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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12P
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C12P
審判 全部申し立て 発明同一  C12P
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12P
管理番号 1064323
異議申立番号 異議1997-73453  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-01-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-07-24 
確定日 2002-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2576200号「生理活性タンパク質の製造法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2576200号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2576200号の発明についての出願は、昭和63年7月8日に出願(国内優先権主張 昭和63年3月9日)され、平成8年11月7日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、土井清暢、市原敏夫、松山美奈子、水谷修子、上坂陽子、および雪印乳業株式会社よりそれぞれ特許異議の申立がなされ、平成9年12月2日付けで取消の理由の通知がなされ、その指定期間内である平成10年3月31日に訂正請求がなされ、これにつき各異議申立人に審尋を行い、異議申立人 土井清暢、松山美奈子、水谷修子、および雪印乳業株式会社より回答書が提出され、平成13年6月8日付けで訂正拒絶理由の通知がなされ、その指定期間内である平成13年8月21日に特許権者より意見書が提出され、平成14年6月5日付けで再度の取消の理由の通知がなされ、平成14年6月17日に新たな訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
ア.特許請求の範囲の請求項1の「生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfrとする。)遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドをチャイニーズ・ハムスターオバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株(CHO dhfr-)細胞に形質転換して得られた浮遊攪拌培養に適した細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法。」を、「生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfrとする。)遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるチャイニーズ・ハムスターオバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株(CHO dhfr-)細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、浮遊攪拌培養を継代して行うことにより浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法。」と訂正する。
イ.明細書第4頁第11行〜第17行(特許掲載公報第2頁左欄33〜39行)の、
「即ち、本発明は生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドをCHO dhfr-細胞に形質転換して得られた浮遊攪拌培養に適した細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして、目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法である。」を、「即ち、本発明は生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるCHO dhfr-細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、浮遊攪拌培養を継代して行うことにより浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして、目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法である。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件
上記アの訂正事項に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「従来、CHO dhfr-細胞は、タンパク質の生産宿主として広く用いられているが、本細胞がその生育(増殖)に支持体を必要とする付着細胞であるため本細胞を大量に培養し、生理活性タンパク質を多量に取得することは困難であった。」と記載され(特許掲載公報2頁3欄8〜12行)、実施例1に、「付着状態で生育する形質転換細胞(4μMメソトレキセート耐性…)より浮遊化に適した細胞(CHO-SUSP)を以下の様にして分離した。4μMメソトレキセート耐性細胞を…培養した。完全に生育した後細胞を集め、全容400mlスピンナーフラスコに10%血清を含む100ml培地を張った。次に4×104個/mlになるように本細胞を培地に懸濁した後、攪拌培養を行い37℃で培養した。8日間培養した後に、最大細胞密度8.8×104個/ml、世代時間192時間以上を示した。そして更に8日間の培養を繰り返し行うことで4週間後には、最大細胞密度2.6×105個/ml、世代時間87hrsの細胞が得られた。そして次に細胞初期密度1×105個/mlで培養をくり返すことで、(10週間後には)世代時間48hrs、最大細胞密度7.8×105個/mlと良好に生育する株、すなわちCHO-SUSPが得られた。このようにして得られたCHO-SUSP株は、安定にBUF-3を培地中に8000U/ml蓄積していた。そしてCHO-SUSP株は、同様の培養を20サイクルくり返し行ったが、世代時間、最大細胞密度BUF-3蓄積量には変化はなく、安定な生育、BUF-3生産量を示した。」ことが、また、実施例2及び実施例3についても同様なことが記載されている(同公報4頁8欄8〜40行、5頁10欄43行〜6頁11欄9行、6頁12欄25〜40行)。
そうすると、上記アの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、形質転換される「CHO dhfr-細胞」が元来付着性であることを明らかとし、「浮遊攪拌培養に適した細胞」が、予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、浮遊攪拌培養を継代して行うことにより樹立された、浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞である旨限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当しない。
また、上記イの訂正は、上記アの訂正による特許請求の範囲の減縮に合わせて、該減縮訂正前の内容に対応する内容を記載している発明の詳細な説明における記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当するものであり、新規事項の追加に該当しない。
更に、上記いずれの訂正も実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、下記の「3.特許異議申立についての判断」の項で詳述するとおり、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
(1)申立の理由の概要
ア.異議申立人 土井清暢は、甲第1〜15号証を提出し、訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、また、訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は甲第1号証又は甲第1号証〜甲第13号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1〜5に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;FEBS.LETTERS,226(1),47-52(1987)
甲第2号証;「新基礎生化学実験法7 遺伝子工学」(丸善(株)発行、昭和63年1月30日)第219頁-第224頁
甲第3号証;特開昭59-42321号公報
甲第4号証;「生化学辞典」(株)東京化学同人発行、1984年、231頁「回転振とう培養」、247頁「かくはん培養」、709頁「旋回培養」、1078頁「浮遊培養」の各項
甲第5号証;J.CELL BIOL.,87,755-763(1980)
甲第6号証;EXP.CELL RES.,104,119-125(1977)
甲第7号証;MOL.CEL.BIOL.,5,1750-1759(1985)
甲第8号証;特開昭63-32484号公報
甲第9号証;特開昭62-289600号公報
甲第10号証;MUTATION RESEARCH,67,65-80(1979)
甲第11号証;EXP.CELL RES.,130,437-442(1980)
甲第12号証;MUTATION RESEARCH,182,99-111(1987)
甲第13号証;IN VITRO,19(9),699-706(1983)
甲第14号証;EPO 93619号公報
甲第15号証;「生化学辞典(第2版)」(株)東京化学同人発行、1990年、1136頁「浮遊(細胞)培養」の項
また、同人は、特許権者の最初の訂正請求後の当審からの審尋への回答に際し、以下の文献を引用している。
文献1:EXP.CELL RES.,44,119-128(1966)
文献2:PROC.ROY.SOC.MED.,56,1062(1963)
文献3:NATURE(LOND),195,1163(1962)
文献4:「バイオテクノロジー事典」(株)シーエムシー、1986年、937頁「浮遊培養細胞」の項
文献5:ATCC CATALOGUE OF STRAINS II 4TH EDITION 1983,49-50
文献6:J.BIOCHEM.,102,123-131(1987)
文献7:MUTATION RESEARCH,74,21-36(1980)
イ.異議申立人 市原敏夫は、甲第1、2号証を提出し、訂正前の本件請求項1、2、5に係る発明は甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は甲第1号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、訂正前の本件請求項1、2に係る発明は本件出願の優先日前に出願されその出願後公開された特願昭62-29121号の出願時の明細書(甲第2号証)に記載された発明と同一であり、発明者も出願人も異なるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1〜5に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;FEBS.LETTERS,226(1),47-52(1987)(土井清暢の引用する甲第1号証)
甲第2号証;特開昭63-196268号公報
ウ.異議申立人 松山美奈子は、甲第1〜7号証を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は甲第1号証〜甲第3号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の本件請求項2に係る発明は甲第1号証〜甲第6号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、本件明細書の記載には不備があるから、請求項1、2に係る特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるため、請求項1、2に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;特開昭59-173096号公報
甲第2号証;「生化学辞典」(株)東京化学同人発行、第1版、第4刷、p.1078の「浮遊培養」の項、1985年(土井清暢の引用する甲第4号証と同内容)
甲第3号証;MUTATION RESEARCH,182,99-111(1987)(土井清暢の引用する甲第12号証)
甲第4号証;特開昭62-234097号公報
甲第5号証;特開昭59-140882号公報
甲第6号証;特開昭63-42688号公報
甲第7号証;PROC.NATL.ACAD.SCI.USA,Vol.77,p.4216-4220(1980)
また、同人は、特許権者の最初の訂正請求後の当審からの審尋への回答に際し、以下の文献を引用している。
文献1:「組織培養」朝倉書店発行、68-79頁(1984年)(雪印の引用する甲第2号証)
文献2:「バイオテクノロジー事典」(株)シーエムシー、1986年、937頁「浮遊培養細胞」の項(土井の回答書文献4)
文献3:「バイオテクノロジー事典」(株)シーエムシー、1986年、467-468頁「細胞周期」の項
文献4:「バイオテクノロジー事典」(株)シーエムシー、1986年、844-845頁「培養細胞株」の項
エ.異議申立人 水谷修子は、甲第1〜5号証を提出し、訂正前の本件請求項1、2、5に係る発明は甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるか、または甲第1号証〜甲第3号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、訂正前の本件請求項3に係る発明は甲第1号証及び甲第4号証刊行物に記載された発明に基づいて、訂正前の本件請求項4に係る発明は甲第1号証及び甲第5号証刊行物に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1〜5に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;FEBS.LETTERS,226(1),47-52(1987)(土井清暢の引用する甲第1号証)
甲第2号証;IN VITRO,23(1),3 pt2,37A(1987)
甲第3号証;Abstr.Pap.Am.Chem.Soc.;(1987)194 Meet.,MBDT169
甲第4号証;特開昭62-234097号公報(松山美奈子の引用する甲第4号証)
甲第5号証;特開昭63-42688号公報(松山美奈子の引用する甲第6号証)
また、同人は、特許権者の最初の訂正請求後の当審からの審尋への回答に際し、以下の文献を引用している。
文献1:NATURE,22,1163-1164(1962)
文献2:EXP.CELL RES.,44,119-128(1966)(土井清暢の回答書文献1)
文献3:NUCLEIC ACIDS RESEARCH 11:687-706(1983)
文献4:米国特許公報第3850748号(1974)
文献5:JOURNAL OF CELLULAR PHYSIOLOGY 153:575-582(1992)
文献6:蛋白質核酸酵素 33:287-288(1988)
文献7:IN VITRO,23(1),3 pt2,37A(1987)(同人の引用する甲第2号証)
文献8:Abstr.Pap.Am.Chem.Soc.;(1987)194 Meet.,MBDT169(同人の引用する甲第3号証)
オ.異議申立人 上坂陽子は、甲第1〜5号証を提出し、訂正前の本件請求項1、2に係る発明は甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、また、甲第2号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、訂正前の本件請求項3〜5に係る発明は甲第1号証及び甲第2号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1〜5に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;FEBS.LETTERS,226(1),47-52(1987)(土井清暢の引用する甲第1号証)
甲第2号証;特開昭63-32484号公報(土井清暢の引用する甲第8号証)
甲第3号証;EPO 93619号公報(土井清暢の引用する甲第14号証)
甲第4号証;「生化学辞典」(株)東京化学同人発行、第1版、第3刷、1985年、1078頁「浮遊培養」の項(土井清暢の引用する甲第4号証と同内容)
甲第5号証;特開昭59-42321号公報(土井清暢の引用する甲第3号証)
カ.異議申立人 雪印乳業株式会社は、甲第1、2号証を提出し、訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は甲第1号証及び甲第2号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1〜5に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;FEBS.LETTERS,226(1),47-52(1987)(土井清暢の引用する甲第1号証)
甲第2号証;「組織培養」朝倉書店発行、68-79頁(1984年)
また、同人は、特許権者の最初の訂正請求後の当審からの審尋への回答に際し、以下の文献を引用している。
文献1:「生化学辞典」(株)東京化学同人発行、1984年、695頁「世代時間」、723頁「増殖能」の各項
文献2:「バイオテクノロジーシリーズ 細胞培養技術」講談社、1985年、p.16〜17,86〜89,110〜111
文献3:ATCC CATALOGUE OF STRAINS II 4TH EDITION 1983,49-50(土井の回答書文献5)
文献4:PROC.NATL.ACAD.SCI.USA,Vol.77,p.4216-4220(1980)(松山の引用する甲第7号証)
(2)本件発明
訂正後の本件請求項1〜5に係る発明(以下、本件発明1〜5という。)は、平成14年6月17日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された、以下のとおりのものである。
【請求項1】生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfrとする。)遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるチャイニーズ・ハムスターオバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株(CHO dhfr-)細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、浮遊攪拌培養を継代して行うことにより浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法。
【請求項2】生理活性タンパク質がヒト分化誘導因子BUF-3(以下BUF-3とする)、ヒトインターロイキン2(以下IL-2とする)、及びヒトB細胞分化因子(以下BSF-2とする)のいずれかである請求項(1)記載の製造法。
【請求項3】プラスミドがpSD(x)/BUF-3△SV40初期プロモーター-BUF-3をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-ジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfrとする)遺伝子-SV40スプライシングシグナルである請求項(1)記載の製造法。
【請求項4】プラスミドがpSD(x)/BSF-2△SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-BSF-2をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナルである請求項(1)記載の製造法。
【請求項5】プラスミドがpSD(x)/IL-2△SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-IL-2をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナルである請求項(1)記載の製造法。
(3)甲各号証に記載された発明
異議申立人がそれぞれ提出した甲号証、審尋に対する回答書で引用した文献、及びその記載内容を整理すると、以下のとおりである。
刊行物1:FEBS.LETTERS,226(1),47-52(1987)(土井、市原、水谷、上坂、雪印の甲第1号証)
CHO dhfr-細胞を、ヒトインターロイキン2遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドで形質転換し、浮遊培養してヒトインターロイキン2を生産することが記載されている(47頁の要約部分及び48頁のマテリアルズ アンド メソッズの項)。
刊行物2:「新基礎生化学実験法7 遺伝子工学」(丸善(株)発行、昭和63年1月30日)第219頁-第224頁(土井の甲第2号証)
dhfr欠損CHO細胞に目的タンパク質の遺伝子及びdhfr遺伝子を含むベクターをトランスフェクトしてタンパク質を生産する方法が一般的な方法であることが示されている(219〜224頁)。
刊行物3:特開昭59-42321号公報(土井の甲第3号証、上坂の甲第5号証)
発現ベクターpETPFRでDHFR欠損CHO細胞をトランスフェクトしてヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)を生産することが記載されている(30頁左下欄〜32頁左上欄)。
刊行物4:「生化学辞典」(株)東京化学同人発行、1984年、231頁「回転振とう培養」、247頁「かくはん培養」、709頁「旋回培養」、1078頁「浮遊培養」の各項(土井の甲第4号証、松山の甲第2号証、上坂の甲第4号証)
浮遊培養についての説明があり、2種類の浮遊培養系の一つとして、CHO細胞等の元来単層培養している細胞集団の中から浮遊上で増殖しやすいクローンを選択して、これを浮遊培養に移す方法が挙げられており、また、浮遊培養法として、攪拌培養、回転振とう培養、旋回培養等があること、及び一般に浮遊培養法は細胞の大量培養や培養液中の代謝産物の抽出に利用されることも記載されている(1078頁左欄)。
刊行物5:J.CELL BIOL.,87,755-763(1980)(土井の甲第5号証)
CHO細胞をエチルメタンスルホン酸(EMS)で処理後、浮遊培養し浮遊細胞を集めることを繰り返すことにより接着性の低いCHO細胞を得る方法が記載されている(756頁左欄下28〜13行目)。
刊行物6:EXP.CELL RES.,104,119-125(1977)(土井の甲第6号証)
CHO細胞をコラーゲン処理したプレートで培養し、浮遊細胞を集めることを繰り返すことによりコラーゲンに接着性の低いCHO細胞を得る方法が記載されている(121頁左欄)。
刊行物7:MOL.CEL.BIOL.,5,1750-1759(1985)(土井の甲第7号証)
CHO細胞におけるヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)配列及びマウスジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)配列の同時増幅及び同時発現に関する論文であり、t-PAcDNA遺伝子及びDHFRcDNA遺伝子を同時にトランスフェクションしたCHO DHFR欠損細胞が、メトトレキセート(MTX)濃度の増加により、細胞形態学的に明らかに変化し、接着性が低くなることが記載されている(1750頁の要約部分及び1756頁左欄14〜18行目)。
刊行物8:特開昭63-32484号公報(土井の甲第8号証、上坂の甲第2号証)
発現ベクターpETPFRをトランスフェクションしたCHO細胞を懸濁培養してヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)を生産することが記載されている(7頁左下欄及び右下欄)。
刊行物9:特開昭62-289600号公報(土井の甲第9号証)
ヒトインターフェロン-γ遺伝子の上流にSV40初期プロモーターを連結し、マーカー遺伝子としてEcogptを有する発現ベクターpSVeSmalγでCHO・K1細胞をトランスフェクトして得られるCHO-20株を浮遊攪拌培養してヒトインターフェロン-γを生産することが記載されている(3頁実施例1及び2)。
刊行物10:MUTATION RESEARCH,67,65-80(1979)(土井の甲第10号証)
CHO-S細胞を浮遊培養することが記載されている(68頁4〜18行目)。
刊行物11:EXP.CELL RES.,130,437-442(1980)(土井の甲第11号証)
浮遊培養CHO細胞とマイクロキャリアー上培養CHO細胞を比較した論文であり、ここで用いたCHO細胞は単層培養と浮遊培養のいずれにおいても生育することが記載されている(438頁)。
刊行物12:MUTATION RESEARCH,182,99-111(1987)(土井の甲第12号証、松山の甲第3号証)
トリプシン処理したCHO細胞を旋回インキュベーター内で浮遊培養することが記載されている(100頁右欄15〜40行目)。
刊行物13:IN VITRO,19(9),699-706(1983)(土井の甲第13号証)
CHO細胞を浮遊培養することが記載されている(700頁左欄下15〜3行目)。
刊行物14:EPO 93619号公報(土井の甲第14号証、上坂の甲第3号証)
発現ベクターpETPFRが野生型DHFR遺伝子及びt-PA遺伝子を有することが示されている(47頁30〜32行及びFIg.11)。
刊行物15:「生化学辞典(第2版)」(株)東京化学同人発行、1990年、1136頁「浮遊(細胞)培養」の項(土井の甲第15号証)
浮遊培養と懸濁培養が同義語であることが示されている。
刊行物16:特開昭59-173096号公報(松山の甲第1号証)
dhfr遺伝子及びB型肝炎表面抗原(HBsAg)遺伝子を有する発現ベクターが記載され(実施例3及び第3図)、宿主としてDHFR活性を欠損しているCHO細胞を使用することが記載され(実施例4)、形質転換された細胞を増殖させ、所望のタンパク質を取得することが記載されている(実施例5〜7)。
刊行物17:特開昭62-234097号公報(松山の甲第4号証、水谷の甲第4号証)
ヒト分化誘導因子BUF-3がそのアミノ酸配列とともに記載されている。
刊行物18:特開昭59-140882号公報(松山の甲第5号証)
ヒトインターロイキン2活性を持つポリペプチドをコードする遺伝子ならびに該遺伝子を用いて組み換え法によってヒトインターロイキン2を製造する方法が記載されている。
刊行物19:特開昭63-42688号公報(松山の甲第6号証、水谷の甲第5号証)
ヒトB細胞分化因子活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子ならびに該遺伝子を用いて組み換え法によってヒトB細胞分化因子を製造する方法が記載されている。
刊行物20:甲第7号証;PROC.NATL.ACAD.SCI.USA,Vol.77,p.4216-4220(1980)(松山の甲第7号証、雪印の回答書文献4)
ジヒドロ葉酸還元酵素活性を欠損したCHO細胞が記載されており、当該細胞の生育のために培地中に血清を添加することが記載されている(4216頁右カラム10〜16行)。
刊行物21:IN VITRO,23(1),3 pt2,37A(1987)(水谷の甲第2号証、回答書の文献7)
CHOのジヒドロ葉酸還元酵素欠損株を浮遊攪拌培養したことが記載されている。
刊行物22:Abstr.Pap.Am.Chem.Soc.;(1987)194 Meet.,MBDT169(水谷の甲第3号証、回答書の文献8)
t-PA発現をCHO細胞の浮遊攪拌培養で行っていることが記載されている。
刊行物23:「組織培養」朝倉書店発行、68-79頁(1984年)(雪印の甲第2号証、松山の回答書文献1)
細胞を浮遊培養する方法が記載され、CHO細胞などの諸細胞を浮遊培養する方法や、同法によりそれらの細胞が単層培養と同様の増殖能を示すことが実証済みであることが記載され(69頁下13〜7行目)、細胞を培養液に浮遊させた状態で増殖できれば、限られた容量の培養液を用いて、より多数の細胞を培養増殖できること、浮遊培養法の実施は、特別な撹拌装置や培養液を必要とするが、それほど困難なものではなく手法も煩雑ではないこと、多くの動物細胞において、浮遊培養が実施され、従来より多大の効果が上げられていること等が記載され(68頁下8行目〜69頁下7行目)、細胞が浮遊細胞に適していないものである場合には、当該細胞の中から浮遊培養に適した細胞のみを選択し、浮遊培養を繰り返せば、最終的に浮遊培養に適応した細胞だけが残り、その目的を達成することができることが記載され(69頁下6行目〜70頁14行目)、浮遊培養法として、浮遊攪拌培養法の説明が記載されている(73頁下5行目〜75頁10行目)。
刊行物24:EXP.CELL RES.,44,119-128(1966)(土井の回答書文献1、水谷の回答書文献2)
シリアン(ゴールデン)ハムスター腎臓由来の繊維芽細胞株であるBHK21クローン13細胞の浮遊培養について記載され、ハムスター腎臓細胞を浮遊性に適応させ、該細胞を継代培養した際の、細胞増殖速度の増加現象を詳細に解析した結果から、浮遊性に適合した細胞を7回程度継代培養することにより、59時間だった世代時間が33時間まで減少することが示され、細胞の増殖が活発になる一因は細胞を浮遊性に適応させ継代培養したことによる細胞の世代時間の短縮によるものであることが示されている(122頁の表I)。このことから、一般的にクローニング(株を構築)後の細胞はダメージがあり、世代時間は細胞本来のものよりも長くなること、その際、継代培養を繰り返し細胞を環境に馴染ませる(馴化する)こと、すなわち世代時間を細胞本来のものに戻す(世代時間を短くする)ことが示唆される。また、126頁下5行〜128頁18行に、浮遊培養適応の過程で細胞には機能及び形態、特に染色体数に大きな変化が起こることが示されている。
刊行物25:PROC.ROY.SOC.MED.,56,1062(1963)(土井の回答書文献2)
ハムスター腎臓細胞を浮遊性に適応させ、該細胞を継代培養させることについて記載されている。
刊行物26:NATURE(LOND),195,1163(1962)(土井の回答書文献3)
ハムスター腎臓細胞を浮遊性に適応させ、該細胞を継代培養させることについて記載されている。
刊行物27:「バイオテクノロジー事典」(株)シーエムシー、1986年、937頁「浮遊細胞培養」の項(土井の回答書文献4、松山の回答書文献2)
BHK細胞がCHO細胞と同様に浮遊培養が可能であることが記載されている。また、浮遊培養によって大量生産が可能であり、実際に大容量のタンクでCHO細胞を浮遊培養してインターフェロン、プラスミノーゲンアクチベーターなどの生理活性物質を生産していることが記載されている。
刊行物28:ATCC CATALOGUE OF STRAINS II 4TH EDITION 1983,49-50(土井の回答書文献5、雪印の回答書文献3)
CHO dhfr-株のもととなり、それを用いて形質転換を行いdhfr遺伝子欠損株が構築されるところのCHO-K1株について、37℃の条件下で7日間で15〜20倍の増殖を示すことが記載されている。
刊行物29:J.BIOCHEM.,102,123-131(1987)(土井の回答書文献6)
CHO細胞に遺伝子を導入した、IL-2産生細胞がほぼ48時間以内の世代時間を維持していることが示されている(127頁のFig.2)。
刊行物30:MUTATION RESEARCH,74,21-36(1980)(土井の回答書文献7)
CHO細胞を浮遊化したSC1細胞のクローン細胞が、α-MEMの基礎培地に10%のFCS等を添加した培地において、世代時間12時間を達成したことが記載されている。
刊行物31:「バイオテクノロジー事典」(株)シーエムシー、1986年、467-468頁「細胞周期」の項(松山の回答書文献3)
細胞の倍加時間が世代時間と同義語であることが記載されている。
刊行物32:「バイオテクノロジー事典」(株)シーエムシー、1986年、844-845頁「培養細胞株」の項(松山の回答書文献4)
培養細胞株の対数増殖期での倍加時間が通常15-30時間であることが記載され、またよく用いられる培養細胞株としてCHO細胞が挙げられている。
刊行物33:NATURE,22,1163-1164(1962)(水谷の回答書文献1)
ハムスター腎臓細胞を浮遊性に適応させ、該細胞を継代培養した細胞を用いることにより、ワクチン生産に関連した病原ウイルス抗原の大量生産が可能となったこと、具体的には、浮遊性に適応させ継代培養することによって、初代培養時には3×105cells/mlであった細胞が継代後には1.5×106cells/mlまで増えるようになったことが記載されている。また、1164頁左欄5行〜右欄4行には、浮遊適応細胞はウイルス感染性が変化したことが記載されている。
刊行物34:NUCLEIC ACIDS RESEARCH 11:687-706(1983)(水谷の回答書文献3)
CHO dhfr-細胞をインターフェロン遺伝子及びdhfr遺伝子を含むプラスミドで形質転換し、単層培養または浮遊培養してインターフェロンを生産させたことが記載されており、ディスカッションの項に、当該形質転換細胞が浮遊状態で成長することができ、遺伝子組み換えによる生産物を繰り返し回収することができるであろうことが示されている(702頁23〜26行)。
刊行物35:米国特許公報第3850748号(1974)(水谷の回答書文献4)
世代時間の短くなった細胞の有用性(例えば、ウイルスワクチンの大量生産のための宿主細胞として使用)が記載され(第2カラム56-59行)、更に浮遊細胞の培養プロセスの重要性についても指摘されている(第2カラム、59-61行)。
刊行物36:JOURNAL OF CELLULAR PHYSIOLOGY 153:575-582(1992)(水谷の回答書文献5)
形質転換CHO細胞(接着性)の世代時間が26時間であることが記載されている(579頁右カラム5-8行)。
刊行物37:蛋白質核酸酵素 33:287-288(1988)(水谷の回答書文献6)
形質転換されていないCHO細胞(接着性)の世代時間が12時間であることが記載されている(287頁左列17行)。
刊行物38:「生化学辞典」(株)東京化学同人発行、1984年、695頁「世代時間」、723頁「増殖能」の各項(雪印の回答書文献1)
「世代時間」という用語は平均世代時間のことであり、1個の細胞が2個になるまでの時間であること、及び「増殖能」とは細胞が細胞分裂を伴って細胞数の増加を行える能力のことであることが記載されている。
刊行物39:「バイオテクノロジーシリーズ 細胞培養技術」講談社、1985年、p.16〜17,86〜89,110〜111(雪印の回答書文献2)
「がん由来細胞や動物株化細胞のような増殖能旺盛な細胞では、FBS含有培地であればいずれの培地でも増殖可能であるが、長期継代培養中に細胞が培養液に馴化するか、その培地に適した細胞の比率が増大し、元の細胞株と性質の異なる細胞集団となることも知られているので、意図的に用いる以外は、なるべく原著に従った培養液を用いるのが望ましい。」と記載され(87頁下2行〜88頁3行)、「株化された細胞を目的に応じて改良していくことは、株化と同様重要な育種上の課題である。改良の内容はたとえば、目的物質を高濃度に産生させたり、無血清培地で培養可能な細胞に改変したり、あるいは高濃度増殖が容易になるように改変することも重要であろうし、その他にも種々の改変が考えられる。改変の方法としては、自然に段階的に馴化させる方法と、…」と記載されている(17頁13〜20行)。
先願の出願当初明細書:特開昭63-196268号公報(市原の甲第2号証)
特許請求の範囲第9項に「有用蛋白質をコードする遺伝子が導入された継代増殖可能な形質転換細胞を無血清培地で培養し有用蛋白質を生産する方法」が記載され、「本発明により得られた無血清培養可能な有用蛋白質生産細胞は、実施例に示すごとく大量培養も可能であり、またCHO細胞等のように通常血清培地では付着して生育する細胞が、白血球由来細胞と同様に浮遊状態で生育するため、大量培養では浮遊培養可能な細胞が得られることが判明した。また、本発明により、無血清培養可能な有用蛋白質生産細胞が確実に取得でき、実施例に示すごとく、培養上清中の有用蛋白質は高純度で得られ、産業上、コスト、精製面でより有利な方法を提供するものである。」と記載され(4頁右上欄5〜15行)、有用蛋白質の例として4頁左下欄2〜7行に、インターフェロン-γ等が記載され、形質転換細胞の具体例として、4頁右上欄7行にCHO細胞が記載され、更に具体的には、無血清培地に馴養したCHO-K1細胞にEcogpt遺伝子、dhfr遺伝子、インターフェロン-γ遺伝子をもつベクタープラスミドをトランスフェクションし、無血清培養可能なインターフェロン1500u/ml産生する形質転換体を取得したこと(4頁左下欄9行〜右下欄11行(実施例1))、当該形質転換体をメソトレキセートを含む無血清培地で継代培養して、無血清培養可能なインターフェロン30万u/ml以上の生産株CHO-590株を得たこと(4頁右下欄19行〜5頁左上欄13行(実施例2))が記載され、当該CHO-590株について、「CHO-590株は浮遊培養可能であり、温度37℃、pH7.0で培地灌流培養を行った。培地灌流速度は細胞密度向上に伴い増加させた」と記載されている(5頁右上欄9〜20行(実施例4))。
(4)明細書の記載不備について
異議申立人 松山美奈子は、目的の生理活性タンパク質を大量に産生することを目的とした本件発明に係る細胞の培養においては、その培地中に血清が添加されていなくてはならず、もし添加されていない場合には、本件発明に係る培養を行っても細胞は生育(増殖)しないところ、本件発明において、培地中に血清を含むことは必須要件とされておらず、本件発明の製法において目的タンパク質を大量に得ることはできないから、本件発明1、2に係る特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであると主張している。
しかしながら、異議申立人の指摘するとおり、本件出願時にはCHO dhfr-細胞の培養は血清が添加された培地で行うのが通常であったものと認められ、また、本件発明1、2は、元来付着性であるCHO dhfr-細胞を培地中に懸濁させ、浮遊攪拌培養を継代して行うことにより浮遊攪拌培養に適した細胞を樹立した点に特徴があり、その際に用いる培地が無血清培地などのように本件出願時にCHO dhfr-細胞の培養に通常用いるものではない特殊な培地であるのであればともかく、上記CHO dhfr-細胞の培養に通常用いる培地である血清培地を用いることで本件発明の目的を達成することができるのであるから、培地として血清培地を用いることを請求項1、2にあえて記載しなかったことをもって、本件発明1、2の構成が明瞭でないということはできない。
従って、本件発明1、2に係る特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたとの異議申立人の主張は採用できない。
(5)甲号証との対比・判断
ア.新規性進歩性について
本件発明1は、生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるCHO dhfr-細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、攪拌培養を継代して行うことにより、浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、当該タンパク質を収得するものである。
これに対して、異議申立人が引用する刊行物1には、CHO dhfr-細胞を、ヒトインターロイキン2遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドで形質転換し、浮遊培養してヒトインターロイキン2を生産することが記載されているものの、当該形質転換細胞を浮遊培養に馴化させ、浮遊培養に適した形質転換細胞を樹立したことは記載されていない。
また、異議申立人が当審からの審尋に対する回答に際し提出した刊行物34にも、CHO dhfr-細胞を、目的タンパク質遺伝子及びdhfr遺伝子を含むプラスミドで形質転換し、浮遊培養して目的タンパク質を生産させたことが記載されているが、当該刊行物にも、当該形質転換細胞を浮遊培養に馴化させ、浮遊培養に適した形質転換細胞を樹立したことは記載されていない。
更に、各異議申立人の引用する、本件優先日前に頒布されたその他のいずれの甲号証刊行物にも、元来付着性の細胞を予め形質転換し、これを浮遊攪拌培養に馴化させる工程を経たのち、得られた馴化細胞を浮遊攪拌培養して組み換え産物を産生させることは記載されていない。すなわち、刊行物2、3、16には、CHO dhfr-細胞を目的タンパク質遺伝子及びdhfr遺伝子を含むプラスミドで形質転換し、目的タンパク質を生産することが記載されているものの、当該形質転換細胞を浮遊培養することは記載されていない。また、刊行物8、9、22、27には、CHO細胞を目的タンパク質遺伝子を含むプラスミドで形質転換し、浮遊培養して目的タンパク質を生産することが記載されているものの、CHO細胞を形質転換したのち、浮遊培養に馴化させる工程を経て樹立した細胞を用いることまでは記載されていない。更に、刊行物5、6には、CHO細胞を処理して浮遊細胞を集めることを繰り返すことにより、接着性の低いCHO細胞を得ることが、また、刊行物4、10〜13、21、30、32には、CHO細胞を浮遊培養することが記載され、刊行物7には、目的タンパク質遺伝子及びdhfr遺伝子を含むプラスミドで形質転換したCHO dhfr-細胞をメトトリキセートで処理して、目的タンパク質遺伝子及びdhfr遺伝子の同時増幅を行う際に、メトトリキセートの濃度増加により、細胞の接着性が低くなることが記載されているが、形質転換したCHO細胞ないしCHO dhfr-細胞から浮遊培養に適した形質転換細胞を樹立することについては記載するところがない。その他の刊行物には、CHO細胞ないしCHO dhfr-細胞と浮遊培養とに関連する記載はない。
そして、上述のとおり、刊行物1〜3、16及び34等により、CHO dhfr-細胞を生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドで形質転換し、当該細胞に生理活性タンパク質を産生させることが本件出願の優先日前に知られ、また、刊行物23等により、付着性の細胞を浮遊攪拌培養に馴化する一般的な手法は知られてはいたが、刊行物24及び33に記載されているように、付着性の細胞を浮遊培養に馴化させると、細胞の特性が変化することがあることも知られており、このことからすれば、予め形質転換したCHO dhfr-細胞を浮遊培養に馴化させた際に、形質転換により導入された生理活性タンパク質遺伝子の発現が安定に維持された浮遊性の細胞が得られるか否かは当業者といえども予測しがたいことであったものと認められ、また、特許権者が平成13年8月21日付意見書に添付して提出した、本件出願の優先日前の1987年に頒布された刊行物である、月刊「組織培養」、ニューサイエンス社、Vol.13,No.4,19(131)〜24(136)頁に掲載された「遺伝子導入を利用した物質生産」と題する論文には、「…動物細胞での効率のよい発現ベクターもいくつか開発され、すでに、TPA…などの、組み換え動物細胞を用いた生産が、報告されている。現在、高い生産性を持つ安定した系として良く利用されているものに、C127細胞/BPVベクター系とdhfr-CHO細胞/dhfrベクター系の2つがある。」と記載され(19頁左欄28行〜右欄8行)、更に、「組み換えC127細胞およびCHO細胞は、いずれも接着依存性の細胞で浮遊化はできない。」と記載されており、当該文脈で「CHO細胞」とは「CHO dhfr-細胞」を指すものと認められるから、本件出願の優先日には形質転換CHO dhfr-細胞は浮遊化はできないと考えられていたと認められるところ、本件発明1は、形質転換細胞を、10週間の長期にわたって(実施例1)、あるいは14、15もの多数のサイクルで(実施例2、3)、継代して浮遊攪拌培養することにより、初めて、浮遊攪拌培養により安定して生育、増殖でき、かつ、生理活性タンパク質を安定して産生することができる「浮遊培養に適した形質転換細胞」を樹立し得た(例えば第3図参照)ものであり、このことは当業者が容易に想到できたものとはいえないと認められる。
よって、本件発明1は刊行物1に記載された発明とは認められず、刊行物1〜23、及び当審からの審尋に対して異議申立人から提出された刊行物24〜39に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
また、本件発明2〜5は、本件発明1の「生理活性タンパク質の製造法」において、製造される生理活性タンパク質を特定し、用いられるプラスミドを特定するものであるから、本件発明1について上述したのと同じ理由により、本件発明2、5は刊行物1に記載された発明とは認められず、また、本件発明2〜5は刊行物1〜23及び刊行物24〜39に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
従って、本件発明1、2、5は特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、あるいは、本件発明1〜5は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとの異議申立人の主張は採用できない。
イ.先願発明との同一性について
異議申立人 市原敏夫の引用する先願の出願当初明細書には、「本発明により得られた無血清培養可能な有用蛋白質生産細胞は、実施例に示すごとく大量培養も可能であり、またCHO細胞等のように通常血清培地では付着して生育する細胞が、白血球由来細胞と同様に浮遊状態で生育するため、大量培養では浮遊培養可能な細胞が得られることが判明した。」と記載され、具体的には、無血清培地に馴養したCHO-K1細胞にEcogpt遺伝子、dhfr遺伝子、インターフェロン-γ遺伝子をもつベクタープラスミドをトランスフェクションし、得られた形質転換体をメソトレキセートを含む無血清培地で継代培養して、無血清培養可能なインターフェロン30万u/ml以上の生産株CHO-590株を得たこと、及び、当該CHO-590株は浮遊培養可能であり、培地灌流培養を行うことができることが記載されているが、当該CHO-590株のもととなったCHO-K1細胞はジヒドロ葉酸還元酵素欠損株ではないから、当該明細書には、形質転換したCHO dhfr-細胞から浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を得ることは記載されているとはいえず、また、形質転換細胞を培地中に懸濁させ、攪拌培養を継代して行うことにより、浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立することについては何ら記載されていない。
よって、本件発明1、2は第3者の先願である特願昭62-29121号の出願当初の明細書に記載された発明と同一なものとは認められないから、本件発明1、2は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるとの異議申立人の主張は採用できない。
(6)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜5の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
生理活性タンパク質の製造法
(57)【特許請求の範囲】
(1)生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfrとする。)遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるチャイニーズ・ハムスターオバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株(CHO dhfr-)細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、浮遊攪拌培養を継代して行うことにより浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法。
(2)生理活性タンパク質がヒト分化誘導因子BUF-3(以下BUF-3とする)、ヒトインターロイキン2(以下IL-2とする)、及びヒトB細胞分化因子(以下BSF-2とする)のいずれかである請求項(1)記載の製造法。
(3)プラスミドがpSD(x)/BUF-3△SV40初期プロモーター-BUF-3をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-ジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfrとする)遺伝子-SV40スプライシングシグナルである請求項(1)記載の製造法。
(4)プラスミドがpSD(x)/BSF-2△SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-BSF-2をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナルである請求項(1)記載の製造法。
(5)プラスミドがpSD(I)/IL-2△SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-IL-2をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナルである請求項(1)記載の製造法。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、チャイニーズ・ハムスターオバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株(以下CHO dhfr-と略する)細胞を生産宿主として用い、これを浮遊攪拌培養することによる生理活性タンパク質を効率よく大量に生産させる方法に関する。
従来技術
従来、CHO dhfr-細胞は、タンパク質の生産宿主として広く用いられているが、本細胞がその生育(増殖)に支持体を必要とする付着細胞であるため本細胞を大量に培養し、生理活性タンパク質を多量に取得することは困難であった。マイクロビーズの上に細胞を生育させ浮遊攪拌系で物質を生産させる方法が開発されたが、マイクロビーズ上に均一に細胞が生育しない等の問題点があり実用化は行われなかった。また、ファイバー状の支持体に細胞を生育させる高密度培養装置が開発されたが、その培養液量の制限より物質の大量生産には応用されていない。
本発明が解決しようとする課題
目的遺伝子を有するプラスミド(DHFR遺伝子を含む)で形質転換したCHO dhfr-細胞を大量培養し、生理活性タンパク質を大量に生産させる場合に一番問題となっているのは生育(増殖)に増殖支持体を必要とする点である。従って本発明の課題は増殖支持体を用いずに形質転換した細胞を浮遊攪拌系で大量培養して目的とする生理活性物質を大量に生産する方法の提供である。
課題を解決する為の手段
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、生育(増殖)に支持体を必要とするCHO dhfr-細胞及び目的遺伝子を有するプラスミドで形質転換したCHO dhfr-細胞が浮遊攪拌培養下で生育できることを見い出し本発明を完成した。
即ち、本発明は生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるCHO dhfr-細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、浮遊攪拌培養を継代して行うことにより浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして、目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法である。
本発明を更に詳細に説明する。
まず、浮遊攪拌培養可能なCHO dhfr-細胞(この場合既に、生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドで本細胞を形質転換した細胞並びに、生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドにより、まだ形質転換されていない細胞のどちらを用いてもよい。)の取得方法としては、以下のように行えばよい。
支持体表面で細胞を生育させた後、核酸を含むα-MEM培地(GIBCO社、カタログNo.410-1900)(10%牛血清を含む)に出来るだけ低密度(1-4×104個/ml)になるように細胞を懸濁し、浮遊攪拌培養を行う。
尚、浮遊攪拌培養を行う時の条件は特にこだわらないが、初期細胞濃度は4×104/mlを出来るだけ越えない方が望ましい。
また、この時、培養液のpHを正確にコントロールすることが望ましいが、完全な密閉状態が維持できてさえいれば、培養初期にpHを7.0に正確に合わせておけば問題はない。
この操作を繰り返すことで浮遊攪拌培養に適した細胞が得られる。また、培地は、上述のα-MEM培地と同程度、もしくはそれ以上の濃度の核酸を含む培地ならいづれでもよい。しかし、本細胞がブロリン要求性であるためブロリンを含む培地でなくてはいけない。
当初、細胞の生育は悪く、また最大細胞密度も低いが繰り返し培養を行い生育(増殖)の良好な最大細胞密度の高い細胞がえられる。
この様にして得られた細胞は、従来から知られている浮遊培養株、例えば、ヒト急性単球白血病細胞(THP-1,Int.J.Cancer 26:171-176(1980))、ヒト急性前骨髄性白血病細胞のHL-60(ATCC CCL 240)、ヒト急性単球性白血病細胞のU-937(ATCC CRL 1593)、ヒト慢性骨髄性白血病細胞のK-562(ATCC CCL 243)、ヒト急性骨髄性白血病細胞のKG-1(ATCC CCL 246)、ヒト単球性白血病細胞のJ-111(ATCC CCL 24)と同様に扱うことができる。
得られた浮遊攪拌培養に適したCHO dhfr-細胞の培養は、好ましくは、攪拌基の付いたスピンナーフラスコで行なうことが望ましい。
やむをえない場合は、微生物用のフラスコディッシュ(組織細胞用ディッシュフラスコではなく、細胞が付着しやすいようにコーティングしていないものなら良い)で培養することも可能である。また前記以外の方法を用いてもかまわない。このように浮遊攪拌培養に適したCHO dhfr-細胞を樹立しても、目的とする生理活性タンパク質をコードする遺伝子、dhfr遺伝子を有するプラスミドを含有していない場合には以下に示すような操作を行なうことにより目的とする生理活性タンパク質を生産し得る。
つまり、予め、dhfr遺伝子及び目的生理活性タンパク質をコードする遺伝子を有するプラスミドを導入する細胞、即ち、CHO dhfr-細胞を浮遊攪拌培養に適した細胞として分離した後に、dhfr遺伝子及び目的生理活性物質をコードする遺伝子を有するプラスミドで形質転換し、次に、目的生理活性蛋白質を産生している形質転換株を分離する。
このようにして得られた形質転換株をメソトレキセート(以下MTXと略す。)を含む培地で生育させ、耐性形質転換細胞を分離する。この様な細胞は、MTX耐性になったことでdhfr遺伝子が増幅されている。従ってこの時に目的生理活性蛋白質をコードする遺伝子も一緒に増幅されているため、目的生理活性蛋白質を大量に生産している。
この目的生理活性蛋白質を大量に生産している細胞を以後用いれはよい。
くり返し述べるが、もちろんdhfr遺伝子と目的生理活性蛋白質をコードする遺伝子を有するプラスミドをまずCHO dhfr-細胞に形質転換した後に浮遊攪拌培養に適した細胞を樹立してもよい。即ち、形質転換した後に、浮遊攪拌培養に適した細胞を樹立してもよいし、また、浮遊攪拌に適した細胞を樹立してから形質転換しても良いのである。
本発明で用いるプラスミドは原則的にdhfr遺伝子及び生理活性蛋白質をコードする遺伝子を有していなけれはいけないが、好ましくは真核生物細胞内で転写可能なプロモーター及びSV40スプライシングシグナル(尚、本発明においてはSV40スプライシングシグナルとはSV40スプライシングシグナル及びポリA付加シグナルの両方からなるシグナルのことを言うものとする。)を有している方が好ましい。
プロモーターとしては普通SV40初期プロモーター(SV40 early)、ウシパピロ-マウイルス(BPVと略する)などが用いられ、このプロモーターとスプライシングシグナルの間に目的とする生理活性蛋白質をコードする遺伝子を挿入するわけである。
プラスミドとしては同一プラスミド内にて目的生理活性蛋白質をコードする遺伝子とdhfr遺伝子を有する方が好ましい。
しかし、プラスミド内にdhfr遺伝子を有していなくても別のプラスミド上にdhfr遺伝子を有している場合でもよい。
この時は、両者を一緒にして形質転換を行なわせる。また、プロモーター中に転写活性を上昇させるようなエンサンサー配列(例えばSV40 70bpくり返し、レトロウイルスロングターミナルリピート(LTR)中に存在するエンハンサー配列)を有していることも好ましい。
さて、このようなプラスミドの転写単位(プロモーター)の下流に目的生理活性蛋白質をコードする遺伝子を導入する。
上述のことを考え合すと、好ましいプラスミドの形としてはSV40初期プロモーター(SV40 early)、目的生理活性蛋白質をコードする遺伝子、SV40スプライシングシグナル(SV40 splicing & polyA)、dhfr等の遺伝子を含有するプラスミドがよい。尚、SV40スプライシングシグナルはR.C.Mulligan及びP.Bergにより報告(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol 78,2072-7076(1981)に記載されていて、しかも入手可能である。
さて、好ましいプラスミドの例を具体的に示すと、プラスミド△SV40初期プロモーター-目的生理活性蛋白質をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル又はプラスミド△SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-目的生理活性蛋白質をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナルである。
さて、本発明で言う、目的生理活性蛋白質とはヒト及びマウスインターロイキン1、ヒト及びマウスインターロイキン2、ヒト及びマウスインターロイキン3、ヒト及びマウスα-インターフェロン、ヒト及びマウスβ-インターフェロン、ヒト及びマウスγ-インターフェロン、エリスロポエチン、ヒト分化誘導因子BUF-3ヒトB細胞分化因子BSF-2等、何を用いてもよい。
これらの生理活性蛋白質の中でもヒト分化誘導因子BUF-3(BUF-3)、ヒトインターロイキン2(IL-2)、及びヒトB細胞分化因子(BSF-2)が特に好ましい。尚、以後、IL-2、BUF-3、BSF-2と記すと特にことわりがない限り、ヒトIL-2、ヒトBUF-3、ヒトBSF-2を表示するものとする。また、BSF-2はBCDFとも、IL-6とも呼はれているが、本発明においては最近、最っともよく用いられているBSF-2という名称を用いる。
本発明でいう形質転換法としてはDNAをカルシウムリン酸と共澱させるカルシウムリン酸法(Graham,F.L van der Eb.A.J:Virology.52,456(1973))、あるいはDEAE-テキストラン法(Stow,N.D. et al:J.Gen Viro1 33.447(1976)、ミクロマニピュレーターを用いて核内に遺伝子を導入する微注入法(Graesamahn,A.,et al Hethod in Enzymol,65,816(1980))、リン脂質を懸濁して得られるリポソーム中に遺伝子を入れ標的細胞と融合させるリポソーム融合法(Gregoriadis,G.et al 283,814(1980))、目的遺伝子を有する原核細胞生物をプロトプラスト化もしくは、スフエロブラスト化にし標的細胞とPEG存在下で融合させるプロトプラスト法(Schaffner,W.Proc.Nati,Acad.Sci U.S.A 77,2163(1980))などがある.
尚、培養液中に生産された目的生理活性タンパク質を精製する方法は従来より用いられている一般的な方法を用いればよい。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
実施例1
ヒト分化誘導因子BUF-3について
BUF-3は、ヒト急性単球性白血病細胞THP-1細胞が産生する蛋白性分化誘導因子である。
BUF-3は、マウス・フレンド白血病細胞に作用し、この細胞を正常赤芽球細胞へ分化誘導する分化誘導活性を有する蛋白質である。
BUF-3遺伝子は既にクローニングされていて、その塩基配列及びアミノ酸配列も決定されている(第1図参照)。BUF-3に関しては特開昭62-234097号公報にくわしく記載されている。
さて、このBUF-3をコードする遺伝子を含有する動物細胞発現ベクターpSD(x)/BUF-3を第2図に示すように構築した。プラスミドベクターPSV2dhfrとpBR322よりメソトレキセート耐性遺伝子(dhfr遺伝子)をSV40初期プロモーター(SV40 early)及びSV40スプライシングシグナル(SV40 splicing & polyA)の間に順方向に導入したプラスミドpBR322-dhfrを得た。
また、第2図のように、プラスミドpSV2-dhfrを制限酵素Hind III/Bgl IIで切断後、本断片をT4DNAポリメラーゼで処理し、平滑末端にした後、アガロースゲル電気泳動により、SV40初期プロモーター及びSV40スプライシングシグナルを含むラージフラグメントを分離した後、これにXhoIリンカーを付加した。
このフラグナントを再び制限酵素XhoIで処理した後にT4DNAリガーゼで処理し、閉環した。これをプラスミドpSV(x)と命名した。
次に前述のプラスミドpBR322-dhfrを制限酵素BamHIで処理後アガロースゲル電気泳動を行うことより、SV40プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナルのフラグナントを単離した(第2図)。
このSV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナルを含むBamHI断片をプラスミドpSV(x)のBamHI部位に導入し、プラスミドpSD(x)を構築した(第2図)。
次にクローニングしたBUF-3のDNAをT4DNAポリメラーゼで処理した後、XhoIリンカーを結合させ、そして、XhoI処理して得た断片をプラスミドpSD(x)のXhoI部位に導入した(第2図)。
このようにしてBUF-3遺伝子を有するプラスミドpSD(x)/BUF-3を構築した。
即ち、発現ベクターpSD(x)/BUF-3は、SV40初期プロモーター-BUF-3をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナルを有する。
尚、この実施例1では、pSD(x)/BUF-3プラスミドを予め、チャイニーズ・ハムスター・オバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株に形質転換し、BUF-3を産生する形質転換株を分離した後に浮遊攪拌培養に適した株を分離する方法について述べる。
プラスミドpSD(x)/BUF-3 10μgをカルシウムリン酸法でマウスCHO細胞にトランスフェクションした。導入後は10%仔牛血清を含む所定の選択培地(GIBCO社製α-MEM培地CAT410-2000,核酸類を含まない)5%CO2存在下、37℃で選択を行ない、3日毎に培地換えを行った。約2週間後に生育してくる細胞集団が得られた(IFO 50125)。次に導入されたプラスミドのコピー数を増加させてやるためにdhfrの拮抗剤であるメソトレキセート(0.1μM)含む選択培地で培養し耐性細胞を得た。そして順次メソトレキセート濃度を0.2μM,0,4μM,1μM,2μM,4μMで上昇させ種々の段階での耐性コロニーを得た。そして各メソトレキセート濃度で耐性を示す形質転換細胞が産生するBUF-3蛋白量をフレンド細胞を用いたヘモグロビン合成量で測定したところ、メソトレキセート4μM濃度に耐性であった形質転換細胞では、2000U/mlの濃度のBUF-3を3日間で蓄積していた、これは、蛋白量換算にすると1μg/mlの濃度に相当するBUF-3を生産していた。
次に、付着状態で生育する形質転換細胞(4μMメソトレキセート耐性2000U/ml/3days)より浮遊化に適した細胞(CHO-SUSP)(IFO 50146)を以下の様にして分離した。4μMメントレキセート耐性細胞を細胞培養用プラスチックフラスコF-75(Nunc社製No.156502)に30mlの10%仔牛血清を含む選択培地(4μMメソトレキセートを含む)を入れ、1×106個の細胞を添加し、5%CO2存在下、37℃で培養した。完全に生育した後細胞を集め、全容400mlスピンナーフラスコに10%血清を含む100ml培地(GIBCO社製α-MEM培地CAT410-1900、上記選択培地に核酸添加したもの。)を張った。次に4×104個/mlになるように本細胞を培地に懸濁した後、攪拌培養を行ない37℃で培養した。8日間培養した後に、最大細胞密度8.8×104個/ml、世代時間192時間以上を示した(表-1参)。そして更に8日間の培養を繰り返し行なうことで4週間後には、最大細胞密度2.6×105個/ml、世代時間87hrsの細胞が得られた(表-1参)。そして次に細胞初期密度1×105個/mlで培養を繰り返すことで、世代時間48hrs、最大細胞密度7.8×105個/mlと良好に生育する株、即ちCHO-SUSP(IFO-50146)が得られた(表-1参)。

このようにして得られたCHO-SUSP株(IFO50146)は、安定にBUF-3を培地中に8000U/ml蓄積していた。そしてCHO-SUSP株は、同様の培養を20サイクル繰り返し行ったが、世代時間、最大細胞密度BUF-3蓄積量には変化はなく、安定な生育、BUF-3生産量を示した(第3図)。
更にこのCHO-SUSP株(IFO 50146)は、pHを7.0、溶存酸素を0.05,0.015atmに正確にコントロールされた培養系では世代時間は、24hrsとなり、最大細胞密度は1.0×106個/mlにまで達した。
このようにして得られた浮遊攪拌培養に適した細胞を分離することでBUF-3の大量生産が容易となった。
尚、BUF-3の単離精製は特開昭62-230497号公報に従って行った。即ち、BUF-3を含む培養液100mlを、65%飽和の硫安で5℃,12時間塩析した。遠心分離により得られた塩析沈殿物を50mMトリス-塩酸緩衝液(pH7,8)2.5mlに溶解し、透析チューブ(スペクトロボア社製,CMW6,000-8,000)を用い、5℃で充分透析した。
次に、この透析内液にアセトニトリルを71%、かつpHが2になるようにトリフルオロ酢酸(以下TFAと略す。)を添加し、23℃で30分間、攪拌させた。次に、この懸濁液を遠心分離し、その遠心上清液を室温23℃から-5℃に冷却した状態で3時間以上静置させた。これにより、本液は二相分離をおこした。その際、BUF-3は、選択的に下層画分(アセトニトリル約45%)に濃縮・精製された。これを0.1%TFAで2倍希釈し、逆相高速液体クロマトグラフィーで精製した。逆相カラムは、ハイボアRP-304(バイオラッド社製,C4,300Å,5μm)を用いた。溶媒は、0.1%TFA及び、80%アセトニトリル-0.1%TFAの2液を用い、リニアグラジエントプログラムで溶出させた。
次に、この溶出されたBUF-3画分を、再度、逆相高速液体クロマトグラフィーを行った。カラムは、ハイボアRP-304(バイオラッド社製,C4,300Å,5μm)を用いた。
溶媒は、0.13%ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)及び80%アセトニトリル-0.13%ヘプタフルオロ酪酸の2液を用い、リニアグラジエントプログラムで溶出させた。
次に、このようにして得られたBUF-3精製品のうち1μgを用いSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(ゲル濃度15%)を行った。その結果、メルカプトエタノール非存在下では25kdに、メルカプトエタノール存在下では16kdに単一なバンド(銀染色法)が認められ、他に蛋白のバンドは検出されなかった。このようにして精製されたサンプルの比活性は約2×106U/mg蛋白であった。
更に、この精製品を逆相高速液体クロマトグラフィーに供した。この時、用いたカラムはYMC AP-803(山村化学研究所(株)製)、溶出液は0.1%TFA及び80%アセトニトリル-0.1%TFAを用いリニアグラジェント(アセトニトリル1%分)により溶出した。
これにより完全に単一なピークが得られることにより完全にBUF-3は単離精製し得た。
尚、念の為に得られたBUF-3精製サンプルをアミノ酸分析に供したところ、第1図と同じアミノ酸配列を有していることを確認した。
実施例2
ヒト・インターロイキン-2について
ヒト・インターロイキン-2(IL-2)は、T細胞の増殖を促進させる蛋白性因子である。
IL-2遺伝子は、谷口ら(Nature,302.305(1983))によって既にクローニングされている。また第4図に示すようにその塩基配列も既に決定されている(特開昭59-140882)。このIL-2 cDNAは、pCEIL-2に含まれている(第5図)。以下第5図に示すような操作を行なった。このIL-2 cDNAは両端に数十塩基の長さに及ぶGCテイルを有している。このGあるいはCという同一の塩基が並んだ場合、cDNAの発現の邪魔になると考えられた。したがってpCEIL-2より制限酵素PstI(宝酒造)処理によりIL-2 cDNAフラグメントを分離し、それにエクソヌクレアーゼであるBal 31(NEB)処理を行ない、GCテイルの除去を行なった。そして、T4 DNA polymerase(宝酒造)で両末端を平滑末端にした後、pCEIL-2よりPstI処理をしてIL-2 cDNAを除いたフラグメントも同様にT4 DNA polymeraseで平滑末端にし、両者をT4 DNA ligase(宝酒造)で結合した。そして、作製されたプラスミドを大腸菌HB101株に導入した後、得られた形質転換株より、プラスミドを調製した。得られたプラスミドの中で、GCテイルが除かれ発現効率の高まったものを選択し、このプラスミドをpCEIL-2(Bal 7)と名づけた。
pCEIL-2(Bal 7)からは制限酵素BamHI(宝酒造)処理によりIL-2 cDNAフラグメントを分離し、T4 DNA polymeraseによって平滑末端にし、さらにBamHI,Hind IIIの各リンカー(宝酒造)と共にT4 DNA ligase処理を行ない、その後、BamHI,Hind III(宝酒造)処理を行なった。このようにして得られたフラグメントを次に、pSV2-dhfr(S.Subramani,et al.:Mol.Cell.Biol.1,854(1981))のHind III,Bgl II処理して得られる大きい方の断片と結合し、大腸菌DH1株に形質転換し、その中から、第5図のpSV2-IL2を有するものを得る。すなわち、pSV2-dhfr由来のSV40初期プロモーター(SV40 early promoter)とSV40スプライシングシグナル(SV40splicing & PolyA)との間にIL-2 cDNAが挿入されたものを得る。次にこのpSV2-IL-2プラスミドをPvuII,BamHI処理して得られるIL-2 cDNAを含んだフラグメントにBamHIリンカーをつけ、BamHI処理した後に、pSV2 dhfrのBamHI切断部位に挿入し、プラスミドpSD(I)/IL-2△SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-1L-2をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナルを得た。このプラスミドpSD(I)/IL-2はIL-2 cDNAの上流にpSV2-dhfr由来のマウスdhfr cDNAを有している。
プラスミドpSDI/IL-2をCHO dhfr-細胞にカルシウム・リン酸法でトランスフェクションし、pSDI/IL-2プラスミドが導入された形質転換細胞を分離した。導入直後では、22.9U/mlのヒトIL-2を生産していた。次に本細胞をMTX 1μMを含む培地で生育させMTX耐性細胞を分離した。
1μM MTX耐性形質転換細胞は、512U/mlのヒトIL-2を生産していた。次に本細胞より浮遊攪拌培養に適した細胞の分離を行った。1μM MTX耐性形質転換細胞を支持体の上で生育させた後、細胞初期密度4×104個/mlになる様に攪拌基の付いたスピンナーフラスコ全容400mlの100ml培地(実施例1で示した核酸を有する培地)に懸濁した。そして、37℃で攪拌培養し、細胞密度が最大に達するまで培養をつづけ、この攪拌培養を8サイクル繰り返すことで最大細胞密度2.9×105個/ml、世代時間80時間となり、そして更に6サイクル繰り返すことで最大細胞密度6.8×105個/ml、世代時間30時間を有する浮遊攪拌に適した細胞が分離された。そして、このようにして得られた浮遊攪拌に適した細胞は、安定にヒトIL-2生産能力を有していた。また、実施例1で示したように、得られた浮遊攪拌に適した細胞を以後、繰り返し継代をつづけても、世代時間、最大細胞密度、ヒトIL-2生産能力を安定に保持していた。
実施例3
(1)BSF-2は、ヒトの成熟B細胞を抗体産生細胞へ分化される因子で、第6図に示すようにそのDNA配列及びアミノ酸配列も既に決定されている(特開昭63-42688、特開昭63-56291)。
またBSF-2は感染症及び癌の治療に有用であることも本発明者らは見い出している(特願昭62-289007)。
さて、このような有用なBSF-2をコードする遺伝子をハムスターCHO細胞において発現させる為に、以下のようにプラスミドpSD(x)/BSF-2を構築した。
i) まずpCDαを制限酵素HpaIで切断し、アガロースゲル電気泳動により大きなDNA断片を回収した(第7図)。
ii) BSF-2 cDNAを有するプラスミドpBSF2-38(T.Hirano et al.Nature 324,73(1986))を制限酵素BamHIとBanIIで切断し、DNAポリメラーゼ処理した後、アガロースゲル電気泳動によりBSF-2 cDNAを含む断片を回収した(第7図)。
iii) i)とii)で得られた2種類のDNA断片をT4 DNAリガーゼを用いて結合させた(第7図)。
得られた組み換えDNAを大腸菌HB101株へ導入しアンピシリン抵抗性を有する株を選択した。得られた株からプラスミドDNAを得て制限酵素による切断試験を行なうことによりpCD BSF-2と保持する菌を選定した。
iv) ファージDNA λ BSF2.5(T.Hirano et al.Nature 324,73,(1986))をEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動によりBSF-2 cDNAを含む最も小さな断片を回収した(第7図)。
v) プラスミドpSP65(アマシャム社製)を制限酵素EcoRIで切断した後、これをiv)で精製したDNA断片とT4 DNAリガーゼを用いて結合させた(第7図)。得られた組換えDNAを大腸菌HB101株へ導入しアンピシリン抵抗性を有する株を選択した。得られた株からプラスミドDNAを得て制限酵素による切断試験を行なうことによりpBSF2-10S6を保持する菌を選定した.
vi) 上述の iii)で得たプラスミドpCD BSF-2を制限酵素Xho IとXba Iで切断し、アガロースゲル電気泳動により小さな断片を回収した(第8図)。
vii) 上述の v)で得たプラスミドpBSF2-10S6を制限酵素SmaIで切断した後、T4 DNAリガーゼを用いてXho Iリンカーを結合し、さらに制限酵素Xho IとXba Iを切断してアガロースゲル電気泳動によりBSF-2 cDNAの後半部分を含む断片を回収した(第8図)。
viii) プラスミドpSD(x)を制限酵素Xho Iで切断した後、この断片とvi)で得た断片及びvii)で得た断片の3者をT4 DNAリガーゼを用いて結合させた(第8図)。即ち、プラスミドpSD(x)/BSF-2△SV40初期プロモーター-dhfr遺伝子-SV40スプライシングシグナル-SV40初期プロモーター-BSF-2をコードする遺伝子-SV40スプライシングシグナルを構築した。この構築したプラスミドを大腸菌HB101株へ導入し、アンピシリン抵抗性を有する株を選択した。得られた株からプラスミドDNAを調製し、制限酵素による切断試験を行ったことによりプラスミドpSD(x)/BSF-2を保持する株を選定した。
(2)プラスミドpSD(x)/BSF-2をカルシウムリン酸法により、実施例1に従ってハムスターCHO細胞に導入し、核酸非要求株を選択した。その培養上清をELISA法により測定したところ、100U/mlのBSF-2活性を示した。
(3)(2)で得られたCHO細胞株を1×10-8Mメソトレキセート(MTX)を含む培地で培養したところ、培養上清中のBSF-2活性は200U/mlに上昇した。また、さらに1×10-7MMTXを含む培地で培養したところ、BSF-2活性は800U/mlに上昇した。
800U/mlのBSF-2活性を有する細胞が得られましたが、本細胞が付着細胞であるため浮遊かくはん培養に適した細胞の分離を行った。
BSF-2活性800U/mlの細胞を初期細胞密度4×104/mlで500ml容量のスピンナーフラスコで培養温度は37℃、回転速度100rpmの8日間の培養を行った。この培養を9サイクル行ったところ、培養初期では最大細胞密度が7×104/mlであったものが3×105/mlと上昇し、世代時間も初期では130時間以上であったが56時間と上昇した。
更に、初期細胞密度を1×105/mlとし、4日間の培養を6サイクル繰り返した。この結果、最終的に世代時間30時間、最大細胞密度6×105/mlと生育の良い細胞CHO-BSF2(FERM P-9970)を得た。この様に浮遊かくはん培養に適した細胞(FERM P-9970)が得られたがBSF-2生産能は安定に保持されていた。
BSF-2ユニットは、1×104/mlのSKW-c14細胞においてIgM産生を最大の50%だけ誘導する活性を1Uと定義する。
効果
従来CHO dhfr-細胞はBUF-3、IL-2、BSF-2等の各種生理活性タンパク質の生産には適しているが、浮遊攪拌培養ができない為に目的とする生理活性タンパク質を大量に生産することはできなかった。しかし、本発明の方法を用いるとCHO dhfr-細胞での浮遊攪拌培養が可能となり、それ故、目的とする生理活性タンパク質を極めて大量に生産し得ることかできる。
【図面の簡単な説明】
第1図はヒト分化誘導因子BUF-3のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列を示す。
第2図はプラスミドpSD(x)/BUF-3の構築図である。
第3図は得られたCHO-SUSP株のEDF生産能及び生育の安定性を示した図である。
第4図はヒトインターロイキン2のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列を示す。
第5図はプラスミドLPSDI/IL-2の構築図である。
第6図はヒトB細胞分化因子のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列を示す。
第7図はプラスミドpCD BSF-2及びプラスミドpBSF2-10S6の構築図を示す。
第8図はプラスミドpSD(x)/BSF-2の構築図を示す。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許請求の範囲の請求項1を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfrとする。)遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるチャイニーズ・ハムスターオバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株(CHO dhfr-)細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、攪拌培養を継代して行うことにより、浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法。」と訂正する。
2.明細書第4頁第11行〜第17行(特許掲載公報第2頁左欄33〜39行)の、
「即ち、本発明は生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドをCHO dhfr-細胞に形質転換して得られた浮遊攪拌培養に適した細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして、目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法である。」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「即ち、本発明は生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びdhfr遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるCHO dhfr-細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ、攪拌培養を継代して行うことにより、浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し、当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し、培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ、そして、目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法である。」と訂正する。
異議決定日 2002-06-18 
出願番号 特願昭63-170142
審決分類 P 1 651・ 532- YA (C12P)
P 1 651・ 113- YA (C12P)
P 1 651・ 121- YA (C12P)
P 1 651・ 161- YA (C12P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新見 浩一  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 佐伯 裕子
眞壽田 順啓
登録日 1996-11-07 
登録番号 特許第2576200号(P2576200)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 生理活性タンパク質の製造法  
代理人 金谷 宥  
代理人 金谷 宥  
代理人 村山 みどり  

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