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審決分類 |
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C23C 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C23C |
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管理番号 | 1063561 |
審判番号 | 無効2000-35095 |
総通号数 | 34 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-04-05 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-02-18 |
確定日 | 2002-05-22 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2742919号発明「不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2742919号の明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続きの経緯 本件特許第2742919号は、昭和62年2月6日に出願した特願昭62-26948号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成4年8月31日に新たな特許出願として分割したものであって、平成10年2月6日に特許権の設定の登録がなされた後、特許異議の申立がなされ、これに対して、平成11年6月1日に、明細書等の訂正なく特許維持の決定がなされたものである。 その後、石田鉄工株式会社、エヌ・エス・ケーニシダ工業株式会社、有限会社大阪ステンレス、太華工業株式会社、東洋ステンレス研磨工業株式会社、日本鏡鈑株式会社、浪速ステンレス工業株式会社、株式会社ナビック、日本ケーピーケー株式会社、及びミクロン工業株式会社(以下「請求人」という。)より、平成12年2月18日付けで、その特許請求の範囲第1項に記載された発明に係る特許について、本件特許無効の審判請求がなされ、これに対して、平成12年7月19日付けで、被請求人(特許権者)より、「訂正請求書」及び「答弁書」が提出され、続いて、平成13年1月29日に請求人より「上申書」が提出され、平成13年8月21日に請求人より「弁駁書」が提出され、平成13年12月5日の口頭審理において、被請求人より「答弁書(第2)」(11月28日付け)及び「答弁書(第3)」(12月4日付け)、並びに、請求人より「弁駁書(第二)」(12月5日付け)が提出され、平成13年12月12日付けで請求人より「上申書」が提出され、そして、平成13年12月18日に請求人より「弁駁書(第三)」(12月17日付け)が提出されたものである。 II.訂正の可否について (II-1)訂正の内容 上記の平成12年7月19日付け訂正請求書による訂正の内容は以下のとおりである。 訂正事項a(特許請求の範囲の訂正) (a-1)「【請求項1】酸化性化学薬品と研磨材との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面をラッピング研磨することにより、ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法。 【請求項2】ステンレススチール材がオーステナイト鋼ステンレスである請求項1記載の製造方法。」を、 「【請求項1】ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品と研磨材(但し、酸化クロムを除く)との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面をラッピング研磨することにより、ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法。 【請求項2】ステンレススチール材がオーステナイト鋼ステンレスである請求項1記載の製造方法。」と訂正する。 訂正事項b(特許請求の範囲以外の訂正) (b-1)段落【0007】中「酸化性化学薬品と研磨材との混合液」を、「ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品と研磨材(但し、酸化クロムを除く)との混合液」と訂正する。 (b-2)段落【0010】中「アルミナ(Al2O3)等が好ましい。」を、「アルミナ(Al2O3)等が好ましい。酸化クロムは含まれない。」に訂正する。 (II-2)訂正の目的、範囲、及び実質上の拡張又は変更について 訂正事項aのうち、「ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく」とした点については、繊維製マット状物に含浸させる前の状態について、明細書の段落【0009】に記載のステンレススチール材の説明、及び、「実施例1」で用いられたステンレススチール板についての記載のとおり、ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経たものでないことを明らかにしたものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、「但し、酸化クロムを除く」とした点については、研磨材を限定したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、そして、明細書の段落【0010】及び「実施例1」には、これに整合する酸化クロム以外の具体的研磨材が記載されている。一方、訂正事項bは、上記訂正事項aにしたがい、明細書の発明の詳細な説明の欄の記載内容との整合を図るものであって、不明りょうな記載の釈明を目的とするものに該当する。そしてそれらの訂正は、願書に添付した明細書の記載から見て、当該明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認められ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとは認められない。 よって、上記の訂正は、平成6年法律第116号附則第6条第1項により、同法施行前にした特許出願に係る明細書の訂正については、なお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第2項ただし書き、及び同条第5項で準用する同改正前の特許法第126条第2項の規定に適合する。したがって、この訂正を認める。 III.請求人の主張 これに対して、請求人は、証拠方法として甲第1号証〜甲第15号証を提出して、本件特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下「本件発明」という。)に係る特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、 i)本件特許に係る出願の出願日は、手続補正書が提出された平成9年9月4日とすべきであり、そうすると、本件発明は、甲第2号証並びに甲第6号証ないし甲第12号証で裏付けられるとおり、特許法第29条第1項、あるいは同条第2項の規定に違反して特許されたものであり、さらに、 ii)仮にそうでないとしても、本件発明は、甲第6号証、甲第7号証、及び甲第10号証ないし甲第12号証で裏付けられるとおり、特許法第29条第1項、あるいは同条第2項の規定に違反して特許されたものである、と主張し、 併せて、平成13年1月29日付けの「上申書」と共に「参考資料1」〜「参考資料4」、平成13年8月21日付けの「弁駁書」と共に「参考資料1」〜「参考資料5」、平成13年12月5日付けの「弁駁書(第二)」と共に「参考資料6」、及び、平成13年12月17日付けの「弁駁書(第三)」と共に「参考資料7」及び「参考資料8」を提出している。 IV.被請求人の主張 一方、被請求人は、平成12年7月19日付けで訂正請求書を提出して、上記のとおり明細書の訂正を求めるとともに、請求人の上記主張には理由がないと主張し、併せて、平成12年7月19日付けの「答弁書」と共に「乙第1号証」〜「乙第8号証」、及び、平成13年11月28日付けの「答弁書(第2)」と共に「参考資料イ」〜「参考資料ヘ」を提出している。 V.証拠方法 (V-1)請求人の提出した証拠方法 (A1)甲第1号証(特許第2742919号掲載公報) 本件に係る特許出願の特許掲載公報である。 (A2)甲第2号証(特開平6-93470号公報;平成6年4月5日公開) 本件に係る特許出願の公開公報であり、本件出願時の明細書の記載内容として、以下の事項の記載を認めることができる。 (A2-1)「【請求項1】ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層の上に、更に不活性化皮膜層を成長形成させたことを特徴とするステンレススチール材。 【請求項2】ステンレススチール材の表面に不活性化処理を行うことにより不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする不活性化皮膜層の製造方法。 【請求項3】ステンレススチールがオーステナイト鋼ステンレスである請求項2記載の製造方法。 【請求項4】不活性化処理が、酸化性化学薬品と研磨材との混合液をフェルト等に含浸させ、ステンレススチール表面をラッピング研磨することにより為される請求項2記載の製造方法。」(特許請求の範囲) (A2-2)「上記ステンレススチールの表面を不活性化処理を行う。不活性化処理は例えは硝酸の15%液にフェライト(四三酸化鉄Fe3O4)を約40g/L混合して撹拌後、得られた混合液を繊維製マット状物に含浸させ、適当な圧力を掛けてラッピングする。」(段落【0010】) (A2-3)「もっとも、本発明のステンレススチール材は、そのまま用いても不活性化皮膜層が成長形成されているので、従来のものに比べ耐蝕性、耐摩耗性に優れていることは云うまでもない。」(段落【0025】) (A3)甲第3号証(本件に係る特許出願についての平成7年1月11日提出の手続補正書) (A3-1)この補正により、明細書中に、「上記の如くに形成される不活性化皮膜は、通常の不活性化皮膜が鉄、ニッケル、クロム等の酸化物からなっているのに対し、酸化クロムが主体であり、そのため極めて耐蝕性、耐摩耗性、密着性に優れるとともに、鏡面光沢を有し、優れた外観を有する。」なる記載が追加された。(段落【0010】) (A4)甲第4号証(本件に係る特許出願についての平成9年9月4日提出の手続補正書) (A4-1)この補正により、上記(A3-1)の補正箇所が、さらに、以下のとおり補正された。 「上記の如く、化学的作用と物理的作用とにより形成される不活性化皮膜は、通常の不活性化皮膜が鉄、ニッケル、クロム等の酸化物からなっているのに対し、酸化クロムが主体であり、そのため極めて耐蝕性、耐摩耗性、密着性に優れるとともに、鏡面光沢を有し、優れた外観を有し、そのままで、又は金めっきを施す等により使用される。」(段落【0010】) (A5)甲第5号証(特開昭63-195291号公報;昭和63年8月12日公開) 分割出願である本件に係る特許出願のもとの特許出願の公開公報であって、当該もとの特許出願の出願時の明細書の記載内容の確認ができる。内容略。 (A6)甲第6号証(特開昭61-214958号公報;昭和61年9月24日公開) (A6-1)「金属管に挿通したロープ等の外周面を金属管の内面に沿って移動させることにより金属管内に供給したエッチング剤と研磨砥粒を金属管内に摺接させて該内面を表面粗さが最大高さ(Rmax)0.5μm以下に研磨することを特徴とする金属管の内面研磨方法。」(特許請求の範囲) (A6-2)「(発明の構成)上記目的を達成するために、本発明の内面研磨方法は金属管に挿通したロープ等の外周面を金属管の内面に沿って移動させることにより金属管内に供給した研磨砥粒入エッチング剤を金属内面の表面粗さが0.5μm以下に研磨することを特徴とするものである。」(第3頁右上欄第14行〜左下欄第1行) (A6-3)第1図(第5頁)と共に、「(実施例の説明)本発明の実施例を図面について説明すると、(1)は・・・・金属管で、この金属管(1)を適宜な固定治具(2)(2)により固定する。 次いで、この金属管(1)の内部にロープ等の索条物(3)を挿通する。この索条物(3)には長さ方向に一定間隔毎に研磨砥粒を混入させたエッチング剤を含浸し得る布片或いはスポンジ状物等の摺接体(4)(4)・・・(4)を取りつけてある。 摺接体(4)に含浸させるエッチング剤としては、・・・・・・ 又、金属管がステンレス鋼管・・・・等の場合には次のような配合組成物をエッチング剤として使用する。 硝 酸 20重量% 酸性フッ化アンモニウム 5 〃 フ ッ 酸 2 〃 リ ン 酸 10 〃 カルボキシル基を有するインヒビター 5 〃 界面活性剤 1 〃 アルミナ 25 〃 水 残 上記組成物において、硝酸は金属管内面の不動能化を図るために添加され」(第3頁左下欄第2行〜右下欄第15行) (A6-4)「このように調整してエッチング剤を摺接体(4)に含浸させるには、金属管(1)内に挿入する前に研磨砥粒混入エッチング剤中に浸入、通過させるか或いは金属管内に研磨抵粒混入エッチング剤を供給することにより行う。 摺接体(4)にエッチング剤を含浸させて索条物(3)を金属管内に長さ方向に引張移動させると、摺接体(4)の外周面が金属管(1)の内周面を摺動しながら金属管(1)の一端から他端に通過し、その間に研磨砥粒混入エッチング剤が摺接体(4)によって積極的に金属管(1)の内周面に摺接し、その内周面を研磨するものである。・・・・なお、摺接体(4)を使用することなく、研磨砥粒混入エッチング剤を含浸した繊維ロープの外周面を直接金属管内面に摺接させても同様な研磨が可能である。」(第4頁左上欄第11行〜右上欄第12行) (A7)甲第7号証(特開昭57-89525号公報;昭和57年6月3日公開) (A7-1)「(1)金属表面の変質層を電気化学的処理と機械物理的加工を独立又は併用して表面仕上げすることにより、表面上に薄くしかも組織の均一な変質層の形成を可能にし、この金属表面に表面酸化皮膜による着色を施してその色差の少ない着色が実現できるようにしたことを特徴とする着色鏡面板の製造方法。」(特許請求の範囲) (A7-2)「この発明は金属の表面(特にステンレス鋼の表面)の変質層を電気化学的処理と機械物理的加工を独立又は併用して表面仕上げを行うことにより、表面上に薄く均一な変質層の形成を可能にした金属表面に表面酸化皮膜による着色加工を実施してその色差の少ない着色が実現できる様にした着色鏡面板の製造方法に関するものである。」(第1頁左下欄第13〜20行) (A7-3)「表面組織の構造が電子回折法等によって次々に解明されている現在、金属の表面に形成される変質層(俗にベイルビー層と呼れる)についてもその構成・厚さ・結晶・成分等が物理的に解明されつつある。しかし、現在市販の金属材料の表面組織は、汚染・吸着・表面化合物・異物の埋め込み加工による表面組織の変質並びに残留歪みによる変化等により複雑な表面組織が混成されて変態的な表面組織になっている。特にステンレス鋼に関してはオーステナイト組織、マルテンサイト組織、その混合された組織及びパーライト組織等が外部の条件の変化によって種々の組織となり、その変質層は増々多岐複雑になっている。しかも一般的にはこれらの変質層は金属の内部組織とは異なっている為に表面処理加工等には多大の支障になっているが、これを完全に除去することは不可能である。その為、変質層をできるだけ再現性のある加工法で、その厚さを薄くするかまたは均一を組織にすることが切望される訳である。」(第1頁右下欄第1〜20行) (A7-4)「上記技術は金属組織を調べる場合とかメッキ、蒸着処理、鏡面板に着色加工等の表面だけでなく、内部の組織に関係する加工に関して多大の貢献をする加工技術である。例えば、ステンレス鋼の表面に酸化皮膜を形成させてその干渉色により、ステンレス鋼の表面を着色状にする加工法(インコ法と呼れる)等に於いては、表面変質層の組織・厚さ・成分・結晶等の相違から均一な化学的透明皮膜が形成されていない為に、色差の大きい色むらが発生して多くの損失が起って生産の歩留りを悪くしている。これを改善するには本発明の様に薄くかつ均一な同一組織の表面を形成し、その上に加工処理を施工すれば完全に解決される訳である。」(第2頁左上欄第7〜20行) (A7-5)第1〜4図(第4頁)と共に、「第1図はこの発明に係る着色鏡面板の製造方法の実施に使用する装置の一実施例の概要を示す略図で、(1)は台車、(2)は研削ヘッド、(3)は上下機構、(4)は排液装置、(5)は電源を夫々示している。」(第2頁右上欄第3〜7行) (A7-6)同上図と共に、「台車(1)は絶縁材(6)を介して加工板(この実施例ではステンレス板)(7)を載層し、図面では示していないが適宜の往復動機構により毎分10m位の速度で床面上を水平方向にストローク運動するようにしたものである。」(第2頁右上欄第8〜12行) (A7-7)同上図とともに、「研削ヘッド(2)は上下方向に昇降可能にかつ回転可能に支持された外筒(8)と、外筒(8)の下端部に一体的に取付固定された円盤状のゴム盤押え板(9)と、一体形成した数枚の心金板(10)を内部に放射状に埋め込ませて内周面に取付けた六角筒状のゴム盤取付筒(11)の内周に取付用六角ボルト(12)を一体に取付固定し、当該取付用六角ボルト(12)を上記外筒(8)の最下端に螺着して取付ることにより、内周部上面に一体形成したボス部(13)をゴム盤押え板(9)の凹部(14)の周面と取付用六角ボルト(12)との筒で挟嵌してゴム盤押え板(9)の下面部に取付けられ、下面に4方又は6方に放射状に穿設した溝(15)に導電体(16)を埋め込み、かつ、溝(15)を穿設した以外の下面にフェルト(17)を張り付けした硬質ゴムよりなるゴム盤(18)と、上記ゴム盤押え板(9)とゴム盤(18)の周縁部円周等間隔の数箇所の対向面間に夫々圧縮間在されて上記ゴム盤(18)を湾曲状に弾圧するための複数個のゴム盤押えばね(19)と、上記外筒(8)内に挿通支持され、その上端部を図面にはしめされていないがラップ材と無機酸を混合させて形成した研削液を収容して該研削液を所定時に適当量宛吐出するようにした研削液タンクと連結し、かつ、下端部に研削液を吐出する吐出口(20)を水平方向に開口し、更に該外筒(8)の上昇静止時に押下げばね(21)により若干押下げられるようになした研削液供給管(22)とから構成され、車台(1)上に絶縁材(6)を介して載置されている加工板(7)の上面を加圧力0.2〜5kg/cm2、回転数300〜100rpmで研削するようにしたものである。」(第2頁右上欄第13行〜右下欄第2行) (A7-8)同上図と共に、「台車(1)に絶縁材(6)を介して加工板(6)を載置した後、台車(1)を往復動機構にて毎分10m位の速度で床面上を水平方向にストローク連動し、かつ、研削ヘッド(2)を上下機構(3)にて降下して加工板(7)の上面にゴム盤(18)の下面を0.2〜5kg/cm2の加圧力で圧接すると共に、回転機構(図示せず)にて研削ヘッド(2)のゴム盤(18)を300〜100rpmで回転する。すると、加工板(7)の上面に研削液を合浸させたゴム盤(18)の下面に張り付けられたフェルト(17)にて機械物理的に研削加工が行なわれると同時に、電源(5)から電流が導電されて電解が起って電気化学的処理が行なわれて加工板(7)の上面に形成された変質層を薄くて均一な組織に仕上げることができる。このように研削加工を続けて行って一定時間(10〜30分)経過すると、上下機構(3)にて研削ヘッド(2)を上昇する。さすれば、ゴム盤押え板(9)とゴム盤(18)の対向面間に圧縮間在させた複数個のゴム盤押えばね(19)によりゴム盤(18)の周辺部が弾圧されて該ゴム盤(18)は第4図に示すように湾曲し、ゴム盤(18)の下面に張り付けたフェルト(17)を湾曲状に保持する。そして、切削ヘッド(2)が上昇静止すると、研削液供給管(22)が押下げばね(21)により若干押下げられ、これと同時に研削液タンクより所定量の研削液が研削液供給管(22)に注入され、該研削液供給管(22)を通ってその下端に開口する吐出口(20)より吐出されてゴム(18)にて湾曲状に保持されたフェルト(17)に供給する。・・・・そして、研削液の供給が完了すれば、研削ヘッド(2)を上下機構(3)にて降下し、かつ回転機構にて回転して再び研削を行なわせる。以後は上記動作を繰り返し行なって研削を完了する。」(第3頁左上欄第2行〜右上欄第16行) (A7-9)「次に実施の具体データーを述べると、 (1)材 料:18-8ステンレス、・・・ (2)表面粗さ:0.2μ(HRMS) (3)研削ヘッド条件:圧 力:3kg/cm2 回転数:200rpm ヘッド直径:25cm (4)研削液:HNO3+酸化クロール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 上記の条件で仕上げた表面の状況は、仕上精度は最高の鏡面仕上げとなり、また、変質層は薄く、かつ均一な組織となっているために色むらは肉眼では判別困難な色差≒2位で仕上るという結果がでた。」(第3頁左下欄第2〜16行) (A7-10)「以上の説明では着色加工を施すものについて述べているが、本発明は着色加工を施さない表面精密仕上げに関する加工のみの場合についても適用し得ることは云うまでもない。」(第3頁左下欄第17〜20行) (A7-11)第1〜4図と共に、「4.図面の簡単な説明 第1図はこの発明に係る着色鏡面板の製造方法の実施に使用される装置の一実施例の概略を示す略図、第2図は加圧状態の切削ヘッドの側断面図、第3図はその底面図、第4図は上昇静止時の切削ヘッドの側断面図である。・・・・・・・(17)・・フェルト・・・。」(第3頁右下欄第1〜12行) (A8)甲第8号証(特開昭62-84968号公報;昭和62年4月18日公開) (A8-1)「(1)粒度が600乃至1200メッシュの砥石で順次研磨する第1工程と、2.5乃至3.5%の硝酸水溶液に4.5乃至5.5wt%酸化クロム〔Cr2O3〕粉末を混入した第1液を用い、28乃至32℃の加工温度で、フェルト製あるいは不繊布製のラップ材によって研磨する第2工程と、4.5乃至5.5%の硝酸水溶液からなる第2液を用い、28乃至32℃加工温度で、フェルト製あるいは不繊布製のラップ材によって研磨する第3工程とからなるステンレス鋼の鏡面仕上げ方法。」(特許請求の範囲) (A9)甲第9号証(「ノリタケ技報」1989年No.1(第20〜22行);1989年発行)内容略。 (A10)甲第10号証(砥粒加工研究会編「砥粒加工技術便覧」日刊工業新聞社(昭和40年6月30日初版発行)第1024、1028、1029頁) (A10-1)用語とその意義について、 「ラップ剤」とは、「ラッピングに用いる研摩剤でペースト状ないし液状にしたもの。」であること(第1024頁)、 「ラッピング」とは、「砥粒と加工液をまぜたものを、ラップと工作物の間に入れ両者に圧力を加えながらすべり動かせ、表面をなめらかにかつ高精度に仕上げる加工法。」であること(第1028頁)、が記載されている。 (A11)甲第11号証(長谷川正義監修「ステンレス鋼便覧」日刊工業新聞社(昭和48年8月30日初版発行)第845〜846頁) ステンレス鋼の不働態化処理について、以下の記載がある。 (A11-1)「ステンレス鋼は・・・硝酸のような酸化剤が存在する腐食環境下では自己不動態化を起こす性質を有している」(第845頁「9.3.1概説」の欄) (A11-2)「ステンレス鋼の不動態化処理の方法として (1)硝酸その他強力な酸化剤を含む溶液に浸漬する方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ などが考えられているが,一般には(1)の方法がもっとも多くとられている.」(第846頁「9.3.2不動態化処理」の欄) (A12)甲第12号証(金属表面技術協会編「金属表面技術便覧(改訂新版)」日刊工業新聞社(昭和51年11月30日初版発行)第71〜75頁) (A12-1)「(iii)加工層 加工によって表面に生成した内部とちがった層を一般に加工層または加工変質層とよんでいる。・・・・加工変質層は,総括的にみれば,「表面は加工の影響によって各種の変形やすべりを受け,結晶粒が微細化され,表面にいたるほどその微細化の程度がはなはだしくなり,ついに無定形と区別がつかない程度の小さい結晶となる」という考え方である.」(第73頁第6〜17行「(iii)加工層」の欄) (A12-2)「(2)研摩材 (i)研摩材の定義 研摩という言葉には・・・研削作用と・・・琢摩作用の二つの概念が含まれており、これらに使用するものを、それぞれ研削材、琢摩材と称しているが、両者を明らかに区別することはむずかしく、これらの統一概念または総称をもって研摩材と定義するのが普通である。・・・・ここで、研摩(研削)材は原材料としての物質そのものを意味し、それを粉砕して粒子状にしたものを研削砥粒と称しているが、略して砥粒という言葉が広く用いられている。」(第73〜74頁「(i)研摩材の定義」の欄) (A12-3)研摩材として、「酸化クロム」が挙げられている。(第75頁「表2・5 研摩材の種類」) (A13)甲第13号証(平成11年9月22日付け「警告書」) オリエンタルメタル株式会社より、浪速ステンレス工業株式会社に宛てた警告書。内容略。 (A14)甲第14号証(平成11年10月22日付け「回答書」) 浪速ステンレス工業株式会社、石田鉄工株式会社、エヌ・エス・ケーニシダ工業株式会社、有限会社大阪ステンレス、太華工業株式会社、東洋ステンレス研磨工業株式会社、株式会社ナビック、日本ケーピーケー株式会社、及びミクロン工業株式会社より、オリエンタルメタル株式会社に宛てた回答書。内容略。 (A15)甲第15号証(平成11年11月12日付け「再警告書」) オリエンタルメタル株式会社より、浪速ステンレス工業株式会社、石田鉄工株式会社、エヌ・エス・ケーニシダ工業株式会社、有限会社大阪ステンレス、太華工業株式会社、東洋ステンレス研磨工業株式会社、株式会社ナビック、日本ケーピーケー株式会社、及びミクロン工業株式会社に宛てた再警告書。内容略。 (A16)平成13年1月29日付け上申書に添付の「参考資料1」(浪速ステンレス工業株式会社が、昭和52年11月16日に、大阪市長宛に提出した「特定施設設置届出書」の写し)内容略 (A17)同上上申書に添付の「参考資料2」(太華工業株式会社が、昭和62年7月2日に、山口市徳山保健所長宛に提出した「特定施設使用届出書」の写し)内容略。 (A18)同上上申書に添付の「参考資料3」(日本鏡鈑株式会社が、昭和54年4月9日に、寝屋川市役所下水道部下水道総務課に提出した「特定施設使用届出書」の写し)内容略。 (A19)同上上申書に添付の「参考資料4」(平成12年(ワ)第5406号特許権侵害差止等請求事件において、平成13年1月22日に、原告等であるオリエンタルメタル株式会社外2名が、大阪地方裁判所に提出した「第2準備書面」の写し)内容略。 (A20)平成13年8月21日付けの弁駁書に添付の「参考資料1」(「特許法概説[第13版]」株式会社有斐閣(2001年6月20日第3刷)表紙、第320〜323頁、奥付)内容略。 (A21)同上弁駁書に添付の「参考資料2」(「ステンレス鋼便覧-第3版-」日刊工業株式会社(1995年1月亜24日初版1刷)表紙、第254〜255,427頁、奥付)内容略。 (A22)同上弁駁書に添付の「参考資料3」(スワン産業株式会社より、浪速ステンレス工業株式会社に宛てた、平成13年7月25日付けの「オージェー分析結果」) 鋼種「SUS304」のステンレス鋼板に、BA、鏡面研摩、金メッキ処理した鋼板表面についての、AES(Auger electron spectroscopy) Depth Profile分析結果が示されている。 (A23)同上弁駁書に添付の「参考資料4」(「新制金属講座新版材料篇 表面処理」社団法人日本金属学会(昭和36年4月30日)表紙、第8,14〜5頁、奥付)内容略。 (A24)同上弁駁書に添付の「参考資料5」(「金属表面技術便覧(改訂新版)日刊工業新聞社(昭和51年11月30日初版)表紙、第119〜120頁、奥付)内容略。 (A25)平成13年12月5日付け弁駁書(第二)に添付の「参考資料6」(「化学大辞典2 縮刷版」共立出版株式会社(1989年8月15日)表紙、第300頁、奥付) 「化学研摩」についての説明がなされている。 (A26)平成13年12月17日付け弁駁書(第三)に添付の「参考資料7」(「ステンレス鋼便覧 第3版」日刊工業新聞社(1995年1月24日初版1刷)表紙、第428〜431頁、奥付)内容略。 (A27)同上弁駁書(第三)に添付の「参考資料8」(特開昭55-31186号公報;昭和55年3月5日)内容略。 (V-2)被請求人の提出した証拠方法 (B1)乙第1号証(株式会社松下テクノリサーチ作成の、平成5年7月26日付け「分析・試験報告書」) SUS表面研摩板の分析として、鏡面及びBA資料についてのX線電子分光法(XPS)及びオージェ電子分光法(AES)による分析結果が示されると共に、AESの結果として、「鏡面の表面酸化膜は、表面付近にSが検出され、基板に近い部分にはNが多い部分がある。また、酸化膜中ではCrが多くなっている。」(第4頁)との記載がなされている。 (B2)乙第2号証(「JISハンドブック 金属表面処理」財団法人日本規格協会(1992年4月20日第1版第1冊)第163,166頁) 「レイティングナンバ6標準図表」及び「レイティングナンバ3標準図表」が示されている。 (B3)乙第3号証(特開昭63-195291号公報) 甲第5号証と同一の証拠であり、記載内容は上記(A5)欄において既述のとおり。 (B4)乙第4号証(「化学大辞典」株式会社東京化学同人(1989年10月20日)第279〜280頁) 「エッチング」についての説明がなされている。 (B5)乙第5号証(「化学大辞典1 縮刷版」共立出版株式会社(昭和59年3月15日)第936〜937頁) 「エッチング」についての説明がなされている。 (B6)乙第6号証(「解説 平成6年改正特許法の運用」社団法人発明協会(1996年6月6日初版第2冊)第140〜141頁)内容略。 (B7)乙第7号証(「新版 表面処理ハンドブック」産業図書株式会社(昭和44年8月30日新版第1刷)第112〜113頁) 研摩剤の原料として用いられる「酸化クロム」が、化学式Cr2O3を有する3価クロムの酸化物であること、及び、その硬度(モース)(6)、結晶(立方体)、比重(5.2)について記載され、併せて、酸化クロム以外のカーボランダム、アルミナ等の研摩剤11種について、化学式、硬度(モース)、結晶及び比重等について記載されている。 (B8)乙第8号証(「化学大辞典3 縮刷版」共立出版株式会社(昭和59年3月15日)第907〜908頁) 酸化クロムについての説明がなされており、各種酸化クロムの内、酸化クロム(III)は「研磨剤」に用いられることが記載されている。 一方、酸化クロム(VI)については、水溶性、潮解性で、毒性の強いことが記載されており、また、研磨剤として用いることの記載は見あたらない。 (B9)平成13年11月28日付け「答弁書(第2)」に添付の「参考資料イ」(「明細書および図面の補正の運用指針」特許庁;「(4)除くクレーム」の欄)内容略。 (B10)同上答弁書(第2)に添付の「参考資料ロ」(「化学大辞典1 縮刷版」共立出版株式会社(昭和59年3月15日)第1098頁) 「塩酸」についての説明がなされている。 (B11)同上答弁書(第2)に添付の「参考資料ハ」(「化学大辞典5 縮刷版」共立出版株式会社(昭和59年3月15日)第48頁) 「水素」についての説明がなされている。 (B12)同上答弁書(第2)に添付の「参考資料ニ」(株式会社日鉄テクノリサーチ作成の、平成13年11月23日付けの「ステンレス鋼金メッキ材のメッキ-母材界面の成分分析」と題する「調査解析報告書」) SUS304ステンレス鋼板上に金メッキをした試料の界面組成をオージェ電子分光(AES)装置を使って調べ、その結果、 (1)界面での汚染成分としてはOであり、比較的O量は多く、界面のC、Siは少ないこと、 (2)Auメッキ膜に(無電解でできる)ピットが多く、これが界面のO検出に影響している可能性があること、 (3)表面にSUS成分の析出が多いこと、が記載されている。 (B13)同上答弁書(第2)に添付の「参考資料ホ」(「実例でみる特許・実用新案 審査基準の解説」社団法人発明協会、第182〜183頁)内容略。 (B14)同上答弁書(第2)に添付の「参考資料ヘ」(「化学大辞典3 縮刷版)共立出版株式会社(昭和59年3月15日)第898頁) 「酸化塩素」の化学式、反応、物性等の説明がなされている。 VI.明細書の要旨変更に係る主張(請求人の主張i))について 請求人は、本件特許に係る出願に係る、平成7年1月11日に提出された手続補正書(甲第3号証)による補正(以下「平成7年補正」という。)において、「上記の如くに形成される不活性化皮膜は、通常の不活性化皮膜が鉄、ニッケル、クロム等の酸化物からなっているのに対し、酸化クロムが主体であり、そのため極めて耐蝕性、耐摩耗性、密着性に優れるとともに、鏡面光沢を有し、優れた外観を有する。」(段落【0010】中)との記載を明細書中に追加する補正を含むものである点、及び、 平成9年9月4日に提出された手続補正書(甲第4号証)による補正(以下「平成9年補正」という。)において、先の補正による補正箇所を再度補正して、「上記の如く、化学的作用と物理的作用とにより形成される不活性化皮膜は、通常の不活性化皮膜が鉄、ニッケル、クロム等の酸化物からなっているのに対し、酸化クロムが主体であり、そのため極めて耐蝕性、耐摩耗性、密着性に優れるとともに、鏡面光沢を有し、優れた外観を有し、そのままで、又は金めっきを施す等により使用される。」(段落【0010】中。なお、アンダーラインは補正箇所。)とする補正を含むものである点を挙げて、これら2回の補正は明細書の要旨を変更するものである、と主張している。 これに対して、被請求人は、上記2度の補正について、明細書の要旨を変更するものでない旨主張している。 そこで、これら2度の補正の是非について、以下検討する。 (1)平成7年補正について (1a)本件特許に係る出願の出願当初の明細書(即ち、平成4年8月31日に特許法第44条第1項の規定に基いて出願された当初の明細書。以下「当初明細書」という。甲第2号証参照。)をみると、当該特許に係る発明のステンレススチール材について、「もっとも、本発明のステンレススチール材は、そのまま用いても不活性化皮膜層が成長形成されているので、従来のものに比べ耐蝕性、耐摩耗性に優れていることは云うまでもない。」(段落【0025】中)と記載されており、これは、当該ステンレススチール材を「そのまま」、即ち、当該発明に係る不活性化皮膜の成長形成後、めっきを施さずに用いる場合を意味すると認められる。 してみれば、本件特許の当初明細書には、前記の不活性化皮膜を成長形成したステンレススチール材について、めっきを施さずに用いること、及び、それが従来のものに比べて耐蝕性及び耐摩耗性に優れていることが記載されていると認められる。 (1b)これに対し、平成7年補正において、「通常の不活性化皮膜が鉄、ニッケル、クロム等の酸化物からなっているのに対し、酸化クロムが主体であり」とした点については、発明の詳細な説明の欄において、通常の不活性皮膜の組成、及び本件発明における不活性化皮膜の組成について説明したものであって、この補正により、「不活性化皮膜層」、又はその他の発明の構成に関する技術的事項が、実質的に当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなると言うことはできない。 (1c)また、平成7年補正において、「従来のものに比べ耐蝕性、耐摩耗性に優れていることは云うまでもない。」とした点については、上記(1a)項に記載したとおり、当初明細書には、「そのまま用いても・・・従来のものに比べ耐蝕性、耐摩耗性に優れていることは云うまでもない。」と記載されていたことからすると、当該事項は、当初明細書に記載されていた事項であって、そして、この補正により、「不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材」、又はその他の発明の構成に関する技術的事項が、実質的に当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなると言うことはできない。 以上のとおりであるから、平成7年補正は、請求人が主張する理由によっては、明細書の要旨を変更するものと言うことはできない。 (2)平成9年補正について (2a)平成9年補正において追加された、「化学的作用と物理的作用とにより」なる記載は、発明の詳細な説明において、不活性化皮膜が形成される作用を、酸化性化学薬品による化学的作用と、ラッピング研磨による物理的作用の面を説明したものであって、この補正により、「不活性化皮膜層」、又はその他の発明の構成に関する技術的事項が、実質的に当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなると言うことはできない。 (2b)また、平成9年補正において、「そのままで、又は金めっきを施す等により使用される。」とした点については、上記(1a)項に記載したとおり、当初明細書には、金めっきを施して使用する場合の他、そのまま用いることが記載されているので、この補正により、「不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材」、又はその他の発明の構成に関する技術的事項が、実質的に当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなると言うことはできない。 してみれば、平成9年補正は、請求人が主張する理由によっては、明細書の要旨を変更するものと言うことはできない。 以上のとおりであるから、平成7年補正及び平成9年補正については、これを明細書の要旨を変更する補正であるとする請求人の上記主張は、採用することができない。 VII.本件特許発明の要旨 上記「VI.要旨変更に係る主張(請求人の主張i))について」の欄に記載したとおり、平成7年補正及び平成9年補正に伴う要旨変更に係る請求人の主張は採用できず、一方、平成12年7月19日付け訂正請求書による訂正は、上記「II.訂正の可否について」の欄に記載したとおり、その訂正を認めることができる。 したがって、本件特許発明の要旨は、訂正明細書の記載から見て、その特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの、下記のものと認める。(以下、これをあらためて「本件発明」という。) 「ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品と研磨材(但し、酸化クロムを除く)との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面をラッピング研磨することにより、ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法。」 VIII.対比・判断 (VIII-1)請求人の主張i)について 上記「VI.要旨変更に係る主張(請求人の主張i))について」の欄で説示のとおり、補正に伴う明細書の要旨変更に係る請求人の主張は採用できないので、この要旨変更及びそれに伴う本件出願日の繰上げを前提とした、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に基く請求人の主張i)(「III.請求人の主張」の欄i)項)は、採用することができない。 (VIII-2)請求人の主張ii)について 請求人は、上記平成7年補正及び平成9年補正が明細書の要旨を変更するものでないとしても、本件発明は、本件出願のもとの特許出願の出願前に頒布された刊行物である、甲第6号証、甲第7号証、及び甲第10号証ないし甲第12号証で裏付けられるとおり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、あるいは同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとして、以下のとおり主張している。 (1イ)(甲第6号証に記載された発明に対する新規性) 本件発明は、甲第6号証に記載された発明である。また、これに関して、甲第6号証には「ラッピング研磨」の記載はないが、甲第6号証記載の発明においては、摺接体に硝酸とアルミナ砥粒を含む研削液を含浸させたものを、ステンレス鋼表面を摺動させながら研磨する方法であり、実質的にラッピング研磨であると言える。 (1ロ)(甲第7号証に記載された発明に対する新規性) 本件発明は、甲第7号証に記載された発明である。また、これに関して、甲第7号証の第3頁左下欄第8行の「酸化クロール」は「酸化クロム」の誤記である。 (1ハ)(本件発明の進歩性) 本件発明は、甲第6号証及び甲第7号証、並びに甲第10〜12号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明である。 これに対して、被請求人は、具体的に以下のとおり反論している。 (1)請求人の主張(1イ)に対して 本件発明は、耐蝕性、耐摩耗性に優れた、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法であり、甲第6号証に記載された発明とは目的が相違し、また、甲第6号証には、研磨、エッチングの記載があるが、ラッピング研磨することにより不活性化皮膜層を形成させることの記載はない。 (2)請求人の主張(1ロ)に対して 甲第7号証に記載の「酸化クロール」は「酸化クロム」の誤記とは言えず、また、甲第7号証に記載された発明は、「電気化学的処理」と「機械的物理的加工」との併用を必須とするものである。 (3)請求人の主張(1ハ)に対して 上記(1)及び(2)に記載したとおり、甲第6号証及び甲第7号証には本件発明の構成、目的が記載されていないので、これら各甲号証に記載された発明、更には、これらの発明に甲第10〜12号証に記載された発明を組み合わせても、本件発明が容易に発明し得たものとすることはできない。 以下、これら両者の主張について検討する。 (A)請求人の主張(1ロ)(即ち、甲第7号証に記載された発明に対する新規性)について 本件発明と、甲第7号証に記載された発明とを対比すると、甲第7号証には、「金属表面の変質層を・・・機械物理的加工を独立・・・して表面仕上げすることにより、表面上に薄くしかも組織の均一な変質層の形成を可能にし、この金属表面に表面酸化皮膜による着色を施してその色差の少ない着色が実現できるようにした着色鏡面板の製造方法」(摘記A7-1)が記載され、併せて、甲第7号証には、当該発明は、「金属の表面(特にステンレス鋼の表面)の変質層を・・・機械物理的加工を独立・・して表面仕上げを行うことにより、表面上に薄く均一な変質層の形成を可能にした金属表面に表面酸化皮膜による着色加工を実施してその色差の少ない着色が実現できる様にした着色鏡面板の製造方法に関するものである」こと(摘記A7-2)、上記金属としてステンレス鋼が挙げられること(摘記A7-2)が記載され、また、甲第7号証の記載を見ても、当該ステンレス鋼について、「表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経る」ものに特定される旨の特段の記載は見当たらない。同甲第7号証には、さらに、研削液について、ラップ材と無機酸とを混合させて形成したものであることが例示され(摘記A7-7)、当該無機酸としては「HNO3」(硝酸)が挙げられること(摘記A7-9)、及び、研削液はフェルトに含浸させられること(摘記A7-7、7-8、7-11)が記載され、併せて、「着色加工を施さない表面精密仕上げに関する加工のみの場合についても適用し得る」こと(摘記A7-10)が記載されている。そして、本件発明における「酸化性化学薬品」としては、硝酸が挙げられており(段落【0010】、「実施例1」)、一方、甲第7号証に記載の発明においては、無機酸として上記のとおり硝酸が挙げられていることからすると、本件発明における酸化性化学薬品は、甲第7号証に記載の発明における無機酸と一致している。 なお、被請求人は、甲第8号証の記載を引用して、甲第7号証には、電気化学的処理と機械的物理的加工を併用した場合のみが記載されており、機械的物理的加工のみの場合についての記載はないと主張している。しかし、甲第7号証の記載を見ても、電気化学的処理を必須とすべき特段の記載は見当たらず、一方、上記甲第8号証に記載された発明は、甲第7号証に記載された発明とは直接関係のない、特定の3工程からなる鏡面仕上げ方法に係る発明であって、この記載をもって、甲第7号証に記載された発明について、機械的物理的加工のみに限定して解釈すべき理由はないので、被請求人の上記主張は採用できない。 一方、本件発明においては、上記混合液は、酸化性化学薬品と共に、「研磨材」を組成成分とするものであるのに対して、甲第7号証には「ラップ材」が記載されているものの、「研磨材」の記載が見あたらず、本件発明における処理が「ラッピング研磨」であるのに対して、甲第7号証には「研削」(摘記A7-7)又は「研削加工」(摘記A7-8)が記載されているものの、「ラッピング研磨」の記載が見あたらず、また、本件発明では、ステンレススチール材の表面に「不活性化皮膜層」を形成させるものであるのに対して、甲第7号証にはその記載は見あたらない。 以上のことからすると、本件発明は、甲第7号証に記載された発明と、「ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品を含む混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面を処理するステンレススチール材の製造方法」の点で一致し、 そして、(イ)本件発明においては、上記混合液は、酸化性化学薬品と共に、「研磨材(但し、酸化クロムを除く)」を組成成分とするものであるのに対して、甲第7号証に記載された発明では、無機酸との混合成分は「ラップ材」(摘記A7-7)である点、(ロ)本件発明における処理が「ラッピング研磨」であるのに対して、甲第7号証に記載された発明においては「研削」(摘記A7-7)又は「研削加工」(摘記A7-8)である点、及び、(ハ)本件発明では、「ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させる」ことによる、「不活性化皮膜層を形成した」ステンレススチール材の製造方法であるのに対して、甲第7号証にはそのような「不活性化皮膜層」の記載がない点で、少なくとも形式上、両者は相違している。 そこで、これら相違点(イ)〜(ハ)について、以下検討する。相違点(ロ)について 甲第7号証には、ラップ材を含む研削液を、加工板とフェルトとの間に供給して、加工板の上面を加圧しながら回転・研削することが記載されており(摘記A7-7、第1図)、併せて、これにより、表面上に薄く均一な変質層が形成されること(摘記A7-2、7-8)が記載されている。そして、当該回転・研削による処理は、本件明細書に説明されている、フェルトからなるロール状物を用い、圧力下に回転させる研磨処理(段落【0014】)と対応している。これらの記載からすると、甲第7号証に記載された上記の処理は、本件発明と同様の、ラッピングと研磨の両方の作用を持つものと認められ、したがって、本件発明で言う「ラッピング研磨」と重複した意味内容を有すると認められる。 よって、当該相違点(ロ)に係る「ラッピング研磨」の点に付いては、本件発明は、甲第7号証に記載された発明と実質的な相違があるとは言うことはできない。 相違点(イ)について 甲第7号証においては「ラップ材」との記載がなされているものの、「研磨材」との記載は見当たらない。しかしながら、甲第7号証の「機械物理的加工」を用いた表面仕上げである旨の記載(摘記7-1)、及び、「ラップ材と無機酸とを混合させて形成した研削液」(摘記A7-7)なる記載からすると、当該「ラップ材」が、当技術分野で周知の固体砥粒を意味すると認められること、並びに、ラッピングに用いる研磨剤が「ラップ剤(材)」と呼ばれ、また、ラッピングにおいて、固体砥粒と加工液との混合物を用いることは、当技術分野で周知であることからすると(要すれば甲第10号証を参照。)、本件発明における研磨材と、甲第7号証に記載された発明におけるラップ材との用語の意味する内容に、明確な区別があるものとは言えず、それらは重複した意味内容を表わすものと認められる。そして、甲第7号証の記載を見ても、当該甲第7号証に記載の「ラップ材」を、本件発明で除外されている酸化クロムに限定して解釈すべき特段の理由は見当たらない。 してみれば、当該相違点(イ)のとおり、本件発明において、「研磨材(但し、酸化クロムを除く)」とした点については、本件発明は、甲第7号証に記載された発明と実質的な相違があるとは言うことはできない。 なお、上記の判断で直接言及した事項ではないが、甲第7号証には、HNO3(硝酸)と「酸化クロール」との研削液を用いたことの記載がなされている(摘記A7-9)。この「酸化クロール」は技術用語として不明確であり、請求人はこれを「酸化クロム」の誤記であると主張し、これに対して、被請求人は、「酸化塩素」なる化合物が存在することからしても、これは酸化クロムの誤記であるとはいえないと主張している。 そこで、この点について判断すると、同甲第7号証中の「ラップ材と無機酸を混合させて形成した研削液」(摘記A7-7)との記載、及び、酸化クロムが周知の研磨剤であること(要すれば、甲第12号証(摘記A12-3)、乙第8号証(摘記8)を参照。)、並びに、「酸化塩素」が、研磨材ないしラップ材として用いられると認めるべき特段の根拠がない(要すれば、酸化塩素の物性等について記載した、「参考資料ヘ」(B14)を参照。)ことからすると、当該「酸化クロール」は、請求人が主張するとおり、「酸化クロム」の誤記であると認めるのが妥当である。 相違点(ハ)について ステンレス鋼表面が硝酸によって不働態化し、不活性な不働態化層を形成することは周知の事項であり(要すれば甲第11号証参照。)、一方、甲第7号証には、硝酸を含む研削液を用いたことが記載されている(摘記A7-9)。 してみれば、甲第7号証に記載された表面仕上げ処理においても、硝酸の作用により、不活性な不働態化層が形成されているものと認められ、そして、これは、本件発明で言う「不活性化皮膜層」に該当するものと認められる。 したがって、当該相違点(ハ)に係る不活性化皮膜層の点においては、本件発明は、甲第7号証に記載された発明と実質的な相違があるとは言うことはできず、なおかつ、両者の表面層に実質的な相違が認められない以上、その耐蝕性、耐摩耗性の各物性についても、両者に実質的な相違が有るものとは言えない。 以上のとおり、上記相違点(イ)〜(ハ)の点については、いずれも、甲第7号証に記載された発明との実質的な相違点を構成するものとは認めることができず、したがって、本件発明は、甲第7号証に記載された発明である。 (B)請求人の主張(1イ)について なお、請求人の主張(1イ)(本件発明の、甲第6号証に記載された発明に対する新規性に係る主張)について、以下のとおり判断する。 甲第6号証には、金属管に挿通したロープ等の外周面を金属管の内面に沿って移動させることにより金属管内に供給したエッチング剤と研磨砥粒を金属管内に摺接させて研磨する金属管の内面研磨方法(摘記A6-1)の発明が記載され、併せて、金属管の内部にロープ等の索条物を挿通し、この索条物には長さ方向に一定間隔毎に研磨砥粒を混入させたエッチング剤を含浸し得る布片或いはスポンジ状物等の摺接体を取りつけてあること、摺接体に含浸させるエッチング剤として、ステンレス鋼管等の場合には、硝酸、酸性フッ化アンモニウム、フッ酸、リン酸、カルボキシル基を有するインヒビター、界面活性剤、アルミナ及び水を含有するエッチング剤を用いたこと(摘記A6-3)、及び、摺接体にエッチング剤を含浸させて索条物を金属管内に長さ方向に引張移動させると、摺接体の外周面が金属管の内周面を摺動しながら金属管の一端から他端に通過し、その間に研磨砥粒混入エッチング剤が摺接体によって積極的に金属管の内周面に摺接し、その内周面を研磨すること(摘記A6-4)が記載されている。そして、請求人は、これらの記載からみて、甲第6号証に記載された上記の研磨方法は、実質的に、本件発明における「ラッピング研磨」であると主張している。 しかし、当該甲第6号証に記載の発明における「研磨」では、研磨砥粒と共に「エッチング剤」(摘記A6-1)が用いられており、そしてそのエッチング剤としては、硝酸の他、被請求人が主張するとおり、腐食、溶解性化合物である酸性フッ化アンモニウム、フッ酸及びリン酸を含有する処理剤が挙げられ(摘記A6-3)、金属表面を化学的に溶解し、エッチングするエッチング剤であると認められる。したがって、甲第6号証に記載された、エッチング剤を含む組成物を用いた「研磨」は、本件発明における「ラッピング研磨」と同じ処理工程であると言うことはできない。 以上のとおりであるから、本件発明は、少なくとも、その構成要件である当該「ラッピング研磨」の点において、甲第6号証に記載された発明と相違するので、甲第6号証に記載された発明と言うことはできず、したがって、本件発明は甲第6号証に記載された発明であるとの、請求人の上記主張(1イ)は、採用することができない。 IX.むすび 以上のとおりであるから、本件発明は、甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない発明であるから、本件発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品と研磨材(但し、酸化クロムを除く)との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面をラッピング研磨することにより、ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法。 【請求項2】 ステンレススチール材がオーステナイト鋼ステンレスである請求項1記載の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法に関する。 本発明で得られる不活性化皮膜層の形成されたステンレススチール材は、これにめっきを施すことにより、耐蝕性、耐摩耗性、密着性に優れ、且つ経済的にも有利に金めっき製品を提供することができる。 【0002】 【従来の技術】 古来、金はその華麗な黄金色と光沢から、富の象徴として珍重され、貨幣、美術品、細工物、装身具等において広く愛用されてきた。従来、スプーン、フォーク、皿等の食器類を初めとする生活必需品にも金製又は金めっきを施したものが実用化されているが、昨今の生活水準の向上から、益々この傾向が強く、例えば浴槽や鍋、釜といった大容量のものや玄関の扉、エレベーターの扉、建物や構築物の内装材や外装材等の建築材に至るまで大きな期待が寄せられている。 しかし乍ら、これら浴槽や鍋等にあっては、毎日使用後にタワシやスポンジ等により擦られたり、洗剤やバス用添加剤等の化学薬品に曝される等、また建築材等にあっては、他の物と接触したり、風雨、塩分、酸性雨等に曝される等の極めて過酷な条件に耐える必要があり、かかる条件に耐える金めっき製品の製造は極めて困難である。 【0003】 第1に、従来錆びないステンレスの上に、錆びない金めっきを施せば永久に錆びないと一般に考えられるが、実際には全く逆であって、錆び難いステンレス上に金めっきを施せば、非常に錆び易い金属に変わるのである。その理由は、ステンレスが錆び難いのはその表面に形成されている不動態化皮膜(酸化膜)があるためであるが、ステンレス上の金めっきを施すにはこの不動態化皮膜を除去する活性化処理が不可欠である。そして、この不動態化皮膜が除去されているため、特にめっき厚さが薄い場合等においてピンホールが発生し易く、めっき皮膜とステンレス素地との間に局部電池が形成され、錆びにくいステンレス材でもイオン化傾向の差によって腐食が起こるのである。 【0004】 第2は、浴槽や建築材等の大型サイズのものに均一な厚さで金めっきを施すことが非常に難しく、また設備費も重むという問題がある。 これら大型サイズのステンレスに金めっきを施することは上記の如き厄介な問題が存在するため、潜在的に大きな需要があり乍ら、今日迄かかる要請に応えられないでいるのが実情である。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は上記問題点を解消するためのステンレススチール材の製造方法を提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明者はかかる実情に鑑み、上記問題点を解決すべく鋭意研究の結果、特定の不活性化処理により不活性化皮膜層を形成させたステンレススチール材により、上記問題点が一挙に解消されることを見出し本発明を完成するに至ったものである。 【0007】 即ち、本発明は、ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品と研磨材(但し、酸化クロムを除く)との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面をラッピング研磨するごとにより、ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法を内容とするものである。 【0008】 本発明者はステンレス上に金めっきを施したものが耐蝕性を有しないのは不動態化皮膜を取り去る活性化処理にあり、一方、ステンレス上に金めっきを施すには不動態化皮膜を除去しなければならないという二律背反の困難な問題を、特定の不活性化処理により不動態化皮膜を形成させたステンレススチール材を用い、更に塩酸酸性金めっき液を用いれば該不動態化皮膜の上に金めっきを施すことが可能であることを見出したものである。 【0009】 本発明に用いられるステンレススチール材としてはオーステナイト鋼の如き高級ステンレススチールが好適で具体的にはSUS304、316、316L等が挙げられ、これらを用いることにより均一な不活性化皮膜層(不動態化皮膜層)を形成させることができる。 尚、本発明における不活性化皮膜とは所謂不動態化皮膜と同様のもので、不活性化の高い酸化皮膜を主体とするものである。 【0010】 上記ステンレススチール材の表面を、酸化性化学薬品と研磨材との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、ラッピング研磨することにより、不活性化処理を行う。酸化性化学薬品としては、硝酸、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウム等が好ましく、また研磨材としてはフェライト(弁柄、Fe3O4)、アルミナ(Al2O3)等が好ましい。酸化クロムは含まれない。また研磨材の粒径は1μm以下が好ましい。 不活性化処理は例えば硝酸の15%液にフェライト(四三酸化鉄Fe3O4)を約40g/L混合して撹拌後、得られた混合液を繊維製マット状物に含浸させ、適当な圧力を掛けてラッピングする。好ましい一例を示せば、上記混合液を純毛を含んだ耐酸合成繊維製フェルトマットに含浸させ、約1kg/cm2の圧力を掛けて毎分200〜400回転させラッピングする。該処理により、フェライト微粒粉末の研磨によりステンレススチール材の表面に新な不活性化皮膜層が生成する。この際に、摩擦熱により温度が約100℃迄上昇して、前記不活性化皮膜層の生成を加速させるとともに、更に酸化性化学薬品の酸化作用が相乗的に働き、耐摩耗性に富む酸化クロム層を多く含有する不活性化皮膜層が形成される。硝酸の濃度、フェライトの濃度、ロールのラッピング圧力、回転数等は用いたステンレススチールの種類、不活性化皮膜の所望の形成度等により適宜決定すれば良い。上記の如く、化学的作用と物理的作用とにより形成される不活性化皮膜は、通常の不活性化皮膜が鉄、ニッケル、クロム等の酸化物からなっているのに対し、酸化クロムが主体であり、そのため極めて耐蝕性、耐摩耗性、密着性に優れるとともに、鏡面光沢を有し、優れた外観を有し、そのままで、又は金めっきを施す等により使用される。 【0011】 本発明のステンレススチール材に金めっきを施すには、水洗、電解洗浄を経て、上記の如く形成させた不活性化皮膜層の上に直接金めっきを施すか、又は金ストライクめっきを施した後、金めっきを施す。めっき液としては、塩酸酸性の金めっき液を用いる。 【0012】 金ストライクめっきを施した場合は、次いで、水洗、中和(クエン酸10%溶液)、水洗の後、上記ストライクめっき層の上に厚付け金めっきを施す。例えばJISで表示される24Kめっき(金98%以上)を厚付けする。コバルト又はニッケルを2〜3%迄含有するコバルト-金、ニッケル-金等の合金を用いると、金めっき層の硬度が3倍以上向上し、好適である。金めっき層の厚さは3〜20μm程度が好ましい。 【0013】 本発明において、ステンレススチール材の表面にエッチング施し、金めっきすることにより、耐蝕性に優れたエッチングを有する金めっき製品を得ることができる。 【0014】 【実施例】 以下、本発明を実施例及び参考例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 実施例1 硝酸(67%純度、市販品)の15%水溶液に四三酸化鉄(Fe3O4)を40g/L混合して十分に撹拌後、混合液を純毛を含んだ耐酸合成繊維製フェルトからなるロール状物に含浸させ、該ロール状物でステンレススチールSUS304製の板(120cm×300cm)の表面を約1kg/cm2の圧力下で毎分300回転させ不活性化処理を行い、ステンレススチール板の表面に不活性化皮膜層を形成させた。 【0015】 参考例1 上記不活性化処理し不活性化皮膜層を形成したステンレススチール板を水洗し、市販のアルカリ電解洗浄剤を用い、陽極電解により温度40℃、約1〜2分電解洗浄した後、水洗して、金ストライクめっきを施した。めっき液としては塩酸浴と塩化第2金カリ溶液を用い、具体的には日本エレクトロプレイティング・エンジニアース株式会社製「オーロボンドTCL」を用い、めっき条件は下記の同社標準仕様条件に依った。 金属金:2.0g/L 温 度:40℃ 電流密度:2.0A/dm2 時 間:60秒 【0016】 次に、水洗、中和(クエン酸10%溶液に浸漬)、水洗を経た後、厚付け金めっき(3μm)を施した。めっき液としては、有機酸による酸性金めっき液、具体的には日本エレクトロプレイティング・エンジニアース株式会社製「オートロネクスCS」を用い、めっき条件は下記の同社標準仕様条件に依った。めっき条件は下記の通りとした。 めっき条件: 電流密度:0.5A/dm2 温 度:40℃ pH :3.8 時 間:70分 厚付け金めっき終了後、めっき液を回収した後、水洗、中和(アルカリ5%溶液)、水洗を経た後、純湯洗浄を行い、シミ等を無くした後、100℃で3分熱風乾燥して金めっきステンレススチール板を得た。 【0017】 上記の如くして得られた金めっきステンレススチール板の特性を知るために、上記と同一条件で金めっきステンレス試験片(JIS規格寸法)を得、これを用いて、耐洗浄性(耐摩耗性)、耐薬品性、耐沸騰水性、密着性をそれぞれテストした。得られた結果を表1に示す。 【0018】 【表1】 【0019】 註: *:豚毛ブラシの場合は30000回で直径約0.1〜0.5mmのピンホール様の剥れが13個、スポンジの場合は12個認められた。 **:試験片に「カビキラー(登録商標)」(ジョンソン株式会社製)を0.5mL滴下し、時計皿で液面を覆い20℃で1時間静置した。次に、時計皿を取り除き、試験片の表面を水で洗い流した後、室内に1時間放置後、外観判定を行った。 【0020】 参考例2 参考例1において、金めっき層の厚さを0.1μmとした他は参考例1と同一条件で金めっきステンレス片(JIS規格寸法)を用いて各種のテストを行った。 同時に比較のために、ヘアーライン材(H.L.材)及びブライトアニール材(B.A.材)の上に0.1μm厚さの金めっきを施したものについても同様のテストを実施した。 得られた結果を表2及び表3に示すが、同表から本発明による不活性化処理品はキャス試験及び色差において、顕著な効果を有していることが理解される。 【0021】 【表2】 【0022】 【表3】 * :( )内記号は、財団法人 日本塗料検査協会 発行「塗膜の評価基準」1970年度版による さび の評価点数を示す。 **:測定方法 JIS Z 8722 測定条件 O-dSa5W5XYZ表色系 標準の光C 【0023】 【発明の効果】 本発明の特徴は、従来ステンレスに金めっきを施すには活性化処理を施し、不活性化皮膜(不動態化皮膜)を除去する必要があり、一方、活性化処理を施せばステンレスが腐蝕し、実用に耐えないという二律背反の課題を、不活性化処理を施して不活性化皮膜層を積極的に形成させ、これを金めっき用に供することに成功した点にある。本発明のステンレススチール材は塩酸酸性金めっき液を用いることにより、この不活性化皮膜上に従前不可能視されていた金めっきを施すことができる。 【0024】 本発明のステンレススチール材の不活性化皮膜上に金めっきが可能な理由としては、以下の如く考えられる。即ち、本発明のステンレススチール材をめっき液に浸漬すると直ちに不活性化皮膜層表面の溶解が始まるが、この溶解と同時に電着が開始される。不活性化皮膜層は金めっきが施される程度には溶解するが瞬時に金めっきされるため、不活性化皮膜層は殆ど溶解されずに残存しており、その不活性化皮膜層上に金めっきが施されるのである。かくして、得られた金めっき層は優れた耐蝕性、耐摩耗性を有するのである。 【0025】 本発明によれば、浴槽や鍋、釜等の大容量の容器の他、ドアー、内装材、外装材等の金めっき製品を提供でき、しかも従来の如く不活性化皮膜を除去した面に金めっきを施すのではなく、成長させた不活性化皮膜層上に金めっきが施されているため、耐蝕性、耐摩耗性、耐薬品性、耐沸騰水性等のこれらの機能上要求される過酷な条件に十分に耐える金めっき製品を提供することができる。 もっとも、本発明のステンレススチール材は、そのまま用いても不活性化皮膜層が成長形成されているので、従来のものに比べ耐蝕性、耐摩耗性に優れていることは云うまでもない。 以上の如く、本発明によれば安価且つ高性能の金めっき品を提供でき、その有用性は頗る大である。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨(特許第2742919号) 訂正事項a(特許請求の範囲の訂正) (a-1)「【請求項1】酸化性化学薬品と研磨材との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面をラッピング研磨することにより、ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法。 【請求項2】ステンレススチール材がオーステナイト鋼ステンレスである請求項1記載の製造方法。」を、 「【請求項1】ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品と研磨材(但し、酸化クロムを除く)との混合液をフェルト等の繊維製マット状物に含浸させ、該マット状物でステンレススチール材の表面をラッピング研磨することにより、ステンレススチール材の表面に不活性化皮膜層を形成させることを特徴とする、不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法。 【請求項2】ステンレススチール材がオーステナイト鋼ステンレスである請求項1記載の製造方法。」と訂正する。 訂正事項b(特許請求の範囲以外の訂正) (b-1)段落【0007】中「酸化性化学薬品と研磨材との混合液」を、「ステンレススチール材の表面に形成されている不活性化皮膜層を除去する工程を経ることなく、酸化性化学薬品と研磨材(但し、酸化クロムを除く)との混合液」と訂正する。 (b-2)段落【0010】中「アルミナ(Al2O3)等が好ましい。」を、「アルミナ(Al2O3)等が好ましい。酸化クロムは含まれない。」に訂正する。 |
審理終結日 | 2002-03-11 |
結審通知日 | 2002-03-14 |
審決日 | 2002-04-10 |
出願番号 | 特願平4-257505 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
ZA
(C23C)
P 1 112・ 832- ZA (C23C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小野 秀幸、影山 秀一 |
特許庁審判長 |
関根 恒也 |
特許庁審判官 |
中村 朝幸 池田 正人 |
登録日 | 1998-02-06 |
登録番号 | 特許第2742919号(P2742919) |
発明の名称 | 不活性化皮膜層を形成したステンレススチール材の製造方法 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 伊丹 健次 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 伊丹 健次 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 櫻林 正己 |
代理人 | 花岡 明子 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 福田 浩志 |