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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない E04B
管理番号 1064906
審判番号 無効2001-35515  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-11-22 
確定日 2002-07-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2711824号発明「建築部材用継手装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2711824号の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)についての出願は平成7年12月18日に出願され、平成9年10月31日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
これに対して、請求人は、本件発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明と同一、又はこれら発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、同法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものである旨主張している。
被請求人は、平成14年2月18日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
この訂正に対して、請求人は、周知例として甲第6号証を提出し、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものである旨主張している。

2.訂正について
(2-1)訂正の内容
当該訂正の内容は、本発明の明細書及び図面を訂正請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおりに訂正しようとするものである。
(1)【特許請求の範囲】を、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【請求項1】
以下のAに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材に、Dに示される第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された建築部材用継手装置。
A 締結手段
B 水平方向に方形状の筒形空間を構成する上下と左右4つの側板部からなる筒形状体と、4つの側端が筒形空間を構成する4つの側板部の内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部と、を含んで構成され、前記4つの側板部のうち水平方向に延びる下部側板部に、建築構造物の基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された基本継手部材。
C 板面が鉛直方向に延び、一側端が前記基本継手部材の上部側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。
D 板面が水平方向に延び材軸が水平方向に延びる水平建築部材を受ける受板部と、板面が鉛直方向に延び該水平建築部材の側面を支持する支持板部と、を含んで構成され、前記受板部及び支持板部の夫々の一側端が相互を固定するための固定部となり、該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となると共に、前記支持板部に前記水平建築部材を連結するための第3の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された第2の応用継手部材。」

(2)以下の【段落】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0010】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1記載の発明は、
以下のAに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材に、Dに示される第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された建築部材用継手装置とした。 」、
「【0011】
A 締結手段
B 水平方向に方形状の筒形空間を構成する上下と左右4つの側板部からなる筒形状体と、4つの側端が筒形空間を構成する4つの側板部の内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部と、を含んで構成され、前記4つの側板部のうち水平方向に延びる下部側板部に、建築構造物の基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された基本継手部材。」、
「【0012】
C 板面が鉛直方向に延び、一側端が前記基本継手部材の上部側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。
D 板面が水平方向に延び材軸が水平方向に延びる水平建築部材を受ける受板部と、板面が鉛直方向に延び該水平建築部材の側面を支持する支持板部と、を含んで構成され、前記受板部及び支持板部の夫々の一側端が相互を固定するための固定部となり、該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となると共に、前記支持板部に前記水平建築部材を連結するための第3の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された第2の応用継手部材。」、
「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
本発明に係る継手装置(以下、コネクタという)の一実施形態の構成を、図2、図3に示す。この実施形態のコネクタ1B、1Cは、建築構造物の基礎部分に用いられ、基礎に材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材としての柱を結合すると共に、必要に応じて材軸が水平方向に延びる水平建築部材としての横架材を結合するためのものである。」 、
「【0014】
これらのコネクタ1B、1Cは、夫々金属製の、基本継手部材2と第1の応用継手部材3とを備え、これに選択的に組み付けられる第2の応用継手部材4とから構成される。
まず、建築構造物の基礎部分に鉛直建築部材としての柱5を結合するためのコネクタ1Aを、図1に基づいて説明する。
前記基本継手部材2は、あたかも材軸が水平方向に延びる水平建築部材が嵌合する方形状の筒形空間(以下、空間と略記する)を構成する4つの側板部2a〜2dからなる筒形状体と、基本継手部材2の強度を増すために、4つの側端が前記基本継手部材2の4つの側板部2a〜2dの内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部2eを含んで構成されている。この補強板部2eは、基本継手部材2の内側形状と略同じ方形状に形成され、その4つの側端は夫々基本継手部材2内面に溶接により固着される。そして、補強板部2eによって、基本継手部材2は、図1の上方からの荷重に対して強度を増し、もって、建築構造物の強度が向上する。」、
「【0017】
次に、第1及び第2の実施例として建築構造物の基礎部分に、鉛直建築部材としての柱5及び水平建築部材としての横架材8を結合するためのコネクタ1B及び1Cを、図2及び図3に基づいて説明する。コネクタ1Bと1Cの相違点は、コネクタ1Bが1つの横架材を結合するのに対し、コネクタ1Cは2つの横架材を結合する機能を有していることである。なお、基本継手部材2及び第1の応用継手部材3の構成は、図1におけるコネクタ1Aと同一であるので、その説明は上述したものを参照することで省略する。」、
「【0019】
このように形成された第2の応用継手部材4の鉛直方向の断面形状がL字形になっている一方の端部は、基本継手部材2への固定部となり、この固定部が基本継手部材2の左右側部(第2及び第3実施例では、側板部2b)に溶接により固着される。
また、第2の応用継手部材4を基本継手部材2の左右側部と直角な前記基本継手部材2の端部にも設ける図3のコネクタ1Cにおいては、基本継手部材2を形成する際に、基本継手部材2を構成する側板部2a〜2dのうち2c及び2dを、予め受板部4a及び支持板部4bの分だけ延長してから、側板部2a〜2d及び補強板部2eによって基本継手部材2と第2の応用継手部材4を一体的に成形する。なお、コネクタ1Cはこの方法に限らず、基本継手部材2の左右側部と直角な基本継手部材2の端部に、第2の応用継手部材4を溶接により固着するようにしてもよい。」、
「【0021】
以上説明したコネクタ1B、1Cは、建築構造物の基礎部分において使用され、例えば、コネクタ1Bは基礎部分の中間部、コネクタ1Cは基礎部分のコーナーに使用される。
次に、かかるコネクタ1B、Cを使用した建築部材の結合形態を、図4に基づいて説明する。ここでは、代表例として図2のコネクタ1Bの結合形態について説明し、他のコネクタ1Cの結合形態は、基本的にはコネクタ1Bと同様であるので省略する。」、
「【0023】
次に、基礎継手部材2に固着された第1の応用継手部材3に結合される柱5には、予め第1の応用継手部材3を構成する連結用板部3aと嵌合するスリット5aを形成しておく。そして、この柱5に形成したスリット5aを連結用板部3aに嵌合して、柱5の挿通孔5bから挿通したボルトを連結用板部3aの挿通孔7に挿入し、柱5の反対側から突出したボルト突出端部にナット(図示せず)を嵌合する。」、
「【0026】
ここで、図5(b)におけるドリフトピンは、本発明の出願人が現在特許出願中のものである。
以上説明したコネクタ1B、Cによれば、単なるボルト締め等の締結手段を用いるという単純な作業によるのみで、基礎への建築部材の結合及び建築部材同志の結合が完了できる。そして、建坪及び高さも極少量の定尺品で自由に変えることができ、建築完了後においても、予め増改築を予定して、それ用の継手装置を用いておけば、その増改築も極めて容易であり、あたかも色々な形状のブロック玩具を組み合わせる如く、少数規格品を用いて需要者の要求に応じて各種各様の家屋を次々に構成することができる。又、継手装置及びこれによって接続される建築部材を規格化できるので、継手装置を工場で全て用意し、使用する建築部材のみを工場でプレカットして用意すれば良い。更に、継手装置を用いて行う建築部材の結合は極めて強固であり、従来公知の単なる鉄板やボルト・ナットを用いる方法に比して圧倒的に強度が大である。」 、
「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る建築部材用継手装置に用いられるコネクタ1Aを示す斜視図
【図2】 上記建築部材用継手装置の第1の実施例を示す斜視図
【図3】 上記建築部材用継手装置の第2の実施例を示す斜視図
【図4】 同上の結合形態の一例を示す斜視図
【図5】 各種締結手段を示す図で、(a) はドリフトピンの一例を示す斜視図、(b) はドリフトピンの他の一例を示す斜視図、(c) はラグスクリューの一例を示す正面図
【符号の説明】
1A〜1C コネクタ
2 基本継手部材
2a〜2d 側板部
2e 補強板部
3 第1の応用継手部材
3a 連結用板部
4 第2の応用継手部材
4a 受板部
4b 支持板部
5 柱
6 挿通孔
7 挿通孔
8 横架材
9 挿通孔」。

(2-2)訂正の可否に対する判断
上記訂正事項(1)について検討すると、
訂正前の「Aに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材にC及びDに示される第1及び第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された」を、「Aに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材に、Dに示される第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された」と訂正することは、訂正前の「A+B+C」、「A+B+D」又は「A+B+C+D」のいずれか1つの建築部材用継手装置を、「A+B+C+D」からなる建築部材用継手装置と限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、
訂正前の「上下と左右4つの側板部」を、「上下と左右4つの側板部からなる筒形状体」と訂正することは、基本継手部材の構成を限定したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、
訂正前の「該受板部及び支持板部の他の一側端が前記基本継手部材の左右側部と該側部と直角な端部への固定部となると共に」を「該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となると共に、」と訂正することは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
上記訂正事項(2)は、上記特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図る、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正事項(1)及び(2)は、本件明細書に第2実施例及び第3実施例として、【0017】ないし【0020】、【図2】及び【図3】に、明確に記載されており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲し、又は変更するものではない。
したがって、平成14年2月18日付けの訂正は、特許法第134条第2項ただし書き及び同法第134条第5項において準用する同法126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件発明について
(3-1)本件発明
本件の請求項1に係る発明(以下、本件発明という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「2.訂正の内容」の【請求項1】に記載したとおりのものである。

(3-2)証拠方法
甲第1号証(実願平2ー4371号(実開平3-95406号)のマイクロフィルム)には、
「柱支持具1は金属製で、亜鉛メッキが施され、基板2と基板2上に固定された支持部3と、支持部3上に基板に対し平行に固定された垂直部5とから成る。
垂直部5には2個のボルト用透孔51が穿たれ、基板2には2個のアンカーボルト用透孔21が穿たれている。
支持部3は2枚の側壁31とこれらの中央部を連結する連結部32とから成り、基板2に平行な断面がH字状となっている(第2図)。側壁及び連結部は基板に対し垂直である。
垂直部5と連結部32とはあたかも1枚の板のごとく同一平面上に位置している。勿論、実際に1枚の板を使ってもよい。」(明細書3頁8〜19行)、
「アンカーボルトを透孔21に挿通して、コンクリートの基礎に柱支持具1を固定する。柱の溝と垂直部5が嵌合するように、柱を柱支持具1上に載置し、ボルトを柱の透孔及び垂直部5の透孔51に挿通してナット止めする。」(同書4頁8〜12行)と記載されている。

甲第2号証(建設省総合技術開発プロジェクト 新木造建築技術の開発 報告書 No.H2-1 構造分科会 平成3年3月 建設省建築研究所)には、次の事項が記載されている。
「2.接合部の概略、組立手順等」、「3.施工」の欄に、水平方向に配置されるベースプレート2と、その上方に平行に配置された上板3と、ベースプレート2と上板3とを連結する2枚の平行な板片とにより、水平方向に方形状の筒形空間を構成し、該筒形空間の内面の略中央に鉛直方向に板体が固定され、板面が鉛直方向に延び底辺が上板3の外面中央部に固定される垂直板4が設けられ、ベースプレート2及び垂直板4にボルトを挿通する挿通孔1,6が設けられた柱脚金物が記載されている(なお、図面における番号と矢印は請求人代理人が付記したものである)。

甲第3号証(実願昭56-49764号(実開昭57-161609号)のマイクロフィルム)には、鉛直建築部材を連結する第1嵌合部2の側板4,5,17,18に、水平建築部材を連結する第2嵌合部3の側板6,7,10を組み合わせ、水平建築部材を連結する第2の嵌合部3の側板6,7,10は、いずれも門型(第1図〜第5図)または逆門型(第6図)の形状をした結合金具が記載されている。

甲第4号証(実公昭60-12004号公報)には、
「奥部袖部2の前端上角部を介して対角的上方に各板面が同一垂直平面上にあるよう前部袖板1を配してこれら両袖板を、奥部袖部2の前縁より平面直角内方に屈折した当接板3と該当接板の上縁より側面直角前方に屈折した受け板4と該受け板の内側縁より垂直下方に屈折し然も後縁を前記当接板3の内側縁に平面直角に屈折し連接した支持板5とにより全体を一体に形成し然して両袖板2,1及び当接板3にそれぞれ釘、ねじの挿孔h,Hを穿設した金具半体を2個一組とする柱と軒げた、梁等の結合金具。」 (実用新案登録請求の範囲)、
「本案は以上のように構成したので、今土台上に設立した柱6に対し側面直角に組合された軒げた7を架着する場合は、第2図に示すように先ず該柱と軒げたの組合せ部直下面の柱6の内側両角部を挟む正面より側面にかけて本金具における各半体の前部当接板3と奥部袖部2を囲い状に当接した後その板面の挿入孔H,hより大小の釘ねじPを打込み又は螺着すればその各前部袖板1と受け板4は自ら軒げた7基部の側面及び下面に挟持状に被着するので各前部袖板1面の挿入孔H,hより大小の釘ねじPを打込み螺着すれば取付けは完了する。」(2欄20行〜3欄3行)、
「本案は以上のように構成したので柱6及び軒げた7等への被着は頗る容易になされるのと本金具5はその各奥部袖板2と各前部当接板3が柱6に三方面に挟着状に固着するので軒げた7は各前部隅板1による側方への妄動を抑止せられつつ各支持板5上端の受け板4によりこれ又三方面より強固安定的に支持せられ従って不動的に固定せられる効果を具有する」(3欄4〜11行)と記載されている。

甲第5号証(特開平6-322838号公報)には、鉛直建築部材を連結する嵌合固定部に、水平建築部材を連結する嵌合固定部を組み合わせた柱接合用金具が記載され、水平建築部材を連結する嵌合固定部は、逆門型のもの(図4(A)、(B)、図5(A)、図6(A)、又は、柱接合用金具の外側面中央部に一枚の連結用板部を設けたもの(図4(C)、図6(C))が記載されている。

甲第6号証(特開昭51-107626号公報)には、立方体若しくは直方体形状の継手本体を有し、鉛直建築部材及び水平建築部材を連結する板状部材を組み合わせた建築部材用継手が記載され、鉛直建築部材及び水平建築部材を連結する板状部材は、継手本体の外側面中央部に一枚の連結用板部を設けたものが記載されている。

(3-3)請求人の主張
「ここで、構成要件Db.の「該受板部及び支持板部の他の一側端が前記基本継手部材の左右側部と該側部と直角な端部への固定部となる」という文言については若干の検討を要する。この一文は一読では理解しにくいが、要は本件特許の図2や図3に明かなように直交して構成された受板部4aと支持板部4bからなる第2の応用継手部材4が受板部4aが水平となり支持板部4bが垂直となるように基本継手部材の側板部2bに固着することと思われる。」(請求書11頁6〜12行)、
「イ)まず、本件特許については訂正請求がされて構成パターン2(A+B+C+D)に内容が限定されているため、構成パターン3(A+B+D)についての証拠であった甲第5号証に対しては特に弁駁はしない。
また、訂正後の新たな特許請求の範囲について甲第1号証〜甲第5号証の証拠をそれぞれ単独で適用できるとも思わないため、この点についても特に弁駁はしない。甲第1号証と甲第4号証とを組み合わせること、及び甲第2号証と甲第4号証とを組み合わせることに対する弁駁を中心に行う。」(弁駁書3頁18〜25行)、
「口)甲第1号証と甲第4号証とを組み合わせることについて
・・・従来からこの種の基礎部分に設置される建築用の継手部材として鉛直建築部材だけでなく水平建築部材を支持するものは存在する。例えば、甲第6号証である。
・・・甲第6号証の基礎4に設置される建築部材用継手(ジョイントJT1〜JT6)は柱を支持すると同時に水平建築部材としての土台を支持していることは図面全体(特にその第10図や第17図)から明らかである。
つまり、当業者において基礎に配置される建築用の継手部材によって鉛直建築部材と水平建築部材を同時に支持させるということは今から30年近くも前から行われていたごく普通の施工なのである(・・・)。
しからば、このような発想の下、甲第1号証に水平建築部材を支持させるために甲第4号証の構成を組み合わせることについてなんら困難性はない。」(弁駁書4頁1行〜5頁1行)、
「ハ)甲第2号証と甲第4号証とを組み合わせることについて
甲第2号証についても口)と同様の理由によって甲第4号証の組み合わせが可能と判断する。」(弁駁書6頁4〜6行)。

(3-3)対比
本件発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「ボルト及びナット」が本件発明の「Aに示される締結手段」に相当し、甲第1号証記載の発明の「基板2」「支持部3」及び「水平部4」からなる部材は、本件発明の「Bに示される基本継手部材」に相当し、甲第1号証記載の発明の「垂直部5」が本件発明の「Cに示される第1の応用部材」に相当し、甲第1号証記載の発明の「柱支持具1」は本件発明と建築部材用継手である点で共通し、甲第1号証の「連結部32」、「基板2」、「アンカーボルト用透孔21」、「ボルト用透孔51」は、本件発明の「補強板部」、「下部側板部」、「基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔」、「鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段」にそれぞれ相当する。
また、本件発明の「該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となる・・・第2の応用継手部材」は、本件特許明細書の【0019】、【図2】及び【図3】の記載から明らかなように、第2の応用継手部材4の垂直方向の断面形状が受板部及び支持板部によってL字形となり、該第2の応用継手部材4が、少なくとも、基本継手部材の側板部2bに固着されること(【図2】参照)、又は、基本継手部材の2c及び2dを予め受板部4a及び支持板部4bの分だけ延長し、基本継手部材2と第2の応用継手部材4を一体的に成形したこと(【図3】左下参照)を意味するものと認められる。
したがって、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
Aに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材を組み合わせて構成された建築部材用継手装置。
A 締結手段
B 水平方向に方形状の筒形空間を構成する上下と左右4つの側板部からなる筒形状体と、4つの側端が筒形空間を構成する4つの側板部の内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部と、を含んで構成され、前記4つの側板部のうち水平方向に延びる下部側板部に、建築構造物の基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された基本継手部材。
C 板面が鉛直方向に延び、一側端が前記基本継手部材の上部側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。
(相違点)
本件発明が「板面が水平方向に延び材軸が水平方向に延びる水平建築部材を受ける受板部と、板面が鉛直方向に延び該水平建築部材の側面を支持する支持板部と、を含んで構成され、前記受板部及び支持板部の夫々の一側端が相互を固定するための固定部となり、前記支持板部に前記水平建築部材を連結するための第3の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された第2の応用継手部材」を備え、該第2の応用継手部材は、垂直方向の断面形状が受板部及び支持板部によってL字形となり、少なくとも、基本継手部材の側板部2bに固定されるか、又は、基本継手部材の側板部2c及び2dを予め受板部4a及び支持板部4bの分だけ延長しているのに対し、甲第1号証記載の発明はこのような構成を備えていない点。

(3-4)当審の判断
そこで、上記相違点を検討するために、まず、甲第4号証を検討すると、甲第4号証記載の建築部材用継手装置(結合金具)は、水平建築部材を受ける受板部(受板4)と、該水平建築部材の側面を支持する支持板部(前部袖板1)とから構成されているが、本件発明とは相違して、金具半体を2個一組とするものであり、受板部(受板4)が2個対向して水平建築部材(軒桁7)を受けるものである。
また、本件発明の基本継手部材は、上下と左右4つの側板部からなる筒形状体からなるのに対し、甲第4号証記載の基本継手部材(奥部袖板2及び当接板3)は、金具半体を2個対向することにより、鉛直建築部材(柱6)を三方面から支持するものであって、両者の基本継手部材の構成が相違するから、甲第4号証記載の金具半体からなる建築部材用継手装置(結合金具)を、甲第1号証記載のものに適用するのは、困難である。
甲第2号証には、甲第1号証と同様に、上記一致点として示された構成が記載されているだけであって、上記相違点の本件発明の構成については記載されていない。
甲第3号証には、鉛直建築部材を連結する第1の応用継手部材を兼ねた基本継手部材(第1嵌合部2の側板4,5,17,18)に、水平建築部材を連結する第2の応用継手部材(第2の嵌合部の側板6,7,10)を組み合わせたものが記載されているが、甲第3号証の水平建築部材を連結する第2の応用継手部材(第2の嵌合部3の側板6,7,10)は、いずれも門型(第1図〜第5図)または逆門型(第6図)の形状をしており、上記相違点の本件発明の構成、すなわち、水平建築部材を連結する第2の応用継手部材をL字状に構成したものではない。
甲第5号証には、鉛直建築部材を連結する第1の応用継手部材に、水平建築部材を連結する第2の応用継手部材を組み合わせたものが記載されているが、甲第5号証記載の水平建築部材を連結する第2の応用継手部材は、逆門型のもの(図4(A)、(B)、図5(A)、図6(A)、又は、基本継手部材の外側面中央部に一枚の連結用板部を設けたもの(図4(C)、図6(C))であって、本件発明のように、水平建築部材を連結する第2の応用継手部材をL字状に構成したものではない。
甲第6号証には、鉛直建築部材を連結する第1の応用継手部材に、水平建築部材を連結する第2の応用継手部材を組み合わせたものが記載されているが、甲第6号証記載の水平建築部材を連結する第2の応用継手部材は、基本継手部材の外側面中央部に一枚の連結用板部を設けたものであって、本件発明のように、水平建築部材を連結する第2の応用継手部材をL字状に構成したものではない。
上記相違点の本件発明の構成により、「このうち1種の金物(第2の応用継手部材)は、端面がL字状の簡単な形状であり、支持板部が水平方向建築部材の片側側面のみ拘束しているから、水平方向建築部材の他側側面は非拘束で自由となり、第2の応用継手部材によって支持される水平方向建築部材の断面の大きさは制限されない。」(答弁書9頁11〜15行)という格別の効果を奏する。
請求人は、弁駁書において、例えば、甲第6号証に記載されているように、当業者において基礎に配置される建築用の継手部材によって鉛直建築部材と水平建築部材を同時に支持させるということは今から30年近くも前から行われていたごく普通の施工なのであるから、このような発想の下、甲第1号証(又は甲第2号証)に水平建築部材を支持させるために甲第4号証の構成を組み合わせることについてなんら困難性はない旨の主張をしているが、前述したように、第2の応用継手部材の断面形状をL字状にしたことにより、支持板部が水平方向建築部材の片側側面のみ拘束しているから、水平方向建築部材の他側側面は非拘束で自由となり、第2の応用継手部材によって支持される水平方向建築部材の断面の大きさは制限されないという格別の効果を奏するのであるから、例え、基礎に配置される建築用の継手部材によって鉛直建築部材と水平建築部材を同時に支持させるということがごく普通に施工されていたとしても、甲第1号証ないし甲第6号証記載の発明を組み合わせて本件発明の構成とすることは、当業者にとって容易に推考できたとはいえない。
したがって、本件発明は、その出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
建築部材用継手装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のAに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材に、Dに示される第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された建築部材用継手装置。
A 締結手段
B 水平方向に方形状の筒形空間を構成する上下と左右4つの側板部からなる筒形状体と、4つの側端が筒形空間を構成する4つの側板部の内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部と、を含んで構成され、前記4つの側板部のうち水平方向に延びる下部側板部に、建築構造物の基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された基本継手部材。
C 板面が鉛直方向に延び、一側端が前記基本継手部材の上部側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。
D 板面が水平方向に延び材軸が水平方向に延びる水平建築部材を受ける受板部と、板面が鉛直方向に延び該水平建築部材の側面を支持する支持板部と、を含んで構成され、前記受板部及び支持板部の夫々の一側端が相互を固定するための固定部となり、該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となると共に、前記支持板部に前記水平建築部材を連結するための第3の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された第2の応用継手部材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、木造家屋或いは鉄骨構造建築物等を建築するのに好適な骨組を構築するための建築部材用継手装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の建築物の建築方法として、軸組工法と枠工法なるものが良く知られている。
前者は、スケルトンスキン工法やポスト&ビーム工法とも称されるもので、柱、横架材を主体として構成する架構方法である。
【0003】
後者は、ツーバイフォー工法やプラットフォームフレーム工法とも称されるもので、根太で組まれた床の枠組に対して構造物用合板又はそれと同等以上の性能を有する面材を打ち付けて形成した床に、枠材で組まれた壁の枠組に対して構造用合板その他これに類するものを打ち付けて形成した壁体をくぎ及び金物で取り付けて建築物を建築するものである。
【0004】
これら工法の主たる違いを比較して述べると、まず、空間の構成は、前者は「軸(線)」、後者は「版(面)」である。床面、壁面等の剛性付与構造は、前者は「火打ちばり、筋かい」、後者は「構造用合板張り」である。使用する木材は、前者は「正方形を主とした大断面・長尺材(通し柱)を含む」、後者は「小断面・短尺材を主とする」である。施工時の工程は、前者は「一階・二階軸,小屋連続建上げ,床」、後者は「一階床→一階壁→二階床→二階壁→小屋(ステップ作業)」である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来、木造家屋等の建築物の施工においては、基礎を構成した後、木材等の建築部材を巧みに切断し切欠加工してこれらを構造力学に沿って巧みに組み立て結合し、特に建築部材の重要接続部分をボルト等で固定している。しかし、このような古来の方法では、建築部材の結合等高度の技量と熟練を要し、作業能率,建築部材の経済性,結合部分の強度等に劣り、工期が長く、結局高価となる。
【0006】
一方、近年のプレハブ建築は大量生産により上記の経済性の問題を幾分は解決するが、耐久性,強度(特に結合部)に劣り、多様性に欠け、建築後使用する期間の経過に従ってみすぼらしくなり、長期の使用になると、建築の落ち着き感,重量感等の良さを醸し出すことができない。
そこで、本願出願人は、上記の如き構造部材の結合について永年鋭意研究の結果、従来の最も簡単な結合方法、例えば鉄板とボルト・ナットを種々組み合わせる方法に比して更に簡単であり、しかも、強度において古来の木造刻み込み方式にも優る建築部材用継手を開発した。
【0007】
これは、特開昭51-107626号公報によって明らかにされている。
即ち、この継手は、立方体若しくは直方体形状の基本継手本体に対し、該基本継手本体表面から、該表面に略直交する平面内を外向きに延びる板状部材を溶接固定したものであり、該板状部材には、ボルト等の固定具が挿通し得る孔を設けたものである。このものは、基本継手部材本体と板状部材の形状,数及び方向を変えて組み合わせることにより多数の種類の継手部材が得られる。
【0008】
しかしながら、かかる従来の継手にあっては、次のような問題点があった。
即ち、上記のような立方体若しくは直方体形状の基本継手本体を適用した結果、継手として重量がかなり嵩み、材料費も多く必要となって、コスト的に不利である。又、重量が重い結果、取扱に苦慮し、建築部材の結合作業が難しい。
又、継手を製作するに当たって、溶接箇所が多い等工数が掛り、製作性に劣るものである。
【0009】
更に、従来の継手にあっては、柱同士の結合、横架材同士の結合、柱と横架材との結合等に、夫々異なる種類の継手を使用する必要があるため、継手の製作に手間が掛り、その管理も煩雑となる。
本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、建築部材として、規格化されたプレカット部材を使用可能とし、これを結合して建築物の骨組を形成するに好適な規格化された継手部材からなる建築部材用継手装置であって、在来軸組工法と枠組壁工法の両特徴を混合した建築物等に適した骨組を構築し得る継手装置を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1記載の発明は、
以下のAに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材に、Dに示される第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された建築部材用継手装置とした。
【0011】
A 締結手段
B 水平方向に方形状の筒形空間を構成する上下と左右4つの側板部からなる筒形状体と、4つの側端が筒形空間を構成する4つの側板部の内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部と、を含んで構成され、前記4つの側板部のうち水平方向に延びる下部側板部に、建築構造物の基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された基本継手部材。
【0012】
C 板面が鉛直方向に延び、一側端が前記基本継手部材の上部側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。
D 板面が水平方向に延び材軸が水平方向に延びる水平建築部材を受ける受板部と、板面が鉛直方向に延び該水平建築部材の側面を支持する支持板部と、を含んで構成され、前記受板部及び支持板部の夫々の一側端が相互を固定するための固定部となり、該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となると共に、前記支持板部に前記水平建築部材を連結するための第3の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された第2の応用継手部材。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
本発明に係る継手装置(以下、コネクタという)の一実施形態の構成を、図2、図3に示す。この実施形態のコネクタ1B、1Cは、建築構造物の基礎部分に用いられ、基礎に材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材としての柱を結合すると共に、必要に応じて材軸が水平方向に延びる水平建築部材としての横架材を結合するためのものである。
【0014】
これらのコネクタ1B、1Cは、夫々金属製の、基本継手部材2と第1の応用継手部材3とを備え、これに選択的に組み付けられる第2の応用継手部材4とから構成される。
まず、建築構造物の基礎部分に鉛直建築部材としての柱5を結合するためのコネクタ1Aを、図1に基づいて説明する。
前記基本継手部材2は、あたかも材軸が水平方向に延びる水平建築部材が嵌合する方形状の筒形空間(以下、空間と略記する)を構成する4つの側板部2a〜2dからなる筒形状体と、基本継手部材2の強度を増すために、4つの側端が前記基本継手部材2の4つの側板部2a〜2dの内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部2eを含んで構成されている。この補強板部2eは、基本継手部材2の内側形状と略同じ方形状に形成され、その4つの側端は夫々基本継手部材2内面に溶接により固着される。そして、補強板部2eによって、基本継手部材2は、図1の上方からの荷重に対して強度を増し、もって、建築構造物の強度が向上する。
【0015】
さらに、基本継手部材2を構成する4つの側板部2a〜2dの1つ、本実施形態では下側にある側板部2cには、締結手段を構成するボルトとナットのうちボルトが挿通される挿通孔6が計4カ所に開設されている。かかる挿通孔6は、前記補強板部2eによって2分割された前記空間の夫々に2ヵ所ずつ開設され、図示しない建築構造物の基礎部から突出するアンカーボルトを挿通し、ナットにより基本継手部材2が固定される。
【0016】
また、図1のコネクタ1Aには、第1の応用継手部材3が固着されている。この第1の応用継手部材3は、板面が鉛直方向に延び、一側端が基本継手部材2の上部側板部2a外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材としての柱5を結合するための締結手段を構成するボルトとナットのうち、ボルトが挿通される挿通孔7が2か所に開設された連結用板部3aを含んで構成されている。この場合、連結用板部3aは、方形状に形成され、その一側端は基本継手部材2の上部側板部2aの外面に溶接により固着される。
【0017】
次に、第1及び第2の実施例として建築構造物の基礎部分に、鉛直建築部材としての柱5及び水平建築部材としての横架材8を結合するためのコネクタ1B及び1Cを、図2及び図3に基づいて説明する。コネクタ1Bと1Cの相違点は、コネクタ1Bが1つの横架材を結合するのに対し、コネクタ1Cは2つの横架材を結合する機能を有していることである。なお、基本継手部材2及び第1の応用継手部材3の構成は、図1におけるコネクタ1Aと同一であるので、その説明は上述したものを参照することで省略する。
【0018】
コネクタ1B及び1Cは簡単に言うと、コネクタ1Aに対し第2の応用継手部材4を1つ(コネクタ1B)及び2つ(コネクタ1C)追加した構成である。
ここで、第2の応用継手部材4は、板面が水平方向及び鉛直方向に延び、水平建築部材としての横架材8を受ける受板部4a、及び、かかる横架材8を側面から支持する支持板部4bを含んで構成されている。そして、受板部4aと支持板部4bは夫々の一側端において溶接により固着され、L字形の形状となっている。また、鉛直方向に延びる支持板部4bには、水平建築部材としての横架材8を結合するための締結手段を構成するボルトとナットのうちボルトが挿通される挿通孔9が1か所に開設されている。
【0019】
このように形成された第2の応用継手部材4の鉛直方向の断面形状がL字形になっている一方の端部は、基本継手部材2への固定部となり、この固定部が基本継手部材2の左右側部(第2及び第3実施例では、側板部2b)に溶接により固着される。
また、第2の応用継手部材4を基本継手部材2の左右側部と直角な基本継手部材2の端部にも設ける図3のコネクタ1Cにおいては、基本継手部材2を形成する際に、基本継手部材2を構成する側板部2a〜2dのうち2c及び2dを、予め受板部4a及び支持板部4bの分だけ延長してから、側板部2a〜2d及び補強板部2eによって基本継手部材2と第2の応用継手部材4を一体的に成形する。なお、コネクタ1Cはこの方法に限らず、基本継手部材2の左右側部と直角な基本継手部材2の端部に、第2の応用継手部材4を溶接により固着するようにしてもよい。
【0020】
ここで、本実施形態では、基本継手部材2に対して第2の応用継手部材4を1つ(図2)又は2つ(図3)設けているが、この第2の応用継手部材4は、基本継手部材2の左右側部及びこれと直角な両端部に最大4つ設けることができる。即ち、第2の応用継手部材4は、基本継手部材2に必要に応じ1〜4つ設けることができる。
【0021】
以上説明したコネクタ1B、1Cは、建築構造物の基礎部分において使用され、例えば、コネクタ1Bは基礎部分の中間部、コネクタ1Cは基礎部分のコーナーに使用される。
次に、かかるコネクタ1B、1Cを使用した建築部材の結合形態を、図4に基づいて説明する。ここでは、代表例として図2のコネクタ1Bの結合形態について説明し、他のコネクタ1Cの結合形態は、基本的にはコネクタ1Bと同様であるので省略する。
【0022】
図4は、第2実施例としてのコネクタ1Bを用いて、鉛直建築部材としての柱5及び水平建築部材としての横架材8を、建築構造物の基礎10に結合する例を示している。
即ち、建築構造物の基礎10に埋設されているアンカーボルト11を、基本継手部材2を構成する側板部2cに開設した挿通孔6(図示せず)に挿通し、側板部2cからのボルト突出部にワッシャ及びナット12(以下、ナットと略記する)を嵌合する。このナット12は、図4に表示されない反対側の側板部2cからのボルト突出部にも嵌合される。
【0023】
次に、基礎継手部材2に固着された第1の応用継手部材3に結合される柱5には、予め第1の応用継手部材3を構成する連結用板部3aと嵌合するスリット5aを形成しておく。そして、この柱5に形成したスリット5aを連結用板部3aに嵌合して、柱5の挿通孔5bから挿通したボルトを連結用板部3aの挿通孔7に挿入し、柱5の反対側から突出したボルト突出端部にナット(図示せず)を嵌合する。
【0024】
また、基本継手部材2に固着された第2の応用継手部材4の受板部4aに横架材8を仮置きし、支持板部4bから挿通したボルトを横架材8の挿通孔8aに挿入し、横架材8の反対側からのボルト突出端部にナット(図示せず)を嵌合する。なお、この場合のボルトは、横架材8の挿通孔8aから挿入するようにしてもよい。
【0025】
なお、以上説明した本発明に係る実施形態では、締結手段としてボルトとナットを使用したが、この締結手段に限らず、例えば、図5に示すようなドリフトピン(図5(a)及び(b))或いはラグスクリュー(図5(c))等の締結手段を使用してもよい。但し、図5に示す締結手段は、本実施形態の締結手段を必要とする全ての箇所で使用できるわけではなく、例えば、図4における柱5を連結する場合のように、建築部材にいかなる方向の荷重が加わっても、建築部材がコネクタから外れるおそれのない場合にのみ使用できる。
【0026】
ここで、図5(b)におけるドリフトピンは、本発明の出願人が現在特許出願中のものである。
以上説明したコネクタ1B、1Cによれば、単なるボルト締め等の締結手段を用いるという単純な作業によるのみで、基礎への建築部材の結合及び建築部材同志の結合が完了できる。そして、建坪及び高さも極少量の定尺品で自由に変えることができ、建築完了後においても、予め増改築を予定して、それ用の継手装置を用いておけば、その増改築も極めて容易であり、あたかも色々な形状のブロック玩具を組み合わせる如く、少数規格品を用いて需要者の要求に応じて各種各様の家屋を次々に構成することができる。又、継手装置及びこれによって接続される建築部材を規格化できるので、継手装置を工場で全て用意し、使用する建築部材のみを工場でプレカットして用意すれば良い。更に、継手装置を用いて行う建築部材の結合は極めて強固であり、従来公知の単なる鉄板やボルト・ナットを用いる方法に比して圧倒的に強度が大である。
【0027】
上記継手装置の特記すべき特徴は、次の通りである。
即ち、従来の立方体若しくは直方体形状の継手本体に代えて、単なる筒形状の継手部材を基本のものとして使用するので、継手装置として重量並びに材料の低減を図れ、コストダウンを図れると共に、重量が軽い結果、取扱も簡単で、建築部材の結合作業が容易である。
【0028】
又、継手を製作するに当たって、溶接箇所が少ない等工数が少なく、製作性に優れるものである。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に係る発明によれば、継手装置として重量並びに材料の低減を図れ、コストダウンを図れると共に、基礎への建築部材の結合及び建築部材同志の結合作業の簡略化を図れ、作業能率をより向上できる。又、製作性に優れ、建築部材間の寸法に誤差が生じ難い。
【0030】
更に、建築部材の縦横に捕らわれずに、基礎への建築部材の締結が行え、アイテムを少なくすることができ、製作性の向上やコスト低減に貢献する。
特に、本発明の継手装置を使用した建築方法は、複雑な仕口、継手が不要であり、構造上の強度のばらつきもなく、建築部材の結合は極めて強固である。又、建築作業が非常に行い易く、工期が著しく短縮でき、極めて経済的であり、少数規格品を用いて需要者の要求に応じて各種各様の建築物を次々に構造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る建築部材用継手装置に用いられるコネクタ1Aを示す斜視図
【図2】 上記建築部材用継手装置の第1の実施例を示す斜視図
【図3】 上記建築部材用継手装置の第2の実施例を示す斜視図
【図4】 同上の結合形態の一例を示す斜視図
【図5】 各種締結手段を示す図で、(a)はドリフトピンの一例を示す斜視図、(b)はドリフトピンの他の一例を示す斜視図、(c)はラグスクリューの一例を示す正面図
【符号の説明】
1A〜1C コネクタ
2 基本継手部材
2a〜2d 側板部
2e 補強板部
3 第1の応用継手部材
3a 連結用板部
4 第2の応用継手部材
4a 受板部
4b 支持板部
5 柱
6 挿通孔
7 挿通孔
8 横架材
9 挿通孔
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)【特許請求の範囲】を、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【請求項1】
以下のAに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材に、Dに示される第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された建築部材用継手装置。
A 締結手段
B 水平方向に方形状の筒形空間を構成する上下と左右4つの側板部からなる筒形状体と、4つの側端が筒形空間を構成する4つの側板部の内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部と、を含んで構成され、前記4つの側板部のうち水平方向に延びる下部側板部に、建築構造物の基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された基本継手部材。
C 板面が鉛直方向に延び、一側端が前記基本継手部材の上部側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。
D 板面が水平方向に延び材軸が水平方向に延びる水平建築部材を受ける受板部と、板面が鉛直方向に延び該水平建築部材の側面を支持する支持板部と、を含んで構成され、前記受板部及び支持板部の夫々の一側端が相互を固定するための固定部となり、該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となると共に、前記支持板部に前記水平建築部材を連結するための第3の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された第2の応用継手部材。」
(2)以下の【段落】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0010】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1記載の発明は、
以下のAに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材及びCに示される第1の応用継手部材に、Dに示される第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された建築部材用継手装置とした。」、
「【0011】
A 締結手段
B 水平方向に方形状の筒形空間を構成する上下と左右4つの側板部からなる筒形状体と、4つの側端が筒形空間を構成する4つの側板部の内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部と、を含んで構成され、前記4つの側板部のうち水平方向に延びる下部側板部に、建築構造物の基礎に連結するための第1の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された基本継手部材。」、
「【0012】
C 板面が鉛直方向に延び、一側端が前記基本継手部材の上部側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材を連結するための第2の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。
D 板面が水平方向に延び材軸が水平方向に延びる水平建築部材を受ける受板部と、板面が鉛直方向に延び該水平建築部材の側面を支持する支持板部と、を含んで構成され、前記受板部及び支持板部の夫々の一側端が相互を固定するための固定部となり、該受板部及び支持板部の他の一側端が、前記基本継手部材の左右側部と該側部に直角な前記基本継手部材の端部への固定部となると共に、前記支持板部に前記水平建築部材を連結するための第3の前記締結手段が挿通される挿通孔が開設された第2の応用継手部材。」、
「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
本発明に係る継手装置(以下、コネクタという)の一実施形態の構成を、図2、図3に示す。この実施形態のコネクタ1B、1Cは、建築構造物の基礎部分に用いられ、基礎に材軸が鉛直方向に延びる鉛直建築部材としての柱を結合すると共に、必要に応じて材軸が水平方向に延びる水平建築部材としての横架材を結合するためのものである。」、
「【0014】
これらのコネクタ1B、1Cは、夫々金属製の、基本継手部材2と第1の応用継手部材3とを備え、これに選択的に組み付けられる第2の応用継手部材4とから構成される。
まず、建築構造物の基礎部分に鉛直建築部材としての柱5を結合するためのコネクタ1Aを、図1に基づいて説明する。
前記基本継手部材2は、あたかも材軸が水平方向に延びる水平建築部材が嵌合する方形状の筒形空間(以下、空間と略記する)を構成する4つの側板部2a〜2dからなる筒形状体と、基本継手部材2の強度を増すために、4つの側端が前記基本継手部材2の4つの側板部2a〜2dの内面の略中央部に鉛直方向に固定される補強板部2eを含んで構成されている。この補強板部2eは、基本継手部材2の内側形状と略同じ方形状に形成され、その4つの側端は夫々基本継手部材2内面に溶接により固着される。そして、補強板部2eによって、基本継手部材2は、図1の上方からの荷重に対して強度を増し、もって、建築構造物の強度が向上する。」、
「【0017】
次に、第1及び第2の実施例として建築構造物の基礎部分に、鉛直建築部材としての柱5及び水平建築部材としての横架材8を結合するためのコネクタ1B及び1Cを、図2及び図3に基づいて説明する。コネクタ1Bと1Cの相違点は、コネクタ1Bが1つの横架材を結合するのに対し、コネクタ1Cは2つの横架材を結合する機能を有していることである。なお、基本継手部材2及び第1の応用継手部材3の構成は、図1におけるコネクタ1Aと同一であるので、その説明は上述したものを参照することで省略する。」、
「【0019】
このように形成された第2の応用継手部材4の鉛直方向の断面形状がL字形になっている一方の端部は、基本継手部材2への固定部となり、この固定部が基本継手部材2の左右側部(第2及び第3実施例では、側板部2b)に溶接により固着される。
また、第2の応用継手部材4を基本継手部材2の左右側部と直角な前記基本継手部材2の端部にも設ける図3のコネクタ1Cにおいては、基本継手部材2を形成する際に、基本継手部材2を構成する側板部2a〜2dのうち2c及び2dを、予め受板部4a及び支持板部4bの分だけ延長してから、側板部2a〜2d及び補強板部2eによって基本継手部材2と第2の応用継手部材4を一体的に成形する。なお、コネクタ1Cはこの方法に限らず、基本継手部材2の左右側部と直角な基本継手部材2の端部に、第2の応用継手部材4を溶接により固着するようにしてもよい。」、
「【0021】
以上説明したコネクタ1B、1Cは、建築構造物の基礎部分において使用され、例えば、コネクタ1Bは基礎部分の中間部、コネクタ1Cは基礎部分のコーナーに使用される。
次に、かかるコネクタ1B、Cを使用した建築部材の結合形態を、図4に基づいて説明する。ここでは、代表例として図2のコネクタ1Bの結合形態について説明し、他のコネクタ1Cの結合形態は、基本的にはコネクタ1Bと同様であるので省略する。」、
「【0023】
次に、基礎継手部材2に固着された第1の応用継手部材3に結合される柱5には、予め第1の応用継手部材3を構成する連結用板部3aと嵌合するスリット5aを形成しておく。そして、この柱5に形成したスリット5aを連結用板部3aに嵌合して、柱5の挿通孔5bから挿通したボルトを連結用板部3aの挿通孔7に挿入し、柱5の反対側から突出したボルト突出端部にナット(図示せず)を嵌合する。」、
「【0026】
ここで、図5(b)におけるドリフトピンは、本発明の出願人が現在特許出願中のものである。
以上説明したコネクタ1B、Cによれば、単なるボルト締め等の締結手段を用いるという単純な作業によるのみで、基礎への建築部材の結合及び建築部材同志の結合が完了できる。そして、建坪及び高さも極少量の定尺品で自由に変えることができ、建築完了後においても、予め増改築を予定して、それ用の継手装置を用いておけば、その増改築も極めて容易であり、あたかも色々な形状のブロック玩具を組み合わせる如く、少数規格品を用いて需要者の要求に応じて各種各様の家屋を次々に構成することができる。又、継手装置及びこれによって接続される建築部材を規格化できるので、継手装置を工場で全て用意し、使用する建築部材のみを工場でプレカットして用意すれば良い。更に、継手装置を用いて行う建築部材の結合は極めて強固であり、従来公知の単なる鉄板やボルト・ナットを用いる方法に比して圧倒的に強度が大である。」、
「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る建築部材用継手装置に用いられるコネクタ1Aを示す斜視図
【図2】 上記建築部材用継手装置の第1の実施例を示す斜視図
【図3】 上記建築部材用継手装置の第2の実施例を示す斜視図
【図4】 同上の結合形態の一例を示す斜視図
【図5】 各種締結手段を示す図で、(a)はドリフトピンの一例を示す斜視図、(b)はドリフトピンの他の一例を示す斜視図、(c)はラグスクリューの一例を示す正面図
【符号の説明】
1A〜1C コネクタ
2 基本継手部材
2a〜2d 側板部
2e 補強板部
3 第1の応用継手部材
3a 連結用板部
4 第2の応用継手部材
4a 受板部
4b 支持板部
5 柱
6 挿通孔
7 挿通孔
8 横架材
9 挿通孔」
審理終結日 2002-05-30 
結審通知日 2002-06-04 
審決日 2002-06-17 
出願番号 特願平7-328555
審決分類 P 1 112・ 121- YA (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊波 猛  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 鈴木 公子
斎藤 利久
登録日 1997-10-31 
登録番号 特許第2711824号(P2711824)
発明の名称 建築部材用継手装置  
代理人 笹島 富二雄  
代理人 柴田 淳一  
代理人 柴田 淳一  
代理人 西山 春之  
代理人 西山 春之  
代理人 笹島 富二雄  

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