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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  H01F
管理番号 1062784
異議申立番号 異議2001-72376  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-11-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-05 
確定日 2002-05-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3140291号「インダクタンス素子」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3140291号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3140291号に係る手続きの主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平6-91400号) 平成 6年 4月28日
特許権設定登録 平成12年12月15日
特許異議申立 平成13年 9月 5日
取消理由通知(1) 平成13年11月 2日
意見書・訂正請求書(1) 平成13年12月28日
取消理由通知(2) 平成14年 3月26日
訂正請求書(1)の取下書 平成14年 4月23日
訂正請求書(2) 平成14年 4月23日

2.訂正の適否についての判断
2.1 訂正の内容
2.1.1 訂正事項a
特許請求の範囲請求項1中の「基台上に導電膜を設けた基体」を「基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体」と訂正する。

2.1.2 訂正事項b
特許請求の範囲請求項3及び請求項4を削除する。

2.1.3 訂正事項c
特許請求の範囲請求項5を
「端子部上にニッケルを設けた事を特徴とする請求項1〜2いずれか1記載のインダクタンス素子。」と訂正するとともに請求項3とする。

2.1.4 訂正事項d
特許請求の範囲請求項6を
「基台を四角柱とした事を特徴とする請求項1〜3いずれか1記載のインダクタンス素子。」と訂正するとともに請求項4とする。

2.1.5 訂正事項e
特許請求の範囲請求項7を
「導電膜として複数の導電膜を積層して構成した事を特徴とする請求項1〜4いずれか1記載のインダクタンス素子。」と訂正するとともに請求項5とする。

2.1.6 訂正事項f
本件明細書【0005】中の「基台上に導電膜を設けた基体」を「基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体」と訂正する。

2.1.7 訂正事項g
本件明細書【0020】中の「基台上に導電膜を設けた基体」を「基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体」と訂正する。

2.2 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否
2.2.1 訂正事項a
訂正事項aについては、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された導電膜の膜厚を15μm〜20μmと限定するものであり、特許請求の範囲の減縮に相当する。
導電膜の膜厚を15μm〜20μmとすることについては、特許明細書の段落番号【0011】及び訂正前の請求項4に記載されており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.2.2 訂正事項b
訂正事項bは、請求項3及び請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。

2.2.3 訂正事項c,d,e
訂正事項c,d,eは、他の請求項を引用して記載していた請求項5,6,7を、請求項3及び請求項4の削除に伴い、引用する従属請求項番号を訂正するとともに請求項を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
さらに、訂正事項c,d,eは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.2.4 訂正事項f,g
訂正事項f,gは、特許請求の範囲の訂正に対応して、これと整合するように発明の詳細な説明の欄を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
さらに、訂正事項f,gは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.3 訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立及びこれについての判断
3.1 特許異議申立の理由及び取消理由の概要
3.1.1 特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人竹内光は、
1.刊行物1(甲第1号証の1):特開平2-224212号公報
2.刊行物2(甲第1号証の2):特開昭58-79706号公報
3.刊行物3(甲第1号証の3):特開平5-343232号公報
4.刊行物4(甲第1号証の4):特開平6-96955号公報
5.刊行物5(甲第1号証の5):特開平5-283233号公報
6.刊行物6(甲第2号証の1):特開昭61-230301号公報
7.刊行物7(甲第2号証の2):特開平5-205902号公報
8.刊行物8(甲第2号証の3):特開平6-112091号公報
9.刊行物9(甲第3号証) :特公昭62-8924号公報
10.刊行物10(甲第4号証):「多層プリント配線板の実装技術」昭和60年9月25日、日刊工業新聞社発行、第22頁、第82頁
11.刊行物11(甲第5号証):「最新プリント配線板技術」1984年(昭和59年)5月21日、(株)工業調査会発行、第17頁、第46頁、第119頁
12.刊行物12(甲第6号証):実願昭63-87596号(実開平2-9406号)のマイクロフィルム
13.刊行物13(甲第7号証):「表面技術総覧」昭和58年6月15日、(株)広信社発行、第311頁
14.刊行物14(甲第8号証):特開平1-162312号公報
15.刊行物15(甲第9号証):実願昭60-191447号(実開昭62-98215号)のマイクロフィルム
16.刊行物16(甲第10号証):実願平3-76804号(実開平5-21410号)のCD-ROM
を提出し、本件請求項1〜7に係る発明は、刊行物1〜16に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を取り消すべきであると主張している。

3.1.2 取消理由の内容
取消理由通知(1)の内容は、以下のとおりである。
「1)本件特許の請求項1〜7に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1〜16に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2)平成12年9月28日付け手続補正書による請求項3の「導電膜の厚さを15μm以上とした」は、新規事項にあたるので、特許法第17条の2第2項において準用する特許法第17条第2項に規定する要件を満たしていない。(出願当初明細書には「導電膜の厚さを15μm〜20μmとした」としか記載がない。)

したがって、本件請求項1〜7に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、取り消すべきものである。


1.刊行物1(甲第1号証の1):特開平2-224212号公報
2.刊行物2(甲第1号証の2):特開昭58-79706号公報
3.刊行物3(甲第1号証の3):特開平5-343232号公報
4.刊行物4(甲第1号証の4):特開平6-96955号公報
5.刊行物5(甲第1号証の5):特開平5-283233号公報
6.刊行物6(甲第2号証の1):特開昭61-230301号公報
7.刊行物7(甲第2号証の2):特開平5-205902号公報
8.刊行物8(甲第2号証の3):特開平6-112091号公報
9.刊行物9(甲第3号証) :特公昭62-8924号公報
10.刊行物10(甲第4号証):「多層プリント配線板の実装技術」昭和60年9月25日、日刊工業新聞社発行、第22頁、第82頁
11.刊行物11(甲第5号証):「最新プリント配線板技術」1984年(昭和59年)5月21日、(株)工業調査会発行、第17頁、第46頁、第119頁
12.刊行物12(甲第6号証):実願昭63-87596号(実開平2-9406号)のマイクロフィルム
13.刊行物13(甲第7号証):「表面技術総覧」昭和58年6月15日、(株)広信社発行、第311頁
14.刊行物14(甲第8号証):特開平1-162312号公報
15.刊行物15(甲第9号証):実願昭60-191447号(実開昭62-98215号)のマイクロフィルム
16.刊行物16(甲第10号証):実願平3-76804号(実開平5-21410号)のCD-ROM

刊行物1〜16には、特許異議申立人が提出した特許異議申立書の「(4)b.証拠の説明」記載の発明、さらに、刊行物8には「【0002】・・・圧着積層体を個々のコンデンサ及びコイル毎の積層部品の大きさに切断し、各個体をバレル研磨器によって研磨してそのエッジ部を丸くする。このバレル研磨を行わないと、エッジ部分が鋭角になり、後の工程で電極材料ペーストを塗布し、焼付けることにより端子電極を形成するとき、エッジ部の端子電極膜が薄くなり、後に完成部品をプリント基板のはんだ付けランドにはんだ付けするときに、はんだ食われ現象を起こすことがあり、断線することがある。」及び「【0022】・・・切り溝をV字状にすると、切断により得られる各個体はエッジがテーパーに形成され、その縁辺は鈍角に形成されるので、端子電極を形成する際もその膜厚が角部で薄くなる度合が小さく、実用上支障のないようにできる。・・・」が記載されている。

そして、以下の(1)〜(3)の理由により、本件請求項1〜7に係る発明は、刊行物1〜16に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1)特許異議申立書の「(4)c.本件特許発明と証拠との対比」記載の理由
(2)刊行物8には、エッジ部の端子電極膜が薄くならないようにエッジ部を丸くすることが記載されているので、本件発明のように角部の導電膜の膜厚が薄くならないようにインダクタンス素子の基台の角部に面取りを施すことは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。
(3)各刊行物の図面が概略図であるとしても、溝の幅Gより導電膜の間隔Hの方が大きいことは明らかである。また、刊行物5の段落【0015】に記載されているように「電流容量は被膜厚tとスパイラルコイル幅bとから規定される導電部の断面積(t・b)により決定され」るものであり、また電流容量は大きいほどいいので、コイル幅b(導電膜の間隔H)を大きく取り、溝の幅Gを小さくするのがスペース効率を考慮すれば普通であるから、G≦1.5×Hとすることは、当業者が通常的に行っていることに過ぎない。本件発明の範囲外である溝の幅Gを導電膜の間隔Hの1.5倍以上も取る方が希有である。」

3.2 特許法第29条第2項について
3.2.1 本件発明
上記2.で示したように上記訂正は認められるので、本件請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1〜5」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】非導電性材料で構成され角部を有した基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体と、前記基体の両端部を避けて前記基体上に設けられた保護部材とを備え、前記両端部を端子部とし、前記基体において前記端子部間に前記導電膜を取り除くように螺旋状の溝を設けることによってコイル状に前記導電膜を残し、前記コイル状に残った導電膜を覆うように前記保護部材を設けたインダクタンス素子であって、両端子部間に設けられた基台の角部に面取りを施すとともに、溝の幅Gと前記溝の間に残った導電膜の間隔Hの関係をG≦1.5×Hとした事を特徴とするインダクタンス素子。
【請求項2】保護部材を基体の中央部に設けた事を特徴とする請求項1記載のインダクタンス素子。
【請求項3】端子部上にニッケルを設けた事を特徴とする請求項1〜2いずれか1記載のインダクタンス素子。
【請求項4】基台を四角柱とした事を特徴とする請求項1〜3いずれか1記載のインダクタンス素子。
【請求項5】導電膜として複数の導電膜を積層して構成した事を特徴とする請求項1〜4いずれか1記載のインダクタンス素子。」

3.2.2 取消理由通知で引用した刊行物に記載された発明
3.2.2.1 刊行物1(甲第1号証の1):特開平2-224212号公報
刊行物1には、磁性体1上に金属膜4を設け、両端の端子部間に金属膜4を取り除くように螺旋状の溝5を設けることによってコイル状に金属膜4を残し、コイル状に残った金属膜4を覆うように絶縁被膜7を設けたインダクタンス部品が示されている。また、第3頁左下欄第10行〜第13行には、「上記各実施例では円柱状の磁性体1について説明したが、この磁性体1の形状は三角柱,四角柱あるいは六角柱等の適宜な幾何学的立体の柱状であっても良い。」と記載されている。

3.2.2.2 刊行物2(甲第1号証の2):特開昭58-79706号公報
刊行物2には、ロッド状のフェライトコア1上に導電被膜2を設け、両端の端子部間に導電被膜2を取り除くように螺旋状の溝を設けることによってコイル状に導電被膜2’を残し、コイル状に残った導電被膜2’を覆うように磁性被膜4を設けたチップインダクタが示されている。また、第3頁右上欄第18行〜左下欄第1行には「レーザートリミング法により70μmピッチの溝巾と、70μmのらせん状のコイル導体となるようにカットした。」、第4頁右上欄第7行〜第12行には「とりわけ円筒形のチップ抵抗器などの製造技術を応用することによって、円形のチップは容易に量産できて、低コスト化ができる。またたとえば角板形のような寸法のチップインダクタにも任意に応用できることが明らかであり」と記載されている。

3.2.2.3 刊行物3(甲第1号証の3):特開平5-343232号公報
刊行物3の図12及び図13には、四角柱の基体を用いるノイズフィル夕が示されている。また、【0015】欄には、ノイズフィル夕の端面電極20上にNi-Snめつきを施すことが示されている。

3.2.2.4 刊行物4(甲第1号証の4):特開平6-96955号公報
刊行物4の第4頁【0030】欄には、「アルミナ基板1を基体としたが、基体はフェライトなどでもよく、またその形状は円柱状としたが角柱状に焼成したものを用いてもよく」と記載されている。

3.2.2.5 刊行物5(甲第1号証の5):特開平5-283233号公報
刊行物5の図2には、断面側部が円弧で描かれた磁心2が示されている。また、【0014】欄には「らせん溝9は同図(c)に示したように幅0.3mmで、深さは被膜厚より深く、深さ50μm程度であり」と記載されている。また【0015】欄には「電流容量は図2(c)に示したように上述の被膜厚tとスパイラルコイル幅bとから規定される導電部の断面積(t・b)により決定されるが、コイル幅bが細くなるとコイル巻き数が増えるので、スパイラルコイル形成部の全長も適正に設定することが好ましい」と記載されている。

3.2.2.6 刊行物6(甲第2号証の1):特開昭61-230301号公報
刊行物6の図1〜図3には、角部に面取りを施した絶縁基板31上に抵抗体32を形成した角形チップ抵抗器が示されている。
3.2.2.7 刊行物7(甲第2号証の2):特開平5-205902号公報
刊行物7の【0009】欄には、略直方体形状の基体8をバレル研磨して基体8の各稜線部に丸みを形成した角形チップ抵抗器が示されている。

3.2.2.8 刊行物8(甲第2号証の3):特開平6-112091号公報
刊行物8の図4には、複数の端子電極9が基台の角部を多数の部位において通過する素子において基台角部にテーパー部8a,8bを施す技術が開示されている。また、【0002】欄には「圧着積層体を個々のコンデンサ及びコイル毎の積層部品の大きさに切断し、各個体をバレル研磨器によって研磨してそのエッジ部を丸くする。このバレル研磨を行わないと、エッジ部分が鋭角になり、後の工程で電極材料ペーストを塗布し、焼付けることにより端子電極を形成するとき、エッジ部の端子電極膜が薄くなり、後に完成部品をプリント基板のはんだ付けランドにはんだ付けするときに、はんだ食われ現象を起こすことがあり、断線することがある。」、【0022】欄には「切り溝をV字状にすると、切断により得られる各個体はエッジがテーパーに形成され、その縁辺は鈍角に形成されるので、端子電極を形成する際もその膜厚が角部で薄くなる度合が小さく、実用上支障のないようにできる。」と記載されている。

3.2.2.9 刊行物9(甲第3号証):特公昭62-8924号公報
刊行物9の第2頁第3欄第39行〜第41行には、「導電体層2を設ける。その厚さは、数10〜数100μm程が適当であるが、できるだけ厚い方が望ましい。」と記載されている。
3.2.2.10 刊行物10(甲第4号証):「多層プリント配線板の実装技術」昭和60年9月25日、日刊工業新聞社発行、第22頁、第82頁
刊行物10の第22頁には、めっき銅の厚みを25〜50μmとすることが示されている。また、第82頁には、めつき銅の厚みを20μmとすることが示されている。

3.2.2.11 刊行物11(甲第5号証):「最新プリント配線板技術」1984年(昭和59年)5月21日、(株)工業調査会発行、第17頁、第46頁、第119頁
刊行物11の第17頁の右欄第12行には、導体厚を15〜200μmとすることが示されている。第46頁の表4には、導電膜の厚みを18μmとすることが示されている。第119頁の表1には、メッキ厚を25μm以上とすることが示されている。

3.2.2.12 刊行物12(甲第6号証):実願昭63-87596号(実開平2-9406号)のマイクロフィルム
刊行物12の第9頁第19行〜第10頁第3行には、導体パターンを所望厚に形成することができることが示されている。

3.2.2.13 刊行物13(甲第7号証):「表面技術総覧」昭和58年6月15日、(株)広信社発行、第311頁
刊行物13の第311頁右欄の第11行〜21行には、銅めっきの耐食性を高めるために、さらにその上にニッケルめっきを行うことが示されている。

3.2.2.14 刊行物14(甲第8号証):特開平1-162312号公報
刊行物14の第2頁左下欄第15行〜右下欄第2頁第1行には、「導体部2は、…フェライト棒に導体膜としてニッケル下地メッキを施し、更に銅メツキを3〜6ミクロン施してある。」と記載されている。

3.2.2.15 刊行物15(甲第9号証):実願昭60-191447号(実開昭62-98215号)のマイクロフィルム
刊行物15の第3頁第9行〜第12行には「電解メッキにより45〜50μm厚さの銅の良導電対層6を薄膜形成し、次に電解メッキにより約5μm厚さのニッケルの金属層7を薄膜形成する。」と記載されている。

3.2.2.16 刊行物16(甲第10号証):実願平3-76804号(実開平5-21410号)のCD-ROM
刊行物16の【0008】欄には、「次に、かかる薄膜インダクタの製造方法の一例を説明する。まず、基体となるセラミックス1に薄膜のメタライズ方法によってニッケル・クロムの金属膜を蒸着する。この蒸着時に、金属膜をスパイラル状に形成してインダクタの基礎電極3とする。この時にセラミックス1の両端には予め電気メッキによって形成されている電極にインダクタの基礎電極3の両端部を各々接続する。次に、基礎電極3の表面に導電性良好な銅からなる銅層4を20μmから50μmの厚さに電気メッキする。この銅層4はインダクタの抵抗値を減少させる意味から肉厚を厚くすることが望ましい。インダクタとしてはこの状態でもよいが、耐環境性を良好とするために、銅層4の表面にまずクロムからなるクロム皮膜5を電気メッキした後に、さらにその表面に金からなる金層6を電気メッキによって形成する。しかる後に、セラミックス1の両端には、半田付け可能な金属からなる電極部7を基礎電極3と連通した電極に接続させて各々装着させて薄膜インダクタが完成する。」と記載されている。

3.2.3 本件発明と刊行物記載の発明との対比・判断
3.2.3.1 本件発明1について
本件発明1と刊行物1〜16記載の発明とを対比すると、刊行物1〜16記載の発明には、本件発明1の構成要件である「膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けたインダクタンス素子」は、記載も示唆もされていない。
本件発明1は、膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けたことにより、必要最小限の膜厚で高いQを得るという特許明細書記載の効果を奏する。
なお、インダクタンス素子の導電膜の厚みとしては、刊行物9の第2頁第3欄第39行〜第41行には、「導電体層2を設ける。その厚さは、数10〜数100μm程が適当であるが、できるだけ厚い方が望ましい。」と記載されているが、この「数10」の「数」は、広辞苑によれば「三、四または五、六の程度の不確定数を示すのに用いる。」との意味であり、15μm〜20μmを含まないことは明らかである。また、刊行物15と刊行物16は、導電膜が複数層から成り、合計膜厚は20μmを超えている。さらに、刊行物10の第82頁には、めつき銅の厚みを20μmとすることが示され、刊行物11の第46頁の表4には、導電膜の厚みを18μmとすることが示されているが、この導電膜は、一般的なプリント基板における導電膜の膜厚であって、この膜厚をインダクタンス素子の導電膜の膜厚に採用すべき示唆はない。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1〜16に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.2.3.2 本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1を引用し、さらに限定したものである。
したがって、上記本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜5が、上記刊行物1〜16に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.3 特許法第17条第2項について
「平成12年9月28日付け手続補正書による請求項3の「導電膜の厚さを15μm以上とした」は、新規事項にあたるので、特許法第17条の2第2項において準用する特許法第17条第2項に規定する要件を満たしていない。」との取消理由については、上記訂正により、請求項3は削除されたので、上記取消理由は、解消した。

3.4 特許異議申立についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び取消理由によっては本件発明1〜5についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜5についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インダクタンス素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】非導電性材料で構成され角部を有した基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体と、前記基体の両端部を避けて前記基体上に設けられた保護部材とを備え、前記両端部を端子部とし、前記基体において前記端子部間に前記導電膜を取り除くように螺旋状の溝を設けることによってコイル状に前記導電膜を残し、前記コイル状に残った導電膜を覆うように前記保護部材を設けたインダクタンス素子であって、両端子部間に設けられた基台の角部に面取りを施すとともに、溝の幅Gと前記溝の間に残った導電膜の間隔Hの関係をG≦1.5×Hとした事を特徴とするインダクタンス素子。
【請求項2】保護部材を基体の中央部に設けた事を特徴とする請求項1記載のインダクタンス素子。
【請求項3】端子部上にニッケルを設けた事を特徴とする請求項1〜2いずれか1記載のインダクタンス素子。
【請求項4】基台を四角柱とした事を特徴とする請求項1〜3いずれか1記載のインダクタンス素子。
【請求項5】導電膜として複数の導電膜を積層して構成した事を特徴とする請求項1〜4いずれか1記載のインダクタンス素子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、移動体通信機器等の電子機器等に用いられるインダクタンス素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図7は従来のインダクタンス素子を示す断面図である。図7において、1はフェライト等から構成された磁芯、2は磁芯1に巻かれたコイル、5は端子台であり、端子台5には一定の金属片3,4が嵌合されている。また磁芯1は端子台5の上に固定されており、更にコイル2の両端は金属片3,4にそれぞれ接続されている。6は金属片3,4とコイル2の両端の接合部及び磁芯1を覆う様に設けられたモールド材である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前記従来の構成では、インダクタンス素子自体の構造が非常に複雑であるために非常に製造工程が複雑になり生産性が向上しないという問題点があった。更に、ナノヘンリー域のインダクタンス値を有するインダクタンス素子を作製しようとすると、導線の巻き具合い等によってインダクタンス値が変化してしまう事があり特性のばらつきが大きかった。
【0004】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、生産性が向上ししかも特性のばらつきを生じないインダクタンス素子を提供する事を目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、非導電性材料で構成され角部を有した基台上に膜厚15m〜20mの導電膜を設けた基体と、基体の両端部を避けて基体上に設けられた保護部材とを備え、両端部を端子部とし、基体において端子部間に導電膜を取り除くように螺旋状の溝を設けることによってコイル状に導電膜を残し、コイル状に残った導電膜を覆うように保護部材を設けたインダクタンス素子であって、両端子部間に設けられた基台の角部に面取りを施すとともに、溝の幅Gと前記溝の間に残った導電膜の間隔Hの関係をG≦1.5×Hとした。
【0006】
【作用】
この構成により、構造が簡単になり特性の劣化を抑制し、しかもコイルなどの緩みが生じない
【0007】
【実施例】
図1は本発明の一実施例におけるインダクタンス素子を示す斜視図である。図1において、7は基体で、基体7は図2,図3に示す様に非導電性材料で構成された基台8と、基台8の上に形成された導電膜9によって構成されている。基台8としてはAl2O3,SiO2,TiO2等の材料を混合して作製されている。基台8として上記材料を用いると、強度や熱伝導度の点で優れている。
【0008】
又基台8の形状として、本実施例では四角柱(図2のA寸法とB寸法はほとんど同じ)のものを採用したが、円柱等の他の形状でもよい。基台8の形状を四角柱にすると、面実装の際にプリント基板に対するすわりや位置ずれが生じにくく、更にマンハッタン減少と呼ばれる素子立ち等が防止できる点で優れている。
【0009】
また、基台8の角部は、面取りを施した方が好ましい。即ち基台8上に導電膜9を形成する際に、角部が尖っていると角部に形成される導電膜9の膜厚は薄くなり良好な特性を得ることができない。
【0010】
導電膜9としては、金,銀,銅等の導電材料で構成されるが、これら材料で構成された導電膜は特性的にもあまり差はないので、コスト的に有利な銅で導電膜9を形成する事が好ましい。
【0011】
また導電膜9は単層でなく、複数の導電膜9を積層して構成してもよい。導電膜9の厚みtとしては、15μm〜20μmの間が好ましい。即ち図6に示す様に導電膜9の厚みtとインダクタンス特性Qとの関係から15μm以下ではQが低く20μm以上ではQの向上が見られないからである。なお、導電膜9を複数の膜を積層して構成した場合には、複数の膜のトータル厚みが15μm〜20μmとなるように構成する。
【0012】
導電膜9を基台8上に形成する方法としては、無電界鍍金法やスパッタリング法等の薄膜形成技術が用いられる。
【0013】
この様に構成された基体7には図4,図5に示す様に螺旋状に溝10が設けられている。この溝10は導電膜9を完全に切断する様に形成されているので、この溝10を設けた部分はコイル状に導電膜9が残る事になる(この様な加工によって導電膜9自体に従来の巻線のコイルに対応する部分を形成できる)。
【0014】
この溝10の形成は、レーザー加工や砥石加工等によって形成される。レーザー加工で溝10を施す場合には、出力は10W〜50W程度に設定する事が好ましい。更にレーザー加工や砥石加工によって溝10を形成する場合には、基体7自体を回転させる事が好ましい。従って基体7の両端に窪み部11を形成し、この窪み部11に回転軸などを押し当てる事によって、基体7を均一にしかも精度良く回転させる事ができるので、溝10を精度良く形成する事ができ特性のばらつきを小さくする事ができる。
【0015】
又、図5に示す様に溝10の深さJは導電膜9の厚みを15μm〜20μmとすると25μm〜30μmとする事が好ましい。深さJを25μm以下とすると、導電膜9を完全に切断する事ができない事があり、更に30μm以上とすると基台8の機械的強度が低下する等の問題点が発生する事がある。
【0016】
更に図5に示す様に、溝10の幅Gと溝10の間に残った導電膜9の間隔Hの関係はG≦1.5×Hを満たす事が好ましい。この関係外の時はインダクタンス特性Qが悪くなる。
【0017】
12は導電膜9の溝10が形成された部分に設けられた絶縁性を有する保護部材で、保護部材12はレジストインキやエポキシ樹脂等の材料で構成される。保護部材12の構成材料としてレジストインキを用いると薄く均一な保護部材12を形成できるので、特性にばらつきを防止できるとともに実装性をも向上させる事ができる。この保護部材12を基体7の両端部を避けて略中央部に設ける事によって、前記両端部は端子部13,14となる。この端子部13,14を基板の所定の位置に配置して、リフロー等を行うことによってインダクタンス素子を基板上に取り付ける事ができる。
【0018】
なお、端子部13,14に半田等の接合材が付着すると、端子部13,14上に設けられた導電膜9が劣化し、所定の特性を得る事ができない場合があるので、端子部13,14上にニッケル等の接合材と接触しても特性が劣化しにくい導電膜を積層してもよい。
【0019】
以上の様に本実施例では、基体7上に溝10を形成する事によってインダクタンス特性を出すようにしたので、部品点数が減り非常に構成が簡単になるので、生産性が向上する。更に本実施例では従来発生していたコイルの緩み等は発生しないので、ナノヘンリー域のインダクタンス値に設定しても特性に変化がなく特性のばらつきが発生しない。
【0020】
【発明の効果】
本発明は、非導電性材料で構成され角部を有した基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体と、基体の両端部を避けて基体上に設けられた保護部材とを備え、両端部を端子部とし、基体において端子部間に導電膜を取り除くように螺旋状の溝を設けることによってコイル状に導電膜を残し、コイル状に残った導電膜を覆うように保護部材を設けたインダクタンス素子であって、両端子部間に設けられた基台の角部に面取りを施すとともに、溝の幅Gと前記溝の間に残った導電膜の間隔Hの関係をG≦1.5×Hとした事により、構造が簡単で特性の劣化を抑制し、しかもコイルなどの緩みが生じないので、生産性が向上し、しかも特性のばらつきを生じない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例におけるインダクタンス素子を示す斜視図
【図2】
本発明の一実施例におけるインダクタンス素子を示す斜視図
【図3】
本発明の一実施例におけるインダクタンス素子を示す断面図
【図4】
本発明の一実施例におけるインダクタンス素子を示す斜視図
【図5】
本発明の一実施例におけるインダクタンス素子を示す断面図
【図6】
本発明の一実施例におけるインダクタンス素子の導電膜の厚さとインダクタンス特性Qの関係を示すグラフ
【図7】
従来のインダクタンス素子を示す断面図
【符号の説明】
7 基体
8 基台
9 導電膜
10 溝
11 窪み部
12 保護部材
13,14 端子部
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲請求項1中の「基台上に導電膜を設けた基体」を「基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体」と訂正する。
訂正事項b
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲請求項3及び請求項4を削除する。
訂正事項c
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲請求項5を「端子部上にニッケルを設けた事を特徴とする請求項1〜2いずれか1記載のインダクタンス素子。」と訂正するとともに請求項3とする。
訂正事項d
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲請求項6を「基台を四角柱とした事を特徴とする請求項1〜3いずれか1記載のインダクタンス素子。」と訂正するとともに請求項4とする。
訂正事項e
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲請求項7を「導電膜として複数の導電膜を積層して構成した事を特徴とする請求項1〜4いずれか1記載のインダクタンス素子。」と訂正するとともに請求項5とする。
訂正事項f
明りょうでない記載の釈明を目的として、本件明細書【0005】中の「基台上に導電膜を設けた基体」を「基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体」と訂正する。
訂正事項g
明りょうでない記載の釈明を目的として、本件明細書【0020】中の「基台上に導電膜を設けた基体」を「基台上に膜厚15μm〜20μmの導電膜を設けた基体」と訂正する。
異議決定日 2002-05-07 
出願番号 特願平6-91400
審決分類 P 1 651・ 561- YA (H01F)
P 1 651・ 121- YA (H01F)
最終処分 維持  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 池渕 立
橋本 武
登録日 2000-12-15 
登録番号 特許第3140291号(P3140291)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 インダクタンス素子  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  

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