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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) C04B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) C04B
管理番号 1064901
審判番号 無効2001-35218  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-09-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-05-22 
確定日 2002-07-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2782032号発明「長期強度に優れたコンクリート組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2782032号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2782032号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
出願 平成5年3月15日
設定登録 平成10年5月22日
(特許第2782032号)
無効審判請求 平成13年5月22日
答弁書 平成13年8月31日
訂正請求書 平成13年8月31日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成14年3月11日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成14年3月11日
上申書(被請求人) 平成14年3月18日

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項1における
「セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.05〜5重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であることを特徴とするコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは0〜10の数。)」を、
「セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.25〜0.8重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなることを特徴とするコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは0〜10の数。)」
と訂正する。
b.明細書の段落【0004】における
「即ち、本発明は、セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.05〜5重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であることを特徴とするコンクリート組成物である。」を、
「即ち、本発明は、セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.25〜0.8重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなることを特徴とするコンクリート組成物である。」
と訂正する。
c.明細書の段落【0010】における
「本発明の減水剤(a)の添加量は、セメントに対して通常0.05〜5重量%である。添加量が0.05重量%未満あるいは5重量%を越えると長期強度の増進効果が少ない。」を、
「本発明の減水剤(a)の添加量は、セメントに対して通常0.25〜0.8重量%である。添加量が下限未満あるいは上限を越えると長期強度の増進効果が少ない。」
と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
aの訂正は、特許明細書の実施例における減水剤の添加率(対セメント重量%)の下限が0.25%、上限が0.8%であること(表1)に基づいて、請求項1に係る発明における減水剤(a)の添加率(添加量)を、「セメントの0.05〜5重量%」から「セメントの0.25〜0.8重量%」に限定すると共に、特許明細書の段落【0010】及び段落【0011】の記載、実施例における強度試験結果(表2)に基づいて、「(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなる」と限定するものであるから、特許法第134条第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
b及びcの訂正は、aの特許請求の範囲の請求項1における訂正に伴い、それに対応する発明の詳細な説明の記載を整合するように訂正するものであるから、特許法第134条第2項ただし書第3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2-3.訂正の適否についての結論
したがって、上記訂正は、特許法第134条第2項の規定並びに同条第5項の規定によって準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件請求項1及び2に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.25〜0.8重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなることを特徴とするコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは0〜10の数。)
【請求項2】該アルコール系化合物(b)が、tert-ブチルアルコールである請求項1記載のコンクリート組成物。」

4.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1、2を主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第10号証を提出している。
4-1.無効理由1:特許法第29条第1項
本件請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第1、2号証に記載された発明であるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
4-2.無効理由2:特許法第29条第2項
本件請求項1及び2に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第1〜10号証(なお、甲第9号証は、撤回された。第1回口頭審理調書参照。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
4-3.証拠方法
甲第1号証:特公昭59-3430号公報
甲第2号証:特開昭57-145054号公報
甲第3号証:「新・コンクリート用混和材料-技術と市場-」1988年6月3日、株式会社シーエムシー発行、第20〜21、266〜267頁
甲第4号証:「高性能減水剤 三洋レベロン〔三洋レベロンP(粉末品)〕」1984年1月、三洋化成工業株式会社
甲第5号証:「AE減水剤 ポゾリス70」1996年1月、株式会社エヌエムビー、株式会社ポゾリス物産
甲第6号証:「鉄筋コンクリート造のひび割れ対策(設計・施工)指針・同解説」1990年9月1日、社団法人日本建築学会発行、第15〜17、118〜121頁
甲第7号証:特開昭61-48480号公報
甲第8号証:特開平2-124750号公報
甲第10号証:特開平2-307849号公報
なお、平成14年3月11日付け口頭審理陳述要領書と共に、以下の甲第11〜16号証を提出している。
甲第11号証:特開昭59-21557号公報
甲第12号証:「界面活性剤-物性・応用・化学生態学」1979年4月20日、株式会社講談社発行、第388〜399頁
甲第13号証:「特許マップシリーズ 化学2 コンクリート添加剤」1998年4月3日、社団法人発明協会発行、第67〜69頁
甲第14号証:「改訂2版 セメントの材料化学」1990年3月1日、大日本図書株式会社、第224〜227頁
甲第15号証:「セメント技術年報37 昭和58年(1983)」昭和58年12月10日、社団法人セメント協会発行、第290〜293頁
甲第16号証:「セメント技術年報36 昭和57年(1982)」昭和57年12月10日、社団法人セメント協会発行、第238〜242頁
(甲1〜8、10号証に記載された発明)
甲第1号証には、
(1-1):「1 一般式
RO(AO)nH・・・・・・・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1〜7のアルキル基または炭素数5〜6のシクロアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは1〜10の数である)で示される化合物からなるセメント用収縮低減剤。」(特許請求の範囲第1項)
(1-2):「従来、セメント・モルタルおよびコンクリート(以下コンクリートなどという)の重大な欠点の1つとして乾燥ひび割れが発生しやすいことがあり、それは乾燥収縮の大きいことに起因している。そのため乾燥収縮の少ないコンクリートなどの出現が望まれている。」(第2欄第16〜21行)
(1-3):「本発明者らは、セメント硬化のさい乾燥収縮がなく、さらにセメントのもつ不燃性を損わず、かつ強度の低下のないコンクリートなどを製造し得るセメント用収縮低減剤を見出すことを目的に鋭意検討した結果、本発明に到達した。」(第3欄第20〜24行)
(1-4):「またn(アルキレンオキシドの付加モル数)は1〜10である。nは1未満の場合には、セメントに混和した場合、収縮低減効果が小さいとか、またアルコールの揮発性が著しいとかの問題があり使用できない。nが10より多い場合には、収縮低減効果が小さくなり、さらにコンクリートなどに空気を連行させるようになり好ましくない。」(第4欄第18〜24行)
(1-5):「本発明における収縮低減剤の使用量は、一般式(1)で示される化合物のアルキル基の炭素数、アルキレンオキシドの付加モル数などによって種々変えることができるが、セメントに対して通常0.5〜10重量%好ましくは1.5〜5重量%である。使用量が0.5重量%未満では収縮低減効果は少なく、一方10重量%を超えるとコンクリートなどの強度が無添加のものと比較して約2/3以下となり、実用性において充分でない。」(第6欄第3〜11行)
(1-6):「また他の成分(任意成分)を使用してもよく、このような任意成分としては・・・などの公知のセメント硬化促進剤;・・・などの公知のセメント硬化遅延剤;・・・などの公知の鉄筋防錆剤;リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤など種々のものがあげられる。これらの任意成分の量はセメントに対して通常0.1〜5重量%である。」(第6欄第24〜36行)
(1-7):「本発明のセメント用収縮低減剤の添加手段は、普通一般に行われているセメント混和剤の場合と同じでよく、たとえば混練水に予め適量の収縮低減剤を混和し収縮低減剤と水からなる組成物としておき、これとセメント、骨材を混練するか、あるいはセメント、骨材、水からなる混合物の混練時に適量の収縮低減剤を添加するなどの手段を採用できる。」(第6欄第37〜44行)
(1-8):「本発明の収縮低減剤はアルコールに少量のアルキレンオキシドを付加させたものであり、分散性、気泡性などの界面活性剤としての機能は有しておらず、むしろ水溶性の有機溶剤に近い機能を有するものであり、この点、従来のセメント(「セメット」は「セメント」の誤記と認める。)混入用アルキレンオキシド付加物とは全く性能の異なるものである。」(第7欄第16行〜第8欄第3行)
(1-9):「本発明のセメント用収縮低減剤は前記したような効果を奏することから、このものを使用したセメント硬化物はコンクリートとして土木材料、建築材料として床、壁、道路、橋、ダム、防波堤、排水管その他各種構築物などに有用であり、・・・」(第9欄第37行〜第10欄第36行)
と記載されている。
甲第2号証には、
(2-1):「1 一般式
RO(AO)nH (1)
(式中、Rは炭素数5〜7のアルキル基またはシクロアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種又は2種のアルキレン基、nは1〜10の数である)で示される化合物の1種又は2種以上の混合物からなるセメント用収縮低減剤。」(特許請求の範囲第1項)
(2-2):「従来、セメント・モルタルおよびコンクリート(以下コンクリートなどという)の重大な欠点の1つとして乾燥ひび割れが発生しやすいことがあり、それはセメントの乾燥収縮の大きいことに起因している。そのため乾燥収縮の少ないコンクリートなどの出現が望まれている。」(第1頁右下欄第12〜17行)
(2-3):「またn(アルキレンオキシドの付加モル数)は1〜10である。nは1未満の場合には、セメントに混和した場合、収縮低減効果が小さいとか、またアルコールの揮発性が著しいとかの問題があり使用できない。nが10より多い場合には、収縮低減効果が低くなり、更にはセメント組成物中に空気を連行させるようになり好ましくない。」(第3頁左上欄第4〜10行)
(2-4):「本発明における収縮低減剤の使用量は、一般式(1)で示される化合物のアルキル基の炭素数、アルキレンオキシドの付加モル数などによって種々変えることができるが、セメントに対して通常0.5〜10重量%、好ましくは1.5〜5重量%である。使用量が0.5重量%未満では収縮低減効果は少なく、一方10重量%を超えるとコンクリートなどの強度が無添加のものと比較して約2/3以下となり実用性において充分でない。」(第3頁左下欄第11〜19行)
(2-5):「セメントを硬化するにさいして必要により小石、砂、軽石、焼きパーライトなどの骨材を使用できる。骨材の量はセメントの量/骨材の量×100%が通常10〜100重量%、好ましくは20〜50重量%である。また収縮低減剤の量はセメント、収縮低減剤、水および骨材の全重量に基づいて、通常0.1〜5重量%である。」(第3頁右下欄第3〜9行)
(2-6):「また他の成分(任意成分)を使用してもよく、このような任意成分としては・・・などの公知のセメント硬化促進剤、・・・などの公知のセメント硬化遅延剤、・・・などの公知の鉄筋防錆剤、リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(「ナフタレンスルホン酸、ホルマリン縮合物」は、「ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物」の誤記と認める。)などの公知のセメント分散剤など種々のものがあげられる。これらの任意成分の量はセメントに対して通常0.1〜5重量%である。」(第3頁右下欄第10行〜第4頁左上欄第2行)
(2-7):「本発明のセメント用収縮低減剤をセメントに対して添加した場合、無添加の場合と比較して大巾な乾燥収縮低減がはかられる。またコンクリートなどの不燃性をそこなうことも少なく、更には高添加量(たとえば数%程度)においてもコンクリートなどの強度を低下させることもない。」(第4頁左上欄第17行〜右上欄第2行)
(2-8):「本発明の収縮低減剤は炭素数5〜7のアルコール又はシクロアルキルのアルコールに少量のアルキレンオキシドを付加させたものであり、分散性、気泡性などの界面活性剤としての機能は有しておらず、むしろ水溶性の有機溶剤に近い機能を有するものであり、この点、従来のセメント混入用アルキレンオキシド付加物とは全く性能の異なるものである。」(第4頁右上欄第3〜10行)
と記載されている。
甲第3号証には、
(3-1)「減水剤・AE減水剤はかつてセメント分散剤と呼ばれ、セメント粒子の分散と適度な空気泡の連行によるワーカビリチーの向上に大きな効果があることから、公共工事、民間工事に広く使われるようになり、AE剤とは別個のものとして分類されるようになった。
減水剤・AE減水剤は現在、レデーミクストコンクリートをはじめコンクリート二次製品、現場練りの土木・建築用各種コンクリートに広範に用いられている。また、1960年代頃からは界面活性化学、合成化学の進歩により各種のコンクリート用混和剤が開発されており、現在ではこれらの混和剤を用いないコンクリートの方がむしろまれになっている状況である。
さらに、最近ではコンクリートの早期劣化の問題等に対処するため、より耐久性のあるコンクリートを経済的に造ることが求められており、ますます混和剤の重要性が増している。」(第20頁第16〜24行)
(3-2)「界面活性作用のうち、起泡作用を利用したものがAE剤や起泡剤であり、セメント粒子を分散・懸濁させる性質を利用したものが減水剤・AE減水剤である。」(第21頁第7〜9行)
と記載され、
(3-3)〈主要取り扱い混和剤〉として、AE減水剤 ポゾリスNo.70がリグニン系であることが示されている。
甲第4号証には、
(4-1)「高性能減水剤 三洋レベロン」の主成分がナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩であることが示され、
(4-2)三洋レベロン添加量(対セメントwt%)は、目標強度が500〜600kgf/cm2である場合、0.5〜1.0wt%であること、目標強度が600〜800kgf/cm2である場合、0.7〜1.2wt%であること、目標強度が800〜900kgf/cm2である場合、1.2〜1.5wt%であることが示されている。
甲第5号証には、
(5-1)「混和剤としてAE剤の空気連行性能と減水剤のセメント分散性能を兼ね備えるポゾリス70は、これらの性能の相互作用によりコンクリートの単位水量を大巾に減少し、耐久性に優れたコンクリートを経済的に製造することができます。」(第2頁第7〜11行)
と記載され、
(5-2)「AE減水剤 ポゾリス70」の主成分がリグニンスルホン酸化合物およびポリオール複合体であることが示されている。
甲第6号証には、
(6-1)「有害なひび割れとは、部材の過度のたわみの原因となったり、内部鉄筋のさびの発生を促し鉄筋コンクリート造の耐力あるいは耐久性を低下させたり、漏水現象を引き起こしたり、あるいは外観を著しく損ねたりするようなひび割れのことである。」(第15頁下から第12〜10行)
(6-2)「現場施工によった鉄筋コンクリート造のひび割れ対策は、次の3種に大別することができる。
・・・
iii)ひび割れが発生した後に、補修・補強する。」(第16頁第1〜7行)
(6-3)「鉄筋コンクリート造(RC造)建築物の耐久性にかかわる工学的な性能として、「構造耐力」「居住性」および「美観」の3項目が挙げられる。これらの項目とコンクリートのひび割れの相関を示すと付図3.1のようになる。ひび割れは、直接的にも間接的にもRC造の耐久性に大きな影響を与える要因であることがわかる。」(第118頁第3〜6行)
と記載されている。
甲第7号証には、
(7-1)「セメント、モルタル又はコンクリート等の水硬性セメント組成物は、硬化した後に乾燥によって収縮し、鉄筋等で拘束された状態の構造物ではひび割れを生ずる。このひび割れ現象は、単に構造物の美観を損なうだけでなく、ひび割れ部分から浸入する雨水や空気中の炭酸ガスによって鉄筋の腐食やコンクリートの中性化が促進され、構造物の耐久性を著しく低下させる。」(第1頁右下欄第1〜8行)
と記載されている
甲第8号証には、
(8-1)「一般に、コンクリート、モルタル、グラウトなどのセメントと水との混合物は、硬化・乾燥に伴なって体積の減少を示す。これは「乾燥収縮」と呼ばれる現象であって、コンクリートの壁体、床板のひび割れの主たる原因とされている。このひび割れは、構造物の機能の低下、剛性の低下をもたらすばかりでなく、ひび割れ部分から水と空気がコンクリートの内部に浸透することにより、コンクリートの中性化を促進し、内部の鉄筋の発錆を促進して、構造物の耐久性を著しく損なうものである。」(第2頁左上欄第6〜16行)
(8-2)「コンクリート等の乾燥収縮によるひび割れを防止するには、乾燥収縮自体を低減することが最も確実でしかも効果的であることが明らかになってきた。」(第2頁右上欄第15〜18行)
と記載されている。
甲第10号証には、
(10-1)「1.一般式(1)
ROH (1)
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、または炭素数5〜6のシクロアルキル基である。)で示されるアルコールの1種または2種以上の混合物からなるセメント用収縮低減剤。」(特許請求の範囲の請求項1)
(10-2)「上記一般式(1)で示されるアルコールとしては、たとえば、・・・tert-ブチルアルコール、・・・などがあげられる。」(第2頁左上欄第8〜15行)
(10-3)「本発明の収縮低減剤の使用量は、一般式(1)で示される化合物のアルキル基の炭素数によっても異なるが、セメントに対して通常0.5〜10重量%である。使用量が0.5重量%未満では収縮低減効果は少なく、一方10重量%を越えるとセメント組成物の強度が無添加のものと比較して約2/3以下となり実用性において充分でない。」(第2頁右上欄第7〜13行)
と記載され、
(10-4)表-1には、実施例3として、tert-C4H9OHをセメントに対して2重量%添加したものが示されている。

5.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求め、証拠方法として以下の乙第1〜4号証を提出している。
5-1.証拠方法
乙第1号証:「わかりやすいセメントとコンクリートの知識」昭和51年4月30日、鹿島出版会発行、第199〜200頁
乙第2号証:特開昭7-25655号公報
乙第3号証:「コンクリート・ジャーナル」Vol.8,No.8,Aug.1970、第26〜35頁
乙第4号証:「コンクリート工学ハンドブック」1991年8月1日、株式会社朝倉書店発行、第358〜361頁

6.当審の判断
6-1.無効理由1について
甲第1号証又は甲第2号証には、(1-1)、(1-7)、(1-9)、(2-1)、(2-5)の記載からみて、セメント、水、骨材、(1-1)又は(2-1)に記載されたアルコール系化合物〔(1-1)又は(2-1)に記載されたセメント用収縮低減剤は、その一般式より、アルコール系化合物であることは明らかである。〕などからなるコンクリート組成物が記載されているものと認められる。
また、上記コンクリート組成物中には、(1-6)又は(2-6)に記載されたリグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤を任意成分として使用することができるものであり、そして、(1-8)又は(2-8)に記載されているように、(1-1)又は(2-1)に記載されたアルコール系化合物は、「分散性、気泡性などの界面活性剤としての機能は有しておらず、むしろ水溶性の有機溶剤に近い機能を有するもの」であるから、分散性の機能を有していないアルコール系化合物に加えて、界面活性剤としての機能のうちの分散性を有しているセメント分散剤を使用する必然性はあり、実質的に、コンクリート組成物中にセメント分散剤を使用することが記載されているものと認められる。
なお、被請求人は、上申書において、甲第1号証の第4欄第10〜15行に「・・・界面活性剤としての機能が発現し、気泡性が高くなり好ましくない。(気泡性を有する化合物をセメントに混和しコンクリートなどとした場合、・・・大巾に強度低下をもたらすことになる。)」とあり、甲第2号証の第2頁右下欄にも同様の記載があり、これら甲号証の発明は、コンクリートの強度低下を防止するために、界面活性剤としての機能を有しない化合物を収縮低減剤として用いたものであって、「特許出願人が最良の結果をもたらすと思うもの」を記載すべきとされている同証の実施例においても界面活性剤としての機能を有する混和剤が使用されていないのは、その故であるから、甲第1、2号証に上記「分散性、気泡性などの界面活性剤としての機能は有しておらず、むしろ水溶性の有機溶剤に近い機能を有するもの」であるという記載があるにしても、これら甲号証の収縮低減剤をセメントに添加する際には、当業者の立場からすれば界面活性剤をできる限り併用しないのが好ましいと解するほうがごく普通である旨の主張をしているので、この主張について検討する。
甲第3号証に、(3-2)「界面活性作用のうち、起泡作用を利用したものがAE剤や起泡剤であり、セメント粒子を分散・懸濁させる性質を利用したものが減水剤・AE減水剤である。」と記載されているように、セメント混和剤には、界面活性剤としての機能(作用)のうちの気泡性(起泡作用)を利用したものと、分散性を利用したものがあることは周知であるが、甲1、2号証に記載された発明においては、アルコール系化合物を収縮低減剤として用いる場合に、界面活性剤としての機能のうちの気泡性が発現すると好ましくないとしているだけで、界面活性剤の機能のうちの分散性については、「公知のセメント分散剤」を使用してもよいと肯定しており、分散性の機能を有していないアルコール系化合物に加えて、界面活性剤としての機能のうちの分散性を有しているセメント分散剤を使用する必然性はあるといえるから、上記被請求人の主張は採用しない。
さらに、アルコール系化合物の使用量は、セメントに対して通常0.5〜10重量%であることが(1-5)又は(2-4)に記載され、セメント分散剤の使用量は、セメントに対して通常0.1〜5重量%であることが(1-6)又は(2-6)に記載されている。〔(1-6)又は(2-6)の「これらの任意成分の量はセメントに対して通常0.1〜5重量%である。」という記載は、任意成分として、セメント硬化促進剤、セメント硬化遅延剤、鉄筋防錆剤、セメント分散剤などを使用する場合には、各々、セメントに対して通常0.1〜5重量%の範囲内で使用することを意味すると解されるから、セメント分散剤の使用量は、セメントに対して通常0.1〜5重量%であることが記載されていると認められる。〕
してみると、甲第1号証には、「セメント、水、骨材、リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、セメント分散剤(a)がセメントの0.1〜5重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を用いてなるコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数1〜7のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは1〜10の数。)」の発明が記載されていると認められる。
また、甲第2号証には、「セメント、水、骨材、リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、セメント分散剤(a)がセメントの0.1〜5重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を用いてなるコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数5〜7のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは1〜10の数。)」の発明が記載されていると認められる。
そこで、本件請求項1に係る発明と甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「セメント、水、骨材、混和剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を用いてなるコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは1〜10の数。)」である点で一致し、本件請求項1に係る発明において、混和剤(a)は、「減水剤」で、「セメントの0.25〜0.8重量%」であり、「(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなる」ものであるのに対し、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明において、混和剤(a)は、「リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤」で、「セメントの0.1〜5重量%」であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いることが示されていない点で相違する。
上記相違点について検討する。
甲第3号証に、(3-1)「減水剤・AE減水剤はかつてセメント分散剤と呼ばれ、セメント粒子の分散と適度な空気泡の連行によるワーカビリチーの向上に大きな効果があることから、公共工事、民間工事に広く使われるようになり、AE剤とは別個のものとして分類されるようになった。減水剤・AE減水剤は現在、レデーミクストコンクリートをはじめコンクリート二次製品、現場練りの土木・建築用各種コンクリートに広範に用いられている。また、1960年代頃からは界面活性化学、合成化学の進歩により各種のコンクリート用混和剤が開発されており、現在ではこれらの混和剤を用いないコンクリートの方がむしろまれになっている状況である。」、(3-2)「界面活性作用のうち、・・・セメント粒子を分散・懸濁させる性質を利用したものが減水剤・AE減水剤である。」と記載されているように、減水剤とセメント分散剤とが同義であることは周知である。また、このことは、甲第1号証又は甲第2号証にセメント分散剤として記載されているリグニンスルホン酸が、甲第3号証の(3-3)及び甲第5号証の(5-1)、(5-2)の記載からみて、AE減水剤であり、同じくナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物が、甲第4号証の(4-1)の記載からみて、高性能減水剤であることからも明らかである〔さらに、これは、甲第11号証に、「ナフタリンスルホン酸のホルマリン縮合物等の減水剤、リグニンスルホン酸塩等のAE減水剤」(第2頁右下欄第13〜15行)、甲第12号証に、「ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の高縮合物が既知の活性剤中最もすぐれたセメント分散性を示し、かつ非空気連行性で未硬化事故を起こさない理想的な減水剤であることが見いだされ、1964年に市販された・・・高性能減水剤(スーパープラスチサイザー)とよばれ、リグニン系と区別されている。この高度の減水剤を利用することにより、従来汎用されていたリグニンスルホン酸塩ではなしえなかった・・・高強度コンクリートが、世界に先がけて日本で実用化された。」(第389頁右欄第14〜21行)、甲第13号証に、「減水剤のうち、微細気泡をコンクリートに連行する機能を持ったものはAE減水剤と呼ばれている。また減水性能により減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤という呼び方もされているが、特許上はそのような区別がないので、本書ではこれらを総称して減水剤と呼ぶことにする。よく使用される減水剤としては、次のような化合物が挙げられる。・・・リグニンスルホン酸類・・・芳香族スルホン酸類(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物など)・・・オキシカルボン酸類」(第67頁第11〜20行)、甲第14号証に、「減水剤(water-reducing agent)は、セメントの水和に必要な理論水量に近いW/C比で、作業性のよいコンクリートをつくることを目的としている。リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などが使用されているが、これらは界面活性剤としてセメント粒子表面に吸着し、ぬれ、分散性、流動性を向上させる。減水剤を使用しないコンクリートとくらべると、単位水量を10〜15%減少させることができ、それだけ強度も増大する。」(第227頁第1〜7行)と記載されていることからも裏付けられる。〕から、本件請求項1に係る発明における減水剤と甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明における「リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤」とが実質的に相違するとはいえない。
なお、被請求人は、乙第1号証及び乙第2号証を提出し、セメント分散剤が減水剤と同義とはいえない旨の主張をしているが、乙第1号証及び乙第2号証を参照しても、「リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤」が減水剤であることを否定する記載はないから、被請求人の上記主張は採用しない。
そして、減水剤(セメント分散剤)の使用量は、本件請求項1に係る発明においては、「セメントの0.25〜0.8重量%」、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明においては、「セメントの0.1〜5重量%」で重複しており、さらに、甲第4号証には、減水剤の使用量を目標強度に応じて設定することが示され、目標強度が500〜600kgf/cm2である場合、高性能減水剤であるナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩を0.5〜1.0重量%とすることも示されているから、本件請求項1に係る発明における減水剤の使用量は通常の範囲内のものであり、両者は、減水剤(セメント分散剤)の使用量が実質的に相違するとはいえない。
また、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明において、収縮低減剤として用いられるアルコール系化合物は、(1-2)、(1-3)、(2-2)、(2-7)、甲第6〜8号証に記載されているように、コンクリートの強度を低下させずに、乾燥収縮に伴うひび割れを防止し耐久性を向上させるものであると認められ、さらに、セメント分散剤(減水剤)がコンクリート組成物の強度を増大させることは上記のように周知であるが、両者を併用した場合に、コンクリート組成物の長期強度を増進させることは示されていない。しかしながら、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明は、両者を併用する点で本件請求項1に係る発明と構成が同一である以上、長期強度を増進させるという同様の作用効果を奏することは明らかであるから、その作用効果を「(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなる」と表現したにすぎない本件請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と実質的に相違するとはいえない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明である。

6-2.無効理由2について
本件請求項2に係る発明と甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明(6-1における発明の認定を参照)とを対比すると、両者は、「セメント、水、骨材、混和剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を用いてなるコンクリート組成物。
RO(AO)nH 」である点で一致し、本件請求項2に係る発明において、(1)混和剤(a)は、「減水剤」で、「セメントの0.25〜0.8重量%」であり、「(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなる」ものであるのに対し、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明において、混和剤(a)は、「リグニンスルホン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの公知のセメント分散剤」で、「セメントの0.1〜5重量%」であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いることが示されていない点、(2)アルコール系化合物(b)が、本件請求項2に係る発明においては、Rが炭素数4のアルキル基であり、nが0である「tert-ブチルアルコール」であるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、「(式中、Rは炭素数1〜7のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは1〜10の数。)で示されるアルコール系化合物」であり、甲第2号証に記載された発明においては、「(式中、Rは炭素数5〜7のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種又は2種のアルキレン基、nは1〜10の数。)で示されるアルコール系化合物」である点で相違する。
上記相違点について検討する。
(1-4)又は(2-3)には、「n(アルキレンオキシドの付加モル数)は1〜10である。nは1未満の場合には、セメントに混和した場合、収縮低減効果が小さいとか、またアルコールの揮発性が著しいとかの問題があり使用できない。」と記載されており、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明においては、nが0であるアルコールを収縮低減剤として使用することを意図するものではないが、甲第10号証に、Rが炭素数4のアルキル基であり、nが0である「tert-ブチルアルコール」を収縮低減剤として使用することが記載されているから、nが1〜10であるアルコール系化合物と比べて、収縮低減効果が小さいとか、またアルコールの揮発性が著しいとかの問題があるとしても、甲第1号証又は甲第2号証に記載された収縮低減剤の代わりに、甲第10号証に記載された「tert-ブチルアルコール」を収縮低減剤として使用することは、当業者が容易に想到し得るものであるといえる。
しかしながら、本件請求項2に係る発明は、「tert-ブチルアルコール」を収縮低減剤として使用するものではなく、「tert-ブチルアルコールと共に減水剤を長期強度増進剤として用いてなる」ものであるが、甲第10号証に記載された収縮低減剤として用いられるアルコール系化合物は、(1-2)、(1-3)、(2-2)、(2-7)、甲第6〜8号証に記載されているように、コンクリートの強度を低下させずに、乾燥収縮に伴うひび割れを防止し耐久性を向上させるものであると認められるが、コンクリート組成物の長期強度を増進させることは明らかではなく、さらに、甲第1号証及び甲第2号証には、セメント分散剤を併用することが記載され、セメント分散剤(減水剤)がコンクリート組成物の強度を増大させることは甲第3〜5号証、甲第11〜14号証に記載されているように周知であるものの、これらの甲号証にも、セメント分散剤(減水剤)の併用により、コンクリート組成物の長期強度を増進させることは示唆されていないから、tert-ブチルアルコールと共に減水剤を長期強度増進剤として用いることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そして、本件請求項2に係る発明の効果として、圧縮強度の増進が実施例1、2及び5に具体的に示され、実施例1では、気乾養生の場合、5年の498kg/cm2から10年の545kg/cm2、水中養生の場合、5年の510kg/cm2から10年の566kg/cm2、蒸気→気乾養生の場合、5年の472kg/cm2から10年の495kg/cm2に増進すること、実施例2では、気乾養生の場合、5年の500kg/cm2から10年の561kg/cm2、水中養生の場合、5年の535kg/cm2から10年の577kg/cm2、蒸気→気乾養生の場合、5年の466kg/cm2から10年の483kg/cm2に増進することが示され、減水剤のみで、tert-ブチルアルコールを添加しない比較例1は、気乾養生の場合、5年の452kg/cm2から10年の447kg/cm2、水中養生の場合、5年の478kg/cm2から10年の480kg/cm2、蒸気→気乾養生の場合、5年の411kg/cm2から10年の393kg/cm2と頭打ちになることが示され(本件特許明細書表1及び表2参照)、また、審判事件答弁書において、tert-ブチルアルコールのみで、減水剤を添加しない追加比較例9は、気乾養生の場合、5年の405kg/cm2から10年の408kg/cm2、水中養生の場合、5年の398kg/cm2から10年の404kg/cm2、蒸気→気乾養生の場合、5年の402kg/cm2から10年の396kg/cm2と頭打ちになることが示されているから、実施例1及び2と比較例1及び追加比較例9とを対比すると、tert-ブチルアルコールと共に減水剤を併用することにより長期強度が増進する(5年を過ぎても圧縮強度が増進している、本件特許明細書段落【0016】参照)という顕著な効果を奏することが認められる。
さらに、本件明細書の実施例1と実施例3、実施例2と実施例4とを対比すると、減水剤と併用するアルコール系化合物として、tert-ブチルアルコールを採用した場合には、アルキレンオキシドを付加させた他のアルコール系化合物を採用した場合よりも長期強度の増進が顕著であることも明らかであるから、本件請求項2に係る発明の効果は予測可能であるとはいえない。
なお、請求人は、口頭審理陳述要領書と共に、甲第15、16号証を提出し、一般的にコンクリートは、経年と共に、圧縮強度が向上するものであるから、本件発明において「長期強度増進」といっても格別のものではない旨の主張をしているので、この主張について検討する。
甲15、16号証には、5年を過ぎても圧縮強度が増進しているコンクリートも示されているが、特定のセメントを使用して、特定の条件で試験した結果であり、これを一般化し得るとはいえず、むしろ、乙第3号証に、「図-4〜図-6によれば、標準養生を継続したものの圧縮強度は、材令12ヵ月までは増進が認められるが以後、増進を続けるものはきわめて少なく、材令24ヵ月から材令60ヵ月に向って増進したものは皆無であった。材令24ヵ月以後の強度は低下する傾向もみられることから、長期にわたれば標準養生といえども強度が頭打ちとなり従来いわれていたような増進は今日のセメントでは期待し難い。」(第29頁右欄第7行〜第30頁左欄第6行)と記載され、乙第4号証に、各種セメントを使用したコンクリートについて、ほとんどのものは強度が材令3〜5年で頭打ちになることが示されているように、一般的にコンクリートは、5年を過ぎても経年と共に、圧縮強度が向上するとはいえないから、上記請求人の主張は採用しない。
したがって、本件請求項2に係る発明は、甲第1〜8、10号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

7.むすび
以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
また、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項2に係る発明の特許を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
長期強度に優れたコンクリート組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.25〜0.8重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなることを特徴とするコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは0〜10の数。)
【請求項2】 該アルコール系化合物(b)が、tert-ブチルアルコールである請求項1記載のコンクリート組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、土木、建築分野で用いられるコンクリート組成物に関する。特に、長期にわたり強度が増進するコンクリート組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、コンクリートは、セメント、水、骨材などの主な材料以外に、通常種々の添加剤、例えば、AE剤、減水剤、凝結促進剤、凝結遅延剤が使われている。
しかしながら、用いるコンクリートの種類にもよるが、製造後1ヶ月から数ヶ月にかけて徐々に強度発現するが、その後の強度発現の上昇は小さく、その上昇は、徐々に頭打ちとなる。さらに、数年から数十年にわたってコンクリートを共用していると、環境などからの外部要因によって表層部より強度劣化が進行する。そのため適宜、補修や補強を行って強度回復を図らなくてはならない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
コンクリートの強度発現を数年から数十年後にわたって増進できれば、補修や補強作業を低減できるだけでなく、近年問題視されている長期材令におけるコンクリートの品質面の信頼性も回復できるため、長期強度に優れたコンクリート組成物が強く要望されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、コンクリートの強度を数年から数十年にわたって増進する方法を鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち、本発明は、セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.25〜0.8重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなることを特徴とするコンクリート組成物である。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは0〜10の数。)
【0005】
本発明の減水剤(a)は、一般的にコンクリート用混和剤として用いられているものであれば組成の制約は受けない。たとえば、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤として通常使われているものであればよい。
【0006】
本発明のアルコール系化合物(b)の一般式において、Rは、炭素数4〜6の直鎖または分岐のアルキル基である。このような基としては、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基などが挙げられる。これらのうち好ましいのはn-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基であり、特に好ましいのは、tert-ブチル基である。
【0007】
一般式中のAは、炭素数2〜3のアルキレン基であり、エチレン基および/またはプロピレン基が挙げられる。エチレン基とプロピレン基を併用する場合はブロック付加重合でもランダム付加重合でも差し支えない。
【0008】
nは、0〜10の数である。nが、10を越える場合には長期強度の増進効果が少ない。
【0009】
本発明で使用できるセメントは通常の水硬性セメントである。すなわち、普通ポルトランドセメント、特殊ポルトランドセメント(早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント)、混合セメント(高炉セメント、フライアッシュセメント)などがあげられる。混練水や骨材に関しては、コンクリート用として用いられているものであれば適用でき、特に制約を受けない。
【0010】
本発明の減水剤(a)の添加量は、セメントに対して通常0.25〜0.8重量%である。添加量が下限未満あるいは上限を越えると長期強度の増進効果が少ない。
【0011】
本発明のアルコール系化合物(b)の添加量は、セメントに対して通常0.5〜10重量%である。使用量が0.5重量%未満であれば長期強度の増進効果が少なく、一方、10重量%を越えると初期強度が無添加のものと比較して約2/3以下となり、実用性において充分でない。
【0012】
本発明における減水剤(a)とアルコール系化合物(b)の添加手段は、普通一般に行われているコンクリート用混和材料の場合と同様でよい。たとえば、混練水に予め適量の減水剤(a)とアルコール系化合物(b)を混和した後、または、別々に他のコンクリート原材料とともに一括してミキサーに投入してもよい。
【0013】
本発明の減水剤(a)とアルコール系化合物(b)を添加混練したコンクリートの施工方法は従来の場合と同様でよい。また、硬化ないし養生方法としては気乾養生、湿空養生、水中養生、加熱促進養生(蒸気養生、オートクレーブ養生)のいずれでもよく、また、各々の併用でもよい。
【0014】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
JIS A-1132に従いφ10×20cmのコンクリート供試体を作製し、所定材令(28日、6ヶ月、1年、5年、10年)まで、▲1▼気乾養生(20℃、80%RH)、▲2▼水中養生(20℃)、▲3▼蒸気養生(前置:20℃、2時間→昇温20℃/時間→最高温度:65℃、4時間→徐冷)後に気乾養生(20℃、80%RH)の3種の方法で養生を行ない、JIS A-1108に従って圧縮強度を測定した。
【0015】
また、実施例と比較例で使用したコンクリートの原材料は次の通りである。
減水剤(a)
a-1;AE減水剤(エムエヌビー製;品名:ポゾリスNo.70)
a-2;高性能減水剤(三洋化成製;品名:三洋レベロン)
本発明のアルコール系化合物(b)
b-1;tert-ブチルアルコール
b-2;n-ブチルアルコールのプロピレンオキサイド(付加モル数2)/エチレンオキサイド(付加モル数3)ブロック付加物
比較品のアルコール系化合物(c)
c-1;メチルアルコール
c-2;n-ブチルアルコールのエチレンオキサイド(付加モル数12)付加物
セメント(d)
d-1;普通ポルトランドセメント(日本セメント製)
水(e)
e-1;水道水
細骨材(f)
f-1;砕砂(秩父鉱業製,比重;2.60,F.M.=2.80)
粗骨材(g)
g-1;砕石(秩父鉱業製,2005,比重;2.60)
【0016】
実施例1〜6、比較例1〜8
表1に示す配合条件、配合量に従って調合したコンクリートで圧縮強度試験を行なった結果を表2に示した。アルコール系化合物が無添加(比較例1)、アルコール系化合物の添加量が本発明のコンクリート組成物の範囲をはずれた場合(比較例2〜5)、アルコール系化合物の比較品を添加した場合(比較例6〜8)は材齢が1年過ぎると、圧縮強度が頭打ちとなるばかりでなく、低下するものがある。しかし、本発明のコンクリート組成物(実施例1〜6)は、比較例に比べて圧縮強度が高いだけでなく、5年を過ぎても増進していることがわかる。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
【発明の効果】
本発明のコンクリート組成物は長期にわたって強度を大幅に増進することができる。その結果、補修や補強作業を低減できる。
 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の請求項1における
「セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.05〜5重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であることを特徴とするコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは0〜10の数。)」を、
特許請求の範囲の減縮を目的として、
「セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.25〜0.8重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなることを特徴とするコンクリート組成物。
RO(AO)nH
(式中、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の1種または2種のアルキレン基、nは0〜10の数。)」
と訂正する。
b.明細書の段落【0004】における
「即ち、本発明は、セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.05〜5重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であることを特徴とするコンクリート組成物である。」を、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
「即ち、本発明は、セメント、水、骨材、減水剤(a)および下記一般式で示されるアルコール系化合物(b)からなり、減水剤(a)がセメントの0.25〜0.8重量%、アルコール系化合物(b)がセメントの0.5〜10重量%であり、(b)と共に(a)を長期強度増進剤として用いてなることを特徴とするコンクリート組成物である。」
と訂正する。
c.明細書の段落【0010】における
「本発明の減水剤(a)の添加量は、セメントに対して通常0.05〜5重量%である。添加量が0.05重量%未満あるいは5重量%を越えると長期強度の増進効果が少ない。」を、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
「本発明の減水剤(a)の添加量は、セメントに対して通常0.25〜0.8重量%である。添加量が下限未満あるいは上限を越えると長期強度の増進効果が少ない。」
と訂正する。
審理終結日 2002-04-30 
結審通知日 2002-05-07 
審決日 2002-05-23 
出願番号 特願平5-81240
審決分類 P 1 112・ 113- ZD (C04B)
P 1 112・ 121- ZD (C04B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 鈴木 紀子  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 酒井 美知子
石井 良夫
登録日 1998-05-22 
登録番号 特許第2782032号(P2782032)
発明の名称 長期強度に優れたコンクリート組成物  
代理人 小島 隆司  
代理人 矢野 正行  
代理人 矢野 正行  
代理人 矢野 正行  
代理人 西川 裕子  

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