形波電流波形パルス以外の特殊波形電流パルス、例えば、三角波電流波形パルス等を発生させることができる装置に関するものである。」(昭和56年6月1日付け全文補正明細書第2頁7-11行目)、「これにより得られる電流波形は、一般に第3図に示すような方形波に近い波形である。ここで(τ1)はパルス巾、(τ2)は休止時間巾、(IP)は放電電流ピーク値を示している。このようにして方形波が得られるのは、トランジスタ(1a)・・・(1n)の導通する数を制御することにより得るのである。このパルス巾(τ1)や放電電流ピーク値(IP)は加工特性と密接な関係があり、とくに仕上げ面あらさと電極消耗に著しい影響を及ぼすのは周知の事実である。一方最近では、この方形波電流パルスでなく、特殊な波形、たとえば第4図のような三角波や台形波を用いて、加工特性を改善する方法が提案されている。」(同第6頁6-19行目)及び「以上のように、この発明装置では、複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させる制御回路を用いて、この制御回路からの夫々対応した出力によって開閉が制御される複数個のスイッチング素子を設けたスイッチング回路を有し、複数のスイッチング素子に共通の電源を設けているので、・・・各電源の特性相違(バラツキ)が起因して、各スイッチング素子を流れる電流の合成電流波形が所望の波形にならず、所望の加工特性を得るのが難しかったが、この発明装置では、共通電源としているので、安定した加工特性を簡単な構成によって得られるという効果がある。」(同第17頁10行目-第18頁7行目)と記載されていることから、発明の詳細な説明には、前記構成Aが、放電電流パルスの波形を、スイッチング素子の開閉を制御することにより、制御するものとして記載されていると認められる。
ところで、刊行物3には、「放電加工はパルス性の放電繰返しにより進行する。このような電気パルスを発生させる回路方式は数多く考案され実用されている。倉藤は加工間隙の物理状態によりパルスの繰返し数、大きさなどが決まるか、あるいは極間の現状とは一応無関係にある設定基準に従ってパルスを発生させているのかの区別によって従属式と独立式に分類して検討している。Rhynerは弛緩発振式、回転変流機式、電子装置制御式に分類した。」(第24頁8-12行目)、「いわゆる独立式インパルス発生装置で正しく繰返す電圧変化を電極-工作物間に与えても、実際の電流パルスは極間隙(加工間隙)の物理状態の変化に従い、その持続時間(パルス幅)はたえず変動するのが普通である。」(第24頁13-16行目)及び「元木はパルス性放電発生方式を、ある素子にいったんエネルギーをたくわえて放出しているか、あるいは電源よりのエネルギーを適当な開閉素子を使用して断続的に加工間隙に供給しているかによって蓄勢式と被蓄勢式に分類している。本書も元木の分類にしたがって解説をする。」(第24頁19-22行目)と記載され、刊行物4には、「この場合、上記特殊形状パルス電流を得るのに第1図に示すような方法がある。即ち、スイッチングトランジスタ1a,1b,1c,・・・,1nの各々のベースに制御回路2によってベース電流を時間的にずらして流し、上記各トランジスタ1a,1b,1c,・・・、1nを順次時間的にずらして導通させることにより、特殊形状パルス電流を発生させ、直流電源3からスイッチングトランジスタ1a,1b,1c,・・・,1n及び各コレクタ抵抗4a,4b,4c,・・・,4nを経て電極5と被加工物6間に特殊形状パルス放電電流を流すことにより、上記被加工物6の加工を行なう方法である。しかしながら上記従来方法においては経験からすれば、スイッチングトランジスタ1a,1b,1c,・・・,1nが導通する時点から放電が発生する時点までに時間的に遅れがあり、極間電圧波形、放電電流波形は、例えば三角形状パルス電流を流した場合、それぞれ、第2図a,bのようになる。すなわち、第2図において7,8,9は前記スイッチングトランジスタ1a,1b,1c,・・・,1nの導通時点よりある遅延時間があった後に放電した場合の極間電圧波形、10,11,12は各々の放電電流波形、又、13は上記遅延時間なしにスイッチングトランジスタ1a,1b,1c,・・・,1nが導通すると同時に放電した場合の極間電圧波形、14はその放電電流波形を示す。これからもわかるように、最初三角形状パルス電流で加工するように設定しても、実際に加工中の放電電流波形は台形状パルス電流で多くを加工しているのが現状である。このため加工特性の改善が充分計れず、又、電極5の消耗が大きい欠点がある。」(第2欄6-37行目)と記載されているように、トランジスタにより、電源からの電流を開閉する放電発生方式では、トランジスタの導通時期を制御しただけでは、正確に所望の放電波形パルスが生成できないという事実は認められる。
しかしながら、刊行物4に見られるように、三角形状の放電電流波形の生成を目的としてスイッチング素子の導通間隔を変化させたとき、生ずる放電電流波形は、矩形よりは、より三角形状に近似した形状となっていることは明らかである。そして、制御に際しては、誤差が生ずることは必然であり、誤差があるからといって、それをもって全く制御されていないということもできないから、正確に所望の放電電流波形を生成する手段が記載されていないという理由のみで、発明の詳細な説明に記載されたものが、「制御された放電電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行う装置」にあたらないということはできない。
したがって、発明の詳細な説明に、「制御された放電電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行う装置」の発明を当業者が容易に実施をすることができる程度に、発明の目的、構成、効果が記載されていないとすることはできない。

(6)また、前記無効審判請求において、審判請求人は、「本件特許に係る出願の新規性喪失の例外規定の基礎となった昭和47年度精機学会秋季大会学術講演前刷、第439-440頁(以下、「刊行物5」という。)には、本件特許発明が開示されていたということはできないから、本件特許に係る出願は、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができず、本件特許に係る発明は、刊行物5及び刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨主張しているので、訂正発明1及び2について、刊行物5に基づく特許法第30条第1項の規定の適用が認められるか否かについて検討する。
平成10年法律第51号による改正前の特許法第30条第1項の規定は、「特許を受ける権利を有する者が試験を行い、刊行物に発表し、又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表することにより、第29条第1項各号の一に該当するに至った発明について、その該当するに至った日から6月以内にその者が特許出願をしたときは、その発明は、同項各号の一に該当するに至らなかったものとみなす。」というものであって、これを本件についてみると、訂正発明1及び2と刊行物5に記載されたものとを対比し、許法第29条第1項第3号に該当する発明であるときには、30条第1項の規定の適用が認められるということとなる。
そして、出願された発明の構成要件が、刊行物にすべて直接に記載されていなくても、発明の構成要件の下位概念に該当するものが記載されていれば、その発明は第29条第1項第3号に該当するとされ、また、発明の詳細な説明の記載が全て刊行物に記載されていなければ第29条第1項第3号に該当しないというものでもない。

(7)刊行物5には、以下の事項が記載されている。
「しかしながら、方形波以外の電流波形を広範囲に変化させる場合の実際的な方法については、まだあまり報告されていないようである。そこで筆者等は、実際に放電電流波形変化させる場合の一方法を考案し、その方法を用いて加工特性を最適にコントロールすることを考えている。今回は、放電電流波形と加工特性との関係を求めるための実験を行なったので、その結果を報告する。」(第1頁14-18行目)「2 実験方法および装置 電流を変化させる方法としては、図1におけるスイッチングトランジスタTR1,TR2,・・・,TRnを順次時間的にずらして、ONあるいはOFFにすることにより、段階的に電流を変化させる方法である。トランジスタをONあるいはOFFにする時点は、プログラムボード上のインサートピンの位置で任意に変えられ、ピンで描かれる図形が電流波形をそのままずらして表わすようになっている。」(第1頁19-27行目)及び「図2には、実際に極間に流れている電流波形の一例を示す。」(第1頁32-33行目)と記載され、図1には、実験装置として、電源Eと、工具電極A、被加工物K、工具電極Aと被加工物Kとの間に形成される間隙と電源Eを結ぶ回路にそれぞれ直列に、かつ互いに並列に接続されたトランジスタTR1、TR2・・・TRn及びトランジスタTR1,TR2・・・TRnのベースにそれぞれ接続される接続線を有し、横軸に時間、縦軸に電流を表すプログラムボードが表示されている(図1について、Aが工具電極を、Kが被加工物を表すことについては、明記されていないが、図1が放電加工装置を表すものであることから、当業者であれば、当然にAが工具電極を、Kが被加工物を表すものと認識できるから、図1に表示された事項を前記のとおり認定することができるものである。)。

(8)訂正発明1と刊行物5に記載されたものとを対比すると、
a.刊行物5に記載されたものは、n個のトランジスタを用い、放電電流波形を変化させて放電加工を行うものであるから、訂正発明1の「トランジスタ等のスイッチング素子を複数個用いて、制御された放電電流波形を発生させることにより放電加工を行う装置」の構成を備えている。
b.刊行物5に記載されたものにおいて、プログラムボードの機能は明記されていないが、スイッチングトランジスタTR1、TR2・・・TRnは順次時間的にずらしてONあるいはOFFにされること、プログラムボードからの接続線はスイッチングトランジスタのベースに接続されているから、プログラムボードからは、スイッチングトランジスタのベース電位を制御する信号が出力されていると認められること、各スイッチングトランジスタのONあるいはOFFする時点は、プログラムボード上のピンの位置を変更することにより、任意に変えられること、及びこれをプログラムボードの時間軸から見ると、各時点での導通させるスイッチング素子の数を変化するよう設定することと認識できること、からすると、刊行物5のプログラムボードは、訂正発明1の「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の出力の数を設定変更することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路」と同一の機能を奏するものである。
c.放電加工装置は、工具電極と被加工物とで放電電極を構成するものであるから、訂正発明1の「夫々電極に直列に接続されると共に互いに並列接続され上記制御回路からの夫々対応した出力によって開閉が制御される複数個のスイッチング素子を用いた抵抗要素からのみなるスイッチング回路」の構成を備えている。
d.放電加工装置であれば、工具電極と被加工物との間に加工間隙を設けることは当然であるから、刊行物5には、訂正発明1の「このスイッチング回路によって発生した電流が直接流れる上記電極間に形成された加工間隙」の構成を備えている。
e.また、刊行物5の図1には、訂正発明1と同様、「複数個のスイッチングトランジスタに直列接続された、該複数個のスイッチングトランジスタに共通の電源E」が表示されている。
訂正発明2で限定された事項と、刊行物5に記載されたものとを対比すると、
f.刊行物5に記載されたものは三角形状電流波形を発生させるものであるから、訂正発明2で限定された「制御回路は複数個のスイッチング素子の開閉制御条件を変更設定できる装置を有し、この装置によって放電電流波形パルスを矩形波以外に任意に設定できる」の構成を備えている。
したがって、訂正発明1及び2は、刊行物5に記載された発明と認められる。そして、訂正発明1及び2は、刊行物5に記載された発明であるから、刊行物1及び刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとすることはできない。

(9)以上のとおりであるから、訂正発明1及び2は、いずれも特許出願の際に独立して特許を受けることができないとすることはできない。

7.以上のとおりであるから、本件訂正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項〜第3項の規定に適合するので、訂正を認める。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
放電加工装置
(57)【特許請求の範囲】
(1)トランジスタ等のスイッチング素子を複数個用いて、制御された放電電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行なう装置において、複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の出力の数を変更設定することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路、夫々電極に直列に接続されると共に互いに並列接続され上記制御回路からの夫々対応した出力によって開閉が制御される複数個のスイッチング素子を用いた抵抗要素のみからなるスイッチング回路、このスイッチング回路によって発生した電流が直接流れる上記電極間に形成された加工間隙、及び上記複数個のスイッチング素子に直列接続された、該複数個のスイッチング素子に共通の電源を設けたことを特徴とする放電加工装置。
(2)制御回路は複数個のスイッチング素子の開閉制御条件を変更設定できる装置を有し、この装置によって放電電流波形パルスを矩形波以外に任意に設定できるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
本発明は、トランジスタ等、スイッチング素子を用いて放電加工を行う装置において、方形波電流波形パルス以外の特殊波形電流パルス、例えば三角波電流波形パルス等を発生させることができる装置に関するものである。
従来放電加工装置に用いられてきた回路としては、第1図に示すようにトランジスタ,1a、1b、1c、……、1nの各々のベースに制御回路2によってベース電流を流し、各トランジスタを導通させることにより、直流電源3からトランジスタ1a、1b、1c、……、1n及び各トランジスタのコレクタ抵抗4a,4b、4c、……、4nを経て、工具電極5と被加工物となるもう一方の電極6間に放電電流を流し、加工を行うものである。
ここで、上記制御回路2としては、通常第2図に示すようなものが使用され、その構成及び動作原理を以下に説明する。クロックパルス発生器21の出力はAND素子22を経て、パルスの休止巾を設定する休止巾カウンタ23の入力端に接続されており、該カウンタの複数の出力のうちの1つが休止巾選択スイッチ24により選択されており、その選択された出力はRSフリップフロップ25のセット端子SFFに接続されるとともに、上記休止巾カウンタ23のリセット端子R2にも接続されている。また、クロックパルス発生器21の出力は、AND素子22に接続されるとともに、他のAND素子26にも接続され、このAND素子26を経てパルス巾カウンタ27に接続される。ここで、カウンタ27の複数の出力のうちの1つが、パルス巾選択スイッチ28により選択されており、該選択出力は、上記RSフリップフロップ25のリセット端子RFFに接続されるとともにパルス巾カウンタ27のリセット端子R1にも接続されている。なお、RSフリップフロップ25の出力Qは、AND素子26の入力端子に接続されており、また放電電流ピーク値選択スイッチ群29a、29b、29c、……、29nを経て第1図中のトランジスタ1a、1b、1c、……、1nの夫々のペースに接続されている。次に、この制御回路2の動作について説明する。先ず、最初RSフリップフロップ25のQの出力が1にセットされているとすると、AND素子26が開かれており、またRSフリップフロップ25のQ出力は0であるため、AND素子22は閉じていることになる。このため、クロックパルス発生器21の出力であるクロックパルスは、休止巾カウンタ23には入力されず、パルス巾カウンタ27にのみ入力され、パルス巾カウンタ27は上記クロックパルスを計数し、パルス巾選択スイッチ28により選択されている出力端子に相当する計数値まで計数するとこの出力端子に1を出力する。この出力はパルス巾カウンタ27のリセット端子R1に入力されることにより、パルス巾カウンタ27の計数内容をリセットするとともに、RSフリップフロップ25のリセット端子RFFに入力され、RSフリップフロップ25をリセットし、そのQ出力を0にする。これにともないAND素子26は閉じられることになり、クロップパルス発生器21からのクロップパルスはパルス巾カウンタ27に入力されなくなり、また上記RSフリップフロップ25のQ出力が1になるためAND素子22が開かれ、休止巾カウンタ23の計数が開始される。この場合はパルス巾カウンタ27の動作と同様に、休止巾カウンタ23はクロックパルスを計数し、休止巾選択スイッチ24により選択されている出力端子に相当する計数値まで計数するとこの出力端子に1を出力する。その出力は休止巾カウンタ23の計数内容をリセットし、RSフリップフロップ25をセットし、そのQ出力を1にする。
このように、制御回路2においてRSフリップフロップ25のQ出力は、休止巾選択スイッチ24とパルス巾選択スイッチ28とで決まる時間毎に1と0を繰り返す。ここで上記RSフリップフロップ25のQ出力が1になると、放電電流ピーク値選択スイッチ29a、29b、29c、……、29nにより選択されたトランジスタ1a、1b、1c、……、1nが導通させられるように構成されている。
これにより得られる電流波形は、一般に第3図に示すような方形波に近い波形である。ここで、τ1はパルス巾、τ2は休止時間巾、Ipは放電電流ピーク値を示している。このようにして方形波が得られるのは、トランジスタ1a……1nの導通する数を制御することにより得るのである。このパルス巾τ1や放電電流ピーク値Ipは加工特性と密接な関係があり、とくに仕上げ面あらさと電極消耗に著しい影響を及ぼすのは周知の事実である。
一方最近では、この方形波電流パルスでなく、特殊な波形、たとえば第4図のような三角波や台形波を用いて、加工特性を改善する方法が提案されている。後記の参考文献を参照すれば、方形波の立上りを変えて三角波のような波形で加工を行なうと、電極消耗に著しい影響があることが明らかになっている。この場合、三角波電流パルスを得るための回路としては、第5図に示すような回路がある。すなわち、コンデンサ7a、7b、7c、……、7nないしは、リアクトル8を回路に挿入することによって、方形波電流パルスの立上りないしは立下りを変化させたものである。なお、第5図の制御回路2の構成は第2図と同じである。ここで、コンデンサの挿入は立下りを変化させ、リアクトルの挿入は立上りを変化させることができる。しかしながら、この回路は、本質的にはR-C回路やL-R回路等の応用なので、広範囲に立上り立下りを変える場合には、コンデンサやリアクトルの数が非常に多くなり不都合である。また、三角波あるいは台形波以外の波形を発生させることは、一般に非常に困難である。さらに、回路的に見て、回路中にリアクトルが挿入されるということは、スパイク電圧が発生してトランジスタ1a……1nが破損しやすいという欠点もある。
本発明装置は、これらの欠点を改善するもので第1図に示した従来回路と同様な回路を用い、制御回路2に相当する部分を変更することにより、方形波電流波形パルス以外の特殊波形電流パルスを発生させることができる放電加工装置を提供することを目的とする。
以下、図面に基づき本発明装置を詳述する。
第6図は本発明装置の考え方を示したもので、第1図におけるトランジスタ1aを導通にした時の点Aにおける電流は、第6図6-1のようになる。またトランジスタ1aを導通にした時点よりt1、t2、……、tn-1時間ずらして、トランジスタ1b、1c、……、1nを順次導通にした時の電流はそれぞれ点B、C、……、Nにおいて、第6図6-2〜6-4のようになる。いま、点Xに流れる電流をIX、点A、B、C、……、Nに流れる電流をそれぞれIA、IB、IC、……、INとすると
IX=IA+IB+IC+……+IN
であるから、点Xにおける電流波形は第6図6-5のようになる。ここで、トランジスタ1aを導通にした時点から、トランジスタ1b、1c、……、1nを導通にするまでのずれ時間t1、t2、……、tn-1を任意に変えることにより、電流の立上りのモードを広範囲にわたって変えることができる。同様な考え方で、導通しているトランジスタ1a、1b、1c、……、1nを、導通させた時とは逆に、順次不導通にしていくことにより、立下りのモードも広範囲に変化させることができることは当然である。
第7図は本発明装置の制御装置の詳細図で、第1図に示した従来の回路における制御回路2に、そのまま置換されるものである。図中、201はクロックパルス発生器、202、206はAND素子、203は休止巾カウンタ、204は休止巾選択スイッチ、205はRSフリップフロップであり、第2図に示した回路構成と同様の構成をしている。また、図中、9はパルス波形の立上り制御回路、10はパルス波形の立下り制御回路であり、11a、11b、11c、……、11nはNAND素子で、立上り制御回路9のA、B、C、……、Nの各出力、及び立下り制御回路10のA’、B’、C’、……、N’の各出力がそれぞれに入力され、NAND素子の出力はトランジスタ1a……1nのベースに接続される。また、12に立上り制御回路9と立下り制御回路10との切換用RSフリップフロップであり、立上り制御回路9のUS出力がこのフロップフロップ12のセット端子に、立下り制御回路10のUR出力がリセット端子にそれぞれ接続され、さらにフリップフロップ12のQ出力は立上り制御回路9のUP入力へ、またQ出力は立下り制御回路のDOWN入力へそれぞれ接続されている。また第8図は上記立上り制御回路9の詳細図であり、第9図は上記立下り制御回路10の詳細図である。第8図において、901a、901b、901c、……、901nはJKフリップフロップで、J9a、J9b、J9c、……、J9n及びK9a、K9b、K9c、……、K9nはJKフリップフロップの入力端子、T9a、T9b、T9c、……、T9nはクロックパルスCPの入力端子で、この場合K9a、K9b、K9c、……、K9nは接地接続して常に0にしておく。またQ9a、Q9b、Q9c、……、Q9nはJKフリップフロップの出力端子で、それぞれNAND素子902a、902b、902c、……、902nに接続され、さらに後段のJKフリップフロップの入力端子J9b、J9c、……、J9nにもそれぞれ接続されている。このNAND素子902a、902b、902c、……、902nの出力端子は、立上りプログラムボード903のX軸端子に、さらにA、B、C、……、N出力端子はプログラムボード903のY軸端子にそれぞれ接続され、立上りプログラムボード903上にインサートピン904を適宜差し込むことにより、A、B、C、……、N出力端子はNAND素子902a、902b、902c、……、902nのうちのいずれかと接続されることになる。その選択は、インサートピン904の差し込み位置により、自由に行なえるようになっている。また第7図にて示したUP入力はNOT素子905を経てJKフリップフロップ901a、901b、901c、……、901nのリセット端子R9a、R9b、R9c、……、R9nに接続されるとともに、NAND素子902a……902nの入力端子にも接続されている。また第9図に示した立下り制御回路10も立上り制御回路9と類似の構成を有しており、JKフリップフロップ1001a、1001b、1001c、……、1001nの入力端子J10a、J10b、J10c、……、J10nが接地接続され常に0にされ、JKフリップフロップ1001a……1001nのQ10b、Q10C、……、Q10n出力が、それぞれ前段のフリップフロップの入力端子K10a、K10b、K10c、……、K10n-1に接続されている点において接続がやや異なるが、ほぼ類似の動作をすることになる。
つぎに、第7図に示す制御回路の動作原理を説明する。最初RSフリップフロップ205のQ出力が1にセットされているとすると、AND素子206は開かれており、クロックパルス発振器201からのクロック出力はAND素子206を経て、立上り制御回路9のCP入力に入力される。ここで第8図のJKフリップフロップの各出力端子Q9a、Q9b、Q9c、……、Q9nを0、入力端子J9aを1、切換用RSフリップフロップ12のQ出力を1にしておく。この時、第10図10-1の如くクロックパルスが入力端子T9a,T9b、T9c、……T9nに1パルス入れば、第10図(10-2)〜(10-4)に示すように、Q9a=1、Q9b=0、Q9c=0、……、Q9n=0となる。従って、JKフリップフロップの出力Q9aはNAND素子902a、インサートピン904、NAND素子11aを経てトランジスタ1aのペースに流れ込み、トランジスタ1aを導通させる。
またこの時、前記したようにJKフリップフロップ901aの出力端子Q9aはJKフリップフロップ901bの入力端子J9bに接続されているので、入力端子J9bが1になる。次に、クロックパルスが1パルス入ると、JKフリップフロップの出力信号はQ9a=1、Q9b=1、Q9c=0、……、Q9n=0となり、前記と同様にトランジスタ1bを導通させる。このように順次トランジスタ1c、……、1nまで導通にしていく。ここでQ9n=1になると、立上り制御回路9のUS出力は1になり、切換用RSフリップフロップ12を反転させる。これにともない、立上り制御回路9のUP入力が0、立下り制御回路10のDOWN入力が1となり、JKフリップフロップ901a、901b、……、901nはリセットされる。しかし、同時に立下り制御回路10においてDOWN信号はNOT素子1005を経てJKフリップフロップ1001a、1001b、1001c、……1001nの出力Q10a、Q10b、……、Q10nを1にセットするため、トランジスタ1a、1b、1c、……、1nは導通したままである。そこで次のクロックパルスが入力されると、立下り制御回路10のJKフリップフロップ1001n、1001n-1、……1001aの出力端子はQ10n=0、Q10n-1=1、……、Q10a=1となる。この時出力Q10nはNAND素子1002n、インサートピン1004、NAND素子11nを経てトランジスタ1nを不導通にする。ここで、出力端子Q10nは次段の入力端子K10n-1に接続されているため、入力端子K10n-1が1になり、次のクロックパルスが入力された時点でQ10n-1=0、Q10n-1=1になる。このようにして順次トランジスタ1n-1、……、1aを不導通にしていく。ここで、JKフリップフロップ1001aの出力Q10a=0、Q10a=1になると、立下り制御回路10のUR出力は1になり、切換用RSフリップフロップ12をリセットするとともに、RSフリップフロップ205のQ出力を1にセットし、AND素子202を開け、同時にAND素子206を閉じる。このような状態にすることにより、次のクロックパルスからは、休止巾カウンタ203でクロックパルスが計数され、休止巾選択スイッチ204で選択されたクロック数に達するまでパルスが休止され、所定のクロック数に達すると、RSフリップフロップ205をリセットし、最初の動作に戻り、これを繰り返す。
なお、この実施例装置ではプログラムボード903、1003上のインサートピン904、1004の位置を任意に設定することによってプログラム条件を変えることができ、第6図におけるトランジスタの導通間隔t1、t2、……、tn-1を任意に変化させることができる。また同時に導通させるトランジスタの数を変えることにより、電流ピーク値をも変化させうる。このプログラムボード上のインサートピンの描く図形は、そのまま放電電流パルス波形を表わす。第11図にプログラムボード903、1003上のインサートピンの描く図形と、放電電流波形の関係の一例を示す。第11図aのように階段状にインサートピンを挿入すると階段状のパルスが得られ、第11図bのように立上りプログラムボード903のインサートピン904をゆるやかな階段状に、立下りプログラムボード1003のインサートピン1004を直線状に挿入すると、インサートピンの描く図形と同様のパルスが得られることになる。即ち、特殊波形を作る場合において方形波はもちろん、三角波、台形波ばかりでなく、ステップ状の近似でではあるが、第12図に例を示すようにn次関数波形、正弦波形、階段状波形等、多種にわたり特殊波形が得られる。また三角波、台形波においても、立上り、立下り等広範囲に変えることができる。その上波形を変える場合の操作においても極めて簡便であり、放電加工中においても容易に波形を変えることができる。
以上のように、この発明装置では、複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の出力の数を変更設定することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路を用いて、この制御回路からの夫々対応した出力によって開閉が制御される複数個のスイッチング素子を用いたスイッチング回路を有し、複数のスイッチング素子に共通の電源を設けているので、回路中にリアクトルが挿入されておらず、スパイク電圧の発生がなくトランジスタが破損することがほとんどなくなり、また、各スイッチング素子の夫々に対応してリアクトル及び電源を設けた場合には、各リアクトルの特性の相違(バラツキ)、各電源の特性相違(バラツキ)が起因して、各スイッチング素子を流れる電流の合成電流波形が所望の波形にならず、所望の加工特性を得るのが難しかったが、この発明装置では共通電源としているので安定した加工特性を簡単な構成により得られるという効果がある。なお、制御回路に複数のスイッチング素子の開閉制御条件を変更できる装置を有している場合、スイッチング回路を抵抗要素のみで構成(積極的にインダクタンスに挿入した構成となっていない)してあり、また各スイッチング素子の電源を共通電源としたので、合成電流の波形は所望の波形となり、開閉制御条件を変える回路によってスイッチング素子の導通あるいは閉成の期間あるいは開始時点を任意に変えても所望波形の合成電流を得ることができる効果がある。
参考文献
放電加工における電流波形の影響(第1報)
倉藤尚雄、木下夏夫、福井雅彦
電気加工学会誌 vol・3 No.4
【図面の簡単な説明】
第1図は、複数個のトランジスタを用いて制御された放電電流波形パルスを発生させることにより、放電加工を行う装置の原理図、第2図は、従来の制御回路を示すブロック図、第3図は、従来使用されてきた放電電流波形の例を示す図、第4図は、三角波電流波形及び台形電流波形の例を示す図、第5図は、第4図のような電流波形パルスを発生させることにより放電加工を行う従来装置の原理図、第6図は、本発明装置による特殊電流波形の発生方法の原理説明図、第7図は、本発明装置の制御回路を示すブロック図、第8図及び第9図は夫々立上り及び立下り制御回路を示す構成図、第10図は第7図に示した本発明装置の動作原理説明図、第11図a、bはインサートピンの挿入例を示す図、第12図は本発明装置による電流波形の例を示す図である。
なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
図中、1a、1b、1c、……1nはトランジスタ、903、1003はプログラムボード。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
a.特許請求の範囲第1項について、
「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させる制御回路」を「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の数を変更設定することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路」と、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正をする。
b.発明の詳細な説明について、
特許明細書の第17頁第10-12行目の「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させる制御回路」を「複数個の出力を順次時間的にずらして時間とともに変化させ、時間的にずらした時点の数を変更設定することで、同時に導通させるスイッチング素子の数を変化させる制御回路」と、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正をする。
審理終結日 2002-03-19 
結審通知日 2002-03-25 
審決日 2002-04-05 
出願番号 特願昭48-32882
審決分類 P 1 41・ 841- Y (B23P)
P 1 41・ 531- Y (B23P)
P 1 41・ 121- Y (B23P)
P 1 41・ 111- Y (B23P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 役 昌明菅野 嘉昭村上 友幸  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 小池 正利
宮崎 侑久
鈴木 孝幸
三原 彰英
登録日 1982-10-28 
登録番号 特許第1120049号(P1120049)
発明の名称 放電加工装置  
代理人 高瀬 彌平  
代理人 宮田 金雄  
代理人 高瀬 彌平  
代理人 宮田 金雄  
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